八幡「これはアイツの望んだ世界だよ」千夜「……そうね」 (360)

初投稿です
NOeSISのドラマCDが発売と言うことで
俺ガイル×NOeSISのクロスです
水曜日・土曜日の22時に毎回更新予定です
※一部キャラ崩壊あるかもしれません
NOeSISをプレイしている方がより楽しめると思います

今回はルート分岐までいきます

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1422450205



 ───学生生活とは、鬱な言葉である。

 ボッチや非リア充には思い出したくもない言葉であり、ごく当たり前な言葉でもある。

 ある者は友達を作り、カラオケやボウリング等で遊び、ある者は友達を作らず1人で何事も済まそうとする……。

 勿論勉強や部活も大事だが、ほとんどの学生は遊びたいという欲求を抑えられないだろう。

 そんな当たり前な学生生活で、日常では無いもの──例えば、人が死ぬこと───が起きてしまった時、学生生活はどうなるのだろうか?

 他人の死によって、今度は自分が死ぬかもしれない……と、考えるか。

 自分には関係ないと、普段の日常に戻ることが出来るか。

 それとも、何故人が死んだのかを追求するか……。


 他にもいろいろな考え方があるかもしれない。

 だが、そんなことはどうでもいい。




 ・・         セカイ
 コレがアイツの望んだ日常であり、その日常は俺達が守るべき物なのだから─────





「はぁ……」


 俺は何度目かの溜め息をついた。

 学校の生活にも慣れてきた2年生の一学期、作文で「青春とは嘘であり、悪である」という崇高な文を書いたにも拘わらず、先生から怒られ、罰として奉仕部という部活に入部させられてしまった。

 しかも部員は何でも知っているユキペディアこと雪ノ下 雪乃、ビッチの由比ヶ浜 結衣の2人だけである。

 別に部活が苦痛という訳ではない。ただ本読んでるだけだし。

 問題なのは雪ノ下 雪乃だ。俺に対して、 辛辣な毒舌・暴言を浴びせるのが常である。本当にどうにかしてほしい。

 だがその一方で、自分と同じ様な境遇にいても、自分の意見をはっきり言う事ができる彼女を尊敬の眼差しで見ている自分もいる。

 言い忘れたが、俺の名前は比企谷 八幡。総武高校の2年生だ。
よく目が腐ってると言われるが、自分で意識したことはない。

 空は青く、俺を嘲笑う様に澄み切っていた。自分の心の中は真っ黒だというのに……。


 さて、そろそろ部活に行かないとな。また雪ノ下に怒られちまう。

 部室に向けて歩いていると、正面からピンク色の髪をした少女が歩いてきた。見たこと無い制服だ……転校生か?

 疑問に思いながら通り過ぎようとすると、


「始まるよ……」


 何がだよ。


「それは……ヒ・ミ・ツ☆」


 うぜぇ……ていうか俺口に出してないんだが。独り言か?

 さっきまで青かった空も、少しずつ雲がかかっていた。何も起こらなければいいが……。




 部室の前まで来ると、見知った物が床に転がっていた。


八幡「あれは……!」


 MAXコーヒーの缶じゃないか!!

 しかもよく見ると少し残っている。ふざけやがって、全部飲めよ!

 ていうか誰だよ飲んだやつ……俺の周りで飲んでるやつ見たこと無いぞ。まあ元々周りの人数が少ないんですけどね……。

 とりあえず部室に入ろう。雪ノ下にでも愚痴るか。また蔑まれそうだが。

 軽い音を立てながら引き戸を引いた。さて、今回はどんな罵倒を浴びせられるのか。 


八幡「……あれ……?」


 部室のドアを開けた俺の視界には3つの違和感があった。

 1つ、黒髪ロングの女子が2人いる。

 2つ、1人はさっき見たピンク色の髪の制服と同じ物だ。

 そして3つ、雪ノ下 雪乃が倒れている。


八幡「雪……ノ下……?」

「あら、思ったより早かったわね。いいえ、遅かったと言うべきかしら?」


 俺の知らない少女はそう言って微笑んだ。顔を見るだけで凍ってしまいそうな微笑に、俺は思わずたじろいだ。


「ふふ……そんなに怯えなくてもいいじゃない。何もしないわよ」

八幡「アンタ……誰だ……? 雪ノ下に何をした?」

「少し眠ってもらっただけよ。死んでいないから安心して」


 それにしても────と、彼女は俺の目を見ながら続ける。真っ直ぐに捉える真紅の瞳が、俺の心の奥まで見透かすかのように水面深くまで心を────引き込んでいった。


「あなたの目……ふふ、興味深いわね」

八幡「何のつもりだ……さっき見たピンク色の髪のやつの仲間なのか?」

「ピンク色? ……あぁ、彼女も来ていたの。しぶとい子ね」


 そういうと、彼女は左手で髪を梳いた。綺麗な黒髪が靡いて元に戻る。


「さて、いきなりで申し訳ないんだけれど、少し眠ってもらえないかしら?」

八幡「断る」

「即答、ね……まぁ予想通りだわ」


 彼女はやれやれ、というような仕草でおどけてみせた。やがて俺の目を真っ直ぐ見据える。


「少し強引にいかせてもらうわ」


 彼女の目が大きく見開かれる。その目を見ていた俺は、心の奥を覗かれるようなおぞましい感覚と共に、体の自由が利かなくなった。


八幡「な……ん……?」

「まったく、彼の言ったとおりね。流石と言うべきかしら」


 彼女は俺の目を真っ直ぐ見つめたまま、おもむろに携帯を取り出した。


「……ええ、こっちは予定通りよ。そっちは?」

『────』

「…………そう。じゃあ待ってるわ」

 


 話が終わったのか、彼女は携帯をしまって俺に話しかける。


「あなたに伝えることがあるわ。でも強制はしない。あなたが聞きたければ聞いてちょうだい」


 ……そこまで言われたら聞きたいに決まってる。だが、妙な胸騒ぎがする。本当に聞いても良いのだろうか?



 
 悩んだ結果、俺は────





1: 聞く

2:聞かない





>>10までで多い方のルートに行きます

すいません>>12まででお願いします
安価下

noesis!noesisきたこれで勝つる

1

1が多いので安価まで行ってませんが
1ルートでいきます



八幡「聞かせてくれ」


 聞く以外なかった。わざわざ伝えたい事があると言ってきたのだから。それに、もしかしたら雪ノ下の事も何か関係があるのかもしれない。

 彼女は俺の返答を聞くと、微笑を浮かべる。だが、その微笑は先ほどの物とは違い、少し寂しそうな……いや、辛そうな微笑だった。


「……わかったわ。覚悟して聞きなさい」


 一拍おいて、彼女は続ける。




「────由比ヶ浜 結衣さんが亡くなったわ」



 

 ………………は?

 
 俺は彼女の言ったことが理解出来なかった。由比ヶ浜が死んだ? 何言ってんだコイツ……。

 
「信じたく無いでしょうけど、事実よ」

 
 いや、待て。これはアイツの罠だ。そう言って俺が動揺したところを見計らって俺を殺す気だな。騙されないからな!

 
「……はぁ、さっき言ったでしょ。殺さないって」

 
 人の話を聞かないわね──と、彼女は溜め息をつく。あれ、ていうか俺口に出してないんだが。ん? なんかデジャヴだな……。


「まぁいいわ。あなたには色々と頑張って貰わないといけないから」

 
 彼女がこちらに向かって歩いてくる。俺は身動きがとれないので見ていることしか出来ない。そして彼女は俺に手を伸ばし──




「未来のために────ね」





それが俺の聞いた最後の言葉だった。


とりあえず今日はここまでです
2はBAD ENDルートでしたw
また土曜日に来ます
皆さん乙でした

noesisって嘘をついた記憶の?

>>23
それです

まぁ何故こんなことになったかのだが
あれはまだ俺が花も恥じらう……
いや恥らわねぇか、むしろ俺の今の日々を恥じたい…
こんなこと言ってるのは俺の嫁……平塚静には内緒だ
こんなこと言ってるのがバレたら俺は撃滅のセカンドブリッドをくらってしまうからな
前置きも長くなったがこれは俺が平塚先s……静と結婚するまでを描いた話だ

雪乃「余談ではあるのだけれど主はSS初投稿に近いお馬鹿さんだからあまり責めないであげてね……哀れで見てられなくなるから」

八幡「そんな言い方はないんじゃねぇの?」

雪乃「あら?事実だから仕方ないじゃない」

八幡「とにかくだ……これは俺が静の旦那になるまでを思い返していく話ってわけだな」ドヤ

雪乃「あなたって本当変わらないのね」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1422463233

IDの変え方も知らん新参荒らしか(笑)

すいません遅れました
今から投下します

 
 眠い……。

 最初に思ったのはこれだった。自分は寝てしまったのか? 

 記憶を整理してみる。部室に行くと、見知らぬ少女が立っていて雪ノ下が倒れていた。少女は……そういえば、名前聞いてなかったな。まぁ今更か。
 
 徐々に意識がハッキリしてくる。その後少女は、由比ヶ浜が死んだ事を伝えて、それから────


 八幡「……!!」


 俺は派手な音を立てて椅子から立ち上がった。そして違和感を覚える。

 周りの生徒の顔が知らない奴ばかりだった。教師の顔も見知らぬ顔だった。しかも全員俺を見ている……。

八幡「す、すいませんでした……」

 
 俺は謝りながら席に着く。なんだここは……よく見たら制服も違うし……あ、そういえばアイツが着てたのもこの制服だったような……。

 右後ろからクスクスと笑う声が聞こえる。あぁ……笑われてるし。目立ちたくなかったんだがなぁ……。

 あれ……なんか頬が冷たい……。なんだこれ? 涙か? 泣く要素なんか……ありますね、ハイ。


 

少しして授業終了のチャイムが鳴った。どうやら昼休みらしい。各々で弁当を広げたり食堂に向かうのか教室から出て行く奴もいた。今なら便所飯でもできそうだ。


「八幡~!」


 誰だ俺を呼んだのは? さっきの醜態を見てなかったのか? 

 俺を呼んだ少女は亜麻色の髪を揺らしながらこっちに向かってくる。


八幡「ていうか、誰?」

「ええ? 記憶喪失?とぼけるのはよくないよ八幡」

「そうだぞ。俺達は友達だろ?」

八幡「友達……だと……?」


 少女の横にいた赤髪の少年が発した言葉に俺は疑問を抱く。
 俺に友達……? 何かの間違いか?
 なんだ、夢か? 夢なのか? 夢なら早く覚めてくれ!
 
 とりあえず頬をつねってみるが、


八幡「……いてぇ」


 どうやら夢じゃないらしい。



「ねぇ八幡~早く食堂行こーよぉ。席取られちゃうよー」

「落ち着けこよみ、最悪今日は購買のパンで済ませればいい」

こよみ「足りないよぉ……時雨は足りるの?」

時雨「放置プレイとか余裕過ぎる。どうせなら購買のパンにわさびのチューブ丸ごと入れてもいけるぞ」

こよみ「あーはいはい時雨はドMだもんね。明日からはちゃんと弁当作ってくるよ」


 なんだこの場違い感は……。初対面の奴に友達扱いってなんだよ。しかもなんか凄いこと言ってたぞ。

 
八幡「なぁ……俺らって友達なのか?」

こよみ「そうだよ。ていうか、友達になろうって言ってきたの八幡じゃん」

八幡「」

 
 俺が……友達になろうと言ってきた? ありえん。しかも名前呼びじゃねえか。


こよみ「びっくりしたよね、私達見た途端急に泣き出すんだもん」

時雨「そういやそうだったな。でもアニメとかの趣味が合って意気投合したんだったか」

こよみ「まあ私あの時は蚊帳の外だったけどね……」


 ……もうわからん。どうなってんだよ、そんな記憶まったく無いんだが。


八幡「ヤバい……俺記憶喪失かもしれんわ。割とマジで」

こよみ「あ、でも前たまに記憶があやふやになるって言ってた気がする」

時雨「そうだっけか? 俺もあやふやだ」

八幡「……ま、いいや。食堂行くんだろ? 早く行こーぜ」

こよみ「だね! 早く行こー!」


 色々突っ込みたい事はあるが、とりあえず置いておこう。疑問は少しずつ解消していけばいい。

 少しだけ足取りが軽くなった俺は、2人に遅れないように食堂へと向かった。







 ────ていうか、食堂どこだよ。

短いですが今日はここまでです
また水曜日に来ます

遅れましたが今日も少しだけ投下します


────────

 昼食を済ました後、外は雨が降り出していた。冷たく曇る窓にこよみは線を引きながら、


こよみ「ぱんだーっ!!」


 パンダの絵を描いていた。ちなみに、「もう名前呼びかよ……」と思った奴もいるだろうが、これはこよみ達が俺にそう呼んで欲しいと言われただけだからな。そりゃそうだ、俺達は友達だもん。


こよみ「ぱんだーっ!!」

時雨「……そんなに見たけりゃ動物園に行けよ」

八幡「おいおい、動物園なんてリア充が行くとこだろ。非リア充が行ったところでリア充に蔑んだ目で見られるだけだ」


時雨「それもそうか。こよみ、行くなら彼氏と行けよ」

こよみ「かっ、彼氏……!?」

時雨「お、おう……」

こよみ「か、彼氏って……ま、まだそんな関係じゃないっていうか………でも時雨がいいって言うならゴニョゴニョ………」


 …………分かりやすすぎだろ。どこのギャルゲーだよ。


こよみ「ああ──もうっ!! 時雨なんか、一生窓枠として暮らせばいいのにっ!!」


時雨「窓枠か……」

こよみ「悪い魔女に魔法をかけられてしまうの。残りの人生を窓として過ごす────」

こよみ「そしたら私が、毎日窓に肘を乗せて外を眺めてあげるよ。
    可憐でしょ──?」

時雨「窓枠にちゃんと胸があたるのなら、考えてやってもいい」

こよみ「もーうっ!! そんな事ばっかり!」

八幡「いや、俺は頬杖ついてる横顔が見れればそれでいい」

こよみ「八幡までっ!!」


こよみ「時雨今日はオカシイよ。なんだか一日中ぼーっとしてるし。あと八幡も」


 俺はついでですかそうですか……。

 
 
こよみ「やる気がないのはいつもの事だけど、なんだか今日は──」



 そう言ったこよみの声は、耳の横に流れていった。

 だが、俺の視線は…………。

 直線で続く廊下の向こう側、そこに──黒くたなびく、長い髪を見つけたのだ。


 
『 ────由比ヶ浜 結衣さんが亡くなったわ 』


『 あなたの目……ふふ、興味深いわね 』


『 未来のために────ね 』


 気付くと俺は走り出していた。真相を問いつめるために。

 しかし、時雨も同時に走り出していた。時雨は俺より少し早く彼女に辿り着くと、

 メキ──ッッ!!

 彼女に全力でチョップを食らわしていた。
 前のめりに倒れている彼女を、俺は無理矢理に起こして、手を引いて走っていく。この際周りにどう思われようが関係ない。


「ふぇえええん……目の前に、星が飛んでいます…………」

八幡「…………お前──」





 

 ────そんなキャラだったか?

