春香「765プロでの生活」 (14)


ガッタンガッタンーー

場所は、オーデションの会場。
全員の審査を終え、マイクや照明を片付ける音が響いていました。

「大丈夫…かしら」

結果が発表されるのを皆がじっと待つなか、心配そうに千早ちゃんは呟きます。

「途中、少しだけ声が上擦ってしまったわ。 所々おかしな所もあったし 歌が売りなのに、私は…」

「大丈夫だよ……皆、頑張ったんだもん」

私がそう言うと、悲しそうに千早ちゃんは俯きます。

やがて審査員が立ち上がり、大きく勝者の名前を読み上げました。

「ーーーーー!」



……それは、私達の名前ではありませんでした。

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「何で…何でダメなの!?」

事務所に帰り着くとすぐに、千早ちゃんが泣き叫びました。

見かねた小鳥さんが、千早ちゃんを支えながら小部屋へと連れて行きます。
それを見ていた伊織ちゃんが、目を鋭くさせながら、呟きます。

「なんて無力なの…」

皆の悲しむ顔を見るのが辛くなった私は、事務所から出ようとドアの方へ歩き出しました。



蛍光灯だけが暗闇を照らすなか、私は壁に寄り添い、ただ俯いてました。

ガチャッと音がして、誰かが事務所から出てきます。
そして、もう一人、私の横で壁に背をもたらせました。

隣を見ると、それは美希でした。

美希の顔は髪で隠れていて、悔しそうな口元だけが浮かんでいました。



「ーーミキは諦めてないからね 」



静寂した暗闇の中、その一言だけが響き渡りました。

帰りの際、私はプロデューサーさんに呼ばれました。

次のオーディションに向けての報告があるそうで、リーダーの私に話があるとのことでした。

社長室の中には、社長の他に、律子さんと小鳥さんも居ました。

「おっほん…… 今回は残念だったよっ」

社長の咳払いから話が始まりました。

プロデューサーさんが頷いて言います。

「えぇ…。 できる限りのことは尽くしたんですが」

「でも…やっぱりオーディション本番になると、皆緊張して動けない所が多かった印象を受けました」

「あぁ…それは俺も薄々気が付いてはいた」

「事務所では、皆リラックスしてるんですけどねぇ〜…」


真剣に言葉が交わされる中、私はただただ黙っていました。

聞かれたことに答えるだけで、何も、話すことはできませんでした。

そんななか、ふとプロデューサーさんが私に聞きました。

「春香は、何か思ったりすることは無いか。 何でもいい、練習中のことでも 事務所の方針でも…遠慮せずに言っていいんだぞ」

「あぁ…はい。 えぇと…」

言葉を喋ろうとして、脳裏に浮かんできたのは皆の悲しそうな顔でした。

普段怒りを表に出さない美希が悔しそうに唇を噛み締めていたのが、まだ印象に残っていました。

私に何ができるだろう
ふとそんなことを考えました。

どうしたんだ…?
と私に問うプロデューサーさんに、不意に言葉が漏れたのでした。

「最近、皆…… アイドルが楽しく無さそうです」

………
…………………


次の日、事務所に皆が集められました。
陽は出ずに暗い雰囲気が漂った、まるで私達を映したかのような曇り空でした。

プロデューサーさんは黙ったまま、皆が集まるのを待っていました。

「どうしたのー…?」
「オーディションの事じゃないかな」

ひそひそ声で亜美と真美が話すのが聞こえてきます。

やがて、皆が集まると、プロデューサーさんは口を開きました。



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