街
沙織「えへへ、いっぱい買っちゃったぁ」
みほ「沙織さん、お金大丈夫なの?」
沙織「そんなの気にしちゃダメだって、みぽりんっ。こんな大きな街に来ることなんて滅多にないんだからさぁ」
優花里「確かに試合の抽選会でもなければ足を伸ばそうとは中々思いませんよね」
沙織「そーそー。こんなときこと奮発しなきゃ」
みほ「そうなのかな」
麻子「それより時間も時間だ。そろそろ夕食にしないか」
沙織「お、いいね。こうなったらとことん豪勢にいっちゃおー!!」
優花里「武部殿、今日は大盤振る舞いですね!!」
麻子「一回戦の相手はサンダースなのに浮かれてどうする」
みほ「ご、ごめんなさい……クジ運が悪くて……」
華「あのぉ、食事でしたら是非、行きたい場所があるのですが」
沙織「どこ? 焼肉?」
華「いえ、回転するお寿司屋さんに行ってみたくて……」
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優花里「回転寿司ですか」
麻子「五十鈴さん、回転寿司の店に行ったことがないのか」
華「恥ずかしながら。大洗にもあることは知っているのですが、1人での入店には躊躇いがありまして」
沙織「前から行きたかったんだ。それなら私に言ってくれてもいいのに」
華「沙織さんと一緒のときは、沙織さんの手料理のほうがいいですから」
沙織「あ、ありがとう」
華「ですが、今日は折角の遠出ですし、初めてのお店で、初めての食文化を体験してみたいのです」
みほ「うん。私も回転寿司のお店には行ったことがないから、少し興味あるな」
華「みほさん! ありがとうございます!」
みほ「楽しみー」
華「ですよね!」
沙織「……格差社会ってやつ?」
優花里「まぁまぁ、西住殿と五十鈴殿は私たちとは育ってきた環境が違い過ぎますから」
麻子「回らない寿司しか食べたことがないんだろう」
沙織「私、回るお寿司のほうしか知らないのに……」
みほ「あ、でも、回転寿司のお店ってどこにあるんだろう?」
優花里「今から調べましょうか」
華「あのぉ」
沙織「なになに?」
華「もう、調べてあります」
みほ「わぁ、華さん、ありがとう」
華「いえ、これぐらいは」
麻子「最初から行く気満々だったのか」
華「向こうに店舗があるはずです」
みほ「わーい」
沙織「……」
優花里「武部殿、どうしたのですか?」
沙織「あのさ、私は回らないお寿司を食べたことがないんだけど、やっぱり回転寿司の味とは違うよね?」
優花里「生憎と私もカウンター越しで職人が握っているところを生で見たことがありません」
麻子「私は一度だけおばぁに連れて行ってもらったことがある」
沙織「どうだったの!?」
優花里「どうでしたか!?」
麻子「まぁ、やっぱりごはんの柔らかさやネタの質は違うんじゃないか?」
沙織「だよねぇ……」
優花里「一度でいいから、そんなコメントがしてみたいです!!」
麻子「といっても、店の雰囲気に呑まれて美味しいと感じただけのような気もする」
沙織「なんで味わおうとしないのよ!!」
優花里「そうです!! それはお寿司に対する冒涜ですぅ!!」
麻子「あ、うん。すまん」
沙織「このままみぽりんと華を回転寿司に連れていったら、大変なことになるんじゃない?」
優花里「口の中に入れた瞬間、西住殿と五十鈴殿のガッカリした顔が目に浮かぶようです!!」
沙織「ここは別の場所を提案したほうがいいかも」
優花里「できますか? 西住殿はともかく、五十鈴殿は最初から行こうとしていたようですが」
沙織「そこをなんとかするんだよ!! 親友のために!!」
麻子「行かせてあげればいいのに」
華「こちらです」
みほ「こっちなんだ」
沙織「みーぽりんっ」
みほ「どうしたの?」
沙織「……みほはお寿司、食べたこと、あるんだよね?」
みほ「うん。家族の誕生日会なんかでは大体お寿司だったよ」
沙織「そ、そうなんだ。お店にも行ったことあるんでしょ?」
みほ「回転寿司はないけど」
沙織「私は思うんだ。そういうお店と回転寿司では味に雲泥の差があるって」
みほ「でも、お寿司はお寿司だし」
沙織「全然、違うの!!」
みほ「そうなの?」
沙織「多分」
みほ「食べず嫌いはよくないと思うな。それに回転寿司にしかないお寿司とかあるんだよね。私はそれを食べてみたいんだけど」
沙織「回転寿司にしかないお寿司って例えばなに?」
みほ「それがわからないから、興味があって」
沙織「おー。なるほどね」
みほ「すっごく楽しみっ」
沙織「……よし! 行こう!」
優花里「武部殿!! 約束が違いますぅ!!」
沙織「だって、あんな満面の笑みを見せられたら無理じゃない!!」
優花里「そ、それはそうですけど……」
沙織「あとは華を説得するしかないか……。けど、華を説得できる気がしない……」
優花里「わかりました!! では、私が五十鈴殿を説得してみせます!!」
沙織「おぉ! さっすがゆかりん!! 頼りになるぅ!」
優花里「あのー、五十鈴殿」
華「ありました!! あそこです!!」
みほ「やったぁ」
華「急ぎましょう、優花里さん!」
優花里「はい!!」
回転寿司店
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
華「5人なのですが、並んで座れますか?」
「はい。空いているお席へどうぞ」
華「ありがとうございます」
みほ「華さん、こっちのテーブル席にしない?」
華「はぁい。よろこんで」
麻子「おー」
沙織「ゆかりん……」
優花里「すみません……五十鈴殿の勢いを止めることができませんでした……」
沙織「まぁ、いいか。これもみぽりんと華の社会勉強だと考えれば有意義だと思うし」
優花里「そうですね。ここまで来てしまった以上、なるようにしかなりません」
沙織「行こう、ゆかりん」
優花里「はい!!」
みほ「えーと、どうしたらいいのかな」
麻子「お茶は端に置いてある」
みほ「へー、ティーパックみたいなのがあるんだぁ」
華「お湯はどちらに?」
麻子「そこ。黒いボタンを押せば出てくる」
