風「チョコを手作りしたい?」 夏凜「ええ」 (35)

~☆

風「それって、バレンタインだからってこと?」

夏凜「そう」

風「……誰にチョコあげるの?」

夏凜「勇者部とクラスのみんな」

夏凜「いっつもお世話になってるから」

風「なんだ、特別な男の子にあげるとか、そういうのじゃないのね」

夏凜「ないわよ。当たり前でしょ」

風「勇者部ってことは、私も、そのチョコをもらえるわけ?」

夏凜「うん」

風「へー」


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風「でも、お菓子教わるなら東郷の方が良いんじゃない?」

夏凜「東郷はお菓子はお菓子でも、和菓子専門でしょ」

風「……あー、そっか」

風「まあ、チョコなら私作れるからいいけど」

夏凜「なるべく他のみんなには秘密にする方向でお願い」

夏凜「サプライズってほどじゃないけど、
    手作りすることは当日まで伏せておきたいの」

風「わかった」

風「バレンタインまで、って考えると今日か明日よね」

風「どこで教える?」

夏凜「どこって?」


風「私の家? 夏凜の家?」

風「チョコを作った、ってバレない万全を期すつもりなら夏凜の家がオススメね」

風「樹、台所に立たないから気付かない可能性だいぶあるけど」

夏凜「じゃあ私の家でやりましょう」

風「オッケー」

風「今日? 明日? 個人的には、バレンタイン前日に作ったものを渡した方が良いと思うわ」

夏凜「明日にしましょう」

風「そっ。なら、チョコづくりに必要な材料と量教えとくから、今日中に買っておいてくれる?」

夏凜「わかった」

~☆

樹「お姉ちゃん、今日の部活は――」

風「あー、そのことなんだけどね」

樹「?」

風「私と夏凜、特別の依頼が入ったから、今日部室から抜けるわ」

風「何か重要な用事があったら、NARUKOかメールして」

夏凜「…………」

樹「二人だけ?」

風「ええ。二人だけじゃないとこなせないのよ、依頼の条件的に」

樹「ふーん」

東郷「じゃあ、私はサイトの更新と――」

風「細々した依頼の処理お願い」

風「幸い今日は、夏凜が必須な運動系の依頼入ってないから大丈夫でしょ」

東郷「そうですね」


園子「私は、頑張ってわっしーをサポートするよ~」

友奈「なら私は、園ちゃんのサポートかなー」

風「うんうん、きちんと仲間内で連携とるのは大事よね」

風「みんな、私たちが留守の間、勇者部を頼んだわよ」

友奈 東郷 園子「はい」

樹「ねえ、お姉ちゃん、今日何時くらいにお家帰ってくる予定なの?」

風「ん? そうね、ちょっと遅くなるかも」

風「だけど、晩御飯はちゃんと作るから安心して」

風「お腹がペコリンになったからって、不用意に電子レンジ以外触っちゃだめよ」

樹「だ、大丈夫だよー」


風「それじゃあ、行ってきます」

友奈「行ってらっしゃーい!」

東郷「御武運を」

風「……そんな重々しく送り出されるほど、大した依頼じゃないわよ、東郷」

園子「また明日~」

夏凜「またね」

樹「夏凜さん、また明日」

夏凜「うん」

~☆

風「思いのほか、簡単に終わったわねチョコ作り」

夏凜「そうね」

風「始める前、どれくらい料理できるの? って訊いたとき」

風「包丁の扱いなら、かなり自信ある、って答えが返ってきて」

風「あー、ダメかもなーこれ、ってちょっぴり思ったけど、そんなことなかったわ」

風「始終てきぱきと動いて、夏凜、優秀だったわよ」

夏凜「ふ、ふん! あれくらい当然よ!」エッヘン

風「……で、これからどうしよっか」

風「解散する?」

風「私としては、せっかく夏凜の家に二人きりって珍しい状況なんだから、
  普段私たちが勇者部としてはやらないようななんか、やってみたいんだけど」


夏凜「具体的には?」

風「具体的……」

風「うーん、そうね。夏凜が私に甘える、とか?」

夏凜「あんたなに言ってるの?」

風「いや、ほら、夏凜って一人暮らしじゃない?」

風「となると人間、たまには人恋しいときがあるってもんよ」

風「だけど、今の内にそういうのを発散しておけば、後々マシになるはず」

風「夏凜はそういうの、みんなの前じゃ普段照れて誰にもできない」

風「だから、私は樹のお姉ちゃんだから、そういうの受け止めるの慣れてるし、
  今の機会ってちょうどいいわよねって」


夏凜「…………」ジー

風「なによ、その顔」

夏凜「いや、それっぽいこと言ってるけど、
    私が誰かに甘えてる姿想像できないから、一度見てみたい」

夏凜「ってそういうあれなんじゃないのかと思って」

風「あっ、バレた?」

夏凜「おい」

風「でも、私、膝枕とか耳掃除とかホントに色々やってあげられるわよ?」

夏凜「いらないわよ、別に人恋しくなんてなってないから」

夏凜「むしろ一人暮らしって、なんでも自由にできて慣れると楽で良いものよ」


風「遠慮しなくていいのよ~。私たち、前に旅館で抱き合いながら寝た仲だもの~」

夏凜「あ、あれは事故でしょっ!」

風「それじゃあ夏凜は、何か今、二人でしかできなさそうなことの案あったりするの?」

夏凜「今……」

風「ええ」

夏凜「……ランニングマシーンを使ったりする筋トレを、風にやらせてみるとか?」

風 夏凜「…………」

風「それはなしね」

夏凜「まあ、そうでしょうね」

風「そうだ!」ピコーン!

