男「飛び降り自殺?」(490)



女「うん。それで明日は学校休みだってさ。警察が捜査に入るんだって」

男「ふうん……。しかし、まさか……ねぇ」

女「男、今日休みで良かったかもよ。中庭がとんでもない事になっちゃっていたみたいだから……」

男「う……。そうだよな、飛び降りだもんな……」

男「……で、一体誰が?」

女「私は現場を見た訳ではないんだけど、a子先輩だってさ……」

男「a子? あ、あの金染めのロングヘアで……結構男子からも人気があった……」

女「そう、その人」

男「そんな人が何でまた……」

女「さぁ……。これから分かってくると思うけどね」

男「ん……」

女「んじゃ、私はもう帰るね」

男「おう。あんがとな」

バタンッ

男「……」

男「……自殺か。他人事だとばっかり思っていたな……」

男「……友の奴に電話してみるか」

trrrr……

ガチャッ

友『なんじゃ?』

男「おう、さっき女から聞いたんだが、a子先輩が飛び降りをしたんだって?」

友『早速耳に入っておったか』

男「お前、その現場は見たのか?」

友『ああ。私はその時丁度中庭の渡り通路におったでな。仏さんがa子先輩だというのも確認済みじゃ』

男「死体を見たのか?」

友『うむ。顔面から落ちたみたいで損壊は著しかったが、間違いないわい。念の為、仏さんとその周辺、飛び降りたと思しきポイントも携帯で撮影しておいた』

男「相変わらず、その手の話題が好きだな。まぁ良いや、細かい話は明後日に学校で聞くよ」

友『ほいほい。――時にお前さん、風邪は大丈夫か?』

男「大分楽になった。明日も休みだって言うし、明後日までには治るよ」

友『気を付けてな。では、失敬』

ガチャッ

ツー、ツー……

――二日後

男(周りの話題はこないだの自殺で持ち切りか。ま、無理もないけど)

男(テレビでしばらく取り沙汰されていた、学生の自殺問題――それが自分達の通う学校で起きたんだからな……)

男(現場を知らない俺からすれば、今一つ実感に欠けるけど……)

友「おお、来おったか」

男「おはよ。案の定というか何というか、どこも自殺の話題ばっかりだな」

友「ヒッヒッヒ……まぁそうだろうよ。連中からしてみたら、今までフィクションの世界でしか存在し得なかった筈の物――死体――が、ついこないだまでそこにあったんじゃからな」

友「それも、その仏さんは羨望、色欲と一挙に視線を集めておった女じゃからな。そら肴にもなろうぞ」

男「全くだな」
 
女「あ、いたいた。男、友君、今朝は体育館で集会だってさ」

男「おう」

友「校長も教諭も忙しくなるじゃろうな」

キーンコーンカーンコーン……

ガヤガヤ、ガヤガヤ

女「集会の時、啜り泣きがしていたね」

男「a子先輩の友達だろうな」

友「ま、泣いてもらえるだけ幸せじゃな」

友「さて、休み時間が勿体無い。先輩を偲ぶのは程々にして、いくつか気になった点があったんじゃ」

男「気になった点?」

友「うむ。事件があったあの日、ギャラリーの何人かから面白い話が聞けたんじゃよ」

男「もうその時から動いていたんだったよな。よく先生に怒られなかったな……」

友「無論、写真撮影に関しては、幾度か争う事となってしもうたがな。死体を撮影する事に関して些か機敏になり過ぎておるから苦労したわい」

女「……あんまりそういうのは……良くない事だと思うけどね……」

友「話を戻すぞ。で、話を聞いた奴によると、飛び降りが発生するその直前、a子先輩が廊下を走っていく所を見たそうじゃ。怯えている様子で、それこそ、半狂乱の様相だったそうな」

男「……怯える?」

女「それが、その、事件が起こる直前に?」

友「うむ。曰く、『今まで見た事がない』との事じゃから、よっぽどだったんじゃな」

男「一体何に怯えていたんだろう?」

友「知らん。知らんが、そのまま狂った様に……『まるで、何かから逃げていたみたいだ』との事じゃがな」

女「……逃げる……」

男「……で、先輩はそのまま……」

友「中庭にダイブした、という事になるな。飛び降りの瞬間を目撃した生徒はいないみたいじゃが」

男「その時、先輩は『何』に追われていたんだ……? それにしても……」

女「一体何が……」

男「俺はてっきり、先輩が何かしらの問題を抱えていて、それに堪え切れなくなっての自殺だと思っていたんだが……」

女「私も……」

友「まぁ、自殺と聞けば、誰でも普通はそういう線で考えるじゃろうな。――さて、着いたぞい」

男「……」

女「……ここから……」

友「直前の目撃証言と照らし合わせてみると、ここいらからa子先輩は飛び降りたという事になる。当時、窓が開いていた所は何点かあったが、落下場所から逆算するとここが有力じゃろ。ほれ、これがここのアングルから撮影した現場じゃ」ヒョイッ

男「……うっ……」

女「……ん、言われてみれば」

友「この窓から真っ直ぐ、ここと相対する東棟に飛んだとすると、およそ落下場所は符合するでな。ひとまず場所はこれで分かったのじゃが……」

男「……だが?」

女「……あれ? でも、この写真に写っている先輩、何か変じゃない?」

男「え?」

友「流石、良くぞ気付いた。写真に写っている先輩の遺体をよくよく見てみると、少し奇妙な事に気が付くじゃろう?」

男「何が奇妙なんだよ。写真って言っても、あんま死体なんて見たくないんだが」

女「ほら、倒れている先輩の恰好だよ。うつ伏せになっていて、頭がこっち側――西棟に向いているでしょ?」

男「それが何だよ?」

女「普通、窓から飛ぶとしたら、男だったらどうやる?」

男「……どうって、まぁ、こうやって足を窓枠に掛けるなり、上半身を乗り出すなり……」

女「その格好で窓から飛んで、回転が掛かるとしたら前回りだよね? だとしたら、先輩は東棟に頭を向けてうつ伏せになっているか、仰向けになって西棟に頭を向けているかの恰好の方が自然だと思わない?」

男「……なるほどな。だけどそりゃ考えすぎじゃないか? 垂直飛びかもしれないし、落下時のショックで体勢が変わったという事も考えられるだろうが」

女「うーん……」

友「そういった可能性も勿論考えたんじゃがな……」

男「それに、その考え方でいったら……何か? 先輩は背面跳びでもしたっていうのか?」

友「背面跳びでの投身自殺を映した動画を見た事があるから、その線も無くはないじゃろうがな。――素直に考えるんなら、a子先輩は突き落とされたのだとするのが自然ではないかの」

男「他殺か?」

友「うむ」

女「誰か先輩に恨みでも持っていた人が……?」

男「注目を集めていた先輩だったし、嫉妬や逆恨みの線もあるかもしれないが……だけどなぁ……」

友「背面跳びになる形で飛んだ事を考えると、a子先輩は東棟に背を向けている。即ち――突き落とされたという仮定に沿って考えると――先輩は犯人と相対していたという事になるのう」

男「……周りの証言だと事件の直前、先輩は何かから逃げていた様に見えたって事らしいけど、例えば誰かから追われていたとしたら、それを目撃している人がいる筈じゃないか? 第一、真昼間の学校内――それも校舎の中――で殺しをやろうとする奴がいる事自体考えられないんだが」

友「尤もじゃ」

女「そうだよね……」

男「だろ? ――おっと、そろそろ休み時間が終わるな。この話はこれでもうお終いにしようぜ。正直、こういう話題は苦手なんだよ」

友「……」

キーンコーンカーンコーン……

嫌味教師「――であるからして、つまりここの問題は……」

友「……」ガリガリ

男(……アイツ、まだ考え込んでいるな)チラッ

友「……」ガリガリ

男(授業そっちのけでメモ帳に何かを書いているみたいだが……)

嫌味教師「というわけだ。……?」チラッ

男(やべっ! 友! バレてるぞ!)アセアセ

嫌味教師「……おいっ、聞いてるか!?」

友「……む?」

男(……あっちゃ~……)

嫌味教師「授業中に落書きとは余裕だな? 友」

友「落書き? ……ああ、まぁそちらからすれば落書き以外の何ものでもないわな」

嫌味教師「フン、そのメモは……この前のか。刑事ごっこか?」フンッ

友「そちらからすれば、確かにごっこ遊びに見えるじゃろうがな。生憎、警察に興味は無い。私が惹かれているのは死体――生と死のプロセス――じゃ」

嫌味教師「……命を弄んで、偉くなったつもりか? 中二病か?」ヘッ

友「弄ぶとは心外な。――まぁ、そうじゃろうなぁ……。生徒の飛び降りを目の当たりにして、何もできずにただ狼狽しているばかりの腰抜けからすれば、その様に映るのも無理はないかもしれんなぁ」ヒッヒッヒ

嫌味教師「……っ!」ピキッ

男(~~始まった……)ガックリ

友「大の男が、死体を目の当たりにした程度でうろたえるとは……全く嘆かわしい。これじゃあ、そこらの女衆の方がよっぽど肝が据わっておるわいなぁ!」ヒッヒッヒ

嫌味教師「……おい」

友「出っ歯の猿顔をさらに歪めておいでじゃが、如何した?」

プッ、クスクス……

男(あ、相変わらずはっきり言う奴だ……)

嫌味教師「ッ!」ギロッ

シーン……

嫌味教師「……放課後、生徒指導室に来い」

友「遠慮したい所じゃの。そんな顔と向き合っているより、腐乱死体の観察をしていた方がよっぽど有意義じゃ」

嫌味教師「来いっ!」

友「……ほいほい。放課後お伺いしましょうぞ」ヤレヤレ

男(「やれやれ」はこっちの台詞だっつの……!)

キーンコーンカーンコーン……

女「……友君、大丈夫かな?」

男「全く、アイツも意外と短気だからなぁ……」

女「あの嫌味先生に目を付けられたら大変だよ。卒業まで嫌がらせされるかも……」

男「まぁ、アイツは嫌がらせ程度じゃビクともしないから、その点は大丈夫だろ。問題は素行不良で単位を落とされないかどうかだ」

女「……うーん」

男「全く……せっかく治った風邪がぶり返しそうだ……」ズキズキ

ガラッ

友「おっ、まだおったのかいな?」

男「ようやく終わったか、お説教が」

友「説教というよりも討論じゃな。互いに言いたい事のぶつけ合いじゃよ」

女「おとなしく引き下がらないのが友君らしいね……」

男「適当に流していれば済むものを……」

友「ヒッヒッヒ……なかなか黙ってはいられん性分でな」

男「知ってる」

友「左様か。――そうそう、面白い話を仕入れる事ができたぞい」

男「何だよ?」

友「二年前――私達が入学する前の頃じゃな――にも、一人の男子生徒が自殺しておったというんじゃ。このケースは自宅での縊死だったみたいじゃが」

女「私達がここに来る……一年前に? ……あ、そう言えばそんな話を先輩達から聞いた様な……」

男「……って事は、生きていれば今頃三年生……俺達の一つ上の先輩か。それがどうしたんだよ?」

友「今回の件と何かしらの関連があるんじゃないかと私は思うんじゃが」

女「……」

男「二年前の事件とa子先輩が? 確かに先輩達の同級生だから、無関係とはいかないだろうが……」

女「……それがどういう形で関わっていると思う?」

友「いんや、分からん。勘じゃ」

男「んないい加減な……」

友「だが調べる価値は十分にありそうじゃ。ひとまずここは、事件当時の周辺状況を確認していくのが無難じゃろうな。なかなか面白くなってくるわい」ワクワク

男「ほんっとに懲りないな」

女「……まぁ、後の話は歩きながらにしよ? もう日が暮れてきたし……」

男「そうだな」

友「まさか待っていてくれるとは思わなんだ。すまんな」

カァーッカァーッ

友「では、また明日な」

男「おう」

カッカッカッ……

女「……」

男「……」

女「……ねぇ」

男「何だ?」

女「どう思う?」

男「……何が?」

女「今の、学校中の空気」

男「……そりゃあ、良い気はしないさ」

女「……」

男「今まで平和で過ごしてきた自分の母校でこんな事件が起こったんだ。正直、気味悪いとすら思うよ」

女「……」

女「……私ね、嫌な予感がしてきたの……」

男「……」

女「何かこの先に、更に怖い事が起こるんじゃないかって、そんな気ばっかりするの……」

男「……」

女「a子先輩の突然の自殺。友君は喜び勇んで取り掛かっているけれど……私は……」

男「手を引きたい、か?」

女「……私もなまじ踏み込んじゃったけれど、今になって怖くなってきたの。今の内に手を引いた方が良いんじゃないかって……」

男「……あいつは……聞かないだろうなあ、多分」

女「友君は多分、そうだろうね……。でも……」

男「まぁ、言うだけ言ってみるさ」

女「……うん」

男(……無駄だと思うけどな)

明くる日――

友「手を引く気は無いぞ?」

男(やっぱりな)

友「まぁ、やってる事が事じゃしな。女の奴が不安になるのも無理無い事じゃがな」

男「しかし、嫌味先生にも目を付けられちまって、変に固執しても自分の立場が悪くなるばかりだぞ?」

友「私が周囲からそんな目で見られるのは何も初めての事ではないさ。これは私の生きがいみたいなもんで、やめろと言われても、『はいそうですか』とはいかんさね」

男「……」

友「まぁ、お前さんらに迷惑が掛かってしまうのは私も良しとは思わん。無理に私に付き合おうとせんでも良い」

男「そういう事じゃなくてだな……」

友「ああ、分かってるさ。それでも悪いが、やめるつもりは毛頭無い」

男「……全く頑固な奴だ」

友「すまんのう」

男「……で、今回はどういった線を調べていくんだ?」

友「a子先輩の周辺状況の探りをしたいんじゃが……二年前の自殺事件も一緒に調べていくつもりじゃ。ついては、先輩達に一つ一つ訊いていこうかと思っとる」

男「地道だな」

友「調べ物は常に地道であるものさ。――まぁ、そういう事でな。女にはよろしく言っといておくれ」

男「あまり心配させんなよ」

友「私とて、そう思っとるさ」

男「……」

男「まぁ、言って聞く奴ではないのは分かっていた事だがな……」

女「――やっぱりね……」

男「これだけは譲らんからな、アイツは」

女「……」

男「なぁ、お前の言う嫌な予感の根拠って一体何なんだ?」

女「……根拠って言うか……何というか……触れてはいけない領域に手を伸ばそうとしているんじゃないかって……」

男「触れてはいけない……?」

女「そこに触れてしまった途端、これまでの生活が一変してしまいそうで……」

男「……暗い側面と触れ合おうと言うんだからな。更に、友――いや、俺達か――がやっている事は、人のプライバシーの世界に踏み込むもんだからな……」

女「……」

キーンコーンカーンコーン……

昼休み――

友「……ふむふむ」カキカキ

友「それで、他に何か気になった事とかは?」

「いや、分かんねぇな。俺が知っているのはこんくらいのもんさ」

友「ん、かたじけない」

友「成程……。昔に遡ってみると、意外な点が見えてくるもんじゃな」

友「……ん?」

嫌味教師「何だ? また趣味の探偵ごっこか?」

友「先生には関係の無い事じゃ」

嫌味教師「よく飽きないもんだな。そんな無駄な事をチョコマカチョコマカと……」

友「腰抜けなんぞに理解してもらおうとは思わんよ」

嫌味教師「……一つ、お前のその足りない頭に忠告しておいてやろう。そんな斜に構えているのがカッコイイと思っている様だが、傍から見たらただの小僧に過ぎないお前がそんな態度を通していても、何の恰好も付きゃしないぞ。寧ろ、周りが失笑しているのに気が付かないか?」