みほ「ここ?」グッ
麻子「あ」
みほ「あっつ!?」
華「みほさん、大丈夫ですか!?」
優花里「ああ、すぐに冷やさないと!!」
みほ「ご、ごめんなさい……」
沙織「これは湯呑で押すんだよ、みぽりん」
みほ「そ、そうなんだ」
華「便利ですねぇ」
みほ「うん。人類の英知を感じるよね」
沙織「……」
華「本当にお寿司が回っていますねぇ」
みほ「これ取っていいの?」
優花里「はい。そのままお皿をとってもいいですし、店員に欲しいお寿司を注文しても大丈夫ですよ」
みほ「そうなんだ」
華「では、これとこれと」スッスッ
みほ「私はとりあえず、玉子から」
優花里「流石、西住殿。玉子とは通ですね。玉子でその店の味がわかるといいますし」
みほ「いや、ただ好きなだけなんだけど」
麻子「数多くある中で玉子が好きなのか」
沙織「みぽりんってこういうところでも控え目なんだね」
麻子「それはそうと、私はラーメンを頼みたい」
華「ラーメン!?」スッスッ
みほ「そんなのあるの!?」
優花里「はい。こちらにメニューがありますよ。ラーメンだけでなくうどんもあります。あとサイドメニューなんかもたくさんあるんですよ」
華「すごいです! わたくし、うどんとラーメンを注文します!」
みほ「わぁ、こんなにお寿司の種類があるんだぁ」
沙織「麻子ぉ、注文するなら納豆巻きと納豆軍艦も一緒に頼んで」
麻子「わかった」ピッ
『はい。ご注文を承ります』
みほ「わっ! これ、スピーカーなんだ」
華「これで注文を受け付けるのですか。ハイテクですねぇ」スッスッ
みほ「なんか、楽しいね」
華「はい。わたくしも楽しいです」スッスッ
麻子「ラーメンとうどんをふたつ、それから納豆巻きと納豆軍艦をひとつずつ」
『畏まりました』
華「さぁ、頂きましょうか」
みほ「そうだね。いただきます」
華「いただきます」
沙織「大丈夫かな。というか、華がもう10皿ぐらい取ってるんだけど……取り返しがつくのこれ……」
優花里「あぁ……西住殿……」
みほ「はむっ」
華「んっ……」
麻子「どうだ?」
みほ「うん、美味しいよ」
華「はい。美味しいです」
沙織「みぽりん……華……」
優花里「やはり駄目でしたか……!! そうですよね……回らないお寿司のほうが美味しいですよね……!!」
麻子「五十鈴さん、こんなに取って大丈夫か?」
華「勿論です。一度取ったものを戻すのはマナー違反なんですよね?」
沙織「そういうことも調べたんだ」
華「次は中トロをいただきます」
みほ「……」
優花里「西住殿、大丈夫ですか?」
みほ「あ、うん。次はどうしようかなって思って」
沙織「心を鬼にして止めておけば……こんなことにはならなかったのに……」
みほ「あれ? 戦車が流れてきた」
華「これはなんでしょう? 戦車の上に変わったお寿司が乗っていますけど」スッ
沙織「あ!? 華!! なんで取っちゃうの!?」
華「え? すみません。ソーセージが乗っていましたので」
沙織「そういうことじゃなくて……。というか、ソーセージが乗ってたら取るの……?」
優花里「武部殿、仕方ないですよ。五十鈴殿はこれがどういったものなのか分かっていないんですし」
沙織「あぁ、そっか。そっちの説明してなかったもんね」
みほ「これ、特別なお寿司なの?」
麻子「特別と言えば特別だな。あれを見てくれ」
みほ「あ、また戦車がきた。これは納豆巻きと納豆軍艦だ」
麻子「沙織が注文したやつだな」
沙織「戦車に乗ってくるお寿司は誰かが注文したやつなの。だから、勝手に取ったらダメ」
華「あぁ……では、これはどうしたら……」
優花里「取ってしまったものは仕方ないですね。注文したものが流れてこなければ改めて注文するでしょうし」
華「申し訳ありません……」
カチューシャ「ちょっと!! なんでカチューシャの注文したソーセージ寿司がないのよ!?」
ノンナ「誰かに取られてしまったのではありませんか?」
カチューシャ「どこの誰よ!! 楽しみにしてたのに!! しょくせいしてやる!!!」
ノンナ「改めて注文しましょう」
カチューシャ「むぅー……ノンナが注文してっ」
ノンナ「カチューシャ、いい加減一人で注文できるようになってください」
カチューシャ「だって、あのマイクに届かないでしょ」
ノンナ「別に口を近づける必要はありません」
カチューシャ「そうなの!? なんでそういうことを言わないのよ!!」
ノンナ「前から言ってます」
カチューシャ「それじゃあ……」ピッ
『ご注文を承ります』
カチューシャ「ソーセージのお寿司、ちょーだい!」
『畏まりました』
カチューシャ「できたわ!! ノンナ!! カチューシャが注文したわよ!!」キャッキャッ
華「ということはうどんとラーメンも戦車に乗って流れてくるのですか?」
みほ「そっかぁ。ちょっと見てようかな」
沙織「そんなに身を乗り出さなくても見えるでしょ」
麻子「秋山さん、エビを取ってくれ」
優花里「分かりました!」
みほ「戦車が来たよ。パンターF型だぁ」
華「あら、ですがこれは違うようですね」
みほ「これは……?」
沙織「カレー軍艦じゃない?」
みほ「カレー!? そんな物までお寿司に……!?」
優花里「カレー軍艦は基本的に流れていませんから、注文するしかないですよ」
華「どうしてなのですか?」
麻子「さふぇるとおいふぃくないふぁら」モグモグ
華「そういうことですか」
みほ「カレー……」
優花里「西住殿、注文しましょうか?」
みほ「うん。お願いできるかな?」
優花里「任せてください!!」ピッ
『ご注文をどうぞ』
優花里「カレー軍艦をお願いします!!」
『少々お待ちください』
華「うどんとラーメンがきましたぁ」
麻子「やっと来たか」
華「はい、麻子さん」
麻子「ありがとう」
沙織「次はどれにしようかなぁ」
みほ「あ、戦車だ。カレー軍艦が乗ってるけど、これは私の?」
優花里「これではないですね。番号札がこのテーブルのものとは違いますから」
みほ「それで見分けるんだ。良く考えられてるね」
優花里「それにしてもカレー軍艦はこのお店で人気なのでしょうか。ものすごく流れていますが」
