勇者「君じゃ主人公は務まらない」 (316)



子どもa「日も暮れてきたし、もう帰ろうよ」

子どもb「なんでだよ、むしろここからじゃないか」

子どもa「これ以上奥へ進むのは危険だよ…」

子どもb「今日こそはこの森の奥まで行くって約束だったろ。何があるか見るまで帰れるかよ」

子どもa「危険な魔物が出るって母さんたちが言ってたじゃないか。今のうちに帰ろうよ」

子どもb「うるさいな。今のところ、その魔物だって出てないんだし、ここまで来たらいるかどうかも怪しいところ……」

?「がるるるる」ガサガサッ

子どもb「うわっ、なんだ!?」

魔物「おおおおお!!」ガサッ

子どもa「で、出た……!に、に逃げなきゃ!!」タタッ

子どもb「お、おい……待てよ、置いてくなよぉ!」ダッ


こんな感じです
誰か見てくれますでしょうか

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魔物「ぐおおおおお!!」ダッ

子どもa「ひいぃ、お、追ってくる!」

子どもb「くそ、なんでことなことに……」

子どもa「このままじゃ殺される!」

子どもb「足の速さじゃ敵わないか…。犬みたいだな…。捕まったらやっぱり噛み付かれるのかな…」

子どもa「お、おい、b。そんなこと言うなよ……」

子どもb「ちくしょう、どうすればいいんだ!」

子どもa「せめてふた手に別れれば助かる可能性も…!」

子どもb「あっ、そうか!違うぞa、こっちのが方が助かりやすい!」ガッ

子どもa「えっ……」ドサッ

子どもb「悪いな、犠牲になってくれ」ダッ

子どもa「嘘だろ、そんな、オレを転ばして……」

魔物「ぐるるる」ザッザッ

子どもa「う、うわあああああ!!くるな、くるなよぉおおお!なんで、なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!アイツが、bが誘ってきたのに!くそ!くそぉおお!」

魔物「があああああ!!」カミツキ

子どもa「……い、痛い!!やめて!!助けて!!」

子ども「だれか、だれかぁあああああ!!」

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十年後

幼馴染「勇者、本当に行っちゃうの?」ウルウル

勇者「あぁ……。俺は行かなきゃならない」

幼馴染「私、嫌だよ、勇者が死ぬのなんて…」

勇者「死ぬのは魔王だ。安心してくれ」

幼馴染「……信じてるからね。絶対、帰ってきてね。魔王倒して、帰って来たら、そ、その……」モジモジ

勇者「幼馴染……」

幼馴染「グスッ……ごめん、笑顔で見送るつもりだったのに」

勇者「ううん、そんなことない。むしろ、絶対に生きて帰らないといけないって思ったさ」

幼馴染「私も、勇者みたくかっこよく決めないとね……。いつまでも、このままじゃいけないよね。……行ってらっしゃい」

勇者「あぁ、行ってくる」



町人「あれが魔王を討ちに行く勇者様か」

商人「アイツには期待してるぜ」

町人「かっけぇな。正直、初めて見たときは細くて弱そうだと思ったが、そんなことはねぇ」

商人「あぁ、ありゃ何かしら持ってるな。なんせ俺らじゃ話にならねぇ程の男前だ」

町人「あはははは、違いねぇ!」

?「記念すべき勇者の門出か」

男「なんだい兄ちゃん、浮かない顔してるね」

?「気にするな。これでもアイツのそれなりの活躍を願ってるさ。そこら辺で死んでもらっても困るからな」

男「なんだい、まるで勇者様のこと知ってるような口振りだね」

?「小さい時からの知り合いさ。ある時からお互い疎遠になってた」クルッ

男「へぇ、そうかい。ん?兄ちゃん、もう行っちまうのか?」

?「あぁ。これから魔物を狩らないといけないんだ」

男「兵士……だったのか?」

男「行っちまったな。お、勇者も行ったか!魔王倒してくれよー!ハハ八!!」

数日後

王女「勇者が旅立って以来ですね、こうして話すのも」

?「どいつもこいつも、ここ最近は会えば一言目には勇者勇者だな。そんなに慕っているのなら、付いていけばよかったろうに」

王女「またそう言うことを言う…。もう少し言い方を改めれば、アナタも少し丸く見えるのでしょうね、A」

A「はいはいそうでしょうね。ところで、こんな薄汚いところにわざわざいらっしゃったのは、何の用で?」

王女「薄汚いところって、別にアナタの家というわけでもないですよね。それに、ボロボロでもう使われてませんけど、ここは教会だった場所ですよ?言葉をもう少し選んでも…」

A「王女様」

王女「……。北の方の村で、オークが暴れているそうです」

A「あらま大変そう」

王女「隊を向かわせましたが、どうにも不安です」

A「不安ねえ……。人の上に立つ者が、下の者を信じないでどうするんだよ。信じて昼寝でもしてよーぜ、時間帯的にもさ」

王女「直接行ってきてください。そうしたら安心して寝ましょう」

A「俺はあんたお抱えの兵士じゃない」

王女「倒して来いとは言いません。見てきて欲しいのです」


A「見てこい?」

王女「ええ、見てきてください。あの兵士達では倒してくるだけで、何が起こってるのか理解し切れるとは思えません」

A「変なことをいうなよ、何が起こってるかなんて分かりきってるだろ。むしろ、分かってるからこそ行くんだろ」

王女「オークが暴れている。確かにそうなんですが、ただ偶然そこに現れたというだけではない気がして……」

A「だったら自分で行けよ。はい話は終わり、帰りな」

王女「行ってはくれませんか」

A「いちいち王女様の考えであちこち行かされるのはたまったもんじゃないんでな」

王女「……そうですか、失礼します」ガチャ


A「……。」

A「(期待されても、困るんだよ)」テクテク

兵士a「おー、Aじゃないか」

A「あぁ、兵士さん。暇そうですね」

兵士a「いきなり言うねぇ、き、み、も…!」

A「いつも通り流してください。で、北の村のオークはどうなってますか?」

兵士a「情報が早いな、向かったのはほんの少し前だってのに」

A「風の噂に聞いたんですよ。んで、少し気になったんです」

兵士a「気になる?オークは別に珍しいことでもないだろ、君も志願して一緒に戦ったこともあるし……」

A「オークがどんなものか気になってるんじゃありません。この時期にオークが現れたことが気になってるんです」

兵士a「うーん、そうか。そこまで考えてるとはなぁ」

A「(王女の考えだけどな)」

兵士a「分かった、ただのオーク討伐と気を抜かないよう知らせよう。何か気になることがあれば、報告させるようにもする」

A「あぁ、それでお願いします」

A「(俺がわざわざ出向かなくても、これでいいだろ)」

兵士a「じゃあそろそろ行かせてもらおう。暇ではないのでな、こう見えても!」ノシ

A「あー、はいはい。分かってます、分かってますから」



?「…………」ジー



A「(……視線?)」

A「(いや、気のせいか?)」テクテク

幼馴染「あっ」

A「……あ?」

幼馴染「驚いた。アンタまだ生きてたんだ」

A「……」

幼馴染「無視?相変わらず、なんなのその態度」ハァ

A「……ん。おう、お前、幼馴染か!いやー、この前見た時とは変わってたんで気付かなかったよ。この前はさ、なんか勇者の前で男受け良さそうな面してたからさー、今のお前とは印象ちがくってさ」

幼馴染「はぁ?つーか、呼び捨て止めてよ。それに、アンタに勇者と同じように接するとか、ほんと無理」

A「(久し振りに顔合わせてみれば……変わってねぇのなコイツ)」

幼馴染「ねぇアンタ、何して生きてんの?」

A「たまに兵士もどきやってる」

幼馴染「へぇ、意外ね。てっきりゴミ箱漁って生きてるものだと…」

A「なぁ、もういいか」

幼馴染「え?あ、あぁ。そうね、世間話するような仲でもなかったわね」

A「次会うことがないように願って。じゃあな」ノシ

幼馴染「次会う時はアンタは死体でね。じゃあね」ノシ



?「……」ジー



A「………ハァ」テクテク

A「(やっぱり見られてる気がする)」

A「(簡単にバレるようなバカだしな、今のうちに対処しとくか)」

A「……」テクテク

?「……」テクテク

A「……」ヒョイ

?「……ッ」タタッ

A「角に姿が消えたら慌てて追うか?誘ってるようにしか見えんだろ普通」ガシッ

幼女「あっ……」

A「さて、誰かに雇われたか、お菓子でも恵んでくれそうに見えたのか。どちらにせよ迷惑な話だな」

幼女「……」

A「何か言いたいことあるか?」

幼女「……ださい」

A「……あ?」

幼女「食べ物を、ください」

A「あぁ、腹減ってるのか。親はどうした?」

幼女「いない、です」

A「親がいないのね。ふむ、このままだと飢え死にしてしまうわけか」

幼女「タダでとは言いません……。ちゃんとお礼、します」

A「お礼するって言ったって、食料買う金もないのにどうやって?」

幼女「からだ、で」

A「……」

A「断る。お前じゃ欲情もせんわ」

幼女「……」シュン

A「そう落ち込むな。お前、俺で声掛けたのは何人目だ?」

幼女「あなたが、初めて」

A「そうか、まぁギリギリセーフか」

幼女「……?」

A「大切なもんを失わずに済んで良かったじゃないか。俺が孤児院へ連れてってやるから、そこで暮らせよ」

幼女「ほんと?」

A「お前の境遇はお前が悪いわけでもないからな。自業自得ってなら話は別だが」

幼女「お腹、空いた」

A「まぁ、まずは空腹を何とかしないとなぁ」

A「なんか食いたいもんあるか?」

幼女「あたたかいもの」

A「ん、んー?難しいな。まぁいい、これから歩いて見て回ろうぜ。それで、食いたいのが見つかったら言えよ」

幼女「お兄ちゃん、いい人」

A「この世は悪い人か良さそうに見える悪い人かしかいないんだ、気をつけな」

幼女「うん」ニコッ

A「ほんとに分かってんのかねぇ……」ハァ


A「と言うことで、街を歩いているわけだが」

幼女「お兄ちゃん、アレ欲しい」テクテク

A「まだ食う気なのかお前……」

幼女「お兄ちゃんはいい人だねー」コレクダサイ

A「いい奴んていないんだぞー」

幼女「あむっ……はふっ……はふっ……」モグモグ

A「なんて美味しそうに食うんだ」

幼女「久しぶりにたべものを」

ミス

A「なんて美味しそうに食うんだ」

幼女「久し振りに食べ物を食べる」モグモグ

A「まぁ、久し振りならそうもなるか」

幼女「お兄ちゃんはこれ食べないの?」

A「いらん。どうせ何食っても同じだからな。食べるならもっと安くて腹が膨れるもんにする」

幼女「なんか、ごめんなさい」ウルウル

A「気にするな、どんどん食べろ」

幼女「ありがとう……」

ちょっと寝ます。

続きはいつになるか分からないです。


幼女「……」モグモグ

A「……」

幼女「……」モグモグ

A「……」

幼女「……(しずかだ)」モグ

A「……」

幼女「(お兄ちゃんってかっこいい方なのかな。でも、危険なモウジューって感じ。モテなさそー)」

A「……」

幼女「(目も腐ってるし、やっぱモテなさそー)」

A「おい」

幼女「は、はい」ビクッ

A「食べる手が止まってるぞ、腹痛くしたんじゃないだろうな」

幼女「う、ううん。ちがう」モグモグ

A「ま、他に食いたいもんあれば言えよ」

幼女「うん、ありがとう」

幼女「(やっぱり、いい人なのかな……)」



……――キャアアアアア!!



幼女「!」

A「悲鳴か。近いな」

幼女「何かあったのかな」ソワソワ

A「行ってみるか」


タタタッ

A「ここら辺か。うげ、人だかりが……」

幼女「人嫌いなの?」

A「人が嫌いなんじゃない、嫌いなのが人なんだ」

幼女「意味わかんない……」


女「た、たすけ……て……」ビチャ


幼女「え、赤い人……?」

A「血だらけなんだよ」

A「……」テクテク

幼女「どこいくの?」

A「ここから離れる、巻き込まれるのはごめんだ」

幼女「そんな……」


殺人鬼「殺してやる!」グサッ

女「ひぃ……!!いやぁ……!!」ビチャ


幼女「まだ助かるかも」

A「いや、手遅れだろ。それより貴重な場面に出くわせた偶然に感謝しろよ、学べることは多いぞ」

幼女「そんな……」

A「見てみろよ、何もあそこに割って入れるのは俺たちだけじゃないんだ。それなのに誰も入らない。誰も助けてなんかくれないんだよ」

幼女「……」

A「お前も結局動いてないのだから、俺ばかりを非難できないな」


女「……」

殺人鬼「……次は、誰にしようかな」フラフラ


幼女「……それは、助けないための言い訳じゃないの」

A「そうかもな、だとしても、もう手遅れさ。彼女は死んだ」

幼女「まだ犯人はあそこにいるの!」

A「わー、襲われる可能性があるー」


殺人鬼「みんな殺してやる!」ダッ


幼女「……きゃっ!?」ガシッ

A「あらら、とことん不運な奴だよお前」アトズサリ

殺人鬼「捕まえた」ガシッ

幼女「いや、離して!」

殺人鬼「殺してやる」

幼女「いや、いやぁ……」

A「なぁ、お前。あー、名前なんだったかな」

幼女「よ、ようじょ……」

殺人鬼「なんだよお前」

A「そうか幼女か。んじゃあ幼女、聞くけどさ、今どんな気持ちだ?助かりたいか?ほら、助かりたいなら少しでも動いてみろよ」

幼女「……」ガクガク

A「ははは、それじゃあ殺してくださいと言ってるもんだ。自分からロクに動きもせずに助けてもらおうなんて思うなよ」

殺人鬼「なんなんだよ、お前!無視するな!」ブンッ

A「あ?てめぇこそなんだよ。俺はそいつの保護者みてぇなもんだ、勝手にウチの娘を奪わないでもらえますかー?」ヒョイ

殺人鬼「て、てめぇ……。殺してやる、クソガキが……」

幼女「……うぅ」ガクガク

幼女「(怖くて、動けない。殺されちゃうってのに)」


幼女「(ちょっとだけ……ちょっとだけでも……)」

幼女「(諦めないで……)」モゾ

殺人鬼「このクソが!」ブン

A「いいのか?俺にばかり気を取られて。その腕に抱いてる子どもにも注意向けとけよ」ヒョイ

殺人鬼「馬鹿ほどよく喋る!」ブン

幼女「(今だ……!)」ドガッ

殺人鬼「んなっ……くそっ!?」グラッ

A「おー、かっこいー」

幼女「お兄ちゃん!」タタタッ

A「はいはい、よく頑張ったねー」ナデナデ

幼女「なにアイツにアドバイスしようとしてるの!」ペチン

A「すまん」


殺人鬼「くっ……どいつもこいつも!馬鹿にしやがって!」


A「そりゃアンタがみんなを馬鹿にしてるからそう感じるんだ」

殺人鬼「おぁあああああ!!」ブンッブンッ

A「さすがの俺もそろそろ気紛れで反撃するぞ」

殺人鬼「やってみろ、口だけの奴が!」ブンッ!

A「ほいさ」ドガッ

殺人鬼「ぐわっ!?」ヨロッ

幼女「つよい……」

殺人鬼「……」ドサッ

A「勝ったー」イエーイ


幼女「そいつ、殺しちゃったの?」

殺人鬼「……」

A「いんや、ただ気絶させただけ」

幼女「……お兄ちゃんがよく分からない」

A「あれだけ酷いこと言ってたのに殺しはしないのかと?ただそんな気分じゃなかったってだーけ」

幼女「……」


ひそひそ

町人b「あいつ倒したのか…」

町人c「なんで助けてやらなかったんだ」

町人d「殺された奴がかわいそうじゃないか!」


A「……」ハァ

幼女「なに、一体……」オドオド

A「自分は悪くないって主張してるんだろ、迷惑な」

幼女「だからってお兄ちゃんを責めたって……」

A「勝手にさせておけ。厄介なことになる前に逃げよう」

幼女「どこかいいところがあるの?」

A「お前は孤児院へ。俺は俺で別なところへ」

幼女「お兄ちゃんと一緒はだめ?」ウルウル

ひそひそ

A「……チッ、いくぞ」スタスタ

幼女「あ、待ってよ……」タッタッ


A「さて、孤児院へ着いたぞ幼女」

幼女「……」

A「そんなに歩いてもないんだが、歩き疲れたか?」

幼女「ちがう」フルフル

A「それじゃあどうした。ここはお前に衣食住を与えてくれるんだ。その為の金なら払ってやるし、喜ぶべきところだろ」

幼女「なんだかいやだよ」

幼女「お兄ちゃん捻くれてるし、ちょっと一緒にいただけでも人間としてどうかと思うところあるけれど、だけど一緒にいたいの」

幼女「わたしも、連れてって」ポロポロ

A「……泣くなよ」ハァ

A「お前はただ自分を認めてくれる存在に頼りたいだけだ」

幼女「ほんとに……そう思ってるの……?」

A「そうとしか思えないんだ」

幼女「……」

A「早くいけよ、新しい家族になってくれるとこへ」

幼女「……ごめんなさい」

幼女「そして、ありがとうございました……」

A「……まぁ、諦めなきゃ会えるさ」ノシ

幼女「ばいばい」タッタッタ


A「……」

A「さて、俺も金を払って、さっさといくか」

A「あの子を、お願いします」ペコリ

老人「すみませんねぇ、お金まで沢山もらって」

A「いえいえ、無償で引き取るところなんてどこにもない、でしょう?時代が時代ですからね、しょうがないですよ」

老人「本当はこちらも心苦しいのです。ここに来られるのは結局は運の良かった子どもたちだけ。金に見捨てられた子は相変わらず路頭をさまようしかないのですから」

A「子どもを育てるのもタダではないですからね」

老人「援助は受けているのですが……最近はそれも減り……。やはり、魔王軍の影響ですかね」

A「孤児院の名折れ、ですね。何も知らない人からすれば、それも仕方ないですが。……魔王ね、確かに、国外にばかり目を向けて国内の扱いは最近酷いものですからね」

老人「はっはっはっ、確かに、確かに。恵まれない子どもの為の施設が、恵まれた子しか受け入れないところになるなんて、それはもはや孤児院とは言い難いですな」

A「……では、俺はもう行きます」

老人「あの子は必ず、育て上げてみせます」

A「……」ペコリ

老人「……」ペコリ


A「……………」

A「……………」

A「……………」ハァ


王女「A?いますか?」コンコン


A「王女か、こんなボロッちいとこに何のようだ」

王女「だから、この教会はあなたの家ではないと……。まぁいいです。それより、さきほど街中でアナタの良くない噂を聞きましたよ」

A「心当たりがあり過ぎるな」

王女「止められる殺人をわざと見逃したとか」

A「あぁ、それか」

王女「あなたが悪いわけではないでしょうが、まるであなたの方が悪人のようでしたよ」

A「それはおかしな話だ。俺もその噂をしていた連中と同じで、何もしなかっただけだと言うのにな」

王女「悪目立ちしたんじゃないですか?」

A「だろうな、どうでもいいことだ」

王女「………………」

A「なぁ」

王女「なんですか」

A「俺は有名人か?」

王女「知ってる人は知ってるでしょうが、知らない人は知らないでしょうね。噂の方も、アナタの特徴だけでしたし」

A「じゃあ何であいつらは俺のことばかり言うんだ」

王女「何と言いますか。たまたまアナタが非難される対象に回って、それもタイミングが悪かったのか、より多くの人の耳に残って……」

A「ただの愚痴だ。フォローなんていらないし、答えなんて求めてない」

王女「小さい時からですよね、大勢に憎まれるのは」

A「最初からそうだった、わけじゃない」


王女「…………」

王女「強いわけでもないのに、強く見せたがる理由が分かりません」

A「それは俺についてだよな。いつ俺が強がった?」

王女「いつもそうじゃないですか。人なんて信じない、世界は優しくない、全部どうだっていい。そんなことばかり言うくせして、たまに人助けしてみたり、ちょっと悪く言われただけで傷付いてみたりする。私からしてみれば、貴方の口から出るその言葉はただの強がりですよ」

