希「とある雨の日」 (41)

・設定はSIDとかアニメとかごっちゃになってるので、生暖かく見守っていただけると幸いです。

・地の文は真姫ちゃん一人語り。SID風に捉えていただけると。

・SID希編の微ネタバレあるかも。気になる方は注意。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1400676787

今日はお天道様が顔を隠してる。

穂乃果ちゃんとか凛ちゃんは練習できなくてやだーって言うけど、うちは嫌いじゃない。

雨が地面を叩く音。

なんだかちょっといつもよりも静かなこの感じ。

なんだかとってもスピリチュアルやん?

こんな日は傘をさしてお散歩。

うちのイメージカラーの濃い紫色の紫陽花の咲いた傘。

とってもお気に入りなんよ。

ぶらぶら歩いて、なんとなく学校に来てみる。

だーれもいなくて、すっごく静か。

ちょっとだけ聞こえてくるのは吹奏楽部の練習の音かな。

誰もいない校庭をのんびり歩く。

とんっ。

「ん?」

弓道場に近づいたとき、小気味のいい音。

何やろ、と思って弓道場のちょっぴり開いてた扉から覗いてみる。

そこにいたのは綺麗な長い黒髪を束ねて、的に向かって弓を引いてる道着姿の女の子。

くっと息を止めて。

次の瞬間。弦の弾かれる音がしたと思ったら。

とんっ。

的の真ん中に矢が吸い込まれていった。

「ふう……」

その女の子はふっと息を吐き、残心(やったっけ?)を解く。

「おー、さすがやね海未ちゃん」

ぱちぱち、と拍手しながらうちは弓道場に入っていく。

「……希?どうしたんです、こんなところで」

不思議そうな顔をしながら束ねた髪を解く海未ちゃん。

女の子から見てもとっても綺麗で、ちょっと見とれちゃう。

「雨だし、ちょっとお散歩にね」

「雨だしって、普通雨の日はあんまり出歩かないものでしょうに」

くすっと笑って片付けを始める海未ちゃん。

「あれ、練習は終わりなん?」

「ええ、ちょっと弓を引きたくなっただけですから」

もうちょっと見ていたかったから、ちょっぴり残念。

うちは弓道場の隅っこに腰を下ろして、片付けをする海未ちゃんを見る。

とっても凛々しくて、カッコいい女の子。

同性から見ても羨ましいなーって思うんよ。

まさに大和撫子!って感じやん?

でもね。

「……ラブアローシュート」

ぼそっと呟いてみる。

がしゃん。

あ、道具落とした。

「の、希……どこでそれを?」

「さて、どこでしょう?」

そんな風にとぼけて。

海未ちゃんの顔はリンゴみたいに真っ赤っ赤。

お堅い子かと思えば、とっても可愛い一面も持ってて。

最初はアイドルなんて!って言ってたみたいだけど、ある意味1番向いてそうやんな。

「勘弁してください……」

「ライブとかでやってみたらええのに、絶対ウケるよ?」

肩を落とす海未ちゃん。

くすくす、と笑いかけるうち。

「む、無理です!」

「可愛いと思うのになあ」

見られてた、見られてたとぶつぶつ言いながら片付けを続ける。

ホント、照れ屋さんやね。

「ふう……お待たせしました、希」

「んーん、うちが勝手に待ってただけだから」

海未ちゃんはうちの隣にすっと座る。

一つ一つの動作が本当に綺麗だなーって思う。

「こうして2人きりで話すの、珍しいね」

「そうですね、9人でいるといつも騒がしいですから」

なんて苦笑い。

「そういえば、私はあんまり希のこと知りませんね」

「うちのこと?」

「ええ」

たしかに、自分のことってあんまり話さないかも。

まあ……そんなに楽しい話もないからね。

「教えてくださいよ、希のこと」

「珍しくグイグイくるねえ、海未ちゃん」

「せっかくですから。いつもわしわしされてるだけじゃ割に合いませんし」

いたずらっぽく笑う。

μ’sにいるときはあんまり見せない表情。

「と、言われてもなあ……あんまり面白い話もないんよ?」

「なんでもいいですよ。出身地のこととか、あの謎のカードのこととか」

謎のカードって。ふふっ。

「希のご家庭は転勤族、なんでしたっけ?」

「えりちから聞いた?」

「ええ、ちょっとだけですけど」

そっか、それは知ってたんやね。

「うん、転勤族。小学校も中学校も、あっちこっち回ってたんよ」

「大変じゃなかったですか?」

「まあ、それなりにはね。でも、慣れたから」

それはちょっぴり苦い過去。

苦い……と言ってもイジメられてたとか、そんなんじゃないんよ?

