男「正月か」(96)
午前十時、寒さで目が覚めた。夕べ酒を飲んで、そのまま寝てしまったようだ。大晦日恒例の歌合戦も、誰が出ていたか覚えていない。
寝起きの体を起こす。奮発した焼酎の一升瓶が、机の上でほとんど空になっているのが見えた。一升瓶の横の灰皿から、まだ吸えそうなのを選び、火をつける。
窓から差し込む光に紫煙が昇っていくのを ぼうっと眺めていると、玄関が慌しく開く音が遠く聞こえた。
遠慮の無い足音が、階段へ近づいてくる。階段を上ってくる。足音はこの部屋の前で止まった。ばんっと勢い良く引き戸が開くと、見知った顔が姿を現した。
幼「あけおめ!うっわ、相変わらずきったない部屋!」
男「久しぶりだな」
幼「いやそれより何この部屋、信じられない」
男「悪い。来るってわかってたら掃除くらいしたのに」
幼「そうゆう問題じゃないでしょ、掃除はまめにしなさい」
男「それで、新年早々どうしたの?」
幼「どうしたじゃないわよ、夕べ帰ってきてずっと電話してたのに通じないから迎えに来たんじゃない」
男「え、マジ? ってかどこか出かけるの?」
部屋を見回すと、脱ぎ散らかした服の下に、スマートフォンのディスプレイが少し見えた。正月休みに入ってから一度も充電していなかった。
幼「初詣に決まってんじゃない!速く準備して!」
まくしたてられ、しぶしぶ立ち上がる。畳の上に無造作に散らかった衣服から、肌着と上着とジーンズを取り上げ、着替えた。
ズボンを下ろしたところで幼馴染は逃げるように部屋を出て行った。
幼は高校を卒業して都会の看護学校へ進学、そのまま向こうで就職した。総合病院ではなく、小さなクリニックのため正月は毎年地元に帰ってきていた。
俺は高校を出てすぐ地元で就職していた。
男「で、どこへお参りに行くの」
幼「港町のお寺」
男「え、今頃混んでるよ、山の神社で良いじゃん」
幼「いやよ。にぎやかなほうが良いじゃない。ほら車出して」
男「はいはい」
車庫の軽トラのエンジンを掛けると、幼が乗り込んだ。普段一人で出かけるなら何も思わないけれど、若い女性を軽トラの助手席の乗せて走るのは些か気が引ける。まして幼は高校を卒業して都会に出てから、女らしさに磨きがかかり、今では完全に都会の綺麗な女性になっている。傍からみればさぞ異様な光景だろう。
幼「いい加減車買い換えたら?」
男「金があればそうしてる」
幼「まじめに働いて貯金もしてるってお父さんが言ってたよ?」
男「車なんか荷物積めて前に走ればそれでいいよ。普段乗せる人が居るわけでもないし」
幼「ふーん」
幼は適当に合図地を返すと、バッグからスマートフォンを取り出し、それ以上何も言わなかった
幼「やっとついた」
男[だから言ったのに」
幼「てかさ、幼友くんとかもきてるみたいだよ、ほら」
幼が見せたスマートフォンの画面には流行のSNSのページに「初詣なう」と表示されていた。
幼「ねえ、幼友くんたちと合流しない?」
男「行ってこいよ、俺は本堂にお参りしたら帰るから」
幼「えーノリわるっ」
「あれ。幼と男じゃん」
話ながら参拝道を歩いていると、聞き覚えのある声がした。幼友だ。
幼友「久しぶりだな二人とも」
幼「幼友君久しぶり、今書き込み見て合流しようって男と話してたとこ」
幼友「そうなんだ、じゃあお参り終わったら新年会ってことでみんな集めてカラオケ行かね?」
幼「いいねそれ、ねえ、男も行くでしょ?」
男「パス」
幼友「相変わらずノリわりぃな男」
男「二日酔いだからさ、ほんとごめん。幼、俺しんどいから帰るな」
幼「え、どうして?ちょっと男っ」
幼達に告げてそのまま踵を返した。
幼友とその周りの人間は、昔からあまり好きじゃなかった。彼らの言う「ノリ」についていけないのがその理由だ。幼は幼友達とは仲が良く、学生時代はあの二人がクラスの中心にいた。
男「帰るか」
幼友は車できているだろうし、帰りの足は心配ないだろう。
帰宅途中、そういえばお参りしていないことを思い出して、自宅近くの神社へ寄った。港町のお寺とは違い、人は少なく、静かだ。清めを済まし、境内へ上がろうとしたとき、また声を掛けられた。
「あれ、男君?」
声のあったほうを一瞥すると、会社の事務員さんが居た。
男「事務さんじゃないですか」
俺だと分かると、事務さんは小走りで近づいてきた。
事務「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
男「おめでとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
事務「男さん、一人ですか?」
男「そうですよ。家に居ても寝てるだけなんでちょっと出てきてみました。事務さんは?」
事務「お父さんとお母さんと一緒です。ほら、あそこ」
事務さんはそう言うと、お清め用の水道を指差した。見知った中年の夫婦がちょうどお清めをしていた。
事務さんのお父さんは俺の会社の社長、事務さんは社長の一人娘だ。そして俺の同級生でもある。事務さんの家の会社だと知らずに面接に行き、このことを告げられたときは心底驚いた。面接はほぼ娘の自慢話だった。
