海未「イヤです」 (59)


ふと書きたくなった小ネタ
今度こそ短く終わらせるにゃー

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お買い物



穂乃果「海未ちゃん! 今日の放課後、練習終わったらさ、ちょっと遠いんだけど駅のステモに行かない?」

海未「イヤです」

穂乃果「えー? なんでよ!」

海未「……」

穂乃果「いいじゃんちょっとくらい! 穂乃果の買い物に付き合ってくれたって」

海未「イヤです」

穂乃果「ぐぬぬ〜」

海未「……」

穂乃果「海未ちゃんのケチ。真面目なのはいいけど、そういう融通のきかないところ、直したほうがいいよ」

海未「イヤです」





梅雨



穂乃果「うわぁ、今日もザーザー降りだよ」

穂乃果「ん….? ちょっと違うかな」

穂乃果「見た目強いけど、ザーザーって言うほど音は強くないね」

穂乃果「サーサー…かな?」

穂乃果「いや、音は確かにサーって聞こえるけど、これも違うよね」

穂乃果「なんか、こんな雨を表現してる言葉があったと思うんだけどなぁ」

穂乃果「ねぇ、海未ちゃん?」

海未「……」

穂乃果「海未ちゃんなら分かるんじゃない? こういう雨の振り方を表す言葉!」

穂乃果「もし分かったら教えてよ」

海未「イヤです」

穂乃果「くっ、厳しいね。さすがだよ海未ちゃん、いかなる場面においても穂乃果を甘やかさないつもりだね」

穂乃果「いいよ。自力で考えるもん」

穂乃果「う〜ん…」

穂乃果「……」

穂乃果「はっ! 閃いた!」

穂乃果「『しとしと』! 『しとしと』だよ、海未ちゃん!」


穂乃果「ーー放課後、閑散とした教室で机に伏している穂乃果は、薄暗い窓の外を見つめる」

穂乃果「『 』と降り続く雨は、うっすらと窓に移った自分の心を語るようにして向かいの校舎との間の中庭へ落ちて行くーー」


穂乃果「鍵括弧『』に入るのは、雰囲気的にどう考えても『しとしと』だよね! ひらがなってところもポイントだよ!」

穂乃果「ふふっ。イイよね、こういう詩的な感性がある女の子って」

穂乃果「海未ちゃんもイイと思わない?」

海未「イヤです」




海の日



先生「よーしそれじゃあSHR終了のチャイムが」

チャイム「キンコン」


穂乃果「いやっしゃああああああ!!」

穂乃果「ん夏休みじゃあああああ!!!」

先生「うるせーぞ高坂ァ!!」

穂乃果「いやいやー、先生、わかってるのー?」

先生「ああ?」

穂乃果「夏休みだよ、夏休み!! サマーバケーション! Summer Bacationだよ! これが叫ばずにいられないよひゃっほおおお!!」

先生「お前がバカティオンなのはよーく分かったから音量を下げろ」


先生「ったく、少し夏休み始まるのが早いってだけで余計に浮かれやがって」

穂乃果「へ? 早いの?」

先生「まあな。従来、つってももう10年くらいも前だけど、ウチは夏休みは火曜からで、月曜に終業式があったんだ」

穂乃果「それはなんか嫌だね… どうして変わったの?」

先生「海の日だよ。ハッピーマンデーっつって、あらゆる国民の休日が月曜に設定されたんだ。週5日制度と相俟って、学生としちゃ休み日数が増えただろ」

穂乃果「へぇー。よくわかんないけど、すごいね!」

先生「いや分かれよ」

穂乃果「ふっはっはー! まーなんにせよ、海の日のおかげで私の夏休みは増えたわけだよ!」


穂乃果「ん?」

穂乃果「海の日… うみの日……」


穂乃果「はっ!!」


穂乃果「いいこと考えた! ねぇ海未ちゃ」

海未「イヤです」

穂乃果「ええっ!? まだ穂乃果なにも言ってないよ! ちゃんと聞いて!?」

海未「イヤです」



焼きイモ


海未「……」サッサカサッサカ

穂乃果「おーちーばーをー、集めましょー ♪」サッサカサッサカ

海未「……」サッサカサッサカ

穂乃果「こがらしのー、舞う中でー」サッサカサッサカ


ことり「ことりのー、おーやーつにー……」スッタカスッタカ

ことり「あれっ? 穂乃果ちゃんと海未ちゃん?」

穂乃果「あ! ことりちゃんやっはろー」

ことり「どうしたの? 処罰? それとも頭でも打ったの?」

穂乃果「その、ペナルティでもなきゃ穂乃果が自主的に掃除するなんて頭に異常きたしてる以外にあり得ない、的な問いかけ方やめてくれる?」

ことり「そ、そんなこと思ってないっちゅんに! 全然、全く、思ってないっちゅんに!」

穂乃果「ことりちゃんの嘘は海未ちゃんのババ抜きよりわかりやすいよ…」

穂乃果「まあいいや、たしかに掃除っちゃ掃除なんだけど、目的はその先なんだよねー」

ことり「そうなの?」

穂乃果「へっへーん。ことりちゃん、知りたい?」

ことり「ううん、別に」

穂乃果「あ、うん…」


穂乃果「えと、こうして、集めた落ち葉にね?」

ボッ!