でもやっぱり数年ごとに環境がガラッと変わっちゃうのは子ども心になかなかしんどいときもあった。

「慣れ、ですか……そういうものですか」

海未ちゃんは難しい顔をして考えこむ。

「海未ちゃんはずっと音ノ木坂だもんねえ」

「ええ、穂乃果やことりとは特に長い付き合いですので」

「幼馴染かー、ええなあ」

子どもの頃から抱えてた、コンプレックス。

友達作るのがあんまり上手くないから、ちょっと「見える」ことを理由に占いやカードに頼ったりして。

そんなことをちょっとだけ思い出しちゃって。

「ときどきな、不安になるんよ」

「不安、ですか?」

ぽろっとこぼしてしまった、いつもは隠してる気持ち。

「μ’sに入るとき、カードがうちに、なんて気取って言ったけど」

え?真姫ちゃん一人語り?

「ホントはただ、羨ましかったんよ」

「一生懸命、誰もいない講堂で必死に歌う3人が」

「あんなに頑張れる、打ち込めることがあるってすごいなって」

「一緒に頑張れる仲間がいるって、ええなって」

「うちも、あの輪の中に入りたいってそう思って……」

「そんで、いざμ’sに入ったらすっごく楽しくて」

でもな、でも。

こんなに仲良くしてくれる友達って初めてやから。

「みんなは、うちのことどう思ってるのかなって」

「こんな時間がいつまで続くのかなって」

今は一人暮らしさせてもらってるから転勤ってことはないけど。

「この時間が終わったら……卒業したら……」

「うちのこと置いてみんな離れていっちゃうやないやろか……って」

怖いんよ、すっごく。

「希」

海未ちゃん、ちょっぴり悲しそうな顔。

「いや、ち、違うんよ?みんなのこと信頼してないとかじゃなくて、すっごく大事な友達やと思ってるし」

「希」

今度は、ちょっぴり怒った顔。

「は、はい?」

「お仕置きです」

むにーっとうちのほっぺを掴む海未ちゃん。

「う、海未ひゃん?」

「まったく……何を言い出すのかと思ったら」

ふう、と息をついて。

「見くびらないでください」

ピシっとハッキリ言い切る。

「私達は、9人揃ってμ’sです」

「そう言ったのは他でもない希自身ではないですか」

「卒業したからって、距離が離れたからって」

「そんなの関係ありません。私達はずっと友人であり仲間です」

「寂しいこと言わないでください」

「確かに付き合いはちょっぴり短いですけど……」

「私は、希のこと穂乃果やことりと同じくらい大切な友人だと思っていますよ」

困ったような顔で、ちょっと恥ずかしそうにはにかむ海未ちゃん。

ああ、うちってこんなに弱かったんやね。

こんな風に言ってもらえるだけで、すごく心があったかい。

「ありがとう……ありがとう、海未ちゃん……」

お礼を言うだけなのに、声が震える。

嬉しい、嬉しいんよ……。

「ああもう、泣かないでくださいよ……」

海未ちゃんは頭を撫でてくれる。

これじゃ、どっちが年上か分からんなあ。カッコ悪いやん。

「誰に聞いても同じこと言いますよ、きっと」

優しい声。

「絵里なんて、きっと激怒しますよ?私のことなんだと思ってるのーって」

ふふ、そうかもしれんね。

それからしばらく、2人で黙って座ってた。

でもそれは心地いい沈黙で。

道場の屋根を叩く雨の音がしだいに弱くなって。

「……ふう、海未ちゃん……ごめんな?」

「何を謝ることがあるんですか?友達、でしょう?」

>>21
ああああ、希です希!

すいませんorz

にこっと笑って。

「まあでも、少しでも悪いと思うならわしわしは控えてくださいね」

「それは保証できんなー」

くすくす。

海未ちゃんはすっと立ち上がる。

「さて、そろそろ帰りましょう。雨も止みました」

「そうやね」

弓道場の扉を開けて外に出ると。

「おー、綺麗な虹やん」

「これは見事ですね……」

大空にかかる七色のアーチ。

「希の涙雨がかけてくれた虹、ですかね」

「ちょっ……勘弁してよー」

思わぬ海未ちゃんからの攻撃。

まあ、借り一つ、やね。

「μ’sの前途はきっと明るいね、海未ちゃん」

「ふふ、カードがそう告げてるんですか?」

「ううん……」

「うちが……うち自身がそう思うから」

「そうですか、じゃあきっとそうなんでしょう」

にっこり笑う。

そんなやりとりをしながら。

おっきなおっきな虹のアーチの下をくぐって帰る。

雨上がりの道はちょっとだけ転びやすいけど。

仲間がいれば大丈夫。

転んでも、手を貸してくれる大切な友達。

ああ、きっと明日は晴れやんな―――

以上です。

初っ端から締まらないミスやっちまいましたが、雨だししっとりした話を書きたいと思って書きました。

もうちょい甘めにするつもりが思いの外重くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。

今回は特に続きはないのでこれで終わりです。

では、またよろしくお願いします。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年05月28日 (水) 01:24:48   ID: Upb_tfas

完成度高い!

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom