花陽・凛「むかしのおはなし」 (55)



りんぱな微シリアス?(最後はハッピーエンド)
微妙なキャラ崩壊あり
地の文あり
捏造設定、オリジナル設定超多め


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420824520




私…小泉花陽は、昔っから地味な感じだった。

目が悪くてずっとメガネをしていたし、声も小さい。

幼稚園、小学校と過ごしたが、仲良くなれる友達もほとんど出来ずじまいだった。

誰かと一時的に仲良くなっても、話題が尽きてすぐに他の人のところにいってしまうのだ。


私ははっきり言って学校が嫌だった。今思うと義務教育だから仕方がなかったのだが…

一回だけ小学校をサボったことがあったが、学校からの連絡を受けた母親が心配して捜索願を出して警察まで巻き込み、

学校側にも母親にもすごい迷惑をかけたので流石にもうサボるのはやめた。




幸いなことに、こんなに地味な私でも幼稚園、小学校では「いじめ」は受けなかった。

ちょっかいを出されたこともあったが、私の反応が面白くなくて続かなかったんだろう。


だけど、中学校に進んだ頃。1年生の5月頃だっただろうか…突然それは始まった。

中学生といえばそういう年頃だ。周りはもうグループができていて、

私といえば、雰囲気に馴染めずに当然のように一人だった。

そんな私は格好の標的になったのだろう。

登校して教室に入ると、私の椅子がどこにもなかったのだ。

私は一人でおどおどするだけで、誰かに椅子の場所を聞くにも聞けなかった。

先生が来て、「小泉、どうした?早く座れ」と言われて

「椅子がなくなっちゃいました…」

と細々と返答すると、クラスのみんなが面白そうに笑う。

だけど、その目は面白そうというよりは…バカにするような感じで。

私は、あ…ついに私もいじめにあうんだ…と思った。そこには半分諦めてた自分がいた。

いずれこうなるのは薄々感じていたから。原因も自分が地味なせいだとわかっていたから。




最初はなんとか頑張ろうと思っていじめに耐えた。

椅子に画鋲を置かれたりとか、ロッカーが壊されるとか、上履きがなくなっちゃうとか…そういう王道なものから、

机にペンで落書きされたり、すれ違い様に罵倒を吐かれたり肩をわざとぶつけられたり、遠くから物を投げられたり…

私はみんなのストレスの発散の道具になってたみたいだった。正直耐えられなかった。


そんな私にも一つだけ好きなものがあった。アイドルだ。

歌って踊れる、みんなを笑顔にするアイドル。地味な私とまるで正反対の存在だ。

いくら学校でひどい仕打ちを受けても、家に帰って好きなアイドルのPVを見ると自然と笑顔になれた。

いつかこんなアイドルに私も…という夢も密かに抱いていた。

だから、入学してから書いた自己紹介カードの将来の夢のところに「アイドル」って書いた。





ある日、その自己紹介カードの将来の夢について罵倒されたことがあった。

私に対する悪口と、そのアイドルに対する悪口が黒板に大きく書いてあったのだ。

今まで黙っていじめを受け続けた流石の私も、これには怒らざるを得なかった。

これを書いた人を探し出し、3回くらい殴った。

相手が男の子だったから遠慮なく殴った。殴ったといっても平手だけど。


無理だとわかっていたけど…夢なんだからいいじゃないか。誰だって夢はある。

どんな夢だって、誰が抱いたっていいじゃないか。せめて夢だけでも見させてよ。


みたいな感じのことを叫んで逃げた。

もちろんそのあと問題になって、校長先生に呼び出され、校長先生と私の親、そして相手側の親子での面談とかもした。

その結果、私が悪いってことになった。抗議したけど私の力なんてそんなもんだ。

私は自分の無力さを痛感した。




その次の日からいじめはさらにエスカレートした。

今までは目立たずに受けていたいたずらも露骨になった。

先生も気付いてて問題にしなかったんだろう。ひどいもんだ。

唯一の救いだったアイドルのPVも見なくなった。

私がこんなに辛いのに、かたやアイドルはずっと笑顔。

みんなから声援を受けて楽しそうにしている。いい歌も私にはもはや逆効果だった。


そんなんだから家に帰ると部屋にこもる生活が続いた。

ーーもう死んでやろうかと思った。

「誰か…助けて……!」

これは無意識に出た私の心からの叫びだったのかな…。




まさか、本当に助けてくれる人が現れるなんてね…。




☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆


凛は今まで風邪を引いたことがない。子供は風の子っていうじゃん?

