―東の外れの街・酒場―
ガチャ
店主「いらっしゃ…旅のもんかい?(薄汚ねぇローブを頭から被ってやがる…野盗か?)」
剣士「あぁ 邪魔をする。暖かい飲み物をくれ」
店主「…失礼だが金はあるんだろうね」ジロ
剣士「……」チャキ
店主「っ!」ビクッ
剣士「金がないなら、そこらで くたばってる屍と杯でも交わすさ」チャリン
店主「…おいおい、あんまり驚かさんでくれ。ただでさえこの辺にゃあ盗賊が闊歩してるんだ」
店主「ほれ、自慢のスープだ。暖まるぜ」
剣士「…悪くない味だ」ズズ
店主「だろう? 爺の代から味も店も変わりやしねぇ。まぁ、それが うちの持ち味なんだけどよ」
剣士「さぞ 疑り深い爺さん だったんだろうな」
店主「あんた まだ気にしてたのか…そうだ、詫びと言っちゃなんだが、俺の奢りだ。乾杯しないか?」
剣士「えらく気前がいいんだな」
店主「こんな世の中だ。人との出会いには感謝しなくちゃな」
剣士「それにしては客に向かって金はあr
店主「しつけぇよ」
店主「ほらよ」ゴトッ
剣士「感謝する。それでは…」
店主「ま、待て待て。その顔を隠してるフード、取っちまわないか? まるで死人と酌み交わすみたいで おっかねぇ」
剣士「死人、か…」
店主「ん? 何か気に触る事でも言ったか」
剣士「…いや、気にするな。構わないさ、減るものでもない」
バサッ
店主「!! なるほど…こいつぁ、外では被るべきだろうな」
剣士「ふん、ほれ」グイ
店主「あ、あぁ。それじゃあ」
剣士・店主「「乾杯」」
―東の外れた街より北西・山道―
ザッザッザッ
剣士「(故郷を離れ、既に二年の時が過ぎた。未だに目的は果たせていない)」
ザッザッザッ
剣士「(しかし…)」
ザッザッザッ
剣士「(いつになれば山を越えられる。今朝方までいた村での情報によると、そろそろ目印の木小屋が見えてもおかしくないはず)」
ザザッザッザッ
ザッザッサザッ
剣士「(ふむ…)」
ザッ ザ…
剣士「もう尾行は結構だ。いい加減に疲れる」
盗賊a「ほう、気付いたか」
盗賊b「み、身ぐるみ剥ぐんだな」
剣士「二人だけか?」
盗賊a「どうかな?」
バッ
???「上さ」
バシュッ
剣士「つ…っ!」
バッ
女盗賊「へぇ、避けるんだ。今のを」
剣士「(ローブを掠めたか。しかしどこから…近くに高台など無いはず。しかし、挟まれたか。)」
女盗賊「ほら 考えるのはいいけどさぁ、あんたは今 血に飢えた賊と崖に囲まれてるんだ。選択肢は限られているって事に気付きな!」
盗賊b「あ、姉御!」
剣士「なるほど、そういう事か」
剣士「昨日立ち寄った集落はお前達の住処か」
女盗賊「そうさ。村で品定めをし、偽の情報で近くの山森で迷わせる。そうして疲れ果てた所を喰らうのさ」
女盗賊「なぜ村で襲ってしまわないか、それはわかってるんだろ?」
剣士「…王国警備隊の拠点近くに潜むとは、考えたな」
女盗賊「灯台下暗しってやつだね。仮に報告が行っても 討伐隊は ここらで居るはずのない敵を血眼になって捜す」
女盗賊「その頃あたしらは村で酒でも かっ食らっている訳さぁ。…さて、」チャキ
女盗賊「そろそろ死んでくれるかい?」
剣士「(背に腹は変えられんな…)」チャキッ
パカラッパカラッパカラッ
???「全員捕縛しろーっ!!」
盗賊a「なっ…あ、姐さん! 警備隊の奴らだ!」
女盗賊「……ちっ。アンタ達、崖から飛びな!」
盗賊b「へ、へい!」
盗賊a「命拾いしたな兄さん」
バッ
剣士「!」
バサッ
ヒュウゥゥゥ
剣士「あれは…羽? 気流に乗って飛んでいるのか…くそっ」
パカラッ パ カ ラ…ブルルッ
???「逃がしたか…なんだあれは」ジャキン
剣士「(両手剣を片手、加えて馬上で扱うとは…何者だ)」