A「勝手に決め付けるなよ、俺の何を知っている」

王女「私は、普段のAを見ていて分かったことを言ってるだけです。何を知っているかと問われれば、私が見てきた貴方の全てと答えましょう」

A「……人の上に立つだけはあるな、俺より口は回る」

王女「気持ちの伝え方が上手いのですよ」

A「…………」

王女「………」

A「…………」

王女「何かあったのですか?」

A「……べつに、なにも」

王女「貴方は弱い人です。実力があろうと、心は普通よりも遥かに脆い。余計に強がるものだから、更に傷を深めやすい……」

A「どうでもいいんだ。どうでもいいことなのだから、何と言われてようと傷なんて付くはずもない」

王女「どうでもいいと思えるほど、貴方は自分勝手な人間じゃないはずです。ただそうあろうとしているだけで、本当のところは……」

A「……やめだ」ハァ

王女「……………」

A「お前は勘違いしている。そうやって、俺を哀れんで、自分だけが理解出来ていると特別感に浸りたいだけだ」

王女「そうやって、また拒むのですね」

王女「決めつは付けてるのは、貴方でしょう」

ミス

王女「そうやって、また拒むのですね」

王女「決め付けてるのは、貴方でしょう」

A「…………」スタッ

王女「…………」

A「…………」

王女「…………」

A「……………」ガチャ


バタン


王女「……………」ハァ


A「…………」スタスタ

A「…………」

A「(落ち着け。ここでこれ以上反応しちまえば、王女様が言ってることを認めたも同然、そうなれば俺はただの人になっちまう)」

A「(違う。違うんだ。俺は苦しくなんかない。誰にも分かって欲しくなんかない。独りがいい。独りでいいと望んだはずだ)」

A「…………」スタスタ

A「…………」

A「…………勇者」

A「もしお前が魔王を倒せなければ、俺が……」

A「………」

A「………いや、それはありえないか」

A「……アイツが失敗するわけないだろうな」

A「…………」

A「…………」スタスタ

A「(今日はもう、教会には戻れねぇな)」



寝ます。おやすみなさい。


A「……」スヤスヤ

A「……ん、朝か」モゾモゾ

シーン

A「静かなのはいいが」

A「…………」

A「……風邪を引きそうなくらい寒いな」ヘクシュン

A「(外で一晩明かすのは失敗だったかもな)」

ガチャ

A「(みんな早起きだねぇ)」

?「…………」テクテク

A「………」

幼馴染「……あら?」

A「……あ?」

幼馴染「いつからゴミの真似をするようになったのかしら。気持ち悪い」

A「気分転換だ。一度やってみればいい」

幼馴染「アンタ、家でも焼けちゃったの?」

A「いんや、家は残ってるさ。ただあそこにいるのは家族じゃない、赤の他人だ。」

幼馴染「……あぁ、なるほどね。いつからお外で寝泊まりを?」

A「五年前だな」

幼馴染「あっそ。自業自得ね」

A「…………」

幼馴染「さて、アタシはもう行かないと。アンタと違って暇じゃないからね」

A「だったら構ってくるなよ」ハァ

幼馴染「家の近くで知り合いが寝てたら何事かと思うでしょ」

A「悪かったよ。お前の家があると知らなかったんだ」

幼馴染「ふーん。まぁ、いいわ。もうここら辺には来ないでね」ノシ

A「あぁ、来るわけもないさ」ノシ

幼馴染「……」スタスタ

A「……」

A「……顔、洗ってくるか」




町人「おい、聞いたか。勇者様がドラゴンを討ち取ったらしい」

商人「おお、さすが勇者様だ」

町人「魔王軍も相当混乱しているだろうな」

商人「この好機にこっちも軍隊を送り込もう!」

町人「おい、そんなことしたら国の守りがなくなっちまうだろ」

商人「あぁ、そうか……」

町人「勇者様なら加勢がなくても勝てるさ」

商人「ああ、なんせ選ばれし者だもんな」


A「……」スタスタ


町人「あ、おい。アイツ見てみろよ」ヒソヒソ

商人「アイツがどうかしたのか?」

町人「昨日、ここらで一騒ぎあっただろう?死人も出たやつ」

商人「あぁ、それなら知ってる。イカれた奴が暴れ回ったそうだな」

町人「あの時、俺も近くにいたんだがな。アイツ、犯人を一発で気絶させやがったんだ」

商人「へぇ、そりゃすごい。でも、何でお前は目の敵みてぇに睨んでんだ?」

町人「アイツがもっと早く行動起こしていりゃあ、殺されずに済んだかもしれねぇ」

商人「黙って見てたってのか?ひでぇ奴だな」ヒソヒソ


町人「アイツよ、街外れの教会に住んでるらしいぜ」

商人「あそこはボロボロだし、人が住めるところじゃねぇだろ」

町人「見た奴がいるんだって」

商人「気味が悪いな……」

町人「昨日は幼い女の子も連れてたし、ひょっとしたらお金で買ったのかもしれねぇ」

商人「ロリコンかよ。だったらその子、危ないんじゃないか」

町人「あぁ、手遅れになる前に助け出さないとな」

商人「今は連れていないようだが……」

町人「教会に置いてきてるんだろ」

商人「捕まってるのか、かわいそうに」

町人「仲間呼んで、教会に乗り込もう」

商人「善は急げだな」

町人「あぁ、早くても夜までには……」



?「…………」ハァ



王女「……楽しい散歩のつもりでしたのに」

王女「聞きたくないことを聞いてしまいましたわ」



A「さっぱりした」スタスタ

A「ただいまー」

ガチャ

王女「ここは貴方の家ではありませんよ」

バタン

A「おっかしいな、教会に住み着いた怨霊が見える」

A「せっかく顔を洗ったのに、まだ寝惚けてるのか俺は」

A「…………」

ガチャ

王女「どうも」

A「……なんでいるんだ」バタン

王女「いつものことではないですか」

A「王の娘というのは暇なものなのか?」

王女「いいえ、そんなことはありませんよ」

王女「習い事は多くし、沢山の人と話さなければなりません」

A「だったらここに来る時間もないだろう」

王女「どれだけ忙しくても、寝る手間は惜しまないでしょう」

A「あぁ、言いたいことは何となく分かったよ」


A「それで、何の用だ?」

王女「用と呼べるほどのものではないのですが……」フム

A「帰れ」

王女「そう言わずに。話だけ聞いてください」

A「そこの頭の取れた女神像に聞いてもらえよ」

王女「天使ではないのですか、これは」

A「どっちでもいい……」

王女「貴方に聞いてもらいたいのです」

A「……寝るから、勝手に話してろ」ゴロッ

王女「今日、もしかしたらここに大勢の人がやってくるかも知れません。もしかしたら、勢い余って殺されてしまうかも知れませんね、貴方」

A「…………」

王女「それで、提案なのですが……、もしよかったら、その」

王女「代わりとなる住むところを、提供してあげてもいいですよ」

A「…………」

王女「貴方は軍に貢献し功績もありますし、個人的なお願いを聞いてもらったこともあります」

A「…………」

王女「どうでしょうか」

A「…………」

王女「……」


A「……使える駒は、なるべく手元に置いておこうという考えか?それとも恩を売っておいて、また何かさせる気か?」

王女「そのようなことは……」

A「帰れよ、お前の提案に乗ることはない」

王女「拒否されるだろうとは思ってました。だけど、ここにはいない方がいいです」

A「信じられない」

王女「信じようとしないだけでしょう」

A「本当だとしても、どうってことはないだろ」

A「ヤバかったら逃げればいい」

王女「ここが使えなくなったらどうするんですか?」

A「そん時はまた新しいところを探すさ」

王女「……何故、提案を断るのでしょう」

A「お前を頼る必要はない。一人で済む問題だ」

王女「人の力を借りないことが、かっこいいとでも思ってるのですか?」

A「いいや全然。困ったら迷わず誰かに相談するさ」

王女「では、何故……」

A「くどい」


王女「……分かりました」

ガチャ

王女「ああ、そう言えば、北の村に出たオークは討たれました」

A「良かったじゃないか」

王女「村への被害は殆どありませんでした」

A「……」

王女「……特に異変は感じなかったそうです」

バタン

A「ただ討たれただけのオークか」

A「暇な奴はどこにでもいるもんだな」

A「……」

A「寝るか」


……ガヤガヤ

A「……う」

A「あー、目覚めが悪ぃ」

ガヤガヤ

A「外が騒がしいせいだ」



『出てこい、クズ野郎!!』



A「……でけぇ声あげんじゃねぇよ」

A「俺が何をしたってんだ」



『出てこないならこっちから行くぞー!とっ捕まえろ!!』

ワーワー



ドンドンッ!!

A「……」

バキッ!

町人a「女の子はどこだ!」

町人b「まさかもうやっちまったのか」

町人c「殺された奴の気持ちを思い知れ!」

ワーワー

A「……あ?」

A「急に来て何を言ってやがる」


町人a「とぼけんじゃねぇ!」

町人e「お前が攫ったのは分かってんだよ!」

A「は?攫った?」

町人c「女の子を殺しやがって、クソガキが」

町人f「大人しく捕まれよ!」ギュ

A「……」

町人b「怖い怖い、おっかねぇ顔してやがる」

町人f「憲兵に突き出してやる」

A「……触んじゃねぇよ」イラッ

町人f「……は?」

A「……群れてなきゃ何も出来ねェ無能共が」

A「人の眠りの邪魔するなよ……!」ドンッ

町人f「う、うわぁ!?」ヨロッ

町人a「くっ、誰か、こいつを押さえろ!」

町人e「オレ出来ねェよ、お前やれよ!」

町人c「早くしねぇと逃げられちまう!」

A「……やかましい」

町人g「う、うらぁあああああ!!」ボッ

A「火の魔法?おいおい、こんなところで使ったら…」

メラメラ…

A「……まぁ考えてるわけねぇよな」


A「……ッ」ダッ

メラメラ

町人b「おい、奴が逃げた!」

町人a「おれ達もここから出ないと焼け死んじまう!」

町人f「う、うぅううう……」フラフラ

町人c「お、おい、早く出ろよ!熱いんだよ!」メラメラ

町人g「くそ、あいつめ……」

……メラメラ

町人a「火の勢いが強くなってる!」

町人b「早く出ろよ!おれは死ぬのなんて御免だぜ!?」ドンッ

町人c「いってぇな!押すんじゃねぇよ!」ドンッ

……メラメラ

町人d「う、うわっ」ドサッ

町人e「じゃ、邪魔だ…!」

町人f「扉んとこに人が集まり過ぎだ……」

町人g「どけよ!どけよぉ!早く出ないと焼けちまうだろ!」ゾロゾロ

町人z「」

町人a「天井まで燃えてる……」

ゴォオオオオオ!!



『ウ、ウワァアアアアア!!』



A「……住むところがなくなった」

A「迷惑な奴らだ」


トボトボ

A「夜は冷えるな」トボトボ

A「どこかいい場所は……ん?」

?「……」

A「……」ハァ

A「(こんな夜に、黒一色の服装。絶対関わらん方がいい)」

?「そこの貴方」

A「……」トボトボ

?「貴方よ貴方、聞こえてないの?」

A「……聞こえている、何の用だ」

?「ここは勇者の生まれた国?」

A「勇者……。あぁ、そうだが」

?「アイツの知り合いはいる?」

A「アレは顔が広いからな、そこら辺にいるだろう」

?「貴方もその一人かしら?」

A「あんな奴は知らん」ハァ

?「だけど知っているかのような口ぶりね」

A「……あんた何者だ。魔王軍のスパイか?」

?「あらら、魔族の気配でも感じたのかしら」

A「んなもんさっぱり分からん」

?「面白いわね貴方、勇者よりも」

A「あいつと比べるな」


?「ねぇ、魔王軍に来てみない?貴方だったら歓迎するわ」

A「断る。これ以上、人に疎まれたくはない」

?「魔王に対して偏見でも持ってるのかしら」

A「大体の奴らはな。俺は特にどうも思わん」

?「ところで、私を捕まえれば、勇者が一気に優勢になるかも知れないわよ」

A「だから?俺は特に魔王に恨みもないし、勇者に味方する理由もない」

?「人間代表なのだから応援してあげようという気はないの?」

A「勇者が死んでも代わりはいるさ」

?「ますます貴方はこっち側がふさわしいと思えて来たわ」

A「それなりに偉いのか、あんた」

?「どうでしょうね、うふふ」

A「分かった、さては魔王だな」

魔王「正解。なんで分かったの?」

A「実は俺は長年魔族を研究しててな…」

魔王「ダウト。いいわ、ただの当てずっぽうだったみたいね」

A「魔王と言いつつも、実はただのおかしな人なんじゃねぇの」

魔王「自分で魔王だと言っていたでしょう…」

A「ノリに乗ってやっただけだ。信じていないさ」

魔王「ふふ、嘘つきね。信じてないなら相手になんかしない」

A「可能性はあるかもな、ぐらいには信じてるさ」


魔王「で、魔王と分かっていて、驚かないの?」

A「うわー、魔王だー、たすけてー」

魔王「……」

A「凍てつくような視線を送られている」

魔王「私を倒せると思っているから余裕があるのね」

A「あんたを倒すのは勇者の役目だ」

魔王「否定しないということは、そう思ってるんだ」

A「何かしてきても逃げられるな、ぐらいは」

魔王「どこからその自信はくるのかしら」

A「人は極限の状況を経験すると、以後それに及ばない状況では余裕が出てくるんだ」

魔王「貴方が体験した極限の状況とやら、聞いてみたいわね」

A「話したくはない」

魔王「茶化せないほど、辛い体験?」

A「勝手な憶測を立てるな。人を呼ぶぞ」

魔王「はいはい、それで脅迫してるつもりかしら」

A「あんたにとっては何てことないだろうな」

魔王「ええ、ただ来られても鬱陶しいだけね」

A「人間がまるで蚊のような扱いだな」

魔王「貴方のことは蛇くらいには恐れてるわよ」

A「あんなに気持ち悪くはない」

魔王「冷めた目とかそっくりでしょ」


A「いかん、いつの間にか魔王と楽しげに会話を」ハッ

魔王「わざとやってるわね」

A「勇者とはもう戦った?」

魔王「いいえ。でも、二週間後くらいには戦ってるでしょうね」

A「わざわざ城で待ち構えるのか?」

魔王「ええ、そうしないと面白くないじゃない」フフ

A「雰囲気は確かに出るかも知れないな」

魔王「でしょう?待ち構える意味はちゃんとあるのよ」

A「その為に部下は殺されてもいいと?」

魔王「有能な者ならば死ぬ前に逃げるでしょう」

A「忠誠心とかだな…」

魔王「それもありがたいけれど、やっぱり冷静さは必要よね」

A「……」

魔王「急に黙っちゃって、どうしたの?」

A「冷えてきた」

魔王「人間は弱いわね」

A「そろそろ寝るところを見つけないとヤバい」

魔王「魔王の城に来る?」

A「仲間にされそうで怖い」

魔王「あら残念」

A「もう行くわ…」

魔王「じゃあね、また会えると思うわ」

A「もう会いたくない」ノシ




A「……」

A「なんとか寝床も確保でき、王女と顔を合わせることもなく、二週間が経過した」

A「…朝は寒いから嫌いだ、滅びてしまえ」

ガヤガヤ

A「寝て起きた時にこの騒がしさは何だかデジャブが」

A「……大衆浴場でも行って温まるのもありだが、怠いな」

ガヤガヤ

A「(ちょっと歩いてみるか、騒がしいのも気になるし)」

ガヤガヤ

町人「おい、聞いたかよ!」

店屋の主人「あ、あぁ。聞いた、確かに聞いた」

町人「勇者が魔王を倒せなかったなんて!」

主人「しかし、魔王も死にかけらしいぞ」

町人「魔王軍も最近は大人しくなってたしな」

主人「勇者は無事なんだろうか」

町人「分からん、無事で戻ってきてくれればいいが」



A「(勇者が……失敗した?)」


 


A「……はは」

A「あいつ、失敗したのか」

A「いいザマじゃないか…」フラッ

……ザワザワ

?「あの」

A「……?」

召使い「貴方がA様でしょうか」

A「あぁ」

召使い「王女様のご命令です。ご同行願います」

A「……王女が」

召使い「こちらへどうぞ」

A「(……勇者……)」



寝ます。おやすみなさい。




…バタン

王女「本来ならこちらから行くべきなのでしょうが、私もここから出るに出られず…。呼び出す形になってしまって、申し訳ありません」

A「王女、なぁ、勇者は……」

王女「やっぱり知っていましたか。ええ、その通り。魔王との戦いに敗れ、逃亡中です」

A「逃げてる?……あっはは、ははは、そりゃいいな。ボロボロになって帰ってきたところを殺してやろう」

王女「……少し落ち着いてください。そんなことをすれば、貴方は罪人になりますよ」

A「俺は何の悪さもしてない。……それどころか、とんだ冤罪まで被せられたこともある身だ。誰か一人殺せば、帳尻が合うんじゃないか?」

王女「落ち着いてください。今の貴方は冷静さを欠いています」

A「どうしてだよ、何故そんなことが言い切れる。俺は冷静そのものだ」

王女「勇者が死ぬかも知れない、そのことに焦っているのでしょう?」

A「……あぁ、焦れているのかもな。もしかしたら本当にアイツを殺せるんじゃないかと」

王女「そんなことをしたって、悲しみを生むだけではないですか」

A「違う、違うんだよ。……王女、あんたは分かっていない」

王女「殺人の価値だなんて、分かりたくもありません」

A「そう思っているのなら、俺のことで口を挟むな」

王女「貴方の手を人の血で汚させたくない。そうすれば貴方はきっと……」

A「俺自身でもないくせに、自分のことのように俺を語るのは止めろよ」

王女「……お互い、長い付き合いではないですか」

A「しかし全てを知っているわけではないだろう」

王女「分かり合えているとは思っていました。だから、こうして貴方を呼んだのです」


A「俺を止める為だけに呼んだってのか?」

王女「いいえ、むしろここからが本題ですよ」

A「いいだろう、話してくれよ」

王女「魔王と国王との間で交わされた密約についてです」

A「……密約?」

王女「関係者以外は知らない。決して明かされることのない約束事ですよ」

A「こうして俺に話しているわけだが」

王女「場合が場合なので、貴方には知っておいて欲しい」

A「…………」

王女「魔王軍とこの国が手を結んだのには理由があります」

王女「戦争を起こすことで文明の成長を促し、兵器開発を進める為です」

A「兵器だって?それは重火器とかか?」

王女「それもあるでしょうね。戦争に勝つ為だけではなく、どちらかと言えば別国に売るのが目的ですが」

A「今まであれほど激しくぶつかって来たのに、裏ではそんな取り決めを……」

王女「激しくぶつかり合うことはあれど、決めた領域までは踏み込んではいません」

A「金儲けの為ならなんだって良いって言うのか?」

王女「魔王の考えは分かりませんが、私の父は恐らくそう思っているのだと」

A「……分かった。納得はしないが、そういう前提で話を進めてやる」


王女「勇者も、それに利用されたのです」

A「……」

王女「民衆を制御する為に」

A「不安の捌け口みたいなものか」

王女「彼も被害者なのですよ」

A「……被害者か。罪深い奴だとは思うけどな」

王女「今回の勇者敗北は筋書き通りではありませんでした」

A「と、言うと?」

王女「本来ならば、一応ですが、ここで魔王軍との決着が付くはずだったのです」

A「しかし、事実として勇者は負けたのだろう?」

王女「ええ、敗北したとなれば、話は変わって来るでしょう」

A「……魔王が約束を破ったというのか」

王女「かも知れません」

A「これからどうなる?」

王女「分かりません。国の主導者である父たちも混乱していて」

A「最悪の事態は予測出来てるんだろうな」

王女「……魔王軍が、直接こちらへ攻めてくる可能性は、高いです」

A「こんな動揺が広がっている中で、攻め込まれたとしたら、こちらに勝てる見込みはないな」

王女「私たちも殺されてしまいますね」

A「……魔王が待ち構えてるのにも意味があると言っていたのは、そういうことか」

王女「魔王に会ったのですか?」

A「ああ、この間な。少しばかり世間話をした」

王女「どうしてそれを言わなかったのです」

A「俺がそんな面倒なことをすると思うか」

王女「あぁ、貴方はそういう人でしたね」

A「お前はこの国と一緒に滅ぶのか?」

王女「私にとってこの国は、ただの鳥籠のようなものですから」

A「鳥籠?そこまで窮屈でもないだろ」

王女「いいえ、窮屈でしたよ。ある人の胸へ飛び込むことも叶わないのですから」

A「……」

王女「勇者を[ピーーー]なんて、言わないでください」

A「……まだ言うのか」

王女「殺してしまえば、何かが終わるというわけではないのですよ」

A「終わるんだよ」

王女「終わりません。きっと、貴方は後悔をし続ける」

A「お前には分からない」

王女「ならば教えてください」





再投稿。


A「……魔王が待ち構えてるのにも意味があると言っていたのは、そういうことか」

王女「魔王に会ったのですか?」

A「ああ、この間な。少しばかり世間話をした」

王女「どうしてそれを言わなかったのです」

A「俺がそんな面倒なことをすると思うか」

王女「あぁ、貴方はそういう人でしたね」

A「お前はこの国と一緒に滅ぶのか?」

王女「私にとってこの国は、ただの鳥籠のようなものですから」

A「鳥籠?そこまで窮屈でもないだろ」

王女「いいえ、窮屈でしたよ。ある人の胸へ飛び込むことも叶わないのですから」

A「……」

王女「勇者を殺してしまうだなんて、言わないでください」

A「……まだ言うのか」

王女「殺してしまえば、何かが終わるというわけではないのですよ」

A「終わるんだよ」

王女「終わりません。きっと、貴方は後悔をし続ける」

A「お前には分からない」

王女「ならば教えてください」



A「なぁ、王女よ。話は済んだだろう、もういいよな」

王女「有耶無耶にするのですか。ちゃんと、話してください」ギュ

A「……手を離せよ」

王女「嫌です。この距離まで来るのに八年も掛かったんですから、もうちょっとだけでも」

A「……なぁ、王女」

王女「貴方が話してくれさえすれば、もう一歩踏み込むことも出来るのですが」

A「焦っているのは、お前も一緒だろ」

王女「……」

A「すまないな。俺はまだ、その一歩を縮める気になれない」

王女「貴方からではなくても、私から踏み込むことも出来るんですよ」

A「ごめん」

王女「……いいでしょう、今回はここまでで」パッ

A「魔王軍が攻め込んでくると決まったわけでもないんだ」

王女「そうですね。貴方の隣へ行くのは、まだ早過ぎます」ガチャ

A「扉を開けてくれたのか、親切だな」

王女「こちらから呼び出したのですから、これくらいは」

A「……ひとまず、様子を見ることにする」

王女「もしもの時は、待ち望んでいますよ」フフ

A「……じゃあな」

王女「ええ、いずれ近いうちに」

バタン
 





A「…………」

A「……身分の違いなんて気にしたこともなかったな。いや、そもそも考えたことすらなかったか」

A「(その資格もないだろうに、何を俺は)」

スタスタ

幼女「あれ、お兄ちゃん?」

A「……」

幼女「お兄ちゃんだよね」ギュ

A「なんだ、いきなり。街中でしがみ付くんじゃねぇよ」

幼女「そんなこと言わないで」

A「お前、外に出てていいのかよ」

幼女「うん、今は自由時間だから」

A「最初に会った時よりも、随分と綺麗になったな」

幼女「それは……。まぁ、可愛がられてるの」

A「よかったな」ナデナデ

幼女「………あ…」

A「どうした?」

幼女「なんでもない…。もっと撫でて」

A「変な奴だ」ナデナデ


幼女「お兄ちゃんに撫でられると、気持ちいい」ニコッ

A「そうか、じゃあ止めておくか」パッ

幼女「ええっ!?止めちゃうの?」

A「また今度な」

幼女「いじわるだ」ウルウル

A「まぁまぁ、何か食わせてやるよ」

幼女「……ううん、いらない」

A「いらないのか?」

幼女「夕ご飯、食べられなくなるの、嫌だから」

A「あー、そういうことか」


幼女「ねぇ、お兄ちゃん」

A「ん?」

幼女「わたし、遠くへ行きたいな」

A「遠く?」

幼女「うん、遠いところ。ここを忘れられるような」

A「なんだ、孤児院じゃ上手くやれてないのか?」

幼女「ううん、多分上手い方だと思う」

A「……上手くやっていけてるなら、いいじゃないか」

幼女「でもね、いつか駄目になっちゃいそう」

A「よく分からないんだが」


幼女「幸せになるのって難しいんだね」

A「なぁ、虐められているわけじゃないんだろ?」

幼女「ううん、みんな友達だよ。みんな仲間」

A「仲間か、そりゃいいな」

幼女「でも、遠くへ行きたい。お兄ちゃんと」

A「……機会があれば、連れてってやるよ」

幼女「ほんと?」

A「多分。覚えていたら」

幼女「じゃあ、きっと来てくれるね」アハハ

 


A「……幼女、変わったな」

幼女「そう?」

A「笑うようになった」

幼女「笑えって言われたもの」

A「そっちの方が可愛いぞ」

幼女「……ん、ありがとう」

 