小さい頃からいつも元気でボーイッシュな感じだったし、ずっと外で遊んでた。

明るい性格のおかげで一緒に遊ぶ友達には困らなかったし、毎日すごい楽しかった。

ただ、元気すぎるせいか空回りしがちで、友達を怪我させたり泣かせたりすることもよくあった。

…凛はいわゆる問題児だった。




でもそれは幼稚園の頃だけ。小学校に入ってからは割と落ち着いた。

小学校でも友達はたくさんできた。凛の周りには自然と友達が寄ってくるんだ。なんでかな?

ただ、ほとんど困らなかった学校生活でも、少しだけコンプレックスなことがあった。

それは、短い髪の毛と、スカートを履いたことがない…ということ。

一つ目はまぁそうでもない。凛は活発的だったから、長い髪の毛は邪魔だと思っていつも短くしていた。

問題は二つ目。これは女の子として致命的なんじゃないだろうか。

それを気にしてか、小学校4年の頃にスカートを履いて登校したことがあった。

一緒に登校した女友達はみんなかわいいーだとか似合ってるよーだとか褒めてくれた。





凛は嬉しかった。男の子っぽいところを気にしていただけに、

意外と凛も女の子らしいところあるじゃん!と自画自賛したりもした。

だけどそう上手くは行かなくて。

後ろからやって来た同じクラスの男の子に、

「うわぁー星空がスカート履いてるー!似合わねー!」

だとか、

「星空にはスカートじゃなくてふんどしが似合うんじゃねーのー?」

とかいろいろ言われた。上がっていたテンションが一気に底についたよ。

友達はその男の子たちを責めたが、そんなのお構いなしに凛は走って家に逃げ帰った。

女友達もきっと内心では似合わないとか思ってたんだろうと考えたら悲しくなった。

それで学校を休んだ。初めて学校を休んだ理由がこんなのって…恥ずかしいね。




そんなこんなでコンプレックスを抱えたまま小学校を卒業して、中学生になった。

中学生になってからは、オリエンテーションでなんとなく気が合った人たちとつるんでた。

周りの人たちはなんかおませさんで、あの男子がかっこいいだとかいろいろ言っていたが、

凛には恋愛だとかいうのはよくわからかったのでただその輪の中でボーッとしていた。




ある日、凛たちのグループのリーダーみたいな子が同じクラスの小泉さんを指差して

「アイツすっげー地味だよねー…ちょっとからかってみない?」

とか言い出した。凛はこのとき初めて小泉さん…今で言うかよちんの存在を知った。

だって、自己紹介とか教室の後ろにカード掲示するだけだったし。この学校そういうの適当すぎなんじゃないかな?