ことり「きゃっ」

穂乃果「火をつけて、それで…… これっ!」ジャジャーン

ことり「わぁ、美味しそうなガソリンだね ♪」

穂乃果「でっしょ…くないよサツマイモだよ!? なんで見間違えたの!?」

ことり「焼かないの?」

穂乃果「え? あ、焼くよ? …焼くよ」


穂乃果「焼けたかなー… あ、いい感じ!」ホクホク

穂乃果「いただきまーぱくっ!」

穂乃果「あち! あちあち…んー! でもおいひい!」

ことり「えへへ。穂乃果ちゃん、おいしそ〜」

穂乃果「何個かあるし、いいよ! ことりちゃんも食べたいでしょ?」

ことり「ううん、別に」

穂乃果「そう…」


穂乃果「あ、海未ちゃんも手伝ってくれてありがとう! お礼に、穂乃果が あーん してあげる!」

海未「イヤです」

穂乃果「……」

穂乃果「あ、あの、せめて穂乃果と一緒に食べてくれると… いろいろ共有できて2倍美味しいかなって」

海未「イヤです」



クリスマスプレゼント



穂乃果「サンタだよっ!」テーン


穂乃果「真っ赤な服、真っ白いヒゲ! 準備完了でありまーす!」

穂乃果「今日はクリスマスイブ! 海未ちゃんとデートしたかったけど、誘う以前に面会を断られたんだよね」

穂乃果「でも、穂乃果は諦めないよ。とびっきりのプレゼントとサプライズで、海未ちゃんを振り向かせちゃうもんね!」


穂乃果「ザッ… こちら、ホネーク。園田邸に侵入成功。ターゲットの部屋に最接近するべく、縁側裏にて進行を開始するッ」

穂乃果「煙突はおろか、2階がないもんなー、海未ちゃんち」ソロソロ

穂乃果「はぁ…はぁ… に、日舞の家元だけあって、広いなー敷地が… この前つけた目印どこだっけ」ソロソロ

穂乃果「あ、ここだ!」


スーッ


穂乃果「うーみーちゃんっ(超小声)」チラッ

海未「……zzZ」

穂乃果「あは、奥の方で、姿勢よく寝てる。きっちりタタミ一畳分」

穂乃果「寒いよね、ごめんね。ここに置いとくからね」

穂乃果「メリークリスマスじゃよ。海未ちゃんや」


穂乃果「…でもやっぱり、枕元にあったほうがいいよね? うん。そうしよう」

穂乃果「そろーり、そろーり」ソローリソローリ

穂乃果「……」スッ

穂乃果「よし、これでおっ」

ガコンッ

穂乃果「けゃあああああああ!!?」


穂乃果「お、落とし穴!? まさか、タタミにこんなトラップが!?」

海未「……」

穂乃果「あ、う、海未ちゃん!」

穂乃果「ごめん、悪気はないんだよ!ほら、私! 穂乃果だよっ!」

穂乃果「こんな格好だけど… 夜中に不法侵入だけど… 海未ちゃんを驚かせたくて、海未ちゃんに喜んでもらいたくて…!」

穂乃果「信じろっていうほうが無理かもしれないけど…… だけどお願い、海未ちゃんしかいないの!」


穂乃果「だから、穂乃果を信じて! お願い、たすけて、海未ちゃんっ!」

海未「ダメです」



バレンタイン



穂乃果「ふっふーん ♪」チャッカチャッカ

穂乃果「明日はとうとうバレンタインかぁー」

穂乃果「海未ちゃんに渡すために、考えに考え抜いた特別メニューを作っちゃうよ! 穂乃果、ファイトだよっ!」

穂乃果「ふっ、ふっ」チャッカチャッカ

穂乃果「ほっ、ほっ」チャッカチャッカ

穂乃果「……疲れてきちゃった…」


穂乃果「そうだ、歌いながら作れば楽しくなって疲れないかも!」


穂乃果「せーのっ」

穂乃果「ちゃっちゃらちゃんちゃんちゃあーーん」チャッカチャッカ

穂乃果「もおーいーくつ寝ーるーとー、バーレーンーターイーンっ」チャッカチャッカ

穂乃果「チョコレートにはー、タコ入れてー」タコタコ

穂乃果「胡ぉ麻をまぶして、渡しましょおー ♪」ゴマゴマ


穂乃果「できたあああああ!!」




翌日



穂乃果「海未ちゃん海未ちゃん!!」

穂乃果「はぁ…はぁ…」

穂乃果「あ、あのっ、これ!」


穂乃果「穂乃果からの気持ちです! 受け取ってくださいっ」


海未「イヤです」

穂乃果「ええっ!? そ、そんな! 気持ちだけじゃないよ! もちろんチョコも入ってるよ! タコ入り胡麻和えだよ!?」

海未「イヤです」




お別れ



穂乃果「どえぇぇえぇえぇええー!!?」


穂乃果「て、転校? 引っ越し? う、海未ちゃんが!?」

ことり「うん。今朝、お母さんが…… やっぱり穂乃果ちゃんも、海未ちゃんから聞いてなかったの?」

穂乃果「聞いてないっていうか…」

穂乃果「 あは、あはは、分かってるよ、冗談でしょ? ほら、実はプリンセス『天功』でした〜とかそんな」

ことり「うん。じゃ、この話は終わりだね」ガタッ

穂乃果「ちょーっ! うそうそうそ!! ごめん、謝るから、詳しく教えてぇぇ!!」


ことり「カクカクのシカジカがピヨピヨってことなんだって」

穂乃果「そんな… 海未ちゃん、そんな大事なこと、穂乃果には何も…」

穂乃果「っ!!」ガタンッ

ダッ!


