男「助けてあげたらキミになにをしてもいいの?」少女「はい」 (126)


男(コンビニで夕飯を買ったその帰りに女の子に話しかけられた)


少女「ほんのすこしでいいんです。食事をいただけませんか?」

男「急にそんなことを言われても」

少女「……そうですよね。じゃあ仮に、なんでもしますって言ったら?」

男「誰が?」

少女「あたしが」

男「マジで?」

少女「ご飯くれたらなんでもします。それならどうですか?」

男「助けてあげたらキミになにをしてもいいの?」

少女「はい」


男「わかった」

女「い、いいんですか?」

男「なんでもします、なんて宣言しなきゃいけないぐらいお腹すいてるんでしょ?」

男「ついでに、失礼だけどキミってばボロボロだしね」

女「ごめんなさい。汚いですよね、あたし」

男「気にしないで。俺ん家もそんなにキレイじゃないし」ニコッ

女「……」

男「どうしたの?」

女「……なんでもないです。それではお世話になります」

男(髪の色がすこしケバいことを除けば、なかなかカワイイ娘だ)

男(顔ちっさいし、ご飯を求めてくるだけあってほっそいなあ)




少女「……」

男「全然箸をつけようとしないけど。もしかしてコンビニ飯は好きじゃない?」

少女「いえ、今はなにを口に入れてもおいしいと思います」

男「じゃあ食べればいいのに」

少女「しつこいですけど、本当に食べてもいいんですか?」

男「いいよ、たかが400円ぐらいのお弁当だし。俺、そこそこお金は稼いでるし」

少女「では……いただきます」

男「どうぞどうぞ」

少女「……うぅ……くうぅ……っ」

男「な、なんで泣いてるの?」

少女「キャベツうまくて……」


男(口から千切りキャベツはみ出た状態で泣いてる。これはこれでカワイイかも)

男(そもそもこんな美少女を家にあげる機会が俺に訪れるなんて)

男(ドラマやアニメだけのシチュエーションかと思ってたけど、世の中にはこういうことがあるんだなあ)

男(しかし、「ナニをしてもいい」か)

男(だけど冷静に考えて未成年を家にあげてるって危険だよな。どうしよ)


男「泣けるほどキャベツがおいしいの?」

少女「キャベツもそうですけど、ひさびさに人の優しさに触れた気がして」

男「そ、そっか」


少女「お兄さんみたいに優しくてカッコいい人に助けられてよかったです」

男「か、カッコイイ? 俺が?」

少女「はい。
   ……もうホント、お礼はなんでもします」

男「そ、そう?」


男(俺も三十路手前。最近はアゴや腹にも肉がついて、キャッチぐらいにしかお兄さんって呼ばれないからなあ)

男(カッコイイとかキャバでも言われたことないし。気分いいな)

男(しかも白いほっぺを赤く染めて言われちゃあ、たまらないな)


●5分後

少女「ごちそうさまでした。ありがとうございます」

男「いいのいいの。ていうか足りた?」

少女「えっと、まあ」


男(すごい勢いで食べてたけど。もしかしてまだ食い足りないのか?)

男(ていうかこんなカワイイ娘が、赤の他人の家に押しかけるぐらい、腹をすかすっていったい)


少女「……すみません」

男「なに?」

少女「その、お礼の件なんですけど」

男「食べさせてもらったらなんでもする。キミはたしかにそう言ったね?」

少女「……はい、食べましたし言いました」


男「……」

少女「……」

男「……」

少女「あ、あの。黙られるとなんだか緊張してしまいます」

男「ごめんごめん。とりあえずシャワーでも浴びてきたら?」

少女「シャワー、ですか」

男「その感じだとお風呂も満足に入ってないでしょ?」ニコッ

少女「……」

男「って、今度はそっちが黙らないでよ」

少女「あたし、お世話になるのはご飯だけで十分です」

男「ここまで来たらそう変わらないよ。キミがよければお風呂にも入って」ニコッ

数日後

俺「あ~少女ちゃんの膣内気持ちいいんじゃあ~」

パンパン

少女「んほおおお!!!」

男「ただいまー」ガラ

俺「あーおかえりwお前の少女ちゃんと今よろしくやってまーすw」」


少女「あの、だけど……」

男「いちおう風呂掃除だけは欠かさずやってるから、衛生面は大丈夫のはずだよ」

少女「……あの」

男「ん?」

少女「お湯にぬくもったり、お風呂ですこし歌ったりとかしちゃっても大丈夫ですか?」

男「あ、うん」

少女「あ、ありがとうございます。本当はあたし、カラオケ大好きなんですけど」

少女「ここのところはお湯に浸かる機会もカラオケに行くお金もなくて……」

男「いいよいいよ。好きなだけ湯船につかって歌ってよ」

少女「……じゃあ、お言葉に甘えます」


●脱衣所

男(美少女は俺の風呂へと入っていった)

男(同時に俺はとんでもないことに気づいてしまった)

男(タオルぐらいなら普通に貸せるが、下着などの衣類はどうするのか、と)


男「おっほん。……湯加減はどうかな?」

少女『……ごくらくごくらくですぅ』

男「それはよかった。ところでさ、下着はどうしよ?」

少女『ああ、それならきちんと替えがあるんで。安心してください』

男「……そうなんだ」

男(あるんかいっ)

男(……服が見当たらないな。風呂場にもって入ったのか?)


