QB「踏まれたい!」 (322)


(あぁ、踏まれたい! なんだいこれは! この、この湧き上がる、情熱のようなッ! 
感情なんてないはずなのに! ないはずなのに! 抑えられない、抑えられないぃぃぃ!)

 ジタバタ、ジタバタと白い獣がコンクリートの床をひたすらに転がりまわる。
 犬に例えれば腹を仰向けに見せての服従のポーズで、ゴロンゴロンと、それはもうひたすらに転げまわる。

(い、一体、ボクに何が起きたというんだ! こん、こんな精神疾患みたいなッ! 
でもでも、うぅぅ。抑えられない、抑えられないよ!)

 ビタンビタンと長くしっとりとしていて、ふんわりと柔らかく、
それでいてしなやかな光沢をもった自慢の耳毛が剥き出しコンクリートに叩きつけられるのもおかないなしに、
一心不乱に転げまわる。

(ちょろっとデータベースにアクセスしてみたけれど、こんな疾患の登録はなかった! 
つまりこれは、精神疾患ではないということだ! くそぅ、一体なんだっていうんだ! 
わけが分からないよ! あぁおあぁおあぁお! 踏んでほしい、踏んでほしいのぉぉぉぉ!)


 建設途中の工事現場の一角で転げまわるインキュベーターは時に石灰の詰められた麻袋に激突し、
時に積み上げられた鉄骨に激突し、だけれどまるで痛みを感じる様子すらなく、もがくように転げまわる。

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(しかし、しかしだよ。仮にマミに踏んでくれなんて言ったら変な目で見られるどころの騒ぎじゃ済まされないよ。
いや、むしろ蔑んだ目で見られたい?)

 パタリ、と一瞬だけ動きが止まる。
 まるで時を止めたかのようにピクリとさえ動かなくなるが、
瞬き三回分ほどの時間が経過したのちに、一層激しくのたうちまわる。

(想像しちゃったじゃないか! ちょっといいとか思ってしまったよ! 
本当にどうしてしまったの、ボク! うぅあぁぁあぁ、畜生、畜生だよ! 
何が、一体何が起こっているっていうんだい! shit shit shit! 
ダメだ、もうダメだ。この溢るる欲求に抗うことが出来ない。

この欲求は宇宙のために感情エネルギーを回収することと、同レベルに達しているよ!
困惑と、ちょっとの蔑みが混じり合ったちょっと泣きそうな表情のマミにボクを踏むことを強要したい!)

 仰向けで転げまわっていた小さな体をうつ伏せへと戻して、ゆるゆると上体を持ち上げる。それはいかんともし難いことに、歴戦の猛者の風格を漂わせるのであった。

(マミのあの、黒いタイツに包まれたむっちりとしていて柔らかく、

それでいて引きしまった御御足にそっと踏みつけられたい! 
毎日遅くまで歩き通しているせいで少し硬くなった親指関節の部分で、グリグリされたい! 
地面を掴むために発達した足指の筋肉で、解きほぐされるように爪弾かれたい!)



 揺らめくように立ち上がり、幽鬼のように歩き出す。
 そこに存在するのはインキュベーターなどではなく、強烈な渇望を満たすために行動する飢えた物の怪であった。

 建造途中のビルの中から抜け出そうと歩いていたキュゥべえの前に一人の少女が姿を現す。
 いや、現してしまったとするべきだろうか。

 奇しくもその少女は黒いタイツを穿いていて、それどころか非常に美しい足の持ち主であった。
 少女の名前は暁美ほむら。このキュゥべえにとっては未知の手合いであるのだが、かち合った瞬間に彼は理解した。

(あ、あの足は! マミの足に勝るとも劣らない素晴らしい美脚! 遠目から見ただけでも分かる! 
少し心もとない肉付きでありながら、程よく弾力にとんでいて、滑らかなアーチがしっかりと重心を作っている! 
まさにあれは脚線美! 温かみのあるマミの足とは全く正反対の魅力だ! 
それなのに突き詰めることで、似た極点へと至っている!)


 瞬間的にキュゥべえが動く。
 ウサギのような小さな体が、イノシシのように鋭く突進する。
 あまりの事態に暁美ほむらは面食らい、一度得物を取り出し損ねる。
 そしてキュゥべえはその一瞬のラグを好機と見たらしく、より一層肢足に力を込めて暁美ほむらに迫る。


「ッ――、!」

 ようやく盾の中から取り回しやすいハンドガンを取り出した暁美ほらはキュゥべえに銃口を突き付けるが、
引き金を引く指が一瞬震え、舌打ちする。

 というのも、彼女はこれまでキュゥべえに反撃されるという経験がなかったために、
思考が追いつかず咄嗟の判断が鈍ったのである。

 乾いた発砲音が遅ればせながら響く。
 無論その弾丸はキュゥべえから少し外れ、灰色のコンクリートに黒い染みを穿つにとどまった。

 そして、キュゥべえは暁美ほむらの足元へとたどり着いたのだった。
 得体の知れないキュゥべえの行動に対して、怖々といった様子で一歩後ずさりをしようとほむらは足を持ち上げる。

 そして、その足がもう一度地を踏みしめるというその瞬間。

 ズザァッと足元に滑り込む。
 ほむらの機能性を重視したショートブーツにグニュリとした感触が伝わる。
 ただし、それは軽いもので踏みつけたというよりは、ちょうど足を押し当てたような感覚だった。

 ブーツとは基本的にヒールが高く設計されているもので、暁美ほむらが履いているものも例外ではない。
ヒール部分が高く設計されるということは、つま先部分との間に隙間が生じるということでもある。

 キュゥべえの小さな体がそのわずかな隙間に絶妙にフィットしたために、
思いのほか小さな感触だけがフィードバックされたのだった。


「きゅっ、きゅっぷい! きゅっぷい、きゅっぷい! これは、これはなかなか! 
素晴らしいよ! キミの足は本当に素晴らしい! ボクの目に狂いはなかった! 
マミの御御足に勝るとも劣らないと確信をもって言わせてもらうよ!」


 熱狂的な叫びをあげながら靴の隙間で体を捩り、尻尾を振る。
 直径四センチにも満たないほどの隙間でグルングルンと狂気乱舞する。
 耳毛と尻尾が胴体の激しい動きに振り回されてほむらの足をわさわさとくすぐる。

「ひ、ひぃ。ちょっと、なにこれは!」

 自分の足元で歓喜に震え、
嬌声をあげつつジタバタと動き回る得体の知れない赤目の小動物に圧倒されるほむらは目を白黒させながら、
当初の目的を忘れて硬直する。

 まさしくこんなことは異常事態だった。


「この御御足は、すばらしい! 素晴らしいんだけど、やっぱり靴を履いたままじゃ物足りないぃ!」

 戸惑い、硬直するほむらをよそに勝手に隙間から這い出してきたキュゥべえは特に表情を変えずに、
しかし勢いよく問いかける。

「その靴を脱いで、タイツもしくは生足でボクのことを踏んでよ!」

 完全なる変態発言。
 困惑していたほむらの表情が歪む。
 あまりにも想像の範疇を飛び越えてしまったのだ。飛び越えすぎて、顔が引きつる。

 眉間には皺がより、目元は下がる。
下瞼に力は入るし、口元は笑うような悲しむような、どっちつかずでイの字型に横へと広がる。

 ハッキリ言って、ドン引きだった。


 そして、あまりにもドン引きしすぎて当初の目的を忘れ、目の前の白い獣に背を向けて疾走する。
 そう、それはあまりにもシンプルな回答だった。

 走りながら彼女は考える。
きっとこれは悪い夢に違いないと、きっと朝起きたら憎たらしいはずの契約を迫ってくる詐欺師に戻っているんだと。
きっと自分は疲れているんだと。だから少し休まないと、と。

 魔法少女の足は速い。なので、キュゥべえは逃げるほむらを追いかけることなく、その背を見送るばかりだった。

「まったく、きちんとお願いしたのにわけが分からないよ」

 モフモフと尻尾を振るって、背中を見送ったキュゥべえもまた歩き出す。
 夜道にとけるようにその姿は消えていき、あっという間に見失ってしまうのであった。

本日ここまで

【PSYREN】ほむら「暴王の月」【まどマギ】
さやか「祈りの温度」

検索した
会長選挙は好きだった
他はクセが激しいが期待

投下――ッ!


 ☆


 トコトコと、可愛らしいがよく似合うキュゥべえは魔女を倒して結界から抜け出してきたマミへと歩み寄る。

「マミ、お疲れ様」

 先程のまでの奇行がウソのように優しく、ねぎらいの言葉を投げるのだった。

「あら、キュゥべえ。どこへ行っていたの?」

「ちょっとね。キミが気にすることじゃない。それよりも怪我はなかったかい?」

 マミはひざ裏を伸ばしたまま屈みこんで、地面に転がるグリーフシードを拾い上げる。

 キュゥべえの目線の高さからならば、確実にスカートの中が覗けてしまうほどに、マミの行動は無謀であった。

(すっと伸びた、マミのひざ裏。きゅぅっと引き締まっていて、それでいて硬さを感じさせないふくらはぎが眩しいよ! 
は、挟まれたいぃ! あのふくらはぎにはさまれたい!)

 だが、キュゥべえにとって重要なのは足だった。

もうわけがわからないよ!


「よしっと、これはまだ使えるから、グリーフシードの回収はあとででいいかしら?」

 マミは自身のソウルジェムを浄化し、キュゥべえに問いかけるも返答がなかったために、首を傾げる。

「キュゥべえ?」

 もう一度名前を呼ぶと、そこからさらにワンテンポ遅れて彼は反応した。

「ななな、何だいマミ?」

「どうかしたの? あなたがぼぅっとしているなんて珍しいじゃない」

「いや、何でもないよ。大丈夫、何にも問題なんてないさ」

「そう、ならいいけれど。でも疲れたらちゃんと休まないとだめよ?」

 表情を変えずに狼狽えるキュゥべえをマミは初めて目撃し、珍しいものもあることだわ、と適当に考え、
きっと疲れているのねと、合点していたわりの言葉をかけるのだった。

 もっとも彼は疲れていたわけではなく、
巴マミのくるぶし、ふくらはぎ、ひざ裏、等々を夢中で眺めていただけなので、まったくの勘違いである。


(さっきの見知らぬ魔法少女の足も素晴らしかったけど、やっぱりマミの足がナンバーワンだね。
そそる、むっちゃそそるよ! 踏んでほしい、優しく、そぅっと踏んでほしい。
怖々と控えめに、だけどちょっとの失望と軽蔑の念を込めて踏んでほしい。
けれど、そんなことをすればボクタチの沽券に係わるだろう。だけど、やっぱり踏んでほしい!)

 キュゥべえがもし人類と同じような呼吸器を保有していたのならば、
あまりの鼻息の荒さにマミは気が付けていたことだろう。

 そして、それに気が付けないということは、間違いなく不幸なことである。

「さて、それじゃあ帰りましょうか」

「そうだね」

 二人は連れ立って夜の街を歩く。

 構図としては先を歩くマミと、その後ろで舐めるように足に視線を這わせつつあとを追いかけるキュゥべえといったものであるが、
マミは特に疑問を持つことなく、軽やかな足取りで帰路を辿るのであった。


 自宅へと帰り着き、湯あみで疲れを流したマミが浴場の扉を開いたその瞬間、一糸まとわぬ彼女は驚きの光景を目撃してしまう。


「ねぇ、キュゥべえ。あなた、一体何をやっているの?」

 用意していたバスタオルで体を隠しつつ、女子中学生の発声とは思えぬ凄みを乗せて問いかける。

 視線の先には黒く長細い布に巻かれたキュゥべえの姿があり、
彼の体にまとわりついている黒い布の正体は、洗濯機に掛けて置いたはずの脱ぎ立てのタイツであった。

「いや、その。ちょっと絡まっちゃって。別に何をしようとしていたわけじゃないんだ」

 もぞもぞと動きながら、脱ぎ立てタイツの温かみを堪能するキュゥべえは、中々に苦しい言い訳をする。

「そんなわけないでしょう。何をしようとしていたの?」

 ざっくりと濡れた体を拭いてから激しく自己主張する豊満な膨らみにバスタオルを巻きつけて体を隠し、
問いかけながらキュゥべえが絡まっているタイツを掴みあげて、洗濯用のネットへとしまい込み、洗濯機へと放り込む。

 黒いタイツから解放されたキュゥべえは何か妙につやつやとしていて(傍目にはいつもと変わらないようにしか見えないが)、
マミは思わずため息をつく。


「マミがバスタオルを用意し忘れていないかを確認しに来たんだよ。洗濯機の上に登って確認しようと思ったら、
うっかり足を取られちゃってね。それで絡まってバタバタしていたというわけさ」

 実際にはマミの足が気になって気になって仕方がなく、ついにはタイツの温もりを感じてしまおうと企んだのである。

「そう、ありがとうね。だけど駄目よ? レディのシャワー中に様子を覗きに来るなんて」

 マミはそうキュゥべえを諭しながらもう一枚バスタオルを掴み、髪を拭く。
 初めにざっくりと水気を吸い取り、頃合を見計らって髪の毛全体をタオルで包み込み、巻くようにしてまとめ上げる。

 キュゥべえはその姿を間近で眺める。


(っま、マミの生足が、目の前に! むっちりとしていて、スベスベと柔らかく、ハリと弾力にとんだ柔足が目の前に!
あの生足で、包むようにそっと柔らかく踏んでほしい! す、凄い、凄い衝動がボクの中を駆け巡るよ!
年頃の少女にしては比較的しっかりと引き締まった筋肉とのバランスは、これはもう素晴らしいの一言に尽きるよ! 
あぁ、それになんてきれいな足のアーチなんだろう、ふっくらと描かれる甲の楕円が美しい。
まるで生きた美術品のようだよ!)

 髪をまとめ終ったマミは胸に巻きつけたバスタオルを丁寧な手つきで解き、用意しておいた向日葵柄のパジャマを身に着ける。

 可愛らしいそのパジャマは、巴マミという少女の大人びた一面と子供じみた一面の両方を切り取ったようでもあり、
彼女の在り方にこの上なく寄り添って似合っていた。

 だが、それを身に着ける姿を間近で眺めていたキュゥべえはしゅんと、項垂れてしまう。


「あらあら、私は別にすぐ寝ちゃうわけじゃないのよ。そんなにさみしがらないの」

 マミは少しばかり自分に都合のいいように物事を解釈する癖があるようで、キュゥべえのその様子を好意的に捉えるのだった。

 だが、当のキュゥべえはといえば、

(あぁ、マミのマミの素晴らしいふくらはぎが太ももが、長丈のパジャマに隠れてしまった! 
そりゃぁ、足先だって、指先だって、かかとだって、つま先だって、土踏まずだって素晴らしいさ! 
だけど、だけどだよ! 太ももから、膝、脛、ふくらはぎ、くるぶしへのラインが繋がることによって、

マミの足の魅力は最大限に高まるんだ! 隠れてしまえば残念に決まってるじゃないか!)

 このようなありさまであるのであので、マミの解釈は完全に見当違いである。
 寝巻に着替えたマミはドレッサーの前へと陣取ってドライヤーでゆっくりと髪を乾かし始める。

 ふんわりと反物を扱うように温風を使い髪から水気をとばしていく。
 ドライヤーを扱う手首が細かく回転するのと同時にマミのひざ下がパタパタと揺れ動く。
 特に意識しているわけではないであろうその可愛らしい動きに、キュゥべえはうっとりと、見入る。


(不相応に大人びた美しい足が、無邪気に子供っぽく揺れ動くなんて、なんてミスマッチなんだ。
だけど、そのミスマッチが心地よく、隙間に入り込んでくる! す、凄いよ、凄いギャップの素晴らしさだ! 
こんな、こんなの我慢できるはずがないじゃないか!)

 キュゥべえは彼自身でも気が付かないうちにゆっくりとマミの足元へと歩き出す。

 その姿はまさに樹液に誘われる甲虫に他ならない。もしくは腐臭に群がるハエであろうか。
兎にも角にも、誘われるままに吸引されていくその姿は明らかに知的生命体とはかけ離れてしまっているのである。

「ひゃっ、ひゃん!」

 フラフラと揺れ動いていた自身の足に突然、滑らかなクチクラ層を持った柔らかい毛並と、
恒温動物としては比較的低めであろう体温が伝い、思わず驚きの声が上がる。

「ど、どうしたの? キュゥべえ?」

「別に大したことじゃないさ。気にせず髪を乾かすといい」

 すりすりと、頬ずりをするようにマミの滑らかなくるぶしとかかとの延長線上に身を寄せるキュゥべえは、
なんてことはない、とでも言いたげに答える。


「も、もう。今日のあなたはちょっとへんよ? そんな犬猫みたいに」

「マミ、あまり失礼なことを言わないでほしいね。ボクたちは高度な知能を有する知的生命体だよ? 
意思の疎通も図れないような生き物と比べてほしくないね」

「そんなこと言ったって、今のあなた飼い主に構ってほしくてすり寄ってくる猫そのものよ?」

「マミ、それは違うよ。ボクはそんな低俗な理由で動いたわけじゃないよ」

「じゃあ、言ってごらんなさい?」

 くるくると、尻尾から頭の先までを満遍なく使いマミの両足の間を八の字を描くように動き回っているキュゥべえは動きを止めることなく、暫し考える。

 彼は心の中でやや葛藤しつつも、結論を得たようで、滑らかな動きを止めることなく、高らかに宣言する。

「キミのその見事な御御足でボクのことを踏んでよ!」

 マミは手にしていたドライヤーを取り落して、ガシャンと肩のすくむような音が鳴る。
 そして、「あぁ、いけない」と小さく呟いてプラグがすっぽ抜けてモーターが止まってしまったドライヤーを掴みなおす。


「キミのその素晴らしい生足でボクのことを踏んづけてよ!」

 拾い上げたはずのドライヤーがまたもや音を立てて床に転がった。

 しばしの沈黙、マミは無言でキュゥべえを見つめる。
表情が乗らない彼は、小首をかしげたままじぃっとマミを見つめ返すのだった。

「あなた、自分が何を言っているのか分かっているの?」

「いや、だからキミの足で踏んでほしいと……」

 ガシッと首根っこを掴みあげられて、マミとキュゥべえの目線の高さが同じになる。

「どこで、どこでそんなことを覚えてきたのかしら? ことによってはお仕置きしなくちゃいけなくなるわ」

 眉間にしわがより、目元と眉を吊り上げたマミがキュゥべえを問い詰める。

 清々しいまでの変態宣言をしたとは思えないほど感情の乗らない表情を浮かべたキュゥべえは、
なぜ巴マミが怒っているのかが分からず、原因を究明するために思考する。


(今の発言のどこにマミが気を立てる要素があったんだろう。皆目見当がつかないよ。
それともやっぱり、踏んでほしいなんて威厳のないことを言うべきじゃなかったかな? 
でも言ってくれって言ったのはマミのほうなわけだし、そもそも、踏んでくれたっていいじゃないか!)

 最終的に踏んでくれないマミがおかしい、と結論付けた彼はバタバタとつられた状態でもがき始める。

「言えといわれたから、言ったのに、言ったら言ったでそうやって問い詰めるなんて理不尽じゃないか。
その僕をつまんでいる手を放すか、さもなくば足で踏んでくれないと、ボクは喋らないよ?」

 小さな四肢をバタバタと動かすキュゥべえは可愛らしいと形容して差し支えないはずなのだが、
彼の弁はあまりにもあんまりなために台無しになってしまっている。

 空中でもがくキュゥべえに非常なる冷めた瞳が突き刺さり、プラプラとその体が左右に振れる。

 静かに、あまりにも静かに、巴マミは立ち上がると、のっそりと玄関まで足を運ぶ。
 高い断熱効果を持った玄関ドアを押し開けて、ポイッ、とキュゥべえを外へと投げ捨ててしまう。

「少し頭を冷やしなさい!」

 言葉と共に勢いよくドアは締め切られる。
 暗い夜空の下に放り出されたキュゥべえは一人呟く。

「まったく、訳が分からないよ」

>>15
合いの手ありがとうございます

本日ここまで

しぃぃん、としたその場所の中で雫が一粒だけ水面を叩き、

『投下――』


 夜遅くにマミの家から閉め出されてしまったキュゥべえは一人夜の街をあてどもなく歩く。
 キュゥべえが至高の御御足を探し、
もとい魔法少女としての資質を備えた少女を探して歩いているときのことだった。

 突如として強大な因果律が絡まり集まっていくという奇妙な現象を観測したのだ。

(な、なんだこれは!? この途方もない因果律の収束現象! 
間違いない、とんでもない美足を持った少女に出会える予感がするよ!)

 インキュベーターとしての彼の矜持はどこへやら、完全に足に魅了されているが、
本懐を忘れているというわけではないようで、引き付けられるように観測地点へと進路を変える。

 本来のインキュベーターであったのならば、真っ先に何が起きたのかを分析するはずなのだが、
生憎とこのキュゥべえは足の魅力に取りつかれているため、意気揚々と観測地点へと足を延ばす。

 彼の中では強力な因果を背負った少女とは素晴らしく魅力あふれる脚を持った少女であるということが、
完全に直結してしまっているらしい。


 キュゥべえがやってきた場所は、広い庭付きの裕福そうな一軒家だ。
 白く、清潔な印象の一軒家の一室から強力な因果の匂いを感じ取る。

(あの部屋だね。どんな美脚の持ち主なのか、今から楽しみだ)

 完全に目的を違えているキュゥべえは、外から二階の窓へと接近する。
 排水用のパイプを器用に辿り、窓際の小さな突起を足場代わりに窓枠へと組み付く。
 そこから明かりの落ちた一室を覗き込む。

(もう、眠ってしまっているみたいだね。暗くてどんな子かもよく分からないな。
明日、折を見て接触してみることにしようかな)

 暗闇に浮かぶ赤目がそっと、夜へと消える。


 ☆

 翌日、キュゥべえは見滝原中学校の周辺に網を張り、強大な資質を持った少女を探る。

(うーん、やっぱりマミや昨日の子みたいな逸材は中々いないなぁ)

 そう、大きな資質を備える少女を探っているはずなのだが、完全に思考が脱線してしまっている。

 しかし、キュゥべえにとっては美脚を探す片手間で資質を探ることなどは朝飯前なので、
本来の仕事についても滞ることなく進行する。

(それにしても昨日の見知らぬ魔法少女はどこの誰だったんだろう? 
あんな素晴らしい御御足をした少女と契約をした覚えなんてないんだけどなぁ。
忘れるなんてそれこそ考えられないし……)

 だが、彼の目当ての少女は見つからずじまいに終わり、
キュゥべえが少女の足を吟味した結果、合格点をあげられる少女がいなかったという結論を得るにとどまってしまった。

(しかし、強烈な因果の流れを学校からは確かに感じる。もしや、時間が少し遅かったのかな? 
それならば、今度は帰り時間を見張らなくっちゃね)

 次のチャンスをつかむために計画を練り直すのであった。


 中学校の下校時間まで美脚を探して街を練り歩き時間を潰したキュゥべえは、
下校する生徒が校門をくぐる少し前から張り込みを開始した。

(うーん、朝も見た足がちらほらと。学校なのだから当然といえば当然なのだけれど、
ちょっと新鮮味にかけるね)

 キュゥべえの小さな体に気が付くものはおらず、またキュゥべえが気に留める脚の持ち主もまた現れない。

(でも、間違いなくボクが探している少女がこの学校にいるはずだ。気を抜くべきではないね)

 ぞろぞろと入れ代わり立ち代わり二足が道を闊歩していくのを注視する。
 最早今の彼は完全に足しか見ていないのであった。

 学生たちの足の流れを三十分ほど眺めたところで、キュゥべえの視界にピィンとくるものがよぎる。
 細く、やや心もとなく思える両足は他の学生たちと比較すればやや長めに思える丈のミニスカートからスラリと伸びていた。

 年頃の少女としては少し肉付きの足りない太ももは、ややO脚気味ではあるものの、
ひざ下へと比較的愛らしいラインを形成しており、キュゥべえをドキリと弾ませる。

 ふくらはぎと脛を覆う白いニーソックスは太ももまでの印象をばっちりと強調し、連結させて清楚感を溢れさせる。
 学校指定のローフォーのつま先は気にならない程度の角度でハの字を作り出しており、
その少女が実に少女らしい少女であることを告げている。


(見つけた! あの子だ! あの子は間違いなく史上最強の美脚少女に、違った。魔法少女になる逸材だ!)