ことり「あっ!穂乃果ちゃ……ア、ホのかちゃん! 待ってぇ!」

穂乃果「こうしてる場合じゃないよ、海未ちゃんのとこ行ってくる! あと微妙にカモフラージュしてアホのか言うなっ!!」




穂乃果「海未ちゃん…海未ちゃん…!」タタタタ…

穂乃果「……! 見つけたっ」


穂乃果「海未ちゃん!」

海未「……」

穂乃果「ぜぇ…ぜぇ…」


穂乃果「ねえ…海未ちゃん、ホントなの? 転校しちゃうって」

海未「……」

穂乃果「……」ハァ ハァ

海未「……」

穂乃果「ねえ、どうなの? 答えてよ」


海未「…….」


海未「イヤです」

穂乃果「…っ!」



バッシーン!!



これ、昨日の夜ふらっと書いてさ
ネタ切れてさ、最後2レスでオチつけるつもりだったんだよ
どうなったとおもう?

まだ書きおわってないんだよ…

続けていい?

ありがとうございます

まあ30レスくらいなんだけど
書くの遅いから今日中には終わらない気がするし、早寝の人はあとでまとめて読んでくれれば…
書き進めつつゆっくり投下しまうす



穂乃果「ふざけないでっ!!!」

海未「…!」ビクッ


穂乃果「ふざけ…ないで」

穂乃果「真面目な話なんだよ。お遊びじゃ、ないんだよ」

穂乃果「どうして? 急に引っ越しして、転校しちゃうだなんて…」

穂乃果「お家の都合っていうのは、ことりちゃんから聞いたよ。仕方ないよね、大きいお家で、伝統もあって、普通の人には理解できないような、体裁とか、矜恃とか、そういう事情もあるのかもしれない」

穂乃果「詳しくは話せなくても、海未ちゃんが話せない、話したくないことなら、穂乃果達は無理に聞いたりしないよ」

穂乃果「聞きたくないなんて嘘だけど、でも、親友だもん。親友だからこそ、踏み入っちゃいけない深いところだってあるんだと思う」

海未「……」

穂乃果「…でもね、そういうことじゃないんだよ」


穂乃果「穂乃果が怒ってるのは、悲しんでるのは… 海未ちゃんが、穂乃果やことりちゃんに何も言わずに、いつの間にか居なくなろうとしてたことだよ!」



穂乃果「穂乃果と海未ちゃんとことりちゃんは… 3人は、小さいころから、ずっと一緒だった」

穂乃果「一緒に遊んで、一緒に学校に通って、一緒にごはんを食べて… みんなで、一緒に音ノ木坂に入学して」

穂乃果「二年生になっても同じクラスで、穂乃果は思ったんだ。『ああ、私たち3人は、見えない何かで一緒に結ばれてるんだろうな』って」

穂乃果「『一生、切っても切れない縁で繋がれて、誰も勝手に、遠くに行ったりできないんだろうな』って」

穂乃果「なのに… それなのに…」

海未「……」


穂乃果「何か、言ってよ」


海未「…イヤです」


穂乃果「……」




穂乃果「…そっか」


穂乃果「わかったよ、海未ちゃん」


穂乃果「穂乃果はね、ずっと海未ちゃんと親友だと思ってきたよ。ことりちゃんも含めて、3人でね」

穂乃果「海未ちゃんはしっかり者で、引っ張っていくのは穂乃果の係だったかもしれないけど、いつも私たちのことを見守ってくれた」

穂乃果「お母さんも言ってた。『海未ちゃんが一緒なら安心ね』って。おかげで、どんなところにだって出かけられた。穂乃果ひとりじゃ行かせてもらえないような、遠いところにだって行けた」

穂乃果「学校だって、授業の宿題も、テスト対策も、なんだかんだ言いつつも、いつも海未ちゃんは助けてくれたよね」

穂乃果「そんな頼れる海未ちゃんに、穂乃果はずっと甘えてた。…ううん、海未ちゃんじゃなきゃ、こんなに甘えられなかったよ。絶対に」

穂乃果「信頼できる海未ちゃんだから…… 大好きな…海未ちゃんだから」

海未「….…」


穂乃果「穂乃果は、海未ちゃんが大好きだった。だったし、今でも変わらない。大好きだよ」


穂乃果「だけど…… 海未ちゃんは、そうじゃなかったんだよね」




穂乃果「ずーっと一緒で、いつでも、どこでも一緒で。穂乃果は海未ちゃんにべったりで、昔も今も、海未ちゃんっ子で」

穂乃果「普通だったらこんなのすごい迷惑で、イヤになっちゃうよね」

穂乃果「それでも海未ちゃんは、『イヤです』って言うことはあっても、大事なときは必ず穂乃果の味方でいてくれた。誰を敵に回してでも、穂乃果を守ってくれた」

穂乃果「そうやって守られて、また海未ちゃんを信頼して、好きになって」

穂乃果「きっと海未ちゃんが穂乃果のそばにいてくれるのは、海未ちゃんも穂乃果を大切に思ってくれていて…… 穂乃果を、好きでいてくれるからなんだろうなぁ、って」


穂乃果「こんな素敵な関係が、ずっと続いていく。いつからか穂乃果はそう思ってたんだよ」

海未「……」



穂乃果「人は永遠じゃない。寿命だってあるし、急に誰に何が起こるかなんて、きっと神様にしかわからないもん」

穂乃果「友情とか、恋愛とかだってそう。いなくなっちゃって、はい終わりだなんて、そんな寂しいものじゃないかもしれないけど……いつかは忘れられちゃうものだよね」

穂乃果「海未ちゃんとの繋がりは、少なくとも穂乃果が生きている限り、失くならないよ。失くさない。失くしたくなんかない」

穂乃果「転校したって、どこ行ったって、海未ちゃんとの絆は大切にしたいよ…」

海未「……」


穂乃果「海未ちゃんが遠くに転校しちゃうって聞いて、すごく驚いたし、最初は冗談だと思った。だって海未ちゃん、穂乃果にも、ことりちゃんにも、何も話してくれなかったから」