風「これから夏凜のご飯作りましょう!」

風「あなた、自分で料理しないんだから、いつも晩御飯、
  お弁当、カップラーメン、お惣菜、もしくは外食でしょ、きっと」

夏凜「……そうね、確かに」


風「よしっ! 決めた! じゃあ、これから――」

夏凜「だけど私の家、ろくに食材になるものないわよ」

風「あー、そっか。買わないと、作れないのか」

風「そう言えば私、自分家の食材も、今日買わなきゃいけないんだった」

風「二度手間というか、ここで作って、家でもまた作るの面倒ね」

風「それに何より、樹に晩御飯食べさせるまで、
   この計画だとだいぶ時間かかっちゃいそうなのが良くないわ」

夏凜「あっ、そう」

夏凜「じゃあ残念だけど、これから風が晩御飯が作るって話は――」

風「決めたっ!」

夏凜「……なにを?」

風「夏凜をこれから家まで連れて行って、我が家で食卓を囲ませるのよ!」

夏凜「え、ええっ!?」

~☆

バタン

風「ただいまー」

樹「お姉ちゃんお帰りー」

樹「……あれ? 夏凜さん」

夏凜「お、おじゃまします」

風「樹、今日夏凜うちに泊まるから」

樹「え、ずいぶん急だね」

風「ダメ?」

樹「ううん、全然ダメじゃないよ」

樹「ただ、それならもっと早く言ってくれれば良かったのに」

風「さっき突然決まったのよ」


風「コンビニで、夏凛用の歯ブラシとタオル買ってきたわ」

風「依頼が終わって、その足で八百屋さんやらで食材揃えて、
   コンビニ寄って来て、帰ってきたわけ」

風「荷物は夏凜持ちでね」

夏凜「よっこいせっと」ドサッ

樹「わぁ。食材がいっぱいだー」

風「お客様を迎えて晩御飯食べるなら、どうせなんだから豪勢にしようと思って」

夏凜「で、風。料理、何を手伝ったらいい?」

風「え? いわらないわよそんな。夏凜は今日お客様なんだし」

夏凜「風が良くても、ただ飯にありつく、ってのができれば嫌なのよ」

夏凜「食材のお金、歯ブラシとタオルのお金、両方風が出したでしょ」

夏凜「風が、邪魔になるから大人しくしとけ、って言うなら、そりゃ大人しくしてるけど」


風「邪魔なわけないじゃない」

風「うーん、そうね。夏凜が手伝うならやっぱり包丁――」

樹「お、お姉ちゃん!」

風「ん? どしたの?」

樹「私も、手伝いたい!」

風「あー、うん、いいわよ」

風「じゃあ――」

~☆

樹「お風呂出たよー」

風「はーい」

風「夏凜、入っちゃなさいよ」

夏凜「うん、わかった」テクテク

風 樹「…………」

風「いやー、良い子だねぇ、夏凜は」シミジミ

風「率先して洗い物までやってくれるとは」

樹「う、うう……。お姉ちゃん、私これから頑張る……」

風「あっ! 樹にどうこうって話じゃないのよ、もちろん」

風「ただ、こんなに良い子なら、もう一人妹が増えてもいいかもなー……なんてね」

樹「私も、もう一人お姉ちゃんが増えてちゃって、全然大丈夫だよ」


風「ねえ」

風「樹が夏凜お姉ちゃん、って言ったら、夏凜喜ぶかしら? 照れるかしら?」

樹「どうだろ、照れるんじゃないかな」

風「……照れると言えば、去年夏凜の入部を祝った誕生日会、思い出さない?」

風「バカだの、アホだの、なーに言い出すんだこの子は、って未だに覚えてるわ、私」

樹「あったね、そう言えばそんなこと」クスクス

風「今年、誕生日会開いたとき、夏凜どんな反応するのかしら?」

風「同じことしてもつまんないから、去年のよりうーんと大規模にやりましょう」

樹「そうだねー」

風「一発芸として、ちょうど一年前、誕生日を勇者部に祝われた夏凜の物まね、披露してやろうかしら」

樹「お姉ちゃん……」

~☆

風「さあ夏凜、選びなさい」

風「私のベッドで寝るか」

風「樹のベッドで寝るか」

風「他に選択肢はないわ。断固として」

夏凜「………………」

夏凜「い、樹のベッドで」

風「えー! 私のベッドだったら、いっぱい甘やかしてあげられるとかそういう――」

夏凜「そうなりそうだ、って察しがついたからよっ!」

~☆

夏凜「おかしくない?」

風「何が?」

夏凜「樹のベッドに、なんであんたまでいんのよ」

風「だって、どっちのベッドに寝るか、とまでは訊いたけど、
  そこで何人寝るかは言ってないもん」

風「寝るのは家族の川の字。これはとっくに決めていたことよ」

夏凜「くっ! 謀ったわね!」

風「こういうのは、騙される方が悪いのよ」ギュッ

夏凜「ちょ、ひっつくな!」

風「わー、暴れるな暴れるな、三人でベッドが狭いんだから」

夏凜「そう思うなら一人外れなさいよ!」

風「いいじゃないいいじゃないー」

風「旅館で一緒にひっついて夜を過ごした仲でしょー」

夏凜「その話、今更、また蒸し返し続けるのやめなさい!」グググ


樹「か、夏凜お姉ちゃんーっ」ギュッ

夏凜「ひゃっ!」ビクッ

夏凜「なに!? 樹までなんのつもり!?」クワッ!