友「周囲の評価なぞ、私からしたら関係無い事じゃ。評価の十や二十でブレる程粗末な人生は歩んでおらんと自負しておるしな」

嫌味教師「……先生方の評価で、お前の未来が左右される事を理解していないらしいな」

友「逆に言えば、嫌味先生の私怨如きでは、私の未来は遮れないという事じゃな」

嫌味教師「……っ」ピキッ

友「……まぁそんな事はどうでも良い。一つ、先生に訊きたい事があったんじゃ」

嫌味教師「お前の言う『腰抜け』に一体何を訊くと言うんだ?」

友「二年前にも、この学校の生徒が自殺をしておるな?」

嫌味教師「……っ!」

友「二年前の……嫌味先生が担任だったクラスの生徒じゃ。よもや知らんとは言わせんぞ?」

嫌味教師「……それがどうした?」

友「二年前に死なれて、そして今回のa子先輩も先生が担当するクラスだったんじゃ。相当、死神様に縁があるみたいじゃな」

嫌味教師「……」

友「二年前の自殺者……b男というそうじゃが、彼は自宅で縊死したという。どうして自ら命を絶ってしまったのだろうか?」

嫌味教師「そんな事、俺が知るか!」

友「教え子だというのに冷たいのう。まぁ、期待はしておらんかったが……遺書か何かがあれば良いのじゃが」

嫌味教師「……お前、一体何を言いたい?」

友「現時点で断定できる要素は無い事だし、今はまだはっきり言うのは控えておくわい」

キーンコーンカーンコーン……

友「おっと、こんな時間か。では、失礼させて頂くぞい。次は移動教室なんでね」スタスタ

嫌味教師「……」

嫌味教師「……クソッ!」

休憩します。読んでくれてる人がいるかは分からないけど。

レスありがとうございます。風呂前に少し投下

……

男「友は聞き込みに行ったか」

女「みたいだね……」

男「こういう話題になると精力的になるからな……本当に」

女「無暗に首を突っ込んだら大変だよ……」

男「まぁアイツも、それは分かっているだろうさ。……何かあったら、そん時は助けられる範囲で手を貸せば良いさ」

女「……うん」

――ギャハハッ! マジウケルー

男「……うん?」

女「イケメン先輩に……ギャル先輩だね」

イケメン「それでよっ! 俺ははっきり言ってやったわけ。したらソイツ、ビビッちゃってよ~」

ギャル「ダサイね~、ソイツ」ケラケラ

男「イケメン先輩の傍には、必ず女子がいるな」

女「先輩、結構格好良いしね。色んな人達と付き合っているみたいよ」

男「羨ましい……っ! リア充め……」

女「嫉妬は醜いよ、男」

男「ぐぬぬ……」

女「そう言えば、a子先輩もイケメン先輩とよく一緒にいたよね」

男「……そうだな。a子先輩が死んだってのに、随分と元気なもんだな?」

女「あの先輩が落ち込む所も想像できないけれど……。敢えて元気良く振る舞っているってのもあるかもよ?」

男「……敢えて……ねぇ」チラッ

イケメン「あとさ~……」ペチャクチャ

ギャル「へぇ~! スゴーイ!」ペチャクチャ

男「……そうには見えないけどな」

イケメン「――おっ、女ちゃん!」

女「……どうも」

男「……?」

イケメン「もう食べた? まだなら一緒にお昼しない?」

女「ありがとうございます。ですが、お昼はもう済ませましたので……」

イケメン「そっか、残念。じゃ、またねっ」ヒラヒラ

女「……」ペコリ

男「話した事、あったのか」

女「うん……何回か、ね」

男「どんな印象よ。率直に言って」

女「元気があって、魅力的な所もあるけれど……私はちょっと苦手かな」

男「ふうん……」

男「……」

女「……」

男「……あー、駄目だ。アイツがお喋りなもんだから、黙っているとすぐに思い出してきちまう」

女「何が?」

男「ほら、二年前の自殺事件ってヤツだよ」

女「……」

男「今回の事件でも結構衝撃だったのに、つい二年前にも自殺と来た。自分達と歳がそう違わないのが、自宅で首を吊っていた……なんてさ……」

女「……」

男「……a子先輩といい、b男先輩といい……一体、何があったんだろうな……」

女「……」

「友」は男?女?

女「学校内は区切られた閉鎖空間。この空間の中で私達は日中を過ごしてる……」

男「……?」

女「この中に、何百人という生徒が集まっている。この大勢の生徒の中で、何時しかコミュニティが自然と形成され、それがその人にとっての、校内における中心的空間になる」

女「……コミュニティが校内で次々と形成され、それぞれが大きくなった時、そういった輪に入れない人達がいたとしたら、その人達はどうなるんだろう……?」

男「……」

男「……虐め、か?」

女「……全てがそうなるわけではないんだろうけどね」

男「しかし、a子先輩が周囲から虐められていたなんて思えないんだけどな」

>>44
男です。

女「あくまでも一つの可能性の話だから。幾つも存在する可能性の中の、ね」

男「……しかし、b男先輩がそれに当てはまっている線もあると?」

女「うん……。何とも言えないけれども、ね」

キーンコーンカーンコーン……

男「おっと、いけね。長話しすぎたな」

女「行こ。遅刻しちゃう」

男「おう」

放課後――

友「……」カキカキ

友「……b男先輩の死因は縊死。自殺理由については遺書が無かった為、不明。交友関係については……内向的性格の為か、特別親しい友人はいなかった様子。昼休み時に保険医の元を度々訪れていた」

友「家族は父母が蒸発乃至他界しており、祖母との二人暮らし。保険医の話によると、家族関係は良好」

友「裏の廃校舎周辺に幾度か足を運んでいる所を目撃したという証言有り……」

友「……物的資料があるとは思えんが、廃校舎も覗いてみた方が良さそうじゃのう」

保険医「あら、友君」

友「ん? おお、保険医殿。休み時間にはどうも失礼したな」

保険医「友君の趣味の事は知っているけれどもね……ほら、こないだも問題になったんだから、ちょっと程々にしておいた方が良いんじゃないのかな?」

友「私のこれは生き甲斐であるからして、そうする訳にはいかんわな」

保険医「……ふふっ。全く、聞かん坊なんだから」クスクス

友「ヒッヒッヒ……迷惑掛けてすまんのう」

保険医「それで、今度はこれからどこへ行くの?」

友「何じゃ、聞いとったか。廃校舎辺りを少しぶらつこうかと思ってな」

保険医「廃校舎?」

友「b男先輩がそこをうろついておったらしい証言が得られたでな」

保険医「見られるものは何でも見るって事ね。その努力と体力を少しでも学業に回せられたら良いんだけどなー」

友「それは言わんでおくれ、耳が痛む」

保険医「ふふっ。――あ、そうそう、一つ思い出したんだけどね」

友「うむ?」

保険医「b男君、a子ちゃんの事が好きだったみたいよ」

友「何じゃ色恋沙汰かい。んなもん興味無いわい」

保険医「そう言うとは思ったけどね。まぁ、一応伝えとこうかなと」

友「感謝する」

保険医「……それから……」

友「?」

保険医「もし何か分かったら……私にも教えてくれると嬉しいな」

友「……うむ。了解した」

保険医「それじゃ、お姉さんにもよろしくね」

友「うむ」

男「――あー、いたいた。ここにいたのか」タッタッタ

友「おう? 何事か」

女「hrが終って早々姿を消すもんだから、どこに行ったのかなって思ってね」

友「私は毎度の様に調べ物さ。これから廃校舎に向かう所じゃ」

女「あそこに?」

友「うむ。あそこは二年前には自殺したb男先輩が、今回はa子先輩がそれぞれ足を運んでおったみたいでな」

女「……ねぇ、友君」

友「止めろという話か? それなら聞かんぞ」

女「……どうしても?」

友「ああ。済まんが、そっとしておいてくれまいか」

男「そう言うがな、お前の悪い話がチラホラと聞こえてくるんだよ。友達である以上、それらの話を聞いていて肩身が狭くてよ」

友「気を遣わせたな」

男「それでも行くのか?」

友「……すまんな」

女「……」

男「ハァッ、分かったよ。もう勝手にしろ」クルッ

女「あっ、男……」

男「……だがよ、友」

友「?」

男「何か困った事があったら、一応言え。多少の事なら手助けできるかもしれないからな」

友「かたじけない」

男「……」スタスタ

女「……じゃあ、私も帰るね、友君」

友「おう。夕闇には気を付けてな」

女「? ……うん。じゃあねっ」

タッタッタ……

友「……さて、と。行こうかの」スタスタ

友「廃校舎の一階は物置として利用されておるが、その他は一切使われていない筈じゃ」

ガタガタ

友「……くうっ、立て付けが悪いのう。戸がビクともせん……」

友「物置よりも、他の区画を一回りしてみたいんじゃが……こんな具合じゃ無理そうかのう……」

友「仕方ない。物を下手に壊すわけにもいかんし、今回は物置を一通り見ておくだけにするか」スタスタ

ガララッ

友「……やはり、特別変わった物なぞありゃせんな」

友「まぁ、事件の遺留品があったら、今までに誰かが気が付いておる筈だしな……」

友「……仕方ない。今回は撤収じゃ……?」

カッ、カッ、カッ……

「……」

カッ、カッ、カッ……

友「……」

友「誰じゃ……?」

コソコソ……

友「人の事は言えんが、廃校舎に一体何の用じゃ?」

友「制服からして男子生徒の様じゃが……如何せん、夕闇のせいで姿を確認し辛いのう……」

カッ、カッ、カッ……

「……」

友「止まった……。あれは、さっき私が開けようとした戸じゃが……?」

「……」

スウゥゥ……

友「……っ!」

ゥゥゥ……

友「……」

……

友「……消えた……」

コソコソ

友「この戸の中に消えて行ったが……」

友「……」ソーッ

ガタガタ

友「……やはり開かんか……」

友「……」

友「……私の勘は当たっていたのか……? だとしたら……」

明くる日――

男「友は休みか?」

女「そうらしいよ」

男「体調不良か?」

女「先生の話だと、『一身上の都合』だってさ」

男「何だそりゃ……」

風呂行ってきます。

再開します。

「――え、お前の所にも来たのか?」

「そうそう。晩御飯の終わった辺りにさ――」

男「……?」

女「ああ、どうやらこないだから警察が各生徒の家庭を訪問して事情聴取しているらしいよ」

男「あの事件についてのアンケートも書かされたし、それも警察の手に渡るんだろうな」

女「そうだろうね……」

「おい、男! お前のとこはどうだ?」

男「事情聴取か? 俺はまだだよ」

「そっか……女さんも?」

女「うん。多分、次辺りには来るんじゃないかな……?」

「全く、突然で参っちまうぜ。事務的で無感情な面をしたままあれこれ訊いてくるもんだから、気がどうかなっちまうかと思ったぜ」

男「ははっ、まぁ、仕方ないよなぁ」

女「捜査協力はしないといけないし」

「まぁな……分かってはいるんだが……」

女「……あ、ごめん。ちょっと外すね」

男「ん、あいよ」

「……それでよ、今日は友の奴、休みなんだな?」

男「ああ。一身上の都合とかって話だな」

「そっか……良かったよ。今日アイツはここらを嗅ぎ回さないんだな」

男「……」

スタスタ

女「……あ」

イケメン「やぁ、女ちゃん」

女「どうも……」

イケメン「ねぇ、今日のお昼は暇かな? 良かったら一緒にどう?」

女「すいません、今日は男と一緒に食べるので……」

イケメン「ふーん、男君って……何、君の彼氏?」

女「えっ!? い、いえっ、そんなでは……た、ただの幼馴染……ですから……」モジモジ

イケメン「んなら良いじゃん。彼氏でもないならそんなに気を遣う事でもないでしょ? 俺、女ちゃんともっと仲良くなりたいと思っているんだけど」

女「え、ええ……でも……」

イケメン「うーん、まあ良いや。お昼まで時間もあるし、考えてみてね」ヒラヒラ

女「は……はぁ……」

女(イケメン先輩はどうも苦手だなあ……)

男「……ん、もう少しでhrだな。教室に戻るか……」

イケメン「あー、いたいた」

男「? イケメン先輩、おはようございます」

イケメン「おはよ。あのさっ、君は女さんと知り合いなんだよね?」

男「?? ええ、まあそうなりますね。幼馴染ですし」

イケメン「実はさっ、俺、あの子に惚れちゃってさ。今日お昼に誘いたいと考えているんだけど」

男「!? は、はぁ……」

イケメン「君と彼女は結構仲良いみたいだし、君の方からも口添えしてくれると有り難いんだけど……」

男「っ、何故俺が他人の恋路を手間しないといけないんですか」

イケメン「良いじゃん。君と彼女、別に付き合っている訳ではないんでしょ?」

男「……っ」

イケメン「幼馴染で今まで進展無かったって事は、お互いにそんな気持ちが芽生えていないって事でしょ? それなら手を貸してくれると嬉しいんだけどなぁ」

男「……失礼します」スッ

イケメン「……」

イケメン「ヘッ、大した事なさそうだな」ニヤリ

キーンコーンカーンコーン……

......

カッチッコッチッカッチッコッチ……

友「……」

ボーン……ボーン……

友「……」フーッ

コンコン

友「……ん」

友姉「どうしたんだ? こんな薄暗い中で……カーテンくらい開ければ良かろう?」

友「……今日はこの方が落ち着くでな」

友姉「部屋の真ん中で座り込んで、何をしているんだ」

友「瞑想。心を安らげておる所じゃ」

友姉「弟よ、昨日からどうも具合が良くない様に見えるが? 私がベッドで添い寝しようとしても突っぱねるし」

友「……そういう気分になれなかったでな」

友姉「おっぱいでご奉仕してやろうと思っても、珍しく見向きもしないし……」ポヨンポヨン

友「……姉者……」ピキッ

友姉「余程深刻な悩みがあると見える。――はっ!? まさか……困るっ! それは困るぞ弟よ! そんな……勃 起 不 全なんて……っ!」

友「」ブチッ

友姉「私の喜びが――」

友「出てけーーーーーっ!!!」ドンガラガッシャーン!

友姉「今すぐ病院に! 急がねば! 急がねばぁぁ!」クワッ

友「何を勘違いしておるっ! んなもんなっとらんから安心せいっ!」

友姉「――何だ、そうなのか」ケロッ

友「……」ゼェゼェ

友姉「では、今日のこれは一体どうした事だ? 学校も休んで……」

友「……俄かには信じられんだろうよ、話をしてもな」

友姉「言ってみろ」

友「……」

友「姉者は、幽霊の存在を信じるか?」

友姉「幽霊? お前がそれを見たのか?」

友「うむ」

友姉「お前がそう言うのなら、いるのだろうよ」

友「笑わんのじゃな?」

友姉「お前を私が笑うと思うか?」

友「……愚問じゃったな」

友姉「……その幽霊を見たおかげで怖くなったのか? 学校に行くのが」

友「たわけ。んな訳あるかい」

友姉「だろうな」フッ

友「色々と気になる点があって頭が落ち着かんでな。少々ここらでクールダウンしようと思ったんじゃ」

友姉「ふむ……。その様子だと、件の自殺事件のあらましが見えてきたのだな?」

友「そんな所じゃ。保険医殿の情報提供もあってな」

友姉「奴か……」

友「それで姉者、ちいと頼みがあるんじゃが、聞いてくれるかの?」

友姉「何だ?」

友「少し、足になってもらいたくての」

寝ます。おやすみなさい。

昼休み。ちょいと再開します。

……

ガヤガヤ……

男「ふぅ……」

男(ったく、さっきのせいで集中できやしねぇ……)

チョイチョイ

男「……? げっ……」

イケメン「男君、ちょい良いかな?」

男(何でまたイケメン先輩がこっちに来てんだよっ!)

男「……何でしょうか?」

イケメン「さっきの事、考えてくれたかなと思ってさ」

男「俺の考えは変わってませんよ。別に協力するつもりはありません」

イケメン「そっかー、残念だなぁ……」ニヤニヤ

男(? 気味悪ぃ……)

イケメン「それってあれかな? 君、ひょっとして、女ちゃんの事が好きだったりする?」

男「ぶっ!? な、何を急に……」

イケメン「だってさー、この話になると途端に機嫌悪そうになるしさー。分かりやすいねー」

男「……」ムカッ

イケメン「一応、君が女ちゃんの一番身近な存在であるらしいからさ、一言掛けておこうかと思ったんだけどねー……」

男「……?」

イケメン「……まぁ良いや。うん、話はそれだけ。じゃねっ」ヒラヒラ

男「……はぁ」

男「……何を言いたかったんだ?」

男「……あ、やべっ! 次は移動教室じゃんか!」パタパタ

キーンコーンカーンコーン……

男「――ふう、全く、さっきは遅刻するかと思ったぜ……」

女「遅くまで何をしていたの?」

男「いや、ちょっと……な」

女「歯切れが悪いね」

男「……ん、まぁ、な」

女「? 変なの」

男「ははっ……。ま、それはさておき、飯だ飯だ……」ガサゴソ

男「……っ!?」バッ

女「男? どうしたの……っ!?」

キャアアアアアア!!