穂乃果「海未ちゃんを探して走ってる間、ずっと考えてたんだ。どうして、言ってくれなかったのか」

穂乃果「海未ちゃんのことだから、って、いろいろと考えは浮かんだよ」

穂乃果「…でもね、考えてるうちに、そういうのは『海未ちゃんが穂乃果のことを好き』でいてくれる前提があってこそ成り立つものだって、気づいちゃったんだ」


穂乃果「もしかしたら、海未ちゃんは、本当は穂乃果のことが嫌いなんじゃないかって……思っちゃったんだ」



穂乃果「それからはもう、そんな考えばっかり、頭の中をぐるぐる回ってて……」

穂乃果「でも、もういいんだ。海未ちゃんに会ってみて、なんとなく…わかったから」


穂乃果「ごめんね。穂乃果ばっかり、言いたいこと言って」

穂乃果「ほっぺも痛かったよね。ごめんね、叩いたりして」

穂乃果「 許して…くれる?」


海未「イヤです」


穂乃果「……うん」

穂乃果「許してくれなくていいよ。穂乃果のこと嫌いでも… そんなのイヤだけど、海未ちゃんがそう思うんなら、構わないよ」


穂乃果「だけど、ひとつだけお願い」


穂乃果「ちゃんと、言って…」

穂乃果「最後くらい、ちゃんと、穂乃果に… お別れの言葉を言って…!」



穂乃果「お願い、海未ちゃん」

穂乃果「そうじゃなきゃ、このまま何も言わないでお別れじゃあ、すごく悲しいよ」

穂乃果「悲しいし、何も残らないみたいで…すごく寂しいよ」

穂乃果「海未ちゃんからすれば、黙ってこの街からいなくなって、穂乃果との間に何も残らないほうがいいのかもしれないけど…… 穂乃果は、きっと、そんなの耐えられない」

穂乃果「まるで、最初から何もなかったかのように、海未ちゃんが居なくなっちゃうなんて… 想像するだけで、すごく辛い。すごく、怖い」

穂乃果「そんな辛さに、怖さに、悲しさにまみれて… 今までの人生が全部無かったみたいになったら… 穂乃果はもう、生き方がわかんなくなっちゃうと思う」


穂乃果「だからこれは…せめてものお願いなの」

海未「……」


穂乃果「海未ちゃん」

穂乃果「ひとつだけ。最後に、ひとつだけ、穂乃果のお願いを聞いて」


穂乃果「お別れの言葉を…穂乃果にください」


穂乃果「海未ちゃんから、穂乃果に……最後のお別れを、言ってくださいっ!!」


海未「っ……!」



穂乃果「……」


海未「……」







海未「…イヤです」





穂乃果「うそ………海未……ちゃん………」


海未「……」



穂乃果「……」

穂乃果「……そっか」


穂乃果「あれだけいっぱい言っといて、まだまだ言いたいこと、山ほどあるんだけどね…あは…あはは」

穂乃果「でもこれ以上、海未ちゃんに迷惑かけられないから…… 穂乃果はもう…帰るね」


穂乃果「っ……うっ…… 泣かないよ…ぜったい泣かない。ファイトだよ」

穂乃果「よくあるもんね、最後くらい笑顔で、って」

穂乃果「えへへ……」

穂乃果「ごめんね。ちょっと変な笑顔かもだけど、やっぱり、海未ちゃんに見せたいのは、笑ってる穂乃果だから……」


穂乃果「えへ…へ……」



穂乃果「じゃあ……行くね? 海未ちゃん… どうか……元気でね」

穂乃果「これで、お別れ、だよ」


穂乃果「さようなら」


海未「……」


穂乃果「……」


クルッ

スタ スタ

穂乃果「……」


スタスタスタスタ


穂乃果「…っ〜〜!」ダッ



タタタタ…



穂乃果「はっ…はっ…… 泣かない…泣いたりしないっ」


タッ…


穂乃果「… はぁっ…はぁっ…!…ファイト…だよっ」

穂乃果「っ…はぁ……… えへ…えへへ」


穂乃果「よかった…はぁっ…笑顔でお別れ…できたよ」

穂乃果「海未ちゃんと…お別れ…えへへ」




穂乃果「……っ…えへ……うっ…」


穂乃果「うぅ…あぅ………ひぐっ…」

穂乃果「な、泣いちゃ…っ……ダメ…なのに…!」


穂乃果「うぅっ…う…み……ちゃ…っ…」


穂乃果「…うあっ…! うあぁぁあああああああん…!!」




ギュッ




海未「ダメです」


穂乃果「………えっ?」



海未「泣いては、ダメです」

穂乃果「……う、海未ちゃん…?」


海未「ダメです」

海未「お別れの言葉なんて、『さようなら』なんて」

海未「これで、最後だなんて…」


海未「そんなの、ダメです」


穂乃果「な、なんでっ…」






海未「穂乃果。言葉には、力があります」


海未「『言霊』という言葉があるように、言葉には力が、意志が宿っています」

海未「毎日使うような別れの言葉には、音にはならずとも、『また明日』という意志がこもっています」

海未「ですが、今度いつ会えるのかもわからない、ともすれば、生涯で二度と会うことも叶わないような別れの前で、別れの言葉を告げてしまっては…」

海未「そこには必ず、無意識のうちに『もう会えない』という思いが入り込んでしまうのです」


