穂乃果「神様の目線?」 (21)

仕事を終えるのは、どんな内容の仕事でも素晴らしい事なのだと思うが、俺は同時に辛い事だとも思う。

仕事というのは一つの生き甲斐で、生きる意味そのものに通じていると思うからだ。
つまり、仕事が終わるという事は生きる意味の一つを失う意味も含まれている気もする。

俺の仕事は高坂穂乃果、彼女のスクールアイドルとしての活躍を支え続ける事だったのだが、それが終わってしまった。

これが普通の男だったら、渇きを満たすために酒を飲むのだろう。
またはどこかのファミレスで仲間と胸の内に秘めていた、溜め込んでいた情熱を語りあったり、新しい応援の対象を探したりしただろう。

これが普通の女だったら、喜びの裏の悲しみをごまかすためにケーキバイキングやパフェに向かって想いをぶつけ、満足するまで食べるなり、どこかの喫茶店でその情熱を語るなりするのだろう。

ん?
そう思うと男も女もやる事は一緒なのかもしれない。

だが俺はそんな事はしない。
いや、できないと言った方がいいか。


俺が誰かって?

当てられるものか。
当てられたら100ポイント分のラブカとスクフェスの限定シリアルコードをまとめてくれてやる。

穂乃果の親父?

違う。
あの人は酒が好きだし、高坂穂乃果を今でも支えてるからな。


穂乃果の彼氏?

ふざけるな。
いたいけな高校生の穂乃果を支えるのが仕事の男なんて情けなさすぎて穂乃果の方から願い下げだろうが。

μ'sを応援している最古参のモブ?

おいおい、なんでそこでランクを下げた!?

それにヒデコ・フミ・ミカはこんな口調じゃないし、それ以上の古参なんていない。

ましてや男なんて出る幕が無いぞ。


まだわからないか?

仕方がない、答えを教えてやるよ。


俺は"Tシャツ"だ。

正確にはデカデカと「ほ」の字がプリントされたオレンジのTシャツだ。

俺に名前はないが、一応"ほの字Tシャツ"とか、"ほのT"なんて呼ばれている。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419604025

希「ねぇ、穂乃果ちゃんは神様って信じてる?」

穂乃果「え?うん。信じてるよ」

希「じゃあさ、『八百万の神』ってのは?」

穂乃果「うーん、名前だけは知ってるけど、どんな神様なのかはわからないかなぁ」

希「じゃあ教えてあげるよ」

希「日本では昔から、あらゆる物には神様が宿るって信じられてたんよ」

希「石にも、木にも、筆にも、それこそお饅頭にだってね」

希「でね、うちは思うんよ」

希「もしかしたら、このタロットや穂乃果ちゃんの大切な物にも神様や魂は宿ってるのかもしれない・・・なんてね♪」

期待

改めて言おう。

俺はTシャツだ。

当てられたか?でも残念だが、俺はラブカもシリアルコードもあげれない。

なんたってTシャツなんだからな。

俺は1年間、正確には半年だがスクールアイドルとして活動した少女、高坂穂乃果を見守ってきた。

あいつの肌を汗や土の汚れから守り、あいつに快適な着心地と適度な暖かさを与える、それが俺の仕事だった。

そんな俺の一生のそのもの、どうか聞いてくれないだろうか

あいつとの出逢いは1年前の夏の終わり、季節の変わり目だった。

偉大なる俺の先輩、青いほの字Tシャツの引退に備えられて彼女に買われたのが俺だ。

練習着にはちょうど良い学校指定のジャージがあるのに、俺や偉大なる先輩を買ったのは、多分あいつの中にアイドルという目標に挑むための願掛けみたいな意味も込めてたんだと思う。

そういう意味じゃ俺はあいつの練習着になれて本当に良かったと思う。

色違いを買う辺り、あいつは、この『ほ』の一文字を気に入っていたのかもしれない。

俺の方としてもあいつの意識を惹いたであろうこのデカデカとした『ほ』の一文字はシンプルな事もあって気に入っているし、音ノ木坂学院の学校指定ジャージではなかった事には本当に感謝している。