私はいじめには反対だったけど、下手に口出すとこっちが潰されかねないので黙って見てることにした。

そのグループのリーダー…緒方さんっていうんだけどね…

次の日に早く登校して、小泉さんの椅子を窓から中庭に投げ捨てたって聞いたときにはびっくりした。

どこが「ちょっとからかってみない?」なんだろうか。いきなりハードすぎるでしょ…

先生が来て、一人だけ立っている小泉さんをみんながあざ笑っているのを見て、凛は複雑な気持ちだった。




これは「いじめ」で、やっちゃいけないことだってお母さんに言われてたことだから。

これを平気でやってのける緒方さんやその取り巻きが、正直嫌だった。

だけどまぁ凛も一人は嫌なので渋々一緒にいたが、小泉さんの話題になると凛は決まって話に乗らなかった。

凛はいじめに全く参加しなかったし、陰口も言わなかった。




それは自分でも偉いと思うけど、いじめを見て見ない振りをしていた凛も、れっきとした加害者だった。






それを痛感したのは小泉さんが男子生徒を殴っていじめがさらにエスカレートした頃…

寝不足でボーッとしてた凛と、小泉さんがぶつかって、小泉さんがバランスを崩して転んでしまったことがあった。

凛は小泉さんだと気付かずに、いつも通りに

「あっごめんね、大丈夫?」

と手を差し伸べたのだけど、小泉さんは胸に抱えてたバッグで凛を押しのけて走って行ってしまった。




凛は思った。

あの子にとってはきっと、みんなが敵なんだろう、と。

あの子に味方はいないんだろう、と。

特に理由はない。ただ地味だ…そういうだけで彼女はいじめられているのだ。

よくある乙女心だ。捨てられて弱っている動物を心配するかのような気持ち…あれに似ていたかも。多少上から目線な気もするけど…

凛は…彼女を、小泉さんを救ってあげたい………と思った。


それに、近くで見てわかったことがある。小泉さんは、すごいかわいい。

その辺の女の子よりも格段に違う。彼女の地味さがその可愛さを殺しているんだろうか。

そうやっていろいろ考えるうちに、凛の中で小泉さんに近づきたいという気持ちがだんだんと大きくなった。







そして1日悩んで凛は覚悟を決めた。小泉さんと友達になる、と。








次の日、学校でいつものように緒方さんたちといて、小泉さんの話題になった時を見計らって私は席を立ち、小泉さんのところに向かった。

「お、凛のやつ、ついに何かするのかぁ?」

と緒方さんがヒソヒソ声で仲間につぶやく。変なこと言わないで欲しいね。

周りの視線が集まる。ああもう、変に緊張するじゃん!

凛は小泉さんの前に立った。小泉さんはずっと下を向いていた。

よく見ると小刻みに震えていた。…ここで凛はもう一度心に彼女を救うと誓った。


そして凛は、一言だけ…こう彼女に伝えて教室を後にした。

「小泉さん…だっけ?ごめん…今までのこと全部」

小泉さんはハッとして顔を上げた。予想外の展開にきっと驚いたのだろう。

凛はそれを見てから、ちゃんと頭も下げた。何もしてなくても私は加害者。…彼女の敵なのだから。




教室を後にして、とりあえずトイレに行った。普通にトイレしたかったの。

そしたら後ろから

「おい凛、どういうつもりだよお前」

って呼び止められた。緒方さんとその取り巻きたちだった。

いずれこうなるとは思っていたけど、まさかこんなにすぐに来るとはね…

ただ2度も覚悟を決めたんだ。ここで引き下がるわけにわいかないじゃん?

「今まで思ってたけど、いじめとかホントくだらないよ。子どものやることでしょ」

「はぁ?あたしが子どもだって言いたいわけ?」

「うん。ハッキリ言って、緒方さんみたいな人と一緒にされるの嫌なんだよね」

「あー、もう怒ったわ。あんたら、やっちまえよ」

まぁ女の子同士のケンカなんてたかが知れたもので、昔から走り回ってた凛に緒方さんたちが勝てるはずもなく…

「くっそ…お前そんなに強かったのかよ…あぁわかったよ、じゃあな」

って言って退散してった。みじめなもんだ。へへ。

まぁ5:1くらいでのケンカだったからそりゃこっちも無傷というわけにはいかず、

凛も結構ボロボロになったんだけど、これで小泉さんを救えるのかなぁと思うと自然と痛みも感じなかった。




保健室に寄ってから教室に戻ると、まぁ早速私も標的になったらしく…机と椅子がひっくり返されてた。

しかも場所まで変わってて、それがまぁ小泉さんのとなりだった。ある意味ありがたいけど。

凛は黙って小泉さんの隣に座る。小泉さんはこちらの様子を気にしながらも、やはり下を向いて黙ったまま。

きっと小泉さんはまだ、凛のことを信じていないだろうな、と思った。

そりゃそうだよ。だっていきなり謝られても困るでしょ?何か仲間と画策してるんじゃないかって思うでしょ?