穂乃果「そ、そんなこと」


海未「あるわけない、と思いたい。私だってそうです。ですが、言葉に力があるのは、穂乃果…あなたから教わったのですよ」


穂乃果「….えっ」




海未「あなたは言いましたね。私が、2人をずっと守ってきてくれた、と」

海未「ある意味で、それは正しいのかもしれません。穂乃果は、私とことりを引っ張って、好きなこと、興味があることはなんでも一緒にしてきましたから」

海未「危なっかしいこともたくさんありました。その度に、私がこの2人の、特に、穂乃果の第3の目となり、助ける立場になろうと決意したのもよく覚えています」


海未「ですが…… 私だけが守り、助けていたのではありません。私もまた、穂乃果に助けられていたのですよ」


穂乃果「穂乃果が、海未ちゃんを…?」

海未「穂乃果が、私をです」

穂乃果「…あったかなぁ」


海未「最も印象的なのは、中学1年生の夏に一度、私が家出をしたときですね。覚えていますか?」

穂乃果「あー……あはは… そんなこともあったね。覚えてるよ」




海未「家の厳しさに耐え続けていたのもありますが… 俗に言う、反抗期だったのでしょうね。夜中なのに、何も持たないで家を飛び出して、あてもなく彷徨って」

海未「実は、穂むらの前で少しだけ待っていたんです。迷惑をかけたくないから、インターホンは押さずに」

海未「でも一方で、もしかしたらひょっこり穂乃果が顔を出して、中に入れてくれるんじゃないかって、淡い期待を抱いてもいました」

穂乃果「そうだったんだ…」


海未「しばらくして諦めて、また彷徨って… 気づいたら、あの木の下にいました」

穂乃果「それって、穂乃果が海未ちゃんを見つけた場所?」

海未「はい。穂乃果と、ことりと、私の3人で昔作った秘密基地があった、少し離れた公園のあの木の下です」


海未「夏だから夜中の外でも平気でした。比較的電灯も多く、怖くもない。なにより、形はもうありませんでしたが、確かに3人で作って遊んだ面影や形跡がありました」

海未「一人ぼっちで行くあてもない私にとって、無意識に足が向かったその場所が、当時では最善だったのでしょうね」




海未「それでも、やはり心細さは拭いきれませんでした。食べ物もなければ持ち合わせもなく、お腹は空き、喉も渇く一方です」

海未「空腹がある一線を超えて、次第に、恐怖と後悔が私の心を占めていきました」

海未「帰りたい。でも、常日頃から頑張っていても、その生業から日々精進がモットーの両親は、さらなる高みを目指せと叱咤激励するばかり」

海未「そんな両親から、無様にも私は逃げ出し、無断で家を飛び出した。帰ったら、どんなに怒られることだろう。もはや勘当され、二度と家に入れて貰えないのではないか…」

海未「そう思うと、うずくまったまま、体が動きませんでした」

海未「蒸し暑いはずの夏の外気ですらも、晩秋の凩のような冷たさに感じられました。ただでさえ暗い空は、やがて黒雲に覆われはじめ、あろうことか、雨が降り始めました」



海未「いよいよ帰れなくなってしまった私は、葉から時折こぼれ落ちる雨水を受けながら、静かに泣いていました」

海未「普段なら、とっくに眠っている時間です。人通りもあまり多くない公園、当然誰かに発見されることもなく、ひたすら降りしきる雨の音と共に泣いていました」


海未「謝って、謝って。心の中で何度も謝って。お母様に、お父様に。きっと連絡が届いているであろう、学校や、穂乃果やことりのご両親に。それを聞いたことりに」

海未「そして、同じく、穂乃果に…」


海未「そんなことをしても意味がないのは、自分が一番わかっているつもりでした。でもその時の私には、そうする他には何も出来ませんでした」


海未「謝って。悔やんで、嘆いて、また謝って。ごめんなさい、お父様、お母様。ごめんなさい、ことり。ごめんなさい、穂乃果…」

海未「何度も、何度も。泣いて謝ってを繰り返して…」


海未「いつしか、私の贖罪の思いは、助けを求める心に変わっていました」



ーーーーー
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海未(ごめんなさい…ごめんなさい…)

海未(反省…しています……こんなことをして…多くの人に迷惑をかけて……私は本当に…救いようのない馬鹿です…)

海未(本当に…ごめんなさい…)

海未(心から…反省しています……だから…)

海未(誰か…助けてください…… こんな救いようのない私ですが……どうか…救いをください…)

海未(……………)

海未(誰も…来るわけない……当たり前ですよね…)

海未(帰りたい………でも……)

海未(………うぅ…)

海未(……夏なのに…寒いよ……灯りがあるのに……怖いよぉ…)

海未(…お願いします……助けてください…)

海未(っ…………)

海未(助けて……誰か……助けて…!)


海未(お願い……助けて………!)




