モバP「妖怪なんでも屋」 (25)

いらっしゃいませ

いや、実に久しぶりの人のお客さんです

いつぶりでしたっけ…
一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月
あれ、いつぶりだっけ?

まぁそれはおいといて
それで、久しぶりのお客さんのご用件は?

え?分からない?
道に迷って辿り着いた?
そうですか、そうですか
だとしたら、お客さんはなんと幸運なことでしょうか

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何故かって…
ほんとにこの店の事を知らないのですか?
はったりでも嘘でもなく
偶然この店に…

ならば、お客さんは実に不幸です
いや、やはり幸せでしょうか
分かりませんねぇ、まったく分かりません


まぁまぁ取り敢えず中にお入りください
恐い?取って食べたりなんてしませんよ
それは鬼の仕事ですから
ええ、私は違いますよ

私はただの店番でございます

ささ、お茶をどうぞ

んー、やはり鳩麦茶が一番ですな

冷えた茶からこの鼻に抜ける香りが全くたまらんのです

え?寒い?ああ、今は秋でしたね
確かにそうか、寒い寒い
寒い寒い

ふむ、それにしましょうか
さぁ、お客さんは何にします?

何って、欲しいものですよ

周りをご覧ください
古きは先カンブリア期から新しきは五年先まで
ここに全て取り揃えております
形の無いものもご用意できます

さぁ、いかが致しましょうか


ほう、それを選びますか
幸か不幸か幸か不幸か

貴女次第といったところでしょう

本日はありがとうございました
またのご来店をお待ちしております

「えへへっ、Pさん遂にやりました」

「ああ、おめでとう」

「私が初代シンデレラガールなんて、夢みたいです」

「夢じゃない。愛梨が頑張ったから今があるんだ。本当におめでとう」

「Pさん…ありがとうございます。私、Pさんがいたから、ここまで来れたんです」

「愛梨……」

「ところでPさん、ここ暑くないですか?」

おや、いらっしゃいませ

またまた人のお客様が
連日とは珍しい
いえ、こちらの話でございます

して、今日はどういったご用件で?

ふむ、見えなくなった、と
また見たい、と
うーむ、奇妙な人もいたものです
普通、人というのは見えぬものを拒絶するものでは?

友、ですか
良い響きですね
私にもかつて友がいました
ええ、いましたとも

もし、あなた方人間が討たなければ
私は今頃彼と何をしていたのだろうか
そう思索に耽ることがごさいます

いや、あなた様は何も悪うごさいません
全てはあの憎き桃太郎のせいであり
すでにこの怨みもいつしか愛へと変わりました

何故…?

人は我々に無いものをたくさんお持ちですから、私のように人と妖怪の間で商いをする者にとっては上客なのです

人と妖怪が憎み合う時代は終わり、持ちつ持たれつの新たな関係を築いていくべきだとも思っております

さて、お支払いの方ですが…
半分というのはいかがでしょうか

片方は人の為
片方は我らの為

え?それでは支払いでない?

いえいえ、あなた様に架け橋となって頂くことが対価ということです

納得していただけましたか?

それは良かった

あなた様は特別な方のようです
人にも我々にも好かれる、特異な方

またのご来店をお待ちしております

「……うん…そう…………………ふふっ……」

「…へぇ…わ、私も…この前…行ってきたよ…お、おもしろかった……」

「………?…あ、そう…あのお店……」

「おーい、小梅ーそろそろ行くぞー」

「…!よ、呼ばれた……お仕事……行ってきます…」

「…ふふ。うん……また後で…」

はいはい、ただいま

おや、いらっしゃいませ
お久しぶりです

え?何をしてたかって?
少し戸棚の整理を…
こ、これでも片付いた方なんですが何分物が多くて…

まぁ、そんなことは置いといて
以前ご購入頂いた「運命の出逢い」
如何でしたか?

それは良かった
ええ
ほほぅ
駅で偶然、ですか
はて、それは偶然でしょうか?

私は確かあの時、対価として「偶然」を頂きました

何故ならそれが「運命の出逢い」と相反する物だからです

これから先、お客さんの未来には「必然」しか残されておりません
なにしろ、運命を決定付け選択肢を捨てた訳ですから


ふふっ、この店がどのような所かお分かりいただけましたか?

ええ、気を付けないと取り返しのつかないことになりますよ

して、本日はどういったご用件で?

「彼の想い」ですか
出逢えたはいいけどそこまで、と
ふーむ…困りましたねぇ

確かに何でも取り揃えているとは申しましたが…


神無月、神有月をご存知ありませんか?

そうです
八百万の神が一堂に会し男女の縁を決める月

わざわざ出雲に集まったかと思えば恋ばなとは…
神様も他にやることはないのでしょうか
そして私には何時になったら…

おっと話が逸れました

まぁ、つまり私が手を出せる領域ではないのです

もし出したら…そうですね
良くて地獄
大方抹消
おそらく塵さえ残らないかと

元々疎まれていますし、これ幸いと処罰を下すと思いますよ、ええ

分かっていただけましたか
ありがとうございます
お力になれず申し訳ございません

え、神々に会いたい?
出雲へ出向いたとしても普通の人間では無理かと…
しかし、なぜ…?
まさか…

「Pさん、Pさん」

「ん?何だ、まゆ?」


「10月のここからここまで、お休みを頂きたいのですが…」

「まゆが休み、か。珍しいな」

「ダメ、でしょうか…?」

「いや、大丈夫。むしろもっと休め。まゆは頑張り過ぎな面もあるし」

「うふ…全てはPさんのためですから」

「あまり根詰めるなよ。で、一応理由聞いとかなきゃいけないんだが」

「島根県へ、行ってきます」

「島根?何で?」

「ちょっと、直談判を」

はーい
はいはい

おや、またいらしたんですか
何度いらしても駄目なものは駄目です

私がアイドルなんて…
もしそんなことをすれば他の魑魅魍魎に何と言われるやら

え?今日は違うんですか?

あらやだ、恥ずかしい
早とちりをしてしまいました

して、本日のご用件は?

え、ええ。ここに在るものは全て商品ですが…

は?今なんと仰いました?

買う?

私を?

貴方が?

あははは、本当ご冗談がお上手で
例え買われたとしてもアイドルなんてなりませんよ

事務?ですか

ええ、確かにこの店は私一人で回していますが

はぁ、人出不足…
私の知ったことではありません

愛梨?小梅?まゆ?

知りませんねぇ
ここでは名など要りませんから

尋ねないし、名乗りません

ははぁ……最近やけに人のお客様が増えたと思ったら
そうですか、貴方の差し金でしたか

商品は、私の事務能力
対価は、市場

それで成り立つとお思いで?

私がそちらで仕事をするということは時間も提供することになります

ふふふ、物分かりが良くて助かりますよ

そうですねぇ、時は金なり、と言いますから

これから貴方が得る財の半分、でどうでしょう

では、そういうことで

また明日

「Pさん」

「なんですか?ちひろさん」

「エナドリ、1ダースいかがですか?」

「ああ、頂きます」

「1200MCです」

「はい」

「まいど。あと、ちょうど月末ガチャやってるんですけど…」

「回します。回しますとも」

「いつもありがとうございます」

「いえいえ、なんのその」

「今月は出ると良いですねぇ」

「ええ、まったく。先月も先々月も出ませんでしたから」

「うふふ…頑張ってくださいね、Pさん。これからも、ずーっと」

以上になります

この後、まゆが茄子さん連れてきたり
ちひろさんが茄子さんに恐れおののいたりするのは
また別のお話

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