華「ご家族で来られている人もたくさんいるようですから」
沙織「あー。そこの子どもが必死に注文してるわけだ。かわいい」
麻子「同じ物ばかり注文するのはどうなんだ」
優花里「いいと思います。好きな物だといくつ食べても飽きません。私も回転寿司だとエビサラダとかカニサラダをよく食べます」
沙織「お。私も小さいときはよく食べてたなぁ、それ」
優花里「いいですよね。あの独特の甘さ、そしてマヨネーズとの絡まり具合が絶妙でいいんですぅ」
みほ「へぇ、そんなお寿司があるんだ」
華「初耳ですね」
みほ「注文してみようか」
華「そうですね。お願いします」
みほ「うんっ」
沙織「格差を感じずにはいられないんだけど……」
優花里「仕方ありません!! お二人はそういう星の下に生まれたのですから!!」
麻子「はむっ」ズルズル
沙織「あれ? またカレー軍艦が流れてる。どれだけカレーが好きなんだろう……」
華「これがカニサラダですか」
みほ「どんな味なんだろう。優花里さんがよく食べていたっていうから、美味しいんだろうけど」
優花里「あ、あの、そこまで期待してもらうほどではないような……」
沙織「そうそう。ジャンクフードだと思ってくれたら、それでいいからね」
華「はむっ」
みほ「はむっ……んっ……」
優花里「ど、どうですかぁ?」
華「不思議な味ですねぇ」
みほ「食べたことのない味がする」
華「お寿司というより、おやつに向いています」
みほ「うん。そんな感じ」
優花里「ご期待に添えられず、すみません」
みほ「え? な、なにが?」
沙織「止めていれば……!! やっぱり止めるべきだった……!!」
麻子「ふー……ふー……。はむっ」ズルズル
華「あぁ!? み、みほさん!! 見てください!!」
みほ「え? なになに?」
華「このケーキとプリンが戦車に乗って流れていました!!」
みほ「そうなの!?」
沙織「ちょっと!! 華!!! 戦車に乗ってたなら、取っちゃダメだってば!!」
華「あぁ!! ごめんなさい!! 思わず興奮してしまってぇ……」
沙織「もー。店員さんに怒られちゃうよぉ」
優花里「まぁまぁ、お金を払えばいいだけですから」
沙織「そうかもしれないけど」
みほ「こんなデザートまであるんだ」
優花里「パフェなんかもありますよ」
みほ「パフェまで!?」
沙織「デザートはまだちょっと早いからあとにしない?」
麻子「私はアイスだ」
みほ「私はいつも決めるのに時間がかかっちゃうから今から考えておかないと……」
ダージリン「来ましたわね」
オレンジペコ「あら? ケーキがありませんわ。センチュリオンだけがやってきました」
ダージリン「……なんですって?」
オレンジペコ「ほら。どこにもありません」
ダージリン「ふふ……なるほど……」
オレンジペコ「ダージリン様?」
ダージリン「これはわたくしに対する挑戦ですわね」
オレンジペコ「誰かが誤って取ってしまっただけでは?」
ダージリン「向こうの席にケーキを横取りした賊がいるはずですわね」
オレンジペコ「ダ、ダージリン様!! ちょっと!! やめてください!!」
ダージリン「止めないで。これはわたくしの矜持の問題ですわ」
オレンジペコ「また注文しましょう。そのようなことはしないでください」
ダージリン「相手の顔だけでも見ておかなければ」
オレンジペコ「待ってください!!」
ダージリン「さて、わたくしのケーキはどこへ行ったのかしら。ふふふ」
カチューシャ「プリーン、プリーン」
ノンナ「カチューシャ。楽しみなのは分かりますが、コンベアのほうへ身を乗り出すのはやめてください。お行儀が悪いですよ」
カチューシャ「だって、待ち切れないでしょ」
ノンナ「そう言われても」
カチューシャ「あ!! 来たわ!! あれね!! あのKV‐2でしょ!?」
ノンナ「……ですが、何も乗っていませんね」
カチューシャ「え……」
ノンナ「また誰かに取られてしまったのでしょう」
カチューシャ「……」
ノンナ「もう一度、注文を――」
カチューシャ「カチューシャのプリン……が……ないの……?」ウルウル
ノンナ「ですから、もう一度注文を……」
カチューシャ「カチュ……シャの……ぷりん……どこ……」
ノンナ「カチューシャ。泣くほどのことではありません。すぐに注文しますから」
カチューシャ「ふぇ……」
「えぇぇぇん!!!」
優花里「な、なんでしょうか?」
麻子「目の前まで来た寿司を誰かに取られた子どもが泣きだしたんだろう」
沙織「あるある」
みほ「あるんだ」
華「もう一度、注文したらいいのではありませんか?」
優花里「そういう理屈は通じません。ゆっくりと流れてはいますが、常にお寿司の争奪戦が繰り広げられているのです」
みほ「回転寿司って大変なんだね」
華「本当ですね。普通のお寿司屋さんでは味わえないものばかりです」
みほ「うん。サラダのお寿司もそうだけど、ハンバーグなんて食べられないよね」
華「はい。カツ寿司なんて初めて食べました」
沙織「なんか、ごめんね」
華「え? 何故ですか?」
沙織「だってさぁ」
ダージリン「あら。奇遇ですわね、大洗のみなさん」
みほ「え!? ダージリンさん!?」
ダージリン「貴方たちもここで食事をしていたのですか」
沙織「ダージリンさんも回転寿司に来るんですね」
ダージリン「幼少の頃から親によく連れられてきましたわ」
優花里「ダージリン殿が庶民派とは意外です」
オレンジペコ「ダージリン様、席に戻りましょう」
華「オレンジペコさんもご一緒だったのですか」
オレンジペコ「あ、大洗のみなさん。どうも」
ダージリン「……あら、そのケーキは?」
華「これですか? 間違えてとってしまったものです」
ダージリン「……」
オレンジペコ「あ、あの……」
沙織「もしかして、このケーキ、ダージリンさんが注文したやつなの?」
華「それでしたらこれはお返しします」
ダージリン「まさか貴方達、わたくしがケーキを取り戻しにきたと思っているのですか? いやですわ。わたくしはそこまで心が貧しいわけではありませんことよ」
みほ「でも……」