海未「助けて………………穂乃果っ…!」





穂乃果「あ、海未ちゃん! みーっけ!」





海未「…………」


穂乃果「どこにもいないと思ったらここだったのかぁ。そういえば最近は全然来てなかったけど、やっぱり秘密基地はもうなくなっちゃってるね」


海未「……ほの…か……?」


穂乃果「えっ!? ちょ、海未ちゃん、どうしたのその顔! 目が真っ赤だし、いろいろ腫れてるしいろいろ出てるし… ほら、ハンカチあげるから、ちゃんと拭いて?」

海未「本当に……来てくれたのですか…?」

穂乃果「そうだよ。もう、海未ちゃんが飛び出していったっきりどこにもいないって海未ちゃんのお母さんから連絡が来て、みんな大騒ぎでさー」

穂乃果「ことりちゃんにもお母さん経由で近くの学校の人とかにもいっぱい聞いてもらって… あ、警察まで動いてるらしいよ? もう、海未ちゃん有名人になっちゃうね」

海未「本当に……穂乃果……っ!」

穂乃果「それから…って海未ちゃん、聞いて…」


ガシッ


海未「穂乃果ぁぁぁぁ!! うえぇぇえええん!!」

穂乃果「ひぇええ! う、海未ちゃんっ!?」





海未「私……家出しちゃって…っ……帰るに…帰れなくて……ひとりで……寒くて…怖くて……!」

穂乃果「う、海未ちゃん…」

海未「ぐすっ…誰も…こなくてっ…」

海未「でも……穂乃果が…来てくれでっ……!!」

穂乃果「…そっか」


ポンッ


穂乃果「よしよし、辛かったね。よく、一人で頑張ったね。今日だけじゃなくて…今まで、ずーっと」

海未「っ……!!」

穂乃果「大丈夫。大丈夫だよ。穂乃果がついてるから」

海未「穂乃果ぁ…… 私…私っ……!」

穂乃果「だーいじょーぶだって!」

穂乃果「分かってるよ。海未ちゃんが言いたいこと、思ってること。なんで海未ちゃんが家出しちゃったのかも、ぜーんぶね」

海未「ど…どうして…っ」

穂乃果「どうして? …どうしてかなぁ」


穂乃果「うーん、分かんないけど」

穂乃果「たぶん穂乃果が、海未ちゃんのこと、大好きだからじゃないかな?」

海未「………」


海未「なっ……なっ…!?」




海未「ほ、穂乃果、今、なんて……」

穂乃果「うん? だから、海未ちゃんが好きだから、思ってることが分かるのかなって」

海未「…っ〜〜!」カァァ

穂乃果「ほら、好きな人同士って、性格が似るって言うでしょ? そんな感じでさ、穂乃果も海未ちゃんと性格が…」

海未「…性格が?」


穂乃果「……似てないね、全然」


穂乃果「いやっ、でも! 性格だけじゃなくていろいろあるし! なんかこう、通じる部分っていうか、えっと…」

海未「………くすっ」

穂乃果「あれ? てかこれ、もしかしなくても穂乃果だけじゃなくて、海未ちゃんも穂乃果が好きじゃないと成り立たないんじゃ…… 海未ちゃん、今、笑ったね!?」

海未「ふふ。いえいえ、笑ってないですよ……ふふっ」

穂乃果「わ、笑ってるじゃん! うわぁ、また穂乃果がおバカなこと言ってると思ってぇ〜」

海未「思ってません」

穂乃果「思ってる! ぜったい思ってるよ!」

海未「……穂乃果」

穂乃果「な、なにさ」


海未「好きですよ。私も、穂乃果のこと」

穂乃果「へっ…!?」



穂乃果「ほ…ほんとに?」

海未「はい。本当です」

穂乃果「…そうなんだ。そっか。えへへ、両想いだねっ」

海未「友人として、ですよ?」

穂乃果「わ、わかってるよ! 他に何があるの? もう、海未ちゃんってば」

海未「そうですね。ふふふ」


グ〜…


海未「あっ…」


海未「安心したら…そういえば、お腹空いていたのをすっかり忘れていました」

穂乃果「えー? あはっ、なにそれ、海未ちゃんかーわいいー」

海未「恥ずかしいです…」



穂乃果「あ、思い出した!」

穂乃果「はいこれ、海未ちゃん、どーぞ ♪」スッ

海未「これ…お饅頭…ですか? ひょっとして、穂むらの?」

穂乃果「うんっ、明日から新メニューの試作品だけど… あのね、これに、穂乃果の考えた案が初めて採用されたんだ!」

穂乃果「お母さんのオッケーが出たところで電話が鳴って、『園田さんの家から』って」

穂乃果「海未ちゃんに報告したいから、ちょうどいい!って思ったんだけど、そしたら、海未ちゃんが飛び出して帰ってこないっていう話で…」

海未「す、すみません」

穂乃果「ううん。それなら私が探しに行くって、穂乃果も飛び出してきちゃったんだ。おまんじゅうの袋を持ったまま」

海未「こんな遅くに… 穂乃果のお母さんに止められなかったのですか?」

穂乃果「あ、えっと……」

海未「…止められたのに、無視して飛び出して来た、と」

穂乃果「あは、あはははー」

海未「はぁ、全く、いつもいつも穂乃果は…… もっとも、今の私には怒る資格なんてないですけど」

穂乃果「うん。その通りだね」

海未「……」

穂乃果「穂乃果たち…やっぱり、似てるのかもね」

海未「そうかも…しれませんね」


穂乃果「………ぷっ」

海未「………くすっ」


穂乃果・海未「「あははははははは!」」






穂乃果「……海未ちゃん」

海未「…はい」



穂乃果「一緒に、帰ろっか 」

海未「……はいっ!」




ーーーーーーーーーーーーーーー




海未「あれから、すぐに雨が止んで、綺麗な星空が見えましたね。あのときの穂乃果は、私にとって本物の太陽のようでした」

穂乃果「懐かしいなぁ… あれから穂乃果の家に帰って、海未ちゃんのお父さんとお母さんが飛んできて、夜中なのに、もうわけ分かんないくらい怒られたよね」

海未「そうでしたね。結局、たしか2軒隣に住むおじさんが怒鳴りこんできて、やっと打ち切られたんでしたっけ」

穂乃果「あはは、そうそう。ずっと親に怒られてたのに、あの時のオヤジさんは地震よりも雷よりも怖かったね」


海未「ですが、その後、両親は私を抱きしめて… それまで厳しくしすぎたと、私の気持ちを考えていなかった、と謝ってくれて」

海未「それ以降、両親は常に私の意見も考慮してくれるようになりました。無論、私としても両親の期待には応えたいですし、堕落するつもりはありませんけどね」

穂乃果「そうだね。海未ちゃんは、いつも頑張ってるよ!」


海未「ともあれ、その家出は、何も私にとってマイナスな面だけでなく、沢山のプラスの面を含んでいたと、今は思います」

海未「穂乃果がやってきて、『一緒に帰ろう』と私の手を引いてくれなければ… 私はあのまま、帰ることはできなかったでしょう」

海未「下手をすれば、もっと違った結末になっていたかもしれません… あの時間に、女子中学生がたった一人でしたからね」



海未「穂乃果のその言葉は、それまでの人生の中で一番、力をもっていました。ただ、きっと、その言葉そのものに、あれほど人の心を動かす力はありません」

海未「私の心を動かした力はその言葉に宿った『何か』で、その『何か』は間違いなく、穂乃果が言葉に宿させた、力です」

海未「言葉に宿る、力。それを教えてくれたのは、紛れもなく穂乃果…… あなたなのです」


穂乃果「……」

穂乃果「そっか… あのときかぁ。な、なんかそう言われると、ちょっぴり恥ずかしいかな」

海未「ふふっ。お返しです」

穂乃果「むぅ〜…」

穂乃果「あ、そういえば! あのとき海未ちゃん、帰り道で『ほむまん』食べて、また泣いちゃったの覚えてるよ」

海未「うっ……忘れてください」

穂乃果「忘れないよ。海未ちゃんの泣き顔なんて、あれからそうそう見てないもん」

海未「あれは…不覚でした。あまりの心身の疲れに対して、あの程よい甘さがぴったりすぎて、感動してしまったんです」

穂乃果「照れるなぁ〜。素直に、おいしかった、でいいのに」

海未「もちろん美味しかったですよ。おかげで今でも、穂むらのお饅頭は私の好物ですから」

穂乃果「むふふー。毎度ありぃー」




穂乃果「……」

海未「……」


穂乃果「また、おまんじゅう、買いに来てね」

海未「もちろんです」


穂乃果「来るときは教えてね。『ほむまん』、準備しておくから」

海未「今はもう、看板メニューじゃないですか」

穂乃果「そうだったね…」


穂乃果「あのね。ほむまんって、皮のわりに、あんこが少ないんだよ」

海未「ええ。だからこそ私は、ほむまんが好きなんですよ」

穂乃果「……よかった」



穂乃果「今だから言うね。これ、お母さんにも秘密にしてるんだけど…」

穂乃果「ほむまんは、穂乃果が海未ちゃんのことを思って、海未ちゃんへの気持ちを込めて、作ったものなんだ」

海未「私への気持ち…?」


穂乃果「わかんない…?」

海未「えっと……」


穂乃果「そっか」

海未「……すみません」

穂乃果「ううん。無理もないよ。だって、ダジャレだもん」

海未「えっ? だ、ダジャレですか?」

穂乃果「うん」


穂乃果「あんこが少ないのは、好みに合わせたんじゃないんだ。ほら、あんこが少なければ、皮との間に、大きな隙間ができるでしょ」

海未「それはそうですが…」

穂乃果「そういうことだよ」

海未「えっ? ど、どういう…?」


穂乃果「……もう」

海未「え? ええ……?」



穂乃果「恥ずかしいから、もう言わない」

海未「恥ずかしい? まさか、なにか破廉恥な…」

穂乃果「は、ハレンチなんかじゃないよっ! ああもう、『大きなスキマ』! はい、もう分かったでしょ!」

海未「え、ええ…!?」

穂乃果「……」


海未「大きな隙間…」

海未(あんこがなくて、大きな、隙間ができて…)

海未(大きな…スキができて…)

海未(……)


海未「あっ………」


海未「ほ、穂乃果、もしかして……」



穂乃果「……海未ちゃんの、ばーか」カァァ

海未「っ…….」カァァ



海未「ごめんなさい」

穂乃果「…えっ……!?」


海未「引越しのこと、言い出せずに… 本当に、ごめんなさい」

穂乃果「あ… な、なんだ、そっちか」

海未「はい?」

穂乃果「う、ううん。なんでもない」

海未「はあ…」

海未「言い訳になってしまうのですが、初めは、内緒にするつもりはありませんでした」


海未「家の事情でどれだけ両親も苦しい思いをしてきたかは、私もよく分かっています。それだけに、引っ越しの反対をするのは憚られたのですが…」

海未「それでも私は、今の生活を… なにより、穂乃果たちとの関係を、壊したくありませんでした。だから、失礼千万、両親にはたくさん反対の意見を述べました」

海未「ですが、やはり大きな家の事情…その一個人に過ぎない私の声では、届きませんでした」



海未「引越しが揺るがない以上、一人暮らしで良いから、私を生まれ育ったこの街に残して欲しい、と打診もしました」

海未「その交渉も虚しく、『お前だけの問題ではない』と一蹴され… ついに私には、なす術が何も無くなってしまったのです」


海未「翌日は、私はまるで抜け殻のようだったでしょうね。引越しを止められない、街に残ることもできない。穂乃果たちと、こんなにも早く別れなければならない…」

海未「土日だったのが幸いしました。穂乃果やことりに悟られる前に、なんとか思考を回復した私は、とにかく考えました」

海未「引越しの確定という事実を、これまで当たり前に続いてきた3人の関係を瓦解させてしまう未来が訪れることを、いかにして伝えるべきか」

海未「授業中も、休み時間も、放課後も… イメージトレーニングのようなものでした。あらゆるパターンを考えて、2人の顔色を想定して… どうすれば、全員が一番傷付かずに済むのかを、ただひたすらに」