男「な、何で……鞄の中に……猫の死骸が……っ!?」

ガヤガヤ……

男「――タチ悪ぃな……」

女「お弁当もグチャグチャだね……」

男「チッ、仕方ねぇ。購買で買ってくるか」

「……机周りが死臭で……」オエッ

男「……後で消臭スプレーでも貰ってくるよ」

担任「あっ! 男、聞いたぞ! 大丈夫か!?」ドタドタ

男「あ、先生。はい、大丈夫ですよ。弁当は台無しにされましたけど」

担任「……猫の死骸が入れられてたんだってな? 酷い真似をする……」

男「教科書まで臭いが付いてしまいましたよ……。おまけに、米でベチャベチャだし」

担任「気休め程度でしかならないが、後で何か持ってきてやるからな」

男「助かります」

男「やれやれ、飯食ったら教科書を綺麗にしとかないとな……」

女「手伝うよ」

男「すまねぇ。しかし、一体誰がこんな真似を……」ブツブツ

ガヤガヤ……

男「すいません、パン売ってください」

「はいはい。あら? 珍しいわね」

男「ちいと弁当を台無しにされちまったもんでね……」

「お弁当が? 何でまた」

男「鞄の中に猫の死骸が放り込まれていて……」

「えぇっ!?」

男「全く、参ってしまいましたよ……」

「……そっか、大変だったね……。良し、これらはおばちゃんの奢りだよ。持っていきな!」

男「え? いや、金は払いますよ?」

「いいって! 持っていきな」

男「……すいません」

女「良かったね」

男「不覚にも泣きそうになった」

女「悪い事ばかりって訳でもなさそうだね」

男「パンがしょっぱい気がする」グスッ

女「よしよし」

ガラッ

「……」ジーッ

男(し、視線が……)

女「……食べ終わったら、早いとこ済まそうね」

男「おう」

男「……」モグモグ

男「……はぁっ」

女「……」

……

ブロロロ……

友姉「……ここか?」

友「ああ。済まなんだな」

友姉「良い。気にするな」

友「……んでは、行ってくるでな」ガチャッ

友姉「私も付き合おうか?」

友「いや、良い」パタンッ

ザッザッ

友「平屋か……結構屋敷は広いな」

友「……さて」

コンコンッ

お婆さん「……はい?」

友「すいません。私、○○学校の友と申します。こちら、b男先輩の御宅でございますか?」

お婆さん「はい、そうですが……。ああ、もしかして、b男のお友達?」

友「……まぁ、そんな所です」

お婆さん「あらあら……どうぞ、上がって下さいなっ」

友「失礼致します」

チーン……

友「……」ナムナム

お婆さん「粗茶ですが……。何も無いけどゆっくりしていってね。その方があの子も喜ぶと思うから」

友「すいません。どうぞ、お構いなく……」

お婆さん「……あの子が死んでしまってもう二年……。こうして友達が来てくれるのは有り難い事ね」フフッ

友「……」

お婆さん「……あの子も、今頃元気でいれば……」

友「どうして彼が死なねばならなかったのか、強く憤りを感じている所です。……遺書は無かったと聞いておりますが……」

お婆さん「ええ、何も。何に苦しんでいたのか……何も教えてくれないまま逝ってしまった……。婆に心配を掛けたくなかったのかもしれないけれども……悔しいねぇ……」

友「御胸中、お察しいたします……」

お婆さん「……人は死が近くなると仏が入るからねぇ……。それであの子も理由を話さずに……」

友「……」

お婆さん「今思えば、あの子がこうしてお守りを握らせてくれたのも、これを見越しての事だったのかねぇ……」

友「お守りですか」

お婆さん「ええ。ほら、これなのよ」スッ

友「……?」

友(中に何かが入っている……?)

仕事に戻ります。

再開します。

友「お守り袋に何か入っているみたいですが……」

お婆さん「……ああ、そうなのよっ。それで私が『これは何?』って訊いたの。そしたら、『今はまだ開けないでくれ』って……。そうだったわ……いけないねぇ、歳を取ると物忘れが酷くて……」

友「……開けてみて良いですか?」

お婆さん「どうぞ。きっとあの子も、お友達相手なら許してくれるでしょう」

友「……失礼します」

スルスル……

友(これは……マイクロsdカード? 破損しない様にケースに入れて……)

お婆さん「あら? それは何?」

友「携帯電話等に用いられている外部記憶媒体ですよ。写真やアドレスデータをこの中に保存できるんです」

お婆さん「? 何の事かよく分からないけれど……私が使える様な物ではなさそうね。良かったら持っていく?」

友「よろしいんですか?」

お婆さん「私にはこのお守りがあるからね。携帯電話、私は使わないし――貴方は使うんでしょ?――お友達が使ってくれるなら、b男もきっと喜ぶわ」

友「……すいません。有り難く、頂戴致します」

……

お婆さん「今日はありがとうね」

友「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」

ザッザッ

友「……」

友(マイクロsdカード……この中に手掛かりがあるとすれば……)

ブロロロ……

友姉「終わったみたいだな」

友「ああ」

友姉「収獲はあったか?」

友「あったとも。充分に、な」

友(家に帰ったら、早速中身を調べてみないといかんな)

……

女「――何とか綺麗になったね」

男「ああ。済まないな、助かったよ」

女「どう致しまして」

男「……ところで、今日はイケメン先輩から誘われていたりしなかったか?」

女「あ、忘れていた。悪いことしちゃったかなぁ」

男「約束していたのか?」

女「ううん、誘われてはいたけど、返事は返してないから……」

男「そっか……」ホッ

キーンコーンカーンコーン……

男「もう授業か。全然休む暇が無かったな……」

女「丸々時間取られちゃったね」

嫌味教師「オラ、とっとと席付け! チャイムが聞こえなかったか!」

ザワザワ……ザワザワ……

嫌味教師「……おお、男! 聞いたぞ? 鞄の中に猫の死骸が詰まっていたんだってな?」

男(今話題にする事かよ……っ)

嫌味教師「お前は何時も『あの』友とつるんでいるからなぁ……。大方、その方面からの逆恨みか何かじゃないか?」ヘッ

男(……チッ)

嫌味教師「そう言えば、その友は今日休みなんだな? 一身上の都合とか何とか言っていたそうだが、明確に言えない様な理由かね全く……」ブチブチ

男「……」イライラ

女「……あのっ、先生。授業を進めて下さい」

嫌味教師「うん? ああ、そうだな……今この場にいない奴の事を四の五の言ってても時間の無駄だったな。皆も覚えておけよ。友みたいな奴になると人生のお先は真っ暗だからな」

男「……っ! ……っ!」ワナワナ

女(抑えて、男……っ!)パクパク

男(分かっている……分かっているが……っ!)

男(……クソッ!)

……

嫌味教師「――で、この公式はこうなる訳だ。次の授業までにここいらの予習は済ませておく事。号令っ!」

「規律っ、礼っ!」

ワイワイガヤガヤ

男「さぁて、帰るか。今日は疲れちったな……」

女「ほんとにね……」

男「帰りに寄り道しようかと考えていたけれど、もうそんな気力も湧かねぇや……真っ直ぐ帰ろ……」グッタリ

男「……あれ?」

女「どうしたの?」

男「……靴が無い」

女「えっ!?」

男「おいおい……マジかよ。勘弁してくれよ……」

女「そんな……靴箱の入れ間違いとかは……」

男「んな訳あるか。朝、しっかりと自分の所に入れたわ。……はぁっ」

女「……お昼に続いて……今回もなんて……」

男「どうやら、よっぽど恨まれているみたいだな、俺は」

女「……私も一緒に探すよ」

男「いや、良いよ。先に帰れ。じゃなっ」スタスタ

女「あっ……」

女「……男……」

trrrr……

ガチャッ

友『どうした?』

男「おう、ちょっとな……」

友『何じゃ? 元気無いのう』

男「実は……」

……

友「――何と……そうじゃったか……」

男「流石にショックでかくてな……」

友『ふむ……ならば、保険医殿を頼ると良い。私から連絡を入れておく』

男「保険の先生にか?」

友『彼女なら信頼できるぞい。私も度々世話になっておるでな』

男「……前から思ってたんだけど、先生とどういう関係なんだ?」

友『私の姉者と同期なんじゃよ』

男「なるほど……」

友『彼女は人が良いから、よく面倒見てくれる筈じゃ。それまでじっとしておれ』

男「んっ、分かった。済まないな……」

友『何、気にするでない。んでは、またな』ガチャッ

ツーツー……

男「……はぁっ」

女「あ、ここにいたんだ」

男「女? まだいたのか」

女「あのまま帰れる訳ないでしょ? 男が困っているのに」

男「……」ジーン

女「とりあえず……靴、探してみたんだけど……下駄箱にはやっぱり無かった」

男「そっか……捨てられたな……」

女「……どうしよ……」

男「友の奴に連絡取ってみたら、保険の先生を頼れってさ」

女「先生に?」

男「友の方から伝えとくって話だったが――」

保険医「あー、いたいた。男君、大丈夫? 大変だったね」パタパタ

男「先生……」

保険医「友君から連絡受けた時はびっくりしたよ」

男「すいません……」

保険医「いいのいいの! 困った時はお互い様だよ! さ、行こう」グイッ

男「おっと……ど、どこへ?」

保険医「車で送ってあげる。ほら、サンダル貸してあげる。女さんも一緒に乗りなよ」

女「良いんですか?」

保険医「一緒に面倒見てやってくれって友君からのお願いだからね」

男「今日程アイツに感謝した日は無い」

ブロロロ……

……

友「……ううむ」カタカタ

友「カードの中身は幾つかのバックアップに画像データ、サウンドデータにテキスト……メールフォルダか。虱潰しに見ていくしかないのう」

友「……しかし……」カタカタ

友「男の奴が虐めに遭うとはな……」

友「一体何故……?」

カタカタ……カタカタ……

友「……後はメールフォルダかの。やはり何かあるとしたらこの中じゃろうな」カチッ

友「……うむ?」

友「……」

友「これは……」

友「……成程のう」

友「やはり、足を運んだだけの価値はあったな」

明くる日――

男「保険の先生のおかげで助かった」

女「何か困ったら遠慮するなとも言ってくれたしね」

男「味方が増えてくれたのは頼もしい、んだが……」

保険医『男君、調子はどう?』

保険医『今は何ともない?』

保険医『今度、職員室で私の方から協力を求めるねっ!』

男「如何せん、ひっきりなしというのもどうかと」

女「……まぁ、でも贅沢言っている場合でもないでしょ」

男「まぁな。有り難いのは確かだし。……しかし、何か申し訳ないんだよなぁ……」

友「お前さんが気にする必要はないぞ」

男「おっ、友、昨日はありがとうな」

友「まさかこんな日が来るとは考えてもみなかったわい」

女「鞄の件に下駄箱に……今日も何かあると思うと……」

男「……ううっ、ちと気が滅入るな……」

友「問題を未然に防ぐのは困難じゃが、今は保険医殿に話を通しておるんじゃ。バックアップは折り紙つきじゃぞ」

男「本当に頼もしいよ」

女「――話は変わるけど、友君が昨日休んだ理由の『一身上の都合』って何?」

友「ああ。そうじゃな、話しておこうかの……。実は昨日、b男先輩の遺族を訪ねたんじゃ」

男「……二年前に自殺した先輩の親に?」

友「両親はおらんみたいでな、先輩のお婆さんに会うたんじゃよ。そこで、この様な物を受け取った」

女「……マイクロsd?」

男「b男先輩のか」

友「うむ。この中――と言っても、これはデータの一部をコピーした物じゃが――に保存されておるメールフォルダの中に、興味深いデータがあっての……まぁ、見れば分かる」カチッ

男「メールのログか」

女「相手は……イケメン先輩……?」

友「面識はあるかの? 私は奴にはまだ聴取を済ませてないんじゃが」

男「話した事はあるよ。ここ最近に、色々とな……」

女「私も……」

友「そうか。まあ、メールの続きを読んでみておくれ」

……

男「……これは……」

女「……っ」

友「まぁ、言葉も無いだろうよ」

男「これ……っ、恐喝じゃねぇかっ!」

女「酷い……」

友「b男先輩が廃校舎に出入りしていたらしい目撃証言があるから、恐らくはそこで……」

女「お金を取ったり、暴力を振るったりしてたって事……?」

男「……ひでぇ事しやがる……っ!」

友「最後に、送信フォルダの方を見てみておくれ。誰にも送信される事のなかった、彼の遺書がある」

男「……っ」

――誰かがこれに気付くかもしれないし、気付かないかもしれない。これを見つけた人が、僕にとってどういう関係にある人かも、まるで見当が付かない。そんな不安と憔悴、虚無感にうなされながら、これを書いています。……どういう状況でこれを手に取ったのかは分かりませんが、これを読んだ人は、できれば、お婆ちゃんには内容を明かさないでほしいと願います。

歯向かう度胸も力も無い僕は、ただ奴の言いなりになるしかありませんでした。

お金も何万も取られました。体中の目立たない様な個所を中心に、酷く殴打されたりもしました。口汚く罵られ、嘲笑されるに至っては日常でした。

それでも、僕は抵抗する事ができませんでした。半端に手向かい、それからやってくる仕返しに怯えるばかりで、何もできませんでした。

助けを求めようと、先生に相談した事もありました。ですが先生は「虐められる方に責任がある」と、取り合ってもくれませんでした。クラスの皆も、僕が奴から虐められている事を知りません。相談できる仲間は誰一人といません。

優しい保健室の先生は僕を元気付けてくれました。ありがとう。先生に打ち明けようとも思いましたが、温かく微笑んでくれる先生に悩みを打ち明けるのが何故か憚られ、結局胸に押し込むばかりとなってしまいました。

僕は臆病者でした。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなsい、ごめんなさい。ごめんなさi

男「――これが遺書か……」

友「最後まで読んだか?」

男「ああ……」

女「……」

友「その下に長い空白があるじゃろう。そこまで見たか?」

男「え?」

女「あ……本当だ。シークバーがまだ……」

――死ね

男・女「……っ」

――死ね死ね死ねしね しね死ね死ねsね 死ね死ね死ね死ね死sね死ねしねしね死ね死ね死ね死ね死ねししねしね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…………

男「……」

女「……」

友「最後、遺書はそれで締められておる。心境の揺らぎが見てとれるな」

男「……文中に出ていた『先生』ってのは……」

女「当時の一学年の担任……だよね。二年前なんだから……」

友「嫌味先生じゃよ」

男「……嫌味の野郎かっ!」

女「……そんな……じゃあ、先生は……」

男「悩みに悩んで相談した結果、にべもなく突き返されて……」

友「そういう事じゃな。こないだ、嫌味先生には聴取を取ったんじゃがな、惚けるばかりで話にならんかったわい」

男「そうか……っ」ギリッ

友「まぁ、これをエサにまた先生には強請を掛けてみようかと思っておるがの」

女「イケメン先輩にも訊くの?」

友「勿論。何せ、張本人じゃからなぁ」

男「俺達が訊こうか? 何回か、軽くだが話をした事もあるし」

女「私も」

友「うむ……。しかし、憎まれ役になるぞ?」

男「構わねぇよ」

女「先輩は私に最近よく声を掛けてくるから、私も一緒ならきっと食い付いてくると思う」

友「……ほう。女、お前さんも随分言う様になってきたのう?」

女「……まぁ、色々思う事もあって、ね……」

友「そうか」

男「……そう言えばよ、お前、a子先輩の件はどうしたんだよ?」

友「彼女の事についても同時進行で調べてはいるぞい。ただ、b男先輩のケースを掘り進めて行く内に、思いの外ペースが捗っての」

男「そっちをまず優先したという事か」

友「それに、a子先輩もイケメン先輩の関係者じゃろう? 二つの事件は何れとも、彼が関わっておる事が分かったんじゃ。もしかしたら……」

女「密接な関係にある、と?」

友「……まぁ、そんな所じゃな」

担任「――おーい、そろそろhrだぞ」

男「っと、いけねっ」

担任「あー、男……」

男「はい?」

担任「今日は大丈夫なのか?」ボソボソ

男「ええっ、何とか……」

担任「そうか……それは何よりだ……。出来る限り力になるから、何か困ったら何時でも言ってくれよ」

男「ありがとうございます」

キーンコーンカーンコーン……

イケメン「やあ、女ちゃん」

女「どうも」

イケメン「やっとゆっくりできる時間ができたね。待ってたよ」

女「私の方としても、先輩にお訊きしたい事があったので」

イケメン「へぇ? 何々?」

女「……b男先輩を御存じですか?」

イケメン「……っ」

女「二年前に自殺したb男先輩です」

イケメン「……何? 君はアイツの知り合いか何かなの?」

女「いえ、面識はありません」

イケメン「んじゃあ、何で?」

男「――俺の友達が調べているんですよ」スッ

イケメン「……!」

女「遅かったね」

男「悪ぃな、ちと保険の先生と会ってた」

イケメン「ふーん……何よ? これ、尋問か?」

男「って程ではないんすけどね」

女「a子先輩の自殺の折、私達の友達がそれに興味を持ちまして、地道に調べて行ったその内にb男先輩の名前が挙がったんです」

イケメン「……」

イケメン「確かに、御存じではあるけれど……それ程親しくはなかったからなぁ……」ポリポリ

男「でも、彼とは何通かのメールをやり取りしていましたよね?」

イケメン「何の事? メールなんて、俺知らないよ?」

女「……これ、憶えがありませんか?」パカッ

イケメン「? ……っ!」

男「ひっでぇ話もあったもんすよね、先輩。脅して金を奪い取るなんて」ジリッ

イケメン「おいおいちょっと待ってくれよ。こんなメール知らないぜ? 何かの間違いだって」

男「……女」

女「うん」カチカチ

イケメン「……」

女「では、これについてはどう思いますか?」

イケメン「今度は何よ?」

女「b男先輩の遺書です」

イケメン「へ? 遺書は無いって聞いたけどな」

男「友がb男先輩の御宅を訪ねて、これ――マイクロsdカード――を受けとって来たそうです。その中のメールフォルダの中に遺書がありました」

女「内容は、お金を奪われたり暴力を振るわれたりされたとあります」

イケメン「知らねぇって言っているじゃん。あーあー、何なのさこれ。せっかく楽しい語らいができると思ったらこんな辛気臭い話ばかりでさーっ。マジ白けたわ」

男「……」

イケメン「その遺書ってのも、友って奴が適当にでっち上げたモンなんじゃねぇの? 大体ソイツ、最近校内であっちこっちをうろついては警察の真似事みたいな事してさ、マジうざい奴じゃん。女ちゃんがそんな奴と親しいなんて、ショックだわー。こんならギャルの所にでも行けば良かったわー」

男「……っ!」ピキッ

イケメン「時間の無駄だわ。俺、帰るわ」スタスタ

男「逃げないでくださいよ、先輩」ガシッ

イケメン「離してくんね? もう話す事なんて無いから」

俺「こっちにはあるんですよ」ググッ

イケメン「……チッ」

ドゴッ!

男「っ!? ぐ……っ!」ガクッ

女「!? 男っ!」ダッ

イケメン「黙ってりゃよぉっ! いい気になりやがってっ! オラッ、離せ!」バキィッ!

男「っ、ぐっ……」ガッシリ

女「……!」

パシィッ!

イケメン「――っ、何しやがんだこのクソアマッ!」バンッ!

女「キャッ!」バタッ

男「女! ……この野郎……! ぶっ殺してやるっ!!」グワッ

イケメン「がっ! ……んのっ! うぜぇんだよっ!」

――「そこまでだよっ!!」

イケメン「……っ!」

男「……っ」

女「……先生……」

保険医「今のやり取り、一部始終見させてもらったよ。イケメン君、どういう事なのか、説明してもらうよ」

イケメン「ちょっ、おかしいだろ!? 何で俺だけ――」

「――見苦しい男だ」ヌゥッ

イケメン「」

女「」

男「」

男(お、大女……。背高すぎだろっ!? 2メートル近くあるんじゃねぇかオイッ!?)ブルブル

男(……あ、だけど……胸もすげぇデカい……。目付きはキツいけど美人だし……)ポーッ

イケメン「……誰だよアンタ」

保険医「友君のお姉さんだよ。近くにいるって言うんで呼んだの」

女「と、友君の……お姉さんっ!?」

男「……美人だ」

女「……」ギューッ

男「痛ててっ!」

イケメン「友のだとぉっ? あの……」

友姉「貴様の言う、『あのうざい奴』の姉だ」グイッ

イケメン「っ! ちょっ、何しやが――」

バキィィッ!

男・女・保険医「」

ズサァァ……

男(……が……顔面パンチ一発で……今、6~7メートルくらい吹っ飛んだぞ……)サーッ

女「」ポカーン

保険医「……死んだね……」

男(オイ、保険医……)

イケメン「」

友姉「この程度で人間は死なん。せいぜい頬が砕けたかどうかって所だろう」

男(いや、それはそれで……)

ntrがしんだところで休憩します。

もう少しだけ再開します。

保険医「校内で暴力沙汰なんて、知られたら大変だよ?」

友姉「これは暴力ではなく、躾だ。コイツがその点を履き違えていなければ問題は無い」

男(何気に黒い会話をしているし……。ていうかオイ、保険医……)

友姉「……お前、男といったな?」

男「えっ!? あ、はいっ」

友姉「そして……お前が女だな?」

女「」コクコク

男(まだショックから立ち直れていないな……)

友姉「お前達の事は弟から聞いている。普段から仲良くしてもらっているそうだな」

男「あ、はっ、はいっ」

友姉「弟の大切な親友だ。私も出来得る限り、協力させていただく。よろしく頼む」

保険医「♪」グッ

男(いや、先生……グッて親指立てられても……。そりゃ確かに頼もしいけれども……)

女「よ、よろしく、お願い致しますっ」シドロモドロ

……

友「おおっ、探しましたぞ」

嫌味教師「っ、何だ?」

友「取材じゃよ」

嫌味教師「またかっ、俺はお前と違って暇ではないんだがな」

友「二年前の自殺について……」

嫌味教師「うるさいっ! 俺は忙しいと言っているだろうっ!」

友「実はこの間、b男先輩の家を訪ねての……」

嫌味教師「……それがどうしたっ」

友「出てきたんじゃよ」

嫌味教師「何がだっ!? もう俺は行くぞ! お前の無駄話には付き合っていられ――」

友「遺書が」

嫌味教師「――っ!?」

友「b男先輩の、最後に書き残したメモ……今まで無い物とされてきた。しかし、それはお婆さんが彼から貰ったお守りの中に隠されておったんじゃ」

嫌味教師「……ほうっ? それは良かったんじゃないか? お前にとって丁度良いネタになったじゃないか」

友「ああ。こうしてアンタを再び尋問できるのだからな」ニヤリ

嫌味教師「何故、俺がお前に……」

友「その遺書の中にはこうあった。『先生に相談を持ち掛けてみても、取り合ってもくれなかった』とな。『虐められる方に責任がある』とも言っていたそうじゃな?」

嫌味教師「知らんっ! そんな事は知らんっ!」

友「そうかい」

嫌味教師「……大体、その遺書とやらが本物であるという保障はあるのかっ?」

友「誰かがアンタを貶める為に偽造したと? まぁ、アンタはお世辞にも好かれているとは言い難い教師じゃから、確かにその線も否定しきれないとも言えるかもしれんなぁ……」

嫌味教師「……っ」

友「じゃが、メールフォルダのバックアップ・データが入っているsdカードがあった。その受信フォルダには、b男先輩がイケメン先輩から虐めを受けていた事を示唆する内容のメールが大量に残されておった。例え遺書の内容に誇張と虚言があったと仮定しても、アンタの受け持つクラスの生徒が虐めの被害に遭っていた事は裏付けられる」

友「アンタが実際にb男先輩から相談を受けていたかという事に関しては、明確な証拠は無い。その事実を認識していたかどうかすらもな。が、虐めを受けていた生徒がそれを苦にして自殺したんじゃ。もし、これを知ってて隠蔽しようと考えていたのなら……」

嫌味教師「……」

友「アンタ、先は長くないのう」ギロッ

嫌味教師「……っ!」ブルッ

友「虐め。求めても得られぬ助け。そして静かに積りゆく憎悪。苦しみと憎しみの二重拘束――ダブル・バインド――に捕らわれた彼の魂は浮かばれる事もなく、現世と冥界の挟間に漂い続けている。その遣り様のない爆弾を胸に抱いたままな」

嫌味教師「……何を、言っている……っ?」

友「分からんか? 『化けて出る』と言っているんじゃ」

嫌味教師「……ハッ! 何を言うかと思えば……」

友「いやに震えておるな?」

嫌味教師「っ!」ハッ

友「……まぁ、心当たりは充分にありそうじゃな」

友「a子先輩が死んで、少し日数が経ったな」

嫌味教師「……?」

友「殺人心理学には通じておるか? 犯人が殺人を犯した後、次の犯行に及ぶまでにはある程度の空白期間があっての、そこに独特の行動様式が表れてくるんだそうじゃ」

嫌味教師「……」

友「その空白期間の中で、殺人によって得られる快楽がフラッシュバックされるのに加えて、警察の捜査が難航している事を確認すると気持ちの増長が発生する様になる。己の手際についても復習する様になり、犯行が巧妙化してくるのも一つの特徴で、こういった循環が猟奇殺人の後押しになるわけじゃな」

嫌味教師「……それじゃあ何か? a子はb男の怨霊に殺されたと?」

友「……ある人物の証言では、b男先輩はどうもa子先輩に好意を抱いている様だとしている。しかし、最近a子先輩はイケメン先輩と同伴しているのが多く目撃されており、a子先輩の方もまんざらではなさそうだと周囲は見ていた。自分を自殺にまで追いやった奴に靡く想い人……という図は、b男先輩に只ならぬ激情を駆り立たせた事じゃろう。かの様に思えば、別段不思議な話とも思わんが」

嫌味教師「……フンッ、馬鹿馬鹿しい。非科学的だっ!」

友「まぁ、そう思うならそう思っとけば良いじゃろうな」

友「さて、忙しいじゃろうに良くぞ付き合ってくれたな。礼を言うぞい」

嫌味教師「……」

友「懺悔をするなら早い内が望ましいぞ?」

嫌味教師「……フンッ」クルッ

友「……やれやれ、聞く耳持たずか」

おやすみなさい。

読んでくれてる方々、どうもありがとうございます。

支援ありがとうございます。

再開します。

スタスタ

友「……さて、男達は上手くやれたかのう?」

友「おーい、そっちはどうじゃ……って、片は付いたみたいじゃの」

男「あ、ああ……。まぁ、片が付いたというか何というか……」

女「イケメン先輩、大丈夫かな……」

友姉「この程度で死にはしない。人間というのは思いの外、頑丈にできているものだからな」

保険医「確かに心肺停止はしていないけれど、顔付きは随分変わっちゃったね」

友「姉者も来ておったのじゃな。保険医殿が呼んだのか」

保険医「うん。やっぱりお姉さんがいると心強いでしょ?」

友「加減の下手な女じゃから……まぁ良い、結果オーライだったと考えよう」

友姉「お前の大切な友達はしっかりと私が保護したぞ」

友「おう、御苦労」

男「そっちの守備はどうよ?」

友「ハッタリかましたら簡単にボロを出しおったわい」

男「そうか。で、イケメン先輩にも聴取を取るか?」

友「訊いておらんのか?」

男「認めなかったんだよ」

女「その内に、男と乱闘になって……」

保険医「そこに私達が乱入したって感じなの」

友「まぁ、素直に口を割る奴ではないのは承知の上じゃ」

友姉「しかし分からないのだが弟よ、遺書からこいつらが主犯だというのは分かっているのだろう? その上で何を訊くんだ? 本人が認めたら警察にでも突き出すつもりか?」

友「謝罪させる」

男「謝罪ぃ?」

友「この度の事件においては、まずb男先輩にこいつの土下座を見せん事には始まらんと思ってな」

女「b男先輩のお仏壇にまで引っ張りだすの?」

友「いや、直接本人じゃな」

保険医「直接? 本人?」

男「どういう事だよ?」

友「正確に言えば、b男先輩の霊じゃな」

男「霊~?」

友「私がこの間に廃校舎へ足を運んだ時、見たんじゃ」

女「……霊を?」

友「うむ」

男「見間違いじゃねぇのか?」

友「いや、間違いは無い」

保険医「b男君が……廃校舎に……」

友「……と、いう事じゃ。イケメン先輩」

イケメン「……」

男「意識が戻っていたか」

友「今日このまま廃校舎に向かうつもりはない。如何せん疲れたのでな。明日は土曜日じゃし、休み明けに私達に付き合ってもらう」

友姉「このまま行くんじゃないのか?」

友「相手は物理が通用せん曖昧な存在じゃ。体力を充分に付けてからでないと、我々が彼の呪術に負けてしまう事だってあるかもしれん」

イケメン「……ケッ、頭湧いてやがる」

友姉「っ!」ギロッ

友「止せ姉者。まぁ、お前さんが信じられんのも当然じゃ。と言うよりも、ここにいる皆が私の話を信じる事ができないじゃろうな」

男「……まぁ、正直そうだな。霊が廃校舎にいるなんて言われても……」

女「……」

保険医「まぁ、友君がそう言うならそうなのかもだけど」

友「騙されたと思って月曜日を待ってておくれ。何事も無ければそれに越した事はないしのう」

保険医「今日はこれで解散?」

友「……と、いきたい所じゃが、もう一つ確認しておきたい。この場にいる者は知っておろうが、最近男が嫌がらせを受けておる」

イケメン「……」

友「先輩よ、何か知っておらんかな?」

イケメン「……何で真っ先に俺に訊くんだよ?」

友「お前さんには前科があるからのう」

イケメン「……」チッ

友姉「返事は即答で貰いたいのだが?」ゴキッゴキッ

イケメン「……っ」

イケメン「……ああ、そうだよ。俺がやった」

男「……」ジロッ

イケメン「……ケッ!」

女「……最低」

保険医「イケメン君だったのね。二年前も、今回も……」

友姉「男、こいつを許せないのなら、報復は私が代行してやっても良いぞ」

友「止さんかっ! こ奴には月曜日に同伴して貰わんといかんのじゃ」

男「……」

友「男よ、来るものがあるじゃろうが、今は辛抱してもらいたい。できるか?」

男「……元より、仕返しをやろうなんて考えてもいないさ」

イケメン「……」

友「分かった。それを聞けて安心した」

保険医「……じゃあ、今回はこれで終わりかな?」

友「そうじゃな。月曜日の放課後にまた集まっておくれ。廃校舎を探索する――が、保険医殿は来ない方が良いかもなぁ」

保険医「どうして?」

友「例えb男先輩に会えたとしても、二年前の彼ではない。憎しみと悲しみに捕らわれた彼の心魂がどのような変貌を遂げているのか、皆目見当も付かん。行く人来る人に危害を加える悪霊と化しているかもしれん。……いや、a子先輩の事を思えば或いは……」

保険医「……でも、それでも……」

友姉「貴様を思いやる弟の配慮だ」

保険医「……っ」

女「……じゃあ、良いのかな?」

友「うむ。御苦労じゃったな」

男「おう。ありがとうな……友」

友「礼は私ではなく、二人に言え」

男「そうだな。ありがとうございました!」ペコリ

保険医「良いの良いの。それが教員の仕事だしねっ!」

友姉「弟の友ならば、な」

友「先輩、くれぐれも逃げようだなんて思うなよ?」

イケメン「誰がっ!」

友姉「当日に姿が見られなかったら、家に押し入ってでも引き摺りだすからな」

友「そこまでやったらこちらが逆に不利になってしまうが……まぁ、こちらとしてもそれだけ本気だという事を頭に置いといておくれ。では解散」

……

コンコン

男「はい?」

警察「夜分にすいません。○○警察署の者です。今、よろしいですか?」

男「あ、はい……」

男(とうとう来たか)

警察「先日に発生したa子さんの校内における自殺事件につきまして、少々お訊ねしたい事がございまして……」

男「……警察では自殺と見ているんですか?」

警察「? はい。それが何か?」

男「あ、いえ……。どうぞ」

警察「ここ最近のa子さんの様子について――ほんの些細な事でも構いません――何か気が付いた事等はございますか?」

男「……いえ、特に親交があった訳ではありませんし……」

警察「そうですか……。事件当日は……?」

男「俺、その日は学校を休んでいたんですよ。風邪を引いてしまって」

警察「あ、そうでしたか。――学校内で、何か不穏な動きがあったとか、その点についてはどうですか?」

男「特に、別に。至って普段通りで……っ」

男(嫌味の奴の事、今ここで暴露しちまうか? どの程度の影響かは分からないが、炎上しちまえば責任問題になってくるだろうし……懲戒免職だってあり得るだろ……)

警察「……?」

男「……一つ、この事件とは直接の関係は無いのですが、思い出した事があります」

警察「何でしょう?」

男「俺の通っている学校に嫌味教師という先生がいるんですけど――俺達が入学する前にも生徒が自殺しているんですよ。嫌味教師はその生徒の担任で、彼から相談を受けていたんですけど、全く取り合う事もしなかったらしいんです」

警察「ふむ……」

男「今回ももしかしたら、嫌味先生が何か知っているかもしれません。a子先輩のクラスの担任でもありますし」

警察「嫌味氏には既に事情聴取を受けてもらってますが……いえ、分かりました。ありがとうございました」

男「お疲れ様です」

男(……これで一泡吹かせられるだろ……)

深夜――

嫌味教師「知らん……知らんぞっ! 私は何も知らん……っ!」

嫌味教師「あいつがっ! あいつが全て悪いんだ! 何時も何時もウジウジしていて……虐めがあったとしても、あいつの自己責任だ! ならば死んだのもあいつの自己責任! 全てあいつが悪いだけだっ……!」

嫌味教師「くっ……!」グイッ

嫌味教師「……クソがっ! 誰だ! 誰が警察にチクリやがった……っ!」

嫌味教師「……友かっ! あいつが……警察にっ……!?」

嫌味教師「野郎……ただじゃおかねぇぞ……っ」

嫌味教師「落ちこぼれの一匹二匹死んだからって、俺がその責任を負わされるなんて……!」

ガタッ

嫌味教師「!?」ビクッ

嫌味教師「……あっ!? あ……ああぁ……っ!?」

嫌味教師「馬鹿な……何で……っ」

嫌味教師「や、やめろ……っ! くる、来るなぁぁぁ……っ!」

嫌味教師「うあああぁぁ…… っ! がっ、あぁっ……!」

嫌味教師「……っ! ……っ……」

嫌味教師「………………」

休憩します。

支援ありがとうございます。少し投下します。

三日後――

キーンコーンカーンコーン……

男「何!? 嫌味が死んだ!?」

女「うん……」

友「……ふうむ、死因は自宅での縊死――首吊りか」

男「遺書か何かはあったのか?」

女「まだ分からない。情報がそこまで広がっていなくて……」

友「アパートの大家が見つけたらしいの。家賃の支払いを催促するつもりだったらしい。――家賃くらい払わんかい……公務員なのに」

男「……これで、二人目の自殺か」

女「……」ブルッ

男「大丈夫か?」

女「少し、寒気が……」

友「……イケメン先輩は登校しておるか?」

男「あ、ああ。さっき見たからな。教室にいるんじゃないか?」

友「そうか。ちぃと外すぞい」ガタッ

スタスタ

ガヤガヤ……

友「邪魔するぞい」ガラッ

……ッ!