???「おっと失礼。怪我はないか旅の者」
剣士「えぇ、助かりました」
騎士「俺は王国直属の兵で、騎士ってもんだ。君は?」
剣士「剣士、とでも」
騎士「さっきの奴らは ここらで荒稼ぎしている盗賊団でな、俺達も手を焼いている。せめてアジトさえ わかればいいんだが…」
剣士「なら この山を南に下ってすぐの村を調べるのがよろしいかと」
騎士「村? そんな所に何が…いや 待てよ…そうか、有り得るな」
騎士「剣士、協力感謝する。すぐに密偵を送らせよう」
剣士「えぇ。ところで国境への道を聞きたいのですが」
騎士「? それなら この先の三叉路を北西に行くと大きな川に出る。川沿いに西に向かえ。まもなく関所が見えてくるはずだ」
剣士「(三叉路…なるほど。ここで気付けて良かったのか)感謝します。それでは」
バサッバッサ チュンチュン
剣士「おかしい」
剣士「(たしかに三叉路を北西に…ならばこの森はなんだ。 あの騎士が騙したとも思えん)」
剣士「(視界に映るのは青々と茂った葉と地に根強く張る木々の幹。そして獣道。そう不快ではないが…)」
剣士「少し休憩するか。よいしょっと」
グスッ…ヒック…ウゥ…
剣士「…ん?」
剣士「たしかこの辺りから…っと」
???「うぇ…っ、ぐす…ひっく」
剣士「(少女、のように見えるが…)」
剣士「おい」
少女「!?」ビックゥゥ
剣士「迷子か?」
少女「ひっ! 死神!」ビクビクビックゥゥ
剣士「(あぁ 黒いローブのせいか)ほら、これでどうだ」バサッ
少女「あっ」
少女「人間だ…」
剣士「泣きやんだな」
少女「な、泣いてない!」
剣士「…いや、泣き声を聞いてこっちに
少女「泣いてない」
剣士「……」
少女「泣いてないんだから!」
剣士「わかった泣いてない」
剣士「それで子供がこんな所で何をしていたんだ?」
少女「お店の」
剣士「?」
少女「わたしの家、道具屋やってて それで薬草摘んでて…」
剣士「一人でか」
少女「うん」
剣士「(無用心だな…)その結果迷い、泣…いや 休んでいた。そういう事か」
少女「うん、そうだよ。あと 泣いてないからね」
剣士「さっき 道具屋と言ったな。つまり この近くに村があるという事か?」
少女「う、うん」
剣士「(空も随分と薄暗くなってきた。宿をとりたい所だが…迂闊に動くのも危険か…)」
剣士「よし、今日はここに野宿だ」
少女「え!? ここで寝るの?」
剣士「あぁ。遭難した時、一番大切なのは『動かない』という事だ。夜なら尚更な。安心しろ。食料も毛布もある」
少女「ふぅん…わかった!」
コトコトコト
少女「すっ…ごーい!」
剣士「旅をする者なら当然だ」カラン
剣士「ほら、お腹が減っているだろう。遠慮せずに食え」
少女「これは…なに?」
剣士「香草と豆のスープだ。食べてみろ」
少女「…」チロリ
少女「んっ! おいしい!」
剣士「だろう? いつか寄った酒場の店主に習ったんだ。尤も、コレが無いと味気ないんだがな」パッ
少女「それは?」
剣士「そうだな…簡単に言えば肉や野菜の旨みを閉じ込めた粉末、ってところだ。少し分けてもらったんだよ」
少女「優しい人なんだねその人」
剣士「あっはっは…悪人面はしているがな」
少女「……」
剣士「どうした?」
少女「すごく優しい笑顔だと思って」
剣士「っ!」
『君は本当に優しい笑顔を浮かべるんだな』
少女「だ、大丈夫!? 頭痛いの!?」
剣士「っ…ふ…大丈、夫だ。少し、疲れたのかもな…」ドックン…ドックン…
少女「それじゃあ早く寝なきゃ!」
剣士「そうだ、な…ほら、毛布」
少女「あの…」
剣士「ん?」
少女「一緒に、寝てもいいかな」
剣士「…あぁ、構わないよ」
少女「!」パァァ
剣士「ほら、おいで」
少女「では…」ギュウゥ