今日はここまでです
書き溜めがどんどん少なくなっていく……

>>1です
今日も少しですが投下します

ちなみに時系列は千夜後編です

八幡「……落ち着いたか?」 

「はい……ありがとうございます」


 そう言うと彼女は丁寧にお辞儀をする。え、待ってこの人前に部室で会った人だよね? なんか雰囲気が全然違うんだが。


「それで……私に何か用ですか?」

八幡「……由比ヶ浜が死んだってあんたから聞かされてから、なんかおかしな所に迷い込んだんだよ。あんた……俺に何をした?」

「…………」


 少し考える素振りをしてから、彼女は答える。



「……つまりあなたは、ここの世界の人間ではない、と?」

八幡「そうだ。……俺はどうすればいいんだ?」

「……なるほど」


 話を理解したのか、彼女はクスッと微笑んだ。以前見た冷たい笑みではなく、全てを包み込む様な暖かい微笑みだった。


「事情は飲み込めました。比企谷君」

八幡「……俺の名前知ってるのか」

「ええ。だって、生徒会長ですから」

八幡「生徒会長……」

一夜「はい。一夜(まや)、と呼んでください」

 
 一夜先輩は改めて俺に向き直る。


一夜「いいですか比企谷君。あなたがもし違う世界からタイムスリップしてきたのなら、そのタイムスリップに関係している誰かがいるかもしれません。その人に会って、話を聞いてみるのはどうですか?」

八幡「だからあんたに聞いてんだが……」

一夜「私ですか? ……記憶にないですね……」

八幡「やっぱ別人か。雰囲気全然違うし」

一夜「別人……ではないかもしれませんよ?」


 含みを持った言い方だな……。凄い気になるんだが。


八幡「ま、いいや。話はそれだけだ。時間取らせて悪かった」

一夜「いえいえ。私も比企谷君と話せて楽しかったです」




 ニコニコと微笑む一夜先輩は、あの時会った彼女とは雰囲気が正反対だった。外見は瓜二つなのだが。

 
八幡「とにかく戻ろうぜ。皆心配してるだろうし」

一夜「そうですね。戻りましょう」



 ────その後、時雨とこよみに一夜先輩との関係を放課後まで聞かれ続けたのは、また別の話。


ホントに少なくて申し訳ない…
ここまでです
また水曜日に

>>1です
今日も投下していきます

──────

 日が降りては再び昇り、それでも──。
 こよみは、昨日の事を問いただしてきた。


こよみ「……どういうことだよ、時雨、八幡?」

八幡「どうもこうも、俺のはただの勘違いだって言ってるだろ」

時雨「ミステリーは謎を考えているときが一番楽しい、そうだろ?
   こよみ────」

??「いいえ──違う──。ミステリーはね、騙された──そう、小気味よく騙されたと感じたときが、一番楽しいわ」


こよみ「そういう話じゃなくてーっ!! 私は時雨と生徒会長の関係を聞いてるの!」

時雨「だから言ったろ、一昨日と昨日とで、性格が違ったんだよ。会ったのは本当、その2回だけだ」

八幡「は? 性格が違う? もしかして二重人格か?」

時雨「いやわからん。ただ、二つの性格があるって事は確かだ」

時雨「まあ、放課後にも色々あったしな……」

こよみ「ちょっ……。それ、聞ーいーてーなーいっ!!」


時雨「先輩の写メ撮ろうとしたら、殺されかけたんだぜ」


 写メ撮られるだけで殺しに来るとは……雪ノ下に匹敵するドSだな……。


こよみ「なんでそんなにハードな関係になるかなぁ……」

こよみ「どーせ時雨が無理言って、生徒会長さんを困らせたんでしょ? 生徒会長さんはとっても可愛いんだよっ、するわけ無いよそんな事」

こよみ「あ……でも、私も──昨日の時雨みたいに──。
    耳チュウは、しょっちゅうされてるから……」

??「聞いてないわよ、時雨君──。
   その話……」


八幡「はあ!? 耳チュウだと!? 甘噛みか!? 甘噛みなのか!?」

時雨「未遂だよ、未遂。耳チュウの前に、こよみが教室ごと俺達を吹き飛ばそうとしたんだろ。
   当たってたら死んでたぞあれは──」


 ゴス──ッ。
 
 鈍い音が教室に響く。音のした方を見ると、時雨の頭に拳が突き刺さっていた。



??「いい加減気がつきなさいよ!!
   アンタ達──!!」

こよみ「え──!?」

こよみ「生徒──会長さん?」

時雨「だから言ったろ、猫かぶってるんだって、コイツ」


 人差し指で生徒会長を指す時雨。ちょっと待てよ……まさか──


八幡「やっぱり──アンタだったのか……」

??「……」


 生徒会長は無言で俺の前に立つと、じっと俺の目を見据える。


八幡「ッッ──!!」


 瞬間、身体におぞましい感覚が走る。以前にも感じた、心の奥を覗かれるような──。


??「──比企谷君、かしら? ちょっと付いて来て」


 そう言って俺の手を引っ張る生徒会長。これ『付いて来て』じゃなくて『ちょっと来い』だよな? 俺の意見は?


時雨「おいこよみ。あれはどうするんだ」

こよみ「あ、ええと──お、お幸せにっ!!」


 『お幸せにっ!!』じゃねえよ! 助けろよ!!

今日はここまでです
また土曜日に

那由多の出番をどこにするか迷い中の>>1です
今日も投下していきます


──────

 生徒会長に連れてこられたのは、生徒会室だった。


生徒会長「さて、何から話そうかしら」

八幡「あんたは、一夜先輩なのか?」

千夜「一夜はもう一人の私よ。私は千夜(ちや)というの。よろしくね」


 千夜と名乗った先輩は、この前の一夜先輩と瓜二つだった。いや、本人かも知れない。


八幡「二重人格……なのか?」

千夜「そう──思ってくれて構わないわ。性格も真逆、好きな食べ物も違うし、記憶の共有も出来ない。不便よね、二重人格って」


 二重人格── 解離性障害──は、本人にとって堪えられない状況を、離人症のようにそれは自分のことではないと感じたり、あるいは解離性健忘などのようにその時期の感情や記憶を切り離して、それを思い出せなくすることで心のダメージを回避しようとすることから引き起こされる障害である。


 解離性同一性障害は、その中でもっとも重く、切り離した感情や記憶が成長して、別の人格となって表に現れるものである。

 千夜先輩と一夜先輩も、何かしらのトラブルがあって二重人格になったのだろうか?


八幡「その……なんだ、先輩も大変なんだな」

千夜「もう慣れたわ。あなたも今は大変でしょう?」

八幡「まあ、そうだな」


 ……やはりこの人は以前に会った先輩なのだろうか? 確認してみる必要があった。


八幡「……先輩、前に言ってたよな、『由比ヶ浜が死んだ』って。あれは本当なのか?」

千夜「……」


 沈黙が流れる。千夜先輩は微動だにしない。ただこちらをじっと見据えていた。


千夜「……そうね」


 やがて重い口を開いた。


千夜「……由比ヶ浜 結衣さんなら、今年の5月頃──」



 ────交通事故で亡くなったわ。


今日はここまでです
少なくて申し訳ない…
また水曜日に

おつおつー
那由多を出すってことは世界に異変みたいな事を起こすってことか?

>>97
最初に思わず出しちゃったんでそのまま出さずに終わるっていうのは駄目かなと思いまして…

すいません遅くなりました
今から投下します


────────

 もう少し先輩と話したかったのだが、チャイムが鳴ってしまったので今回はお開きとなった。

 分かったことは、由比ヶ浜が亡くなっていたこと、俺が元の世界で出会ったのは千夜先輩だということ。

 由比ヶ浜が亡くなっていたことは、担任の教師から聞いたので間違いない。

 問題は、何故千夜先輩が元の世界にいたのか。俺はどうすれば元の世界に帰れるのか。

 ──そして、由比ヶ浜を救うことはできないのか。


 由比ヶ浜を救う為には、時間を遡るか、確定した因果の現象を捻じ曲げる──くらいしか思いつかなかった。

 前者はともかく──後者は無理だな。どう考えても危険すぎる。いや前者も危険だけども。


こよみ「はーちまーんくーん?」

八幡「……」


 とにかく、俺が世界を移動してしまったということは、誰かが俺を移動させたのか、偶然的に起こってしまったのか──のどちらかのはず。


こよみ「おーい?」


 その『誰か』がこの世界にいるかどうかはわからないが、俺に何の恨みがあってこんな事したんだ……良い迷惑だ。


こよみ「…………」

時雨「あ、これヤバいやつだ」


 早く探し出して元の世界に戻してもらわないと。小町も待ってるだろうし。

 ────ん? 小町?


こよみ「オイ」


 物凄い力で胸倉を掴まれ、我に返る。そこには、物凄い形相のこよみがいた。


こよみ「生徒会長と知り合いなの? ねえ、どうなの?」


 顔が怖いですこよみさん……。


八幡「ま、まぁ知り合い──かな?」


 知り合い……だよな? もうわからん。


こよみ「ふーん」

時雨「てゆーかアイツ二重人格なんだな。初めて見たぞ」



こよみ「私もあの後考えたんだけどね……。生徒会って大きな組織のリーダーだもん。やっぱりあれくらい厳しい性格じゃないと、決断は下せないよ」

こよみ「上に立つ人間は、時には厳しく、非情でないと勤まらない」

こよみ「優しいだけ、公正なだけ、それじゃあやっぱり──人は動かせないよ」


 こよみが言うことも確かだ。日本人というのは、大抵誰かがやり始めてから付いていく人間が殆どだ。社会では、千夜先輩のような人間が彼らを引っ張っているのだろう。


こよみ「それに──」


 と、言葉を途中で切るこよみ。



八幡「なんだよ。気になるじゃねーか」

こよみ「あ、これ私が言ったって……言わないでね?」

こよみ「生徒会長さんが、裏で動いてる──って噂があるんだ。自殺事件──」

八幡「自殺事件?」


 なんだそりゃ。初めて聞いたぞ。


こよみ「あれ? 八幡知らないの? 自殺事件──」


 ────こよみの話からするとこうだ。この学校では、最近自殺が多発しているらしい。しかも一週間に一回。



こよみ「勘違いしないでね、きっと──調査って方の意味だと思うから」

こよみ「あの人の性格からしてそんな事はしない──そう考えてたんだけど、今日の生徒会長さんを見て、やっぱりって思ったんだ」


 ──裏の性格のあの人は、きっと不正を許さない、自分の正義を追求する人──。


 一週間に一人死ぬ。この世界の由比ヶ浜が死んだのも、これと関係があるのか?

 千夜先輩は事故で亡くなったと言っていた。でもそれは本当の事なのだろうか? こよみはこの事件はあまり表沙汰になっていないとも言っていた。嘘を吐いているのか、それとも────。

 
 先輩に会いに行く理由は、そう困りそうになかった──。

今日はここまでです
次回の投下は少しになるかもしれません
また土曜日に

すいません遅れました
投下していきます

────────


八幡「……今はアンタなのか」


 放課後、先輩に会うために旧生徒会室に向かった俺を待っていたのは、もう一人の先輩だった。


一夜「ええ。人を待っていますから」

八幡「時雨か?」

一夜「……よくわかりましたね。彼にお願いをしたんです。もう一人の自分の顔を撮って来て欲しい、と」


八幡「なんでまたそんなことを……」

一夜「私、千夜の事は全然分からなかったんです。性格が正反対というくらいしか分からなくて……」

八幡「……そうか」

一夜「だから、顔だけでも知りたかったんです。私の防御人格である千夜の顔を──」


 この人も色々悩んでたんだな。まあそりゃそうか、俺ももう一人の人格が俺の中にあったら困ると思うし。


八幡「なら、俺はお邪魔だな。さっさと退散するぜ」


 結局一夜先輩から聞き出せそうな情報は無さそうだし。ここにいても邪魔なだけだろう。


一夜「あ、比企谷君!」


 教室から出ようとした俺を一夜先輩が引き止める。


一夜「比企谷君は、妹さんはいらっしゃるんですか?」


 ドクン────。


 心臓の鼓動が、少し速まった気がした。


 昼休みで考えを遮断していた、この世界での妹の存在。何故今まで考えなかったのだろうか? 

 思えば、雪ノ下もこの世界に存在しているのだろうか? 疑問だけが、頭の中で巡っていた。


八幡「なんでそんなことを聞く」

一夜「特に意味はありません。時雨君にも可愛い妹さんがいるんです。だから比企谷君にも妹さんがいるんじゃないかと思って」

八幡「いるよ。世界で一番可愛い妹がな」

一夜「そ、そうですか。……良いですよね、妹って」

八幡「ああ。最高だ」



 口ではこう言っているが、内心は不安でいっぱいだった。妹は無事なのだろうか。雪ノ下も心配だ。


八幡「じゃあ、用がないなら行くわ」

一夜「ええ。お手間をとらせました」


 取り敢えず、また今度に千夜先輩に会えばいいか。最悪無理にでも呼び出すし。
 
 そう思って教室から出ようとした俺の耳に、



一夜「妹さん、無事だと良いですね──」



 ────と、聞こえた気がした。 



今日はここまでです
見てくれている方ありがとうございます

>>1です
今日も投下していきます


────────

 家までの帰り道──何故家が分かるのかは分からないが──いつも通る公園に、一人の少女が立っていた。


「……」


 その少女は、地面を見つめていた。一体何があるんだよ。

 普段なら関わろうとしない俺だが、今回は何故か話しかけようとしていた。


八幡「……探し物か?」

「……まあ、そんな所かな」

八幡「そうか」



 この少女からは、何だか俺と似たような雰囲気がした。何故かは分からなかったが、そんな気がした。


八幡「比企谷 八幡、だ。お前は?」

「……」

遥「──遥」

八幡「遥──か。困ってるなら相談に乗るからな。何時でも言ってくれ」

遥「……どうして」

八幡「ん?」

遥「どうして初対面の人にそこまで親身になれるの? そんな腐った目をしてるのに」



 おおう……正直に言ってくれるなこの女。

 だが、今の言葉で何となく分かった気がした。


八幡「いや、何か俺と似たような雰囲気があったからさ」

遥「……止めてよ、私はそんな腐った目はしてないよ」

八幡「だから何で目に拘るんだよ。雰囲気の話してんだよ」


 

 ────この少女は、誰かに助けを求めている。そんな雰囲気がした。

 俺と……同じで────。





遥「そう、だね。でもどうしたらそんな腐った目になるのか気になったから」

八幡「伊達にハードな人生送ってないんでな」

遥「そうなんだ……」


 遥と名乗った少女は、それでも地面を見つめていた。


八幡「じゃあ、俺は行くわ」

遥「……」

遥「……ありがと」

八幡「……ん?」

遥「……何でもない」


 何か言った気がしたんだが、気のせいだったか?