樹「え? あ、あの、お姉ちゃんにさっきこうしなさいって言われて」ビクッ

風「ちょ、ズルいわよ樹」

風「あんただってさっき、えへへ、それ面白そう、って言って乗り気だったじゃない!」

樹「それは、その……」

夏凜「熱いから、二人とも離れて!」

風「この季節、まだ寒いじゃない……」

風「私たち、人肌の温もりに飢えてるのよ……」

風「だから、一宿の恩と思って、その身を貸して――」ギュゥ

夏凜「面白がって、ますます引っ付くのやめなさい!」

~☆

風「……あー、夏凜ー、おはよー」

夏凜「おはよ」

風「身体の節々、ちょっと調子悪いわ」

風「一つのベッドっていう狭い中で、やっぱり三人は無茶だったかも」

夏凜「今更何言ってんのよ……」

夏凜「それより、私、一度家に戻って、登校の支度整えなくちゃいけないんだから」

夏凜「この、私の背中にしがみついてる樹を剥がすの、手伝ってちょうだい」

樹「zzzzzz」スー スー

風「樹、目覚ましもまだまだなこの時間に起きるかなぁ」

夏凜「起こさなくていいから、外すだけ」

風「でも、こんながっちり手足使ってホールドしてあるのを、
   眠ったままで剥がそうとするの、それはそれで至難の業よ?」

夏凜「至難の業でもなんでもいいから、早く手伝って」

風「はいはい」

書き終わってるけど、眠いので投下休憩します

~☆

友奈「今日ねー! 夏凜ちゃんが、クラスのみんなに手作りのチョコ配ってたんだー!」

樹「へー、そうなんですか」

友奈「私もね、それ、一個貰ったの!」

東郷「私も、一個」

園子「私もだよ~」

樹「へぇー」

夏凜「転校してきてから、色々と、お、お世話になったってことで、それであげたの!」

夏凜「だから、特別な意味とかそう言うのは全然ないのよ!」

樹「あの、もしかして、私のぶんも、あったりします?」ドキドキ

夏凜「っ!」

夏凜「あ、あの……えと、その……」ソワソワ

友奈 樹 東郷 園子「?」


風「夏凜」

夏凜「うっ……」

友奈 樹 東郷 園子「???」

夏凜「あ、あの」

夏凜「樹のぶんだけじゃなくて、みんなのぶんある」モジモジ

樹「どういうことですか?」

夏凜「……ちょ……ちょこ」アワアワ

風「……」ハァ

風「夏凜、クラスのみんなに配る分とは別に、
  みんなのために配る分を作ってきてたのよ」

友奈「え? そうなんですか?」

風「そうなのよ」


東郷「でも、それをなんで風先輩が?」

風「私が昨日、チョコ作りを指導したからよ」

東郷「ああ、それで昨日二人で出ていったんですね」

園子「つまり、勇者部でクラスメイトな私たちは、にぼっしーチョコが二個もらえるんだね~」

園子「お得だよ~」

風「私は昨日、教えてあげた駄賃に一個既にもらってるわ」

樹「……私のぶんは?」

夏凜「樹のは、一番大きくしといた」

樹「あっ、そうなんだ、嬉しい」

友奈「ねえねえ夏凜ちゃん、チョコ、はやく見せて欲しいな!」

夏凜「う、うん……」ガサゴソ

夏凜「これ」サッ


友奈「わー、本格的なラッピングだねー」

園子「包装開ける前から、おいしいってわかるよ~」

東郷「そのっち、それは流石に言いすぎだと思う」

園子「そう~?」