 キュゥべえが見つけた少女の名前は鹿目まどか。何の変哲もない極々普通の中学二年生である。

 小柄で幼児体型的な印象と雰囲気を人に抱かせる彼女ではあるが、
実際の身長は年齢別の平均身長と同程度か少し高いかな、というところであったりする。

 そして、彼女が実身長の割に小さな印象を受ける最たる理由は彼女の友人の二人のせいであろう。
 隣に並ぶ、美樹さやか、志筑仁美の両名は同年齢の少女たちと比べても頭一つ背丈が高く、発育が良い。


(隣の二人は……? 中々どうして! 
紺と黒のニーソックス。紺白黒と並ぶと色のコントラストが際立って、壮観だね! 
紺のソックスの足は、がに股で少々不格好だね。

足のバランスがやや崩れ始めているみたいだけど、何かストレスでも抱え込んでいるのかな? 
ギリギリ及第点といったところだね。

黒のソックスのほうは、中々の脚線美だ。
芯と重心がしっかりと据えられていて見た目以上に安定感のあるいい佇まいだよ。
惜しむらくは魔法少女としての資質がないことくらいだね)

 歩き出した三人を追いかけながらキュゥべえは心の中で批評する。
 尻尾を揺らしながら堂々と街中を歩く獣は、魔法少女としての資質を持った少女にしか視認されることはないため、何の気兼ねもしていない。

(さて、どう接触すべきかな。こう何か、ぱっと印象に残る登場の仕方で信用を得たいところだけど。
んん? 魔女の反応が近くにあるのかな? いや、これは使い魔だね。
少し危険だけれど、利用させてもらおうか)

 キュゥべえは名残惜しそうに三人の脚から目を逸らして、使い魔の結界へと歩みを進める。

本日ここまで
次は多分、明日

一つ、吹き抜ける風が囁くように告げるのだ

『投下』、と――


 トコトコと、特に警戒する様子もなく埃の溜まった改装中のフロアを歩く。
 果して本当に改装をしているかどうかも怪しいその場所は一面が灰色で、床にタイルなどもまったく敷かれてはいない。

 それゆえに、キュゥべえは結構のんきしつつも大胆に行動をしているわけだ。
 だが、キュゥべえがそんな行動をとることが出来るということは、その他の人物にしても同様であるといえる。

 そう、つまりキュゥべえは何者かに襲撃されたのだ。
 サプレッサを通して減衰された発砲音と、甲高い跳弾の音。
それから地面に出来上った黒い染みの三点を鑑み、キュゥべえは相手の得物が銃であると当たりをつける。

 もしや、と期待に胸を躍らせつつ振り返ればそこには彼の思い描いていた少女が憮然とした様子で銃口を突き立てて、立っていた。

(き、昨日の素晴らしい御御足の少女じゃないか! 
どうして攻撃してくるのかは分からないけれど、これはボクに運が向いているとみるべきだね!)

 完全に敵意を向けられ、あまつさえ無警告で発砲させれているというのにキュゥべえはいやに前向きに考える。
 そして、寸分の躊躇も迷いもなく目の前の美脚に走り寄る。


「キミは、えぇと。暁美ほむら、だね。昨日はどうして逃げ出したんだい? 
それに、ボクはキミと契約した覚えがないんだけど……、」

 前に進みつつ、飛来する弾丸を躱すという離れ業を披露するキュゥべえは、
他の個体とのリンクを利用して情報を収集し、入手した情報をもとに問いかける。

 狙いを定めて撃鉄を鳴らしているはずなのに、
その弾道を悉く見切られた暁美ほむらは慄き、後ずさりをしつつも引き金を引き続ける。

 だが、なんという機動力だろうか。
美しい足への執念が、キュゥべえの体を突き動かし、弾ける弾丸を掻い潜ることを可能にする。

 まさに、精神が肉体を凌駕している。

 そして、キュゥべえはまたもやほむらの元へと接近し、その御足に体を摺り寄せる。
 ゾゾゾとほむらの足元から頭のてっぺんまで怖気が走り抜ける。

 思わず手にしていた銃を取り落し、ガシャンという金属音がコンクリートを叩く。
 開かれた両手の指がもがくようにわさわさと忙しなく、回る。


「ひ、ひぃいぃ!」

 たまらず、ほむらは小さく悲鳴を上げてしまう。
 仕方のない生理現象だった。

「おおおお、お前は一体何を考えている!」

「そりゃもちろん、キミに踏んでほしいだけだよ?」

 震える声でほむらが問いかけると、キュゥべえは何の気なしに回答する。
 直後、ポンという軽い音と共にキュゥべえの小さな体躯が跳ね上がった。

「そんなに足が好きなのなら、お望み通りにしてやるわ」

 揺らめきのような声と共に、ほむらがキュゥべえを蹴り上げたのだ。
 軽く弾み上がった体は自重に打ち負けて落下へと変化する。
 ただし、実際に落下へと変化することはなかった。

 何故ならば、キュゥべえの体が薙ぎ払うように水平に飛ばされたからに他ならない。
 キュゥべえの小さな体が中空を滑空する。


(蹴られるのも、いいものだ……)

 そのまま壁に激突するかと思われたキュゥべえの体は、もっとやわらかいものにぶつかって跳ね返る。

「へっ、ぷぎゃぁああぁ」

 ビタンという音と、よくわからない叫び声が木霊する。
 キュゥべえは反動を利用して華麗に着地を決めると、何にぶつかったのかを確認するために、居住いを正す。

「いたたぁ。一体何が?」

 柔らか味のある声色が洟を啜る音と共に落とされる。

「ま、まどか?」

「えぇ、? あれ、ほむらちゃん?」

 キュゥべえよりも早く、ほむらが驚きの声をあげる。


「だ、大丈夫かしら? 怪我はない?」

「う、うん。結構柔らかかったから。それにしても一体何が?」

 ほむらは慌ててまどかへと駆け寄り、尻餅をついている彼女を抱えてるようにして立ち上がるのを手伝う。
 鹿目まどかは立ち上がりながら自分に衝突した白い生き物へとじっと視線を注ぐ。
そして、その行動はキュゥべえにしても同じだった。

(こ、この足は間違いない、破格の資質を兼ね備えた少女だ! 
確か名前は、鹿目まどか、だったね。でもおかしいな、ついこの間までは普通の女の子だったみたいだ。
背負い込んだ因果の量も特筆すべきほどではなかったようだし、一体何があったんだろう。
にしても、こう間近に特筆すべき御御足が並んでいると、こう、何か来るものがあるね! 
目覚めちゃう、もう感情が目覚めちゃう! なんて、冗談だけれどね)


 キュゥべえとまどかはお互いにじぃっと、見つめあう。

 キュゥべえは眼球そのものもあまり動かないため、どの角度から見てもこっちを見ていると思われる節がある。
そのため、実際には足しか見ていなくとも、相手からすれば目を合わせているような、そんな感覚になってしまうのだ。

 だが、いつまでも沈黙を通すわけにもいかず、キュゥべえが声を掛けようとする。
 が、その言葉は暁美ほむらの挙動によって遮られる。

 キュゥべえと、まどかの間に彼女が割り込みをかけてきたのだ。格好としてはキュゥべえからまどかを庇うような形で。

「こいつに近づいてはダメよ!」

「むしろボクとしてはもっと近づきたいんだけど、随分と嫌われてしまったみたいだね」

「しゃ、しゃべった!」

 キュゥべえが口を動かさずに言葉を介したことにまどかは驚く。


「ボクはキュゥべえ。ボクと契約して、ボクのことを踏んでよ!」

 瞬間、空白。
 直後、わざとらしく咳払いをしてからキュゥべえは宣言しなおす。

「ボクと契約して魔法少女になってよ!」


 渾身のかわいいポーズで語り掛けるキュゥべえだったが、先の失言のダメージは大きかったようだ。
 まず、正面に立つほむらの目が驚くほど冷徹な色を帯びる。

 あぁ、しくじったなと思考しつつもその後ろのまどかへと視線を移せば、最早形容しがたいドン引き状態であった。

(やらかした! やらかしたよボク! まさか、大事なところで言い間違えるなんて、なんて失態なんだ! 
流石にこれは言い逃れができない! あぁ、でもお仕置きと称して踏んでもらえたりしないだろうか?)

 キュゥべえが淡い期待を抱きつつ二人の動向を注視するも、期待は虚しく空を漂った。

「わかったでしょう? 近くにいるとあなたが穢されてしまうわ。
だから、見なかった振りをしてここから帰って頂戴。こいつには私がちゃんと話をつけておくから……」

「えぇと、うん。ほむらちゃんがそういうのなら、そうするけど、えっと、大丈夫?」

「えぇ、問題ないわ。問題ないからこのことは早く忘れて温かいお風呂に入って早めに休むことをお勧めするわ」

「うん、そうだね。今日はいつもよりちょっと早く寝ることにするね。それから、その、そのお洋服すごくかわいいね」

 困惑しながらも、まどかにかわいいと言われたことでほむらは少し照れを見せる。


「えと、ありがとう? それじゃあ、気を付けてね。また明日、学校で」

「うん、じゃあまたね」

 どうやら二人の間でことはスムースに進んだようで、別れのあいさつの後にまどかは背を向けてその場を後にしてしまう。
 キュゥべえはそれを追いかけようとするが、ほむらに踏みつけられて進行を防がれてしまった。

「あぁ! やっと踏んでくれる気になったのかい! でも踏むのなら靴を脱いで踏んでほしいのだけど! さぁ、早く!」

 きっと彼がもっと感情豊かであったのならば、鼻息を荒く捲し立てていたのであろうが、
生憎とそこまでの情緒を獲得しているわけではない。

「お前は一体何が目的だ?」

「ボクはただ、キミに踏んでほしかっただけさ! 
あぁ、でもまどかの足も正直結構たまらない感じなんだよね! 出来ればまどかにも踏んでもらいたいんだけど!」

 ほむらの受け取りたい回答とは程遠い答えをキュゥべえは発する。


「そう、まあいいわ。ただ覚えておきなさい。あの子と契約しようというのならば、私は容赦しないわ。
今回は穏便に済ませてあげるけど、次にもし同じようなことをしようというのならば、
私の拳銃があなたを打ち抜く。覚えておきなさい」

「早く、早く靴を脱いでボクを踏んでよ!」

 最早、全く会話にならないのでほむらは諦めてこの場を去ろうとするも、
力の弱い結界が生成され、道が閉ざされてしまう。

「くっ、こんな時に!」

 ほむらは舌打ちをしつつ、結界の主を探して歩き出す。

「どうでもいいけれど、まどかを追ったほうがいいんじゃないかい? もしかしたら巻き込まれているかもしれないよ?」

「――――ッ!」

 ほむらは重大なことに気が付いたようで、血相を変えてまどかの消えていったほうへと走る。
 グニュリと、力強く踏みつけられたキュゥべえは満足そうに、ほむらの後を追いかけるのであった。

こっこまで
また夜にでも

夜と言ったが、スマンありゃウソだ
あばよ、『投下』


 キュゥべえがやっとほむらに追いついてみれば、鹿目まどかのそばには、
彼女の旧友の美樹さやかと、魔法少女に変身し使い魔たちを一掃したマミがいた。

 目の前には素晴らしい足が二足に、とても良い足が一足、それから悪くない足が一足並ぶ。
 程なくして使い魔が張った結界が崩れ去り、彼らは元の空きテナントへと舞い戻るのであった。

「キュゥべえとそれから、あなたは?」

「私は暁美ほむら。最近この町に越してきたの」

 ほむらとマミは初対面だった様子で、互いに挨拶を交わす。
 キュゥべえはそれをしり目にマミへと歩み寄って、マミの足元へと座る。

(マミの魔法少女服の最大の欠点は靴がロングブーツになるところだね。
確かに戦いでは厚手の靴であるほうが防護性が高く有利ではあるんだけど、
いかんせん足が隠れてしまうし、ブーツは生地が厚くて足の感触が伝わらないのが難点だね)

 流石にこのタイミングでほむらのタイツ越しの足や、
まどかやさやかのニーソックス越しの足へとすり寄りにいくほど理性を失くしてしまってはいない様子だった。

 ただし、結局のところ足に身を寄せている事実は変わらないわけだが。


「巴マミ、あなたそいつに一体どういう接し方をしてきたのかしら?」

「むしろそれはこちらが聞きたいわ。
あなたと出会ったのが原因でキュゥべえがおかしくなったんじゃないかしら?」

 互いに眉間にしわを寄せにらみ合う。

「二人とも落ち着きなよ。
何を言い争っているのかは知らないけれど、
せっかくのいい脚がいがみ合っていたら台無しになってしまうじゃないか!」

「お前のことだ、この変態」
「あなた、本当にどうしちゃったの?」

 仲裁に入ったキュゥべえに対して二人はピシャリと言い放つ。

「ここ数日で急におかしくなったのよ。本当に原因はあなたじゃないの?」

「この町に来てから最初にあった時からこいつはおかしいのよ! 
いきなりすごい勢いでこちらによって来たと思ったら私の靴の隙間に潜り込んで、『踏んでくれ』よ? 
理解できるわけないじゃない!」


「ほむら、それは違うよ! ボクは生足かタイツで踏んでよ! と言ったんだ。
そんな靴のままでもいいみたいな言い方はしていない!」

「お前は少し黙ってなさい!」
「あなたは少し黙ってて!」

 訳の分からないことに訂正を求めるキュゥべえに対して二人は声を揃えて言放つ。
 ヤレヤレとばかりにキュゥべえはまどかのほうへと歩いて行こうとする。

「その、待って。それ以上こっちに来ないで?」

 その動きを敏感に察知したまどかが静止の声を浴びせる。

「まどか、どうしたのさ、あんたらしくもない」

「さやかちゃん、見た目に騙されちゃダメ。あの生き物はとっても倒錯的なの」

 さやかがまどかに疑問を投げれば、まどかはそれに簡潔でいて、これ以上ないくらい的確に答える。


「でも、近くによって来るくらい、別にいいんじゃ……?」

「さやかちゃん、よく思い出してみて。あの子の流れるようなポジショニングを」

 まどかはキュゥべえの動きを警戒したままさやかを諭す。

「それにね、わたしと会った第一声が何か教えてあげる」

 そして、続けて先程の変態宣言をさやかにも伝える。

「つまりはね、近づかれたら最後いつの間にやら足の下に入っているということも考えられるんだよ?」

「そ、それはちょっとヤだね」

 行き場を失ったキュゥべえは、一人呟く。

「まったく、訳が分からないよ」


 ☆

 さてどうしたものか、とキュゥべえは一人考える。

 出会い頭の失態のお蔭で、鹿目まどかには完全に警戒されてしまっていることに加えて、
まどかの警戒ぶりがあまりにも度が過ぎているために、美樹さやかのほうにも警戒されてしまっている。

 物のついでに述べておくと、マミには「反省が足りてないようね」と家から閉め出され、
暁美ほむらは当然取りつく島もない。

 つまるところ、キュゥべえは完全に行くあてを失くしてしまったのである。

「まぁ、彼女たちだけが魔法少女というわけでもないしね。対して困っているわけでもないんだけど。
でも、マミとほむらの足に匹敵する御御足を持った子なんてそうそういないのもまた、事実。
どうにか踏んでもらえないだろうか」

 最早完全に本懐を忘れ、どうしたら素晴らしい御御足に踏みつけてもらえるか、
しか考えていない彼だが、現状の問題点はいかにして鹿目まどかたちとの接点を維持するか、である。


(そういえば、もう一人あの学校に魔法少女の素質がありそうな子を見つけたんだっけ? 
先にそちらのほうを当たってみたほうがいいかな。
それに、少し前に契約したあの子のほうも、様子を見ておいたほうがよさそうだったしね)

 とても残念なことになっている彼だが、別段ノウタリンになっているわけではないので、
打開策の一つや二つ、簡単に思いつくのである。

(当人たちには警戒されてしまっているからね。外部から、干渉させてもらうよ。
そして、あわよくば踏んでもらうんだ!)

 しかし残念なことには変わりがないのであった。

ここまでみたいですね
次回は恐らく明日でしょう

炎が轟! と燃え盛り、全てを焼き尽くすのだ。
そう、『投下』の全てを


 夜の街を歩くキュゥべえの足取りは軽く、何やら解放感に溢れている様子だ。

 場所は見滝原近隣の小規模な市、風見野。
 彼の目指す場所は連立された電波塔の頂上だ。

 実際に彼の探し人がその場所にいるかどうかは不明であるが、
馬鹿と煙は高いところに昇りたがるという故事を参考に行動している。

「あの子の足も悪くないんだよね。ただ、どうにも足癖が悪くていけないよ。
まったく、磨けば光るかもしれないっていうのにさ」

 呟きながら、軽い足取りで障害物を飛び越え、鉄塔を外枠から器用に駆け上る。

 体が小さく、筋肉が発達しているわけではない彼の体は、
お世辞にも早いとは言えない速度で少しずつ高さを積み上げていく。

 ひゅぅっと、風が吹き抜ける。
キュゥべえの柔らかく、しっとりとした長い耳がはためき、月光を反射して、きらりと光る。

 キュゥべえの目線の先で、暗がりの中誰かが立ち上がり、彼へと視線を注ぎこむ。


(踏む、ふむふむ。流石に人類が長年培ってきた人類のための格言は、中々有用だね。
まさかこんなに早く、見つかるとは思わなかったよ)

 風切り音の後、ガンッ、という衝撃を伴った着地音が響く。

 佐倉杏子。
長い赤毛をポニーテールにまとめ、シャツの上に薄手のパーカーを羽織り、
太ももを眩しく露出させるホットパンツという格好の少女が鉄塔の先端から降ってきた。

(悪くない足なんだけど、何だっていつもブーツを履いているのかな! それに相変わらず足癖が悪い様子だし! 
あぁ、でもブーツから解き放たれた瞬間の蒸れた足もそれはそれは乙なものだけれどね! 
ただし、その瞬間を望むまでの間に非常にカタルシスが溜まるというのはやはり、難点だと言わざるを得ないよ!)


「あんた、アタシになんか用でもあるの?」

「いや、実は見滝原の町に困った事態がおきそうなんだよね」

 パキッ、と咥えていたチョコレート菓子をかみ砕き、キュゥべえをみおろす。


「それをアタシが何とかする気になると思うか?」

「そんなことを言うつもりは毛頭ないさ。
ただね、最近魔女の動きが活発になってきているみたいだから、一応伝えておこう思っただけさ」

「へぇ、つまりそれはあんたからあそこに手だしてもいいっていう、お墨付きみたいなもんか?」

「流石にそこまで踏み込むのはボクの管轄外だし、諍いの理由にされても困るのだけれど……、」

「あぁ、なにさ。何か含みのある物言いじゃん」

「いいや、別にたいしたことじゃないさ」

 杏子は何かを企むように口角を吊り上げてキュゥべえに言葉の先を促す。

「あんたに協力しようなんてさらさら思えないけどさ、言うだけ言ってみたらどうだい?」

「それもそうだね。じゃぁ、遠慮なく」

 そこで一度、言葉を区切り、ため息をつくような間をおいて二の句を続ける。


「そのブーツを脱ぎ捨てて、蒸れた足でボクのことを踏んでよ!」

 言葉の直後の出来事だった。
 キュゥべえには迫りくるブーツがスローモーションのように視えて、軌道を計算するだけの余裕すらあった。

 だが、実際の時間に換算すれば一秒ほどのその時間は、彼の小さく、
機動性に乏しい体で回避を敢行するには、あまりにも短い時間だった。

 振り上げられたブーツは、楕円の起動を描き、彼女の足を中心にして、その円周上にキュゥべえの体を捉える。

 指向性と機動性を確保し、体軸を通したきれいに通したローキック。

 軸足のつま先が、遠心力により、鉄柱の上を回転することで、
蹴り足へと力が伝番されて、空を切る鈍い音が耳を撫でる。

 瞬く間もなく、キュゥべえは蹴り足の勢いに巻かれてその小さな体を空中へと投げ出されるのだった。


(み、見事な足技だよ! 威力の伝番から衝撃の指向性まで、完璧に道筋が通っているじゃないか! 
これはまさに、脚線の通った一撃だ! でも欲を言えば生足でお願いしたかったよ!)

 鉄塔の上から勢いをつけて吹き飛ばされたキュゥべえは、星屑のように宵闇へと消えていくのであった。

 杏子に蹴り飛ばされて夜の見滝原の街に帰還したキュゥべえは、
十点、十点、十点、の合計三十点満点な着地を決める。


「やれやれ、どうして皆踏んでと言っているのに、蹴り飛ばすのかな! 
全く、ボクのことを蹴られるのが好きなマゾだとでも思っているとでもいうのかい! 
まぁ、ごちそうさまではあるのだけれど!」


 ふんふんと、鼻でも鳴らしそうにキュゥべえは一人ごちる。
 そんな折、大変都合よくキュゥべえに後ろから声がかかる。

「くふふ。おや、キュゥべえじゃないですか、こんな時間に一人でいるとは珍しい」

 彼が振り返ればそこには変な服を着た魔法少女が立っていた。
 名前は優木沙々。

 所謂典型的な小悪党であり、大変な小物である。


「いきなり飛び出してきたと思ったら、何たる言いぐさですか! あったま来ました。
踏み潰してやろうかってんですよ!」

 血液が沸騰しそうなほどに怒り心頭の彼女の言葉を、キュゥべえは少しだけ吟味する。
 小さく、「ふむ」と呟き逡巡する。

「踏んでくれるというのなら、踏んでもらうことにするけど、靴は脱いでもらえるかな?」

 そのセリフに、流石の優木沙々も絶句した。
 先程までダンッダンッ、と地団太を踏んでいた足の動きがピタリと止まり、
気持ちの悪いものを見る目でキュゥべえを見下ろす。

「踏んでくれるんじゃないのかい? ほら、さぁ早く!」

 突如急変した彼女の態度を不思議に思いつつも、先を急かすキュゥべえ。

 先程までの威勢を完全に失って、
肩を落とした沙々は煤けた背中を揺らしながら夜の街へと消えていくのだった。

「全く、わけが分からないな。まぁ、彼女みたいな足に踏んでもらえない程度残念でも何でもないけどね」

 ぴょこん、という可愛らしいオノマトペでキュゥべえは一人で夜の街を歩く。

書き込みはここで途絶えている

はて、続きは明日なんですと

ぬ、抜けてますねぇ……
ご指摘感謝です

>>68

「何だキミか。キミの足は大変小汚いから、お呼びじゃないのさ」

「んなぁっ!」

 大変な言いぐさで、背を向けそのまま立ち去ろうとするが、
そのあまりにもな暴言に額を震わせながら優木沙々はキュゥべえの正面へと躍り出る。

 しかし、回り込まれてしまった! という奴である。

「キミみたいな悍ましい足の持ち主に用はないんだけどな。僕に何か用かい?」

「訂正しなさい!」

「事実を言ったまでじゃないか。それともキミは自分の足に自信でもあったのかい? 
もしそうだったとしたらとんだ勘違いだよ?」

>>69

物のついでに投下していくことにしましょうか


「やぁ、美国織莉子。調子はどうだい?」

 キュゥべえがやってきたのは、見滝原の外れに位置する大きなお屋敷だった。
 大きな観音開きの窓を外側からノックすると、鍵が外れて空気を取り込むように大きく開かれる。

「上々、と言いたいところですが、未だ不安定です。どうしたものか」

「そればかりはキミがどうにかするしかないね。ボクたちにはあまりキミたちの魔法にアドバイスをしてあげられない。向き不向き、得て不得手いろいろあるからね」

 キュゥべえを屋敷に招き入れた少女は美国織莉子。
 敏腕な地方政治家で、国会議員選挙にも近々声がかかるのではと期待されていた、美国久臣の一人娘だ。

 巴マミにも劣らないプロポーションを持ち、
生粋のお嬢様として志筑仁美にも劣らない礼儀作法を身に着けた人物。

 そして何より、一級品の太ももの持ち主である。

「さて、それでは悪だくみを始めましょうか?」

 織莉子は微笑みながらしなやかに椅子へと座る。ロングスカートの裾からチラリと見えるくるぶしがキュゥべえをときめかせるが、
彼は表情を動かさずに、織莉子の言葉に応じるのであった。


 ☆

 恨めしいほどに高く昇った太陽をしり目に、巴マミ、鹿目まどか、美樹さやかが、
解放された学校の屋上で、昼食のお弁当を頬張る。

 そこに、キュゥべえがふらりと立ち寄った。

「あらキュゥべえ。少しは反省したかしら?」

「そんなことよりも、魔法少女の説明はしてくれたのかな?」

「えぇ、したわ。だけどね、あなたが態度を改めるまではこの子たちに近づくことは許しませんからね」

「ヤレヤレ、全く取り付く島もないね。それじゃさっさと退散させてもらうよ。
あぁ、でも魔法少女になりたかったらいつでも呼んでほしい。いつでもボクはキミたちのことを待っているよ!」

 去り際にさやかがあっかんべーをしていたが、キュゥべえはそれに反応を見せず、
ただマミとまどかの足を名残惜しそうにチラ見するのだった。

 開いたドアを通り抜けた先で、キュゥべえとほむらがすれ違う。
 二人はお互い言葉を交わすことなく、チラリと視線だけを交わすにとどまる。

(やはりほむらもマミもいい足をしているね。さて、どうすれば踏んでもらえるか。
もとい、どうすればまどかとの契約を取れるか。もう少し、頭を捻るべきだろうか)


 あれやこれやと、色々と思考を巡らせるキュゥべえであったが、
放課後に学業を終えた学生たちを街へと溢れだした頃合を見計らって、思考を中断し彼もまた街へと下る。

 ただフラフラと街を歩くのではなく、目的を持って街を歩いている。

(彼女の一週間前の行動パターンと照らし合わせれば、この辺りにいるはずなんだけど……)

 彼は今、インキュベーターとしての本懐を果たすべく、行動している。

(おっ、ちょうど来たね。さて、第一声はなんて声をかけるべきかな)

 キュゥべえが思案しながらブロック塀の上から眺めていると、黒髪の少女と目が合った。
 彼女の名前は呉キリカ。見滝原中学の三年生で若干の不登校児だ。

 ぱっと見の印象では比較的長身に見えるが、実際のところは鹿目まどかと同程度だったりするのである。
つまりは、「なんか思ったよりも背小さかったんだね」とよく言われるタイプの人物であるのだ。


(それにしても、随分ボクのことをじぃっと見つめてくるなぁ)

 考えながらも、キュゥべえは行動を起こさずに様子を見る。

(この位置からだと見えずらいけれど、中の上ってところかな? 
そして何より、きっと足を露出させる魔法少女になるはずだ! 
なぜかみんな魔法少女になると足を隠してしまうからね。

防御力を考えれば仕方のないことかもしれないけれど、実にもったいないよ)

 塀の上から見下すようにキリカを観察するキュゥべえはいつにもまして益体のないことを考える。
余談ではあるが、ファーストコンタクトにおいて高所から相手を見下すことが出来れば、
僅かながらに精神的優位を得ることが出来るのだ。

 これは自分より大きいという意識の刷り込みを行うことで、
相手が自分よりも強いと無意識化に働きかけられるためである。

「変な猫」

 たっぷりと見つめ合ったキリカとキュゥべえはその言葉を皮切りに会話を始める。


「ボクは猫じゃないよ」

「しゃ、しゃべった?」

 まさか小動物から返答があるとは思っていなかったキリカは驚きつつ、
一度逸らした目線をキュゥべえへと指しなおす。

「ボクはキュゥべえ。実はキミにお願いがあるんだ」

「は? お願い? こんないじけた私に用があるなんて変な奴だね」

「ボクと契約して魔法少女になってよ!」

 溢るるリビドーを喉もとで抑え、可愛らしく小首を傾げてそう告げるのだった。

それではまた夜にでも

紫電一閃。
轟く雷鳴は開闢を告げるのだ、
『投下』と


 太陽が傾き、影が伸びる。
 背の高くなった影の中をキュゥべえはゆったりと歩く。
 場所はマミが忍び込んだであろう魔女の結界がある廃ビルだ。

「ふむ、特に苦戦はしてないみたいだね」

 閉じた結界の入り口を間近で分析しながらつぶやく。
 ザリッ、と砂粒を擦るような足跡が聞こえ、彼は振り返る。

 傾いた陽ざしにまかれて、長く黒い影を落とす少女が足音にしては妙に高く、軽い音と共に歩み寄ってくる。

「暁美ほむら。いいのかい、こんなところにいて」

「別に構わないわ。この程度の魔女なら苦戦することもないでしょうし」

「キミは……、随分と信頼しているんだね」

 結界の前で動きを止めたほむらは浅く長い息を吐き出す。
 目を瞑り、何かを探るように魔力の波長を整える。どうやら、結界の中の様子を外から探っているらしい。


「そうね、信頼している。そういっていいのでしょうね。でもだからこそ、信用できない」

 グルグルと、自分の足元をうろつくキュゥべえに若干イライラとしながら、まるで独り言のようにつぶやく。

「そろそろ終わりのようだけど……、このまま鉢合わせてしまって構わないのかい?」

「そのつもりよ。今は、そうね。差し詰め、消極的な休戦といったところだから」

 憂いを含んだ眼差しで左手の甲を彼女は撫でる。

 その動作にどんな含みがあるのかは足しか見ていないキュゥべえにはさっぱり分からない。
だが、何か思うところがあるのだろう、ということだけはキュゥべえにも理解できたようだった。

「ふむ、キミが何を憂いているのかは分からないけれど、
言いたいことがあるのならば言っておいたらいいんじゃないかな?」

「あなたみたいに、かしら?」

「それは皮肉のつもりかい?」

 淡と、柔らかな湿り気を帯びた言葉を交わす。


「さて、どうかしらね」

 魔女の気配が大きく揺らぎ、結界が崩れ始める。

 魔女の力が完全に消滅するのと同時に目の前にソウルジェムと巴マミ、鹿目まどか、美樹さやかが、姿を現した。

「首尾は上々のようね。全く、恨めしいわ」

「居たのなら、中に入ってくればよかったじゃない。別に無下にしたりはしないわよ?」

「げ、転校生とご乱心のキュゥべえじゃん」

「げっ、とはあんまりな言いぐさじゃないかな? ボクはこれでもキミたちを心配して様子を見に来たんだ」

「ありがとうね。へんたいキュゥべえさん」

「きゅぅっぷい! きゅっぷい!」


 適当な会話が交わされ、瞬間的な空白が過る。
 沈黙はほむらとマミへと吸引されて、溶け落ちる。
 マミは無言で、視線を飛ばし手にしたグリーフシードを投げ渡す。

 ほむらもまた無言でそれを受け取って、一瞥。


「これを素直に受け取ったら、そこの二人を魔法少女に勧誘するのをやめてくれるかしら?」

「……。あなたのスタンスが分からないわね。そんなにほかの魔法少女が邪魔?」

「もしそうだとするならば、この場であなたを襲わない理由がないわ」

「そう、それなら、なんでそんなにこの子たちが魔法少女に近づくことに反対するのかしら?」

「これは危険なことなのよ。あなたはそれを分かっているの?」

「私が魔女に負けるとでも?」

「確かにあなたは強いわ。でも、強いからと言って死なない保証はないでしょう」

「そう。なら関係ないわね、私は魔女には負けないもの」

「あなたがこのまま二人を危険に巻き込むっていうのなら、」

 ほむらはそこで言葉を切ると共に受け取ったグリーフシードを投げ返す。

「あなたと組むことは了承できない」


「そう、交渉は決裂ね」

「えぇ、そうみたいね。残念だわ、キュゥべえ話があるの、ついて来なさい」

 ほむらはマミとさやか、まどかに背を向けて廃ビルの外へと歩き出す。
 そして、突如呼びつけられて面食らったキュゥべえは慌ててその背中を追いかける。

「ほむらちゃん……、」

 背後で聞こえた小さな呟きは、キュゥべえだけにしか聞き取れなかった。

 いつの間にか魔法少女の衣装から見滝原の制服へと戻っている暁美ほむらを追いかけながらキュゥべえは問いかける。

「それで、話っていうのは何かな、ほむら?」

「お前は昨日の夜、どこで何をしていた?」

 どうも、何かを疑われているらしいぞ、とキュゥべえは受け取り、回答を思案する。


「なんだ、そんな事かい。てっきりボクはキミが踏んでくれる気になったのかと思ったのに……」

「その手には乗らないわ。さぁ、答えなさい」

 取りあえず、本心を述べてお茶を濁そうとしてみたものの、
完全に予想通りの反応だったようで、きつくギロリと睨まれた。

「昨日は、ほかの魔法少女と会っていただけだよ? 特にキミの不利になる行動はしていないと思うのだけど……、」

「そう、それなら質問を変えましょうか。昨日の夜からさっき私と会うまでの間にお前は誰かと契約でもしてきたのかしら?」

「それが一体キミに何の関係があるというんだい?」

「いいから答えなさい」

 ピシャリ、と追及され、仕方なしにキュゥべえは口を割る。


「したよ。一人だけだけどね」

「そう、この町の魔法少女なのよね?」

「そうだね。彼女はこの町の人間だ」

「そう、ありがとう。もういいわ、時間を取らせて悪かったわね」

 短く告げたほむらは、次の瞬間には既にその姿をどこかへと消してしまっていた。

(今、一瞬だけ魔力の反応が合ったみたいだ。つまり、彼女は魔法を使って姿を消した、と見るべきだね。
結果だけを見れば、瞬間移動か、或いは超速移動かな。
でも移動後を一瞬でも感知出来てないのが気にかかる。それをどう見るべきか、だね)

ここまでのようですね
へぇ、そうですか。次回は明日、と

遅れましたが投下します


 ☆

 マミたちが廃ビルの中で魔女を倒して、ほむらとキュゥべえと言葉を交わしてから三日ほどの時間が過ぎた。
 その間にはキュゥべえも、美国織莉子と悪だくみしたり、千歳ゆまと契約したり、
佐倉杏子に蹴られたり、呉キリカに念願かなって踏んでもらったり、色々とあった。

 そして、結構色々あったお蔭ですっかりマミ、さやか、まどか、ほむら、のことを放りっぱなしにしていたわけだが、
そろそろ本格的に行動を開始しないといけないと思い、作戦を練っている。

(別に、忘れていたわけじゃないんだからね! 
ただ、彼女たちの外堀を埋めて、あわよくばまどかに契約してもらいつつ踏んでもらうにはどうすればいいのかを、
考えていただけなんだからね! 情報収集した中から見繕うと、ツンデレや、ギャップっていうのが、おとすのに有効らしい。
ちょっと練習してみたけれど、何かが違うような?)

 小さな体を物理的にひねり、何か妙案がないかと思考を走らせる。

(しかし、この町は本当に魔女が良く育つみたいだね。
大体一週間で三匹も四匹も成長しきるとか、何かの冗談なんじゃないかな?)

 孵化寸前のグリーフシードの気配を敏感に感じ取ったキュゥべえは、尻尾を振ってそちらのほうへと歩を進める。


(この距離と方向だと、見滝原病院のほうかな? もしかすると、さやかやまどかに会えるかもしれないね。
そしたら契約のチャンスが来るかもしれないし、様子を見に行って損はないだろう)

 打算的な結論をもってしてキュゥべえは行動を開始した。

 大きな尻尾を振りながら、キュゥべえが病院へとたどり着くと、
焦った表情のさやかとまどかが、病院の外壁に取りついたグリーフシードを指差して頻りに言葉を交わしていた。

「二人とも、そんなに慌ててどうしたんだい?」

 ひょこひょこ、と近づいてくるキュゥべえをみて、二人は安堵したのか事態が悪化したのか、
特に判別がつかなかった様子で、パニックを起こしたまま早口で捲し立てる。

「あ、あんた! あぁ丁度良かった。ねぇマミさんどこにいるかわかる?」

「そそそ、そこに、グリーフシードがね! なんかえっと、危なそうなの!」

 要領を得ない二人の言葉に、実際には状況を理解している彼はシレッ、と知らないふりをして確認を取る。


「ふむ、これは……。今すぐに、孵化する様子はないみたいだけど、そろそろ結界が出来るかもしれない。
早いところマミを呼ぶか、この場から逃げたほうがいい」

 冷静なキュゥべえの言葉に、さやかが血相を変えて反発する。

「ここは病院だよ! もしこのままここに取りついたりしたら!」

「でも、さやかちゃん! それでさやかちゃんまで巻き込まれたら本末転倒だよ!」

 さやかの勢いは止まらず、半ば睨み付けるような格好でまどかへと強い言葉を突き付ける。

「まどか! あんたはマミさんを呼んできて! あたしはこれが孵化しないように見張ってるから! 早く!」

「無茶はよくないよ。
孵化するのはもう少し時間がかかるとはいえ、結界に巻き込まれたらキミは閉じ込められてしまうよ?」

「でも! 放っておいたら逃げられちゃうんでしょう!?」

 苛立たしげにさやかはキュゥべえを問い詰める。


「仕方ない、ボクも残ろう。まどかはなるべく早くマミを連れて戻ってきてくれ。
中に入ればボクの力でテレパシーを使ってナビゲート出来るはずだから」

「わ、わかった!」

 諦めたキュゥべえはさやかと共にグリーフシードへと向き直り、まどかは一人と一匹に背を向けて駆け出す。

 まどかの足音が完全に街へと消えた頃合を見計らったかのようにグリーフシードの魔力が膨張して、
辺りにあるものを適当に巻き込み、結界を形成する。

「キミは恐怖を感じないのかい?」

「まさか、そんなわけないじゃん」

「それなら、願い事さえ決めてくれれば今この場で魔法少女にしてあげることも出来るよ。
マミのように戦う力を与えてあげられる」

「いざとなったら、頼むかも。でも今は遠慮しとくよ。
あたしにとっても大事なことだし、ちゃんと決めたいから」

 結界の中へと取り込まれた一人と一匹は、キュゥべえが先導する形で結界の奥へと侵入していく。


「そうかい。なら、すぐに無理強いはしないよ。ただ、もしもの時の覚悟だけは決めておくべきだ。
それと、今のキミはそこらの使い魔にサクッと狩られるから慎重にね」

「うん、分かってる」

 若干顔を蒼くしたさやかはキュゥべえと共に結界の中を歩く。
 結界は、色とりどりの甘そうなもので溢れていて、見ているだけで胸やけを起こしそうになるほどだ。

「にしても、この前のとは随分、趣が違うというか……」

「そりゃ、魔女にも色々と個性はあるからね。
同じ魔女から派生した使い魔が育ったとしても、結界を発生させた環境が違えば細部が違ったりもするし、
全く同じ結界を持った魔女なんて、恐らく存在しないんじゃないかな?」

「へぇ、そういうのってあるんだ……」

「まぁね。キミたち人類だって、色々だろう? 
確かほら十人十色とかって言葉があるじゃないか。それと似たようなものさ」

 邪推しようと思えば、いくらでも推し量る余地のある言葉を選び、キュゥべえはさやかへと説明する。


 さやかとキュゥべえは慎重に、慎重を重ね、足音にも気を払いながら結界の中を進む。
 結界の奥へと進むにしたがって、甘くくどいお菓子のような空間が少しづつその色合いを変化させていく。

 まず具体的に目につくのは、どこからともなく吊るされたカプセルだ。
それから、同じように吊るされた錠剤、にひとりでに動き回る薬瓶とネズミのような使い魔に運ばれる注射器。

 そのどれもが、病院という空間から拝借したものである、と主張しているようだった。
 いくつかの扉を潜り抜けて、さやかとキュゥべえはグリーフシードの鎮座する最奥まで、到着した。

 魔女の種は未だ孵らず、瘴気をまき散らすようにドス黒く、空間を侵食するように輝く。
 そして、それを発見した二人は、何か物陰になりそうな場所へと身をひそめ、様子を窺う。

 もっとも、魔女からしてみれば結界の中は自身の領域そのものであるため、
探そうと思えばどこに隠れていても必ず見つけられるし、
手元に引き寄せることさえ造作もなく行えるので、あまり意味はない。
だが、さやかはそんなことは知らないし、
例え知っていたとしても気持ちの問題で同じような行動をとったであろうことは明白だ。


《キュゥべえ状況は?》

《まだ大丈夫だ。孵化する気配はないから、ゆっくり慎重に、来てくれるかい? 大きな魔力を使って卵を刺激するほうがまずいかもしれない》

 図ったようなタイミングで、マミからのテレパシーがキュゥべえへと届く。

「マミが到着したみたいだ。大事には至らずに済みそうだね」

「はぁ、でも、まだ油断できないんでしょう?」

「そうだね、そういう危機感は大事だ」

 小さな揺らめきが結界の中へと生じる。それはつまり、外部から結界が開かれたことを意味する。

(さて、この局面マミは切り抜けられるかな?)

 今後の展開に損得勘定を働かせながらキュゥべえは事態を静観する。

ここまででございますね
次は今夜でございましょうか

それは突然のことだった
それは本当に突然で身構えることなどできなくて
つまりは、投下であったのだ


 特に言葉を交わすこともなく、さやかとキュゥべえがグリーシードへと熱視線を送り続けていると、それは唐突にやってきた。

 卵が爛と輝きを増す。
 胡乱な魔力が瞬間的にその発散を終息させる。

《マミ! 大変だ、卵が動き出した! 魔女が生まれるよ!》

 瞬間的な静寂の後、拡散されていた魔力が一気に収束する。
 それと共に巨大な魔力のうねりが魔女の結界の中を暴れまわる。

「な、なに?」

「落ち着くんだ。魔女の卵か活性化しているから、それをマミに伝えて、急ぐように促したのさ」

「それでこんなにぐらぐらしてるの?」

「その通りさ。でも大丈夫だ、急いだマミは速いからね。すぐ来るよ」

 見守るキュゥべえとさやかの様子は対照的で、いやにアンバランスだ。
 しかし、そんな光景も束の間で終わり、まどかを連れたマミが結界の最深部へと踏み込んでくる。

 そして同時に、魔女が卵から孵り、その姿をあらわにする。


「ま、マミさぁん!」

「遅くなってごめんね。さて、お出ましのとこ悪いけど、一気に決めさせてっ、もらうわよっ!」

 小さなぬいぐるみのような体を持った魔女にマミはリボンの魔法を仕掛け、宙へと吊り上げる。
 幾本かの銃を取り回して、魔女の体に魔法の弾丸を撃ち込み、手ごたえを確認する。

 キュゥべえは、マミの軽やかすぎる動きに何か違和感を感じたようで、
興味深いものを見るように観察し、監査する。

(踏む、魔力探知がいつもより甘いね。油断している、というよりは浮かれているのかな? 
これはひょっとすると、もしかするんじゃ……?)

 彼の読みは思いのほか見事に的中することになる。
 中空で磔刑に処された、小さな魔女へとマミが渾身の一撃を声高らかに打ち込む。


「ティロ・フィナーレ!」

 打ち出された巨大な弾丸は、魔女の小さな体を貫き通し、つり潰す勢いだ。
 だというのに、魔女には焦りが見られず、変わらぬ様子でその攻撃を受け止める。

 直後、にゅるり、と小さな魔女の口から巨大な図体を持った蛇腹の化け物が姿を現す。
 それが来ると分かっていたキュゥべえは、その瞬間に思考が加速するのを自覚した。

(ここでマミが退場すれば、まどかとの契約のチャンスは格段に増すはずだ。
それどころか、おまけにさやかが契約に踏み切ることだって容易になるはず)

 インキュベーター的な思考回路が利己的な展開を許容する。
否、そうなることを予感して、止めなかった時点でそれを望んでいるといっても過言ではない。

 消極的な賛成という奴だ。


(でも、それでいいのかい? だって、ボクはまだあの足に踏んでもらってないじゃないか! 
あんな、あんな素晴らしい足がボクを踏まないまま、ただの肉と骨の塊になるなんて、許されていいのかい? 
いいや、否! 断じて否だね! なんとしてでもマミには生き残って、ボクのことを生足で踏んでもらわないと!)