男「社長に奥さんまで居るじゃないですか!やばい、早く逃げないと」
事務「もう遅いですよ」
事務さんがくすりと笑ったとき、事務さんの後ろから野太い声が飛んできた
社長「おーい男!奇遇じゃないか!」
百戦錬磨の現場の鉄人こと、社長。すごく声が通る。
男「あ、明けましておめでとうございます。今年も何卒、お手柔らかにお願いします」
社長「俺はいつでもお手柔らかだろ?」
男「ははは、そっすね」
社長「それより、この後用事はあるのか?」
男「いえ、何も無いですけど」
社長「よし、うちに飲みに来い」
男「いやいやいや、一社員がそんな。それに社長がよくても奥さんに事務さんも迷惑でしょうし」
社長「そうなの?」
奥「今年は親戚も来てないし、家が静かで寂しいから是非男さんさえ良ければ来て頂戴。この人の相手してやって」
事務「私もぜんぜん!むしろ来てください!」
男「奥さんに事務さんまで……」
男「すみません、結局お邪魔してしまいまして」
奥「こちらこそごめんなさい。あの人が強引に」
男「いえいえ、光栄です。仕事では尊敬する先輩でもありますから」
奥「ふふ、ありがとう。ビールでいいかしら?」
男「あ、はい、すみません。ありがたくいただきます」
結局、あのまま社長一家に押されて、一度帰宅して身支度を整えた後、社長邸へお邪魔している。社長は風呂だ。
奥「とりあえず御節でもつまんでいてね、あら、そういえばあの子どこ行ったのかしら」
男「なんかばたばたっと二階に上がっていかれましたけど」
奥「ああ、なるほどね、すぐに降りてくるはずだから、ちょっと待っていてやってね」
男「はい、おかまいなく」
言い残して奥さんは台所へ引っ込んでいった。それと同時にまたばたばたと二階から足音が聞こえた。
事務「ごめん男君、お待たせしましっ……て、別に待ってないよね、ははは」
男「いえ、待ってましたよ、一人じゃ心細いんで」
事務「あっごめんね、お父さんが強引に」
男「それはさっき奥さんにも言われましたけど、ぜんぜんそんなこと無いんで、お気遣いなく。むしろ無遠慮に上がりこんですみません」
事務「そんなことないです!お父さんって一度出だすと聞かないから」
男「ですよね、けど、社長はちゃんと度が過ぎない程度に抑えてくれますよ」
事務「そうなのかな」
男「そうです。それよりさっき上で何してたんですか?すごい急いでましたけど」
言うと、事務さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。しかし、しばらくするとキッと顔を上げ。
事務「男さん、ちょっとデリカシー無いですよ」
お怒りになられていた。
男「すみません、男所帯でこうゆうの分からないんです」
事務「幼さんとは仲が良かったじゃないですか」
男「うーん、仲が良いってゆうか、幼馴染がいつも一人でクラスで浮いてるのを見かねて、って感じですよ」
事務「そうなんですか?」
男「そうですよ。それに好きで一人だったのに、無理やり自分達の輪の中に入れようとしたり、まあまあ迷惑でしたよ」
事務「幼さんなりに男さんを気遣ってたんだと思いますよ」
男「どうですかね。それより、事務さんて高校時代はなんか周りより少し違う空気感じてましたよ」
事務「どういうことですか?」
男「なんていうか、大人びてるって言うか」
事務「ちょっと急にやめてください!恥ずかしいです!」
男「社長のとこに来て挨拶したのが始めての会話でしたけど」
事務「え……違いますよ!一年生の時も同じクラスで、一度席が隣になったじゃないですか!その時お話はしましたよ!」
男「あれ、そうでしたっけ?」
事務「そうです!なんで忘れちゃうのかなぁ!」
男「はは、すみません…」
事務「もういい!私も飲む!」
事務さんはむきになり俺の前からビール瓶をひったくると手酌でグラスになみなみ注ぎ、半分ほどをぐっと飲んだ。
男「女の手酌は婚期をのがすと「うるさい!!」
事務「私、あの時期が一番楽しかったんです。男君と天気の話とか、そういう何でもないような会話をして、一日のんびり過ごしてたあの頃が!」
事務「それなのに男君は覚えて無いって!無いって!」
言い終えると、グラスの残りを一気に飲み干し、持ったままのグラスを俺の前に突き出した。
事務「注ぎなさいよ!」
男「え、あ、はい」
キャラが完全に変わってしまった事務さんに言われるがまま、グラスにビールを注ぐ。
男「いけるクチですね」
事務「悪い?仕事終わりに飲むのが私の唯一の楽しみなの!」
男「ぜんぜん悪くないです。程ほどに越したことは無いですけど、身近に飲める人ってあんまり居なくて」
事務「幼さんは?どうせ今夜は仲良く晩酌とかするつもりだったんでしょ!?」
男「幼は飲みませんよ。だから余計に、おいしそうにビール飲んでる女の人って新鮮で、つい言葉に」
事務「フーン、じゃあ一緒に居る約束はあったってことなんだ?」
男「無いです。昼は一緒に初詣に行ったんですけど、幼友達と合流するって事だったんで、一人さきに帰ってきたんです」
事務「フーン」
まだなにか納得できない様子で事務さんは俺を睨む。
事務「あした…」