海未「いつからなのか、覚えていません。私はたぶん、疲れてしまったのです」

海未「考えて、考えて。ありもしない頭の中だけの光景に目を向けて、耳を傾けて… 知らぬ間に、自ら勝手にパンクしてしまったのです」

海未「疲弊しきった頭は、いつしか目的をより簡素なものへとすり変えてしまいました」

海未「『どうすれば、3人が一番傷付かずに済むか』から」

海未「『どうすれば、2人の傷付いた顔を見ないで済む』か』」

海未「そして最後には、『どうすれば、私1人だけでも傷付かずに済むか』」


海未「そうなった瞬間、答えはいとも簡単に弾き出されました」


海未「何も言わない。たった、それだけです」


穂乃果「海未ちゃん…」



海未「それからの私は、穂乃果に対して酷い態度を取っていました。心を閉ざし、全てを否定し、あわよくば、そのまま関係が壊れてしまわないかと」

海未「初めから壊れていれば、別れに伴って壊れることもない。そんな恐ろしいことすら、少しだけ期待してしまっていました… 私の心もまた、壊れていたのですね」


海未「それでも、穂乃果は私とずっと共にいてくれました」

海未「考えることから逃げた私を、2人を裏切り、1人だけ救われようとした私を… 穂乃果は、慕ってさえくれていました」


海未「今日。ここで初めて、穂乃果が本気で怒ってくれて
… 想いを、ぶつけてくれて……」

海未「私は、壊れた世界からようやく、救い出されました。自ら掘った、闇に包まれた救いの逃げ穴に… 太陽が、穂乃果が、光を差して、手を差し伸べて… 救いあげてくれました」


穂乃果「そんな…こと…」

海未「ありますよ。それしかないくらいに」

海未「昔も今も、救いようのない私を救ってくれるのは… やはり、穂乃果なのです」



穂乃果「海未…ちゃん」

海未「穂乃果」

穂乃果「うん?」

海未「もう一度だけ言わせてください。この節は、本当に、すみませんでした!」

穂乃果「も、もういいって…! そんなに謝られたら、こっちが辛くなっちゃうよ」

海未「はい。ですから、謝るのは今のが最後です」

穂乃果「…そっか」


海未「償いとして、ではありませんが…… 穂乃果のお願いに、応えさせてください」

穂乃果「私のお願い… それって、さっきの?」

海未「そうです。きちんと、お別れの言葉を言わせてください」


穂乃果「…うん…わかった」





海未「では……」


海未(言葉には、意志が、思いが宿る)

海未(宿った意志は力となって、言葉を通して相手に伝わる)


海未(大きな別れの言葉には、『もう会えない』という思いが宿る。私はそれを恐れていました)

海未(でも、言葉は意志も宿す)

海未(『もう会えない』思いが宿るなら、『また会える』思いを、『また会いたい』意志を重ねてしまえばいい)

海未(こんな簡単なことなのに、どうして私は気づけなかったのでしょうね)


穂乃果「……まだ…?」


海未「…穂乃果」

穂乃果「は、はいっ」


海未(『また会える』、その日まで)

海未(『また会いたい』思いを込めて)


海未「……」


海未「さようなら、です。穂乃果」


穂乃果「…!」



穂乃果「…うんっ」




穂乃果「またね。海未ちゃん」



海未「やっと、言えました」

穂乃果「やっと…だね」


海未「あの、穂乃果」

穂乃果「なに?」

海未「私のこと、許して…くれますか?」


穂乃果「うーん…そうだねー…」




穂乃果「イヤだよ」



海未「そうですか… いえ、そう…ですよね」


海未「当然です。許してくれだなんて、そんな今更、虫がよすぎて…」

穂乃果「でも、勘違いしないでね?」

海未「…はい?」


穂乃果「許すっていうのは、それでおしまいってことだから。おしまいのまま離れちゃったら…海未ちゃん、本当に遠くへ行っちゃいそうだから」

穂乃果「だから… 今度また、帰ってきたときに、もう一回聞いてくれる?」

海未「ほ、穂乃果……!」


穂乃果「これも、『イヤです』か?」


海未「っ……」

穂乃果「…ふふん」ニヤニヤ


海未「……」

海未「あなたって人は…… 取られました、私の負けです」

穂乃果「じゃあ…!」

海未「ふふっ…」



海未「『いいです』よ」





ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーー


穂乃果「わぁーい…約束だよぉ…海未ちゃあー……むにゃ…」


ことり「ねぇ海未ちゃん? もうそろそろ穂乃果ちゃん、起こしてもいいんじゃないかなぁ」

海未「何言ってるんですか! 今このレアな『ほの顔 @おやすみver.』を見納めず、いつ見ると!?」

ことり「うー…海未ちゃんの『ほの顔』フェチも大概だよねぇ…」

海未「なんとでも言ってください。穂乃果にさえバレなければ問題ありません」

ことり「でも、もうすぐ完全下校だよ?」

海未「関係ないですね。見つかった瞬間にあたかも慌てて帰り支度を済ませようと頑張る姿を見せる手筈は調っていますから!」

ことり(あ、これやばいな)



海未「ふふっ…たまりませんね、この緩みきった寝顔….! 机にこぼれ落ちるよだれすら愛おしく感じます…ふふフヒッフヒヒッ」

海未「ああ穂乃果、どうしてあなたはホノカなの?」

海未「フフッ、それはね、そこにホノカがあるからダヨ」(重低音)


ことり「もういい、海未ちゃん…」

海未「ことり?」

ことり「ことり、穂乃果ちゃん起こすから。いいよね?」

海未「へっ? あ、ちょっと、ことり!? ああっ!?」



海未「イヤですーーっ!!!」











海未「イヤです」

fin.





以上です。

なんだこれぇ…

とりあえず終われたし、かよちん3枚のために走ってくるにゃ

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