 だが、キュゥべえは魅力的な足を、あまりにも魅力的な足をみすみす手放すことは出来ない、そう心の底から考えた。

 気が付けば、彼の小さな体躯が呆然とするマミへと、猛然と突っ走っていた。
 そう、こんなところであの美脚が失われるのは惜しい、実に惜しい。その一心だった。

 飛び出したキュゥべえの体はその小さな膂力を最大限に引きずり出して突進する。
 魔女の大きな体もまたマミの頭を食いちぎらんととして、前進する。

 その速度自体は魔女のほうが早いが、キュゥべえのほうがマミに対する距離が近く、また出だしも一歩早かった。

 限界ギリギリの一瞬。一粒の滴が、水面に小さな小さな波を作る。

 バランスを崩したマミの体が、倒れ込むように地面へと激突する。
 魔女の牙からは血が滴り落ちて、倒れたマミの体へと滴を垂らす。
 ただし、魔女の牙から垂れ下がるのは何も血だけではない。

 何かを払うように頭部を振るった魔女の牙からキュゥべえの長い耳がすっぽ抜け、彼の小さな体ごと遠くへと放り投げるのだった。
 左腕に小さくない裂傷を負ったマミは右手に力を入れて立ち上がり、表情を隠したままその場を離脱する。


(か、間一髪だね。しかし、参ったなボクも手痛くやられたね)

 右耳に大きな穴を空けられ、血を滴らせたキュゥべえは運よく、
まどかとさやかの近くへと投げ飛ばされたようで、手当は出来ないまでも、抱きかかえられて、手を尽くされる。

「あ、あんた無茶苦茶だよ。大丈夫なの!?」

「どうしよう、痛いよね。でもどうすれば……」

 あまりの損傷ぶりに軽いパニックに陥るまどかとさやか。

「君たちに出来ることは二つあるよ」

 一呼吸分の時間をおいて、彼は続ける。


「ボクのことを生足で踏むか、ボクと契約て魔法少女になるか、だよ!」

 全くブレないキュゥべえをよそに、体をふらつかせながらもマミが魔女へと立ち向かう。
 精神的な動揺と、左腕の裂傷が思いのほか深いようでその動きは鈍い。

 心が不安定になれば持続性の高い魔法はおのずとその効果を失くすようで、
マミの元へとどこからともなく魔力が戻っていく。

 間髪を入れずに、突如として魔女の腹部が爆発した。
 黒い魔女の胴体から、ビチャビチャと血糊によく似た液体が滴るような錯覚が生じる。

 気が付けば、魔女の向かい側でマミを抱えてほむらが相対している。


「まさか、生きているとはね。運が良かったっていう、自覚はある?」

「お生憎様、でも運じゃないわ、助けられたの。もちろん、あなたにもだけど」

「そう、それじゃあ、ゆっくりと治療に専念していなさい」

 ほむらはマミと言葉を交わしたのち、彼女をまどかたちのほうへと運び、再度魔女へと向き直る。

 そして、ぱっと一歩動いたと思えば、その姿はすでに魔女の目の前まで移動しており、
淡々と足場を経由して、ひたすら魔女に致命傷を与えていく。

 ただし、彼女がどうやって攻撃を仕掛けているのかはまるで掴むことが出来ない。

 魔女がほむらを襲う、ほむらはいつの間にか魔女の攻撃を避けており、いつの間にやら魔女の腹部や頭部が爆発する。
 その繰り返しだった。そう、まるで過程がごっそりと抜け落ちるように。


(ふむ、どういう原理だろう。行動の過程をまるっとスキップしているみたいだね)

 指向しながらもキュゥべえはことの顛末を見届ける。
 徐々に爆発に耐えられなくなっていく魔女の体は再生を繰り返しながら小さく縮み、
大きな爆発に丸々飲み込まれて、その姿をかき消されるのであった。

 ぐにゃっと、景色が歪み、見ているだけで胸やけしそうな魔女の結界が壊れ、病院の前へと戻るのであった。

ここまでみたいですね
次回は明日じゃないでしょうかね

恐らくシリアスにしないと死ぬ病気かなんかなんじゃないですかね
それでは投下します


>>110

(ふむ、どういう原理だろう。行動の過程をまるっとスキップしているみたいだね)

 指向しながらもキュゥべえはことの顛末を見届ける。
 徐々に爆発に耐えられなくなっていく魔女の体は再生を繰り返しながら小さく縮み、
大きな爆発に丸々飲み込まれて、その姿をかき消されるのであった。

 ぐにゃっと、景色が歪み、見ているだけで胸やけしそうな魔女の結界が壊れ、病院の前へと戻るのであった。


 同日宵闇が太陽を飲み込んだ頃。キュゥべえは何日かぶりにマミの家の敷居を跨いだのである。

「それにしても、キミの傷はもういいのかい?」

「魔法で傷口も塞いでいるし、問題ないわ。数日は違和感があるかもしれないけれど……、
それよりもあなたのほうの傷は平気なの?」

「ボクの傷はすっかりキミが直してくれたじゃないか」

「大事はなさそうね」

 ガラステーブルにティーセットを並べ、マミはキュゥべえと向かい合って紅茶を啜る。
 柔らかく、温かみに溢れ、ほのかな苦みが後を引く。ハーブティではなくダージリンをストレートで抽出したようだ。

 穏やかに主張する紅茶の香りが、二人の落ち着いた時間を演出する。


「ねぇ、きゅぅべえ」

「何かな?」

「その、ありがとう、ね。それで、その、何か、あなたのしてほしいことってないかしら?」

「それなら、再三言っているじゃないか?」

「その、そんなに踏んでほしいの? そんなのの何がいいの?」

「キミは、君の足の素晴らしさについて全然分かっていないようだね」

「な、なんか照れちゃうわね。それで、その、私の足ってそんなに魅力的なのかしら?」

「それはもちろんだ。ボクらは長いことキミたちを見てきたけれど、
君ほどの素晴らしい足を持った子には数えるほどしかお目にかかったことがないよ」


「な、なんだか恥ずかしいわ」

「とんでもない、誇るといいよ!」

「うぅ、あ、ありがとう。それで、助けてもらったし、
お礼をしなくちゃって思うんだけど……、その本当にそんなことでいいの?」

「むしろあんなに拒絶していたのにこんなにあっさりと、いいのかい?」

「うぅ、うん。仕方なく、よ? あなたの望みがそれしかないみたいだし、だから仕方なく、なのよ」

 少し、瞳を潤ませながら、首を振り、頻りに仕方ないことなの、と呟くマミ。
 その様子に、若干の興奮を滲ませるキュゥべえはゴロンと、仰向けて寝ころぶ。

「それじゃあ、お願いしようかな」

 スカートの内側で、腰を締め付けていた黒いタイツの縁へと両手の親指を差し込み、

「んっ、」

 と小さな声と共に、その厚手のタイツをスカート丈の下まで下ろす。


 頬を上気させて、薄らと震えながらに、一度手を止める。

 まずは右足。右手の人差指をタイツと地肌の隙間に滑り込ませて、するすると、
布地を下ろしながら、膝を持ち上げて黒いタイツからその滑らかな足を抜き出す。

 左足も同じような動作でタイツを脱いでいく。
先に右足を脱いでしまっているので布が引っ張られることもなく、
下着が見える心配もないので、右足を脱ぐときよりも動作はスムースに進む。

 もち肌のように柔らかく、スベスベと光を柔らかくはじき返す、至高の御御足が解放される。

 きれいに揃った指先に、程よい隙間を作る土踏まず。美しい楕円系を描く足のアーチは見事なもので、
形の整ったくるぶしは、小さくも主張して愛くるしい。

 かかとからアキレス腱へのラインは美しい弓なりの流線を描き、
そこからたわわに膨らむふくらはぎはしなやかさと強靭さを兼ね備えた、大層美しい代物だ。

 手入れの行き届いたひざ下もすっと形の整った脛骨がそれを証明する。
 立ったままで、キュゥべえへと右足を伸ばすが、一瞬ぴたりと動きが止まり、
持ち上げた足をまた床に戻してしまう。


「どうしたんだい?」

「このまますると、あなたに体重がかかりすぎちゃわないかしら?」

「問題ないさ、むしろ君の足に踏まれるのなら内臓ぶちまけても構わないくらいだよ!」

 流石の発言にマミはドン引きしつつも、少しだけ思案する。

「ちょっと待ってて、椅子を持ってくるから」

 キュゥべえは無言で肯く。

(椅子に座ったマミに上から目線と少しの軽蔑を込めて踏んでもらえる。これは中々乙なものだね)

 思考はダダ漏れであるものの、言葉に出さないことでこれ以上幻滅されることはなかった。

 木製のやや高級感を備える椅子にマミが腰かけると、キュゥべえはその前に服従するかのように腹を広げる。


「それじゃあ、いくわね……」

 五本の指がくっきりと開かれた二十四センチにも満たない足先がキュゥべえへと伸び、その体を優しく踏みつける。
 それは、そっと当てるかのように柔らかく、慎重であり、マミのやさしい心根を現しているかのようだ。
 ゆるりとマミの足に力が加わる。

 親指の先がキュゥべえの腹部へと沈み込み、柔らかな体毛と、その下にあるであろう骨と筋肉に接触する。

「こ、こうかしら?」

「遠慮せずにもっと力を入れるんだ! さぁ、早く!」

 ピクピクと震えながらキュゥべえは興奮で吐息を弾ませるように見える。
実際のところは、呼吸器の構造自体が異質なものなので人と同じように興奮すると息が荒くなるなどということは起こりえない。
だというのに、興奮しているように見えるのは、偏に彼の足に掛ける情熱の賜物であった。

「そ、そう。痛かったらちゃんというのよ? その、あなたを傷つけたくはないし……」

「気にすることはないさ! むしろキミの足に踏み潰されて死ねるのならば本望だよ!」

「冗談は、止めて」


 それっきり言葉は交わさず、行為へと戻る。
 マミは戸惑い、躊躇し、苦心しながら足先に少しづつ力を加えていく。

 興奮の息など、本来ならば漏れるはずのないキュゥべえから僅かながらにそんな吐息が吹きこぼれる。

 その息遣いに好色が混じり始めているのかな、
とマミはあたりをつけながらキュゥべえを踏む足にまた僅かばかり力を込める。

 たどたどしくも、献身的なマミの力加減は、間違いなく奉仕する側のそれである。

 状況的に間違ってはいないが、それでもこの場の力関係においては、
足でキュゥべえを踏み、攻めるマミと、踏まれ、攻められるキュゥべえだ。

 嗜虐趣向に欠けるマミに加虐させるという、倒錯的なシチュエーションも相まって、
キュゥべえの心象はまさに爆発しそうになっている。

 時間をかけて優しくキュゥべえを踏みつけていたマミは、ようやく慣れてきたのか、
空きっぱなしになっていた、左の足も持ち上げて、キュゥべえへと向ける。


「やっぱり、両足のほうがいいの?」

「それは、もちろんだよ。一つよりも二つのほうがいいに決まっているじゃないか」

 キュゥべえは、当然とばかりに答えを返す。
 恐る恐る、といった様子でマミは左足をもキュゥべえの小さな体へと重しかける。

 マミの両足から小さなキュゥべえの心臓が動く感触と、
生き物としては低めの体温が伝わって、マミの中に不思議な温もりを芽生えさせるようだった。

 グニグニとあまり力をかけることなく、優しく弄るようにキュゥべえの体をにじり回す。

 そっと撫でるように、体を這うかと思えば、時折ギュっと、親指と人差し指がつねりあげる。
左右の親指で挟みあげて、そのまま軽く持ち上げられる。

 キュゥべえを踏むという行為そのものに少しばかり慣れたようで、
相変わらずのやさしい足つきは、だけれど少しばかり大胆なものへと変化していく。

 左の足指を器用に使ってキュゥべえの首元を抑え、右の足で背面や腹部をつつぅ、と撫でまわす。
かと思えば、軽く捏ねるようにキュゥべえの体を扱い。優しくもみくちゃにする。


「ねぇ、キュゥべえ。こういうのがいいの?」

「凄いよマミ、これはもう最高なんてものじゃない!」

 マミの中で何かが吹っ切れたのか、それとも隠れていたものが表出してしまったのか、
定かではないものの、怖々いやいや、という表情は剥がれかけている。

 もてあそばれるキュゥべえの体は、もう少し乱雑に扱われたいという欲求と、
このくすぐったくも丁寧な彼女らしい扱いが心地よいという、対立するべき二つの感覚に支配され、
結果として快感という二文字だけが彼の体毛を伝い放出されるのだった。


「なんだかキュゥべえ、かわいいわよ」

 クスッ、と笑みを零しつつもマミは優しく扱くようにキュゥべえを足蹴にする。

 最早、ろくに返答すら出来ない状態になりつつあるキュゥべえは、呻くように小さく鳴くだけに留まる。

 ただしその表情は機械的とはとてもとてもいいがたいほどに弛緩しきっており、
マミの足遣いが始めた時よりも飛躍的に上達していることを端的に示すようだった。

 口からよだれが零れ落ちていないのが不思議なほどだらけきったキュゥべえは恍惚と共に、
その体をビクリッ、ビクリッ、と痙攣させる。

「キュゥべえ? ちょっと、大丈夫!?」

 クタッ、と首から力が抜け落ちてあえなく床に倒れ込んだ彼を、突然の事態に驚きつつもマミが抱きかかえる。
 幸い心臓は動いているし、呼吸もしているようであり、命に別状はなさそうであった。

「はぁ、びっくりした。もう本当に、人騒がせなんだから」


 ☆

 目を覚ませばフカフカの座布団にバスタオルを被せて寝かされていた。
 キュゥべえは、そんな自分の状態を鑑み、はてなんでこんな状態になっているんだっけ? と疑問を抱く。

(そうそう、確か昨日は念願かなってマミに踏んでもらったんだよね)

 パカパカと可愛らしいスリッパが鳴る。
 足音と共に、トーストと紅茶、サラダに目玉焼き。それから小鉢に盛られたヨーグルトをトレイに乗せたマミが台所からやってきた。

「あら、キュゥべえ。おはよう」

「おはようマミ、これから朝食かい?」

「えぇ、今日も学校だから」

 マミとキュゥべえは変わり映えのしない、いつも通りの会話を交える。

「ところで、昨日ボクは気を失ったってことでいいのかな?」


 変わり映えの様子もなくキュゥべえがそう問いかけると、
ビクッと、肩を震わせて口をつけていたマグカップをあわや取り落しそうになる。

 顔を赤くして、プルプルと震えながら、
口元を抑えつつテーブルの上へとカップを下ろしてから、盛大に咽こんだ。

「うぐ、げほっ、はぁー、はぁー。キュゥべえ、今その話はなしよ」

 趣のあるやや低い声で語り掛ける。

「そうかい、それなら気にしないことにするよ。
それとマミ、ボクは少し調べないといけないことがあるから、失礼するよ」

「そ、そう。大変ね」

 小さく開いていたマミの部屋の窓からするりと体を通し、キュゥべえは一人外へと向かう。

ここまでです
お話的には一区切りですかね
次から少し毛色が変わるかも?


>>110

(ふむ、どういう原理だろう。行動の過程をまるっとスキップしているみたいだね)

 思考しながらもキュゥべえはことの顛末を見届ける。
 徐々に爆発に耐えられなくなっていく魔女の体は再生を繰り返しながら小さく縮み、
大きな爆発に丸々飲み込まれて、その姿をかき消されるのであった。

 ぐにゃっと、景色が歪み、見ているだけで胸やけしそうな魔女の結界が壊れ、病院の前へと戻るのであった。

素面じゃねーと書けねーです
投下します


 見滝原を一望できる高層ビル群の一角。
 この町で一際高度が高い場所。

 キュゥべえはそこで空を眺める。
 高所では巻き上げられたビル風が猛威を振るっているようで、キュゥべえの長い耳を大きく揺らす。

(ふむ、これは……。やはりそういうことかな?)

 彼が行っているのは母星との通信であった。
 その結果は芳しくなく、端的に言ってしまえば通信は遮断されているようであった。

(でも、個体間の相互リンクが切れているような感覚はないんだよね。
ここから導き出される推論は、二つかな?)

 キュゥべえの考える一つ目の可能性は、現在こちらとあちらとで何らかの現象が起き、
通信が繋がりにくい状態に陥っている、ということ。


(だけど、これは些か楽観が過ぎると言わざるを得ないね)

 そして、もう一つの可能性。

(とするならば、この個体自体の脅威判定が『危険』レベルまで跳ね上がった、と考えられている、
とそういう結論にたどり着いたほうが賢明だ)

 彼がほかのインキュベーターたちと違うところと言えば、その異常なまでの足への執着に他ならないだろう。

(さて、これはボクとしてはどう動くのが得策なのかな?)

 キュゥべえは考える。インキュベーターとしてどう動くべきなのか、ということを。
 そして同時に、こうも考える。

(今のボクにはボクたちの望みを叶えるために行動する意義は当然だけど、全くないわけだ。
そのうえで、現状をどう捉えるべきかな)


 思考はとめどなく流れ続ける。
 彼の今の状態はと言えば、完全にバグやウィルスと認識されてしまっている。

 その上で、個体間のネットワークを維持しつつ、本部との通信は完全に遮断されており、
ネットワーク自体は生きてはいるものの、他の個体とやり取りが出来るかどうかも、定かではない。
いや、まるきり望み薄であろう。

(つまるところ、この個体は経過観察用の隔離セットアップといった状態だろうね)

 彼自身の立ち位置をまずは明確化する。

(さて、それじゃあボクは何のために個体間リンクを遮断されていないのかな)

 淀みなくつながる。


(これは恐らく、この個体がかつてない症状を発生しているだろうからね。
恐らく監視して、少しでも情報を手に入れたいのだろう)

 今の彼の状態は、魔法少女を生み出すために地球にやってきたインキュベーターの中でも極めて特異な精神疾患と言えるらしかった。

 その証拠に、初めはそうであると認識されていなかった節がある。

(前例のないものは極めて扱いづらいからね。ここでこうして情報を出来る限り集めることは有用と言えるだろう)

 集合意識としてのインキュベーターから隔離された現状を彼は思いのほかあっけなく肯定する。

(さらにその上で、だよ。その上でボクが出来ることは、そうだね。今までと大差はないのかもしれない)

 特別に彼が何かをしなければならないということは、まるでないのだと、彼自身は一度結論付ける。


(そうするなら、契約は一旦おいておいて、この渦巻き、暴れだしそうな欲望に身を任せてしまっても、問題ないわけだ)

 そこからさらに、フリーダムな方向へと解釈を広げる。

(でもそうだね、これ以上ボクの言動が突飛なものになると恐らくどう頑張っても踏んでもらったりは出来なくなるだろうね。
そこは要検討といったところかな)

 彼は、彼自身に対する再定義を完了してビルを飛び降りる。

 そのまま落下したら間違いなく挽肉になりそうな高さであるが、そもそも彼は能動的に壁抜けが出来るのである。
よって、タイミングを間違えることなく、能動的な状態であれば高所からの落下など問題にはならない。

 くるくると回転しながら、落下したキュゥべえは事もなげに着地を決め、雑踏の中へと姿を隠すのであった。


 ☆

 テーブルの上に乱雑な紙の山が散らばっており、
美国織莉子はその正面に向かって座り、一心不乱にペンを走らせる。

 そんな一室にふらりとキュゥべえが姿を現して、紙束の隙間のような机の一角に飛びあがる。
 彼女はそちらに意識を向けることはなく、彼もまたそれを気にせずに、慣れない調子で問いかける。

「やぁ、美国織莉子。経過は順調かい?」

「そうですね、ぼちぼちといったところです。ところで何か用があるので?」

「いや、様子を見に来ただけさ。それともボクがここに来ると何か不都合でもあったかな?」

「いいえ、そんなことはありません。
彼女もよく働いてくれていますし、一つ難点を言えば、あなたが来るといつも予知が不安定になるので、こちらとしては複雑ですが」

「ふむ、それは悪かったよ。それで、君の愛しの彼女とやらはどこに?」

「庭でバラの手入れをしてくれていますよ。会ってないのですか?」


「来た時には姿が見えなかったからね、入れ違いになったみたいだ」

「何を企んでいるのか知らないですけれど、ほどほどにしたほうがご自分のためなのでは?」

「たいしたことじゃないし、キミたちが気にすることでもないからね。
でも忠告だけはありがたく受け取っておくよ」

 キュゥべえが去る間際に、ようやくと織莉子のペンを走らせる音が鳴りやんだ。

 ただ、その時には既に彼の姿は部屋の中からは消え失せていて、
その動作が無駄なものであったと、彼女は痛感するのである。

 壁を通り抜けて広い庭へと踊りだせば見滝原中学の制服を着た少女が剪定ばさみとスコップ片手にバラの手入れに奮闘している姿に出くわす。


「ん! しろまるじゃないか。何か用なの?」

「いや、別に用はないけれど、ちょっと様子を見に来ただけだよ」

「そうか、そうか。なら早く帰るんだ! 私と織莉子の愛の巣にお前みたいなのがいると気分が悪い!」

「随分と嫌われたものだね。まぁ、元気そうで何よりだよ。キミたちの様子を見るのも立派なボクの役割だからね。何かあったら遠慮なく呼んでほしい」

「お気遣いどーも! だけど、絶対に呼んでなんかやらないからな。しっしっ!」

 呉キリカに追い払われるようにキュゥべえは美国邸を脱するのであった。

本日ここまで
閉店ガラガラピシャッ

そぅっと、そぅっと
少し少し、ほんの少しだけ――、
投下です


 美国邸から移動したキュゥべえは、久方ぶりに行使された魔法少女の呼びかけに応じて、見滝原の展望デッキにやってきた。
 夕暮れ時が通り過ぎて営業時間を超過したその施設にはお客はおろか、職員すらいない。

「キミから呼び出すなんて、珍しいね」

「まぁ、言いたいことは山ほどあるからね。でも、今日はそういう用じゃない」

 キュゥべえを呼び出したのは赤毛が特徴的な少女、佐倉杏子。
傍らには全身緑で統一された幼い少女、千歳ゆまが怯えるようにくっついている。

「おまえにコイツを教えた奴がいるんだろう? 話してもらうよ、そいつのことをさ。その、織莉子ってやつのことを!」

 奥歯に力がこもったまま吐き捨てるように佐倉杏子はキュゥべえを問いただす。

 ピタリッ、とキュゥべえの眉間に鋭い槍の刃先が向けられて、
少しでも力を入れればすぐさま彼の体は穿たれるであろう。

(今のボクには替えがないから、普段よりも慎重に行動すべきだろうね。さて、どうしたものかな)

 彼は一度目を閉じて思案する。その結果として、実に彼らしい回答を告げる。


「そうだね。今、キミにこの体を傷つけられると少し不味い。
かといって基本的にボクたちがキミたちに他の魔法少女の情報を渡すのはルール違反だ」

「そうかい。それなら、取りあえずでアンタを八つ裂きにしたって良いってわけだ」

「だから、ボクがルールを侵す以上何か対価を要求させてもらうのが筋ってものだよね?」

「お前、頭の回路がおかしくなったんじゃないのか? 
アタシは今あんたを脅迫してるんだぜ。取引をしようってんじゃないんだよ!」

「それじゃあ、その子にボクを殺すところを見られても問題ないんだね?」

 キュゥべえの問いかけに、一度視線を動かした杏子は音が鳴る程奥歯を噛みしめる。
 彼女は気付く、立場を楯に取って逆に自分の行動を誘導されている、ということに。

「へぇ、情報の代わりに何を要求しようってのさ」


「そうだね。キミはまぁ、それなりにいい脚をしているから、その履いているブーツと靴下を脱いで、
ボクのことをたっぷりゆっくり、じっくりねっぷり、踏んでくれればそれで情報を渡しても構わないよ? 
ただし、その子の見ている前で、という条件が付くけれどね」

 今この段階でキュゥべえと杏子が二人きりになったとすれば最悪、キュゥべえは殺されてしまう。
それを避けるために、あえて千歳ゆまが見ている前で、という条件を付加する。
そして、この付加された条件は杏子の足を止める鎖にもなるのだ。

 ガンッ、と杏子は望遠鏡に拳を叩きつける。反響した音は閑散とした展望台フロアに残響する。
 杏子にとって出会って数日とはいえゆまは大事な存在となっている。

 そのゆまに、倫理的に問題のある行為を見せつけてまで彼女自身の目的を達成する意義を、見つけることが出来かねる。

「――――ッ」

 音にもならない舌打ちを杏子が洩らす。
 震えながらも、ゆまが杏子のパーカーの裾を掴み、心配そうに下から見上げる。


「こちらの要求が飲めないのならば、ボクは退散させてもらっても構わないかな?」

「かってにしろ……」

 睨み付けるような鋭い視線に絞り出した震え声が上乗せされた回答だった。
 それを聞き届けてから、彼は踵を返してするりとその姿を消失させる。
 階下へと壁抜けを利用して伝って行ったのである。