男「はい?」
事務「明日は予定…あるんですか……?」
男「無いですよ。あ、酒酒買いに行かないと」
事務「それ、私も行きます」
男「りょうか…え?」
事務「あたしも行くって言ってんの!!」
酒のせいなのか、顔を真っ赤にした事務さんが言い放つ。
男「それは良いですけど、せっかくのお休みにいいんですか?」
務「いいんです!それとも、いや…なの?」
男「いえいえ、事務さんがいいならぜんぜん構いませんよ」
事務「じゃあ、明日、お昼に……えと」
男「迎えにきますよ。軽トラでよかったらですけど」
事務「あ、ありがと」
男「あ、でも一応社長と奥さんの了解は取りますからね。それがだめだったらこの話はなしです。」
社長「いいジャン!いってこいよ」
男「パンツ一丁で寒くないんですか?」
社長「ぜんぜん。俺はいつも熱めの風呂に入るからな」
男「ならいいんですけど、奥さん、後ろに」
社長「」
奥「あなた、それやめなさいっていつも言ってますよね?」
奥さんの声がしたとたん、社長は奥の部屋へ走り出した。
奥「まったく…それより、今の話、私もOKだから、遠慮なく連れ出して頂戴」
男「あ、はい…」
男「事務さん、大丈夫だそうですよ」
言って振り向くと、先ほどよりもさらに顔を赤くした事務さんが黙ってうつむいていた。
小説感が凄い頑張ってください
その後、服を着てきた社長に、料理を数点作り終えた奥さんも加わり、日付が変わる頃まで、楽しい酒をいただいた。事務さんは終始うつむきがちで、あまりしゃべらなかった。
帰りは奥さんに自宅まで送って頂いた。車を降りる際。
奥「あの子、昔から男君のこと、ぽつぽつ話してくれてたのよ」
奥「男さんが面接を受けるときも、彼は勉強はいまいちだけれど、根はまじめだからお父さんも絶対気に入るってあの人を説得してたのよ」
等と、初耳のことを少し話してくれた。おかげで家の玄関まで口角が上がりっぱなしだった。
玄関の引き戸を開ける前に、ポケットから煙草を取り出し火をつける。
少し飲みすぎた。火照った頬をなでる冬の風がひんやりと気持ちいい。夜空には大きな満月が顔を出し、地面には自分の影が伸びている。
男「楽しかったな」
久しぶりに誰かと卓を囲み、酒を酌み交わした。胸に暖かいものが込み上げた。
体が冷えてきたところで玄関の引き戸を開ける。玄関は暗い。しかし、そこに人が立っているのが分かった。
幼「遅い!!」
聞きなれた怒号を全身に浴びせかけられる。幼は仁王立ちで俺の前に立ちはだかったいる。
男「何してるの」
幼「何してるのって……って酒くさっ、こんな時間までどこで飲んでたのよ」
男「社長の家」
幼「あっそう、それより、遅くなるのに連絡もよこさないなんて」
男「幼はカラオケ行ってたろ?それになんでいちいち幼に連絡するんだよ」
幼「何その言い方。せっかくご飯作ってまっててあげたのに」
男「先に言ってくれりたら良かったのに」
>>17ありがとうございます
幼「あんたが携帯も持たないで出て行くからじゃない!」
男「それは、ごめん」
幼「…もういいわ。それより、お腹一杯?お味噌汁なら飲めそう?」
男「いや、少し小腹すいてる」
幼「じゃあ、おかずとお味噌汁温めるね、ご飯はよそって」
男「分かった」
玄関に上がり、上着を脱ぐ。テレビ部屋にそれを投げ、テーブル部屋へ入る。暗くてよく見えていなかった幼の後姿がコンロの前にあった。味噌汁の香りが部屋中に立ち込めていた。
幼は昼間見た服装のままだった。白いセーターにピンク色のフリルのスカート。タイツに包まれた長い足。凄まじい煩悩が脳を包み込む。アルコールの力もってか、下半身のそれも熱を持ち始めた。
妙な気持ちを払うべく、炊飯器を空け、白米をよそう。しかし、気持ちと裏腹に、視線は幼へと吸い寄せられる。
今すぐ抱きたい。少し乱暴にすれば壊れてしまいそうな幼の体をすべて、自分の思うままに。
茶碗を
テーブルに置く。そのまま一歩ずつ、歩みは幼へ向かう。思考は完全に性欲に支配されていた。
もう手を伸ばせば届く、そんな距離。味噌汁の香りに混じって、香水かシャンプーか、甘いにおいがした。
幼が振り向く。少し驚いた顔をしたが、何も言わない。心臓は激しく鼓動し、頭がくらくらする。しばらく見つめあった後、幼が口を開いた。
幼「どうしたの」
雰囲気で察したのか、俺の異変に戸惑いを隠しきれない様で、いつになくしおらしい口調だった。
男「綺麗だ」
そんな言葉が口をついた。
男「幼はこの町を離れてからほんとに綺麗になった。幼が就職して始めて帰ってきたとき、俺は直視できなかった」
幼「き、急になによ」
男「すごくそれがうれしかったし、誇らしかった。自分の幼馴染が、こうして甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる女の子が、こんなに綺麗な女の子なんだって」
男「けど、逆に少し寂しい気持ちもあったんだ。あまりに変わりすぎてて、俺はずっと金も無いし、部屋は汚い、車もぼろい。幼がすごく遠くに感じた」