少女『……すみません。服、なんでもいいのでお借りしてもいいですか?』

男「ジャージならいくつかあるから。脱衣所に置いとくね」

少女『なにからなにまですみません』

男「いえいえ」

男(ああっ! 扉越しとはいえ、風呂場から女の子の声が聞こえるとか最高だな)

男(ていうか、お風呂入ったあとはいったいどうなるんだろ)




少女「お風呂、ありがとうございました」

男「……あれ? 服は替えてないの?」

少女「これ以上お世話になるのは心苦しいので帰ります」

男「ちょ、ちょっと!?」

少女「ありがとうございました。この恩は絶対にわすれません。さようなら」

男「急にどうした? ていうか、キミはまだ俺との約束を果たしてない」

少女「……まさか、本気であたしになんでもさせる気だったんですか?」

男「いやいや」

少女「アレですか。ご飯で胃を満たしたんだから、次はお前が俺の性欲を満たせよ的な?」

男「か、かかかか考えてすらいない。ただ、急に帰るとか言われたから」


少女「お腹が満たされたら目が覚めました」

男「目が覚めた?」

少女「アレです。本当にお腹がすいてるときって、なにを食べてもおいしいじゃないですか?」

男「え? ああ、うん……」

少女「あれって空腹が引き起こした一種のバグだと、あたし思うんですよ」

少女「あたしは空腹のせいで胃どころか、目玉も頭ん中もバグってたみたいです」

男「お、おう」

少女「あと口も。冷静に考えたら、あたしヤバイこと口走ってましたね」

少女「あたしはお金も満足にもってませんし、これ以上は迷惑にしかなりません」

男「……だから?」

少女「お互いに今日のことは忘れましょう。さようなら」

男「だから勝手に帰ろうとするな」


少女「……なんなんですか?」

男「だって。キミは明らかにワケありだろ?」

少女「ワケがあったらなんなんですか?」

男「その……なにかキミの力になれないかなって思って」

少女「……」

男「もしよかったらキミの事情を話してくれないかな、俺に」

男(さっきまで飼い主に五年ぶりに会った柴犬みたいに愛らしかったのに、今の冷徹っぷりはなんだ)

男(いや、でもこういう状況ではワケを聞けばきっと……!)


少女「いえ、けっこうです。会って三十分程度の人に話したくないです」


男「えー」


男「い、いやでも。キミの抱えてる問題をもしかしたら俺が解決できるかもよ?」

少女「なぜ出会ったばかりのあたしに、そこまでしようとするんですか?」

男「そ、それは……!」

少女「ひとつ質問してもいいですか?」

男「なに? なんでも答えるよ」

少女「仮にあたしがブサイクだったら、あなたはあたしを助けましたか?」

男「へ?」

少女「あたしが歩くたびにお腹の肉が揺れるような、そういう肥満体型の女子だったら?」

少女「しゃべると黄色い歯といっしょに、口臭を撒き散らすような女子だったら?」

少女「浸かった湯船に脂が浮くような、そんな顔のニキビ女子だったら?」

少女「あなた、あたしを助けましたか?」

男「いいえ、助けてません」

少女「素直か」


男「いや、やっぱり容姿っていうのは、いろいろな面で大事だよ。こういう場面でさえね」

少女「じゃあ、あたしも同じです」

男「……?」

少女「空腹のあまり、奢ってくれたあなたをあたしの目はずいぶん美化してたみたいです」

男「……つまり?」

少女「お腹が満たされたら、カッコイイとか言ってた自分が信じられなくなりました」

男「……」

少女「あと、ときどき『ニコッ』って効果音つけて笑うの、やめたほうがいいですよ」

男「な、なんで?」

少女「つぶれた水まんじゅうみたいで、見てて不快です」

男「そ、そんな……!」


少女「あたしもどうせ助けてもらうなら、イケメンのお兄さんがいいってことです」

男「ひ、ひどいっ!」

少女「ひどいでしょう? クズでしょう?」

男「ひどいしクズだ」

少女「じゃあ、こんな女を助けるのはやめましょう」


男(……いや、待てよ。これはひょっとしたら、彼女なりの俺への気遣いなのでは?)