まぁボロボロになって帰ってきた凛を見て、そんなことはないだろうと思ってもらいたい…けど。




その日は特に何もなく終わった。凛と小泉さんの関係も進展なし。

ただ放課後に緒方さんにもう一度呼び止められた。まだやる気なのかな?

「どうしたの?まだやる?流石にあれより人数増やされると凛にも勝ち目ないけど」

「いや、お前に言いたいことがあってさ…」

「え、な……なに?」

「さっき決めたんだけど…あたしらはもう小泉に手を出すのはやめることにした」

「へぇ…どういう風の吹き回し?まぁ良いに越したことはないからいいや」

「でも、他の奴らが手だしするのはあたしら関係ないから」


緒方さんがトップバッターだってのに無責任な話だ。ぶっちゃけイラっとしたけど…

ここで事を荒げても仕方ないし、凛はさらっと流して会話を続けた。




「大丈夫。小泉さんは凛が守るから」

「すごい自信じゃん。んー、あとさ、あんたとも学校では話さないことにしたから」

「へ、学校では?どういうこと?」

「あたしらはまぁ1年の女子のなかでトップだけどさ、いじめられっ子とつるんでるの見られると威厳下がるっつーか。まぁそういうこと」

「頂点は大変だにゃ。まぁ頑張ってよ、よくわかんないけど応援はするよ」


語尾に「にゃ」って久しぶりに使った気がする。中学校に入ってから使うのやめてたんだっけ…。


「なにその語尾、あはは…。ていうかさ、なんであんなのがいいわけ?あんたも変なやつだな」

「うーん、何だろ。よくわかんないや。自分でも変だって思うけど…間違った選択はしてない、かな」

「そっか。あんたらしいや」

「褒めてるの?ありがたく受け取っておくよ」

「言っとくけど、あたしらは凛のことが嫌いになったわけじゃないから。今まで通りLINEもするしその辺は今まで通りな。ただ学校では関わるな」

「めんどくさいけど…まぁオッケー。これからもよろしく」

「あと一応忠告だけど、あんたも標的になるっしょ、気をつけな」

「もう既にいろいろされてるよ、はは」

「うお、マジか…。そりゃ大変だな」

「今は辛くても、いずれ緒方さんたちを見返してみせるから」


そう伝えたのを最後に、凛はしっかりとした足取りで帰路についた。




☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆


ある日突然、星空凛っていう子が私にいきなり謝ってきた。

正直、なにが起こったのか分からなくてハッとして顔を上げた。

そしたら星空さんは私の顔を見据えた後、頭まで下げて謝ったのだ。

頭の中が真っ白になって、反応できなかった。だからやっぱり下を向いて黙り込んだら、星空さんは黙って教室を出て行ってしまった。

教室も静まり返って嫌な雰囲気になった後、いつも星空さんといるグループの人たちが後を追って行った。

