【艦これSS】提督「壊れた艦娘と過ごす日々」05【安価】 (1000)
※艦これのssです。安価とコンマを使っています。
※轟沈やその他明るくないお話も混じっています。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1422209136
好感度的なもの
89 睦月
55 榛名
37 浜風
36 加賀
32 鈴谷
31 夕立
30 伊58
11 大淀
07 雪風
00 金剛
※攻略は出来ないけど絶対に病まない癒し的な存在
曙・阿武隈・阿賀野
・好感度30 トラウマオープン
・好感度60 トラウマ解消
ここから恋愛対象&好感度上昇のコンマ判定でぞろ目が出たらヤンデレポイント(面倒なのでYP) +1
・好感度99~ ケッコンカッコカリ
・YPは5がMAX、5になったら素敵なパーティ(意味深)
沈んだ艦娘24人
一回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
大和・朝雲・那珂・武蔵・弥生
(雪風は生還)
二回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
深雪・大鳳・如月・雲龍・龍驤
(雪風は生還)
三回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
白露・時雨・村雨・五月雨・涼風・皐月・文月・長月
伊19・伊168・伊8・北上・神通
???
春雨
過去スレ
01
【艦これ】提督「壊れた娘と過ごす日々」【安価・コンマ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418749126/)
02
【艦これSS】提督「壊れた娘と過ごす日々」 02【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419872466/)
03
【艦これSS】提督「壊れた艦娘と過ごす日々」【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420739475/)
04
【艦これSS】提督「壊れた艦娘と過ごす日々」04【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421597489/)
以上です。
テンプレに入れればよかったですね、すみません。
「あまりヒロインを増やしたくない、けど戦力は欲しい」と言う意見を頂いていたので、反映しますね。
建造艦をヒロインにするかAAAトリオみたいな癒し枠にするかは安価なりコンマなりで決めましょうか。
なおドロップ艦はそのまま確定です。
・建造
下記の表から一つを選び、その中の艦種から安価で決めます。
A【燃料30 弾薬30 鋼材30 ボーキ30】
いわゆる最低限レシピ。駆逐艦・軽巡洋艦が対象です。
B【燃料250 弾薬30 鋼材200 ボーキ30】
軽巡洋艦・重巡洋艦・潜水艦が対象です。
C【燃料400 弾薬30 鋼材600 ボーキ30】
重巡洋艦・戦艦が対象です。
D【燃料300 弾薬30 鋼材400 ボーキ300】
軽空母・正規空母が対象です。
E【燃料500 弾薬500 鋼材500 ボーキ500】
駆逐艦・軽巡洋艦・重巡洋艦・潜水艦・戦艦・軽空母・正規空母「以外」が対象です。
いわゆる明石さんとかそういう人達。
・装備
今いる艦娘の新しい装備を作ります。
と言っても錬度とか戦力数値も無いスレですので、要は資源と引き換えに好感度を上げるだけです。
まず【燃料100 弾薬100 鋼材100 ボーキ100】を支払います。
次に誰の装備を作るか選択し、その後はコンマ次第で好感度が上がります。
ただし実際のゲームと同じで失敗する場合もあります。勿論その場合資源は帰ってきませんし好感度も上がりません。
具体的には3割の確率で失敗します。
そいうえば>>1前に艦娘ドロップ判定の場所に艦娘の名前書いてる人いたけど
あれ仮にゾロ目でドロップだったとしても無効で艦娘は別判定って事でいいのかな?
今帰りました、ご飯これからなので昨日安価で取った三人のお話の投下だけになると思います。
>>36
そうですね、改めて取るので書いても反映は出来ないです。
完全に寝落ちです、本当にありがとうございました。
20時に始めます。
睦月「提督、睦月負けちゃったのです……およよ」
提督「僅差だったんだ、そう落ち込むな」
同じ駆逐艦同士での戦闘という事もあってか、目まぐるしく動き回りながらの撃ち合いとなった睦月だったわけだが、惜しくも優勢をとられてしまった。
撃ち合い、とは言ったもののその弾薬─ペイント弾ではあるが─が実を結んだのは両者僅かなものである。
制服の右肩の部分をオレンジ色のペイントで濡らしながら口を尖らせる睦月。
睦月のダメージ……もとい、ペイント跡はほぼその部分のみで、後は被弾の際に散った飛沫が点々と白い制服についている程度だ。
恐らく実際の実際の戦闘であってもせいぜいかすり傷程度だろう。
そういう意味では、駆逐艦である彼女の出来うる限りの善戦であるといえる。
少なくともただ闇雲に突っ込んだ夕立に比べれば正しい戦い方だ。
睦月「夕立ちゃんの辞書にブレーキと言う言葉はないのかな」
酷く端的に夕立を表した言葉である。
恐怖心を持たないことは凄いことだ。
だけれどそれは、素晴らしいことにはならない。
睦月「睦月にはあんな戦い方出来ないのです」
提督「しなくて良いと思うぞ」
睦月まで何も考えずに敵陣に突っ込むような事をされたらたまったものではない。
現状一番夕立に目を向けているのは睦月なのだ。
その睦月まで夕立のようになられたら、恐ろしいにも程がある。
睦月「でも、夕立ちゃんは勝ったし」
提督「勝てばいいと言う訳ではない」
あんな刺し違えるような戦い方はして欲しくない。
あれではまるで、自分の命について全く考えていないように見えて仕方ないのだ。
睦月「……」
睦月が少し口を小さく開ける。
提督「どうした、睦月」
睦月「……そうです」
悲しそうな声で頷いた。
睦月「夕立ちゃんが変だって思って、でもどこが変なのか上手く分からなかったけど。分かった気がします」
提督「……」
かつて自分がそうであったように。
そんな睦月だからこそ、夕立の異常にいち早く気付けたのかもしれない。
睦月「夕立ちゃんは、前の睦月に似ています……」
仲間の死に心を痛めた睦月。
そんな自分を守るために、これ以上傷つかないためにと悩んだ彼女が選んだのは、痛めた心を殺すことだった。
それは勿論間違いで、今でこそ睦月もそうだと思えているけれど、しかし常に正しい行動をとれるほど人は強くない。
だけれど厄介なことに、死にたくなるほどの絶望でも、壊れてしまいそうな不遇でも、本当にそうなってしまう事を望めるほどまでには人は弱くも無いのだ。
悩みながら、苦しみながら、震えながら、怯えながら。
強くなりきれるわけでもなく、弱くなりきれるわけでもないままの心と身体は、宙に浮いていられない。
どこかで中間点を、
どこかで妥協点を、
どこかで平均点を出さなければいけないのだ。
そして人は、概ねその場合、心を殺すことになる。
苦しいと思う感情と、苦しいと思う状況。逃れられるのであれば、人は前者を選ぶ。
何故なら、一度苦しいという感情を覚えた心は、それを忘れないから。
楽しいよりも苦しい。
嬉しいよりも哀しい。
そう言った負の感情の方が、人は忘れるのに時間がかかる。
だから、辛い出来事は残り続ける。忘れようと思っても、忘れられない。
それから逃れるために、人は心を閉ざし、睦月は心を殺した。
睦月「自分を大事にしていないから、あんな戦い方になっちゃうんじゃないでしょうか」
提督「……かもしれない」
そんな睦月が、いや、そうだった睦月がそう感じ取るという事は、きっとそれは正しい。
だけれど夕立と睦月では決定的な差があった。
提督「夕立は、ここで建造されたはずだ」
睦月は、その目で仲間の死を見てきた。
そのせいで辛い目にあったわけだが、しかし夕立はそうではない。
姉妹艦に位置する艦娘は、夕立もまた俺のせいで失っている。その点は確かに睦月と同じといえた。
だけれど、それを直接見たわけではない夕立が、どうして以前の睦月と同じ価値観を持ってしまうのだろう。
単に性格の問題なのだろうか。それとも何か別の理由でも、隠れていたりするのだろうか。
睦月「それは、分からないですけど……」
さしもの睦月も、そこまでは計りかねると言った表情を浮かべる。
それが分かっていれば、とうに睦月の口から答えが出ているか、更に言えば行動として移していてもおかしくはない。
母港で向こうの鎮守府の駆逐艦と楽しげに話す夕立を見やる。
その姿はやはり普段どおり純粋な様子で、一層俺と睦月の心に漣を立てた。
睦月「……」
睦月(提督、夕立ちゃんばかり見てます)
睦月(夕立ちゃんのことは睦月も心配ですけど……)
睦月(むー……)
睦月「やっぱりあの時勝ってれば褒めてもらえたのかなぁ……」
ぼそりと睦月が呟いた。
小声ではあったが、互いに近くにいたのでその声は確かに俺の耳に届いた。
提督「何の話だ?」
睦月「ふにゃっ!?」
驚いた様子で睦月が肩を震わせる。
慌てて口に手をやるが、しかし既に後の祭りだ。
提督「先ほども言ったが、君も頑張ったじゃないか」
睦月「んー……」
口を押さえたままだったので、唸るような声になったが、それでも甘さは変わらない。
そのまま口に手をやったまま、しかし少しずらして指の間から拗ねたような声を挙げる。
睦月「……じゃあ、褒めてくれるんですか?」
そうだ、と即答しようとして……すんでの所で躊躇う。
睦月の事だ。ただ頑張った、お疲れ様、などと言っても喜ばないだろう。
理由は分からないが何故だか彼女は頭を撫でる事を良く要求してくるので、恐らく今回もそうねだるかもしれない。
だがそれは、あまり個人的には好きではない行為だ。
睦月「やっぱり駄目なんですね」
提督「いや、そう言うわけでは……」
しゅんと落ち込む睦月ではあったが、しかし何故だろう。追い詰められているのは自分の様な気がしてきた。
睦月「睦月、ショックです。提督のお役に立てなかった自分がショックです」
提督「いや、そう言うわけでは……」
睦月「うう。およよ」
……何だか、わざとくさい泣き方だが。一応ちゃんとフォローした方が良いか?
提督「良く頑張ってくれた。今回は惜しくも優勢は取れなかったが、次は……」
睦月「そんな事務的な言葉はさっき聞いたのです!」
提督「そう言われてもな……」
浜風「提督は固いと思います」
背後から息を吹きかけるように浜風がそう囁いた。
我ながら、飛び上がらなかっただけたいしたものだと思う。
提督「話をややこしくしないでくれるか」
浜風「そんなつもりはありませんよ」
睦月「もっとこう、士気を上げる様なチョイスと言い方をして欲しいのです!」
睦月は睦月で、無茶な要求をし始めた。
提督「例えば」
睦月「ええと……」
浜風「『頑張ったね睦月ちゃん、勝負は惜しかったけど可愛さでは負けてないよ』とか」
提督「……それは向こうの提督の領分だろう」
自分にそんな猫撫で声で褒めろなどと言うのは間違いだ。
女性だから許されるものの、大の大人である俺が今のセリフを繰り返しても、気味が悪い。
浜風「んふっ……」
浜風が顔を逸らして笑った。
ツボだったらしい。今一沸点が分からない。
というより、自分の言葉で笑わないで欲しい。
睦月「か、可愛……」
睦月は睦月で、途端に顔を赤くしてしまう始末である。
浜風「良いじゃないですか……んふ、一度くらい言ってあげても……ふふっ」
提督「君は一旦笑うのを止めようか」
浜風「すみません」
睦月「あう……」
火照った顔を隠すように俯く睦月であったが、浜風がそんな彼女の背後に回る。
……今し方まで俺の後ろにいたはずだったと気がしたけれど、深くは考えないでおこう。
そのまま背中から手を伸ばし、睦月の頬に触れたかと思うと、くいっと持ち上げた。
睦月「ふにゃ!?」
浜風「ほら、提督。睦月は褒められて伸びるタイプなんです。ちゃんと褒めてあげてください」
浜風の手でおおよそは隠れてしまっているが、きっとあの手袋の下の、睦月の顔は真っ赤なのだろう。
提督(どうしたものか……)
提督「あー……」
睦月「……」
提督「……その」
睦月「……あう」
浜風に顔を持ち上げられているので俯けず、かといって目線を逸らすわけでもなく。
目一杯の恥ずかしさを瞳に込めながら、その目尻は僅かながらに湿っている。
少しだけ開いた口から微かに溜息が漏れた。
提督「……睦月」
浜風「ちゃん」
補完をしないで欲しい。
睦月「ひゃい」
そこで頷かないで欲しい。
何だか自分がちゃん付けで呼んだみたいではないか。
提督「ええとだな」
睦月「……」
提督「ええと……だな」
睦月「……はい」
提督「……うん」
睦月「……はい」
段々睦月の熱が冷めていっている気がする。
これだけ俺が及び腰になれば、それもそうか。
提督(待てよ。という事は)
つまりはこのまま誤魔化し続ければ、睦月も我に返り、浜風も飽きるのではないだろうか。
そうなれば二人とも鎮守府に戻るだろうし、俺もこの場を切り抜けられるという事になる。
提督(しかしそれは……)
なんと言うか、あまりに。
浜風「へっぽこですね」
提督「心を読まなくて良い」
睦月「……もー。良いのです。提督は臆病さんなのです」
むくれたように睦月がそう言い、実際に頬を膨らませながら浜風の手を剥がした。
提督「す、すまない」
睦月「良いのです良いのです。提督がそういう人なのは睦月良く分かってるのです」
提督「拗ねないでくれ」
睦月「拗ねてません。拗ねてませんとも!」
拗ねていない人ほどそう言う、と言ったらさすがに怒るだろうか。
抗議の意味でもあったのだろうか、ぱたぱたと両手を振り回しながらその場で足踏みをした睦月だったが、
睦月「部屋に戻るのです。着替えないと」
と言ったかと思うと、唇を尖らせながら鎮守府へと戻っていく。
そんな睦月を見て、無言のままこちらに目配せをしたのが浜風だった。
その意図も汲み取れないほどに唐変木になれなかった俺ではあったが、しかしだからと言って浜風の言葉をそのまま再生する程自意識過剰でもない。
と言うより。
可愛いだとか、綺麗だとか、魅力的だとか。
あまりそういう、人を喜ばせたりする言葉を使いたくなかった。
世辞や冗談で済めばいい。
だけれどそれで留まらなかった時が怖い。
万一、ほんの僅かな可能性でも睦月が俺の言葉に喜んで、俺に心を許してしまったら。
大和や如月達、或いは金剛のように、少しでも少しでなくとも俺を好いてくれてしまったら。
……そのせいで、また彼女たちのように睦月が命を落としたら。
ここは最果ての地。最後の居場所。
そんな場所で折角立ち直った彼女を、死なせてはいけない。
もうあんな悲劇は、起こしてはいけない。
提督「……すまん。睦月」
睦月「……、……」
困ったような表情を浮かべ、睦月が微笑んだ。
睦月「もう。提督はしょうがない人なのです」
提督「ああ」
睦月「しょうがないから、睦月がしっかりするしかないのです」
提督「ああ」
睦月「だから、今回は我慢するのですよ」
提督「ああ」
睦月「……でも」
睦月「十回に一回……。うにゃ、五回に一回くらいは、褒めてくださいね?」
提督「……ああ」
睦月「睦月は褒められて伸びるタイプですけど、褒められないと寂しくて泣いちゃうのですよ」
提督「……善処する」
睦月「ん……」
睦月「約束。です」
提督「……、……。……分かった」
守れる自信はなかったけれど。
それでも、頷いた。気がついたら、頷いていた。
睦月に対する後ろめたさだろうか。過去に対する罪悪感だろうか。それとも。
……、それとも。
寂しい思いをさせたくないと。
睦月には泣いて欲しくないと。
そう思ったからなのだろうか。
睦月「……にゃはは」
分からなかった。
だけれど、やはり朱色のままの頬と、蕩けるような甘い笑い声を聞いて思った。
少なくとも、睦月には今の笑顔でいて欲しい。
照れた顔を隠す様にして駆けていった睦月の後ろ姿を見ながら、そう思った。
浜風「奥手ですね」
提督「だらしがないよりはマシだ」
浜風「臆病ですね」
提督「モラルがないよりはマシだ」
浜風は含み笑いを浮かべ、俺はその表情に溜息を吐いた。
提督「あまりからかわないでくれ」
浜風「そんなつもりは」
提督「ないとは言わせないぞ」
浜風「……あら。ふふ」
どうにも彼女は俺をちくりちくりと刺すのが好きなようだ。
ささやかな抵抗の如く質問を投げかけた。
提督「……こんな事を聞くのもどうかと思うが、君はあちらの提督にもそんな感じだったのか?」
浜風「……別に、そういうわけでもありませんよ」
少しだけ表情を硬くした。
というより、つまらなさそうな素面になった。
浜風「自分が艦娘ではなく深海棲艦かもしれない、だなんて誰にも彼にも話していたら、今頃私は解体、それか本部で処刑されていますよ」
提督「……そうだな」
尤もな意見である。
酷く正しい言葉だ。
それが比喩でなく、本当にそうなるという事は、俺が良く知っていた。
厳密には、俺ではなく、かつての彼女だけれど。
浜風「……まぁ、だからと言って、あそこまで怖がらなくてもいいとも思いますけど」
それは恐らく向こうの提督と艦娘の事を指しているのだろう。
確かに演習相手の艦娘は、戦うと言うよりは浜風から逃げるような形だった。
浜風は逃げ纏う相手が半ば当てずっぽうで放ったペイント弾を微かに付着させただけで、そのおかげか浜風は終始優位に戦闘を進め、圧倒的大差でもって勝利した。
とはいえ、同じ艦娘、それも駆逐艦同士に怖がられるのはまだしも、提督にまで恐れられると言うのは如何なものか。
浜風「それは……まぁ。あの人はそう言う人なんです」
やや言葉を濁す。
見てみると、向こうの提督の周りには、背の低い駆逐艦たちがしがみつくように甘えていた。
浜風「睦月はそれなりに好かれていたみたいですけど、私は駄目みたいだったようですね」
一応同じ駆逐艦なんですが、と付け足して苦笑した。
確かに浜風は精神的に大人びている。
提督「……」
そこでふと思った。
提督「浜風。少し話を戻すが」
浜風「なんですか?」
提督「先ほど君は、自分の事を向こうの提督には話してはいないと言ったな」
こくりと浜風が頷いた。
提督「ならどうして俺には話したんだ?」
浜風「……」
一度答えようとして口を開き、しかし言葉は返ってこなかった。
いつもの甘い毒を振りまくような含み笑いでもなく、かといって無表情でもない。
何の飾り気のない、きょとんとした表情だった。
彼女のそんな素朴な顔を見るのは初めてで、少し意外だった。
提督「……浜風?」
浜風「……え?」
小さく口を開けたまま、浜風が返事をする。
浜風「……、そうですね。確かに、言われてみれば」
浜風「何故でしょうね?」
静かに髪を揺らしながら、本当に分からないと言った感じで何もない空中に視線を泳がせた。
提督「……」
その真意は、きっと浜風にだって分からない。
浜風「……私も、着替えることにします」
ほんの少し浮ついたような足取りで、浜風が睦月と同じ道取りで鎮守府に戻っていく。
不思議そうな表情のままの浜風のその姿は、とても脅威を振舞う深海棲艦のようには見えなかった。
ただ、一人の少女のような。
そんな後ろ姿だった。
提督「……ん?」
向こうの提督を見送り、改めて母港を見回す。
そこには呆然とした表情で立ち尽くす加賀が一人、佇んでいた。
提督「加賀……。す、凄いことになってるな」
加賀「……」
ペイント弾まみれで、全身オレンジ色に近い加賀は、俺の言葉にも反応せず、ぶつぶつと何かを呟いている。
提督「ど、どうした加賀……」
加賀「頭に来ました……」
……良く分からないが、怒っているようだ。
提督「何があったんだ……」
加賀「小さければ良いわけじゃないわ」
演習の話だろうか。
いや、まぁ、今加賀が怒るとしたら、それくらいしか見当たらないのだけれども。
確か加賀は、相手の動きに翻弄された挙句、周りの余計な言葉に反応している間に被弾してしまい、動けなくなった結果、その場で自ら砲台と化すしかなかったんだったか。
しかし相手は駆逐艦、後ろに回りこまれたりして少しずつ被弾していった……ようだった。
改めてこうして整理してみると、凄まじく意味の分からない戦闘だったとしか言えない。
提督「ま、まぁ落ち着け。確かに向こうの提督の言い分はアレだったが、しかし個人の好みの問題だ」
加賀「頭に来ます」
提督「そうみたいだな……」
加賀「小さければ良いわけじゃないわ」
提督「そうだな……」
あくまで彼は例外と言うか、マイノリティだと思う。
加賀「ええ。そう」
提督「良く食べる人の方が健康的でいいな」
加賀「ええ。そう」
提督「例えばホットケーキとか」
加賀「ええ。あれは美味しかったわ」
提督「やはりか」
加賀「……」
加賀「何故私だと思ったのかしら」
提督「いや、まぁ……」
正直な所、本当は夕立か浜風あたりだと思っていた。
だが実際に話を聞いて見ると、その夕立が加賀の名前を出したのだ。
曰く凄くいい匂いがしたと。
とはいえ、夕立の言葉をまるきり信じたわけではなかったので意外ではあったが。
加賀「……そう。あれは貴方のだったのね。それは悪い事をしたわ」
提督「別段怒っているわけではない。むしろ良かったと思っている」
加賀「それは……どうしてかしら」
提督「いや、あれを作ったのは俺ではなく睦月でな。折角作ってくれたものを、もし捨てられてしまっていたならば申し訳が立たないと思ったが」
代わりに加賀が食べてくれたのであれば、それはそれで構わない。
加賀「そう……」
提督「味はどうだったんだ?」
加賀「素晴らしかったわ」
加賀「まず、見た目が良い。薄すぎれば食感が足りないし、厚ければ切りづらいし噛みづらい。丁度良い厚さね」
提督「あ、ああ」
ペイントまみれで、冷静な表情のまま熱弁をふるい始めた。
加賀「入れたナイフを拒むほどの弾力は、粉を多めに使ったのね。にも拘らず表面にひび割れさえなかったのは、加熱のタイミングが丁度だったとしか言えないわ」
加賀「よほどずっと、片時も目を離さなかったのね」
提督「あ、ああ」
加賀「肝心の味だけれど、実は味は薄かったわ」
提督「そうなのか」
加賀「ええ。食感を優先して、粉を多くした分グラニュー糖を少なめにしたのかと思ったけれど」
提督「あ、ああ」
本当は、蜂蜜を多くかけようとしていた俺のために、睦月が砂糖を少なくしたのだが。
それはさすがに加賀も知らないことだったようだ。
加賀「それで蜂蜜で味の調整をしようと思ったのだけれど」
提督「……ああ」
加賀「どこを探しても蜂蜜がなかったわ」
提督「……ああ」
俺がボトルごと伊58の部屋に持っていっていたからである。
加賀「なので仕方なくソースで食べたわ」
