TAG FORCE EXTRA 【遊戯王5D'sタッグフォース】 (693)

遊戯王タッグフォースSPの発売を祝って、SSを書こうと思い立ちました。見苦しい所も多々あるかと思いますが、読んで頂けたら幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419597112

凄そうなバーバリアンだな

甲高いエンジン音が響く。赤いバイク──Dホイールが滑るように地面を疾走していた。

「…………」

走っているのは舗装されている道路などではなく、数え切れないコンクリートの破片やゴミが散乱している悪路だ。

そもそも、これは人が移動するための道であり、Dホイールでの走行は考慮されていない。車体は常に強く揺さぶられ、常人なら瞬く間にクラッシュするか、胃の内容物をぶちまけるかのどちらかだろう。

逆に言えば、ここを日常的に走っていればライディングの腕前は面白いように上達するのだが。

「……15秒か」

狭い路地を突っ切り、トンネルを抜ける。所定のコースを巡りながら、周囲の風景を仰ぎ見た。

見渡す限りの廃墟。今にも崩落しそうなビルが乱立し、地面から無造作に生えた煙突からは、ゴミを燃やした煙が延々と吐き出されている。

空は濁ったような曇天。日の光は差さず、汚れた雨だけが降る。思えば、星は長いこと見ていない。厚い煙に邪魔されては、夜空の星など容易くかき消されてしまう。

ここはサテライト。

シティの繁栄の影に隠れた、搾取されるだけの古い街。


コテ外せよ

「……42秒」

タイムは思っていたより振るわない。昨日と比べれば2秒ほど速くなってはいるが、とても満足できない。雑念のせいか。

居住区に入ると、ちらほらと人影が見えてきた。満足に電気も通っていないせいで、寒さを凌ぐために身を寄せ合って火を焚いている。

今は夜だ。迷惑にならないよう、レース用のマニュアル操作から移動用のオートパイロットへ切り替える。モーメント・エンジンの回転数が落ちると共に、エンジン音も気にならない程度に静かになった。

住民の顔色は暗い。若者から老人まで、一様に俯き、ただ呼吸をしているだけ。あれでは死んでいるのと変わらない。

「…………っ」

何故だか、無性に焦りが募る。居住区を過ぎたと同時に、マニュアル操作へ戻した。淀んだ風を振り切るようにスロットルを回す。

柄にもなく、苛つきで運転してしまった。タイム計測もどうでもよかった。どうせろくな記録は出せないし、今日の問題点は既に把握している。後は住処に戻って改良するだけ。徹夜になるだろうが、それとていつもやっている事だ。

こうやって毎日走り、毎日計り、毎日直す。少しずつ目標に近づいているのは分かるが、歩みは耐え難いほど遅かった。気持ちばかり逸ってしまう。

だからか、明らかにいつもより集中力が散っていたことにも気が回らなかった。

だから──気づくのが遅れてしまった。

「…………!」

目の前に人影。このままでは激突する。思い切りブレーキを掛けつつ、回避コースを探す。駄目だ。狭い。

「くっ……!」

車体を横に逃がしつつ、タイヤの摩擦でもって減速。降り積もった埃のせいで滑る。それでも減速。地面を削りながら、なんとか停止した。暗闇と砂埃のために、視界はほぼゼロだった。

最悪の予想が頭をよぎる。Dホイールから飛び降り、ヘルメットを投げ捨てつつ、轢いてしまったかもしれない歩行者の無事を確認した。

良かった。傷一つ無い。

「すまない。怪我はないか?」

口から出たのは、自分でも驚くほど簡素で冷静な言葉だった。

「…………」

相手は無言のまま立ち尽くしている。表情は判然としない。目深にかぶった赤い帽子のせいだ。

「完全に俺の不注意だ。もし、痛む所があるのなら……」

「……いや、怪我は無い。こちらもすまなかった。まさか──Dホイールの通り道だとは思わなくて」

相手が初めて口を開いた。その視線は自分を轢き殺しかけたDホイールに向いている。思えば、彼は先ほどから一歩も動いていない。よほど興味があるのか。見れば、彼の左手には金色のデュエルディスクが装着されている。

「……決闘者(デュエリスト)、か?」

思わず、そんなことを訊いてしまった。今回の件を相手がそれほど気にしていないらしいことが、口を軽くしてしまった。

「カードは……持っていない。集めている最中でな。八枚目を手に入れたところだ」

右手に持っていたカードを見る。



作者はsagaしたほうがいいよ~

sageは更新に気づきにくいからね

ご指摘ありがとうございます。直しました

《チューン・ウォリアー》
チューナー(通常モンスター)
星3/地属性/戦士族/攻1600/守200
あらゆるものをチューニングしてしまう電波系戦士。常にアンテナを張ってはいるものの、感度はそう高くない。

「《チューン・ウォリアー》か、良いカードじゃないか」

「……そうなのか? カードの知識はあまり無いんだ」

難しい物を見るような顔で唸る。知識が無いのに、カードを集めているのか。そう思ったが、すぐに考え直す。なにせ、自分も同じことをしていたからだ。

「……それより、本当にすまなかった」

「……?」

「危うく激突するところだっただろう? 走行中に意識を逸らすとは……」

Dホイーラー失格だ。自責の念が大きくなる。だが、相手は不思議そうに言った。

「激突の心配なんか無かっただろう。だから俺も避けなかった」

「……待ってくれ。それはどういうことだ?」

確かに、彼は避ける素振りを見せなかった。だが、それは避けられなかったからではないのか?

避ける必要が無かったとは──

「距離と減速の仕方を考慮すれば、Dホイールがこの位置で停止することは予想できた。操縦の腕も良いように見えたんで、動く必要は無いと思ったんだが……」

何か変か? と首を傾げる帽子の男。

「……フ」

思わず笑みが漏れた。この男は、目の前から迫ってくるDホイールを冷静に観察し、顔も知らない相手の操縦技術を信用して動かなかった、と言っているのだ。

面白い奴だと思った。

「俺は不動遊星。良かったら、名前を教えてくれるか」

初めて自分から自己紹介をした。相手は赤い帽子を被り直し、

「……コナミだ。たぶん名前。名字はまだ無い」

また変な答えを返してくる。

これが、不動遊星とコナミの出会いだった。

今日はこの辺で失礼します。読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙そして期待

「あ、遊星、コナミ! おかえり!」

シャッターが開くと同時に、ガレージ内に元気な声が響く。今は夜だ。寝静まっていた住人達は、突然の大声に飛び起きた。

「うるせえぞラリー! いま何時だと思ってんだ!」

頭にバンダナを巻いた男、ナーヴが怒鳴る。

「お、二人共、帰ってきたか」

「おかえり。今日の収穫はどうたった?」

ブリッツが眼鏡を掛け直しながら起き上がり、タカは欠伸混じりに今夜の成果を訊く。

「あ、ごめん。つい……」

仲間を起こしてしまった事を謝るのはラリー・ドーソン。この中で一番年下の少年だ。年相応に元気が良く、特に不動遊星には懐いている。

「ああ、ただいま。悪いな、起こしてしまって」

「……ん、ただいま」

赤いDホイールを押しながら入ってきた遊星がシャッターを閉める。すかさずタカが立ち上がり、ガレージ内の照明を付けてやった。

後に続く赤い帽子、赤いジャケットを着た人物は四日ほど前に遊星が拾ってきた、コナミという青年だ。行くあてが無いらしく、このガレージに住み着いている。

寡黙な遊星に負けず劣らず、無口な人物で、ナーヴ達とは数えるほどしか会話をした事が無い。


いいね

「今日は遅かったね。待ちくたびれて、みんな寝ちゃってたよ」

二人を迎えようと待っていたラリー達だが、いつまでも帰ってこないので一人、また一人とガレージで寝てしまっていた。起きていたのはラリーだけだ。

「……ああ。タイム計測に夢中になってしまっていた」

そう言いつつ、遊星はDホイールからデータチップを抜き取り、コナミに投げ渡す。帽子の青年はそれを受け取り、パソコンに挿入した。今日のデータを整理し、チューニングするためである。

「……今日のはどうだった?」

「悪くないな。直線での伸びが今までと段違いだ」

遊星が満足そうに言う。あんな表情は珍しい。コナミがソフトウェア面でDホイールの改良を手伝うようになってから、遊星はああいった表情をすることが多くなった。

「……そうか」

コナミはこくりと頷いた。相変わらずの無表情だ。

「おい、まだ続けるのか? もうすぐ朝だぞ」

「問題ない。もう少しで一段落つきそうなんだ。ラリー達は先に眠っていてくれ」

「まったく……」

ナーヴもタカもブリッツも、一様に呆れた溜め息を吐いた。遊星とコナミは、また徹夜をする気なのだ。

どうせ言っても聞かないので、四人は寝床へ移動する。邪魔するよりは、二人の好きにさせてやった方が良い。そうした方が結果的に休める時間は増える。

「じゃあ、おやすみ。あんまり根を詰めるなよ」

そう言ってラリーを除く三人がガレージを去っていく。

「ああ。おやすみ」

「……あまり騒がないようにする。安心して寝てくれ」

「ちぇ、おやすみ……」

不満そうにラリーはその場を後にした。

「あいつらも良くやるねぇ……」

二つある二段ベッド、その上段に上がりながらブリッツが呟く。下段はラリーの場所だ。布団に潜り込みながら、ラリーは目を閉じる。

「でも、コナミが来てから遊星は楽しそうだ」

隣のベッドの下段に腰掛けたタカが呟く。

「メカについて話せる相手が出来て楽しいんだろ」

その上にいるナーヴは不満気だ。彼はサテライト民らしく、外から来たコナミに気を許していないからである。

「あれじゃ、すぐに体を壊しちまう。ジャックに挑む前にな」

「そうかな? 遊星はそこまで馬鹿じゃないだろ。体を壊す前になんとかするさ」

「壊す前に出発する気かも……」

仲間内で一番心配性のタカが呟く。一番ガタイが良いくせに、気は一番小さい。こうやって悪い予想を言ってナーヴから怒られる、というのがいつもの流れだ。

「…………」

だが、ナーヴは怒らなかった。代わりに、

「……そうかもな」

肯定の言葉を口にした。

「四日後には出発できるって言ってたしな。次には間に合わせるつもりなんだろ」

「…………」

沈黙が降りた。遊星はある目的のために、サテライトからシティに渡ろうとしている。二つの街の交通は治安維持局から完全に管理されており、通常の手段では渡れない。

しかし、物事には例外がある。

サテライトというのはシティが出した廃棄物を処理するための場所だ。ナーヴ達はそのゴミを分別し、処分する仕事をして生計を立てている。

では、その膨大な量のゴミはどこを通ってくるのか?

「パイプラインの通過時間は、とっくにクリアしてんだ」

シティとサテライトを繋ぐ、ゴミの道。それがパイプラインだ。数日に一度だけ開通し、シティの吐き出したゴミをサテライトに送る。

そのパイプラインはゴミを送った直後、僅かな瞬間、Dホイールで通り抜ける隙が出来る。遊星が狙っているのはそこだ。

そのために長い時間を掛け、Dホイールを組み上げて来た。ゴミを漁って一から──いや、ゼロから作ってきたのだ。しかし、メカニックとして非常に優秀な遊星でも、完成は二ヶ月以上先の筈だった。

それをコナミが早めてしまった。二ヶ月だった予定は今や三日後だ。

急な予定の短縮は、ラリー達を戸惑わせた。遊星との別れは、決して小さい事ではない。

「ラリー、お前はどうなんだよ。このまま遊星を送り出して良いのか?」

ナーヴが話を振ってくる。

「俺は……応援してる。遊星がジャックと決着をつけられるなら、少しでも早い方がいいから……」


「俺のせいで、遊星はDホイールもスターダストも持っていかれちゃったんだから」

「それは……」

「それに、このまま何もしないで遊星を見送るつもりなんて無いし」

このガレージを直し、電気を通して住めるようにしてくれたのは遊星だ。何の役にも立てないままで終わるなど、とても納得出来なかった。

(良いパーツを拾ってきて、遊星に喜んでもらうんだ……!)

そう決心し、毛布を被る。

「もう寝るから! おやすみ!」

笑顔で送り出すために、明日は早く起きなくては。元気よく告げてラリーは今度こそ目を閉じた。





早朝。

ラリーは誰よりも早く起き、外へ飛び出していた。遊星は作業中だったが、コナミの姿は無かった。またカードやパーツを拾いに行ったのだろう。

(近くはあらかた探したから、今日はいつもとは違う場所に行くんだ……!)

向かっているのは居住区から離れたエリアだった。ラリーの予想ではお宝が見つかる可能性が一番高い所である。代わりに治安が悪いが、荒事には慣れているいるし、逃げ足には自信があった。

「んー。……あ、あれは!」

早速、比較的新しいパーツが見つかった。これなら昼過ぎまでに山ほど持って帰ることが出来るだろう。



数時間後。

「へへー。大漁、大漁!」

持って来ていたバッグをパンパンにして、ラリーは鼻歌混じりで帰路についていた。

「ん? あれは……」

近くのゴミ山に、最近やっと見慣れてきた赤い帽子が見えた。

「コナミー!」


「……ラリーか」

こちらを見つけると、コナミはゴミ山の上から滑り下りてきた。左腕のデュエルディスクには、結構な枚数のカードが納められている。

「遊星のためにパーツ集めか」

「そうだよ! もうすぐ出発するんだから、少しでも良いパーツを使って、Dホイールの性能を上げなくちゃねー!」

「……それなら、バッグに詰め込むのは良くない。パーツが痛む」

「う……」

痛い所を突かれ、ラリーは呻いた。

「コ、コナミはカード集め?」

「……ああ。やっと39枚集まった。今日中にデッキが組める枚数に届くかもな」

コナミは金色のデュエルディスクに目をやる。

「あ、それなら……」

ラリーはポケットを漁り、一枚のカードを取り出した。

「これ、コナミにあげる! あんまり強くないけど……」

「《メカウサー》……」

「最後の一枚。これでデッキになるでしょ?」

「いや、それはラリーが見つけたカードだろう? なら、ラリーの物だ」

コナミは首を振る。

「最後の一枚って思って探してると、なかなか見つからなかったりするんだよ。遊星がそう言ってたんだ」

「だが……俺はラリーに何もしてやれない。返せる物が無いんだ」

「良いって。コナミは遊星の手伝いをしてくれたんだから、これはそのお礼。だから貰ってよ」

「……むぅ」

意外と粘る。

「それに、俺のカードがコナミのデッキの最後の一枚になるんなら、こんなに嬉しいことは無いよ。ね?」

「……分かった。ありがとう、ラリー」

コナミは真剣な顔でカードを受け取り、そのままデッキに入れた。それが可笑しくて、ラリーは笑った。

「それでコナミのデッキ、完成だね!」

「じゃ、帰ろうか。遊星に早くパーツを見せたいし」

「……そうだな。荷物は俺が持とう。転ぶと危ない」

「大丈夫だって、これくらい」

「足元、ふらついてるぞ」

「む……」

そんなことを言い合いながら、ラリーとコナミはガレージに向かって歩きだした。

その背中を、

「そこの赤帽子、ちょっと待ちな!」

鋭い声が呼び止める。

「な、なに!?」

「…………」

ラリーが慌てて振り向くと、瓦礫の山に一人の女性が仁王立ちしていた。乱暴に纏めた髪に、トゲの付いたカチューシャ。ノースリーブにズボンという飾り気の無い服装。左頬にはハート型のマーカーがある。

「あ、あれは……!」

「……誰だ」

「あたいはノーマネー 弥生ってもんだ。昨日はうちのバカが世話になったそうだね……」

「……ノーマネー?」

慌てふためくラリーと、余りにも直接的な弥生の名前に珍しく動揺するコナミ。

そんな二人を尻目に、弥生の後ろから数人の男達が現れた。

「昨日、テメェに怪我させられた連中さ。あたいのシマでナメた真似してくれたみたいだね」

「…………」

確かに男達は全員、大なり小なり怪我を負っていた。絆創膏を貼っているだけの者から、肩から包帯で腕を吊っている者までいる。

「……間違いがあるな」

コナミが静かに口を開いた。

「間違い……? なんだい?」
「そいつらが勝手にゴミ山から落ちただけだ。俺は確かに近くにいたが、何もしていない」

「……だってさ。どういうことだい?」

ノーマネー 弥生が子分連中を睨みつける。それだけで、大の男数人が竦み上がった。

「ち、違います! あいつが俺達のシマでゴミを漁ってやがったんで、ちょっと絞めてやろうかと……」

「その結果、殴りかかった勢いでゴミ山から落ちた……」

「うるせえ!」

男達は一様に弥生の機嫌を伺っている。なんとかしてコナミに八つ当たりをしたいようだ。

「なるほどな……。まあ、事情は分かった」

弥生が頷く。今の会話で、大体の予想はついたのだろう。

「じ、じゃあ、俺達はこの辺で……」

今を好機と、ラリーは踵を返した。

だが、

「こいつらの言い分にも一理ある。この一帯はこいつらの……つうか、あたいのシマだ。断りも無く、歩いて良い場所じゃないのさ」

弥生はラリーの背負ったバッグを見て、口元に笑みを浮かべた。

「しかも、盗みまでされちゃあ、見逃すわけにもいかないだろ?」

「盗みって……!」

「こいつらにした事は水に流してやる。だが、盗みはいけないね。……その荷物と持っているデュエルディスク、置いていきな」

「な、なんだよそれ! 意味分かんないよ!」

弥生の理不尽な言い分に、ラリーは声を荒げた。サテライトにも確かに縄張りはあるが、ここは違う。誰のテリトリーでも無かったはずだ。

「ここいらは最近、ウチのシマになったんだよ。だから、ここの物はあたいの物。あんたらの物もあたいの物ってわけさ」

「……そうなのか?」

弥生の言い分を真に受けたのか、コナミが尋ねてくる。

「そんなわけないだろ! ここは元々、誰の縄張りでも無かったんだ! いきなりそんなこと言われて、信じられるか!」

今度はラリーの言い分にコナミが頷く。

「……だそうだ。こちらの方が、筋が通っていると思うが」


「はん、ここはあたいの縄張りだ。つまり、あたいの言うことがそのままルールになる」

「……話にならないな」

コナミはラリーの荷物に目をやり、次に自分のデュエルディスクを見た。

「このデュエルディスクはやる。だから荷物は見逃してくれないか。どうせ、お前達にとっては使い道の無い物だろう」

「ほぅ……」

弥生が満足そうに笑う。始めからそれが狙いだったのか。

「駄目だよコナミ! それはコナミの物じゃないか、こんな奴らに渡すことないっ!」

「だがな……」

「大体、縄張りだ何だって、こいつらが勝手に言ってる事じゃん! それで人から物を取ろうなんて、それこそ泥棒だ!」

頭に血が昇ったラリーは矢継ぎ早に責め立てる。

「なにぃ……」

「このガキ……」

チンピラ共がいきり立つ。だが、何故か弥生だけは満足そうに笑った。

「威勢が良いね。なかなか面白いじゃないか。なら──」

その目がコナミのデュエルディスクに狙いを定める。

「デュエルで決着を付けよう。あたいらが勝ったら荷物とデュエルディスク、それとデッキを貰う。負けたら……昨日の件は詫びを入れさせるし、荷物は持って行って良い。どうだい?」

「な……っ!」

余りに一方的な条件。ラリーは絶句した。だが、コナミは、

「詫びなんかいらん。俺が勝ったら、二度と絡んでこないと誓え。それと……」

静かに答え、ラリーを見据えて言った。

「勝っても負けても、この子には手を出すな。今回の件の始まりは俺にある」

「ふん……。だが、その荷物はそこのガキが盗った物だろう? 見逃せないね」

「俺が強要したんだ。この子に責は無い」

「コ、コナミ……!」

何を馬鹿なことを言っているのだ。ラリーはコナミを止めようとしたが、その目に黙らされた。

「……分かった。その条件、乗ったよ」

「よし…テメェら、デュエルの準備をしな」

「え……っ」

弥生が男達に言い放つ。まるで予想していなかったのか、チンピラ連中は揃って目を丸くした。

「あ、姉御が戦ってくれるんじゃ……?」

「そうですよ。大体、俺達は怪我して……」

「かすり傷だろうが! 派手に包帯なんか巻きやがって、仮病がバレバレなんだよっ!」

弥生の怒声に、男達が縮み上がる。子供のラリーから見ても、情けない連中だった。

男達は肩を寄せ合い、

「……おい、誰が行くんだ?」

「俺は嫌だぜ。あの赤帽子、妙に落ち着いてるし。場馴れしてるだろ、絶対」

「俺だって嫌だよ……! だけど、このままじゃ全員揃って姉御に埋められちまう……」

「だから、チクるのは止めようって言ったんだ! 俺は嫌だからな!」

などと見苦しい口論を始めた。これでは彼らに任せた弥生の立場が無い。

「いつまでやってんだ! 早く決めねーと、全員ゴミ山に埋めるぞ!」

「ひぃいい!」

やはりブチギレた。男達は悲鳴を上げて、外見上では一番元気そうな絆創膏を貼った男を差し出す。

「こいつです! こいつがやります!」

「えぇっ!?」

「……よし。さっさとディスクを付けな」

「うぅ……。覚えてろよ、お前ら!」

「さあ、こっちは準備出来たよ!」

弥生が吼え、手下と共にゴミ山から下りてきた。それを受け、コナミは金色のデュエルディスクに設置されているボタンを押す。

デッキカバーが前にせり出し、山札を高速でシャッフル。デュエルディスクに搭載されているシャッフル機能だ。高性能な物になるとデッキをスキャンし、リミット・レギュレーションに違反していないか調べてくれたりする。

「……こちらも準備が出来た。始めようか」

「ほら、テメェも前にでな!」

「う……」

弥生に小突かれ、対戦相手のチンピラが前にでる。コナミの落ち着きように気圧されたのか、その顔色は良くない。

だが、

「でもコナミ、デュエルは初めてでしょ!? デッキだってさっき、やっと40枚集まったばかりじゃんか、勝てっこないよ!」

ラリーの発した言葉で、途端に空気が変わった。

「初めて……?」

「集まったばかり……?」

耳聡く聞きつけ、全員が全員、顔を緩めた。

「ギャハハハハハ! なんだ初めてかよ、驚かせやがって!」

「拾ったカードを集めただけなんてのは、デッキとは呼ばないんだよ!」

「紙束……そう、紙束だ!」

チンピラ共は一斉にに笑い転げる。緊張から一転して、気が緩んだのだろう。なにせ、負ける可能性がほぼ消えたのだから。

「……ラリー、今の情報はいらなかった」

「ご、ごめん……」

迂闊過ぎたと、ラリーは自身の発言を呪った。

「は、腹が痛ぇ……。早く始めようぜ。デュエルだよ、構えな」

「…………」

チンピラがデュエルディスクを起動させる。コナミも同様に構えた。

濁った風が吹く。日は落ち始め、空は紅くなってきていた。

「さあ行くぜ、決闘(デュエル)!」

「……デュエル」

こうして、コナミの初戦が幕を開けた。


今日はこの辺で。読んで頂いた方、ありがとうございました。

しかし、二日経ってデュエルがまだ書けないとは……申し訳ありません。

乙です。

デュエルは、構成考えたりしてむずいからしゃーない。

自分のペースでがんば~。今度も見るよ~

がんばれバーバリアン

メカウサーって確か500バーンの素早いモモンガみたいな効果だったかな

「……へへ。先攻は初心者に譲ってやるよ。ありがたく思いな」

お互いに五枚のカードを引き終わる。自身の手札を確認してから、チンピラはコナミに先攻を譲った。

「……ドロー」

まずはドローフェイズ。カードを引いたコナミは数秒間手札を眺め、

「モンスターを裏守備表示で召喚し、カードを二枚伏せる。ターンエンドだ」

コナミ 手札三枚

手堅い布陣。まずは様子見のつもりなのか、コナミはカードを一枚も見せることなく、ターンを終了した。

「ははっ、ビビってんのか? 俺のターン、ドロー!」

チンピラは引いたカードを確認もせず、

「魔法カード、《大嵐》を発動! フィールド上の魔法、罠カードを全て破壊する!」

いきなりのパワーカード。凄まじい暴風が吹き荒れ、コナミのリバースカード二枚──《緊急同調》と《大波小波》が破壊されてしまう。

「さらに、《電動刃虫》を召喚!」

チンピラのフィールドにチェーンソーを付けた下級モンスターが出現する。その攻撃力はなんと、2400を表示していた。

「2、2400!? こんなの、下級モンスターの攻撃力じゃない!」

驚愕するラリーの姿に気を良くしたのか、チンピラは勝ち誇った顔で、

「あったりまえよ! こいつのパワーは下級モンスター最強クラス、ゴミを集めたデッキなんか、紙切れ同然だわな」

「…………」

あからさまな挑発にも、コナミは無言を貫いた。

「……ちっ。《電動刃虫》で守備モンスターを攻撃! ぶち殺せぇ!」

《ウォーター・スピリット》
守備力1200

暴力的なパワーの前に、コナミの伏せモンスターがなすすべも無く破壊される。


「やっぱり雑魚モンスターか。《電動刃虫》が戦闘を行った後、お前はカードを一枚ドローする。……プレゼントだ」

コナミはカードを一枚引き、手札に加える。

「最後にカードを一枚伏せて、ターン終了」

チンピラ 手札三枚

「……ドロー」

ドローフェイズで一枚引き、コナミの手札が五枚となる。本来なら充分な量だが、彼は押し黙ったまま暫し黙り込む。

(やっぱり……)

思わず、ラリーは服の裾を握りしめた。ただでさえ寄せ集めで作られているコナミのデッキにとって、攻撃力2400は余りに高い壁だ。恐らく、コナミの所持しているカードの中で《電動刃虫》に勝てるモンスターはいない。

まさか、最初の一手からここまで追い詰められるとは。

「なあ、おい。気になったんだが、テメェのデッキに《電動刃虫》より強いモンスター……いないんじゃねぇのか?」

ラリーと同じことを思ったらしいチンピラの問いに、

「……ああ。俺のデッキのモンスターで一番高い攻撃力は1600だ。そいつの足元にも及ばないな」

コナミはあっけらかんと答えた。直後、彼の対戦相手を含めたチンピラ連中が再び腹を抱えて笑い出す。

「…………」

しかしノーマネー 弥生だけは何故か、押し黙って状況を見守っていた。

「だが、攻撃力だけが全てじゃない。……《『攻撃』封じ》を発動」

《電動刃虫》守備力0

男達の笑いが止まる。

「……あ」

圧倒的な攻撃力を振るっていた《電動刃虫》は一転して無様にひっくり返り、無防備な姿を晒した。

「《隼の騎士》を召喚。……バトルだ」

隼(はやぶさ)の癖に地属性の戦士が、《電動刃虫》を一太刀で斬り伏せる。この一瞬で、チンピラの優位性は失われた。

「な、なに……っ」

「さらに《隼の騎士》でプレイヤーに攻撃」

「に、二回攻撃……!? ぐえっ!」

チンピラ LP4000→3000

《隼の騎士》の攻撃力は1000と低いものの、バトルフェイズ中に二回攻撃できる効果を持っている。

「やった! 最初の攻撃はコナミが決めた!」

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「クソ、ふざけた真似しやがって! ドロー!」

チンピラは乱暴に引いたカードを見て──笑みを浮かべた。

「魔法カード《洗脳ーブレインコントロール》を発動! 800ライフ払い、相手モンスターのコントロールを得る!」

《隼の騎士》は身を翻し、チンピラのフィールドへ降りたつ。

「コ、コナミのフィールドががら空きだ……」

「さらに俺は《アーマード・ビー》を召喚!」

鎧を纏った蜂のモンスター。攻撃力は1600と表示されている。これで、チンピラのフィールドには二体のモンスターが肩を並べた。

「モンスターでダイレクトアタック! 踊れ《アーマード・ビー》!」

コナミ LP4000→2400

「更に《隼の騎士》でアタック。二回攻撃だぁ!」

洗脳された《隼の騎士》がコナミに躍り掛かる。攻撃力は1000だが、二回攻撃によりコナミのライフは大幅に減らされてしまう。

「コナミっ!」

「……リバースカード、オープン」

《迎撃準備》

「フィールド上に存在する戦士か魔法使い族のモンスター一体を裏側守備表示に変更する」

《隼の騎士》が裏側守備表示に変更された。これで二回攻撃の刃から逃れる事が出来る。

「ちっ……。だが、馬鹿だな。コントロールを奪われる時に使っていれば、無駄なダメージを食らわなくて済んだのによぉ!」

「……そうなのか」

親切なアドバイスをくれるチンピラと、こくこくと素直に頷くコナミ。

「攻撃は出来なかったが、まあいい。手札から《生け贄人形》を発動! モンスターを一体リリースし、手札からレベル7のモンスターを特殊召喚する!」

裏側表示の《隼の騎士》を生け贄に、眩い光の柱が立ち上がる。最上級モンスター出現の合図だ。

「出てこい! 《ポセイドン・オオカブト》!」

「レベル7の最上級モンスターだ……!」

白銀の鎧を身に纏った大型の昆虫族モンスターだ。攻撃力は2500。その強大さは、完全にフィールドを支配した。

「あ、あんなモンスターを持ってるなんて……」

《大嵐》に《洗脳ーブレインコントロール》、《ポセイドン・オオカブト》。チンピラは先ほどから、サテライトで手に入るはずの無い強力なカードばかり使ってくる。

「そうよ! このデッキも、デュエルディスクも! セキュリティの連中から俺達が奪い取ったもんだ!」

チンピラは誇らしげに吠えた。

「セキュリティのデッキだって……」

セキュリティというのは、治安維持局が有する機動隊の名称である。デュエルの強制や、それによる逮捕、リミット・レギュレーションの緩和といった特殊な権限を多数持っており、サテライトの住民からは恐怖の対象として認識されているのだ。

しかし、目の前のチンピラ連中はどうやってか、そのセキュリティのデッキを所持している。コナミは善戦しているが、あまりに分が悪い勝負だ。

「コナミ、やっぱり無理だよ! 勝てっこない!」

「………」

「パーツは諦めるから! せめて、デュエルディスクだけでも許してもらおう!」

ラリーはコナミがサテライトに来た理由を知っている。デュエルディスクが彼に取って、どういった意味を持つ物なのかも。

「……断る」

だが、赤い帽子の決闘者は降参を断固として拒否した。

「そんな……」

「ガタガタうるせぇっ!!」


尚も食い下がろうとするラリーを、弥生の怒声が阻んだ。思わず身が竦み、口からひっ、という声が漏れる。

「今はデュエル中だ。口出しは許さねえ。またつまんねーこと言ってみろ、ただじゃおかねえぞ」

「う……」

女ギャングの怒気に当てられ、ラリー(と何故かチンピラ連中)は身動きが取れなくなった。


「……心配するな。まだ負けたわけじゃない」

コナミがラリーを見ながら言う。

「コナミ……」

そして、弥生とチンピラ連中を見て、

「『この街の人間は星を求めない』。知り合いが言っていた言葉だが……いま、やっとその意味が分かった」

「あ?」

「なに言ってんだてめぇ」

「盗品で悦に浸ることしか出来ない奴らに、俺は負けないという意味だ。分かったら、さっさとターンエンドしろ。二回目のメインフェイズで手札はゼロ……もうやることも無いだろう」

《洗脳ーブレインコントロール》に《アーマード・ビー》、《生け贄人形》と《ポセイドン・オオカブト》を消費して、チンピラの手札は無くなっていた。

「ちっ! ターン終了だ!」

「俺のターン、ドロー」

コナミがカードを引く。それを見て、静かに笑みを浮かべた。

「……来たか」

そう呟き、引いたカードを場に出した。

「俺は手札から、《チューン・ウォリアー》を召喚」

《チューン・ウォリアー》の攻撃力は1600。恐らく、コナミのデッキで一番強いカードだ。

「たかたが1600。《アーマード・ビー》との相打ち狙いかあ?」

「さらに《シンクロ・ヒーロー》を発動。《チューン・ウォリアー》に装備だ」

《チューン・ウォリアー》の攻撃力が500ポイントアップし、2100となる。これで《アーマード・ビーを》の攻撃力を上回った。

「バトルだ。《チューン・ウォリアー》で、《アーマード・ビー》を攻撃」

「ちぃっ!」

チンピラ LP2200→1700

「……ターンエンド」

「俺のターンだ! ドロー!」
チンピラのフィールドには《ポセイドン・オオカブト》とリバースカードが一枚。手札は今引いた一枚だ。

コナミのフィールドには《シンクロ・ヒーロー》を装備した《チューン・ウォリアー》とリバースカードが一枚のみ。手札は無い。このターンで《チューン・ウォリアー》を失ったら、そのまま敗北が決まってしまう。

「手こずらせやがって……《ポセイドン・オオカブト》で《チューン・ウォリアー》を攻撃! 捻り潰せ!」

攻撃力2100の《チューン・ウォリアー》では2500の《ポセイドン・オオカブト》に勝てない。

「うわああ……。やっぱり」

頭を抱えるラリーの言葉を阻むように、コナミのリバースカードが開いた。

《援軍》

「フィールド上のモンスター一体の攻撃力をエンドフェイズ時まで500ポイントアップさせる」

「く、クズカード……」

《チューン・ウォリアー》の攻撃力が2600となり、僅かに《ポセイドン・オオカブト》を上回った。

「ぐっ……」

チンピラ LP1700→1600

「す、凄い……。最上級モンスターを、倒しちゃった……」

切り札を失ったチンピラはたった一枚の手札を睨む。

「まだだ……! 俺にはリバースカードがある。まだ勝負はついちゃいねぇ……」

「…………」

「クソが。ターンエンド、だ」

「俺のターン、ドロー。……ふむ」

コナミは引いたカードを見て、思案する。

そのままカードをディスクに挿入。一枚の魔法カードが現れた。

《おとり人形》

「このカードはフィールドにセットされたカードを一枚確認し、罠カードだったら強制的に発動させる」

「なに……!?」

暗かったチンピラの顔色が変わる。あのリバースカードは彼が一ターン目に伏せ、そのまま使われていなかったものだ。逆転の可能性を秘めたカードなのか。

カードが開く。

《激流葬》

「バカがぁああっ! 《激流葬》はモンスターが召喚された時、全フィールドのモンスターを洗い流す! お前の《チューン・ウォリアー》は──」

「残念だが……」

「吹き飛ぶ……え?」

「選択した罠カードの発動タイミングが正しくなかった場合、効果を無効にして、破壊する」

「えぇ……」

吹き飛ぶ《激流葬》。消沈するチンピラ。

「《チューン・ウォリアー》でダイレクトアタック」

「ヌワーー!」

チンピラ LP1600→0


先行ドローしたり禁止カード普通に出てるけどどんなルールでやってるの?