剣士「(苦しい…まぁいいか)」
剣士「(昼間の盗賊の縄張りからは そう遠くないはず。用心はしておくか…)」チャキ
少女「…人を斬るの?」
剣士「…そうだな。大切なものを守る為、そう言葉を変えても 結局は剣は人を斬る道具でしかないのかもしれない」
少女「?」
剣士「君が大人になればわかるさ、きっと」
少女「ふーん…あ、わたし少女っていうの。名前」
剣士「少女か」
少女「あなたは?」
剣士「剣士だ。好きに呼ぶといい」
少女「…うん」
少女「おやすみなさい、''お姉ちゃん''」ギュ
剣士「…あぁ おやすみ、''少女''」ナデ
チュンチュン
剣士「…ん、朝か…。どうも野外だと眠りが浅い」
剣士「って、少女…? どこに行った!」バッ
少女「え、わわ! こ、こっちに来ないでー!」
剣士「なんだ…そんな所にいたのか。茂みに隠れて何をしている」
少女「いいから来るなバカー!」
剣士「なんなんだ一体」
剣士「さて、どうしたものかな」
少女「とりあえず森を抜けられたらわかると思うんだけど…」
剣士「今 私の後方全角度が山の方角のはず(たぶん)。そして今立つ地点に少女がいた。つまり正面の視界に道はある(と思う)」スタッ
少女「それでも結構広いね」
剣士「昨日は村を出てどれ程歩いた?」
少女「うーん…あんまり覚えてないけど お日様はそんなに動いてないと思う」
剣士「そうか(子供の足で来たなら そう遠い距離でもないか…)」
少女「どうする?」
剣士「とりあえず目印をつけながら進もう。ここを拠点として赤の紐、一定距離ごとに白い紐を枝に」
剣士「見覚えのある景色が見えたら言ってくれ」
カリカリカリ
少女「わかった…あ、リス! かわいー」
剣士「…ふ、そうだな」
ザッザッザッ
剣士「(随分歩いた…。こっちの方向で合っているなら そろそろ何か見えてもいいはず)どうだ少女?」
少女「たぶんだけど、違うのかな…」
剣士「こっちはハズレか」
少女「みたいだね」
剣士「疲れたか?」
少女「うん…少しだけ」
剣士「なら少し休憩してから戻――」
ザッ
剣士「誰だ!!」チャキ
チュンチュン バサッバサッ
剣士「っ…鳥、か」
剣士「少女、おどろかせてすまなかったな」
少女「…大丈夫ですよ、お姉さん」
剣士「(ん…、なにか…)」
少女「おいで」
チュンチュン
バサッバサッ チュン
剣士「(鳥が指に…?)」
少女「кажи ми село локаци�・а」
剣士「(セーロ、なんだ。聞いた事がない言葉、…なのか?)」
少女「ви благодариме」
バサッバサッバサッ
剣士「少女…」
少女「行きましょうお姉さん」
ザッザッザッザッザッ
剣士「おい待て! 疲れてるんじゃ……まぁ、行くか…」
ザッザッ パァァァ
剣士「森を、抜けたのか…太陽が眩しい」
少女「」フラッ クラリ
剣士「――っと」パシッ
剣士「何が起きたのかは わからないが…感謝しよう」
剣士「しかし…」
ヒュオオォォォ
剣士「(まるで森林の一部を えぐり取ったような場所だな…中心に湖、それを囲む木々達)」
剣士「ふふ…神秘的ではあるが、同時に不気味でもあるな」
少女「」スゥスゥ
剣士「横に寝かせて、と」
剣士「…どうしたものかな」
ヒュウウゥ
剣士「(先程の変化、私の知る限り…いや、まさかな)」
ザッパーン
剣士「!」
???「よっと…ん?」スタッ
剣士「(湖から人が出てきた!?)」
剣士「(男…?)」
謎の男「……あ」
剣士「……」
謎の男「……」
剣士「……」
???「……」ソローリソローリ
剣士「?」
ザッパーン
剣士「(戻った!?)」
ヒュウゥゥゥゥ
剣士「(ふむ…この強風で水面が波立っていない、か)」