男「なあ、教えてくれよ、何でこんなに俺に良くしてくれるんだ。俺が哀れか?友達もいなくて、仕事が終われば酒、それ以外は何も無い。そんな俺がかわいそうだから?」
幼「もう、ちょっと飲みすぎなんじゃ「答えろよ」
幼の言葉をさえぎる。既に思考は停止して、今までの思いだとか、嫉妬だとか、よく分からない気持ちが次々口から、言葉に変わりあふれ出る。
中断。誤字脱字もうしわけない。
再開
男「友人はたくさん居て、収入もある、おまけに性格が良くて美人、そんな幼が、何で俺にかまうんだ。親父は冗談みたいに俺のことを頼むだとか言っていたけど、そんなの真に受ける人間じゃないって事も知ってる。だから、余計に聞きたいんだ。幼は一体何を考えてこんなことしてるんだ」
幼「そこまで私のこと分かってても、分からない?」
幼は先ほどの戸惑った表情から一変して真剣な顔で言う。
幼「男、ほんとはそれがどうしてか考えたくないんじゃないの?」
幼「ほんとは分かってるけど、それを認めたくないんじゃないの?」
男「俺は……ほんとに分からない。だからお前に聞いてるんだよ」
幼「男、怖いの?男は答えを出すのを怖がってるよ、どうして?」
幼「逆に男は何で何も言わないの?不思議なんでしょ?友達たくさん居て、綺麗になった私が、こうやって住む場所が離れても、昔と変わらないで男のそばに居るのが」
すべて見透かすかのような幼の問いかけに、俺は無いも言えないでいた。
幼「何も言えないんだ」
幼の視線が険しくなる
幼「意気地なし」
幼ははき捨てる様に言うと、俺を一瞥もせず部屋を出て行く。口元まで出掛かった言葉が、そのまま解けていくように消えた。
幼は突然部屋の入り口で振り返り。
幼「そんなに食べられなくても、お味噌汁は飲んで。しじみ入れといたから」
それだけ言い残し、幼は家を出て行った。
最悪の寝起きだった。二日酔いではない。いつもあの量なら完全に酔っていて、前日の記憶もほとんど残っていないはずなのに、昨日の記憶は、幼の表情とセットで、鮮明に覚えていた。もちろん自分の発言も。酔った勢いであんなことを幼に言った挙句、最後は逆に幼に問いただされて何もいえなかった。ただ、自分が情けない。それでも、昨日の自分は責められない。自分の中で、確かに幼の態度に対する答えは出ていた。ただ、それを口に出すのが怖いのだ。このぬるま湯の様な関係に、いつまでも浸っていたい。幼友より一歩近い距離感に、無意識に覚える優越感。幼がそばに居るときだけ、自分が必要とされている、そんな気持ちになれる。
そんな自分の拠り所みたいな存在の幼と、いつまでも白でも黒でもないグレーな関係のまま。
それを昨日、自分が均衡を崩し、秘めていてくれた幼の本音まで引きずり出し、その言葉に答えてやることもできなかった。こんな自分に、俺は幼の一体何になってやれることができるのだろう。そんな自分が、恥じも忍ばず抱く淡い期待に、心底自分が嫌になる。
自己嫌悪のループをしばらく繰り返し、ひとつため息をつく。何度考えても無駄なことだ。幼に直接伝えないと。グレーの関係は昨日、終わったのだ。
無理やり気持ちを切り替える。煙草に火をつけ、夕べ充電しておいたスマートフォンで時刻を確認する。画面には、デジタル時計としっしょに、着信ありのマークが映し出されていた。
着信39件。大晦日、幼からの着信がほとんどだったが、その中に1件、登録されていない番号が混じっていた。着信はさっき、一時過ぎだ。何も考えずに、折り返した。
男「もしもし」
「遅い!!」
男「あ、あの、すみません、どちらさまですか?」
受話器の向こう側のあまりの剣幕に、一瞬今日が仕事始めだったかと焦ったが、さっき見た画面は一月二日を表示していたのを思い出し、安堵する。
「は!?事務ですよ!昨日飲み過ぎて何もかも忘れちゃったんですか!!」
男「あ、事務さん、おはようございます。え、昨日?てゆうかなんで番号知ってるんです?」
事務「昨日うちに来てくれたとき教えてくれたじゃないですか!!」
そこまで聞いて、一気に昨日の記憶が蘇る。そうだ、今日は事務さんと買出しに行くんだった。番号は、確か帰り際に事務さんに聞かれたんだった。
男「あー、全部思い出しました。大変申し訳ありません。起こってます?」
事務「十分」
男「はい?」
事務「十分だけ猶予をあげる」
電話は切れた。
しばらく唖然とした後、また着信があった。今度は社長だ。
社長「もしもし」
社長はなぜか小声だ。
男「はい」
社長「昨日は飲ませすぎた。ほんとすまん!」
男「いえいえ、楽しく飲めて、奥さんの料理もおいしくて、いい時間でした。ありがとうございました」
社長「そういってもらえればありがたいが、今はそれ所じゃない。うちのあれが昼ごろからすげえ機嫌悪い。待ちくたびれていらいらしてんだ」
社長「昨日はあの後えらくご機嫌でな、よっぽどお前と買い物行くの楽しみだったんだろう。だから、頼む。早く迎えに来てくれ、でないと俺の精神が仕事始めまでもたない。頼む、はやく「お父さんだれと電話してるの」
社長「え、あ、いや、これは、次の現場の打ち合わせを、え、ちょっとまて、それは硬すぎるだろ!やめろ!死んでしまう!男!男はやく」
電話は切れた