遥「…………」




 ────ばか。


今日はここまでです
遥の口調ってこんなんだったかな…

>>1です
今日は少しだけ投下します


────────

 家に着いてから、色々と考えていた。

 この家に妹の小町はいない。部屋の間取りは元の世界と変わっていない。だが、他の人が住んでいる形跡はない。 

 元々俺だけで住んでいたのか、最初は小町が住んでいて、どこかに行ってしまったか……兎も角、小町が生きているかはまだ分からない。存在すらしていない可能性もある。

 ……駄目だ、情報が少なすぎる。この事は後回しだ。

 少し気になっているのは、帰り道に会った少女、遥。



 彼女は──おそらくだが──助けを求めている。しかし、それを周りの人に気づいて欲しいと思っている反面、周りに迷惑をかけたくないのか、心を閉ざしている気がした。

 こういうタイプが一番大変なんだよな……どうするか……。

 ……いやいや、まずは自分の事から解決しないと。

 元の世界の事に帰る方法を知ってそうな人物は……千夜先輩しかいないだろう。何故かは分からないが、彼女も元の世界にいたんだし。


 あと雪ノ下の事もだ。彼女はこの世界に存在しているのだろうか。戸塚もいないのか……? 酷すぎる。

 やはり千夜先輩に会って話をするという結論で終わってしまう。それほど俺の中では彼女の存在は大きかった。

 何故なら彼女は、この世界と元の世界を繋ぐ境界線なのだから────。

今日は少ないですがここまでです
次回で那由多を登場させるかもしれません

>>1
HTML化依頼されていたので本人じゃないなら↓のレスをトリップつけて瓶してくれ
■ HTML化依頼スレッド Part28 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424856061/110)

しかしNOeSISのSSなんてあったのか
見逃してた、今から読むわ

>>128
報告ありがとうございます

>>1です
今日も投下していきます


────────

 翌日、放課後に旧生徒会室に訪れたのだが、一夜先輩も千夜先輩も不在だった。どうしたものかと悩んでいると、


「あれ、こんな所に人がいるなんて珍しいね」


 聞き覚えのある声がした。振り返ると、元の世界にいたピンク色の髪の──


八幡「意味不明女──!?」

「ちょっ!? 何そのネーミングセンス!?」

 
 意味不明な女が立っていた。



八幡「お前、どうやってコッチの世界に来た!? 元の世界にはどうやって戻れる!?」

「コッチ? 元の世界? 何言ってるの?」

八幡「惚けんな! お前が意味深な言葉を言ってからおかしくなったんだ! 何か知ってんだろ!!」

「ねえねえ、それよりさっきの意味不明女ってな──」

八幡「ああもう! それはどうでもいいから! ホントもう存在自体が意味不明だなお前は!」

「……何なのこの言われよう」


 珍しく饒舌になっている自分がいた。まあ必死なのは仕方ないかもしれない。元の世界に繋がる人物を見つけたのだから。


那由多「ていうか私にも那由多っていう名前あるんだから、ちゃんと名前で呼んでほしいな」
 
八幡「そうか、それは悪かった意味不女」

那由多「人の話聞いてた?」

八幡「おう聞いてたぞ。その頭に付いてるのはマシュマロだろ? 知ってる知ってる」

那由多「マカロンだよっ!?」

八幡「そうかそうかマキロンか。便利だな」

那由多「キズ薬でもないからっ! ……ちょっと私の事馬鹿にしすぎだよ?」



 ヤバいちょっと楽しくなってきた。……って駄目だ、本来の目的を忘れてた。


八幡「……なぁ、結局どうなんだ? お前は元々いた世界の事を知ってるのか?」

那由多「知ってるよ」

八幡「本当か!?」
        ・・
那由多「だって、この世界の事でしょ?」

八幡「……」


 彼女が言っているのはおそらく、今俺が存在している世界……つまり俺が元々いた世界ではなく、那由多自身が存在しているこの世界──の事だろう。

 ではあの時会った彼女は別人なのだろうか? ……いや、一夜先輩や千夜先輩の様に二重人格という可能性もある。

 しかし……何でコッチの世界にいる女達はこう……何というか、癖が強いというか、そんな女ばっかなんだ……。雪ノ下でもかなり癖があると思うが、コッチの世界で生きてる人間はどういう性格してるんだよ……。


八幡「……そうか、わかった。んじゃ、用は済んだから帰るわ」

那由多「……そっか」

八幡「そういえば、お前は何をしに来たんだ?」

那由多「ちょっと探し物だよー」

八幡「ふーん……俺は関係ないから帰るわ」

那由多「えー手伝ってよぉ……」

八幡「じゃあな」


 誰が手伝うか。勝手に探しとけ。

 そう言って出て行った俺の耳には、


那由多「関係ない訳じゃ無いんだけどなぁ……」


 ────という言葉は、聞こえてこなかった。

今日はここまでです
ちょっと伏線張りすぎじゃないですかね…

那由多ってピンクだっけ…?
楽しみにしてるよ乙

>>139
ピンクだった気がするんですが…
羽化やってから結構経ってるので間違ってたら脳内変換でお願いします

>>1です
今日も投下していきます


────────

ズゴォオオオオオオオオオオンッッッ────!


 旧生徒会室を後にした俺の耳に、突然轟音が響いてきた。


八幡「何だ……!?」


 どうやら地震では無いらしい。一体何の音だ?


八幡「こよみか……?」


 あの怪力の持ち主ならやりかねない。この前時雨と喧嘩して教卓を軽々と持ち上げてたし……。

 また時雨と喧嘩でもしたんだろう。面倒事は御免なのでさっさと帰るか。

 階段を降りていったその時、


「──走れぇえええええええッッ!」


 という声が聞こえて来た。……嫌な予感がした。


 見ると、時雨と生徒会長が手を繋いで走っていた。何だあの野郎!? フラグ建てやがって! しかも生徒会長も満更でもない顔してんじゃねーよ!

 しかし、激しい憎悪に駆られていたので、周りの状況を把握出来ていなかった。

 時雨と生徒会長が向かっている先は、こちら──つまり、自分の方──。

 そして先ほどの轟音、時雨と生徒会長の今の状況──。


 咄嗟に後ろに後退する。何故かはわからないが、本能的な何かが避けろ、と言った気がしたのだ。

 その判断は正しく、ついさっきまでいた俺の場所を、何かがもの凄い速さで通り過ぎ、教室に突き刺さっていた。

 よく見ると、筋トレなどに使うベンチプレスだった。飛んできたと思われる方向を見てみると──


こよみ「ハチマン モ イッショ ニ  マザル?」


 目がマジなこよみが立っていた。


八幡「……筋トレなんて御免だよ!」


 こちらの方向に走ってきた先輩と時雨を恨みながらも、二人と一緒に逃げていった。




 ────こよみって、ヤンデレだったんだな……。


 新しい発見をした、危険度MAXの出来事だった────。

今日はここまでです
>>142で初めてピッタリ投稿出来たのがちょっと嬉しかったですw

投下しますー


──────────

一夜「死ぬかと……思いました……」


 ギリギリでこよみのベンチプレス攻撃をかわし、なんとか逃げ延びる事が出来た。


時雨「本気……だったぞ……アイツ……」


 肩を大きく揺らし、ぜぇぜぇと息をする時雨。


一夜「ふふ……こよみちゃんは、真剣なんですね」


 ────負けてられないな────。


 そう呟いていた先輩を見て、


八幡「……何このラブコメ展開」


 口に出さずにはいられなかった。


時雨「……なあ、先輩。千夜って──どういうヤツなんだ?」

一夜「時雨君? 私がどういう人か、は──聞いてくれないんですか?」

時雨「いや──この前、あの人が重要な話があるって言ってたから」

時雨「それに──一夜先輩の話は、もう聞いたし」

一夜「ええ、そうでしたね──。それでは千夜の、何を……聞きたいんですか?」

時雨「千夜先輩は──なんで、こよみと八幡と、オレの前に現れたんだ?」

時雨「そういう体質だってバレて──かまわなかったのか?」

一夜「──ふふ。……あは、あははははっ──」


 急に、一夜先輩は笑い出した。


一夜「千夜は──ふふっ、そんな可愛いところがあったんですか──」

時雨「なんだよ──可愛いところって」

一夜「宣戦布告ですよ、こよみちゃんに対する。とっても千夜らしいやり方です」

八幡「いやいや、俺がいる前で何宣戦布告しちゃってんのあの人? 俺の前で修羅場形成してどうすんだよ」

一夜「……あれ? 比企谷くんいたのですか? まったく気づきませんでした」

八幡「空気スキルは磨いてるつもりだ」

時雨「……お前それ言ってて悲しくならないか?」


 何を言うか。空気スキルは大事なんだ。教室でも、どれだけ目立たない様に生活するかが重要なんだぞ。


一夜「──ふふっ。もしかしたら、千夜もその空気スキルで比企谷くんの事に気づかなかったんじゃないですか?」 

八幡「いや、それは無いぞ。その後に俺に付いて来てと言って思い切り連行されたからな。まあ、俺にとっては助かったが」

一夜「──え?」


 一夜先輩は驚いた様に目を丸くする。


一夜「嘘……でも、そんな事──」


 慌てて胸ポケットを探り始める先輩。なんだ? さっきの言葉になんかおかしな所あったか?

 時雨を見ると、時雨もよく分かっていないようだった。
  


時雨「一夜……先輩?」

一夜「あっ……こほん──すいません、取り乱しました」
 
時雨「一夜先輩は、千夜先輩のこと……どう思ってるんだ?」

一夜「そうですね……。私にとっての千夜──。うーん……難しい事を聞くんですね」

一夜「例えるなら──」

 
 そう言って一夜先輩は、窓の外を指差した。


一夜「例えるなら──。私にとって千夜はあの──木陰に留まったパピヨンですっ!!」


 ビシッと指差す方を仰ぎ見るとそこにいたのは──


時雨「犬なんていないぞ、一夜先輩……」

一夜「やだなぁ、時雨君ってば。パピヨンと言ったら──日本語で蝶を指すんでしょ?」

時雨「蝶もいないぞ……」

八幡「いや、あながち間違いでもないな。パピヨンはフランス語では蛾も意味してるから」

一夜「えぇ!? あれって蛾なんですか!?」

 
 どうやら、千夜先輩はよく思われていないらしい。




 めりめりめり…………。




 先輩いわくパピヨンが留まっていた木陰が、不気味な音を立て、ゆっくりと倒れていく……。


 休む場所を失った蛾は、本能なのだろうか──一瞬で羽を震わし──彼方へと飛び去る。


八幡「……?」


 なぜ目の前のこの巨木が、倒れようとしているんだ──?


 ──嫌な予感しか、しなかった──。



こよみ「あはっ──」

こよみ「ミ ツ ケ タ」




 ────勘弁してほしい。どう考えても巻き添えである。

 再度、横にいる一夜先輩と時雨を恨んでしまうのだった────。

今日はここまでです
また土曜日に

投下しますー


──────────

こよみ「むむむむ────むーっっ!」


 廊下の隅には、ロープでぐるぐる巻きにされ、ハンカチで猿轡をされたこよみが転がっていた。 


千夜「悪く思わないでね、こよみさん──」

千夜「私はね、一夜の体を守る──義務があるの」

こよみ「ふぐーーーーーっっ!! もがむむむむむっっ!!」


 覚醒した千夜先輩により、こよみは一瞬で倒されてしまった。

 彼女に睨まれただけで、動くことを封じられたのだ。

 いくらこよみでも、これには勝てない。



千夜「さ──行きましょうか」

時雨「ちょっと待て──! こよみをこのままには、していけないぞ」

千夜「大丈夫。自分で縄を解けるわ──あの茶髪ならね」

八幡「え、俺も行くのか?」

千夜「あなたは私に用があるんでしょう? ならいいじゃない」

 
 まるで分かっていたかの様に言う先輩。まぁ、確かにそうなんだが。



時雨「なあ──……」

千夜「──何よ?」

時雨「……」

千夜「──何?」

時雨「──いや、別に……」

千夜「そんな蔑んだ目で別に……はないでしょう?」

時雨「いや、蝶と蛾の区別つかない人なんだな──って」

千夜「……そんなマヌケ、この世に存在するわけないでしょ」


 先輩は吐き捨てるように言い放つと、ぷぃとそっぽを向く。


 ──何も、そんな所まで似せなくていいのに。


 恐らく、耳を澄ませていなければ聞こえない程の小声で、彼女は呟いた。


八幡「──似せる?」

千夜「昔の──事よ──」

千夜「リアルに……蛾と蝶の区別が付かない人がいたの──。一夜はね──その人の──」


 先輩はそこで言葉を区切る。その先に続く言葉への──ためらい──、そういったものを感じた。


時雨「先輩……珍しく歯切れが悪いな。そういうときは、大抵言いたくないことが含まれている時──そうだろ?」


 時雨も同じ事を思っていたのか、千夜先輩に尋ねていた。


千夜「──そうよ。でも、あなたのその言い方、私へのあてつけ?」 

時雨「つまり、蝶と蛾の区別がつかない人ってのは──」

千夜「ふふ──そう、あなたの思っている通り。区別のつかないマヌケは、一夜……彼女に、とても近い存在だった」

千夜「最初からこんな事、あなたに言わなければ良かった……」

千夜「時雨君は嫌だわ。勘が──変な時に鋭いもの──」

千夜「でもね──この話の続きは、生徒会室がいいわ。廊下だと、人に聞かれてしまうからね」

千夜「私達の──秘密を──ね」

 

 この様子だと、今日は遅くなりそうだな……。

 今日の晩飯をどうしようかと迷いながら、俺は生徒会室に向かうのだった────。

とりあえずここまでです
また水曜日に

投下しますー

酉忘れてました


────────

 生徒会室に入ると、日は既に落ち始めていた。

 傾いたオレンジに厚い雲に遮られ、今日は──薄い橙の切れ間が差し込むだけだ。

 曇り空は先輩の美しい髪に影を落とし、その白磁のような顔に切り込まれた二つの赤を──より一層引き立たせている。

 
千夜「蛾には──ね」

千夜「Papillon be nuitって、ちゃんと言葉があるの。直訳すると、夜の蝶」


千夜「でも、一夜の事だからきっと──それ自体が、私への当てつけなのでしょうね。時雨君の口から、それを言わせるのが──ね」

千夜「あの子も私と同じで、遠回りにしか相手に言葉を届けられないの。そこが凄く──損をしている所だと思うわ」

千夜「思いをハッキリ伝えられない。こっちまでもどかしくなってしまう」

千夜「人の考え、生き方は──知っている言葉の数に縛られてしまう──。そういう考え方があるそうよ」

 
 またややこしい話をしようとしてるな……。さっき遠回りにどうとか言ってただろ……。


千夜「フランス語で蝶と蛾は同じ、Papillon。犬とタヌキも同じ Chien」

千夜「虹が七色なのは日本だけで、他の国では一色少ない六色で表す──」

千夜「でもワインの味を示す言語は10以上あったりする。言葉の分だけ、彼らは色々な──味──を、知っているの」

千夜「──言葉では言い表せない、言葉では伝えられない──」

千夜「いいえ、そんなことは無いわ。問題なのは……それを指し示す言葉が、日本語には無いことなの」


千夜「私達の感覚や思考なんてきっと、言葉によって支配されているのよ。元は……私達の祖先が作った筈なのにね」

千夜「言葉は思いや考えを伝えるためにあるけれど、それは完璧ではない。揺れて、統一されておらず、時には齟齬が生まれる──」


 ……あ、やべ……眠くなってきた。昨日は色々と考えててあんまり寝れなかったからな……。


 ──すまん、千夜先輩……。


 その言葉を口に出すことは出来ず、俺の意識は闇に落ちていった────。


────────

時雨「──嘘だっっっ!!!」


 突然大声が聞こえて目が覚めると、辺りは真っ暗になっていた。

 
千夜「残念だけれど、本当の事よ──。この自殺事件は、私が原因なの──」

時雨「違う、あんたは何か知っているっ!! そして、そこに責任を感じているんだっっ!!」

時雨「この自殺事件の終わらせ方──。知っているんだろ──?」

千夜「…………」


 
 先輩は、考え込んでいた。

 しかし、先輩はさっき何と言っていた? 自殺事件が起きたのは先輩が原因なのか……?