友「ああ、これは失礼、突然の押し掛けで……。イケメン先輩、おるかの?」

シーン……

友「何じゃ、おらんのかいな」

「……何の用だ?」

友「放課後に会う予定があっての、その打ち合わせじゃ」

「またa子についてか?」

「まだウロチョロしてんのかよ……」

「うぜぇ……」

「マジきめぇんだけど」

友「ヒッヒッヒ、私も嫌われたもんじゃな。まぁ、仕方ないか」

ギャル「……ねぇ」

友「?」

ギャル「アンタのせい? イケメンの顔にでかい痣があったんだけど」

友「……まぁ、そうなるわな。私が直接手を下した訳ではないにしても」

ギャル「ふうん……」

友「文句があるなら後にして頂こうか。私はイケメン先輩に用があってのう」

ギャル「……んなら、談話室辺りに行ってみな。多分、そこだと思うから」

友「? そうか、かたじけない」

ギャル「アイツ、柄にもなくビビッているよ。外面では平静を保とうとしているけど、キョドっているのが丸分かり。何があったのかは分からないけど、マジ幻滅~」

友「そうかい……」

友(強かな奴じゃのう)

スタスタ

ガラッ

イケメン「っ!」ビクッ

友「おお、おったな」

イケメン「……んだよ」

友「今日の放課後についての打ち合わせをしようかと思ってのう」

イケメン「……」

友「何じゃ、随分元気が無いのう。今更になって臆したか?」

イケメン「っ! 誰が……」

友「んなら良い。どの道お前さんを連れて行くのは決定事項じゃし、拒否権も認めるつもりは無いしの」

イケメン「……」

友「今日の放課後に廃校舎前に集合。授業が終わり次第すぐじゃ。私の姉者も来るからそのつもりでな」

イケメン「部外者まで入れるのかよ……」

友「胆力のある奴がいてくれれば士気も又違ってくるからのう」

イケメン「そうかい……」

友「……」

友「嫌味先生が死んだそうじゃな」

イケメン「……」

友「奴もb男先輩の事件に関わりのある者じゃ。助けを差し出す事もせずに身捨て、事件を隠そうともした。その報いが今になって来たのかのう」

イケメン「ヘッ、ただの自殺だろうがっ」

友「確かに自殺じゃ。だが、それが彼自身の意志で執り行われたものなのかどうかを確かめる術が無い」

イケメン「……」

友「……まぁ、これは証拠も無い事だし、言っても詮無い事じゃがのう」

イケメン「……用が終わったのならもう行けよ。俺は一人になりたいんだ」

友「おうよ。では、御免」

……

男「なぁ、友」

友「何ぞ?」

男「実はこないだ、とうとう警察が俺んちに来てさ……」

友「やはりか。私の所にも来たでな」

男「その時に喋ったんだ……嫌味教師の事について」

友「話したのか?」

男「ああ……」

友「……まぁ、捜査協力はせんとイカンからなぁ」

男「もしかして、自殺した理由って……」

友「んな馬鹿な。姑息かつ卑怯であれども、まだ裏付け調査を行っていない筈のその情報一つで自殺をする程ヤワではあるまいに」

男「……そうだよな」

友「何じゃ、んなモン気にしておったのか。呆れたのう」

男「何となく良い気はしなくてな」

友「これも一つの運命だったという事じゃよ」

男「……ん」

キーンコーンカーンコーン……

……

友「――さて、人数は揃ったの?」

男「ああ」

女「皆いるよ」

友姉「うむ」

イケメン「……」

友「では、参ろうかのう」

スタスタ

男「うっぷ、ここらは埃臭いな……」

女「マスクでも持ってくれば良かった……」ケホケホ

友「この間、例の彼を見たのはここいらじゃな」

友姉「ここなのか」

女「ここら辺の戸は立て付けが悪いんだよね」

イケメン「……っ!」ビクッ

友「む? ……出おったか……」

「……」

男「……マジかよっ」

女「本当にいたんだ……」

友姉「……」

「……」

スゥゥゥ……

男「あそこの戸か!」

友「私が見た時と同じじゃ。彼もあの日、こうしてこの戸の向こうへと消えて行った。この向こうには何かがあるのかと思うのじゃがなぁ……先輩よ」

イケメン「……」

友姉「心当たりはあるのだな」

イケメン「……俺が、アイツをここに連れ込んでいた……」

男「……ここか……」

女「この中で……」

友「ひとまずはここを開けたいのじゃが……」

ガタガタッ

友「ご覧の通り、ビクともせん」

イケメン「……前までは、こんな事はなかった……筈だ……」

男「という事は……b男先輩がここを……」

女「……封印したって事?」

友「明確には封印したと言うよりも、彼の心の壁が具現しているといった感じではなかろうか」

女「心の壁……誰も寄せ付けない為に?」

友「うむ」

友姉「……下がっていろ」スッ

男「?」

友姉「例え我らを拒もうとも、この戸自体は何て事はない木造だ」ググッ

女「……え?」

男「……まさか……」

友姉「ハァァァァッ!!」

バキィィィィッ!

男「」

女「」

イケメン「」

友「……まぁ、已むを得まい……」

キリが良い為、ここで区切ります。おやすみなさい。

台風凄いですね...

投下します

パラパラ……

友「さて、男、女、お前さんらはどうする?」

男「?」

女「どういう意味?」

友「私の予測が正しければ、この先は危険な予感がする」

男「危険……?」

友「この戸が壁を意味するならば、この先は彼自身の心の中の世界。言うならば、我らは彼の精神を犯そうと外部から侵入してきたウイルスじゃ。そんな不逞な連中を見逃してくれると思うか?」

女「……」

男「俺達は邪魔だという事なのか……?」

友「いんや、いてくれるならばこれ程心強い存在はない。仲間というのは本当に良いものじゃて」

女「……!」

男「……俺達も付いていく」

友「良いのか?」

男「借りを返さないといけないし、な」

女「……うん!」

友「……分かった。かたじけない」

イケメン「」

友姉「おい、行くぞ」ゴンッ

イケメン「ぶっ!? チッ、分かってるっての……」

スタスタ

友「懐中電灯を持ってきておいて良かったわい」

男「別棟に向かう為の連絡通路なのか、ここは」

女「床板がギシギシ言うね……」

友「随分と離れた場所を選んだな?」

イケメン「……目立たない場所の方が、悪さするなら良いだろうよ……」ブスー

友姉「……」

ガタガタ

男「っ!?」

女「な、何!?」

友「……むぅ! 皆、前をっ!」

メキメキ……

男「ゆ、床板が……剥がれて……」

ヒュンヒュン

女「きゃああっ!」

イケメン「う、うわああああっ!?」

メキメキ……

友姉「チィィッ!」

バキッ! グシャッ!

友「姉者っ! 次が来るぞい!」

ヒュンヒュン

友姉「フンッ! この程度の板きれ! 全部叩き落としてやるさ!」

バキィッ!

男「お、お姉さん、大立ち回りだな……」

女「板を素手で落としている……」

友「格闘こそ、姉者の十八番じゃからな」

グシャッ!

カラン……カラン……

友姉「フッ、丁度良い準備体操だったな」ニヤリ

男「……友、お前のお姉さんは軍人か何かか?」

友「いんや。ただの変態じゃ」

女「へ、変態って……」

友姉「もう大丈夫そうだぞ、弟よ」

友「うむ。んでは、行こうかのう……っと!」ガシッ

イケメン「っ!? な、何だよ!?」

友「逃げよう……たって、無駄じゃぞ?」ギロッ

イケメン「……っ」

男「……」

女「……」

友「……行こう」

スタスタ

男「さっきのがこれからも?」

友「うむ。そう考えておいた方が良いじゃろう」

女「……周囲の警戒、怠れないね……わぷっ!」ポフッ

友姉「……かと言って、前方不注意は頂けないな」

女「す、すいませんっ」アセアセ

イケメン「……」ガタガタ

男「顔、真っ青だぞ」

イケメン「っ!」

友「……やれやれ」

男「――棟に入ったな」

女「教室が並んでいるね。机や椅子……そのままなんだ……」

友「全部古い奴じゃな」

ガタガタ

男「!」

女「……ま、まさか……っ?」

グワァァァ!

イケメン「~~!」

友「机と椅子かいっ! 流石にキツイか!? 姉者!」

友姉「フフッ、安心しろ……」ニヤリ

ガチャン! ガチャン!

グワァァァ!

友姉「所詮は木造品……こんなガラクタ程度にっ!」

バキャァァァ!

友姉「遅れはとらんよっ!」

バキッ! ボゴッ!

ガラガラッ!

男「おわっと!?」

女「は、破片が……っ」

イケメン「痛っ! く、クソ……!」

友姉「小僧! 仮にもその小娘の彼氏ならっ、男気くらいは見せてみろ!」

男「!? か、かれし……っ!?」

女「」ボッ

男「……っ! こ、こうなりゃあヤケだ! やったるぜぇぇっ!」グワッ

女「あっ! 男、あぶなっ……」

ポコッ

男「痛いっ!」

ヒュンヒュン

友「っと、危ないのう……」カチャカチャ

男「いててっ! って、友! さっきから何してんだよっ!?」

友「……良しっ! 出来た!」スチャッ

ヒュンッ!

女「っ! 男!!」

男「いっ!? やべ――」

ドォォォン!

男女イケメン「!?」

パラパラ……

シーン……

男「……」キョトン

女「と、友君……それって……」

イケメン「て、てめぇ……っ! 銃なんて持ってたのかよっ!?」

友「正確には、鉄パイプを使って自作した玩具鉄砲じゃ。銃口から火薬を入れ、弾を込め、逆行防止の為の紙屑を詰める簡素な仕組みじゃが、威力はそれなりにある」

友姉「単発式に加えて装填に時間が掛かるがな。置いてこいと言ったのに……」

友「結果的に役立ったから良かったではないか」ニッ

友姉「……フフッ、そうだな」ニッコリ

男「……て言うか……銃刀法……」

女「で、でもっ、ちょっとマズいんじゃないの? 敷地内でこんな騒音立てたら……」

友「その点については心配要らんと思うぞ? 窓を見い」

女「……え?」

男「夜っ!? もうそんな時間か!? 日暮れまではまだ……」

イケメン「……携帯が繋がらねぇ」

男「え? ……本当だ」

女「そんな……敷地内は……」

友「ここは既に彼の空間の中だという事じゃよ」

友姉「後戻りもできないってところか?」

友「さぁの。彼に頼めば帰れるじゃろうがな」

スタスタ

男「……」

女「……」

パラ……

友姉「? むうっ」

友「止まれ貴様ァァァ!!」

男女イケメン「!?」ビクッ

友姉「っ!」ピタッ

ガラガラガラ!

女「キャアアアア!」

男「女っ!」ダキッ

友「チィッ!」

友姉「弟!」グイッ

ガラガラガラ……

カラン……

男「……大丈夫か?」ケホッ

女「う、うん……」ドキドキ

友「やれやれ……天井が落ちてきたかい」

男「……あれ? 先輩は……?」

友「むう?」

女「……いない」

友姉「尻尾巻いて逃げだしたか?」

友「……いや……」

カツンカツン……

友「瓦礫の向こうから足音が聞こえる」

男「一人で進んだってか? あれだけビビリだったのに」

女「でも単独で動くのは危ないんじゃ……」

友姉「この程度なら乗り越えられる。さっさと追おう」

ガラ……ガラガラ……

男「女、大丈夫か? 手を出せ」

女「うん……ありがとう」

男「よっと。やれやれ、お前の嫌な予感は的中したな」

女「こんな大事になるとも思わなかったけどね」

友「危機を共に乗り越えていく内に芽生える友情……青春じゃのう」ニヤニヤ

男「ばっ、からかうなよっ!」

女「……」モジモジ

友姉「皆来たな? 走るぞ」

タッタッタッ……

男「あいつはどこに行っちまったんだ?」

女「そんな離れてはいない筈なのに……」

友「……」

友姉「ん? あそこか?」

女「戸が半開きになっている……」

男「中を覗いてみるか」

コソッ

男「……いた。先輩だ」

女「どう? 他に誰かいる?」

男「……」ジーッ

イケメン「……」

「……」

男「いる。さっき見かけたあの幽霊だ……」

友「どんな様子じゃ?」

男「さっきから黙って対峙しているだけだ。動きもしないし話もしねぇ」

女「……何をしようとしているんだろう」

「……」チラッ

男「っ!? やべっ! 視線が合った!」ヒョイッ

女「えっ!?」

「……」クイクイ

ズズッ……

友「戸が開いたな」

男「……来いってか?」

友姉「招かれたなら、応じる他あるまい」

男「……行こう」

「……」

男「……b男先輩か?」

b男「……」コクッ

友「イケメン先輩の様子がおかしいのう」

友姉「目の焦点が合ってないな」

女「……先輩のやった事なんですか?」

b男「……」

女「今回の事件は、先輩がやった事なんですか?」

b男「……分からない」

男「……分からない?」

友「……」

b男「分からない。僕は、どうして……」

女「……?」

男「一体何が分からないんだ?」

b男「分からない……そんなつもりじゃなかった筈なのに……」

b男「殺すつもりはなかった筈なんだ。最初は、本当に……」

女「……?」

友「やはりな」

女「? 何が?」

友「彼は意識レベルで自分が置かれている状態を理解できていない」

男「?? 自分が幽霊になった事が分からないって事か?」

友「それもあるじゃろうが、端的に言うと、彼は溢れる力を持て余しているという状態じゃな」

女「私達を襲った、あの現象の事?」

友「うむ。――先輩よ」

b男「?」

友「最初は、と言ったな? その次に死んだ嫌味についてはどうじゃ?」

b男「……」

友「遺書を読ませてもらったぞい。それによると、嫌味教師には随分と冷たくされたそうじゃないか。さぞ悔しかったろう。その奴に対して、殺意は持っておったか?」

男「嫌味は自殺じゃないのか?」

友「自殺だと警察は見るじゃろうがな。しかし、彼が自殺する様にけし掛けた可能性もある。a子先輩と同じ様にな」

女「え? じゃ、a子先輩も……b男先輩に?」

友「ん、そうか……お前さんらにはまだ話していなかったか……」

b男「……違う」

友「……」

b男「a子さんを殺す気なんて、なかった。その、筈だったのに……」

友「うむ。そのa子先輩の事件を経て、お前さんは自分の持つ力の特性を理解した筈じゃ。それは使い方を誤れば、容易に人を死に追いやれるものだと」

b男「……」

友「嫌味は、お前さんが殺したのか?」

b男「……」コクッ

友「……その次は、イケメン先輩か」

b男「……うん」

男「案外あっけなく認めたな……」

しまった...投下直後に矛盾点に気付いた...。

今日はここで区切ります。支援頂いた方々、ありがとうございます。おやすみなさい。

友姉は高身長かつダイナマイトボディなクールビューティーさんです。

ちょいと再開します。

友姉「……」ゴスッ

イケメン「――はっ!? こ、ここは……」

女「気が付いたみたいよ、男」

男「ん」

イケメン「っ! あっ、ああ……!」ガタガタ

男「先輩、彼の顔、忘れた訳ではないですよね?」

イケメン「……てめぇ……化けて出やがったか……!」

友「彼はお前さんを殺すつもりでいるそうじゃ」

イケメン「! ……へへっ……そうかよ……っ!」

女「……?」

イケメン「殺せるもんならぁ! 殺してみろやぁ! オラァァ!!」グワッ

ガゴッ! ガタンッ!