5d's当時のルール及び禁止制限なんだろう

禁止カードに関してはセキュリティのデッキっていうのもあるんじゃないか

なんだか全然進まないですが、今日はこの辺で。

ルール及び、リミット・レギュレーションについての質問ですが、タッグフォース6に使われていたマスタールール2と2011年のレギュを採用していきたいと思います。

相手はバンバン禁止制限カードが使っていましたが、セキュリティのデッキ、デュエルディスクを使用していたためですね。この辺りも追々、書いていきたいです。

長くなってしまいましたが、読んで頂いた方々、こんな作品に質問して下さった方々、ありがとうございました。

では失礼します。










PS やっぱりコテで遊びたい

把握
2011年とかどんな環境だったか覚えてないな…

「……勝ったぞ」

ゲームエンドと共に手札や墓地のカードをデュエルディスクのデッキに戻す。チンピラ達は消沈し、完全に沈黙していた。

「チッ……。まあ、負けちまったもんはしょうがないね。約束通り、荷物はアンタらにやろう。持っていきな」

「やったー!」

ラリーは諸手を上げて喜んだ。なんだかんだあったが、結局は丸く収まった。

「もう一つの条件を忘れるな」

「分かってる分かってる。子分共には赤い帽子の奴と、その仲間には手を出すなって言っとく」

意外なほどあっさり弥生は条件を呑んだ。しかも、気持ち悪いくらい上機嫌で。

「……よし。じゃあ、帰るか」

「う、うん……」

帰ろうとする二人の背中に、

「おい、赤帽子!」

弥生の声が掛けられる。

「……?」

「てめぇ、この辺じゃ見ねー顔だな。マーカーも無ぇし……新入りか?」

「……ああ。五日ほど前に来た」

「ふぅん……何した?」

やたらと突っ込んでくる弥生に、コナミは

「何も。シティの沿岸部で倒れていた所を治安維持局に保護されて、世界中の何処にも住民登録が無かったから……」

「サテライトに放逐、か」

サテライトに来た経緯を話した。別に隠す必要は無かったし、ラリー達との関係がここ数日のものだと分からせれば、後の憂いも断てると考えたからだ。


「だが、近い内にサテライトから出て行く」

今は遊星が住まわせてくれているが、それも近く終わるだろう。サテライト住民の事情を考えれば、ラリーやナーヴ達にこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。

「またシティに行こうってのか? 無理だろ」

「無理じゃない。……当てはある」

自分をここに送りつけた、長身の男性を思い出す。

「……行こう、ラリー」

遊星に目的があるように、コナミにもまた、考えがあった。ラリーの荷物を丁寧に担ぎ上げ、歩きだす。弥生達が追ってくる気配はない。

「待ってよ、コナミ!」

ラリーが慌てて追いかけてくる。歩幅が違うことに気づき、スピードを緩めた。

「早く帰ろう。遊星達が心配する」

夕陽が沈もうとしている。暗くなればなるだけ危険になるのがサテライトだ。ガレージに急がなくてはならない。

「もうこんな時間かー。早かったね」

「……そうだな。有意義な一日だった」

「ナーヴにまた怒られるかなー」

遊星と一緒ならまだしも、土地勘の無いコナミとでは心配もされるだろう。

「……俺はナーヴ達に嫌われているからな」

「そんなことないよ。ナーヴはいつもあんな感じだから。タカもブリッツも、ちょっと警戒してるだけだって」

「そうか……」

「うん。でも……大変だったでしょ? 初めてのデュエル」

「……? いや、そうでも無かったぞ」

「えぇっ、怖くなかったの!?」

「怖い……?」

首を傾げるコナミ。あんな状況で、全くプレッシャーを感じていなかったらしい。

「おっかしいよ。負けた時の事とか考えなかったの?」

「ああ……」

負けた時の条件を思い出したのだろう。

「……負けたらディスクもデッキも取られてたんだよ?」

そう言うと、コナミは初めてふふ、と笑った。

「……いや、忘れていた。夢中になっていたからな」

「……えー」

遊星もそうだが、やっぱりコナミもズレている。

「…………」

「あ、だから待ってよ! まったく……」

また歩くのが早くなったコナミを追いかけて、ラリーは走る。久しぶりの冒険は悪くない思い出になった。


帰るのが遅くなってしこたま怒られた事を除けば、だが。


今日はこの辺で。やっとプロローグに当たる部分が終わりました。駆け足気味でごめんなさい。やっぱり年末年始は忙しいものですね。

では、ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙ですー。面白いです!

コテハンなんて自由にして構わんだろう
慣例としてトリップを付けるのが良いと思うが
トリップの付け方?知らん、そんな事は俺の管轄外だ

出発の日。不動遊星は自らの作成した赤いDホイールに乗り込み、最後の調整をしていた。隣にはぶ厚いタブレット型の端末を持ったコナミが立っている。

「……言われた通り、オート・バランサーは切れるようにしてある。それと連動してエンジンー・コネクトが切り替わるから、タイミングは注意してくれ。だいぶ不安定になる」

「…………」

コナミが見せてきたタブレットの画面には、走行中にDホイールの出力調整をした場合のシミュレータが映し出されている。スピードが速ければ速いほど車体が安定する、今回のパイプライン突破に合わせて作り上げた機能だ。

その反面、切り替え直後は不安定になってしまうが、それも微々たるものでしかない。その出来に、遊星は満足していた。

「だが、セキュリティには注意しろ。《スピード・ワールド》とやらで機能制限されると、機体のアシストがほぼ死ぬ。最悪、クラッシュするから……」

コナミの説明はまだ続く。このDホイールに触ってまだ一週間足らずだというのに、指摘や注意点はことごとく的を得ていた。そのシステム・エンジニアぶりには遊星も舌を巻く。

素人同然だったDホイールの整備も、少し指導したらすぐに基本を覚えてしまった。今なら、簡単な修理くらいは出来るのかもしれない。

「……聞いてるか、遊星」

「……ああ、聞いている」

思考が逸れているのに気づいたのか、コナミは不満気に訊いてきた。いや、見た感じ、いつもの無表情なのだが、どことなく言葉の端に感情が見えた気がした。

どうやら、少しは目の前にいる帽子の男の事が理解出来てきたらしい。

「注意点は既に把握している。……それよりコナミ」

遊星は緩んでいた口角を引き締め、

「本当にシティへ行くのか?」

気になっていた──というより、確認したかった事を尋ねる。

「ああ」

コナミは即答した。既に答えは決まっているようだ。

「それしか方法が無いんだ。今の俺が選べる道は限られているから」


「そうか……。俺が言うのも何だが、気をつけろ」

シティとサテライトの隔たりは生半可な物ではない。シティの人間がサテライトへ送られるということは、そのまま人生の終わりを意味するし、その逆──今の遊星だが──は目的に関係なく捕らえられ、マーカーを刻まれて放逐される。

「俺は合法的な手段を使って渡るんだ。少なくとも、お前よりは遥かに安全だろう」

嫌味でも何でもなく、コナミは淡々と事実を口にする。この機械的とも言える部分がナーヴ達からは不評のようだが、遊星は彼のこういった所が気に入っていた。

どうしてか、遊星の周りにいるのは今も昔も感情豊かな人間ばかりで、コナミのような静かな人間はいなかったからだ。

「だが、相手はレクス・ゴドウィン……治安維持局の長官だ。用心した方が良い」

レクス・ゴドウィン。コナミをサテライトに送り込んだ張本人の名前だ。その男はコナミにサテライトで40枚のカードを集め、デッキを完成するように言ったらしい。

その言葉に従い、サテライトでカードを拾っていたところへ、遊星がDホイールで激突しかけた、というのが経緯である。

「危険な人物なのか」

「……そう思っていた方が良い」

コナミには過去の記憶が無い。

シティの沿岸部で倒れていたところを治安維持局に拾われ、世界とあらゆる繋がりが無いということでサテライトへ放逐された。

記憶喪失の人間に意味深な言葉を与えるということは、コナミ自身に対して何らかの思惑があるのだろう。コナミの異常なプログラミング能力などを鑑みると、いっそう疑念は深くなる。

「だが、立ち止まるわけにはいかない。特に、こうして人に厄介になるしかない、今はな」

「……そうか」

遊星には、記憶喪失の人間が抱えていることなど分からない。過去が無いということが、どういうものなのか、察することくらいしか出来ないのだ。前など見えない、暗い中にただ一人、取り残されている……そんな、月並みな想像くらいだ。

そんな中でも、コナミは前へ進もうとしている。ならば、応援すべきなのだろう。いつも通り口には出さず、遊星は一人で納得した。


「……そろそろ時間だ」

コナミが呟き、タブレットとDホイールを繋いでいたケーブルを取り外す。気がつけば、出発の時間はすぐそこまで迫っていた。

ガレージのシャッターが開く。

「何か困った事があったら連絡してくれ。……力になれるかは分からないが」

「……分かった。行ってくる」

コクリと頷くコナミ。遊星はDホイールの出力を上げた。そしてアクセルを回す直前、

「コナミ」

「……?」

「また会おう」

「……ああ」

それだけの言葉を交わし、赤いDホイールはガレージを飛び出した。




そして、不動遊星が難なくパイプラインを突破した二日後。サテライトの沿岸部に、二人の男の姿があった。

「長官……。俺は忙しいんですがね」

大柄の男が、前に立つ長身の男に言った。

「…………」

しかし、長官と呼ばれた男は答えなかった。ただ、夜のサテライトを静かに見守っている。

「いつまで待たなきゃならんのです。俺には、逃げたサテライトのクズを追うっていう、大切な仕事が……」

「来ました」

唐突に、長身の男が言った。その視線の先には、こちらへ歩いて来る赤い帽子の男。見たことがある。

(あいつは確か……)

少し前に、セキュリティが保護した身元不明者だ。記憶も過去も家族も無かったため、法律通りにサテライト送りになったはずだった。

「あれに、何の用が?」

いい加減、うんざりとして男は訊いた。

「彼は、星を結ぶ者……」

「はあ?」

何を訳の分からないことを。そう思うと同時に、長身の男がこちらに振り向く。考えは窺えない。ただ、その顔はどこか、恍惚としている様に見えた。

「牛尾隊員、デュエルの準備をしなさい」

「何をいきなり……」

「彼は手掛かりです。先日の赤いDホイールの。あなたにとって、理由などそれで十分でしょう?」

「…………」

やはり目の前にいる男は苦手だ、と思った。しかし、

「……分かりましたよ」

他の理由は確かに要らない。デッキを挿入し、デュエルディスクが起動する。赤帽子の男が立ち止まった。

サテライトの濁った風が吹き、汚れた水が揺れる。こんな場所とはさっさとおさらばしたい。デッキがシャッフルされたのを確認し、赤帽子へ向き直った。

「さあ、デュエルだ!」


今日はこの辺で。読んで頂いた方、ありがとうございました。

来年もよろしくお願い致します。


来年のTFSPが楽しみだな

乙。コナミくんスレ増えてうれしい。

クオリティ高いし期待してる

「さあ、デュエルだ!」

指定された場所に着くなり、デュエルを申し込まれた。コナミは目の前に立つ二人の男──レクス・ゴドウィンと、その部下だろう治安維持局の隊員へ目を向ける。

「…………」

「おい、黙ってんなよ。俺がデュエルするって言ってんだぜ。さっさとディスクを構えな」

何か目的でもあるのか、落ち着きの無い隊員を、ゴドウィンは右手で制した。

「コナミさん。言われた通りにカードは40枚、集まりましたか?」

粗野な隊員とは対称的に、丁寧な口調で尋ねてくる。それに応えるように、コナミはデュエルディスクのシャッフル機能を起動させた。

即座にカードが切られ、終了。ディスクに緑のランプが点灯した。これは、デッキが規定の枚数に達していること、レギュレーションに違反しているカードが入っていない事を意味する。

すなわち、今すぐにでもデュエルが出来る状態だということだ。

ゴドウィンはよろしい、とばかりに頷く。

「あなたには、ここにいる牛尾隊員とデュエルを行っていただきます」

「……理由は?」

コナミが聞き返すと、ゴドウィンではなく牛尾が苛々とした様子で、

「理由なんかどうでもいいんだよ! 長官殿がデュエルしろと言ったらデュエルする、市民なら当たり前だろうが!」

「俺は市民じゃない」

「何を……テメェっ!」

いきり立つ牛尾を、ゴドウィンが再度、手で制す。

「もちろん、これは強制ではありません。受けるか受けないかは、あなたの自由です」

「…………」

「……ただ、受けて頂けるのなら条件付きであなたに協力することも出来ます。断言しますが、あなたの記憶の手掛かりとなるものを、私は握っている」

交換条件。治安維持局の長官が、身元不明の人間と。ありえないことだ。しかし、激昂するかと思われた隣の牛尾は、不満そうに鼻を鳴らしている。


「……つまり、俺が勝てば手を貸してくれると?」

力量を計りたいのだろうか。いまいち思考が読めない。

「いえ、勝敗は問いません。あなたはただ、デュエルによってその可能性を示せばよいのです」

「…………」

コナミは黙り込む。ゴドウィンの言葉には今のところ、ほとんどデメリットは感じられない。ただデュエルをするだけで、こちらに手を貸してくれると言うのだから。

だが──

『タダより高い物は無い。自分に甘い言葉をかける者には注意しろ。厳しい言葉をかける者には感謝しろ』

遊星が言っていた、彼の尊敬する人物の言葉だそうだ。それを思い出す。

「断る、と言ったら?」

「……テメェ! 調子に乗ってんじゃねぇぞ 身元不明者のクズが……!」

ついにキレた牛尾が、コナミの胸倉を掴む。

「いい加減にしなさい。牛尾隊員」

それを、ゴドウィンが三度制した。口調には苛立ちが含まれている。この男が、初めて感情を外側に漏らした。

「これより、私が許可するまで彼との接触を禁じます。四度目は無いと思いなさい」

「わ、分かりました……」

ゴドウィンの異様な圧力に負け、牛尾が引き下がる。長身の男は、威圧感をそのままにコナミへ向き直った。先ほどまでの紳士的な空気はなりを潜めていた。

「コナミ。あなたは、我々があなたを拘束する理由を持っていないと考えているようですね」

「…………」

「二日前、シティとサテライトを繋ぐパイプラインを何者かが突破しました。もちろん、セキュリティも対応しましたが、そのDホイールは制止を振り切ってしまったそうです」

後ろに控えている牛尾の表情が如実に変わる。もしかしたら、対応したセキュリティというのは彼の事なのだろうか。

「そのDホイールは非常に高い性能を持っていたそうです。セキュリティが有する《スピード・ワールド》の効果範囲から一瞬で抜け出すほどの、ね」

「……それが何か」

コナミはあくまで無表情を貫いていたが、直感で分かった。自分は、目の前の男に従うしかないのだと。

それでも引き伸ばす。

「牛尾隊員は二週間ほど前に、そのDホイーラーとデュエルを行った事があったそうです。不思議な事に、その時は通常通り《スピード・ワールド》が発動できた……」

「その二週間で、Dホイールを劇的に変える何かがあった、と?」

ゴドウィンは頷く。そして、両の目でしっかりとコナミを見据えた。その瞳には、底知れない暗い炎が宿っている。


5Ds初期特有の退廃的な雰囲気がするスレだな

「我々、治安維持局は、今回の件にあなたが関与した可能性があると考えています」

「……馬鹿らしい」

珍しくコナミは吐き捨てるように言った。

記憶も無い人間が、偶然出会った人間のDホイールを改良し、そのDホイーラーがたまたまパイプラインを突破し、これまた偶然に、そのDホイーラーと面識のある牛尾が対応した、と。あまりにも出来過ぎだろう。

"偶然"にしては。

「なら、参考人として身柄を拘束すればいい。その方が手っ取り早いし、なにより分かりやすい」

どうせコナミが関わった証拠など出てこない。遊星が作ったDホイールは九割方ジャンク品で、一から組み上げた物だ。出自など突き止められるわけが無い。

そもそも、コナミが手伝った部分はパイプラインを通過するためにDホイールのプログラム──これも遊星が一から作った──を最適化し、使いやすくしただけだ。どうあっても、治安維持局がそれを理由にこちらを逮捕することなど出来ないのだ。

「……我々はネオドミノシティの安全を守る者です。サテライトからの逃亡者などという危険分子は、一刻も早く排除しなくてはならない」

「…………」

「不動遊星……。彼は今、我々が拘束しています」

「…………」

最悪だった。まさか、たった二日の間に捕まってしまうとは。それでは、遊星は目的も果たせずサテライトに送還されることになるのか。

だが、ゴドウィンの背後に立つ牛尾の表情は明るくない。それが、どうしても引っかかった。

「その不動遊星とやらを捕えたのなら、そいつから聞き出せばいい」

遊星が口を割れば、コナミは参考人から共犯者へ格上げされる。そうすれば、こんな回りくどい手段を取る必要も無いだろう。

(もしかすると……)

一つの疑念が浮かぶ。

「不動遊星を捕らえ、Dホイールを取り上げたところで、シティへの、ジャック・アトラスへの執念は消えないでしょう」

ゴドウィンは笑みを濃くし、両腕を掲げた。意味は分からない。

「ならば危険分子が拡散する前に、根元から絶った方が良い。そうすれば、シティへ侵入しようなどという気も起きない」

(根元から……)

ラリーやナーヴ達の顔を思い出す。ゴドウィンには、彼らを捕らえる用意があるのだろう。


「…………」

遊星の身柄とラリー達を抑えられている以上、こちらに勝ちは無い。コナミは息を吐くと、牛尾の方を見た。相変わらず苛々している。

「おや、やっとその気になりましたか」

「……どうしても、デュエルして欲しいみたいなので」

そう言うと、ゴドウィンはふふ、と笑った。

「強制ではないと言いましたよ。あくまで、あなたの意志のです。このデュエルは」

「…………」

話にならないと、コナミは口を閉ざした。ゴドウィンは牛尾に目配せすると、後ろへ下がる。

「……やれやれ。やっと終わったか」

牛尾は首の骨を鳴らしながら、コナミの眼前に立つ。そのままデュエルディスクを起動。デッキをセットする前に──それをこちらへ突き出し、

「このデッキはセキュリティの一部にしか支給されない特別なもんでな。ヤバいカードがたんまり入ってんだ」

「…………」

「……ちっ。だんまりか。どいつもこいつも」

牛尾はデッキを見せつけて相手の戦意を奪いたかったのだろうが、コナミには通じない。カードの価値自体に、あまり知識が無いのだ。

「……先攻は」

「俺だ! ドロー!」

有無を言わせず、牛尾は先攻を持っていった。コナミは特に何も言わず、手札を確認する。前回のデュエルは先攻だった。後攻の経験も積んでおいた方がいいだろう。


「《アサルト・ガンドッグ》を召喚し、ターンエンド!」

牛尾のフィールドに、機械の犬が現れる。攻撃力は1200。決して高くはない。

(攻撃を誘っているのか……)

コナミはカードを引き、

「《炎龍(マグナ・ドラゴ)》を召喚」

炎を纏った小型の赤い龍が出現。こちらの攻撃力は1400。《アサルト・ガンドッグ》を上回っている。

「……《炎龍》で攻撃」

マグナ・ドラゴの吐いた炎は、機械犬の体を溶かし、破壊する。

「ちっ……」

牛尾 LP4000→3800

「だが、《アサルト・ガンドッグ》は戦闘で破壊された時、同名のモンスターを一体、特殊召喚する!」

爆炎の中から二体目の《アサルト・ガンドッグ》が出てきた。しかし、

「《炎龍》の効果も発動する。このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、攻撃力が200ポイントアップする」

《炎龍》の攻撃力が1600へ。

「カードを二枚伏せて、ターンを終了」

コナミ 手札3

「だからどうした! 俺のターン、ドロー!」

牛尾は引いたカードを見て、口角を吊り上げた。

「来た、来たぜ……!」

「…………」

「《ヘル・セキュリティ》を召喚! そして……」

小型の悪魔族モンスター。その攻撃力は僅か100を表示している。しかし、それだけで終わる筈がなかった。

「見せてやるぜぇ! レベル4の《アサルト・ガンドッグ》に、レベル1の《ヘル・セキュリティ》をチューニング!」

《ヘル・セキュリティ》が光の輪に変わり、輪の中に《アサルト・ガンドッグ》が配置される。そして、その中心を一筋の光が貫いた。

「シンクロ召喚!」

辺りに光のしぶきが舞った。左腕のデュエルディスク──その中のモーメント・エンジンが段々と回転数を上げていくが、コナミはその事に気づかなかった。

「現れろ! 《ヘル・ツイン・コップ》」

眩い光の海から、一体のモンスターがフィールドに降り立つ。翼を持った双頭の悪魔。下半身はバイクになっており、パトランプが赤い光を撒き散らす。その攻撃力は2200。コナミの《炎龍》を遥かに超えていた。

「さらに手札から装備魔法《魔界の足枷》を発動、 お前のモンスターに装備する!」

牛尾の装備魔法によって《炎龍》の攻撃力は100にされる。

「《ヘル・ツイン・コップ》で《炎龍》を攻撃! ぶっ潰せ!」
牛尾の言葉通り《炎龍》が潰され、その差2100ポイントがコナミのライフより引かれた。

「まずは一撃よ! だが、これで終わりじゃねえ!」

攻撃を終えた筈の、《ヘル・ツイン・コップ》がまた動きだす。その攻撃力は3000。何故だか、先ほどより強くなっている。

「《ヘル・ツイン・コップ》の効果だ! 戦闘で相手モンスターを破壊した時、攻撃力を増して再度攻撃できる!」

攻撃力を上げた悪魔の警官は下半身のバイクをウィリーさせながら、コナミへ突撃してきた。

「ダイレクトアタックだぁ!」

コナミのライフポイントは3400。耐えきれない。初めて、コナミの頬を冷や汗が伝った。ゴドウィンが笑みを浮かべる。

《ヘル・ツイン・コップ》の前輪が振り下ろされる。

フィールド全体を、轟音が貫いた。

カード効果はアニメかタッグフォースのを
使うのかな?

遅れましたが、あけましておめでとうございます。

質問にありました、カードの効果についてですが、特に制限は定めていません。基本はタッグフォースに準拠していこうかと思います。ヌシニクルなどはお察しください。

では、今日はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。今年度も何卒、宜しくお願い致します。

おつ
今年も楽しませてもらいます

ミスです。コナミのライフが3400と表記されている箇所がありましたが、本来は2100引かれて1900となります。誠に申し訳ありません。


「ふん、チョロいもんだ」

自らのモンスターが蹂躙した相手のフィールドを眺め、牛尾哲は鼻を鳴らした。《ヘル・ツイン・コップ》の一撃は辺りに、ソリッド・ビジョンの濃い煙を生み出している。

関係ない。

今の攻撃を、寄せ集めのカードで防げるわけがない。

記憶喪失だろうが、所詮はサテライトのクズ。あの赤帽子が仮にどこかの国の王様だろうが、一度ゴミ溜めに入れられたのなら、それはクズなのである。

そんな強い差別意識を隠そうともせず、牛尾は上司へ振り返った。

「終わりましたぜ。さっさとシティに戻りましょう」

牛尾にとって、こんなデュエルは何の意味も持たない、些事に過ぎなかった。今の彼には自分を打ち負かしたサテライトのクズ──不動遊星の事しか眼中に無い。

ゴドウィンから、あの赤帽子が手掛かりになると言われ、連れて来られたが、もうウンザリだった。初めからこんな場所に用は無いのだから、

「まだ勝負は終わっていませんよ」

待たせているヘリへ向かおうとする牛尾へ、どこか楽しそうに、ゴドウィンは告げた。

煙が晴れていく。

《リグレット・リボーン》

「なに……?」

《ヘル・ツイン・コップ》の前輪は、一枚の罠カードの目前で止まっていた。

「なんだ、そのカードは?」

気分を害した牛尾は、対戦相手に尋ねる。

「《リグレット・リボーン》は自分のモンスターが戦闘によって破壊された時に発動できるカードだ」

赤い帽子の男は先ほどと変わらぬ様子で答えた。同時に、彼のフィールドへ再び《炎龍》が現れる。

「破壊されたモンスターを守備表示で蘇生させる。モンスターの数が変動した事によって、戦闘は巻き戻され、あんたのモンスターは攻撃が中断された」

「ちっ、つまらんカードを……」

「改めて攻撃するか? どの道、《リグレット・リボーン》で蘇ったモンスターはエンドフェイズ時に破壊されるんだが」

「当たり前だ」

蘇ったばかりの《炎龍》を破壊する。放っておいて、何かに利用されても面倒くさい。

牛尾は4枚になった手札を見て、ターンエンドを宣言した。

ターンプレイヤーが変わり、赤帽子がカードを引く。

「モンスターをセットしてターンを終了」

意外なほどあっさりとした1ターンだった。相手のフィールドには、いまセットしたモンスターと先ほど使わなかったリバースカードが一枚のみだ。

牛尾はカードを引き、

「《切り込み隊長》を召喚。そして、召喚時効果を発動。手札からレベル4以下のモンスターを一体、特殊召喚する」

《切り込み隊長》の効果により、《ヘルウェイ・パトロール》が特殊召喚される。これで三体ものモンスターが並んだ。ほぼ勝ちは決まったと思い、牛尾は攻撃を宣言しようとする。

しかし、

「バトルフェイズ移行と共に、リバースカード発動」

《陽動作戦》

「このターン、裏側守備表示のモンスターには攻撃出来ない」

また凌がれる。忌々しいと、牛尾は舌打ちした。手札を三枚残し、ターンを終える。

「……《メカウサー》を反転召喚」

引いたカードを確認した赤帽子は、伏せていたモンスターを表側表示に変えた。

「《メカウサー》がリバースした時、フィールド上のカードを一枚選択し、そのコントローラーへ500のダメージを与える」
《切り込み隊長》が選択される。それと同時に機械の白ウサギが跳んできて、牛尾の頭に激突した。

「うおっ……!?」

牛尾 LP3800→3300

「おい、ふざけた真似してくれるじゃねえか。クズカードでも、ムカつくぜ」

「さらに《メカウサー》をリリース。アドバンス召喚したモンスターをセットし、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

牛尾の怒りも意に介さず、赤帽子のターンが終了する。

「サテライトのクズ如きが……。俺のターン、ドロー! 《ヘルウェイ・パトロール》をリリース! アドバンス召喚だ!」

フィールドに存在する三体のモンスターのうち、一番攻撃力の低い《切り込み隊長》をコストにしなかったのには理由がある。《ヘルウェイ・パトロール》は墓地でこそ活きるのだ。

「来い! 《メタル・シューター》!」

牛尾のフィールドに銃を持った機械族モンスターが現れる。

「攻撃力800……?」

上級モンスターである筈の《メタル・シューター》の攻撃力は、あろうことか800と表示されていた。これは先ほどの《メカウサー》と同じ数値である。


「こいつは特殊なモンスターでなぁ! 元の攻撃力こそ低いが、召喚時にカウンターを二つ乗せる!」

カウンターが二つ乗ると同時に《メタル・シューター》が二体加わり、攻撃力が変動。2400となった。上級モンスターとしてはまずまずの数値だ。

「どうだ、スゲーだろぉ!? こいつの攻撃力はカウンター1つにつき、800ポイントアップする! 二つで1600ポイントってわけよ!」

加えて、《メタル・シューター》は自身に乗っているカウンターを身代わりにすることで、効果による破壊を免れる効果を持つ。万が一、《激流葬》や《奈落の落とし穴》がセットされていても、このカードは破壊される心配が無い。

(ま、クズがそんなカードを持っているとも思えんが……)

ククク、と笑う。これで、牛尾のモンスター三体の攻撃力は合計5800。《ヘル・ツイン・コップ》の二回攻撃を加味すれば、合計8000を超える。初期ライフの二倍だ。

もう逃げられない。

「《ヘル・ツイン・コップ》で伏せモンスターを攻撃ぃ!」

反撃は無く、赤帽子のモンスターは粉々になって吹き飛ばされる。牛尾は勝利を確信した。

「クズカードを破壊した事によって、《ヘル・ツイン・コップ》の効果発……ど、う?」

《派手ハネ》

原住民の付けるような仮面が、ケタケタと笑う。その両端に二振りの斧が現れ、回転。暴風が巻き起こった。

「《派手ハネ》がリバースした時、相手フィールドのモンスターを三体まで選び、手札を戻す……。あんたのモンスターは三体。ちょうどだな」

《メタル・シューター》と《切り込み隊長》は手札に、《ヘル・ツイン・コップ》はエクストラデッキへ戻される。万全かと思われた牛尾のフィールドは、今やがら空きだった。

「シンクロモンスターがどこに戻るか疑問だったが、やはりデッキか。……これは貴重な情報だな」

「ク、ズがあぁあ!」

赤帽子に言われ、牛尾のこめかみに青筋が浮かんだ。クズだと嘲っていた相手から実験台扱いされたのだ。プライドが音を立てて崩れていく。

(……いや、落ち着け)

怒りの余り、込みあがってきた吐き気を飲み込み、自分に言い聞かせる。以前も牛尾はこうやって感情的になり、足元をすくわれた事があった。同じ轍を踏むわけにはいかない。

「……カードを一枚セットし、ターンエンドだ」

召喚権は使ってしまった。モンスターを出す方法が無いわけではないが、ここは防御に徹する。どうせ、相手には二枚の手札と伏せたきり使わないリバースカードが一枚のみ。

(そうだ……焦るな。落ち着いて対処するんだ)

牛尾もセキュリティで長年ならしたベテランだ。ヤバい状況など星の数ほどあった。それに比べれば、どうということはない。

「……ドロー。メインフェイズ。《チューン・ウォリアー》を召喚」

相手の場に効果を持たない戦士族のチューナーが出現する。攻撃力は1600。大したことは無い。

「バトルフェイズ……」

だが、通さない。

「リバースオープン! 《威嚇する咆哮》! このターン、てめぇは攻撃宣言をすることが出来ねえ!」

「そうか」

(そうか、じゃねぇ……!)