幼女「そろそろ戻らないと、じゃあね」ノシ

A「あぁ、またな」

A「……」





少し落ちる

今日はもう少し書きます


……

勇者「ごめん、みんな。俺が弱かったばっかりに」ボロボロ

僧侶「私たち、勇者さんがいたからここまで来れたんですよ」

戦士「そうだ、謝る必要なんてない」

魔法使い「そろそろ勇者の故郷に着くわね…」

勇者「あぁ、ここまでくれば、すぐ追ってくると言うことはないだろう」

僧侶「もう何日も歩いてばっかりでしたからね」

戦士「ふっかふかのベッドに入りてー!」

魔法使い「まず、敗北した私たちを、快く迎えてくれるかしら」

僧侶「で、でも、頑張ったんですよ?」

勇者「……休んだらすぐに行くと分かってもらえれば、受け入れてくれるだろう」


戦士「しっかし、魔王との戦い、あっと言う間だったな」

魔法使い「…何が起こったのかも分からないまま、やられてたわね」

勇者「僧侶があの時、声を張り上げてくれなければ、そのまま全滅だったかも知れない」

僧侶「そ、そんな…。私なんて」

勇者「ありがとう」

僧侶「うぅ…」

魔法使い「はいはい、お熱いところすいませんが、まだ戦いは終わってないのよ」

戦士「そうだ、むしろこれからだ」


僧侶「……次は、勝てるでしょうか」

戦士「休んだら即特訓だ!そうすれば、きっと勝てるさ!」

勇者「…どうだろう、随分と厳しいかもな」

魔法使い「リーダーがそんな弱気でどうするの?」

勇者「俺たちの実力じゃあ、正面からぶつかりあったって勝てないだろう」

魔法使い「事実、そうして負けてるわけだけど…」

僧侶「お仲間さんがもう少しいれば、違うんでしょうか」
 


勇者「仲間か…」

魔法使い「心当たりでもあるの?」

戦士「この四人で頑張って来たじゃないか、これ以上増やすなんて――」

僧侶「でも、このままじゃ神でも味方に付けない限り勝てませんよ!」

戦士「……くっ、神なんていねぇよ」

勇者「……神様がいたとしても、力を分けてくれそうにはないかな」

僧侶「やはり仲間を増やすしか…」

勇者「……」

魔法使い「勇者、誰か候補がいるんでしょう?黙ってないで、教えてちょうだい」

勇者「…どうだろうね。とりあえず、街へ入ってから考えよう」

僧侶「…………勇者さん」

 


もしかしたらエログロ展開が入るかも知れない
入るとしても後編になるけれど。


かなり長くなるかも知れん
今日はもう寝ます。おやすみ




町人「お、おい。あれ、勇者じゃないか…!?」


ザワザワ

町人a「勇者だって……?」

町人b「無事に戻って来れたのか」

町人c「仲間も一緒らしいな」

ザワザワ



魔法使い「一応、歓迎はされているみたいね…」

勇者「あぁ……。これなら追い出される心配もないだろう」

僧侶「わ、わぁ!人がいっぱい集まってきました!」

戦士「魔物に集られるよりは数倍マシだな、ハハハハハ」

ザワザワ
 


ザワザワ

勇者「みんな、すまない。期待を裏切ってしまった…」

町人「そんなことない。勇者はよくやったよ」

勇者「俺達は諦めるつもりはない。魔王はいづれ倒すつもりだ」

町人「さすがだぜ勇者、いや勇者様!俺達は応援してるからよ!」

ザワザワ



A「…………」

A「魔王軍でも攻めて来たのかと思ったら、あいつかよ…」

幼馴染「あっ、ちょっとアンタ邪魔よ!勇者が見えない!」グイグイ

A「……ッ、無理矢理押すなよ馬鹿」チッ

幼馴染「あ?…あぁ、アンタだったの。どおりで人の邪魔になるわけだわ」

A「俺に構ってていいのか?勇者が行っちまうぞ」

幼馴染「え、待って…、ちょっと勇者!?私よ、幼馴染よ!!」オーイ




勇者「一度、国王に顔を見せた方がいいだろうな」

僧侶「うわー、なんだか緊張します」

勇者「大丈夫だよ、きっと理解してくれる」

魔法使い「行くなら早く行きましょ…?もたもたしてる時間はないわ」

戦士「腹減ったなぁ」グー

スタスタ



ザワザワ

幼馴染「あ、行っちゃった…」

A「あいつら、自分が一度しくじってるってこと分かってんのかねぇ」

幼馴染「…………」プルプル

A「あーあ、どうしてあいつだけが寛容に受け入れられるんだ、胸糞悪ぃ」スタスタ

幼馴染「…ちょっと待ってよ」グイ

A「んだよ、さわんじゃねぇ気持ち悪い」

幼馴染「途中、勇者に声掛けられてた女、一体何なの!?」

勇者「……はぁ?」

ミス、再投稿



勇者「一度、国王に顔を見せた方がいいだろうな」

僧侶「うわー、なんだか緊張します」

勇者「大丈夫だよ、きっと理解してくれる」

魔法使い「行くなら早く行きましょ…?もたもたしてる時間はないわ」

戦士「腹減ったなぁ」グー

スタスタ



ザワザワ

幼馴染「あ、行っちゃった…」

A「あいつら、自分が一度しくじってるってこと分かってんのかねぇ」

幼馴染「…………」プルプル

A「あーあ、どうしてあいつだけが寛容に受け入れられるんだ、胸糞悪ぃ」スタスタ

幼馴染「…ちょっと待ってよ」グイ

A「んだよ、さわんじゃねぇ気持ち悪い」

幼馴染「途中、勇者に声掛けられてた女、一体何なの!?」

A「……はぁ?」


幼馴染「勇者とどういう関係なの!?」

A「知らねぇよ。お前、少し落ち着けよ」ハァ

幼馴染「なんで知らないのよ!?勇者には私がいるじゃない!なのに、何よアレ!!」

A「仲良さそうだったな」

幼馴染「…………そんな、私、捨てられたの?」

A「十数年にも渡る恋が終わったのか、いやーめでたい」

幼馴染「……ッ!!」ビンタッ!

A「何すんだクソ女」ヒョイ

幼馴染「私の気持ち知ってて、よくそこまで言えるわね!!」ポロポロ

A「俺に八つ当たりすんなよ」

幼馴染「少しは慰めてくれてもいいんじゃないの!?」

A「十年前、お前は俺を慰めたか?むしろもっと酷い事を言ってたんじゃねぇのか?」

幼馴染「…………ッ」

A「都合の良い奴だな、お前」


幼馴染「あれは……アンタが悪いんでしょ……」グスン

A「それもどうせあいつから聞いたんだろ?」

幼馴染「何よ、今更違うって言うの?…まだ認めてなかったのね、呆れた!」

A「お前の中では、例え証拠なんかなくても、あいつの言うことは全て本当か」

幼馴染「……もういいでしょう!?いつまでも過去のことグダグダ言ってんじゃないわよ!」

A「……そうだな、どうせお前には分からない。もうこの話は止めてくれ」

幼馴染「何よ……、馬鹿みたい……。アンタがそんなんだから、あの時、勇者まで巻き込まれそうに――」

A「もう黙ってくれよ。今はお前の失恋の話だろ?」

幼馴染「……失恋って、言わないで」


A「決め付けるのは早いかも知れないが、あの雰囲気は出来てそうだろ」

幼馴染「………」

A「距離も相当近かったな」

幼馴染「……ゆうしゃ」

A「後は一人で感傷にでも浸ってろ。俺は帰るわ」

幼馴染「待って、アンタのことは嫌いだけど、今は話の分かる奴にいてほしい」

A「アホ、くそったれ。誰がお前の話なんて聞くか」

幼馴染「……アンタの話も聞いてあげる、少しはね。十年前のこと」

A「別にいい。お前はきっと信じない」

幼馴染「……そう、悪かったわね、引き止めて」

A「勇者程いい男はそうそういないが、お前ならすぐにでも手が届きそうな奴ならいっぱいいるさ」

幼馴染「なによ、慰めのつもり?」

A「いいや、お前に勇者はもったいないってことだよ」

幼馴染「…………」

A「じゃあな」スタスタ

 


今日はこれで。

もう寝ます。おやすみ




幼女「ねぇ、お兄ちゃん」ギュ

A「なんだい幼女ちゃん」

幼女「最近、この前帰ってきた勇者様のお仲間さんたちをよく見掛けるの」

A「へー、随分と馴染んでるんだな」

幼女「お兄ちゃんの方が強そうだね」

A「そういうこと言うなよ、変な噂が立ったらどうする」

幼女「前は、怖い人をパパパッとやっつけちゃったよね」

A「そんなこともあったかな」

幼女「お兄ちゃんはどこかで訓練とかしたの?」

A「特にしてない。なんでそんなことを訊くんだよ」

幼女「わたしも強くなったら、悪い人を倒せるのかな、って」

A「……まぁ、夢を持つのはいいことだ」

 


幼女「特訓したわけじゃないのに、どうしてあんなに強いの?」

A「運が良かったんじゃねぇかな。神様はちゃんと見てくれてるってことだ」

幼女「神様……。神様なんて、いないよ」

A「都合の良い神様なんて勿論いないだろうよ」

幼女「お兄ちゃんは信じてるの?」

A「とんでもなく悪い神なら、まぁ居てもおかしくはないかな、と」

幼女「悪い神様かぁ、それは確かにいそうだね」

A「だろ?きっといまもどこかで笑ってるんだよソイツは」

幼女「うん……。きっと、そうなんだろうね」

 


A「……何か食べてくか?」

幼女「ううん、いらない」

A「そうか。食べ物がちゃんと食べれてるならいいことだな」

幼女「空腹で死にそうになってた頃が、おかしく思えるくらい」

A「ふむ、そう言えばちょっと丸くなったかもな、ほっぺとか」

幼女「成長期だから気にしないの」

A「はいはい、そうですか」

幼女「あっ、もうこんな時間…。またね、お兄ちゃん!」バイバイ

A「あいよ」

 




幼女「お兄ちゃん、今日も目が死んでたな」テクテク

ドンッ

幼女「あっ」フラ

幼女「すいません」ペコリ


?「こちらこそごめんよ、怪我はないか?」


幼女「え、あっ、勇者様!?」ドキッ

勇者「君みたいな可愛らしい子にまで知られてるなんてね、光栄だよ」ナデナデ

幼女「(……優しい撫で方)」

幼女「あっ、急いでるんだった…。もう行かなきゃ」

勇者「送って行こうか?一人じゃ危ないかも知れない」

幼女「いいえ、大丈夫です……」

勇者「そうか、じゃあ、今度は人に当たらないようにな」

幼女「はい……」



幼女「(うぅ、何だか胸が変なくらいドキドキした……)」

 


勇者「こっちはまだ、平和でいいな」

勇者「……」


兵士「勇者よ、こんなところにいたのか」

勇者「また魔王軍が出たんですか?」

兵士「あぁ。ここ最近の毎日のように出ているな…」

勇者「場所は?」

兵士「国の東の国境付近だ。お前も休みたいところだとは思うが、力を貸してくれ」

勇者「民衆を守る為なら、是非もありません」

 




竜娘「国境を越えたら、確かすぐ村があったはずだよな?」

吸血鬼「あぁ、人はそんなにいないらしいがな」

竜娘「我ら魔王軍の力を見せつけられるなら何だっていいさ」

吸血鬼「兵士たちの体力も考えてやれよ」

竜娘「めんどい。そこら辺のことはお前に任せる」

吸血鬼「…はぁ。疲労が溜まってきているからな。これが終わったら、少し休みでも」

竜娘「手っ取り早く回復させればいいんじゃないか?」

吸血鬼「精神的疲労までは治せないだろう」

竜娘「ふむ、確かに。…おや?どうやら、そろそろのようだ」

吸血鬼「向こうも気付いているだろうからな、総員戦闘用意だ!」



魔王軍の兵士「「おおぉーー!!」」


 




A「って言うことがあったらしいが、もしかしなくてもヤバいんじゃないか?」

王女「ええ、そうですね。今は戦力も拮抗しているようですが、今後はどうなるか」

A「魔王軍はまだ本気で攻め落とす気じゃないんだよな」

王女「ええ。本気だとしたら、それなりに大規模な戦争になると思いますから」

A「いやだなぁ。俺も出ろとか言われるのか」

王女「前は言われずとも出ていたじゃないですか」

A「金が必要だったんだ」

王女「……相変わらず、外で生活を?」

A「どことは言わないが、まぁな」

王女「何の為にお金を稼いだんですか」

A「食うためだ。家に住むとなると、出費がデカすぎる」

王女「……はぁ

 」


王女「もうここに住んではいかがですか?」

A「俺に結婚しろと言ってるのか、それは」

王女「それは気が早過ぎますよ」

A「まずその気がないから安心しろ」

王女「ないんですか?」ハッ

A「そんな悲しそうな顔をするな…」

王女「貴方のせいです」

A「……最近、多くないか、その、そういうアピールが」

王女「気付いていても、応える気がないなら、放っておいてください」

A「さいですか……」

王女「ないんですか?」

A「あぁ、もう、めんどうくさい」ハァ

 




王女「そういえば、もうじき貴方にも声が掛かると思いますよ」

A「戦争に参加しろってだよな。別に構わないさ、面倒なことは嫌だが」

王女「実力はそこそこありますからね、不思議ですが」

A「おい、その不思議な実力で、何度かお前を守ったこともあるんだぞ?」

王女「そう言えばそうですね、だいぶ前のことですが」

A「参加して、勇者と顔を合わせることがないようにしよう」

王女「何か嫌なことでも思い出すからですか」

A「殺したくなるからだ」

王女「まだ復讐を諦めてはいないのですね」

A「俺がもし諦めるとすれば、それは死ぬ時だ」

王女「……何があったのかとはもう尋ねません。けれど、いつか話してくれるとは信じてます」

A「そんな時が来ればいいな」

王女「……はい」

 
 ガチャ  バタン

 


幼女「……」キョロキョロ

幼女「今日はお兄ちゃんいないのかな…」



?「あれ、君は…」



幼女「えっ、勇者様……?」

勇者「あぁ、やっぱり。どこかで見た顔だと思ったんだ」

幼女「あ、あの時はすいませんでした」ペコリ

勇者「気にしちゃいないさ」ナデナデ

幼女「(また優しい撫で方だ…)」


勇者「君の名前は?」

幼女「幼女、です」

勇者「誰か探していたのかな?」

幼女「え、と。おにいちゃんを…」

勇者「おにいちゃん?」

幼女「いい人なんです、誤解されやすいみたいだけど」

勇者「はぐれたのか?」

幼女「いや、その、たまに会ってるだけなので」

勇者「そうか。まぁ、事情は人それぞれあるだろう」

幼女「は、はい…」



勇者「今日は急いでないんだな」

幼女「まだそんな時間じゃないので」

勇者「なるほど、門限か。小さい頃は俺もそんなのあったな」

幼女「……門限、ってなんですか?」

勇者「知らないのか。門限ってのは、何だろうな…」ウーム

幼女「…………?」

勇者「その時刻までに帰ってこなくちゃならない、決められた時間のことかな」

幼女「門限…」

勇者「破ったこともあったけどね、俺は…。でも、それで大変な目に遭ったりもした」

幼女「魔王退治に行かせられた、とかですか?」

勇者「あはは。いいや、魔王退治に選ばれたのは関係ないよ」
 


幼女「それじゃあ、大変な目って…?」

勇者「友達を一人失ったんだ」

幼女「……」

勇者「あぁ、ごめん。暗くさせちゃったか。そんなつもりはなかったんだけどな」

幼女「…すいません」

勇者「気にしないでくれ。十年も前のことだ」

幼女「勇者様は、この国の出身ですか?」

勇者「まぁ。北の方にある、小さな村だけどな」

幼女「羨ましいです」

勇者「羨ましい?君の出身は?」

幼女「分からないんです」

勇者「親御さんに聞けばいいじゃないか」

幼女「わたし、親がいないので」

勇者「そうか、でも、その服装……。孤児院に入ってるのか?」

幼女「はい」
 


勇者「孤児院ね……。どこの孤児院?」

幼女「○○△ってところです」

勇者「………」

幼女「勇者様?」

勇者「…あぁ、なんでもない」

幼女「……?」

勇者「そうか、君も今まで大変だったろう」

幼女「え、まぁ……。でも、いいこともありましたよ」

勇者「それはよかった。でも、まだまだ良いことはきっとある」

幼女「……?それは、そう信じてますけど」

勇者「ちょっと用が出来たので、ここらでお別れだな」バイバイ

幼女「あ、はい。それじゃ」




勇者「………」

勇者「あまりにも温かく迎え入れられてたから、か」

勇者「人間の冷たいところを、すっかり忘れていたな」




ドドドーン!!  ウワァアアアアア!!!


A「王女から前以って知らされていたとは言え……」



ドドーン ドーン

 ワァアアアアア! ワァアアアアア!!


A「ほんとに手伝わさせられることになるとはな」


分隊長「あぁ!?何か言ったか?」

A「何も言ってないですよー」

隊長「あぁ、そうか。無駄口叩いてる暇はないもんな!」

A「いや、割とやることがなくて……」

隊長「そんな姿勢で戦闘に臨むのか!」

A「出番ないんですもん」
 


隊長「貴様は戦況が危うくなってからの登場だからな」

A「帰ったら駄目ですか……」

隊長「馬鹿を言うな、貰える金の分の働きはしてもらう!」

A「だったら出番を……」

隊長「まだウチの精鋭が頑張ってる間は落ち着いていろ」

A「……」

A「……」
 


隊長「……しかし、今日は魔王軍の兵数が少ない気もするな」

兵士「流石に連戦続きでは、兵も持たないでしょう」

A「……」

隊長「……む、魔王軍に動きがあったか」

兵士「はい、前線に居た兵士達を退却させ始めました」

隊長「何を考えている…」

A「……」
 


隊長「戦況は?どうなっているんだ?」

兵士「今、確認しているところです」

A「…なぁ、気を付けた方がいいぞ」

隊長「なんだ?何か分かっているのか?」

A「魔王軍の奴等、とんでもない物を隠し持っていたかも知れない」

A「恐らく……」

兵士「た、大変です!」
 


隊長「どうしたと言うのだ!?」

兵士「て、敵軍。自動型の魔導人形……ゴーレムを大量に……」

A「(だと思った)」

隊長「A!聞いているか!貴様の出番だ!」

A「分かっている」

……………
………



ドォオオオン ドォオオオン

 ドォオオオン ドォオオオン

ゴーレムa「…………」ドォオン!

A「魔王も本気を出し始めたってことなのか」バァアアアン!!

ゴーレムa「……」ドドォオン!

A「打撃に遠距離攻撃か、何でもアリだな、おい!」ドッ!!

ゴーレムa「」ガタッ

ゴーレムb「…………」ドォオン!

A「(四方八方ゴーレムだらけだ…)」ヒョイ

ゴーレムb「……」ブォン!

A「キリがない…」ドォン ドォン

ゴーレムb「」プシュー

ゴーレムc「」ガラン

  


A「……」ハァ


王女『……魔王軍が、直接こちらへ攻めてくる可能性は、高いです』


A「……結局、約束とやらは完全に破られたらしいな」

ゴーレムd「……」ブォン!!

A「……ッ」ドォオオン!!

ゴーレムd「」ガタッ

A「……まだ結構いるな」


ゴーレムe「……」ゴーレムf「……」ゴーレムg「……」

ゴーレムh「……」ゴーレム…ゴーレム…ゴーレム………

ゴーレム…ゴーレム…ゴーレム…ゴーレム…ゴーレム……


A「気持ち悪い……。神様の力でも借りなきゃ無理かな……」

A「……どこまでいけるか」ォオオオオオン!!!


ドォオオオオン!! ドォオオオオン!! ドォオオオオオオン!!!

バゴォオオオン! プシュー ドォオオオン ドォオオオオン!!


