八幡「冬のある日に」 (30)


今日は2月13日。世間は明日に控えるバレンタインデーで盛り上がりを見せている。放課後の教室は、やれ何をあげるだの、誰にあげるだので騒がしいことこの上ない。たいていのリア充的なイベントは忌避すべきものだがこれだけは別で、もちろん俺も楽しみにしている。今年の小町はどんなチョコをくれるのだろうか。ポイントを荒稼ぎするようなすばらしいお返しを考えておかなくてはなるまい。ああ小町の喜ぶ顔が楽しみだ。こんなことを考えていると自然と顔がにやけてしまうので、なんとか抑えつつ、俺は部室に向かった。


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八幡「ういーっす」

雪乃「こんにちは、比企谷君。」

八幡「今日も寒いな」

雪乃「ええ、そのうえあなたのひどくゆるんだ下卑た顔を見たせいか鳥肌が止まらないわ。」

どうやら俺の表情筋も寒さで麻痺していたらしい。

八幡「由比ヶ浜はまだなのか?先に教室を出ていったんだが」

雪乃「明日の準備をするから今日は出ないそうよ。メールがあったわ」


八幡「へえ、お前はいいのか?あいつなら『雪のん一緒につくろー!(裏声)』なんて言いそうなものだが」

雪乃「今のでさらに鳥肌がひどくなったわ。一応私も手伝いを申し出たのよ。でも今回は自分で頑張るそうよ。」

八幡「おいおい、大丈夫なのかそれ」

雪乃「最近はいろいろと練習しているそうだし大丈夫かもしれないわ」

八幡「…まあ、食べれるものができるといいな。そういうお前はいいのか、こんなゆっくりしてて」

雪乃「あいにく私はもうほとんど準備はできているわ。前日に慌てるようなことはしないのよ」

八幡「それもそうだな」

二人は自分の本に目を落とし、しばらくの間沈黙が流れる。マグカップから立ち上る湯気が踊り、ページをめくる音だけが聞こえる。ふと、雪ノ下が口を開いた。

雪乃「…ねえ、比企谷君は甘いのと苦いのどちらが好きなの?」

八幡「…ん?てことは俺ももらえるのか?」

雪乃」「さあ、どうかしらね。私の興味本位かもしれないわよ」


八幡「…まあいいや、もちろん甘党だ。MAXコーヒーを愛するものとして当然だな」

雪乃「…」

そう答えると、雪ノ下は悔しそうな顔をしている。どうやら雪ノ下の予想が外れていたらしい。

雪乃「…困ったわ、由比ヶ浜さんに聞かれたときに苦いほうが好きと言ってしまったのよ」

八幡「なんだ、心配しなくてもあいつの作るものはすべて苦くなるから何の問題もないと思うぞ。というか雪ノ下も間違うことがあ
るんだな」

雪乃「くっ、深く考える必要のない質問だったからよ、…比企谷君、その笑いを早くひっこめなさい」


八幡「まあ『人生は苦いから、コーヒーくらいは甘くていい』ってのが俺のモットーだからな」

雪乃「なら『バレンタインは甘すぎるから、チョコレートくらいは苦くてもいい』とも言えないかしら」

八幡「ぐっ、一理ある気がするから不思議だ…」

雪ノ下は得意そうに微笑んでいる。さっきは一本取ったと思ったのだがいつのまにかカウンターを食らっていた。実に不可解だ。


八幡「ところで俺にくれるチョコは何なんだ?」

雪乃「どういう意味かしら?そもそもあなたにあげるとは一言も言ってないのだけれど」

八幡「いや、そのチョコの意味だよ。『好意』は論外だし、『感謝』でもないだろ」

雪乃「ああ、そういう意味ね。…、クラスは付き合いの一種ね、正直面倒だわ」

雪乃「由比ヶ浜さんにあげるものは、そうね…『友情』よりも『親愛』といったものに近いかしら」

なんとなくゆるゆりした雰囲気が漂っている。一人でもゆるゆりできるとは、やはりこいつ天才か。


八幡「由比ヶ浜が聞いたら泣いて喜びそうだな」

雪乃「彼女は感情表現が大げさなのよ」

八幡「…」

雪乃「…」

また沈黙が流れる。さっきとは違うのはお互いに目は落としているが手元の本に意識が向いていないことだ。
なんとなく居心地が悪い気がする。何の気なしに聞いたが、さっきの質問はまずかったようだ。
答え次第では何かが壊れてしまいそうな気がする。そうしていると、雪ノ下が、ゆっくりと、言葉を探すように口を開いた。


雪乃「…ただ、もし仮にあなたにあげるとしたら、…ちょっとわからないわね」

八幡「雪ノ下にもわからないことがあるんだな」

雪乃「…多分、なんとなく、あげるのが当然、という気持ちじゃないかしら…」

雪ノ下はそこで言葉を切った。まだ5時を回ったところだがすでに日は落ちて、窓の外はほの暗く、
生徒のじゃれあう声もいつのまにか聞こえなくなっていた。


雪乃「…ねえ、あなたは以前『解はすでに出ているから誤解は解けない』っていったわよね」

八幡「ああ、言ったな」

雪乃「私もそれは正しいと思うわ。…でもまだ解は出ていないし、誤解も生まれていないわ。
だからきっと問い続ければいいのよ、自分の納得できる解が出るまで」

そう言った雪ノ下の表情はやさしく微笑んでいるように見えた。

雪ノ下はそう言い切ると、文庫本をしまい、荷物をまとめて立ち上がった。

雪ノ下「今日はここまでにしましょう。依頼人ももう来ないでしょう」



次の日、朝、教室で由比ヶ浜のくれたものは、一応チョコの匂いがした。

食べた気もするが、いつの間にかなくなっていた。いったい何があったのだろうか。

放課後部室に行くと、相変わらず雪ノ下が定位置にいて、俺と由比ヶ浜にホットチョコレートを渡してくれた。

俺の湯呑にはビター、由比ヶ浜にはホワイトチョコが入っていた。

雪ノ下のくれたチョコはもちろん苦く、悪戦苦闘しながらなんとか飲み終えた。

それを雪ノ下は笑いながら見ていたが、心なしかいつもより柔らかい表情だったような気がする。

まだ解は見つからないが、これからそれを探していくのもいいかもしれない、と思いつつ俺は雪ノ下にチョコのおかわりを頼んだ。


駄文失礼しました。
やっぱりまだまだ練習が必要ですね。
見てくれた人いたらありがとうございました。

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