友「教材を投げるな! そんな事をしても幽霊に通じるかい! ったく……」

イケメン「消えろ! 消えろ! 消えちまえぇぇぇ!!」

ガタッ! ボコンッ!

b男「……」

イケメン「……ハァ……ハァ……」

友「気は済んだか?」

イケメン「……っ、うらぁぁぁぁ!」ブンッ

スカッ

ガタガタンッ!

男「殴り掛かっても意味無いって……」

女「……」

イケメン「っ、く、くそぅ……っ」

友姉「……フンッ」

友「……さて、b男先輩よ」

b男「……?」

友「こんなどうしようもない奴じゃが、みすみす殺させる訳にもいかんのじゃよ」

b男「……」

友「私としては、今すぐこ奴の首を取って献上したい所なんじゃがな……」

女「と、友君……っ」

男「大丈夫。あいつなりの考えがあっての事だろう……」

友「お前さんがa子先輩一人を手に掛けた時点では、こ奴を殺してそれで手打ちとする心算もあった」

イケメン「! て、てめ……っ」

友姉「黙ってろっ!」ガシッ

イケメン「っ、ぐうぅ……」

友「しかし、お前さんはすでに二人目を殺ってしまった。これ以上はこちらとしても看過し得ない。これ以上の殺戮を認めたら、お前さんはきっと、学校中に死を災厄の様にばら撒く存在となる筈じゃ」

b男「……」

友「敢えてキツイ言い方をするが……今まで弱者であったお前さんが、突然、人の命運を左右できる程の力を得たんじゃ。それに溺れたが最後、お前さんは自我の及ばぬ範囲にまでその力を伸ばし、数々の不幸の根源となろう。最初の事件である、a子先輩の様にな」

b男「……」

友「a子先輩と嫌味の奴でコントロールを覚えただろうが、それは間も無く忘れてしまうじゃろう。殺人は一種の快楽じゃ。まして、非業の死を遂げたお前さんからすれば、特に」

b男「……それで?」

友「む?」

b男「だから、手を引けって言うの?」

友「無論、タダで引き下がってもらう訳ではない。頼み込む以上、こちらとしても誠意を見せなければ話にならん」

男「お、おい友! 誠意を見せるって、一体どうやって……」

友「イケメン先輩よ。この為にお前さんをここに連れて来たんじゃぞ」

イケメン「な、何をしろってんだよ……」

友「謝罪せぇと言っとるんじゃ。彼に土下座してこれまでの事を詫び、悔い改めろ」

イケメン「なっ、ざけんなっ! こいつ、a子を殺しやがったんだろが! そんな殺人野郎に土下座って……!」

友「貴様、自分の立場が未だに分かっていないみたいじゃのう」

男「こいつ……!」

友「男っ! 抑えろ! お前さんが手を汚す必要は無い!」

男「……っ」

イケメン「勝手に死んで、勝手に化けやがったこんな奴に――」

ジャキッ!

イケメン「……ひっ!?」

女「!」

男「と、友っ!?」

友「貴様に選ばせてやろう……」ゴリッ

友「この銃で頭をふっ飛ばされるか、土下座をするか……どっちだ!?」

友姉「……」

b男「……」

イケメン「……っ、いきなり何を言い出すかと思ったら……」

友「俺は本気だ! いくらオモチャでも、この距離で被弾したら脳ミソがぶっ飛ぶぞ!」

イケメン「……っ!」ゾクッ

友「答えろっ!!」

イケメン「そ、そんなこけ脅し……」

ガチンッ!

イケメン「うわぁぁぁぁ!!?」

友「……チッ、不発か。運が良かったなァ貴様」

男「……」ドキドキ

女「……」ガタガタ

一旦区切ります。

イケメン「て、てめっ、今、マジで……っ!」ガタガタ

友「次は、どうかな?」ジリッ

イケメン「っ! 分かったよ! やりゃあ良いんだろが!」

友「ハナっからそういや良いんだよ、ボケがっ!」

イケメン「……」スゴスゴ

女「……と、友君……?」

友「ん? 何じゃ?」ケロッ

男「な、何つうギャップ……」

友「まぁ、奴には良い薬になったじゃろうて」ヒッヒッヒ

友姉「今のは濡れたぞ、弟よ」

友「自重せぇ変態」

イケメン「……」

b男「……」

イケメン「……すっ、すいません、でした……っ」

b男「……」

友「先輩。どうしようもない阿呆ではあるが、これに免じて引いて頂けないじゃろうか?」

b男「……」

友「……ホレッ、まだ足りんとよ」ジャキッ

イケメン「っ! ……すいませんっ! 本当に、すいませんでした……っ! ゆ、許して、下さい……!」

b男「……」

b男「…………」

スウゥゥゥ……

男「き……消えた……」

女「……終わった……の?」

友姉「ん、外を見ろ」

男「あ……夕焼け空……戻ってきたのか……」

友「……ほっとしたわい」フゥッ

イケメン「っ! てめぇっ! さっきはよくも!」ガバッ

友「っと、何じゃい?」

イケメン「銃を突き付けて脅かしやがって! チクッてやる! てめぇのやった事を全てっ!」

男「お前っ、まだそんな事言いやがるか!」

友姉「弟、お前が望むなら今すぐコイツを殺すが?」ボキボキ

友「まぁ待てお二方よ、そんな荒立てる事も無い。――ほれ、見てみろ」

イケメン「……?」

友「これ、弾が入っておらんのじゃよ」

イケメン「…………は?」

男「……へ?」

女「え?」

友姉「弾込めしていないからな」

友「一発撃った後、うっかり装填するのを忘れておったんじゃ!」ヒッヒッヒ

男女「~~~~」ヘナヘナ

イケメン「…………」

イケメン「で、でも! てめえが銃を持っていた事実は……」

友「姉者」ホイッ

友姉「うむ。……良いのか?」

友「役目は果たしたからの」

友姉「……そうか」

バキッ!

イケメン「」

ギチギチッグニャッ

ガラン……

友「これで、銃はただの鉄クズになった。他に言う事はあるかのう?」

イケメン「……」

友「無ければ早いとこ出ようぞ。疲れてしもうたわい」

男「そうだな。俺も腹減っちまった」

女「埃も酷いし、お風呂入りたい……」

友姉「やる事が終わったなら、ここにいる意味は無いな」

友「良しっ、撤収じゃ!」

イケメン「……」

カァーッカァーッ

友「んでは、気を付けてな」

男「おう。今日は本当にお疲れさん」

友「お互いにな」ヒッヒッヒ

バタンッ

ブロロロ……

女「……」

男「どうしたんだ?」

女「いや、まるで夢を見ていたかの様だなぁって」

男「……そうだな、とても信じられない事の連続だった」

女「飛んできた机や椅子、床板も、気が付いたら元通りだったし……」

男「唯一そのまんまだったのは、友のお姉さんが殴り飛ばした戸ぐらいのもんだったな」

女「友君は『b男先輩が作り出した仮想空間での出来事だったと思え』って言ってたけれど……」

男「まぁおかげで、友が鉄砲を持ち出した証拠が残らなくて済んだってのもあるけどな」

女「……何か変な気分」

男「埃臭い所で長時間ドタバタしていたからな。早くさっぱりしなきゃな」

女「うん」

男「……今日の事を語り合えるのは、友とお姉さんを交えたこの四人だけか」

女「誰にも言えないね」

男「話した所で、鼻で笑われるだけだからな」

女「フフッ、ほんと、そうだね」

カァーッカァーッ

明くる日――

保険医「……そっか。消えたか……」

男「はい。恐らく、渋々ながらもではあるでしょうが……納得してくれたんではないかと思います」

女「何も言わずに消えてしまったのが気掛かりですけどね……」

友「とりあえず、現時点では様子見じゃな」

保険医「a子ちゃんについては……とばっちりを受けた様な形だね」

友「ま、教訓じゃな。男を見る目の無い女は苦労するという事じゃ」

男「……随分冷たいな?」

友「だが間違ってはおるまい?」

保険医「ん……分かった。教えてくれてありがとうね」

男「いえ。先生にはお世話になりましたしね……」

保険医「……あれからもう何も無い?」

男「はい。おかげ様で」

女「何かあったら、それがイケメン先輩の手によるものだってのは分かっちゃったからね」

友「この事件で奴も大人しくしていてくれれば良いんじゃが」

男「大人しくなるとはとても思えないがな……」

保険医「でも、今回の事は彼にとっても良いお灸になったんじゃないかな」

男「……だと良いんですけどね」

保険医「……これで終わり、だと良いね」

男「……はい」

女「そうですね……こんな事がまたあったら、なんて思うと……」

友「辟易するのう」

男「――では、これで」

保険医「うん」

女「失礼しました」

友「邪魔したのう」

男「……で、実際、どう思うよ?」

女「b男先輩の事?」

男「おう。本当に成仏してくれたのかどうかさ」

友「霊が成仏するのは未練が取り払われた時だと、大体相場が決まっておるがな」

男「未練……未練か。……晴れた、かなぁ?」

女「……」

友「そう考えると又不安じゃのう」

男「……経過を見るしかないのか……」

女「そうだね……」

友「尤も、何か起こったとしたら、その時はもう手遅れじゃろうがな」

男「お、脅かすなよ……」

友「ん、すまんな」

キーンコーンカーンコーン……

……

「でさー、昨日できたばかりのあの店に行ってみたんだけどねー」

「えー、うそー? マジー?」

男(……何時もの光景だ)

「今日の帰りゲーセン行かね?」

「良いねー。お供するぜ」

男(この期間で二人も死んだけれども……)

「とうとう手に入れたぞ……初回限定のフィギュアを……!」

「キタコレー!」

男(何事もなく、過ぎていく)

「やべっ、レポート忘れてた!」

「うはっ、死亡フラグ立ったな」

男(……次に、又何か起こった時は……)

「ねーねー、昨日の写メってさー……」

「えへへ、実はそうなのよー」

男(この内の誰かが消える事もあり得る……という事だよな)

男「……」

男「……何か、落ち着かねぇな……」

……

女「何か難しい顔をしているね」

男「ん? ああ……」

女「やっぱり……今回の事?」

男「……」コクッ

女「……あまり深くは考えない方が良いよ」

男「まぁ、そうなんだけどさぁ……。どうもなぁ……友が脅かしてくるもんだから……」

友「それはスマンかったな」

男「っと、来たか。今日お前、弁当じゃないのな?」

友「姉者が寝坊してな。やはり昨日暴れた分、疲れたらしい」

女「無理も無いね。机や椅子を素手で相手してたし……」

男「そのおかげで俺達も助かったけどな」

友「さてさて待たせたな。では、食うとするかの」

男「――まぁ、まだどうなるかは分からないけどさぁ」モグモグ

友「?」

男「もし、次に何か起こったとしたら、誰が死ぬと思う?」

女「……」

友「言わずとも知れておる。まずあの阿呆からじゃろう」

女「……『まず』? 『から』? やっぱり他にも誰かが……?」

友「霊が現世に留まるのは、未練によってこの土地に縛られておるからじゃ。彼の様な死を迎えた者からすれば、尚の事その存在は不安定。自身を見失い、暴走する事も考えられる事じゃからな」

男「b男先輩と話していた時にも言ってたな……『死を災厄の様にばら撒く』とか……」

女「はっきり言ってしまうと、イケメン先輩が死んだら次は私達かもしれないって事……?」

友「いや、そう決めるのは早計じゃろう。何せ、奴はあんな性質じゃからな。他の要因も絡んでくるかもしれん」

友「天罰が下る、なんて事もあるじゃろう」

女「先輩が許しても、神様が許さなかった……ていうパターン?」

男「可能性としては大いにあり得そうなのが又……」

友「言っておくが、奴が死ぬと決まった訳ではないからな? ――さぁ、飯を食おうぞ。昼休みが終わってしまうでな」

男「……そうだな」

今日はここで区切ります。

おやすみなさい。

支援ありがとうございます。

少しだけではありますが、再開します。

......

男(皆の危惧する中、平穏な時は続いていた)

男(このまま何事も無く終われるかもしれない。そんな安堵をも覚えようとしていた)

男(しかし、その認識は甘かった。先輩の無念は深く、再び事態が進行する事となってしまったのだ)

男(あれから一月経った頃だった......)

カァーッカァーッ

男「……さぁて、帰るとすっか」

女「ねぇ、男」

男「うん?」

女「今日友達と話していたんだけどね、駅前に新しいお店がオープンしたんだって」

男「へぇ、そうなのか」

女「今度の日曜日にさ、一緒に行かない?」

男「……そうだな、気晴らしにもなるだろうし」

女「じゃ、約束だね。忘れないでよ?」

男「はいはい」

友「ヒッヒッヒ、青春じゃのう……」

男「何が可笑しいんだか……」

女「友君もお姉さんと行ってきたら?」

友「そうさの。たまには姉者を誘っていくかのう」

男「あ、んじゃあさ、日曜日に皆で――」

友「ばかもん、女心を解せん奴は振られるぞい?」ボソッ

男「えっ? な、何だよ……」ボソッ

友「お前さんと二人で行きたいんじゃよ、女は」ボソッ

男「……そ、そうか……」ボソッ

女「どうしたの?」

友「ん、いや何、男の会話じゃよ」

女「?」

男「そうそう。さっ、帰ろうぜ」

友「男も大概鈍感じゃのう……」ヤレヤレ

日曜日――

男「いやーっ、盛況だなぁ」

女「流石に休日は混むね……キャッ!」ドン

男「おっと、大丈夫か?」ダキッ

女「う、うん……」

「すいません、大丈夫ですか?」

女「あ、はい。大丈夫です」

「良かった……怪我させたら大変だった」

男「店員さんですか? 結構な賑わいですね」

「ええ、おかげさまで大変ご好評頂いております。――あ、そうだ。あそこのカフェにはもう行かれましたか? 只今カップルのみを対象にちょっとしたサービスを行っているんですよ」

男「え? あ、カップル、ですかっ?」

女「ありがとうございます。行ってみます」

「ごゆっくり、お楽しみ下さいませ」ニッコリ

女「行ってみよ、男」グイッ

男「おっとと……。な、何だか、やたら張り切ってるな……」

コソコソ……

友「ヒッヒッヒ、来おったわい来おったわい」

友「男は女に引っ張られておるみたいじゃなぁ……将来ケツに敷かれるぞい」

友姉「何しているんだ?」

友「いや、何でもないわい。買ってきてくれたか」

友姉「ああ。チョコアイスで良いんだったな?」

友「すまんのう。……うん、美味い」

友姉「……」

チュッ

友「ん、何じゃ、食べている最中に……」

友姉「甘いキスとはどんなものか、味わってみたくてな」

友「人前でするもんじゃないぞ、全く……」

女「――これだね。パフェだってさ」

男「こ、これって、一つのでっかいヤツを二人で食べるアレじゃないだろうな……」

女「……」ポッ

男「……マジかよ」ポーッ

女「は、入って、みよ?」

男「おう……ん?」

女「どうしたの?」

男「あれ……」スッ

イケメン「あちぃーっ! 全く、たまらねーっ」パタパタ

黒ギャル「あー、冷房涼しー……。あっ、見て見て、シャンデリアー」パタパタ

女「イケメン先輩だね。来てたんだ……」

男「また別の女子連れているぞ。全く……」

女「その内女の子に刺されるんじゃないのかな?」

男「あり得そうで怖い」

ガヤガヤ……

女「こ、これがカップル専用のパフェ……」

男「デカいな……」

女「これを二人で、その、仲良く食べる……んだってさ」

男「……ええい、ままよ! 食うなら早いとこ食っちまおうぜ!」パクパク

女「あっ……う、うん……そうだね……」ポッ

パクパク

女「お、男……」スッ

男「……」

女「あ、あーん……」カーッ

男「……食えと?」

女「い、いいでしょっ! 一回やってみたかった……んだもん……」カーッ

男「……」ポッ

男「……」パクッ

女「……お、おいしい……?」

男「……悪くはない、よな」

女「そ、そうだ……ね……」カーッ

友「ヒッヒッヒ……初のう初のう」コソッ

アリガトウゴザイマシター

女「美味しかったね」テレテレ

男「お、おう」テレテレ

女「……」

男「……」

女「ど、どっか他のお店も、回ってみよっか?」アセアセ

男「っ、そうだなっ!」

コソコソ……

友「……新密度はグンとアップじゃな」グッ

友姉「さっきから何をやってると思ったら……あいつらか。声を掛ければ良いだろう?」

友「イカンイカン。二人の世界を崩すのはまかりならん。今日は女が男を誘ってのデートじゃからな。女の努力を無駄にしてはならん」

友姉「邪魔はしないが出歯亀はするのか」

友「ヒッヒッヒ……」

友姉「せっかく出掛けたのだから私にももっと構ってほしいのだが、弟よ」

ガヤガヤ……

男(……)

女「あ、男! あれ見て!」

男(女とは幼馴染だったが……)

男(今まで、こんなにも気にした事はなかったな……)

男(意識する様になったのは……そうだよな、イケメン先輩がちょっかい出してきたからだ……)

男(それまで女に対する好意をどこか誤魔化していた様な……そんな気がする)

男(……皮肉だな……)

女「男? どうしたの?」

男「あ、いや、何でもない。どうした?」

女「あれ! 綺麗な噴水だよね」

男「百貨店の中だってのに、随分と豪勢だなぁ……」

女「エントランスには大きいシャンデリアもあったしね」

男「全く大したもんだ」

……

女「いっぱい買い物しちゃった」

男「女ってのはどうしてこう……」

女「良いじゃん、たまには」プクー

男「ははっ」

シャラン……

男「……?」

女「どうしたの?」

男「……いや、今何か、音が……」

ガシャーーーン!