剣士「(どうも からくりが あるようだが…さすがに少女を放ってはおけないな)」
ザッパーン ザバババーン
剣士「やれやれ…またか」
「そこを動くな!」
剣士「(数は一、二…五人。立ち振る舞いは素人。得物は竹槍に粗悪な剣。捌ききれそうか)」
???「待て、儂が話す」
男b「し、しかし!」
男c「落ち着けa。長老が話すと言っている」
剣士「(非武装の老人か。穏やかな目をしている)」
長老「お初にお目にかかる。この者達の代表として 非礼をお詫びします」ストッ
剣士「(敵かもしれん相手の前で腰を下ろすとはな…)ご丁寧な挨拶、痛み入ります。ご老人、こちらに争いの意思はない」
長老「うむ、澄んだ目をしておりますな。強さと優しさを秘めた心をお持ちのようだ」
剣士「……」
長老「して、貴方が背後に守るのは―――」
男d「おい、あれって…少女か?」
男a「おいてめぇ! 少女に何しやがった!」
長老「口を慎め愚か者どもめが!」
シーン
長老「申し訳ない。見間違えでなければ、その少女は、儂らの村の一員。貴方が送り届けて下さったのか?」
剣士「いえ、形としては私が導かれるような…」
長老「ふぅむ…何か不可思議な光景でも目にしましたかな」
剣士「ご存知なら教えて頂きたい。あれでは まるで―――」
長老「お待ちなさい娘さん。ここでは誰が聞いているのやも知れん。儂らの村へ案内しよう」
剣士「…やはり湖に仕掛けが?」
長老「そうじゃな、詳しい事はあちらでお話しよう。では、少女と共に 儂らに続いて下され」
男a「なんでこうなっちまったんだ…」
男b「へっ、俺が知るかよ」
ザッパーン
剣士「……」
長老「心配せずとも良い。どのような状況に陥ったとしても、儂らが貴方に傷を付けられる可能性など 万に一つもありゃせんよ」
ザッボーン
剣士「…なるように、なるか。少女、少し我慢していてくれ」ギュッ
ザバーン
ごめん修正
>>35の男b→男aでお願いします
―2年前・王国本城―
コンコン
???「剣士、そろそろ出発しないか」
剣士「…ん…あぁ、すまない」
ガチャ
???「寝てたか?」
剣士「まさか。睡眠など 二日程 取れていないよ」
???「おいおい、兵達の命を預かる者が それで大丈夫か」
剣士「すまない。だが問題ないさ、体調が優れない訳じゃない」
???「君が そう何度も謝るとは…雨が降りそうだ」
剣士「ふふ、隊長。お前の目に私は どう映っているんだ」
隊長「そうだな。才色兼備にして、王より白兵戦術の総指揮を任された若き英雄。敵からは''鎧破り''の異名で恐れられ―――」
剣士「もうやめろ。さすがに冗談が過ぎるぞ」
隊長「妥当な評価だと思うがな」
剣士「そうかな…」
隊長「…なぁ剣士」
剣士「なんだ」
隊長「恐いか? 今回の任務が」
剣士「恐い、はずないだろう。私は神をも震撼させる鬼神なんだからな」
隊長「ははは…悪かったよ。ただ君が心配なんだ。正直に答えてほしい」
剣士「…新王に対して疑心を抱いている、と言ったら お前は怒るかな」ボソッ
隊長「……」
剣士「鎧を脱ぎ、全身を黒の衣で隠し 行軍する任務とは何だ。その先で何をする…!」
剣士「城下で近頃多発している子供の失踪事件と元老院の黒い噂との関係性は!? それに―――」
パチン
剣士「あ……」ヒリヒリ
隊長「頭を冷やすんだ。君らしくもない。…今の君は嫌いだ」
タッ タッ タ
剣士「隊長…っ」
タッ
隊長「我らは兵。国を形作る骨肉であり、脳の指令に従う。風説に惑わされる事など あっては ならない。……西門で先に待っている」
タッ タッ タッ タッ タッ タ…
剣士「隊長…私は…」
何度も訂正すいません
>>11と>>12の間が抜けてました
ザッザッザッザッザッ
騎士「待ってくれ」