時雨「オレだって、自殺事件の事を調べたんだ。一週間に一人自殺する、方法はバラバラ」

時雨「一人目は水死、でも最近まで見つからなかった。二人目は、喉を刃物で突き刺して──」

時雨「三人目は国道に飛び降りてダンプに轢かれる。そして四人目は、自宅ガレージのシャッターに頭を挽き潰される」

時雨「みんな何かから逃げ惑うように──息も絶え絶えになりながら──逃げようとしていた」

時雨「自殺なのに、何で逃げる必要があったのか──?」

時雨「五人目──先輩と初めて会ったときの事だ。飛び降りた彼女の前に、化け物がいた──」

時雨「みんな──アイツから──逃げていたんだ」


 ここまで聞いていて、疑問に思うことが幾つかあった。


八幡「……なあ、質問いいか?」

時雨「なんだよ?」

八幡「その一週間に一人っていうのは、曜日とかも決まってるのか?」

時雨「ああ、水曜日に自殺事件は起きてるよ」

八幡「なら、一人目も見つかったのは水曜日なのか?」

時雨「それは……」


 チラッ、と千夜先輩に視線を送る時雨。先輩もわからないようで、首を横に振っていた。


八幡「一週間に一人死ぬって考えてたらヤバいかもな。いつ何処で死ぬか分からないし」

時雨「まあ、そうだな……」

八幡「それともう一つ。その化け物ってやつから自殺した人は逃げてたって言うけど、それなら何で一人目はわざわざ水の中で死んでたんだ? 入水自殺で何日も見つからなかったってのは何でか分からないが……。大体、化け物から逃げてるのに自殺するなんておかしいだろ」


 もしかしたら、この自殺事件は──


時雨「何が言いたいんだよ、八幡?」

八幡「この自殺事件は、自殺じゃないんじゃないかって事だよ」

時雨「なっ!?」

千夜「…………」


 そう、おかしいのだ。一週間に一回、という決められた日に自殺するなんておかしい。明らかに人為的な物としか思えない。


八幡「先輩、教えてくれよ。自殺事件について、何か知ってるんだろ?」

千夜「……分かったわ──」


 こうして俺は、自殺事件に深く関わっていくことになった。もう止まることなど出来ない。こうなったら、犯人を意地でも見つけてやろう。

 そもそもの目的とはかなりかけ離れている気がしたが、今はとりあえず自殺事件に集中するか。



 ────やはり今日は、遅くなりそうだ。

今日はここまでです
ちょっと説明が無理矢理な気がします…

ちょっと遅れましたが投下しますー


──────────


 自殺──それは、知識によって呼び起こされるもの──。

 10代の死亡原因の一位は自殺、である。

 人はみんな、心に自滅の願望を抱えている。こんなに生き難い世の中だから、種からゆっくりと──破滅──は育てられていく。

 そして、その種が花開くのが、思春期を迎えた10代。成長を促進させる水は──……本が与える。


 本の知識が、思春期の複雑な心に──死──への好奇心と、知恵を与えてしまう。

 それはとても危険な、破滅へ向かう知恵。

 自殺の方法が、記された本。

 赤い本と、呼ばれている。

 元は検死官の作った、法医学の教科書だったらしい。

 だが──……人の手に渡るうちに、様々な事が書き加えられ──。膨大な自殺と殺人、死についての────記録書に成長してしまった。


 同時に、──意思も持った──。持ち主の事を食べてしまうらしい。

 つまり、今までの犠牲者たちは────……。

 この赤い本を、手にしてしまったということだ。

 偶然なのか……それとも──。



 本は、千夜先輩の姉の形見だったらしい。


 五年前に事故死した先輩の姉の、形見。

 遺体すら残らなかった姉の──唯一の持ち物──。

 もしかしたら、その本を偶然手に入れてしまったから、死んだのか────。

 先輩には、分からないらしい。

 だが、あの本は──強力な呪いらしい──

 そして、次に手にしたのが先輩、ということだ。

 だから、本の中身も知っている。1ページ1ページ……何が書かれているか、までも────。




────────── 


千夜「それが、私の知っている自殺事件の真相よ──」

時雨「ちょっと待て──、本は先輩が持っているんじゃないのか?」

千夜「なくして──しまったの──」

千夜「気が付いたら、どこかに消えてしまっていた。だってあの本は──」



 ──意思を持っているんですもの──。



八幡「失くした──から、先輩のせいだって言うのか? 意思を持ってるんだろ? その本は」

千夜「本はね、四つの項目に分れている。自殺、他殺、事故、天災による死──」

千夜「本を読んでしまった者は、順番にそれと同じ──。忠実に、書かれている内容と同じ死に方をなぞるの」

千夜「時雨君と最初に出会ったとき──。屋上から飛び降りて死ぬ……、その項目が実行されるだろうと予測していたから」


千夜「だから人が飛び降りれる、屋上で待っていたの」

千夜「でも──飛んだのは三階からだった」

千夜「まるで──屋上に私達がいたから──。三階から──飛んだ──みたいに」

千夜「そして次の項は──首吊り──よ。たぶん今週の水曜日に、誰かが首を吊って自殺するわ」

千夜「本のページ順に、この自殺は実行されている。でも──もっと恐ろしいのは──」

千夜「六人目……次のページで、自殺は終わる。そこから先は──」



 ────殺人のページが始まるのよ────。


 冷静に、言葉は紡がれた。



八幡「先輩──これは本当に、自殺──なのか?」

千夜「──自殺よ。だって……まだ、自殺のページですもの」


 信じられない話だった。

 呪いの本、それを手にしただけで──書かれている内容通りに自殺してしまう──。

 ヨタ話だ……到底、信じることは出来ない。


時雨「先輩は──これから、どうするつもりなんだ?」


 本と言えば、俺も気になる事があった。


八幡「なあ──、なんで2回使えないんだ?」

 
 ページ順に物事が進んでいく、それは分かる。

 しかし、本と言うのは同じページを何度でも、繰り返し読む事ができるではないか。


千夜「本は意思を持っている──それが答えよ──」

時雨「つまり、2回同じ事をさせない……って事か──」


時雨「それじゃあ……何で先輩は──」

千夜「私はね、時雨君──。本に──嫌われているの──」

千夜「だからかしらね、逃げられてしまったのは──」

千夜「人の死なんて、きっと気まぐれなのよ。私はたまたま──本が使えなかった──」

千夜「一週間、七日間に一人死ぬ」

千夜「──七──という数字は、この事件にとって、意味のある数字だと思うわ。」

時雨「まだ、二人死ぬ……」

千夜「そういう事ね──」

千夜「でもね、私が本を使えなかったのは、たまたま──よ。次は、必ず使ってみせる──」

千夜「だから、本は必ず取り返す。そう……水曜日に自殺する、六人目の子から──ね」

 
 冷たい表情の先輩は、出会った時と同じように────。

 ──幽霊──のように残忍で、そして捉えどころがなくなっていた────。


ここまでです
また水曜日に

すいません昨日投下するの忘れてたので今からちょっと投下しますー


──────────

こよみ「ねーねーねー」


 教室には正午の日差しが差し込み、窓からゆったりとした暖かさが流れてくる。

 今日は珍しく晴れていて、とても気持ちのいい天気だった。

 
こよみ「時雨、八幡、あのさー。今日はお弁当食べるの、友達と一緒でもいいかなー?」


 こよみは時雨の後ろに立っていて、つんつんと背中をつついていた。


時雨「ん? 別にかまわねーぞ」

こよみ「そう、良かった。女バスの部長さんがね、一緒に食べたいって」


 にっこりと、太陽に負けないくらいの暖かさで、こよみは微笑む。


八幡「女バスの部長?」 

こよみ「私よりもねっ、運動神経いいんだよ」


 こ────……。こよみよりも、運動神経がいいだとっ!?


時雨「で、そいつはどこに──いるんだ?」

こよみ「さっきから時雨の前にいるよ」


 
 こよみが不思議そうな顔を浮かべる。
 俺も気づいていたが、あえて黙っていた。


時雨「──どこに?」

こよみ「だから、目の前だってばっ!!」

遥「──ちょっとーっ!! 分かっててワザと無視してるでしょっ!?」


 時雨の目の前には、以前公園で出会った、遥が立っていた。



時雨「ああ──小さすぎて見えなかった」

時雨「それで、女バスの部長ってのはどこにいるんだ?」

遥「──だからっ、私だってっ!!」

時雨「女バスというくらいだから、身長が高くて──スタイルの良い美人なんだろーな? そうじゃなきゃ、オレは部長って認めないから」


 遥は肩をワナワナと震わせ、悔しそうに唇を噛んでいた。

 よっぽど遠まわしに低身長と罵られている事が、気に障っているらしい。

 おいおい、こよみより運動神経いいんだぞ。何するかわかんねーのに煽ってどうすんだよ。


八幡「いーじゃねーか、リスみたいで可愛いし」

 
 ていうか──よく見ると戸塚に似てるな、遥って。


遥「か、かわっ──!?」

こよみ「ほーう?」


 ────ん? なんかおかしな事言ったか?


時雨「はあ? 何言ってんだよ八幡? リスは認めるが可愛いはないだろ」

遥「……殴るよ? あんまり失礼だと」

時雨「はっはっは、小学生のパンチなど届くわけ──」


 バキ────ッ!!


遥「届いたけど……?」

こよみ「だから──私よりも、運動神経いいって言ってるのに──」



 ……やべえな、さっき戸塚みたいだとか言ってたが前言撤回だ。俺の戸塚のイメージが崩れてしまう──。


時雨「早いけど、威力がない」


 ピシ────っと、何か空気に亀裂が入る。


こよみ「時雨──この子ソレ、気にしてるから──」

時雨「オマエ、果物はバナナ好きだろ?」

遥「き──。嫌いじゃないけど──、なんで時雨がソレ知ってるの?」


 時雨の事を名前で呼んだ瞬間、こよみの眉毛がピクリ──と動いた気がした。


八幡「あれ? お前ら知り合いだったの?」

時雨「ん? ああ、前に公園で何回か会ったんだよ。コイツ、ずっと地面を見つめててさ」

遥「ちょっと──。私、コイツじゃないよ」

時雨「ああ、ゴメン。──遥」


 わし────っと時雨の首根っこは掴まれていた。それはもう……恐ろしい握力で……。


こよみ「どーいう……事かなぁ──?」

時雨「だから、帰り道にたまたま会ったんだよ」

こよみ「ふーん──……。あの子の家反対方向なのに、帰り道──ねぇ」


 なんだか、納得のいかない表情のこよみ。


八幡「だから、俺の前で修羅場を展開するのやめてくんね? コッチが疲れてくるんだが」


 遥の方はかなりマイペースな性格なのか、ずごごごご────と、机を動かしながらお弁当を食べるスペースを確保している。


遥「──食べようよ?」

こよみ「ああ、うんっ!! そうだねっ!!」


 にぱっと、こよみに笑顔が戻る。


こよみ「でも本当、時雨と八幡以外の誰かが加わってお昼食べるって、久しぶりだよ~」

遥「こよみ、この前私と食べたでしょ」

こよみ「あ、あれは……」


 この前──つまり、千夜先輩が現れたときの事だろう。


遥「でもさ──あの時こよみが誘ってくれて、嬉しかったよ。女バスの2年は今こういう状況だから、一緒にお弁当食べる相手も──」

こよみ「わーーーーーっっっ!!!」


 急にこよみが両手を広げて、立ち上がった。

 時雨と遥はあっけにとられて、箸を落としていた。

 だが────さっきの遥の言葉……『女バスの2年は今こういう状況だから』か……思ってたより酷い状況かもしれないな。

 今までの自殺者は恐らく────女バスの部員だろう。出なければ、『一緒にお弁当食べる相手も──』とは言わないはずだ。


こよみ「そっ、空綺麗だなーって、お……思って……」


 ぺたん、と椅子に座りなおすこよみ。明らかに様子がおかしい。

 知ってたのか……こよみ────。

 まあ、時雨に迷惑をかけたくないんだろうしな。黙っとくのも仕方ないか。

 正面に座る遥はピンと耳をそばだて、時雨とこよみを交互に見つめている。

 彼女独特の勘────だろうか、遥は一拍置いてから口を開いた。


遥「──こよみ、もしかして……。時雨君に何も伝えていないの?」


 ────恐らく、自殺事件の事だろう。時雨は、どうやら分かっていないらしく、首を傾げている。


こよみ「あ……、うん──」

遥「そっか──じゃあ、話題を変えるよ」

時雨「おい待て、コラ。気になるだろ、すごく──」

八幡「やめとけ、時雨」

時雨「でも──!」

八幡「人には言えない事情ってやつがあるんだよ」


 そう、人には言えない事情がたくさんあるはずだ。今回は特に──死──が関わってくるしな。


時雨「──ま、いっか」


 無理に聞こうとしても、あしらわれるだけ────そう判断したのか、時雨はおとなしくなった。


遥「ねえ──時雨君、あのさぁ。生徒会長と仲良いの?」

時雨「任期切れた──方、となら。少し……」


 時雨はこよみに視線を向ける。──なんでコイツは、それを知っているんだ?──そんな視線だった。

 こよみは、ぶんぶんぶん────と、両手を左右に振って全力で否定している。

 ──私は何も言っていない──そう、表情で訴えていた。


遥「一夜さん、だっけ?」

時雨「ああ、そういう名前だ」

遥「仲──いいの?」


 時雨が答えようとした矢先────


遥「一夜さん──じゃあ、無い方と──」


 時雨はその言葉を聞くと、鋭い目で、彼女を睨みつけていた。おいおい、何やってんだよ。


八幡「時雨、今やってる生徒会長──と、仲が良いかだろ? なんでそんなに睨むんだよ」

時雨「あ、ああ。今の生徒会長とは面識すらねえよ」


 一瞬、遥の鋭い視線を感じたが、すぐに視線は外れる。


遥「ありがとう、時雨君。聞きたかった事って、それだったんだ」

遥「でも、こよみと時雨君の慌てぶり……。もしかして──」

遥「──一夜って人、何か──秘密があるのかな──?」


 くすりと、遥が不気味に微笑んだ。

 その笑顔が心に届いた瞬間、ドクン、と──心臓が鳴った。


 ──コイツは何か知っている──!?


 いや、もしかしたら────。

 あの赤い本の事も、自殺事件の事も、多分彼女は知っている。

 こよみは無難に愛想笑いを浮かべて、遥と親しげに話を繋いでいる。しかし俺にも分かる、こよみは────不安に苛まれる心を取り繕っているんだ、という事を。

 その器用さがあるおかげで、こよみは交友範囲が広いし、そしてまた────。

 その器用さでもって、自分の首を絞めている。

 ────そう、俺は感じた。

すいませんここまでです
今後の展開で悩み中です…

投下しますー


──────────

放課後──帰ろうとしていると、校庭に見知った人影を見つけた。


八幡「アイツ……何やってんだ」


 遥だった。どこかの教室に視線を向けている。視線の先には──


八幡「時雨──か」


 生徒会室があった。声をかけるべきか……いや、しばらく様子見だ。

 少しすると、遥は昇降口へと向かった。俺もバレないように後をつける。すると、時雨が遥に追いついていた。

 何かを話している様だったが、ここでは聞き取りにくいな。もう少し近づくか……。


時雨「────迷うな……。教えて欲しいのは、やまやまだけど」

遥「ああ、全部知ると死ぬってヤツだね……。学校の七不思議じゃあるまいし、時雨君──キミは絶対死なないよ」

 そこまで言い切れるのか──?

 やはり、彼女は────


遥「死んでるの、全員女バスの2年だもん──」

 
 赤い本を、手にしているのだろうか────?


遥「女バスは──私と、こよみの部活──だけどね」

遥「だけど……2年はもう私含めて、3人になってしまったんだ──」

遥「明日、私達の中の誰かが──死ぬと思う」

時雨「そんな事、させない──」

遥「やっぱり、時雨君も──何か、知っているんだね?」

遥「止めるって事は、そういう事だもの」

遥「だから……。生徒会長──一夜さんを連れて、明日行って欲しい場所があるんだ」

時雨「明日──?」


遥「そう、一人ね──学校来てないから。次に死ぬのは、たぶんその子」

時雨「どうしてそう思うんだ? 家に閉じこもっているなら、その方が安全だろ──」

遥「その子じゃなかったら、明日死ぬのは──私かこよみだよ?」

 
 こよみ、という名前が出た途端、時雨の表情が歪む。


遥「自殺する数日前から、オカシクなるんだ──みんな」

遥「何故だか変に怯えて、何も無い物影でもさ。廊下だって恐る恐る歩いて──何か、憑き物でもいるみたいに……」



 時雨の言っていた、化け物の事だろうか? あれが見えていたなら確かに怯えてしまう。


遥「怯えて怯えて──そうしたら、水曜日に自殺しちゃうんだ」

遥「閉じこもってる子は、私とこよみを拒絶するの。時雨君と、一夜さんなら──もしかしたら、と思って」

遥「助けてあげて──欲しいんだ──」


 そう言って、遥は時雨の手を握る。もし、彼女が犯人だとすれば────これを狙ってやってるのか……女ってやっぱり恐ろしいな。


遥「その紙に、住所と地図を書いておいたから。タイムリミットは多分、明日の夕方まで──」

時雨「じゃあ、今すぐ行こうぜ」

 
 確かに、明日までなのだから今すぐ行ってもいいとは思うが……。


遥「その必要はないよ」

時雨「──どうして、だ?」

遥「こよみが──時雨君の夕飯の買い物に行くって、さっき帰ったから」

時雨「……」


 どういうことだ? 何故ここでこよみが────?


 
時雨「──忠告って、そういうことかよっ!!」


 時雨は受け取ったメモ用紙を、地面に叩きつける。え? どういうことなの? 俺まだわかんねぇんだけど……。


遥「私だって──友達を疑いたくなんかっ、ないよ──っっ!!」

遥「でも──たまに感じるんだ──。こよみ──あの子が、すごく冷たい目をしていることを──」

遥「きっと過去に──すごく残酷な事をしている……そういう目を──」



 それを聞いてから、時雨は頭を振った。──残酷な事なんて、あいつが──している訳が無い──そう自分に言い聞かせているように見えた。


時雨「自殺だ──殺人事件じゃあ、無い。こよみを疑うなんて──筋違いだ──」


 本を読んだ人間は、記述通りの死を迎える。

 つまり、何らかの方法で相手に本を読ませれば、殺すことも──可能なのだ。

 そして恐らく、今までの犠牲者は全て女バスの──2年。


時雨「仮にだ、殺人事件だと──しても。同級生殺して回る動機なんか、こよみには無い」

遥「秘密が──バレてしまった──としたら?」


 秘密────こよみの、過去の事か? 遥はそのことも────知っているのか?


遥「安心して、時雨君。私は決して──その事を口に出したりしないよ」

遥「ただ、もう嫌なんだ──。友達がね……罪を、重ねるのが──」

遥「いい? 必ず見張っておいてね──」 

遥「もし明日、こよみが居なくなった時は……。このメモの場所に行って、必ず止めて──あげて」


 拾い上げたメモを丁寧に払い、遥は再び時雨に握らせた。


 ────明日、どうすっかな……。

 二人が帰った後、水曜日の放課後の行動に頭を悩ませているのであった────。


今日はここまでです

投下します

>>1です


──────────

こよみ「ねえ、時雨、八幡?」

こよみ「おーいっ!」


 特に何が起こるでもなく、いつものように平穏な日常が進み……俺は今水曜日を向かえている。


こよみ「──聞いてた?」


 ふて腐れたように、こよみは少しむくれて聞き返してきていた。


時雨「何を?」

八幡「用事があるから先に帰るってよ。でも夕飯作るから安心しろよ、だって」

こよみ「八幡はちゃんと聞いててくれたんだね。この前みたいに、無理して作らなくてもいいから。分かった?」

こよみ「アレを片付けるの、大変だったんだから──」

時雨「そういやさ、用事って──なんだよ?」

こよみ「うーん、ちょっとね──」


 言いよどむ、こよみ。
 明らかに────先程までと様子が違った。


八幡「その用事ってのは、今日じゃないといけないのか?」

こよみ「まあ……そう、だね──」


 ────この返答じゃ、確定は出来ないか。どうするかな……。


こよみ「──じゃあ、そういう事だからっ」


 がたっと椅子を引き、こよみはぶんぶん手を振りながら姿を消した。


八幡「どうすんだよ?」

時雨「……このままこよみが一人で行動していても、自殺は起こらない……とかだったら──いいのにな」

千夜「じゃあ──確かめに行けば?」


 気が付くと、教室には千夜先輩が立っていた。いつからいたんだ、全然気づかなかった。


千夜「時雨君が、こよみさんを信じているのなら──今すぐ向かうべきだわ」

千夜「あなたが昨日受け取った、メモの場所へ──ね」

千夜「そうすれば、すべてがはっきりするわよ。気持ちよく──今日は、眠りたいでしょう?」

時雨「オカシイと思ってたんだ。千夜先輩あんたは、他人にその人格が見つかるのを恐れていた──」

時雨「それは二重人格だとバレれば、一夜先輩の立場を危うくするからだ。でも──こよみと八幡の前で、あなたは正体を現した──」


時雨「何故か──それは、最初から疑ってたんだ。女バスの生徒の死が続いて、犯人を──捜していたから──」

時雨「当然、こよみの記憶も覗いたんだろ? ならば、彼女がやってないって事も──すでに知っているはずだ」

千夜「ふふ──過大評価しすぎよ、私のことを──。こよみさんの記憶は覗けなかった、視線を合わすことが……出来なかったから」

千夜「こよみさん、とても人付き合いが上手だけれど……あの子は、決して人の目を見て喋らないわ。時雨君──あなたを除いて、ね」

八幡「おい、俺は?」

千夜「比企谷君の目は腐ってるもの。見ようとも思わないわ」

八幡「ひでえ……」

千夜「全ての人間を信用していないのよ、こよみさんは。だから──内面に影を抱えて、生きているの──」

千夜「それはとてもとても巧妙に、自分の感情を押し殺して生きている者の目。だから、私は彼女を疑っているわ」


 先輩はこよみを疑ってるのか……。確かにさっきの言動はオカシイ所があった。だが──遥の方が明らかに怪しい部分が多すぎる。


千夜「さあ、行きましょう──時雨君。手遅れにならないうちにね……」

千夜「本の回収が遅れたら、どの道こよみさんは死んでしまうかもしれないのだから──」

八幡「──んじゃ、俺は帰るわ」

千夜「あら、あなたは来ないの?」

八幡「用事を思い出してな」

千夜「──そう、じゃあ行くわよ──時雨君」

時雨「ああ──」


 本当は先輩達に付いていくつもりだったが、俺が付いていった所で何が出来るだろうか。わざわざ人が死ぬところを見に行こうとは思わない。

 それに、遥のことも気になる。尾行したかったのだが、勘の鋭い彼女ならバレてしまいそうたったので、やめておいた。
 

 向かう先は、遥と初めて出会った──あの公園。

 あそこに行けば、遥に会える──そんな気がした。


 遥は救いを求めていた。初めて会ったときも──今もだ。

 もしその弱さに本が付け込んだとしたら──……ありえない話ではない。

 ──もうすぐ日が暮れる。急がなければ……。

 俺は立ち上がり、夕焼けに染まっているであろう場所へと向かう。

 ──こよみの友人である彼女を、救うために────。

※訂正

勘の鋭い彼女ならバレてしまいそうたったので
  ↓
勘の鋭い彼女ならバレてしまいそうだったので

今日はここまでです

投下しますー


────────

 時雨が千夜先輩とマンションの雪崩に遭遇した頃────


 俺は遥と初めて会った、公園にやってきていた。ここに来れば、遥に会える気がしたのだ。 

 だが、遥はいなかった。代わりに、青髪の小さい子が佇んでいた。
 

八幡「えっと……」

??「もしかして……比企谷先輩?」


 『先輩』か。良い響きだな。
 ……駄目だ、一色を思い出してしまった。いかんいかん。


八幡「そうだけど、君は……?」

憂姫「あ、すいません。鹿倉時雨の妹の憂姫です。いつも兄がお世話になってます」

 
 ぺこり、と挨拶をする憂姫ちゃん。なんだ時雨、お前にも可愛い妹がいるじゃないか。小町には負けるけどな。


八幡「いやいや、こっちこそ。それでどうしてここにいるの?」

憂姫「ちょっと用事があって……。比企谷先輩はどうして?」

八幡「俺もちょっとな」

憂姫「そう、ですか。……じゃあ私はこれで」

八幡「もういいのか?」

憂姫「……ええ、用は済みましたから」


 そう言って踵を返し、とてとてと歩いていった。その姿はとても儚く、消える寸前の灯火のようだった────。


遥「比企谷……君?」


 そこへ、目的の人物がやってきた。今まで走ってきたのか、息が荒い。


八幡「おう、遥。100m走でもしてきたのか?」

遥「……まあ、そんなとこ、かな──」


 素っ気なく答える遥。彼女が今も赤い本を持っているのだろうか。


遥「それで、比企谷君はどうしてここに?」

八幡「ああ、まあちょっとな……」


 ……どうやって聞き出せばいい? 直接聞いたって本当のことを教えてはくれないだろう。


八幡「そういえばさ。自殺事件って、女バスの二年が自殺してるらしいな。お前も女バスだったよな?」

遥「そう──だけど?」

八幡「今日も──誰か死んだのか?」

遥「──かもしれないね」

八幡「……そうか」


 淡々と答える遥。


八幡「なあ──」

遥「なに?」

八幡「……いや、何でもない」

遥「どしたの?」

八幡「……お前、ちょっと目が俺に似てきたんじゃないか?」

遥「……気のせいじゃない?」


 遥の目は、よく見ると少し暗くなっているように感じた。


八幡「──気のせいか」


 気のせいだったらいいけどな────。


遥「じゃあ、私そろそろ帰るね」


 そう言って踵を返す遥。こういう場面で何も出来ないのが────


八幡「──また、な」


 
 ────俺の悪いところだ。


短いですがここまでです

投下しますー


────────

こよみ「魚って、良いと思わない?」


 昼休みに入ると、後ろにいるこよみが話しかけてきた。


時雨「珍しく良いことを言うじゃないか、こよみ。今日は食費の上限が撤廃されて、みんなで寿司を食べに行くんだよな?」

八幡「いいな、それ。俺もついて行くわ」

こよみ「なわけ、ないでしょ──」


 あれから、穏やかな日々が続いていた。当然だ、まだ水曜日にはなっていないのだから。

 残る女バスはあと2人。遥と────こよみ。

 この2人のどちらかが犯人のはずだ。勿論、2人とも違う可能性もある。

 
こよみ「どうよ? 水族館のチケットとか。素敵な日曜日が、来ると思わない?」


 その手の中でひらひらと舞う、2枚の短冊形の紙切れ。



八幡「俺はいいよ。時雨行ってこい」

時雨「あ、ああ。──でもなんか……」

八幡「ん?」

時雨「このやり取り……前もしたことあるような──」


 ……そうなの? 全然覚えてねぇよ。

 にしても────水族館なんて、行ったことがあっただろうか……。

 記憶には無いが、幼い頃に小町と行ったことがあるとは思うけど。



 ────小町……何してるかな。


──────────

「君には──やるべきことがあるでしょ?」


「なんで──」


「あなたの力が必要なの」


「ずっと──待ってるから……!」


「俺の時間──くれてやるよ」


「ごめん……ごめん、ね──」



 ────ヒッキー……。




八幡「っ──!?」


 俺は勢いよく体を起こした。あれは──夢……か。どんなものかはあまり覚えていない。



 それでも──とても大切な、何か──だったような気がした。



 今日は日曜日。決着をつける日まで────あと4日。


────────

こよみ「──で? どうだったの、水族館」


 次の日の休み時間、こよみが俺たちに話しかけてきた。

 彼女はいそいそと、カバンから携帯電話を取り出す。そこには、イルカのストラップが付いていた。

 ────えぇ……三枚あったの? どうせなら3人で行けば良かったな……。

 時雨も負けじと、ゴリラを繰り出した。


八幡「……なんでゴリラ?」

時雨「モノレール間違えたんだよ」

こよみ「そ──そう。だから昨日は──」

時雨「昨日──?」

こよみ「う──ううん。すごく……時雨らしいと思う、なーって」


 まったくだ。その鈍感なあたりがな。


八幡「──で? どうだったんだ?」

時雨「どうって、何がだよ──?」

こよみ「だからっ、動物園で何かあったのって、事だよっ!」


 あーもうっ、と、こよみは一人でエキサイトしている。


時雨「モルモットを先輩にけしかけたら、太ももに蹴りを食らったぞ」

こよみ「──それだけ?」

時雨「それだけ」

こよみ「──本当に?」

時雨「本当だっつーの」

こよみ「はあ──っ。まったく……昨日の私のドキドキを、返してほしいよ……」


 両腕を前に突き出し、こよみは机に突っ伏す。

 まあ──あの組み合わせじゃあ面白いことは起きないんだろうな──とは思った。


時雨「なあ──こよみ。今日の帰りにでも……」

こよみ「いい──っ!! 行かないっ!!」


 時雨の誘いを断るこよみ。こよみが断るなんて珍しいな────。

 そのまま休み時間が終わるまで、こよみが起きることはなかった。

 時雨とこよみの関係は徐々にだが────悪化しているように思えた。

 その日はそのまま会話もなく、ゆっくりと時間が過ぎていく

 先輩は生徒会室におらず、何だか月曜という日を────。無駄に使ってしまったような、そんな気がした。

ここまでです
次回の投下は少し短いかも…

投下しますー
思ったより溜めれたので少し多めにします


────────

 火曜日の夕方、少し遅れて教室から出て帰っていると、こよみが立っていた。


八幡「おーい! こよ──」


 声をかけようとすると、全速力で帰って行った。相変わらず速いな……。

 こよみが見ていた方を伺ってみると、そこには時雨と──遥が立っていた。────抱き合う形で。

 あー……。そりゃこよみも怒るわな。目が据わってたし。


 無駄にイチャイチャしやがって────あの野郎。



 運命の日まで────もう1日もなかった。


────────
 
 水曜日は、いつもと変わらなかった。いつもの時間に起きて、学校に向かう。


こよみ「──時雨と八幡はさ?」


 放課後、こよみが話しかけてきた。


時雨「どうしたんだ、こよみ」


 彼女の態度はいつもと変わらず、ニコニコと微笑んでいる。それに────俺は油断していたんだと思う。


こよみ「時雨と八幡──自殺事件、調べてるんでしょ?」

こよみ「……ならさ、教えて欲しいんだ──」

こよみ「次ってさ──」

こよみ「──私の、番なのかな──?」


  
 俺は……答えることができなかった。


こよみ「ううん、いいんだ──。答えられるわけ……ないよね」

こよみ「変なこと聞いてごめんね、時雨、八幡」

こよみ「今日の夜、遥から話があるって言われているの」

こよみ「時雨と八幡を──この前みたいに、危険な目に遭わせたくないの──」

こよみ「だから絶対に──来たら駄目だよ」


 そう言って、右手を胸にあてるこよみ。その指にはいつもと違い────赤い指輪が、輝いていた────。



────────

千夜「──私に会いに来たって事は、こよみさんの足は速かったって訳ね?」

千夜「へえ──すごいわね、二階の窓から飛び降りて帰るなんて。とてもワイルドだわ」

時雨「そういうことだ。相談相手が先輩でよかったぜ、説明する手間が省ける」


 勢いよく生徒会室の扉を開け放つと、先輩は一瞬でこちらの状況を理解していた。


千夜「もしあなたが本を見つけたとして……。──本当に消滅させたいと思うのなら……」



 ────その先には必ず、人、がいることを忘れないで。



時雨「オレは──」

時雨「オレは、運動神経も無いし、ましてや頭だって悪い。だけど──」

時雨「もう、誰かが下らない事で死ぬなんて……終わりにしたいんだ」

時雨「決意だけは誰にも負けないつもりだ。だから、7人目だけは……最悪な結果だけは必ず止めてみせる」


 時雨の目には、揺るぎない決意の光が宿っていた。二人とも必ず救い出す────そう訴えかけているような気がした。


千夜「……私はね──この事件。憎しみから生まれたものではないのか、そう──思うの」

千夜「ねえ、この事件を一回──整理してみましょう」

時雨「そんな事、やってる場合じゃねーだろっ!」

時雨「前の時は、10分の遅れが致命的だったんだ。今回はそうならないとは限らないだろ」

八幡「でも、その10分の遅れがお前を助けたんだぞ、時雨」

千夜「そう、私達が学校を出てから、狙い澄ましたように──40分後に雪崩を起こした──」

千夜「まるで生徒会長が時間に厳しい事を知っていて、それを待つようなタイミングで」

千夜「私達は──たまたまモノレールに乗り遅れて、巻き込まれることはなかった」

時雨「何が──言いたいんだよ?」

千夜「六人目からは──」

八幡「──俺達を含めて殺人計画を練っている、って事だ」


時雨「なんだよ──ソレ。じゃあ山の上にいた犯人は──オレ達の事を知っていたっていうのか?」

千夜「──そうよ」

千夜「だから、今日はね──。私達がこよみさんと女バスの部長さんと接触すると、危ないの──」

千夜「時間をずらしましょう、そうね──夜がいいと思うわ。いくら繁華街でも──夜なら、犠牲者も少ないでしょう」

時雨「犠牲者?」

千夜「恐らく──次は私達もろとも吹き飛ばすでしょうからね。無関係の人達を巻き込むのは可哀想──でしょう?」

千夜「今日と言う日自体が、相手の罠なのよ。でもね──私は私はその罠に釣られるつもり」

千夜「私は命を賭けてでも──本が欲しいもの──」

時雨「一夜先輩の身体を、危険に晒してまでもか──?」

千夜「──以前の私なら、身を引いたと思う。でもね──」

千夜「時雨君──あなたに、出会ってしまった──」


千夜「あなたは──気がついていないでしょうけれど──。時雨君はとても、人間らしい心を持っている」

千夜「自分のために行動する人間は、いくらでもいる」

千夜「けれど──他人のために動ける人間は、多くない」

千夜「比企谷君、あなたもよ」

八幡「俺も──?」

千夜「あなたは時雨君とは少し違うけれど──傷付くのは自分だけでいい──周りに恨まれようと、自分を貫き通す──根は違っても、それは他人の為に動いているのと一緒よ」

八幡「……」

時雨「──なあ。遥も、そしてこよみも──次は自分の番だと言っている。犯人が女バスのなかにいるって考え自体、間違っているんじゃないか?」