ダージリン「お手洗いに行こうと思って通りがかっただけですわよ。勘違いなさらないように」
みほ「そうなんですか? お手洗いは逆方向のような……」
麻子「でも、このケーキはダージリンさんが注文したもので間違いないようだな」
ダージリン「それは否定しません。ですが、再度注文し直せばいいだけのお話ですから。そのケーキはお譲りしますわ」
華「申し訳ありません。わたくしがつい手に取ってしまって」
ダージリン「構いませんことよ。それでは、失礼しますわ」
オレンジペコ「お食事中に申し訳ありませんでした」
みほ「いえ、こちらこそ」
ダージリン「……まさか、みほさん達まで来ているとは」
オレンジペコ「抽選会のあとですから、有り得無くはないですね。カチューシャさんもいるみたいですし」
ダージリン「危なかったですわ。格好の悪いところを見せてしまうところでしたわね」
オレンジペコ「だから、やめましょうと言ったのですが」
ダージリン「席に戻ってケーキを注文し直してくださる?」
オレンジペコ「はい」
華「ダージリンさんには悪いことをしてしまいましたね」
みほ「うん」
沙織「でも、みんな来るんだね。びっくりだよぉ」
麻子「抽選会の後だからな。食事するところが同じになることもあるだろう」
優花里「そういえばお昼に行った戦車喫茶でも、黒森峰のお二人と遭遇しましたね」
みほ「そうだね」
沙織「感じ悪かったよねぇ」
みほ「ごめんね。お姉ちゃんや逸見さんがあんな態度をとるのも私が戦車道から逃げた所為だから」
華「気にしないでください。わたくしたちは何とも思っていませんわ」
みほ「華さん……」
華「試合でお姉さんたちを見返せばいいだけです」
みほ「ありがとう」
沙織「あーでも、思いだしたら、ちょっとお腹すいてきちゃった!! ゆかりん!! 納豆巻きと納豆軍艦、頼んで!!」
優花里「分かりました!!!」
みほ「……あ、またカレー軍艦が流れてる。そういえばお姉ちゃんもカレー大好きだったなぁ」
華「そうなのですか?」
みほ「うん。私が初めて作ったカレーも美味しそうに食べてくれてた」
華「……みほさんはお姉さんのことが好きなのですね」
みほ「うん。尊敬してるよ。あんなにすごい人は他にいないから」
沙織「そうなんだ」
優花里「戦車道の選手としてはとても優れている人ですし、西住殿のお姉さんということを考えればかなりの人格者なのでしょうね」
麻子「あのような態度を取っていたのは、西住さんに対する想いがあるからだろうしな」
みほ「お姉ちゃんは厳しい人だからね」
華「だからと言って、あのような言い方はないと思いますよ」
沙織「そうだよぉ。みぽりん、玉子が好きなのもわかるけど、たまにはイクラとか中トロとか食べたっていいんだから」
麻子「何が言いたいんだ」
沙織「もっと怒るときは怒ったほうがいいってこと」
みほ「そうだね。じゃあ、カレー軍艦ひとつ」
沙織「カレーか……。まぁ、マグロとか回らないお寿司と比べちゃうと味は劣るからね……」
優花里「カレー軍艦ひとつお願いしまーす!!」
華「よいしょっと。あら、お皿が溜まってきましたね」
みほ「そろそろ戻した方がいいのかな。お皿が足りなくなったらお店の人も困るだろうし」
沙織「それ一番やっちゃダメだから!!」
華「そうなのですか?」
沙織「とりあえず端に重ねて置いておくの。お会計のときに店員さんが計算してくれるから」
優花里「それしても、これ何枚あるんですか?」
麻子「50枚はあるな」
優花里「5人で50枚ですか……」
華「1人10枚ですね」
沙織「いやいや!! みんな5皿ぐらいしか食べてないから!!!」
優花里「冷泉殿はラーメンとエビのお寿司を食べただけですよね」
麻子「デザートを待ってる」
華「あらぁ、1人5枚だと計算が合いませんね」
沙織「華が何十皿って食べてるの!!」
華「え? わたくし、そんなに食べたのですか?」
沙織「自分で食べた分ぐらい数えておいてよー」
華「すみません」
優花里「5400円ぐらいですか」
麻子「回転寿司で5000円越えか。5人とはいえ、結構な額になったな」
みほ「1皿108円なんだ」
華「そんなにお安いのですか? リーズナブルなのですね」
沙織「そこ分かってなかったの……」
優花里「あの、そろそろ」
麻子「アイス」
沙織「そうだね。華、もういいよね?」
華「そうですね。全てのお寿司を食べたかったのですが、無理そうです」
沙織「そりゃ無理だって!!」
優花里「では、西住殿が注文したカレー軍艦が来たらデザートを頼んで終了にしましょう」
麻子「おぉー」
みほ「戦車、まだ来ないかなぁ」
沙織「ところでさ、みぽりん、華」
みほ「なに?」
華「なんでしょうか?」
沙織「……今日、ここで良かったの?」
優花里「武部殿」
沙織「でもさぁ、一応聞いておいたほうがいいじゃん」
優花里「ですが……」
華「あの、どういうことでしょうか」
沙織「いや、二人にとってはガッカリの味だったんじゃないかなって思って」
みほ「……」
沙織「本当は私とゆかりんで止めようとしてたぐらいなんだよ。ほら、味のことがあるし……」
華「みほさんはどう思いました?」
みほ「そんなことないよ。みんなで食べることができて楽しかったよ」
華「私もみほさんと同じですっ」
沙織「みぽりん、華……」
麻子「味については言及しないんだな」
優花里「い、いいじゃないですか!! 西住殿と五十鈴殿も美味しいと言ってくれたのですから!!」
沙織「でもさぁ、折角遠出しての外食なのに」
華「沙織さん、わたくしが提案したことなのですから気にしないでください」
みほ「うん。みんなと一緒に食べることが大事だから」
麻子「もういい。西住さん、もういいから」
みほ「あ、そ、それにカレー軍艦やハンバーグ寿司は面白かったから!」
華「はい。カニサラダも不思議な味でしたから」
優花里「武部殿……これ以上はお二人に気を遣わせるだけです……」
沙織「やっぱり止めるべきだった……!! 止めるべきだった……!! 心を鬼にして止めるべきだった……!!!」ダンッ!!ダンッ!!!