剣士「……」ピタッ
騎士「国境を超えて何を?」
剣士「旧知の友を訪ねる予定です」
騎士「そうか。それにしても…いい剣を持っている…」
剣士「亡き父が骨董商で、その形見です」
騎士「…では大切にする事だ。引き止めて悪かったな」
剣士「…失礼します」
―時は戻り・湖奥の村―
少女「お姉ちゃん! お姉ちゃんってば!」
剣士「…少女か。ここは――っつ!」ズキッ
男c「安静にしていろ。慣れないと あの移動はきつい。少女も少し静かにしてやれ」
少女「はーい…」
剣士「私は大丈夫だ。お前、いや…名は なんだ」
男c「お前、でいい。その代わり俺も あんた と呼ばせてもらう。いいな」
剣士「ふ、わかったよ」
少女「あ、そうだ。おじいちゃんが落ち着いたら来てって」
男c「長老の事だ。まぁ急ぐ必要もない。ゆっくりして行くがいい」
ガチャ バタン
剣士「…ここは少女の家か?」
少女「うん、そうだよ。昨日言ってた道具屋さん」
剣士「(見たところ大人用のベッドが2つ。普通に考えれば親だろうが…)母か、父…もしくは親類が いるのか?」
少女「うぅん、1人で住んでるの」
剣士「1人で? 店も1人でやっているのか?」
少女「うん。あ、でも わたし寂しくないよ! 毎日みんなが ご飯の お誘いしてくれるから」
剣士「…そうか。少女は えらいな」
少女「えへへ、もう大人だからねー」フンス
剣士「さて、そろそろ行こう。人を長く待たせる訳にもいかない」
少女「もう!? 身体は大丈夫? 頭も痛くない?」
コツン
剣士「心配しすぎだ。このくらい問題にならないよ、ありがとう」
少女「でもお姉ちゃんも女の子なのに…」
剣士「ふふ、女の子か。だが私は大人だからな。少女も大人ならわかるだろう?」
少女「むぅ…いじわる」
コンコン
長老「入るがよい」
ガチャ
剣士「長老、失礼する」
長老「少女に名を聞きました。剣士さん、と仰るのか。どうぞお掛けに」
剣士「では」ストッ
カタッ
長老「どうぞ お飲みなさい。その頭痛も少し楽になりますよ」
剣士「有難く頂きます」
剣士「(旨いな…今まで飲んだ事のない味だ)」
長老「聞きたい事が山程あるでしょう」ストッ
ちょう
>>52 みすった
剣士「(旨いな…今まで飲んだ事のない味だ)」
長老「聞きたい事は山程あるでしょう」ストッ
長老「だから最初に申し上げておきます。これは おそらく、今の貴方の懸念を膨らませる最大の原因」
剣士「……」
長老「剣士殿」
剣士「…はい。お聞かせ願いたい」
長老「ご推察の通り、此処は''忌みし者''の集まる場所。現代では滅びた、''魔力''を その身に宿す者達の村です」
剣士「そう、ですか…」
長老「儂を除く、全員ではありますがな」
剣士「では なぜ長老は ここに?」
長老「それはまた後々お話しよう」
長老「剣士殿。忌みし者、という呼称が なぜ広まったか ご存知かな」
剣士「…世間的には 悪魔と契約を交わし、魔の法を使役して悪事を行う、人にならざる者達だと。気分を害されたなら申し訳ない」
長老「いやいや、それが一般的な目じゃろうて」
剣士「長老は どう お考えになられますか」
長老「王国による人体実験の被害者ですな」
剣士「! それは…っ」
長老「…あれは3年前でしたか…前国王が逝去されたのは。民を思い、部下を労わり、自身を酷使なされる慈愛に満ちた お方でした」
剣士「…長老、貴方は…」
長老「なに、何の変哲もない老人です」
剣士「しかし…」
長老「ほっほ…おかわりは いかがですかな?」
剣士「あ…頂きます」
長老「このお茶は村の者達によって開発されたものです」ジョボボ
剣士「開発、ですか」
長老「彼らの持つ力は、何も傷つける為だけの術のみではありません。癒したり、物質を変化させたり…万物と会話ができたりと」
