『むむぅ……ピンと来た!キミィ、ウチの事務所で働いてみないかね?』
高木順三郎
『は……はぁ……』
桐ヶ谷和人/キリト
『もう、キリト君ったら。ちょっと気負いすぎだよね?』
結城明日奈/アスナ
『ですよねー、プロデューサーさんってば何時も
知らない間にどこかで一人で頑張ってるんですよ……』
天海春香
『ミキね?ハニーさえ生きてくれればどこでもキラキラ出来るの……ホントだよ?……』
星井美希
『美希ッ!!諦めるな!俺が絶対助けてやる!』
桐ヶ谷和人/キリト
『一人では出来ないこと、仲間となら出来ること』
765プロ アイドル一同
ソードアート・オンライン-アイドロイドプロデュース-
『これは、ゲームであっても遊びではない』 茅場晶彦
『空見上げ 手をつなごうこの空は輝いてる』
二千二十六年の現在から数えると、始まりから二十年弱の歴史を刻んできた
懐かしいフレーズの音楽がこの街中に流れている。
どこから流れているのか。だが、少なくともこの世界――今、<<彼>>が居る
この街中はこの曲を優しく包み込むために作られているのだ。
最新の3dグラフィックスが用いられた、一昔前の風景を映し出すこの世界に
少なくとも、まだ活気は無いがこれがもうじき彼の思い描く理想郷となる。
そしておそらくその音楽は今、彼が出てきたcdショップから流れていたのであろう。
そのcdショップのラインナップも、どこか懐かしさを感じるが
現実世界ではどこにも出ていないcdがほとんどで不思議な空間を形作っている。
そんな世界で――彼しか居ないこの二千十年代をモチーフとした
電子の粒子が織り成す景色の中、一人彼は感傷に浸っていた。
『ついに、ついにこの時が来たのだ……』
消えそうな声で、しかし確実に彼は言葉を紡ぎ出す。
『作られた世界……否、作り上げたこの世界でついに理想が完成する。
感無量と言う言葉以外にどう表現してくれよう……』
一通り話すと今度は、彼は誰も居ないcdショップから流れるbgmに耳を傾けていた。
そして馴れた手つきで、懐から取り出したこれまた
一昔前の、俗に言う二つ折り携帯電話の様な物を弄りはじめた。
この携帯端末は<<アミュスフィア>>を、はじめとしたvrワールドに接続する端末で
メール等をやり取り出来る<<イマジェネレイター>>と言うソフトの画面を映している。
しばらくするとその中身は外装とは裏腹に真新しい携帯端末を
力一杯に握り締め始めた。すると、表情は先程とは打って変わって醜い物となり
誰に言ったのかは定かではないがつぶやく様に、静かに、怒りを露にしていた。
『国家の医療研究のためでは無いのか?……
善意で<<高適応性人工知能>>のプロトタイプを差し出してみれば……軍事運用?
許さんぞ……絶対にそんな事はさせん。この可愛い娘達にそんな事は出来ない……』
『それの新型はな……全てのボトムアップ型人工知能の完成形だよ……
だが、その代物はお前たちの言う魂の定義である
<<フラクトライト>>を利用した物とはまったく違う手段を用いる物だ……』
『この完成したa.iは……いや、この娘達は皆私の娘だ。なんとしてでも守り抜く』
高らかにこの誰も居ない世界で彼は宣言した、恋焦がれた理想の世界で
――アイドルマスターの世界で。
1
「いやぁ、キリト君。こんな日にまで悪いねぇ、わざわざ」
「そう思ってるなら、今すぐ帰らせてくれないか。
こっちはまだまだ眠たいんだよ、いい加減にしてくれ」
「来るや否や、退場宣言は困るよ、いやぁゴメンって。ホントに……」
その言葉を最後まで聞く前に、俺は店を後に……
と言うのは冗談にしろ、わざわざこんな日から呼び出された
今の自分の気分が良いかと言われればそうではない、むしろ悪い部類にあたると言えるだろう。
呼び出されるだけならいざ知らず、俺の神経をさらに
逆撫でしている物がある故に現在、この不快な気分に拍車がかかっている。
それが、ここ東京都大田区の小さなカフェで
向かいに座っている俺をわざわざこんな日から、呼び出した張本人が
菊岡ことまだまだ素性の知れない、この傍若無人であったと言う事だ。