この『ほ』のデカさはそのまま俺自身のこの態度と自信のデカさにも繋がっているんだと思う。

さて、話を戻そう。

俺は高坂穂乃果の冬季用の練習着として買われ、半年でその仕事を終えた。

普通、運動着ってのは少なくとも2,3年は持つものだが、それはすごく嬉しい誤算で、会えたのがあいつで良かったと思っている。

あいつで良かったなんてのは道具にしては思い上がった感情なのかもしれないが、事実なのだから仕方がない。

道具は誰がどう使うかでその価値が決まる。

例えば筆、どんなに素晴らしい一本だったとしても用途が小学生の習字の練習では良い仕事は中々できない。

勉強のための用具としてはその筆としての価値は満たされないんじゃないかと思う。

だが、作品に凄まじい値打ちがつくような巨匠に使われたら、それは筆としては最高の用途と言えるだろう。

俺は筆に詳しくないからこの例えが正しいのかは自信は正直無い。

だが、道具はどうせ使われるなら最高の仕事がしたいと思うものだ。

その点、あいつは俺に想像できる限りでは良い方、むしろ最高の持ち主だったと思う。

ほのTのSSかよ
期待

あいつは俺を着て、走って、踊って、歌った。

俺はそりゃあ驚いたもんだ。

見た目は可憐な女の子がやってる事は過酷なトレーニングなんだからな。

それからは次第に俺もあいつの事が好きになっていった。

あいつの・・・いや、あいつらの歌声は好みだったし、何より自分の仕事ができる事にやりがいを感じてたんだからな。

でも何も全部が全部いい事ばかりってわけじゃなかったな。

あいつ、俺をパジャマにした事があるんだぞ!?

「ついでであの仕事もやっといて」なんて担当でもない仕事をやれって言われたら人間だって静かな怒りは感じるもんじゃないか?

あの時は抗議の声をあげたかったね。(もちろん声は出せないが)

しかもあいつは合宿とかなんとか言いながら俺を着たまま2回も眠りやがった。

しかも2回目に至っては寝相が悪すぎてそのまま地面を転がりながら、崖っぷちの所まで行きやがった。

落ちる前に起きるように必死に念を送っていたのが今では懐かしい。

あいつが目覚めて仲間に会った時、何も知らない他の連中は深くは触れなかったが、あの時の俺はこいつは眠っている間、縛りつけた方がいいと切に思ったね。

でも、その後に見たことり、海未、真姫(あいつの仲間達の名前だ)の3人の寝顔が本当に綺麗で、それまでの怒りなんて消えちまったのも覚えてるな。

それからあいつらは練習を積んで、ライブをして見事勝ち残ったんだが、あいつらの練習をいつも見ていた俺からしたら当然の結果だと思ったものさ。

まぁそれでもあいつらが俺に結果を教えてくれるまではヒヤヒヤしたもんだが。


その後のあいつは仲間との距離を詰めるために悩んでいた。

メンバーの一人、矢澤にこが練習に来ないからだ。

そして発覚する矢澤にこの悲しい過去、それを穂乃果の鞄の中で聞いた時、俺も涙が目尻に溜まりそうになったものだ(もちろん涙なんて出ないが)

あいつらは矢澤にこのために何かを想って、それからのあいつとにこ、他の皆の顔は本当によくなっていったと思う。


それから続くレッスンの日々、それから俺はあいつの修学旅行なんていう臨時休暇を貰ったんだが、その数日間は本当に退屈だったぜ。

退屈な休暇も終わって、俺も久々の練習に向かったら、星空凛の練習着がスカートになったのも覚えてる。

嬉しそうな、いかにもお気に入りって顔してスカートを穿く凛の姿を見て、俺はあのスカートになりたいって思ったもんだね。

やっぱり衣服としては華やかに着られたいって願望もあるし、何より練習着同士だからな。

それからは・・・そうだ、ハロウィンのイベントのための練習があったんだったな。

あの時は新しいμ'sとか言いながら俺を着る事もせずに皆が色んな衣装を作って、着てたもんだ。

チラッとこれまでのあいつらの路線から逸脱した、アイドルにあるまじきパンクな衣装も見えて、それをつけてるあいつらを想像して笑ったりもしたな。

その一環で俺はあいつらの仲間の一人である東條希に着られたが、あの時はおれの人生(人ではないが)最大の危機だった。

彼女、バストが穂乃果の比じゃないくらいに大きかったんだ。

あの時は伸びてしまうんじゃないかなんて戦慄していたが、なんとか事なきを得たよ。

余談だが、彼女は穂乃果の真似がすごくうまかった。まぁ、もっと他の部分を真似してやれよと思ったがな。

それからは他に何をやって、最終的にどうなってたのかはわからなかったが、もし俺があいつのブレザーか髪留めだったら一部始終を知れたのかね?

まぁ、高坂穂乃果のTシャツだった事が俺の誇りだから、そんな「もしも」なんて実際はそれほど興味があるもんじゃないが。

あいつが満足げに見つけたよなんて報告した以上、俺はそれ以上は興味もないしな。

寒気が近づいてからは室内でのミーティングが増えた。

俺も、あの頃は乾燥機の暖風が身に染みたな(もちろん…)