私はきっと、なにか企んでるんじゃないかと彼女を疑った。だけど、それは杞憂に終わったみたい。

彼女は、ボロボロになって教室に帰ってきたのだ。この時私は、はじめて彼女が本気だと信じることにした。




星空さん達がでていった後、私をいじめる他の人たちがおもむろに星空さんの机と椅子を私の席の隣に移動させた。

私は、すごい申し訳ない気持ちになった。私のせいで犠牲者が増えるなんて嫌だ。

だけど心の中では、彼女に助けを求めている自分がいた。彼女は曇った私の心に差し込んだ、ただ一つの光になった。

彼女が戻って来ても私は話しかけることもできず、かといって向こうも何も話しかけて来ずの状態が続き、1日が終わった。

彼女は何がしたいんだろう。私と話したこともないのに。

考えても分からなかったからその日はとりあえず早く寝た。





次の日から私に対するいじめは半減したが、その半分は予想通り、星空さんに向けられたようだった。

いきなりいじめられるのも酷な話なので、朝下駄箱で会った際にとりあえず迷惑をかけないようにアドバイスだけはした。もっとも私のせいなんだけど。

「物は全部持って行った方がいい…です。すぐなくなるので…」

「うん、ありがと!」

これが彼女との最初の会話になった。今もしっかり覚えてるよ。


その日も特にそれ以外の会話はなかったけど、下校するときに彼女がずっとついてくるので、思い切って話してみた。


「星空さんは、さ…私には何もして来なかったですよね…。陰口とか言ってなかったのも知ってます…。だ、だから…その」

「口聞いてくれてありがと。ねえ、同じクラスなんだから敬語やめない?」

「うぇ、あ、…敬語は…クセみたなものなので…」

「そんなこと言わずにさー、ね?」

「そ、その…じゃあ、慣れてきたら…敬語はやめますから…」

「やったぁ、待ってるからね」


なんで星空さんがお礼言うんだろう…。私が言うはずだったのに、言えなかったよ…。





同じことを続けるようだけど、私はクラスの全員が敵だと思ってた。

いつも一緒にいた人たちと何か企んでるんだろうかと思ったけど、あれから星空さんは彼女らと関わっていないようだった。

星空さんは私のせいで友達を失い、私のいじめを半分肩代わりするようになっても表情一つ変えずに楽しそうにしていた。

この人は辛くないのだろうか?この人をここまで動かす原動力は何なんだろうか?

そんなことばっかり考えてるからあまり会話は弾まなかった。

あと、星空さんのいたグループからのいじめも無くなった。きっと星空さんが体を張って頑張ってくれたおかげだ。

これも含めて、いつか絶対伝えなきゃ…「ありがとう」って。




☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆
(ここから先はずっと凛視点)