この男が俺を呼び出す時には、ろくでも無い仕事を用意してきて
学生が受け取るには少し躊躇してしまう程の額の報酬を俺の目の前でちらつかせてくる。
この一連の行為自体は、俺と菊岡の間では今は定期的に行われていて
こういった状況を――例えば、俺の現状とほぼ同じだが
国のお偉いさんが俺達の様な、下々の平民の中から
『専門の人間』を協力者として見繕い、vrワールド内の調査や
vrワールド内での犯罪の監視をさせていたりとかだ――ネットゲームの運営体制に準えて
皮肉交じりか、『運営する』だとか『管理する』とか言うらしいが
どうにも俺はそう言う風に、アゴで使われる様な感じがするのは
余り好きではない。と言うかそんな下っ端根性は持ち合わせていない。
一応、菊岡には例の借りもあるし仕方なくその行為に
今は甘んじようと、割り切ろうとしているのだが
こう、なんと言うか体がたまに拒否反応を起こすと言えば良いのか。
言い訳がましくなるが、要するにこの菊岡と言う人間の人物像が
余りにもぼやけた物で、さらにその状況を意図的に菊岡が
作り出してると思われるため、不信感が常に加速し続けている……と俺の中で結論付けている。
かしその『運営される』事自体は、別に俺としては、好きでは無いだけで
都合が悪いかと言えばそうでも無く、むしろ俺のお財布事情からすれば
こういった臨時収入の類は、とても喜ばしい事なのだがまぁ
流石にまだそこまで俺もストイックにはなれない、と言うよりなりたくないと言うのが本音だ。
とは言えまだまだ未踏の地である、vrmmoと言う存在の真相を知る者が
少ない現状では、仕方が無いという事だけは
きっちりと割り切ってるつもりだし、この菊岡が何時も言う事も現状は
筋は通っているので、こうして仕事を渋々と請け負っている次第である。
「さて今回、君に調査して欲しい物なんだが……君は最近発表された、
ザ シードを使って作られた、地球全土をシュミレートした
マップが使われたゲーム、と言うのは聞いた事があるかい?」
「………」
話には聞いていた、vrゲーム開発支援ツール『ザ シード』を使用した
個人製作による、地球全土をシュミレートしたマップ
と言うそれこそとんでもない企業ですらやろうと思わない
全ゲーマーの希望を成し遂げたのだ。――実際、ゲーム界に革命を起こす偉業を
成し遂げたとか何とか新聞で取り上げられていた――
さらに、そのマップデータが本格的に公開されるのが、同作者が製作した
新作のvrmmoに運用されると言う形でなのである。
今や世間はそのゲームの話題で持ちきりで
アスナやエギル、クラインを初めとしたsaoサバイバーで
俺の友人でもある人物も皆注視してると来た物だ。
ただ、いかんせん情報が少なすぎるのだ。先日、二千二十五年
十二月二十六日に、製作者のサイトを通じて情報が発信されて
それが、情報共有サイトやsnsを通じて伝わり――しばらくすると
さらに各メディアにも伝わり、今やテレビ等の公共電波で流れて
今や知らない方が珍しいくらいに、現在このゲームの
情報は知れ渡っていると言っても過言では無いだろう。
しかし、先日に同時に発表されたゲームのオープンβ予定日は
約一ヵ月後に控えているというのに未だにそれ以外の情報が無い。
「あぁ、話には聞いてるがゲームタイトルはおろか、
ゲームの趣旨についても何も言及されて無いんだろ?
気にはなるが現状があぁだと、国も管理しようにも出来ないんじゃないか?」
「……そうか、それだけか、いやこっちの話さ。
しかし、毎度何も言わなくても君には先が見越されてる様で
気が気じゃないな…話が早くて助かるよ、君の言う通り
今度のゲームは国としてもとても注視してるんだ。
何せ、前代未聞の話だからね。地球全土をシュミレートだなんて」
ふと、一瞬菊岡が表情を濁らせたがまたすぐ
忘れてたと言わんばかりに、あのいけ好かない笑顔に戻ると
こちらの返答を促すかの様に手元の、コーヒーカップを弄り始めた。
一瞬、カップの中が見えたがもう、中身は空だった。
「で、俺の時事についての感心を尋ねに来ただけって事は無いんだろう?