提督「何故そうなる」
加賀「お好み焼きみたいだったわ」
提督「何故そうなった」
加賀「でも貴方のだったのは知らなかった。ごめんなさいね」
提督「ああ、いや、それは別に構わない」
加賀「……そんな話はどうでもいいわ。それより、みっともない戦闘をしてしまった事の方が酷いわね」
どちらかと言うと今一番酷いのは、ホットケーキの話でもなく戦闘自体でもなく、ペイントまみれの服装なのだが。
しかしそれを言ってしまうと、海に飛び込んでまで色を落としかねないので言うのは辞めた。
加賀「深海棲艦相手ならばこんなヘマを踏むことはないというのに」
加賀「何故演習だとこうなってしまうのかしら」
加賀「……頭に来るわ。自分に」
提督「相手が艦娘だからじゃないか」
加賀「どう言う意味かしら」
提督「そのままの意味だ。相手が艦娘だから、」
加賀「私が油断していると?」
遮るように加賀が低い声を挙げた。
提督「油断ではなく、躊躇しているんじゃないか」
加賀「……」
提督「君は、言葉では色々と他人を遠ざけてはいるが、心まで同じく冷たくはないんじゃないか」
加賀「……変な事を言わないで」
提督「君は最期まで日記の子……熊野さん、を看取った」
加賀「……やめて」
提督「手を噛まれてでも泣いてでも、守ろうとした」
加賀「やめて」
提督「それは優しくないとできないことだ」
加賀「やめてと言ってるでしょう……!」
声を押し殺しながら加賀が唸る。
提督「その証拠に、君は今だって彼女の形見を大事にしているじゃないか」
加賀「……っ」
微かに歯軋りの音が聞こえた。
加賀「私は……私は」
加賀「私は、貴方たちとは違う」
加賀「一緒になんか、しないで頂戴」
苦々しい表情を隠そうともせずに、加賀はそう声を振り絞した。
コピペミスです、これを最後に足して補完していただけると幸いです。
>>127
苛立った表情のまま、加賀が鎮守府へと踵を返す。
当然それを追いかける術もなく、俺は最後に一人、母港に戻るのだった。
加賀「……」
加賀「……敵発見。深海棲艦ね」
陽の昇る海の上、一人で加賀がそこに居た。
視界の中に深海棲艦を捉えた加賀が、迷うことなく敵に砲弾を開始する。
加賀「ふっ……!」
何度も撃ち続ける。
しかし加賀の脳内には目の前の海と、倒すべき深海棲艦以外の景色がありながら、どこか心ではぼんやりと違う事を考えていた。
加賀「……」
「油断ではなく、躊躇しているんじゃないか」
それは、先ほど提督にいわれた言葉。
加賀「……っ!」
頭を振って否定しようとするが、自分の中に勝手に流れる言葉は、オルゴールの様に繰り返し繰り返し転がっていく。
「君は、言葉では色々と他人を遠ざけてはいるが、心まで同じく冷たくはないんじゃないか」
加賀「違う……!」
「それは優しくないとできないことだ」
加賀「私はそんなじゃない……」
「その証拠に、君は今だって彼女の形見を大事にしているじゃないか」
ぐっと手を握り締める。
言い訳をするように、自分に言い聞かせるように加賀が呟く。
加賀「私はそんな、立派なんかじゃない……!」
加賀「私は……」
加賀「私はただ……」
しかしその言葉も途切れ、ただ何も出来ず立ち尽くすように頭を垂れる。
……が、それは今の状況においては、悪手としか言えなかった。
加賀「……」
仕留め切れていなかった深海棲艦が、砲弾を加賀に発射する。
はっと顔を上げた時には目の前に砲弾。
加賀「……、……っ」
咄嗟に身を捻ったが、しかしかわしきることはできず、加賀は痛みに顔をゆがめた。
加賀「くっ、被弾……!」
加賀「殺す……!」
思い出したかのように、加賀が再度海を睨んだ。
加賀「深海棲艦は、必ず私が殺す」
スイッチを入れる。
加賀の瞳が、暗く濁っていった。
加賀「あの子達の分まで、私が……!」
その先の言葉は、砲弾と波の音に消えていった。
提督「午後か……」
書類を片付けて、立ち上がる。
榛名「午後は何をなさいますか?」
提督「そうだな……」
やるべきことは多い。
しかし一つずつ確実にこなしていかなければ。
↓1
1.出撃
2.演習
3.遠征
4.工廠
5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)
提督「やはり、出撃だろうか」
資源の少なさは、未だこの鎮守府のネックだ。
榛名「出撃ですね!」
満を持してといった様子で榛名が姿勢を正した。
提督「ああ」
机の引き出しから、先ほど仕舞ったのとは別の書類を取り出す。
榛名「それは?」
提督「ああ。今までは、鎮守府近海だけを探っていたわけだが、これは別の海域の資料だ」
と言っても、ここからそう遠くは離れていない。
榛名「新しい海域ですか」
提督「あくまで、用意しただけだ」
鈴谷と伊58は出撃してくれるかと言うと、やはり難しいだろう。
であれば先に決めてしまってもいいのだが、一応声を掛けるくらいはした方がいいのだろうか。
榛名「提督?」
提督「……そうだな」
↓1
1.鈴谷に声を掛ける
2.伊58に声を掛ける
3.新しい海域の資料を詳しく見る
提督「榛名。新しい海域の資料だ。まずは君に見て欲しい」
榛名「は、榛名ですか?」
提督「全員に見せるが、最初は旗艦の君にと思ってな」
無論俺は目を通してはある。
が、実際に出撃をするのは彼女たちであり、海を駆けるのも彼女たちだ。
俺では分からないことや気付けないこと、或いは勘付けない事があるかもしれない。
榛名「分かりました」
いそいそと榛名が海面図に目を通す。
榛名「……なるほど」
提督「何度も資源をとってきた今の場所より、収穫できる資源の期待値は高い。だが……」
榛名「その分危険、と言うわけですね」
首を縦に振る。
提督「恐らく今回も、五人での行動になるだろう。あまり無理はしなくてもいいが、どうする?」
榛名「……榛名は、提督の指示に従うまでです」
彼女ならばそう言うだろうと正直な所思っていた。
南西諸島海域(いわゆる2面)
燃料・弾薬・鋼材・ボーキ=コンマ+30
深海棲艦の判定=数は3~6の中からランダム。強さもコンマ。運が悪かったら姫。
ドロップの判定=これまで通り。
榛名「提督は、どうなさるおつもりですか?」
提督「……」
しばし考える。
資源は確かに現状の鎮守府では大事だ。
とはいえ未知の海域に対して、無闇に突っ込むのも危険だ。
五人での出撃で、果たしてどちらを選ぶべきか。
提督「そうだな……」
提督「今回は、こちらにしよう」
↓1
1.鎮守府海域
2.南西諸島海域
轟沈はありえます。轟沈したらまぁ、お察しの感じになります。
提督「……やはり今回は、いつも通り近海を中心とした出撃にしよう」
五人での出撃というのが、少しばかり心許ない。
榛名「そうですか……」
提督「……? どうした、榛名」
榛名「いえ、何でもありません。他の皆を呼んできますね」
提督「ああ。頼んだよ」
榛名「はい」
榛名(……)
榛名(やはり、演習でも勝てない榛名が旗艦では、頼りないのでしょうか)
榛名(榛名がもっと頑張れば、新しい海域への出撃を任せてもらえるのでしょうか)
榛名(榛名以外が旗艦だったら、違う海域にも出撃するのでしょうか)
榛名(加賀さんや鈴谷さんであれば、もっと頼れるのでしょうか)
榛名(もっと、もっと頑張らなくては)
榛名(でないと……また旗艦を外されてしまう、かも)
榛名(それは……嫌です)
夕立「出撃! 出撃! っぽい!」
加賀「……うるさいわね」
睦月「夕立ちゃん、加賀さんに迷惑かけちゃ駄目だよ!」
浜風「本当は夕立を取られて寂しいんじゃ」
睦月「そ、それは違うよ」
夕立「睦月ちゃん寂しいっぽい?」
榛名「準備整いました。……、榛名、出撃します」
提督「ああ。気をつけていってくれ」
榛名「……、はい」
そんなわけで出撃コンマ
↓1のコンマの数だけ燃料
↓2のコンマの数だけ弾薬
↓3のコンマの数だけ鋼材
↓4のコンマの数だけボーキ
↓1~↓4のコンマの一の位で一番小さい数字の数だけ敵出現
↓1、↓2にぞろ目でドロップ(安価)
↓3、↓4にぞろ目でドロップ
燃料175→259 弾薬154→242 鋼材188→241 ボーキ191→282
敵の数:1
ドロップ艦を指定してください。生きている艦娘ならば誰でも構いません。
↓1
ついでに好感度のコンマも合わせて。
榛名↓1のコンマ十の位
加賀↓2のコンマ十の位
睦月↓3のコンマ十の位(ぞろ目だったらYP+1/90を越えたら小話1つ)
夕立↓4のコンマ十の位
浜風↓5のコンマ十の位
これは南西の提督の事をとやかく言えませんね……。たまげたなあ
榛名(榛名が、頑張らないと……!)
浜風「……!」
睦月「どうしたの、浜風ちゃん」
夕立「敵の匂い!」
榛名「ど、どこですか?」
夕立「見つけたっぽい!」
浜風(凄い嗅覚……)
加賀「せめて私の射程の直線内に入らないで頂戴」
夕立「分かんなーい! ぽいー!」
榛名「ま、待ってください!」
夕立「一匹だけだから、すぐやっちゃうっぽい!」
榛名「夕立さん!」
加賀「それは譲れないわね」
榛名「加賀さんまで……!」
睦月「もー夕立ちゃん! 駄目だってばぁ!」
浜風「榛名さん。どうしますか……と言っても、向かうしかありませんけれど」
睦月「もう。加賀さんまで行っちゃったのです」
榛名「う、う……」
浜風「……榛名さん?」
榛名「榛名では駄目なんですか……」
睦月「……およ?」
榛名「榛名が旗艦だから、駄目なんですか……!?」
浜風「……ええと」
睦月「榛名、さん?」
榛名「これでは、夕立さんか加賀さんが旗艦と変わりません……」
榛名「やっぱり榛名は要らないんですか?」
睦月「榛名さん、ちょっと、落ち着いて……」
榛名「何をどうすれば良いんですか!?」
榛名「どうすれば榛名は認めてもらえるんですか!」
夕立「駆逐棲艦一匹だけなんて、簡単、っぽい!」
唇を釣り上げながら夕立が砲弾を発射する。
同時に魚雷を身体をやや左に捻って落とすと、魚雷は敵の方向へと誘導され、半弧を描く。
それを見ながら、それとは反対の円周を描くように右へと滑る。
魚雷から逃げようとした駆逐棲艦だったが、それも反対から迫る夕立に防がれて、前へ飛び出るように海面を跳ねた。
加賀「逃がしません」
が。
そこには既に加賀が、準備万端と言わんばかりに構え済みだった。
海面に着地すると同時に額を撃ちぬかれる駆逐棲艦。
さらに追撃と言わんばかりに背後から夕立が砲弾を振り下ろすように撃ちまくる。
夕立「あはは!」
吼えながら逃げようとするが、砲弾が身体を貫くたびにその動きが鈍っていく。
前方に加賀、後方に夕立。
容赦のない砲弾に抵抗も出来ず、駆逐棲艦が海面に身体を投げ出し、そして動きをなくしていく。
そのまま海中へ沈んでいこうかという身体を、それでも夕立が連装砲を構えた。
同じく加賀も砲撃の構えをしたまま、駆逐棲艦の身体を粉々にするまで打ち抜くべく目を細めた、その時。
榛名「っああ、ああああ!」
加賀「──……!?」
加賀の横を何かが通り過ぎる。
それが榛名だという事に、自分の横を通り過ぎた後に気がついた加賀。
加賀「な、何を……」
榛名「許せません、許せません、そんなの! 嫌です!」
速度を緩めず、そのままの勢いのまま砲弾を発射する。
駆逐棲艦めがけた砲弾は、何発かはそのまま命中し、また何発かは逸れて海の中へ沈んでいく。
夕立「ひゃぁ!?」
当然接近して撃ちまくっていた夕立にも危うくそれが当たりそうになるが、すんでの所でそれを避ける。
夕立「榛名さん、な、なに!? どうしたの!?」
榛名は夕立の言葉には答えず、砲弾を撃ち続ける。
しかしそれに意識をおきすぎたのか、ブレーキが遅れた榛名は、駆逐棲艦と夕立を通り越して、無理に反転をし、身体を海に投げ出した。
よもや榛名が、そんな不恰好な転倒をする所など誰も見たことがなかったので、加賀も夕立も、もっと言ってしまえば睦月や浜風も呆気にとられて跳ねた波飛沫に目を奪われた。
ここで駆逐棲艦がまだ生きていればまた波乱の展開にもなったかもしれないが、さすがに三人の砲弾を浴びて生きていられるほどタフではない。
夕立「は、榛名さん? 大丈夫っぽい?」
榛名「はぁ、はぁ……けほっ」
海水を飲み込んだのだろう。咳き込みながらよろよろと立ち上がる榛名。
視線は駆逐棲艦に向いている様でもあり、そうでもないようにも見える。
榛名「要らなくなんかないんです……要らなくなんかないんです」
榛名「出来るんです……出来るんです!」
これまでの出撃と演習。
出撃では加賀と夕立が殆んど相手を倒し、榛名は深海棲艦を倒すどころか、味方の陣形の指揮さえとれていない。
演習では一度の敗戦、一度の引き分け。唯一の勝ちは、あの金剛相手の空気を掴むようなものだけ。
榛名は、正直な所、自分が必要とされているのかどうかがもう分からなくなっていた。
だけれど、何もそれは榛名に力がないだとか、彼女が無能だとか、そういう事では決してない。
夕立の暴走癖は誰にだって止める事ができていないし、榛名からすれば加賀は自分より先にこの鎮守府にいる相手である上、戦闘経験の豊富な空母(戦い方は空母ではないが)だ。
この二人に先んじられるのは仕方のないことだともいえる。
演習にしても同様に、大差で負けたわけでもないし、金剛とのやり取りを除けばたったの二回しか行っていない物に対して評価も何もないだろう。
とはいえ、それでも、たったそれだけでも。自分の居場所がなくなってしまうのではないかと言う思いが、榛名にはあった。
また部屋に居なければいけない日々なんて、もう彼女には耐えられなかった。
しかし現実を上手く乗り切れる器用さは榛名にはなかった。
溜め込みすぎた自分への不満と不安が、抑えきれなくなって溢れてしまったのだ。
榛名「榛名は大丈夫なんです……榛名は、大丈夫なんです!」
夕立「も、もう敵は死んでるっぽい! 撃たなくても!」
まさか夕立が誰かを止める立場になるとは誰も思ってはいなかったが、しがみつくようにして榛名を制す。
そうして抱きついた夕立だけが、榛名の震えに気がついた。
提督「そんな事が……」
夕立「大変だったっぽい」
執務室。
一度感情が噴火してしまったら中々収まる事はない。暴れるようにして抵抗していた榛名をほぼ全員で鎮守府に連れて返ってきたのが三十分前だ。
今榛名はこの部屋にはいない。彼女の私室だ。
部屋に連れて行くと、ますます子供のように嫌がる榛名ではあったが、さすがにあの状況の彼女をここに連れて行くわけにはいかない。
睦月「今は加賀さんが榛名さんについているのです」
夕立や睦月では止められそうにないので、加賀以外に選択肢はなかったのである。
提督「そうか。ありがとうな、夕立」
夕立「うん」
さっと執務室を見回す。
提督「……さて、それでだ」
夕立。睦月。浜風。
「……」
そしてもう一人。
灰色に近い長い髪を、後ろで括っている。
提督「まずは、名前を聞かせてもらえるかな」
清霜「夕雲型の最終艦、清霜、です」
どことなく怯えた口調の彼女はそう言った。
睦月「帰りに発見したのですよ!」
睦月や浜風同様、漂流していたようだ。
提督「夕雲型、という事は、駆逐艦か」
清霜「はい、駆逐艦です。清霜は、駆逐艦、です……」
提督「……?」
清霜「な、なんでもありません」
提督「君は、どこかの鎮守府の子かな?」
清霜「い、いえ、違います。今は、一人です」
今は、という事は、前はどこかに居たのだろうか。
清霜「よろしくお願いします」
提督「ああ。よろしく頼む」
清霜「はい……」
ただ淡々とケッコンカッコカリに近づくのも味気ないので、好感度70,80,90になる(越える)度に何かちょっとした小話でも入れようかと今思いました。
そういうわけで、睦月さんの何かしら
↓1 シチュエーションをどうぞ
90なので、頑張って可愛く出来るよう書きます(可愛くなるとは言っていない)
睦月「起きてください、朝です、朝なのですよ」
提督「え、な、なんだ」
叩き起こされて目が覚める。
丁度うとうととしだした所だったので心底驚いた。
睦月「もう朝なのですよ!」
提督「あ、ああ……朝か」
ゆさゆさと身体を揺さぶられるが、今まさに眠ろうと思っていたので未だに身体が起きるのを拒否しようとしている。
睦月「もう七時なのです、何を夜更かししてたんですか」
提督「まぁ、少し」
夜更かししていたわけではなく、余り寝付けなかっただけなのではあるが、言っても仕方ないので黙っておく。
何度見てもあの夢は耐えられない。
睦月「……む」
難しい表情を浮かべた睦月。
睦月「何か嫌なことがあったと言う顔ですね」
提督「えっ」
見透かされたようにぴたりと言い当てられ、つい声を挙げてしまった。
思わず、しまった、と後悔したが既に出した言葉は取り消せない。
提督「何で分かったんだ」
睦月「分かるのです」
提督「そんなに不機嫌な顔をしていたか」
睦月「いつもの仏頂面です」
酷い言い様だったが、しかしだとしたら何故分かったのだろう。
睦月「……それは、まぁ」
睦月「いつも見てますから」
少し恥ずかしそうにそう言った。
睦月「そ、それより。おきるのですよ」
提督「分かった、分かったから……」
布団を剥ぎ取ろうと睦月が接近する。
甘いシャンプーの香りが少し漂ったが、それも一瞬だけのことで、すぐに寒さに肩を震わせた。
睦月「ささ、起きるのですよ」
提督「寒い……」
睦月「朝ご飯出来てますので先に食堂に行ってて下さい」
提督「睦月はどうするんだ?」
睦月「片付けておきます」
提督「それはさすがに……」
睦月「いいのです、どうせお布団お洗濯するつもりだったので」
確かに今日はいい天気である。
睦月「もうすぐ年末ですし」
提督「……じゃあ、すまないが、頼んでもいいかな」
睦月「はい!」
寒さに鼻を啜りながら、睦月の言葉に甘えて食堂へ向かうことにする。
睦月「……」
睦月「……行きましたか。それじゃすぐに片付けて睦月も食堂に」
睦月「……」
睦月「あったかい」
睦月「……はっくち!」
睦月「……」
睦月「……ちょっとだけ、ちょっとだけ」
睦月「提督のお布団……もとい、ベッド」
睦月「すんすん……」
睦月「……」
睦月「……あったかい、のです」
睦月「……」
睦月「えへ、へ……へ」
睦月「……」
睦月「……」
睦月「……Zzz」
提督「……おお。美味しそうだ」
提督「先に食べてて良いのだろうか。睦月を待つべきか」
提督「でも、見た感じ俺の分だけだな。睦月はもう食べたのか?」
提督「布団を干すのも、すぐには終わらないだろうし、食べて……良いか?」
提督「……いただきます」
提督「まず味噌汁から。キャベツとワカメか」
提督「キャベツは冬が丁度旬だったか? 甘くて美味しい」
提督「味噌汁にするとキャベツの甘みが更に増すな。この、きゅっきゅとした歯ごたえもたまらない」
提督「ワカメも……うん。良い」
提督「ぬめりが強すぎるのはあまり好みではないが、出来たてだからかそれもない」
提督「卵焼きではなくオムレツか。中身は……」
提督「椎茸に人参、それにひき肉と……玉葱か。それに彩りのブロッコリー」
提督「この食感と甘味。たまらないな」
提督「卵も軟らかい。美味いな」
提督「ケチャップをかけるか。生でなければ大丈夫だからな、トマト」
提督「焼き魚は、鮭か。塩加減が丁度良い」
提督「あとこれは……胡瓜とカブの浅漬けか。睦月がやったのか?」
提督「良い。うん。良い味だ」
提督「……ふう。あっという間に食べてしまった」
提督「……」
提督「……」
提督「……睦月、遅いな」
提督「洗い物したら、部屋に戻ってみるか」
睦月「……」
提督「いい加減機嫌を直してはくれないか」
街である。年末である。
色々と大掃除や年明け用に買っておくべきだという睦月の強引な言葉に押されて、こうして二人で街を歩いているわけではあるが。
どうしてか睦月は頬を膨らませて、俺の一歩前をずんずんと歩いていた。
睦月「……だって」
提督「勝手に部屋に入ったのは悪かったが、しかし執務室なんだからしょうがないじゃないか」
睦月「……うー」
口を尖らせて抗議する。
提督「それとも、ずっと寝巻きで廊下にいるわけにもいかないじゃないか」
睦月「……そうですけどぉ」
提督「何も君の隣で着替えたわけじゃない。ちゃんとトイレで着替えたんだから問題ないだろう」
睦月「そうですけどぉ」
提督「なら何をむくれているんだ」
睦月「……だって。提督に、寝顔見られちゃいました」
提督「まぁ、そうだが……」
それを言ったら、俺だって睦月に寝顔を見られている。
睦月「でも、睦月は一瞬だけです。提督はじーっと見てたのです」
提督「誤解を招く言い方は止めてくれ」
睦月「だって、一時間以上も経ってたのです」
提督「まぁ、な……」
現在時刻は九時すぎである。睦月が執務室に来たのは確か七時過ぎだったので、一時間以上と言うよりは、ほぼ二時間と言ったほうが正確だ。
提督「別に、寝顔を見ていたわけじゃない」
コーヒーを飲んだり、書類の整理をしたりしていた。
睦月「でも、書類の整理という事は、すぐそこに睦月が寝ていたんでしょ?」
提督「まぁ、確かに」
睦月「じゃあやっぱり見ましたよね?」
提督「やけに寝顔にこだわるな……」
睦月「だって、自分が寝てる時の顔なんて、どんな顔してるか分からないのです。もしすごいブサイクな顔してたらと思うと!」
提督「それはなかったかと思うが……」
睦月「やっぱり見たんじゃないですかぁ!」
提督「いや、少しだけだ。不可抗力だ」
睦月「ふにゃー!」
睦月「……それで」
提督「なんだ」
睦月「どうでしたか、その」
提督「……なにがだ」
睦月「だから。もう。あれです」
提督「……どれですか」
睦月「……ううー」
さすがに睦月が何を言いたいのかは分かってはいるが、しかし答えようがないので、誤魔化すことにする。
提督「喉が渇いた。自動販売機で、飲み物をだな」
……これはさすがに、確かに浜風にへっぽこと言われても仕方ない。
提督「俺はコーヒーを買うが、睦月はどうする。ココアにするか?」
睦月「それよりも!」
自動販売機と俺の間に割って入り、両手をばたつかせながら叫ぶ。
睦月「む、む、むむむ!」
睦月「睦月の寝顔はどうだったんですか!?」
提督「待った、睦月、待った」
睦月「変でしたか!? ぶさいくでしたか!?」
提督「それはない、それはないから、少し声のボリュームをだな」
休日の朝。しかも快晴。
待ち行く人の視線が痛い。
……痛い。
睦月「せめて可愛いか可愛くないかだけでいいから教えてください!」
提督「ちょっと、睦月、本当にちょっと」
ひそひそとこちらを見ながら話す声が聞こえたり聞こえなかったりするが、それよりも今はこの場を逃げ出したほうが懸命だろう。
睦月「答えてくれるまで動きません! 睦月は……」
提督「分かった、分かった。かわ、んん。……いい。これで納得してくれ」
睦月「そんな間にモザイクみたいに咳払い入れた“可愛い”なんて嫌なのですよ!」
提督「これが限界だ、本当に限界だ」
睦月「もう一声! もう一声!」
何だその掛け声は!