麻子「……あ、西住さん」
みほ「な、なに、麻子さん?」
麻子「カレー軍艦が……」
みほ「え!?」
優花里「あぁ!! Ⅳ号戦車が通りすぎてしまいましたぁ!!」
みほ「ちょっと待って!!」
優花里「西住殿!?」
みほ「まだ追いかければ間に合う!!」
沙織「いや、一周して来るまで待とうよ!!」
みほ「え? 戻ってくるの?」
麻子「2分かそこらで」
みほ「はぁー……よかったぁ……」
華「では、お茶でも飲みながら待ちましょうか」
みほ「あ、でもデザートも注文しておいたほうがいいんじゃないかな」
麻子「いいのか?」
みほ「今のは私のミスだから」
麻子「なら、遠慮なく」
華「ケーキもアイスもパフェも4種類しかないんですね。全種類2個ずつ注文しませんか?」
優花里「そんなに食べるんですか!?」
華「みなさん、食べないのですか?」
みほ「うーん……」
沙織「みぽりん。そんなに覗きこまなくてもいいでしょ」
みほ「でも、カレー軍艦が来なくて」
華「お店の人に回収されてしまったのではありませんか?」
優花里「その可能性は低いと思いますが」
麻子「誰かが間違って取ってしまったんじゃないか」
沙織「そういえばカレー軍艦を山ほど注文してた人いたもんね」
華「では、その人が……」
みほ「食べられちゃったのかな」
優花里「その可能性は高いですね」
華「あ……デザートのほうが先に来てしまいましたわ……」
優花里「もう一度、注文しましょう」
みほ「ううん。もういいから。食べよう」
沙織「みぽりんがそう言うなら……」
麻子「待ってくれ。お手洗いに行ってくる」
麻子「トイレはこっちか」
エリカ「いいんですか、隊長。これは隊長が注文したものではありませんよ」
まほ「だが、取ってしまったものはもう戻せない」
麻子「ん……?」
エリカ「しかし、このカレー軍艦を楽しみにしていた子どもがいたらどうするのですか」
まほ「それは……」
エリカ「番号札に書かれていた数字は覚えていますから、届けにいきましょう」
まほ「だから、既に再注文していたらどうする。私たちは恥ずかしいし、相手にとってはただ迷惑なだけだ」
エリカ「そんなことを言っている場合ですか。子どもが大声で泣いていたのも聞いたでしょう」
まほ「泣き声は聞こえてこないから……」
エリカ「少なくとも確認はするべきです」
まほ「……分かった。何番テーブルなんだ?」
エリカ「流石、隊長!」
麻子「……」
麻子「トイレ……」テテテッ
みほ「はむっ。んー、美味しいね」
華「はい。とっても甘いです」
沙織「ケーキにハズレはないよね」
優花里「おいしいですぅ」
エリカ「ここで――」
みほ「え?」
沙織「あー!!! 黒森峰の!! ……誰だっけ?」
エリカ「エリカよ!! 逸見エリカ!!」
沙織「何してるわけ?」
エリカ「あ、えっと……別に……お寿司を食べていただけよ。文句でもあるの?」
沙織「なによぉ。何か用事があるからここまで来たんじゃないの?」
エリカ「ないわよ。ただお手洗いに行こうと思っただけで」
優花里「お手洗いは逆方向ですが」
エリカ「うるさいわね!!」
まほ「エリカ、そんな喧嘩腰でどうする?」
みほ「お、おねえちゃん!?」
まほ「みほ……。エリカ、まさか」
エリカ「はい。ここです」
華「あのぉ。何か?」
沙織「なんなのよぉ」
エリカ「戻りましょう」
まほ「いや、しかし……」
麻子「ただいま」
沙織「おかえり、麻子。先に食べてるよ」
まほ「邪魔をしたな」
みほ「あ……」
麻子「カレー軍艦は返してもらったのか?」
みほ「え?」
まほ「な……」
麻子「ん?」
エリカ「なんで貴方が知ってるのよ!?」
麻子「なんでと言われても」
沙織「もしかしてみほのカレー軍艦を取ったのはお姉さんなの!?」
華「酷いです!! どうしてそこまで意地悪をするのですか!?」
優花里「みほさんのカレー軍艦を奪う権利はないはずです!!」
みほ「みんな、私たちも誰かのお寿司とかプリンを横取りしちゃってるから……」
まほ「取るつもりはなかった。ただ、機械的に取ってしまって……」
麻子「カレー軍艦を頼みすぎて、手が勝手に動いたのか」
華「もしかしてあの大量のカレー軍艦は全て……?」
沙織「みほのお姉さんが……」
エリカ「ちょっと!! おかしなことを言わないで!!」
みほ「お姉ちゃん……」
まほ「そ、そうだ。私が……大量に注文した……」
みほ「お姉ちゃん、カレーが大好きだもんね」
まほ「……」コクッ
麻子「かわいいな」
優花里「私もカレーが大好きです!!」
華「……わたくし、誤解をしていたようですわ」
沙織「私も。もっときつい性格なのかなって思ってた。戦車喫茶に居たってことは普通にケーキとか食べてたんだろうし、ここでもカレーばっかり食べてたりして、かわいいよね」
まほ「……」
エリカ「ちょっと!! 隊長をそんな目でみないで!!!」
みほ「みんな!! やめてあげて!! お姉ちゃんはただカレーが好きなだけだから!!」
麻子「カレー好きにもほどがあると思うが」
華「微笑ましいです」
沙織「ソーセージ寿司はまほさんが注文したものではないですよね?」
まほ「そ、それは頼んでいない」
華「よかったです」
沙織「そういえばみぽりんが初めて作ったカレーも美味しそうに食べてたって言ってたね」
みほ「あ、うん。あれ以来、お姉ちゃんはよくカレーを食べるようになって」
まほ「もうやめて」
みほ「ご、ごめんなさい。でも、ちょっと安心しちゃった」
まほ「何がだ」
みほ「お姉ちゃんは昔のままなんだって……」
まほ「……もう行く」
みほ「あ、お姉ちゃん」
まほ「みほたちはもう帰るの?」
みほ「う、うん。これを食べたら……」
まほ「そうか。行こう、エリカ」
エリカ「はい」
華「みほさんと似ているところがありますね」
沙織「うんうん。ちょっと抜けてて、子供っぽいところとか。普段は凛々しいのにそういうところを見せると男子はコロっといっちゃうんだよね。押さえるところ分かってる」
優花里「そうですかぁ?」
みほ「あはは……」
麻子「西住さんの言うとおり厳しそうではあるが、悪い人には見えなかった。逸見さんも含めて」
沙織「何か見たの?」
麻子「カレー軍艦を届けに行こうとしていた。きちんと番号札を見ていたらしい」
華「すみません。わたくしも見ていれば届けにいったのですが」
みほ「私も……」
優花里「冷泉殿も言っていましたが、やはり西住殿には複雑な感情があるのでしょう。ですから、戦車喫茶ではああいった厳しいことを言ってしまったんですね」
沙織「第一印象が悪かったとは言え、ちょっと失礼な勘違いしてたね、私たち」
華「ええ。ですが、みほさんのしたことが間違いではなかったと認めさせるためには、戦車道の試合で勝つしかありません」
沙織「それはそうだね。良い人だからって試合で手を抜いていい理由にはならないんだから!!」
麻子「相手は格上だ。手を抜けば瞬殺だぞ」
沙織「物の例えでしょ」
みほ「うん。勝ち進めばいずれは試合で当たることになるけど、そのときは冷静になって戦わないとね」
沙織「にしても、みほのお姉さんも回転寿司に来るんだね。てっきり、お寿司に関しては味にうるさいのかなとか勝手に思ってたけど」