牛尾はどうも、この赤帽子が気に入らなかった。あの不動遊星と同じで、腹が立つほど喋らないからか。とにかく、こうして顔を合わせているだけで苛々とする。

「なら、カードを一枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

引いたカードは《ジュッテ・ナイト》。勝った──と、牛尾は今回のデュエルで何度目か分からない確信を持つ。

「墓地の《ヘルウェイ・パトロール》の効果を発動! このカードを墓地から除外し、手札から攻撃力2000以下の悪魔族モンスターを特殊召喚できる!」

先ほど《メタル・シューター》を召喚する際に《ヘルウェイ・パトロール》をリリースした理由がこれだった。手札にはもう一枚の《ヘルウェイ・パトロール》。

「手札から《ヘルウェイ・パトロール》を特殊召喚! さらにさらにぃ! 《切り込み隊長》を召喚し、その効果で《ジュッテ・ナイト》を特殊召喚だぁ!」

一瞬で牛尾のフィールドに三体のモンスターが並んだ。《ジュッテ・ナイト》には相手モンスターを守備表示にする効果があるが、使う必要はない。

「レベル4の《ヘルウェイ・パトロール》に、レベル2の《ジュッテ・ナイト》をチューニング! こいつが俺のデッキ最強のモンスター……現れろ!」

《ジュッテ・ナイト》が二つの光輪に姿を変え、《ヘルウェイ・パトロール》を包み込む。先ほども行った召喚方法──シンクロ召喚である。

「シンクロ召喚! 《ゴヨウ・ガーディアン》!」


やっとここまで書いた……。なかなか書く時間が取れなくて苦労しました。体力的にさすがに限界なので、今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。






















PS,この板の改行は80回までなんですね。知らずに投稿した文(40分掛かった)が吹き飛びました。良い勉強になります。

皆さんも長文を書く際はお気をつけ下さい。では失礼します。

追記です。現在の状況。

コナミ LP1900 手札1

フィールド
《チューン・ウォリアー》

リバース二枚



牛尾 LP3300 手札2(一枚は《メタル・シューター》)

フィールド
《ゴヨウ・ガーディアン》


となっております。

乙ですー
切り込み隊長の気配が消えた……

乙ー
出たよゴヨウ……


出たなゴヨウ

二度目のシンクロ召喚。まき散らされた光が収束し、大気が震える。サテライトの淀んだ空気を吹き飛ばして、牛尾の持つ最強のモンスターが姿を現した。

《ゴヨウ・ガーディアン》。レベル6、地属性、戦士族のシンクロモンスターだ。その攻撃力は2800と、上級モンスターにしては異様に高い。

「この《ゴヨウ・ガーディアン》は特殊なカードでな! 一般人じゃ使う事はもちろん、手に入れることすらできねぇ!」

セキュリティ特権というやつだ。通常では入手、所持が出来ないカード群。それらは犯罪者を捕らえるためだけに生み出され、例外なく禁止カード級の力を持つ。サテライトの無法者どもがセキュリティを恐れる理由の一つだ。

「…………」

そんなモンスターを出されたのにも関わらず、対戦相手は特に驚いた様子も無い。しかし、牛尾は苛立たなかった。《ゴヨウ・ガーディアン》を出した事によって生まれた余裕が、彼を冷静にさせていたのだ。

「おいおい、リアクションくらい返そうぜ。てめぇはコミュニケーションだとか、会話のキャッチボールって言葉をしらねえのか?」

「…………」

無言。こりゃ駄目だ、と牛尾は首を振った。

「まったく……。クズは礼儀も知らねえみたいだな」

仕方なく、バトルフェイズへ移行する。牛尾のフィールドには攻撃力2800の《ゴヨウ・ガーディアン》に1200の《切り込み隊長》。対して、相手のライフは1900だ。

(ゴヨウで攻撃力1600の《チューン・ウォリアー》を破壊して1200のダメージ。後は《切り込み隊長》のダイレクトアタックでジ・エンド、よ……!)

禁止カードでクズを蹂躙する。牛尾はその瞬間がたまらなく好きだった。自身の持つ、圧倒的な権力の大きさを味わうことが出来るからだ。

「捻り潰せ《ゴヨウ・ガーディアン》! ゴヨウ・ラリアット! 」


説明は…

>上級モンスターにしては異様に高い
>上級モンスターにしては異様に高い
>上級モンスターにしては異様に高い
これなんだよなぁ……せめて攻撃翌力が低かったら

レベル6、素材フリー、攻撃翌力2800、寝取り効果。
せめてどれか一つでも違えば禁止にならなかったかもなぁ。

「《ゴヨウ・ガーディアン》は戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターを守備表示で俺のフィールドに特殊召喚する効果を持つ! クズカードだが、てめぇの《チューン・ウォリアー》を頂くぜぇ!」

戦闘破壊した相手モンスターの強奪。これが非常に凶悪な効果だった。シンクロ召喚が席巻している今の時代なら、奪ったモンスターを使ってそのままシンクロ召喚に繋げることも容易い。

しかも、《ゴヨウ・ガーディアン》の攻撃力は2800。レベル6でシンクロ素材に縛りも無いので、牛尾がやったように簡単に召喚することが出来る。このカードの前では、攻撃力2800以下のモンスターに価値は無い。

《ゴヨウ・ガーディアン》の投げた十手が《チューン・ウォリアー》へ迫る。

「……リバースオープン」

《迎撃準備》

「あ?」

「このカードの効果で、フィールド上の戦士、魔法使い族モンスター一体を裏側守備表示に変更する」

《ゴヨウ・ガーディアン》は戦士族。攻撃は中止され、表示形式が変更されてしまった。またも凌がれる。

「……いくら強力なカードだろうが、裏側表示じゃ攻撃出来ない」

「ちっ、またクズカードか」

今さら攻撃表示の《切り込み隊長》は戻せない。牛尾は舌打ちし、毒を吐いてターンエンド。コナミのターンとなる。ドローフェイズでカードを引き、手札は二枚となった。

「《KAー2 デス・シザース》を召喚」

召喚された青い蟹型の機械族モンスターの攻撃力は1000を表示する。厄介な効果こそ持っているものの、攻撃力は《ゴヨウ・ガーディアン》はおろか、《切り込み隊長》にさえ及ばない。

「そんなクズを並べたところで──」

「《チューン・ウォリアー》で《切り込み隊長》を攻撃」

牛尾の言葉を遮り、コナミが攻撃を宣言した。《切り込み隊長》が破壊され、牛尾にダメージが入る。

「うお……っ!」

牛尾 LP3300→2900



「ふん……。《切り込み隊長》を破壊したところで、てめぇには俺のシンクロモンスターを倒せねぇ」

「…………」

「答えてみろよ。てめぇのクズカードで俺の《ゴヨウ・ガーディアン》を倒せるかって聞いてんだよ。ああ?」

「…………」

「まただんまりか。……ったく」

チンピラ顔負けの挑発を繰り返す牛尾にも、コナミは無言を貫く。

手札は残り一枚。

ここまでしつこく粘ったものの、もう限界なのだろう。次のターン、《ゴヨウ・ガーディアン》を攻撃表示にして攻め込めば、それで決着がつく。牛尾は既に、勝った気になっていた。

そこへ、

「全てのカードに意味はある。価値の無いカードなど存在しない」

コナミが突然、口を開いた。

「あ?」

虚を突かれ、牛尾は聞き返した。

「俺にデュエルを教えてくれた男が言っていた言葉だ」

(……待てよ。このセリフ、どこかで──)

牛尾の脳裏に、赤いDホイールを駆る、自分を下した男の姿がよぎった。

「だからどうした? そんなもん、クズみてぇなカードしか持ってねぇ、クズの負け惜しみだろうが」

聞く耳を持たないに、コナミは続ける。

「……だが、全てのカードを使いこなすのは難しい。だから人は悩み、理解しようと前に進む──これも、その男の言葉だ」

無性に苛つき、牛尾はあからさまに舌打ちをした。

「何が言いたいんだ、てめぇ」

「……分からないか」

そこで、初めてコナミと目が合った。深く被った帽子の影。月光に照らされる中で、その瞳は刃物のように鋭い光を放っていた。

(な、なんだこいつ……)

思わず、息を呑む。牛尾は完全に気圧されていた。

「強力なシンクロモンスターに頼ることしか出来ないあんたじゃ、俺には勝てないということだ」


「なんだと……?」

この状況をひっくり返せるわけが無い。先ほどの《派手ハネ》には驚かされたが、あんな手が何度も使える筈が無い。それに、いくら戻されたところで牛尾のデッキには何度でもシンクロ召喚を行えるギミックがある。

(何か仕掛けてきやがるのか……?)

相手のフィールドにはレベル4のデス・シザースとレベル3のチューナーが揃っている。合計レベルは7。まさかシンクロ召喚を行うつもりなのか。

(いや、既にバトルフェイズは終わっている。追撃なんぞ、出来る筈が……)

だが、レベル7のシンクロモンスターにはインチキじみたバーン効果を持つ物も存在する。そんなカードを持っている可能性は低いものの、牛尾は以前に不動遊星のシンクロモンスターによって敗北している。

「俺はカードを一枚伏せて、ターン終了」

警戒する牛尾を尻目に、コナミはあっさりとターンを終えた。これで手札はゼロ。文字通り、後が無い。

「はははは! あんだけ粋がっておいて、結局それかよ! 俺のターン、ドロー!」

牛尾の手札はこれで三枚、そして引いたカードは二枚目の《ヘル・セキュリティ》。レベル1のチューナーモンスターだ。

「俺は手札から《死者転生》を発動! 手札を一枚捨て、墓地のモンスターを一体を手札へ戻す……。そして!」

《メタル・シューター》を捨て、《アサルト・ガンドッグ》を手札に加える。

「またまた墓地から《ヘルウェイ・パトロール》を除外して効果発動! 手札から攻撃力2000以下の悪魔族を特殊召喚する! カモ~ン! 《ヘル・セキュリティ》ちゃん!」

気分が乗ってきた牛尾の口調は奇天烈になっていく。

「もう一丁! 《アサルト・ガンドッグ》を召喚し──」

「……またか」

再びレベル4の《アサルト・ガンドッグ》へレベル1の《ヘル・セキュリティ》がチューニングされる。

「シンクロ召喚! 再登場だぁ! 《ヘル・ツイン・コップ》!」

「ゴヨウを攻撃表示に変更。これで俺のフィールドにはシンクロモンスターが二体! いくぜ、バトルフェイズ!」

相手のフィールドにはモンスターが二体とリバースが二枚のみ。牛尾は手札を全て使い切ってしまったが、それは攻撃を躊躇う理由にはならない。

(二枚のリバースの内、一枚は一ターン目から伏せたきり使わないクズカード。恐らくはブラフ……)

つまり、コナミのフィールドにあるカードは四枚中、三枚は警戒しなくてよい。その最後の一枚とて、先ほどのターンに引いたカードだ。そして《ヘル・ツイン・コップ》の召喚を許したということは、召喚反応型の罠カードではないことになる。

(ならば、怖いのはミラーフォースのような攻撃反応型の罠カード……)

だが、相手の使っているデッキはサテライトに投棄された──いわばゴミだ。強力な罠カードなど拾っているとは考えにくい。

(……いや、何を考えてんだ俺は。相手はクズ。カードもクズ。なら、ビビる必要なんかねぇ)

自分の中に無意識に生まれていたしこりを無視し、

「《ゴヨウ・ガーディアン》で《チューン・ウォリアー》を攻撃! 今度こそ仕留めるぜ、ゴヨウ・ラリアット!」

《ゴヨウ・ガーディアン》二度目の攻撃。先ほどは阻まれたが、今度はそう上手くいかない。

(《ゴヨウ・ガーディアン》の攻撃で1200ダメージ。《ヘル・ツイン・コップ》の攻撃で、もう1200。合わせて2400……!)

《ゴヨウ・ガーディアン》の投げた十手が、今度こそ《チューン・ウォリアー》に直撃する。牛尾はこのデュエルで最後となる勝利の確信を得て、叫んだ。

「俺の勝ちだぁぁあ!」

だが、

「……リバースカードだ。《イージー・チューニング》」

ゴヨウの十手が弾き返される。《チューン・ウォリアー》は無傷。プレイヤーにダメージも無かった。

「《イージー・チューニング》は墓地のチューナーモンスターをゲームから除外する事で、そのチューナーの攻撃力分、自分フィールドに存在するモンスター一体の攻撃力を上昇させる」

「なにぃ……っ!」

「俺は墓地の《炎龍》をゲームから除外し、その攻撃力1400を《チューン・ウォリアー》に与える」

《チューン・ウォリアー》が炎を纏う。その攻撃力は1600から3000へと上昇していた。

「こ、攻撃力3000だと!?」

「……返り討ちにしろ、《チューン・ウォリアー》」

ついに《ゴヨウ・ガーディアン》はその効果を発揮することなく、破壊された。

「俺の《ゴヨウ・ガーディアン》が……」

牛尾 LP2900→2700

「クズが、俺のシンクロモンスターを……」

倒すなど。信じられなかった。これで牛尾の有利は崩れ始める。

「シンクロモンスターがやられて意気消沈か。随分と気分の上がり下がりが激しいな」

「……調子に乗るなよ。俺にはまだ、《ヘル・ツイン・コップ》がいる」

《イージー・チューニング》によって強化された《チューン・ウォリアー》は倒せないが、攻撃力1000の《KAー2 デス・シザース》なら倒せる。そこで《ヘル・ツイン・コップ》の効果を発動すれば、攻撃力は3000。相打ちにまでは持ち込める筈だ。

お互いに手札がゼロなら、ライフの多い牛尾が有利だ。

「仕方ない。《ヘル・ツイン・コップ》で《KAー2 デス・シザース》を攻撃!」

これでコナミのライフは1200引かれて700となる。

(さあ、殴り合いのサドンデスといこうじゃねえか……)

牛尾は半ば自棄になりながらも、自身の勝利を疑わなかった。

「……残念だが」

リバースカードがオープン。

《援護射撃》

「このカードは相手が俺のモンスターへ攻撃する際、ダメージステップ時に発動出来る罠カード。自分フィールド上のモンスターの攻撃力を、攻撃されたモンスターへ上乗せする」

つまり、攻撃された《KAー2 デス・シザース》の攻撃力1000に《チューン・ウォリアー》の攻撃力3000を加えるということだ。その攻撃力は4000に達した。

「ぐおっ!? ば、馬鹿な……」

牛尾 LP2700→900

あっけなく《ヘル・ツイン・コップ》が破壊される。

「待てよ。そのモンスターの効果は……」

デス・シザースには厄介な効果があったはずだ。確か──

「ああ。戦闘で破壊した相手モンスターのレベル×500のダメージをあんたに与える」

「う、うおおおおっ!?」


《ヘル・ツイン・コップ》のレベルは5。2500ポイントのダメージが入り、牛尾のライフはゼロになる。


この日、牛尾哲はクズと蔑んだ相手から二度目の敗北を喫した。

さすが、遊星パックの看板モンスターだ!

にぎや蟹なってきたな

蔑んでいた相手に負けて悔しいでしょうねぇ

ですが笑えますねえ

決着がついた。

《KAー2 デス・シザース》の効果で2500ものダメージを与えられた牛尾は、大の字になって気絶していた。よほどショックだったのだろう。

それを気にもせず、コナミは使ったカードを回収し、デッキへ戻す。その際、一枚のカードを手に取った。

《KAー2 デス・シザース》

何の因果か、遊星から貰ったカードが今回のデュエルのフィニッシャーとなった。

「素晴らしい」

後ろからの拍手で、コナミはこのデュエルの意味を思い出す。デュエル自体に夢中になってしまい、すっかり忘れていた。少し恥ずかしくなる。

「……これで満足ですか」

ゴドウィンに慣れない敬語を使う。これから世話になるのだろうし、遊星やラリー達の身柄も握られているのだ。高圧的、反抗的な態度をとるメリットは無い。

「もちろんです。やはり、あなたは龍の星に選ばれた方のようだ。……では、約束通りシティへ案内しましょう」

あちらにヘリを待たせていますと言って、ゴドウィンは歩き出す。倒れたままの牛尾は無視するらしい。

ヘリに乗り込み、パイロットがエンジンを点ける。間もなく、機体は空へ浮かび上がった。

「…………」

ヘリの窓から上空を見上げる。サテライトの空を覆っていた鉄色の雲が切れ、シティの空には星の海が広がっていた。こんなところにも格差がある。

うんざりとした気分で、コナミは息を吐いた。

「……見えました」

飛び立ってから五分もたたず、ヘリはシティの上空に来ていた。

高いビルが乱立しているのはサテライトと同じだが、こちらはどこまでも整備が行き届いており、発展や安全、清潔といった言葉が似合う。第一、明るさが違った。人工的な灯りに乏しいサテライトと違い、建造物や標識、乗り物から色とりどりの光が発せられ、空から見ると、まるで地上の星空のようだ。

そうしてさらに五分。治安維持局のビルに到着した。ヘリから降りて地面を踏む。ひび一つ無いコンクリートはこんなに歩きやすいものなのだと感心した。

「さて、コナミさん」

ゴドウィンは両腕を広げ、言った。

「治安維持局の長官として、あなたを歓迎します」

その背後には空と地、二つの星空が広がっている。

「ようこそ。ネオドミノシティへ」

やっと牛尾戦が終わった……。長かった。

これからはネオドミノシティへ場所を移していきますが、コナミくんのおかげで遊星の出発がアニメより早まったために、フォーチュン・カップ開催まで少し時間があります。

なので、その間に原作キャラやTFのモブと仲良くなるか、カードを拾い集めるか思案中です。そこで、安価でも取ろうかと。以下の内から一つお選びください。





1,口説く。

2,カードを集めつつ口説く。

3,足元を固めつつ口説く。



>>90の方、あなたの選択で世界が変わる。


では、今日はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、指摘して頂いた方、ありがとうございました。

とりあえず踏み台安価下

1

個人的にコナミ君には超次元戦闘機を使ってもらいたいので2

超次元戦闘機ってなんだよ超時空戦闘機だよ
どうりで予測変換に引っかからない訳だ、明日グラディウスやってきます

乙!
口説かないコナミ君はいないんですね、ヤッター!


とりえずゆきのん口説く

乙ー
ゆきのん好きだけど、個人的にはレインかツァンが良いなぁ
後は、無理無くシンクロが使える割りと汎用的なデッキ持って欲しい

学校というものは残酷である。社交性の向上などと銘打って、他人との繋がりを強要するのだ。隣席の人間と課題をやったりするのはまだ仕方ないとしても、体育の時の二人組作ってだの、中等部の頃まであった給食だの、学校の行事全般だの、そういったものは大嫌いだった。

「はあ……」

少女は何度目になるか分からないため息を吐いた。珍しいピンクの髪が風に揺れる。ベンチに腰掛け、傍らには学生用の鞄が置いてあった。

こんなに憂鬱になることは珍しい。

夕暮れの街並みには少女と同じ学校の制服を着た連中が続々と帰宅している。

ある者は友達とはしゃぎながら、どこかへ遊びに行こうと、ある者は彼氏と休日の約束を話し合っていた。ベンチでそれを眺める少女は自らの中に明確な殺意が湧き上がってくるのを感じた。

(いいなぁ……。大きな悩みなんか無いんだろうなぁ……)

気楽な連中は良い。ああやって頭の悪そうな話をして、無駄に時間を使っていれば日々を過ごせるのだから。

その点、自分は違う。今まさに人生最大の危機を迎えているのだ。相談の出来る相手などおらず、ましてや助けてくれる相手など存在する筈が無い。

(ああ……。学校が爆発しないかなぁ……)

もういっそ爆破しようか。人がいない時間を見計らって。確か以前、サテライトの人間によってセキュリティのビルが爆破される事件があった筈だ。

少女はそんな、現実性の無い現実逃避を一時間ほど繰り返している。


??「ビルを爆破して満足するしかねぇ!」

「はあー。こんな事してても埒が明かないか……」

暗い面持ちで立ち上がる。少女に年相応の華やかさは微塵も無かった。その理由とは、学校で出された課題である。

街へ出て、歩いている人とデュエルする。

ただそれだけの内容だ。だが、名前も知らない初対面の人間にデュエルを申し込むというのは、顔見知りの激しい少女にとって死に等しい責め苦だった。思わず学校に対する破壊工作を考えてしまうほどに。

「まずは、公園かな……」

デュエルディスクの調子を確認し、まずは公園へ。



公園。

「駄目だ……」

既に少女と同じ学校の生徒が何人か、街行く人にデュエルを申し込んでいた。見れば、クラスメートもいる。これでは駄目だ。場所を変えるしか無い。何が駄目なのかは少女にもわからなかったが、とにかく場所を移した。

その後、

「うぅ……っ」

少女は涙目でネオドミノシティを徘徊していた。繁華街や中央広場、病院やマンション区なども回ってみたが、どこも駄目だった。

今、ネオドミノシティは活気に溢れている。来月のKCカップと、2ヶ月後に控えたフォーチュン・カップ。二つの大型イベントを間近で見ようと、そこら中から人が集まっているのだ。

今回の課題も、それに関係しているのだろう。世界中から来た人間と対戦すれば、それだけ新しい発見が増える。学校としても、数年に一度のイベントにまつわる行動を起こしておきたいのだ。

まったく、はた迷惑な話である。

「いっそのこと、すっぽかしちゃおっか……。いやいや、ダメダメ。ボクは優等生なんだから……」

頭を振る。少女は一応、学校ではトップクラスの成績の持ち主だった。父親が有名なプロデュエリストだったし、少女もそれなり以上に厳しく躾られた。

学校の課題程度、片付けられないようでは何と言われるか分からない。なにより、少女のプライドが許さなかった。

しかし、今日はもう日が暮れようとしている。課題の期限にはまだ余裕があるのだから、早めに帰った方が良いだろう。少女の家は門限に異様に厳しいのだ。

帰り道、また先ほどの公園に立ち寄る。時間が時間だからか、忌々しいカップルなどおらず、静寂が広がっていた。

その中に、一人。

(あ、あの人……)

公園のベンチに、赤い帽子を被った少年が座っていた。その左腕には見たからに高性能そうな、金色のデュエルディスク。間違いない。最近よく見かけるようになった人物だ。

少年はベンチに腰掛けたまま、両手に持った何かを食い入るように見ている。遠くからでは良く見えなかったが、歩いていくうちに確認できた。どうも、カードを見ているらしい。

(ふーん。やっぱりデュエリストなんだ……)

街中でデュエルディスクを装着しているということは、いつでも挑戦を受けるという意思表示だ。

「…………」

公園の中を横切りながら、チラチラと少年の方を窺う。普段は他人に興味を示さない少女だったが、何故かあの赤い帽子の少年にはどうしても目を引かれた。浮き世離れした不思議な空気を纏っているからか。

公園の中央に設置された、大型の噴水に差し掛かる。これはここの名物だ。夜にはライトアップされるので、カップル共がこれ目当てに集まってくる。

そして少女の背後で通り過ぎたばかりの噴水から突然、水が噴き出した。午後六時を知らせる合図である。

「うぇっ!?」

だが、他に気を取られていた少女は思い切り虚を突かれ、素っ頓狂な声をあげてしまった。

「……?」

少年の顔が上がる。目が合った。

「ーーーーっ!」

顔が熱くなる。赤くなっているのが自分でも分かった。それすら気恥ずかしくなり、少女は家まで全速力で走った。

まだ課題の期限までは、土日の休みを挟んで一週間近くあるのだ。急ぐことは無い。そう自分に言い聞かせる。

その夜。

少女は公園での出来事を思い出して、ベッドの中で悶えることになった。


それから毎日、少年の姿を見かけることになった。

二日目の金曜日。

「《サクリファイス》の効果を発動。あなたのモンスターは私の物になる……さあ、いらっしゃい」

(あれは、藤原さんかな)

赤い帽子の少年は、中央広場で少女の同級生とデュエルを行っていた。ツインテールが特徴的な美少女、藤原雪乃だ。儀式魔法を軸にした強烈なデッキの使い手で、学校でも有数の実力者だ。

「ふふ……可愛い子。どうしてあげようかしら?」

雪乃は官能的に微笑む。とても同い年とは思えなかった。

(あ、そうだ……。私も対戦相手を探さなきゃ)

観戦もそこそこに、少女はその場を後にした。


三日目。土曜日。

「ジャッキーン! 《D モバホン》の効果発動! ダイヤル……オーン!」

今度は繁華街、カードショップの前で緑色の髪をした、小学生くらいの男の子とデュエルしている。

(珍しい髪の色だなあ……)


四日目。日曜日。

帽子の少年は珍しくデュエルをしていなかった。公園のベンチに座っており隣には昨日の少年によく似た少女が座っている。遠くからだったので話は聞こえなかったが、少女は俯いていた。

(別れ話……? いや、そんなわけないか)


五日目。月曜日。

今度は少女の学校の近くで、少年はまたもデュエルに興じていた。

「《波動キャノン》の効果発動! このカードを墓地に送る事で、あなたに4000ダメージを与えます!」

対戦相手は原麗華。眼鏡を掛け、黒いニーソックスをはいている。少女の同級生で、生真面目な性格のクラス委員長だ。

バーンデッキの使い手であり、藤原雪乃と双璧を成す強者だった。今は外ということもあり、安定性の高いロックバーンを使用しているようだ。

六日目。火曜日。

病院の近くで、またもやデュエル特有の響きがあった。

「《裁きの龍》の効果発動! 1000ライフ払って、このカード以外のフィールド上のカードを全て洗浄する!」

帽子の少年と戦っているのは大庭ナオミ。ライトロードデッキを使用する、学校でも指折りの危険人物だった。彼女は類を見ないほどの潔癖症患者であり、筋金入りの同性愛者である。

校内のめぼしい女子生徒に声を掛けては、自らの手中に収めようとする反面、男性は汚物と呼んではばからず、その極端過ぎる態度が特徴の生徒だ。

なるほど、確かに病院という場所は彼女にうってつけかもしれない。

(早く入院すればいいのに……)

ナオミの視界に入らないように注意しながら、少女は繁華街へ向かった。



七日目。水曜日。

(しまった……)

気づけば、課題の期限は明日に迫っていた。もう時間は無い。少女はため息を吐いた。最悪の気分だった。早く対戦相手を見つけ、デュエルをしなくてはならない。

校門を抜け、早足で歩く。天気は快晴。夕陽がシティのビル群を照らしていた。

道を歩く人間、一人ひとりに目を向け、デュエルディスクを付けているか確認していく。この時期だ。結構な人数を見かけるが、全員男性だった。声をかけるならば女性が良い。

しかし、いない。仕方なく男性に声を掛けようかとも思ったが、何人かで固まっていられたりすると非常に近寄りがたい。

(なんで群れてんの? 女子か!)

時間がどんどん過ぎていく。それに伴い、焦りもどんどん大きくなっていった。もう門限までの時間は残り少ない。また父親と喧嘩になり、二人して母親から怒られるのはごめんだった。

(……仕方ない)

意を決して、公園へ足を向ける。

噴水広場として親しまれているこの場所は、都市として発展を続けているネオドミノシティの中でも数少ない、自然を楽しめる場所だ。こんな状況でなかったら、夕暮れの風に揺らめく木々を眺めるのも悪くなかっただろう。

(あ、やっぱりいた)

見つけるのに時間は掛からなかった。人の少なくなってきた噴水広場でただ一人ベンチに座っている赤い帽子の少年。

少年は今日もカードを見ていた。こうも毎日見かけていると、彼のことが心配になってくる。学生でもなさそうだし、仕事をしている様子も無い。浮浪者の類いだろうか。それにしては身なりは綺麗だ。

可能な限り堂々と歩み寄ってゆく。

「…………」

立ち止まった。距離は二メートルほど。ここまで近づいたにも関わらず、相手は顔を上げない。

(気づきなさいよ……!)

気づいてないのか、気づいても無視してるのか。

一瞬、声を掛けるのを止めようかとも考えたが、なんとか留まる。ここを逃したら、もうチャンスは巡ってこない気がするからだ。

(一流の決闘者はチャンスを逃さないもの……って、テレビでジャック・アトラスが言ってたし)

キングが言うなら間違いないだろう。深呼吸をする。

腹に力を込めて──



「あ、あの……っ!」

頭上から降りかかる声。カードへ注いでいた視線を離し、コナミは顔を上げた。目の前には少女が立っている。

勝ち気そうな瞳と珍しいピンク色の髪。その顔立ちは記憶の無いコナミから見ても整っていると思えた。そして何より、目立つのは彼女の服装である。

(制服……。デュエル・アカデミアの生徒か)

デュエル・アカデミアとは、デュエルを主軸に据えた教育を行う学校機関である。オーナーは世界最大手の大企業、海馬コーポレーション。

もちろん普通の教科も内容に含まれるが、やはりデュエル方面の功績は大きく、今や世界最大の娯楽となったデュエルのプロ・リーグへ何人もの逸材を送り出している……らしい。

「え、えっとですね。その、良ければ、わ、私と……迷惑だったら断ってもらっても全然気にしないんで、その……」

「…………」

何か用か、と動向を窺うが、相手はアワアワとしている。その左腕にはデュエルディスク。

「……デュエルか?」

ピクーン! 少女の背筋が伸びる。その瞳には驚きの色が浮かんでいた。

「最近、アカデミアの生徒から何回も挑まれているからな。……課題なんだろう?」

「え……。あ、はい。そうですけど」

少女は持っていた通学鞄から、一枚のプリントを取り出す。今どき紙媒体とは珍しいが、何かしらの意味があるのだろう。

コナミは立ち上がり、プリントを受け取る。書類には対戦相手となった人間からサインとコメント、1~5までの評価点を記入してもらう決まりになっている。

コナミはまず、対戦相手の欄に自身の名前を記入した。

「えーと。コナミ、さん?」

「……ああ。ツァン・ディレだな。呼び捨てで良いぞ。敬語もいらない」

プリントの左上には、既に少女の名前が記入されていた。ぽかんとする少女に、

「デュエルに敬語なんて、邪魔なだけだからな」

ここ数日の間に戦った相手は、むしろ敬語を使う人間の方が少なかった。それを考えると、ツァンは礼儀正しい方なのだろう。

デュエルディスクを起動。今日拾った分のカードをジャケットの胸ポケットにしまい込んでツァンと距離を取る。なにやら急いでいるようなので、早めに始めようと考えたのだ。

「ふ、ふん。話が早くて助かるわ」

「……俺の採点は厳しいぞ。気張ってこい」

「な……!?」

少し挑発してやると、ツァンは怒りで顔を赤くした。こうした方が彼女も本来の調子が出るだろう。

「学生相手だからって馬鹿にして……! いいわ、ボクの力を見せてあげるっ」

ツァンはディスクを起動させた。コナミの物と即座にリンクし、双方のディスクへ交互に赤い光が灯る。

光はツァンのディスクで止まった。先攻は彼女が取ったことになる。

「デュエル!」

「……デュエル」

とりあえず、今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。


乙ー!