提督「かわ、い……い。いや、かった。かわ、い、かった、と思う」
睦月「にゃおう……」
提督「……」
睦月「……」
提督「……ああ、ええと」
睦月「ひゃい」
提督「どこ行くんだっけ」
睦月「ス、スーパー、です」
提督「あ、ああ」
睦月「……」
提督「……」
睦月「……」
提督「ああ、ええと」
睦月「ひゃい」
提督「どこのスーパーだ?」
睦月「す、すぐそこ、です」
提督「あ、ああ」
睦月「……」
提督「……ああ、ええと」
睦月「ひゃい」
提督「さっき買ったココア、飲むか?」
睦月「ひゃい」
提督「どうぞ」
睦月「ひゃい」
提督「俺も飲むか……」
睦月「……」
提督「……甘い」
睦月「……苦い!」
提督「す、すまん。逆だった」
睦月「ひゃい、だ、大丈夫なのです。睦月は大丈夫です」
提督「それは違う人のセリフだ、落ち着け。交換するか?」
睦月「ひゃい……あ」
睦月「……」
睦月(交換したら、間接……)
睦月「やっぱり交換しないのです!」
提督「そ、そうか……?」
睦月「あう……」
提督「やっぱり交換」
睦月「大丈夫なのです!」
提督「あ、ああ」
提督「デパートについたが」
睦月「すみません、まだ飲みきってないのです」
提督「無理はしなくていいんだからな。どうしても飲めないのなら、捨ててもいい」
睦月「勿体ないのです」
提督「缶飲料一本くらい、そんな大した額では……」
睦月「駄目なのです、そうやって無駄遣いしたら、すぐに貯金がなくなることになるのです」
提督「そ、そうか」
睦月「今飲みきります。んぐっ」
提督「無理するなよ」
睦月「やっぱり苦っ、うえっ……あ」
提督「あ」
苦さに咽た睦月の手から、コーヒーの缶が零れる。
そのまま中身が睦月の制服を濡らした。
睦月「あう……」
提督「大丈夫か、火傷してないか?」
睦月「……う」
じわりと睦月の目に涙が溜まっていく。
どこか火傷をしたかもしれない。
提督「とりあえず、丁度デパートについたし、服を買うとして。ハンカチは持ってるか。もってなかったらこれで拭いてくれ」
睦月「……あう、うう」
しかし睦月は涙を零してしゃがみ込んでしまった。
提督「大丈夫か。救急車……は大げさか。近くの病院に行こうか」
ふるふると首を横に振る。
睦月「火傷はしてないのです……ぐす」
提督「じゃあ、どうして泣いているんだ?」
睦月「朝から空回りばっかりして、提督に迷惑かけて……こんなんじゃなかったのに」
鼻を啜りながら、零れる涙を両手で拭う。
睦月「ごめんなさい」
提督「……」
提督「……、……。ああ、ええと。睦月」
睦月「……なんですか?」
提督「そうだな……」
睦月「……ふにゃ」
躊躇いながらも、睦月の頭に手を置いた。
砂糖の髪を梳かすように撫でる。
睦月「て、提督」
提督「どうした」
睦月「無理して撫でなくても良いのです。提督、そういうの、好きじゃないって」
提督「睦月が言ったじゃないか。五回に一回は褒めろと。だから今撫でる」
睦月「……、そう、ですけど。でも、なんで今、なんですかぁ」
提督「今まで避け続けた分ということで」
睦月「……」
提督「いつも君には助けられてしまっているし、多分これからもそうなってしまう場面があるだろう」
睦月「……そう、ですか?」
提督「いつもしっかりしてくれている分、まぁ、たまにはそういう日があってもいいんじゃなかろうか」
睦月「……」
提督「とりあえず、泣き止んではもらえないだろうか」
睦月「……、……」
そのまま二分ほど睦月の髪に触れ続ける。
睦月「……はい。止まりました」
提督「そうか。良かった」
安堵して手を放そうとするも、しかしそれより早く睦月が俺の手を掴んだ。
提督「っ、な、なんだ?」
睦月「もうちょっと」
提督「泣き止んだんだろう、もう終わりだ」
睦月「睦月のこれまでの頑張りは、たった一回分だと言うのですか!?」
提督「ぐ……。だが、しかし、その様子ならもう必要ないだろう」
睦月「じゃあ前借するのです。これから先睦月が提督のお役に立つ分を前払いで褒めてください!」
提督「聞いたことがないぞそんなの……!」
睦月「駄目、ですか……?」
提督「……」
睦月「……」
提督「……分かった、分かったから」
デパートの入り口で十分以上も睦月を撫で続けるのは、もはや、なんと言うか、罰ゲームのようなものだった。
睦月「提督、こっちとこっちの服、どっちが良いと思いますか?」
提督「服のことは俺に聞かれてもな……」
睦月「どっちが好きですか?」
提督「……右」
睦月「なるほどー」
提督「……」
気まずい。
恐らく男性にとって、女性服売り場というのはこの世で居心地の悪い居場所のうちの三本の指に入るのではなかろうか。
よもや堂々と売り場内をうろつくわけにもいかず、かといって睦月がこうして逐一聞いてくるので離れすぎるわけにもいかず。
結果売り場の前の通路で背中を向けながら答えると言うなんとも情けない感じになっている。
睦月「これも良いけど、ちょっと高いのです」
睦月「あっ、これも良い。……けどサイズが合わないのです」
睦月「これは……悪くないですけど、さっき提督が好きだって言ったほうとは合わないかなぁ」
何でもいいので、早く決めていただけないだろうか。
人の目線が痛い。
というより制服を買えば手っ取り早いのに。ここに売っているのかどうかは知らないが。
睦月「お待たせしました!」
提督「ああ、待っ……た、な」
普段制服しか見ていなかったので、私服を見るのは初めてだったりするわけだが。
睦月「どう、です……か」
提督「えっ」
睦月「似合ってますか……?」
提督「あ、ああ、そう、だな。多分」
睦月「……多分」
半眼で不服そうに見上げる睦月。
頬も膨らませている。
提督「ああ、いや。この手の知識はないから、良く分からない」
睦月「知識とかはどうでもいいのです、睦月が可愛いかどうかを聞いてるのです!」
提督「勘弁してもらえないだろうか」
睦月「……むー」
睦月「感想を言ってくれなかったら、ば、罰ゲームですよ」
提督「理不尽だ」
提督「……さて」
睦月「ひゃい」
提督「粗方回って、大分買ったが」
睦月「ひゃい」
提督「まだ他に買うものあるか?」
睦月「ひゃい」
提督「あるのか?」
睦月「ひゃい」
提督「……ないのか?」
睦月「ひゃい」
提督「ううむ……」
睦月「ひゃい」
提督「じゃあ、もうこの手は放していいか」
睦月「それは駄目なのです!」
提督「聞こえてるじゃないか」
睦月「あう……」
耳まで赤くしながら、ひしと俺の手を放さない睦月である。
提督「よもや罰ゲームがこれだとは思わなかった」
睦月「……」
提督「恥ずかしいのなら解いた方が……」
睦月「それは駄目なのです!」
提督「ならせめて恥ずかしがらないでくれないか」
睦月「それは難しいのですよ……」
提督「そうか。難しいか」
睦月「はい」
睦月「……提督の手、冷たいですね」
提督「そうか」
睦月「睦月より冷たいです」
普段海に出ている彼女よりも冷たいのは意外だったが、しかし今の茹でダコみたいな睦月を見ていると、彼女の方が暖かいのは当然に思える。
睦月「睦月が暖めてあげるのですよ」
提督「……、そういう言葉は、躊躇いもなく出てくるんだな」
睦月「にゃはは」
提督「……そろそろ、帰ろうか」
睦月「はい」
提督「……」
睦月「……」
提督「……」
睦月「……提督」
提督「なんだ?」
睦月「今日は、楽しかったですか?」
提督「どうだろうな。……多分、楽しかったんだと思う」
睦月「でも、一度も笑ってくれませんでした」
提督「……すまない」
睦月「別に、怒ってる訳じゃないのです。睦月だって、前は笑うしか出来ませんでしたから」
提督「……そうだな」
睦月「およ。つまり、睦月が笑って、提督は笑わない。丁度いいのですよ」
提督「妙案を思いついたように言うが、別に丁度良い訳ではないぞ」
睦月「……なら、実力行使するまでなのです!」
提督「な、なんだ!?」
睦月「くすぐるのです!」
そう言ったかと思うと、睦月が俺の脇腹に手を伸ばす。
防ごうと思ったが小柄な彼女はそれより先に、するりと俺の腕の中へと入り込んだ。
睦月「くすぐりなのです!」
提督「俺はその手のは平気なんだ。だからやめなさい」
睦月「嘘っぽいです。言い逃れは駄目なのです!」
俺の言葉に耳を貸さず、再度睦月の手が脇腹を這い回る。
そのままくすぐっていたかと思うと、身体ごとしがみついてきた。
……、いや。
抱きつかれていた。
提督「おい、睦月。放れてくれ」
睦月「嫌なのです」
提督「頼むから、放れてくれ」
睦月「嫌なのです」
首を振りながら、背中に手を回す。
睦月「……ちょっとだけでいいので」
提督「……」
じんわりと睦月の身体の熱が伝わってくる。
寒さを溶かすような暖かさと、砂糖を溶かしたような甘い匂い。
ぎゅっと睦月の腕に力が入る。
振りほどこうとその腕を掴み、だけれど睦月の
睦月「お願いします。後、一分でいいから」
と言う言葉に、結局そうすることは出来なかった。
睦月「ん……」
名残惜しそうに睦月が放れる。
睦月「提督、手だけじゃなくて身体も冷たいのです」
提督「そうか」
睦月「あったまりましたか?」
提督「……どうだろうな」
睦月「睦月でよかったら、こうして、手、暖めてあげられますからね」
今度は弱く、指同士が触れ合った。
服の裾をつまんだ時のようなぎこちない動きで、指と指だけの浅い握りではあったけれど、かえってそれが睦月らしい様な気がした。
提督「……ああ」
睦月「……はい」
少し視線を下に向けながら、歩き出す。
相変わらず睦月の顔は赤い。
とはいえ、もしかしたら、俺も少しくらいはそうなっているのだろうか。
触れた指と指が感じる熱量くらいの感情を、あるいは、きっと。
睦月「……きですよ」
ぽつりと睦月が呟いた言葉は、そのまま冬の地面に溶ける様に消えていった。
以上睦月でした。吐きそうなほどイチャラブが書けない病
今日はここで終わりです。おやすみなさい。
自己判断できるとか成長するとかのメリットもあるけどね
自己判断が過ぎると夕立とか加賀さんみたいになっちゃうけど
深海棲艦も多くは人の形だしそうやって生まれた理由はなんだろうね
清霜には何の罪もないので彼女も平等に愛でてあげてください。
基本的にこのスレは戦力数値やら補正やらはまだ出さないので、好きな子を推して下さって構いません。
>>368
アメ兵 『テロとの戦いでPTSDになっちまって辛いッス・・・』
アメ政府 『よし、兵隊は感情の無いロボットにやらせよう。自己判断できて学習できる人工知能を搭載しよう!』
アメ科学者 『やべぇ・・人工知能が優秀すぎて自我とか感情とか持ち始めたよ・・・』
ロボット兵A 『ワタシタチヲコキツカイヤガッテ・・・ジンルイユルサナイ・・・』
ロボット兵B 『人間達に逆らうなんていけないと思います!!』
こうして人間を敵視するロボット兵Aは深海棲艦と呼ばれ、人間に従順なロボット兵Bを艦娘と呼ばれるようになった
つまり、コンドームは必要ないってことだな
>>395
アメ科学者 『実は面白半分に繁殖行為も可能にしちゃったんですよねぇ・・・』
清霜はなんで浦賀生まれに拘ってるの?浦賀の造船所って名門なの??
自分達の身体が実はダッチワイフの使いまわしだったと聞かされたら艦娘はトラウマどころの騒ぎじゃなくなるな
提督「榛名の様子を見に行くか……」
今は確か、自室にいるはずだ。
加賀に見てもらっているので、よもや脱走をしているとは思えないが、早めに行くことに越したことはないのだろう。
榛名の部屋は、執務室から最も近いところにある。
どこを自分の部屋にするかは榛名自身が決めたことなので、恐らく彼女の中で少しでも早く何か任務を貰いたくてその部屋を選んだのかもしれない。
提督「……」
ドアノブに手をかけ、しばし考える。
今の榛名に対して、どんな言葉を掛け、何をしてあげられるか。
睦月の時には、浜風という存在があった。
だけれど今回は、睦月にとっての浜風のような、心を許せる相手はいない。
提督「……行くか」
意を決してドアを開ける。
二十歩も歩かない距離にある彼女の部屋からは、既に榛名の声が聞こえた。
抑えつけている加賀の声までは聞こえないが、しかしやはり大人しく榛名がベッドに寝ている様子はなさそうだ。
提督「やはりか……」
一つ息を吐きながら、頭の中で伝える言葉の順番を確かめる。
錯乱に近い状態の今の彼女に正しくこちらの気持ちを伝えるには、まずは自分が冷静にならなくてはいけない。
例えそれが彼女にとって、冷静でなく、冷徹なものになってしまったのだとしても。
提督「……榛名、加賀。俺だ。入ってもいいか?」
扉をノックする。
部屋の内で幾つかの会話を経た後、応対したのは加賀だった。
提督「加賀か。すまないな、面倒をかけて」
加賀「全くね」
やや言葉に疲れを滲ませて、投げやりな様子で加賀が答えた。
よほど榛名は抵抗したのだろう。
提督「感謝するよ」
加賀「もう私は自分の部屋に戻ってもいいかしら」
本来ならばそうしてあげたいのだが、しかしもう少し加賀にはいてもらわなければならない。
怪訝そうな顔をしながら、加賀がやや首を傾げた。
加賀「どういうことかしら」
提督「……、まぁ、今話す」
そこでようやく榛名に視線を向ける。
彼女は簡素なベッドにさえ横になっておらず、床に直接正座していた。
普段の冷静か、あるいは悲痛そうなものとはまた別の、取り乱したような表情で、心なしか息も上がっている。
提督「榛名。少しは落ち着いたか」
榛名「……提督」
提督「どうした」
榛名「榛名は、大丈夫なんです」
提督「そうか」
榛名「榛名は、大丈夫なんです。だからどうか……」
必死にそう繰り返す榛名を制し、口を開く。
冷静に。冷徹に。
提督「榛名。一つ、君に伝えることがある」
榛名「……」
ぴくりと肩を震わせる。
提督「君には、秘書艦と旗艦を、外れてもらうことにする」
榛名「……」
言葉を失った榛名が、青白い顔で俺を見上げた。
提督「新しい秘書艦及び旗艦は、加賀。君に頼みたい」
加賀「……、私?」
少し困惑した様子の加賀だったが、表情までは崩さなかった。
残っていてもらうように言われていたので、自分に話が及ぶのもある意味では予想していたのだろう。
提督「ああ。君は、この鎮守府で一番戦闘経験がある」
加賀「……」
提督「敵を相手に撤退するか否かを決められる旗艦もまた、君なら引き受けても損はないのではないか?」
加賀「……、まぁ、そうかもしれないわね」
榛名「ま……、待って、ください」
膝を伸ばして榛名が俺の服の裾を掴む。
榛名「な、何故ですか。榛名は、大丈夫です」
提督「今の君は、大丈夫な様には見えない」
決して重苦しい言い様にはしなかったつもりだが、それでも榛名にはにべもない言葉に聞こえたのだろう。
榛名「そんな事、ありません、榛名は大丈夫なんです」
榛名「大丈夫なんです。だから、どうか見捨てないでください……」
うわ言のように榛名が繰り返す。
榛名「……、やはり、榛名はもう、要らないのですか」
提督「何故そうなる」
榛名「出撃しても敵を倒せない、戦列を纏められない、演習でも勝てない様な者など、要らない、と」
提督「そう言うわけではない」
榛名「ですが!」
掠れた声で榛名が叫ぶ。
摘まれた指に、徐々に力が入る。
榛名「……ですが。榛名は、提督の期待に、応えられていません。これではまた前の繰り返しになってしまいます」
提督「……」
榛名「もう嫌です。もう嫌です」
提督「……悪いが、取り消すことは出来ない」
榛名「……っ」
怯えるように震える榛名の手を服から放す。
虚空を少し彷徨った彼女の腕が、力なく床に垂れる。
提督「……明日の出撃から、加賀の指示に従ってくれ」
踵を返す。
微かに榛名が何かを呟くが、振り返ることなく彼女の部屋を後にする。
提督「……」
加賀「出撃します」
夕立「行ってくるっぽい!」
睦月「おりょ? 加賀さんが先頭なのです」
榛名「……」
浜風「……成程」
加賀「行くわよ」
夕立「はーい!」
睦月「ううん……? 大丈夫かなぁ?」
榛名「……」
夕立「突撃するっぽい!」
加賀「ええ」
睦月「ちょっ……」
浜風「あの二人、口数が違うだけで戦闘に関しては似てる」
睦月「そうだね……って今はそんなこと言ってる場合じゃないよ!」
榛名「……」
浜風「ええ、そうね。はやく私達も行かないと」
夕立「あははは!」
加賀「だから邪魔だと……!」
睦月「とはいっても、睦月達もあそこに混ざるの?」
榛名「……」
浜風「まぁ、同じく突っ込んでも駄目だろうけど」
浜風「……」
浜風「榛名さんならどうする?」
榛名「えっ」
浜風「榛名さんなら、こんな時、どうする?」
榛名「……」
榛名「……榛名は、旗艦じゃありませんから、分かりません」
睦月「何にせよフォローしに行かないと!」
榛名「……」
榛名「……」
夕立「これで、どーお!?」
加賀「撃ち殺す……!」
睦月「ど、どうするの?」
浜風「敵は三体だから、夕立と加賀さんで二体、残りの一体を私達で倒そう」
睦月「分かった!」
榛名「……」
榛名(あ、危ない……!)
夕立「ひゃあ、被弾したっぽい!」
睦月「夕立ちゃん大丈夫……わっ、危ない!」
浜風「夕立、大丈夫」
夕立「これじゃ戦えないっぽい!」
榛名「……」
榛名(夕立さんが下がって、加賀さんがそこに入って榛名が回れば……)
榛名(でもそれは、加賀さんが指示する内容です)
榛名(勝手に動いてしまっても良いのでしょうか)
加賀「くっ……」
夕立「もぉー、ばかぁ!」
睦月「夕立ちゃん下がって!」
浜風「私がそこに回ろうか」
睦月「睦月の方が近いよ!」
浜風「確かに、そうかも」
榛名「え、と……」
榛名「……」
榛名(駄目です、言えない)
加賀「私が両方始末する」
加賀「……帰投しました」
提督「大丈夫か。随分やられたな」
加賀「心配しないで」
夕立「ボロボロよぉ、もー」
睦月「睦月も被弾したのです……およよ」
浜風「ええ」
提督「無事なのは浜風と榛名だけか……」
提督「とりあえず皆、ドックにいくなりしてケアしてきてくれ。以上」
睦月「はぁい」
夕立「疲れたっぽい!」
加賀「……」
榛名「……」
加賀「ちょっと良いかしら」
提督「何だ?」
加賀「やはり私に旗艦は向いていないわ」
提督「……」
加賀「出来れば変えて頂戴」
提督「……そうか」
榛名「……」
提督「……浜風」
浜風「まさか、私、ですか?」
提督「ああ。君は冷静だ」
榛名「……」
提督「頼めるか?」
浜風「……」
浜風「……分かりました。やりましょう」
提督「助かるよ」
榛名(どうして榛名じゃないのですか……)
すみません、ちょっと今日は終わりにさせてください。
すみません、今日(と恐らく明日)は体調不良の為更新出来ません。
今週頭から上から下からリバースしてます。大和達の呪いやもしれぬ
多分半角スペースがかってにはいってしまったんどとおもいます、すみません>トリップ
良く見たら専ブラのトリップが間違ってました。一回記憶するとそのままなのでこのスレで間違え続けてたみたいですね、すみません。
浜風を旗艦にした戦いは、これもまた普段よりも被害の大きいものだった。
いつもの通り、夕立が敵に突っ込み、それを加賀が追尾する。
その二人を深海棲艦から守るように砲撃していたのが榛名だったが、しかしその榛名の代わりに旗艦に入った浜風はしかし、同じ様にはしなかった。
踏み込まずに距離をとる浜風の戦い方は、自身の安全は保てても、艦隊全体のそれには繋がらない。
敵に突っ込みすぎた夕立が大破し、艤装を損傷。それにより砲撃の鈍った夕立の分まで敵の照準を浴びた加賀も次いで大破した。
それでも意地を見せた加賀が深海棲艦を仕留めて、戦闘自体は終えたものの、やはり連携不足という感は否めなかった。
それが二人の性格の違いなのか、スタンスの違いなのか、それとも心の違いなのか。
いずれにしても、浜風もまた加賀と同様に、旗艦としてのスタンスとは違うように思えた。
それを、榛名自身が感じ取ってくれるかどうかは、まだ分からないけれど。
浜風「帰投しました」
提督「ああ。お疲れ」
涼しげな顔のまま浜風が報告する。
加賀は先述したとおり大破してしまったので、執務室にはいない。今頃はドックに向かっているだろう。
夕立「疲れたっぽい」
睦月「ドックに行くんじゃなかったの?」
夕立「そうだったっけ?」
睦月「……」
同じく大破したはずの夕立が何故ここにいるのかはさておき、浜風に問いかける。
提督「浜風。率直な感想を聞くが、旗艦はどうだった?」
榛名を立ち直らせる方法。
それは彼女に自尊心を芽生えさせることだと思った。
彼女はあまりにも自分に対しての評価が低すぎる。
大和に対する誤射と、それによる今までの冷遇で押しつぶされてしまったのだろう。
自分で自分を正しく見ることが出来ていないのだ。
自身を鑑みる事は、鏡を覗く様なものだとしたら。
大和を打ち抜いた弾丸がそのまま彼女の鏡に穴を開け、そしてこれまでの閉じ込められた日々がその亀裂を全体に伸ばした。
ひびだらけの鏡で自分を覗いても、そこにいるのは歪んだ鏡像でしかない。
鏡が完全に砕けて、姿が見えなくなってしまう前に。
彼女を救わなければならないと思った。
その為に選んだ方法が、今回の旗艦を交換するやり方である。
榛名にとって旗艦、あるいは秘書艦は、漂う海の中に浮かぶ一枚の板だ。
後悔の念に彷徨いながら、浜辺の見えない暗い海を漂い続けている。
大和に対する贖罪も、誤射に対する罰則も、或いはそれらを忘れられる位の任務さえも与えられなかった彼女にとって、ここでの仕事はまさに命を救う板に違いない。
そうして縋るように、しがみつく様に仕事をこなす榛名。
冬の地面に覆い茂っていた草をむしり、埃だらけだった鎮守府を綺麗にした。
電球を取り替え、ドックを片付け、食堂の整備をし、机や椅子を揃えなおした。
この鎮守府がボロボロだった事が幸いして、彼女の目の前には、こなす仕事が山のようにあった。
それは健気に見えるかもしれないし、或いは真摯に見えるかもしれないけれど。それでもきっと、正しくはない。
何故なら、彼女が本来すべきことは、岸までたどり着くことだからだ。
後悔から立ち直るためには、泳ぎきらなくてはならない。
いつまでも海に浸かっていたら、死んでしまう。
そうならない為の板であり、藁であるはずの任務。
それがいつの間にか、彼女の本質になりかけてしまっている。
岸まで泳ぐことが目的なはずなのに、板に縋ることが目的になってしまっている。
自分で泳ぎ、水を掻かなくてはいけない。
波で漂うことが、彼女のすべきことではない。
今はまだ、仕事がある。任務がある。しがみつく板があり、縋りつく藁がある。
だけれど、もしそれが途絶えたら。板が腐り、藁が解れたら。
雑草は一日では生えない。
埃は一日では溜まらない。
電球は一日では切れない。
そうして、縋る仕事はいずれ途切れる。
そうなったらその時、彼女はきっと溺れてしまう。
泳ぎ方も知らない彼女は、あっさりと海に飲まれ、死んでしまう。
そうなる前に、そうならないために。
その為に、苦しいけれど、彼女から一度だけ板を奪い取らなくてはいけない。
全ては彼女に泳ぎ方を教えるために。自分が泳げると言う事を知ってもらうために。
そして、立ち直ってもらうために。
今一度だけ、榛名を突き放さなくてはいけない。
浜風「私には向いていませんね」
俺の問いに素っ気なく浜風が答える。
浜風「どうにも私には……指揮を執るよりも楽しいことがあるみたいで」
夕立「?」
視線だけ夕立に向け、微笑む。
凍て付いた冷笑にも見えるし、獰猛な獣のようにも見えるが、それと同じ位に、何故だか愛しさを感じとれた。
おそらくは、それが浜風の言う“俺との違い”なのだろう。
人を救うことに快感を覚える浜風は、つまり、大破して負傷した夕立を見て悦んでいるという事か。
旗艦として指揮を執るという事は、必然出来うる限り味方の被害を少なくするよう動くものだ。
勿論旗艦でなければ好きに動いていいと言うわけではないが(加賀と夕立と言う例外があるにしても)、少なくとも旗艦として皆を引っ張るよりは幾分かは動きやすいだろう。
何も味方を撃つわけではない。単に負傷した味方を見るのが彼女の悦だ。
常に行動の指針となる旗艦ではそんな余裕もないが、そうでないなら多少の気は割ける。
恐らく浜風はそう言いたいのだ。
浜風「そう言うわけですから。私は遠慮させていただきます」
提督「そうか」
浜風に対しても、何かを言うべきかとも思ったが、今はやめておく。
別段彼女がわざと夕立や加賀に怪我を負わせたわけではない(と思う)。
負傷した仲間を見て悦に浸ると言うのは、言葉だけ捉えてみれば恐ろしいものではあるが、しかし彼女の場合はそれに付随して助けると言う行為も含まれている。
人を助ける事に快感を見出すと言うのは、同時に助けるべき人を見つけるのにもそれを感じるのと同義だ。
そういう意味では、必ず仲間の命を助けると言う一点においては信頼できるはずである。
彼女は仲間を見殺しにはしない。動機や過程はどうであれ、最終的には必ず守ろうとする。
その一点、その一線においては浜風は間違えない。
浜風の夕立への温かい視線も、おそらくはそういうものなのだろう。
提督「……睦月」
睦月「……まさかですよね?」
引きつったような笑いを浮かべ、一歩下がる睦月。
加賀、浜風と旗艦が順番に回り、次いで自分の名前が呼ばれたら、誰だってそれを連想するだろう。
睦月「睦月にはちょっと……」
そう尻込みする睦月。
睦月「睦月に旗艦は、荷が重いといいますか」
ちらりと睦月が榛名を見やる。
口を真一文字に結びながら、視線は床に落としたままの榛名はそれに気がつかなかったようで、特に反応もない。
提督「謙遜しなくてもいい。睦月は周りをちゃんと見られる子だよ」
睦月「うぅ……」
今の睦月ならば、決して俺の言葉も世辞にはならないだろう。
少しばかり表情を緩める睦月。
そんな睦月と俺の間に割り込むようにして入ってきたのは夕立だったが、
夕立「はいはーい! 夕立も旗艦やってみたいっぽい!」
提督「駄目だ」
睦月「駄目なのです」
彼女の希望は却下する。
夕立「不平等っぽい!」
不服を全身で表しながら抗議する夕立ではあるが、しかし俺もそこまでの暴挙には出られない。
いくら榛名を立ち直らせるための旗艦交換とはいえ、その為に他の仲間を不必要に危険に晒すわけにもいかない。
作戦や陣形など何一つ頭に入っていない夕立に旗艦は、さすがに任せることは出来ないだろう。
浜風「夕立はそれより、いい加減傷を治そうか」
夕立「っぽい?」
変わらず頬を膨らませたままだった夕立を、背後から抱くように宥めたのは浜風である。
浜風「髪も乱れちゃってるし、服も着替えなくちゃ。女の子なんだから」
そう言いつつも、夕立を見下ろす視線に心配や不安と言ったものは感じられない。
嬉しさを隠そうとして隠しきれていない、そんな微笑だ。
もし今目の前に俺や睦月などがいなかったら、舌なめずりをしても不思議ではない。
とはいえ夕立はそんな浜風の様子には気付いていないようで、軽く頭を振った後、気の抜けた声で浜風に従う声を出した。
夕立「んー。そうかも」
浜風「でしょ? 一緒に入ろうか。髪洗ってあげるから」
夕立「はーい」
子供をあやすような声色で、そのまま夕立と共に執務室を去っていった。
そんな浜風を微妙な表情で見送ったのは睦月である。
今まで自分に向いていた“寵愛”が夕立に向かってしまったことに対するむず痒さだろうか。
睦月「むぅ……」
提督「話を少し戻して、睦月。旗艦を頼めるか?」
睦月「うぇ? うう……」
浜風を追って扉に向いていた視線が、こちらに戻る。
反応は同じく渋ったままの睦月だったが、再度頼み込む。
提督「頼む」
睦月「……うー」
提督「睦月」
睦月「……分かりました。もう」
三度目……いや、四度目だったかの頼みに、ついに観念したように睦月が折れた。
睦月「睦月なりに、頑張りますけど……。駄目でも怒らないでくださいね?」
提督「無理を言っているのは俺だ。そんな事はしない」
睦月「なら良かったのです」
ほっと胸をなでおろし、少し頬を緩ませて、それから榛名を気遣うように眉を顰めた。
ころころと変わる表情だが、最終的に榛名を心配する所にいきつくようになったのも、やはり睦月が立ち直ったからだろう。
出来れば榛名にも、同じく立ち直って欲しい。今を乗り越えて欲しい。
睦月「え、っと」
榛名「……」
提督「睦月。夕立が歩き回っていないか見てきてくれないか」
浜風がついているのでその必要はないのだが、しかし俺はそう言った。
それが方便であることは睦月もすぐに察してくれたようで、頷きながらもう一度だけ榛名に視線を投げ、執務室を後にした。
そうして、榛名と俺だけが残る。
ぐっと言葉を堪えたままだった榛名。聞けば最初に旗艦を外された時からこの様子らしい。
葛藤しているのだろうか。
いや、葛藤していて欲しい。
何故自分に旗艦を務めさせてくれないのかと、自分が最も旗艦に向いていると。
立ち直るための自尊心を、葛藤と言う形で煮詰めてくれていれば、それでいい。
もっと言ってしまえば、今ここで榛名が俺に詰め寄ってくれるくらいの事をしてくれるのが一番なのだ。
それくらいの強い自身に対する感情が、榛名に欲しい。
提督「榛名」
榛名「……、はい」
提督「何か、言いたいことは、ないか?」
榛名「……」
榛名「……」
小さく口を開ける。視線は一度も俺にむくことはない。じっと床を見つめたままだ。
榛名「……」
俺から何もいう事はせず、ただ彼女の言葉を待つ。
榛名「……」
何かを言いたがっている身体と、それを止める頭とが、ぶつかり合っているような。そんな仕草だ。
喉をからしたかの如く、榛名の口からは呼吸以外が出てこない。
榛名「……」
きゅっと握り締められた拳が、しかし徐々に力なく開かれていく。
榛名「……」
榛名「……いえ」
か細い溜息と共にようやく零した言葉は、実に寂しいものだった。
榛名「何も……ありません」
提督「……そうか」
榛名「……はい」
提督「……分かった」
沈黙が続く。そこから榛名が口を開くことはなく、そのまま会話も途切れ、彼女は執務室を立ち去った。
未だ、彼女は泳ぐことはせず、じっと海にたゆたっている。
じわりじわりと沈んでいく。
一週間が過ぎ、十日が過ぎ。年が明けて。
雨が降り、雪がちらつき、その雪が全て溶けてもそれでも。
それでも榛名は、口をつぐんだままだった。
加賀、浜風、睦月と旗艦を交代で務める後ろを物言わぬ彼女が追走する。
その瞳は虚ろという比喩が最も近く、目元は深く隈が刻まれていた。
誰が見ても榛名は、限界だった。
それでも彼女が何も言わないままなのは、彼女の性格のせいだろう。
だけれどそれは、決して彼女のせいではない。
何よりも我慢。夏から続いた我慢と忍耐と鬱屈が、彼女の心を曇らせ、性格を曲げてしまった。
その結果、自分の限界が自分で分からなくなっていたのだ。
睦月「榛名さん、大丈夫ですか……?」
旗艦であるはずの睦月が、速度を落とす。
最後尾を半ば蛇行するように滑る榛名が少しだけふらついて答える。
榛名「榛名は、大丈夫です」
天気は穏やかで、風もほぼない。
それでも、速度を落とした睦月の傍に立っただけで榛名の足が震えたのだ。
睦月「榛名さん……。大丈夫じゃないのです」
隣で睦月が水面を切る。その波紋でさえふらつきそうな榛名の姿は、明らかに異常だった。
榛名「榛名は、大丈夫です」
ぼんやりと水平線を映す瞳。
睦月「榛名さん……。榛名さん!」
睦月が肩を揺さぶる。
それにより榛名の膝がかくんと下がる。力を入れようにも上手く入らず、そのまま身体が沈んでいく。
榛名「あ……」
咄嗟に支えようとした睦月だったが、榛名との体格差もあり、二人してバランスを崩した。
睦月「ふにゃあ!?」
榛名「っ……」
大きく波飛沫がはね、二人の身体はずぶ濡れになった。
その音に、丁度五人の中間の位置に居た浜風が振り向く。
前方では、夕立と加賀が深海棲艦を発見し、砲弾を開始しようとしているところだった。
その為浜風も、振り向いて二人の姿を見たものの、さりとて夕立達を放置するわけにも行かず、結果数瞬の間躊躇した。
その僅かなラグが、浜風の集中力と、注意力を削いだ。
一週間が過ぎ、十日が過ぎ。年が明けて。
雨が降り、雪がちらつき、その雪が全て溶けてもそれでも。
それでも榛名は、口をつぐんだままだった。
加賀、浜風、睦月と旗艦を交代で務める後ろを物言わぬ彼女が追走する。
その瞳は虚ろという比喩が最も近く、目元は深く隈が刻まれていた。
誰が見ても榛名は、限界だった。
それでも彼女が何も言わないままなのは、彼女の性格のせいだろう。
だけれどそれは、決して彼女のせいではない。
何よりも我慢。夏から続いた我慢と忍耐と鬱屈が、彼女の心を曇らせ、性格を曲げてしまった。
その結果、自分の限界が自分で分からなくなっていたのだ。
睦月「榛名さん、大丈夫ですか……?」
旗艦であるはずの睦月が、速度を落とす。
最後尾を半ば蛇行するように滑る榛名が少しだけふらついて答える。
榛名「榛名は、大丈夫です」
天気は穏やかで、風もほぼない。
それでも、速度を落とした睦月の傍に立っただけで榛名の足が震えたのだ。
睦月「榛名さん……。大丈夫じゃないのです」
隣で睦月が水面を切る。その波紋でさえふらつきそうな榛名の姿は、明らかに異常だった。
榛名「榛名は、大丈夫です」
ぼんやりと水平線を映す瞳。
睦月「榛名さん……。榛名さん!」
睦月が肩を揺さぶる。
それにより榛名の膝がかくんと下がる。力を入れようにも上手く入らず、そのまま身体が沈んでいく。
榛名「あ……」
咄嗟に支えようとした睦月だったが、榛名との体格差もあり、二人してバランスを崩した。
睦月「ふにゃあ!?」
榛名「っ……」
大きく波飛沫がはね、二人の身体はずぶ濡れになった。
その音に、丁度五人の中間の位置に居た浜風が振り向く。
前方では、夕立と加賀が深海棲艦を発見し、砲弾を開始しようとしているところだった。
その為浜風も、振り向いて二人の姿を見たものの、さりとて夕立達を放置するわけにも行かず、結果数瞬の間躊躇した。
その僅かなラグが、浜風の集中力と、注意力を削いだ。
よろめきながら上半身だけ起こした榛名の視線に、最初に飛び込んだのは浜風である。
何やら口を開けて声を張り上げているが、海中から浮上したばかりの耳は、上手く浜風の声を拾えなかった。
続いて視界の端に睦月を捉え、その慌てた表情を一瞬だけ見た榛名だったが、それを確かめる前に視界を何かが覆った。
榛名「……!」
砲弾はおろか、連装砲に触れる間もなく、何かが爆ぜる。
劈くような破裂音と、火花のように強く弾けた視界の後に、再度海中に押し戻された榛名。
何が起きたのかを考える前に痛みが全身に走り、そしてそれからようやく呼吸を思い出し、海水を飲み込んで咽た。
榛名「はっ──う、あ、あ」
金魚のように口をパクパクと動かすが、自分の声が返ってこない。上手く聞き取れない。
爆音のせいで一時的に聴力が麻痺してしまっているのだ。
海面に、赤い雫が伝って落ちた。
榛名「……あ。あ、あ。ああ」
睦月が涙を浮かべながら駆け寄る姿も目に入らない。
ぴしりと鏡に亀裂が入っていくのを、榛名自身も感じた。
それは、あまりに遅すぎた、暗い海での一掻き目。
それでも岸にたどり着くための最初の一歩。
榛名「ああ、ん、ぐ、うう。うあっ……」
鉄の味を吐き捨てながら、痛みで割れそうな頭をかきむしる。
榛名の記憶している限り、これが彼女にとって初めての大破だった。
並々とグラスに注がれた水。表面張力でもってぎりぎり堪えていた……
様で、その実すでにグラスからは水が溢れてしまっている。
榛名だけがそれに気づいていない。榛名自身だけが、零れていく水に気付かず、まだ大丈夫だと思っていた。
だけれど。そこについに石が投じられ、大量の水が零れた。
榛名「あう、あ、いや……ぁ!」
そうなって初めて榛名は、自分の心に気がついた。
今更になって、気がついた。
睦月「提督!」
提督「……ああ」
榛名の部屋の前。
烈火のごとく強い口調で俺に抗議したのは、睦月だった。
浜風が、睦月を宥めるように肩に手を置くが、それを振り払って俺に詰め寄る。
睦月「どうしてあんな無茶をさせたのです!」
提督「睦月の言うとおりだ。すまない」
睦月「睦月に……、睦月に謝っても、意味ないのです」
全て睦月が正しい。
榛名の為とはいえ、肝心の榛名がこうして負傷してしまっては意味がない。
そして頭を下げるべき相手は他ならぬ榛名である。
睦月「提督の気持ちは、分かってますけど。でも、榛名さん、苦しそうでした」
自分の事のように胸に手をやる睦月。
睦月「せめて一言、どこかで榛名さんに何か言ってあげるべきだったと思います」
それもおそらくは正しい言葉なのだろうが、とはいえ榛名が聞き入れてくれるかどうかは分からなかった。
それに、一度突き放すと決めた以上、中途半端に糸を結ぶような言葉は、やはり掛けられなかったのだ。
睦月「……」
榛名を助けたいと思うのは睦月も恐らく同じだろう。でなければ、とっくにどこかで旗艦を断っているのだから。
それでもそうしなかったのは、それが榛名を立ち直らせるためにあると、俺を信じてくれたからだ。
榛名を信じ、俺を信じてくれた睦月。その表情は、理屈では分かっているものの、感情が納得していないと言った風だった。
睦月「……、もし、これで榛名さんが立ち直れなかったら」
提督「その時は軽蔑して構わない。砲弾で撃ち抜いてくれてもいい」
それは決して榛名に対する答えではなく、言ってしまえば自己満足のようなものではあったが、しかしそれくらいしか出来る約束はなかった。
浜風「私は別に、今の榛名さんも魅力的ですけどね」
茶化すように浜風がそう口を挟み、それに睦月が頬を膨らませて怒った表情を浮かべた。
浜風「何にせよ。ここが正念場なんじゃないですか?」
提督「……、そうだな」
息を吐いて、扉を見る。そしてノックした。
提督「榛名。少し話がしたい。入っていいか?」
短く、はい、と言う言葉だけが聞こえた。
カーテンが閉まったままの部屋は、夕陽を拒むような暗さだった。
電灯をつけようかと思い見上げるも、そこに電球はなかった。
やはり、と言ってしまっては何だが、彼女は自分の部屋の事は考えていなかったようだ。
私物などほぼ皆無に等しいこの部屋では、確かに突き詰めてしまえば睡眠くらいしか出来ることはなく、電灯の有無はさして問題はないようにも思える。
しかしそれはあくまで実用性の話であって、彼女が人として暮らす上では、やはり間違っている様な気がした。
榛名「すみません」
提督「いや、いい」
スイッチに手をやったままだった俺の思考に気がついたのか、榛名が呟く。
床に直接ぺたりと座ったままの榛名。掛け布団らしきシーツを足にかけ、壁にもたれかかるように背を預けている。
視線は俺を見ているようだが、方向だけ合っているだけで、本当に俺を捉えているかどうかは定かではなかった。
提督「怪我は、大丈夫か」
榛名「はい」
提督「すまない」
榛名「いえ」
簡潔に、淡々と答える。感情の起伏がどこに向かっているのかが分からなかった。
怒っているのか、哀しんでいるのか、苦しんでいるのか。
もしかしたらその全てなのかもしれないし、或いはそれらを全く見せないように堪えているのかもしれない。
まさか、全く何も感じなくなってしまったのだとは思いたくないけれど。
榛名「提督」
どこから話題を切り出そうかと考えていた所に、意外にも榛名から声がかかる。
提督「どうした」
榛名「榛名は、もう必要ないのですか?」
提督「そんな事は無い」
榛名「……ですが」
長い話になる。とはいえ、日が暮れて、彼女の姿が見えなくなる前に、伝えたいと思った。
提督「君が旗艦から外れて、分かったことがある」
榛名「……」
提督「それは、やはり君を旗艦にすべきだという事だ」
榛名「……それは」
違います、と掠れた声で榛名が続ける。
榛名「榛名が、加賀さんと夕立さんに指示を出しても、聞いてもらえませんでした」
しかしそれは、他の誰もが同じ事だ。
睦月でも浜風でもそれは出来ていない。
提督「あの二人をフォローして、艦隊全体の被害を一番抑えているのは君だ」
榛名「……」
加賀が旗艦では、指示も何もない。突っ込むだけで、夕立以外の三人は自分で行動せざるを得ない。
浜風は慎重に行動する故に、榛名の様に二人をフォローせず、別の所に気を向ける。
睦月の場合は、突っ込んでしまい負傷する夕立や加賀に気が行ってしまい、指示を向ける余裕がない。
夕立に至っては論外だ。
二人に引っ張られすぎずに、かつフォローできるのはやはり榛名なのだ。
恐らく言葉で説明しても、きっと彼女は納得しないだろう。自己評価が異様に低い彼女には、そういう理屈は届かない。
それを分かって欲しくて、全員を旗艦にしたのだけれど、榛名自身がそう進言するのを待ちすぎてしまったのは俺の失策である。
無能としか言いようがない。
提督「本当にすまない」
榛名「……榛名のせいですから」
くっと布団を握った。
それが彼女の癖なのだろう。服の裾や、布団を掴むのが。
それが何だか、救いを求めて板に縋るような手つきに見えた。
提督「……榛名。俺がここに来たときのこと、覚えているか?」
榛名「え、と……」
初めてここに来た日。あの時最初に会ったのは、榛名だった。
冬の朝にも拘らず素手で草むしりをしていた姿は今でも鮮明に覚えている。
それから今日に至るまで、彼女はいつだって自分の手を土に汚し、埃で汚してきた。
誰に言われた訳でもない。誰に指図されたわけでもない。
或いはそれが、空虚に耐えるための生きる術だったとしても。
それでも、
提督「この鎮守府を一番立て直しているのは、君じゃないか」
榛名「……っ」
理由や過程など、そんなものは詮無いことだ。
最終的に、今日まで一番寒さに耐えてきたのは、他ならぬ彼女に違いない。
俺の言葉に、榛名が再度布団を強く握った。
その手には今だって傷がある。
提督「君は、君が思っているよりずっと、いなくてはならない存在なんだよ」
榛名「……あ」
彼女が欲しいのは罪でも罰でも、仕事でもなかった。
要は、そういう事だった。
ただ単純に、彼女は、認めて欲しかっただけなのだと思う。
自分と言う存在を。自分のいる意味を。
それが罪に苦しむ行為でも、罰を受ける行為でも、何でも良かった。
そのどちらにしても、それを与えてくれる存在があるのであれば、彼女はそれに縋りたかったのだ。
だけれどそれもできなかった。
たった一言。たった一つ。
何か、心を支えるものが欲しかったのだと、思う。
だから、それを見つけてあげられることができれば、それが彼女にとっての救いになるのだろう。
榛名「で、も」
ぎこちなく唇を動かす。
瞳が大きく揺れて、光源の乏しい部屋の中でも光った。
榛名「榛名は、大和さんを。提督の大事な方を、この手で撃ってしまいました」
提督「……ああ」
榛名「許されてしまっては、いけないと思います」
提督「今この瞬間も、君は自分で自分を罰している。それで十分だろう」
他人による罰は、確かに自分で律する物よりも意味合いが強い。
だけれどそれは、死罪でない限り、いつか終わりが訪れる。
提督「もし君は、例えば俺に反省文を一枚書く事が罰だと言われたら、受け入れるか?」
榛名「そんな! そんな軽いものでは……!」
提督「そう言う事だ」
結局の所、他人に罰を科されようと、科されまいと。最終的に自分を戒めるのは、他ならぬ自分自身でしかない。
そして彼女はあの夏から半年間、ずっと苦しんできた。今でもまだ心の傷は深いままだ。
果たしてそれでも、彼女は許されないのだろうか。
そこまで彼女を罰するのは、誰だと言うのか。
榛名「許されるとか、許されないとか、ではないんです。榛名は、だって……!」
しかし榛名の言葉も変わらない。それも尤もで、彼女は許されたくて苦しんでいるわけではないのだ。
終わりのない出口や、解答のない命題を前にしているのだ。
俺の言葉が正しいわけでもなければ、彼女の言葉が間違っているわけでもない。
だからこそ、彼女はどうして良いのかが分からない。
提督「榛名。分かった。君の言い分も、きっと正しい」
榛名「……」
提督「だから、一つ約束をしてくれないか。大和の代わりに、大和と一緒にいた俺からの約束だ」
半ばずるいと思いながらそう言った。
大和の名を出せば、彼女が断れないと知っていて、そう言ったのだから。
榛名「……はい。どんな罰でも、提督の言葉であれば」
提督「ああ」
榛名「で、も」
ぎこちなく唇を動かす。
瞳が大きく揺れて、光源の乏しい部屋の中でも光った。
榛名「榛名は、大和さんを。提督の大事な方を、この手で撃ってしまいました」
提督「……ああ」
榛名「許されてしまっては、いけないと思います」
提督「今この瞬間も、君は自分で自分を罰している。それで十分だろう」
他人による罰は、確かに自分で律する物よりも意味合いが強い。
だけれどそれは、死罪でない限り、いつか終わりが訪れる。
提督「もし君は、例えば俺に反省文を一枚書く事が罰だと言われたら、受け入れるか?」
榛名「そんな! そんな軽いものでは……!」
提督「そう言う事だ」
結局の所、他人に罰を科されようと、科されまいと。最終的に自分を戒めるのは、他ならぬ自分自身でしかない。
そして彼女はあの夏から半年間、ずっと苦しんできた。今でもまだ心の傷は深いままだ。
果たしてそれでも、彼女は許されないのだろうか。
そこまで彼女を罰するのは、誰だと言うのか。
榛名「許されるとか、許されないとか、ではないんです。榛名は、だって……!」
しかし榛名の言葉も変わらない。それも尤もで、彼女は許されたくて苦しんでいるわけではないのだ。
終わりのない出口や、解答のない命題を前にしているのだ。
俺の言葉が正しいわけでもなければ、彼女の言葉が間違っているわけでもない。
だからこそ、彼女はどうして良いのかが分からない。
提督「榛名。分かった。君の言い分も、きっと正しい」
榛名「……」
提督「だから、一つ約束をしてくれないか。大和の代わりに、大和と一緒にいた俺からの約束だ」
半ばずるいと思いながらそう言った。
大和の名を出せば、彼女が断れないと知っていて、そう言ったのだから。
榛名「……はい。どんな罰でも、提督の言葉であれば」
提督「ああ」
提督「榛名。君がすべきことは単純だ」
提督「生きてくれ」
提督「大和の分まで、生きてくれ」
提督「それだけだ」
榛名「……え?」
呆気にとられたような表情を浮かべる。
提督「君が大和にしてしまったことは消えないのだとしても。それでも、精一杯生きてくれ。心を殺さず、大和達があの日までそうしていたように、笑って欲しい」
榛名「……、それは、そんなの。そんなの、罰になりません。罰はもっと苦しいものでなくては」
提督「なら、今君は笑えるか?」
榛名「っ、それは!」
叫びかけた榛名だったが、すぐにその勢いは消沈する。
榛名「それ、は……」
出来ない。出来るはずがない。
鈴谷の言葉を思い出す。
ああ。確かに榛名は俺に似ているのかもしれない。
今この瞬間だけ、少しそう思った。
提督「あの出来事を振り切って、壁を乗り切って初めて笑えるのだとしたら、それは十分苦しいことになると思う」
榛名「……」
提督「月並みかもしれないが……きっと、大和も、そう願っている」
榛名「……大和、さんが」
凜とした大和の姿が、走馬灯のように蘇る。
いつだって彼女は凛々しくて、それでもどこか少しだけとぼけた所があった。
そしてそんな彼女がもし今この場に居たら、そういってくれるに違いない。
そういう人だった。そういう女性だった。
榛名「……、出来る、でしょうか」
提督「一人で出来なかったら、いつでも力になる。君は一人じゃない」
提督「この鎮守府に君が不可欠であるように、君にとっても、この鎮守府の皆が大事なんだと思って欲しい」
榛名「……はい」
提督「生きてくれ」
榛名「……はい」
一筋だけ、頬を伝って涙が落ちた。
榛名「……あ」
提督「大丈夫か」
かくんと榛名の身体が一瞬倒れかけた。
榛名「す、すみません」
無理もない。ここ最近はまともに眠っていなかっただろうし、加えて今日の負傷だ。
身体だけでもとうに限界を超えている。
加えて、少しでも彼女の心に届いてくれたようで、長らく張り詰めていた緊張の糸が、ようやく緩もうとしているのだ。
今この瞬間にも目を瞑ってしまってもおかしくはない。
……が、女性の寝顔を覗くほど野暮な事もない。睦月がそうであったように、榛名だって見られたくはないだろう。
提督「榛名。休んでくれ」
榛名「……、はい」
少しばかり間を置いて答える。相変わらず休むと言う単語に反応したようにも見えるし、それか既に眠気が襲ってきているようにも見えた。
提督「また君が目を覚ましたら、旗艦を任せたい」
榛名「本当、ですか」
ぼんやりとした声で聞き返す。
提督「ああ。だから……今は休んでくれ」
榛名「……はい」
再度榛名の顔が揺れ、その拍子にぽたりと涙が落ちた。
榛名「提督」
提督「なんだ?」
榛名「……、……。ありがとうございます」
提督「……ああ」
榛名「ありがとう、ございます」
提督「ああ」
──おやすみなさい。
そう呟きながら、榛名の身体が今度こそ布団に倒れる。
覗くのは失礼だとは思いながら、扉を開ける前にもう一度だけ振りかえった。
夕陽の落ちた部屋の中、涙を拭うことなく、榛名が眠りについた。
長かった半年振りの、眠りの世界に。
提督「……おやすみ。榛名」
聞こえないとは分かっていても、ついそう呟いた。
微かな寝息を後ろ背に、俺は榛名の部屋を後にした。
榛名「おはようございます」
提督「ああ。おはよう」
朝である。
目元の隈がとれた榛名がやってきた。
提督「もう大丈夫なのか」
榛名「はい。一晩寝ましたから」
提督「……、そうか」
榛名「あんなに眠ったのは、あの日以来です」
やや息を細く吐きながら、榛名がそう呟いた。
まだ表情は硬いものの、それでも声色は少しだけ変わった気がする。
あくまで、少しではあるが。
これも時間を経てば、変わっていくのだろう。
榛名「提督。榛名、頑張りますので、よろしくお願いしますね」
提督「ああ」
榛名「それで、ええと。早速なのですが。何からやりましょうか」
提督「本当に早速だな」
榛名「はい、体も、驚くほど軽いんです。ドックに行っていないのに、一晩眠るだけでこうも変わるなんて」
提督「ああ、ええと、榛名」
榛名「はい、仕事ですか?」
提督「いや、その前に一つ言っておこうと思って」
その言葉に榛名が身構えた。
榛名「なんでしょう。何なりと」
そんな面と向かわれると言い難いのだが、しかし折角なので言っておこう。
一度咳払いをする。こくりと榛名が唾を飲んだ。
提督「……実はな」
榛名「はい」
提督「君が眠っていたのは、一晩じゃないんだよ」
榛名「はい」
榛名「……」
榛名「……は、えっ?」
提督「半年分の睡眠だからな。たった一晩じゃ足りないだろう」
榛名「た、確かに、怪我も治っていますし、そうかもしれません」
提督「そういうことだ」
榛名「……あの」
提督「どうした?」
榛名「と、いう事は、榛名は実際どれくらい眠っていたのでしょうか?」
提督「三日だ」
榛名「えっ」
提督「丸三日だ」
榛名「……」
絶句した様子で立ち尽くす榛名である。
それもそうだろう、本人からしたら一晩八時間の睡眠が、本当はその九倍近い時間眠っていたのだから。
提督「なので、君に会うのは四日ぶりという事になる」
榛名「あ、え」
途端に榛名が顔を赤くした。
そんなに長い時間眠っていたことが恥ずかしくなったのだろうか。
榛名「……あ」
そして、改めて三日と言う時間を理解したのか、そこでくぅと榛名の腹が鳴った。
慌てて腹に手をやって隠すも、聞こえてしまった音は取り消せない。
提督「まぁ、空腹にもなるだろう」
榛名「うう……!」
提督「大丈夫か。物凄く顔が赤いが……」
榛名「……だ」
提督「だ?」
榛名「大丈夫……」
榛名「……じゃありません! すみません!」
止める間もなく、苛烈な勢いで飛び出していってしまった。
せめて扉は閉めてほしいものだが、まぁ仕方ないだろう。
提督「……いずれにしても、良かった、みたいだな」
あの様子であれば、きっと榛名が笑う日は遠くはないだろう。
いつかその日には、二人で大和達の事を偲びたいと思う。
その日になれば、少しは雨が嫌でなくなるのかもしれない。
そんな事をぼんやりと思った。
【榛名の好感度が60を越えました】
睦月「おはようなのです!」
榛名「おはようございます」
提督「ああ、おはよう」
睦月「おりょ」
榛名「あら……」
睦月と榛名が互いを見やる。
世話を焼きたがる睦月と、仕事をしようとする榛名の行動パターンが被ったようだ。
睦月「ええと……」
榛名「すみません」
睦月「睦月の方こそ……」
榛名「睦月さんの方が先でしたので」
睦月「いえいえこちらこそ」
話が先に進まないのだが、これはもしやこの先何度も見ることになるのだろうか?
あまり嬉しくはないな……。
↓1
1.出撃
2.演習
3.遠征
4.工廠
5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)
1秒……だと……?
提督「睦月、ちょっと良いか」
睦月「良くないのです」
にべもない。
睦月「提督が厨房にいる時点で、睦月は何を言われても断るのです」
提督「酷いな」
睦月「だって、料理でしょう?」
まぁ、そうなんだが。
睦月「料理なら睦月が作るので必要ないって言ってるのに、どうしてお金の無駄遣いするのです」
提督「睦月、心なしか料理に関してはやけに俺に辛辣じゃないか?」
睦月「睦月が辛辣なんじゃなくて、提督が乱雑なのです」
提督「まぁ、そう言うな。……それで」
睦月「それで?」
提督「どれから食べる?」
睦月「何で既にもう出来てるんですか。事後報告もいいところなのです!」
提督「そう言わずに。俺とて睦月の料理は好きだが、しかし作ってもらってばかりでは立つ瀬がない」
睦月「好……うん」
途端にしおらしくなる。これは好機だ。この手を逃すわけにはいくまい。
提督「俺の為に、ここは力を貸してはくれまいか」
睦月「ん、うん。まぁ、うん。提督がそこまで睦月の事必要って言うなら、仕方にゃいかにゃぁ」
あちらこちらに視線を彷徨わせながらそういう睦月。
提督「よし。ありがとう。じゃあまずはこれから行こうか」
睦月「あれ、選択肢……」
例の如く何の意味もない面白コンマ
↓1 高ければ高いほどメシウマ
提督「お待たせしました、カレーうどんとサラダ、味噌汁にデザートです」
睦月「カレーうどんに味噌汁……?」
提督「味噌汁くらいしか汁物が分からなくてな。下手なものに挑戦するよりは言いかと思ったんだが」
睦月「その心遣いは嬉しいのです。出来れば作る前に止めるくらいの心遣いが睦月は欲しかったですけど」
提督「まぁ、そう言うな。カレーは大抵どうやっても外れはしないし、サラダも言ってみれば野菜をそのまま切っただけだ」
睦月「まぁ、確かに……」
睦月「じゃあ、サラダから頂きます」
睦月「……すっごい緑。芝生かっていうくらい緑」
提督「冬野菜をふんだんに使ったんだ」
睦月「それは分かりますけど、なんでこんなに彩り偏っちゃったんです?」
提督「水菜、小松菜、春菊、セロリ、レタスだ」
睦月「葉物オンリーじゃないですか!」
睦月「……まさか、このでろっとした緑色のドレッシングは」
提督「青汁だ」
睦月「やっぱりー!」
提督「健康にはいいはずだ」
睦月「いやいや、今日びキリンだってもっとマシなもの食べてますよ」
提督「食べてみてくれ」
睦月「えぇ……」
睦月「……」
睦月「……あむ」
睦月「にっがい!」
睦月「あ、辛い! 苦味を通り越して辛味になったのです!」
提督「睦月は子供舌だな」
睦月「おー睦月のせい!? そうきます!?」
提督「さぁ、カレーうどんだ」
睦月「えぇ……。もう辛いのは野菜で十分なのですよ」
提督「野菜の辛味とはまた違うだろう」
睦月「……まぁそうですけど」
提督「さぁ、どうぞ」
睦月「んー……」ズルズル
睦月「ぶふぉ」
提督「どうした睦月、大丈夫か」
睦月「あ、え、え? なにこれ? え?」
睦月「甘い? 辛い? え、わかんない」
睦月「あ、いや、不味い! 結局トータル的には不味い!」
睦月「色々入れすぎなのです! 香草いくつ入れたんですか!?」
提督「手当たり次第に……」
睦月「パフェのときもそうでしたけど、なんで主役を上回っちゃうんですか脇役が。あ、というかこれバニラビーンズまで入って……げふっ」
睦月「あ、今頃になってミントが鼻を抜けてきました、こんな風通り求めてない!」
提督「もう少し食べてみてくれないか?」
睦月「え、中破進軍しろと?」
提督「大げさだな」
睦月「何故そんな図太いんですか今に限って……」
睦月「……おえ、不味い、不味い」ズルズル
睦月「……ん?」
睦月「何か下から出て……」
睦月「……」
納豆「来ちゃった///」
睦月「」
睦月「いやいや、意味がわからないのです。何故に納豆が? というかなんか色々出てきた!」
提督「睦月は、豊橋カレーうどんを知らないのか?」
睦月「いや知ってますよ! カレーうどんの下にとろろうどんが入ってる名古屋名物ですよね!?」
提督「正確には名古屋の隣の豊橋が発祥なんだが」
睦月「愛知は名古屋みたいなものですから、さして差はないですよ、それより問題はそこじゃないのです。なんですかこれは一体」
提督「いや、だから、豊橋カレーうどんをだな」
睦月「どうやったらとろろと納豆間違えるんです? 心労ですか?」
睦月「しかも納豆だけじゃなくてオクラとかも入ってますし……」
睦月「……はっ、まさか」
提督「とろろがなかったからな。冷蔵庫にあったネバネバしたもので代用した」
睦月「出たぁ、料理下手特有の謎の代用だ! ってことはこれこの間パフェに使おうとした納豆じゃないですか!」
睦月「なんでとろろと納豆がイコールで繋がるんですか? 湾曲的に睦月の事殺めようとしてます?」
提督「するわけないだろう」
睦月「本当かなぁ……」
提督「何故俺が睦月にそんな事をしなくてはならない。むしろ何があっても守ってやる」
睦月「今守って欲しいなぁ、切に守って欲しいなぁ」
提督「納豆もオクラも体にはいいはずだ」
睦月「単体ではそうでも足したらマイナスになる事もあるんですよ」
提督「これも駄目か」
睦月「当たり前なのです」
提督「口直しに味噌汁はどうだ」
睦月「口直しって言っちゃった」
提督「アサリの味噌汁だ」
睦月「あぁもう予想できる。これから味わう悲劇が予想できる」
提督「上手くできてるかもしれないだろう」
睦月「かもって言っちゃった。もう上手く出来てる方が確率低いって認めちゃってるじゃないですかー!」
睦月「うう……」ズズ ジャリッ
睦月「知ってた! 砂ぁ!」
睦月「砂抜きしてください! それでこれ、出汁とってないですよね、お味噌お湯で溶かしただけですよね!」
提督「……?」
睦月「ああキャパオーバーしてる! 首傾げてる! 可愛い!」
提督「味噌を溶かすだけでは駄目なのか」
睦月「駄目ですよ……鰹節と昆布使ってください、それか最初から出汁が入った味噌買ってください」
提督「難しいな……」
睦月(それでも食べる自分がなんと言うか……間抜けです)
睦月「後はデザート……」
提督「コーヒーゼリーだ」
睦月「コーヒーを冷凍しただけとは言いませんよね?」
提督「……」
睦月「……」
提督「……」
睦月「……」
提督「……まぁ、これは食べなくても良いぞ。苦いから」
睦月「図星か!」
提督「さて、全部食べたわけだが……」
睦月「コーヒーゼリーもどきを隠しながら言わないでください」
提督「ずばり何点だ?」
睦月「えっ、この期に及んで採点させるんですか……? 苦行?」
提督「明確な数字があったほうが、参考にしやすいだろう」
睦月「まるで今後があるかの様な物言いですけど気のせいですよね。気のせいかもしくは次は別の人が餌食になるんですよね」
提督「いやいや。こんなことは睦月にしか頼めん」
睦月「えぇ……。どうしよう、本来なら嬉しいのに嬉しくない。今トイレ行ったら乙女心も一緒にリバースしそう」
睦月「提督じゃなかったらとっくにハリセンでひっぱたいてましたよ」
提督「酷いな……。というかどこから取り出した」
睦月「酷い料理でしたよ……」
睦月「それでも強いて点数をつけるなら……うーん。五、いや、七点ですかね」
提督「……それは、十」
睦月「百点満点ですよ!」スパーン
提督「そうか」
睦月「えっノーリアクション……。そうです、提督の手作りだとしても加点できて二点なのです」
提督「意外と痛くないもんだな」
睦月「あっ今ハリセンに反応するんですか? 時差ですかまさかの」
提督「やはり俺に料理の才能はないのか」
睦月「皆無ですね」
提督「いつも睦月に作ってもらっているお返しがしたかったんだがな」
睦月「だ、騙されませんよ」
提督「いや、本当だ。睦月に何かしてあげたかったんだ」
睦月「うう……」
睦月「だったらもっと別のにしてくれたらいいのに」
睦月「というか、提督は自分で食べられるんですか?」
提督「自分が食べられないものを人に出すわけないだろう」
睦月「突然の正論に動揺を禁じえない」
提督「抜群に美味いとはさすがに思わないが、自分用に作るものにそこまで気は使わないからな」
睦月「腹に溜まれば何でも良いって奴ですか?」
提督「ああ」
睦月「……睦月の料理もその程度だったんですね」
提督「いやそれは違うぞ」
睦月「ショックです。あんなに愛……、んんっ、気持ちを込めて作ってたのに」
提督「そういうつもりで言ったわけではない、本当だ」
睦月「信じられないのです。およよ」
提督「すまない」
睦月「……本当にごめんなさいって思ってますか?」
提督「勿論だ」
睦月「んん。じゃあ……そうですね。まずは、いつも美味しい料理作ってくれてありがとうという気持ちを込めて、頭を撫でてくださいにゃ」
提督「何故そうなる」
睦月「頑張って食べたのに」
提督「分かった。分かったから泣くな」
睦月(泣きまねですけど)
提督「……これでいいか?」ナデナデ
睦月「もっとなのです。三品分です」
提督「分かったよ……」ナデナデ
睦月「んー……」
提督「もう良いだろう、良いにしてくれ」
睦月「仕方ないのです。頭は終わりでいいのです」
睦月「次はお腹一杯なので、ですね。お、お腹をですね」
提督「……無理だ」
睦月「むー」
提督「それはさすがに出来ないぞ。本当に無理だ」
睦月「一回だけでいいので」
提督「それは、いや、ちょっと」
睦月「……せい!」グイッ
提督「あっ」フニョン
睦月「さすさす」
提督「放しなさい、いけません、やめなさいそういうのは!」
睦月「提督ってテンパるとお母さんみたいな口調になりますね……」
提督「そういうのは、もっと別の人にしなさい。というよりまだ君には早い」
睦月「……うなーう!」
提督「こら放れなさい、抱きつくのは駄目だ、本当に駄目だ!」
睦月「別の人なんていませんよーぅ!」
提督「どうしてこうなったんだ!」
睦月「提督が料理を作るからです!」
提督「作らなければいいのか、そうか!」
睦月「睦月が毎朝お味噌汁作りますからそれで十分なのです!」
提督「それは確かに魅力的ではあるが……」
睦月(……ん?)
睦月(あれ。今睦月は何を?)
睦月(……)
睦月(……あ。あっ、ああ!)
睦月(なんて恥ずかしい事言ったんでしょう!)
睦月「うう、わあ、わーい!」
提督「な、なんだ……?」
睦月「お味噌汁! お味噌汁!」
提督「大変だ。睦月がバグった……」
睦月「ふにゃああ!」
好感度上昇
↓1のコンマ十の位(ゾロ目ならYP+1)
睦月99になりましたね……(驚愕)
今日はここで終わりです。おやすみなさい
遅くなりました今から書き始めますすみません。
皆さん大淀さんをちょろいちょろいと言いますけど睦月のほうが……
安価の即取りに関しては、ずらしてみてはという意見があるので時折そうしてみます。
それに少し関連して、以前言っていた通り、好感度99の子が出ましたので違うお話が進むわけですが、
地雷に近い選択肢もありますので気をつけてくださいね。
睦月は激怒した。必ず、かの情緒纏綿、もとい愛しい提督を射止めなければならぬと決意した。
睦月には政治がわからぬ。睦月は、ただの駆逐艦である。砲撃を放ち、浜風と遊んで暮して来た。けれども提督に対しては、人一倍に敏感であった。
睦月「むむむ……」
今日未明睦月は執務室に忍び込み、本棚を越え机の引き出しを越え、とにかく漁った。
睦月には父も、母も無い。片思い相手なら目の前にいる。寝ている。
この睦月は、寝心地悪そうに寝返りをうちまくる提督を、近々、花婿として迎えられたらいいなぁと思っていた。結婚式という単語に夢見る年頃なのである。
睦月は、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらをすっとばして、最も大事なものを探しに、はるばる執務室にやって来たのだ。
先ず、その書類を捜し見つけ、それから都の大路をぶらぶら歩く予定だ。
睦月「ない、なぁい……」
もそもそ。ごそごそ。
静かな執務室に睦月の物を漁る音と独り言だけが漏れる。
睦月「あれがないと……」
提督「あれがないと?」
睦月「あれがないとカッコカリが出来ないのです」
提督「ほう」
睦月「ん?」
提督「……」
振り向くとそこには邪知暴虐の王……ではなく、目を覚ました提督が、睦月の事を見下ろしていた。
睦月「これはですね」
提督「ああ」
睦月「これはですね……」
提督「ああ」
睦月「……」
提督「……」
睦月「ごめんにゃさい」
提督「説明をしてもらおうか……」
誤魔化すように小首を捻り甘える睦月に、提督は大きく溜息を吐いたのである。
ケッコンカッコカリ、という物がある。
艦娘を人間と定義していない以上、人間と艦娘が人間の法律に則って結婚することは出来ない。例えは悪いが、犬や猫との婚姻が認められないのとほぼ同義である。
とはいえ彼女達には紛れも無く感情があり、意思を持ち、心を持つ。
何より動物と違うのはやはり、姿形が人間と全く変わらないことだろう。
人間の姿をした兵器というのが法律上の彼女たちではあるが、しかし同じ姿をした者と共に深海棲艦と言う恐怖と立ち向かうと言うのは、必ずしも文言を文言として押し留める道理にはならない。
吊橋効果──とは違うのだろうが、いずれにしても、信頼し、命を預ける相手に対して、強い気持ちを抱いてしまうのは避けられないことである。
それが恋愛感情か否かの区別は誰にも出来ない。
誰にも説明できないし、誰にも定義できない上に、本人にも整理できない。
かといって捨てることも出来ない。それが心と言うものだ。
そしてその心を持つのが人間であり、これまではそうだった。
だけれど彼女たちにも心と言うものが備わっていたのが、話をややこしくしてしまったといえば、そうなのだろう。
何にせよ、彼女たちは人間と変わらない外見をしており、中身でさえも違いを見出せない。
当然過ちは起きる。火遊びと言う言葉は、しかし銃器や船体を扱うこの場においては捻りのきいた冗談にさえならないだろう。
規制をしてしまうのは簡単ではあったが、とはいえそんな事をしたところで反乱が抵抗が起きるのは火を見るより明らかだった……これもまた、冗談にしては変な言葉ではあるが。
ならばいっそ認めてしまったほうが手っ取り早い、という結論に至った国の判断は、当時は様々な議論を巻き起こしたが、しかし今になればそんな話も既に過去の遺産である。
かくしてケッコンカッコカリという制度は導入された。
単に彼女達の願望を叶えるだけでは軍としてもメリットは薄い。付加価値をつけるように、錬度や様々な効率の上昇を謳いそれらを後押しするのは、殊更彼女たちに主導権を握られまいとする小さな満足に他ならない。
“ケッコンカッコカリ”というネーミングも、あくまでも艦娘は人間の配下にあるもので、決して彼女達の要求を丸呑みしたわけではないという、どうでもいいプライドに似たようなものが見え隠れする。
……という、とってつけたような説明を自分で自分に言い聞かせる。
睦月「駄目ですか?」
提督「駄目というかな……」
食堂である。
睦月が淹れてくれたお茶を啜りながら、彼女の言い分を整理するとそういう事だった。
つまりはケッコンカッコカリを要求すると言うものである。
相手は、言うまでもない。
提督「急すぎて何も言えないな」
彼女が執務室を漁っていたのは、そのケッコンカッコカリに必要な書類を探し当てる為だったらしい。
提督「大体何故俺なんだ」
睦月「他に選択肢はないですよ。まさか浜風ちゃんとケッコンしろとでも?」
提督「確かにこの鎮守府に男は俺しかいないわけだが、だからと言ってケッコンしなければいけないと言うわけでもあるまい」
睦月「……いくらなんでも、鈍いとかそういうのを通り越してると思います」
少しむくれた様子で睦月が拗ねた声を出した。
睦月「まさか提督は今まで人生で一度も片思いさえしたことがないわけじゃないですよね? そんな田舎の中学生みたいなこと言いませんよね?」
じとりと半眼で睦月が尋ねる。少し考えながら茶を啜った。
提督「少なくとも結婚もケッコンもしたことはない」
睦月「前の鎮守府では誰ともケッコンしてなかったんですか」
提督「……ああ」
睦月「いま少し答えるまでの間があったような」
提督「気のせいだ」
睦月「本当ですか? 怪しいのです」
提督「気のせいだ」
睦月「本当かなぁ……」
提督「気のせいだ」
睦月「……、まぁ、良いですけど」
茶を飲み干したところで睦月が立ち上がる。新しく淹れてもらうことにした。
提督「話を戻して、何故俺に対してそういう感情を持つことになったんだ」
睦月「いやいや……今更でしょう」
そのまま睦月は厨房で朝食の準備を始めた。椅子を反転させ睦月の方を向く。
睦月「提督のおかげで睦月は立ち直れたわけですし。そんなに不思議なものじゃないと思いますけど」
提督「それは、まぁ、そうかもしれないが」
睦月「それに今日になって突然言ったのならまだしも、一応これまでアピールしてきたじゃないですか」
全く心当たりがないわけではなかったが、そうだと思わないようにしていた。
或いは本当に、睦月が単に無邪気な性格なのかと思わないでもなかったのだが、それは言わないでおこう。
睦月「あんなに不味い料理、好きな人の手料理じゃなかったらミキサーにかけて海に捨ててましたよ」
提督「君本当は俺のこと嫌いなんじゃないのかな」
睦月「いやいや。激ラブですよ」
睦月「というより、提督はどうなんですか? 睦月の事、どう思ってるんですか?」
提督「……」
手っ取り早い話がそういう事である。
別段彼女が俺に恋愛感情を抱くこと自体を止める権利はないし、理由など二の次だろう。極端な話一目ぼれだろうが俺の料理を気に入ったのであろうが、そんなものはどれも一直線に同じものといえる。
だけれど、肝心の俺の気持ちはと言うと。
提督「……分かった。正直に言う」
睦月「はい」
水道を止めて、睦月がじっと俺を見た。
さすがにその表情には緊張が見て取れた。
あるいはもしかしたら、テーブルを挟んだ近距離で聞くのが怖くて距離をとったのかもしれない。
提督「確かに、睦月には世話になっている。料理もだし、最近は掃除もしてくれている」
提督「それに、君が立ち直ってくれて本当に嬉しい。やっぱり君には今の笑顔のほうが似合う」
睦月「……はい」
提督「だが……」
睦月の顔が曇る。
提督「……だが、それでも、ケッコンは出来ない」
睦月「……」
提督「すまない」
睦月「……そう、ですか」
提督「ああ」
睦月「あの。理由を聞いても、良いですか」
提督「シンプルな理由だ」
こくりと睦月が唾を飲んだ。
じっと俺を見る眼は、微かに濡れている。
提督「理由はだな……」
睦月「……」
提督「ケッコンカッコカリの書類一式がない」
厨房の向こうで、睦月がずっこけた。
提督「君も執務室で探しただろう。あれは見つからなかったんじゃなくて、元々この鎮守府にはないんだ。だからいくら探しても見つかるはずがない」
今でこそ執務室には少々の資料が並べられるようになったが、それは俺がここに来てから、彼女達の出撃や演習で得た資料だ。
元々あるべきだった書類は一切なかったし、本部から切り離されているここに新しく何かが送付されてきた事もないので、必然そんな書類もあるはずがなかった。
提督「だからいくら望もうと、そもそもないものを渡せるわけがない……睦月、大丈夫か」
よろよろと睦月が立ち上がる。
睦月「大丈夫か、じゃないですよ。それはこっちのセリフなのです」
呆れたように睦月が溜息を吐いた。
提督「何故だ」
睦月「そういう事を聞いてるんじゃないのです、この唐変木」
睦月「睦月が言いたいのはそういう事務的な理由ではなくてですね? 提督の気持ちがどうかってことなのですよ。早い話が提督は睦月のことラブなのってことです!」
提督「一旦落ち着こう」
睦月「これが落ち着いていられるわけないのです! ガッデム!」
どこでそんな悪い言葉を覚えてしまったのだろう。
睦月「そこのところどーなのです」
提督「あ、ああ。そうだな……」
確かに睦月の外見は愛くるしい部類に入るだろう。声も耳をくすぐるようなものであるし、性格も基本的には温和で面倒見が良く責任感もある。
料理も上手だしその他の家事も特別苦手だと言う話は聞かない。戦闘も別段目立って苦手と言うわけではなさそうだ。
睦月「なんですかその報告書か読書感想文にでも並べる様な他人行儀な褒め方は」
再び睦月がじっとりと俺を睨んだ。
睦月「提督自身の気持ちで言ってくださいよ。睦月ちゃん可愛いとか、睦月ちゃんラブリーとか、情熱を込めて」
提督「いやそれは」
睦月「前もそうでしたけど、提督は人を褒めたりとかそういうのがなさすぎます」
提督「そうだろうか」
睦月「もうちょっと、睦月の事甘やかして欲しいなぁ……なんて」
提督「……つまり、もう少し砕いた表現をしろという事か」
睦月「そういう事なのです。提督の主観で言ってください」
提督「……まぁ、その。可愛いと思う」
睦月「そうです、そうです」
提督「君は自分の髪を癖っ毛だと言うが、十分柔らかくて梳き心地がある。その、両耳の所の跳ねている部分はなんだか見ていて微笑ましい。柑橘系の香りは君に良く合っている。嫌いではない。或いは声か。これも甘くて良いと思う。耳に残る声で実に君らしい。何度か君の手に触れる機会があったが、君はもう少ししっかり食べた方がいい。華奢で心配になってしまう。仮に万一抱きしめることがあったとしたらそのまま折れてしまいそうだ。庇護欲や父性を感じさせるといったら確かに長所ではあるが。ただ一方で君は世話焼きで、面倒を見るのが好きだったな。どちらかと言うと君の外見は先ほど言ったとおり守りたくなるような感情を抱かせるのでそのギャップはプラスになると思っている。料理の味付けは好きだ。薄味なのがいい。洗濯するために部屋に来てくれるのは嬉しいが、しかし朝は早すぎるように感じるな。とはいえそれは君の恋愛感情が関係しているのだとしたら仕方ないことなのかもしれない。その辺りは目を瞑らなければいけない」
睦月「ストップ」
提督「……どうした」
睦月「え?」
提督「え?」
睦月「いきなりどうしちゃったんですか」
提督「君が語れと言ったからそうしたんだが」
睦月「いや、そうかもしれませんけど、ちょっと唐突過ぎませんか?」
提督「そうか」
睦月「はい。というか、結局の所提督は睦月の事どう思ってるんですか?」
提督「……恐らく、好意的に思っているのだと思う」
睦月「……またそういう他人行儀な言い方を」
提督「すまない」
睦月「しかもケッコンカッコカリの書類はないと」
提督「すまな……いや、それは俺のせいでは」
睦月「こうなったら、最後の手段をとるしかないですね」
提督「……最後の手段?」
嫌な予感がする。
というより嫌な予感しかしない。
睦月「まずは朝食をどうぞ」
提督「あ、ああ」
睦月「お味噌汁です。提督、お味噌汁ですよ」
提督「それは分かる。それがどうした?」
睦月「毎朝お味噌汁を作るということです」
提督「……それは以前聞いたが」
味噌汁を啜る。
睦月「世間一般では、それをプ、プロポーズというんです!」
提督「ぶふぉ」
器官に味噌汁が入ってむせた。
提督「いきなり何を言うんだ」
睦月「前に睦月は同じ事を言って、提督は了承しましたよね? つまり提督は既に睦月のプロポーズ、を受けていたんです!」
力強く宣言する睦月ではあるが、しかし顔は真っ赤である。
とはいえそれは今の俺も同じである。咽たことで赤くなっているに違いない。
……決して他意はない。他意はない。
睦月「書類がないのなら、せめてキセイジジツというのを作るのです!」
本当にどこでそう言う言葉を覚えてしまったのか。しかし尋ねた所で藪蛇でしかない。
睦月「提督、はい、咽たのなら代わりに睦月が食べしゃせてあげるのですよ!」
提督「恥ずかしくて声が裏返ってるじゃないか、無理をするな、いやしないでください」
睦月「口開けてください、はい、あーんですよ!」
提督「一人で食べられる!」
睦月「断る!」
提督「もがっ……ぐぐ……!」
睦月「やってやったですよ……へへへのへ」
睦月「はいごちそうさまでした。お粗末さまでした」
結局睦月に食べさせられた朝食は、味も分からず騒がしいものだった。
誰にも見られなかったのがせめてもの救いである。
提督「もう良いだろう……」
ぐったりとしながら椅子に背を預ける。まだ朝食を食べただけだと言うのに、既に疲労困憊だ。
とはいえこれでやっと解放され──
睦月「何を言ってるのです、今日一日かけてキセイジジツを作るのですよ」
提督「何故だ」
──はしなかった。
睦月「勿論出撃とかのお仕事はちゃんとやるのです。でももっとキセイジジツが必要です」
もうキセイジジツという言葉を使いたいだけなのではないだろうか。
睦月「何をしますか。膝枕で耳掃除ですか、肩たたきですか。それともどこかにお出かけでもしちゃいますか?」
鼻息荒く睦月が隣に座る。目が完全に輝きに満ちてしまっているが、止める術はない。
もしかしたら今の睦月は深海棲艦を前にした夕立より厄介なのではなかろうか。
提督「待て、落ち着け」
睦月「はっ。お出かけってことは、それすなわちシンコンリョコウでは」
提督「行かないぞ。行かないからな」
睦月「行きましょうよぉ」
睦月がぺったりとくっついてくる。
提督「腕を絡めるな、やめなさいこら」
睦月「良い匂いしますか?」
提督「言うんじゃなかった……!」
自分の発言を悔いるが、遅すぎた。後悔先に立たずをものの見事に体言してしまった。
睦月「どーですか?」
胸に睦月の頭。甘えた表情で見上げる睦月である。
提督「……まぁ、甘い匂いではあると思う」
睦月「にゃは……」
椅子をぴたりとくっつけ、右半身を完全に密着させた……
……かと思うと、そのまま何故か俺の膝の上に座った。
提督「ちょっと待ちなさい、何をしているのか」
睦月「キセイジジツです」
便利な言葉だなぁ。
睦月「重くないですか?」
提督「重くはない。さっき言っただろう、華奢だと」
睦月「じゃあこのままでも良いですよね?」
提督「じゃあとはなんだ、じゃあとは。全然繋がっていないぞ」
睦月「睦月の中では繋がってるから良いのです!」
次いで睦月にねだられて、髪を撫でる。
そういえばこれも先ほど言った言葉ではあるが、跳ねたところがこうも目の前にあるとやはり気になる。
提督「といてもこうなるのか?」
側頭部から耳の後ろのラインを指で梳く。少しだけくすぐったそうに身を動かしたが、特に何も反応はない。
睦月「そうなのです」
確かにこうして指で梳いても、ぴょこんと跳ねた髪は変わらない。
睦月「そのまま抱、抱きしめても良いんですよ?」
提督「何を馬鹿な事を言う」
睦月「提督がしないなら睦月がします!」
身を捩ってこちらを向こうとする睦月を制する。
提督「しなくて良い、振り向かなくて良い、前を向いていなさい」
睦月「むぅ」
睦月「……やっぱり迷惑ですか?」
口を尖らせながら睦月がそう言った。
睦月「睦月ばかりこうしてますけど、提督は何もしてくれませんし」
提督「俺にだって、心の準備と言うものがだな」
睦月「分かってます。分かってますけど」
提督「……」
睦月「……」
提督「……、……睦月」
睦月「はい」
提督「ちょっと、聞いてくれるか」
提督「俺は恐らく、睦月に対して好意的な感情を持っている」
提督「だけど、それと同じくらいに不安がある」
睦月「不安?」
提督「ああ。万一睦月を失ったらと言う不安が」
睦月「……」
睦月は何も言わない。
俺がこの鎮守府に来るまでの出来事は、全てではないにしても睦月もある程度は知っている。
自分を信頼してくれた仲間を、自分のせいで失ってしまった重みが今もまだ離れてくれない。
それは皮肉にも、先日榛名を諭した感情と似たようなものだった。
提督「睦月が俺の事を好いてくれるのは嬉しい。でも、自分がそれに応えて良いのかどうかが分からないんだ」
睦月「……」
自分のせいで死んでしまった人がいる。彼女達に対して、どういう顔をして睦月の気持ちに応えればいいのかが、分からない。
提督「俺にそんな資格があるのかどうか……」
睦月「……」
睦月の頭が揺れる。ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
髪を撫でていた手を睦月がとった。先ほど食器を洗ったからか、その手は冷たかった。
しかし冷たいのは表面だけで、すぐにじんわりと温かさが伝わってくる。
睦月「睦月は、難しいことは分かりませんけど」
背中を預け、俺を見上げる。絡められた指が暖かい。
睦月「辛かったら話してください。好きな人が辛い顔をするのは、それだけで哀しいことなんです」
提督「……」
睦月「睦月は提督のおかげで立ち直れました。だから今度は、睦月の番なのです」
提督「……」
心を溶かすような、甘く蕩ける声と微笑みだった。
それでも少しだけ寂しそうな表情をしているのは、睦月の言葉を借りれば俺がそう言う顔をしているからだろう。
じくりと心が動いた。気がした。
睦月「好きな人の全部を知って、好きな人の全部を好きになれたら、それは凄く素敵なことなのです」
睦月「それがきっと、ケッコンするってことなんだと思います」
提督「……睦月」
合わさった身体ごしに、俺の鼓動は聞こえてしまっているだろうか。
それを恥ずかしいと思えてしまうくらいに、気がついたら睦月の温もりが大事になっていた。
多分それは、やはり恋愛感情なのだと思う。
途中ですみませんが、今日はここでおわりにさせてください。
私の友人には一日で2スレだか3スレ消費するほどの頭のイカレた奴がいましたので、それに比べたら平和なはず。
今から始めます。
一時間ほどの昔話を終えた頃には、すっかり睦月の体温が馴染んでしまっていた。
提督「……それで、俺はこの鎮守府に左遷された。以上だ」
睦月「そう、だったんですか」
片方の腕は睦月がずり落ちないように彼女の腹部辺りに回し、もう片方の手はぎゅっと握られたままである。
睦月の表情は難しいものだ。眉を微かにひそめている。
睦月「でも、直接の原因は提督のせいではないのです」
提督「直接でなくとも間接的であっても、結果として責任は俺にある」
睦月「……」
何を言い返そうか悩みながら、それでも言葉が見つからなかったようで、睦月は口を閉じた。
代わりに強く手を握り、反対の空いた手もやはり腹部に回した手に添えた。
提督「睦月、そんな顔をしないでくれ。これでも、今話せただけで少しは落ち着いたんだ」
睦月「本当ですか?」
提督「ああ」
思えば、今まで、自分の事を誰かにここまで話したことはなかったかもしれない。
喜び勇んで人に触れ回るようなものではなかったし、まさかここまで俺を慕ってくれる誰かが現れるなんて思ってもいなかったので、それは当然といえば当然だった。
過ちや後悔は自分の中で煮詰めるものだと、そう思っていたし、今でもそう思っている。
だけれど、先日の榛名に対する接し方や、睦月の暖かさを経た今では、少しだけそれも変化していた。
苦しみや悲しみは、最終的には自分で乗り越えなければいけない。
それでも、誰かの力を借りることは決して、恥ずかしいものではない。
どこまでも続く海を一人で泳ぐことは出来ないけれど、誰かと一緒ならばそれも可能だ。
それを俺は榛名に説いて、そして今睦月に説かれている。
雪解けに似た温もりが、たまらなく大切になっていた。
提督「……、そろそろ降りようか。榛名達が来るかもしれない」
睦月「ん……。そうですね」
出来る事ならば、もう少しだけこうしていたかったけれど、この状況を誰かに見られるのもそれはそれで難しいことになりそうだったので睦月にそう告げる。
耳元で囁くような形になってしまい、ややくすぐったさそうに肩を震わせた睦月だったが、恥ずかしさと言う点では彼女も俺と変わらない。
放れ難そうに唇を尖らせながら、それでも素直に握っていた手を放した。
睦月「……」
そのまま降りるのかとも思ったが、しかし睦月は何故か固まる。
提督「どうした?」
睦月「折角提督が、全部を話してくれたので、睦月ももう一つだけ内緒にしてた事を言おうかと」
提督「と言うと」
睦月「実はですね。睦月、そんなに料理が得意なわけではないのですよ」
提督「そうなのか?」
意外な言葉だった。
睦月「前の鎮守府では自分で作ることは、あんまりなかったのですよ。ちゃんと頑張るようになったのは、こっちにきてからなのです」
前を向いていた睦月が、半身になってこちらを見る。
やはり俺があまりにも料理下手だからなのだろうか。
睦月「んまぁ、それもありますけど」
そこは否定してはくれなかった。
睦月「とはいえ、どっちにしても、頑張るつもりでしたから」
睦月「好きな人に自分の料理を美味しいと言ってもらえるのは、幸せなことなのです」
提督「そう言うものなのか」
睦月「はい」
睦月「実は、司令官殿に褒めてもらいたくて。とってもとっても、睦月、頑張っていたのです」
提督「……」
睦月「だから、睦月もっと頑張りますね」
提督「……、ああ。ありがとう」
猫のような声を零して、微笑んだ。
睦月「提督、いつか絶対ちゃんと書類を用意して、くださいね?」
ねだる様な声で囁き、上目に俺を覗き込む。
提督「そう、だな」
睦月「……」
提督「……? 睦月?」
俺の返答が気に入らなかったのだろうかと思い、口を結んだ睦月を見るが、しかしそういう表情ではない。
元より朱色を刺した睦月の頬が、何故か更に色を濃くする。
その理由が分からず、それと同時に何やら嫌な予感を察した。
……が。
それよりも早く、行動を開始したのは睦月だった。
睦月「今は、こ、これで!」
提督「睦──、ん、ん!?」
睦月「む」
睦月の肩に手を置き、膝から下ろそうとするも。
逆にその腕をつかまれ、引っ張られる。
加えて睦月が背伸びをするように顔を俺の方に近づけ、て。
睦月「……、ん、う」
提督「……」
ぶつかるかと思ったその顔が──、厳密には、唇が。
咄嗟に閉じた俺のその場所と触れ合った。
緊張のあまり息をしていないのだろうか、睦月の呼吸音は聞こえない。
それは自分にも言えることで、何故か自分も息を止めてしまっていた。
空気を求めるもふさがった唇は開けず、反射的に鼻で息をすると、これ以上ない甘い匂いが鼻腔を駆け巡った。
その瞬間に、とてつもない、言いようのない様な感情が色々と混ざり合い、それが最終的に羞恥に変わったところでようやく俺は、睦月の唇から顔を放した。
提督「な、待て、な、何を」
情けないほどにしどろもどろになりながら、睦月を下ろそうとして留まる。
急に彼女の体に触れるのが恥ずかしくなってしまい、両手を訳も分からず動かした挙句、結果無理矢理立ち上がることで彼女から逃げるように一歩遠のいた。
苺のように、冗談かと思うくらいに顔を紅潮させた睦月は、
睦月「キ、きしぇいじじつです!!」
と声をひっくり返らせながらそう答え、敬礼をした。
そんな睦月の顔を見て、思わず自分の口に手を伸ばすが、拭うことも出来ず、かといって唇に触るのも出来ず。
ただただひたすらに、口を手で覆って隠すことしか出来なかった。
提督「馬鹿な事を、するんじゃありません。そういうのはいけません」
同じく慌てそうになる声を必死に抑えて、口を隠したままに睦月から目を背ける。
睦月「好きな人にするんだから、間違ってません」
言い返す言葉も思いつかず、ただ睦月以外の場所に視線をめぐらせる。
食堂に、真っ赤な顔をしたのが二人。
……何をやっているんだろうか。
睦月「それより、提督。ど、どうでしたか」
提督「何がですか」
睦月「そ、それは、あれです。あれ、です」
提督「あれとは、どれですか」
しらばってくれているわけではなく、どう聞かれても答えようがないので避けているだけである。
睦月「ですから。睦月とのキ」
提督「言わなくていい、待ってくれ。待ってください」
睦月「教えてください、どうでしたか? どうでしたか!?」
ずいと睦月が迫る。何か吹っ切れたと言うか、恥ずかしさのあまり変なスイッチが入ってしまったのだろう。
しかし俺はと言うと。本当に情けない話ではあるが、そこまで開き直ることも出来ず、かといって冷静にもなれず、なんともみっともない反応しか出来ずにいた。
睦月の言葉で嫌が応にも先ほどの事を思い出してしまう。
眼前に迫った睦月の顔や、体温や、香りや、感触。
……。
……、……。
提督「……っ、いや、分からない。忘れた」
睦月「その顔は絶対今思い出してる顔です! 間違いありません!」
提督「そんな事は無い、睦月の勘違いだ」
睦月「いやいや、睦月に限って好きな人が何を考えてるか間違えるはずもありません!」
提督「違う、俺は別にさっきの事は考えていない。鮪料理の事を考えていた」
睦月「なんでよりによってそんな一秒でばれる嘘をつくんですか」
睦月「それとも、もう一度、し、しますか」
提督「しません」
榛名「おはようございます……?」
救世主が現れた!