優花里「そうですね。カレーならカレー屋さんに行けばいいだけなのに、不思議ですね」
華「お姉さんは回転寿司店によく行かれていたのですか?」
みほ「ううん。私はそんなの見たことも聞いたことも――」
「本日はありがとうございます。お皿の枚数を数えさせていただきますね」
沙織「え? あ、はい。お願いします」
優花里「あれ、誰かお会計ボタン押しましたか?」
麻子「私じゃないぞ」
みほ「私も知らないよ」
華「わたくしでもありませんが」
沙織「私は位置的に押せないし。ゆかりんじゃないの?」
優花里「いえ。万が一、五十鈴殿が追加注文されたときのことを考えていましたので」
華「流石に食べられませんわ」
沙織「華、自覚あるんじゃない」
「では、少々お待ちください。お釣りとレシートをお持ちしますので」
みほ「お釣りとレシート?」
華「レシートはレジまで持って行けばいいのですね」
優花里「いえ、お釣りとレシートは普通お金を支払ったあとですから」
「はい。既にお客様の代金は頂戴しています」
沙織「だ、誰からですか!?」
「ありがとうございましたー」
カチューシャ「ふんっ。まぁまぁだったわね!! プリンとソーセージとハンバーグとカレー以外は美味しくなかったわ!!」
ノンナ「カチューシャはそれしか食べていません」
カチューシャ「そんなこと言わなくていいの!!」
ダージリン「あら、奇遇ですわね」
カチューシャ「あらぁ、ダージリン。貴方も回転寿司だったの?」
ダージリン「ええ。戦車で運ばれてくるお寿司見たさで、毎年ここにくるんですのよ」
オレンジペコ「私は別のお店にしましょうと言っているのですが」
ノンナ「大変ですね」
エリカ「隊長! 何もあの子たちの分も払うことはなかったはずです!! 1万円まで出して……」
まほ「誰が食べていたのかは知らないが、かなりの枚数だったからな。それぐらいはいるだろう」
エリカ「しかし……」
まほ「帰ろう」
エリカ「待ってください」
まほ「……美味しかった」
みほ「お姉ちゃん!!」
麻子「もう帰ったみたいだな」
みほ「はぁ……どうしてこんなことを……」
華「恥ずかしいところを見られてしまったからではありませんか?」
優花里「それだけで1万円を置いて行ってくれますかね」
沙織「ちょっとかっこつけすぎだよね。私たちが申し訳なくなるよぉ」
華「お礼を言いそびれてしまいましたね」
麻子「電話は?」
みほ「う、うん。かけてみる」
優花里「お願いします。私にも一言ごちそうさまと言わせてください」
みほ「……ダメ。電源を切ってるみたい」
沙織「えー!? どうしてよぉ!!」
麻子「恥ずかしいんだろ」
華「困りましたね」
みほ「どうしよう……お姉ちゃん……はぁ……」
沙織「ねえねえ、みぽりん。お姉さんが私たちの初戦を見に来てくれるってことはないの?」
みほ「え? うーん、どうだろう……」
華「そのときにお礼をするのですね」
沙織「そーそー!」
優花里「会う機会があるとすれば試合会場ぐらいですからね」
みほ「優勝候補であるサンダースの偵察には来ると思うな」
麻子「なら、そのときだな」
みほ「上手く見つけられたいいけど」
沙織「大丈夫だってぇ」
優花里「私も全力で探しますから!!」
華「わたくしもお手伝いします。いえ、させてください」
麻子「このままでは気持ち悪いからな」
みほ「みんな……。うん、次の試合ではお姉ちゃんを捕まえよう!!」
沙織「ついでにサンダースにも勝つわよ!!」
みほ「ついで!?」
別の日 試合会場
沙織「すご! なんかいっぱいある!」
優花里「救護車にシャワー車、ヘアーサロン車まで」
華「本当にリッチな学校なんですねぇ」
沙織「あっちには食べるところまである! いいなぁ!」
みほ「……」キョロキョロ
麻子「見つかったか?」
みほ「ここからじゃよく見えないね」
麻子「どこにいるんだろう」
ケイ「ヘイ! アンジー!!」
杏「やぁやぁ、ケイ。お招きどーも」
ケイ「なんでも好きなもの食べていって! オッケイ?」
杏「オーケー、オーケー。オッケイ、だけに」
ケイ「あはははは!! ナイスジョーク!! ――あ。ヘイ、オッドボール三等軍曹!!」
優花里「あぁ!? 見つかっちゃった!!」
ケイ「またいつでも遊びにきて。うちはいつだってオープンだからね」
優花里「は、はい!」
沙織「隊長はいい人そうだね」
麻子「フレンドリーだな」
ケイ「それじゃっ」
みほ「あの!」
ケイ「ん? なに?」
みほ「えっと、黒森峰の西住まほさんを見てませんか?」
ケイ「まほ? アリサ、ナオミ。黒森峰のキャプテンってこの会場にきてた?」
アリサ「ええ。向こうのほうにいました」
ナオミ「私も見ました」
ケイ「だってさ!」
みほ「ありがとうございます!!」
沙織「いこう!! みぽりん!!」
ケイ「まほと知り合いなんだ。どういう関係だろう」
エリカ「もうすぐ始まりますね」
まほ「そうだな。しっかりデータを取っておいて」
エリカ「わかっています。とはいえサンダースは数にものを言わせる戦術ですからね。分かりやすいですが」
まほ「大洗のデータもよ」
エリカ「大洗がサンダースに勝てるわけが……」
まほ「大洗もよ」
エリカ「わ、分かりました」
まほ「ありがとう」
みほ「お、お姉ちゃん!!」
まほ「……」
エリカ「何か用事?」
みほ「あ。えっと……その……」
華「先日の回転寿司、ご馳走様でした」
優花里「と、とても美味しかったです!!」
まほ「そんなことを言うためにわざわざ会いにきたの? 試合前なのに余裕があるのね」
沙織「でも、あのあとお姉さんに電話しても電源切られてて」
麻子「お礼ぐらい言わせてほしい」
みほ「お姉ちゃん、これ、お釣り……」
まほ「……」
エリカ「ちょっと。隊長がそんな小さなことを気にしてると思うの?」
華「しかし、金銭のことですからしっかりと確認しておいたほうがいいと思います」
優花里「そうですよぉ」
みほ「4000円ほどあるから……」
まほ「……」
華「受け取ってもらえませんか?」
まほ「……」
麻子「そのお釣りは西住さんへのお小遣いなんじゃないのか?」
みほ「えぇ!? そうなの!?」
まほ「……」
沙織「少しぐらい質問に答えてくれてもいいのにぃ!!」
エリカ「もういいでしょ!! そろそろ試合が始まるわよ」
みほ「お姉ちゃん……」
まほ「好きに使えばいい。私のお金じゃない」
みほ「……」
桃「西住!! 時間だ!! 集合しろ!!」
みほ「はい!!」
華「まほさん、改めて御礼をいいます。ありがとうございました」
優花里「ごちそうさまでした!!」
沙織「ごちそうまでした」
麻子「美味かった」
まほ「……」
みほ「あの、お姉ちゃん、それじゃあ……また……」
まほ「ああ」
エリカ「全く。隊長に恥をかかせていることがわからないのかしら」
まほ「エリカ、試合が始まる」
試合終了後
ケイ「盗み聞きなんてつまんない真似して悪かったわね」
みほ「いえ、全車輌こられたら負けてました」
ケイ「でも、勝ったのは貴方たち」
みほ「あ……。ありがとうございます!!」ギュッ!!