今日、俺をわざわざ呼び出した理由ってのは。
どうせアンタの事だから、こういう話じゃ済まないんだろうしな」
「そう……実はここからなんだよ本題は」
「だろうな……コーヒー、おかわり頼んだらどうだ?」
「そうするよ、おーいすいません……」
すると、菊岡は俺と同じく眠たそうな表情の店員を呼びつけ
エスプレッソを頼んでいた。この店は以前ggo内で起きた<<死銃事件>>の
打ち合わせに使った様な渋谷の洒落た店では無く、本当に小さな
個人が切り盛りしている様な店で、俺としてもメニューを
噛む事も無く、頼みやすくて助かると言う物だ。
「じゃあ、俺もカフェラテをお願いします」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください……」
すると、菊岡の視線が先程までの温厚な
中年のソレとは違った、冷たさを持った鋭い刃の様な物となった。
「実は今回のゲームの製作者なんだけどね……どうも調べてみた所
大学時代にあの茅場晶彦氏とツートップで双璧を成していた人物の様なんだ」
「茅場と……?」
記録上、茅場晶彦は18歳の大学1年の時には既に<<アーガス>>に配属しており
年収は推定でも一億は下らないとされる程の人物である。
その茅場とツートップを成していたと言う人物であれば、確かに
個人の力で世界全土をシュミレート等と言う人外じみた事を
やってのけるのも頷けるが、それだけの人物なら何かしらで公になるはずなのである。
「その製作者は何者なんだ……?名前は割れてるんだろう?」
「いや、それが……どうも大学に入籍していた際の
戸籍は偽装された物らしいんだ。とんでもない話だね」
ますます訳が解らない。大学に入籍するのになぜ戸籍を偽装する必要があったのか……
「大学側もなぜ、それに気が付かなかったかは解らないそうだが
少なくとも在籍していた事実はあった様だ。その後の消息は一切不明だそうだが……」
「だが今回のゲームには、少なくともログインしてくるはずなんだ……
あの茅場氏も自分で実際にsaoの中にログインしていたのだからね」
一瞬、そのアテにならない根拠をどうして胸を張って言えるのか。
と不思議でならなかったが、数秒経ってこれは虚勢のソレでは無い事に気づく。
おそらくコイツは何か、俺には言えないが確かな確証を得ているのだろう。
――気に食わないので炙り出してみる事にした。
「つまりあれか、俺が実際にこのゲームの中に入ってコイツの本当の
戸籍を割り出せば良いのか?そう都合良く行くかねぇ、いや行かない。
よし、この話は終わり。はい、解散」
「ちょ、ちょちょキリト君!分かった!分かったから!
実はこの件に関しては裏があるんだよ……その様子だともう気づいてたみたいだけど」
「最初から言えば良いんだよ、何か俺に知られちゃまずいのか?」
「いや、別にそこまでまずい訳でも無いんだけども……」
すると、カウンターの方から店員がやってきた。
おっ、良いタイミングだ。等と向かいの中年がほざいていたのが
耳に入ったが、せっかくのカフェラテがまずくなるといけないので聞き流す事にした。
「お待たせ致しました、カフェラテとエスプレッソです。ではごゆっくり」
「この店のエスプレッソ中々いけるんだよ?……あっ、もちろんカフェラテもね」
「とりあえず、その件に関してはこのカフェラテに免じて
深くは問いたださないが、何時かは吐いて貰うからな」
「しかしまぁ、すごいよねぇキリト君。こんな日から空いてる店もあるんだから」
「……アンタ、本当に俺に申し訳ないと思ってないだろ?」
「いやぁ、とんでもない!貴重な時間をとらせてしまって
その点については頭が上がらないよ。この通りだから……ね?」
申し訳無い――と言う感情の元にある物とは、程遠い表情で
聞いてきたこちらへの投げかけを、俺は生返事で返して
すぐさま、今までの流れで一番言いたかった事を思い切り吐き出した。
「あぁそれで貴重な時間?あぁそうだなうんまぁまず元日から
いきなり人を呼び出すし、アンタ常識ってのは無いのか?」
本日、二千二十六年一月一日 俺の予定ではゆっくりと、丸一日ベットで
過ごせる物かと思っていたが、予想外の方向から横槍が飛んできて
本日の俺の睡眠ダイヤは大きく運行路線を変更せざるを得なくなってしまったのだ。
この男への不信感もさらに募ると言う物である。
「いやぁ、だからそれについては連絡した時もこの場に来た時にも散々……」
「謝れば良いってもんじゃ無いだろ……まったく勘弁してくれよ」
と言うのも、なぜわざわざ元日から菊岡の呼び出しに応じたかと言えば
連絡してきた時のただならぬ雰囲気に気圧されたからであり
そして、同時に今回の怪しげなゲームの事が絡んでいるのではないかと
推測したからだ、まぁ結果予想は当たっていたのだが。
「では、また何かあれば追って連絡するよ。本当にごめんね」
そう言うと菊岡はさっと会計を済ませて、出て行った。
2
菊岡から呼び出されてから、数日経ったある日
帰宅すると、リビングから玄関へ直葉がすごい形相と速さで近寄って来た。
「ねぇ!ついにあのゲーム今日タイトル発表されたんだよ!!」
カーボン製の竹刀が、少し竹刀入れからはみ出ていたり
胴着や袴を纏めていると思われる、荷物が玄関に
竹刀入れと一緒に乱雑に置かれている事から、おそらく
直葉も帰ってすぐに慌ててテレビ等を確認しに行った事が伺い知れる。
そして、直葉が言うあのゲームと言うのはおそらく世間の注目を
一点に集めているあの噂のvrmmoゲームの事だろう、リビングの
テレビをふと見ると案の定その話題が速報として公共電波で流れているのが確認出来る。
まだ確認はしていないが、多分もうvrワールド内のネットでも
この話題は速報として取り上げられているはずだ――多分<<mスト>>辺りが
今頃には特別編成で生放送してるだろう――
一時休憩します
ダメだまとまらない、出直してきます
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