友奈「今、開けちゃっていい?」

夏凜「いいわよ、別に。もらったんだから、好きにしなさい」

友奈「よーし、なら開けちゃうぞー」ビリビリ

樹「わっ! 凄い大きいっ!」ビリビリ

東郷「樹ちゃんのは、開ける前からサイズが違ったけど、
    中身を直に見ると、確かに大きいしか言えなくなるわね」ビリビリ


園子「チョコ、食べていいかな~?」ビリビリ

夏凜「どうぞ」

園子「……んぐ」パクリ

園子「甘い~。おいしい~」

東郷「樹ちゃんのは別格だけど、それでも基本大きめのハート型チョコだから、
    義理チョコとはいえ本命チョコみたい」

夏凜「そ、それは風が用意した型がこれだったから////」

夏凜「だから見せるの、躊躇ってたのよっ!////」

風「クラスのが義理、勇者部が本命、って考えると、あながち間違ってないチョイスだと思うけど?」

東郷「なるほど」

風「みんなは、何かバレンタインデーってことで持ってきたものないの?」


友奈「私は、勇者部みんなぶんのチョコ買ってきました」ガサゴソ

友奈「これです!」サッ

風「なるほど、さっそく食べましょう」

東郷「私はぼたもちを」

風「……今日も?」

東郷「今日だからこそです」

風「なるほど」

樹「お、お姉ちゃん!」

風「ん?」

樹「私、昨日帰りに買っといたチョコ、家に忘れちゃったっ!」


風「それなら、私が持ってきといてあげたわよ」ガサゴソ

風「ほら」サッ

樹「あ、ありがと……」

園子「私は特に、何も用意してこなかったな~」

園子「悔しい~」

園子「家が大赦の行事ばっかり重視するものだから、
    全然バレンタインデーのこと気にしてなかった~」

園子「こんなにおいしいイベントなのに~」

友奈「ま、まあ、来年があるから、ね?」

園子「来年じゃ、部長がいなくなっちゃってるよ~」

風「高校に行くだけで、何もこの世からいなくなるわけじゃないんだから大げさな……」


東郷「風先輩も、チョコ、持ってきたんですよね?」

風「うん」

風「夏凜とは、ちょーと違うのをね。同じの持ってきても芸がないでしょ?」ガサゴソ

風「これ」サッ

夏凜「……こうして全員ぶん、机の上に並べると多いわね、壮観だわ」

園子「こんなに多くて、みんなで食べきれるかな~?」

友奈「食べきれるんじゃないかな?」

樹「食べきれなくても、最後はお姉ちゃんが食べきってくれるから、大丈夫だと思います」

風「樹の中で、みんなの内に、私は含まれてないの?」

樹「お姉ちゃんは、お腹いっぱいで食べられなくなっても、甘いものは別腹ってきっと食べちゃうでしょ?」

風「い、妹の中の私のイメージって、いったいどうなってるのよ……」

夏凜「多分それ、ある程度は正確なイメージなんじゃない?」

風「えー、うそぉー!」


終わり

途中、これバレンタインSSじゃなくて風樹夏SSなのでは……? と言う気分になる箇所書いててありましたが
最後ら辺はまたバレンタインに帰ってこられてよかった

書き始めてから園子入れないと話の時間関係がおかしくなることに気づけて良かった


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