緒方さんとやりとりを交わした次の日、凛は小泉さんからアドバイスを受けた。

なんでも所持物はずっと持ち歩いていた方がいいらしい。すぐなくなるからだそうな。

さすがはプロ!って褒めようとしたけど、ちょっと考えてからこれは悪口だと気づいたのでお礼だけ言っておいた。




小泉さんを守ると決めただけに、小泉さんに手出しはさせないと意気込んでいた。

小泉さんはお昼の時間は中庭で一人でご飯を食べているのを知っていたので、凛も遠目から見守りつつ一人でご飯を食べていた。

そしたら同じクラスの女の子達が、空き缶を小泉さんめがけて投げようとしているのを見つけた。

凛は空き缶を投げようとする彼女の腕を掴んで制止させたが、

こっちに気づくなり、もう片方の手で凛の腕を叩いて何か愚痴りながら去って行った。

小泉さんの平和は守られたのだ!とか考えて自信をつけた。我ながら寒い話だけど。




帰り道も出来るだけ彼女のそばにいることにした。

彼女の後ろを黙って歩いていると、不意に彼女が凛の横に並んでこう言った。


「星空さんは、さ…私には何もして来なかったですよね…。陰口とか言ってなかったのも知ってます…。だ、だから…その」


すごい嬉しかった。彼女から口を聞いてくれたんだから!これは大事な一歩。

すかさず私は答えた。


「口聞いてくれてありがと。ねえ、同じクラスなんだから敬語やめない?」

「うぇ、あ、…敬語は…クセみたなものなので…」

「そんなこと言わずにさー、ね?」

「そ、その…じゃあ、慣れてきたら…敬語はやめますから…」

「やったぁ、待ってるからね」


これで今日の会話は終わり。少しの会話だけど、これは大きな収穫。

小泉さんは、少しづつではあるけど凛に心を開いてくれている…そう思うだけで明日も頑張ろう!っていう気持ちがわいてきた。

もうこの時点でいじめとか全く気にならなかった。凛は強い子だからね。




ーーーーー
ーーー


小泉さんともそこそこ打ち解けてきたある日のこと。

学校の行事で、一泊二日で農家を手伝う活動みたいなのがあって、それの班決めをしていたときに、緒方さんズの会話が耳に入ってきた。


「あいつらとペアになるのマジで癪なんだけど」

「仕方なくね、5人で1組だし我慢するしかないじゃん」

「こっち星空入れてんだからさ、小泉入ってても文句言うなよー」


まぁずいぶんと好き勝手言ってくれるじゃん。




凛は彼女らのお望み通り、行事には参加しないつもりだった。そっちのほうがお互い気が楽。

ただ小泉さんの方は、なんだか戸惑っている感じだったので、思い切って誘ってみた。


「ねえ、農業体験旅行と同じ日程でさ、私たちだけでどっか行かない?泊りでさ」

「えぇ、そ、それはさすがに…」

「いいじゃん、サボって退学になるわけじゃないんだし。凛と2人の方が気が楽でしょ?」

「そ、そうですけど…」

「はいこれ。凛のメールアドレスと電話番号!まだ凛もノープランだし、これで連絡取り合って決めるよ」

「え、あ…うん…」


小泉さんは自己主張がまるでないので、凛がリードするしかなかった。

ここは無理やりでも押し切って、小泉さんと仲良くならなくては。絶好のチャンスだし無駄にする訳にはいかないよ!




とりあえずクラスの人たちは東北のほうに行くっぽかったので、凛たちは真逆に行くことにした。

米農家のお手伝いっだってわかったときに、小泉さんが一瞬だけ悔しそうな顔をした。


「ん?なんか悔しそうだね」

「ええ…実は私、そ、その…お米が好きで…ごはんとか…」

「へぇ!小泉さんはご飯が好きなんだ。いいこと知ったー」

「や、やめてください…恥ずかしいです」

「いいじゃん、小泉さんは日本人の鑑だよ」

「え、えへへ…」


このやりとりで、小泉さんはご飯が大好きだということを知った。また一つ大きな収穫だ。




凛たちは別に農家のお手伝いをする必要もなかったので、普通に観光目的での旅行ということになった。

行き先は凛が勝手に決めちゃった。大阪!行きたかったんだもん、いいでしょ?

お金は今までのお小遣いを貯めていたので十分あった。趣味とかなくてお金の使い道がなかったのがここにきて役に立った。

宿泊先も、大阪の親戚の家に泊まる許可をもらったので安心だ。




そして旅行当日。

待ち合わせ場所に凛が着くと、すでに小泉さんがいた。

学校に行くという建前のもとに集まった2人だから、もちろん制服。だけどそんなのは気にしない!

東京駅から新幹線に乗った。経費は安くしたいから、ぷらっとこだまというお得な列車でのんびり行くことにした。


「ねえ小泉さん」

「はい…」

「まだ敬語…?そろそろ普通に話したいな。それに、小泉さんのこと…もっと知りたいよ」




小泉さんはしばらく黙ったあと、なにか覚悟を決めたようだった。そして彼女の口が開く。


「何もないです…私なんて。昔から地味で」

「幼稚園でも、小学校でも…周りに馴染めないでずっと一人でしたし…」


ここで少しの間があって


「……でも…もう今は一人じゃないって、自信を持って言えます」

「…うん、もう大丈夫。私、信じるよ…星空さん…ううん、凛ちゃんのこと」


凛はびっくりした。まさかいきなり名前で呼ばれるとは。まさかの急展開に、頭の整理が追いつかないよ?