男女「!?」

キャーーーッ!!

男「なっ、何だ!?」

女「……あっ、あれ! シャンデリアがっ!」

男「落ちたのか……って、脇にいるのは……イケメン先輩と一緒にいた……っ!?」

女「……っ!?」

男「もしかして……」ダッ

女「男……」

男「まさかかもしれんぞこりゃ……」

黒ギャル「イヤァァァッ!」

友「……っ」

友姉「どうだ?」

男「……友! 来てたのか!?」

友「おう。厄介なデートになってしもうたな」

女「あっ、あぁ……っ」ヨロッ

男「……うぅっ」

友「あまり見ない方が良いぞ」

友姉「駄目か」

友「そうじゃな。まともにいったみたいじゃなぁ、頭が半分潰れとる」

男「……イケメン先輩……なのかっ?」

友「確認し辛いじゃろうが、間違いないわな」スクッ

女「……死んじゃった、んだね……」

男「……」

友「これも運命か……」ボソッ

男「友、これは……もしかして……」

友「いや、分からんぞ。まだ決めるのは早い」

男「だけどよ……」

友「全く、ちっとは慎みを覚えておれば長生きできたじゃろうに……。天罰が当たったんじゃろ」

女「……」

ここで区切ります。おやすみなさい。

コメントありがとうございます。再開します。

友「行くぞい、姉者」

友姉「良いのか?」

友「後はそこの嬢ちゃんに任せれば良い」

男「お、おい友……」

友「お前さんらも早いとこ出た方が良いぞ。知り合いだと思われたら面倒じゃぞ」

男「……」

女「お、男……どうしよう……?」

男「……」チラッ

黒ギャル「……あ、あぁっ、あああ……っ」ガタガタ

男「……友、俺は残るよ」

女「……」

友「左様か。気を付けてな」

友姉「……」

男「……」

女「……私も残るよ、男」

男「ん、そっか……」

スタスタ

男「アンタ、大丈夫か?」

黒ギャル「ああっ、せ、先輩っ、が……っ」

女「男、この子……見た事ない顔だよ」

男「他校の生徒なんだろうな……。おい、落ち着いてくれ……」

黒ギャル「……」ガタガタ

女「男、無理だよ。気が動転しているんだから……」

男「……そうだな、すまない……」

「パトカーが来たぞ!」

「救急車もだ!」

ワーワー

男「来たか」

男「……」チラッ

男「……」スッ

女「……?」

男(……安らかに……)

女「……」

……

友「……」

コンコン

友姉「帰ってくるなり何だ? また明かりも点けないで……」

友「……」

友姉「何とか言わないか。じきに夕食だぞ?」

友「……」

友姉「……」

フゥーッ

友「」ゾワッ

友姉「夕食にするぞ、弟」

友「……食ってておくれ。私は要らん」

友姉「そうはいかん。食事はしっかり摂ってもらわないと困る」

友「……後で食うわい」

友姉「……そうか、分かった」

友「……」フゥッ

友姉「……」

友姉「今度は何を悩んでいる?」

友「言わん」

友姉「何故だ?」

友「それも言わん」

友姉「塞ぎ込んでいても仕方あるまい?」

友「分かっとるわい。それに、答えも既に出ておる」

友姉「なら……」

友「答えは出ていても、簡単には割り切れん」

友姉「……」

ジャー

友姉「――まだ降りてこないか……?」カチャカチャ

ギシ……ギシ……

友姉「……来たか」キュッ

友「……」

友姉「すっかり冷めてしまったぞ。今、温め――」

ギュッ

友姉「……?」

友「……お姉ちゃん」

友姉「……」

友「ごめん……。ちょっと、こうさせて……」

友姉「……」ギュッ

友「ん……」

友姉「よしよし」ナデナデ

友「気持ち良い……」

友姉「そうか」ナデナデ

友「……」

友姉「……弟」

友「?」

友姉「したいか?」

友「……」コクン

友姉「分かった。部屋へ行こう」

……

男「すっかり遅くなっちまったな」

女「そうだね……」

男「せっかく楽しかったのにな」

女「……」

男「明日、また学校で騒ぎになるぜ、これ」

女「三人目だから……流石に皆怖がっちゃうだろうね」

男「良からぬ噂も流れるだろうなぁ……」

女「短期間で三人も死んじゃったらね……。入校希望にも響いてくるかもね」

男「……ははっ、違いねぇ」

男「……」

女「……」

男「友、顔色が悪かったな」

女「やっぱり分かった?」

男「すごく塞ぎ込んでいた様な感じもしたしな」

女「思いつめていたもんね……」

男「あいつ、俺達には否定したけどさ……」

女「うん……」

男「これ、間違いない……よな……」

女「……だろうね……」

男「友はどうして隠そうとしたんだろう……」

女「自分一人でどうにかするつもりなのかな……?」

男「一人でか?」

女「或いは、お姉さんとか」

男「……」

男「訊いたって、きっとはぐらかすだろうな」

女「多分、そうだね」

男「……はぁっ」

……

友姉「――あっ、んん……はぁぁ……っ」

友「んっ、く……っ!」ドクンッ

友姉「っ、あぁぁっ!」ビクッ

友「はぁ……んっ……」

友姉「あぁ……っ……」パタッ

友「……」

友「お姉ちゃん……」

友姉「あっ、はぁ……はぁ……っ、どうした……?」

友「ありがとう」

友姉「……? フフッ、お前が……ここまで甘えてくるのも、久し振りだな……っ」

友「……」ゴロゴロ

友姉「少し、寝かせてもらうぞ……。腰が立たなくてな……」

友「あはは、ごめん」

友姉「構わん。むしろ、これから毎日でも良い」

友「私が持たないよ」

友姉「フフッ、そうか……残念だ……」

友「……」

友姉「……」スヤスヤ

友「……」ムクッ

スタスタ

友「姉者が愛飲していた酒は……これか」ゴソッ

友「普段酒なんか飲まんがな……ちょいと一杯頂こう……っ」クイッ

友「……ふうっ、結構キツイのう」

友「……うっく、こんなのよく飲めるな……」

友「だが、これくらいの度数があって丁度良いかもしれんな」

友「姉者……このボトル、貰うぞい」ゴソッ

明くる日――

キーンコーンカーンコーン……

男「昨日の事件で不穏な空気が広がっているな……」

友「そりゃそうじゃろ。何せ、a子先輩に嫌味にあの阿呆と、これで三人が死んだんじゃからな」

男「俺達はこの一連の事件の背景を知ってはいるが……知らない皆からすれば……」

友「知らない方が幸せじゃろう。知った途端に尚の事パニックになるぞい」

男「……自殺した生徒の霊が学校に佇んでいて、三人を死に導いた……。確かに、そうだろうな」

友「……」

男「……なぁ、友」

友「?」

男「イケメン先輩の事件。あれ、b男先輩じゃないか?」

友「だから、それはまだ早計じゃと――」

男「だっておかしいじゃねぇか。あんな偶然あるか? イケメン先輩は事件の根源とも言うべき奴だったし、疑いは強いと思わねぇか?」

友「……」

男「本当はそう思っているんだろ?」

友「分からんよ」

男「……あくまで明かさないか」

友「……」

男「どうして何も言わないんだよ……」

友「……すまん」

男「……」ハァッ

……

女「結局、何も言わなかったんだ……」

男「ま、分かってた事だけどさ……」

女「友君、一体何をするつもりなんだろう……」

男「廃校舎に向かうのは間違いなさそうだがな」

女「やっぱり?」

男「b男先輩の仕業だと予想したなら、足を運ぶだろうよ」

女「だけど、今行くのは危ないんじゃ……」

男「あいつの言った事が当たっているのならな」

女「友君はどこに?」

男「何時の間にか姿を消しちまったよ。もうすぐ授業だから戻ってくるだろうが……」

女「……ねぇ、男」

男「何だ?」

女「友君が廃校舎に向かうとしたら、何時向かうと思う?」

男「やっぱこの間みたいに放課後にこっそりと、じゃないか? あんま人目につくのは避けるだろう」

女「私達がそう考えているのを見越していたとしたら?」

男「っ! ……それじゃ……」

キーンコーンカーンコーン……

女「……友君、戻ってこないね……」

男「……っ!」ガタッ

担任「おーい、席に着けよ。始めるぞ」ガラッ

男「せっ、先生……っ」

担任「? 何だ、どうしたんだ?」

男「ちょっ、ちょっと腹痛いので、トイレ行ってきますっ!」ダッ

担任「あっ! お、おい! ……大丈夫かあいつ?」

女「……」

タッタッタ……

男「抜け出す事はできた……間に合うと良いんだが……」

男「いちいち玄関まで行くのは時間が掛かるな。それに、玄関まで行くには職員室の傍を通らないといけないし……仕方ねぇ!」

男「おらぁっ!」バッ!

ドサッ

男「……ふうっ……下にゴミ袋の山があって良かったぜ……」

保険医「っ!? ちょっ、ちょっと男君! 何をしているのっ!?」

男「!? やばっ……て、先生か……」ホッ

保険医「二階から飛び降りるなんて! 何て危ない事を……っ」

男「すいません先生っ! 急ぐんで!」

保険医「あ、待って! ……って、行っちゃったか……」

保険医「……あの方向……廃校舎か……」

タッタッタ……

男「はぁ、はぁ……つ、着いた……」

男「おーい、友ー!」

シーン

男「……いないか……?」

男「もう奥に行っちまったのか?」

スタスタ

男「……やっぱりここに来てたんだな」

男「あいつのお姉さんがドアを壊したもんだから、その代わりに適当なバリケードが置かれていたんだが……それも皆退かされてる」

男「既に、奥に行っちまったんだな……」

ギシ……

男「友ー! いないかー!?」

男「……ん?」

男「何だこれ? 何かの……ボトルのキャップか」

男「誰がこんな物……」

スタスタ

男「……おかしい」

男「この廊下……こんなに長くはなかった筈だ……」

男「……何時の間にか夜になっている……視界が暗い訳だ」

男「あの時と同じだ。またあの空間に入り込んだんだ……」

男「この間みたいに物が襲って来たりはしないみたいだが……」

男「代わりに、この長い廊下を歩かされているって訳か」

男「くそっ……!」

……

友「……んっ……」グイッ

友「っ、ぷはぁ……」

友「……ふうっ、流石は姉者愛飲の酒。かなり効くわい……」ヨロヨロ

友「……ん、ここじゃったな」

ガラッ

b男「……やぁ」

友「やはりおったか、先輩よ」

b男「きっと来るだろうと思ったよ」

友「そりゃあのう、また一人死んだ訳じゃからな」

b男「イケメン君の事でしょ? はははっ、可哀想にね。ご自慢の顔がぐしゃりって潰れちゃってねぇ」クスクス

友「……お前さんの仕業じゃろうに」

b男「あはは、やっぱり分かった?」

友「分からいでか」

b男「ま、そうだよね。この間の一件もあるしね」

友「……この間とは随分印象が違って見えるぞい」

b男「そうかな? あ、まぁ、そうかもね。何だか僕、今のこの状態がとても心地良いと思ってきているんだ」

友「ほう?」

b男「マリオネットと同じさ。指でこうやって……クイッてやってあげるとその通りに動いてくれるし、僕に歯向かう事なんてしない。何かあっても、糸そのものを切ってしまえば何もできなくなるしね」

友「……」

b男「あらゆる物が、僕の思った通りになるんだよ」

友「……っ」

グイッ

友「……ん、んぐ……」グビッ

b男「それ、お酒?」

友「ぷはっ……。ああ、姉者が好んでいた一品じゃ。情けない事じゃが、酒の力無くしてここまで来れんかったわい」

b男「酔い任せで来たんだ。ふうん……」

友「……先輩、この先、一体どうするつもりじゃ……?」

b男「これから? あはは、そっか……あの時言ってたもんね、君。僕が何時か、皆を殺す悪霊になるかもしれないって」

友「……」

b男「あの時は失笑ものだったけど、今こうしてみると分かるよ。確かに君の言う通りになったなぁって」ニタリ

友「……っ、では……」

b男「一人、また一人と、死んでいくかもしれないね。誰かが」クスクス

友「……くっ……!」

b男「知らなかったよ。人を殺すのが、こんなにも楽しいなんてね……あはは……」

友「……先輩」

b男「?」

友「取引をしたい」

b男「取引?」

友「学校の皆には手を出さんでくれ」

b男「……で、その対価は?」

友「……っ」ゴクッ

友「私の、首をくれてやる……っ!」

b男「へぇっ……随分大きく出たね? 学校の皆がそんなに大事なの?」

友「大体は死のうがどうでも良い。しかし、その中に、私の大切な友がいるんじゃ」

b男「ああ……あの時に一緒に来た子かい?」

友「うむ」

b男「その人達の為に、君が代わりになると?」

友「ああ」

b男「……ふうん……。いいじゃん、面白そう」ニヤリ

友「……では、乗ってくれるのか?」

b男「うん、良いよ。それで手打ちって事にしてあげる」

友「……」

今日はここで区切ります。何時も支援ありがとうございます。

おやすみなさい。

支援ありがとうございます。ほんの少しだけではありますが、再開させていただきます。

……

男「友ー! 返事しろー!」タッタッタ……

男「……くそっ、駄目か……」

男「どうすればこの無限廊下を抜けられるんだ……? こうしている間にも……っ」

キャアアアア!

男「っ! 何だ!?」バッ

男「――え……」

男「……」

男「……ここは……校舎の中……?」

「嫌ぁぁぁぁっ!」

男「っ、また……って……」

男(金の長髪……あれは……)

男「……a子先輩?」

a子「来ないでっ……! 来ないでってばぁっ……!」ガタガタ

男「せ、先輩! どうしたんですか!?」

a子「嫌ぁっ……嫌ぁぁ……」

男(声が……届かない……?)

a子「……っ!」ガタガタ

男「先輩! 一体何があったんです!? 何に怯えてるんです!?」

a子「あっ……あぁぁぁっ……!」ジリジリ……

男「! 危な――」

スカッ

男(……触れられない……!?)

a子「たっ、助けて……殺される……殺される……!」

男「……っ!!」

a子「……あっ……」グラッ……

ヒュウウ……

グシャッ

男「……っ」

男「……ここは……三人で来た……a子先輩が飛び降りた場所……」

ボウ……

b男「……」

男「っ! b男先輩!」

b男「……」

スゥゥ……

男「……まっ、待てっ! ……クソッ!」

カッチコッチ……

男「……?」

カッチコッチカッチコッチ……

男「……」

ゴーン……ゴーン……

男「……お次は何だ?」

男「ここは……見たところでは民家の中か……?」

「……クソがっ!」

男「っ!?」ビクッ

「誰だ! 誰が警察にチクリやがった……っ!」

男「この声は……」

「……友かっ! あいつが……警察にっ……!?」

男「……嫌味……」

嫌味教師「野郎……ただじゃおかねぇぞ……っ」

男「そうか……あの夜の日か……」

嫌味教師「落ちこぼれの一匹二匹死んだからって、俺がその責任を負わされるなんて……!」

男「……」

ガタッ

嫌味教師「!?」ビクッ

男「?」

嫌味教師「……あっ!? あ……ああぁ……っ!?」

b男「……」

男「先輩……」

嫌味教師「馬鹿な……何で……っ」

b男「……」ジリジリ……

嫌味教師「や、やめろ……っ! くる、来るなぁぁぁ……っ!」

b男「……」クイッ

シュルル……

男「っ、ズボンが首に……」

嫌味教師「うあああぁぁ…… っ! がっ、あぁっ……!」

ギリ……ギリ……

男「……っ」

嫌味教師「……っ! ……っ……」

男「……」

嫌味教師「………………」

b男「……」

スゥゥ……

男「……また消えたか。今度はどこに飛ばされるんだ?」

男「……」

男「……このホールは……女とこないだ行ってきた所か……」

男「と、言う事は……」

黒ギャル「この噴水とかキレー。結構お洒落なカンジ」

イケメン「別に珍しくなんかねぇだろ」

男「……やっぱりか」

黒ギャル「どこから回ろっかなー。ねぇねぇ、どこからが良い?」

イケメン「別に無ぇな。お前が適当に決めてくれ」

黒ギャル「そう? んー、じゃあねぇ……」

男「……」チラッ

男「シャンデリアか……。これが落ちて先輩は……」

黒ギャル「あっ、喫茶店がある。寄らない?」

イケメン「ん、まぁ良いだろ」

シャラン……

男「っ!」

イケメン「?」

黒ギャル「? どうしたの?」

イケメン「今、何か聞こえなかったか?」

黒ギャル「えー? 気のせいじゃない?」

男「……?」

男(シャンデリアの上に……誰かが……?)

b男「……」

男「!」

b男「……」クイッ

パキンッ!