以上でございます

一回目


 ☆

 キュゥべえは、少女の声を聴いた。

 その願いは、誰かのための祈りであって、きっと少女を破滅へと突き落すのであろう。

 そういうことに対してどうにも不理解であるようだが、キュゥべえにとっては関係のない事柄である。

 そう、その願いをかなえることで少女がどんな絶望に苛まれたとしても。


 ☆

「にしてもさやか、本当にこれで良かったのかい?」

「ん、何さ。あんたはあたしなんかじゃ魔法少女に相応しくないとでも言いたいの?」

 日の暮れた見滝原の街をさやかとキュゥべえが連れ立って歩く。
 狭い裏路地や、人通りの少ない小道を気の抜けた歩調で歩く。

「いや、そういうことではないよ。マミやまどかに一言相談くらいはするべきじゃなかったのか、と思ってね」

「あたしは、あたしはもう決めたからさ。
例えなんて言われようと、譲る気もなかったし、それなら相談することなんて何もないじゃん?」

「キミがそれでいいのならば、ボクとしても構わないのだけど……、最低限事後報告くらいしても良かったんじゃ?」

 キュゥべえに対して、少し歯切れの悪い様子のさやかは、何か違和感に気が付き、その方向へと首を向ける。


「まぁ、いつまでも隠し通せることでもないからね。そのうち話はするよ。それで、向こうのほうで間違いない?」

「この規模は、間違いなく魔女の結界だ。初陣にしては荷が重いかもしれないけれど、いけるかい?」

「この魔法少女さやかちゃんに、まっかせなっさい!」

 制服姿のままで駆け出すさやかをキュゥべえは追う。
 キュゥべえから見たさやかの背中は、酷く不安定に揺れているとさえ感じられる。


 二人が魔女の気配を追いかけて、やってきたのはつい先日、倒産してしまった小さな町工場だ。

 中には小さな製造ラインと、気を失って倒れている数十人の人たち。
幸い皆息はあるようで、死臭が漂っているということはなかった。

 さやかが反応を追いかけながら、ガチャリと奥の小部屋のドアを開く。
恐らく工場長の待機室であったであろうその部屋はすでに魔女の結界に飲み込まれており、
部屋の中央にでかでかと結界の入り口が開いていた。

「え、魔女の結界ってこんな風に見えるものなの?」

「これは、不味いよさやか。中に人が取り込まれてる。早く助けに入ったほうがいい」

 明らかに不自然な結界の開き方に、キュゥべえは即座にその理由を類推する。


「ッ! 急ぐよ!」

 さやかがソウルジェムに魔力を通し、変身する。
 肢体に魔力が這い付き、全身への魔力の流れを補強し、コントロールを制御する。

 流れる水のような青い魔力がさやかの全身を覆い尽くし、その姿を魔法少女へと変貌させる。
 召喚された剣で結界の入り口を切り裂き、強引に中へと突入した。

「はぁっ!」

 キュゥべえがそれを追いかければぐんぐん、と落ちるさやかの体を追いかけるように彼自身も落下する。
 結界の中には、足場も小部屋も碌にないようで、二人はどんどん真っ逆さまに落ちていく。

 ただし落ちるといってもその速度は現実世界に比べると到底ゆっくりとしたものであり、
その事実はさやかに魔女の結界がどれほど非常識な空間であるのかを突き付けるには十分であった。

「あれは!?」

「うそっ、まどか!?」


 素っ頓狂な声をあげつつも、さやかは冷静に音符と音階を絡めた魔方陣の足場を生成し、
跳躍して魔女へと攻撃を仕掛ける。

 第一歩、矢のように突撃して、ブラウン管テレビのような魔女の体に刃を突き立て、
そのまま力任せにツッパリ、吹き飛ばす。

 二歩、三歩四歩。三つの足場を経由することで、
飛ばした魔女の体よりも素早く前方へと回り込み、上段からの一閃。

 真下へと降下するひび割れた魔女を追いかけて、落下。

「これでぇ! 止めだぁー!」

 掛け声と共に落下の衝撃を出来るだけ剣先へと集め、魔女を刺し貫く。
 いやに生々しく、無様で不躾な破裂音が、魔女の体から漏れだす。
 そう、魔女を倒したことの証左であった。


「いやー、遅くなって、ごめんごめん。でも、初めてにしては上手くやったほうでしょ?」

「さやか、ちゃん……?」

 結界がほどけ、景色が戻る。
 開いていた入り口とは少しだけ位置がずれているその場所は、
ちょうど工場の外側で、丸々一部屋分ほどずれたようである。

「美樹さん……、」

 その場所にはちょうど魔女の結界を探知してきたであろう巴マミが姿を見せていた。

「ま、マミさん」

 最悪のタイミングで両者が出会う。
 さやかに対してマミが、不信を抱くには全くもって十分な結果が示されているのだから。


「……、」

 そして、もう一人が突如消えた魔女の反応に顔を曇らせつつ駆け足でやってきた。

 美樹さやか。
 巴マミ。
 暁美ほむら。

 運よく、いや、運悪くと表現すべきだろう。

 三人は夜の町工場に揃ってしまう。
 雲が流れ、月明かりを覆い隠して、夜は一層その暗さを増す。

「美樹さん、どうして……、」

取りあえずここまで

にかいめっ!


 ☆

 自室の姿見の前で美樹さやかは思い切り伸びをしながら、鏡に映る自分の顔を確認している。

「さやか、キミはあれで本当に良かったのかい?」

「良かったも何も、ああなっちゃったものはしょうがないし、どうにかなるように何とか考えるけどさ……、」

 歯切れの悪い答えを返すさやかは間違いなく後ろ髪を引かれる思いがあるようで、釈然としない。

「まぁ、その気があるのならば早いうちに行動すべきだ。
もし仮にマミやほむらと敵対する羽目になったんじゃ、今のキミでは九分九厘勝ち目はないからね」

「うぐっ、そりゃそーだろうけど、そんなにはっきり言わなくても……」

「ふむ、キミはマミの実力を少しばかり過小評価しているようだね」

「そんなことない、と思うよ」

「ほら、そうやって言い淀むのが、良い証拠じゃないか。
本来ならば、だよ。本来ならばあんなにも無策で魔女に攻撃を仕掛けるようなこと絶対にしたりしないんだよ」

 彼は初めからマミがおかしいということを理解していたためにこの言葉が発せられる。


「じゃあ、また、なんであの時はあんな風になっちゃったわけ?」

「油断していたか、或いは浮かれていたか。そのどちらかだろうね。
ボクの見立てでは後者さ。少なくとも現時点でキミがマミと相対した場合、四十秒以内にケリが付くと思うよ。
下手を打つと最初の一撃かその次でご破算さ」

「うげっ、やっぱりマミさんの壁は厚いかぁ」

「ついでに言うとほむらのほうがもっと勝ち目は薄いだろうね」

「フーン。やっぱあいつも強いの?」

「さぁ、それはどうかな。ただ少なくとも今のキミが戦いになる相手ではないだろうね。
何せ彼女の魔法はボクにも看破できていない」

 最低限この辺りであろうという選択肢をいくつか提示できる程度にしか彼女の魔法の特性が把握できていない、
というのがより正しい認識である。



「そっ、まぁ、向こうにやる気がないうちはあたしからも手は出さないよ」

「そうかい、それならばいいのだけれど」

 手先、足先を軽くひねり、動きを確認してから彼女は自室のドアノブに手をかける。

「少しの間はあんたもついててくれるんでしょう?」

「まぁ、少しくらいはね。
但し、ボクも暇ってわけじゃないから、そう長いこと付きっきりっていう訳にはいかないよ?」

「あたしだってそこまで子供じゃないから、心配いらないよ」

 そういってドアノブを捻り、ドアを開くさやかに対してキュゥべえは考える。

(そういうことをいう子はいつまで経っても精神的に未熟なままで終わることが多いんだよね。
これは、先が思いやられるよ)


 キュゥべえはさやかと共にマンションの自動ドアをくぐる。

 太陽の落ちた夕暮れ時の見滝原は比較的涼しく、ふっ、と吹き抜ける風が心地よくも髪を揺らす。

「さやかちゃん……」

「ま、まどか」

「あのね、さやかちゃん……、足手まといかもしれないけど、一緒に連れて行ってほしいな、なんて」

 そういって、ちらりと下げた視線を上向きにしてさやかの表情を盗み見る。

 少し、困ったような、安心しているような、
表現しづらい絶妙に微妙な表情を張り付けるさやかが、なんとなく居心地の悪そうに立っていた。

「ご、ごめんね。ダメだよね、足手まといだし、迷惑だよね……」

 まどかはすぐに俯いて、尻下がりに声のトーンが落ちてしまう。
 さやかはそんなまどかの様子を見て、彼女の手を取り、伝える。


「ううん、そんなことない。分かるでしょ、あたしの手が震えてるの。
やっぱ持つべきものは友達だね。まどかが一緒なら心強いよ」

 少しばかりに目じりに涙を滲ませながら、さやかは精一杯笑顔を作って見せる。

「それは、考えあってのことかい?」

「そりゃもちろん。まどかと一緒ならあたしだって少しは冷静に対処できると思う。
少なくともあたし一人でやるよりは……」

「そうか、なら構わないよ。ただ、くれぐれも用心だけは欠かさないようにね」

 キュゥべえはさやかの真意を問いただしつつ、釘をさす。


《そして、キミにも考えあってのことなんだろう? まどか》

 さやかの足元を歩くキュゥべえは、彼女に気が付かれないようにまどかへとテレパシーを飛ばす。

《もし万が一、さやかに何かあった時にキミがそばにいれば最悪の事態に一つだけ切り札を用意できる。
ボクのほうはいつでも動けるから、キミの覚悟が決まったのならいつでも遠慮なくいってくれれば、魔法少女にしてあげられる》

《うん》

 そしてまどかも、さやかを追って宵闇の見滝原の街へと足を運ぶのであった。

ここまでですかね
それではまた明日にでも

変わり映えのしない展開が続きますね
投下します


 街の裏路地、四辻になったその場所でさやかは魔女を見つけた。

「あれは使い魔だね。倒すのかい?」

「そりゃ、当然でしょ」

 魔法少女へと衣装を変化させたさやかは剣を構えてプロペラのおもちゃのような小さな使い魔めがけてサーベルを複数召喚し、投げつける。

 さやかの華奢な足が地を蹴りステップを踏むように舞い上がる。
 足からの力を伝道させて投擲された刀剣はまっすぐに使い魔を刺し貫く勢いで飛ぶ。

 そして、着弾の瞬間。
 キンッ、という甲高い金属音と共に弾かれてしまうのであった。

「なっ、弾かれた!?」

 大げさに驚くさやかは二陣目の攻撃へと移るためにサーベルを召喚しなおす。
 投擲の姿勢へと移行した頃合に、正面から少女が歩きながら声をかけてきた。


「あれ使い魔だよ? グリーフシードを持ってるわけじゃないんだよ?」

 真っ赤な衣装に身を包み、槍を携えた少女、佐倉杏子がつまらなさそうにたい焼きを齧りながら歩いてくる。

 その後ろをちょこんとついてくる全身緑の小さな少女は千歳ゆま。
身の丈に似合わぬボールハンマーを担いでおり、少しばかりアンバランスだ。

「あれを放っておいたら誰かが被害に合うんだよ!?」

「あんたにとって関係のない誰か、だろ? どこに問題があるっていうのさ」

 ギリッ、とさやかは奥歯を鳴らす。

「キョーコ……、」

「ゆま、言ったろ。魔法少女はそういうもんだって」

 杏子はゆまの頭を軽く撫でながら、さやかから視線を外さずに、挑発する。


「それとも何か? あんたは見ず知らずの誰かのために戦うなんて、戯言を口にする大馬鹿なのか?」

「それの何が悪いっていうの!」

 さやかの手にしたサーベルに力が籠められ、切っ先が震える。

「悪いにきまってるだろ? 何自分に得にならないことをしてんのさ。
その使い魔は人間を四、五人ばかり食わせれば魔女になって、グリーフシードを孕むんだ。
そうなってから狩ったほうが、あたしらにとってはメリットがあるってものだろ?」

 杏子の言葉が終わらないうちにさやかの足は飛び出し、杏子を両断しようと斬りかかる。
 だが、彼女は余裕の表情で槍を突き立てその一撃を難なくと防ぎ、人の悪い笑みを浮かべる。

「人の話は最後まで聞くもんだって、ガッコのセンセに習わなかった? 
まぁいいさ、かるーく相手してやるから、もっと本気で打ち込んできなよ」

 いうが早く、一瞬にして後ろに控えていたゆまの首根っこを掴み、まどかとキュゥべえのほうへと放り投げ、
鎖によって編み込み結界を作り上げる。


「いいかゆま、魔法少女同士の戦いの手本ってやつだ。よく見ておきな」

「舐めるのも大概にしろォ――!」

 手にしたサーベルを無茶苦茶に振るい、さやかが杏子へと果敢に打ち込む。
 だが、打ち込みは浅く、力の乗りも悪い。

 杏子からしてみれば、容易く捌ける三流の連撃、その程度の認識でしかない。

「活きがいいのは口先だけみたいだねぇ!」

 槍が一閃。

 さやかの腕、腋、肩口を切り裂き、返しの柄打ちでそのまま真横になぎ倒す。

 壁に打ち付けられたさやかの肺からは一気に空気が押し出された。
 壁に叩きつけられて壊れた人形のようになったさやかは切っ先を地面に突き立ててフラフラと立ち上がる。

「あれぇ? おっかしいな、全治三か月ってくらいにはかましてやったつもりだったんだけど?」

 さやかの体表を魔力を帯びた青い五線譜が走り、傷口へと集まっていく。


 まどかは鎖でできた結界に手を喰い込ませて、さやかの名を叫ぶ。

 彼女の目線の先には幾度も切り付けられ、血を流しながら杏子へと切っ先を向け続けるさやかの姿があり、
その痛々しい姿は否応なく瞳に焼き付く。

「さやかちゃん! ぶ、無事なの?」

「彼女は癒しの祈りで魔法少女になった。回復力なら人一倍、問題なく立ち上がるさ」

「そ、そんな。そんな言い方って……」

「ゆまたちはそういうモノだから……、」

「ねぇ、止めさせないと!」

 まどかは訴えかけるが、ゆまは視線をそらす。止める気はないということだろう。


「まどか、キミが本当にそれを望むのならば……、キミがあそこに割り込めばいい」

「そ、そんなでも、わたしには……」

「あるじゃないか、立派な器が」

 キュゥべえは誘う。
 それは甘く、優しく、魅惑的で蠱毒的な誘いだ。
 自分が止めればいい、自分なら、自分が契約すれば、割って入って止められる。

 それだけの力が備わっている。

「わたし、わたしっ!」

 まどかは、誘惑に飲み込まれ、その瞬間――。


「その必要は――、」
「ないわね」

 一粒の弾丸と、高らかな宣誓が、その全てをかき消した。

ここまでのようですね

投下致します


 同時にさやかの体がぐらり、傾ぎバランスを崩したように力なく倒れる。
 真後ろに突如現れた暁美ほむらが倒れ込むさやかの体を支え、改めて地面へと寝かせる。

 槍を振るい、とどめの一撃を加えようとしていた杏子の体はリボンによって雁字搦めに巻き取られ、
槍諸共その動きを無理やり停止させられていた。

「もう結果は出ているでしょう。
これ以上やるのなら、代わりに私が引き継がせてもらうけれど、それで構わない?」

 リボンで身動きを封じた杏子へとマミがマスケット銃を突き付けながら問いかける。

「キョーコ!」

 駆け出したゆまは早かった。
 小さな体のどこにそれだけに馬力を持ち合わせているのかと、驚愕するほどだ。

 勢いをつけてハンマーを構え、マミを潰そうと振るう。
 が、それがマミに届くことはなく、かといってマミの魔法で受け止められたわけでもない。


「落ち着きなさい。少なくともこれ以上彼女のに危害を加えるつもりはないわ」

 襟首をほむらに摘み上げられ、いつの間にか武器も取り上げられている。

「まぁ、杏子の返答次第ではあるけれど」

 ちらりと、マミに絡められた杏子へと視線を飛ばす。
 杏子はその視線を受けて、諦めたように体から力を抜く。

「悪かった、あんたの弟子とは思わなかったよ」

「あら、別に弟子ではないわよ。というか、あなたのほうこそ以外ね」

「ゆまは別にあたしの弟子ってわけじゃない」

「まぁ、どちらでもいいわ。そういうことだから、分かった?」

 釣り上げたままでほむらは目線をあわせて問いかける。


「うぅー、わかった」

 唸るように項垂れるゆまをほむらは地面へと下ろす。

「それで、あなたどうして今頃こっちに来たのかしら?」

「あんたは、白い魔法少女って知ってるか?」

 マミは考えこむ素振りをみせ、ほむらは苦々しげに顔を歪ませる。

「おい、知ってるんだな。教えてもらおーか。そいつのこと」

「分かったわ、話すからついてらっしゃい」

 ほむらがそういって背をそむけると、マミのリボンがスルスルと杏子の体からほどけ落ちる。


「それから、鹿目まどか。あなたまだわからないの? 散々言って聞かせたわよね? 
それでも分からないというのならば、私は手段を選ばないわよ」

 すれ違いざまにほむらはまどかに言葉をかける。
 それには酷く固い棘として、まるで杭で打ち付けるような勢いだ。

 状況的がまったく飲み込めていない杏子とゆまは、取りあえずといった様子でほむらを追いかける。
 後の場にはマミとまどか、それから気絶しているさやかと、キュゥべえが残されるのであった。

「鹿目さん、美樹さんを運ぶの手伝ってもらってもいいかしら?」

「あぁっ、はい!」


 さやかが目を覚ましたのは、公園のベンチの上だった。

「うぅっ、ぅぅぅ?」

「さやかちゃん! 平気?」

 頭を振りながら上半身を起こし、体の状態を軽く確認する。
特に異常があるようには思えなかったらしく、そのままベンチへと腰かける。

「大、丈夫。それにしても、あたし……」

「私と暁美さんが割って入ったの。あなたのことは暁美さんが早々に昏倒させてくれちゃったわけだけど……、」

「そうだ、ボコボコにされて……、それであの、アイツはどうしたんですか? 
魔女を人に食わせるだなんて言って……、ッ!」

 悔しそうに奥歯を鳴らし、拳を握る。


「美樹さん、あなた少し勘違いをしているわ」

「マミさん? 何言って?」

「私たち魔法少女はね、何も万能のヒーローなんかじゃないの。
私にだって全ての人は助けられないし、人を助けようとしない魔法少女を止める権利もないのよ」

 さみしそうに、悔しそうに、マミは告げる。

「そんな! だって、マミさんはっ!」

「そりゃ、私は魔女も使い魔も全部倒してるわ。それが人のためになることだって信じて。
でもね、私たち魔法少女は、基本的にグリーフシードを稼がないとやっていけない。
そのために利己的な手段を取ることを肯定しないといけない時が必ず出てくるの。
分かるかしら、小さな犠牲を許容しないといけない時は必ず来るのよ……」

 マミは自分の体を抱くように右手で左腕を掴み、軽く力を込める。



「でも、マミさんは正義の魔法少女でっ!」

 さやかは、信じられないものを見るようにマミを見つめる。
 その視線にマミは諦めを滲ませるように顔を背けて、まどかへと声をかける。

「鹿目さん、お願いできるかしら」

「……、はい」

 マミはそのまま背を向け、その場を後にする。

「さやかちゃん、歩けるよね。とりあえず、今日はもう、帰ろう?」

「まどか……」

 夜は殊更深みを増していく。


 ☆

 月が天高く昇るころ。
 キュゥべえは一人の少女の元を訪れ、囁くように、嘲るように、一つ小さく提案する。

「へぇ、それって本当なんですか?」

「ボクがウソをついたことがあったかい?」 

「つまり、私がここをいただいちゃってもいいって解釈して構わないって、ことですよね」

「さてね。そればっかりはキミに任せるよ。何分ボクは中立の立場だからね。
一人や、一集団に肩入れすることは出来ないんだ」

「ふぅん、まぁいいですよ。私の力があればその暗いちょろいもんです」

 くふふ、とまるで三下みたいに笑う少女は、飛び切り下卑た笑顔でソウルジェムを掲げて、くるりと踊る。

ここまでかしら

投下するそうですよ


 ☆

「さやか、布団に包まってないでソウルジェムを浄化したほうがいいんじゃないかい?」

「そうする」

 布団に包まり、顔だけをはみ出させたさやかは不貞腐れ気味にキュゥべえの言葉に従って、
もそもそと転がるように動き、机の引き出しにしまったグリーフシードを悪戦苦闘しながら取り出して、
それを布団の中へと引っ張り込んで彼女自身のソウルジェムへと押し当てたようだ。

「うわぁ、真っ黒だよ」

 布団と体の隙間からグリーフシードを這い出させるように、さやかが見せる。

「これ以上穢れをため込ませると危険だ。魔女が孵ってしまうかもしれない」

「えぇ、どうすんの!?」

「大丈夫、ボクにまかせて」

 キュゥべえはにゅっと、顔を覗かせるグリーフシードを器用に前足で掬い取り、
投げ上げて背中の穴を開いてその中へとしまい込む。


「きゅっぷい! コレでもう安心だ」

「それ、食べたの?」

「うん、これを処理するのもまたボクの役割だからね」

 くるくると、自身の尻尾を追いかけるようにキュゥべえは動く。

「これでキミのソウルジェムは浄化されたわけだけど、同時にこうも言えるんだ、
キミはソウルジェムを浄化する術を失った、ともね」

「ふーん。ねぇ、これをキレイにしておくのはそんなにも重要なの?」

「魔法の力は使った分だけ穢れをため込むんだ。そうだね、例えば火が燃え続けるには酸素がいるだろう?」

「そりゃまあ、もちろん、そうでしょ?」

「それじゃあ、燃焼運動に必要なだけの酸素が不足してしまったら?」

「そりゃあ消えちゃうよ」


「それと一緒さ。穢れという不純物がソウルジェムにたまれば、それだけキミたちの魔法の力を圧迫する」

「だから、そうならないためにソウルジェムはキレイな状態を保っておく、ってこと?」

「そう、その通りさ。だからこそ、キミは佐倉杏子にあそこまでの後れを取った」

「あいつはいつでもソウルジェムをキレイな状態にしているから?」

「そうだよ、まぁほかにも色々と要因はあるけどね」

 さやかは釈然としないのか、依然としてむくれたままだ。

「でも、それじゃあマミさんは? マミさんは、誰かを犠牲にしてまでグリーフシードを集めてないし、
ストックが沢山あるようにも見えなかったけど」

「キミは、自分とマミが同じ土俵に立っていると、そう思っているのかい?」

「そんなことは、ないけどさ。どうなの?」

「そもそもマミは、才能もあったし、加えて今この町にいる誰よりも魔法少女としての経験値は高いだろう。
本来キミがもっと強くなりたいと思うのならばマミに教えを乞えばいい、と勧めたくなるほどだよ」


「何それ、才能なんてあるの?」

「そりゃあ、まぁね。魔法少女になれるかどうかも、才能と言えば才能なわけだし、
そこからさらに優劣が付くことだって殊更不思議なことではないだろう?」

「そう言われれば、そうだろうけどさ。なんか不公平だ、ズルい」

「ふむ、魔法少女だって誰彼かまわずにしてあげられるものじゃないんだ、
そう僻むことでもないんじゃないかな? まぁ、そう考えるキミの気持ちも分からないわけじゃないけれど……。
それに、才能だけで杏子を超えて、マミよりも一歩先に行くような子もいたりするわけだしね」

「誰よー、そのうらやましい子はぁ」


「鹿目まどか、さ」

 そっけなく呟かれたキュゥべえの言葉に、さやかは驚愕をあらわにする。

「それ、本当?」

「勿論さ、もしキミが杏子に何が何でも対抗したいと思うのなら、いっそのこと彼女に協力を頼むのも……、」

「悪いね、それは聞けない」

 キュゥべえの言葉を遮り、さやかは否定する。

「これはあたしの問題だから、あの子を巻き込むわけにはいかない、から……」

 ばっ、と被っていた布団を脱ぎ捨てて、勢いよく立ち上がる。

「少しは気が晴れたのかい?」

「まぁ、少しわね……」


 夜の街、昨日さやかが、杏子とことを構えた場所に、さやか、まどか、キュゥべえはもう一度やってきた。

「ダメだね、時間が経ちすぎていて手がかりは残ってないよ」

「はぁ、足使って探さないと、だね」

「ねぇ、さやかちゃん。その、昨日の子とちゃんと話し合ってほうがいいんじゃないかな、って。
あの、ね、じゃないときっとまたケンカになっちゃうって、思うんだけど……、」