「名前で呼んでくれたね…いきなりでびっくりだな、へへ」

「ご、ごめんね…馴れ馴れしかったかな…」

「ううん、全然そんなことないよ。…すっごく嬉しい」

「そっか…よかった…」

「凛もちゃんと小泉さんのこと呼んであげなくちゃね。花陽ちゃん…は個人的に言いにくいからー、かよちん!これでどうかな?」

「かよ、ちん?」

「花陽を普通に音読みしただけだよ。こっちの方が呼びやすいから、これでいい?」

「うん…うん、うん!嬉しい、嬉しいよ!」


それは小泉さん…かよちんが、初めて凛に見せた笑顔だった。ついにここまできたんだ。


「やっと笑ってくれたね、かよちん…こんなに可愛い笑顔、しまっておくなんてもったいないよ」


嬉しすぎて、心の声がそのまま音になっちゃった。かよちんは顔を真っ赤にしてうつむいちゃったけど、凛の本心だもん。これでいいんだ。




しばらくしてかよちんは顔を上げると、凛にこう問いかけた。


「凛ちゃんはさ、なんで私なんかに近づいたのかなって」

「なんでいじめられてた私に、よく知らない私にいきなり謝ってきたのかなって。ずっと気になってたの」


「うーん、何でだろ。凛もわかんないや」

「初めの頃さ、かよちんと廊下でぶつかったときのこと…覚えてる?」


「うん、覚えてる。初めて誰かに手を差し伸べてもらったから…忘れるわけないよ」

「でもその時はまだ怖くて、逃げちゃった。ごめんね、せっかくの好意を無駄にするようなことして…」


「仕方ないよ。もし凛がかよちんの立場でもそうしてたと思うもん」

「だけどね、あの時なんだよ。凛がかよちんを助けたい、って思い始めたの」

「あれが全てのきっかけ」




「そうなんだ…じゃああの時ぶつかってなかったら?」


「そしたら凛はずっとあの子たちと一緒にいて、かよちんがいじめられるのを見て見ぬ振りをしてたんじゃないかな」


「そっか…。じゃああの時ぶつかっててよかった」


「凛もそう思ってるよ」


「ふふ、凛ちゃんってば変な人…。ホントに、へんな…」


そこで言葉に詰まるかよちん。ふと顔を横に向けると、かよちんの二つの目から溢れんばかりの涙が流れていた。

だから凛は無言で抱きしめた。新幹線の車内だからとか関係ないよ、ただここで凛が抱きしめてあげなきゃいけない気がしたから。

かよちんが落ち着くまで、凛はかよちんを抱きしめ続けた。




それから先は、かよちんは凛にありのままを見せてくれるようになった。

それはいつもの地味なかよちんからは想像もできなかったよ。

まず、かよちんはアイドルの話になると人が変わる。これはホントに驚いた。

しかもめっちゃ詳しいの。新幹線でのマシンガントークにはついていけなかったよ…。

あとはお米が大好き。これは前に知ったんだけど改めて痛感した。

とにかくたくさん食べる。こんなに食べてるのにこんなにスタイルいいって意味わかんない!

他にもいろいろ。もう凛たちがいじめを受けてるなんて誰も思わないほど2人でいる時間は楽しい物になった。




大阪に着いてからも全てが最高の時間だった。

大阪城とか通天閣とかグリコのアレとかいろいろ見て回った。

一泊二日だと時が経つのがすごい短く感じた。生まれて初めての体験だった。




宿泊先の親戚の家で寝るとき、凛は使うのをやめていた「にゃ」をもう一度使った。


「ねえかよちん、今日はホントに楽しかったにゃ」

「凛ちゃん、今…にゃ、って」

「えへへ、これがホントの凛なの。今まではかよちんを守らなきゃーって思ってたから強気に振舞ってたけど」

「そうだったんだ…ふふ、凛ちゃんかわいい!」

「も、もう…照れるにゃー!」





「ねえ凛ちゃん」

「なあに、かよちん」



「私ね、凛ちゃんに言わなくちゃいけないことがあるんだ」

「えーなになに、そんなに真剣な顔されたらなんか怖いよ」





「あのね、凛ちゃん」







「私を助けてくれて」


「ありがとう」










ーーーーーーー
ーーーーー
ーー


大阪から帰って、また普通に学校が始まったわけだけど、凛もかよちんも、もう怖いものなんてないぞーって感じになってた。

そんなテンションで2人ならんで教室に入ったもんだから、教室は一気にざわめき出して、あ、しまった…と思った。

凛も普通ににゃーにゃー言ってたし、かよちんも今までの無言で地味なかよちんとは全然違う。そりゃみんな気になるでしょ。


だからもう吹っ切れた。凛とかよちんはお互いにありのままで行こうってことになって、教室だろうが外だろうが御構い無しに素で会話したりした。

そのおかげもあってか、凛たちに対するいじめは自然となくなっていった。凛たちの勝利だ。やったんだ!