A「……」



兵士「今だ!!敵軍が崩れたぞぉおおおおお!!」

「「「おぉおおおおおおお!!!」」」



A「……頭痛てぇ」ズキズキ

隊長「よくやってくれたな」

A「三時間も掛かってないだろう…」

隊長「二時間程だな、実際は」

A「給料分は働いたつもりだぜ、これでもな」

隊長「百以上のゴーレムを葬ったのは評価に値するぞ」

A「寝させてもらいます…。二十時間くらい…」

隊長「三時間だ。三時間経ったら起きてこい」

A「………」

隊長「やってもらわなければならないことはまだあるんだ」

A「……了解です」


 




スタスタ

幼女「あ、勇者様!」

勇者「幼女……。三日ぶりくらい、か」

?「勇者さん、この子が…」

勇者「そうだ、前に言っただろ」

幼女「その方は……」

勇者「あぁ、紹介するよ。僧侶だ」

僧侶「どうも、幼女ちゃん。僧侶って言います」

幼女「あっ、どうも…。幼女です」ペコッ

僧侶「可愛らしい子ですね~」ナデナデ

幼女「(このお姉さん良い人だ)」



勇者「立ち話もなんだから、どこかお店に寄ろう」

僧侶「幼女ちゃん、好きな物選んでいいよ~」

幼女「あ、ありがとうございます…」





勇者「この間探していたお兄ちゃんには会えたのか?」

幼女「一週間近く会えてなくて…」ションボリ

僧侶「(戦争にでも参加してるのかな)」

勇者「もし軍の関係者なら、もうすぐ帰ってくるだろう」

幼女「おにいちゃん、軍って嫌いそうだけどな…」

勇者「軍が嫌い?」

僧侶「どんな人なんでしょう、そのお兄さんって」

幼女「え、と。……目が死んるけど、野獣みたいな」

僧侶「(怖い人だった…)」

勇者「最近は目立った事件も聞いていないからな。トラブルに巻き込まれてはいないと思うが」

幼女「むしろトラブルを積極的に回避しようとする人です」

僧侶「危なそうな人なのに、そう言うことは嫌なんですね…」

幼女「でも、弱いわけじゃないですよ!とっても強いんです!」

勇者「……へぇ、それはちょっと面白そうかな」ピクッ

僧侶「(強いって言葉に反応した…)」


勇者「年齢とか、身長とか、どのくらいなんだ?」

幼女「うーん。勇者様くらい、かな…」

僧侶「なんだか私も気になります」

幼女「大勢の人から憎まれたりしても、あんまり動じなかったり…」

幼女「後、イメージカラーは絶対黒です!」

僧侶「(トラブルを回避しようとするってのが嘘臭く思える…)」

勇者「……そのお兄ちゃん、って」

幼女「……?」

勇者「いや、やっぱいいや」

僧侶「勇者さん…?」



勇者「なんでもない。それより、幼女」

幼女「なんですか?」

勇者「……君の孤児院について、少し調べたんだ」

幼女「……」ビクッ

勇者「君を預けた奴が誰なのかは知らないが、酷い奴もいたもんだな」

幼女「………」

勇者「裏では相当に非道なことをされているんだろ?」

勇者「奴隷販売に性的虐待と……何でもありだな、今時の孤児院は」

幼女「……確かにそうですけど。おにいちゃんは悪くないです!」

勇者「はぁ、お兄ちゃんが預けたのか」

幼女「お兄ちゃんを悪く言わないでください!」

僧侶「幼女ちゃん、落ち着いて」


ザワザワ


ザワザワ


幼女「酷いことは沢山されましたけど、でも、わたしはあそこを出たくないです…」

勇者「何故?」

幼女「折角、おにいちゃんに入れてもらったところだから」

幼女「おにいちゃんがくれた……居場所だから……」

僧侶「幼女ちゃん」ギュ

僧侶「でも、それは間違ってる。お兄さんの為に、幼女ちゃんが傷付くのは、違うよ…」

幼女「どうして……おにいちゃんを悪く言うの……」

勇者「残念だけど、君の孤児院が犯罪を犯していたということが事実である以上、俺はそれを放っておくわけにはいかない。だけど、安心して欲しい。ちゃんと、居場所は作ってやるから」

幼女「………」

僧侶「まず、憲兵に報告しなくちゃいけませんね」

勇者「あぁ。すぐにでも解決したいが、協力を仰ぐのも時間が掛かるだろう」

幼女「……おにいちゃんには」ボソッ

勇者「……ん?」

幼女「……このことを、知らせないで」

勇者「あぁ、分かった。約束しよう」ナデナデ

僧侶「(勇者さん……嘘ですよね……)」

勇者「幼女、一緒に来てほしい。なによりもまず、君の安全が最優先だ」

幼女「…………、はい」コクリ

僧侶「行きましょう」






A「最前線で身を粉にして奮闘すること五日……ようやく帰ってこれた……」フラフラ

王女「お疲れ様です」ズズッ

A「美味しそうな物を飲んでるな…」

王女「一週間も、味も栄養もない食事を取っていれば、何でも美味しく見えるでしょう」コトッ

A「くれるのか?」

王女「別に構いませんよ、あるだけ飲んでください」

A「うまい」ズズズ

王女「貴方が戦線で頑張っている間、こちらは特に何もありませんでした」

A「そりゃ何もないようにこっちで頑張ったんだ、あってもらっちゃ困る」

王女「強いて言えば、犯罪に手を染めていた孤児院が幾つか一斉に捕まったくらいですかね」

A「………なんだって?」

王女「あら、これは予想を裏切る反応……。孤児院なんて、貴方にとってどうでもいいでしょう」

A「確かにどうでもいいことだが、どうでもよくないんだ」ズイッ

王女「……その、顔が、近いです」



A「教えてくれ。犯罪を犯していた孤児院の中に、○○△って名前のとこはあったか?」

王女「さ、さぁ…。そこまでは……」

A「……悪いな、急用が出来た」スタッ

王女「待ってください、貴方と何の関係が…?」

A「親のいない子を拾って預けた」

王女「……よく調べなかったんですか」

A「適当に探したからな。……犯罪だなんて、ちっとも知らなかった」

王女「監禁から、性的虐待まで、とても世間には大っぴらに出来ないものもあったそうですよ」


A「…………あぁ、もう、どうして俺は」

王女「貴方は間違ったことはしていないでしょう」

A「間違ってたんだ。だから、こうなった。アイツを傷付けたかも知れん」

王女「アイツ……?貴方が、勇者以外の他人を気にするなんて」

A「………そんな時もあるさ」ガチャ

王女「聞かせてください。アイツとはその預けた子ですよね?」

A「そうだ、だから、早く行かせてくれよ…」

王女「男の子ですか?」

A「いや、女だ。……なぁ、もういいか」

王女「そうですか……。まぁ、いいでしょう」

A「……じゃあな」バタン



A「(憲兵とは仲良くないからな……)」

A「(くそ、どこに行きゃいいんだ……)」

タッタッタッ

A「とりあえず孤児院まで来てみたが、入れそうにはねぇな……」

A「(入ったところでアイツがいるわけないか)」



?「あの、ここに何か用ですか…?」



A「……あぁ、そうだが、お前」

僧侶「どうも、私、僧侶と言います」

A「…………Aとでも呼んでくれ」

僧侶「ではAさん、貴方は何の用でここに?」

A「会いたい奴がいる」

僧侶「それはもしかして……幼女ちゃんですか?」

A「あぁ、そうだ…。でも、何でそれを…」

僧侶「では、貴方が“お兄さん”なわけですね」

A「おにいさん?……確かに、アイツはそう呼んでたかも知れないが」



僧侶「……ここの孤児院が、どういうことをしていたかは知ってましたか?」

A「知ってたら預けてなんかいねぇよ…」

僧侶「まぁ、そうですよね…」

僧侶「(幼女ちゃんの言う通り、悪い人ではないようだけど…)」

A「幼女はどこにいるんだ?」

僧侶「現在は、私たちが泊まっている宿屋に…」

A「……」

僧侶「どこか別な場所に預けても良かったのですけど、それでは幼女ちゃんも可哀想だと思って」

A「……そこには、勇者もいるのか?」

僧侶「……へ?え、えぇ、今回の件は勇者さんが解決したようなものですから」

A「そうか、アイツが解決したのか」

僧侶「そうですけど……。どうしたんですか?」

A「なんでもない」

僧侶「(何か……辛そう……)」

A「……結局、正しいのはアイツか」ボソッ


僧侶「……?何か言いましたか?」

A「いいや、何でもないさ。幼女には、よろしく言ってといてくれ」

僧侶「会わないんですか?」

A「あっても仕方がない。どんな顔をして幼女と向き合えばいいのか分からない」

僧侶「幼女ちゃんは貴方と会いたいと言ってましたよ」

A「俺は会わなくていい…」

僧侶「何故です、あの子の望みを叶えてあげたいとは……」

A「俺がもっとちゃんとしていれば、あの子は傷付かずに済んだんだ。俺は勝手に、救ったような気分になっていた……」

A「気付いたのも解決したのも別な誰かで、俺は何もしていないのに、どんな顔をして会えばいいんだ………」

僧侶「………」

A「なぁ、勇者のお仲間さん。幼女を任せたよ」

僧侶「私たちを信用していいんですか?」

A「信用って、お前らほど信用がある奴らもいないだろう…」

僧侶「分かりませんよ?あの子を悲しませるかもしれない」

僧侶「貴方が一度は救ったかも知れないあの子を、今度こそ救ってみようとは思わないんですか?」

A「…………」


僧侶「あの子にとっての貴方という存在が、今のままでもいいんですか?」

A「……」

A「…………」

A「………………あぁ」

僧侶「……そうですか」

僧侶「あの子は貴方を強い人と言ってましたけど、私はそうは思いません」

A「…………」

僧侶「貴方はきっと弱い」

僧侶「(でも、どことなく勇者さんに似ている…)」

A「………」

僧侶「………」

A「手間を掛けさせたな……」

僧侶「………」

A「………」フラッ


僧侶「(行ってしまった……)」

僧侶「(勇者さんは、彼を知っていたのでしょうか……)」



 



竜娘「魔王様は、ゴーレムなんて便利なものを、何で今まで使わなかったんだだろうな」

吸血鬼「知るか。奥の手は多い方が良いとか言う考えだろ」

竜娘「しかし、この前の戦いは意外だったな」

吸血鬼「ゴーレムによる戦況逆転……を更に逆転させた王国側の切り札か」

竜娘「切り札、なのかねぇ」

吸血鬼「報告によれば一人の人間だったらしい」

竜娘「その前々から何度か報告には上がっていたよな」

吸血鬼「あぁ。同一人物かは断定出来ていないようだが」

竜娘「ゴーレム部隊を一掃の後に、最前線からの離脱か」

吸血鬼「化け物と呼べる程ではないだろうが、脅威ではあるな」

竜娘「脅威とも呼べないさ。精々、性能良い戦車並みの戦力ってぐらいだ」

吸血鬼「まぁ、相性も合ったんだろうね」

竜娘「魔法による攻撃は得意ってか」

吸血鬼「ゴーレムの魔法耐性を上げるよう、言っておこうか?」

竜娘「いや、いいさ。十分だろ、今のままで」



吸血鬼「だが……」

竜娘「それより王国襲撃のプランをもっと確実なものにする方が大事だ」

吸血鬼「今のままでもいいんじゃないか?」

竜娘「不確定要素が多過ぎるんだ、今の王国は」

吸血鬼「勇者たちと切り札の存在か」

竜娘「魔王様には敗北したが、アイツらだって魔王城に到達出来る程の実力者だ」

吸血鬼「お前の父親も討たれちまったしな」

竜娘「………」ギロッ

吸血鬼「はいはい、そう睨むなよ」

竜娘「油断は禁物だ」

吸血鬼「んなこと分かってるって」

竜娘「見てろよ勇者……」

竜娘「必ず潰してやる」







幼馴染「……あ」




A「……」




幼馴染「…アンタの顔見るのも、久しぶりね」

A「幼馴染か。久しぶりだな」

幼馴染「なんだか元気ないわね、もしかして失恋?」

A「全然違う。お前と一緒にするな」

幼馴染「うっ、そうね、ごめん」

A「謝るなよ、調子狂うなぁ」

幼馴染「そんなに珍しい?」

A「まずこうやって会話が成り立つのがおかしい」

幼馴染「まぁ、お互い嫌いだからね。…そうでしょう?」

A「あぁ」
 



幼馴染「小っちゃい頃はこんなことなかったのに」

A「止めろよ、その話は」

幼馴染「三人でよく遊んでたよね」

A「気持ち悪いな、なんだよ今更」

幼馴染「勇者に話し掛けることが出来なくなって、いろいろ考えてた」

幼馴染「三人であの村に居た頃が、一番楽しかったなぁ、って」

A「話し掛ければいいじゃないか、俺にじゃなくて」

幼馴染「あの仲間の人の顔がちらついて、嫌だ」

A「完全に負けてるな、お前」

幼馴染「今はアンタも、負けたみたいになってるわよ」

A「放っておけよ、そう見えるだけだ」

幼馴染「ねぇ、アンタっていつ頃こっちに来たの?」

A「さぁな、忘れた」

幼馴染「私がこっちに引っ越してきてすぐ?家族の人も一緒に来たのよね?」

A「……親もこっちにいるさ。もう五年以上見てないが」

幼馴染「五年って、何があったの?」

A「耐えられなかったんだろうよ、あいつらが」



幼馴染「耐えられなかった?」

A「俺が村で、……ああいう扱いになって」

A「引っ越してきたはいいが、慣れない環境やら、俺の存在やらで」

A「あいつらは、不良品の我が子に嫌気が差したんだ」

幼馴染「それからは、ずっと外で?」

A「言っとくが、汚くはないからな。風呂も何もかもちゃんとやり繰り出来てた」

A「それだけの金は稼いでたからな」

幼馴染「今も、まだ?」

A「最近は違う。ちゃんとした部屋で寝てる」

幼馴染「そう、ならよかったわね」

A「……何が良かっただよ、くそ」

幼馴染「あ、もう行くの?」

A「あぁ、このまま暇に潰されるよりはマシだ」

幼馴染「予定でもあった?」

A「んなもんねぇよ」

幼馴染「じゃあいいじゃない、もっと話しましょうよ」

A「何か気持ち悪いぞ、お前…」




?「………これは、驚いたな」



幼馴染「………ッ」ビクッ

A「……あぁ、確かに驚きだわ」

勇者「……」

A「お前が自ら声掛けてくるとはな」

勇者「俺も入れそうな雰囲気だったしな」

A「俺はもう行くから、こいつと話してろよ」

幼馴染「ゆ、勇者…」

勇者「どうも、幼馴染。顔を合わせるのは、この国に帰ってきて初めてだな」

幼馴染「う、うん」

勇者「A。どこ行こうとしてるんだよ」

A「俺はここには居られねぇよ。特にお前の目の前にはな」

勇者「……分からないな、そう角を立てるなよ」

A「俺がお前と和解しちまったら、今までの全てが無駄になるぞ」

勇者「あぁ、確かに、それは言えるかもな」


 



A「俺はお前を許す気はないし、お前は俺に一生罪の意識を感じてろ」

勇者「だからこうして、勇者としてみんなの為に尽くしているわけだからなぁ」

A「勇者の役目自体は、国王に選ばれたからだろうが」

勇者「断ることも出来たけど、やろうと思ったのはあの一件があったからだ」

幼馴染「ちょっと待ってよ、二人とも…」

勇者「どうした、幼馴染よ」

幼馴染「あの一件って、Aが勇者を無理矢理に誘って、魔獣に襲われたやつだよね?」

A「……俺がお前を、ね」

勇者「まぁ、実際は少し違うけど。そうだよ、その一件だ」

幼馴染「じゃあ、なんでそんな裏がある言い方…」


勇者「これは俺とAの問題だから、君は知らなくていい」

幼馴染「」

A「あぁ、良かった。お前はやっぱりそういう奴だからな」



A「俺が全てを掛けて復讐したい思う価値がある」ゾクッ



勇者「おっと」

A「本当はお前を殺したくて殺したくて仕方がないんだがな」

勇者「まぁ、こんなところで決着を付けるのも馬鹿らしいだろ」

幼馴染「………」

A「とっても楽しみにしてる」

勇者「俺はそうでもないけどな…。まぁ、そのうちな」



A「まるで主人公気取りだな」

勇者「君はまるでかませ犬みたいだ」

A「お前、根っこは悪人だろ」

勇者「君だって同じじゃないか。それとも、自分が主人公だとでも?」

A「案外、お前よりかは上手くやれるかもな」

勇者「君じゃ主人公は務まらない」

A「知ってる。だからこそ、お前を殺すことが出来るんだ」

勇者「やらせはしないさ、復讐もな」

A「そう油断してろよ」

勇者「あれ、帰るのか」

A「ここにいたって胸糞悪くなるだけだ」

勇者「その割には随分と弾けた笑顔を見せてたなぁ…」

勇者「行っちゃったか」



幼馴染「………ね、ねぇ」

勇者「ん、どうした、震えてるじゃないか」

幼馴染「あ、あんたたち…、何を話してたの…?」

勇者「うーん、分からなくていいよ」

幼馴染「……怖いよ、なんだか」

勇者「心配ないさ、Aは君に危害を加えたりしない」

幼馴染「そうじゃなくて、雰囲気が…」

勇者「まぁ、穏やかではなかったかもな」

幼馴染「………」

勇者「止めさせたい?」

幼馴染「……え」

勇者「なんだか恐ろしいことが起きそうだから、そうなる前に止めさせたいと思ってる?」

幼馴染「アイツがどうなろうと知らないけど、勇者が傷付くのは見たくない…」

勇者「ありがとう。まぁ、止めるのは簡単だ」

幼馴染「……」



勇者「君がAに泣いて抱き着いて、『今までごめんなさい。これからの私には貴方が必要だから、ずっと傍にいて離さないで欲しい。もう復讐なんて止めて』って言えばそれで十分」

幼馴染「え、ちょっと、なんで」

勇者「Aはもう心とかバラバラだからな。女の子に『必要』とか言われると、もう頭の中グチャグチャになって、結果として受け入れてしまう」

幼馴染「だからって、なんで私が…」

勇者「君がAの初恋の人だから。まぁ、実際やるのは誰でもいいけど」

幼馴染「は、はつ…!?」

勇者「って言っても十年以上前の話だけどな。今のAは君のことはどうでもいいって思ってるよ」

幼馴染「……そりゃ、酷いこととか言ったし」

勇者「当然だな。まぁ、要は誰かに必要とされれば、ころっとそっちに傾くわけだ」

幼馴染「あのAがそんなわけ…」

勇者「試しにやってみればいい。何かあっても壊れるのはAの心だし、前も言ったけど幼馴染に危害は及ばない」

幼馴染「……やだ、やらない」

勇者「そっか、じゃあもうこの件には関わらないことだな」

幼馴染「………」


勇者「俺もそろそろ帰るか」

幼馴染「ま、待って。聞きたいことがあるの…」

勇者「?」

幼馴染「勇者は、私のこと、どう思ってるの?」

勇者「幼い頃からの大切な友達」

幼馴染「………そ、そう」

幼馴染「じゃあ、好きな人っているの?」

勇者「いるよ」

幼馴染「……ッ」

勇者「でも、俺にとっては君も大切なんだ」

幼馴染「………」ウルウル

勇者「これかも、よろしく頼む」ギュ

幼馴染「………うん」

幼馴染「私、馬鹿みたい。二人が何か言い合ってるの見て、ひょっとして勇者って怖いところあるのかなって疑っちゃった。ごめんね……」

勇者「大丈夫だよ」ナデナデ


 

もう少しで前編終わりです。
これからはもう少し勢いよく話しが進むと思います。
見てくださってる方、ありがとうございます。





竜娘「いよいよこの時が来た。国王の首を落とし、勇者への恨みを晴らすこの時が。あぁ、もう早く誰かしらかっ切ってやりたい」

吸血鬼「少し落ち着け。そっちへ行っても部下しかいないぞ。戦争前に殺されちゃ敵わないんでな」

竜娘「それにしても良い満月だ。臭いも音もしない、最高の夜だね。明日の為に世界の全てが眠っているみたいだ」

吸血鬼「どうでもいいけど、張り切り過ぎて倒れるなよ。お前が倒れたら、誰が王国に悪夢を見せるんだ」

竜娘「私が見せるのは勇者一人で十分さ」

吸血鬼「勇者は強いぞ、悪魔的にな。取り逃した場合、深追いはするなよ」

竜娘「いいや、きっと追うだろうね。骨だけ残っても首元に喰らいついてやる」

吸血鬼「魔王様からの伝言だ。守らなければ骨すら残らん」

竜娘「それは困るな…。でも大丈夫だ。舐めて掛かるような真似はしない。油断がどういった悲劇を招くかは、父親の件で痛いほど分かっているつもりさ」

吸血鬼「はいはい、精々頑張ってくれよ。こっちも、話し相手に逝かれちゃ目覚めが悪い。それこそ悪夢でも見そうなくらいだ」

竜娘「私はお前がいなくなっても大して困らん」

吸血鬼「そこは同調してくれるところだろ。傷付いて明日に響いたらどうしてくれる」

竜娘「知るか。そこで殺されればそれだけの話。何事も都合良くは行ってくれないものだ」

吸血鬼「前向きなのかそうでないのか、お前が向いている方向が分からないよ」

竜娘「どこを向いていようと辿り着くのは結局同じさ。私は勇者を殺せればそれでいい」

吸血鬼「……そうかい。そうなることを願っているよ」

竜娘「もちろん、王国は潰すさ。本来の目的を忘れたわけではない」

吸血鬼「期待してるぞ。我が軍のナンバーワン」





A「良い朝だな…。気分は相変わらず最悪だが…」

A「幼馴染と勇者に挟まれる、なんて悪夢が、遂この間に起こったばかりだからなぁ…。あの時やっぱりぶっ倒していれば良かった」


町人「おい、夜更け過ぎに大貴族が幾つか国から逃げたらしいぞ」

商人「俺も似たような話を聞いた…。何が起こってるんだ」


A「いきなり物騒な話しが聞こえてきた…」

召使い「……A様」サッ

A「あぁ、なんだ何処かで見たことある顔だ」

召使い「以前、王女様からお呼びである旨を伝えたことがあります」

A「はいはい、思い出した。…それで、何の用だ」

召使い「王女様がお呼びです」

A「そう言えば、最近あいつ来ないな。こっちまで来るのも怠くなったか」

召使い「…王女様がお呼びです」

A「………分かりました」ハァ




王女「少し遅かったですね」

A「いきなり呼んでおいてそれは酷いな」

王女「ええ、ですが時は一刻を争うのです」

A「精神的に傷を負うような話は止めてくれ。最近、ちょっとダメージ負い過ぎて、今にも倒れそうなんだから」

王女「魔王軍が国境を越えてこちらに向かっています」

A「ほーら、分かってたよ。厄介事が次から次へだ」

王女「太陽が昇ると同時に強襲を受け、北側からほぼ壊滅状態。この王都に辿り着くまでもう少しもありません。敢えて混乱させない為に、国民には伏せれるだけ伏せてありますが」

A「いや無理だろう。もう広まってる。軍隊は?タバコでも吸ってるの?」

王女「とてもじゃありませんが、食い止められやしませんよ。貴方もいないし、勇者は国王を守る為にここに残らなければなりません」

A「なに馬鹿なことをやってるんだ。俺以外の戦力をさっさとぶつけて全面戦争でも仕掛けろよ。国王が国捨てて城だけ守るなんて、もう未来が読めちまってるようなもんじゃねぇか」

王女「国を捨てたわけではありません。隣国に協力を仰いでいます。もう戦争は始まっているのです」
 


A「……勇者はどこだ」

王女「私は分かりません」

A「どうせ他に殺されるなら、今のうちに決着を着ける」

王女「待ってください。どうして貴方はそう、思考が勇者への復讐へ直結しているのですか」

A「俺はそれが全てなんだよ…」

王女「どうして勇者を亡き者にしようと思うのです?」

A「あいつが全てを奪ったんだ。……十年前に、俺を誘って、魔物に襲われた時も一人だけ逃げた。俺が目を覚ました時にはもう全て俺の自業自得ということになっていた。そこにはもう、俺の居場所はなくて、俺が本来得られるべきだった物は、全てあいつのせいで失われたんだ」

王女「……涙、滲んでいますよ。……私に全てを話してください。今の貴方に必要なのは、復讐で得られる幸福感などではなく、今まで溜め込んできた全ての感情を吐き出せる場所だと思うんです」
 



A「……あいつのせいで、みんなから冷たい目で見られた。何を言っても無駄だった。家族も俺を出来損ないとして扱い、最低限に親の務めを果たそうと思ってかここに引っ越してきて、結局は捨てた。……俺が本来得られるはずだった幸福は、あいつが持ってるんだよ。殺してでも、奪い返さないとさ」

王女「それはいけないことです。命まで奪っては、貴方も相手と同じになってしまう」

A「それは、嫌だなぁ……。あいつと同じは、死んでも嫌だ。……だけど、じゃあ、俺はどうやっても幸せになれないのか」

王女「……」

A「いや、待ってくれよ……。だって、今まで勇者への復讐だけが全てで……。あいつが奪っていった物を返してもらいたくて……。なぁ、おかしいよなぁ。やっぱり、決着、付けないと。どっちが死なないとさ、何も終わってくれないんだよ……」

王女「……もうどうだっていいって思ってるんでしょう?本当は、殺したところで何も返ってこないこと、分かっているんですよね。ただもう、どこで止まっていいのか、分からなくなっているんですよね」

A「……違う。そんなこと言ったらさ、俺、どうしよう。殺さないとさ……。あいつ殺したいんだよ。きっと返ってくる。だって、今までその為にここまで来たんだぜ?……無駄になんてさせない。そうしたら、俺、何の為に……」

王女「……大丈夫」ギュッ
 



王女「貴方は私が幸せにするわ。だから、貴方はこれから私の為に生きて。ね、素敵でしょ。もう何も憎まなくていいの。悲しい思いもしなくていいの。ただ、私だけを見て、愛してくれればそれでいいのよ」ボソッ

A「………ッ」

(何かが崩れていく音を聞いた)

A「やっぱり、勇者とは決着付けなきゃ……いけないと思う……」

A「けどさ……お前の言う通りにするのも……いいなって思うんだ……」

王女「今はそれでいいの。これから、二人で考えていきましょう?」

A「あぁ……そうだな……」

王女「じゃあ、この国から逃げないと。折角、想いが通じたのに、死ぬのなんて御免ですよ」

A「……勇者は、」

王女「それは今はいいでしょう?ねぇ、A。二人で考えるって決めたばかりじゃない。とにかく、生き残る道を探しましょうよ」

A「……そうだな」

王女「こっちに隠し通路があるから。……ほら、行きますよ」グイッ

A「そう引っ張るなよ…」フラッ

 


後編は途中、少し暗い話が出て来たりします。
前にも言いましたけど、恐らくグロい展開やちょっとエロい描写も入ると思います。
苦手な方や合わないと思った方は、見ないほうがいいです。

今日はここまでにします。見ていただきありがとうございました。




勇者「王様、少し外の見回りをしてきてもよろしいでしょうか」

王様「おう、勇者殿。それよりも、我が娘は、娘は、見なかったでしょうか。先ほどから姿が見えなくて……。あぁ、もう。最近はどこの馬の骨とも知らぬ男と会っていたとも聞くし、次から次へと厄介事がぁ……」

勇者「外の見回りも兼ねて、俺が探してきます」

王様「頼まれてくれるか。そうか、そうか。それならば少しは安心出来ると言うもの……。このままでは、魔王に攫われてしまうかも知れん。あぁ、そうなったら私は……」

魔法使い「まずは御身のご心配をなさってください、国王。王女様なら、現在、回せるだけの兵を捜索に当たらせていますから」

戦士「そうだ……いえ、そうですよ!国のトップであるアンタ……いや、アナタに何かあってはそれこそ一大事だ!まぁ、そうならないように俺たちがいるわけですけど」

勇者「じゃあ、みんな、少しここを任せる」

僧侶「勇者さん……お気をつけて」


勇者「僧侶、まだ大丈夫さ。魔王軍は王都に達してはいない」

僧侶「ですけど、いつ防衛ラインを突破されるか分からないですし、もう防げるレベルを超えています。このままでは、時間の問題ですよ」

勇者「そうなった時の考えはあるさ……」

僧侶「勇者さん……」

勇者「行ってくる」スタスタ

勇者「………」スタスタ

勇者「……」

勇者「俺は、勇者であって英雄ではない」

勇者「魔王は倒せど、国を守れるかまでは、分からんな…」

勇者「……」

 


勇者「街に出てみたが、酷い状況だな」

勇者「(騒ぎがあちこち起こってるようだ)」

勇者「(このまま魔王軍に破られたら一気に総崩れだな)」

勇者「国の終わりか…」


幼馴染「ゆ、勇者……」

勇者「幼馴染。どうした、そんな汚れだらけで」

幼馴染「さっき、ちょっとした暴動に巻き込まれて…」

勇者「(内部から崩壊してるんじゃないか、これ)」

幼馴染「お母さんたちともはぐれちゃって、どうしようかと…」

勇者「そうか、だったら一人でも逃げた方がいい。出来るだけ遠くへ行くんだ。この国の寿命はもう…そう長くはない…」

幼馴染「長くないって…。勇者。貴方、それでも勇者なの?もうちょっと、希望を持って――」

勇者「俺は勇者であって、英雄ではない。みんなの敵であると言う魔王は倒しても、もうバラバラになったこの国を救うことは出来ない」

幼馴染「人を助けるのが勇者の役目でしょう!?」

勇者「助けるも何も、お互いに潰し合っているこの光景を見て、救いようがあるとでも思うか?ほら、子供が転んでも誰も見向きもしない、むしろ踏んで先に行く程だ。老婆が倒れても、病人がほったらかしでも、誰も助けない、見向きもしない。そんな人々を、助けられると思うか?」

幼馴染「でも、勇者なら何とか出来るって、私は信じてる!」

勇者「幼馴染。勇者は誰かを殺すことでしか人を救えないんだ。だから俺は、魔王を殺す。それが俺に与えられた役割であり使命なんだ」

幼馴染「そんな……。国を失ってでも、魔王を倒す意味なんてあるの!?帰る場所がなくなって、帰りを待ち望む人はそこにいないのに、魔王を倒して何になるのよ、ねぇ!!」

勇者「だから、勇者は英雄になれないんだ」

幼馴染「ゆ、うしゃ……。お願い、どうにかして……」

勇者「そう言えば、Aの姿は見たか?」

幼馴染「みてないけど、ねぇ、勇者……」

勇者「ごめんな。代わりに、魔王はちゃんと倒して見せるから」

幼馴染「勇者……!」



―――…ッ!!


 



勇者「……。随分と大きな爆発音だったな、相当近くだ」

幼馴染「きっと……魔王軍よ……。もう、だめね……」

勇者「俺はまだやることがあるから、一旦城の中に戻る。幼馴染も早く逃げるんだ」

幼馴染「………どこに行けばいいのか、分からないよ」

幼馴染「私の居場所、全部ダメになっちゃった…」グスッ

勇者「幼馴染。泣くなよ、折角の美人が台無しだろ」

幼馴染「不思議…。そんな言葉を掛けられても、もう何も胸の奥から湧いてこないの…」

勇者「目が死んでるぞ。それじゃあ、Aに笑われる」

幼馴染「……ごめんね、勇者。何だか、貴方の顔、見てられない」ポロポロ

勇者「焦げた臭いまでしてきた。もう時間がなさそうだ」

幼馴染「最後なんだって思ったからかなぁ。どうせなら、勇者、最後くらい抱き締めてよ…」

勇者「………魔王は必ず倒す。だから、希望を持つんだ」ギュ

幼馴染「倒したって、もう取り返し、つかないじゃん…。今、私が望んでいるのは、そういうことじゃない…!」

勇者「さよならだ、幼馴染」

幼馴染「勇者、本気で魔王を倒すことだけしか考えてないの!?それよりも、役目を捨ててでも誰かを守ろうとは思えないの!?」

勇者「みんなに尽くすのには、これが一番良いんだ。それしか、出来ないからな」

幼馴染「………」

幼馴染「……その“みんな”がいなくなったら、ダメじゃん」

幼馴染「……それしか出来ない、って。結局、自分に都合の良いことを、選んでるだけじゃないの!?」

勇者「………」スタスタ

幼馴染「………ねぇ、勇者」


幼馴染「こたえてよ……ねぇ……」ポロポロ


勇者「………」


  



僧侶「あ、勇者さん!今、魔王軍が王都に入ったって…!」

勇者「(…魔王を倒すことこそが俺の役目だ)」

僧侶「勇者さん?」

勇者「(そのやり方が、一番俺にあった償いになるはずだ)」

勇者「魔王を倒す為には、ここで死んでなんかいられない」

僧侶「で、でも。ここには国王様がいるんですよ!守るべき人が……!」

勇者「俺はみんなに尽くす勇者になったんだ。勇者ってのは、誰か一人の為に身体を張るような役目じゃない」

僧侶「勇者さん、確かに魔王を倒すことは大事ですけど、今はそんなことを言っている場合じゃないですよ!」

勇者「僧侶ッ!!」ギュッ

僧侶「あっ、えっ……」カァァァ

勇者「分かってくれ。魔王を倒さないといけないんだ。それが勇者なんだ。みんなに望まれる、あるべき姿なんだ」

僧侶「じゃあ、どうするんですか、この国は……」

勇者「俺たちは出来る限りのことをしたじゃないか」

僧侶「まだ何もしていませんよ。それじゃあ、ただ国を捨てたようなものです…」

勇者「いいや、出来る限りのことをしたんだ。結果は惜しかったな、今の惨状が全てだ」

僧侶「私たちに、逃げろって言うんですか!?守るべき立場の人たちを放っておいて!」

勇者「仕方ないだろう。頑張ったんだ。頑張った結果がこれなんだ。目的を果たす前に死んでられないんだよ、俺たちは!」

僧侶「そういうことにしたいだけじゃないですか…。魔王、魔王、って、少しはみんなに目を向けてください!魔王を倒す為にみんながどうなってもいいなんて、本末転倒ですよ!」

勇者「僧侶、分かってはくれるだろう?」

僧侶「貴方のみんなへの尽くし方は、間違ってますよ……」

勇者「時間だないんだ、協力してくれ。それとも、ここで離脱するか?」

僧侶「私の居場所は、何があろうと、あのパーティーです」

勇者「ありがとう、僧侶」

僧侶「間違ってるのに……こんなの……」

勇者「戦士と魔法使いと合流するぞ」



勇者「あいつらはどこにいるかな…」

戦士「おい、僧侶、まだ勇者を連れてこれてない……のか?あれ、いるじゃないか」

魔法使い「は、早く来なさい!もうメチャクチャよ!最終戦力はもう私たちぐらいしか残っていないわ!」

勇者「二人とも、聞いてくれ。俺らの目的はなんだ?国と心中することか?違うだろ、魔王の息の根を止めることだ。だからさ、ここで足踏みしてる暇なんてないんだよ」

戦士「おい、それってここを見捨てるってのか?本気で?」

勇者「戦士、お前も故郷を魔王に落とされたんだよな。旧・月の国。今はもう魔族領になっちまってるが。……いいのか、それで。魔王に何が何でも復讐してやろうとは思わないのかよ」

戦士「う、うぅ……それは……」

魔法使い「ちょっと、勇者。あんたそれでも――」

勇者「魔法使いよ。お前は、かつて許婚を魔王軍に殺されたんだよな。ここでお前が死んだら、誰が代わりに恨みを晴らしてやるんだよ。なぁ、ここで死ぬわけにはいかないだろ?」

魔法使い「………」

勇者「なぁ、みんな。魔王は何としてでも倒さないといけない存在だ。だから、俺たちが倒す。もう、こんな悲しみを背負わなくていいように。みんなの為にもだ」

僧侶「………」

戦士「……しょうがない、か」

魔法使い「しょうがないわよね」

戦士「みんな何でもかんでも救えるわけじゃないからな」

魔法使い「こうなった時点で、もうこの国は終わったようなものだからね」

勇者「………」

勇者「行くぞ、みんな」



  「「……分かった!!」」  


 




王女「もう、この格好じゃあ動き難くて仕方ないです。いっそのこと破ってしまったら……、ほら、全然違います。これなら逃げ切れるでしょう」ビリビリ

A「際どく……もないか。少し引きずってた部分を千切っただけだしな」

王女「さて、行きましょう。まだ城を抜けたばっかりです。ここからは魔王軍の目も増えてくるでしょうから、少し慎重にいかないといけませんね」

A「見つかっても、数匹くらいなら問題ないだろう。相性の良い悪いはあるが、そこらへんの兵士に遅れは取らないぞ?」

王女「見つかって、仲間を呼ばれるのも面倒でしょう。そんなことをしていてはキリがありません。なるべく見つからずに行きたいものです」

A「感知系統の魔法でも展開しておくか…」

王女「あら素敵。神の力を借りるのですね」

A「魔法はエルフから授けられたものだったと思うが」

王女「……あら、どうやらこちらに一匹、近付いてきますね」ヒョコ

A「……オーケー、確認出来た。見えてる範囲だと一匹だけだが、実際はその近くに二匹程いるみたいだな。まだ気付かれてないようだし、このままやり過ごせないか?」

王女「どうでしょうか。もうだいぶ距離も狭まってきてますけど」

A「…………」カクレル

王女「…………」カクレル


魔族「……」


A「…………」

王女「……どうやら行ったみたいですね」

A「今なら行けそうだ。このまま突っ切ろうか」


王女「では、先頭はお願いします。貴方の魔力が切れる前に、急ぎましょうか」

A「得意の魔法ではないからなぁ……。一時間もぶっ続けにやれば、クタクタだ」

王女「なおさら急ぎましょう。……あら」

A「人がいるな。だいぶ小さい。……子どもか」


?「この声……おにいちゃん!?」


A「幼女……無事だったのか……」

幼女「うん、ずっとこの宿にいたんだけどね」ボロッ

A「酷い恰好だな…。宿も倒壊してるし…。怪我はどこかしてないか?」

幼女「大丈夫。埃まみれになったちゃったけど、傷とかはないよ」

王女「あの、A?その女の子は一体…」

A「あぁ、前にちょっと話しただろ。孤児院の…」

王女「…そんなことも、ありましたね。…まぁ、元気で良かったじゃないですか」

幼女「え、と。このおねえさんは…」

A「こう見えてもこの国の姫さまだ」

王女「どこからどう見ても、でしょう。少しドレスは破ってしまいましたが」

幼女「ボロボロですね…」


A「幼女……。俺はお前に謝らないといけないことがある」

幼女「おにいちゃんは悪くないよ…。それに、もう勇者様がみんな解決してくれた」

王女「A?立ち話もいいけど、私たちにそんな時間があるの?」ボソッ

A「……そうだったな。幼女、話は後だ。今は着いてきてくれ」

幼女「え、でも。いいの?」

王女「……」

A「もちろんだ。……勇者に任せられれば、それが一番良いんだろうが、今はこれしかない。どうか、付いてきてくれ」

王女「……そうですね、子どもをこんなところで置いていく方が目覚めが悪いですもの」

幼女「ありがとう……。おにいちゃん、おねえさん」

王女「……別に、いいですよ」

A「……見つからないように行くとなると、こっちの道だな」

幼女「すごいおにいちゃん、そんな魔法もあるんだね」

王女「………あまり、Aの集中を切らすことはしちゃダメですよ」

幼女「あ、ごめんなさい……」

A「いいって。……少し、止まった方がいいか」

王女「まだあまり進めていませんが、また来たんですか」

A「あぁ。かなりの人数を連れている。……隠れるぞ」



幼女「この建物なんてどう?」

A「いいぞ。一旦、そこで身を潜めよう」

王女「………」

A「あれが大将みたいだな……」コソッ


竜娘「……くそ。どこにも勇者がいないじゃないか」

魔王軍の兵士「もう逃げてしまったんじゃあ……」

竜娘「だとしたらとんだ腰抜けだな。ああもう、すっかり拍子抜けだ!ふざけやがって!」ドカッ

魔王軍の兵士「八つ当たりなんて止めてくださいよ」

竜娘「こっちは死ぬ覚悟で来たんだぞ、それなのにとんだ空振りだ。くそ、くそッ!!」


幼女「勇者様は、まだ敵に殺されたわけじゃないんだね」

A「あいつ……また逃げたのか……」

王女「どうやら、行ったみたいですね」

A「……勇者」

王女「 ねぇ 」ピトッ

王女「ここにいない人に思いを馳せるよりも、まずは、……自分たちの心配が先でしょう?」ボソッ

A「……そうだな。悪かった。行こう」

幼女「………」



A「………」



王女「………」





A「……そろそろ魔法を解かないと、バテてしまう」

王女「……そうですね、たいぶ街から遠ざかりましたし、一安心でしょう」

幼女「ここら辺は、あまり荒らされていないみたい」

A「魔王軍がまだ手を付けていないんだろうな。ここらへんは森しかないから」

幼女「街が離れて見える……。あ、煙……」

王女「こうして見ると、国の終焉がはっきり伝わってきますね。…悲しいです」

A「王女、お前の鳥かごは、もう無くなったのか?」

王女「……ええ、そうですね。私を縛り付けていたものは、肉親さえ巻き込んで、あそこで燃え尽きてしまいました。もう、自由でしょう。……自由、なんでしょうね」グスッ

幼女「おねいさん、これ」

王女「ありがとう。布の切れ端でも、十分過ぎます…」ゴシゴシ

A「………」

王女「……A。どうでしょうか、私は、もう何者でもなくなりましたよ」

王女「貴方と私の間にあった段差が、なくなったんですよ…」

A「王女……」ギュ

王女「もう、一国の王女ではありません。これからは、貴方の姫です」

A「あぁ、そうだな。お前の居場所はもう、そこしかないんだものな…」

姫「そうですよ。だから、A。価値も何もかも失くしてしまった私ですけど、どうか、変わらずに愛してください。いや、もっと、もっと愛をください。そうして、私を安心させて……」ギュゥゥ

A「……あぁ、俺にも、お前が必要だ」

王女「………」ウルウル



 





幼女「……でも、今日はここで寝るの?」

姫「服は替え……られないですよね。仕方ないです」

A「夜が不安だと言うなら、朝まで歩き回るのもアリだが?」

姫「もうそんな体力は残ってないです」

幼女「おにいちゃん、わたし、何か食べられるもの探してくる」

A「迷うなよ。迷子になったら死ぬぞ」

幼女「……逆に今まで生きて来れたのが不思議なくらいだもの」

A「……すまない。本当に、こればかりは、お前に言葉の掛けようがない」

幼女「いいんだよ。それに、おにいちゃんは悪くないんだよ」トトトッ

A「………」

姫「あの子、あまり食べていないようですね。あまりにも細すぎます」

A「どこへ行っても、安心出来ないのか。ならばいっそ、死んでしまった方が楽になれるのかも知れない」

姫「死ぬか生きるかはあの子が決めることですもの。そんな辛い選択を、優しい貴方がさせるわけもないですよね」

A「…分からないさ。死んだ方がマシな苦しみを、耐え抜いてしまった方が地獄かも知れない」

姫「それでも、あの子は何だか幸せそうですよ、貴方の隣だと」

A「……そうか。俺は、あの子を、笑顔に出来るのか」

姫「私も忘れないでくださいね」ズイッ

A「わ、分かってる……。……。俺も、何か食べられる物を探してくるよ」ガサッ

姫「……」

姫「………」



姫「……Aには私が必要なんだけどなぁ」ボソッ

姫「……なんだろう、気付いてないのかな、A」


姫「……それにしても、いつ着替えられるのでしょう、これ」ボロボロ




 

一応、前編は終わりです。

あと、前編・後編で書こうと思っていましたけど、
話が少し長くなりそうなので、前編・中編・後編に分けます。




ガサガサ


姫「もう三日も歩きっぱなしですね…」

幼女「風邪を引いたかも…。水浴びした後で、よく拭かなかったからかな」ヘクチュ

A「……、」

姫「突然に足を止めて、どうしたんですか?蜘蛛の巣にでも掛かりましたか」

A「……いや。何でもない」

幼女「あ、あそこ。家が、家がありますよ!」

姫「国境を越えられたのでしょうか…」

A「……やたら民族的な家屋だな。いつの間にかタイムスリップでもしたのか?」

姫「だとしたら私たちが生まれる以前でしょうね。煉瓦造りは始まってなさそうです」

A「今の時代、どこの国にも属さない民族が居るとも考え難いな。ますます怪しい。とりあえずは、様子を見て第一村人でも探そうか…」

幼女「あれ、人じゃないですか?」

姫「……距離がだいぶあるからでしょうか、男性か女性かまでは分からないですね。服装はいかにも村人という感じですし、雰囲気も穏やかそうですので、ひと声掛けてみてはどうでしょう」

A「それもいいんだがな。俺にはあれがどうにも人間には見えないんだ。あの特徴的な耳の形は、まるで童話の種族に出てくるアレそっくりじゃないか」

幼女「……耳?ちょっと長いかも知れないけど、んんん?」

姫「なるほど。……どうやら私たちは、すっかり来る方向を間違えてしまったようですね」

A「とは言え、今更引き返すのもな。とりあえず、行動を起こしてみないことには始まらないか」


幼女「お姫さま。あの人、ヒトじゃないんですか?」

姫「ええ、そうです。あれは私たちよりも遥かに長い寿命を持つ、希少な種族、エルフです」

幼女「なんか不味そうな名前……」

A「アホなこと言ってないで、行くぞ。情報がないから危険かも知れないが、このまま引き返す余力もないんだから」

姫「……反対、とも言い辛いですね。危うい賭けです」

A「どちらに転ぶかは分からないが、とりあえずこの場を凌ぐぐらいなら出来るさ」ガサッ

幼女「ちょっと、おにいちゃん!?」



エルフ「………ッ!人間……!?」



A「顔を見ただけで判断出来るのか?あぁ、美形かどうかで分かるのか。失礼な奴らだ」

エルフ「顔じゃない、魔力で分かるんだ……!人間がこんなところまで、一体、何をしに来たんだ!?」

A「いや、故郷が焼かれてしまってな。三日と歩き続けてそろそろ限界なんだ。どうか、少しの間、泊めてはくれないだろうか」

エルフ「故郷が焼かれた?……はっ、そんなのは人間たちの自業自得だろう。勝手に傷つけ合っていればいいんだ。帰れ、お前たちを泊める場所なんてない!」

A「酷い言われようだ。一応、喧嘩した相手は魔王軍だったんだがな。人間同士の戦争じゃない」

エルフ「魔王軍……。いや、それでも、同じだ。散々な目に遭えば、都合良く被害者面なんて虫が良過ぎる」

A「俺はともかく、悪いが他の二人はある程度は被害者だ。否応なしに巻き込まれて、全てを失わされたんだ。少しは嘆いてもいいだろう?哀れに思ったのなら、ベッドを少し貸してくれないか」

エルフ「……僕は、人間が嫌いなんだ」

A「どうしてだ?過去に酷い目に遭わされたのか?」

エルフ「会うのは初めてさ……。ただ、人間が如何に下劣で卑怯な種族なのかは、散々に聞かされてきた」

A「余計な先入観を持つなよ。事実として、俺らはお前に何も手出しをしてないじゃないか。それでも、自分だけが絶対だなんて驕っているのか、エルフという種族は」

エルフ「ぐっ、馬鹿にしたな…。そうやって、やっぱり下劣な種族だ!」
 



A「馬鹿にしてるのはアンタたちだろう。今まで言ってきた罵倒の数でも数えてみろよ、むしろよくそこまで言われて耐えているな俺は」

エルフ「……ッ、話すだけ無駄だ!とっとと帰れ!」

A「……エルフってのは、みんなお前みたいなのか?よく仲間割れで滅びないもんだな」


エルフ?「こらこら、少女よ。迷い込んだ者をやたら無闇に追い返しえはいけない」

エルフの少女「あ、長老……。でも、こいつらは人間で……」

エルフの長老「それでもだよ。内心で注意をしていれば、そこまでムキになる必要もないんだ」


A「やっと話が通じる方が出てきてくれたか」

長老「話は少し聞かせてもらったよ。故郷が魔王軍に焼かれたんだって?」

A「あぁ、それで少し……と言っても、数日でいいんだが、どうかここで休ませてくれないか」

長老「そいつはいいんだがね。それよりもあんた、魔法は使えるかい?」

A「……なんだ、危険度テストか?まぁ、基本なら一通り覚えてるさ」

長老「じゃあ、何かと取引はしてるのかな」

A「あぁ、悪魔だの天使だのと契約をして、能力を強化してるのかってか。……まぁ、してるっちゃあ、してるな」

長老「何とだ」

A「そこらへんは答え難いな…。勘弁してくれ」


長老「………まぁ、よろしいでしょう」

A「テストは終わったか。俺たちはここに居てもいいのかな?」

長老「おや、アンタお一人じゃなかったのかい」

A「連れがいるんだ、二人ほど」

長老「なるほど。よし、いいだろう。……あぁ、少女。ほれ、そんなところに隠れていないで、こっちへおいで。この者たちを、案内してやってくれ」

少女「……うぅ、どこにですか」

長老「わたしの家の隣に、空き家があるだろう。埃が溜まっているかも知れない。ついでに、掃除も手伝ってあげなさい」

少女「どうして僕がこんな目に…」

A「まぁ、人生ってなんてそんなもんだろ。…待てよ、エルフの場合でも人生って言うのか?エルフ生って言うのも語感が悪いしな」

少女「そんなこと僕が知るか!他の二人も連れて、早く来てよ。もう、とっとと案内しちゃうから」

A「…分かったよ」





A「ということで、話は済んだ」

幼女「あの長老って言う人、そんなに歳を取ってるように見えなかったね」

姫「エルフは見た目では分からないということですね。あぁ、それは人間も同じでしたか」

A「人間の場合は性格がってことだろ。あの少女でも、童話の通りなら数百歳はいっているだろうな」

幼女「え……。ひゃく……?」

姫「さて、行きましょうか。先ほどから怖い顔であの子が睨んでいるようですから」ガサガサ

A「人間でもいるよな、ああいう表情に出るタイプ」

姫「ええ、よくいますね。そうやって分類に分けて知った気でいるタイプ」

A「………行きましょうか、お姫様」

幼女「ええと、百歳ってことは、わたしよりも、いち、にち、さん……」

A「数倍は年上だぞ。ほら、指折り数えてないで、行くぞ」

幼女「あ、待って!」ガサッ



少女「……遅い!これだから人間は!!」



 


ガチャ

少女「長老からはここを使っていいと聞いているわ。ただ、ここ最近は誰も住んでいなかったから、少し埃っぽいけどね。何も無いけれど、別に寝泊りするだけならここで十分でしょ」

A「お前らの言う最近は数十年単位の話だろう。それに、少し埃っぽいだって?これのどこが少しだよ、ちょっと床に触っただけで、ほら、もう汚れちまったじゃないか」

少女「うるさいな…。そんなに不満があるなら出て行ってくれ。それしかないんだったら、掃除でもなんでもして、自分たちで住みやすく改善したらどうだ」

A「手伝ってくれないのか、掃除」

少女「長老にはそう言われたけれど、僕はやらない。君たちと一緒に掃除なんてしたら、精神まで汚れてしまいそうだよ」

姫「遠慮なく言ってくれますね。まぁ、ここを使わせてもらうだけ、ありがたいですけど」

少女「そうそう。……貴方は綺麗な人だね。こっちの野蛮な男とは大違いだ」

姫「野蛮だなんて、そんな」

幼女「お掃除だー!」ゴシゴシ

A「おい、どっから持ってきたその布きれ」

幼女「あっちから」

少女「それ、私の服じゃないですか!雑巾じゃないですよ!どこから取ってきたんです!」

幼女「だから、あっちからです!竿で干されていたので……それに本当にただの布だと思って……!」

A「まぁ、人間とは文化が違うからな。着る物も多少変わってくるだろ」

姫「この際です。その服もいっそのこと、雑巾として扱いましょうか」

少女「認めません!もう知らないです!勝手にやっていてください!後で掃除用具は玄関先に置いておきますから!!」


A「あぁ、助かる。見ず知らずの俺たちに、ここまでしてくれてありがとうな」

少女「……えぇ、えぇ、そうですよ。もっと感謝するべきです!」バタンッ

姫「閉められちゃいましたけど、埃っぽいので、やっぱり扉は開けたままにしておきましょう」

幼女「うへぇ……ゲホゲホ……咳が出るよ……」

A「開けとくぞー」ガチャ

姫「ああ、だいぶ楽になりましたね。窓も開けておきますか」ガチャガチャ

幼女「埃が舞ってる」

A「早くこないか掃除用具」

姫「あ、来たみたいですよ」

少女「……これで全部です。十分でしょう?後はどうぞ」

A「家に帰るのか?」

少女「まぁ、井戸に水を汲みにいかないといけないので」

A「風呂とかってどうするんだ?」

少女「少し歩いた先に温泉があります。使いたければそこを使ってください」タッタッタ

姫「あぁ、やっと待ち望んだお風呂が……」

幼女「箒だとすぐ埃も集まるね」サッサ

A「話もここまでにして、とりあえず寝られる環境だけ作ってしまおうか」

姫「初めてのお掃除です。A、教えてくれませんか?」

A「そこに雑巾があるだろう?……違う、それは箒だ。そう、それだ。それを水につけてよく絞って、箒で掃いたところを丁寧に拭くだけでいい」

姫「いえ、口頭では分かりません。こう、手取り足取り……」

A「掃除にそんな説明は要らないだろ。あぁ、そこのバケツ……それに水を汲んできてくれ」サッサ


幼女「そんなに広くもないから、すぐ済みそうだね」

A「あぁ、これならあっという間だ」

姫「んしょ……んしょ……」チャポチャポ

姫「バケツ、持ってきましたよ」ガタッ

A「ごくろうさん。俺らも掃くのが終わったら、雑巾やり始めるから、先に拭いててくれ」

姫「分かりました」ゴシゴシ

幼女「えへへ、なんだか楽しいね」

A「そうか?」

幼女「うん。王国の時には……こんな楽しい時間はなかったから……」

A「……どちらがいいとは、言い切れないさ」

幼女「うん。分かってるけど……」

A「すまない。そう思わせてしまうのは、俺が悪いからだ」

幼女「違うよ。何度も言うけど、おにいちゃんは悪くないよ」

姫「あの、手が止まってますよ?」

A「……あぁ、すまない。もうだいぶこっちは済んだ」

幼女「うぅ……雑巾を絞る水が冷たい……」チャプ

A「さっさと終わらせてしまおうか」ゴシゴシ



姫「……掃除というものは、いいですね」

A「お前まで、一体どうしたんだ?」

姫「いえ、別に。ただ、みんなで何かをするというのは、楽しいです」ゴシゴシ

A「……慣れてくれば、ただ怠いだけださ」

姫「そうですか?慣れとは恐ろしいものですね」

A「あぁ。掃除にしろ、何にしろ、慣れてくれば、歯止めもいい加減になるからな」ゴシゴシ

姫「あら、今度はちゃんと手が動いてますね」

A「当たり前だ」

幼女「大体終わったよ」チャプ

A「俺がバケツの水を捨ててこよう」

王女「では、私は掃除用具を返してきます。幼女、一緒に来てくれますか?」

幼女「はい!」

A「さて」

A「………」ザー

少女「……あれ、もう終わったの?」テクテク

A「……あぁ、終わったさ。布団は貸してくれるのか?」

少女「さすがに床に直接寝ろとは言わない……。長老に言えばきっと貸してくれる。すぐ隣が家だから」

A「はいはい。あのやたらとデカそうな家だろ」

少女「そうよ」

A「何から何まで悪いな」

少女「そう思うなら出て行ってちょうだい」

A「身体を休ませてほしいんだ。少しの間だけ、許してくれよ」

少女「……長老からの許可は出ているけど、他のみんなも納得しているだなんて、思わない方がいい」

少女「人間に敵意を持っているのは、僕だけじゃないんだ」

A「……こっちから何かをする気もないし、すぐに出ていくさ」

少女「何もないことを祈っている」タッタッタ

A「……」


王女になってた……。姫です、すいません。


A「おう、お前ら。掃除用具は返してこれたか?」

姫「ちゃんと返してこれましたよ。私をなめているのですか?」

幼女「ほら、これ貰ったんだ」

A「美味しそうな実だな。貰うのは嬉しいが、人が食っても大丈夫なのか?」

幼女「ちょっとかじったら、とても酸っぱかった」

A「あぁ、もう食ってたか……」

姫「日が暮れてきましたね。空が赤いです」

A「もうじき夜になるな。温泉にでも入ってきたらどうだ?あの少女が言っていただろ、いつでも使っていいって」

姫「そうですね。では、行きましょうか」ガシッ

A「どうして俺の腕を掴んだ?」

姫「どうせならみんなで一緒に入りましょうよ。それに、寂しいではないですか。どうせゆったりとした安心に浸れるなら、貴方もそこにいて欲しい」

A「そんな傷の舐め合いみたなこと……。いくら故郷を失った者同士とは言え、何もかも依存出来る相手が出来たというわけじゃないんだぞ」

姫「傷の舐め合い……依存ね……。貴方と私の関係が、そんな言葉で飾られる浅ましいものなわけ、ないと思うのです。そんなものを求めているわけじゃない。もっと、お互いが必要でなくてはならないような、ねぇ」

幼女「あ、あの……」


A「……幼女。お前まで一緒に入った方がいいなんて言うのか?」

幼女「わたしは、それでもいいと思い、ます」

A「……そうか」

姫「行きましょうよ。それに、ここはエルフの里。何が起こるか分からないならば、常に行動は共にするべきですよね」

A「あぁ、分かったよ。じゃあ一緒に入ろう。……水浴びする時だって、お互いに見たことはなかったってのに」

姫「風情も何もないのは嫌ですから。さぁ、早く行きましょうよ。拭く物や着替えを貸して貰わないといけませんからね」

A「あまり頼み込むのも嫌なんだがな。まぁ、仕方ないか」

幼女「さっき仲良くなった子の家族の人が、貸してくれるって言ってたよ」

A「……あれ、エルフって人間に敵意を持ってるじゃなかったのか?」

幼女「こっちの家だよ」スタスタ

A「もう少し邪険に扱われたりとか、想像してたのに」

幼女「そんなことしないよ、優しいひとたちだもの」

エルフ「」ヒョコ

A「あ、どうも」

幼女「ごめんくださーい。これから温泉に行きたいんですけど、少し貸して貰いたいものがあるんです」

エルフ「」コク

幼女「あ、分かりました。じゃあ、少しここで待ってます」

A「親しみ過ぎじゃないか?いや、意外と才能なのかもな」



姫「持ってきてくれたみたいですよ、色々」

幼女「わーい!ありがとう!」

エルフ「」ニコッ

A「どうも」

幼女「じゃあ、いよいよ温泉だね!」

A「方向はこっちか。道が入り組んでて分かりづらな、これはもっと詳しく聞いとけばよかった」テクテク

姫「少し森の中を歩かないと行けないんですね。でも、何だか遠足みたいです」

A「遠足なんてしたことあるのか?」

姫「知識だけですよ。このようなものでしょう?」

A「まぁ、雰囲気はこんなもんかもな。俺が前やった時は、一緒に歩く知り合いもいなかったから、ついていくだけで楽しめはしなかった」

姫「その分、余計に今が楽しくなるでしょう。これが貴方の望んだものに近いのではないですか」

A「……あぁ」

幼女「あれ、これなのかな」

A「ちゃんと着けたみたいだな。他に入ってる奴もいないし、入るなら入ってしまおう」

姫「あぁ、ずっと冷たい川の水でしたからね。見ているだけで、身体の芯が温まってきそうです」

幼女「よし、入ろう!」バッ

A「もう脱ぎやがった。盛り上がるのはいいが、あんまり騒ぐなよ」


幼女「分かってる。それよりも見て、空が綺麗だよ」

姫「いつの間にかすっかり夜ですね。なんて幻想的な夜空でしょう」

A「……まぁ、綺麗だな」

幼女「ちっちゃい粒も、おっきい粒も、どれもみんな色がバラバラですごいや!!こんなに空が綺麗だなんて思ったの、初めてかも。いっぱい見られる機会はあったはずなのに、どうして気付かなかったのかな」チャプ

A「……温泉、気持ちいいか?」

幼女「うん」

姫「私たちも入りましょうか」ヌギヌギ

A「手、少し震えてるじゃないか」

姫「なんだか緊張してしまって。ぬ、脱がせてくれてもいいんですよ」

A「すまない。俺も、そんな余裕ないんだ」ヌギ

姫「そっぽを見過ぎですよ。別に見るなと言っているわけではないのですから」

A「……前を隠すのに手頃なサイズのタオルがあって助かった」チャプン

姫「先に入るなんて卑怯です!」バッ

A「……ッ、せめてタオルくらいは巻けよ!!」

幼女「どうしてわたしにその反応がなかったの!?」

姫「……これでいいですか」チャプン

A「……おーけー」

姫「…………」

幼女「…………あ、流れ星」

A「……」

姫「……」


幼女「…………」モゾモゾ

A「…………」

姫「……」

A「……こんなことをしていて、いいのだろうか」

幼女「いけないことじゃないよ」

A「……不安に思う。自分がそれだけの価値がある人間なのだろうかと、思わずにはいられないんだ。……何も解決しちゃいない。それなのに、この瞬間に立ち会える資格が自分にあるのかと」

姫「いずれは向き合わなくてはならないことですもの。そう思うのも仕方がないのかも知れませんが、あまり自分を必要以上に悪く言わないでください」

A「こうでもしないと、付け上がりそうなんだ。お前たちから必要にされることで、俺はどこかしら嬉しかったし、それだけの人間なんだって、勘違いをしそうになる」

姫「それだけの人間なんですよ、貴方は。それに今更、弱音を吐いたところで、どうのこうのなることではないではないでしょう」

A「……ここ数日間、二人には辛い思いをさせた」

姫「確かに楽ではなかったですけど、仕方のないことですし、貴方がいるから、地獄ほどでもなかったですよ」

幼女「これは自分で決めたことだもの。おにいちゃんが謝ることじゃないよ」

姫「……貴方には、この数日、頼りっぱなしでしたね。そのせいで、そこまで追い詰めさせてしまった」ギュ

A「……だめだ。これでは、ただの傷の舐め合いでしかない」

姫「ええ、そうですね。私が求めるのは、もっと深くて得難いもの」

A「……少しの間だけでいい。寄り掛からせてくれ」スッ

姫「寝てしまっても構わないんですよ」

A「…………」

幼女「…………また、流れ星だ」

姫「ちゃんと願い事は唱えましたか?」

幼女「難しいです……」

姫「だからこそ、やる価値があるんでしょう。私と一緒に挑戦してみませんか」

幼女「分かりました!どっちがちゃんと唱えられるか、勝負ですね!」

幼女「…………きた、流れ星だ!!えっ、はや――」





………。

……。


姫「いいお湯でしたね」

A「そうだな」

幼女「zzz」

姫「ふふふ、背中でぐっすり寝てますね」

A「軽すぎるだろ、こいつ」

姫「涎まで垂らして、まぁ」

A「嘘だろ……。せっかくの借り物なのに」

姫「どうですか、私、似合ってますか?」ヒラ

A「あぁ。風の妖精みたいだな」

姫「本当にそうであれば、少しは心地の良い風を吹かすことも出来たのですが」

A「それは贅沢過ぎる。今でも、もう十分に満足さ」

姫「…………」ニコ



A「……ん」

A「姫さん、少しだけこいつを預かっていてくれないか」

姫「どうしたんですか?」

A「嫌な予感がした」

姫「…………?」

A「とにかく、幼女を」

姫「私におんぶできますかね」

A「軽いからいけるだろう。ほら」ヒョイ

姫「……わっ。だ、だいじょうぶですか?」

A「あぁ、涎を垂らしてスヤスヤ寝てるな」

姫「うぅ……。借り物の服が……」

A「さて、行きますか」


姫「もうすぐエルフの里ですけど、一体何が……?」

A「見えてきたな」

姫「あれは…………」





エルフa「ちっ、留守にしてやがる」

エルフb「いや、帰ってきたようだぜ」

エルフc「気に食わねぇ、俺たちと同じ格好してやがる」





A「どうせ出てくるなら、風呂に入る前にして欲しかった」

姫「武装はしてないみたいですね、話し合いでもしにきたのでしょうか」

A「いや、どうだろうな。ただ、力付くでも追い返す気まんまんのようだ」

姫「今は困ります。服だって借り物ですし」

A「着ていた服も洗濯しなきゃなぁ……」


エルフa「何を喋ってやがる、人間ども」

エルフb「お前らはこの地に足を踏み入れられるような存在じゃないんだよ」

エルフc「今すぐ出ていけ」

A「長老さんからは許可は得ている」


エルフa「そんなもん俺らが許すかよ!」

エルフb「汚らわしい存在め!」


姫「酷い言われようです」

A「言い返すだけ無駄なのだから、言わせておけばいい」

姫「でも、このまま引き下がってくれそうにないですね」

A「それは困るな。早くあの空き家に戻らないと、身体が冷えてしまうかも知れない」

姫「……そう言えば、急に寒くなってきましたね」クシュン

A「風邪を引いたら大変だ。どうにかしないとな……」


エルフa「聞いているのか、人間ども……!」

エルフb「さっきから何を話している……!!」

エルフc「さっさと出ていけ!!!」





A「………………結局、力押しか」

エルフa「何……!?」

A「お前たちも俺たちも、お互いに譲れない。そして妥協することもない。だとしたら、片方を力でねじ伏せるのが一番手っ取り早いと思わないか?」

エルフa「ふ、はは。なんだ、そんなことか。だったら、最初からこっちはそのつもりだったぞ!」

エルフb「エルフに喧嘩を売ろうなんて、馬鹿な奴もいたもんだ!」

A「最初っからそのつもりだったんなら、考えておくべきだったな」

エルフa「………?」ゾクッ

A「どうして長老が俺たちに許可を出したのか。どうして、女子どもを連れているにも関わらず、この森の中で生きて来れたのか。気付けるポイントは、たくさんあったと思うぞ?」

A「……神に喧嘩を売るなんて、馬鹿な奴らもいたもんだな」ォォォォオ

エルフa「……なんだか禍々しいな」

エルフb「……肌が痛い。こんなの初めてだ」

エルフc「……これって、神性の魔力ってやつか!?」ガタガタ

エルフa「そんな馬鹿な、あれは神と契約した者のみが扱えるものだぞ!?」

エルフb「じゃあ、こいつは神と契約をした……!!?」



姫「あぁ、素敵……」



A「……今なら見逃す。とっとと帰れ」

エルフa「ひぃぃ、助けてくれ!!」ダッ

エルフb「おい、待てよ!」ダッ

エルフc「い、いやだぁあああ!!!」ダッ



姫「……あっけない連中ですね」

A「……姫さん?」

姫「いいえ、なんでもありませんよ?ふふ、かっこよかったです」

A「本当に、あんたはこれが好きだな……」

姫「素敵ではないですか。神のみが扱える領域なんて」ウットリ

A「あんまり魅せられないようにな。……あいてて」

姫「頭痛ですか?」

A「あぁ、いつものやつだ……。悪い、もうすぐ家はそこだし、そのままおぶっててくれ」ズキズキ

姫「いいですけど、随分と顔色が優れませんね」

A「今日のは一段と酷い……。早く布団も貰って、寝てしまおう」フラッ

姫「手を握っていてください。少しは楽になれるかも知れませんよ」ギュ

A「……すまない」





長老「……やはり、神と契りし者だったか」

長老「これは、報告せねばなるまい」





 




幼女「ふぁ……あ……。よく眠れたー」

姫「朝から元気がいいですね」

幼女「あ、どうも。おにいちゃんは……まだ眠っているんですね」

A「……」

姫「昨日は遅くまでうなされてましたから」

幼女「何かあったのですか?」

姫「エルフ数人に絡まれただけですよ」

幼女「あの、怪我とかは……」

姫「何も。戦ったわけではないです」

幼女「そうだったんですか……」

姫「顔でも洗ってきたらいかがですか?」

幼女「そうします……」ガチャ

姫「…………」



A「…………ん」

姫「目が覚めたようですね」

A「頭が重い。睡眠が取れた気がしない」

姫「ずっとうなされてましたからね」

A「顔を洗ってくる……」フラフラ

姫「ふらついているようですけど、大丈夫ですか?」

A「あまりいい気分ではないな……」

姫「以前はそこまででもなかったですよね」

A「自分ではよく分からないな」ガチャ

姫「…………」

姫「……嘘つきですね」

姫「…………」


幼女「洗ってきましたー」ガチャ

姫「早かったですね」

幼女「お外に出たら、朝ごはんの良い匂いがしてきて、早くご飯食べたくなって急いで済ませてきました」

姫「長老さんの家で作っていただいた物がありますよ」

幼女「あ、美味しそう!!この野菜、何て言うんですかね?」

姫「さぁ……そこまでは。野菜どころか、お肉の名前も分かりませんよ」

幼女「食べてみてもいいですか?」

姫「Aを待ちましょう。三人で食べた方がきっと美味しいです」

幼女「確かにそうですね。一人で食べるご飯よりも、みんなで食べるご飯の味の方が、よく覚えています」


A「……おう、ご飯が出来てたのか」

姫「長老さんから貰いました。食べ終わったら返しにきてくれと」

A「随分と優遇されているな」

幼女「ねぇ、おにいちゃん。早く食べようよ」

A「ん?あぁ、そうだな。いただきます」

姫・幼女「いただきます」

幼女「うん、とっても美味しいよ!」

A「まともな料理も久しぶりだな」


コンコン



幼女「誰だろう…?」

A「……」

姫「A、どうしたんですか?」

A「少し気分が悪くなってきた」

幼女「んー、開けた方がいいのかな」

姫「素知らぬふりをするのも心苦しいですから、開けた方がいいでしょう」

A「……少しは用心した方が」

幼女「開けるよー」ガチャ



?「どうも、お邪魔するわね」



A「…………!?」

幼女「え、人?」

姫「こんなところに人なんて……」



幼女「(でも、なんだか怖い感じが……)」

姫「あの、あなたは……」

?「私……?あぁ、名前くらいはみんな知ってるんじゃないかしら」

姫「みんなが知っている……?」

A「……魔王」ボソッ

幼女「えっ……おにいちゃん!?」

A「こいつは、魔王だ」

魔王「ちゃんと覚えいてくれたのね。貴方のことだから、てっきり忘れられてるかと思ったわ」

A「……一体何の用だ」

魔王「分かっているくせに」

姫「……ッ」バシッ

魔王「……危ないじゃない。私を叩こうとしたの?」ガシッ

姫「…………」

魔王「国を滅ぼしたことを恨んでいるの?でも、仕方のないことよ。それに私を恨んでも、貴方ではどうしようもないわ」

姫「……そんなことは、分かっています」

魔王「では、どうして私を叩こうとしたのかしら?気分次第じゃ殺されていたかも知れないのよ?」


幼女「……姫様」

姫「……Aが怖がっていました」

魔王「……だから何だと言うの?」

姫「……そうしたら、身体が勝手に動いてました」

魔王「あら、そうなの。……貴方、Aと言うの?ねぇ、A。貴方、だいぶ愛されているみたいね」

姫「…………」

A「……今すぐ出ていってくれ」

魔王「だいぶ身体の調子が悪そうね。ただ力を見せただけだと言うのに……」

A「……やっぱり、昨日のことだな。どこから聞いたんだ」

魔王「ええ、貴方が見せた、神の力のことよ。エルフの長からね」

A「……繋がりがあったのか。すべて罠だったのか?」

魔王「いいえ。貴方が釣れたのは本当に偶然よ。貴方がただの人間であれば、そもそも報告すらされなかったでしょう」

A「……それで?」

魔王「私は改めて勧誘をしに来たの。魔王軍に入らない?お仲間さんも歓迎するわよ」



幼女「……おにいちゃん」

A「……」

姫「……考えるまでもないでしょう。この女は、Aを都合良く使いたいだけなのですよ!?」

魔王「……それは貴方も同じでしょう、お姫様」

姫「そんなことはないです!」

魔王「ふふふ、私よりも性質の悪い……」

姫「貴方が何を知っていると言うの?勝手な口を利かないでください!」

A「……姫」

姫「魔王軍に入ったところで、何になるというのですか!?」

A「俺には、分からない」

A「すっかり頭が鈍ってしまったらしい。まったくどうしようもない人間だな、俺は」

姫「……A!?」

A「お前たちを守りたい。そのために魔王に従うのは、いけないことなのか?」

魔王「今回は乗ってくれるのね」


A「状況が変わった。もう俺には余裕がない」

姫「A、魔王が信用出来るのですか?全て預けてしまって、いいのですか!?」

A「……姫。魔王に全てを預けるわけじゃない。あくまでこちらの身の安全を確保したいだけだ」

姫「貴方がいいと言うのなら、多少納得はいかなくても、私は従います……。だけど、A、この女は……」

魔王「いいのかしら、お姫様。Aは私がもらっちゃても」

姫「……勝手に勘違いしていればいいんじゃないですか?Aの気持ちがどこにあるのか、貴方に分かるわけがない」

魔王「貴方こそまるで勘違いしてるみたいじゃない?どうしてそこまで、自分だけが分かっていると言い切れるのかしら」

姫「分かり合えているからですよ」

魔王「あら……人間は面白いのね」

姫「貴方は人間ではないのですね」

魔王「ええ、私は人型の魔族だもの」


A「……待てよ、まだはっきりと答えを出したわけでは」

魔王「でも、来るしかないのでしょう?行く宛てはない。ここにはいつまでもいられない。だとすれば、この話に乗るしかない。貴方が身体を少し張ってくれれば、それだけで二人の安全が確保出来るとすれば、もう答えは決まったようなものね