男(あえて俺をボロクソに言うことで、俺に苦労をかけないようにしている?)


少女「では、今度こそ私は帰ります」

男「ま、待て。金ならあるんだ」

少女「はい?」


男「キミ一人を養うぐらい、どうってことはない」

少女「お金、ですか」

男「お金はいいぞ。札束は懐を温め、こころを豊かにする」

少女「じゃあください」

男「え?」

少女「3080円でいいです」

男「なに、3080円って?」

少女「あたしのバイト先の喫茶店で、四時間働いた場合のお金が、3080円なんです」

男「はあ」

少女「それだけあれば、二日は満喫で寝ることができますから」

男「あ、あのねえ。満喫っていうのは夜は子どもは泊まれないの」

少女「……」


男「とにかく。漫画喫茶に泊まるぐらいなら、まだ俺の家に泊まったほうがいい」

男(そう、泊まってしまえばいいんだ。そうしたら、きっとこんなシチュエーションが待っている)


男『おまえはベッドで寝ろよ』

少女『そ、そんなのはダメです。あたしがソファで寝ます』

男『バーロー。女の子がベッド以外で寝るなんてあってたまるかよ』

少女『じゃ、じゃあ一緒のベッドで寝ます』 

男『え? なんだって?』

少女『し、仕方ないから一緒のベッドで寝てやるって言ったんですぅ!』

男『フッ……仕方ねえな』


男(……なんてふうになるにちがいない)


男「もう一度言う。泊まる場所がないなら、俺ん家に泊まりな」

少女「絶対に無理です」

男「なにもしないって。なんなら腕に手錠をかけてもいい」

少女「……手錠、もってるんですか?」

男「あ、いや、それは……」

少女「ていうか、正直に言います。怖いんです」

男「俺が怖い? 俺ってば昔はいじめられっ子だったんだよ?」

少女「ええ。あたしもたぶん、本能的に弱そうだと思ったから話しかけたんだと思います」

男「じゃあいいじゃん」

少女「でも、あなたは赤の他人ですし。やっぱり怖いです」

男「くそっ、やっぱりイケメンじゃないとダメなのか」

少女「いえ。たとえイケメンでも、こういう状況だったら怖いことに変わりはありません」


男(どうやら空腹で頭がおかしくなってたのは、本当みたいだな)