時雨「もし女バス2年に犯人がいるなら、一番最後に残ったヤツが犯人だ。わざわざ7週間も犯行に時間をかけたヤツが、そんなバレる真似──すると思うのか?」


千夜「だから──危険なのよ」

時雨「どういう──事だよ?」

八幡「──死ぬつもりなんだよ、その犯人」


 そう、わざわざバレるような真似をしたのではない。もうバレても良くなったのだ。死ぬつもりなのだから。


 先輩の作成した事件ノートは、綺麗にまとめられていた。

 その中にある記述から、事件を順番に指でなぞる。


 一週間に一人自殺する。方法はバラバラ。

 一人目は水死体として発見される。発見は遅れ、最近まで見つからなかった。

 二人目は住宅街で、宵のうちに喉を刃物ど突き刺して、死亡。

 三人目は、国道に飛び降りてダンプに轢かれる。

 四人目は、自宅ガレージのシャッターで、頭をひき潰された。

 五人目は、学校の三階から飛び降りた。先輩と時雨が初めて会った時の事だ。

 六人目は、マンションもろともがけ崩れで吹き飛ばされる。

 死因は──室内で身体を叩きつけられて、という事だった。

 つまり、彼女の身体は──ぐちゃぐちゃに潰れていたのだ。


千夜「ここで問題になるのは、前に比企谷君も言っていたけれど、一人目の犠牲者は本当に自殺だったのかって、事よ」

時雨「でも、警察がしっかり調べて、自殺と断定しているぞ。入水自殺って、発見が遅れたりするんじゃないのか?」

千夜「……本には、入水自殺の事は書かれていなかったの」


 初聞きだった。


千夜「警察が自殺と断定したのは、自殺事件が続いた後に発見されたからよ。それに六件目は、殺人を隠すこともしていない」

千夜「思うに、何らかの理由で自殺させられない場合は、殺している──のかもしれない」

時雨「最初の殺人は……その後に自殺事件を起こすことでカムフラージュしたって事か?」

千夜「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない──」


時雨「歯切れが悪いな、先輩は頭がいいんだから自分の推理に自信を持てばいい」

千夜「最初から1週間に一人死なせるつもりだったのなら──。絶対に最初の件が殺人だと、バレてはいけなかった」

千夜「最初が殺人だと、その後いくら呪われた本の力を使っても──。本当に自殺かと、警察が疑ってしまう」

千夜「そうなれば、この被害者の交友関係を中心に捜査が行われる……」

時雨「最初の殺人を隠すなら、なんで6人目は──マンションごとふっ飛ばしたんだ?」

千夜「もう、計画殺人だとバレても良くなったから──かしらね?」

千夜「目標を達成出来たか、捕まる心配がなくなったのか……」


八幡「──なあ、先輩。今までの自殺した人の自殺場所って分かるのか? どんなところか見てみたい」

千夜「ええ、地図に印を付けたものがあるわ」


 そう言って先輩は地図を広げる。自殺場所は見事にバラバラだった。だが────


時雨「ああ、なんだ。発見現場はここなのか」


 そう言って時雨は、一人目の水死体が上がった場所を指差す。


千夜「この場所に……何かあるの?」

時雨「先輩は、この学校の近くなんだよな?」

千夜「ええ、そうよ。モノレールで3つ先の所」

時雨「なら、知らなくて当然だ。オレたち電車帰宅組には有名な川なんだ、ここは」

時雨「この前吹き飛ばされたマンションから、西に2km程下った所。ここで、川は大きくカーブして流れも速くなるんだ」

時雨「この大きく出っ張った所から川にダイブすると、急激な水流で身体が何メートルも沈んでしまう」

時雨「そして、沈んだ身体は川の底の岩に、叩きつけられる。生きていればそのまま浮かんでくるけど、死んでたら岩に飲まれたまま、数日浮かんでこない」

時雨「実際、上流で身投げした人が一冬引っかかっていて、春先に発見されたって事もあったし」


千夜「有名なの? この場所は──」

時雨「小学校からも近かったから、ここいらが地元だったら大抵この場所で、遊んだ事があると思う。迫ってくる岩を避けるのが楽しかったから」

時雨「オレも、昔はこよみと妹の3人で──」


 そこで、言葉が止まった。


千夜「──続きを、聞かせてくれない?」


 時雨は──先輩の問いに、答えられなかった。


千夜「ちなみに部長の家は、私の近所よ」


 ダメ押しを入れる先輩。俺の方も、さっきの時雨の発言で、こよみへの疑いが強くなっている。


時雨「──ちょっと待てよっ!!」

時雨「マンションが吹き飛ばされたとき、こよみはオレより早く帰ってたんだぜ? アイツに、そんな事が──」

千夜「時雨君のその態度を見ていると、ますます──こよみさんが犯人であって欲しいものだわ」


 急に不機嫌になりだす先輩。時雨……地雷踏んだっぽいぞ。


千夜「ねえ、時雨君? あなたは──私とあの子のどちらの、味方をするの?」

時雨「そ……そんなの──っ」

千夜「時雨君は──みんなにそうなのかしら? それとも、こよみさん──だから?」

千夜「ふふ──いいわ。その態度、答えを言っているのと、変わらないもの」

千夜「この場所は山を入り組んでいるから、山から駅まで直接降りてしまえば──。私達よりも、一本早い電車で帰ることが出来る」

時雨「こよみ──は──。そこまで頭が、良くねーんだよ」

千夜「誰もこよみさんの話だなんて、言っていないでしょう──?」

千夜「──さあ、そろそろ頃合かしらね」


 生徒会室にかかった時計は、宵のうちを過ぎようとしていた────。

ここまでです

すいません一応全部書き終わったのですが
一部ルート分岐を作ったので
水曜日に少し投下して
土曜日にルート分岐+完結まで行きたいと思ったのですがどうでしょうか?

分岐はどちらも投下するので順番を安価で決めるか、コメで言ってもらっても構いません
皆さんの意見をよろしくお願いします

投下しますー


──────────

 霧が出ている。

 真っ黒く塗りつぶされた視界の前方に、それは白いカーテンのように垂れ下がっていた。

 濃淡のついた霧は、その合間からニョキニョキとビルを生やしている。

 それは自分の心の迷いと同じく──、黒い大きな塊で塗りつぶされたかのようだった。

 ────くそっ、わかんねぇ……。

 遥の線が濃厚だったが、今では五分五分だった。


 ──人が多い繁華街でなら、そうそう間違いは起こせないと思うから──。


 人が多い場所、つまり──遥の家の近所となる。

 その言葉を頼りに、俺達は彼女の家を目指していた。


千夜「恐らく、彼女の家にはいないでしょう──。人が多い場所で話をする、という事だから」

八幡「──遥が嘘を吐いてる可能性は?」

千夜「──無いわね。仮に遥さんが犯人で嘘を吐いたとしても、結局こよみさんを殺して自分も死ぬつもりでしょうから。……いいえ、むしろ──」


 ──私達を殺すつもり、なのでしょう──。


 誘ってる──って事か……。


千夜「ねえ時雨君、比企谷君──今日は何だか、いつもと空気が違うと思わない?」


 やけに空気が重たく、その薄黒い気体を取り込むのに──俺は、いつもより大きく呼吸をしなければならなかった。


時雨「霧が出ているからじゃないのか?」

千夜「右手の──方。あなたは何か──感じない?」

時雨「──別に」


 時雨はそっぽを向いて、そう答えた。


千夜「へぇ……。私の指す方向も見ずに──いいえ」

千夜「わざと目を向けないようにして、そう言うのね?」


 期待に満ちた、表情だった。

 先輩に負けて────時雨は彼女の指す方向に目を向ける。
 
 俺もつられて目を向けると────


時雨・八幡「──ッッッ!?」


 ────いる!?

 何かが────この奥に────。


千夜「あら、比企谷君も見えるのね。丁度良いわ」

千夜「──進みましょう」


 先輩はスタスタと歩いていく。俺達は遅れないようについて行った。

 そう────怪物が大口を開けたような、ビルとビルの隙間へと────。


 ぽたっ、ぽたっ、と雫が頬を伝った。その時初めて、自分が大量の汗をかいているのに気がついた。

 進んでは────いけない。

 これ以上進んでは……、本能が俺にそう発する。

 ────やっぱり今日はここまでにしておこう。

 そう、前を歩く先輩に伝えようとした時……。

 先輩の長い黒髪が、左右に揺れるのを止めた。目標を……見つけたのだろう。


千夜「──いたわよ」


 先輩の唇が、そっけなく俺達に伝えた。

 そのそっけなさの裏で──彼女の声には、艶やかな感情が篭もっているのが分かった。

 生と死の境目の場所────その場所は、とても……幽霊に相応しい場所だった。

 だからきっと千夜先輩の瞳はこんなにも生き生きと輝いているのだろう────。


千夜「いったい、何をしようというのかしら──?」


 先輩の視線の先を追うと、古ぼけた雑居ビルの屋上を示していた。屋上には、たくさんの影が見える。

 それぞれに虚ろな、今にも糸が切れそうな表情を浮かべ────横一列に並んだ人形のようだった。

 そしてその中央、そこには……。


千夜「やっぱり、本を手にしていたのは──あの子だったのね」


 俺のよく知っている人物が、そこには立っていた。


こよみ「なんで、ここにいるの? あれほど危険だと、夕方警告しておいた……はずなのに」

八幡「こよみ……」


 凛とした口調だった。

 氷のような冷たさで、俺の胸に突き刺さる。

 あれだけ2人のどちらかを疑っていていうのもなんだが、内心別の誰かがやっているのでは、という期待もあった。

 時雨を見ると、呆然とした表情で────こよみを見つめていた。


千夜「さがって」


 いつの間にか時雨の後ろに回り込んだ先輩が、時雨の首筋のシャツを引っ張る。俺も同時に後ろに下がった。


 ──どしゃん。


 その刹那だった。

 時雨の前を────影が掠める。

 
 ──どしゃん。

 ──どしゃん。



 右、左と、操り人形のように先輩は時雨を手繰る。

 何か大きくて、重いものが屋上から降ってきているようだ。

 そう、その大きさはちょうど人くらいで……。


千夜「私たちを狙っているわ、急いで建物の中に入りましょう」


 先輩は時雨の手を引いて、恐ろしく速く走っていた。

 くっそ……ついて行くのがやっとだ。

 流れていく視界の中に、先ほどまで人だったモノが────ゆっくりと映る。

 3つの塊は霧を赤く染めながら、ビクビクと痙攣していた。


時雨「──くそっ!! 本ってのは、人の心の自由まで奪うのか……」

千夜「違う──。他人を落下させるなんて、出来ない」

千夜「本には持ち主以外の意思を操る力なんて、無いの」

時雨「でも、あの人たちはオレらを狙って、飛び降りているじゃないか──っ!?」

千夜「飛び降りてなんて、いない」

時雨「じゃあ……どうやって……」


 まさか……。

 見上げるとこよみはゆっくりと人を蹴り降ろしていた。

 そう。俺達に向かって……。

ここまでです
今週の土曜日に完結まで行くので皆さん是非来てください

投下します
意見があったので
another→trueの順番で投下します


──────────

 雑居ビルの中は狭く、シンと静まり返っていた。

 入り口横にある各階のテナント表示は、全ての表札がひっくり返されている。

 ────建物としては、使われていないようだった。


千夜「何年前だったかしら? ヨーロッパとアメリカが次々と債務不履行を起こして、それは日本にも波及した」

千夜「景気は不景気なんてものじゃなくなり、底が抜けてしまった。今では稼働している商業施設の方が、少ないのが現状よ。ここも、その一つね」

千夜「街が華やかなのは、表だけ。実際は──路地一つ曲がれば、使っていない建物だらけだわ」


 天井の蛍光灯はチラチラと点滅を繰り返し、その不規則さが──。

 余計に、建物の薄暗さを際立たせていた。

 すたすたと歩く先輩について行くと、彼女は床に落ちていたプラスチック容器を蹴り飛ばし、エレベーターの前で停止する。

 エレベーターの数字は1から6、それと屋上を示すアルファベットのR。

 ランプは1の所で輝いている。

 時雨が、上、のボタンに指をかけようとした。


千夜「──待って!!」


 その手は、先輩により遮られる。


千夜「本は他人の意思を操れない以上、屋上にいた人達は──何か──。薬品の様な物を使って、意思を奪われているんだわ」

千夜「そして──足元に落ちていたのは──」


 そう言って、さっき先輩が蹴り飛ばした、空き容器を指差す。それは有名な────酸性洗剤の
物だった。

 蹴って──中身の有無を確認したのか──?


千夜「ある入浴剤……と言っても、今では販売中止の物だけど。それとその洗剤を混ぜると──」

千夜「──硫化水素が発生する。エレベーターの扉を開けたら、化学反応を起こして死ぬわよ──」


 ぴっ────と、先輩はエレベーターの扉に挟まっていた包み紙を引き抜く。

 細かい所まで、よく見ているものだ────。

 しばらく待ったが、中で反応を起こしたような音は、聞こえなかった。


千夜「そうよね……エレベーターの扉は、とても厚いもの。これはきっと──私に気づかせるために、仕込まれたものだわ」

時雨「随分丁寧だな。で、いったい何を──気付いて欲しかったんだ?」

千夜「エレベーターは使うなって、事でしょ。電源を……落としておけば、いいことなのに」

千夜「──階段を使いましょう」

八幡「……」

時雨「──ん? どうした八幡?」


八幡「──すまん、ちょっとトイレ行ってくる」

時雨「──はい?」

千夜「……」

八幡「ちょっと緊張しちまってさ──。先行っててくれよ、後で追い付くから」

千夜「──行きましょう、時雨君」

時雨「でも──」

千夜「敵を欺くにはまず味方から──かしらね」

時雨「……?」


 よく分かっていない時雨を連れて、先輩は二階に上がっていった。


 ────さて。


八幡「何でここにいるのか説明してくれよ、意味不明女」

那由多「だから那由多だってば! いい加減名前で呼んでよ八幡君ー」

八幡「俺を名前で呼ぶな。マカロンにするぞ」

那由多「意味わかんないよ! ……分かったよ、比企谷君──長々と話をしてる場合じゃなさそうだし」


 那由多は珍しく真剣な眼差しで、俺を見据える。


那由多「比企谷君──」


 ────あなたの力が必要なの。


──────────

 屋上に上がると──ガシャン、と空から缶が落ちていた。柑橘系の甘い匂いが辺りに漂う。

 そして俺は、生気の無い人々の中に一人、ナイフを持っている人を見つけた。

 狙っているのは────千夜先輩。


八幡「先輩──!!」


 俺は普段では絶対に出来ないであろう跳躍をして、先輩を抱きかかえる。


千夜「ちょっと──!?」


 勢いをつけすぎて隣のビルまで飛んでしまったが、なんとか着地する。


八幡「ヤバいな、これ──想像以上だわ」

千夜「比企谷君……あなた──」

八幡「もっかい飛びますよ先輩。しっかり捕まっててください──!」


 再び時雨のいるビルの屋上に向かう。なんとか加減は覚えてきた。今度はしっかりと着地に成功する。


時雨「八幡……お前、どうやって──」

八幡「話は後だ。それよりも──」


 俺は先輩を刺そうとしていただろう少女に向き直る。それは────


八幡「やっぱり俺の読みは正しかったな──」

八幡「──遥」

遥「あれ? 疑われてたの、私?」

時雨「どうしてだよ……」

遥「いつも冷静な生徒会長さん──。あなたがこよみから指輪を受け取る一瞬、そこには絶対──隙が生まれる」


 ────あなたの力が必要なの、比企谷君。


遥「本当はね、お互いに潰し合わせる予定だったのに──。比企谷君のせいで全部台無しだよ」

時雨「なんで……お前が……」


──────
────
──

30分前────


八幡「俺の力──だって?」
                                          N O e S I S
那由多「そう、あなたの力──不思議な力──を」