A「…………だとしても、簡単に魔王軍に入るなんて」

幼女「……おにいちゃん。誰も、おにいちゃんを責めたりしないよ」

A「……」

幼女「おにいちゃん。おにいちゃんはちょっと疲れちゃってるんだよ。だから、色んなこと考えちゃうんだ最近、顔色もよくないもの。だからさ、身を落ち着ける場所を見つけて、少し楽になろうよ」

A「……そうか、お前は、遠くへ行きたいって言ってたものな」

幼女「うん。例え、そこが魔王さんのお城でも、私は構わないよ」

魔王「あなた、いい子ね」ナデナデ

幼女「あっ……ありがとう……ございます……」

A「これまでの全てを、滅茶苦茶にする覚悟は出来た……。姫、俺は魔王軍に入ろうと思う……」

姫「……」ギュ

A「魔王……。お前の話を、受けようと思う」

魔王「そう、分かったわ。私としても嬉しいわ、歓迎する。ようこそ、神と契約を交わした者と、そのお仲間さん」ニコ



 

魔王城



姫「一人一部屋とは、随分と優遇されていますね」

魔王「多少違和感はあっても、それは文化の違いのようなものだから、気にしないでいてね」

姫「いえ、見たところは大丈夫でした。むしろ、何故これほど上質な部屋を貸してもらえるのでしょう」

魔王「それは彼に対する期待の表れよ」

姫「私やあの子にまで別々な部屋を与えるのも、Aに対する期待からですか」

魔王「ええ、そうよ。なるべくなら、彼には安心して出向いてもらいたいからね」

姫「……なるほど」

姫「(一人にさせた方が私たちを御しやすいということかしら)」

魔王「Aも幼女ちゃんも今は部屋で休息を取っているはずよ。貴方も、部屋に戻ったらいかが?」

姫「いえ、そこまで疲れているというわけではありませんから。もう少しこの城を見て回りたいと思います」


魔王「王国のお城と規模は似たようなものだから、迷子にならないよう気を付けてね」

姫「うっかり罠に引っ掛かって死んだりしてられませんものね」

魔王「まったくだわ。彼にとっても貴方は大事な人のようだから。……ふふ」

姫「Aをすぐにでも戦場に送り出すつもりなのですか?」

魔王「隣国との戦争が激化すれば、活躍してもらうけれど。今はまだね」

姫「また、他国を滅ぼすつもりなのですね」

魔王「それがこの国のためになるもの。それに、相応の覚悟もしているわ」

姫「恐らく、貴方を恨んでいる者は大勢いるでしょう」

魔王「それでこそ魔王というものよ。皆に好かれるお姫様とは別物ね」

姫「……ええ、そうですね。私には何の力もない。けれど貴方にはある。だから、私の国は貴方に滅ぼされてしまった」

魔王「貴方一人で力をつけたところで、何も変わりはしなかったわ。そういうのはね、もっと目に見えない大きな力が働いて成し得るものなの。事実として、最後はこちらが何もせずとも向こうから落ちて行ったわ」

姫「……運命ですか」

魔王「喜んでいいのか悲しんでいいのか分からない、って表情をしているわね。話を聞くに、貴方は国を失ったおかげで彼とくっつくことが出来たようなものだものね。……ふふっ、人間って、面白いわ」

姫「……言っていることは大体外れてはいませんよ。ただ、かつての王の娘としては、思い結ばれたと安易に喜ぶことが出来ないだけです」



魔王「せっかくその板ばさみから抜け出せつつあるのに、ここで私が彼を引きずり込んでしまっては、何もかもが台無しというもの。なるほどね。貴方からしてみれば、私は悪い敵ということか」

姫「そうでなくても、貴方は人間の敵でしょう。姿形は同じであれ、紛れもない敵ですよ」

魔王「私が敵だとしても、貴方が彼を好む理由と、私が彼に目を付ける理由は大体同じと言うわけでしょう?案外悪い人なのかしらね、貴方」

姫「貴方は彼に魅力を感じて使おうとしているだけです。私は彼に魅力を感じて傍で分かり合えたらいいと思っているだけです。そこには天と地ほどの開きがあり、決して同類の考えなどではありません」

魔王「まぁいいわ。貴方と話しても得られるものは多くなさそうだもの。ここらへんで切り上げときましょう」

姫「同感です。今までのは時間の無駄でしたね」

魔王「……中を出歩くのは自由だけれど、迷子にはならないようね」

姫「二度も言わなくて結構です」

魔王「あら、そうですか」



姫「……」

姫「……どうしてかしら」

姫「……」

姫「……どうして、こんなにも不安になるの」

姫「…………」

姫「……分からない」

姫「……分からないから、不安になるんだわ」

姫「……Aも分からないと言っていたじゃない。そうね、だから私も不安になるの」

姫「……」

姫「…………」


A「……姫さん、こんなところにいたのか」


姫「私を捜していたのですか?何か用があって?」

A「いや、そういうわけじゃないんだがな……。部屋にいないみたいだったから、どこにいったのかと思って」

姫「心配させてしまったようで、すいません」

A「……謝らなくていいさ。姫さんに非があるわけではないのだから」



姫「少し歩きませんか。この城の構造も把握しておかないといけませんから」

A「あぁ、それはいいな。覚えておいて損はないだろう」

姫「……では、行きましょう」

A「……」

姫「……」

A「……王国の城も、こんな感じだったな」

姫「お城だけではないですよ。窓から広がる光景も、あんまり変わらないんです」

A「魔王の国にも、当然ながら住んでいる奴らはいたんだよな。知らず知らずの間に、俺なんかは、国と国の戦争じゃなくて、王国と魔王の戦争みたいに勝手に勘違いしていたんだ」

姫「魔王を目の敵にしていましたからね、王国は」

A「…………」

姫「……なんだか、疲れが取れていないようですね」

A「多分、ずっとなんだ。王国を抜け出した時から、ずっと」

姫「失ったことで空いた穴は、そう簡単に埋まってはくれませんか」

A「そうかも知れない。……勇者のことだって、この前までは頭から離れたこともなかったのに、今ではふとした拍子に思い出すくらいだ」

姫「それは、優先順位が変わったのでしょうね。復讐から、生き残ることへ。ようやく自分を見つめ直すことが出来て、今は混乱しているだけですよ」

A「自分を見つめ直す?……そんなことしたって、今更、分かり切っていることしか、見えてこないだろ」

姫「……自分も愛せなければ、世界を受け入れることも出来ないと思います」



A「……原因はなんであれ、世界なんて掲げることも出来ないものだし、そう思う俺はクズでしかない。とっくに歯車は噛み合ってないんだよ。不良品なんだ。どうしようもないほどの、不良品なんだ」

A「何も満足が出来ない。そのくせ貪欲なんだ。とっくに自分で自分を見失っているみたいで、結局その代わりとして、心の快楽を求める」

姫「手を繋ぐのも、慣れてきましたか?」ギュ

A「……どうだろうな。恥ずかしいから、あまり意識をしないようにしている」

姫「もっと、欲張って求めてしまっていいと思いますけど」

A「それこそ、きっと俺はダメになる」

姫「じゃあ、私から一歩を縮めてしまいましょうか」

A「…………」

姫「……ん」チュ

A「…………」


姫「…………私は不安です」

A「……俺も、不安なんだろうな」

姫「ならば、その不安を埋めてしまおうとは思いませんか」

A「……それが怖いんだ」

姫「どうして?ずっと足りないままもがき続けるよりはマシでしょう?」

A「足りない、な。確かに、足りてない。……姫、俺も埋められるなら埋めたいさ。でも、それはきっと安心感を得たいが為の、破滅的な自己満足でしかないんだ」

姫「だからと言って何かが決定的に欠けてしまった心を持て余すよりはいいです。仮に、これがおよそ一般的な物の見方でないとして、私と貴方の世界の中で誰がそれを咎めることが出来ると言うのですか」

A「二人が良ければいいのか?愛情という名ばかりのただの願望の押し付けでいいのか……?それが、お前の言う得難いものに繋がるのかよ」

姫「そのための一歩を踏み出しているところでしょう、これは。だったら、このままでいいと安心をさせて欲しい。ほら、Aだって、不安だから先へ進むことも怖がってしまう。一歩踏み出してみれば、もう怖がることもないはずよ」

A「……あぁ、確かにそうなのかもな。何も反対をしているわけじゃないんだ。ただ、それを選択してしまっていいのかと躊躇っているだけなんだ」

姫「……A」

A「分からないけれど、分かろうとはしているよ、姫。考えたところで、俺はろくな答えが出せていないんだ。まだ姫の言うことのほうが納得出来る。……本来であれば、むしろそうするべきなのかもな」

A「……」

姫「……そろそろ部屋に戻りましょうか」

A「……俺はお前に、何を求めていたのだろうか」

姫「なら、考えておいてくださいね。私は、待っていますから」



 


A「……明日さえどうなるかも分からないというのに、随分と気の緩い会話が出来るものだな、俺も」

A「(まだ寝るには早過ぎるし、どうせこの後は夕食が出される頃だろう)」

A「(……することがないというのも、なんだか落ち着かないな)」

魔王「部屋に戻ってたみたいね」ガチャ

A「ノックもせずに入ってくるな。……あぁ、そうか。鍵を掛けていればいいのか」

魔王「でも、私はこの城の主なので、そんなことはしても無駄なのでした」

A「それで、何の用だ?夕食の用意でも出来たのか?」

魔王「それには、まだ少し早いわね。ちょっとね、ちょっとやってもらいたいことがあるの」

A「さっそく役割を果たす機会が訪れたわけか」

魔王「戦争に出ろと言っているわけではないわ。貴方はあくまでも優位な状況で出すから価値があるの。さすがに、お伽噺みたく軍隊一つを潰せだなんて、過度な期待はしていないもの。……それよりも、他にやってもらいたいこと」

A「言うよりも、そこそこ使い勝手はいいと思うんだがな。まぁ、確かに、どこぞの英雄様のような華々しい武勇伝を作れるほどの力はないけど」


魔王「私の部下と少し手合せをして欲しい。実力のある人間とちゃんと戦える機会なんて、そうそうないもの。だから、やる気と言うか何と言うか、火を付ける為にも、どうかお願いするわ」

A「お願いをされる立場じゃないだろう、むしろ命令されるような立場だ。行けと言うなら行くさ。……手合せでも何でもするが、やる気を出させるって、なんだ、そんなに目に余るほど怠けた奴がいるのか?」

魔王「別に怠けているというわけではないのだけど……。少し、見る方向を誤っているみたいでね。色々と心配だから、軌道修正をお願いしたいわけ」

A「戦闘面ならともかく、心の問題は専門外だ。俺がいい薬になるとも思えないが、それでもいいのか?」

魔王「人間と戦うことに意味があるのよ。貴方の実力なら、そうすぐ死んでしまうこともないでしょう」

A「まるで確実に殺しに来るような言い方だな。これでも今は、お前さんたちの味方のつもりなんだが」

魔王「もちろん、私もそう思っているわ。だけど、それとは別で、人間相手だと殺すしか選べない子なの。よろしくね」

A「……どうなるか知らんが、まぁ、お互いに死なないようには頑張る」

魔王「ふふ、きっと大丈夫よ。決闘は明日に行われるわ。正確な日時は追って伝えるから」

A「あぁ、分かった」

魔王「……あら、丁度いい時間ね。夕食が出来る頃だわ。私と一緒に皆で食べましょう」

A「いいのかよ、まるで客人をもてなしているみたいだ」

魔王「私はそのように扱っているわ。いきなり愛想を尽かされても困るもの。快く受け入れられるのは慣れてない?」

A「……あぁ。……二人も呼んで来よう」ガチャ

魔王「あ、ちょっと、待ってよ。もしかして地雷だった?ねぇ?」バタン


 




A「……今日は確か、魔王の部下と戦うんだったな」

A「(あれから姫と顔を合わせるのも何となく気まずい)」

A「この状況が好転することなんて、ありえるんだろうか」


魔王「A、準備できてる?」ガチャ


A「……あぁ。殺される覚悟なら出来た」

魔王「貴方は死なないわよ、今はまだね」

A「分からないぞ。あっけなく首を刎ねられるかも」

魔王「そんな軽口を叩ける人間がその通りにする死ぬほど、そう単純な世界でもないのよ」

A「単純明快な上に残酷だよ、世界は。……さて、行こう」ガチャ

魔王「城から出てすぐ……、あぁ、窓から見えるアレね、あそこで戦ってもらうわ」

A「あれは……闘技場?」

魔王「そうね、そのようなものよ。たまに見世物をやるくらい。後は貸切で、こういうイベントをちょいちょい、ね」

A「イベントと呼べるほど軽い雰囲気ではないだろう、これは、間違いなく」

魔王「どうせすぐ終わるわよ。長引くはずもないもの」

A「その為だけにわざわざこんな移動しなければならないのは、少し面倒だな」

魔王「これから階段を降りた後も、もう少し歩くわよ」



A「ところで、あんたは仕事してるのか?見たところ、かなり暇っぽいんだが」

魔王「そうね、暇よ。私はただ椅子に座って偉そうにしていればいいの。後は、決めなきゃいけない大事なことに、イエスかノーかを付けるだけ」

A「なるほど、退屈そうだ」

魔王「今は玩具があって、そうでもないけど」

A「……それは、もしや俺のことか?」

魔王「自覚があったのね、驚いた。貴方のことだから、鈍感で、人からどう思われようと気にしないもんだと思っていたわ」

A「それは大げさ過ぎるだろう。それに、いくら他人とはいえ、その存在をどうでもいいなんて割り切れるほど、俺は器用じゃない」

魔王「あ、確かに器用ではなさそう。……不慣れな状況では、すっごくテンパっちゃいそうだものね」ムギュ

A「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………おい」

魔王「うわぁ、すごい嫌そうな顔。だけど、本心では、お姫さまよりもやや大きめのおっぱい押し付けられて喜んでたりするんでしょ?」

A「なぁ、どうしてお前はそう親しくもない相手にそんな言葉を掛けられるんだ?」

魔王「それは私が魔王だからよ。いいじゃない、この場合、役得なのは貴方なのだから」グイグイ

A「頼むから、緩んだ緊張の糸を張りなおしてくれ。このままじゃ、とても集中できそうにない……」

魔王「前かがみになって?」



A「ならない。でかいからって調子に乗るな、そして俺から離れろ」

魔王「なんだ。やっぱ不慣れだと少し戸惑うのね。さっきからどこに目線をやっているのかしら」

A「窓から見える風景を見ていた。なんだか心が洗われる」

魔王「でも表情はすんごいわよ。何と言うか、喜怒哀楽の判別がつかなくなったみたい。精神的に大丈夫?」

A「そう尋ねるなら、どうか離してくれ。……姫に顔向け出来ないだろう」

魔王「貴方は姫さんが大好きなのねー」パッ

A「……」

魔王「あら、違ったかしら。もしかして、好きか嫌いか分からないまま、彼女しかいないもんだと思い込んでた?選択肢を自分で絞っちゃって前にも後ろにも進めくなってるの?」

A「……止めろよ。わざわざ、人の気持ちに横やりを入れるようなことを言うな」

魔王「どうも心の闇は深そうね……。あ、もう城の外へ出るわよ」

A「…………すんごい戦いたくなくなった」

魔王「勝てたら姫様の前でキスしてあげるから、がんばりなさい」

A「……死にたい」


A「……あぁ、くそ、誰かのおかげで、進む足が重たくて仕方ない」

魔王「我が闘技場へようこそ、とでも言うべきかしら。ああ、通路はひんやりとしていて心地が良いわね」

A「少し薄ら寒いくらいだ。報われない怨念でも留まっているんじゃないだろうか」

魔王「ふふ、魔王の国にはピッタシじゃない、そういうのって」

魔王「……到着、と。ここで戦ってもらうわ」

A「なかなかの広さだが、こうも整えられていると、観客がいないとが少し寂しいな」

魔王「ご希望であれば、今すぐにでも連れてきてあげるわよ?」

A「いや、いいさ。これ以上、気を散らされたら困るからな。このままでいい」

A「……ここにいるのは俺とお前の二人だけなんだが、相手はどうしたんだ」

魔王「逃げたわけではないから、安心しなさい。すぐにやってくるわ」


「――――……ッ!!離せ!!私は勇者を見つけ出して、殺さないといけないんだ!!!こんなところで時間を使っている余裕はないんだよ!!!!」


A「……」

魔王「あら。顔色が随分と悪くなったわね。もしかしてお腹でも痛くなったのかしら」


A「なんだ、俺は猛獣の前に吊り下げられた餌ってことか?聞くだけで分かるぞ、あれは。間違いなく戦うとなったら殺しに来るだろう、あれは」

魔王「いい勝負になりそうね。しっかりと考えを改めさせてやって頂戴」

A「……なんだか怠け者の相手をさせられると思っていたのだが」


「…………!!」ギャーギャー


A「……冗談じゃない。お相手様はとてもとてもやる気に満ち溢れていらっしゃるようだ」

魔王「……別に怠惰なわけではないと前にも言ったでしょう?やる気を向けるべき対象が間違っているのよ。だから、それを直したいの。……それに、貴方は自分が命令される対場だとも言ったわ。今更、どうのこうのを言っても始まらないじゃない」

A「……姿が見えてきたな」


兵士a「どうして俺たちがこんな雑用を……」ボロボロ

兵士b「連れてくるだけだと思ったのに、とんだ目に遭った……」ボロボロ

竜娘「……魔王様、どうしてここに!?」


魔王「この戦いを観に来たのよ」

竜娘「そんな……わざわざ……。でも、私は戦うつもりは……どうせ、話にもならないでしょうから……」

魔王「そう決めつけるのはまだ早いわよ、ねぇ?」

A「……」



竜娘「……あぁ、お前が私の相手か。人間か。勇者をどこか彷彿とさせる……殺したくなる面だ……」

A「(勇者勇者と、こいつも俺と大体同じじゃないか)」

竜娘「……魔王様。どうしてもこいつと戦わなければならないのですか?」

魔王「ええ、戦ってちょうだい。良くも悪くも、貴方の勇者に対する考えは少し変化するはずだから」

竜娘「このままでいいのですが……どうしても言うのなら、やりましょう」

A「……はぁ」

竜娘「おい人間、私は手加減が出来ないぞ?だから、生き延びたければ、せいぜい足掻くといい」


魔王「さて、私は観客席で見よーっと」シュン


A「(ワープ出来るなら始めから俺も連れてそうしてろよ……)」

竜娘「さっさと殺して……勇者を捜そう……」


A「……まぁ、やるか」

  




竜娘「……ハッ!!」ドォン

A「……いきなり近いなぁ、おい!」


   ドォオオオオオオオオ!!



竜娘「さっさとくだばれ!」ビュン

A「どこからそんな大剣を引っ張り出して来たんだよ……」

竜娘「避けるので精一杯か。種族の違いが実力の差だ!お前に私の動きが見えるか?」

A「見えてるから避けられてるんだろうが。……あまり驕るなよ、そしてなめるな、人間を」ビュン



 ――――……ッ!! ――――……ブンッ!!



竜娘「驕ってなどいない!!勇者を討つその時まで、決して思い上がるなど有り得るものか!」

A「……さっきから聞いていれば、勇者勇者と。なんだ、森で裏切られて魔物に襲われでもしたのか?」


竜娘「はぁ?何を言っている……。貴様、奴と同じ人間だったな」ドォオオン

A「それが何か?」

竜娘「勇者を知っているか?」



 ――――……ビュンッ!!



A「……知っているも何も、あいつとは幼馴染さ」

竜娘「……ッ!」

A「まぁ、俺もあんたの気持ちをまるっきり理解出来ないってわけでもないが――」


竜娘「ふ、はは」

竜娘「あははははははははははははははははは!!」ブンッ……!!


A「――……ッ!?」ドゴッ

竜娘「そうか、魔王様はそれでお前なんかを私と戦わせたんだな!!そうか、そうか!!お前を殺せば、勇者はやってくるわけだ!!ああ、なんて都合がいい!!さっさと殺さないとなぁあ!!!!」

A「……いててて、一発くらっちまった」

A「……防御出来たからよかったものの、これでモロ直撃だったら、いまごろ真っ二つかよ」ゾクッ



 ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!



竜娘「さぁ、早くやってこい勇者ァああああああああああ!!!」

A「……どんな勘違いしてるか知らないが、勇者はこねぇよ」


A「(…………種族の違いが実力の差ってのも、案外その通りなのかもな)」

竜娘「ほらほらほらほらほらァ!!早くやってこないと、お前の幼馴染とやらは死んでしまうぞ!!?」



 ………………ブンッ!!!!…………ブンッ!!!!