 まどかは不安そうに、内腿を揺らす。

「まどかにはさ、昨日のアレ、喧嘩に見えた?」

「えっ……?」

「あれは、正真正銘殺し合いだったよ。手を抜いてたのは、最初だけだった」

 さやかの剣幕に驚き、怯えながらもなお、まどかは口を開く。


「……、ッ! それなら、なおさら……、」

「馬鹿言わないでよ、グリーフシードのために他の人を食い物にしようなんて相手と、
どう折り合いをつけろっていうのさ!」

 さやかは、背を向けて吐き捨てるように告げる。
 正面を向いたまま会話に応じれば八つ当たりでまどかを傷つけかねないと、思っての行動だった。

「それに、マミさんも、あの転校生だって、同じだ……」

 小さく、消え入りそうな声には失望の色が強く乗る。
 唇をかみしめて、俯く。

「それは、それは違うよ」

「どこが違うっていうの!? 昨日のマミさんの態度見たでしょう!? 
それに転校生は昨日のあの子と一緒にいるんでしょう! だったら同じじゃん! どこが違うっていうの!?」


 ほとんど絶叫に近い様子でさやかは肩を震わせる。

 カツンッと、足音が一際木霊する。
 その足音は見慣れたブーツから紡ぎだされている。

 正面から、さやかの正面から、少女がゆっくりと歩き近づいてくる。
 その足は、とても美しく、中学生らしからぬ弾力としなやかさを兼ね備えていた。

「もう少し頭が冷えていると思ったんだけど、どうやら見当違いだったみたいね」

 ピッ、と軽く右手首を振るうと、中空にソーサーに乗ったティーカップが湯気を立てた状態で現れる。
 それをしなやかな左手で捕まえ、右手でカップをを持ち上げて、一口啜る。

「マミさん……、!」

 さやかの表情に不信の色が強く、強く浮かび上がる。


「何か用ですか?」

「あら、ご挨拶ね。別にあなたの様子を見に来ただけじゃない。それとも何か不満かしら?」

「マミさんは、正義の味方だと思ってたのに……。他の魔法少女を許すっていうんですよねぇ?」

「あなたには、それが面白くない、ってことかしら?」

 いつの間にかマミの手には紅茶の代わりにマスケット銃が召喚されており、
それに気が付いたさやかは変身して両手にサーベルを構える。

「だって、アイツらは悪人だ! それを放っておくなんてのも、悪人のやり方だ!」

「さ、さやかちゃん!?」

 啖呵を切るように、さやかの右足が一歩大きく踏み込まれる。
 体重の乗ったその体制は今にもロケットスタートでマミに突進するようにさえ見受けられる。


「そう、それじゃあ、絶対に正しい正義は悪を滅ぼさないといけないのね?」

 すぅっと、細長い切れ目のように薄く閉じられたマミの瞳がさやかの動きを捉える。
 視線が、交錯する。


「――ッ!」

 威圧感。
 マミから放たれるそれが、さやかの体の動きを制限したようだった。

「はぁー、はぁー、はぁー」

「落ち着きなさい。言ったでしょう? 私は別に様子を見に来ただけだって。
それとも、あなたは気に入らない相手には片っ端から食って掛からないと気が済まない性分の人だったのかしら?」


 落ち着き払ったマミは、そのままゆっくりとさやかへの歩みを止めず、近づいていく。

 縫い止められたように、身動ぎしなかったさやかは、マミの言葉を挑発と受け取ったようで、
足に魔力を集中して一気に跳躍し、マミへと刃を突き付けるようと動く。

 瞬間の攻防。

 突き出されたサーベルを右手のマスケット銃で受け、軌道を逸らす。
直後、体にひねりを加えて一歩前進し、左の掌底がさやかの腹部へと見舞われる。

 だが、そこでは終わらず、マミはひねりを逆巻き、右手のマスケット銃を大降りに振るってさやかの首筋へと的確に当てる。
その挙動は時計の針が九から、十二まで一気に逆回しされたようである。

 酷く鈍い音を立ててさやかの体は崩れ落ち、ばたりと気を失う。


「さやかちゃん!?」

 金切り声でまどかはさやかへと駆け寄る。

「大丈夫よ、安心して。意識を取らせてもらっただけだから……」

 まどかが駆け寄るよりも早く、マミがさやかの体を抱き起して、そのまま抱え上げる。

「ま、マミさん?」

 まどかは、先程の様子に少し怯えた表情を浮かべる。

「大丈夫、何もしないわ。ごめんね、怖がらせちゃって。少し、お話をしましょう?」

「は、はい……」

 言われるがままに、まどかはそれを受け入れる。

出前ここまで

あ、あと二、三回ぐらいで終わるよ(震え声)
投下します


 昨日と同様に、公園のベンチにさやかを寝かせて、そのそばにまどかとマミは腰かける。

「それで、聞くまでもないみたいだけど、やっぱり落ち着かないかしら?」

「はい、なんだかずっと追いつめられてるみたいで……」

 まどかの手には季節にしては珍しい缶の暖かいお汁粉が、握られている。

「そう、原因は分からない?」

「マミさんは聞いてました? さっきのさやかちゃんの言葉」

 マミは缶のコーンポタージュを口に含む。

「えぇ、あれだけ大きな声を出していればね。それで、あまりにも様子がおかしい気がして姿を見せてみたの」

「さやかちゃんを、試したんですか?」

「ごめんね。でも、美樹さんの状態を知るためにもやっておかないと、と思って」

 二人の足の間を縫う様にキュゥべえは忙しなく行き来する。


「なんだか、すごくショックを受けているみたいで……、」

「キュゥべえ、あなた美樹さんに何か言ったの?」

 二人は浮かない表情で、足元へと視線を落とす。

「ボクが言ったことと言えば、ソウルジェムを浄化するのは大切だってことと、
まどかには特別才能があるよって、くらいだね」

「そう、本当にそれ以外は何もないの?」

「それ以外だと、ちょっと心当たりは浮かばないかな」

 しぃんと、夜の公園に似つかわしい静寂が訪れる。
 くぃっ、と首を傾けてコーンポタージュを飲み干したマミは軽いフットワークで立ち上がり、一つ大きく伸びをする。

 引っ張られるように伸びる脚の筋が月光に映し出され、何とも言えない輝きを放つ。


「それじゃあ、多分私が一緒にいるとよくないから……、鹿目さんあとはお願いね」

「はい……、あの、マミさんっ!」

 何か意を決したように、まどかが歩いて行こうとするマミの背中を呼び止める。
 言葉の先を促すように、マミは振り返って、小首を傾げる。

「その、約束……。守れなくて、ごめんなさい」

 浮かない顔で、絞り出すように、呟いた。

「ううん。こちらこそ無理を言っちゃってごめんなさいね。
それに、あんな無様を晒して、未だ先輩面するっていうのも、可笑しな話でしょう?」

「そんなこと、ないです。マミさんは、カッコいいです。
でも、わたし、怖くって……、あんな風に、キュゥべえが飛び出さなかったらマミさんはきっと……、」

 まどかはその小さな肩を震わせる。


「気にしないで、大丈夫よ。キュゥべえと暁美さんのお蔭で私は助かった。
あなたたちも助かった、それでいいじゃない。何もわざわざ危険な目にあいに来ることはないわよ」

 マミはまどかへと近づき、震えるまどかの頭を撫でる。
 少しばかり力加減を間違えているようで、まどかの体までマミの手の動きに合わせてゆらゆらと揺れた。

「安心して、私はもう油断しないし、慢心もしない。
あなたたちが心配に思うことなんて、何もないわ。大丈夫よ、私は強いから、一人でも、ね?」

 語り掛けるように優しい声色で、マミはウィンクして見せる。
 まどかはほっとしたのか、涙を堪えるように小さく洟を啜る。

「それじゃあ、美樹さんのことお願いね」

 もう一度背を背け、公園の出口へと歩き、夜の中へと消えていく。


 ――――、―――、――――。

>>210
ミスなのでなかったことにしてください


 ☆

「ねぇさやか。学校には行かないのかい?」

 顔も出さずに布団に包まっているさやかにキュゥべえが問いかける。

 もそもそ、と動きはするが、特に返事がかえてくる様子もなく、これは時間の問題かな、
とキュゥべえは心の中で勝手な終止符を想像する。

「そうか、それじゃあボクはキミが学校に行きたくなる話でもするとしよう」

 無機質な前置きをし、とつとつと振る舞うように語りだす。


 ――――、―――、――――。


 まずは、どこから話すべきかな。そうだね、うん。ソウルジェムというのをキーワードに進めていこうかな。
 まず、根本的にだけど、キミたちの魔法っていうのは、どこからやってくるものだと思う?

 あぁ、大丈夫、聞いてくれてるだけで構わないよ。
 君たちの魔法っていうのはね、人の魂に備わっている強い想い、を取っ掛かりにしているわけなんだけど……。

 なんで人の魂から魔法なんて力が出てくるのか、疑問に思ったことはないかい?

 単純な話、
キミたちは生きて大人になれば何らかの形で大なり小なりこの世界に干渉して少しづつこの世界を変えていく。

 そうだな、バタフライエフェクトって知っているかい? この国に馴染みのある言い方をするならば。
そうだね、風が吹けば桶屋が儲かる。ということわざがあったよね。

 その、小さな運動が巡り巡って大きな流れを作り出す、
そういう因果を巻き取ってソウルジェムへと定着させることである種の不思議な現象を引き起こせるようにしているんだ。

 えぇと。理解できてるかな?
 ふむ、まぁいいや。続けるね。

 それで、本来はボクたち自身が使おうと開発した魔法少女システムだったんだけど、
ボクたちの魂の在り方は、システム的に不適合だったんだよね。


 ボクたちの在り方がキミには、分からないよね。
でもね、方向性として似た生態を持つ生物群がこの星にはいるんだよ。

 キミたちが学校で教わっているかどうかは知らないけれど、真社会性だとか、社会性昆虫だと呼ばれる生物群さ。
 あぁ、少し話がそれたね。元に戻すよ。

 とてもざっくりとまとめるとね、ボクたちは種全体で一つの魂を形成する種族なんだ。
だから、初めてキミたち人類を見つけた時は驚いたよ。

 何せ、小さな個体一つ一つに魂が宿っているんだ。
 それでこう思った、この生物ならボクたちの開発したシステムを運用できるんじゃないか、とね。

 それで、交渉してみようと思ったわけだけど、
その頃のキミたちは生憎とボクたちとコミュニケーションをとれるほど生物として成熟していなかった。

 だから、非常に単純な実験に協力してもらったよ。

 対価は一つ、願いをかなえること。
 要求は一つ、システムの安全運用への協力。

 その一人目から、ボクたちは確信した。
間違いなく、この生き物ならばシステムを運用することが出来るぞ、とね。

 この辺りがボクたちとキミたちの初めの関わり合いになるわけだけど……。


「結局、何が言いたいの? ソウルジェムって、何なの?」

 やっと、会話に応じてくれる気になったんだね。
 さて、それじゃあ、ソウルジェムが何なのかというとね。
 さやか、キミのソウルジェムを少しボクに貸してくれないかい?

「いいけど……、変なことしないでよ?」

 変なこと? 壊したり、汚したりするわけじゃないから安心するといい。
 こうやってね、ボクの力を少し逆流させると結構簡単にキミたちに干渉出来るんだよ。

「うぅ、ぐぅぅ、はぁは、っぃぃ。あん――、な、にぃを、して、ぇ?」

 もっとも、何もなしで外部から干渉することは出来ないんだけどね。
 それよりも、随分痛そうにするね。杏子に切られたときは平然としていたのにさ。

「はぁー、はぁー。返して!」

 そんなに乱暴に扱わないほうがいい。それはキミの魂だよ。
 そして、今さっき君を襲った痛みが、本来君が杏子にやられたときに負うはずだった痛みだ。


「はぁ? あんた、何をいって?」

 分からないのかい?
 ソウルジェムはキミたちの魂をボクたちの技術で結晶化したものだ、と言ったんだけど。

「はぁ、あんた! それどういうこと!?」

 そのままの意味さ。
 ソウルジェムは、キミたちの体から、魂を抜き出して宝石の形に整えたものさ。

 さっき話したろう? 
魂の在り方が不適合だったために、自分たちで開発したシステムを運用できなかったって。

「それで、一体何が言いたいの……?」

 察しが悪いのか、認めたくないだけなのか。どちらかとは聞かないよ。

 キミたちの魂が肉体と切り離されているからこそ、キミたちは深手を負っても戦い続けられるし、
ソウルジェムが無事な限りその体をいくらでも修復することが出来る。


 例えば、キミの魔法は回復に秀でているわけだ。
 でも、一般人を魔法で治療しようと思っても、その部位が残っていなければどうしようもない。

 だけどね、それが魔法少女ならば、話は変わってくるんだよ。
 キミたちの体はすでに魂を抜き取った状態だ、そうだね、謂わば魂を生かすための血液袋、といったところかな?

「あ、あんた……、それって……、あたしたちはゾンビにされたの?」

 ふむ、概念として間違ってはいない。でもどらかと言えば、新陳代謝するハードウェア、といったほうが正しいね。

「そ、そんな。あんたは、あんたは、あたしを騙したんだ……」

 キミたちは真実を知ると決まってそういう反応を見せるね。訳が分からないよ。
 さてと、それで今までが『ボクたち』として、キミに対する反応だった訳だ。


「何? まだこれ以上何かあるっていうの?」

 そりゃあ、まぁね。
 ここからは、『ボク』の考えなんだけど。
 キミは、人工透析や人工呼吸器、ピースメーカーなんかをどう思っているんだい?

「は、はぁ。突然何を言い出すわけ? 今そんなの関係ないでしょ!」

 今ボクのことを切り殺そうと確かにそれは君の勝手だよ。
 だけどね、その前にもう少しボクの話に付き合ってくれてもいいんじゃないかな?

「そりゃ、人の命を生かすために必要なものは、大事だし、大切なものでしょ。
まさか、くだらないとかいうんじゃないでしょうね?」

 そんなことはないさ。
 だけどね、キミがそういうものを大事で大切なものって思っているのだとすれば、君の考えは矛盾しているよ?


「何が!? どこがどう矛盾しているっていうの!?」

 だってそうじゃないか、人工物で臓器の機能を肩代わりしてもらって生きながらえている人間は、
ゾンビだっていうことにならないのかい?

「は、はぁ、? そんな、そんなのは屁理屈だ! だって、あたしらとそういう人たちは、全然違うじゃん!」

 さて、それじゃあ具体的にどこが違うのさ?
 ボクにご教授願いたいのだけど……?

「――ッ!」

 つまりは、そういうことさ。

 キミたちはそうやって自分たちをすぐに卑下するけれど、似たような境遇で生きている人だって、沢山いる。
そりゃあ、キミたちの考え方として絶対的な個を優先しているのはよくわかるよ。

 だけどね、そうやって頑なに自分が不幸な人間だと、思い込むことこそ、
本当に不幸で、救われないことだと、そう思わないかい?


「何それ、もしかして励ましてるつもりなの?」

 そうだね、まぁ今のボクはキミたち的にも、ボク自身の心象的にも完全にマッチポンプだろうけどね。

「へぇ、そこまで自覚があるんだ」

 それと、この話はマミや杏子も知らないことだ。
 話すか、話さないかの選択はキミの自由意思に任せるよ。

「……、」

「癇に障るけど、癇に障るけど! その口車に乗ってあげる。ただ、あんたのことを信用したわけじゃないからね」

 ボクを殺す気はなくなったみたいだね。これで一安心、といったところかな。
 取りあえず、早く学校に行きなよ。
 もう遅刻決定だろうけどね。



――。

とりゃえずここまでごぜいやす

流石に後二、三回で全部は畳み切れねェす
さてと、それでは投下致します


 ☆

 するりと、キュゥべえはさやかの元を離れて一人大きな陸橋へとやってきた。
 と言っても、全くの一人というわけではなく、人を呼び出して待ちぼうけをしている最中である。

「おや、思ったよりも早かったね」

「もう少しゆっくり来るべきでしたか。私の性分も困ったものね」

「織莉子! 君のそういうところは絶対に美点だよ。こんなやつに合わせてやる必要なんてないさ」

 足音と共に現れたのは美国織莉子と、呉キリカ。
 白と黒の魔法少女。

 美国織莉子は白女の制服、呉キリカは一見制服のように見えるカジュアルな私服である。
 両人ともスカートは短く、足を大胆に露出している。

 特に、お嬢様育ちの美国織莉子の足は、中々に素晴らしいものである。


「それで、わざわざこんなところに呼び出して、何用ですか? 
あなた方が呼びつけるなんて、らしくないのでは?」

「さっそく話をしたいところだけど、もう一人呼んでいるから、もう少し待ってくれないかな?」

「しろまるは織莉子に対する礼儀がなってない! 織莉子をその他大勢と同列扱いだなんて、刻んでやろうか?」

 ドスを聞かせた声で、頭蓋骨の形が変わるんじゃないかというくらいに目を見開き、
キリカはキュゥべえに脅しをかける。

「それは困るよ。ボクとしてはそうならないように、頑張っている最中だっていうのにさ」

 飄とした態度でキュゥべえは言葉を返すが、キリカは全く興味がないようで、
「ふーん」と、とてもとてもどうでもよさそうに呟くのだった。

 お互いにまったく意思の疎通をする気のない会話を交わしていると、
陸橋の階段を上る規則正しい足音が、徐々にせり上がってくる。


「キミも思ったより早く来たね、ほむら」

 階段を登り切った暁美ほむらが、姿を現す。

 見滝原中の制服姿の彼女は、スラッとした足にはタイツを穿いており、ぱっと見の線の細さは相当なものである。
但し、それがアンバランスに感じないほど完成された美脚の持ち主だ。
流石はキュゥべえが今一番踏んでもらいたい魔法少女ランク堂々の第一位である。
まったくの余談であるが、同率一位であった巴マミにはめでたく踏んでもらうことが出来たので、
ランキングからは除外されたのであった。

 睨み付けるように三者を眺め、殺気を乗せた声色で問う。

「インキュベーター、お前、これは何のつもり?」

 気づけば、彼女の手には型番の違う拳銃が二挺、握られている。

 銃口はピタリとキュゥべえと、美国織莉子に狙いをつけており、
彼女の表情がその動作が冗談ではないぞ、と語っていた。


「キミたちと少し、話がしたいと思ってね。そのくらいはいいだろう?」

「私にはお前と話をすることなんて何もないのだけれど」
「あなた方がそういうことを言うということは、何か企んでいると、考えるのが、妥当でしょうね」

 ほむらと織莉子は、交渉の余地はないと、口をそろえる。

「それじゃあ何のために、わざわざここに足を向けたのかな?」

「お前を殺すために決まっているじゃない。今は巴マミの目もないのよ? 絶好の機会だわ」

「本当にキミにその気があるのならば、とっくのとうにボクの頭は胴体から外れているはずだ。違うかい?」

 あくまでも客観的にキュゥべえは分析する。
 ほむらは小さく舌打ちをして、ため息をつく。


「そのインキュベーターらしくもない博打打のような行動の理由が気になっただけよ」

「なるほど、やっぱりキミを呼んで正解だった。それじゃあ、交渉させてもらってもいいかな?」

 キュゥべえは、織莉子とほむらに確認を取る。

「内容によりますが、取りあえずは聞きましょうか」
「言ってみなさい」

 了承を得たキュゥべえは言葉をつづける。

「まず、キミたちの最終目的をボクから確認させてもらうね。
第一目的、ワルプルギス撃退。第二目的、鹿目まどかの契約阻止。
または、災厄の魔女の誕生を防ぐ。と言ったところで、間違いはないかな?」

「えぇ、そうね。まどかは絶対に魔法少女にはさせない」

「相違ないです。例え、彼女を殺してでもあの魔女の発生は防ぎます」

 ほむらの銃口が、織莉子の眉間を狙い、いつの間にやら変身したキリカの爪がほむらの首を狙う。


「さて、そこでだ。キミたちの最終目標は、ほぼ同じ。だったら、手を組むのが手っ取り早いんじゃないかな?」

 目の前で繰り広げられた攻防を全く無視して、キュゥべえがそう告げる。
 ほむらと織莉子は全く同時に口を開き、

「それは無理ね。あなたは鹿目まどかを――、」

 両者の口は淀みなく、まるで示し合わせたかのように同じ言葉を紡ぎ、

「殺そうとしている」
「守ろうとしている」

 別々の解を得る。
 互いの信念は、強く、揺るぎを知らない。

 同じ結末を求めているはずなのに、絶対に道を交えることが出来ない。


「なるほど、確かにこれでは手を取れないね。そうだな、それじゃあ、ボクからの交渉カードは、当然こうなるよね」

 言葉を断ち切り、間をおいて二の句を繋げる。

「ボクが彼女との契約を諦める、という選択肢だ。これなら、キミたちが手を取れない理由はなくなるだろう?」

「信用でるわけがない」

「えぇ、癪ですが、同感です」

 即座に、否定されてしまう。

「それなら、少しボクの現状の話をさせてもらおうかな」


 そう前置きして、彼は彼自身の推測を交えて状況を語る。
 自身が精神疾患に分類されており、インキュベーター同士の個体間リンクが切断されていること。
 ただし、母体から見放されているわけでも、インキュベーターの矜持から解放されたわけでもないこと。

 この個体自体がフルモニタリングされており、
情報収集のためにはなるべく生き残ることが優先されると思われる、ということ。

 個体間リンクが切断されているため、個体のバックアップ機能が意味をなさないこと。
 それから、自分がインキュベーターとして破綻しているわけではない、ということ。


「というのが、ボクの今の大まかな状況なんだ。
それで、この個体が生きている間は新しい個体が送られてくることも、接触してくることも、考えにくい」

「理由は?」

「精神疾患が何らかの理由で伝番することを恐れている、と言って納得してもらえるかな?」

「五分ね、どちらにせよ、確証はないのでしょう?」

「まぁそうだね。確証はないよ。でも少なくとも、ボクがどうしてキミたちに交渉を持ち掛けているか、
っていうのは分かってもらえたと思うんだけど」

 ほむらと織莉子は、互いに目くばせをしながら頷く。

「それで、お前は私たちに何を要求しようというのかしら?」

「予想はついているのだろう? ボクの身の安全の保障が、取りあえずは第一だね」

「ほかにもある、ということですね?」


「そうだね、これはまぁついでだけどね。キミたちのそのきれいな足でボクのことを踏んでよ!」

 お約束のドン引きである。

「なるほど、これは確かに精神疾患ね。分かりました、その条件飲みましょう」

「そうね、まどかと契約しないというのならば、私も異存はないわ。
但し、お前を踏むのはワルプルギスの後にさせて頂戴」

「ふむ、しょうがないね、それくらいは妥協しよう。これは……、始まったようだね」

 話し合いにけりがついた、その瞬間。
 見滝原中学のほうで、複数の魔女の結界が突如として展開された。

 少なく見積もっても、三つ。最悪ならば、恐らく七つ。
自然発生にしては明らかに不自然であり、もし仮にこの状況を起こそうとして、起こしたのならば、
それだけの人数の魔法少女が一斉に魔力を空にしてしまい魔女化したとしか考えられない状況だ。


