男「俺が死んだ話をする」 (19)
自身の命を絶つことは案外簡単だ。部屋の電気ケーブルと2段ベッドがあれば行うことができる。
俺は死んだ
自殺した理由は彼女が交通事故で死んだから。
17歳だった俺には彼女がいて、そして彼女が死んだから俺も死んだ。
「……」
すこしの苦しみから目を覚ますと、俺は草原に寝ていた。おそらく死後の世界だろう。三途の川は見当たらない、どうやら迷信だったようだ
「こんにちは」
「…?」
誰かに話しかけられる。死後の世界にも人がいるんだ、素直に驚いた。
ゆっくりと首をまわすと、後ろに立っていたのは人間とは程遠い気配をまとった人間だった。肩までの黒髪に黒いスーツと黒ずくめである。
「あんただれだよ…?」
質問する。返答次第で大まかな現在の状況を概ね理解できるだろう。一を聞いて十を知る。なんかかっこいい
「私は審判です。あなたを採点に来ました」
「……なるほど」
「…人間にしては驚きがすくないですね。珍しいです」
「一回死んでるんだ、もう驚くこともねぇよ」
審判か……言動から察するに人生を採点して魂の優劣を判断する。そんなところだろう。
「……それでは採点をはじめます」
「……。」
ヒキニートで自殺した俺はどうあがいても地獄行きだろう。もうなんでもいいから早く完全に殺してくれ。
「あなたの点数は2点です」
「……は?」
「100点中の2点です……ふふっ…。」
いや予想してたよ?だけど100点中2点ってどうなの?俺ゴミすぎだろ。……てかこいつ少し笑ったよな?
「高校生、自殺で命を絶つ。…あなたはゴミクズ以下ですね。軽蔑します。」
「いや……はい」
あまりにも毒舌すぎて納得しちゃった。そこそこ可愛い女の子にゴミクズって罵られるって誰得だよ……残念ながら俺はマゾヒストではなかった。いや本当だよ?
「あなたは死ぬ価値もない」
「……」
「よって死より辛く苦しい罰を与えます」
「………え?」
完全な死より思い罰…?なんだよそれ、俺は早く死にたいんだ。
彼女のいない世界に価値なんてないんだ
「……お願いだ…殺してくれ」
「あなたを殺すことはできません。いったでしょう?死より辛く苦しい罰を与えると。」
「……」
この黒スーツ女は何を言っているんだ?俺は死にたいんだ。はやく殺せよ
「お前になにがわかるッ!!はやく俺を殺せよッ!!!」
「あなたは逃げているだけです。最愛の人の死から逃げているだけ、悲しみから逃げているだけです。」
俺が逃げている…?ならどうすればよかったんだ?心臓を握りつぶされる痛みから逃れるには死ぬしかなかった…俺にはもう死ぬという選択肢しかなかった。これ以上この感情を殺せないなんて気が狂いそうだ。
いや…もう狂ってる
「お願いします……俺を殺してください。」
「……」
土下座した。死ねるなら手段なんて選ばない
「お断りします」
「……」
お断りします…?俺は死ねないのか?
あぁ…悲しみと怒りで頭が割れそうだ……こいつを殺せば俺を危険視して別の審判が俺を殺してくれるんじゃないか?
「……」
俺の邪魔をする人間はみんな死ねばいいんだ。
「お前も俺も…死んでしまえばいいんだッ!!!」
「…ッ」
黒スーツ女の首に噛み付く。頸動脈を噛み切れば死ぬだろう。このままゆっくりと力を入れて、細い首を噛みちぎってやる。
「…そんなことをしても私は死にませんよ?」
「ッ!はなせ!殺してやるッ!!」
身体を抑えられる。抱きしめられるような格好で拘束された。腕も足もなぜか動かない。
「そのまま聞いてください」
「うぐッ!!」
締め付けられる…女の力とは思えないほどの力で締め付けられる。
「あなたは100点集めるまで死ぬことはできません。」
「……!?」
100点…?死ねない?俺はこれ以上の悲しみを背負って何をすればいいんだ?
あぁ……痛い………心が痛い…
「あなたは生き返ります。100点分の良い行いをしてきてください」
「ッ!!」
「死ぬ価値もない人間を殺すなんてもったいないでしょう?」
「…そんな……」
黒スーツ女がにやりと笑うと、足元が光はじめた。
「嫌だッ!!生きるのは辛いッ!!!」
眩しい…目が開けられないくらいに。このまま光に飲み込まれてしまいそうだ。
「点数の詳細は向こうで説明します。」
光が強くなる
「…それでは生き返ってください」
「ッ!!」
俺は光に飲み込まれた
ーーーーーーーーーーーーーー
「……ッ…ここはどこだ……?」
くらい路地で目が覚める。冷たい…。
空気が違う…
「戻ってきたんだな……現実に」
どうやら俺は本当に生き返ってしまった様だ。
ゆっくりと回りを見渡す
「扉…369?」
厚いコンクリートの壁に369と書かれた扉がねじ込まれていた。ビルとビルの間…幅2.5mの路地に似合わない扉がある。
「なんでこんなところに扉があるんだよ……」
少し注意をはらって扉を開く。入り組んだ路地の奥の奥にある扉。まるで秘密基地のようだ
「……」
扉を開けると、短い廊下が見えた。小さな玄関に靴を脱いで慎重に進む。
「…ベッドに…クローゼット?キッチンもある…」
廊下を進むと、キッチンやらシャワールームやらが完備された部屋があった。もともと俺が住んでいた場所に似ている。いや全く同じだった。
「……ここで100点とるまで暮らせってか…なるほどな」
地獄だ…またこの部屋で心の痛みと戦わなければならない…。死ぬために良い行いをする…ギャグ漫画かよ
「こんばんは」
「ッ!!?」
黒スーツの女が背後に立っていた。怖すぎだろ。貞子もビビるぞ
「良い行いとは…人を幸せにする行いです。」
まるで俺の心を読んでいるかの様に喋っている。まじで心読んでるんじゃねぇの?腹立つからエロいことばっか考えてやろう
「…」
「ぶち殺しますよ?」
「すんません」
なるほど…やはり心を読まれていたか
「……これを使えば善行の点数を確認することができます」
「…時計?」
懐中時計を渡される。レトロな感じだ…。開くと針は2をさしていた。100までの数字が綺麗にならんでいる。
「ゴミクズ人間がなんの力もなしに人を幸せにできるとは私も思っていないのでこの懐中時計と一つの力を与えます」
「力?」
力ってなんだ?かめはめ波とか使えんの?
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