長老「一聞すると まるで夢のような話かもしれません。しかし、大いなる力には必ずリスクが存在する」
長老「人の身には過ぎた力なのでしょう。不安定な実験体には様々な副作用が表れた」
剣士「…副作用とは?」
長老「特に大人に多かったと聞きます。異形化、人格障害、暴走、そして死――」
長老「そして王国は対象を子供に限定し、実験を進めた。剣士殿もご存知かな。国境より南の範囲で多発した」
剣士「身寄りのない子供を中心とした連続行方不明事件…」
長老「うむ。その時既に死亡数は数百。徐々にではあるが、成果は見え始めていた」
長老「そして それから数ヶ月後、ついに力を安定させる方法が確立されたのです」
長老「実験の長は…歓喜しました。ついに自分の努力が報われたのだと」
剣士「実験が始まったのは…前王が亡くなられてから、でしょうか」
長老「えぇ、新王が玉座について まもなく命令が下りました。なんでも宝物庫から古い文献を見つけたとの事」
剣士「……」
長老「話を続けましょう」
長老「実験を終え、長は新王へ成功の旨を伝えました。そこで新たな命令が下されました」
剣士「実験体の処分――」
長老「…秘密裏に行われる この許されない実験を知る者達は、王国にとって邪魔以外の何者でもない」
長老「長は ここで自らの犯した罪に気付くのです。実験の段階では必要な犠牲だと、勝手な事を思っていたのかもしれません」
長老「しかし今回は真っ直ぐな殺意をもって 亡き者に しなければならない」
長老「長にはできなかった…。身の回りの兵士を金で懐柔し、実験体と共に王国を後にした」
長老「それが儂という人間です」
剣士「そうでしたか」
長老「罵倒を、されないのか。人の道を外れた、屑だと」
剣士「…その後 何があったのかは知りません。だが今、こうして彼らに尊敬され、彼らを導いている。そんな貴方に私如きが何を言えようか」
長老「噂以上にお優しい方だ」
剣士「やはり…私をご存知ですか」
長老「えぇ、直接お会いするのは初めてですがの。入隊直後からの ご活躍を風の噂で」
剣士「では私を ここへ導いたのも?」
長老「いえ、偶然でしょう。儂も貴方と気付くまで幾ばくか時を要しました」
剣士「最後にもう1つだけ お尋ねしても?」
長老「構いません」
剣士「この村の安全性が聞きたい」
長老「…この村の入り口、つまり森に囲まれた湖に たどり着くには、特殊な方法を用いなければなりません」
長老「それは 欲の無き者、同じ力を持つ者、または 村の関係者の導きによる到達」
長老「儂らを殲滅せんと村の位置を特定した所で、 欲深き王国軍は来れません」
剣士「…十中、七程か」
長老「そんなものでしょうな」
剣士「仮の話、未だに魔法についての研究が続いているなら…」
長老「儂らの知らぬ方法を以て襲撃に来る、そう仰りたいのですな」
剣士「あぁ」
長老「そうなれば 何処に居ようと同じ事。死力を尽くして戦いましょう。なに、子供達だけは守ってみせましょう」
剣士「…長老、貴方と話せて良かった」
長老「こちらこそ。お会いできて、光栄でした」
―湖奥の村・湖前広場―
剣士「(ここから…出てきたのか)」
剣士「(地上と何ら変わらない。そう広くない村の周辺には限りない地平線が広がっているが…)」
剣士「(日は昇り、沈む。空気も清々しい。一体どういう仕組みだ)」
ポンッ
剣士「むっ…ボール?」
子供a「ご、ごめんなさい! その…」
剣士「…あぁ、これか。構わないさ。元気なのは良いことだ」ナデ
子供a「! ありがとう お姉さん!」
子供b「おーい! はやくー」
子供a「わかってるよー! ほらいくぞー」
剣士「(…本当に)」