八幡「俺に特別な力なんて無いと思うが?」

那由多「比企谷君、最近不思議な体験とかしたことない? 例えば──」


 ──起きてみたら、自分が全く知らない世界にいた……とか。


>>290ミスです


──────
────
──

30分前────


八幡「俺の力──だって?」
             N O e S I S
那由多「そう、あなたの力──不思議な力──を」

八幡「俺に特別な力なんて無いと思うが?」

那由多「比企谷君、最近不思議な体験とかしたことない? 例えば──」


 ──起きてみたら、自分が全く知らない世界にいた……とか。


八幡「ッッ──!?」

八幡「やっぱり、お前──!?」

那由多「まあ、これは別の人から教えて貰ったんだけどね」

那由多「あなたの知っている世界を、私は知らない。でも──知っているんだ──きっと」

八幡「──分かったよ。で? 俺に何をしろと?」

那由多「救ってほしいんだ、鷹白千夜と──笛吹遥をね」


八幡「──遥?」

那由多「彼女は今、赤い指輪に食い尽くされようとしている。でも──あなたなら助けられる」

八幡「……どうしてそう言い切れる?」

那由多「それもその教えて貰った人から教えて貰ったよ。比企谷君なら出来る、ってね」

八幡「……」

八幡「……その確信がどこから来たのかは知らないが、たまには誰かの為になるってのも──いいかもしれないな」

那由多「じゃあこれ」


 そう言って那由多は、緑色の指輪を俺の手に乗せる。

 その指輪は意思を持っているかのように、輝きを放っていた。


八幡「これは……?」

那由多「比企谷君が元々持っている力を、さらに発揮できる様になる道具だよ。それで鷹白千夜と笛吹遥を──救ってあげて」


 ────俺は力を手に入れた。これで先輩も──そして遥も──救ってみせる。

 
 新たな力を手に入れた俺は、先輩たちを救うため、屋上へと向かった────。


─────
───



 赤い光は神々しく周囲を染め、その差し出された手は凛とした気迫を供えている。

 こよみはもろに気体を吸い込み、気を失っている。

 ちらりと遥に視線を向けると、既に指輪を嵌めていた。


時雨「クソ──っ! 間に合わなかったか……」


 遥と視線が重なると、生暖かい風が吹き込んでくる。


 ────コイツは俺と似ている気がする────。


 以前、俺が遥に対して持った印象だった。


八幡「復讐でもしたいのか? そんな事したって、何も戻りはしない。もっとよく考えて──」

遥「そんな事──?」


 俺の言葉を遮って、遥が口に出す。

     ・・・・
遥「あれをそんな事で済ませれる訳無いっ!! 例え戻らなくても、私は──!」

八幡「人を殺すのか?」

遥「っ──!」

八幡「俺達を──殺すのか?」


遥「──そう、だよ」

八幡「もう罪を重ねるな、遥。お前が傷付く姿を──俺は見たくない」

遥「──あは、あははは……」


 突然笑い出す遥。身の危険を感じた俺は横に回避した。

 先ほどまで俺がいた場所に、ひゅんひゅん────と、ミサイルの様な速度で人が飛んできていた。

 何て嫌な──攻撃なんだ──!?


千夜「時雨君──!」


 時雨に飛んでいった人────から守るために、先輩が時雨を庇う。

 しかし、自分は避けきる事が出来なかったのか、ゴスッ──と、鈍い音が響く。


八幡「先輩っ!!」

遥「今さら戻れないよ。──もうあの場所には、戻れない」

遥「落ちるだけしか出来ないなら、とことん落ちるまでだよ……!」


 上空に無数の人が浮かぶ。あの数────避けられるか?


遥「──これで終わりだよ、比企谷君、時雨君」


 最悪時雨だけでも生かせれば──。

 俺は遥の挙動を凝視していた。


遥「ッッ──!?」


 なので、異変が起きたことにもすぐに気付いた。

 巻き上げられた人々は空中で速度を失い、そのまま落下に任せて────遥に降り注いだのだ。


遥「──どうしてっ!?」


 素早い彼女は小動物のように体を丸めて、降り注ぐミサイルを回避するので精一杯になる。


千夜「…………」


 血まみれになった、千夜先輩が────そこに立っている。


千夜「目が──霞んできた──。次は……使えない──」

千夜「──比企谷君、命令よ。ソイツを今すぐ、屋上から突き落としなさい──」


 最後の力を振り絞って、先輩はそう叫ぶ。

 俺は先輩の前に立った。


八幡「悪いが、その命令は聞けない」

千夜「何を──何を、馬鹿な事を──。あなた自分が──何をしようとしているのか……分かっているの?」

千夜「見たでしょう、ソイツが罪も無い人を次々と殺して、こよみさんや──あなたまでも──」

八幡「遥は必ず救ってみせる。絶対にだ。先輩はもう動かない方がいい」

千夜「バカ──ッッ! あなた──バカ──よ……」

八幡「なんだ先輩──今更、気づいたのか?」

千夜「──バカ」


 先輩は力なく俺の胸を叩くと、そのまま崩れ落ちた。


八幡「──時雨、先輩を安全な所に連れて行ってくれ」

時雨「あ、ああ」


 時雨が先輩を安全なところに連れて行くのを見届けてから、遥に向き直る。

 彼女は体制を立て直し、こちらに向かって静かに────微笑んでいた。


遥「──私があなた達を殺す事に、変わりは無いけど?」

八幡「俺がお前を救うことにも変わりは無い」

遥「落ちることしか出来ないよ──私も、そしてあなたもね」

八幡「──俺がお前に手を伸ばしてやるよ。落とさせやしない」

遥「──いいわ。それなら、比企谷君もあのマンションのように、ぺしゃんこにしてあげるよ──」


 ごぅ、と生暖かい風が唸る。

 細かい振動が足元をを伝わり、メリメリという腹に響く地響きが大地を揺らした。

 地形的に雪崩や、崖崩れは使えないはずだ────。いったい、何をしようというのだ?

 大掛かりな力を使って、俺達を殺そうとしているのが分かった。

 彼女の瞳は暗闇の中で発光し────不気味に、揺らめいていた。

 ────今しか、チャンスは無い!!

 俺が遥に向かって加速をつけるのと、霧の中から4つの黒い塊が現れるのは────ほぼ同時だった。


遥「教えてあげるよ──。指輪には、こういう使い方もあるんだよ──」


 4つの大きな黒い塊、それは周囲の雑居ビルだった。暗闇の中で浮かんだそれらは、飲食店やパチンコのネオンをぱちぱちと弾けさせている────。

 ────確かに、雪崩や土砂崩れは恐ろしい質量と威力を持っている。

 だが、発生させる際に必要なエネルギーは、それほど大きく無いはずだ。


 今、目の前にはビルが4つ、浮かんでいる。

 台風か────竜巻か、とにかく天災のどれかを使って────。
 俺達目掛けて、ぶつけるつもりなのだろう。

 ────しかし、そのエネルギーはどこから来ているのだ?

 いくら本の力を使ったとはいえ、生身の人間にそんな無茶が出来るのだろうか?


遥「──ッッ!?」


 ごふっ、と遥の口から飛沫が漏れる。

 赤い……それは血の飛沫だった。


八幡「──もう、止めようぜ──。こんな事して、どうなるんだよ」

遥「──どうにも、ならない。でも、私──は──」


 俺は走った。遥に手を差し伸べるために────。

 細かいコンクリート片が、俺に向かって飛んできている。

 高速で飛んできているであろうその物体は、実際より遅く感じられた。

 その遅さの前に、かわすことは────難しくなかった。


遥「何で──当たらないの──ッッ!?」


 一瞬だが、彼女の表情が恐怖で曇る。


遥「次で──終わりに──ッッ」


 遥の足が崩れた。

 バチバチと火花を散らす4つのビルたちが、ゆっくりと浮力を失い────地面へ帰還する。


八幡「もう──やめろって言ってんだよ──ッッ!」


 伸ばした腕は────届かなかった────。


遥「近寄らないで──っ!」


 地面にビルが落ちるのと、俺が遥に物凄い力で吹き飛ばされるのは────同時だった。


 時間差で4回、とてつもなく大きい地響きが唸る。

 その衝撃で開いたビルの口に、俺はすっぽりと飲み込まれてしまった。

 指輪の力で加速度を減らし、衝撃を少なくする。
 だが、完全に停止する前に、ビルの壁に激突する。


八幡「ち──くしょ……」


 痛む身体を起こし、瞳を開く。

 そこは、屋上の────エレベーターホールの中だった。

 時雨は────先輩達は無事だろうか?


遥「──良かった。まだ生きてたんだ、君」


 遥がぱっくりと開いたコンクリートの口の中から、ゆっくりと半身を乗り出す。


八幡「おかげさまで──な」

遥「止めを刺すのは、私がやりたかったもの」


 すとんと地面に着地する彼女は、半分────土気色に変色していた。


八幡「光栄に──思うぜ」


 俺の身体は、もう動かない。

 思い切りコンクリの壁に、叩きつけられたからだろう。

 しかし────それは遥の身体も同じだったみたいだ。

 彼女の身体は少しずつ腐っていた……繋がりの弱い指が一本────また一本と地面に落ちる。

 これが────本の力を使った、代償なのだろうか────。

 それは冬支度を始めた木々が、葉を落とすように────。
 静かに……そしてゆっくりと、彼女の終わりを告げていた。


遥「私の心は──もう腐ってしまったんだよ──。たくさん……殺したからね……」

八幡「やめとけよ、遥──。それ以上は……無理だ」

遥「ああ、身体の事──? こんなものは、私を動かすための道具でしかないんだ──」

遥「心がとうに腐ってしまったから、身体がダメになるのも──時間の問題だったんだよ──」


 興味が無さそうに、彼女はそっけなく呟く。


遥「でもね──まだ──。君たちをコロス時間は、十分にあるよ」

八幡「──なら、俺の勝ちだな」

遥「どうして──だよ?」


八幡「その身体じゃあ──。俺は殺せても、先輩達は無理だから──な」

八幡「だから、やめておけ、遥。俺はまた──時雨とこよみとお前の四人で、弁当が食いたいんだ」

遥「──どうして時雨君は、自分を殺そうとした相手にそうやって──接する事が出来るの?」


 小さな変化だった。


八幡「言っただろ。お前は俺に似ている気がする──ってな」


 ぼろぼろと崩壊していく彼女。


遥「──だから、私そんな腐った目はしてないよ」


 その崩壊した隙間から、少しだけ────人の心が顔を覗かせている、そのように思えた。


八幡「今のお前は──そんな腐った目──だぞ」

遥「そう──かもね。でも最後に──比企谷君を殺せるなら──」

遥「──それでも、いいかな──?」

遥「私の最後は──それで──」


 遥が言い終わるのと時を同じくして、突然背後のエレベーターが動き始めた。

 ビルの落下の衝撃で──誤作動を起こしたのか?


八幡「エレベーターは、マズイぞ──っっ!?」

八幡「遥──っっ!! アレの中に本当に、硫化水素を仕込んだのかッッッ!?」


 彼女は、少し不思議そうな表情で────コチラを眺める。


遥「硫化水素──?」

遥「何──ソレ──?」


 チンッ────という、乾いた音が響く。

 エレベーターの扉が開くのと、彼女がマヌケな返答返すのは同時だった。


八幡「口を塞げ遥ぁあああああああああっっ!!」

遥「無理だよ──」

遥「腕、もう無いもん」


 どしゃり、と崩れ落ちる音が聞こえる。

 そして────


「やっはろー!」


 ────唐突に聞こえた、声。

 今思えば、化学反応らしき音は聞こえてこなかった。

 俺はエレベーターの扉が開いた方に振り返ると、そこには────


八幡「お前──っ!?」


 那由多と、俺の見知った(?)人物が立っていた────。




──────
───



 比企谷君────。


 
 君は────なんでもっとはやく────。



 私の邪魔をして、くれなかったんだよ────。



 だから────。



 間違えちゃったじゃないか────。



 君と────もっと早く────出逢えていたら────。



 そうしたら────。



 私はきっと────。




───
──────


────────


「相変わらず目が腐ってるねぇお兄ちゃん。でも──前に見たときよりも輝いてるかも! 指輪だけにね! あっ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「小町──なのか?」


 そこには────那由多と、少し大人びた雰囲気の小町────が、立っていた。


八幡「どうして──お前が──?」

小町「細かい話は後ね。全員揃ってからに──と言っても」


 視線を俺の背後に移す。


小町「全員──とは言えないかな?」


 振り返ると、そこにあるはずの────遥の姿がどこにもなかった。

 ただ赤い指輪だけが、そこで輝きを放っていた。

 遥を救うことは────出来なかった────。

 その事実だけが、そこには存在していた。


小町「とりあえず戻ろうお兄ちゃん。そこで説明するよ」


 那由多に肩を借りながら、屋上に戻る。すると────


八幡「時雨──っ!」


 倒れている時雨を見つけた。那由多の力を借りて駆け寄ると、


時雨「はち──まん──?」


 生きていた。先輩とこよみも無事だったようだ。

 ただ────先輩は怪我が多少酷く、まだ意識が戻らない状態だった。


八幡「早く病院に──」

那由多「彼女は死なせないから。安心して」

八幡「そのために病院に連れて行かねぇと駄目だろうがっ!」

那由多「私が治すよ」


 ────何を言っているのだコイツは?


那由多「指輪でね」


 そう言って銀色の指輪を取り出す。

 指輪────どんだけあるんだよ────。


 那由多は先輩に近づくと、先輩の身体に手をかざす。

 辺りに白い光が充満する。思わず目を背けていると、白い光は消えていった。


千夜「……これは──?」


 先輩の傷は見事に無くなっていた。すげえな、指輪。


こよみ「ん……ぅ……」

時雨「こよみ!」

こよみ「時雨──?」


 こよみも気がついたようだ。全員無事で良かった。────いや、遥が────。


小町「さて、みんな揃ったから説明するね。まず自己紹介から! 比企谷 小町です! 比企谷八幡の妹でーす!」

時雨「え……妹──なのか?」

八幡「──一応、な」

小町「むー、一応って何なのお兄ちゃん! ……まぁ、事情があるんだけどね」

小町「私ね──実は未来から来たんだ」

八幡「────はい?」


 小町はいつの間にか、電波少女になっていたようだ。那由多以外の全員がポカンとしていた。


時雨「未来って……あんた本気で言ってるのか?」

こよみ「そうだよっ! 本当に来たならタイムマシン見せてよ!」

千夜「そういう問題ではないでしょう、こよみさん……」

小町「信じてもらえる──とは思ってないけどね。お兄ちゃんの目的の手助け──をする事は出来るよ」

八幡「俺の──目的だって?」

那由多「比企谷君、君には──やるべきことがあるでしょ──?」

 
 ────由比ヶ浜 結衣の救出。


八幡「ッッッ──!?」

那由多「比企谷君の目的だよね?」

千夜「由比ヶ浜さん……?」

時雨「ああ、確か五月くらいに交通事故で亡くなった──?」

こよみ「八幡、知り合いなの──?」

八幡「ああ、まあな──」

小町「お兄ちゃんを元の世界に戻して、結衣さんを救い出す──。これで、本来の──ううん、新しい世界が生まれると思うの」

時雨「えぇ……?」

こよみ「え? 何? どういうことなの?」


 普通の人が聞けばとてもぶっ飛んでいる話だが────起きたら自分の全く知らない世界だった────という経験を持つ俺からすれば、分からないわけでもなかった。 


千夜「──で、具体的にはどうすればいいのかしら?」

那由多「まあまあ焦らないで。そんなに焦ってると禿げますよ?」

千夜「……」


 ────おい! 先輩むっちゃ怒ってるぞ!