だが小さなアイはあるんだろ?
乙でした

乙!
ツァンかわいいなww

「よーし。ボクのターン、ドロー!」

先攻を取ったツァンはカードを引き、手札を確認する。

《紫炎の足軽》
《神速の具足》
《紫炎の霞城》
《六武の門》
《六武衆 ニサシ》

の五枚に、今引いた《漆黒の名馬》を加えた。

「まずはフィールド魔法、《紫炎の霞城》を発動!」

デュエルディスクのフィールド魔法スペースへカードを配置。すると辺りが暗くなり、地面から巨大な城が現れた。

このフィールド魔法は【六武衆】という特定のカード群をサポートする物で、攻撃してきた相手モンスターの攻撃力を500下げる効果を持つ。

「さらに永続魔法《六武の門》を発動!」

城の前方に紋様が刻まれた門が出現。これによって【六武衆】の城が完成する。

《六武の門》は【六武衆】が召喚、特殊召喚される度に武士道カウンターを二つずつ置き、そのカウンターを使うことで様々な効果を発揮する【六武衆】最高のサポートカードである。

このカードの長所は、使うカウンターは自分の場の武士道カウンター……つまり《六武の門》からでなくとも良いところだ。他のサポートカードと組み合わせる事で、その効果は飛躍的に高まるのだ。

「さらにモンスターをセット、カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

残りの手札は二枚。万全の布陣を敷いた。ツァンのターンが終わり、コナミへ移る。

「……ドロー」

初対面の相手とデュエルをする際は、やはり一ターン目が肝となる。ここで相手の戦略をある程度は把握出来なければ、後でひっくり返される可能性が出てくるのだ。

だからこそツァンは最初にフィールド、永続魔法で場を整えてプレッシャーを与え、伏せモンスターとリバースカードで相手に戦略を読まれる事を防いだ。

「《エレクトリック・ワーム》を召喚」

コナミの場にプラズマが集まって出来たような小型のモンスターが現れる。

「……?」

ツァンは小首を傾げた。記憶が定かではないが、確かあのモンスターは手札から捨てることによって効果を発揮するはずだ。知名度が低すぎるあまり、昔のテストに出されて誰一人解答者がいなかったので、なんとなく覚えていた。

「……バトルだ。伏せモンスターを攻撃」

リバースカードを警戒するわけでもなく、攻撃力たった1000の《エレクトリック・ワーム》で攻撃してくる。ツァンの伏せモンスター《紫炎の足軽》が電撃に討たれ、爆散。

やられてしまったが、これで良い。

「《紫炎の足軽》の効果発動! 戦闘で破壊された時、デッキからレベル3以下の【六武衆】を一体、特殊召喚できる!」

ディスクからデッキを取り出し、扇状に開く。目当てのカードを取り出し、

「来て! 《六武衆 ヤイチ》を特殊召喚!」

青い甲冑を纏い、弓を持った弓兵が呼び出される。攻撃力は1300。高くはないが、強力な効果を宿している。ツァンは口元に笑みを浮かべた。

「さらに《六武の門》の効果発動! 六武衆が召喚されたことにより、このカードに武士道カウンターを二つ乗せる!」

「……一つじゃないのか」

「ボクのカードがそんなにケチくさいわけでしょ!」

「カードを一枚伏せてターン終了」

「なら、エンドフェイズ時に永続トラップ発動! 《神速の具足》」

三枚目のサポートカード。《神速の愚息》はドローフェイズ時に引いたカードが【六武衆】モンスターだった場合、相手に見せる事でそのまま特殊召喚できる永続罠だ。


うわぁぁぁ六武衆だぁぁぁ

「ボクのターン、ドロー!」

ツァンの目が輝く。引いたカードは六武衆では無かったが、このデッキ最強のカード。しかも、今すぐにでも出せるほどカードが揃ってしまっている。

手札とフィールドのカードを確認。算段を整えた。

(よーし! びっくりさせてあげる)

意気込み、

「《六武衆 ニサシ》を召喚! これにより、《六武の門》のカウンターをさらに二つ増やす!」

武士道カウンターの総数は4。これを待っていた。

「《六武の門》の効果発動! カウンターを4つ取り除き、デッキから【六武衆】と名の付くモンスターを一枚、手札に加える……。《六武衆の師範》を手札へ!」

ツァンは得意気にふふんと笑い、手札に加えたカードをそのままディスクのモンスターゾーンへ配置した。

「《六武衆の師範》は自分の場に六武衆が存在する時、特殊召喚できる! さらに──」

師範が場に出たことでさらに《六武の門》に武士道カウンターが二つ乗る。そして、ドローフェイズで引いたカードをフィールドへ。

「はいはーい! 手札からモンスターを特殊召喚!《大将軍 紫炎》!」

ツァンがモンスターの名を告げると、烈火が広がりフィールドを焦がす。ヤイチ、ニサシ、師範。三人の侍がひざまずく。そうして、六武の紋様が入った門がゆっくりと開いた。

中から現れたのは、紅蓮の鎧を纏いし、六武衆を束ねる大将軍。まぎれもない、ツァンの切り札だった。


ツァンの場に四体のモンスターが並ぶ。この高速召喚こそ、六武衆の持ち味だった。

「《六武衆ーヤイチ》の効果発動! ヤイチ以外の六武衆がいる時、相手のリバースカードを一枚選択し、破壊する!」

ヤイチが矢をつがえ、弓を引く。これがこの弓兵の効果。攻撃権を放棄することで、相手の伏せた魔法・罠カードを破壊できるのだ。

放たれた矢が、コナミのリバースカードへ迫る。

「……永続トラップ発動。《銀幕の鏡壁》」

ヤイチの放った矢が空を切る。次いで、コナミのフィールドに鏡で出来た壁が作られた。

「ぎ、《銀幕の鏡壁》……!?」

攻撃してきたモンスターの攻撃力を悉く半分にする永続トラップ《銀幕の鏡壁》。

全女性デュエリストの憧れ、孔雀舞の使用した幻のレアカードだ。決闘者の王国で、後の決闘王、武藤遊戯と戦った際に使われた事で有名である。

「ど、どこでそのカードを……?」

「貰った」

「誰から!?」

「海の幸」

「はあ!?」

意味不明だった。なぜ、こんな浮浪者紛いの人間が数百万もするレアカードを持っているのだ。驚きのあまり被っていた優等生の仮面が外れてしまっていたことに、ツァンは気づかなかった。

(う、羨ましくなんかないんだから……)

そう自分に言い聞かせる。せっかくの紫炎が完全に霞んでしまった。

「……どうした?」

「うっさい!《漆黒の名馬》をニサシに装備して……バトルフェイズ! 」

黒い体皮の馬にニサシが跨がる。これにより攻撃力が1400から1600へ上昇し、一度だけの破壊耐性を得た。

「《大将軍 紫炎》で《エレクトリック・ワーム》を攻撃!」

紫炎の攻撃力は《銀幕の鏡壁》によって半分の1250になってしまうが、それでも1000の《エレクトリック・ワーム》よりは高い。難なく撃破する。

コナミ LP4000→3750

「まだまだ! 師範とニサシでダイレクトアタック!」

攻撃力は半減し、師範が1050、ニサシ800となる。

コナミ LP3750→2700→1900

「さ、ら、に……他の六武衆がいる時、ニサシは二回まで攻撃できる!」

コナミ LP1900→1100

続けざまの連撃に、ニサシの二の太刀が決まる。相手のライフは残り四分の一。ツァンのライフは無傷。さらに、この布陣。モンスターは四体。フィールド魔法、永続魔法と永続罠が一枚ずつ存在するのだ。

(しかも、紫炎には魔法罠の使用制限と六武衆を身代わりに破壊から逃れる効果がある……これで、ボクの勝ちは決まりかな)

勝ち誇った顔で、ツァンは胸を張る。同級生の男子が相手なら、ここらでサレンダー(降参)するところだ。

「……もう終わりか」

しかし、今回の対戦相手は微動だにせず、こちらを見据えている。

「む……。ターンエンド」

つまらない、とツァンはむすっとしてターンの終了を告げた。手札はゼロで、特にすることも無い。

コナミはカードを引き、無表情のままスタンバイフェイズを迎える。

「《銀幕の鏡壁》を破棄」

《銀幕の鏡壁》は強力な永続トラップだが、スタンバイフェイズ時に維持コストとして2000ものライフを支払わなければならない。残りライフ1100のコナミでは、こうするしかなかった。

「……モンスターとカードを一枚ずつ伏せ、ターン終了」

(……短っ!)

異様に短いコナミのターンが終わり、再びツァンに回ってくる。フィールドには永続トラップの《神速の具足》。ドローしたカードが六武衆なら、そのまま特殊召喚できる。

「ボクのターン、ドロー!」

《六武衆ーヤリザ》

引いたカードは六武衆。そのまま特殊召喚できる。

(うわっ……ヤリザだ)

出来れば《六武衆ーザンジ》か《六武衆ーイロウ》が良かった。前者なら攻撃したモンスターを効果によって破壊できるし、後者なら裏守備表示モンスターをリバースさせずに破壊できる。

ヤリザは他の六武衆がいる時、相手プレイヤーに直接攻撃できるカード。相手フィールドに《マシュマロン》や《魂を削る死霊》といった戦闘破壊耐性を持つモンスターがいる時なら活躍できるが、今のような制圧状態ではさして必要でない。

(ま、他に手札も無いし……)

ここで《神速の具足》の効果を使わないというのも、なんだか勿体無い気がした。

「《神速の具足》の効果発動! 引いたカードが六武衆と名の付くモンスターだった時、相手に見せることで特殊召喚できる! ボクが引いたのは《六武衆ーヤリザ》!」


短いですが、今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

おつ
神速で候


ツァンちゃんですら嫌な顔するヤリザ殿……


神速の愚息…走るニートかな?


今まで見たssの中で一番デュエルマシンっぽいコナミ君が見れそうで満足できそうだぜ

>>117
早漏じゃね?

これでツァンの場に五体のモンスターが揃った。

「ヤリザが特殊召喚された事により、《六武の門》へ武士道カウンターを二つ乗せる」

これで乗っている武士道カウンターは四つ。《六武の門》には三つの効果があり、その一つがカウンターを四つ取り除いて、デッキから六武衆と名の付いたモンスターをサーチするというもの。

あとの二つは、カウンターを二つ取り除いて【六武衆】と紫炎の名の付くモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせるものと、六つ消費して紫炎を墓地から蘇生させるという効果だ。

さらに《六武の門》はカウンターがある限り、その効果を使うことが出来る。

カウンターが四つある今なら、攻撃力アップの効果を二回か、デッキからモンスターをサーチする効果を一回、使える。

(どうしようかな……。モンスターは沢山いるからサーチは今すぐ必要じゃないし。攻撃力も足りてる……むー)

紫炎には身代わり効果がある上、手札からの特殊召喚が出来るためにバウンス効果にも強い。弱点といえば、除外効果と高くは無い攻撃力ぐらいである。

(よーし、決めた!)

カウンターは温存しよう。コナミの伏せカードはヤイチで除去できるし、伏せモンスターは以前から手札にあったカード。戦闘耐性を持つ物なら、先ほどのターンに使っているはずだ。

「まずはヤイチの効果でリバースカードを破壊!」

ヤイチが二射目を構える。キリキリと弦が引かれ、弓がしなる。そして発射。

放たれた矢は吸い込まれるようにリバースカードへ飛んでいき──

「リバースカード発動。速攻魔法だ」

《魔法効果の矢》

またかわされた。

「《魔法効果の矢》は、相手フィールド上に表側表示で存在する魔法カードを全て破壊し、破壊したカード一枚につき500ポイントのダメージを与える」

永続魔法が沢山ある六武には刺さるねぇ

「ほら、返すぞ」

コナミのフィールドに二本の矢が現れる。それは、光の尾を引いてツァンの場の《紫炎の霞城》と《六武の門》を破壊した。その爆炎がツァンを包む。

「うぅ……っ!?」

ツァン LP4000→3000

魔法カード二枚が破壊された事により、ツァンから合計1000のライフが引かれた。

「ま、まだまだ! 紫炎で伏せモンスターを攻撃!」

大将軍が伏せモンスターに斬りかかる。

一刀両断。

《スクラップ・ゴブリン》

いや、通らない。廃材で出来たような、みすぼらしい小人が紫炎の攻撃を阻んでいた。見たこともないモンスターだった。

「《スクラップ・ゴブリン》は戦闘では破壊されないモンスターだ。……残念だったな」

「~~~っ!」

これだけモンスターがいて、また凌がれた。ツァンの顔は悔しさで赤く染まる。

「だが、《スクラップ・ゴブリン》は表側守備表示の時に攻撃された場合、バトルフェイズ終了時に自壊する効果を持っている」

「……じゃあニサシで攻撃。さらにヤリザは他の六武衆がいる時、相手に直接攻撃できるから、ダイレクトアタック」

槍兵が疾風のような素早さでもって突撃し、コナミに一突きを見舞った。

コナミ LP1100→100

(あ、あと100ぅ……ヤリザぁ……)

痒いところに手が届かない。ヤリザはいつもこうだった。

あの時、《六武の門》を使ってヤリザを強化していれば、今の攻撃で勝てた。非常に惜しい。

(……ま、無い物ねだりしても仕方ないか)

頭を切り替え、ターンを終了する。依然として、戦況はこちらが有利。コナミの突飛なカードに驚かされているが、あれはその場しのぎに過ぎない。


「俺のターンか。……ドロー」

一枚加わり、コナミの手札は四枚となる。ライフは残り100。フィールドにカードも無い圧倒的に不利な状況。しかし、ツァンの対戦相手は怖じ気づいた様子も無く、引いたカードを見ていた。

(楽しんでる……のかな?)

なんとなく、そう思った。コナミの口元に笑みが浮かぶ。

「良いカード、引けたの?」

気づけば、ツァンは口を開いていた。会ってからというもの、終始無口、無表情だったコナミの変化だ。少し気になった。

「……?」

「だ、だから! 良いカードが引けたのかって聞いてるの! 対戦相手の言ってることくらい、ちゃんと聞いてなさいよね!」

普段は無駄話を嫌うツァンは、自分らしからぬ言動にたじろいだ。思わず顔が赤くなる。

コナミは笑い、

「……ああ。これでやっと、戦える」

「む……」

反撃か。ツァンは身構える。今引いたカードがキーだったらしい。

(《ブラック・ホール》……? なら、ニサシを盾に出来るし、師範の効果で墓地からも回収できる)

装備カード《漆黒の名馬》には自身を犠牲にすることで装備モンスターを破壊から守る効果がある。これと紫炎、【六武衆】共通の身代わり効果を併用すれば、《ブラック・ホール》や《ライトニング・ボルテックス》のような全体除去すら、紫炎には届かない。

加えて、《六武衆の師範》には効果で破壊された時、墓地の六武衆を手札に戻す効果がある。これにより、大規模破壊の後でも速やかに体勢を立て直せるのだ。

(しかも、紫炎がフィールドにいる限り、相手は一ターンに一枚ずつしか魔法・罠を使えない……。やっぱり、ボクに負けはない)


ライフ100は勝利フラグ

魔法効果の矢で名馬も破壊されるんじゃない?
詳しいことはわからないけど

「俺は手札から《スクラップ・ワーム》を召喚する」

コナミの場に、またもゴミで出来た小さな芋虫が出現した。また【スクラップ】と名の付く、ツァンの知らないモンスターだ。

その攻撃力はたったの500。恐るるに足らない。

「《スクラップ・ワーム》は相手プレイヤーに直接攻撃が出来る。お前のヤリザと同じでな」

「だ、だからなに? ボクのライフはまだ3000もあるけど」

そうは言いつつ、ツァンは内心で引いていた。

(あんなのが飛んでくるんだ……。ていうか今、お前って……)

「俺は手札から、モンスター効果発動」

《パペット・プラント》

コナミが手札からカードを墓地に送ると、ツァンのフィールドに植物のツタのような物が生えてきた。それは紫炎に絡みつき、四肢を拘束する。

「な、なにこれ!?」

「《パペット・プラント》は手札から捨てることで、相手フィールドの戦士族、魔法使い族モンスター一体のコントロールをエンドフェイズまで得る。俺が貰うのはもちろん、《大将軍 紫炎》だ」

ツタに引っ張られ、紫炎がコナミのフィールドへ。その目には操られているせいか、赤い光が宿っている。

「い、インチキ効果……」

「……お前のフィールドにいるモンスターはニサシ以外、特殊召喚で呼び出されたモンスターだ。それを四体も並べる方が、よほどインチキだと思うが」

「ぐぬぬ……」

見事なカウンターだった。ぐうの音も出ない。

「で、でも! 紫炎を奪ったところで倒せるのはせいぜい一体。それじゃ勝てないでしょ!」

紫炎でヤリザを攻撃し、《スクラップ・ワーム》のダイレクトアタックを決めても、入るダメージはやっと2000。エンドフェイズ時に紫炎は帰ってくる。やはり、負けは無いように思えた。

「……残念だが」

そう呟き、コナミは手札から一枚のカードを抜き取る。

「お前のモンスターを倒す必要はない。手札から《受け継がれる力》を発動する」

「……あ」

《受け継がれる力》は自分フィールド上のモンスターを一体墓地に送ることで、その攻撃力をもう一体のモンスターに与える魔法カードだ。

今、コナミのフィールドには二体のモンスターがいる。

「俺は《大将軍 紫炎》を墓地に送り、その攻撃力を《スクラップ・ワーム》に与える」

紫炎の攻撃力は2500。ワームの攻撃力は500。

「ちょうど3000だ。ダイレクトアタック」

何倍にも膨れ上がった芋虫が、大口を開けてツァンに飛びかかってくる。人生最悪の光景だった。

「きゃああああ!?」

ツァン LP3000→0

しまった……名馬の件は完全にミスです。申し訳ありません。

攻撃力3000、ちょうどだな(キリッ

おつ
こういうストレージに眠ってそうなカードを活用するデュエル好きだわ

「負け……ちゃった」

ツァンはへたり込む。同年代の男子に負けるのは何ヶ月ぶりだろうか。

「……俺の勝ちだな」

こくりと頷き、コナミはデュエルディスクのカードを片付ける。そうして、ツァンが持参したプリントに今回のデュエル内容について記入し始めた。

「な、なんて書いてるの?」

「…………」

コナミは答えない。

「ちょっと。教えてよ」

ツァンが言うと、コナミはチラリとこちらに目をやり、

「……カード捌きは見事だし、先見性も申し分ないが、考えが顔に出すぎる癖がある。咄嗟の出来事にも弱いように見えるため、心理戦になると不利か。あと、目つきが悪い」

「な……っ!?」

人が気にしている事をずけずけと。

「……だが俺も勉強になったし、評価点は概ね4と5にしておいた」

「……ありがと」

プリントを渡される。いま言った通りのことが書いてあった。なんだか納得できないが、仕方なく受け取っておく。

「はあ……。まさか負けるなんて」

真面目にショックだった。最後のターンまで割と順調に試合を運んでいたのに、ラストは口からオイルを垂らしたワームに頭からぱっくんちょとは。

「……ああ、俺もさっき拾ったカードが活躍するとは思わなかった」

コナミは頷き、《エレクトリック・ワーム》《パペット・プラント》《受け継がれる力》の三枚を取り出した。

「……待って」

衝撃の発言に、ツァンはこめかみを押さえた。めまいがする。頭痛もだ。

「……?」

「拾ったって、なに?」

「言葉の通りだ。シティを練り歩いて、落ちているカードを拾った」

「……あんた、そのデッキはどうやって作ったの」

「もちろん拾ったカードで作った。今は人から貰ったカードも多く含まれているが……どうした?」

頭痛が酷くなっていく。めまいに至っては三半規管に影響が出たのかと疑ってしまうくらい悪化していた。

「ちょ、ちょっとデッキを見せてくれる?」

「いいぞ」

流石に嘘だろう。と、現実逃避した挙げ句、安易にデッキの中身を見てしまう。その瞬間、ツァンは膝から崩れ落ちた。



デッキ(紙束)\ やあ /

これはショックだろうなwwww

悔しいでしょうねぇ

「な、なにこれ……」

統一性も何も無い、雑多なデッキ。よくこれで、あんな自身満々とデュエルできたな、と感心してしまう。その反面、このデッキに負けた自分を殴りたくなった。

(パパ、ごめんね……)

いつもは喧嘩ばかりしてしまう父に、今なら素直に謝ることが出来た。この【六武衆】達は父から譲って貰ったカードなのだ。

「……失礼だな。今のところ、このデッキは無敗なんだが……」

憮然とした様子でコナミが言う。

「あ、ごめん。……え、無敗? 本当に?」

「嘘を言っても仕方ないだろう」

「…………」

またも脱力する。燃え尽きたようだ。もしかしたら髪の毛が真っ白になってるかもしれない。

「……それより。急いでいたようだが、時間は大丈夫なのか?」

「……あ」

門限の事をすっかり忘れていた。

「まずい……。ボクもう行かなきゃ! 今日は……その、ありがとね」

そう言って、いそいそと帰り支度を始める。

「ああ。楽しいデュエルだった。またやろう」

そんな時、突然礼を言われた。

「え……。いや、こ、こちらこそ」

不意打ちだった。耳が熱い。顔が真っ赤になっていると自分でも分かる。

(あ、こっちも……お礼した方が良いよね……)

手伝ってもらったのだし。そう思い、ツァンはとことことコナミの近くへ歩いていく。

「こ、これ……今日のお礼」

手には一枚のカード。

「《増援》……?」

「う、うん……。あんたのデッキ、戦士族が多かったから。あ、もしかして、もう持ってる?」

「いや、持ってないが……。もらう理由が──」

「だ、だから今日のお礼だって言ってんでしょ! 制限カードになって余ったの!」

コナミに無理やり持たせる。そうして踵を返し、

「それと……今日は負けたけど、次は勝つから。覚えてなさい」

「分かった」

「じゃ、じゃあね!」

走り出す。涼しくなってきた夜の空気が、火照った頬を冷ましてくれる。あんなに嫌だった課題も、終わってみれば悪くない思い出となった。



上機嫌で帰ったツァンだが、結局、門限には間に合わず、父からこっぴどく叱られた。やはり、素直には謝れなかった。



今日はこの辺で失礼します。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

ミスも多いと思いますが、よろしくお願いします。

乙乙
ツァンちゃん好き。

いやいや、楽しく読ませて貰ってるので頑張ってください。乙―

乙ですぜ
遊戯王は難しいから仕方ないね

このツァンはAV女優やサティスファクションの一員にならないことを祈るぜ

おつ
やはりデレがなくてはな


ツァンちゃんかわいい

AV女優ってなんだよ…

「そこの人! 俺とデュエルしない!?」

快活極まりない声が響く。金曜日の夕暮れ。ベンチに座っていたコナミは顔を上げた。今の声がすぐ近くから自分に向かって発せられたものだったからだ。

目を向けると、息がかかりそうなほど近くから、こちらを見つめる少年の顔があった。半袖短パン、髪は緑、年は……コナミよりかなり低そうだった。まだ小学生くらいだろうか。

「……デュエルか」

少年の左腕にはデュエルディスクが装着されている。市販品ではないように見えた。しかし、ハンドメイドにしては、やたら完成度が高い。

コナミは珍しくデュエルの申し出に興味を示さず、少年のデュエルディスクを凝視していた。

(このデュエルディスク。どこかで……)

見た事などあるはずがないが、何かが引っかかった。

「龍亜、いきなりデュエルなんて迷惑でしょ? その人も困ってるじゃない」

コナミが黙り込んでいると、龍亜と呼ばれた少年の背後から、彼を諫める声がかかった。声の主は少女だ。兄妹だろうと一目で分かるほど、少年と瓜二つの容姿。

「いいじゃん龍可、この人のデュエル見たでしょ。今日最後の相手はこの人に決めたの!」

「…………」

「だーめ。今日はもうこんな時間だし、もういっぱいデュエルしたんでしょ? それに、家に帰って宿題を終わらせないと」

「むむむ……。宿題なんかいつでも出来るじゃん!」

「そうやっていつもやらないじゃない!」

コナミを置き去りにして、二人はどんどんヒートアップしていく。周囲の視線もある手前、この状況を傍観しているわけにもいかない。

「……そのデュエルディスク、手作りか?」

「だいたい龍可はいっつも……え? デュエルディスク? これのこと?」

コナミがこくりと頷くと少年は自慢げに、

「いいでしょー! ある人に作ってもらったんだ!」

デュエルディスクを見せつけてくる。しっかりと子供用のサイズに調整されており、作りもシンプルで無駄が無い。そのおかげで軽量化もされているようだ。作り手の技術が窺える。

「……今みたいにワガママ言ってね」

龍可と呼ばれた少女に水を差され、龍亜はじろりと少女を睨んだ。しかし、龍可の方はどこ吹く風といった様子で華麗にスルーしている。人間関係の機微に疎いコナミでも、この二人の力関係は容易く察しがついた。


>>141
遊星「何!?」 辺りで過去ログ調べれば分かる

あれ?コナミはツァン視点で、数日前にルアとデュエル、ルカと会話してなかった?

そんで今日初めて知り合った感じだと変じゃない?

だから名前欄に話を金曜まで戻すって書いてあるじゃない

そんなんだからタイミングを逃すんだよ

どうしたものか、と言い合う二人を眺めながら考える。こういう時にどうすればいいか、記憶の無いコナミには分からなかった。

「……龍亜、と言ったな。そんなにデュエルがしたいのか」

デュエルなんてどこでも出来るだろう。龍亜くらいの年ならなおさらだ。年上の人間とやるよりは、同年代の者とやった方が楽しいに決まっている。

「あったりまえだよ! 強くなきゃ、龍可を守れないじゃん!」

龍亜は熱弁する。しかし、隣の龍可という少女が危機的な状況に陥っているようには見えない。守ると言われた龍可の方は呆れてため息を吐くばかりだというのが、余計にコナミを混乱させた。

「別に、龍亜に守って貰わなくても平気だし」

そんな龍可の呟きも、龍亜は意に介さない。そもそも耳に入っていないのか。

コナミは帽子を被り直し、デュエルディスクに火を入れた。デッキが高速でシャッフルされる。

「……デュエルは断らない主義だが──」

こちらに近づいてくる気配。立ち上がる。

「──今日はあいにく、先約が入っていてな」

「あら? その可愛い子達は、あなたの友達?」

デュエルアカデミアの制服を着た、ツインテールの女子生徒。コナミは既に、彼女から挑戦を受けていた。

「えぇー!? お兄さん、もうデュエルの約束しちゃってるの!?」

「……ああ。アカデミアの方の課題らしくてな」

この女子生徒──藤原雪乃から課題に協力してくれと頼まれた直後、アカデミアの男子生徒達から試験と称したデュエルを申し込まれ、それに応戦。一人倒し、二人倒し、合計四人倒したのだが、挑戦者の数は減るどころか増えるばかりだった。

そこで雪乃が群がる男子生徒達を離れたところまで連れて行き、代わりにデュエルを受けていた……という、奇妙な事情があった。

「ごめんなさい。待たせてしまったわね」

「いや、構わない。……もう終わったのか」

待っていたのは十分程度だ。それよりも、数十人の男子生徒をどうやって追い返したのか、という方が気になった。

しかし、雪乃は顔を曇らせる。

「……ええ。あれだけ居て、三ターン保つ者が一人もいないなんて……。しかも、ほとんどが怖じ気づいて逃げ出す始末。これじゃあ、私の火照りが収まらないわ」

「そうか」

あの男子生徒達は雪乃に好意を抱いていたのだろう。コナミにもそれくらいは分かった。意中の相手に烏合の衆よろしく散らされる気持ちまでは理解出来なかったが。


「……すまないが、今日はこちらを優先したい。デュエルは諦めてくれ」

「むー」

龍亜が膨れる。男子生徒に絡まれたせいで、だいぶ時間が過ぎてしまっていた。時刻は午後五時半を回っている。まだ明るいとはいえ、龍亜と龍可は帰った方が良い時間だし、それは雪乃も同様だ。

「そうよ龍亜。初対面の人に我が儘言うのも、いい加減にしなさい」

龍可に言われ、龍亜はさらに膨らむ。破裂寸前といった様子だ。

「じゃあ、そこのお姉さん!」

「あら、わたし?」

龍亜が、今まで静観していた雪乃を指差す。

「俺とデュエルしてよ! 勝った方がお兄さんと戦えるっていう条件で!」

「る、龍亜……! ごめんなさい。龍亜は調子に乗りやすいから……」

流石に無茶苦茶だと思ったのか、龍可が止めに入る。だが、挑まれた方の雪乃は妖艶に微笑んでいた。

「いいわよ。コナミも、また少し待たせてしまうけど」

「問題ない」

「ふふ、良かった。じゃあ始めましょうか」

「やった! ありがとうお姉さん!」

龍亜は諸手を上げて喜び、デュエルディスクを構える。

「すみません……。龍亜は一度言ったら聞かないから」

「良いのよ。ああいう真っ直ぐで力強い瞳って好きなの。体の芯が熱くなっちゃうわ」

「……?」

雪乃の意味深な言葉に、龍可は首を傾げる。意味が分からないのだろう。コナミにも分からなかった。


「あれ? あれれ?」

しかし、そんな三人を尻目に、龍亜は自分のデュエルディスクを腕から外し、上下左右あらゆる方向から確認している。

「どうしたの?」

「ディスクが動かないんだ! どーしよー!」

龍可に訊かれた龍亜は、顔中に汗を浮かべて動揺し始めた。

「……少し見せてくれるか」

このままでは埒が明かないと、コナミが龍亜のデュエルディスクを手に取り、故障していないか点検する。幸い、シンプルな作りだったので簡単な修理くらいなら出来そうだった。

「おっかしいなー。なんで急に動かなくなったんだろ?」

「龍亜が乱暴に扱うからでしょ。せっかく作ってもらったのに……」

デュエルディスクの電源を入れ、ボタンを幾つか操作する。が、やはり反応しない。

「…………」

「……どう? 直りそう?」

雪乃が近くから手元を覗き込んで来る。風に乗ってシャンプーの良い香りが鼻をくすぐったが、コナミは特に反応しなかった。

「……直ることは直るな」

「ホントっ!?」

「だが、今すぐには無理だ」

「ええーっ!?」

両手で顔を押さえ、龍亜は慟哭した。

「どういうこと?」

雪乃に聞かれ、コナミは頷いた。

「デュエルディスクを識別するためのプログラムが書き換えられているようだな」

「……わかりやすく説明してくれるかしら」

「……そうだな。パソコンなどで使うIPアドレスというものがあるだろう。あれと似たようなものだ」

デュエルディスクは何も、それ単一でデュエル中の計算やカード効果の処理、ソリッドビジョンの投影などを行っているわけではない。

海馬コーポレーションの持つ人工衛星を介することで、同社のスーパーコンピューターとリンクし、携帯性を維持しながらデュエルに必要な機能を発揮することが出来るのだ。

動力も同じく、ネオドミノシティ中心部にそびえるモーメントからの外部供給でデュエルディスクは稼働している。

しかしながら、龍亜のデュエルディスクは識別プログラムが書き換わったせいで、その手の外部通信が一切入ってこなくなっていた。

「IPアドレスってなに?」

龍亜が曇りのない瞳で訊ねてくる。知らない事を臆せず質問できるというのは、このくらいの年齢でないと難しい。

「IPアドレスというのは……そうだな、住所のような物だ。何かを送ったり、何かが届いたりする際に使うだろう?」

「うーん……?」

龍亜は首を捻っているが、他の二人は納得したようで、なるほどと頷いている。

「だから、龍亜が変に弄ったせいで住所が書き換わって、何も送れないし、届かない状態になってるってこと。孤立状態ね」

「こりつ?」

「そ、孤立」

雪乃が不思議そうにデュエルディスクを見つめ、

「でも、そんな状態になるなんて聞いたことが無いわ。その識別プログラムって言うのは、簡単に書き換えられるものなの?」

「……本来ならありえない。専門の業者が管理しているものだからな。かなりシステムの奥深くまで潜らないと、確認することさえ出来ないはずだ」

それを、何の知識も無い少年が書き換えたのだ。ビギナーズラックにしても、これは酷い。

「龍亜……」

龍可がうんざりしたように呟く。言われた当人は笑って誤魔化していた。

「……それじゃあ、デュエルは出来ないってことかしら」

雪乃の問いに、そろそろ喉が渇いてきたコナミは頷きで返した。

「な、なんとかならない……?」

「無理だ」

龍亜はがっくりとうなだれた。

「これはハンドメイドのようだし、修理は請け負ってもらえないだろう。作った人間と連絡は取れるか?」

龍亜の代わりに龍可が首を振った。

「……なら、俺が直そう」

「え、いいの!? っていうか、出来るんだ!?」

「一晩あればな。このデュエルディスクはその間、借りることになるが」

「…………」

識別プログラムの他にも弄った部分があるかもしれないし、点検は必要だろう。そう思って申し出たのだが、龍亜はともかく龍可の方は浮かない表情だった。初対面の人間にデュエルディスクを渡す事を警戒しているのだ。当たり前の反応だと思った。


今更だけど龍亞じゃない?

「……このデュエルディスクを作ったのは不動遊星という男だろう?」

「え、お兄さん、遊星を知ってるの!?」

「ああ。彼の所で一時期、世話になっていたことがあった。Dホイールを整備したこともあるから、作り手のクセは把握している」

嘘はなかった。このデュエルディスクを見た時から気にはなっていたのだ。近くで見てそれは確信に変わった。

「じゃあ……お願いしよっか?」

コナミの言葉を信じてくれたのか、龍可が龍亞へ言った。

「うん!」

「返すのは明日の昼間になる。時間と場所はどこが良い?」

「んー。なら、明日の十時に繁華街のカードショップ前!」

カードショップ前。アイテムターミナルとデュエル地蔵がある場所だ。

「……決まりだな」

「じゃあ、龍亞。私たちはもう帰らなきゃ」

「ええ!? せめてデュエルを見るくらい……」

「だーめ。明日の予定が出来たんだから、今日の内に宿題をやらなくちゃいけないでしょ?」

龍可が腰に手を当てて言う。だが、龍亞は断固として抗議した。

「やだやだ! デュエルくらい見ないと、帰れないよ!」

「……ふーん、そう。龍亞がそんなに我が儘ばっかり言うんなら、私にも考えがあるから」

「え……」

「龍亞は自分の事ばかりで家事も宿題もしないって、お父さんとお母さんに言うわ。このままじゃ、人に迷惑をかけてばかりになるだろうし」

「…………」

「それに、明日は土曜日よね。龍亞だけお小遣い、無くなるかも。でも、仕方ないよね。二人で力を合わせなさいっていう、言い付けを守らないのは龍亞だもの」

龍可の精神攻撃は見事だった。あれだけ譲らないという意志を前面に押し出していた龍亞はあっさりと陥落し、コナミに向き直った。

「じゃ、じゃあ俺達は帰らなきゃ! お姉さん、邪魔してごめんね! お兄さん、明日の約束、絶対だからね! 二人共お幸せに! それじゃ、さよーならー!」

早口でまくし立て、凄まじい勢いで走り去って行った。

「……まったく。お騒がせしてごめんなさい。それとデュエルディスクの件、よろしくお願いしますね」

龍可は礼儀正しく頭を下げ、静かに歩いて行った。

「……さて」

嵐が過ぎ去り、コナミと雪乃だけが残される。


「待たせたな。デュエルを……どうした?」

何故か雪乃は不機嫌そうに腕を組んでいる。

「……別に。さあ、始めましょうか。私、焦らされるのは好きだけど、おあずけと肩透かしは嫌いなの」

「…………?」

疑問を残しつつ、コナミはデュエルディスクを構えた。

「この私を、これだけ待たせたんだもの。生半可なデュエルじゃ許さないから」

「善処しよう」

「良い返事ね。私を熱くしてちょうだい。うんと、熱く……」

デュエルディスクに火が灯る。先行は雪乃に決まった。

「デュエル!」

「……デュエル」

「私のターン、ドロー。……ふふ、まずはこの子《マンジュ・ゴッド》を召喚」

雪乃の場に荒々しい形相の天使族モンスターが召喚された。

「《マンジュ・ゴッド》の効果発動。召喚、特殊召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターか儀式魔法を一枚選び、手札に加える……私は《サクリファイス》を手札へ」

「儀式モンスター……?」

聞き慣れない単語だ。雪乃が手札に加えた青いのフレームのカードがそれなのだろうが、詳細は分からない。

「私はこれでターンエンド」

「……ドロー」

相手の戦術が分からないうちは様子見をするか、その前に速攻で倒すのがセオリーらしい。しかしながら、コナミのデッキでは様子見をすると押し込まれるため、常に攻めていくしかなかった。

幸い、手札にはコナミのエースモンスターが来ている、

「《チューン・ウォリアー》を召喚。……バトルだ。《マンジュ・ゴッド》を攻撃」

《マンジュ・ゴッド》は攻撃力1400。1600の《チューン・ウォリアー》で倒せる。

「……ふふ」

雪乃 LP4000→3800

かすり傷程度のダメージだが、最初の一撃を見舞う事ができた。コナミはカードを一枚セットし、ターンを終了。

「私のターンね。ドロー」

雪乃の手札は七枚。かなり多い。

(なるほど……《マンジュ・ゴッド》の効果で手札の消耗を抑えたのか)

デュエルにおいて手札はとても重要だということを、コナミは既に学んでいた。カードの効果で手札を補充すれば、返しのターンで反撃し易くなる。

(……勉強になるな)

「攻撃力1400のモンスターを立たせているだけなんて、責めて来いと言っているようなものでしょう? 案外、せっかちさんなのかしら」

一人で頷いているコナミに、雪乃が言った。

「……攻撃できる時にはしないとな」

コナミのデッキには《チューン・ウォリアー》以上の攻撃力を持つモンスターはいない。それはつまり、攻撃力が1600を超えるモンスターは何らかの手段を用いない限り、倒せないということだ。攻撃できるチャンスは限られている。

「ガンガン来る男は嫌いじゃないわ。私は手札から《終末の騎士》を召喚」

黒衣に身を包んだ戦士族モンスター。その攻撃力は1400。コナミの《チューン・ウォリアー》には及ばない。

「《終末の騎士》は召喚、反転召喚、特殊召喚された時、デッキから闇属性モンスターを一体選び、墓地に送ることが出来る。私は《儀式魔人 リリーサー》を選択」

(……?)

わざわざ貴重なモンスターカードを墓地に送るとは。コナミは目を細めた。

「そして手札より儀式魔法《イリュージョンの儀式》を発動。手札及びフィールドから、指定された儀式モンスター以上のレベルになるように、生贄を捧げる……」

雪乃は手札の《サクリファイス》を掲げた。そのレベルは1。どんなモンスターでも、一枚で条件を満たせるということだ。

「ここで《儀式魔人 リリーサー》の効果を発動。墓地のこのカードを除外することで、儀式の生贄として使うことが出来る。さあ、いらっしゃい……《サクリファイス》を儀式召喚!」

雪乃のフィールドに黒い霧と青い炎が広がっていく。そして、その中心より禍々しい姿のモンスターが現れた。レベルは1。攻守は共に0。貧弱極まりないステータスだが、放っている空気は感じたことが無いほど暗く、重たかった。

「《儀式魔人 リリーサー》を生贄に使った儀式モンスターが存在する限り、特殊召喚は封じられる。チューナーモンスターを守ってシンクロ召喚に繋げようとしたのだろうけど、残念だったわね」

「…………」

コナミはシンクロモンスターなど持っていない。だが、特に言う必要も無いと考え、黙っていた。

「《サクリファイス》の効果を発動。相手のモンスターを一体選択し、装備カードとして装備できる」

「……む」

《サクリファイス》から放たれた黒い霧が《チューン・ウォリアー》を包み込む。これはまずい。コナミはリバースカードを使おうとして、しかし思いとどまった。

「見た感じ、《サクリファイス》は悪魔族っぽいな」

「……? 《サクリファイス》は魔法使い族よ」

「……そうか。それは良かった」

《迎撃準備》

コナミのリバースカードが開かれる。

「《迎撃準備》はフィールド上の戦士族、魔法使い族モンスター一体を裏守備表示に変更するカードだ。《サクリファイス》を選択する」

「……そんなカードを使うなんて」

《サクリファイス》の効果を凌がれ、雪乃は整った顔をしかめた。

「私はリバースカードを二枚セットし、ターンエンド」

雪乃の手札は残り二枚となる。コナミは引いたカードを確認。攻めるなら今だろう。

「《隼の騎士》を召喚。そして、《チューン・ウォリアー》で《終末の騎士》を、《隼の騎士》で裏守備モンスターを攻撃する」

「ん……っ」

雪乃 LP3800→3600

反撃は無い。コナミは攻勢を緩めず、《隼の騎士》の二の太刀を叩き込んだ。

「くぅ……」

雪乃 LP3600→2600

「……良いわ、凄く良い。リバースカードも恐れずに責める姿勢。あなたみたいな人、好きよ」

「そうか。カードを一枚伏せてターン終了」

手札を三枚残し、コナミは雪乃にターンを渡す。

「もう……。つれないわね。私のターン、ドロー」

引いたカードを手札へ加えた雪乃は、妖しく微笑んだ。彼女の場に二枚あるリバースカード。その内の一枚が開く。

《リミット・リバース》

「このカードは私の墓地に存在する攻撃力1500以下のモンスターを蘇生させる永続トラップ。蘇らせるのは当然……」

「……《サクリファイス》か」

再度、雪乃の場に儀式モンスターが姿を現す。

「正解よ。そして《サクリファイス》は相手モンスターを吸収し、自分の力とする能力がある」

「…………」

だが、コナミの場にいる二体のモンスターのステータスはお世辞にも高いとは言えない。《サクリファイス》は本来、相手の切り札を吸収することで本領を発揮するモンスターなのだろうが、相手が悪かった。

「そうね。攻撃力1600と1000のモンスターを吸収しても旨味は無い。だから、こういうカードも使うの」

コナミのフィールドが突如、炎に包まれる。雪乃は手札のカードを一枚、掲げた。

《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》

「私は坊やのフィールドに存在する二体のモンスターをリリースし、このカードを特殊召喚する……」

「なに……」

《チューン・ウォリアー》と《隼の騎士》が溶岩に引きずり込まれ、その中から溶岩の巨人が這い出てきた。

コナミのフィールドに溶岩魔神は特殊召喚されたのだ。

「……変なモンスターだな」

「私からの熱いプレゼントよ。喜んでもらえたかしら」

「すぐに回収されるからな」

溶岩魔神の攻撃力は3000。雪乃はプレゼントなどと言っているが、この先の展開を考えると喜べる筈が無かった。

「もう少し驚いてくれてもいいのに……。私は《サクリファイス》の効果を発動。坊やのラヴァ・ゴーレムを装備カード扱いにして、このカードに装備する」

「ふふ、可愛い子……。どうしてあげようかしら」

ラヴァ・ゴーレムが溶岩ごと《サクリファイス》の腹部にある口に吸い込まれる。そして、その攻撃力はまるまる《サクリファイス》のものとなった。

「攻撃力3000か……」

こちらのモンスターを二体も除去しつつ、あちらには攻撃力3000のモンスター。最悪だった。

「まだよ。私は手札より《リチュアル・ウェポン》を発動。このカードはレベル6以下の儀式モンスターにのみ装備できる魔法カード。装備モンスターの攻撃力を1500ポイントアップさせるわ」

0だった《サクリファイス》の攻撃力が一瞬で4500まで膨れ上がった。しかもあのカード、以前より持っていた物である。つまり、前のターンに《迎撃準備》が無かったら、そのままゲームエンドだったということだ。

「なかなか楽しめたわ。《サクリファイス》で坊やにダイレクトアタック!」

「いや、まだだな。リバースカード発動」

《弱体化の仮面》

「このカードは攻撃してきたモンスターの攻撃力を700ポイントダウンさせる罠カードだ」

「むぅ……。でも、攻撃自体は防げない」

《サクリファイス》の腹部より吐き出された溶岩の濁流が、コナミを襲う。

コナミ LP4000→200

「ふふ……ぞくぞくしちゃう。ターンエンド」

サディスティックな笑みを浮かべた雪乃はターンを終了する。

「……ドロー」

コナミは引いたカードを見て、雪乃と同じ笑みを浮かべた。

「モンスターをセット。カードを一枚伏せる。ターン終了だ」

コナミの手札は残り二枚。攻撃力4500のモンスターを従える雪乃は余裕綽々といった様子でカードを引いた。

「私は《儀式魔人 プレサイダー》を召喚。そしてバトルフェイズ。《サクリファイス》で伏せモンスターを攻撃!」

やはり、こちらに除去手段が無い事を悟ったのか、雪乃は単調な攻撃を仕掛けてきた。

「……残念だったな」

「え……」

コナミのリバースカードがオープンする。デッキでほぼ唯一と言ってもいい除去カード。

《大成仏》

「《大成仏》……?」

「このカードが発動した時、装備カードを装備しているモンスターは全て破壊される。つまり……」

「私の《サクリファイス》は相手モンスターを装備カードとして扱うモンスター……」

「《サクリファイス》は破壊される」

吸収されていた溶岩魔神が火花を散らし、爆散した。しかし、雪乃も負けじとリバースカードを発動させる。

「あ、《亜空間物質転送装置》の効果により、エンドフェイズまで《サクリファイス》をゲームから除外する……!」

すんでの所で逃げられた。しかし《リミット・リバース》《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》《リチュアル・ウェポン》の三枚を破壊することが出来たのだし、成果としては上出来だろう。


長いことデュエリストやってきたが
《大成仏》なんてあったっけ?とwikiで調べるレベルww

大成仏なんで予想できねぇぞ.......wwwwwwwwww

「まだよ。《儀式魔人 プレサイダー》で伏せモンスターを攻撃!」

「《スケルエンジェル》の効果発動。リバースした時、デッキからカードを一枚ドローする」

「く……。私はメインフェイズ2で《儀式の準備》を発動」

《儀式の準備》は墓地から儀式魔法、デッキから儀式モンスターを手札に加える魔法カードだ。雪乃はこれで《イリュージョンの儀式》と《サクリファイス》を再び手札に揃えた。

「そして、エンドフェイズ時に《サクリファイス》は戻ってくる」

あれだけ猛威を振るった《サクリファイス》は守備表示でフィールドに帰還した。ターンは代わり、コナミはドローフェイズでカードを引いて手札が四枚となる。

「俺は《逆ギレパンダ》を召喚する」

笹を片手に携え、意味もなくブチギレているパンダが咆哮を放った。キレてはいても、その攻撃力はたった800。これでは雪乃のライフ2600を削り切れない。

「《逆ギレパンダ》は相手モンスター一体につき、攻撃力が500ポイントアップ。これで1800……」

まだ足りない。雪乃の二枚の手札は分かっている。コナミに次のターンなど無いのだ。

「可愛いモンスターだけど、プレサイダーと相討ちが良いところね」

「いや、まだだ。手札より《ダブル・アタック》を発動」

《ダブル・アタック》は手札からモンスターカードを一枚捨てて、捨てたモンスターよりレベルの低い自分フィールドのモンスターに二回の攻撃権を与える魔法カードだ。

「手札より《モリンフェン》を捨てることにより、《逆ギレパンダ》はこのターン、二度の攻撃が可能となる」

「それでも、結果は変わらないわ」

「……俺にはまだ、最後の一枚がある。手札から装備魔法《ドーピング》を発動。攻撃力を700ポイントアップだ」

これで《逆ギレパンダ》の攻撃力は2500となった。

「バトルだ。《逆ギレパンダ》で《儀式魔人 プレサイダー》を攻撃」

「あ……っ!」

雪乃 LP2600→1900

「まだ攻撃権は残っている。《サクリファイス》へ攻撃だ」

パンダの攻撃力は2000となってしまったが、守備力0の《サクリファイス》の前では関係ない。雪乃もそう思ったのか、表情にはまだ余裕の色が残っていた。

「良い責めだっただけど、残念だったわね、坊や。《サクリファイス》を倒したところで、ライフは残る。私の手札には儀式召喚をもう一度……」

「……残念だったのは、そっちだな」

「……どういうことかしら」

「《逆ギレパンダ》にはもう一つ、守備モンスターに対する貫通効果がある」

「な……!?」

「《逆ギレパンダ》で《サクリファイス》を攻撃」

「きゃああああっ!!」

雪乃 LP1900→0

大成仏とか久しぶりに見たわぁww

「……なんとか勝った」

ここまで追い詰められたのは十数回のデュエルで初めてだった。特にまずかったのは雪乃のラストターンで《イリュージョンの儀式》と《サクリファイス》を揃えられた時だ。

本当に勝ち筋が見えなかったが、逆転の糸口を作ってくれた《大成仏》と最後のドローで来てくれた《逆ギレパンダ》には感謝するしかない。

(本当に、良いデッキだな……)

うんうんと頷き、コナミはカードを片付けた。様々な人から寄せ集めだの、紙束だのと言われる自身のデッキだが、ここ一番でいつも底力を見せてくれる。これでは嫌いになれる筈がなかった。

ひとしきりカードを愛でた後、コナミは対戦相手の方へ目を向けた。

「良いデュエルだった。機会があったら、またやろう」

コナミにデュエルを教えた不動遊星は、対戦後の礼も忘れるなといつも言っていた。まったくその通りだと思うので、コナミは必ずこの台詞を言っている。

「…………」

だが、藤原雪乃は恍惚の表情を浮かべたまま、微動だにしない。デュエル中にショックな事でもあったのだろうか。

「……?」

「……あ」

心配になって近づくと、雪乃はようやく意識を取り戻し、何故かコナミの手を握った。意味が分からず、握られた手から視線を戻すと、雪乃の顔がすぐ目の前にあった。これも意味が分からなかった。

「……どうした?」

「あなた良いわ。まさか、この私が昇天させられるだなんて……。こんなこと、初めて」

「……大丈夫か」

「分かる? 私の胸の鼓動が」

「確かに心拍数が上がっているな。若干、体温の上昇も見られるが……」

体調不良というわけではないだろう。コナミは雪乃の胸から手を離す。

「こんなにスッキリしたのは、いつぶりかしらね……」

「ああ。俺も心地よかったぞ」

「あら……」

素直に応えると、雪乃の頬が僅かに赤らんだ。

「ふふ……。まさか、お姉さんが坊やに手玉に取られるなんて。でも、こういうのも悪くないわ」

「……? よく分からないが、もう暗い。そろそろ帰宅するべきだ」

「む……情緒が無いんだから」

デュエル中は忘れてしまっていたが、もう時間が時間だ。随分前に日は落ち、気温も下がってきている。

「良ければ、送っていこう。課題の書類も道中で書けるしな」

「……じゃあ、お願いしようかしら」

コナミはクリップボードに挟まれた、課題用の書類に記入を始める。その隣を歩く雪乃との距離が少し近い。

「……書きにくいんだが」

「あら、照れてるの? 可愛いんだから」

「…………」

道中、コナミは何度か抗議をしたが、雪乃は離れてくれなかった。

今回はこの辺で。最近は忙しくてなかなか書けませんでしたが、これからも読んで頂けたら幸いです。

ここまで読んで頂いた方、指摘して頂いた方、ありがとうございました。

乙!
ゆきのんprpr

乙!
【サクリファイス】相手に迎撃準備と大成仏とか、ピンポイントメタを疑われるレベルww

乙です
《迎撃準備》も相当だけど《大成仏》は輪をかけてお目にかかれ無いよねぇ


大成仏は虫の時に装備メタ探してたから忘れてるってこともなかったな
迎撃準備は月の書の存在が大きすぎるのと相手を選びすぎるから流石に現実で輝くことはないだろうねえ


マイナーカードを使いつつゆきのんにフラグを立てられるコナミ君すごい(小並感)

カードに愛されているデュエリストは寄せ集めでも勝ててしまうんだな
どんなに努力してどんなにレアカードを揃えても天才には太刀打ち出来ないのね

土曜日。ネオドミノシティは今日も快晴。時刻は午前九時を回ったところだ。休日ということもあり、繁華街は人で溢れている。

その中に一人、"デュエル地蔵"の前で手を合わせ、一心不乱に手を合わせる人物の姿があった。

コナミである。

龍亜との約束を守り、彼のデュエルディスクを修理するのにそう時間は掛からなかった。しかしながら、コナミは一度眠りにつくと、半日は目覚めないという悪癖がある。眠るわけにはいかなかった。

「…………」

デュエル地蔵は、悩むデュエリストを救済してくれるという言い伝えがある。そのため、カードを供えて願掛けをする者が後を絶たなかった。

しかし、コナミは記憶喪失であり、身元も不確かという深刻な状態ではあるのだが、特にこれといった悩みは無い。欲しいカードがあるわけではないし、負けが込んでいるわけでもない。従って、特に祈る事も無かった。

「…………」

しかし、コナミはデュエル地蔵手を合わせ、祈る。

(……願いが出来ますように)

悩みがあるとすれば、悩みが無い事が、欲しい物が無い事が、願いが無い事が悩みだ。ここ数週間、人の営みに触れたことでコナミは自身がいかに人間味の無い人物か、という事に気づいていた。

神頼みでもすれば、気が晴れるかとも思ったのだが。

(……意味は無いだろうな)

漠然と思う。そうしていると、隣に人が来た。デュエル地蔵に用があるのだろうと考え、邪魔にならないようにコナミは立ち上がった。

見ると、デュエル地蔵の前に一人の少女が立っていた。青い髪に白いリボン。後ろには黒塗りの高級車と、同じく黒い服を着た数人の男達が待機している。

「あら、邪魔してしまったかしら」

少女はそう言ったが、視線はデュエル地蔵に向いている。コナミの事など眼中に無いのだろう。

「……いや、俺のはもう済んだ。元々、願い事も無かったしな」

コナミの方も少女に興味が無かったので、そのまま立ち去ろうとする。その背中に少女がポツリと呟いた。

「庶民は良いですわね。悩みが無いなんて」

「…………」

その言葉にコナミは立ち止まり、振り返った。

「あら、気分を害してしまったかしら。ごめんあそばせ」

「いや……。少し気になる事が出来た」

「何かしら? わたくし、忙しいのですけれど」

「他人の悩みというのが知りたくてな」

「悩み……。わたくしの?」

コナミは頷いた。

「なぜ、教えなければなりませんの? ……まあ、いいでしょう」

少女は溜め息まじりに言う。少し疲れている様子だ。もしかしたら、重い悩みなのかもしれない。

「実はわたくし、あるカードを探しておりまして……」

「カード……。手に入りにくい物か」

「ええ、とても。そのカードは"正午の星座"という、非常に希少なパックに収録されていたもので、現在では入手はほぼ不可能な代物ですの」

「……なるほど。なんていうカードだ」

「名を《大波小波》と。水属性デッキの使い手ならば、ぜひ欲しい究極のレアカード……」

「そのカードなら持ってるぞ」

「喉から手が出るというのは、まさにこの事ですわ。わたくしは今まで、欲しい物は努力と財力と権力で手にしてきました」

「…………」

「まさか、我が海野グループの情報網をもってしても、所有者がほとんど引っかからないだなんて……くっ」

少女は頭を振った。よほどそのカードが欲しいのか、その瞳には涙が浮かんでいる。

「しまいには平日休日問わず、神頼みまでする始末……」

「どれくらい探してるんだ」

「もう……かれこれ三年になります」

それほど探して見つからないのなら、諦めた方が良いのではないだろうか。コナミはそう思ったが、言わないでおいた。少女にとっては大切な問題だという事くらいは分かるからだ。

「……あなた、庶民にしては不思議な方ね。こんなに話したのはいつぶりかしら。まるで、このデュエル地蔵のよう」

「…………」

少女は力無く笑い、コナミを地蔵扱いした。

「ん……? ちょっと待ちなさい。庶民。あなた先ほど、"そのカードなら持っている"と仰りませんでした?」

「ああ」

コナミはデッキを取り出し、中から一枚のカードを抜く。少女が三年もの間、探し求めていたレアカード。《大波小波》だった。

「こ、これは……!」

少女は電流が走ったかのような、オーバーなリアクションをした。

「ど、どどどこでそのカードを……?」

「サテライトだが」

「サ……っ!?」

「欲しいならやるぞ」

「に、偽物でしょう?」

「一応、ディスクは読み込んでいたが」

コナミは《大波小波》を差し出した。が、少女は硬直したまま動かない。

「……?」

「このわたくしが、庶民から施しを……!」

何故だか少女は激昂し、指をパチンと弾いた。直後、コナミの周辺を四人の黒服が囲む。その手にはアタッシュ・ケースが握られていた。

「一方的に受け取るなど、わたくしのプライドが許しません。トレードですわ」

黒服達が同時に四つのアタッシュ・ケースを開く。

狩りの誘いがあったのでちょっと小休止。

エクシーズ狩りかな?(アカデミア並感)

何言ってんだ、狩りっつったらもちろんレアカード狩りに決まってんだろ(グールズ並感)

デュエルディスクアンカー投げてそう(コナミ)

ハルトオオオオオオオオオオオオオオ!!

いつでも叫ぶ兄さんは嫌いだ………

「どうでしょう? 古今東西、あらゆるレアカードを集めました。これら全てと、あなたの《大波小波》……文句はありませんわね?」

「いや、そんなにいらない」

「こ、これでも不足とは……。このケースには、かの有名な氷結界の三龍、ブリューナク、グングニール、トリシューラが。おまけにドゥローレンまで入っているというのに……」

「…………」

コナミは珍しくドン引きしていた。

「……俺が欲しいのはレアカードじゃないんだが」

「カードはいらない……? わかりましたわ。つまり、わたくしがそのカードに相応しい使い手であるか、見極めたいと仰りたいのでしょう?」

「…………」

会話が成り立たないとは、こういう事なのか。コナミは短時間の内に猛烈な疲れを感じた。

「では、デュエルを致しましょう。わたくしが勝てばトレードに応じて頂く……よろしいですわね」

「……デュエルか」

コナミがピクリと反応する。疲れはどこかへ吹き飛んだ。

「分かった。受けて立とう」

「ふふ……」

四人の黒服が少女を取り囲む。一人はデュエルディスク、あとの三人はそれぞれ一つずつデッキを持っていた。

「今日の気分は……これにしましょう。とびきり派手の物を」

「お嬢様。お言葉ですが、お嬢様のデッキはどれも派手かと」

「当然でしょう? 栄えし者が着飾らなくてどうしますか」

「はっ……」

四人の黒服が脂汗を浮かべながら下がる。残されたのはデュエルディスクを装着した少女と、同じく臨戦態勢のコナミだけだった。

「準備はいいか」

「もちろん。デュエル地蔵に感謝しますわ。こうして念願のカードに巡り合わせてくれるとは……」

二人の間に緊迫した空気が立ち込める。賑やかだった休日の繁華街は静まり返り、今ではギャラリーが二人を囲んでいた。デュエルとなれば注目するのがネオドミノシティの住人なのだ。

「始めましょうか。デュエ──」

「ちょっと待ったー!!」

響き渡る大きな声。人垣を割って現れたのは、昨日の少年だった。

「……龍亞か」

「なんでお兄さん、もうデュエルしようとしてんの!? 俺との約束は!?」

「いや、彼女が話しを聞いてくれないから……」

仕方なく、コナミは龍亞に事情を説明した。あの少女がコナミのカードを是が非でも欲しがっていること。そのカードは拾った物で、コナミにとっては特に使い道が無いということ。龍亜との約束の時間までには、まだ余裕があるということ。地蔵扱いされたこと。

説明に要した時間はわずか42秒。自分でも感心するほどの伝達力だった。龍亜も得心がいった様子で、うんうんと頷いている。

「わかった! じゃあ俺がお兄さんの代わりにデュエルする!」

は?
キレそう

「う、うん……?」

「大丈夫だよ! お兄さんがデュエルしたくないって言うなら、俺が代わりにやるから!」

龍亞は元気いっぱいに断言する。誰もデュエルしたくないとは言っていない。どうやら今日は、ことごとく意見を無視される日らしい。

(いや、だが……)

いつも自分のデュエルばかりでは、視野が狭まってしまう。思えば、自分以外の人間だけで行うデュエルというものをコナミは見た事がなかった。龍亞はやる気満々のようだし、《大波小波》は元々、少女に渡すつもりだったのだ。リスクは無いだろう。

「そうだな。じゃあ任せよう」

「やったー!」

「だ、代役……!? このわたくしとのデュエルに、代役……!?」

「よーし! 俺とデュエルだ!」

そう言って、龍亞は駆けていく。

「……忘れ物だぞ」

コナミは持っていた龍亞のデュエルディスクを持ち主に返す。

「あ、そうだった!? ありがとうお兄さん!」

「コナミで良い。頑張ってこい」

「うん! 任せてよ!」

龍亞は装着したディスクにデッキを入れ、少女と向かい合う。

「良いでしょう。身の程を思い知らせてあげますわ……」

「行くよ!」

「「デュエル!」」

「先攻は俺だ! ドロー! 《D・モバホン》を召喚! ジャッキーン!」

龍亞のフィールドに携帯電話が変形した小型のモンスターが出現した。

「《D・モバホン》の効果発動! ダイスを振って出た目の数だけデッキを捲って、その中のディフォーマーと名の付くモンスターを一体、特殊召喚する! ダイヤル・オーン!」

モバホンのダイヤル部分が点滅する。出た目は……3だ。

「デッキの上から三枚捲る……。俺は《D・ラジオン》を特殊召喚するよ! ババーン!」

「……しかし、モバホンの攻撃力は100。ラジオンは1000。そんなモンスター達で何をするつもりですの?」

「へへーん! 《D・ラジオン》が攻撃表示の時、フィールドのディフォーマーの攻撃力は800ポイントアップするんだ!」
高速展開と全体強化。これにより、モバホンは900、ラジオンは1800と、中々の攻撃力となった。

「俺はカードを二枚伏せてターンエンド!」

「……わたくしのターン、ドロー。手札より永続魔法《ウォーターハザード》を発動」

少女のフィールドに水で出来た門が現れた。

「《ウォーターハザード》は自分フィールドにモンスターがいない時、手札からレベル4以下の水属性モンスターを一体、特殊召喚できる……。《ヒゲアンコウ》を特殊召喚!」


半端な気持ちで入ってくるなよ
ギャルゲの世界によぉ!!