いじめが完全に消えてからしばらく経ったある日、体育の授業で大縄跳びがあった。

もちろんグループに別れるわけだが、ここでまさかの人物から声がかかった。緒方さんだ。


「…ね、ねえ、凛。あたしらと組んでよ」


かよちんはまだ凛以外の人と話すとなると少しおどおどさが残っていた。無理もない。

かよちんが戸惑っていると、緒方さんはかよちんの前に移動して、罰の悪そうに口を開いた。





「小泉…最初にあんたの椅子を隠したの…あれあたしなんだよ」

「許してくれとは言わない。あたしが全ての始まりだったんだからさ」

「凛と喧嘩してさ、あんたに手出しするのやめたけど、正直ずっと申し訳ない気持ちだったんだよ」

「自分からやっておいてこんなの虫がよすぎる…まったくひどい話だよ」

「だけど、凛と一緒にいるあんたを見てびっくりしたよ。一体あたしらが農村やってるあいだに何があったんだってね」

「正直さ、あんたのことずっと地味で根暗だと思ってた。だけど今日のあんたを見てイメージが180度変わったよ」

「そんなあんたとならさ…あたしも仲良くできそうな気がするんだ…」

「だからさ…小泉。もう一度言うけど、許してくれとは言わないよ。でも、あたしらと一緒にさ、跳んでみないか?」


緒方さんは、泣いていた。ずっと思いつめていたのだろうか。





かよちんはずっと黙っていたが、しばらくして


「いいよ、許してあげる」


とだけ言った後、緒方さんの手を握って笑ったのだった。

かよちんは強い。凛よりも格段に強いだろう。

凛がもしかよちんの立場で、あれだけ苦しめたいじめの元凶を許せるかと聞かれたら、答えはNOだ。本当にすごいと心から思った。

緒方さんはそのまま泣き崩れてしまったので、みんなで慰めた。緒方さんも可愛いところあるぅ。




やっとクラスに平和が訪れた中で始まった大縄跳びだが、問題が発生した。

かよちんが縄に入れないのだ。

タイミングを伺っていても、いつもちょっとずれてしまう。

だから凛は、縄に入るタイミングで掛け声を出し始めた。


そしたらどうか。なんと、クラスのみんながかよちんに声援を送り始めた!

頑張れーだとか、今だよーだとか。

思わぬ展開に目を白黒させていたかよちんだけど、意を決して縄に飛び込んだ。





そのあとはコツを掴んだのか、何度も跳んだ。

みんなが自然と笑顔だった。

凛も、かよちんも…無意識のうちに笑ってた。



「よかったね、かよちん!」




「うん!」




「凛ちゃん!」




「なぁに?」




「大好きだよっ!!!」











えぴろーぐ





あれから凛たちは、中学校を卒業するまで平和に過ごした。

最初は荒れていた緒方さんたちも中2の終わりくらいからは昔の面影を残さない程までに真面目ちゃんになった。

そして中3、高校受験。凛とかよちんは、あえて廃校が噂されている音ノ木坂学院を受けて、めでたく合格した。

なんで音ノ木坂学院かというと、みんなが行かなさそうだったからだ。

みんな大体UTXを受験していたし、UTXに行ってもメンバーがほぼ変わらないんじゃ面白くないじゃん?

ただ単に新しい出会いが欲しかったのかもしれない。だけど一番に思ったのは、

知らない人との出会いを通じて、かよちんが自分に自信を持てるようになって欲しい、ということかな。

だから凛は音ノ木坂学院でのスクールライフがすごく楽しみ!

音ノ木で、凛たちにたくさんの出会いがありますよーにっ!








おわり




以上です
語彙力のない駄文だったと思うけど最後まで読んでくれた方には感謝

一応元ネタあります。ラブライブ!ではないけど同人誌です

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