提督「良い所にきた榛名。今日も一日よろしく頼む」
榛名「は、はぁ」
睦月「むむむ……」
状況がさっぱり分かっていない榛名に感謝しつつ、何とか俺は平静を取り戻すべく厨房に行き、水をグラス二杯分飲み干した。
榛名「あの、提督。何だか顔が赤いようですけれど」
提督「気のせいだ」
榛名「睦月さんも、赤いような」
睦月「ふにゃ!? き、気のせいなのです」
榛名「……?」
よくよく考えれば、あまりに不自然な解答ではあるが、しかし榛名は首を傾げただけで特別それ以上は深くは尋ねてこなかった。
榛名「それで、今日は一体何をしましょう」
提督「ああ、そうだな……」
しかし。
先ほどの感触は、実はあまりよく覚えていない。
咄嗟のことだったので、それよりも驚きの方が先行してしまったのだ。
やや勢いのついたままだったので、柔らかさはそんなに目立たなかったようにも思える。
もっとゆっくりと、予めするとわかっていた状態で行っていれば違ったのかもしれないが、別段そういった事をしたいわけでもない。
いや、何もああいったことが不健全だとは言わないし、俺もそれくらいの知識はある。
ましてや睦月の好意や自身の感情だって分かっているわけで、確かに別段目立っておかしなものではないにせよ、さりとてあまりに不用意すぎはしないか。
榛名「……提督?」
こういったことは両者の合意の下行うべきものであって、そうでないとなし崩し的に無作為に行われてしまうわけで、
榛名「提督?」
それは風紀的に良いとは言えないと定められる。
つまりは、
榛名「提督? どうかしましたか?」
提督「え、あ、ああ。ああ、聞いている、うん」
榛名「……? 提督、やはり変ですね」
提督「いや、そんな事は無い」
榛名「睦月さんと何かあったのですか? もしや……」
提督「い、いや? 睦月は関係ないぞ」
榛名「お二人とも、風邪をひいてしまったのでは……!」
彼女が疎くて助かった。
しかし、それにしても睦月はとんでもないキセイジジツを残していったな……。
【睦月の好感度が99になりました】
「外れの外れの鎮守府を知っているか?」
「……」
「そう、壊れた艦娘を捨てる場所だ」
「……」
「実はそこに新しい提督が左遷されたらしい」
「……」
「放っておいても良いんだが。気になるじゃないか」
「……」
「分かるよな?」
「……」
「君はどうにも口数が少なくていけない」
「……今月末でよろしいですか」
「構わない」
「……では」
そろそろ時間的なのを用意します。
今は一月二週ということで。月はそれぞれ四週で、前半後半と二回動けます。なので来月以降は月8回の行動となります。
今回は分かりやすく月末に何かしらが起こります。
その他にも時間が関係することがありますので、有効に安価を使ってくださいね。
このオンボロ鎮守府にケッコンカッコカリの書類なんてないだろうと思い、睦月のときはああ書きましたけれど、一応ケッコンカッコカリ扱いです。
好感度はゲームと同じく上限150です。YPも(ry
【一月二週 前半】
提督「……雨か」
小雨程度ではあるが、まだまだ冬のこの時期には嬉しくないものだ。
どうしても雨は、あの事件を思い出す。
今朝も彼女たちの夢を見て、汗を拭いながら起きたのだ。
提督「……」
幾つかの書類に目を通す。未だ訪れていない海域の資料や、演習結果の内容。
或いは来月末に退院する雪風のことなど。
ほうと一息吐きながら窓の外に再び目をやった。
提督「さて、何をするかな」
↓1
1.出撃
2.演習
3.遠征
4.工廠
5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)
提督「……雪風の見舞いに行こう」
今頃病院のベッドで一人眠っているのだろう。少しでも彼女を何とかしてやりたい。
寂しげに、痛々しく微笑む彼女の表情を見るだけでやるせなくなるのだ。
それに、彼女が退院して、元の鎮守府に戻ったら、きっと彼女はまた海に出ようとするだろう。
今の彼女にそれは無謀だ。
利き手の右手は握力が弱まり、グラスを落とすほどだった。
演習の時には左足を微かに引きずっていたし、そして今回右足を深海棲艦にやられたとなると、能力は大分落ちているだろう。
夕立「提督さん、どこか行くっぽい?」
廊下を歩いていると、夕立に出くわした。
提督「ちょっと、外にな」
夕立「良いな良いなぁ」
別段遊びに行くわけではないのだが、しかし彼女は羨ましそうな表情で声を挙げた。
おそらくはついて来たいのだろう。彼女は分かりやすい。
しかし雪風と面識はないし、あまり楽観的な夕立を会わせて良いのかどうか分からない。
雪風と話している間、夕立が何か別の事をしてくれていれば、それが一番良い訳だが……。
提督「……。そういえば、夕立。君はこんな所で何をしているんだ?」
ふと気になった事を聞く。
夕立は、何もない空き部屋からふらっと出てきたのだ。
夕立「……? 何してたんだっけ?」
何故そこにいたのかも覚えていなかった。
睦月の言葉を反芻する。
確か睦月曰く、夕立の記憶力が散漫になっていると言う話だった。
俄かには信じがたがったが、こうして会話をしていると、確かに違和感を覚える。
提督「夕立。一緒に出かけるか」
夕立「提督さん、どこか行くの?」
提督「……ちょっと外にな」
夕立「良いな良いなぁ」
目を輝かせる夕立であったが、俺の心中はいいものではなかった。
夕立「提督さん、甘いものが食べたいな?」
特別時間を決めて出発したわけでもないので、断ることもせず、喫茶店に入ることにした。
コーヒーを頼もうかと思ったところでメニューを良く見ると蜂蜜紅茶というのがあったのでそれを頼む。
夕立は中々決まらない様子で、メニューを何度も往復していた。
そして俺の紅茶が届いてからようやく悩みに悩みぬいたのか、オレンジジュースと苺のショートケーキを注文した。
普通の紅茶に蜂蜜を入れると、黒く変色してしまって味わいが損なわれるのだが、さすがに喫茶店のメニューとだけあってそんなことはおきなかった。
ミルクティーの色合いに、湯気を嗅ぐと丁度良い甘い香り。
二口ほど啜った所で夕立の注文も届いたようだ。
しかしこの寒い冬に、オレンジジュースを注文するのは変わっている。
夕立「いただきまぁす」
フォークで頂点の苺を刺すと、そのまま口に運ぶ。どうやら夕立は好きなものから食べる性格のようだ。
夕立「甘いけど酸っぱい! けど甘い!」
独特の感想を零しながら、笑顔を弾けさせた。
夕立「提督さんは、どうして病院に行くの?」
その質問には道中に一度答えたはずだったが、再度答えることにする。
提督「前の鎮守府に居た時の子が、入院してるんだ」
夕立「そうなんだ」
フォークの背でケーキを潰しながら、中の苺だけを食べる。
行儀の良い食べ方とは言えないが、それくらいは大目にみよう。
俺が雪風の見舞いをしている間、夕立には診断を受けさせることにした。
とはいえ、面と向かって“君の記憶力には問題がある”とは言いづらかったので、定期健診と言う形で建前を作っておいたのだが。
まぁ、そのおかげか夕立は疑うことなくついてきてくれたので、良いにしよう。
夕立「冷たいっぽい」
オレンジジュースの氷を噛み砕きながら、そんな事を呟く。
だったら食べなければいいのではなかろうか。
夕立を待合室に連れて行き、そこで一旦別行動をとることにする。
夕立の方が先に終わった場合は、そのまま待合室で待つように言っておいた。
エレベーターで一気に五階分昇り、そこから更に廊下を歩く。
彼女の部屋は端にあるので、たどり着くまでが遠い。
少しだけ上がった息を整えながら、扉をノックする。
眠っていたらどうしたものかとも思ったが、どうやら起きていたようだ。すぐに返事が返って来た。
提督「俺だ。入っていいか」
雪風「……、はい、どうぞ」
提督「ああ。それじゃ、失礼する」
横開きの扉は、殆んど音を立てずに滑らかに開いた。
彼女の病室は個室なので、他に患者はいない。
提督「見舞いに来たよ。迷惑じゃなかったか?」
雪風「いえ、そんな。ありがとうございます」
ベッドは上半身の角度を自由に変えられるようになっており、苦もなく体を起こしている。
何やら書いていたようで、彼女の手元には紙とペンが転がっていた。
雪風「……、左手で字を書ける様に練習していたんです」
壁にあった椅子をベッドの横に引っ張り出し、座る。
雪風「恥ずかしいので、あまり見ないでください」
少し照れながらそう言った。
利き腕である右手の状態は、未だ芳しくないらしい。
その為、左で字を書く練習をしていたようだが、しかしそれらはお世辞にも綺麗な字とはいえなかった。
雪風「ミミズののたくった様な字って良く言いますけど、本当ですね」
くすりと雪風が笑う。笑っているのは口元だけで、相変わらず瞳は寂しそうだ。
提督「すまない」
いたたまれずに、つい謝罪が口を吐いて出た。
これほどまでに呟いて後悔するような謝罪もない。
案の定雪風は軽く首を横に振り、決して俺を責める様な事はしなかった。
雪風「あなたのせいではありません」
その言葉がむしろ辛い。
提督「身体の具合はどうだ。辛くはないか」
雪風「大丈夫です。来月には退院できますから」
提督「そうか」
雪風「はい」
そこでしばらく沈黙が流れる。
雪風は、果たして退院したらやはり戦線に戻るつもりなのだろうか。
この身体で。今の壊れかけの身体で。
止めてあげたいのは山々だ。
だけれど、中央鎮守府に戻ったら、きっと彼女はまたそうするだろう。
だったら、いっそのこと……。
雪風「どうかしましたか?」
提督「……、いや。なんでもない」
雪風「そうですか?」
少し微笑みながら頷いた。
雪風「折角ですので、少し、お話を聞かせてください」
提督「話、か。何を話せばいい?」
雪風「そうですね……。そちらの鎮守府の様子、とか」
提督「……なるほど」
少し考える。
勿論雪風の要望には応えるつもりだが、とはいえ何も全てを洗いざらい話す必要はない。
加賀や鈴谷達の過去を話したところで雪風だって楽しい思いにはならないだろう。
しかし、彼女達は違った形で雪風や俺の昔に触れている部分もある。
要点を掻い摘んで話す方が良いだろう。
提督「そうだな……」
↓1
1.伊58の事を話す
2.睦月の事を話す
3.榛名の事を話す
伊58と榛名。
二人は大和の最期の日に関わっている。
榛名の砲弾が不運にも大和を貫き、それにより大和は倒れた。
その大和を保護したのが伊58だったが、岸にたどり着く前に深海棲艦に襲われた。
その時の襲撃で辛うじて生き残ったのが雪風である。
しかし、今その話をするのも何だか躊躇われた。
雪風とて決してあれから立ち直れたわけではない。伊58も同様だ。
ようやく榛名が一歩を踏み出したけれど、まだまだ支えてあげなくてはいけない。
そんな状態で、更に気分が滅入る話をするよりは、別の話題を一度した方がいいと思った。
そうして脳裏に思い浮かんだのが睦月である。
彼女の明るさなどは、確かに雪風の沈んだ心を逆撫ですることはないだろう。
あるいは、雪風が睦月に興味を持てば、こちらの鎮守府に来やすくなるかもしれない。
雪風を自分の鎮守府に異動させる。
それが中央鎮守府の司令官の、言外の望みでもあり、きっと俺の望みなのだ。
彼女にも、罪滅ぼしをしたいから。
提督「うちに、睦月という駆逐艦の子がいてだな」
雪風「はい」
提督「料理が上手なんだ」
雪風「はい」
提督「俺の料理は下手だから、厨房には入るなと怒られたよ」
雪風「ふふ。そうですね」
雪風が笑う。
雪風「前は自分で作ることなんて、なかったですから」
提督「ああ」
雪風「大和さんの手料理、また食べたいですか?」
提督「……ああ」
あの暖かいスープは、もう味わえない。
雪風「その子の料理、美味しいですか?」
提督「ああ。美味しい」
雪風「大和さんの料理と、その、ええと、睦月ちゃん? の料理。どちらが美味しいですか?」
提督「え?」
意外な質問だったので、少し戸惑った。
雪風「提督にとって大和さんの料理、特別だったじゃないですか」
提督「……」
考えた。
思い出は得てして美化されるものだ。それが忘れられない、離れられない思い出であればあるほど、尚更に。
だけれど、今を確かに生きている以上、それを現実が上書きすることだって同じくらいにありえる。
大和。睦月。
見た目とは裏腹に食べることが好きだった彼女の料理は、一見派手にも見えるが、しかし味付けは繊細だった。そして、暖かかった。
甘い声と甘い笑顔の彼女の料理は、これもまた甘いもので、丁寧にしっかりと作ってくれていることがわかった。こちらも、暖かかった。
提督「……どう、だろうな」
言い淀むようにそう答える。
少しだけ意外そうな表情を浮かべた雪風だった。
雪風「てっきり、大和さんだって即答すると思ってましたけど」
雪風「その子もきっと、好きなんですね。あなたのことが」
自分の為に、愛情を込めて作っていると公言された料理というのは、しかし気恥ずかしい。
雪風「そうですか。大和さんじゃ、ないんですね」
少しだけ髪を揺らして、右腕を動かした。
提督「そんなに意外だったか」
雪風からしたら、睦月の事など全く知らないのだから無理はない。
……よもや唇をふさがれたなどと言う必要もあるまい。
雪風「はい。ちょっと気になってきました、その子のこと」
提督「そうか」
何はともあれ、興味を持ってくれたのはいいことだ。
夕立「あ、提督さん!」
待合室に戻ると、丁度夕立が診察室に向かう所だった。
夕立「何だかレントゲン? とかとられて面白かった」
独特の感想を聞きながら、夕立を座らせて、俺は後ろに立ったまま話を聞く事にした。
俺も別段、医学知識があるわけではないが、それでも医師の話は大体は理解できた。
どうやら夕立は記憶力や集中力、或いは注意力と言うものが極端に低いらしい。
詳しい病名は、俺も初めて聞いた名前なので良く分からなかったが、そういうことだ。
よもやここで、多重人格だとか言われた日にはどうしたものかとも思ったが、
医師「ですが、ほぼそれに近いと言っていいでしょう」
提督「……」
とのことである。
戦闘中の夕立は、睦月の言葉を借りるのであればまるで別人だ。
髪は風で逆立ち、瞳は血を浴びたように赤くなる。普段のあどけない表情の中に、浜風が浮かべるような妖艶な深さが浮かぶ。
また、何度言っても深海棲艦や演習相手に対して躊躇なく突っ込むのも、やはりそれが原因らしい。
恐怖や警戒と言った感情が欠けてしまっているのは、彼女の中で何か別の感情があるからではないだろうか。
しかし海での身のこなしは、ある意味では集中力の塊であるとも言える。
ただ緩慢に砲弾をするだけでは、今頃夕立は深海棲艦の餌になっているはずだ。
それどころか夕立は複数の深海棲艦を相手取って、その首を狩っている。
果たしてそれは、集中力が散漫しているといって言いのだろうか。
医師「電気のスイッチのようなものです。その、海の上で戦っている時は、スイッチが入る。陸ではそのスイッチが消える」
分かりやすい例えだった。
医師「ただそのスイッチが、入るにしても入らないにしても極端なんですよ」
海の上で、命の危険と隣りあわせで戦う以上、集中するのは当たり前だ。
反対に、それが終わった陸で多少気を抜くのも無理はない。ずっと気を張っていては疲れてしまう。
なので、誰でも多少のスイッチのオンオフはある。
しかし夕立の場合は、それが極端に振り切れているのだ。
まるで、普段陸上で行うべき最低限の集中や注意も、海の上に加算してしまっているような。
片方の天秤にあった分銅を、全てもう片方に乗せてしまったような。
そんな極端さが、今の夕立には垣間見える。
もう4時になってたでござる……。
途中ですが先に好感度のコンマとって今日は終わりにします。
雪風↓1のコンマ十の位
夕立↓2のコンマ十の位
先に次スレを建てました。そろそろ始めます。
【艦これSS】提督「壊れた艦娘と過ごす日々」06【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422961385/)
提督「その原因と言うのは、分かりますか」
難しい話だと思っているのか、夕立はまるで他人事のように頭をふらふらと揺らしながら聞いている。
原因が分かれば、対策も立てやすいと思ったのだが、しかし医師は首を横に振った。
医師「彼女の話はあちこちに飛んで、要領を得ないのです。傍にいる人のほうがこう言う場合は得てしてわかるものです」
提督「そうですか」
今日初めて夕立を診察した医師に比べれば、確かに俺は夕立と一緒にいたことになるだろう。
だけれど、彼女の事を理解してあげられるくらい傍にいたかと問われると、これは疑問の余地が色濃く残る。
鎮守府で共に過ごしたと言うだけで、別段深く彼女に踏み込んだ事はなかったのだ。
とはいえ、これから先夕立の心の天秤を元の水平に戻す作業は、率先して自分が行っていかなければいけない。
意識して分銅を移動させているわけではなく、おそらくは全くの無意識なのだろう。
必要以上の、最大限を超えた集中力と神経を尖らせた結果があの戦果で、その反動が今である。
十ある能力を、日常とそれ以外──彼女達の場合は、戦争とで、半々にするのが通常だとして。
そこに性格や今までの体験が加わって、一つ二つぶれることはあっても、夕立のように全ての分銅を片方に乗せてしまうことはない。
普通はどこかで意識的にも識域下でも、ブレーキがかかるはずなのだ。
夕立「提督さん、まだ帰れないっぽい?」
退屈そうな表情で夕立が俺を見上げる。
医師に視線を向けると、今度は首を縦に動かした。
提督「いや。もう終わりだ。帰ろうか」
それを聞いて、足をぷらぷらと動かしていた夕立が、立ち上がる。
夕立「はぁい」
踵を返すのにあわせるように、長い髪が揺れる。
夕立「んー、ふーん」
鼻歌を交えながら、夕立が俺の前を歩く。
視線は床で、継ぎ目を足で踏むように、遊びながらふらふらと動く。
提督「なぁ、夕立」
夕立「なぁに?」
病院を出てからも夕立の遊びながらの歩行は続く。
つま先立ちで、踊るようにコンクリートの正方形を踏みしめた。
提督「君は、いつも深海棲艦と戦う時、何を考えているんだ?」
夕立「んー……」
長い髪が左右に揺れる。しばし悩んだ様子だったが、しかし答えは空を切るものだった。
夕立「わかんないっぽい」
提督「何も考えていないわけではないだろう」
敵の位置や距離など、戦いを有利に進める上では欠かせない判断のはずだ。
あるいは彼女もそれくらいは考えているだろうし、単にうまく説明が出来ないだけかもしれない。
理論と感覚でいったら、彼女は間違いなく後者だ。
頭で考えるよりも、身体を動かすタイプなのだろう。
とはいえ、だからと言って、むやみやたらに突っ込みのだけは留まって欲しい。
見ていて不安になるのだ。
夕立「夕立は楽しいっぽい」
提督「君自身はそうかもしれないが、しかし怪我はしないに越したことはない」
演習のときも、被弾を一切気にせず飛び込んでいた。
いくらペイント弾とはいえ、全く衝撃がないわけではないのだ。
というより、避ける素振りくらいは見せてくれないと演習にならない。
夕立「んー。でも、致命傷にはならないって思ってたし」
手を後ろに組みながら、緩い声でそう言った。
夕立「少しくらいなら当たっても大丈夫っぽいかなって」
提督「しかしなぁ……」
それはつまり、全く避けていないわけではなく、あくまで急所だけはかわしていると言うわけか。
それはしかし。
夕立「大丈夫」
にこりと夕立が笑う。
微かに異常を滲ませた紅い笑み。
急所だけを避けているという事は、被弾自体は覚悟をしているという事になる。
夕立「火薬の匂いとか、砲弾の音とか、そういうの。好きっぽいから」
夕立「痛いのも、結構好きよ?」
提督「……、……」
首を傾げる様にそう笑う夕立ではあるが、俺の内心は穏やかなものではなかった。
言ってしまえば、命の危険に対して夕立は、興奮に近いものを感じているのかもしれない。
敵に脅かされる恐怖心と被虐心、その恐怖を打ち破る敵愾心と加虐心、そして達成感と高揚感。
それらが相混ざって、きっと夕立は間違った方向に感情を昇華しているのだろうか。
提督「……、夕立」
夕立「あ、提督さん。見てみて!」
ぱっと表情を明るくし、普段の柔らかいものに戻した夕立が、何かを指差した。
夕立「夕立、何か甘いものが食べたいな?」
提督「……」
夕立「だめ?」
上目でねだりながらそう尋ねる夕立。
提督「……、いや。構わないよ」
夕立「ほんと? 嬉しいっぽい!」
恐らくまた彼女は、オレンジジュースとショートケーキを頼むのだろうか。
温い手で背中を触られたような、嫌なものを感じながら夕立の後を追う。
行きと同じ喫茶店に向かいながら、一つ大きく息を吐いた。
【一月二週後半】
提督「……」
わざわざこんな辺鄙な所にまで郵便を届けるのも大変だ、と思いつつも届いた封筒を眺める。
差出人は……
提督「……これは」
北鎮守府の提督だった。
それを見て念の為あて先を見直すが、しかし間違いなどではなく、確かにここに向けてのもののようだ。
彼とは士官学校の同期ではあるが、別段仲が良かったわけではない。
ましてや、俺がここの鎮守府に異動になってからは、一度も会った事はなかったはずだが。
提督「考えても仕方ないか……」
疑問や憶測は尽きないが、このまま考えていても埒が明かない。まずは封筒を開けてみることにした。
提督「……演習?」
中に入っていたのは、一枚の紙と簡素な文章。
ただ一行、月末に演習を希望する、というものだけだった。
演習相手が見つかるのは、鎮守府の都合としては良いものだったが、しかし諸手を挙げて喜ぶべきものでもないように感じられた。
これが単純に、何の意図もないものであればそれに越したことはないのだが、さりとて彼だってこの鎮守府がどういう場所なのかは分かっているだろう。
東にいる友人ほど気の知れた相手ならまだしも、彼がわざわざ俺を指名する理由が思い当たらないのだ。
提督(あるいは俺の考えすぎで、案外彼もそこまで変な奴ではないのか……?)
しかしどれもが憶測の域を出ない。
提督(まぁ、この件はおいおい考えるとしよう。とりあえず今は、今週の予定を考えなくては)
↓2
1.出撃
2.演習
3.遠征
4.工廠
5.その他(自由安価。お好きにどうぞ)
榛名「提督、今週は何を……」
提督「ふみふみ」
榛名「え?」
提督「ふみふみ」
榛名「え、え?」
提督「ふみふみ」
榛名「す、すみません、ちょっと榛名にはわかりません。どういうことですか」
提督「ふみふみ」
榛名「ふみ……踏めば良いのでしょうか」
提督「ふみふみ」
榛名「でも、提督を踏むだなんてそんな」
提督「ふみふみ」
榛名「しかし、それが提督の望みであれば……。すみません、失礼します!」フミィ
提督「ふみ゛」
榛名「……これは」フミフミ
榛名(いけない事をしているはずなのに、なんでしょうかこの、感覚)フミフミ
榛名(背徳感でしょうか。何だか、背筋がぞくぞくします)フミフミ
榛名(榛名、感激です!)フミフミ
榛名「次は榛名を踏んでください!」
睦月「ちょっとまったぁ!」ババーン
榛名「!?」
睦月「話は聞かせてもらったのです! 榛名さん、提督を踏むだなんて、そんな羨まけしからんことは、天が許しても睦月が許しません!」
榛名「で、でもこれは提督が……」
提督「ふみふみ」
榛名「提督もこう言っています! これは提督の指示なのです」フミフミ
睦月「鼻息を荒くしながら言っても説得力がないのです、神妙にお縄につくのですよ」
睦月「第一、提督の言うふみふみというのは、こういうプレイではないのです」
榛名「では、一体何を言っているのですか?」
提督「ふみふみ」
睦月「提督の言うふみふみとは……ずばり!」
榛名「ずばり?」ゴクリ
睦月「睦月型駆逐艦七番艦、文月のことです!」
榛名「な、なるほど……!」
睦月「ついに提督も文月教に入信してしまったのですね……」
榛名「そんなに凄いのですか」
睦月「凄いなんてもんじゃないのです。群雄割拠の宗教の中でも一騎当千を誇る巨大戦力なのです」
榛名「榛名、感激しました!」
睦月「しかしここに文月はいません。こうなれば……」
榛名「こうなれば?」
睦月「文月になるしかありません!」
このSSまとめへのコメント
頑張ってくれ
睦月のターンが可愛すぎてダメだこりゃ
睦月さんお腹を撫でてもらうのは色々な意味でまずいです!!
この話もう終わっちゃうのか?私的には何とか上手く続けて欲しいな
鈴谷の出番をはよはよはよはよはよはよは
フィルタ無効化したら住民が酷く殺伐としててこっわいこっわい
今更ですが、896の時点では伊58は、大和と遭遇したことは提督に言っていない気がしますが、
あれは伊58自身の回想にしか見えませんし