そんで、あいつらは皆で新しい曲を作ろうって話になった。それから俺の仕事は減ったがまぁ仕方ない。

それに、9人で一つの曲を作るというのはこれまでに無かった事でもあるし、大目にみようという物だ。

あいつらの間で何があったかは俺には知る由もないが、曲が完成した時、絆はもっともっと固くなったみたいだった。

曲が出来上がってからのあいつらの練習はいつも以上に過酷ではあったな。

そりゃそうだ。なんせ他よりもスタートが遅いようなもんなんだからな。

でも、あの時のあいつらはこれまでで一番楽しそうだった。

なんというか、元々近かった全員の距離がまた近づいた感じというか・・・上手く言えないな。

AーRISEは強敵だったが、彼女らを倒せたのは、μ'sだけの持っている物のおかげなんだろうな。

エリちに涙や鼻水がかかったかもしれないとかそんな懺悔に戸惑いながら、そんな事を思ったのが昨日の事のように思い出せる。

それから決勝行きが決まって、あいつらが今後のμ'sについて話してたのも覚えてるが・・・

まぁ、あいつらは皆が納得のいく答えを出せたんだと思う。


それから遂に迎えたラブライブの決勝戦。

半年間、一番近くからあいつらを見ていた俺からすれば、あいつらの成長は当然でもあり意外でもあった。

あいつとは…穂乃果の事は一方的に「相棒」なんて呼びたくなっていたね。

まぁ穂乃果の相棒はμ'sの仲間で、俺じゃないんだから、そんなこと口が裂けても言えんがね。

俺はずっと、居間のハンガーにかかって穂乃果と穂乃果の家族の日常を見ている。

何位かどうかの報告を聞く事がなかったし、穂乃果の家族口に出さないから正確にはわからんが、俺の勝手な推測だと多分優勝したんだと思う。

穂乃果や雪穂が俺に向けて言った「ありがとう」はそういう意味なんだって俺は信じてる。

俺はTシャツとしての仕事を全うしたし、ただのTシャツがこんな事を思う所まで来れた、これ以上の幸せはないし、穂乃果と出会ったのは俺にとって最高の事だった。

だが、あいつは・・・穂乃果はどうなんだろうか

あいつはこの一年で本当にやりたい事を全うできたのだろうか

あいつはあいつの仕事を終わらせる事ができたのだろうか


俺は物も人も、その一生はノートみたいな物だと思う

俺のノートはもう文字がびっしりと埋まっている

そりゃあもうあいつの最後の報告と結びの一言以外は書き込む余裕が無いほどにな。


あいつのノートはまだほんの数ページが埋まっただけだろう。

それでも穂乃果にとって、このページには大きな区切りとしおりがついているはずだ。

あいつは、その一つの区切りに経った今、このページを振り返って、満足したと言えるのだろうか。やり遂げたと言えるのだろうか。

あいつがこの一年の全てに一つの区切りをつけた時、最後までやり遂げたと胸を張って言える事を・・・

既に言っている事を、俺は捨てられるその時までずっと願っているんだろう。








ーFinー

希『穂乃果ちゃん、前にも言ったけど、八百万の神様みたいに、穂乃果ちゃんの大切な物にも神様や魂は宿ると思うんよ』

希『だからね、うちは穂乃果ちゃんのTシャツにも魂があると思うんだよね。』

希『だからうちが、ちょっと穂乃果ちゃんのTシャツで小説を書いてみた。』

希『暇な時とか、受験勉強の息抜きにでも読んでみて、感想教えてね』


希からの手紙を読み終わり、海未達は生徒会室の机に積み重ねられたA4の束を見る。


海未「・・・で、これが希が書いたという小説ですか」

ことり「内容はどうだったの?」

穂乃果「あー・・・うん、読めばわかるよ」

海未「結構な量がありますけど・・・あれ?園田海未編?」

ことり「あっ、ことり編もある」

穂乃果「希ちゃん、私達9人分の小説をきっちり書き上げてきたんだ」

ことり「す、すごいね…」

穂乃果「でも穂乃果、Tシャツに喋りかけたりなんてしてないよ!」


海未「あれ?副題も付いてますね・・・園田海未、ネコミミとの確執編・・・・・ってなんですかこれは!?」

ことり「南ことり、ミシンと夢が紡ぐ世界と苺パンツ編・・・って何これ!?」

海未「しかもこれ、意外と文量ありますよ!?」

ことり「希ちゃん・・・大学で何やってるのかな」

穂乃果「・・・さぁ?」

海未「というか、なんでにこや絵里、それに希自身のまでここにあるんでしょうか」

ことり「・・・」

穂乃果「・・・」

「「さあ?」」

俺はこの小説が大体正しい事を知っている。

これに書かれているのは全てが事実だし、穂乃果は間接的にではあるが、俺に大会の報告もしていたし、『ありがとう』って言った。


このただのTシャツにだ。

いや、それどころかリストバンドとか、衣装にもまとめて感謝していた。

Tシャツやリストバンドが「どういたしまして」とか「次も頑張れ」とか「俺たちがついている」なんて返事をするとでも思っているのだろうか。

ましてや、俺以外の連中にもその言葉が伝わっているのかすら怪しい。

馬鹿馬鹿しい話だ。

でも、俺はそんな穂乃果の事が好きだし、穂乃果の言葉はみんなに伝わっていると俺は信じてる。

俺はどんなときも、彼女の作る未来が明るい事を信じてる。

ずっと。

ー Fin ー








元ネタは仮面ライダーオーズの小説でした。

もっと練れた気がするけど終わりです

最後まで読んでくれた人ありがとう

おつ
斬新で良かった

穂乃果×Tシャツってなんか新しい気がする


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