イケメン「――え?」

ガシャーーン!

黒ギャル「キャァァァァッ!」

男「……っ」

男「……何だよ……さっきから何なんだよ……!」

男「一体何を言いたいんだ……!」

男「いるんだろ!? 出て来い! 何時までこんな所に閉じ込めておくつもりだ!?」

ピキ……

男「……?」

ピキピキ……

男「……っ、何だ……?」

パキーンッ!

男「うわっ!?」

グォォォォォ……

……

男「……ここは……? 戻ってきたのか?」

ギシ……ギシ……

男「な、何だ? この軋む様な音は……」

ギシ……ギシ……

男「……? 誰かが……吊っている……!?」

「……っ……っ」

男「……!」ハッ

ギシ……ギシ……

男「と……友……」

今日はここで区切ります。おやすみなさい。

少しだけ投下します

友「……」

男「う……嘘……だろ……? おい……?」ガタガタ

友「……っ」パクパク

男「っ! 生きている……! まだ、生きている!」ダッ

グイッ

友「っ! ゲホッ、ゲホッ……」

男「しっかりしろ、友! 体支えてやるからっ! 早くっ、その首のロープ取れっ!」

友「……っ、ば、ばがもん……っ! な、なぜっ、来た……!?」ゴホゴホ

男「何故来たって!? んなのどうでも良いから、早くしろっ! 結構キツいんだよ! この体勢!」ブルブル

b男「駄目だよ……邪魔しちゃ……」

男「っ!」

b男「彼とは約束しているんだ。それを邪魔しちゃ駄目だよ」

男「……約束? 一体、何の……」

b男「彼一人が犠牲になる代わりに、君達には手を出さない」

男「……っ!?」

b男「彼は生贄だよ。僕の、この恨み、憎しみを解消してくれる為のね」クスクス

男「っ、ざけんな! 友を生贄になんてされて堪るかよ!」

b男「分かんないね、君も。それに、これは彼の言い出した事なんだよ?」

男「……っ!?」チラッ

友「……」

b男「彼の処刑が執行されないなら約束はご破算。今君が助けようとしている彼も何れ死ぬかもね」アハハ

男「……アンタの事は痛く同情した。それを思えばこうなるのも……。……だけどなっ!」

b男「?」

男「このままみすみす殺させるつもりは無ぇし、殺される気も無ぇ!」

b男「……」クイッ

ガタガタ

男「!? 部屋が……揺れている……?」

バキバキッ!

ヒュンヒュン

男「っ! うわっ!?」ガッ

b男「君のその威勢がどこまで続くか、見させて貰うよ」ニヤニヤ

男「痛っ! ……友! 早くロープ取れっ!」

友「……駄目じゃ。結び目が……締まって……っ」

バキッ!

男「ぐっ! ……ク、クソッ……!」

b男「君が手を離せば彼は首吊りになる。彼を死なせたくないのなら、せいぜい頑張るんだね」クイッ

バキバキッ!

男「っ、ぐわっ!」バキッ

友「……男……手を、離せ……」

男「ば、馬鹿言うな! ……っ、は、離せるか、よ……!」ボロ……

b男「……ふうん、結構堪えるね? やっぱ木の板程度じゃ生温いかな?」

男「……ハァ……ハァ……」

b男「んじゃ、少しレベルアップしよっと」パチンッ

フワッ……

男「……っ」

b男「朽ちた椅子だけど、当たれば痛いよねぇ?」ニヤリ

男「!」

ブンッ

男「がっ……!」バキイッ

バタンッ

ギリギリ……

友「っ! ぐっ……!」

男「……と、友っ……」フラフラ

b男「……」パチンッ

ブンッブンッ

バキッ! ベキッ!

男「っ! がっ! ごはっ!」

b男「フフッ、これだけ殴られたらもう立てないでしょ?」

男「……ま、まだまだ……」ムクッ

b男「……」

男「友……すまねぇ、苦しいだろ……?」グイッ

友「ゴホッ! ゲホッ! ……お、男……」

b男「……」

男「……先輩」

b男「……?」

男「今、アンタのやってる事って……昔、自分がやられてきた事の、繰り返し……だよな……」

b男「……」

男「抵抗する術も無く、相手のサンドバックに……なっちまって……悔しいよなぁ……辛いよなぁ……」

b男「……」グイッ

バキッ!

男「ぐっ! ……うぐっ……」グラ……

友「……男……大丈夫、か……?」

男「あ、ああ……。足元は、ふらつくが……心配するな」

b男「……」

男「……へへっ、どうしたよ……? 先輩……」

b男「……っ」

友「……」

友(うろたえておる……。少しずつではあるが……)

男「……っ、はぁっ、はぁっ……」

b男「……っ」

友(明らかに気圧されておるな……。しかし……)

ガタガタ……

男「……チッ!」

友(逆上されたら生きては帰れんな……)

ガタガタ……

男「……っ!」

b男「もう、終わりにしよう。キリが無いや」

男(机に椅子にガラクタ……。これが一気に来たら……流石に助からねぇ……か……!?)

フワァッ……

男「!」

b男「死んじゃえ。お友達諸共にね」

男「……くっ……!」

区切ります。終わりも近くなってきました。

毎度支援ありがとうございます。

投下します。

「男ぉぉぉぉっ!!」

男「えっ!?」

友「っ!?」

b男「……?」

ドタドタッ!

女「大丈夫!? 男!」

男「お、女……!?」

保険医「私達もいるよ!」

友姉「弟っ!」

友「なっ、保険医殿に……姉者まで……!?」

友姉「ハッ!」ヒュッ!

ブツッ

友「っ!?」グラッ

男「っと!?」

ドスッ!

b男「……」チラッ

男「あ……ロープが切れてる!」

友「……姉者……」

友姉「ナイフ投げの練習成果がこんな所で役立とうとはな」

女「男……! なんて酷い傷……」

男「大丈夫だ……。まだ、大丈夫……」

女「大丈夫じゃないよ! 待ってて、今簡単に手当てをするから……」

b男「……」

保険医「……b男君……」

b男「……先生……」

保険医「……」

保険医「……また、こうしてお話する日が来るなんてね」

b男「……」

保険医「君が保険室に頻繁に通う様になった頃が、昨日の事の様に思い出されるよ」

b男「……」

保険医「あの時に見た君の姿、酷く心細そうだった。徹底的に打ちのめされてきたかの様で、弱々しく見えた」

b男「……」

保険医「それでも、保険室で話をしている時の君はとても楽しそうだった。無邪気で人懐っこいとも感じた。今はまだくじけていても、何時かは立ち直れるかもしれないと思っていた」

b男「……」

保険医「……それは、私の思い上がりだったんだね……」

b男「……」

男女「……」

友「保険医殿……」

友姉「……フン」

保険医「……ごめんね……。助けてあげられなくて……ごめん……ごめんなさいっ……!」

b男「……」

保険医「……うっ……ううっ……ご、ごめん、ね……あやまって……済む事じゃないっ、のにね……」グスッ

b男「せん、せぇ……」

保険医「……お願い……この子達には……っ……この子達は見逃して……!」

b男「……」

保険医「私……何でもするからっ……!」

b男「……!」

男「先生! それは……」

保険医「良いの。私にできるのはこれくらいしかないから……」

女「で、でも……それじゃ……」

保険医「貴方達が気にする事はないよ。これは私の問題でもあるから……」

友「……」

b男「……」

保険医「さぁ、b男君……」

b男「……っ」

b男「……いい」

保険医「……?」

男「?」

b男「……もう、いい……」

女「……」

b男「……先生」

保険医「……何?」

b男「……ありがとう……」

保険医「……!」

友「……」

b男「……君達が羨ましい」

男「……え?」

b男「君達の周りには仲間がいる。お互いに強く結ばれた仲間が……」

女「……」

b男「僕も、もう少し前向きになれたら、また違ったのかな」

友「……」

b男「もう少しだけ強くいられたら、きっと、今の様にはなってなかったのかもしれないね……」

保険医「……」

b男「……人生って、切ないね……」

保険医「……うん……切ない……ね」

友姉「……フンッ」

友「?」

b男「……先生。僕、もう行くよ……」

保険医「……そっか」

b男「うん……。……皆、ごめんね……」

スゥゥ……

b男「……ありがとう……」

ゥゥゥ……

男「……おわ……ったのか?」

女「今度こそ、終わったのかな……?」

友「彼の未練が晴らされたのであれば、もう現世に縛られる事も無いからの……」

男「……そうか」

友姉「貴様、いい加減泣き止めないか。目障りだ」

保険医「……ふふっ、相変わらず手厳しいね……っ」グシグシ

友「保険医殿を責めるな、姉者」

友姉「……」チッ

女「……これで、全部終わったんだね……」

男「……いや、まだだ」

女「え?」

男「友っ! お前は相談も無しにこんなっ……! 俺達がどれだけ心配したか!」

保険医「そうだよっ……一人で抱え込もうとして……!」

友「うっ……し、しかしじゃな……」

男「しかしもかかしもあるかっ!」

友「うぐ……」

ギュッ

友「? 姉者?」

友姉「……心配させて……っ!」

友「……」

友姉「……っ、無事で……良かったっ……!」ボロボロ

友「……っ」

友姉「っ……お前がいなくなったらっ……私はっ……私は……っ!」ボロボロ

友「…………ごめんね、お姉ちゃん……」

友姉「うぅっ……っ……」ボロボロ

友「……皆も……ごめん」

男「……おうっ」

女「無事で済んだから良かったよ……」

保険医「そうだね……無事で良かった」

男「心境としては一発殴りたい所だが、お互いに怪我人だし、止めとくわ」

友「……ははっ、助かったよ」

男「へへっ……さ、帰ろうぜ」

女「そうだね」

保険医「誰かに見つかったら面倒だしね」

友「……お姉ちゃん、行こ?」

友姉「っ……っ、そうだな……」

カァーッカァーッ

友「……」

男「どうした? 空を見上げたりして」

友「ん、カラスを見てた」

女「カラス?」

友「カラスと言えば大抵悪いイメージを持たれやすいよね?」

女「そうだね。動物の死骸を漁ったりするし、ゴミを散らかすし……良い印象は無いね」

男「不吉だってのも聞いたな」

保険医「死神の使いだって誰かが言ってたかな」

友「それら悪いイメージの一方で、神話や宗教によっては有り難い存在だとも言われているんだよ」

男「へぇ、そうなのか?」

友「吉報を知らせる鳥だとも、太陽の化身だとも。鳥葬をしていた国では、亡骸を食して体内にて清め、あの世へと導いてくれる鳥だと言われてたりもしたみたいだよ。――そういう意味では死神様の御使いだという解釈もできるかもね」

女「各国によって解釈が変わるのは珍しい事ではないけれど、面白い話だね」

カァーッカァーッ

友「……このカラス達も、b男先輩の魂を導いてくれているのかもしれないね」

男「……かもな」

女「……ところでさ」

友「?」

女「友君、普段と喋り方、違うよね。何か新鮮」

友「……あ」

男「そういやそうだ。お前、そんな風にも喋れるんだな?」

友「」カァーッ

友姉「私とセックスする時は普通に――」ボソッ

友「余計な事は言わんでいいっ!」

保険医「ふふふっ……」

男「何だ? 気になるなぁ」

友「気にせんで良いっ! 忘れろ!」

ハハハ……

……

友姉「弟よ」

友「何ぞ?」

友姉「結局、この事件は保険医を適当に突き出しておけば楽に解決できたのではないか?」

友「それも考えなかった訳ではないんじゃが、もし万が一の事があったらどうする? 安全の保障ができないまま彼女を危険に晒せるか」

友姉「……それで自分が、か。お前らしい」

友「……まぁ、皆には悪い事をしたとは思っとるが……」

友姉「……二度と、やるな」ギュッ

友「……ああ、分かっとるよ……」ギュッ

友「全く……女の涙は卑怯じゃわい」

……

男(あれから月日は流れて、生徒達を騒がせたあの事件も今ではすっかり過去の物となっている)

男(どうして二年前に死んだ彼が今になって出てきたのか? その疑問を友と女にぶつけてみた事がある。女は『学校の中に渦巻く一種のエネルギーみたいな物が二年という歳月の内に培われて、彼の魂を具現化させたのではないか』と答えた。友はそれに習う形で『未練が負の感情の流れに引っ張られていたのかもしれない。その中で力を蓄えていく過程で彼の心魂は歪みを生じさせ、今回の事件を起こしたのだろう』と指摘した。あくまでも推論でしかない事だけど、俺は二人の意見で大体合ってるかもしれないと思った)

男(事件の真実は俺達の中だけに留めておく事になった。例え誰に話した所で信じられる 例え誰に話した所で信じられる訳もなく、わざわざ言いふらす事でもない。唯一の肉親であるお婆さんの心身を考慮した結果として、影で行われていたいじめの問題、教師が生徒の受けていたいじめを見て見ぬ振りをしていたという問題も併せて抑えられる事となったのに納得できない所もあったが、保険の先生が今後のいじめに対する取組みへの意欲を燃やしていたので幾分救われた)

>>476はミスです。貼り直します...

男(事件の真実は俺達の中だけに留めておく事になった。例え誰に話した所で信じられる 訳もなく、わざわざ言いふらす事でもない。唯一の肉親であるお婆さんの心身を考慮した結果として、影で行われていたいじめの問題、教師が生徒の受けていたいじめを見て見ぬ振りをしていたという問題も併せて抑えられる事となったのに納得できない所もあったが、保険の先生が今後のいじめに対する取組みへの意欲を燃やしていたので幾分救われた)

男(全てが終わり、ようやく安堵した。だが、そこに友は不吉な警鐘を鳴らす)

男(『今後もこういった事件は起こるだろう。今までは存在しなかったのに、今回で前例が生じた。これを切っ掛けとして、第二、第三の事件が起こらないとも限らない。冥界と現世の境目が今回のケースで揺らいだとしたら、次の悲劇までそう遠くはない』)

男(b男先輩の様に非業な最期を迎えた人は、きっとこれからも増えていく。友の言う通り、悲劇は繰り返される。それはもはや、避けようがないのだろうか……?)

キャーキャー

男「……ん?」

テメー、キメーンダヨー

男「騒がしいな……何だ?」

「あっちいけーっ!」

「いつもウジウジしやがって! このやろーっ!」

「やっ、やめてよ……っ」グスッ

男「おいっ! 何やってる!」

「うわっ! なんだコイツ!」

「にげろーっ!」

パタパタ……

男「ったく……クソガキが。大丈夫かい、坊や」

「う、うん……っ」グスッ

男「ああ……服が砂埃で……」パッパッ

「あ、ありがとう、ございます……」

男「おう」

タッタッタ……

男「……」

女「――男ーっ!」

男「? おっ、女か」

女「どうしたの? ぼーっとしちゃって」

男「……ん、何でもない」

女「ボケるにはまだ早いよ?」

男「大丈夫だよ。行こうぜ……?」

「ねーねー、あっちいこーっ」パタパタ

「うんっ!」パタパタ

男(あれは……さっきの子か? 女の子と一緒に……)

男(……楽しそうだな……)

女「……また、ぼーっとしてる」

男「え? ああ、すまねぇ」

女「……何で笑ってるの?」

男「ちょっと、な」

女「……変なの」

男「はははっ……」

――終

最後まで投下させていただきました。支援頂いた方々に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

お楽しみ頂けましたら、幸いです。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom