【艦これ】 提督「瑞鳳に媚薬を飲ませてみた」 (36)

媚薬の飲ませるSSを見てたらいてもたってもいられなくなったので、衝動的に書いてしまいました

途中から急に地の文が入りますが、そこだけご勘弁を

書き溜め済みですので、数分おきに投下します

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406202926


瑞鳳「提督、任務娘さんから今日の仕事貰ってきましたよ」

提督「うん、ご苦労だった。それで、今日の任務は?」

瑞鳳「今日の任務は……午前10時、午後1時にこの鎮守府近海を航行する輸送艦の護衛。あと、ここ最近深海棲艦の目撃情報が増加しているらしいから、『近海の警備を怠るな』って」

提督「ふむ、特に変わった任務はなし……と」

提督「そうだな……じゃあ、輸送艦の護衛には第1艦隊を当ててくれ。警備は、引き続き第3艦隊の子たちに頼んでくれ」

瑞鳳「ん、わかった。そういう風に言っておくわね」

提督「おう、頼んだ」


提督「それにしても、今日は暑いなー。初夏の暑さとは思えんな。舐めてるとすぐ汗が出てくるよ」

瑞鳳「たしかに今日は暑いわね……そういえば、空調機とかつけないの? 司令室ぐらいつけてもいいのに」

提督「それがさ、お上の方が『暑さに強くなるため』とかなんとか言って、許可を下ろさないんだ。この鎮守府は学校かよ……」

瑞鳳「ひえー……それまた大変ね……」

提督「例年通りだと、空調機の使用許可が下りるのはもう少し先だからな。今年も例外はないってことだろう」

提督「そんな感じで、今は我慢しろってことだな。ったく……暑すぎて仕事に支障が出そうだよ」


提督「汗がしたたりそうだ……。ん……瑞鳳はあまり汗かいてないのか?」

瑞鳳「私? 少しだけならかいてるけど……って、これ女の子に聞くこと?」

提督「おっと、それはすまない……。いやしかし、汗をかいたなら水分補給は必要だよな。うん、今日ぐらいの猛暑日なら、水分補給は必須だよ。うん」

瑞鳳「ん、確かに私もそう思うけど……言い方不自然すぎない……?」

提督「……そんな訳で、スポーツドリンクを作ったんだ。って言っても、粉を水で溶かすだけの簡単なやつだけどな」

提督「これを瑞鳳に進呈しよう。ほれ」

瑞鳳「あ、ありがと……う? んっ、冷たい……」

提督「凍らせておいたからな、今日の昼ごろには丁度良く溶けるはずだよ。喉が渇いたら飲んでくれ」

瑞鳳「そう……じゃあ、せっかくのご厚意だしありがたく貰ってくわ。ありがと!」

瑞鳳「それじゃ、持ち場に戻るわね!」

提督「おう、頑張れよ!」


提督(よし、なんとか瑞鳳に媚薬入りの飲み物を渡したぞ……!)

提督(あれを口にするのは昼すぎだろう。だとしたら効果が出るのは、恐らく今日の夜か……)

提督(媚薬を混ぜすぎた感があるが……大丈夫だろうか……?)

提督(まぁやってしまったことを悔やんでも仕方がない。あとはなるようになるだけだな)

提督(しかし一体どうなるやら……少し怖くなってきたぞ……)

台本ここまでです

地の文つきに移行します


 今日の報告書にひと通り目を通したあと、提督は壁に掛けられた時計の方へと目をやる。
 針はすでに9の文字を過ぎていた。
 提督の座る椅子後方に飾られた窓の、透き通ったカーテン越しに外の景色を見渡そうとする。だがとっくに日は落ちており、月光に照らされた夜空しか見ることができなかった。

 今、期待と不安の両方が、提督の胸の中をぐるぐると駆け巡っている。どちらかといえば、期待のほうが大きいだろうか。
 部屋の暑さを忘れるほどに、提督は緊張感のようなものを感じていた。
 
 そろそろ瑞鳳が、この部屋へやってくる頃だ。

 瑞鳳はどうなったのだろうか。そのことを考えながらでは仕事に手がつくわけもなく、提督はほとんどの仕事を明日に持ち越してしまいそうだった。
 「心の準備をしておくかな」なんて提督が呑気な事を考えていると、コンコンと控えめな音が部屋に響く。
 
「提督、瑞鳳です……呼ばれた通り、来ました……」
 
 扉越しに聞こえる声は先入観からだろうか、少しこもっていて、いつもと様子が違ったように聞こえた。
 そのせいもあって反応に戸惑り、少しどもりながら提督が答える。
 
提督「あ、ああ……入っていいよ……」
 
 少しの間が沈黙を作ったのち、徐々に扉が開かれる。
 


 こつこつと音を立てながらゆっくりと部屋に入る瑞鳳。明らかに具合がおかしい――。

 おかしいと感じるのは提督だけだろうか。いや、恐らく誰の目にも明らかだった。
 
 弱々しくも荒い息遣い。紅潮した頬。その澄み切った瞳には、うっすらと涙を浮かべている。
 肩を大きく揺らしながら息を吸い、怠そうに、何かを発散させようとするかのよう、じんわりと息を吐く。
 心なしか崩れた上着からは、白い肌が顔をのぞかせていた。
 その上半身に滲んだ汗が、その姿をさらに艶めかしく演出している。
 
 媚薬を盛ったという事実を知る提督だけが、それを理解できるのだろうか。誰が見ても、彼女が何かを求めていることは一目瞭然なのだろうか。
 
 その様子に提督は息を呑む。姿を見ただけで脳が揺さぶられる。
 この妖美な姿に、見惚れない男はいないだろう。提督も例外ではない。
 如何わしさを振りまく彼女を、誰にも見せたくないとまで瞬時に思わせた。
 
 時間にすればほんの数秒、数十秒の出来事だが、それ以上に時間が過ぎているのかと、脳が錯覚させていた。
 瑞鳳を見つめながら固まる提督に、瑞鳳が困ったような表情で呼びかける。
 
瑞鳳「あの、提督……用事……って、なんですか……?」
 
提督「う……その、なんだ……報告書を作るのを手伝ってもらおうと、思って……だな……」
 
 提督が瑞鳳に目を這わせる。その状況を作ったのが提督だったとしても、それを聞かざるを得なかった。
 
提督「それより……調子が悪そうだが……大丈夫か……?」
 
瑞鳳「その、なんだか……体がすごい暑くて……頭がふらふらするの……」

 そう言いながら瑞鳳は潤んだ瞳で提督を見つめる。その吸い込まれそうな視線に、提督は頭がクラクラする。
 今の提督の視界には、瑞鳳しか映っていなかった。
 

 
提督「そ、そうなのか……」
 
提督「その、なんだ……そんな様子じゃ仕事も手につかないだろ……。報告書は俺一人で作るから、部屋のベッドで休んだらどうだ……?」
 
 提督は部屋の隅に置かれたベッドへ目を泳がせる。
 卑しい気持ちからではない。瑞鳳のあまりの変化に驚愕し、心の中で葛藤しながらも、提督は瑞鳳の身を案じることを選択した。
 それに、この状態の瑞鳳を外へ出してしまうと、誰にどんな目で見られるかわからない。
 提督だって男だ。今、この状況を少しの間だけ独占することを選んだ。
 
瑞鳳「うん、そうする……」
 
 この提督の発言をどう受け取ったのか、瑞鳳はあっさりと承諾する。
 しかし、瑞鳳は動く気配を見せなかった。
 
提督「どうした? 手伝いだったら本当に大丈夫だから、少し休んどけ」

 
 
 
 


瑞鳳「……歩くの辛いから、提督……連れてって……?」

 
 


 
 
 うつむきがちに言葉を発する瑞鳳。

 
 その台詞に、提督は言葉を詰まらせる。自らの心臓が恐るべき速さで鼓動しているのがわかった。
 握りこんだ手が熱くなる。何かを抑えこむように、呼吸を荒らげる。

 もう一度確認するように、「いいのか……?」と提督が尋ねると、瑞鳳はゆっくりと頷いた。
 
 瑞鳳の側に提督が立つ。すると瑞鳳はゆっくりと右手で提督の手を掴み、もう片方の手で軍服の裾を優しく握る。そして肩を、自ずと提督の方へ寄せる。
 雪のように白い肌が提督の手と重なる。その光景に、提督は固唾を飲む。

 瑞鳳の手から温もりを感じる。提督の体温は上昇していたが、それ以上に、瑞鳳は火照っていた――。
 

 

提督(まいったな……こりゃ完全にやりすぎた……)
 

 提督が徐々に足をベッドへ向かわせると、その後を追うように瑞鳳がついてくる。
 瑞鳳と二人きりの空間。いつもなら、他愛ない会話が提督の口から飛び出すことだろうが、今はそれが出てこない。出せなかった。
 
 自身の手を掴みながらついてくる瑞鳳の顔を、提督は見ることが出来ない。
 だが、その彫刻のように繊細な、白い手から伝わってくる緊張や、不安を感知することはできた。
 
 提督がベッドに辿り着くと、提督の手を握ったままの瑞鳳は躊躇いがちに、手をゆっくりと離す。
 ベッドに腰を下ろした瑞鳳。それを見届けた提督は、自身の何かを振りほどくように、元の場所へ戻ろうとする。
 提督が瑞鳳に後ろ背を見せると、瑞鳳が口を開いた。
 

瑞鳳「提督も……ベッド……座って……」
 

提督「う……」
 
 その言葉を聞いた提督は拒否することができなかった。

 一度は落ち着きを取り戻した心臓の鼓動が、再び早まる。
 操り人形のように体を動かす提督。ゆっくりとベッド――瑞鳳の隣に腰を下ろす。

 
 
 二人の間に沈黙が流れた。提督は瑞鳳の方を向くことができない。

 瑞鳳が再び提督の袖をぎゅっと握りこむ。
 先に沈黙を破ったのは瑞鳳だった。
 

 
瑞鳳「やっぱり今日の私、なにかおかしいよね……こんな風になっちゃって……提督も、困ってるよね……?」
 
 上目遣いで瞳を潤わせながら提督を見つめる瑞鳳。提督は心ここにあらずだった。
 
 提督が硬直していると、瑞鳳がゆっくりと、自らの体を提督の方へと寄せる。
 瑞鳳と提督。二人の衣服が擦れあう音が、部屋の空気を変える。その音で、提督ははっと我に返った。
 
提督「そ、そうだな……今日のお前は様子が変だ……! だから早く休んだほうが――」
 

 提督の言葉を遮るよう、瑞鳳がその身を提督の胸へとうずめた――。

 
 
瑞鳳「体の、奥が……あついの……」

 

 またたびに酔う猫のように、その体を提督に擦らせる。
 しっかりと整えられた灰茶色の髪が、提督の顔を掠める。シャンプーのいい匂いが提督の鼻を包んだ。
 目の前に居るのが男だということを認識しているのだろうか。襟から胸元にかけて服がはだけ、その綺麗な肌が空気に触れていた。しかし、瑞鳳が気にする様子はない。
 
瑞鳳「んっ……こうしてると……頭が……真っ白になって……」
 
提督「瑞鳳ッ……! それはまずい……!」

 瑞鳳は体を擦るのをやめない。
 その行為によって何かが吹っ切れてしまったのか、体を擦らせる瑞鳳の口から、吐息が嬌声となって提督の肩にかかる。
 すでに、瑞鳳は提督に抱きつくような形になっていた。優しく、それなのにしっかりと瑞鳳が提督を抱きしめるたび、服から白く透き通った肌がこぼれた。
 




 


瑞鳳「提督……んっ……好き……」

 
 
 
 


 
提督「ッ……! 今なんて……」
 




 提督は心臓が飛び出しそうになる。脳が段々と思慮を破棄していくのがわかった。
 この溢れ出る感情に、身を委ねてしまいたい。

 その光景をただ見つめる提督は、またしても激しい葛藤に襲われていた。
 激しい感情の波が、脳内を行ったり来たりしている。もう提督は、自分の体を押さえつけるのが精一杯だった。
 そんな提督を知ってか知らずか、瑞鳳はお互いの汗を交じり合わせるかの如く、さらに体を密着させようとする。

 
 
瑞鳳「んっ……好き……大好き……」

 
 
 瑞鳳が甘くささやく。


 
 提督の手が震える。我慢の限界だった――。

 
 
 瑞鳳を強く抱きしめたい。抱きしめて自分の物にしてしまいたい。瑞鳳は拒まないだろう。

 それができたら、どれだけ心が満たされるだろうか。そもそも、今ここでそれをしたとして、咎める者は誰もいない。
 
 事実を知るのは提督と瑞鳳だけなのだ。真実を知るのは提督だけなのだ。
 今すぐ瑞鳳を抱きしめ、そっと体を押し倒せばそれで終わりだ。

 
 
 提督はおもむろに、その手を瑞鳳の腰へと伸ばしていく――。

 
 

 
 しかし、寸前のところで提督は手をとめた。

 
 
 それはできない――。

 やってはいけないと、僅かに働く脳が呼びかけている。瑞鳳の口から漏れたものが嘘偽りなかったとしても、今は駄目だと――。
 信頼を裏切るなと、心の声が提督の頭の中を走り回った。
 
 伸ばしかけた手の首を、もう片方の手で掴むと、提督が大きく深呼吸をする。
 ゆっくり手首を離し、瑞鳳の肩を優しく抱き寄せると、そのまま自分の崩れた衣服を整えた。
 
提督「今夜起こったことは全部夢だったんだ、忘れた方がいい。すまなかったな、瑞鳳」
 

 提督は顔を極限まで瑞鳳に近づける、そして――。

 
 
 その頬に、口づけをする――。

 
 
 ピクリと体を動かした瑞鳳。小さく声を漏らすが、拒絶しなかった。

 
 司令室は無音に包まれている。この空間だけ、時間が止まっているかのようだった。
 
 瑞鳳は動かない。提督の行動を待っているようだった。提督は無言のまま、そっと口を離す。
 乱れた瑞鳳の服装を、軽く整えてやる。それだけで瑞鳳は理解したようだった。
 
 今の提督にはこれしかできなかったが、これで十分、満たされている。瑞鳳はどうかわからないが、これでどうか勘弁願いたかった。
 
提督「……ベッドは好きに使っていいから、今日はここで寝てくれ。きっと明日には良くなってるさ」
 
瑞鳳「……提督は、どこで寝るの……?」

提督「俺は床さえあればどこでも寝られるから、大丈夫だ。……っとそうだな、今夜は暑くなるし床だけで寝るのはちょっとキツイか。よし、空調機もこっそりつけとこう。もし寒くなったら言ってくれよ」

提督「今から俺は報告書を作るから、瑞鳳は勝手に寝ててくれ。体が怠いのは……どうにか我慢してくれ……」

 再び心に迷いが生じないよう、まくし立てるように話す提督。提督の言葉に、瑞鳳は素直に従った。
 
瑞鳳「うん、わかった……じゃあ今日は、提督のベッド……借りるわね……」
 
 その消え入りそうな声を背中で聞き入れ、提督は机へと戻っていった。
 

 
提督「ふぃー……報告書完成、っと……」
 
 仕事を終えた提督は壁の時計に目を向ける。
 深夜0時を回っていたが、大量の書類を相手にするには、まぁこんなものかと言ったところで、大した感情は生まれてこなかった。

 提督はベッドへと視線を移動させる。瑞鳳の眠りを妨げないよう、部屋を机のスタンドのみで照らしていたので、明かりは薄暗く、ここからは瑞鳳の顔を見ることができなかった。
 提督は立ち上がり、ベッドへと向かう。
 
瑞鳳「んぅ……すぅ……すぅ……」
 
 そこに瑞鳳が居ることを確認する。どうやら眠ることができたようだ。
 少し乱れたその服から、チラリと白い肌が見えた。
 
 すやすやと寝息を立てていることを確かめると、提督は自らの軍服を脱ぎ、肌を隠すよう、優しく瑞鳳に羽織らせる。
 もう瑞鳳に異変はないようだった。そのことがわかると、どっと疲労と眠気がこみ上げてくる。
 
提督「まさかあんなことになろうとは……本当にすまなかったな……」
 
瑞鳳「ん……」
 
 提督は静かに呟く。瑞鳳の額に流れる汗をそっと手で拭うと、無防備な頬にまたしても口づけをしようとしたが、一歩手前のところでやめた。
 
 そのままベッド隣の床下に座り、ゆっくりと体を倒す。ほんのり冷たい床が、気持ちよかった。
 空調機がごうごうと鳴っている。その音は、提督の耳には入らない。
 ほっと一息ついて目を閉じると、提督の意識は少しづつ闇に包まれていった。
 

 
 固い床の感触を体に浴び、提督はゆっくりと目を覚ます。
 体を起こすと、瑞鳳に掛けたはずの軍服が、上半身からひらりと落ちた。
 しわしわになったそれを拾いながら提督は立ち上がる。提督は立ち上がるとほぼ同時にベッドを見た。
 瑞鳳の姿がない。それに、ベッドのシーツが外されている。多分、自分が使用した事を気にして、洗濯をしに行ったのだろう。
 
 別にそんなこと気にしなくてもいいのに。と提督は思ったが、彼女も女の子だ。やっぱり気になるのだろう、と一人で納得する。
 
 そんなことを考えていると、司令室の扉が開かれ外から瑞鳳が入ってきた。
 
 瑞鳳の様子は、昨日とは打って変わって普段通りのようだったが、提督の顔を見るなりほんのりと頬を赤らめる。
 
瑞鳳「うぅ、その……おは、よ……」

 伏目がちに挨拶をする瑞鳳。何故かそれだけで提督はドキリとする。
 
提督「昨日のことは気にするな……悪い夢だったんだよ」

 
瑞鳳「き、昨日の……あぅ……」

 
 昨晩の出来事を思い出したのか、瑞鳳の顔が火を噴き出しそうなほど真っ赤になる。
 それを見た提督も、昨晩のことが走馬灯のように蘇る。
 提督の身体に重ねられる瑞鳳の綺麗な手。白い肌。甘い表情。艶めかしい息遣い。

 また心臓の鼓動が早まりそうになり、無理矢理心を落ち着かせる。
 気まずい空気を振り払うように、提督が声を出す。
 
提督「とっ、とにかく! 早く忘れた方がいい!」
 
 取ってつけたような態度になってしまったが、瑞鳳も昨日のことはあまり思い出したくないのか、それに同調する。
 
瑞鳳「うん……! そ、そうね!」
 
 瑞鳳は自分の感情を吹き飛ばすかのように、すぅーと深呼吸をすると、何度か瞬きしたあとに、いつも通りの調子で提督に語りかける。
 
瑞鳳「それじゃ、今日の任務を聞いてきたから、それを教える……前に……」
 

 
 瑞鳳は提督をまじまじと見つめる。それに釣られ、提督は自分の外観に目をやった。
 寝起きのせいか服が着崩れていて、だらしない格好をしていることに気づき、急いで服装を整える。
 それを見ていた瑞鳳がくすりと笑った。まだ本調子ではないかもしれないが、だいぶ調子は元に戻ったようだ。
 