「《ヒゲアンコウ》をリリース! わたくしの切り札、その目にしかと焼き付けなさい! 《超古深海王シーラカンス》をアドバンス召喚!」

少女のフィールドに見上げるほど大きな魚族モンスターが召喚された。その巨体は太陽を隠し、一瞬にして街から灯りを奪う。

「で、でか……!?」

「シーラカンスの効果発動! 手札を一枚捨てることで、デッキからレベル4以下の魚族モンスターを好きなだけ特殊召喚出来る! 大盤振る舞いですわ! 現れなさい、わたくしの可愛い下僕(しもべ)たち!」

シーラカンスが巨大な津波を引き起こした。あまりのド迫力にギャラリーが悲鳴を上げる。凄まじく派手な効果だ。ここまでの爆発力、展開力はコナミも見た事が無い。


《素早いマンボウ》
《深海王デビルシャーク》
《竜宮の白タウナギ》
《オイスターマイスター》


津波に乗って四体の魚族モンスター達が少女のフィールドを埋め尽くす。

「こんな一瞬で……」

「オホホホ! これこそ海を統べる超古深海王の力! しかしまだですわ! わたくしはレベル3の《オイスターマイスター》、レベル2の《素早いマンボウ》に、レベル4《竜宮の白タウナギ》をチューニング!」

☆3+☆2+☆4=☆9

シーラカンスが生み出した海が凍る。世界が時を止めたかのような圧迫感。

「《氷結界の龍 トリシューラ》をシンクロ召喚!」

氷の海から、絶大な力を誇る龍が飛翔した。その咆哮は、氷塊をダイヤモンドダストに変え、辺りへ響き渡る。

「シンクロモンスター!? ま、まだまだ!」

「《氷結界の龍 トリシューラ》はシンクロ召喚に成功した時、相手の手札、フィールド、墓地からカードを一枚ずつ選び、ゲームから除外することが出来ますの」

「えぇっ!?」

「わたくしはフィールドの《D・ラジオン》、手札は……真ん中のカードを選択しますわ」

龍亞の墓地にカードは無い。だが、攻撃の要であるラジオンと手札の《D・フィールド》が除外されてしまった。

「さらに、墓地の《フィッシュボーグーガンナー》の効果発動。自分フィールド上にレベル3以下の水属性モンスターがいる時、手札一枚をコストに特殊召喚出来る!」

「レベル3以下の水属性モンスターなんて……」

少女の場のトリシューラはレベル9。シーラカンスは7。シャークキングは4だ。レベル3のモンスターなど存在しない。

「《オイスターマイスター》は戦闘以外でフィールドから墓地に送られた際にレベル1、水属性のトークンを場に残す効果があります。残念でしたわね」

「うっ……」

「わたくしはさらに、レベル4の《深海王デビルシャーク》とレベル1の《オイスタートークン》に、レベル1の《フィッシュボーグーガンナー》をチューニング! 《氷結界の龍 ブリューナク》をシンクロ召喚ですわ!」

二体目の龍が降臨。シーラカンス、トリシューラ、ブリューナクの攻撃力は合計7800。龍亞のフィールドには攻撃力100のモバホンしかいない。これはかなりのピンチだ。

「さあ、バトルフェイズと行きましょうか。わたくしはトリシューラで……」

「ここでリバースカード発動だ!」

《D・バインド》

「このカードは自分の場にディフォーマーが存在する限り、相手フィールドに存在するレベル4以上のモンスターは攻撃と表示形式の変更が出来なくなる永続トラップ! どうだ見たか!」

へへーん、と龍亞は胸を張る。誇らしげだが、今の状況は改善出来ていない。

「くっ……。わたくしはターンエンドですわ」

少女は派手に展開し過ぎたせいか、手札は残り一枚となっていた。フィールドの強力なモンスターを除去出来れば、龍亞の勝ちも見えてくる。

「俺のターン! ジャッキーン!」

龍亞は引いたカードを食い入るように見つめ、

「《D・モバホン》の効果発動! ダイヤル・オーン!」

再びモバホンでのギャンブル召喚に賭けた。

出た目は──


1。最悪の数字だった。

「うっ……」

「この状況で運にまで見放されるとは……所詮はギャンブルカードですわね」

「まだだ……!」

少女は呆れたように言ったが、龍亞はまだ諦めていない。デッキトップのカードに願いをかけ、一気に引き抜いた。

「俺が引いたカードは……《D・ラジカッセン》! そのまま特殊召喚する!」

「モンスターカード……!?」

「さらに《D・ボードン》を召喚! いくぞ、バトルフェイズだ!」

龍亞の宣言にギャラリーがどよめく。フィールドには攻撃力100のモバホンと1200のラジカッセン、500のボードンしかいない状況でバトルとは。

「その矮小なモンスター達では、わたくしの下僕たちには……」

「俺が狙うのはモンスターじゃない。プレイヤーだ!」

「はい……!?」

「ボードンが攻撃表示で存在する時、俺のディフォーマー達は相手プレイヤーに直接攻撃できる!! いっけー!」

「きゃあああ!」

三体のモンスターが躍り掛かる。

少女 LP4000→2200

「まだまだ!ラジカッセンは攻撃表示の時、一ターンに二回攻撃できる!」

「くうぅ……っ!」

少女 LP2200→1000

ギャラリーから歓声が挙がった。強大なモンスターを封じ込めつつ、小型のモンスターで畳みかける戦略には華がある。

「俺はターンエンドだ!」

濃厚だった敗北ムードを見事に払拭した龍亞は、ノリノリでエンド宣言する。

だが、コナミは何か引っかかった。龍亞の強気な攻めは《D・バインド》の強力なロック効果があればこそだろう。しかし、少女の《氷結界の龍 ブリューナク》は今だに効果を発揮していない。

何らかのカードで《D・バインド》を破壊されれば、フィールドには低攻撃力のモンスター達が取り残されることになる。それは非常に危険だ。

(……考えすぎか)

龍亞にはまだ一枚のリバースカードが残っている。おそらく、策はまだあるのだろう。

「……中々やりますわね。わたくしのターン、ドロー!」

少女の手札は二枚となる。

「わたくしは《氷結界の龍 ブリューナク》の効果発動! 手札を任意の枚数捨てることで、捨てた枚数分、フィールドのカードを手札に戻す。捨てる手札は一枚……そのリバースカードを手札へ戻しなさい」

「う……」

「さらに手札から《貪欲な壺》を発動。墓地のカードを五枚デッキに戻した後、カードを二枚ドローする」

《素早いマンボウ》
《深海王デビルシャーク》
《竜宮の白タウナギ》
《光鱗のトビウオ》
《オイスターマイスター》

の五枚がデッキに戻る。そして少女は二枚ドロー。

「《超古深海王シーラカンス》の効果発動。手札一枚を捨て、デッキから魚族モンスターを特殊召喚する!」

少女のフィールドにまたも《竜宮の白タウナギ》と《オイスターマイスター》が呼び出された。

「レベル3の《オイスターマイスター》にレベル4《竜宮の白タウナギ》をチューニング……!」

☆3+☆4=☆7

「これが三体目の氷龍ですわ。《氷結界の龍 グングニール》をシンクロ召喚!」

「三回もシンクロ召喚をするだなんて……」

「オーホホホホ! 素晴らしいでしょう。この美しき三龍を一度に拝めた人間はそういませんわ。感謝しなさい」

「お、俺はまだ負けてない!」

「いいえ、あなたの負けです。《氷結界の龍 グングニール》の効果発動! 手札を二枚まで捨て、捨てた枚数と同じ数だけ相手フィールドのカードを破壊する。わたくしは手札を一枚捨て、《D・バインド》を破壊!」

ついに龍亞を守っていた永続罠が破壊された。

「存外、楽しいデュエルでしたわ。シーラカンスでモバホンを、トリシューラでボードンを攻撃!」

「うわあぁあああ!」

龍亞 LP4000→0



今日はここまで。私の書き込みで気分を害した方がいたらすみません。では、ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。



訂正を一つ。シャークキングと記載されていた箇所がありましたが、正しくはデビルシャークです。重ねてお詫び致します。

乙!毎日楽しみにしてるぜ!

乙乙

選ばれた者は呼吸をするように勝利するのです!

おつ
シーラカンスは回るとエグい動きするなあ
ガンナー禁止になってからはそこまででもないけど

「ごめんコナミ。負けちゃった……」

「いや、良いデュエルだった」

龍亞はうなだれるが、今回は仕方ない。相手が悪かった。そしてコナミは龍亞を負かして高笑いをしている少女の方へ向かう。

「どうでしょう。この圧倒的な勝利。わたくしの力をお認め頂けたかしら?」

「ああ。これが約束のカードだ」

コナミは《大波小波》を少女へ渡す。少女はそれを小型の鑑定用レンズで確認し、満足そうに頷いた。

「偽物(フェイク)では無く、状態も申し分ない……」

(デュエルする前に確認するべきでは……)

少女が指をパチンと鳴らす。再度、黒服達がコナミを取り囲み、三つのアタッシュ・ケースを開いた。

「さあ、約束の品です。持っていきなさい」

「…………」

コナミは目の前のアタッシュ・ケースに手を伸ばし、千枚近い中から一枚のカードを手に取った。テキストは読んでいない。価値も知らないカードだ。

《銀幕の鏡壁》

「カードはそんなにいらない。1:1。トレードはこれが一番良い」

「ふん……」

面白くなさそうに少女は鼻を鳴らした。そしてコナミから視線を外し、

「あなた、お名前は?」

龍亞に問いかける。

「え、龍亞だけど……」

「龍亞ね。覚えておきましょう。中々に楽しいデュエルでしたわ」

あれだけ好き勝手やれば楽しいだろう、とコナミは思ったが、何も言わなかった。

「機会があれば、またいずれ勝負をしましょう……。それと、そこの庶民」

龍亞に向けたにこやかさが嘘のように、少女はコナミを睨んだ。

「一応、名前を聞いておきましょうか」

「コナミだ。名字はまだない」

「まだないコナミ……。わたくしの申し出を断ったこと、覚えておきなさい」

「わかった」

名字を勘違いされたが、特に追求はせず、コナミは頷いた。最後に少女は一枚の紙を投げて、踵を返す。

投げられたのは名刺だった。海野幸子と書いてある。

(うみのさちこか……)

「庶民。あなたはカードと縁があるようです。拾ったら、そこに連絡なさい」

そう言って違法駐車していた黒塗りの高級車に乗り込み、一瞬にして去って行った。



「もう、なにしてるの」

ギャラリーが散っていき、その中から昨日の少女が現れた。少しむくれている。

「あ、龍可……」

「こんな公道の真ん中でデュエルするなんて……。しかも負けてるし」

「し、仕方ないじゃん! あんな強いモンスター並べられたら……!」

「まったく……。龍亞はいっつも勢いだけなんだから。お小遣いだって忘れていくし」

龍可は心底呆れた様子で、ポケットから財布を取り出す。見た感じ、男の子用の物だ。これを届けに来たのだろう。

「あ……。ご、ごめん」

「デュエルディスクも直してもらったんでしょ? ちゃんとお礼は言った?」

「言ったよ! ね、コナミ?」

「……ああ」

「ほらね!」

「はいはい」

それ見たかと胸を張る龍亞を龍可は流す。そこで、コナミは気になっていた事を聞いた。

「龍亞、聞きたい事があるんだが……」

「ん、なに?」

「グングニールの効果で破壊されたリバースカードだ」

「ああ、あれ? ちょっと待ってね……これのこと?」

《重力解除》

「このカードがどうかした?」

「いや、あの状況で伏せていたから、起死回生の手段かと思ったんだが……」

龍亞の様子を見ると違うのだろう。コナミは忘れてくれと言った。が、その隣で龍可はむくれていた。

「なんで使わなかったの? 勝ってたかもしれないのに」

「え……? だって、あの時に使ってもトリシューラとシーラカンスはまた攻撃表示になるし」

「《重力解除》は龍亞のフィールドにいるモンスターの表示形式も変えるカードでしょ」

「あ……!?」

(そうなのか……)

龍亞はたじろぎ、コナミは勉強になると頷いた。

「しかもラジカッセンは守備表示なら攻撃を一回無効にする能力がある……つまり、シーラカンスとトリシューラ、ブリューナクの攻撃を受けても、龍亞のフィールドにはモンスターが残る計算になるの」

「…………」

「…………」

「相手の手札はゼロで、リバースも無い状況。蘇生カードがあればボードンを蘇らせて、龍亞は勝ってたかもしれない……そうでしょ?」

龍可に言われて、龍亞はだらだらと汗を流していた。その龍亞に、コナミは耳打ちする。

「蘇生カード、あったのか?」

「……実はこれが」

《ジャンクBOX》

レベル4以下のディフォーマーを墓地から特殊召喚する魔法カードだった。

海野幸子のターンでモバホン、ボードン、ラジカッセンの内、二体が破壊されたとしても、このカードを使えばすぐさま一体を特殊召喚できる。そうすれば、ボードンの効果で龍亞は勝っていたかもしれない。

なるほど、銀幕は海の幸か

まだないコナミ君

「……龍亞はいっつも詰めがあまいね」

「うるさいなー!」

「そんなんだから、私にデュエルで勝てないのよ」

「くうぅ……っ!」

龍亞は口喧嘩で龍可に勝てそうに無い。

「……だがディフォーマーには、あの状況でも勝利に持っていけるポテンシャルがあるという事だろう」

「そうだよね……!」

「龍亞の技量が付いていけば……の話しだけどね」

「うう……」

コナミが上げて、龍可が下げる。いい加減、龍亞が痛んできた。少年はゲームショップを指差し、

「い、いいからカードを買いに行こうよ! 今日は新しいパックが出たんだ!」

「そんなに慌てなくても……」

「俺は強くなるんだ! さっきは負けちゃったけど、今にもっと凄いデュエリストになって、龍可を守る!」

龍亞は勢いに任せて走って行ってしまった。その背中を、龍可が溜め息を吐いて見送る。

「カードを買うだけで強くなるんだったら、今頃みんなキングよ……」

「龍可は行かないのか」

「私は別にカード欲しくないし……。コナミさんこそ良いんですか? 龍亞とデュエルする予定があるんじゃ……」

「そうなんだが……。俺もカードショップに興味がある」

コナミにとって、カードとは拾う物だ。貴重品である。それを多数販売している所となると、興味は尽きない。特にこれといって欲しいカードは無いが、行ってみる価値はあるだろう。

「あ、そういえば」

龍可が思い出したように言った。

「遊星と知り合いなんですか?」

「遊星……不動遊星か」

「はい。昨日、そんなことを言っていた気がして」

一時期、遊星の所で世話になっていた、という話の事だ。コナミは頷き、

「……遊星がシティに来ているという話を聞いたんで、どうしているか気になったんだ。龍亞がデュエルディスクを着けていたから、動向を知っていると考えた」

少し嘘をついた。ゴドウィンと牛尾の話から察するに、シティでは遊星が犯罪者として扱われている可能性がある。そのため、なるべく当たり障りの無い質問にした。

「少し前に、私達の家に一晩だけ泊まったことがあって……。デュエルディスクはその時、龍亞が我が儘を言って作ってもらったんですけど」

「……まさか、マーカーとか付いてなかったか?」

マーカーとは、治安維持局に逮捕された者が不適合者の証として刻まれる烙印のことだ。マーカーには発信機が仕込まれており、生きている限り、治安維持局に居場所を特定され続ける。

「……左頬に」

「そうか」

やはり遊星は逮捕されていたらしい。予想はしていたので、特に驚かなかった。


KURUMIZAWAか

「わかった。ありがとう」

遊星がマーカー持ちとなったのなら、合流することは難しい。ゴドウィンの思惑が分からない以上、コナミの方から接触するのは避けた方が良いだろう。下手をすると芋ずる式に拘束される恐れがある。

コナミは龍可に礼を言うと、カードショップに向けて歩き出した。


入店。初めて入るカードショップは、全く未知の空間だった。所狭しと並ぶカードパック。ショーケースの中にはキラキラと輝くレアカードが納められている。

店内は割と広く、デュエルを行えるテーブルスペースまで完備していた。まだデュエルディスクを持てない子供達や、そこまでコアなプレイヤーではない若者で賑わっている。

「うーむ……」

カードパックのコーナーに龍亞の姿があった。真面目な顔で商品を選んでおり、その視線は本日発売! と書かれたパックに注がれている。

コナミもずらりと並んだパックを見ていく。

(凄い数だな……)

モンスター、魔法、罠。それぞれを別個に分けた物でさえ、十種類以上ある。初心者用、上級者用などと書かれているが、初心者以前のコナミには分からなかった。

「あ、コナミ!」

龍亞がこちらに気づく。

「……まだ買わないのか」

入ってからしばらく経ったはずだが、龍亞が商品を買った様子は無い。

「うん。欲しい物ばっかりでさ。魔法カードも欲しいし、罠カードも足りないし……」

「なら全て買えばいいだろう」

「そんなことしてたら、いくらあっても足りないよ!」

「……ふむ」

「まあ結局、一番新しいパックに落ち着くんだけどねー」

そう言って龍亞は最新のパックを幾つか手に取る。

「どれにしよっかなー。やっぱりシンクロモンスターが欲しいなー」

「…………」

「ね、コナミはどれが良いと思う!?」

目の前にパックを扇状に広げられる。コナミは特に迷うわけでもなく、その中から一つを抜き取った。

「……これだな。この中のカードが、龍亞の所へ来たがっている」

コナミに差し出されたパックを龍亞は疑いもせずに受け取る。

「よーし、分かった! ……すみませーん! これください!」

合計五つのパックを店員に渡す。

「……?」

丸いレンズのサングラスを掛けた、小太りの店員がこちらを見たような気がした。


ラッキーカードだ

ああ!それってハネクリボー?

「良いカード、出るかな?」

会計を済ませた龍亞が戻ってくる。そのままベンチに座り、開封を始めた。

「まずは一パック目……やった! ディフォーマー!」

《D・ビデオン》

「良いスタート……二パック目」

《D・リモコン》

三パック目。

《D・スコープン》

四パック目。

《ダブルツール D&C》

「最後……。コナミの選んだパックだよ!」

龍亞が緊張した手つきでパックのビニールを破る。一つのパックに入っているカードは五枚。

《トラスト・マインド》

《ギガストーン・オメガ》

《ガジェット・アームズ》

《奇跡の軌跡》

四枚が明かされ、残るのは最後の一枚。

「うわ……!」

《パワー・ツール・ドラゴン》

レベル7のシンクロモンスターだ。

「やったー! シンクロモンスターだー!」

よほど嬉しかったのか、龍亞はコナミの周りをぐるぐると走る。

「ありがとう! コナミのおかげだよ~」

「いや、俺は何もしていない」

あのカードは、遅かれ早かれ龍亞のもとに来る筈だった物だ。

「デッキを組み直すのか」

「うん! ちょうどチューナーも当たったしシンクロ召喚が出来るように調整して……あ、あそこに龍可がいる!」

休憩スペースで一息ついている龍可を見つけ、龍亞が走って行く。

「見てよ龍可! シンクロモンスターが当たっちゃった~!」

「あんまり騒がないの。他の人に迷惑でしょ。……!」

注意する龍可だが、龍亞の持つ《パワー・ツール・ドラゴン》を見た瞬間、息を呑んだ。


「ん? どうしたの?」

「……う、ううん。なんでもない。良かったね、龍亞」

「? 変なの。まあいいや、俺はちょっとデッキを組み直すから……」

「うん……」

龍可は何かを考え込むように俯く。しかし、龍亞の方はそれに気づかずカードを広げ始めた。


そういえばコナミ君は赤き龍の化身とか誰かのシナリオで言われてたような

「…………」

コナミも特に気にせず、その場を離れた。小学生達が集うデュエルスペースを通り過ぎ、先ほどのカウンターの前へ。カードパックを販売している所だ。

ずらりと並ぶ商品を眺める。初心者から上級者向けの物。モンスターを種族ごと、属性ごとに分けた物。儀式、融合関連のカードを集めた物。過去の決闘者が使用したカードを集めた物。様々なパックがあった。

「さっきの坊やは良いカードを当てたみたいだな」

カウンターの向こうから声を掛けられる。さっきの店員だった。小太りの体型に丸いサングラス。厚い唇をニヤリと歪めている。

「…………」

「あんたも決闘者だろ? 見れば分かる。カードをお探しかい」

「……どうだろうな」

特に欲しいカードは無かったコナミだが、龍亞の喜び様を見て興味が湧いていた。しかし、

「買ったことが無いんだ。カードは」

「え。じゃあ、そのデッキはどうやって」

「拾った」

「……マジか」

店員が呆気に取られる。

「だが、お前さんのデュエルディスクはDPに対応してるタイプだし、そっちで買ったらどうだ」

「DP?」

コナミが聞くと、店員はそれも知らないのか、と呟いた。

「DPってのは、デュエル・ポイントの略よ。デュエルをするとモーメントの回転数が上がるってことは知ってるだろ?」

コナミは頷いた。モーメントはネオドミノシティにあるエネルギー機関の事である。それとデュエルディスクは直結しており、デュエルを行うことでモーメントはその回転数を上げる──つまり、より多くのエネルギーを生み出すのだ。

仕組みは公表されていないが、一説では人間の感情がデュエルを通じて、モーメントに働きかけているのではないかと言われている。

「だから、街をもっと発展させたいってんで、デュエルを行う者にDPっていう仮の通貨を発行してるんだ。そうすれば、みんなデュエルしたがるだろう?」

「なるほど」

「デュエルをすれば、モーメントが動く。モーメントが動けば、街が活性化する。街の活性化に貢献すれば、カードが買える。カードが買えれば、決闘者は絶えずデュエルする……それがこの街の仕組みってわけよ」

「……仕組みは分かった」

だが、コナミにはそのDPを確認する手段が無い。それを言うと、店員はサングラスをキラリと光らせた。

「任せな。そのデュエルディスクを貸してくれ」

その言葉に従い、コナミは金色のディスクを店員に渡す。

「お、ハイブリッド型か。珍しいな……」

レジが操作され、DPの残高が表示された。

「こりゃ凄いな。76040DPも貯まってるぜ」

「ふむ……」

パワーツールはパックで当てたのか…

パワーツールの存在はかなり異質なんだよな。
終盤、思い出したかのようにLSD出てきたしww

一応ルチアーノ戦で龍亞がコースアウトした時にタクシーパワーで助けられてるといえばそれが伏線か
でもあんなもん気づくかよ

「どうする? カードを買っていくかい?」

「……そうだな」

「オススメはやっぱり、このビギナーズ・パックだな。使いやすいカードが多いし、値段も手頃だ。買って損は無いぜ」

勧められた商品を見る。1パック120DP。一箱20パックで2400DPだ。30箱以上買える計算になる。

「……じゃあ、それを頼む」

「ビギナーズ・パックはモンスターと魔法、罠カードの三種類に分かれてるんだ。どれを選ぶ」

「それぞれ5パックずつで」

「へへ、毎度あり。この買い方、あんたは手堅いタイプだな」

「…………」

「合計1800DPだ。ここで開封していくか?」

「ああ」

デュエルディスクから消費分のDPが引かれ、買った商品を渡される。そのまま、中のカードを傷つけないように封を切り、パックを開けていった。

「……《魔法効果の矢》か」

貴重な除去カードである。

15パック全ての中身を確認したコナミは、その中から数枚のカードをデッキに入れた。

「あ、コナミもカード買ったんだ」

後ろから声が掛かる。龍亞だった。調整したデッキを持ち、デュエルディスクを着けている。いつでもデュエル出来る状態だ。

「……準備は出来たか」

「もちろん! 今の俺ならコナミに勝っちゃうかもね~」

コナミもデュエルディスクを受け取り、腕に装着した。

「お、これからデュエルかい?」

「……ああ」

「なら、あそこのデュエルスペースを使ってくれ。良い宣伝になる」

「分かった」

「おっちゃん、ありがとう!」

頷くコナミと、店員に礼を言って手を振る龍亞。店員はニヤリと笑い、

「さっきのデュエル見てたぜ。頑張んな」

「うん!」

海野幸子と龍亞のデュエルの事だろう。そういえば、この店の真ん前で行われていた。ここからでも観戦出来たらしい。

「よし、今度こそ勝つぞ!」

デュエルスペースに移動した二人は向かい合い、デュエルスペースを構えた。

「よーし、デュエルだ!」

「……デュエル」


龍亞戦は物凄く難航しているので、明日辺りにまとめて投下します。

パワーツール手に入れて装備魔法重視になってきた龍亞相手に
魔法効果の矢とか鬼畜過ぎるだろww

おつー
最強デュエリストのデュエルは全て必然(装備使いと戦う前に魔法効果の矢を入手)

何故自分のカード購入にはドロー力を使わないのか

「俺のターン、ドロー! ジャッキーン!」

龍亞の先攻でデュエルがスタートする。

「まずは《D・モバホン》を召喚!」

「……またそのカードか」

「《D・モバホン》の効果発動! ダイヤル……オーン!」

ダイヤルが点滅。これにより出た数字に応じて、デッキからカードを捲り、その中のディフォーマーを一体特殊召喚するというのがモバホンの効果だ。

出た数字は4。龍亞はデッキからカードを四枚引き、

「《D・ラジカッセン》を攻撃表示で特殊召喚するよ!」

「…………」

「さらにフィールド魔法を発動!」

《D・フィールド》

「えーと……このカードがある限り、フィールドのモンスターの表示形式が変更される度に、このカードにDカウンターを乗せる。Dカウンター一つにつき、俺のフィールドのディフォーマーは攻撃力が300ポイントアップするんだ!」

テキストをよく把握していないのか、龍亞はカードを見ながら効果を読み上げる。

「俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

「……ドロー」

ドローしてから、コナミは六枚の手札を確認した。悲しいことに、ラジカッセンを倒せるカードは無い。ならば、狙いはただ一つ。

「俺は《隼の騎士》を召喚。モバホンを攻撃」

攻撃力100のモバホンに、1000の《隼の騎士》が斬り掛かる。しかし斬撃は、見えない障壁に阻まれた。龍亞の罠カードだ。

「《ディフォーム》の効果発動! ディフォーマーが攻撃された時、その攻撃を無効にして、攻撃されたディフォーマーの表示形式を変更する! モバホンは守備表示だっ!」

モバホンが携帯電話に変形する。そして、モンスターの表示形式が変わった事で、フィールド魔法にカウンターが乗ってしまった。

Dカウンター 1個

「だが、《隼の騎士》は一ターンに二度まで攻撃できる」

「え……」

二度目の攻撃でモバホンは容易く破壊された。近くで龍可のため息が聞こえたような気がした。

「ラジカッセンを守備表示の時、攻撃を無効に出来るんだろう。なぜ攻撃表示で出した」

コナミは先ほどの龍可の説明を忘れていなかった。鋭い指摘に龍亞がたじろぐ。

「こ、これも作戦だから!」

「そうか。なら、カードを一枚伏せてターン終了だ」

「俺のターンだね!」

龍亞がカードを引き、手札は四枚となった。

「まずは魔法カード《死者蘇生》を発動! 墓地のモバホンを特殊召喚する!」

無条件の完全蘇生。強力な魔法カードだ。

「そしてモバホンの効果発動! ダイヤル・オン!」

再びギャンブルが開始される。出た目は5。かなり良い数字だった。

「……《D・ラジオン》を攻撃表示で特殊召喚! ババーン!」

ラジオンは味方のディフォーマーを強化する効果を持つ。攻撃表示なら攻撃力を、守備表示なら守備力を800ポイントアップさせるのだ。

「ラジオンと《D・フィールド》の効果で俺のモンスター達の攻撃力は1100ポイントアップ!」

ラジオンの攻撃力は2100。モバホンは1200、ラジカッセンが2300ポイントとなった。

「さらに手札から、《D・ビデオン》を召喚! これでフィールドのモンスターは四体。どう、凄いでしょ!」

「……そうだな」

ビデオンも強化され、攻撃力が2100ポイントとなった。二回攻撃のラジカッセンを考慮すると、総攻撃力はちょうど一万。二回負ける計算になる。

「よーし、バトルだ! 俺はラジオンで……」

「ここでリバース発動。永続トラップだ」

《攻通規制》

「このカードがある限り、相手フィールドにモンスターが三体以上いる場合、相手は攻撃宣言をすることが出来なくなる。大量展開が仇になったな」

ついさっき買ったパックに入っていたカードが、良い働きをしてくれた。会心の攻撃を止められ、龍亞は唇を尖らせる。

「ちぇっ。俺はラジカッセンを守備表示に変更。カードを一枚伏せてターンエンド。今度は忘れなかったからね!」

Dカウンター 二個

「俺のターンだな」

龍亞のディフォーマーは強化を繰り返し、既に手がつけられないほどに強くなっている。このままではマズい。

カードを引く。

(これは……)

まだ戦える。

「《隼の騎士》で守備表示のラジカッセンを攻撃」

「《D・フィールド》の効果で守備力が……あれ?」

「そのフィールド魔法で上がるのは攻撃力だけだ。さらに、ラジカッセンの攻撃無効は一回のみ。……とらせてもらうぞ」

絶好のチャンス。せめて二回攻撃のラジカッセンだけでも除去しておきたい。

「お、俺はリバースカード《重力解除》を発動! フィールドに表側表示で存在するモンスター全ての表示形式を変更する!」

フィールドの重力が向きを変え、全てのモンスターが浮き上がる。そして、攻撃表示だったカードは守備表示に、守備表示だったカードは攻撃表示になった。

「む……」

Dカウンター 三個

「あ、危なかった~」

「……俺はモンスターとカードを一枚ずつ伏せてターン終了だ」

攻通規制  永続魔法です……

>>212
我が書き換えたのだ

「へへ。俺のターン、ドロー!」

龍亞の手札が二枚となった。

コナミのフィールドには未だに《攻通規制》が存在している。龍亞はモンスターを二体以下に減らさない限り、攻撃することが出来ない。

「俺は手札から魔法カードを発動するよ!」

《D・スピードユニット》

「このカードは手札のディフォーマーをデッキに戻すことで、相手フィールド上のカードを一枚破壊する。《攻通規制》を破壊だ!」

コナミを守っていた永続罠が破壊される。

「さらに《D・スピードユニット》の効果でカードを一枚ドロー!」

「…………」

「そしてモバホンを攻撃表示にして効果を発動!」

Dカウンター 4

三度目となる効果の発動。元は攻撃力100だったモンスターが、これほど効果を発動出来る機会もそう無いだろう。モバホンのダイヤルは当然の様に6を出し、龍亞はデッキから六枚のカードを取り出す。