剣士「(何ら変わりない…)」ギリッ
少女「お姉ちゃん」
剣士「…あぁ、少女か。どうした」
少女「大丈夫? 恐い顔してた」
剣士「すまない」
少女「謝らないでよ」
剣士「すまな…いや、駄目なんだったな」
少女「あはは…今から皆でご飯にするの。お姉ちゃんもおいでよ」
剣士「それではお邪魔しようかな」
少女「少し暗くなってきたしね」
剣士「なぁ少女」
少女「んー?」
剣士「あの地平線の向こうはどうなっているんだ」
少女「…お姉ちゃんには地平線が見えるんだね」
剣士「? どういう事だ」
少女「おじいちゃんが言ってたの。ここの景色は、見る人の心が現れるって」
剣士「心が…」
剣士「なら少女には何が見える」
少女「…秘密」
剣士「! …不公平だぞ」
少女「お姉ちゃんは自分で言ったんじゃん。知ーらないっ」タッタッタッ
剣士「お、おい! こら待て!」
―湖奥の村・民家―
剣士「ごちそうさま」
女「お粗末様でした」
少女「女さん料理うまいでしょー」
剣士「あぁ、驚いた。国仕えの料理人かと」
女「褒めすぎです。それに普段は この人、何も言ってくれないんですよ?」
男a「…けっ。んな毎日毎日褒めりゃ有難みも薄れるってもんだ」
剣士「(確か…湖の前で突っかかってきた男だったか)」
少女「もう…男aは もっと女さんに優しくするべきだよ」
女「いいんですよ少女。昔から こうですから」
剣士「2人は夫婦なのか?」
男a「…あぁ一応な」
少女「一応って! そこは この女は俺の愛する大切な妻と――むぐっ!」
女「それはそうと、剣士様。お湯浴みでも いかがですか?」ギュウゥ
剣士「あぁ そうだな。助かる」
少女「んー! んー!?」ジタバタムグムグ
男a「なら俺は酒でも 引っ掛けてくらぁ」
ドタドタバタン
剣士「…愛しているのか?」
女「えぇ もちろん」
少女「んー! …っく…!」ピクピク
―湖奥の村・湯浴み場―
剣士「……」
女「……」ジィー
剣士「…何か?」
女「いえ…」
少女「…2人ともさ…」
少女「胸ないよね」
剣士・女「」ピキッ
少女「」プカー
女「……」
剣士「……」
少女「……はっ」
剣士「……」
少女「なんか最近扱いがひどい」
女「……」
少女「おーい」
少女「……。先に上がる!」
パチャパチャパチャ
女「…可愛い子には旅をさせろ、とは よく言ったものですね」
剣士「少し違う気もするが…」
チャプン
女「…剣士様」
剣士「ん?」
女「実は私、妊娠してるんです」
剣士「…そうか。めでたいじゃないか」
女「…はい。でも私、不安なんです」
剣士「……」
女「この世の中で、果たして生まれてくる子が 幸せなのか…。親である私達の身勝手を押し付けるだけなのではないか。近頃 そう考えるんです」
剣士「…私は母親になった事がない」
女「…そう、ですか…」
剣士「だが」
女「?」
剣士「幸せは…個人が決めるべきもの だと思っている。故に、幸せの形も 人の数だけ存在していると信じている」
女「……」
剣士「幸せは平等ではないが…得るための権利、そして その享受する権利は平等であるべきだ」
剣士「親には その権利を与える事ができる。将来的に子が どう思うかに関わらずな」
剣士「と、私は思う」
女「…剣士様」
剣士「……」
女「私、生みます。そして…どんな事が起ころうと幸せを感じてもらいます」
女「例え押し付けだとしても。お腹の子の幸せを願います」
剣士「…そうか」
女「…そろそろ上がりましょうか」
剣士「…そうだな」
―湖奥の村・道具屋―
ガチャ
少女「あ、おかえりなさい」
剣士「ただいま」
少女「…お姉ちゃんは明日 村を出て行くの?」
剣士「あぁ、そのつもりだ」
少女「そっか…さみしくなるね」