男「えっと、結局キミとしては本当にお金もご飯もいらないってことなの?」

少女「はい。ここまでしてもらって、これ以上してもらうのは……」

男「お金には本当に余裕があるよ? 一人暮らしだから、飯のつくり方だってわかる」

男「なんなら、キミが知らない生活の知恵も教えてあげられる」

少女「あのー、そういうのって一歩間違ったら洗脳になりませんか?」

男「せ、洗脳?」

少女「もっとわかりやすく言うと、アレです」

少女「失恋して弱ってる女子につけこむ男子みたいです」

男「……」


少女「暖かい食事や魅力的な知識って飴玉で、あたしを篭絡しようとしてませんか?」

男「……いや、それは本気で考えてなかったけど」

少女「でも、一歩間違ったら同じことです」

男「まあ……」

少女「あなたがなにも知らないあたしに、どんな幻想を抱いてくれてるのか知りませんけど」

少女「こんな他所の家にホイホイあがるような女、かかわらない方がいいですよ」

男「えー」

少女「ていうか、あなたは彼女とかいないんですか?」

男「な、なぜ急にそんなことを……」


男「な、なんでキミに俺のことを話さなきゃならないんだよ……」

少女「ほら、あたしと同じこと言ってる」

男「あっ……」

少女「あなた、いままで彼氏とかいたことないでしょ?」

男「そ、そんなことはない」

少女「そうなんですか。見た目で判断してすみません」

男「……ごめん。実はこの年になって、いまだに彼女はできたことないんだ」

少女「あたしなんかに見栄をはってどうするんですか」

男「いやあ、だって今後も長い付き合いになるかもしれないし」

少女「それは絶対にないです」

男「そ、そんなあ」

訂正

少女「あなた、いままで彼氏とかいたことないでしょ?」×

少女「あなた、いままで彼女とかいたことないでしょ?」○


少女「あたしはあなたにとっての白馬に乗ったお姫様ではありません」

男「……」

少女「もちろん、あなたはあたしにとっての白馬に乗った王子様でもない」

男「……はぁ」

男「……たしかに俺がやろうとしたことは、見せかけの親切なのかも」

男「本質は弱みを見つけて取り入れようとするクズと同じなのかもなあ」

少女「サイテー」

男「あはは。いやあ、ついつい妄想みたいな状況に出くわしちゃったからさ」

少女「……まあ、でも。あたしも妄想はよくしますよ?」

男「へえ、どんな?」

少女「秘密です」

男「ざんねん」


男「……話は変わるけど。キミは家庭に問題を抱えてるんでしょ?」

少女「そうですけど」

男「だったら、その問題は解決しなきゃダメなんじゃないの?」

少女「もちろん、そのとおりです」

少女「だけどそれはあたしがどうにかすることです。あなたがどうこうする話ではありません」

男「冷たい」

少女「自分の家のことを、たまたまあった赤の他人にどうにかしてもらおうっていうのはおかしいですよ」

男「……夢がないなあ」

少女「そういうわけで。とにかく、あたしはもう行きます」

男「ちょちょちょっ!」

少女「……なんですか? まだなにか用でも?」


男「いや。こんなことを聞くのは、年上の男として聞くのは恥ずかしいんだけどさ」

少女「なんですか?」

男「彼女って……どうやったらできるのかな?」

少女「は?」

男「いや、キミってモテそうだし恋愛の極意みたいなものを聞いておきたくて」

少女「……そうですね。白馬に乗ったお姫様を待ってても恋愛は始まらない……それは間違いないと思います」

少女「都合よく自分の前に現れた女の子に飛びつかないで、自分から飛びこむ」

少女「それが大事なんじゃないですか?」

男「……なんていうか、耳が痛いね」

少女「あたしからも質問いいですか?」

男「……なに?」


少女「どうやったらお金もちになれますか?」

男「……簡単。俺みたいな金持ちと結婚すればいい」

少女「それ以外でおねがいします」

男「じゃあ知らん」

少女「冷たいですね。まっ、いいですけど」

男「……」

少女「……」

男「じゃあ、そろそろ行くんだろ?」

少女「はい。おうちに帰ります。それでは」

男「うん」

少女「食事とお風呂、本当に幸せでした。ありがとうございました」

男「うん」


少女「それから」

男「?」

少女「妄想はほどほどに」

男「……はいはい」


男(次の日。
  
  当たり前だけど彼女はいなかった。
  彼女がいたっていう痕跡だけは残っていたが、まあ二度と会うことはないだろう)

  だけど、彼女の言葉だけは胸に残った。

  白馬に乗ったお姫様をまってるようではダメ。そのとおりだ。

  アニメやら漫画やらを見てると、ついつい自分だけの都合のいいヒロインが来てくれないかって思ってしまう。
  俺にとってのヒロインは、あの少女だった。

 
  俺はそれになんとか飛びつこうとしたけど、それじゃあダメなんだよな。
 


 あの娘の言ったことは正しい。
 俺がやろうとしたことは、結局金やら飯やらで手篭めにする最低な行為だ。

 見せかけの優しさで女の子を自分のものにしようとする最低な行為だ。

 妄想の範囲なら許されても現実にやっちゃいけない行為だ。

 そんなのは男のやることじゃない。
 なるほど。俺がいままでの人生で彼女ができなかったこと理由もわかるってもんだ。

 いつまでも心地のいい妄想に浸かってちゃいけない。
 いや、ガキならゆるされてもいい年した大人のやることではない。


 だから俺はあの少女との出会い以来、いろいろと積極的になることにした。


 まあはたから見たら大した変化じゃないかもしれない。

 本当にささいなことだ。

 時間を見つけては友人たちと以前より関わったり。
 ネットを見ていた時間で、ジョギングをするようになったり。
 ささやかな趣味を見つけたり。

 まあ、それでなにかが変わったわけではないけど。

 しかし、その趣味のおかげで俺は今までよりおいしいコーヒーを楽しめるようになった。

 趣味っていうのは個人の喫茶店を巡って、おいしい豆を入手したり
 上手なコーヒーのいれかたを店員に聞いたり、とそんなもんだ。

 
 で、今日もとある喫茶店を訪れた。


店員「いらっしゃいませ。一名様ですか?」

男「……」

店員「お客様? どうかしましたか?」

男「……いえ、閉店ギリギリの時間だったから、入ってもいいのかなって」

店員「大丈夫ですよ。コーヒー一杯、いえ、二杯ぐらいなら」

男「じゃあ、アメリカンを」

店員「……あの、もしよろしかったらもう一杯頼んでくださいませんか」

男「……なんでですか?」


店員「うーん、なんででしょう」

店員「でも、じゃあ仮にコーヒーを頼んでくれたら、なんでもしますって言ったら?」

男「誰が?」

店員「もちろん、あたしが」

男「マジで」

少女「コーヒーをもういっぱい頼んでくれたらなんでもします。それならどうですか?」

男「コーヒー頼んだら、なにをしてもいいの?」

店員「……やっぱり、なんでもはダメです」


男(そう言うと店員は、すこしだけ白いほっぺを赤くした)



おわり

おわりだ
妄想のしすぎはよくないぞって話でした

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