ケイ「ふふっ」
オレンジペコ「わぁぁ……素敵ですねぇ……」
ダージリン「そうですわね」ズズッ
エリカ「甘っちょろいこといって……ふんっ……」
まほ「……」
エリカ「隊長、学園に戻りましょう」
まほ「そうね」
みほ「あ!! お姉ちゃん!! 待って!!」
まほ「……」
みほ「えっと……撤収までまだ時間があるから……その……あの……」
エリカ「私たちは今から学園に戻るの」
みほ「あ……う……」
華「ご一緒にごはんでもどうですか?」
エリカ「昼食はとっくに済ませたわよ」
華「でしたら、3時のおやつなんてどうでしょう?」
エリカ「あのね……私たちだって学園に帰ってミーティングや練習が……!!」
みほ「だ、ダメかな?」
まほ「……この会場の近くに食事するところはない」
エリカ「そーよ、そーよ。こっちはお弁当もってきたんだから」
沙織「向こうにいっぱいあるけど?」
まほ「なに……?」
ケイ「イエーイ! 食べたいのがあればジャンジャン食べていって!!」
杏「干し芋ある?」
ケイ「フライドポテトならあるわよ!!」
杏「それでいいや。ちょーだい」
ケイ「7名様、ごあんなーい!!」
アリサ「イエス……マムぅ……」
ケイ「ヘイ、アリサ。元気ないわよぉ。……反省してるならしっかりウエイトレスしなきゃ」
アリサ「ひぃ!!」
麻子「サンダースはああやって反省させるのか」
優花里「可愛いユニフォームですね。メイドコスってやつですかぁ?」
アリサ「うるさい!!」
エリカ「どうしてこんなことに……」
沙織「いいじゃないですか。ここはおごりますってぇ」
エリカ「別におごってほしくもないわよ」
華「まほさん、何か食べたいものはありますか?」
まほ「コーヒーでいい」
アリサ「コーヒーですね」
みほ「わ、わたしも同じもので」
華「わたくしはカレーライスをお願いします」
沙織「華、まだ食べるの!?」
華「試合後はお腹がすいてしまいまして」
優花里「健啖家ですよねぇ」
アリサ「少々お待ちください」
まほ「……」
みほ「……」
華「……みほさん?」
みほ「え? な、なにかな?」
華「お姉さんと話すことはないのですか?」
みほ「ええと……んー……。お、おねえちゃんっ!!」
まほ「なに?」
みほ「どうしてあの日、回転寿司を食べてたの?」
まほ「……」
みほ「私、お姉ちゃんがああいうお店に行ってるなんて全然知らなかった……」
華「わたくしも気になります。みほさんはわたくしと同じくあの日が初めての回転寿司だったのですが、まほさんもそうなのですか?」
エリカ「別にいいじゃない。そんなこと」
沙織「そんなことって!!」
優花里「私も気になります!! みほさんだけが食べたことがないというのならそれそれで問題です!!」
エリカ「どういう問題よ」
麻子「最初からカレー軍艦を大量に注文していたようにも見えたが……」
まほ「……」
華「カレー軍艦しか食べていなかったのですか?」
エリカ「そんなわけないでしょ!! カニサラダとかエビサラダとかも食べてたわよ!! あと玉子もハンバーグやソーセージだって!!」
まほ「やめて」
華「あ、あら……そういうお寿司がお好みなのですか……?」
みほ「お姉ちゃん、そうなの?」
まほ「……」
沙織「なんで黙るのよー」
麻子「恥ずかしいから」
まほ「……もういい。何も聞かないで」
みほ「お姉ちゃん、もしかして抽選会のたびに回転寿司に行ってたとか?」
まほ「何か問題でもあるの?」
みほ「い、いえ!! 別に!!」
麻子「去年は一緒に行ったんじゃないのか?」
みほ「行ったけど、そのときはお姉ちゃん1人で帰るからって……」
華「では、そのあとにお1人で回転寿司に?」
まほ「……」
エリカ「もういいでしょ!! 隊長のことは放っておいて!!」
麻子「あの日、戦車の上に乗って流れていたカレー軍艦が全てまほさんのものだとは思わないが、それでもかなりの量だったな」
沙織「よっぽど好きなんだねぇ」
優花里「まほさんが近しい存在になった気がしますぅ」
華「よく行かれているのですか?」
まほ「まぁ……抽選会や試合のときには……」
みほ「どうして? 向こうでも回転寿司のお店はあったような」
まほ「遠出しないと万が一お母さまに見つかれば……怒られる……」
みほ「そ、そっか……」
華「厳しいのですね」
麻子「食べられないが故に興味をもち、食べてみたら思いのほか美味しかったということか」
まほ「いや、珍しい具を乗せたお寿司が戦車で運ばれてくるのが楽しくて」
沙織「あぁ……」
優花里「やはり味については何も答えてくれませんね……」
みほ「それじゃあ、今日もお寿司を食べに行く予定だったの?」
まほ「今日は……」
アリサ「お待たせしました。カレーライスの人」
華「はぁーい。わたくしです」
アリサ「コーヒーはあなたね」
みほ「ありがとうございます」
まほ「すまない」
アリサ「ごゆっくり」
華「いただきますっ」
まほ「……」ズズッ
みほ「あれ? お姉ちゃん、いつからブラックでコーヒーを飲むようになったの?」
まほ「……」ズズッ
エリカ「隊長はいつだってブラックコーヒーを味わっているわよ」
みほ「そ、そうだったかな……?」
華「おいしいですっ」
沙織「カレーの匂いがすごいぃ。お腹すいてきたぁ」
優花里「私もですぅ」
麻子「……」
まほ「……」ズズッ
麻子「まほさん」
まほ「なに?」
麻子「ブラックコーヒーにはアイスが合う」スッ
まほ「え?」
麻子「遠慮するな。食べてくれ。この前のお礼にしては安すぎるが」
まほ「いや、あれは……」
華「カレーライスもよろしければ注文します」
まほ「……」
麻子「アイスやケーキが大好きだ」
華「わたくし、ソーセージのお寿司やカレーのお寿司の大ファンになりましたわ」
優花里「私もカニサラダ大好きです!!」
まほ「……」
エリカ「何を言い出すのよ、あなたたち!! 隊長をバカにしてるの!?」
優花里「いえ!! そういうわけでは!!」
みほ「お姉ちゃん、私もカレー軍艦大好きだよ」
まほ「みほ……」
華「そうですわ。この7人で回転寿司に行きませんか?」
優花里「おぉー!! いいですね!! いきましょう!!」
麻子「いつにする?」
沙織「今日とか!!」
エリカ「勝手なことばかり言わないで頂戴!!」
華「でも、まほさんも回転寿司を好んでいるようですし」