剣士「村の皆がいるだろう?」
少女「うぅん。お姉ちゃんは少し特別」
少女「あはは、変だよね。昨日会ったばかりなのに」
少女「家族がいたらこんな感じなのかな、って思っちゃった」
剣士「少女の両親は…もういないのか」
少女「うん…。お父さんは わからないけど、お母さんは この村を作って すぐ死んじゃったの」
剣士「村を?」
少女「2年ぐらい前かな、おじいちゃん達は森の中で隠れてたんだって」
少女「その時わたし達は もっと南の村に いたんだけど…みんな死んじゃって、さ」
剣士「(丁度その時ぐらいか…。全世界に散った彼らを根絶やしにする、"悪魔狩り"と称した虐殺が始まったのは)」
少女「すごく疲れたのは覚えているの。それで おじいちゃんに会って…」
剣士「それで?」
少女「…覚えてないの」
少女「気付いたら お母さんはいなくて…おじいちゃんが言ったの。お母さんは遠い所に行ったって」
少女「お母さんは みんなとは少し違う、特別な力を持ってたみたい」
剣士「…そうか。自慢の母だな」
少女「うん!」
剣士「ふふ…よし、そろそろ寝ようか」
少女「そうだね。…また一緒に寝てもいい?」
剣士「あぁ、勿論だ」
―同時刻・王国本城―
コンコン
???「陛下、定期報告にて参じました」
新王「入れ」
ガチャ
???「」サッ
新王「跪くか、偵察長よ」
偵察長「恐れながら…至極当然の振る舞いかと」
新王「下らぬ。俺に へり下るのは愚昧な民だけで良い。貴様ら兵は態度ではなく、行動で示してもらいたいものだな」
偵察長「それは…失礼を致しました」サッ
新王「まぁ良い。――して、例の件は どうなっている」
偵察長「はっ。剣士は目標と合流、明日早朝には村を発つかと思われます」
新王「ふむ…滞りないか。では、予定通り進めろ」
偵察長「では そのように伝えます…」
新王「不満か?」
偵察長「は?」
新王「俺の判断が不満かと聞いている」
偵察長「い、いえ! 決してそのような事は…」
新王「下がれ」
偵察長「…はっ」サッ
ガチャ
―早朝・湖奥の村・湖前広場―
剣士「世話になったな」
少女「うん…また遊びに来てね!」
剣士「あぁ、約束する」
女「随分お早い出発なのですね」
剣士「…そうだな。私もそう思う」
長老「剣士殿、またいつでも来て下さい。少女も喜びますからの。それと…」
剣士「? なんでしょう」
長老「あまり生き急ぎなされるな。立ち止まらなければ わからぬ事もある」
剣士「…ご助言、感謝します。長老、少女を…村の者達をよろしく頼む」
長老「うむ。それと剣士殿なら もう、地上との移動の際の衝撃も大丈夫でしょう。安心して お通り下さい」
少女「お姉ちゃん!」ダキッ
剣士「ふふ…どうした急に」ナデナデ
少女「次来たときは…いっぱい旅の お話きかせてね」
剣士「…わかったよ。語り草となるよう考えておく」
少女「うん…」コクン
女「剣士様、有難うございました」ペコ
剣士「私は持論を語っただけで 何もしていないよ。元気な子を生んでくれ」
女「…はい」
剣士「では、名残惜しいが…しばしの別れを。皆、元気でやってくれ」
ザッバーン
ザバッ
剣士「ふぅ…」
剣士「(つくづく不思議な体験をしたものだ。転移する湖、濡れない水…王国の実験、か…)」
剣士「…と、そろそろ行くか」
剣士「(長老から聞くに、関所への道は…こっちか)」
剣士「(僅かに人の歩いた跡がある。村の者でも通ったか)」
キィ----ン……
剣士「とりあえず直進し――――」
剣士「――――」
剣士「――――」
剣士「――――」
剣士「――――」
剣士「――――」
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