提督「よし……と、これで問題ないか? じゃあ、よろしく頼む」
 
瑞鳳「わかりました! 今日の任務は――……」
 
 いつもと同じように瑞鳳が伝える。それ対し、提督もいつも通り返す。
 昨日の朝おこなった会話と同じやりとりが交わされる。
 
瑞鳳「ん……これで朝の報告は終わりだけど……」
 
瑞鳳「……提督、ちょっと止まってて――」
 
提督「ん? わかったけど……」
 
 報告を終えた瑞鳳が、急に提督の側へと歩き出す。
 一歩一歩何かを考えながら歩いているようなその姿に、自然と提督の目がいく。

 目の前まで行くと、瑞鳳は提督と目を合わせる。なにを考えているのか、提督にはわからない。
 
瑞鳳「その……椅子に、座って欲しいんだけど……」
 
提督「ああ……」
 

 
 促されるように椅子に座る提督。目線が瑞鳳より低くなる。
 提督を座らせた瑞鳳は、まだ何かを思い悩んでいるようだった。
 
 瑞鳳は深呼吸を一回すると、顔を提督の顔へとぐっと近づける――。
 
 瑞鳳の穢れのない瞳が、目と鼻の先にある。その表情は、何かを決意している。
 提督が言葉を発しようとすると、それを阻止するかのように――瑞鳳が言葉を重ねる。

 
 
 
 
 
瑞鳳「これは、ゆうべのお返し――ちゅっ……」

 
 
 
 
 
 唇と唇が重なりあう――。

 
 
 柔らかい感触が、提督を包む。

 
 突然の出来事に提督は表情が固まり、状況を瞬時に理解できない。
 だが、やがてそれを理解すると、提督は目を丸くする。文字通り目の前には、目を閉じたまま顔を真っ赤にする瑞鳳がいた。
 
 唇を合わせるだけの軽いキス。それなのになぜか甘い香りがする。

 心拍数が上がる――。すべての血液が逆流しているように感じた。体を動かそうとしたが、脳がそれを拒否した。
 
 脳がアドレナリンを分泌する。それはほんの一瞬の出来事だったのかもしれないが、永遠にも感じる時間が流れた――。
 

 
 やがて瑞鳳はその唇を離し、くるりと踵を返すと、無言のまま歩き出す。
 その光景を呆然と見守る提督。瑞鳳は扉の前まで立つと、ふわりと振り返り、火照った顔を提督に向ける。
 
瑞鳳「それじゃ、仕事に戻るわね……じゃあね、提督」
 
 言い終わると、瑞鳳は司令室をあとにする。この一件は、これで終わりだと言わんばかりだ。
 
 一人になったところで、ここまで放心状態だった提督の脳が徐々に時間を取り戻す。
 
 手に力が入らない。脳が揺れている。呼吸も荒くなっていた。体全体が、瑞鳳の虜となっている。
 五感が震えていた――。儚く消えてしまいそうな出来事を前に、湧き上がる熱情が全身を駆け回っていた。
 この感情が過ぎ去ってしまう前に、その一部始終を脳裏に焼き付けようと、脳が勝手に働きかける。
 
 早まった鼓動を抑えきることができない提督は、一人虚空に向かって呟く。

 
 
提督「瑞鳳……そりゃ反則だろ……」

 
 
 
 
 
 
 結局、その日以来瑞鳳がそれに触れることはなかった。

 
 またいつも通りの瑞鳳と、いつも通りの提督になる。
 本当にあのキスが夢であったかのように、簡単にそれは、遠い出来事になってしまいそうだった。
 変わらぬ日々。あっさりと元の関係に戻る二人。別にそれでも提督は構わなかった。
 
 一つ変わったことがあるとすれば、二人っきりの時間が、心なしか増えたことぐらいだろうか。

 
 
――完

 

以上で投下終了です

本当はエロいのが書きたかったのですが、今の技量では不可能だと思い断念しました・・・

拙く短い文章でしたが呼んでくださりありがとうございました

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