社長が硬すぎる何かで撲殺されてしまう前に事務さんを迎えに行かなくてはならない。
急ぎ支度をして、家を出た。
社長邸にはそれから三十分後到着した。急ぎ足で玄関へ向かいチャイムを鳴らす。
「はーい」男「遅れてすみません、男です。お迎えに上がりました」
いつもの数倍甘い、事務さんの声がインターフォンから聞こえた。
※訂正
社長が硬すぎる何かで撲殺されてしまう前に事務さんを迎えに行かなくてはならない。
急ぎ支度をして、家を出た。
社長邸にはそれから三十分後到着した。急ぎ足で玄関へ向かいチャイムを鳴らす。
「はーい」
いつもの数倍甘い、事務さんの声がインターフォンから聞こえた。
男「遅れてすみません、男です。お迎えに上がりました」
事務「男、さんですか?存じ上げませんが」
男「ほんとすみません。どうか出てきて頂けませんか。」
事務「いきなり謝られても、一体何のことだったかぁ…」
男「約束を破って本当に申し訳ありません。お気持ちが済むまで、ここで待たせて下さい」
事務「……」
ゆっくりと、重々しく、ドアが開いた。
事務「これで二度目」
男「はい」
事務「わたしとの事、忘れたのはこれで二度目です」
男「はい」
事務「反省してます?」
男「重々と」
事務「……」
事務「今回だけです。昨日はうちのアル中オヤj…、いえ、お父さんが、男君に飲ませすぎたというのもありますし」
そう言う事務さんの向こう、ちょうど昨日飲んだ部屋から、社長の後頭部だけが、部屋からはみ出て床に倒れて見えていた。背筋がひやりとした。
事務さんは俺の視線に気づいた。
事務「あら、ごめんなさい。よくしゃべる動物がうちに迷い込んでいたものですから、少しお仕置きして、大人しくしてあげたんです。大丈夫、目が覚めたら野山に返してあげますから」
目が本気だ。社長もピクッと反応した。
男「どうか、どうか暖かい場所で寝させてあげてください。お願いします」
事務「…、少し、待ってください」
事務さんは再び家に引っ込んだ。数分して、事務さんは出てきた。
事務「行きましょう、男君」
男「はい……」
社長、無事なんだろうか。
風呂 中断
三気筒エンジンは快調に吹け上がる。祖父の形見は国道を走っている。
車内は終始沈黙している。ラジオからボブ・ディランが流れてきた
男「はーうめにーろーますとまーん」
思わず歌ってしまった。
事務「知ってる曲?」
男「あ、はい。邦題で風に吹かれて、です」
事務「どんなことを歌ってるの」
男「えっと、この道をどれだけ歩いたらなんたら…」
事務「知らないんだ」
男「笑わないで下さいよ」
事務「ごめんなさい。なんだか可笑しくて」
町外れの酒屋に着く。時刻は三時を少し回ったところだ。
男「とりあえず買い込みます。引かないで下さいよ」
事務「了解です」
カートを押し、ビールコーナーへ。購入するのはビールではなく発泡酒だ。
男「とりあえず2ダースにして…」
事務「ビールじゃないんだ」
男「はい。社長からは普通に生活して、ちょっと贅沢できるぐらいは貰ってますけど、よくわけわかんないまま何本も空けてしまうんで、ビール買うのもったいなくって」
事務「毎日そんなに飲んでるの?」
男「休みの前の日とかは。さすがに平日は次の日仕事きついんで、程ほどです」
事務「飲まない日は作ってる?」
男「……あ、焼酎切らしてるんだった」
事務「ちょっと」
男「事務さんは好きなお酒とかありますか?」
事務「ちょっとごまかさないで」
男「あ、白州だ!自分へのご褒美に!」
事務「男君!」
男「……はい」
事務「今日は飲酒禁止ね」
男「なぜなのか」
事務「分かった?」
男「嫌だ」
事務「こら」
男「俺から友達を奪わないで」
事務「そんな付き合って体壊すような友達要りません」
男「悪友の方が、毎日スリリングな気分で楽しいですよ」
事務「友達いないくせに」
男「事務さんだって友達の気配あんまり……」
事務友「あ!事務ちゃん久しぶり!」
男「」
事務「あ、友ちゃん」
事務友「それじゃ、またね」
事務「連絡するー!」
事務「あれ、なんか言ってなかった?」
男「俺をいじめて楽しいか」
事務「何の話?」
男「……」
男「酒も買った、煙草も買った」
事務「もう夕方だね」
男「どこか用事ってあります?」
事務「別に……無いかな」
男「じゃあ、ちょっと付き合ってください」
煙草屋を後にして、海沿いを目指す。待たせたお詫びと、買い物に付き合ってくれたお礼をしよう。そう思った。
国道から旧道へ入ると、海が見え始めた。時刻は五時。辺りは薄暗い。
旧道から細い路地に入り、直進。すると海岸に出る。未舗装の細い砂利道を進むと小さく「cafe」の看板が見えた。
店の脇に車を停める。
男「着きましたよ」
事務「ここは、喫茶店?」
男「そうですよ。ケーキがおいしいんです。僕は食べたこと無いんですけど」
事務さんに説明しながら店のドアを開けた。
老人「いらっしゃい。おや、今日はお連れ様が居るんだな、珍しい」
男「お久しぶりです。この人に今日のケーキと、飲み物は何にします?」
事務「えっと、じゃあ、カプチーノを、甘めでください」
老人「かしこまりました。男さんは?」
男「ブラックとラスク」
老人「はいはい、いつものね」
老人は注文を受けると、厨房に下がった。
店内には小さな音でクラシックが流れている。今朝から重かった気分も、すこし和らいでいた。
店内に他の客の姿は無い。
事務「ここには良く来るんですか?」
男「一人が寂しくなったら来ます」
事務「なにそれ」
男「そのまんまの意味です。一人は好きですけど、たまには誰かと話したくなりますから」
事務「幼さんに電話とかはしないんですか?」
男「電話ってあんまり好きじゃないんですよ。満たされない孤独を必死に埋めようとしてる自分がすごい惨めになるって言うか。一度だけして、それから用事以外の電話は一度もしてないです」
事務「そうなんだ。って言うか、男さんて割と何でも話しちゃうんですね」
男「意地張って取り繕っても仕方ないです。自分でも、周りが俺のこと、多分こう思ってるんだろうな、ていうのは分かりますから」
事務「かっこつけないんだ」
男「意地を張らないのが意地みたいな。でも今日はちょっと頑張ってみました。女の子を連れてくるのは初めてです。てゆうか、誰かを連れて来たのが始めて」
事務「てっきり幼さんを連れて来てるのかと思った」
男「おじさんには悪いけど、ここはあんまり人に来て欲しくないんですよ」
事務「その気持ちは分かります。自分だけの、特別な場所って誰にも取られたくないですよね」
男「です。幼に教えるとすぐ回りに広まっちゃうから」
事務「なんか分かるかも」
男「だから、ここは秘密にしていてくださいね」
老人「聞こえましたよ男さん。営業妨害はご遠慮頂きたい」
窘める老人の表情は、どこかうれしそうだった。
老人「お待たせしました。本日のケーキはレアチーズです。晩御飯前でしょうから、少し小さめに。後、カプチーノです」
事務「ありがとうございます」
老人「男さんはラスクとブラックね」
男「頂きます」
老人「では、ごゆっくり」
老人はカウンターの奥へ帰っていった。
事務「白髪のオールバックに、口ひげ、まるで映画の人みたい」
事務さんがくすりと笑う
男さん「老人さんは学生時代、劇団に入ってたんだって」
事務「そうなんだ、なんかオーラのある人だね」
男「日本人ぽくないですよね「」
中断
レスくれてたお二方、ありがとうございます。タイプ下手で誤字脱字ばかりですが、どうかお付き合いの程、よろしくお願いします。
今日は寝ます。また明日、仕事から帰ってきたら書きます。おやすみなさい。
再開
事務「男さん」
男「はい」
事務「今日はごめんなさい」
事務「無理やりお買い物につき合わせてもらってるのに、ちょっと男さんが寝坊しただけですねたりして」
男「無理やりじゃないですよ。こうやって誰かと時間を過ごすのってなかなか無いですし、それに、俺が遅刻したらすねてくれる人がまだ地球上に居るなんて、ありがたいことですよ」
卑屈とかじゃなくて、真剣にそう思う。
事務「そんな風に言わないで下さい。男さんはとっても魅力的な男性です」
男「やめてくださいよ。すごい照れるんで」
事務さんがあんまり真剣な顔で言うので、こっちが恥ずかしくなる。
事務「実はですね。これはあんまり言いたくないんですが」
男「何ですか?」
事務「高校生の頃、実は男さんモテてたんですよ」
男「ははは、まさか」
事務「ほんとです」
事務「名前は言えませんが、三年生の時5,6人は男さんに好意を寄せてましたよ」
男「へぇ」
事務「信じてないですね」
男「信じてますよ」
事務「私もその中の一人です」
男「……は?」
事務「ちなみに私は現在進行形で男さんラブです」
男「」
事務「すき。だいすき」
男「」
一体どうしたら良いんだろう。事務さんは平然と、好き、なんて言ってきた。なんて返事すれば良いんだ。
コーヒーカップで揺れるブラックコーヒーを見つめながら、唐突に迎えた人生の正念場に、対処する術を模索する。昨日幼とあんな事があったばかりなのに、俺はここで答えを出すことが出来るのか。
事務「このケーキおいしい!男さんも食べてみます?」
男「」
事務「男さん」
男「え、あ、はい」
事務「はい、あーん」
男「え、あーん」
甘酸っぱいチーズケーキの味。確かに、これはおいしい。おじさんもなかなかやるもんだ。
口いっぱいに広がる、甘酸っぱい幸福感を、ゆっくりと咀嚼する。
事務「初キッスは間接になっちゃったなぁ」
男「」
刹那、口の中に含んだ物を一気に噴出しそうになった。反射的に飲み込む。
男「事務さん!何考えてるんですか!」
事務「ちょっとは私のこと、視界に入りましたか?」
事務さんは、今まで見たこと無い様な表情をしていた。まさしく妖艶だった。
男「どうゆう意味です?」
事務「だって男さん、今日ずっと私のこと、ちゃんと見てくれないんだから」
事務「こんなにおめかしして、男さんが私のこと見てくれるの待ってたのに、男さんてば、私を見ているふりをして、違う誰かのことを考えてるんですから」
飯、風呂 中断
再開
女というのはみんなこうも勘が鋭いものなんだろうか。それとも俺が分かり易いだけなのか。なんにせよ、昨日の幼と言い、今日の事務さんと言い、俺の考えていることは全てお見通しらしい。
男「すみません。事務さんとこうしてお会いしてるのに上の空で」
事務「それは別に構いません。問題はその内容です」
心臓がはねる。この人はどこまで見透かしているんだ。
男「そんな。ちょっと仕事のことで考え事してただけですよ」
事務「昨日までの私なら、すみません、私、また変なこと言って。とか言って謝ってますけど」
事務「今はそんな事しません」
事務「男さん、貴方にとっては、今日のこれはただの買物かもしれない」
事務「でも、女にとっては、これはデートなんです。大好きな男性と、一緒に買物して、お茶して。その一瞬一瞬が、とても大切なんです」
男「すみません」
事務「私、幼さんより男さんのこと、大切に出来ます」
気づけば無意識にハンドルを握っていた。隣の事務さんは、来たときとなんら変わりなく、カーラジオに耳を傾けている。DJがリクエストからランダムで曲を流す。そんな番組だ。
DJ「次は、はりすんさんのリクエストで、ザ・ドミノス、レイラ」
これを投稿したやつは一体何のつもりなんだろう。邦題、いとしのレイラ。クラプトンがジョージ・ハリスンの妻に恋して歌った歌だ。聞き馴染んだギターリフが、車内を包む。
事務「ねえ」
男「はい?」
事務「これから男さんの家に行ってもいい?」
男「……どうしてですか?」
事務「まだ男さんと一緒に居たいから」
男「家で社長や奥さんが心配してますよ。少し帰りが遅くなってます」
事務「お母さんにはメールしてあるよ」
男「それでも、社長は俺を信頼して事務さんを預けてくれたんです。今日はこのまま送ります」
事務「今日はって事は、次があるんだ?」
男「……」
事務「ごめんなさい。少し意地悪したくなったの。男さん、私の告白の返事をずっと濁してるんだもん」
男「少し、考えさせてください」
事務「はい。ずっと待ってますから。あと」
事務「ちょっと頑固な男さんも、私、すき」
男「……」
一体、いつから事務さんはこんなにも「女性」になっていたんだろう。高校生の時の、あの大人っぽさもすっかり消え去り、正に小悪魔。頭の中を、その一言一句が揺さぶる。
なんだか上機嫌な事務さんを横目に、国道から細い県道に入る。
男「なんだか、楽しそうですね」
事務「分かりますか?今すっごい楽しいんです」
事務「やっと猫を被ってない、素の自分で男さんに接することが出来るから」
事務「今まで、ずっと大人しい女の子で男さんに接して来たんですよ?でも、もう我慢の限界でした」
男「正直、驚いてます。事務さんって、そんな顔するんだなって」
事務「あ、実は私のこと、結構みてくれてたんだぁ」
男「一応、現場組では、最後のオアシスなんて言われてますよ」
事務「じゃあ、今の私はどうですか?」
男「…言葉にできませんね」
事務「ふふ、そうですか」
男「着きました」
やっと社長邸にたどり着いた。正直ほっとする。
事務「むぅ。なんかほっとしてないですか?」
男「そんな事ないですって。さ、早く家の中へ。外は冷えます。事務さんに風邪なんかひかせたら、社長に首にされてしまいますよ」
事務「そんなこと、私がさせるわけないじゃないですか」
目が本気である。
男「ま、まぁそれは冗談ですから」
あわててインターフォンを押す。
奥「はーい」
男「男です。遅くなりました」
奥「はいはい、今開けますからね」
鍵の開く金属音が聞こえた後、扉の向こうから、奥さんが姿を現す。
奥「意外と早かったのね」
男「むしろ少し遅くなりました。すみません」
奥「いえ、それは、いいのだけれど」
奥さんは言うと、少し顔を近づけ。
奥「真面目過ぎるのもだめよ」
何とも意味深なことを仰った。
男「と、とりあえず事務さん、早く中へ」
奥「別れ際はどうぞお二人で」
楽しそうに奥さんは奥へ消えていった。
事務「男さん」
男「はい?」
聞き返すと同時に、事務さんは俺を抱き締める。
事務「もう、寂しくないから。私は、いつでも貴方の近くに居ます」
男「は、はい」
事務さんはゆっくりと、体を離す。
事務「寂しくなったら何時でも呼んで下さいね。それじゃ、おやすみなさい」
唖然としたままの俺を置いて、事務さんは玄関の扉を閉じた。
休憩。 レスありがとうございます。励みになります。ペース遅いですが、ご容赦の程お願いします
風呂から上がり、とりあえずビールを求め台所へ。机の上でスマートフォンが点滅している。確認すると事務さんからの着信が一件あった。すぐに折り返した。
男「もしもし」
事務「男さん、先ほどはお世話になりました」
男「いえ、それより、どうかされましたか?」
事務「今日は飲酒禁止ですよ?覚えてらっしゃいますか」
男「あ、そんな事言ってましたよね、ははは」
ビニール袋から紺色の缶を取り出し、容赦なくプルタブを開け、一口飲む。パンツ一丁は少し冷える。
事務「その感じだと、もう飲んじゃってますね?」
男「すみません、こればっかりは」
事務「もう、飲みすぎないで下さいよ?」
男「分りました」
事務「はい。それだけ言いたかっただけなんです。それじゃ、おやすみなさい」
男「おやすみなさい」