「何にしよっかなー。……よし、《D・ボードン》を特殊召喚!」

ボードンは攻撃表示の時、味方のディフォーマー全てに相手プレイヤーへの直接攻撃を可能にさせるとんでもないカードだ。そして、状況はさらに悪くなる。

「まだまだ! 俺はラジオンとビデオンも攻撃表示に変更だ!」

Dカウンター 6

これにより、ラジオンの効果と合わせて攻撃力が2600ポイントずつアップ。

ラジカッセンの攻撃力が3800に、ラジオンとビデオンが3600、ボードンが3100となり、モバホンが2700になった。

総攻撃力20600。二人のデュエルを観戦していたギャラリーも引き気味の様相を呈していた。

「よーし、バトルフェイズ! 一斉攻撃だ! ドッカーン!」

「……まだだ。リバースカード発動」

《アヌビスの呪い》

「……え、なにそのカード」

「このカードは、フィールド上の効果モンスター全ての守備力をゼロにして守備表示に変更させる。そしてこのターン中は、効果を受けたモンスターの表示形式は変更出来ない」

「むー。ならターンエンド」


私の勉強不足でした。申し訳ありません。《攻通規制》は《平和の使者》か何かだったということでお願いします。

補足です。二ターン目のメインフェイズに《平和の使者》を発動していたということでお願いします。ちょっとテンパってました。すみません

なんとか凌いだが、最悪な状況は依然として変わらない。コナミはカードを引き、四枚になった手札を見た。

(……そろそろか)

こんな劣勢でも、特に危機感は抱いていなかった。胸中にあるのはひりつくような高揚感だけ。こうしてデュエルをしている時のみ、鼓動の音を直に感じることが出来る。

「俺は《隼の騎士》を攻撃表示に変更。さらに《炎龍》を反転召喚」

Dカウンター 八個

そのままバトルフェイズに移行。

「モバホンに攻撃だ」

《隼の騎士》が三度、携帯電話となったモバホンへ攻撃を仕掛ける。しかし、その刃は相手を両断することなく、弾かれてしまった。

「残念! 《D・ボードン》が守備表示の時、このカード以外のディフォーマーは戦闘で破壊されないんだ!」

「……カードを二枚伏せてターン終了」

「もう終わり? じゃあ、俺のターン!」

龍亞は二枚となった手札を確認もせず、そのままバトルフェイズに入った。見たからに勝利を確信している様子。警戒心はゼロに等しい。

「俺は五体全てのディフォーマーを攻撃表示に変更!」

Dカウンター 13個

全てのディフォーマーの攻撃力はフィールド魔法で3300、ラジオンの効果で800。合計4100ポイントアップする。これにより、

ラジカッセン ATK5300×2

ラジオン ATK5100

ビデオン ATK5100

ボードン ATK4600

モバホン ATK4200

合計29600。しかも、五体全てがプレイヤーへの直接攻撃権を有している。ギャラリーも、ほぼ勝敗は決まったと見ている者が大半だった。

「これで俺の勝ちだね! ラジカッセンでダイレクトアタック!」

攻撃力5300の化け物が飛んできた。

「……いや、俺はこの時を待っていた」

コナミが呟き、一枚のリバースカードが面をあげる。

《オーバースペック》

その罠カードが発動した瞬間、ラジカッセン以下、全てのディフォーマーが動きを止め、体中から火花を発し始める。

「《オーバースペック》は現在の攻撃力が元々の数値より高い……すなわち強化されたモンスターを全て破壊するトラップカードだ」

「それは、つまり──」

「調子に乗りすぎたな、龍亞」

「えぇーっ!?」

全てのディフォーマーが爆散した。合計攻撃力約30000が、一瞬にして吹き飛び、興奮したギャラリーからも歓声があがる。



なんというピンポイントメタ

オーバースペックはTF5で対機皇帝用のカードとしてかなり有用だったな

モンスターを全て失い、龍亞のフィールドには大量のカウンターが乗った《D・フィールド》のみが残される。

「お、俺は手札から装備魔法《D・リペアユニット》を発動! 手札のディフォーマーを一枚捨てて、墓地から《D・ラジカッセン》を特殊召喚し、このカードを装備する!」

手札から《D・チャッカン》が捨てられ、墓地から《D・ラジカッセン》が召喚された。フィールド魔法で強化され、その攻撃力は4500となる。

これで、龍亞の手札はゼロだ。

攻め込むなら今こそ好機。コナミはカードを引き、

「リバースカード発動。《魔法効果の矢》。相手フィールド上に表側表示で存在する魔法カードを全て破壊する」

二本の矢が現れ、《D・フィールド》と《D・リペアユニット》が破壊される。

「破壊したカード一枚につき、相手に500ポイントのダメージを与える」

「う……」

龍亞 LP4000→3000

自身を場に繋ぎとめていたカードを失った事で、ラジカッセンも破壊された。龍亞のフィールドにモンスターはいない。《隼の騎士》と《炎龍》の攻撃だけでも、充分にトドメを刺せる。

「まだだ……。《D・フィールド》が破壊された時、墓地のディフォーマーを一体選択して特殊召喚出来る。俺は《D・ラジオン》を攻撃表示で召喚!」

「…………」

まさか凌がれるとは。いつもなら、このまま決められたはずなのだが、詰めが甘かったらしい。コナミの今あるカードでは、攻撃力1800のラジオンは倒せない。

「俺は《炎龍》をリリースし、アドバンス召喚。モンスターをセットだ」

さらに《隼の騎士》を守備表示に変更。コナミはターンを終えた。

「う……。俺のターン!」

龍亞は目を瞑り、カードを引く。たった一枚だけの手札だ。

龍亞の瞳が輝く。

「俺はチューナーモンスター《D・リモコン》を召喚!」

龍亞のフィールドにリモコンそのままのモンスターが現れる。

「レベル4の《D・ラジオン》に、レベル3の《D・リモコン》をチューニングだ!」

☆4+☆3=☆7

シンクロ召喚に呼応するかのように、デュエルディスク内のモーメントが激しく回転する。


「地球の平和を守るため、勇気と力をドッキング! シンクロ召喚! 愛と正義の使者!《パワー・ツール・ドラゴン》!」

レベル7のシンクロモンスター。龍亞が先ほど手に入れた、機械の竜がフィールドに降り立った。


「……かっこいいな」

「でしょー!今日からこのカードは、俺の切り札だからね!」

「ちなみに、今の口上はなんだ」

「遊星がシンクロ召喚をした時に言ってたから、俺もずっと考えてたんだよ! やっと言えて良かった~」

はしゃぐ龍亞から視線を外し、観戦している龍可を見る。目を逸らされた。

「……デュエルを続けよう」

「うん! 俺は《パワー・ツール・ドラゴン》の効果発動! デッキから装備魔法を三枚選び、相手はランダムに一枚選択する! えーっと、選ぶカードはこれとこれと……はい、コナミが選んで!」

「分かった」

《ダブルツール D&C》
《ダブルツール D&C》
《ダブルツール D&C》


「…………」

「なーっにかな、なーっにかな?」

「なーにかな、なーにかな……真ん中のカードだ」

「じゃあ《ダブルツール D&C》を手札に加えるよ! そしてこれを《パワー・ツール・ドラゴン》に装備!」

機械竜に大型のドリルとカッターが装備される。攻撃力は1000ポイントアップし、3300となった。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で伏せモンスターを攻撃!」

重々しい音をたてて飛翔したシンクロモンスターが、そのドリルでコナミの伏せモンスターを粉砕した。

《派手ハネ》

「リバース効果モンスターだ。相手フィールドのモンスターを三体まで選択して手札に戻す」

シンクロモンスターがバウンスに弱い事は、先の牛尾戦で学んでいた。しかし、《派手ハネ》が巻き起こした突風を《パワー・ツール・ドラゴン》は物ともせずに突破し、そのままカッターで両断してしまった。

「なに……」

「《ダブルツール D&C》の効果だよ! 装備モンスターの攻撃時、対象となった相手モンスターの効果を無効にするんだ!」

「……なるほど」

完全に確認不足だった。頼みの綱である《派手ハネ》を破壊された事で、コナミの戦況はまた悪くなってしまった。

「へへっ、どうだ! ターンエンド!」


「俺のターンか。……ドロー」

引いたカードは《イージー・チューニング》。コナミの切り札とも言うべきカードだが、まだ使うべきではない。コナミは三枚の手札から二枚を抜き、

「モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

《パワー・ツール・ドラゴン》の能力は確認済みだ。デッキから装備カードをサーチするものと、装備カードを盾にして破壊から免れるもの。攻防一体の強力な効果だ。

早い内に手を打たなくては、どんどんと強くなっていくだろう。

「俺のターン、ドロー! 《パワー・ツール・ドラゴン》の効果発動、パワー・サーチ!」

再び龍亞のデッキから三枚の装備魔法が選ばれる。

《ダブルツール D&C》
《ダブルツール D&C》
《ビッグバン・シュート》

「……右のカードだ」

「右のカードね! 俺は《ダブルツール D&C》を手札に加えるよ!」

龍亞の手札が二枚となる。出来れば《ビッグバン・シュート》を引き当てたかったのだが、そう上手くはいかないらしい。


「俺は《D・ラジオン》を召喚! さらに二枚目の《ダブルツール D&C》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備!」

《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力が4300となった。

「いくよ!《D・ラジオン》で《隼の騎士》を攻撃!」

序盤から生き残っていた《隼の騎士》が電撃を叩き込まれ、ついに破壊された。

「もう一撃!《パワー・ツール・ドラゴン》で攻撃! これが俺達の最大のパワーだ! クラフティ・ブレイク!」

いつの間にか技名まで付いている。

「ここでリバースカード《邪神の大災害》を発動する」

フィールド全体に嵐が巻き起こる。ソリッドビジョン特有の派手なエフェクトが、辺りを覆い尽くした。

「このカードは相手モンスターの攻撃宣言時に発動出来るトラップでな。フィールド上の魔法、罠カードを全て破壊する」

「な……!?」

先ほどのビギナーズ・パックで当てたカードだ。深い考えがあって入れたわけではなかったが、これもまた良い働きをしてくれた。

二枚の装備カードを剥ぎ取られ、《パワー・ツール・ドラゴン》が丸裸となる。

「そ、それでも攻撃は止まらない! モンスターは破壊だ!」

コナミの伏せた《格闘ねずみ チュー助》が一瞬で破壊される。

「よし、ターンエンド!」


コナミのターンとなった。

手札は《イージー・チューニング》一枚のみ。引いたカードで全てが決まる。

相手のフィールドには攻撃力2300の《パワー・ツール・ドラゴン》と1800の《D・ラジオン》。コナミの場には何も無い。

圧倒的に不利。

この状況から勝利に転じることが出来るカードは、恐らく一枚しかない。

「…………」

こんな状況にも関わらず、コナミの口元には笑みが浮かんでいた。今が楽しくて仕方が無い。有利も不利も、勝ちも負けも、今から引くカードも、全てが取るに足らない事のように思えた。

「……ドロー」

引いたカードが大気を裂く。

いつの間にか周囲のギャラリーは静まり返り、デュエルの行く末を息をのんで見守っていた。

カードを確認。そのままフィールドへ。

「俺は《KAー2 デス・シザース》を召喚」

コナミの場に攻撃力1000の青い蟹型マシンが召喚された。

「バトルだ。デス・シザースで《パワー・ツール・ドラゴン》を攻撃」

「え……。こっちの攻撃力は倍以上あるのに!」

小さなデス・シザースが自身の数倍は大きい《パワー・ツール・ドラゴン》に躍り掛かる。とち狂ったのかと、ギャラリーがざわついた。

「ダメージ・ステップに手札から速攻魔法《イージー・チューニング》を発動」

デス・シザースが紅い炎に包まれた。

「《イージー・チューニング》は墓地のチューナーを除外する事で、その攻撃力を自分のモンスターに与える速攻魔法だ。つまり──」

コナミの墓地に眠る《炎龍》が除外され、その攻撃力1400がデス・シザースに加算される。結果、攻撃力は2400となり、2300の《パワー・ツール・ドラゴン》を上回ったのだ。

「《パワー・ツール・ドラゴン》は破壊される」

デス・シザースの攻撃によって、龍亞の切り札が破壊された。

「う……っ」

龍亞 LP3000→2900

「だ、だけどライフまだ残ってる!」

「いや、これで終わりだ。デス・シザースは戦闘で破壊したモンスターのレベル×500のダメージを相手に与える」

《パワー・ツール・ドラゴン》のレベルは7だ。

「従って、3500ポイントのダメージを食らって貰う」

大破し、火の付いた《パワー・ツール・ドラゴン》が龍亞に向かって落下していく。

そして、爆発。

「うわあぁあああ!」

龍亞 LP2900→0



今回はこの辺で。ミスも目立つと思いますが、これからも読んで頂けたら幸いです。ここまで読んで頂いた方、指摘して頂いた方、ありがとうございました。

乙!
今回も楽しませてもらいました!

「ま、また負けた……」

「……残念だったな。だが、良いデュエルだった」

こくりと頷いて、コナミはデュエルディスクを待機状態に戻す。二人の戦いが終わって満足したのか、ギャラリーも数を減らしていた。もう夕暮れというのもあるだろう。

「ちぇー。最後までは凄い調子良かったんだけどなぁ」

龍亞は不満そうに唇を尖らせた。コナミと戦った相手は何故か皆、似たような事を言う。

「次は絶対に勝つからね!」

「ああ。またやろう」

負けはしたものの、龍亞は気にするでもなく笑っている。その快活さを、コナミは羨ましく思った。

「あ、龍可! どうだった、今のデュエル!」

龍亞がベンチに座っている龍可に駆け寄っていく。

「またミスがあった。龍亞、《D・リモコン》の効果を忘れてたでしょ」

「え……。リ、リモコンの効果?」

「そう。《D・リモコン》は、墓地のディフォーマーを除外して、デッキから同じレベルのディフォーマーをサーチする効果があるの」

「…………」

「そうなのか」

「ま、勝敗は変わらなかったと思うけどね。でも、ちゃんと使ってあげないとカードも悲しむと思うし」

「わ、わかってるって……」

「そんな調子じゃ、KCカップ、フォーチュン・カップ出場も夢のまた夢ね」

「うるさいなあ。あ、そういえば、コナミは大会とか出ないの?」

窓から外の様子を眺めていたコナミは急に話を振られ、二人の方に意識を向ける。

「……大会?」

「そうそう! 近い内にデュエル・モンスターズの大会が二つも開催されるんだよ! 出たいな~」

店内には所狭しと大会告知用のポスターが貼られている。KCカップとフォーチュン・カップ。前者は一般人の参加が中心となる、いわば前夜祭のようなものだ。海馬コーポレーションが単独で行うものであるため、規模もやや小さい。

後者がメインとなる大規模な催しで、世界中から有名な決闘者が常勝無敗のデュエルキング、ジャック・アトラスへ挑もうと集まってくる。

「でも龍亞、KCカップの予選で落ちちゃったじゃない」

「そうなのか」

龍可が頷く。

「最初は調子が良いんだけど、ミスが積み重なって終盤で巻き返される……さっきのデュエルと一緒ね」

「そ、それはいいじゃん! そんなことより、コナミは出ないの?」

「……KCカップなら出場する予定だ。本戦からな」

「……本戦から?」

龍可に訊かれ、コナミは頷いた。大口を開けて絶句している龍亞を、龍可はいつも通り無視する。

「治安維持局の特別推薦枠だ」
「凄いね」

「そうでもない。ほとんど無理やり……どうした?」

「ずるいよコナミだけ! 俺なんて二回戦で落ちたのに!」

「……長官から直々の指名だったんだ。仕方ないだろう」

「うー! どうして龍可とコナミばっかり……」

涙目の龍亞が気になることを言った。

「龍可も出るのか。KCカップ」

「KCカップじゃなくて、フォーチュン・カップの招待状が来たけど……出ないわ。興味無いもの」

「そうか」

言葉通り、龍可は興味無さげに言う。彼女の性格的に、大会などの賑やかな催しは合わないのだろう。龍亞は悔しがっているが。

「いいなー、いいなー」

「そんなに出たいのか」

「当たり前でしょ!」

「……分からないな」

大会に出たところで、何かメリットがあるとも思えない。二人は裕福そうだし、賞金や商品に興味も無いだろう。龍亞が目立ちたがり屋だとしても、ここまで拘る理由が分からなかった。

「龍亞はキングとデュエルしたいんだものね」

「そうそう!」

「キング……ジャック・アトラスか」

確か、フォーチュン・カップの最後でデュエルキングへの挑戦権が与えられた筈だ。

「だったら、KCカップは出なくても良いだろう」

「KCカップの優勝者は、レアカードの山とフォーチュン・カップのシード権が貰えるんだって」

龍可の丁寧な説明に龍亞はうんうんと頷く。

「KCカップで優勝すれば、デッキを強化してフォーチュン・カップに挑める。だから、一般の人でもジャックに挑戦しやすくなるわけ」

「……なるほどな」

そういう意味でも、KCカップは一般人向けなわけだ。

「まあ、KCカップの予選で落ちてちゃ、フォーチュン・カップ出場なんて無理だと思うけど」

「それはどうかな?」

龍可に言われ、憤慨するかと思われたが、龍亞は余裕たっぷりにふっと笑った。

「今の俺には《パワー・ツール・ドラゴン》があるんだ。負けるわけないじゃん?」

「いま負けたでしょ」

「…………」

床に手を付いて落ち込む龍亞から視線を外し、コナミは時計を見る。

「ん? どしたの?」

「これから用事がある。治安維持局まで行かなきゃならない」

「あ、そうなんだ。KCカップの事かな……」

「もうこんな時間だし、私たちも帰らなきゃ。最近、治安も良くないみたいだし」

「……気をつけてな。またデュエルしよう」

そう言い残し、コナミは店の出口に向かった。

「あ、そうだ。コナミー!」

龍亞が追いかけて来る。その手には一枚のカードが握られていた。

「どうした」

「コナミが選んだパック、カードが六枚入ってたんだ。普通は五枚でしょ?」

「運が良かったんだろう」

「だから、このカードをコナミにあげちゃう!」

《ギガストーン・オメガ》

「だが……」

「今日は迷惑かけちゃったし、デュエルディスクも直してもらったから。これはそのお礼ってことで!」

「…………」

コナミはカードを受け取り、

「そういうことなら、有り難く使わせてもらおう」

「へへ……。じゃあね、コナミ! またデュエルしよう!」

「ああ。龍亞も、フォーチュン・カップに出られるといいな」

「うん! 次は俺が勝つから!」

龍亞は手を振りながら店から出て行った。その後ろを付いていく龍可から会釈をされた。こちらも返す。

「さて……」

貰った《ギガストーン・オメガ》をデッキに収め、コナミは治安維持局のD・ホイール教習所へ向かった。

日曜日の朝。

龍可は走っていた。

いつものように起床し、いつものように朝食をとり、いつものように課題を終わらせた。この時点で午前八時。予定通りに日課を終え、未だに課題をやっている龍亞を置いて家を出てきた。

最近は体の調子が良かったし、天気も快晴。何より、龍可を外出させたがる、"ある存在"がいつもより騒がしかったのもあった。

そして今、龍可はその"ある存在"を探して街を駆けている。身体が弱く、普段はあまり家から出ないためか、走っているとすぐに息が上がってしまった。双子の兄である龍亞と比べると、体力面では劣っていると言わざるを得ない。

(大丈夫、私は頭脳担当だから……)

役割が違うだけだ。自分を鼓舞し、息を整えながら周囲を見回す。

「もう……どこ、行ったのよ……クリボン」

龍可が探しているのは《クリボン》というカードの精霊だった。霊体であるため、常人には見ることも触ることも出来ない、龍可だけの友達だ。

そのクリボンが朝から騒いで龍可を家から連れ出した挙げ句、街中で忽然と姿を消したのである。

他人には姿が見えないせいで、龍可だけで探すしかない。この広いネオドミノシティを一人で捜索するというのは中々に辛かった。

そうして午後一時を回り、龍可は噴水広場に来ていた。走り回って疲れたので、自販機で飲み物を購入し、休憩する。

「ふう……」

喉を潤すと、自然と声が漏れた。龍亞ならここで炭酸飲料を飲んでぷはーっ!と言うだろう。そんな事を思いながら、何気なく一時間ごとに噴き上がるこの公園の名物を見た。

噴水が、勢い良く午後の一時を知らせる。日曜日という事もあり、子供達の喜ぶ声が響いた。

「…………」

平和を感じる。龍可は最近、誰かに狙われているような危機感に苛まれていたが、今はそれも忘れられた。

そうして、数分ほど続いていた噴水が止む。それに伴い、公園に静寂が訪れた。

「クリ~」

「!?」

今までは噴水に隠れて見えなかったが、向かい側のベンチに見知った人物が座っている。赤い帽子に赤いジャケット。昨日、一昨日と龍亞が迷惑をかけた、コナミという少年だった。

しかし龍可を驚かせたのは、その少年の頭に探していたクリボンが乗っている事だ。


いつも楽しく読ませてもらっている

「クリ~」

クリボンは上機嫌でコナミに擦りよっている。端から見ても、凄く懐いているのが分かった。確かに一昨日、コナミを見かけてからクリボンは騒がしかった。龍亞並みか、それ以上に。

「クリー! クリクリー!」

調子に乗ってきたのか、クリボンはコナミの頭の上でポヨンポヨンと跳ね始めた。

(おかしいな。滅多に人には懐かない筈なのに……)

クリボンは龍可に似て酷く人見知りだ。精霊だけあって、敵意や悪意といった感情に極めて敏感なのである。善良な人間には善良な善良が、悪人には悪い精霊が宿るものだ。

クリボンが懐くのなら、コナミは悪い人間ではないのだろう。

(でも……)

龍可は、コナミという少年があまり得意ではなかった。普通に話している時は平気なのだが、デュエルしている際に漂わせた妙な空気は、とても危険な感じがする。

まるで、血を吸った刃物のようなぎらついた眼光。思わず身が竦んだ。

「どうしようかな……」

当たり前だが、コナミは精霊が見えないらしい。ならば適当に近づいて、クリボンだけ捕獲しよう。不審に思われたとしても、話なんていくらでも誤魔化せる。

(……私、頭脳派だし)

ふふん、と笑い、一人と一匹がいるベンチに近づく。コナミに気づかれないように、後ろから足音を殺して歩いていった。

「クリっ!?」

その時である。コナミの頭上でポヨンポヨンしていたクリボンが、がしりと"掴まれた"。

「……!?」

龍可もたまらず仰天する。

「…………」

「クリー?」

クリボンを両手で捕まえたコナミは、そのまま獲物を眼前まで持っていった。一人と一匹の視線が交差する。

「…………」

コナミは何をするでもなく、クリボンを再び頭の上に戻した。解放されたクリボンは元気に飛び跳ねる。

(今、明らかに……)

カードの精霊であるクリボンを掴み、視認した。間違いない。

「あ、あの……」

後ろから声を掛ける。驚くわけでもなく、赤い帽子の少年は振り返った。

「……龍可か。ほら、飼い主が来たぞ……む」

「クリー!」

再度、クリボンを掴むコナミだが、今度は何故か激しい抵抗にあった。頭にしがみつき、離れない。

「……なんだこいつは」

「私の精霊。コナミさんは、クリボンが見えるの?」

「……ずっとぬいぐるみだと思っていた」

今日はもう眠いので、この辺で失礼します。読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙ー
>>231の11行目、善良な善良になってるな

乙乙

「じゃあ、ずっと見えてはいたんだ」

「ああ。生き物だとは思わなかったが」

「……私が抱いてた時も動いてたのに」

「龍可の年齢も考慮すると、そういうぬいぐるみだという可能性が……」

「私、そんなに子供じゃないから!」

子供扱いされた龍可はむっとして声を荒げた。通行人が数名、驚いてこちらを見る。

「あ……」

赤面する龍可だが、隣の一人と一匹は気にすることなく攻防を続けていた。

「クリー」

「やめろや」

羞恥心が無いというのは羨ましいと、龍可は恨めしく思う。

「で、龍可はこのクリボン……だったか、精霊を追い掛けて来たと」

今日の出来事を簡潔に説明すると、コナミはあっさり納得した。一番難しい精霊関係の問題がクリアされていたのが、龍可にとって幸いであった。

「だけど、クリボンはただコナミに会いに来たわけじゃないと思う」

コナミ自身から、さん付けはやめてくれと言われていた。あちらも龍可を呼び捨てにするのだから、これが一番良いとのことだ。

「そうだな。それだったら一昨日の内に来ていた筈だ」

今のクリボンはコナミの頭上から、彼の膝に居場所を移していた。こうまで懐かれると、龍可としても嫉妬心が生まれてくる。

「何か伝えたい事があるのかも」

「龍可には分からないのか」

「うん……。いつもなら、クリボンの心も分かるんだけど」

今は分からない。

「なら……最近、気になる事はなかったか」

「気になる事?」

「クリボンが様子がおかしいのは、何かしら龍可の周辺に変化が起きることを予期している……ということも考えられる」

「…………」

幾つか思い当たる節はあった。

「もしくは、既に変化が起きているのか」

「……!」

「……実は最近、変な夢を良く見るの」

「…………」

とつとつと、龍可は最近、毎晩のように見る夢の事について話し始めた。

あまり良い内容ではない。世界を暗雲が包み込み、至る所で災害や戦争が起こる。人々は逃げ惑い、絶望が支配した。それは何か、見たことも無いくらい巨大で邪悪な物の仕業だ。

そこへ五体の竜とその繰者が現れて、邪悪と戦う……そんな内容だった。

「ふむ……」

突飛過ぎる内容だったが、コナミは茶化したりせず、黙って聞いていてくれる。そのおかげか、ほとんど面識の無い相手にも関わらず、龍可は自身が普段隠している事を打ち明けられた。

いや、コナミに話した理由はそれだけではない。

「それに……昨日の事だけど」

「昨日の?」

「コナミ、龍亞にカードパックを選んであげたでしょ?」

「ああ。《パワー・ツール・ドラゴン》が当たったやつだな」

「そう。その《パワー・ツール・ドラゴン》なんだけどね。似たモンスターが夢の中に出てくるの」

「……ほう」

一番気になるのはこの点だった。コナミが龍亞のために選んだ物から《パワー・ツール・ドラゴン》が現れ、それに似たモンスターが龍可の夢に出てくる。無関係とは考えにくい。

「だとすれば、龍亞にも関係してくる話だな。伝えたのか?」

龍可は頷く。この話を聞いた双子の兄は自分がヒーローになれると思ったのか、飛び上がって喜んでいた。

「そうか。頼りになりそうに無いな」

「う、うん……」

コナミの冷静過ぎる意見を龍可は肯定するしかなかった。

「予知夢か」

「違うと思う。世界の……様子っていうのかな? 家とか石造りだったし、着ている服も大分昔の物に見えたから」

夢の中の龍可は、上空から世界全体を見渡せた。まるで神の視点だ。

「竜は五体いたんだろう。その一体以外に何か見覚えのある物はいなかったのか」

「んー」

龍可は少し悩んでから、

「姿は良く分からないけど、夢の中で私に話しかけてくる存在なら……」

「それは人じゃないのか」

「きっと竜の一体だと思う。おぼろげだけど、シルエットだけは分かるから」

その竜は細長い体躯をしており、鰻に似ていた。

「今までに似たモンスターを見たことはないのか」

「無い……と思う」

「なら、竜についてはここまでだな。他の手がかりを洗おう」

「他の手がかり?」

そんなもの、あっただろうか。龍可は首を捻った。

「竜には繰者がいたんだろう。なにか心当たりは無いのか」

「あ……そっか。それならあるかも。前に、遊星と会った時に」

彼の中に、白い竜を見た。あれが何かと関係しているのかもしれない。

「……遊星か。なるほどな」

合点がいったのか、コナミは頷く。

「何か分かったの?」

「知り合いに、龍の星がどうのと言っていた奴がいる。遊星に拘っていたようだし、何か知っている可能性はあるだろう」

コナミにも気になる事があったらしい。だから、龍可の話にもこうして耳を傾けてくれたのだ。

「それって、どんな人?」

「治安維持局の長官だ。そう簡単には会えない」

「嘘……」

まさか、治安維持局の長官が絡んで来るとは。

「私にフォーチュン・カップの招待状を送ってきたの、その人よ」

「俺をKCカップに出場させたのも、レクス・ゴドウィンだ」

バラバラだったピースが次々にはまっていく。急に怖くなってきた。

何か大きな陰謀が蠢いていること。そして、それに自分が巻き込まれているということに気づき、龍可の体温が一気に下がる。

「どうしよう、コナミ……」

「どうしようも無いな。今は動ける状況じゃない」

コナミは他人事のようにあっさりと言った。

「そんな……」

「レクス・ゴドウィンはかなりの難敵だ。都合よく動いてはくれないだろう」

コナミはクリボンを抱えて立ち上がった。

「何かが起きるとしたらフォーチュン・カップだ。今回、クリボンが騒ぐのとはまた別の問題という気がする」

「どうして?」

「む……」

そこで初めて、コナミが言葉を濁らせた。あまり推測でばかり話したくないが、と前置きして、

「龍可が夢を見るようになったのは、しばらく前だろう。それよりも最近の問題に関係があるんじゃないのか」


「そういえば最近、誰かに見られているような気がする時があるの」

「……怪しい人間に心当たりは?」

「え、怪しい人なら……」

コナミはかなり怪しい人物だと思うが、龍可は口にしなかった。流石に傷つくだろう。

「……そうね。外にいる時、たまに視線を感じるの。こっちをじーっと見ているような……」

そう頻繁ではない。一日に一度、あるか無いかといったところだ。忘れた頃にはっと気づく事が良くある。

「だから、明るいうちに帰宅したがっていたんだな」

「……うん。その時のクリボンは警戒しているみたいだったし……」

「そちらの可能性が高そうだ」

そう言ってコナミは抱えているクリボンに視線を移す。精霊は待っていましたとばかりに、その尻尾で南の方角を差した。

「クリッ! クリクリ!」

「あっちに何かあるの?」

「クリー!」

そうらしい。

「……なら行こう」

そう告げ、コナミは歩き始める。龍可もその後を追いかけた。しかし、

「トビー……!?」

切迫した声と共に、コナミは右腕を掴まれた。龍可はぎょっとして声の主を見る。

女性だった。長い黒髪に抜群のプロポーション。どこまでも整った顔にはサングラスをかけていた。その女性はコナミに顔を寄せると、息がかかるような距離で、何かを確かめる。

「……俺の事を知っているのか」

「あ……ごめんなさい。人違いだったわ」

女性はさっと身を離す。先ほどまであった必死さは身を潜め、優雅さを取り戻した。


TF4のエロお姉さん枠のミスティきた!