A「……次の一発、防げたとしても、その次はなさそうだな」

竜娘「勇者ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

A「うるせぇ……」ヒュン

竜娘「突っ込んでくるなんて、斬り殺してくださいと言っているようなもんじゃないか!!」ブォン!!


A「斬り殺されない自信があるから突っ込んでんだよ、馬鹿が」ドッ


竜娘「……ッ。ふ、ふふ、……一発くらったとしても、私とお前では話にならない。所詮は人間レベルだ、大して効きもしないわ!!!」

A「(……腹にグーパンしても少しも崩れないとか、くそったれだ)」

竜娘「さっさと死んで勇者を連れてこい!!」ブンッ!!

A「(俺があいつの場所を知るわけねぇだろ)」ヒュン

竜娘「あはははははは!!逃げるしかないみたいだな!!!そのまま逃げ疲れて死んでしまえ!!!!」

A「……確かにこのままじゃあジリ貧だな」
 


A「(攻撃は通らない、一発二発も喰らえない、このままじゃあゲームオーバーか)」

竜娘「勇者はどこに隠れているんだろうなぁ……。王国侵略の際はまんまと逃げられてしまったし。まぁ、お前を殺せばいいんだよな」ドォン!!

A「だから、勇者がどこいるかなんて知らねぇよ、俺は」

竜娘「嘘をつけ……!!私は勇者を早く殺さなければならないのに!!ああ、じれったい!!」

A「くそ、魔王の奴、こんなに面倒な戦いになるなんて言ってなかったじゃねぇか」



魔王「…………」



竜娘「ハァアアアアアアア!!!!」ドッ!!

A「……ッ!?」

竜娘「ふん、動きが鈍ってきたな。そろそろ体力の限界なのか?」

A「(こうなったら、神の力を借りるしかないか)」


竜娘「さぁ、勇者の居場所を教えろ!!」

A「だから……知らないっての……。そこまで執着する理由は何だよ……」

竜娘「なに、ただの復讐さ。私はアイツに死で償ってもらわないといけないんだ」

A「へぇ、そうなのか……。じゃあ、早く見つけないとな」

竜娘「その為にも、お前をさっさと殺してやる」

A「誰かお前に殺されてやるかよ。……お前じゃ、勇者には勝てないだろうな」

竜娘「……あ?勝てない?私が?」

A「あいつには仲間がいる。……一人で戦おうとするお前じゃあ、どうやってもその剣先は届かない」

竜娘「言ってくれるなぁ……。今にも死にそうな奴が、ペラペラと……。不愉快なんだよ、やっぱり、その面……」

A「そんなに勇者と似てるかねぇ……。人間なら、みんな同じに見えるんじゃないのか?」

竜娘「人間なんて、どれも一緒だ……。弱いくせに、威勢だけはいい、クズだ。そして、お前も、勇者も!!」

A「散々言ってくれるよな、ほんと……。ただ喚き散らしたいだけなんじゃないのか……」フラッ

A「(そろそろ疲れてきた……。決着、付けようか……)」

竜娘「アイツを殺したいだけだ!!親の仇なんだ!そのためだったら、何だって殺してやる!!!!」

A「復讐するのは大いに構わないが、と言うかどうでもいいが、殺されるのは勘弁だからな……」

竜娘「死ねぇええええええええええええ!!!」ドォオオオオ!!

A「……ッ!!」



魔王「……汚れた神の力、ようやく見れるわね」


 


竜娘「はっ、なんだよ、何か見せてくれるのか?」

A「……もう終わろうと思ってな」

竜娘「だったら大人しく殺されろ!!」ゴッ

A「そう何度も喚くなよ……」ォオオオオオ!!

竜娘「――ッ!?」

A「かみさまのちから、見せてやるよ」

竜娘「ふ、はは、面白いなぁお前!」

A「少しぐらい怯めよ……」ズキズキ

A「(余裕ぶっこいてる暇はないんだっけなー)」

竜娘「禍々しいな……そして美しい……。いいな、いいものを持っているな」

A「漂うのは死の香りだ。あまり魅せられると引き込まれるぞ」

竜娘「神の力か、人の器でどれほど扱えるのかな!」ドッ!!

A「(これである程度は攻めれらるか!)」

竜娘「また突っ込んでくるとは、芸がないな?」

A「前とは格段に違うけどな!!」ドガッ!!

竜娘「なっ……ぐっ……!?」

A「……ッ」マワシゲリ

竜娘「がっ……!!」ドサッ

A「骨は折れてないな?というか、生きてるよな?」

竜娘「……ぐ、くそ……、こんな、たった一瞬で……」フラッ

A「頭蹴り抜いたからなー、グワングワンいってるだろ」

竜娘「まだだ……まだ負けてない……私は……勇者を……」


竜娘「はっ、なんだよ、何か見せてくれるのか?」

A「……もう終わろうと思ってな」

竜娘「だったら大人しく殺されろ!!」ゴッ

A「そう何度も喚くなよ……」ォオオオオオ!!

竜娘「――ッ!?」

A「かみさまのちから、見せてやるよ」

竜娘「ふ、はは、面白いなぁお前!」

A「少しぐらい怯めよ……」ズキズキ

A「(余裕ぶっこいてる暇はないんだっけなー)」

竜娘「禍々しいな……そして美しい……。いいな、いいものを持っているな」

A「漂うのは死の香りだ。あまり魅せられると引き込まれるぞ」

竜娘「神の力か、人の器でどれほど扱えるのかな!」ドッ!!

A「(これである程度は攻めれらるか!)」

竜娘「また突っ込んでくるとは、芸がないな?」

A「前とは格段に違うけどな!!」ドガッ!!

竜娘「なっ……ぐっ……!?」

A「……ッ」マワシゲリ

竜娘「がっ……!!」ドサッ

A「骨は折れてないな?というか、生きてるよな?」

竜娘「……ぐ、くそ……、こんな、たった一瞬で……」フラッ

A「頭蹴り抜いたからなー、グワングワンいってるだろ」

竜娘「まだだ……まだ負けてない……私は……勇者を……」



魔王「まぁ、こんなもんよね。……はいはい、お二人さん、終わりよ、終わり」

魔王「竜娘、貴女、いい加減に分かったでしょう?勇者のケツばっか追ってるから、敵に油断したりするし、こんな負け方もするし、みっともない恰好晒すのよ?」


竜娘「…………」

魔王「まぁ、よく考えることね。勇者を追うのも勝手だけど、他に疎かにしてはいけないこともあるでしょって話。んじゃ、お疲れ様ねー」


A「おい待て、俺も連れてけよ。道分かんないだろうが」

魔王「しょうがないわね。ほら、行きましょ」ギュ

A「なんで手を握るんだよ」

魔王「まんざらでもないんでしょ?」

A「……いや、嫌いだが」

魔王「あっれぇ?」
 




姫「A、どこ行ってたんですか」

A「悪い、少し野暮用で……」

姫「見るからに一戦交えてきました、って感じですね」

A「説明は後にするよ。今は夕食まで休ませてくれ」

姫「体調はあまり優れないみたいですね……誰がそんなことをさせたのでしょう……」

魔王「いっそ清々しいまでの無視をかましてくれるわね」

姫「あ、いたんですね。すいませんでした」

A「最初から隣にいたわけだが」

魔王「ふふ、きっと羨ましいのよ、私が」ギュ

A「わざわざ腕絡めてきやがった」

姫「…………」

A「魔王、冗談にしても笑えないから、そろそろ止めてくれ」

魔王「そうね、誰一人としてニコリとしてないものね」

姫「私の知らないところで、一体何をしてきたんです?」

魔王「あら、嫉妬よね、それ。詮索ばっかりしてると、うんざりされちゃうわよ」


姫「黙っていてください。そして、私とAを二人きりにしてください」

A「……どうか俺を一人で休ませてください」

魔王「もう、仕方ないわね。じゃあ、私はもう行くわね」

魔王「…………ん」チュ

A「!!?」

姫「」

魔王「じゃあ、サヨナラ」

A「…………」

姫「…………」

A「……普通さ、ほっぺとかだよな?」

姫「…………」

A「……がっつりキスしてきたぞ、あれ」

姫「…………」

A「…………」

姫「…………」

A「……ごめんなさい。もうフラフラで、避けることが出来なかったっす」


姫「…………」

A「……」

姫「……ほんと、嫌な人」

A「……え?」

姫「見せつけて、何がしたいのか分からないわ」

A「あぁ、……そうだな」

姫「嫉妬や羨望でもしろって言うの?むしろ逆でしょうね、きっと私たちが羨ましくて羨ましくて仕方ないから、あんなことするのよ」

A「……そうなのかもな」

姫「ねぇ、A、かわいそうに。あんなことされたって、ちっとも心は動かないものね。迷惑なだけだわ」

A「……確かに、迷惑だ」

姫「でも、私とすることは違うわよね?」

姫「あんな醜いものじゃあない、ちゃんとした本物がそこにあるのよね?」

姫「……そうでしょう?」

A「……なぁ、今、正直、立っているのも辛くなってるんだが」ズキズキ

姫「あぁ、相当疲れてるみたいね。じゃあ、部屋まで行って休みましょう」ギュ

A「お、おい……。そんなに急いで行かなくても……」

姫「きっと汗をかいてしまっているでしょう。ちゃんと拭いてあげるわ」

A「いや、一人で出来るから……」

姫「駄目よ。今日はずっと一緒にいてあげるから、安心してね」


A「なぁ、一人で寝せて……」

姫「…………違う」

姫「…………こんなの、違う」

姫「……ねぇ、A。貴方は、私に何を求めているの?理解しようとしても離れて行って、全然距離も縮まらない。その上、挙句の果てには、あんな女にまで……。ねぇ、そこは私の場所じゃなかったの?私だけに許してくれたものではなかったの?ねぇ?なんで、なんで答えてくれないの!?」

A「落ち着けよ、ここは廊下だぞ」

姫「そうやって、何度はぐらかしてきたの!?私はずっと貴方を求め続けてきたのに、私には貴方が何を求めているのか、今では分からない……」



A「……部屋に着いた、入ろう」

姫「……なんで、あの女の方が仲が良さそうなの!!?」

A「それは勘違いだって……。あいつの方から無理矢理……」

姫「……そう、やっぱり、駄目なのね。待ってるだけじゃあ、駄目なのね」

A「待て、今は調子が悪いから、後で……」

姫「そうよね、散々、受け入れると言って待っていたって、ここまでしかこれなかったものね。それを、あいつなんて、簡単に。……何を難しく考えていたのかしら、私は」



A「……落ち着いた、のか?」

姫「理解し合えるまで待つとか、曖昧な幻想を本物なんて恰好付けて求めてみたりだとか、たかが欲求の延長線上で満足なのかとか、難しいことばかり考えていたわね。ほんと馬鹿だわ」

A「…………」

姫「馬鹿、馬鹿よ、本当に馬鹿だった!!遮るものも何もなくなったのに、それで待ち続ける意味なんてなかった!!」ドッ

A「ちょ」ドサッ


姫「A,とってもとっても大好きよ。だから、我慢なんてしない。余計なことばかり考えていたら、何も出来ないものね」チュ

A「……待ってくれ、今は」

姫「もう待てるわけないでしょう?そもそも、さっさと私を抱いてしまえばよかったのよ!王国が滅んだ時から、何度も何度も機会はあったんだから!!そうすれば、小難しい話を並べてわざわざ停滞を選ぶこともなかった!!Aだって、ちゃんと私を愛してくれていた!!!」

A「……ッ!こんなことしてまで結ばれたいのかよ!お前は!!」

姫「そうやっていつまで考えているの!!そんなことだから、あんな奴にまで……!!そのうち、身体の隅まで奪われてしまうかも知れない!!もしそうなったら、今まで貴方の答えを待ち続けた私は本当に愚か者じゃない!!!」

A「だからって、こんな無理矢理!……俺は、お前とただ好きあっていたかったんだ!焦って結果を求めることもない、ゆったりとした雰囲気が好きだったんだ!」

姫「それならこれからでも遅くはないわ。まずは、ちゃんと刻み込まないとね」パサッ

A「待て、おかしいだろ!いくらなんでも、こんなのって――」

姫「……あはっ、ちゃんと“準備”は出来ているのね」ギュ

A「……ッ!?……ッ!!」

姫「あの女も愚かね、私たちは、こんなに愛し合っているのに……。ねぇ、A?」

 


A「……、」

姫「ほら、私はもう脱いだわ。……貴方も脱がないといけないじゃない」

A「……こんなの、間違ってる」

姫「私が求めているのは正しさじゃないの。……んっ……ふぅ……。私が求めているのはね、貴方なの。だから、そんな、間違いだとか、気にしていられないのよ」チュッ

A「……姫」

姫「上を脱がして、胸板に頬ずりしてみるのもいいかと思ったけれど、どうも難しそうね。なら、こっちの方を先にした方が手っ取り早いわ」ギュ

A「ズボンを脱がす気かよ……。悪いけど、抵抗はするからな」

姫「どうして?なんで?拒絶する意味が分からないわ」

A「納得がいってないんだ!」

姫「……そう、まぁ、いいわ。やってしまえば、そんなこと言ってる場合じゃないでしょうから」

A「……なんだよ、随分と惜しげなく肌を晒すんだな」

姫「貴方を前にもったいぶって何の得があるというの?」

A「……分かってくれよ。俺は、まだ、こういうことは」

姫「だから、それもやってしまえば、どうだってよくなるわ、きっとね」

姫「ねぇ、A、私だって戸惑っているの。こういう風に肌を見せるのは、その、初めてでしょう。経験もないし、でも、がんばっているのよ」



A「俺も頑張りたいとは思うよ。……でも、今はその時じゃない」

姫「あぁ、また魔王のことを考えたんでしょ」

A「違う。なんであいつなんか……!」

姫「じゃあ、他に何があるっているの?……その時じゃないって、だったら、何時、どんな時だったらいいのよ。貴方は魔王とキスをして、それがまだ頭にこびりついているから、だから、私と肌を重ねることが不安なんだわ!!」

A「……もうそれを話に持ち出すなよ。あれは、あいつが一方的にやってきたことだ。その非を俺に求められても、俺にはどうしようもないんだ」

姫「ええ、どうしようもないわね。だから、記憶に残ってしまうんでしょ!そんなの上書きしちゃえばいいじゃない!あいつのことなんかより、私のことを覚えていてよ!!」

A「……んむっ!?……ッ、お前、段々と過激になってないか!?」

姫「じゃあきっとそれは貴方のせいね、ちゃんと付き合ってくれないと、嫌よ?」バッ

A「……だから、脱がしに掛かるなよ!!

姫「ああ、もう!なんで!?魔王の時は何も抵抗しなかったのに、どうして私の時だけ!?」

A「あれは不意を突かれたんであって、やりたくてやったわけじゃないんだよ!」

姫「そんなの納得いかないわ!!あいつだけ上手くいって、私だけずっと何も出来ないなんて!!」グイッ


A「……ッ!!いい加減にしろよ!!」

姫「……あっ」

A「お前、なんかおかしいぞ……?今までは、ちゃんと俺の考えを聞いてくれてたじゃないか。それなのに、こんな乱暴なことをしたり、どうして、そんな」

姫「…………」

A「……すまない。だけど、俺の中で納得のいく答えが出たら、ちゃんとお前と結ばれたいと思ってるんだそれまでは、こういうことは、したくない」

姫「…………」

姫「…………」

A「……姫?」

姫「…………は」

姫「……はは、あはははは。あははは、はは……。……ごめん、なさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。ごめんなさい、ごめんなさい……」

姫「……私のこと、嫌いになったよね?……あんな大声出させちゃって……。怒られちゃったね……。ごめんね……。ごめん……。ごめんなさい……。どうしてなのか、分からないの……。ごめん。ごめん……。…………ふ、普通に、かんが、えて、こんな女、……い、いやだよね。そう、だよね……。あはは……」

A「……姫、違う。待ってくれ。俺がお前を嫌うわけないだろ」

姫「だって、怒らせちゃったし……。こんな、こと……。私……。私……」

姫「きらわれ、ちゃった……」

A「……違う!!まだ早いって言いたかっただけで、お前のことを嫌いだなんて、俺は、一度も!!」

姫「…………」




姫「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あいつのせいだよね」




A「……え?」

姫「あいつが、そもそも悪いんだよ」

A「あいつって、待てよ、待ってくれよ、姫!話を聞いてく……んっ!?」チュ

姫「んんっ…………ぷはっぁ……。あいつのせいで、こんなことになっちゃんたんだよ」

A「……姫、話を!」ギュ

姫「あれ、手、握ってくれるの?あはっ、うれしいな。まだ、嫌われたわけじゃ、なかったんだね。うれしいなっ。うれしいなっ!」ギュウウウウ

A「……ッ、首、絞める、な……!」

姫「ん、あれ、ここ、おっきくなってるね。なんで?私のこと好きだから?」

A「……あ、いや、それは」

姫「胸押し付けられてるから……?誰だっていいの?そんなことないよね?」

A「……ッ、あぁ、そうだよ!お前だからだ!だからさ!もっと、こういうのはお互いが……!」

姫「……」シュル

A「な、嘘、あれっ――」

姫「A、大丈夫?頭、痛かったんだよね?なんだか、手に力があまり入ってないよ」

姫「やっと見ることが出来たね。こうなってるんだ、男性のモノって」ツンツン

A「……しまった、声を張り上げすぎた…………」ズキズキ

姫「よかった、私でも、ちゃんと反応してもらえるんだね」チュ

A「どこに唇つけて……!?」

姫「ふふふ、A、私のこと嫌いじゃないんだよね?好きなんだよね?じゃあ、こういうことも、出来るよね?」

A「待て、掴むな……!」ズキズキ

A「お前、入れる気なのかよ!!」
 

今日はここまでで。
エロと戦闘シーンはあまり得意ではない。
練習と思って、許してくれ。


姫「Aだってこんなに硬くして、やる気だったんでしょう?」スリスリ

A「反応しちまうのは仕方ないだろ!!口ではちゃんと嫌って言って……痛ッ……」ズキッ

姫「無理しちゃ駄目だよ……。ほら、もう私に全部任せちゃいなって」

A「無理させてんのは……お前だろ……ぐっ……」

姫「…………辛いでしょう。すぐ終わらせてあげるから」ズプッ

姫「…………ッ」

姫「……ちょっとやり辛い、けど、今はこれでいいや」クチュクチュ

A「…………うっ……ぐっ……」

姫「んっ…………はぁっ…………」ズズズッ

姫「くっ……あっ…………」

姫「はぁ……はぁ……」

A「……や……めろ……」

姫「大丈夫、Aは、そこに……寝てるだけで、いいから……」

姫「私がこうして……上に跨って……動いていれば……」グイグイ

A「…………く…あっ」


姫「……………んっ」ズッ

姫「……………あっ」

姫「……これ……ここっ…………」

A「…………ッ」

姫「……んっ…………あはっ……」

姫「…………あっ………」

姫「……だ、だめ…………」

姫「んっ…………あぁ…………」ズッズッ

A「(…………視界が…………ぼやけて)」

姫「…………ッ…………もう、くっ……」

A「(……感覚が……狂いそうだ)」

姫「あっ…………だめ…………」

姫「あ、あぁ…………」ズッ

姫「はぁ……はぁ…………」トロン

A「(……終わったのか?)」

姫「ごめん、ね……今日は……もう、無理そう……」

姫「でも、ちゃんと一つに、なれたね……」

姫「…………A」


A「(……身体が熱いのに……だめだ、意識が遠のく)」


姫「   」

姫「   」


A「(…………何かを言っている…………でも)」

A「(…………あぁ、もう、だめだ)」

A「(………………)」

 

一応胸糞かどうかも宣言してもらえると助かる、無視してもらっても結構です。

>>296
登場人物全員が笑顔で幸せに終わるという話ではないです。


A「…………いてて」

幼女「あ、おにいちゃん、目が覚めた?」

A「……ここは、俺の部屋か?」

幼女「うん。今、姫さまはお水をもらいにいってるよ」

A「まぁ、何と言うか……。最初に見られたのがお前でよかったよ」

幼女「……どういうこと?」

A「いろいろあってだな」


姫「あら、目を覚ましたんですね」ガチャ


A「…………!」

幼女「姫さま、おかえりなさい」

姫「それで、調子はどうですか?」

A「まだ少し頭痛がするぐらいだ。……俺はどのくらい寝てた?」

姫「半日程でしょうか」

A「寝てる間に変なことしてないだろうな」

姫「まさか、そんなことするわけないでしょう」フフ

幼女「…………?」

姫「もう自分の部屋に戻っていいですよ、幼女。私が戻ってくる間の看病、ありがとうございます」

幼女「いえいえー。じゃあね、おにいちゃん、ちゃんと休むんだよー」ガチャ

A「……元よりそのつもりなんだがな」


姫「さて、二人きりなんて緊張しますね」

A「確かに襲う襲われるという緊張感はあるな」

姫「ふふふ、襲いたいだなんて、気持ちは分かりますけれど、今は無理をしないでください」

A「あれ、おかしいな。俺は自分が襲われる立場だと思ってたんだが」

姫「まぁ冗談はさておき、頭痛の原因は分かってるんですか?」

A「ある程度は」

姫「力の使い過ぎですか」

A「大体それで合っている」

姫「となると、使うのを抑えるつもりですか?」

A「そうもいかないんじゃないか。これから、お仕事の機会も増えるだろ」

姫「魔王……Aに倒れるまで無理をさせるなんて……」

A「今回に限って言えばお前も少なからず関わっているんだが……」

姫「私はもう、貴方に愛されていると分かれば、それで安心出来ますから」ギュ

A「結局こうなってしまったか」

姫「うふふふ」

A「調子が良さそうだな」

姫「それは、もう。とてもね」

A「…………だとしたら、俺は、それを喜ぶべきなんだろうな」



幼女「お兄ちゃんの部屋が騒がしい…」

幼女「聞いたことあるような声もする…」
 



幼女「お兄ちゃんの部屋が騒がしい…」

幼女「聞いたことあるような声もする…」
 


幼女「おにいちゃんの部屋のあの臭い……」

幼女「気待ち悪い……」

幼女「…………」
 

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月08日 (日) 23:30:23   ID: Bn9QWj0y

胸糞悪くなる展開のような、

2 :  SS好きの774さん   2015年02月11日 (水) 02:31:32   ID: xVa__WMe

期待

3 :  SS好きの774さん   2015年02月11日 (水) 19:03:16   ID: TaELpgan

続きハヨ

4 :  SS好きの774さん   2015年02月13日 (金) 22:51:47   ID: cj1X8E3s

続き、気になる。

5 :  SS好きの774さん   2015年02月20日 (金) 23:46:20   ID: m0UQoGkT

違う

6 :  SS好きの774さん   2015年03月02日 (月) 01:50:56   ID: 4ik2rAwE

続き気になる。

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