電話を切り、すぐに自室へ上がる。暗い部屋に入り、照明のリモコンを手探りで探す。感覚的に寝床の辺りに差し掛かったとき、何とも言い難いやわらかさが、指先に伝わってきた。驚きの余り声が出そうになるのを何とかこらえる。幸いにも、リモコンは膝に当たり見つかった。すぐに明かりを点ける。
幼が俺の布団で寝ていた。
急転直下の展開に、脳がついていかない。と言うか、昨日意気地なしと言い放った男の家で爆睡するこいつって一体。とりあえず起こす事にする。
男「おい、幼起きろ」
幼「んー」
なんか幼が酒臭い。よくよく見てみれば、幼の傍らに保管してあったはずの八海山が空で転がっている。まさか。
男「おい!起きろ!これは何だ!説明しろ!」
幼「んーうっさい……あれ、おとこじゃあん、どこいってたのよぉ」
べろべろでした。
男「幼、この酒どうしたの」
幼「へぇ?なんか隠してあったから、昨日の仕返しにぃ、のんじゃった。あははは」
男「お、お、おま」
動揺する俺を余所に、幼はむくりと起き上がり、俺に向きなおる。
幼「そんなことはどうでもいい!」
幼「あたしをおいて、どこ行ってたのぉ?」
男「会社に幼も知ってる事務さんているだろ?あの人とちょっと買い物」
幼「はい?」
幼「男、なにやってんの?」
幼「あたしがこうやってさみしさ紛らわして馬鹿みたいに飲んでる時に、男は余所の女とデートしてたの?」
男「デートってわけじゃ」
幼「お、おとこにとっては、あたし、その程度のおんなだったわけね、都合の良い家政婦とでも思ってたんだ」
男「ちょ、ちょっとまて」
休憩
ちょっと関係ない話だけれども、Star T Rain というエロゲをご存知だろうか。
少し古いゲームだけれども、これは凄くいい。失恋から始まる恋がテーマで、特に学生なんかには凄い臨場感があるゲームです。
一度ぐぐってみてくれ。俺は高一でプレイして以来、ずっと心に残ってる。
あと、レスくれた皆さんありがとう。熱も下がったし、休み休み書いてくよ
あと、レスくれた皆さんありがとう。熱も下がったし、休み休み書いてくよ
書いてた文消えてしまった。
また明日
男「そんな家政婦なんて思う分けないだろ。むしろ昨日俺が聞いただろ」
墓穴を掘った。
幼「じゃあ、はっきり言いなさいよ。昨日、わたしに言いそびれたことがあるでしょう?」
こいつは本当に酔っているんだろうか。そう思わせるほどに、流れは幼だ。
最早覚悟を決めねばならない。グレーは終わらせる。いつまでも幼は待っていてはくれない。
」
男「好きだ」
幼「……え」
男「いつも支えてくれて、ありがとう。幼、ずっと前から好きだった」
幼「あのへたれ男が……何か言ってる」
男「好きだよ、幼。これからも、ずっと一緒に居てくれ」
幼「え……やだ……どうしちゃったの?昨日みたいに黙ってないの?」
男「もう返事を先延ばしにするのはやめた」
男「返事、聞かせてくれ」
一歩幼に詰め寄る。
幼「え、やだ、こないで」
男「頑張ったのに、肝心の幼がそんなんでどうするんだよ」
幼「そんなこと言ったって」
幼は顔を両手で覆いながら後ずさる。それにあわせて、俺は進む。幼はすぐに壁に追いやられた。
男「そういえばさ」
幼「な、何?」
男「幼はショートパンツも似合うな」
今日の用はグレーのパーカーに、ジーンズのショートパンツ、下にはタイツを履いている。
男「幼のだらしない格好て見たこと無いよな。いつも俺と会うときはラフでも綺麗なかっこしてくれる」
男「昔はズボンばかりだったのに、一度俺に好きな服装聞いてきてから、幼ずっとスカート履いてるよな」
男「中学校くらいのときだっけ」
幼「なに勘違いしてるの?気持ち悪い」
男「昨日の服装も俺の好きなかんじでさ、本当は凄いどきどきした」
幼「そ、そんな風に見てたんだ」
男「うん、俺、実は結構前からそうゆう目で、幼の事みてたよ」
幼「次から、次へと、恥ずかしくないの?」
男「いざ言ってしまえば、何も恥ずかしくないな。もう告白したし」
男「で、返事は?」
幼「ちょっと待って」
男「待てるわけないだろ」
幼の細い腕をつかみ、引き寄せる。幼は簡単に、胸へと倒れてきた。
幼「や、やだ、ちょっと離して!何考えてるの!?」
男「嫌ならちゃんと抵抗しろよ」
幼「え、あ……」
どうやら押しに弱いらしい。一つ収穫。
幼「さんざん待たせて、こんなのずるい」
男「それはほんとにごめん」
ちょうど胸のところにある幼の頭を、優しくなでる。
幼「……」
男「やっと抱きしめられた。返事しないなら、このまま長年の夢をひとつずつ叶えていこう」
幼「っ」
男「嫌なら早めに言えよ?好きでもない男に何でもされてしまうぞ」
幼はそれでも返事しない。
男「では」
幼のあごを持ち、俺の方へ向かせる。拍子抜けするほどに、幼はされるがままだ。
俺に向いた幼の顔は、薄く化粧がしてあって、頬は赤く染まり、瞳は潤んでいた。自分の中から猛烈な嗜虐心が沸き起こる。こいつをどうにかしてしまいたい。昨日よりも強い欲望が、脳を支配する。
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