エリカ「これが終われば帰るの!!」
沙織「回転寿司が嫌ならパフェとかでもいいけど? 疲れたときは甘いものだよねぇ」
エリカ「食べ物の問題じゃないわよ!!」
まほ「……みほ」
みほ「はい!!」
まほ「撤収は夕方になるから、1800時でいいか」
みほ「いいの!?」
エリカ「隊長!!」
まほ「他校との交流は禁止されていない。それに甘い物は好きでしょう?」
エリカ「そ、そうですけどぉ」
みほ「お姉ちゃん、パフェのほうがいいの?」
まほ「今日はケーキを食べて帰ろうと思っていたところだから。パフェでも問題ない」
沙織「やったぁ! お姉さん、話がわかるぅ!」
エリカ「うぅ……折角隊長と二人きりで……ケーキを……」
みほ「ありがとう、お姉ちゃん」
まほ「利害が一致しただけ」
カエサル「隊長殿、ここにいたか」
みほ「あ、どうしたんですか?」
梓「これから隊長同士でのミーティングをしようってことになったんですけどぉ」
典子「お邪魔でしたら……」
みほ「ううん!! すぐに行きます! お姉ちゃん、それじゃあ」
まほ「ああ」
華「では、わたくしたちも行きましょうか」
沙織「そーだね」
優花里「まほさん、楽しみにしていますぅ」
麻子「またあとで」
まほ「分かった。待ってる」
エリカ「もう……」
夕方
優花里「サンダースのみなさんが引き上げていきますね」
華「壮観ですね」
みほ「うん」
沙織「さー、こっちも引き上げるよぉ。お祝いに特大パフェでも食べにいく?」
麻子「行くっ」
にゃーにゃーにゃー
沙織「麻子、鳴ってるよ、ケータイ」
麻子「ん……?」
沙織「誰?」
麻子「知らない番号だ」ピッ
麻子「はい。……え? は、はい……」
沙織「どうしたの?」
麻子「なんでもない……」プルプル
沙織「なんでもないわけないでしょう!?」
麻子「おばぁが倒れて……病院に……」
みほ「え!?」
沙織「麻子、大丈夫!?」
華「早く病院へ!!」
沙織「でも、大洗までどうやって!!」
みほ「学園艦で寄港してもらうしか……」
優花里「撤収まで時間がかかります!!」
麻子「……泳いでいく!」
優花里「えぇ!?」
華「待ってください!!」
まほ「私たちが乗ってきたヘリを使って」
みほ「え……」
まほ「急いで」
エリカ「隊長!! こんな子たちにヘリを貸すなんて!! あとパフェはどうするんですか!? 折角待ったのに!!」
まほ「これも戦車道よ」キリッ
優花里「行ってしまいましたねぇ。冷泉殿が心配です」
みほ「うん……」
華「沙織さんが一緒ですから大丈夫です。きっと」
まほ「……」
みほ「お姉ちゃん、本当にありがとう」
まほ「構わないわ」
優花里「まほさん、これからどうするのですか?」
まほ「どうするって?」
華「ヘリが行ってしまいましたから、しばらく戻れませんよね?」
まほ「あっ」
みほ「お、お姉ちゃん……何も考えてなかったの……?」
まほ「……」オロオロ
優花里「ど、どうしましょう……?」
みほ「えーと……」
華「ここでヘリを待つのもなんですから、一度落ち着ける場所に移動しませんか?」
大洗学園艦 西住宅
まほ「……」
みほ「ゆ、ゆっくりしていってね」
まほ「ああ」
華「次の機会には是非、パフェか回転寿司を食べにいきましょう」
優花里「勿論でぇす!!」
みほ「私もお姉ちゃんやみんなともう一度回転寿司を食べに行きたいな」
まほ「……」
優花里「まほさん、一つだけ聞きたいことがあるのですが」
まほ「なに?」
優花里「カレーが好きなのってやはり、みほさんが作ってくれたカレーが……?」
まほ「……」
みほ「優花里さんっ! きっとすごく答えにくいことだから!!」
優花里「すみません! でも西住殿のカレーというのに興味が……!!」
まほ「……あの回転寿司のカレーとみほが初めて私に作ってくれたカレーは味が似ている」
華「まぁ……」
みほ「そ、そうなんだ」
優花里「でも回転寿司のカレーってレトルトのものを使用していると聞いたことがあるのですが……」
まほ「そう。みほが出してきたのはレトルトのカレーだった」
みほ「お、お姉ちゃん!!」
華「作ってくれたって……」
まほ「お湯で温めただけ。それを自慢げな表情で私に持ってきた」
優花里「想像しただけで可愛いですぅ!!」
みほ「やめてー」
まほ「それ以来、あの味が忘れられなくて」
華「回転寿司に足を運ぶのにはそういう理由もあったのですね」
まほ「チェーン店があれば足を向けてしまう」
優花里「もしかして今日の会場近くにはあの回転寿司店がなかったのですか?」
まほ「そう。みほのカレーは食べることができないのでは行く意味がない」
みほ「私がはずかしいよぉ!」
華「分かりました。では、次の機会には回転寿司に行きましょう。わたくしもみほさんのカレーを食べたくなりました」
優花里「私もです!! 次はしっかりと味わいます!!」
みほ「そんなぁ」
ピリリリ……ピリリ……
まほ「私だ。……ああ。わかった。すぐに行く」
優花里「到着されたのですか?」
まほ「見送りはいいわ。それじゃ」
みほ「お姉ちゃん」
まほ「ん?」
みほ「……またね」
まほ「ええ。さよなら」
優花里「まほさん、素敵な人ですね」
華「みほさんが尊敬するのも分かります」
みほ「うん……」
華「ご一緒に食事するときが楽しみです」
数ヵ月後 大洗町
エリカ「……30分前はやはり早すぎましたね」
まほ「遅れるよりはいい」
みほ「おねえちゃーん!! おまたせー!!!」テテテッ
まほ「私も今来たところだ」
沙織「まほさんと一緒にごはん食べるって聞いて精一杯おめかししてきましたぁ!」
優花里「今日と言う日をどれだけ待ち望んだことか!!」
麻子「二回戦は試合後にアンツィオが料理を振舞ってくれたし、準決勝では場所が悪かったからな。決勝後はそのまま祝賀会になってしまった」
華「ご一緒できる機会に恵まれなかったですね」
麻子「まほさん、あのときはヘリを貸してくれて感謝している。おばぁも元気だ」
まほ「それはよかった。……それで、今日は何を食べにいく?」
華「勿論、回るお寿司が食べたいです」
みほ「私も食べたい」
まほ「よし。優勝を祝して私が奢ろう」
みほ「そんな、いいよ。割り勘にしよう。ね、お姉ちゃんっ」
おしまい。
このSSまとめへのコメント
大洗に黄色い看板の美味しい回転寿司屋あるよね