小町「具体的にはね、お兄ちゃんと時雨さんの力で、時間を巻き戻すの」

時雨「俺もなの?」

小町「そう。むしろメインは時雨さんの力だよ。時雨さんは、時間を巻き戻す力──を持っているの」

時雨「どうしてそれを……俺でも知らなかったのに」


小町「だって知ってるから──元いた世界の時雨さんを。ここに来たのも時雨さんの力だしね」

千夜「つまり──時雨君と比企谷君の力を使って過去に戻り、由比ヶ浜さんを事故から救う──こういう事ね?」

小町「そういうこと! あと、お兄ちゃんが元いた世界で起きたことをなぞりながらやらないと、矛盾が生じてしまうかもしれないから気をつけてね!」

八幡「元いた世界で起きたこと──」


 ────部室で倒れている雪ノ下を見つけて、先輩がいて────


八幡「じゃあ先輩も行かないといけないって事か?」

那由多「そうなるね」

小町「それと、お兄ちゃんが使ってた指輪の効力は、もう時間移動しか使えなくなるからね。時雨さんも、時間移動を出来るのは一回だけだと思うから、多分それ以上移動したら──死んじゃうかもしれないから──そこらへん気をつけてね」


時雨「──わかった」

こよみ「頑張ってね、みんな──! 私、ずっと──待ってるから……!」

八幡「──ありがとな、こよみ」


 ────その言葉だけで、十分だ。


 ────由比ヶ浜を救い出す────絶対にな。

 俺は光に包まれながら、そう決意したのだった────。


────────

 目を開けると、懐かしい光景が広がっていた。

 総武高校奉仕部部室。全てはここから始まった────。


八幡「多分雪ノ下が先に来るはずだから、二人は隠れといてくれ。先輩、雪ノ下が来たら頃合いを見計らって目を合わせて意識を奪ってくれ。優しく頼むぞ」

千夜「随分無茶を言うのね、比企谷君。まあ、私だから出来るのだけれど」

時雨「顔がドヤッてるぞ先輩……」


 そうこう言っているうちに、六時間目終了のチャイムが鳴り響いた。そろそろ雪ノ下が来る頃か……。

 しばらくして、ガラガラ────と、扉が開いて、雪ノ下が入ってきた。


雪乃「──あら、早いわね、もう終わったの?」

八幡「あ、ああ──まあな」

雪乃「はい、これ──」

八幡「これは──!」


 MAXコーヒー!


八幡「どうしたんだ──これ?」

雪乃「平塚先生が知り合いから貰ったそうよ。でも飲めないから比企谷君に──ということらしいわ」

八幡「そうなのか。じゃあ貰っとくわ」

雪乃「そういえば比企谷君──」

千夜「──ちょっといいかしら?」

八幡「──!?」


 ────先輩!? なんで出てくるんだ!?


雪乃「──あら、先客がいたの? あなた、お名前は?」

千夜「初めまして、雪ノ下さん。私は鷹白 千夜よ。よろしくね。そして──」


 ────さようなら。


雪乃「っ──!?」


 雪ノ下は膝から崩れ落ちる。先輩……強引過ぎるぞ……。


千夜「何をぼさっとしているの? 由比ヶ浜さんを追うんでしょ?」

八幡「そ、そうだな」


時雨「なあ、そのコーヒーは美味いのか?」

八幡「おう、美味いぞ」

時雨「一口貰っていいか?」

八幡「一口と言わず全部飲めよ」

時雨「じゃあ……」


 時雨は一口MAXコーヒーを含むと、盛大に吹き出した。


時雨「甘っっ──!!」

八幡「なんだ? 甘いの無理だったか?」

時雨「限度があるだろ!? 八幡飲んでくれ!」

八幡「やだよ、お前が口付けたやつ飲みたくない」

時雨「中学生か!」

八幡「教室の外にでも置いとけよ。そしたら──」

時雨「そしたら──?」

八幡「──いや、何でもない」


 ────MAXコーヒーじゃないか!

 ────しかもよく見ると少し残っている。ふざけやがって、全部飲めよ!


八幡「まさか──な」


 ────由比ヶ浜に早く出会わないと。

 由比ヶ浜が死んでしまう事態だけは何としても防ぎたい。

 ────俺は時雨と共に、先を急いだ。



時雨「口の中ヤバいわ」

八幡「我慢しろ」


──────────

 
 
 雲一つない快晴だった。


 以前見たときのように、空は青く澄み切っていた。あの頃から何も変わっていない。


時雨「いい天気だな」

八幡「そうだな」


 由比ヶ浜を探しに学校を出てから、今まで起こったことを振り返っていた────。


 千夜先輩のこと、一夜先輩のこと、時雨のこと、こよみのこと、そして────遥のこと。


 俺は────アイツを助けられなかった。

 
 だからせめて、由比ヶ浜だけでも────。


時雨「あれ──か?」


 時雨の声で我に返ると、正面に明るい茶髪の少女が歩いている。


八幡「あれ──だな」

時雨「どうする? 声掛けるか?」


 俺は────



 1:声をかける
 2:後ろから様子を見る

※2がanother endなので2で行きます


────────

八幡「いや、後ろから様子を見よう。無理に介入したら逆にまずいかもしれん」

時雨「おう」


 とりあえず後ろから様子見だ。下手に動いて事を荒げても、意味がない。

 しばらくすると、


「こらー! ハナ! 戻って来なさーい!」


 後ろから犬が駆けていった。

 ────大型トラックが迫っている車道に向かって。


由比ヶ浜「──っ!!」


 由比ヶ浜────!?

 指輪の力で距離を────


小町『お兄ちゃんが使ってた指輪の効力は、もう時間移動しか使えなくなるからね──』


 ────くそっ! 

 
 俺は走った。ただ走った。由比ヶ浜を────助けるために。


 だが────


 ドンッ────、と人と車のぶつかる音がした────。


 それはあまりにもあっという間で、俺には何が起きたのか────分からなかった。

 ただ、そこには由比ヶ浜が轢かれたという事実があるだけだった────。


八幡「由比ヶ浜──!!」


 由比ヶ浜に駆け寄ると、由比ヶ浜はまだ意識があった。だが────


由比ヶ浜「ヒ……ッキー……」


 だが、由比ヶ浜は息も絶え絶えに言葉を紡いでいた。

 それは蝋燭の火が消える直前のような────小さな声だった。


 ────もう、助からない。


 そんな言葉が頭をよぎる。


 ────何でだよっ!! 俺は何のためにここまで戻ってきたんだ────!


由比ヶ浜「あたし……ヒッキーみたい、に……助け……られな……かった……」

由比ヶ浜「やっぱ……ヒッキー……すごいや……」

八幡「もういい、喋らなくていい──!」

由比ヶ浜「ごめん……ごめん、ね──」


 ────ヒッキー……。


 ────それが、彼女の口から出た最後の言葉だった。

 
八幡「──何でだよ……」


 項垂れる俺の横で、時雨の携帯が鳴る。


時雨「──そうか。……こっちは失敗──だよ。ああ、それじゃ」


 通話が終わると、時雨がこちらに向き直る。


時雨「八幡──」

時雨「もう一度、やり直して来いよ」

八幡「──え?」


 ────何を言っているのだ? 時雨は────。


時雨「あと一回、俺の力で過去に戻れるはずだ。そこからまたやり直せば──」

八幡「でもお前が──!」

時雨「心配すんなって。大丈夫だよ。だからさ──」


時雨「俺の時間──くれてやるよ」


 そう言って、時雨は俺の手を握る。

 右手にはめている指輪が、緑色に輝き出した。


時雨「過去の俺に──よろしくな──」


 頬を冷たい何かが通り過ぎる。

 ────涙だった。いつの日か、流していた涙────。


八幡「──ああ!」


 俺は涙を流しながら、力強く頷いた────。


──────
───


 
 ────高校に入学してから、1ヶ月が過ぎた。

 入学当初に病気や事故が相次ぎ、この1ヶ月はまともに登校出来なかった。

 そのため、もちろん友達もいない。早く見つけなければ……。

 そんな事を考えていると────


??「だからさー、HDDいっぱいなんだって! 今やってないアニメとか消しちゃってよ!」

??「バッカお前、まだ忙しくて見れてないんだよ! 俺の唯一の楽しみを奪うんじゃない!」

??「唯一とか言っちゃうあたりがもうね……」


 という会話が聞こえてきた。

 俺には関係ない話だな……アニメは好きだけど────と思っていたが、話していた二人の声に────何故か懐かしさを覚えた。

 気がつくと、俺の足は先ほど会話をしていた二人に向かっていた。

 明るい亜麻色の髪に、薄い赤髪。どこかでみたような────


八幡「もしかして──千代田こよみと鹿倉時雨──か?」


 その言葉が自分の口から出た途端、一気に涙が溢れてきた。

 何故だろうか。嬉しいような、悲しいような────感情が綯い交ぜになっていた。


こよみ「え? そうだけど──って! 何で泣いてるの!?」

時雨「あーこよみが泣かしたー。先生に言ってやろー」

こよみ「ふざけてる場合じゃないでしょっ!!」


 抑えようとしても、どんどん感情が溢れてくる。一体これはなんだ?


こよみ「大丈夫? 何か喉にでも詰まった?」

時雨「お前もなかなかふざけてるだろ」

こよみ「えー私は真面目だよ?」

八幡「──いや、すまん。もう大丈夫だ」


時雨「そりゃ良かった。──ところで、どうして俺らの名前を知ってたんだ?」

八幡「──何でだろうか。俺にも分からない。でも──」

八幡「俺にとって、二人は大切な何か──だった気がするんだ」

こよみ「──何か私たち凄い事やったのかな?」

時雨「電柱を地球の裏側まで投げた──とかか?」

こよみ「多分大気圏で燃え尽きちゃうね」

時雨「──お前そんな上まで投げるつもりだったの?」


 この雰囲気も、初めての感じでは無い気がした。だから────


八幡「なあ──」


 この二人となら────


八幡「──俺と友達になってくれないか?」


 ────楽しい日常生活が送れそうな気がした。


   
      Another END

>>335から
True Endルートいきます



────────


 声を掛けることにした。後ろで気付かれずに様子を見るという考えもあったが、近くにいた方が突然の出来事にも対応できる。


八幡「由比ヶ浜──」

由比ヶ浜「──あれ? ヒッキーどうしたの? 部活は?」

八幡「ああ──ちょっと用事を思い出してな」

由比ヶ浜「ふーんそうなんだ──それで、隣の人は……?」

八幡「俺の親友」

時雨「鹿倉 時雨だ。よろしく」

由比ヶ浜「えぇ!? ヒッキーに親友──!?」

八幡「色々あってな」


 ────久しぶりに由比ヶ浜と話していると、何か懐かしいものを感じた。まあ実際には、由比ヶ浜にとってはさっき話したばかりだけどな。 

 こういうのも悪くない────と、思っていた時、


「こらー! ハナ! 戻って来なさーい!」


 後ろから、犬を呼ぶ声が聞こえた。呼ばれている犬はというと、


「ワン!」


 ────車道に出ようとしていた。

 そして後方には────大型トラックが迫っていた。


八幡「これは──!」

由比ヶ浜「ヒッキー! 私、行ってくる!」


 ────恐らくこれが、由比ヶ浜が死んでしまった原因だったのだ。俺は由比ヶ浜の肩を掴む。


八幡「俺が行く。ちょっと待ってろ」

由比ヶ浜「でも──!」

八幡「心配するな」


 指輪の力があればこんなもの────。

 だが、指輪が輝き出すことはなかった。


八幡「なんで──」

小町『それと、お兄ちゃんが使ってた指輪の効力は、もう時間移動しか使えなくなるからね──』


 ────くそっ、そういえばそんなこと言ってたか……!

 俺は走った。今までにないくらい走った。


 
 そして────




────────


こよみ「ちょっと時雨ー! この前の依頼、ちゃんと出来たのー?」

時雨「飼い猫を探してくれってやつだろ? もう見つけたって。そこらへんの似てる猫を渡しといたよ」

こよみ「ちょっ、それ駄目でしょ!? どうすんのさ苦情入ったらー!」

時雨「猫にもしっかり言いつけといたから大丈夫だよ」

千夜「相変わらずね、時雨君。もし苦情が来たら、あなたは豚の鳴き声でちゃんと謝罪するのよ?」

時雨「豚は謝ることを知らないからな。ただ生きてるだけだから謝る必要はない」

千夜「その減らず口も変わらないわね。ミシンで縫ってあげましょうか?」

時雨「お断りだ」


由比ヶ浜「賑やかだねー」

那由多「そだねー。あっ、ガハマちゃん、今度カラオケ行かない?」

由比ヶ浜「おっ、いいねー! 皆で行こうよ!」



遥「……とか言ってるけど?」

雪ノ下「……そうね、たまにはいいんじゃないかしら」

遥「比企谷君に良いとこ見せたいもんね」

雪ノ下「──何故そこで比企谷君の名前が出てくるのかしら意味が分からないわ」

遥「早口になってる。誤魔化そうとしても丸分かりだよ?」

雪ノ下「くっ……」

遥「そうだ、今度バスケで1ON1の勝負しようよ。勝った方が比企谷君に一つだけ命令できる──っていうのはどう?」

雪ノ下「……面白いわね、受けて立つわ」

遥「体力無さそう」

雪ノ下「あなたはどうせスピードだけでしょう」


遥・雪ノ下「「くっ……!!」」


八幡「……」


 奉仕部は、いつも以上に賑わっていた。
 人数が増えたのもあるだろうが、かなり活発な人が追加されたせいか、明るい雰囲気に包まれていた。
 
 その裏には、壮絶な物語があったのだが────。

 そのことを知っているのは、恐らく数名しかいない。

 さて、喉が渇いたしなんか買ってくるか。

 俺は席から立ち上がり、賑やかな部室から姿を消した。


千夜「……」


──────────


千夜「──こんな所にいたの?」


 屋上でMAXコーヒーを飲んでいると、千夜先輩が声を掛けてきた。


八幡「よく場所が分かったな」

千夜「不思議と分かったのよ。まるで、元からこの世界にいたみたいに──ね」


 こよみや時雨は、自殺事件の事を知らなかった。別の記憶で上書きされたのか、元々存在しないのか────。


千夜「胡蝶の夢──という言葉を知っている?」

八幡「今まで見ていた世界が夢なのか、今見ている世界自体が夢なのか──みたいなやつだろ」

千夜「そう──どっちが夢かなんて、誰にも分からないわ」

千夜「それでも私は──今を生きることにしたわ。今のあなたが望んだ世界をね」


──────────


千夜「──こんな所にいたの?」


 屋上でMAXコーヒーを飲んでいると、千夜先輩が声を掛けてきた。


八幡「よく場所が分かったな」

千夜「不思議と分かったのよ。まるで、元からこの世界にいたみたいに──ね」


 こよみや時雨は、自殺事件の事を知らなかった。別の記憶で上書きされたのか、元々存在しないのか────。


千夜「胡蝶の夢──という言葉を知っている?」

八幡「今まで見ていた世界が夢なのか、今見ている世界自体が夢なのか──みたいなやつだろ」

千夜「そう──どっちが夢かなんて、誰にも分からないわ」

千夜「それでも私は──今を生きることにしたわ。今のあなたが望んだ世界をね」

八幡「──違うよ」

千夜「どうして?」



八幡「これはアイツの望んだ世界だよ」



千夜「……そうね」



八幡「じゃあ、俺は戻るわ」

千夜「ええ」


 ────例え今が夢であっても、また思い出を作ればいい。

 そう────思うことにした。


         ・・・
千夜「……ふふ──アイツって、誰の事かしらね?」




 ──── 青春とは嘘であり、悪である。  
 青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺き自らを取り巻く環境を肯定的にとらえる。  

 彼らは青春の二文字の前ならば、どんな一般的な解釈も社会通念も 捻じ曲げてみせる。  

 彼らにかかれば嘘も秘密も罪科も失敗さえも、青春のスパイスでしかないのだ。

 仮に失敗することが青春の証であるのなら友達作りに失敗した人間もまた青春のド真ん中でなければおかしいではないか。  
 
 しかし、彼らはそれを認めないだろう。すべては彼らのご都合主義でしかない。





 ────だが、そんなご都合主義でも、少しは良いものかもしれない────と思っている。


 何故なら────。


      ・・・
 この世界が俺自身の望んだ日常であり、その日常は俺達が守るべき物なのだから─────


 

        True END      

以上で終了です
伏線回収が無理矢理な感じなのは許してくださいw
依頼してきます
最後までありがとうございました

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月19日 (日) 19:37:23   ID: jg9DMQwE

面白かった
ぜひ2の方もやって欲しいです

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