「な、一体何が!? お前、何をした!」

「落ち着きなよ、ほむら。問題はないさ、あそこにはマミと、杏子とゆま、それからさやかがいるだろう? 
この魔女は優木沙々という魔法少女が人為的に引き起こしたものだからね、
自然発生した魔女よりも力は制限されているし、魔法少女四人と真っ向から打ち合えるほど彼女自身も強くない」

「あなたの差し金ですか?」 

「そうだね、マミや杏子、さやかに魔法少女の真実に辿り着いてもらおうと思って、
彼女のことは利用させてもらっただけだよ」

「お前、これがどういう結果を生むか分かっているの!?」

 ほむらは、激昂してキュゥべえに銃口を突き付ける。


「勿論さ、恐らく、マミか、もしかしたら杏子辺りも真実に辿り着いてくれると思う」

「そしたら、あの人は! 巴マミは全部巻き込んで心中する!!」

「本当にそう思うかい? 今のマミは精神的にかなり安定している。
恐らく相当のショックは受けるだろうけど、一週間か、十日ほどもあれば立ち直れるんじゃないかな」

 悠々と、キュゥべえは楽観して語る。

「くそっ、今はいいわ。最悪の事態になっていたら、さっきの交渉も決裂よ、お前をきっちり殺すわ」

「それは困る。じゃあ、ボクもキミたちについて様子を見に行かせてもらうとしよう」

投下ここまでです

今回で取りあえずひと段落なのです
投下します


 キュゥべえたち四人が学校に到着した時には既に決着はついていた。
 というのも、敷地に入ってみればすでに魔女の結界が消失しているのか、魔女の魔力パターンが検出されなかったのだ。

「ほらね、もう自体は収束しているようだよ」

「重要なのはそこじゃないわ。もし仮に真実に辿り着いてしまっていたのならばっ!」

 焦りを見せるほむらと、何を焦ることがあるのだろうというキュゥべえ。
それから、自分たちには関係のないことだ、とでも言いたげな織莉子とキリカ。

「闇雲に探す気かい?」

「事態は一刻を争うのよ!? あなたたちも手伝って!」

「落ち着きなよ、ほむら。優木沙々は人を見下すのが好きで好きで仕方ない性分だ。
だから、間違いなくこの学校で一番高い場所にいると思う」


「そう、屋上ね」

 何かと煙は高いところに登りたがる、ということわざがあるのである。

「それで、どうやって屋上まで上がるつもりなの?」

 先を急ごうとするほむらにキリカが問いかける。

「そんなの、普通に……、」

「君も知ってると思うけど、うちの学校ってクラスのほとんどがガラス張りになってるわけだけど、どうするつもり?」

 ほむらは完全に失念していたが、基本的にどういうルートを通ったところで、教室の中から廊下は筒抜けになっている。


「そうね、わたしには関係ない」

 吐き捨てるように首を振り、魔法少女へと変身したかと思えば、すぐにその姿を消してしまう。

「さて、キミたちはどうするんだい? ボクは他の人には見えないから、そのまま上を目指すけど?」

「人の目を気にするのは面倒だし、私が織莉子を抱えて上まで跳ぶことにするよ。それでいいかい?」

「えぇ、任せたわ」

 いうが早いが、織莉子はキリカの首元に抱き付き、お姫様抱っこの体制になる。

 織莉子の程よい肉付きの長い足が跳ね上がる様に幾分か心惹かれるキュゥべえであるが、
身長と、体格の兼ね合いを考えれば逆のほうが見栄えが良さそうだ、と思考に一瞬過る。
だが、特に何も言うことはなく、それぞれのルートで移動を開始するのであった。


 キュゥべえが屋上についたときには、その場に彼以外の人材は全て集まっていた。
 美樹さやか、佐倉杏子、千歳ゆま、巴マミ。
 暁美ほむら、美国織莉子、呉キリカ。
 優木沙々。

 そして、鹿目まどか。

「これはまた、酷い有様だね」

 キュゥべえの言葉には何の感慨もなく、ただ状況を分析しただけのものだ。

 優木沙々は自らソウルジェムを砕いたのか、力の抜けた握りこぶしには細かく光る結晶の破片が煌めき、
そのすぐそばに砕けた残骸が転がっている。

 そして、その死体には誰も視線を傾けていない。
 後ろ手に手を縛られて四つん這い状態で床に転がされている美樹さやか。

 さやかを縛っているのはマミのリボンの魔法だ。
 さやかを庇うように手を広げる、千歳ゆま。


 その二人の真正面には得物を手放したマミと杏子。
 構図とすればさやかを庇うゆまと、それに手出しできずにいるマミと杏子、ということになるのだろう。

 だが、何かがおかしい。
 キュゥべえは屋上の端側でまどかを庇うように事態を静観している暁美ほむらの元へと歩く。

「これは一体どういう状況かな?」

「そうね、一言で言えば、お前の出番よ。何とかしてきなさい」

 ほむらの黒いタイツと学校指定のローファーに包まれたきれいな御御足が、
キュゥべえの顔をキレイに蹴りつけ、彼の体をゆまの前まで放り投げた。

「全く、それでどういうことかな? この騒ぎは」

「キュゥべえ、あなた。丁度良くも、まぁのこのこと出てきたわね」

「ネタは割れてるんだ、全部話してもらおうか」

 歯噛みをするようなさやかを尻目に、突如現れたキュゥべえに驚く様子も見せずに、マミと杏子は問いかける。


「悪いんだけど、何を話せばいいのかさっぱりだね。何せ、状況が良く分かってないからね」

 ある種の傍若さすら感じる、態度である。

「そう、じゃあ端的に聞くわね。魔法少女は魔女になるのかしら?」

「その通りだけど、何か問題でも?」

 彼の読み通り、巴マミは真実に辿り着く。
 マミの持つマスケットの銃口がキュゥべえに狙いをつけ、互いの視線が交錯する。

「ソウルジェムが濁り切らなければキミたちが魔女になることはないよ?」

「つまり、それはッ、アタシたちは同族を殺して回っていたってことになるんだ……」

 杏子は力なく槍の切っ先を突き付けて、零す。


「キミの弁を借りれば、弱肉強食。何も気にすることなんてないと思うのだけれど?」

「あなた、一体何がしたいの? 何がしたくて、こんなことをして回っているの?」

 マミの表情は酷く、酷く、悲しそうで、だけれどそれは、どこか覚悟を決めたようでもある。

「そうだね、それは――――、」

「それは、私がお話しさせてもらいましょうか」

 キュゥべえの言葉を塞ぐように、フェンスの上に立っていた織莉子が高らかな声で割り込みをかける。

「おりこ……?」

「白い、魔法少女ッ!」

 杏子とゆまの意識がキュゥべから逸れる。マミは一人、銃口を突き付けたままで、織莉子へと意識を傾ける。


「キョーコが、しんでもいいなんて、そんなのヤダ! ゆま、キョーコといっしょに、いっしょが、いいよ……」

「……、」

 ゆまの行動に、杏子の体から力が抜けて、緊張がほどける。
 構えを解いて、軽く頭を撫で、ため息を吐き出す。

「それでは、話し合いの時間ですね」

 固定されたフェンスに震動が伝い、強風にあおられた時のような音が鳴る。
 キリカと織莉子が、飛び降りて屋上へと移動したためだった。
 そして、答え合わせが始まった。


 ☆

 魔法少女たちにとって、全てのピースが揃えられた。
 それは、ほぼ全てがご都合主義的なまでに絶望で切り揃えられた真実だ。
 それまでの彼の働きを知っていれば、疑う余地などなく、否定する隙間もない。
 その真実は、盤上をひっくり返すことすら叶わず、少女たちに絶望だけを振りまいた。

 そう、真実は絶望を振りまく。
 それでは一体、どこの誰が希望を持っているのだろうか。

 首を振るって、否定する。
 希望なんてものは、いくら探したところで世界のどこにも在りはしない。

 そんなものは幻だ、幻想だ、幻影だ、嘘だ、偽りだ。
 仮に、その希望を肯定できるとするならば、それは世界の節理そのものだ。

 だけれども、彼らは確かに希望を抱いて生きてきた。
 否、生きていくのだろう。

 それは、傍から見ればバカみたいなことかもしれない。
 当人たちだって、傷ついて、傷ついて傷ついているはずだ。

 それでも決して、それを離すことなど、出来はしない。


 それがなければ、人は生きてはいけないのだから。

投下ここまで
コンセプト的に考えても取り返しのつかない一線は超えられないのです

透過ー


 ☆

 夕暮れ時の見滝原の裏路地をさやかとキュゥべえは歩く。
 さやかの表情は前日までと比べれば幾分か晴れやかで、それは彼女の内心が強く反映されているのだろう。

「それにしても、正直言って意外だよ、さやか。キミはもっとも落ち込んだり、最悪魔女になると踏んでいたんだけど」

「なーんていうかね、心境の変化ってやつだよ。ていうか、あんたの思惑通りに動くのなんてごめんだしね」

 問いかけるキュゥべえに口を曲げる。

「そういえば聞いてもいいかい?」

「はぁ、あんたが今更あたしなんかに聞きたいことなんてあるわけ?」

「いやね、どうしてあのとき縛られていたのか、さ」

「あぁ、あれ? 不甲斐ない話ではあるんだけどさ、あたし、相手の魔法少女に洗脳されちゃってさ。
それであえなくマミさんに鎮圧されたんだけど」

 さやかは少ししょぼくれた表情で、言い淀み、続きを加える。


「相手の子、急にソウルジェム砕いちゃったじゃん? だからさ、意識が混線しちゃったみたいで……、」

「くふふ、ちょぉーと、同居させてもらっちゃおうかな、なんて」

 突如、声色が変化し、口調も一変する。

「もしや、優木沙々、の精神かい?」

「そうみたいなんだよね。
それで、この子ったらあたしの体を乗っ取ってマミさんに攻撃しようとして、
でもマミさんの拘束用の魔法が突破できるはずもなく」

「えぇ、本当に悔しいことにですがね」

「だぁあ、もうややこしいな! ちょっと沙々さん、黙っててよ! 
大体あんたもう人の精神を乗っ取る力も残ってないんだから早く成仏しろ!」

「くふふ、これはこれで便利で楽しいですからね、あなたが死ぬまでは一緒にいるつもりですよ?」

「あ、あたしのプライバシーは!?」


「そんなものありません。まぁ、無くっても問題ないでしょう? 愛しの彼は志筑のやろーにぶんどられたわけですし?」

「なぁ!? なんで知ってんの!?」

「そりゃあ、記憶を覗いたからに決まってるじゃないですか。
まぁ私の魔法の有効範囲はあなたの頭の中だけですがねぇ?」

 さやかは、中の人と一人芝居のような口喧嘩を始める。

「なるほどね、キミの魔法を発動したまま、自殺しようとしたらそうなった、と?」

「まっ、そゆことですね」

「これはまた、面白いね。少し、研究させてもらいたいくらいだよ」

「イヤですよ、この腐れキュゥべえ! 外道で、えり好みで分からず屋じゃないですか!」

「それはあたしも勘弁してほしい」

「と言っても、今のボクにはそんなことする余裕も権限もないからね。
情報は抜けていくだろうけど、手出しはされないと思うよ?」

「さいですか」


「そういえば、ボクはキミにはこれ言ってなかった気がするよね」

 さやかは、突然どうした? とでも言わんばかりに首を捻る。

「キミの生足でボクのことを踏んでよ!」

「何? あんた疲れてるの?」

「いや、そうじゃないけど?」

「踏むくらいならいいよ? ここで靴脱ぐのはあれだから家でだけど」

「本当かい!? まさかさやかがキリカぐらいちょろいとは思わなかった!」

「何それ? そういうこと言ってると、踏まないよ?」

「あぁ! 悪かったよ、キミはとてもいい子だ! だから、どうかボクにお慈悲をぉ!」

「よろしい」

「ざまぁないですね、この腐れキュゥべえ」


 さやかの部屋へと戻ってきた一人と一匹。

 表情にも、行動にも変化はないが、待ち遠しくてたまらないと言わんばかりのオーラを放つキュゥべえである。

「ちょっと靴下脱いでくるから、ベッドに寝っ転がってて」

 と言って、さやかが部屋から一度退室してしまったので、
キュゥべえは言われたとおりに仰向けで彼女のベッドに寝転がる。

 ガチャッ、とさやかがもう一度ドアを開いて戻ってきたときには素足で足の指を凄い勢いで動かしており、
さしものキュゥべえもこれには大層驚いた。

「な、何をしているんだい?」

「ん? そりゃ、指の体操だけど? これからやるんでしょ? まぁ、必要ないかもだけど。
ってか、あんたなんで仰向けよ? ほらほら、俯せになりなって」

 さやかの手によって、キュゥべえの体はゴロンと半回転し、上下が入れ替わる。
 不安と期待に胸を膨らませるキュゥべえは、今か今かと、その瞬間を心待ちにしている。


「それじゃ失礼して」

 初めに、ゆっくりと体重が乗せられ、ぐっ、と一気に加重される。
 その重さに、キュゥべえは思わず嘔吐きたくなる。

「さやか、その、重たい……」

「あぁー、やっぱり?」

 解説しよう!
 俯せに寝転んだキュゥべえの背中にさやかが立っているのだ! 以上!

透過完了
さささ

二度目増して
投下です


「思ったのとは違ったけれど、気持ちはよかったよ。凝りも取れたし」

「いやー、流石さやかちゃん! そんな褒めなさんなって! 照れるなー」

 いや、褒めてはないのだけれど、と内心毒づくキュゥべえであったが、ぐっと喉の奥で言葉を堪える。

「用も済んだし、ボクは他の魔法少女の様子を見てくるよ」

「あぁ、そう? じゃ、よろしく」

 非常に軽い感じでキュゥべえとさやかは別れを告げるのであった。


 最近はさやかに付きっきりであっため、キュゥべえは久方ぶりにマミの家を訪れた。

「やぁマミ。気持ちは落ち着いたかい」

「いけしゃあしゃあと、よくもまぁ、姿を見せられるものね」

 マミは突如現れたキュゥべえに驚きもせず、オムライスを包むためにフライパンを振るいながら顔をしかめる。

「その様子だと、特に問題はなさそうだね」

「そんなことはないわよ。
でもね、いつか魔女になるとしても、私にはまだ出来ることがあるし、やりたいこともあるの。
捨てたくないもの、見つけたから」

「そうかい、それは良かったよ。あの時せっかく助けたのに、自滅されたらボクも助け損になっちゃうからね」

「本当に、あなたって喰えないわね」


 キレイに包んだオムライスに上から平皿を被せ、フライパンごとひっくり返す。
 白い皿の上に形の整ったオムライスが鎮座し、マミはそこにパセリとマッシュポテトを盛り付ける。

 最後に瓶詰にされたケチャップをスプーンで掬い取って、上からかける。
 マミとキュゥべえはテーブルへと移動し、手を合わせる。

「んん、おいしく出来たわ。こういうときが一番生きてるって実感出来るわね」

「味覚にこだわるというのも、キミたち独自の文化だよね」

「あなたも食べるかしら?」

「いいのかい?」

 マミは自分が使っているスプーンとは別に、もう一つ用意していたようで、それを使い、キュゥべえの口へと掬って運ぶ。

「ふむ、中々だね」

「あら、厳しいのね。でも、私は満足だわ」

 彼らにとっては何のこともない当たり前の日常であった。


 ☆

 キュゥべえと織莉子が、見つめ合う。
 睨み合うといったほうが正しいかもしれない。

 正確にいえば良く分からない。
何せ、お互い色気もへったくれもクソッタレもない、正真正銘、どこからどう見ても真顔なのだ。

 見つめ合う、なんていう甘さがあるわけでもなく。
かといって、睨み合うというほど、シリアスな空気を醸しているわけでもない。

 目を逸らしたのは織莉子のほうだった。
 これ見よがしに盛大なため息をつき、ヤレヤレと肩を竦める。


「なんというか、これだからけだものは……。少し待っていてください」

 立ち上がった織莉子は、一度部屋を出て、どこかへと向かう。
 キュゥべえはじっと、動かずに椅子に鎮座し続ける。

 そのさまは、最早ただの置物なのでは? と、勘ぐりたくなるほどである。
 その間にも時間は過ぎ、織莉子が部屋へと戻ってくる。

 そのままキュゥべえには視線を向けず、部屋の大きな窓に一つづつカーテンをかけていく。

 彼女の自室のカーテンは所謂、暗幕でありそれを閉じてしまうと日光が入らなくなるため、
部屋の中はとてもとても暗くなるのだ。

 暗い部屋の端から移動して、織莉子は室内灯の電源を入れる。

「さて、それじゃあそこから降りなさい」

 ぴょんと、キュゥべえは椅子から飛び降り、床に平伏する。
 そして、彼の座っていた椅子に織莉子がドカリと腰を下ろす。
 室内灯の光量はあまり強くないため、薄明かりに長い影が出来上がる。


「出来ればその靴下も脱いでほしいのだけど」

「嫌です、私はあなたに直接、触れたくないので」

「随分と嫌われたものだね」

「好き嫌い以前の、問題かと」

 それっきり言葉は止まる。
 床と壁に映し出された影が大きく動く。
 スラリと伸びた長い両足がキュゥべえの長い耳を?まえ、刻むように踏みつける。

 投影されたそれは本来の動きよりも大きく、大きく動く。


「ぅ、きゅぅぅ。きゅっぷぃ、ぃぃ、ぅ」

 まるで零れるような吐息は影が揺れる錯覚を与える。

「そんなにはしたなく、啼いてあなた本当にインキュベーターですか?」

 なじる言葉は強い語調で心の芯を打つようだ。

 それでいて織莉子の足は停止という概念を持たない様子で小刻みにキュゥべえの長い両耳を交互に押す。
 影に映るそれは決して強い力では行われず、絶対に物足りないだろうという塩梅で繰り返される。

「もう……、もう少しだけ、もう少しでいいから、強くぅ……、」

 織莉子の予想通りの反応をキュゥべえが示す。
 今の彼はもはや、弄ばれるだけの玩具だ。

「あはっ、はしたない、本当にはしたないわね! うふふ、無様、無様、良い様だこと!」

 小刻みに動いていた影は動きを止め、別の動きを始める。

 影の動きには奥行きが反映されづらく、
その動きは辛うじて前後運動に切り替わっている、ということだけが読み取れる。


「ほぉら、ほぉら、どうかしら? こういうのが好きなんでしょう? ほんに、ほんに、無様ね」

 映し出される影は大きくなったり、小さくなったりするばかりで、それ以外に目立った動きはない。
 そして、ほかには織莉子の罵りと、キュゥべえの僅かな喘ぎにも似た吐息だけだ。

「ぅぁぁ、はぁっ、きゅぅ、ぅぅ。お願い、します……、力を、入れてぇぇ」

「卑劣で下品な、インモラルが私に懇願ですか? はぁ、本当に穢らわしい」

 動きに変化が訪れたようで、影が大きく変化する。
 織莉子が足を高く上げられ、その先からキュゥべえの長い耳が吊り下げられている。
 もう片方の足で、反対側の耳も持ち上げられたようで、影は大きく動き、横から見たシルエットだけを映す。
 キュゥべえの影が、織莉子の足の影に遮られて、頭だけを宙に浮かべる。

「ぅきゅぅ、きゅぅぅきゅぅ」

 影が、捻じれ、キュゥべえの長い耳が上下に大きく広げられる。
 数秒の静止、ドサッ、と音を立ててキュゥべえが床へと投げ出されたようで、影が小さな山を作る。


「私はあなたの望み通りになど、絶対に動きませんよ。この虫以下の劣等種族さん?」

「ぷきゅぅ、きゃぁ、ゅぅぅ」

 織莉子の両足がまたも大きく持ち上がり、長い影を作り出す。
 先程と違うのは、そこにキュゥべえの頭が出ていることだ。

 それ以外は力なく垂れ下がっている様子から首を挟んで持ち上げられているらしいことが窺える。

「あなたみたいな下等生物が布越しとはいえ私に触られるなんて、
ほんと、ご褒美みたいなものよねぇ? あぁ、気味が悪いわ」

 影の動きに変化はほぼなく、うっとりするように時が進む。

「きゅぅ、きゅぁ、くぁ、けっ、こぉぉ、きゃきゅぅぅ」

 ピクン、ピクン、とキュゥべえの体が小刻みに震え、その振動を影に伝える。


「あら、どうしたのかしら? 苦しいの? 息が詰まっているのかしら? 
あなたのその小汚い呼吸が止まればきっと世界は少し救われるわね、
良かったじゃない、世界のために死ねるみたいで」

 抵抗する様子もなく、キュゥべえの首がくたり、と下を向く。
 影の大きさがブレ、織莉子が彼を軽く足で揺さぶっているのが見て取れた。

 その動作にしてもキュゥべえ側からは反応がない。

「気絶したようですね」

 織莉子は呟きと共にキュゥべえの体を床へと下ろす。

お粗末さまでした
合いの手どうもです

ダメ押ししておきましょうか
それにしてもマゾの多いインターネットですね


 目を覚ましたキュゥべえはふかふかの揺りかごのような椅子に寝かされていた。
 むくり、と起き上れば柔らかい綿の感触が四肢に伝わる。

 室内には真っ赤な夕日が差し込み、彼の白い体を煌々と赤く照らす。

「二時間、といったところかな?」

「えぇ、その通りです。あなたが気を失ってから二時間と十五分、経ちました」

 向かい側でハードカバーの書籍をめくりながら、キュゥべえの独り言に織莉子が回答を告げる。

「てっきりそのまま放置されるかと思ったんだけど」

「私はそこまで鬼畜でありませんので」

 頭を動かすことなくキュゥべえの呟きに答える織莉子。
 その反応はさっぱりと、ドライなものであり、マミとは全く違うものだ。


「気が付いたのならば、早くにお帰りいただけますか? それとも道案内が必要で?」

「分かったよ、一人でさっさとお暇させてもらうことにする」

 早く帰れ、と告げる織莉子にキュゥべえは素直に従う。

 ぴょんと、椅子から飛び降り大きな扉へと向かえば、
それは半開きになっており、丁度彼の体がするりと抜けられる隙間が開いていた。

「お気遣い、感謝するよ」

「結構ですから、早く行きなさい」

 冷たい声に追い立てられるようにキュゥべえは開いた隙間を通り抜ける。


 特に目的もなく、ふらりと街を散策していた彼は見知った顔を見つけ、声をかける。

「やぁ、杏子。調子はどうかな」

 声をかけたのだが、あえなく無視された。

「ゆま、キミは元気かい?」

「えぇと……、」

 キュゥべえが矛先を変え、
ゆまへと声を掛ければ幼い少女は一緒に歩いている少女の顔色を窺うように曖昧に答える。

「こっちはいつも通りだよ。良くも悪くもないさ、だからさっさとどっか行きやがれ」

 冷たい視線でキュゥべえを一瞥し、ゆまの手を引っ張って歩調を早める。

「ヤレヤレ、嫌われたものだね」

 二人の背中をキュゥべえはただ見送るのであった。


 ☆

 凪。海などで風がやみ、穏やかで非常に静かな状態。

 見滝原の街には海などないが、そう表現したくなるほどの静けさがそこにはある。
 朝靄が街をしっとりと覆い尽くし、白くぼんやりとした影を作り出す。

 喧騒を覆い隠すような光景は、不自然なほどに定着している。
 それは嵐の前の静けさで、だとするならば静かな町は嵐を望んでいるのだろうか。


 ☆

 見滝原中学の体育館の屋上で、キュゥべえははためき、なびく空気を感じる。
 霧のように散布された魔力は侵食するようで薄気味が悪かった。

 そんな風に感じるのは、恐らく彼がインキュベーターとしては失格の域へと達していることの証明なのだろう。

 正しく、間違う。
 今の彼にとっての行動理由はそんなところである。

 なので、彼は自覚しながらも迷いなく進む。

 インキュベーターらしくもない生存への固執は、彼に分かりやすい感情の一端を指し示す。
思考する計算機のような一面は変革され別の意図を形作る。

 揃えて並べるならば、感傷する計算機といったところだろうか。
 それはインキュベーターが近類する全ての種族から生存権を獲得したころに忘れてしまったものの一端。

 それはもしかしたら星霜のときを経て人類が失くしてしまうかもしれない可能性の一端。
 彼がどんな結末を望んでいるのかは、きっと人にもインキュベーターにも分からない。
 もしかすると、当のかれ自身にすら判別できないのかもしれない。

 それでも彼は、終わりを望む。

 戦いと、その結末を見届けるために。

今回ここまで

投下でせうか


★★

 空が割れる。
 伝番する空気がピリリと殺気を伝導し、姿なき姿を誤認させる勢いだ。

 ワルプルギスの夜。
 一度現れれば小規模な大災害として世界に爪跡を残す魔女。
 ひっくり返り、正位置へと還れば文明を滅ぼすとさえ称される稀代の魔女。
 圧倒的な魔力を蓄え、現実にサーカスを開くかのような煌びやかさで魔法少女たちを蹂躙する存在。

 そこに意味はなく、理由もまたない。
 ただ、人々に無力をまき散らす存在。
 それが、その姿を現す。


 始まりは白煙を伴って宣言された。
 放物線を描くように投擲物が火を放ち、爆発する。
 巨体に突き刺さり、次々と炎を吹きあげて、熱風でさらす。

 迫撃砲や、地対地ランチャーが轟きをあげる。
 衝撃に煽られて、巨体は大きくバランスを崩して慣性方向へと移動する。

 爆発を引き連れた魔女の体が地面へと突き刺さると、
その巨体が直径五十メートルはあろうかという火柱に囲われた。

 柱の中から巨体の端が見えたり消えたり、揺らめきを作り出す。
 勢いを失った柱は、静まるように鎮火していく。

 煙を立てながら、巨体を揺らす魔女の体は健在で見下すような高笑いだけが席巻する。
 現代では再現不能なクラシックトーンの光柱が噴き出す。


 それはどことも狙いを定めている様子もなく、
だけれども辺り一帯をまとめて瓦礫に帰る程度の威力を誇っている。

 多くが地面に突き刺さり、アスファルトを弾き飛ばす。
 一画では砂埃が舞い上がり、一画では巻き上げられた礫が雹のように降りしきる。

 たった一回の攻撃だけで、見滝原の街にため息を吐きたくなる損害を与える。
 それが最強と謳われる魔女。

 だが、その場に集まった魔法少女たちも伊達ではない。
 逃げ出したくなるような初撃を切り抜き、なお立ち向かう。


 一角で白刃が煌めく。

 一角で人の身に余る大きさの槍が突撃する。

 一角で漆黒の閃光が輝く。

 一角で重苦しい衝撃が空気を叩く。

 撃鉄が奏でる重苦しい金属音が轟と響き、場を制圧するように魔弾が絨毯爆撃のように魔女を狙う。

 乱反射する煌めきは流星のように魔女の体を端から削る。


 打ち出される魔女の大火力に怯むことなく連撃が加わる。

 魔女は攻撃を避けることなくその全てを受け止めなお圧倒的な火力で全てを焼き払おう為に閃光をキラメかせる。

 それは紛うことなく死闘であり、見紛うことなく総力戦だ。
 究極的に戦いとは生き残る手段である。

 お互いに引くことも、譲ることも出来ないために戦うのだ。
 一歩も引かない、のではなく引くことが許されない。
 本来戦いとはそういうものだ。

 言うなれば戦いとは最終手段。生存競争に勝ち抜くための最も現実的で、最も分かりやすく、
もっとも簡潔な生き残るための方策。

 つまり、死にたくなければ、相手を滅ぼせ。
 魔法少女と魔女の戦いは、つまりはそういうことなのだ。
 善悪論や倫理、道徳など端から入り込む余地などない。根本的な生存争いなのだ。

 だから、互いに絶対に引くことはないし、妥協することもない。
 そうしなければ、生き残れないのだから。
 絶対に雌雄を決しなければならない。

 それが、彼女たちに課せられた唯一生存するための掟。

ここまで
セリフがねーですね

投下ですよ


 ☆

 嵐のような暴風が治まり、天井を貫通するのではないかというほどの雨粒も鳴りを潜める。
 空はカラリと眩しい太陽を覗かせ、嘘のように気持ちの良い晴れ間を気取っていた。

 そんな眩しさの中、キュゥべえとまどかは水たまりを避けながら道路を歩く。
 街路樹は倒れ、ビルのガラスは砕けて道を輝かせている。

 それでも二人が歩いている一帯は被害が軽微なようで街の様相を保ったままだった。

「キュゥべえ、みんなは本当無事なんだよね?」

「断言はできないけど、ワルプルギスを撃退することは出来たみたいだね。彼女たちの勝ちと言っていいと思う」

 パキパキとガラスが砕ける音を鳴らしながら歩く二人。

 特にキュゥべえは砕けたガラスの上を素足で歩いてるわけだが、
痛覚などほとんど持ち合わせてもいないため、問題はないのであろう。


「そっか……、わたしも一緒に戦えたら、なぁ」

「キミの気持ちも分からないでもないけれど、ボクにも面目というのがあるからね。
約束を反故にするわけにはいかない。そうだね、だから諦めてほしい」

「そっか、そうだよね……」

「むしろキミのほうがボクにとっては意外だよ。
真実を知っても魔法少女になりたいなんて願うのは、近代になってからはあまりいないからね」

「出来るかもしれないことと、その資格があるのに、行動できないのは悔しいの……」

 言葉通り、まどかの声色からは悔しさが滲んでいる。

「別に、キミがそうなる必要なんてまるっきりないじゃないか。それでも悔しいと思うのなら、強くなるといい」

「でも、わたしは……、」



「まどか、何か勘違いしていないかい? 
ボクはキミに生身で魔女と戦えるようになればいい、と言ったつもりはないよ?」

 まどかはキュゥべえの言葉に一旦足を止める。
 口元に緩く握った指先を当て、軽く首を傾げ、「うーん?」と唸る。

「強くなる、っていうのは何も肉体的にというのに限った話じゃないだろう?」

 振り向いたキュゥべえの言葉に、小さく肯き、もう一度歩き出す。

「キミの描く強くて頼りになる人を目指すといいよ。
そうすればそれはきっと彼女たちの力になるんじゃないかな」

 その言葉はとてもインキュベーターらしくないもので、あまりにも不釣り合いだ。

「ん、ありがとう。コレでキュゥべえが変態じゃなかったら、キュンとしたのに」

「キュンとしたら、踏んでくれたのかい?」

 その返しにまどかは酷くげんなりした表情をみせる。


「んー、キュゥべえがそうじゃなかったら、そうなったかも?」

「ふーむ、難しいね。こうじゃないボクはきっとキミにああいうことを言ったりしないだろう。
だから、こうじゃないとキミにキュンとしてもらう土台がないんだよね、
だけど、こうだとキミはキュンとしないんだろう?」

「そうなんだ。じゃあ、無理だね」

 とても清々しく、妙にいい笑顔でまどかは言い切る。
 そのためキュゥべえは肩を落とすのだった。

「あれは……」

「み、みんな!」

 二人の視線の先にはボロボロになって、だけれど笑い合う七人の魔法少女たちの姿が映る。
 無事とはいいがたいが全員生きてワルプルギスを撃退したらしい。

 まどかが慌ててかけていく。

 キュゥべえはその様子を後ろから見守りながらゆっくりと追いかけるのだった。

ここまでで
そうそう余談ですけど次が最後です

投下します


 ☆

 マミの家、マミの部屋。
 そこでほむらとキュゥべえは睨めっこのようにお互いをじっと観察する。
 そもそも、なぜ家主不在の家主の部屋でこの二人は顔を突き合わせているのか。

 理由はとても単純だ、ワルプルギスとの戦闘の巻き添えでほむらのアパートが鉄骨から崩れ去ったため、である。

 なので、避難用のプレハブ小屋が組み上がるまでの間、この家に厄介にならざる得ない状況に追い詰められたのだった。
 ただし、勘違いしてはいけない。
これは完全に巴マミのお節介であり、彼女たちが特別仲良くなったわけではない。

 実際にほむら始め鹿目まどかに声をかけてもらえたので、そちらにご厄介になるつもりだったのだ。
だが、乗り気で返事をしようとしたその瞬間に、キュゥべえが一言言い放ったのである。

『ほむら、ボクとの約束忘れてないよね?』

 この一言によって、ほむらは鹿目家の敷居を跨ぐことを断念して、二、三日野宿する覚悟を決めたのだ。

 そして、しょぼくれながら一人で街を歩きながら憂鬱にため息を吐き出しているときにマミに声を掛けられて半ば引きずられるように連れてこられたわけである。


「本当にするわけ?」

「もちろんだよ。それとも今更なかったことにしてくれなんて言わないよね? 
織莉子にはもう契約を果たしてもらってるしこれ以上ボクは待てないよ?」

「本来のあなたが相手ならば、今すぐ撃ち殺してやりたいところだけど、あなたを殺すと面倒よね」

「キミの目的を考えるならボクは殺さないのが賢明だ」

「オーケー、分かったわ」

 思い切り肩を落としてほむらはため息を吐く。

「そこに寝転がりなさい」

 ほむらはマミのベッドの端へと腰を下ろして、組んだ左足の指先で場所を指示する。
 左足を上側で組んだ脚は、滑らかな黒いタイツの光沢と相まって、妖しい雰囲気を醸す。

 キュゥべえは何も言わず、指示されたところへと移動してゴロン、と腹を向けて寝転がる。
 期待に踊るように左右に小刻みに揺れ動き、その足が体に触れるのを待ちわびる。


「気持ち悪い……、」

 ほむらの素の声が小さく零れる。
 組んでいた足を大きな動きで解くと、左足をキュゥべえの体に押し付ける。
 つま先を立て指の腹と指の第一関節の部分(この関節は巷ではMP関節と呼ばれる部分だ)を押し付けるようにキュゥべえの体に力をかける。

「ぅきゅぅぅぅ、」

 ほむらの足がキュゥべえの体を強く押せば、彼の声が自然と漏れる。
 それに顔をしかめつつ、ぐにゅぐにゅと遠慮のない力加減でキュゥべえの体を踏みつける。

 一頻りキュゥべえを踏みつけたほむらは一度左足をあげ、
足の親指を使ってキュゥべえの顔へと力のこもらない凸ピンをかますと、
キュゥべえの体の横についていた右足も持ち上げる。

「まだ期待しているみたいね。本当に気持ちが悪いわ」

 生ゴミを見るようなほむらの視線がキュゥべえへと注ぎ込まれる。

 ほむらの両足がぐにゅりとキュゥべえの腹部を容赦なく踏みにじる。
 それは明らかに内臓を圧迫するための力の込め方だ。


「きゅぅっっぷぅ、ぅぃ、きゅぅぷぅ」

 キュゥべえの声は完全に喘ぎ声にしか聞こえない。
 豚にすら劣る鳴き声を披露し始めたその瞬間、個室のドアが無造作に開かれた。

「暁美さん、晩御飯何か食べたいも、の、でも……、」

 部屋のドアを開けた家主は硬直する。
 ドアのほうへと首を向けたほむらもまた、若干泣きそうな表情へと変化しつつ硬直する。

「はぁー、はぁー、きゅぅぅ、きゃきゅぅ。ぷきゅぅぅ」

 恍惚としたキュゥべえの浅い喘ぎ声だけが、時間の経過を表現する。


「て、てきとうに、てきとうにつくっちゃうわねっ」

 バタンッと勢いよく部屋のドアが閉じられる。
 瞬間、ほむらの顔は蒼くなり、キュゥべえを踏みつけていた足を盛大に跳ね上げて、
マミのベッドへと乗り上げ、勢いよく拳を連続でベッドへと叩きつける。

 バンバンバンバンバンバンッ! と響く鈍い音はほむらの言いようのない感情の塊なのである。
 そして息が上がる程の時間そうしていたほむらの耳に、マミの家の玄関が開いて閉じる音が聞こえてきた。

 それは恐らくはマミが晩御飯の買い物に出かけた音だ。

「お、おまえの、おまえのせいでぇ!」

 怒りと、悲しみと、落胆と、ぐちゃぐちゃに混ぜ合わさったほむらの表情は言うなれば、モザイクである。

「ほむら、確かに今のは不幸な事故だったよ。
だけど、ボクはマミにも踏んでもらっているし、別段気にすることでは……、」

 キュゥべえは反論するようにそう口にするが、その調子は言葉尻になるにつれて小さく消えていく。


「ふふふ、うふふふ、もういいわ、容赦しない……」

 ほむらの左足がキュゥべえの頭を蹴り倒せば、それはほむらの右足の甲で受け止められる。
 ほむらはそのままキュゥべえの頭を両足で挟み込み、その人に比べれば柔らかい頭を潰す。

「っ……、きゅ……、…………、」

 彼がインキュベーターでなければ間違いなく窒息するであろう。

 だが生憎と口を塞がれたとしても完全に呼吸が出来なくなるわけではないため、
彼は小さくもがきながらも、ほむらの足に挟まれるのを歓喜と共に受け入れるのだ。

「うふっ、無様ねぇ! いつもの減らず口はどうしたのかしらぁ?」

 何か入ってはいけないスイッチが入ってしまった様子のほむらから高飛車なセリフが飛び出す。
 追従して口答えして見せろとでも言いたげに両足をキュゥべえから離してしまう。

「ろ、……、れ、……るよ、……、」

 だが流石に息苦しさで呂律が回らなくなったキュゥべえは上手く言葉を発することが出来ない様子である。
もっとも、本来であれば喋るという動作すら必要がないはずであるため、
これは雰囲気に飲まれている、もしくは酔っているとみるべきだろう。


「あらぁ、しゃべれなくなるほど気持ちが良かったのぉ? 本っ当に、ド変態なのねぇ」

 ギラリとほむらの目が輝き、右のかかとがキュゥべえの腹部中央へと正確に突き立てられる。
 人間で言えば鳩尾に当たるであろう一点だ。

「くっ、こほっ、ぅぅぁ」

 いくら彼の体が替えの効く消耗品のようなものだと言っても、それを維持するための器官は当然備わっている。

 つまり、急所や弱点は当然ながら存在する。

 そして今ほむらが踵を突き立てたのは脊椎生物共通の急所である。
 最低限の力加減はされているとはいえ、その衝撃は体の内側が突然突き上げられるような衝撃を錯覚させる。

「インキュベーターでも、ここは弱いみたいねぇ?」

 左の指先がキュゥべえの顎を軽く叩き、右足の指先で胸部から腹下部までをつっぅ、となぞる。
 その動作にピクリとキュゥべえの体が反応し、小さく小さく跳ねる。


「あらぁ? もしかしてこういうのも、お好みなのかしら? ほぉんとうに救いようのない変態なのねぇ」

 普段は口数の少ない彼女とは思えないほど饒舌に、キュゥべえの価値を貶めるように囁く。

「そぉれじゃあ、こういうのってどうなのかしらぁ?」

 ほむらは目いっぱい親指を広げ、キュゥべえの小さな首を抓む。
 その行動は辛うじて、成り立つ程度の危うさで行われる。

 キュゥべえの細く小さな首を、
ほむらの左足の親指と人差し指の間の僅かな隙間で挟み込むように、顎にかけるような形で行われている。

 そのままほむらはキュゥべえの体を持ち上げる。


「きゅきゅぅ、っ、っ、……、」

 ピクッ、ピクッ、と小さくキュゥべえの体が痙攣する。
 呼吸の必要はなくとも頭部にある脳へと血液が巡らなければ失神してしまう。

 ブルブルと震える体がビクンッ、と大きく痙攣したその瞬間に、
ほむらは首筋を押さえつけていた足をぱっと解放する。

 キュゥべえの体はドサッ、と音を立てて床へと沈み、反射的に小さく丸まる。


「だぁめぇよ? まだよ、まだまだ私を楽しませなさい?」

 ほむらの口元が意地悪く歪み、背中を丸めうずくまったキュゥべえを足先で転がす。
 キュゥべえの意識はブラックアウト寸前まで追い詰められたために、濁々としており、前後不覚だ。

 そんな状態では反応らしい反応を返すことすら出来ず、なすがままに転がされてしまう。
 右足で右の耳を踏みつけ、左足でキュゥべえの体を軽く蹴飛ばす。
 押さえつけられた右の耳を中心にキュゥべえの体が円周を描く。

 先程までとは趣向の変わった動作だ。

 ブンブンと、キュゥべえの体が半周上を行ったり来たりする。
 頭の中を掻き混ぜられるような不快感と前後不覚による浮遊感に伴った奇妙な高揚がキュゥべえを支配し、彼を塗りつぶす。

 最早喘ぎもせず、ただただほむらにされるがままの状態だ。
 ただし、完全に意識が寸断されているわけではない。

 揺蕩うような感覚がグラグラと煮立てられて無意識化で刺激に反応するのみである。


「んー、つまらないわね。こんな人形遊びみたいなのは」

 冷めた目で、非常に冷酷なまなざしでほむらは呟き、
キュゥべえの体をそっと足で抱き起こして、左の足の甲へと体を寄りかからせる。

 体全体を大きく揺らしながら、キュゥべえはぼんやりとした意識の中を静かに遊泳している。

 その間にほむらは、手持ち無沙汰になっている右足で優しくキュゥべえの体を撫でる。
その行動自体は優しいもので、乗り物酔いで気分の悪くなった旧友の背中を擦るような行動だ。

 ただし、キュゥべえに負担を強いたのもほむらである。
 ゆっくりと、体全体を這うようにねっとりとした足つきで撫でまわす。

 無茶な振動や衝撃で逆立った彼の体毛を撫で付けるように全身に足先を這わせていく。

 キュゥべえはようやくと意識を取り戻しつつあるようで、頭が軽く動く。
 その反応をキャッチしたほむらは音もなく表情をけたたましく歪める。


「ふふ、うふふ」

 つい、といった様子で小さな含み笑いが漏れ出す。
 ほむらは右足の親指でキュゥべえの頬を軽くつつく。

 人の頬であればその奥には歯があるため、柔らかさと硬さの両方が伝わるが、
キュゥべえにはしっかりとした歯が無いのか頬の柔さと艶やかな毛並の感触だけが伝わる。

「うぅ、はぁー、ほむら、流石に目が回ったよ」

 意識を?まえたキュゥべえは思考力を取り戻したのか、頭を軽く振る。

「もっとギリギリまで突き落して、ア・ゲ・ル♪」

 下瞼にさえ力が入り、怯えるほどに不気味な笑顔を浮かべるほむらは、大層楽しそうである。


「あ、あはは、お手柔らかに、頼むよ……」

 その威力は驚くべき効果を示し、さしものキュゥべえさえも尻込みさせる。
 すっと、キュゥべえの背中と頭からほむらの左足が抜き取られ、その指先をキュゥべえへと向ける。
 ゆっくりと指先を立てたつま先がキュゥべえへと迫る。

 柔らかく振れた足先は、ゆっくりと体を圧迫して押しつぶす。
 グニャグニャとキュゥべえを押しつぶすほむらの足は、痛みを感じないギリギリの圧をかけ続ける。


「きゅ、きゅぷ、きゅぅぅ、ぷきゅぅ」

 リズミカルにほむらの足はキュゥべえの全身を踏みしだき、圧迫する。

 左右交互に、接地点を少しづつずらして次の見通しを立てさせない。
そして、足先で押す瞬間ギリギリで足首を動かし、キュゥべえの体の無防備な部分へと突き立てる。

 思ったところに衝撃が来ない、というのはストレスと同時に強迫感を与え少しねじる程度に精神を圧迫する。
 それはキュゥべえの肢体を少しだけ強張らせて、衝撃の分散効率を著しく落とす。

 そうなれば体全体に震動が伝わり、内臓を揺らす。
 つまり当然頭部の内側も揺れる。

 先程散々揺さぶられた彼の三半規管は未だ敏感なようで、
伝わる振動が次第に大きくなるにつれて、頭にクラクラとした酔いを広げていく。

 ほむらの足が小刻みに動けば動くほど彼の酔いは加速していく。


「う、りゅりょりゅりょりょりょろぉぉぉぉぉ」

 クラクラと頭が揺らめき、目が回る。
 そして自身の動きも相まってフワフワとした酩酊がキュゥべえを包み込む。
 体を叩く足先は暖かく、ジワリと体を刺激する。

 それはとても、とても、心地の良いもので、言ってしまえば辛坊たまらん、である。

 フラフラと揺れ動く意識は、時折飛び出しそうになり、慌てて掴み引き寄せる。
 そんな綱渡りが長く続くはずもなく、何度目かに飛びあがった意識をキュゥべえはつかみそこね、
ポーンと目の前が真っ白に飛び上がる。

 くたっ、とキュゥべえの体が力を失くしてだらしなく伸びる。

「あら、ここまでみたいね。はぁ」

 ほむらの呟きはキュゥべえに届くことはないのであった。


 おわり

お付き合いいただいた方々ありがとうございました
完結です

敢えてピンヒール履いたままの詢子さんの御美脚はどうですか!?
一日立ちっぱでパンパンにむくんでムレムレの和子さんの御美脚は!?
ねぇ、べぇ先生!!?

>>320

鹿目詢子

 スレンダーでスラリとした足腰は年齢を感じさせないツヤと張りが眩しいね!
 薄手で防御力が低そうなストッキングもポイントが高いよ!

 ひざ裏から布浦はぎにかけてのラインも中々どうして悪くない
 歩きなれているんだろうね、風格のある歩行姿勢が決まっていて、そのまま踏んでほしいくらいだよ!

 だけど、だけどだよ! ピンヒールは良くない、良くないよ!
 そりゃあ、ワンポイントとしては二つの意味で抜群の破壊力を持ってはいるさ!

 だけどね、だれどね! ピンヒールを履くと体のバランスが崩れるんだ!
 そう、確かにピンヒールは攻撃翌力が高いけれど、同時に本来の美しいバランスを崩す諸刃の剣でもあるんだ!

 やはり美脚は生に限ると、ボクはそう思うね

早乙女和子

 鹿目詢子とは対照的なバランスの足つきだね。程よくついているだらしないお肉が最大の武器じゃないかな
 比較的薄めの白色系のタイツはなるべくなら自然に生足っぽく見せようという見栄を感じるね

 ただ、本人の身長が低いからスラリとした美しい足、という点においては分が悪い
 バランス自体は悪くないから、とてもとても乙なものだとだけ言っておこうかな

 むくんだ足っていうのは踏んでもらいたい対象じゃないね、踏んであげたい対象だよ!
 だからそうだね、癒してあげたくなる足という点においては唯一の個性と言っていいんじゃないかな

 ただ、残念ながらボクには彼女の足の魅力を引き出すことが出来ないけどね
 それから、ムレムレの足というのに魅力を感じるのは難しいことだ。何せボクたちには所謂嗅覚が存在していないからね


だそうです

>>1としてはまどっちの足が最強だと思います

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