「悪いが、用がある」

人違いだと分かったのに、女性はコナミの腕を放さない。サングラスの奥の瞳は、コナミと龍可、二人を静かに見据えている。まるで未来を見通されているかのような違和感が襲ってきた。

「あなた達の頭上に、龍の星が輝いているわ」

「…………」

「!?」

龍の星。コナミが先ほど口にした単語である。

「何か知っているのか」

美女に詰め寄られたままの少年は、動じることもなく尋ねた。

「いいえ、私じゃないわ。答えは全て、あなた達自身の中にある。私はそれを読み解いて、伝える事が出来るの」

「……占い師の方ですか?」

コナミの陰に隠れながら龍可が訊くと、女性はクスリと笑う。見とれるような美しさだった。

「本業は違うけれどね。そういった物も嗜んではいるわ」

「…………」

龍可はこの女性をどこかで見た気がする。

(いや……普通、会ったら忘れないよね。こんな目立つ人)

「龍の星とはなんだ?」

「人はそれぞれ、自分を形作る星を持っているの。一人ひとり形も色も、大きさも違う……例えば、そこの彼女」

「私……ですか?」

龍可が指さされる。

「彼女の星は、もう基盤が出来上がっているわ。母性や慈愛を象徴する龍の星が瞬いている……色は自然を表す緑。優しい子なのね」

「…………」

優しく包み込むような笑顔を向けられ、龍可は赤面した。

「だけど、あなたは分からない。確かに龍の星が輝いてはいるけど、形が定まっていない。点だけで、線で結ばれていないの。何より──」

女性はコナミに対し、見透かすような目を向けて言った。

「色が無い」

「色が無い……」

反復するコナミの声に、微かな動揺が見てとれた。

「不思議ね。あなたくらいの年なら、とっくに……」

女性の方も相手の様子に気がついたのか、口をつぐんだ。

「ごめんなさいね。私、こういう事は内容をそのまま伝えてしまうから。不快にさせてしまったなら謝るわ」

「いや……」

「私が伝えたかったのは、あなた達が今、分岐点にいるという事。今まで通りの平穏な道を進むか、あえて困難な道を進むか」

「分岐点?」

「ええ。あなた達は何か非日常的なトラブルの火種を抱えていて、今からその正体を暴こうとしている。違うかしら」

「…………」

コナミの目は龍可を見ている。この問いへの返答は任せるということなのだろう。元々、龍可が抱えている問題だ。

「……確かに、そうかもしれません」

「そして、何かの道しるべを頼りに……南西、病院の方へ行こうとしている」

女性の言う通り、クリボンの尻尾は南西の方角を示していた。

「悪い事は言わないわ。そちらに行きたいのなら、治安維持局から中央広場を通りなさい。繁華街を抜けたら、目的地に着くはずだから」

女性の示したルートは、通常より遥かに長い距離を有する、完全な回り道だった。距離にしてみると二倍近い差があるのではないだろうか。

「そ、そんな遠回りをしたら、日が暮れちゃう……」

「急がば回れ、という言葉があるでしょう。危険を感じているなら、なるべく安全で人通りの多いルートをお勧めするわ。でも……」

女性は再びコナミへ視線を移した。その瞳には、複雑な感情が渦巻いている。

「彼がいるなら平気かもしれないわね」

意味深な発言の直後、あっさりと女性は告げた。コナミがいれば、危機を乗り越えられるのだろうか。

「安全な道を選んだ方が良いということか」

「どうでしょうね。占いや予言には幸福を告げるもの、不幸を告げるものがある。でも実際は、そう変わらない」

「……?」

「幸福の裏には不幸があって、不幸の裏には幸福がある。コインと同じね。平穏は素晴らしいものだけれど、人を堕落させてしまう。逆に危機は避けたいものだけど、乗り越えれば力となるわ」

「結局、捉え方しだいか」

ぼそりとコナミが言い、女性は笑った。

「そうね。占いなんて結局、そんなものよ。良いものだったら信じて、悪いものだったら避けようとするのが一番。だから私のさっきの言葉は、参考程度に留めておいて」

女性はサングラスを外すと、懐から二枚の名刺を取り出した。その素顔を見て、龍可は息を呑んだ。

ミスティ・ローラ。

世界的に有名な大女優、トップモデルだ。

「私はミスティ。あなた達二人の名前も聞かせてもらえるかしら」

「コナミだ」

案の定、龍可の隣の唐変木は無表情に自己紹介する。

「る、龍可って言います!」

ミスティは二人に一枚ずつ名刺を渡し、微笑んだ。

「きっと、私達はまた会うことになるでしょう。その時を楽しみにしているわ」

じゃあね、と言い残し、ミスティは去って行った。何から何まで優雅だった。あんな女性(ひと)になりたいなあ、とウットリしている龍可の横で、

「変な女だった」

などと言っている人間がいるが、無視した。

「で、どうする。ミスティに勧められたルートにするか」

「うーん……」

どうしようかと龍可は唸った。最短ルートならすぐに着くだろうが、危険らしい。しかし、ミスティが言うにはコナミがいれば平気かもしれないとのことだ。

逆に遠回りのルートは安全だそうだが、時間が掛かる。目的地に着いた後にトラブルが発生したら、時間的な問題が生まれてくる。

「私は──」

①最短ルートを行く。

②遠回りのルートを行く。

>>245

kskst

今日はこの辺で。誤字の件は申し訳ありませんでした。今後も気をつけます。では、ここまで読んで頂いた方、指摘して頂いた方、ありがとうございました。

①で

そういえばコナミ君は何歳くらいなんだ?
少年って書かれてるし10代なのか?

ガッチャ!

「近い方を選ぼうかな。ミスティも、そんなに深刻な様子じゃなかったし」

「分かった」

コナミは頷き、クリボンが示す方向へ歩き出した。

「……人通りの多い所が良いらしいが」

「それは大丈夫だと思う。今日は日曜日だもの」

人通りなど、どこでも多いだろう。龍可はそう思った。現に、公園も街中も、人がごった返している。



「……随分と人が少ない」

コナミがぼそりと呟いた。十分も経たずに、龍可は先ほどの考えが間違っていた事に気づく。歩いていく内、いつしか街には人の姿が見え無くなっていた。

「何か、変……だよね」

心細くなった龍可は、隣を歩くコナミに少しだけ近づいた。

「そうだな。この時間なら平日でも人が歩いているだろう」

「で、でも、たまたまって事もあると思うし……」

「……あれを見ろ」

現実を受け入れたくない龍可に、コナミはある場所を指差した。それはどこにでもある、全国チェーンのコンビニエンスストアだった。

「……あ」

コンビニの中はもぬけの空だった。灯りは点いているし、自動ドアもちゃんと動く。商品もそのまま。今の今まで人がいた形跡はあるのに、肝心の人間は忽然と姿を消していた。

にわかに恐ろしくなり、龍可はコナミのジャケットの裾を握る。

「やはり、何かおかしいな」

突然の異常事態にも、彼は平然と周囲を観察していた。不安や恐怖を感じている様子は無い。それが、今の龍可にはとても心強かった。

おかげで、こちらも取り乱したりしないで済む。

「ねぇ、コナミ。私は一旦、引き返した方が良いと思う」

今の状況は絶対におかしい。何が起こるか分からない以上、このまま進むのは得策ではないだろう。何より、この状況から一秒でも早く逃れたい。

「それが一番、賢明だろうな」

「なら──」

「だが、どこまで引き返す」

「え……」

その言葉の意味がわからず、龍可は呆気にとられた。

「噴水広場から出てすぐは、確かに人がいた。それは覚えているが……なら、いつからいなくなった。境目はどこだった」

コナミは珍しく眉間にしわを寄せて言った。

龍可も思い出そうとするが、何故か思いだせない。

いちいち人の数などカウントしていないというのもあるが、それとは違う。ここまでの道順、ここに来るまでの記憶、その全てに靄がかかったように曖昧になってきた。

コナミも思い出せないのだろう。だから、こんな質問をしてきた。

「このまま元の場所まで戻るのはいいが、それで解決するとは思えない。そう思わないか」

「……確かに、そうかも」

なにより、今の龍可には噴水広場がどこか、自分達がどうやってここまで来たのか思い出せなくなっていた。もう、自宅がどこにあるかさえ、分からない。

「さっきまでは、普通の日曜日だったのに……」

どうしてこうなったのだろう。何が原因なのか、まったく分からなかった。

「……まだ手がかりはある」

コナミは腕の中のクリボンを見た。先ほどまではあんなに騒がしかったのに、今では不気味なほど静かだった。

「戻るか?」

龍可は首を振った。コナミの言う通り、それで問題が解決するとは思えない。なにより、帰り道など既に無いのだ。

二人は店から出て、再び歩き出した。

太陽は高く、日差しも強い。良い散歩日和だったが、街は完全に死んでいた。車の走らない道路の信号機はどこか寂しげに見える。電光掲示板や大型モニターは電源こそ点いているものの、砂嵐しか映していなかった。

まるで異世界だと、龍可は他人事のように思った。

「怖くないのか」

コナミが思い出したように尋ねてくる。

「怖いに決まってるでしょ。でも、どうしてかな。あんまり関心が無くなってきたのかも」

今の状況は確かに怖いが、龍可は不思議と落ち着いていた。それは恐怖より、もっと他の何かに意識が向いているからかもしれない。

今は街が無人になった理由よりも、クリボンが示す場所に早くたどり着きたい願望が大きくなっていた。


シティで一番大きい病院までやってきた。相変わらず、人っ子一人いない。龍可達は特に気にする事もなく、歩道を歩いていた。

誰もいない昼間の街並み。現実味はなく、まるで夢を見ているようだ。

「待て」

コナミが不意に立ち止まる。その視線の先には、一人の人間が立っていた。久しぶりに発見した人の姿に、龍可は安堵したが──すぐにその気持ちは消え去った。

相手の格好は異常だった。頭の先から足元まですっぽり覆う黒いローブのような物に身を包んでいる。見たからに不審だった。

その人物はこちらに背を向けていたが、ゆっくりと振り返り、無機質な声で言った。

「……シグナーだな」

男の声だった。

「え……?」

「フフフ……」

男の右腕が闇色に光り、何かの痣が浮かび上がる。あれは、蜘蛛だろうか。それを認識した瞬間、龍可の右腕も強い熱を持った。

「あ……!?」

右腕が、赤く輝いている。その光はやがて形を成し、

「これは……」

「"龍の腕"か」

「どういうこと……?」

龍可の問いには答えず、男は悠然と向かってくる。

「貴様は既に我々の術中に掛かった。もう逃げられん」

街の異常は、この男が引き起こした物なのか。

「この地は我らが神の作りし物。貴様らを守る赤き龍の力も、ここには及ばない」

「赤き龍……」

男の声は低く、決して大きくは無かったが、その一つ一つが粘つくように鼓膜を揺らす。


「若きシグナーよ。貴様を使って、精霊世界への扉を開こう」

いつの間にか目前に迫っていた男はこちらに向かって痣の輝く右腕を伸ばす。龍可は混乱と戸惑いで、ただ見ている事しか出来なかった。

「…………」

「自らの運命を呪うがいい」

視界が男の右手で埋まる。固まったまま動かない龍可を、男は難なく捕らえた。

その直前。

男の右腕は隣から伸びてきた、もう一本の腕によって止められた。コナミの物だった。

「……なんだ、貴様」

いま初めて、コナミの存在に気づいた様な口振り。

「お前こそなんだ。俺達は忙しい。頭がおかしいみたいだし、そこに病院があるから、用があるならそっちへ行け」

人はいないがな、とコナミは続けた。男の放つ異常な空気にも、まるで動じない。気づいていないのか。

「……シグナー以外に用は無い。消えろ」

無機質だった男の声に、ほの暗い激情が宿った。

コナミの腕を振りほどき、そのまま殴りかかる。男の膂力は尋常ではない。あれを受ければ、ただでは済まないだろう。

逃げてと龍可が叫ぶ間も無く、男は拳を振り抜いた。

「───!?」

次の瞬間、吹き飛んだのは男の方だった。混乱も露わに、アスファルトの地面に叩きつけられる。何が起きたのか、龍可にも分からなかった。

「…………」

「う……ぐぉ」

立ち上がろうとする男へコナミは静かに歩みより、その顎を躊躇いなく蹴り上げた。血を伴って、抜けた歯が宙を舞う。

「馬鹿な……。こんなことが」

男の体から力が失われていく。震える腕を天にかざして、

「冥府の神に……え、栄光あれ」

その言葉を最後に、完全に沈黙した。腕は地に落ち、その袖口から小さな蜘蛛が逃げていく。それと同時に、男の体は黒い霧となって消え去った。

おい、人を[ピーーー]ならデュエルで殺せよ

おい、デュエルしろよwwwwww

さすがコナミ君だ!

容赦のないクロスカウンター、流石はコナミ君だ!

「…………」

逃げようとする蜘蛛を踏み潰し、コナミは周囲を確認する。そして、その表情を険しくした。

「消えちゃった……」

まだ混乱が抜けきらない龍可は、男が消えた空間を見つめたまま、自らの体を抱いて震えていた。

「怪我は無いか」

相変わらず、赤い帽子の少年は無表情だった。

「こ、コナミ、あの人……」

「人じゃなかった」

「え……」

「吹っ飛ばした時、体がやけに軽かった。あの体格から考えて、体重は通常の半分も無い」

どういうことだろうか。龍可は乱れる思考を懸命に操作して、考えを巡らせた。

確かに、あんな消え方をするのだから、普通の人間ではないのは明らかだ。いや、気になるのはそんな事ではない。あの男が言っていた"シグナー"や精霊世界という単語。どこか、遠い昔に聞いたことが──

「龍可、立てるか」

コナミが目の前に立っている。気づけば、龍可は地面に尻餅をついていた。

「う、うん。なんとか……」

幸い、腰が抜けたりはしていなかった。

「それより……凄いね、コナミ」

「……?」

「さっきの。あんな簡単にたおしちゃうなんて……」

「大した事じゃない。誰でも出来る。そんなことより──」

コナミは頭に乗っかっていたクリボンを龍可に返し、

「早く移動しよう。新手が来たようだ」

そう言った途端、先ほどの男と同じ黒装束を着た連中がそこら中から湧いて出てきた。

止まっていた車やバスの中、ラーメン屋やコンビニ、自販機の取り出し口からも。病院の自動ドアが開き、中から数十人の黒装束が隊列を組んで現れた。

「……あと三十秒で包囲される。走るぞ」

コナミに手を引かれ、龍可は走り出した。

「ちょ、ちょっと待ってコナミ……!」

「待てない」

物陰から黒装束が一人、飛びかかってくる。コナミには躊躇がなく、男は美容院のガラスを叩き割って中に蹴り飛ばされた。

デュエリストだもんね、誰でもできるさ(目逸らし)

「どこからでも出てくるな。……龍可、一人で走れるか」

「え……」

「この状況から脱するには、クリボンの示す場所に行くしかない」

前からも数人の黒装束。たまらず二人は狭い路地裏に逃げ込んだ。確実に包囲網は狭まってきている。

こちらは龍可がいるために、コナミは全力で走ることが出来ない。逃げ切れるはずがなかった。

「少し足止めをする。その間、なんとかしてくれ」

そう言い放ち、コナミは後ろの追っ手に向かって行った。ここは中華料理屋の裏口。近くには使用した油の入った缶が置いてある。

何かを蹴り飛ばす音。嫌な予感がする。

「クリ! クリクリっ!」

クリボンは尻尾で前を指していた。方向は合っているらしい。

「コナミ、まさか……」

後ろで火の手が上がる。本当に放火したらしい。火だるまになり、苦しみもがく黒装束十数人が、黒い霧となって消滅した。

「やば……」

いくらピンチとは言え、それはマズいのでは無いだろうか。ああいう消え方だから現実味が無いものの、流石に可哀想だ。

「クリっ!!」

クリボンが頭上を見ている。建物の上から、黒装束が降ってきた。

龍可のすぐ前。距離は数メートル。確かに、こいつらは人間では無い。十メートル近い高さから飛び降りて、こんな平然としているなんて。

男は龍可を捕らえるのではなく、まずはコナミを排除しようと思ったらしい。建物の非常階段にある手すりを掴んだ。そして、それを腕力だけで外してしまった。

横薙ぎに振るわれた凶器を、コナミは頭を下げて避ける。そのまま龍可を守るように前へ。

黒装束は凶器を肩に担いで、振り下ろす。最悪だった。コナミがかわせば、龍可に直撃してしまう。

「……ち」

短い舌打ち。コナミは左腕に付けている金色のデュエルディスクを盾にした。間髪入れずに手すりが振り下ろされる。耳をつんざく激突が暗い路地裏に響いた。


黒装束はたたらを踏み、衝撃で後方へ下がった。獲物は大きく歪み、それを握っていた両腕も変形している。

対して、コナミのデュエルディスクには傷一つ無く、暗闇の中でも煌々としていた。驚くべき頑丈さだ。怯んだ相手の隙を逃さず、首と腹、後頭部の順で打ち込んだ後、アスファルトに叩きつける。

「前からも来ている。龍可、上へ逃げるぞ」

コナミに促され、手すりを破壊された非常階段を駆け上がった。もう大分息があがっている。呼吸の仕方を忘れてしまった。足がもつれそうになる。

未だにろくな状況確認も出来ない中、必死になって走る。後ろではコナミが追っ手に足払いをかけて遊んでいた。なぜあんなに冷静なのか。

(も、もう無理……)

それでも走り続ける。なんとか、五階建てビルの屋上まで到達することが出来た。

「はぁ……はぁ」

クリボンを降ろし、両膝に手を付いて呼吸を整える。そうしなければ今にも死んでしまいそうだった。

「もう少しだ。頑張れ」

後ろから来たコナミに抱え上げられる。後ろからは追っ手。ここは屋上である。逃げ場など無い。

「……クリボン」

「クリ! クリクリ!」

こっちだ、と言わんばかりにクリボンはぴょこぴょこ跳ねながら二人を先導する。そうして、事も無げに隣のビルへ飛び移った。コナミも龍可を抱えたまま後へ続く。

鉄柵を足場にして、跳躍。

「きゃっ……」

地上から十メートル以上、上を跳びながら、龍可は今更ながら自分がお姫様だっこされていることに気づいた。ちっとも嬉しくない。

「クリ!」

クリボンは足を止めず、ビルとビルの間を縫うように飛び跳ねる。遠くで爆発音が響いた。先ほどの中華料理屋だろうか。火が広がり、何かに引火したのかもしれない。

「……コナミ、あれ」

「仕方が無かったんだ」


このコナミ君デュエルロイドなんじゃなかろうか

珍しく、コナミの頬を汗が伝っていた。龍可にはそれが、冷や汗にしか見えなかった。

「まあ、さっきの人が言ってた通りなら、ここは異世界みたいな物かもしれないし」

「そうだとありがたいな」

再び跳躍。飛び移った先の建物の階段を上がり、さらに上へ。もう随分走ったというのに、クリボンは止まらない。

「マズいな」

周囲の建物から次々に黒装束達が追ってくる。その数は増え続け、そこら中を埋め尽くそうとしていた。

「クリー!」

クリボンが立ち止まる。龍可とコナミは既に、この一帯で一番高いビルに来ていた。もう逃げ場は無い。快晴だった空はいつの間にか雲に覆われ、日差しは完全に遮られていた。

近くには海が見える。その向こうにはサテライトが。そして周囲は黒装束達が着々と包囲を進めていた。

いよいよ詰みか。

「龍可、質問があるんだが」

「なに?」

「あいつらに捕まるのと、ここから飛び降りるの、どっちがいい」

「どっちも嫌」

黒装束達との距離はもう十メートルも無い。間もなく二人が捕まるのは明らかだった。

「あれ、クリボンは?」

クリボンは後ろの鉄柵の上から、下を見ている。まるで何かを待っているようだった。

「クリボ──っ!」

鋭い頭痛。何かが聞こえる。

──こへ──来るの──

「なに? 誰?」

私との──約束を───

知っている声だ。ずっと昔に聞いた、とても大事な声。しかし、ずっと逃げてきた声。

「クリー!」

クリボンがこちらを見るのと、コナミが龍可を抱えたままビルから飛び降りるのと、黒装束達が二人へ飛びかかるのは、全て同時だった。

奇妙な浮遊感。直後に体験した事の無い、足場が消えたような落下。地上数十メートルから飛び降りているのだと理解するまでに、かなりの時間を要した。

「ひゃ……あぁああああ!!」

みるみる地面が迫ってくる。クリボンは一緒に落下している。コナミの背後を見ると、おびただしい数の黒装束が二人を追って落下してくるのが見えた。

「クリクリーっ!」

地上に激突する直前、クリボンが吠えた。それと同時に、地面に光のゲートが発生した。落下するままの勢いで、二人は飛び込む。

ひとまず、龍可の意識はそこで途切れた。

質問にあったコナミ君の年齢ですが、私の中では10~20歳くらいに考えてます(適当)

因みに、今回は今までで一番書いてて楽しかったです。

それでは今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙!
地を蹴り、宙を舞い異世界を駆け巡ってるけどコナミ君だから仕方がないね!

なるほど、これが聞き及ぶかのアクションデュエルですか


これがデュエルの最高進化系か…

何?アクションデュエルは元から格闘要素があるのではないのか!?

コナミ軍曹かな?

投下乙
最近はリアルダイレクトアタックもルールで認められてるみたいだしな!

>>268
勝鬨乙

>>269
ナニィ!?アクションカードを取らせないのがリアルダイレクトアタックとでもいうのか!?

>>270
そう熱くなるな。たかがデュエルだ。

>>270
もう原型が分からんな

「ん……」

久しぶりに感じる土の匂い。目を覚ました龍可は、体を起こした。下には柔らかい芝生が生い茂っている。

「起きたか」

すぐ近くに、クリボンを頭に乗せたコナミが座っている。いつも着ている赤いジャケットは龍可の体にかけられていた。

「あれ、私……」

段々と意識が覚醒してくるに連れ、今日あった異常な出来事もまた、記憶として蘇ってくる。跳ねるようにして飛び起き、周囲を見渡して、

「あ、あの人達は!?」

「消えた。近くにはいないようだ」

「そう……。良かった」

「痛む所は無いか」

「うん、平気。……それより、ここは?」

二人の周囲は木々に囲まれていた。空は青く、小鳥のさえずりが聞こえてくる。シティとは似ても似つかない、自然が支配している場所だった。

「分からない。調べたかったが……」

コナミはそこで言葉を切った。見ず知らずの土地で、眠っている龍可を放っていくことは出来なかったのだろう。それを察し、申し訳ない気分になった。

「私のせいだね。ごめん……」

「いや、構わない。時間的にも、大したことはなかった」

「ううん。今日は私、コナミに守ってもらってばかりだし」

「そういえばそうだな」

はっきり言われると傷つく。

「……だが、好きでやっていることだ。気にすることは無い」

コナミは立ち上がり、

「移動しよう。ここが森だ。暗くなる前に安全は確保したい」

「……そうだね」

龍可も立ち上がり、コナミにジャケットを返却した。こんな状況なのに、不安は無い。それどころか、胸中は安心感に満たされていた。この場所には、どうしてか見覚えがある。


「ここはどうやら、シティとは大分離れた所らしい」

森の中を歩きながらコナミが言った。

「まあ、こんなに自然が豊かな所、シティにはないしね」

「それもあるが、太陽の位置がかなり離れている。というか、何故か二つあるんだが」

龍可が顔を上げて確認すると、確かに太陽が二つあった。あの輝き、何かの見間違いという可能性は低いだろう。

「……異世界みたいね」

「落ち着いているな、龍可は」

コナミにだけは絶対に言われたくない言葉だった。龍亞がいたなら、ここぞとばかりに驚き、騒ぎ、喜んでいたに違いない。ああいうリアクションを担当する存在が恋しくなった。

「ねえ、コナミ」

「どうした」

「私、この場所に見覚えがあるの。初めて来た気がしないっていうか……」

「そうか」

「そうかって……信じてないでしょう?」

「信じてるぞ」

「……むう」

機械的な返答に、龍可は頬を膨らませた。せっかく、自身が長い間ひた隠しにしてきた秘密を打ち明けようとしているのに。

しかし、と思い直す。コナミはきっと、これが素なのだろう。無口、無感動、無表情極まりないが、今日はそれに助けられ続けているのだ。

たとえ信じてもらえなかろうが、こちらが信じるのが龍可に出来る感謝と誠意だと思った。



「小さい頃の話なんだけど……」

森の中を歩きながら、龍可は自身の過去にあった出来事を話し始めた。三歳の頃、デュエル・モンスターズのキッズ大会決勝の時に起こった事だ。

突如として意識を失い、昏睡状態に陥った。龍亞の呼びかけもあって回復したものの、龍可は一カ月間、目を覚まさなかったのである。

「その間、私の意識は現実の世界から離れて、この世界に来ていたかもしれない。上手く言葉に出来ないけど、そんな気がするの」

昏睡状態から目覚めた後、龍可はカードの精霊を視認できるようになった。同時に、デュエルをすると極端に体力を消耗するという謎の後遺症のような物にも悩まされることになる。

「……その時の記憶は」

「分からない。ずっと居たはずなのに、よく思い出せないの」

「思い出せない、か……」

コナミの声が少し沈む。

「……? どうしたの?」

「いや、なんでもない。それより、龍可は覚えているか」

「なにを?」

「"龍の腕"。あの男が言った言葉だ」

「あ……。そういえば」

言っていた。直後にあった衝撃的な出来事の連続ですっかり忘れていた。

「あの男は"赤き龍の力も届かない"とも言っていた。ゴドウィンやミスティからは"龍の星"という単語。これらは全て、関連性があるんじゃないのか」

「……確かに」

コナミは歩きながら続ける。クリボンは彼の頭の上で寝ていた。

「そして、それらを結ぶ鍵がこの場所にある。その中心にいるのは、きっと龍可だろう」

「…………」

反論出来ない。コナミが挙げた単語の羅列。全てを線で結ぶと、"龍"という言葉に行きつく。

「龍可は言っていたな。ドラゴンが出てくる夢を見ると」

「────!」

その一言がきっかけとなって、龍可の中の堤防が崩壊した。津波のような量の情報がなだれ込み、激しい頭痛となって押し寄せる。

たまらず、うずくまった龍可の耳に、囁かれる声。

──私達は、ずっと待っています──

「大丈夫か」

「こ、コナミ。わたし……」

「何か、思い出したのか」

「行かなきゃ……!」

「どこに」

「分からない。でも、ずっと呼んでるの、私を。だから……」

「一度落ち着いた方が良い。この場所で感情的になるのは危険だ」

コナミに諭されるが、逸る気持ちは抑えられない。何年間も逃げ続けてきた問題が、すぐ近くまで迫ってきている。

「私、約束したの。この世界を守るって。でも、どうしても怖くなって……」

「……龍可」

「ずっと逃げてきた。ずっと見ないできたから!」

どんどんと語気が強くなる。龍可は意味も分からないまま、使命感と恐怖感に襲われて、今にもコナミとクリボンを置いて走り出しそうなくらい、パニックに陥っていた。

「何をそんなに怖がっているんだ」

そんな龍可の手を握り、コナミは膝をついて、下から目線を合わせて問い掛けてきた。

「え……」

怖がっている?

「この世界を守るという事か」

違うと思う。確かに、この世界から帰還した直後は怖かったが、今は違った。もっと大きな問題があるような気がした。

「龍可を呼ぶ声か、怖いのは」

「そ、それは……」

そうだ。龍可をずっと待っている存在がいる。この世界に。

「私が、忘れていたから……」

龍可は理解した。

声そのものが恐ろしいわけではなかった。とても愛おしくて、大切な存在だったのに、今はどうしても思い出せない。仮に会ったとしても、その名を口に出来るか分からないから、怖いのだ。

「……私、きっと思い出せない」

「それなら、問題ないだろう」

コナミはあっさりと言い切った。

「ど、どうして!?」

「忘れたなら、名前をもう一度聞けばいい」

「な……」

「名前を忘れても、思い出を忘れても、そうやって泣けるくらいには大切な存在だったという事を覚えているんだ」

そう言われて初めて、頬を涙が伝っていることに気づいた。

「遊星の言葉を借りるなら、そういうを絆と言うんだろう。だから問題ない」

「絆……」

俺には分からないが、とコナミは言った。しかし、どうしてか大丈夫な気がしてきた。

「大丈夫かな、ホントに」

「行ってみれば分かる」

コナミは頭から眠っているクリボンを降ろし、ぶんぶんと振った。

「クリ!? クリクリー!?」
「起きろ。ここまで案内したんなら、最後までやれ」

「ク、クリ~」

クリボンはふらふらしながら前に行く。どうやら道案内の役割はまだ続いているらしい。

「あの口ぶりからして、黒い連中の狙いは、この世界に来る事と考えられる。そして龍可は以前に、後の守護者として喚ばれていた……つまり」

「ここにあの連中が来ているかもしれないってこと……!?」

コナミは頷いた。

「ク、クリボン! 早く案内して!」

「クリ!」

クリボンはまたも跳ねて行く。その後を追いながら、龍可は意識を集中させた。黒装束が狙っているのは、あの声の主だ。そんな確信がある。あの声を聞ければ、黒装束より先に到着する事が出来るだろう。

(お願い……。声を聞かせて)

強く念じる。声の主に届くように。

─こ─来て───

「……聞こえた!」

──早──あな──

「あの声か」

「うん! クリボンの向かってる方角から聞こえる!」

「なんて言ってる」

「はっきりとは分からない。でも、きっと助けを求めてる!」

「…………」

先ほどより遥かに速く走っても、体は疲れを感じない。今はすぐにでも、声の主の所へたどり着きたかった。

木々を掻き分け、湖の脇を通る。そうして分かれ道に着いた所で、クリボンが立ち止まった。何かを迷っている様子だ。

「クリボン、どうしたの?」

「クリ、クリクリー」

「え……」

今ならクリボンの言葉が手に取るように理解できた。しかし、その内容は龍可を戸惑わせるものだった。

「どうした」

「クリボンはあっちに行った方が良いって言うの」

クリボンが指すのは右の道だ。

「でも、そっちは遠回りになっちゃうから……」

「なぜ、右の道に行きたがるんだ」

「そっちの方が安全だって言ってる」

しかし、今は一刻を争う事態だ。こうしている間にも、黒装束が声の主の所に来ているかもしれない。

「……龍可が決めた方が良いだろう」

「私は──」

①左の道へ行く(近道)
②右の道へ行く(回り道)

>>280

今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

ここでこそ、善は急げ?
1

乙乙
1で

もうアカデミアの生徒が活躍することはないのか…

5Dsの序盤も序盤だしまだまだ活躍の機会あるだろ
メインキャラの半分すら登場してない時期だし

「こんな状況だし、回り道はしない方が良いと思う」

「分かった」

決めたが早い。名残惜しそうな様子のクリボンには気づかず、龍可は左の道を進んだ。しばらく走ると、開けた場所に出る。

「ここは……」

その場所は、今までの自然豊かな風景とは大きく異なっていた。木々は枯れ、水は渇き、空気は淀んでいる。芝生が生い茂っていた地面は禿げ上がり、痛々しいほどに固い荒野。

ここだけ違う世界のようだった。

「ひどい……」

この場所が何かに汚染されている事は明らかだ。原因など分かっている。あの黒装束達だろう。龍可の中に、静かな怒りが湧いてくる。

「声は聞こえるか」

「……あ、うん。こっち」

コナミを伴い、龍可は荒野の中心を目指した。乾いた風が頬を撫でる。青かった空は色を失い、一面を雲が覆っていた。

樹木の死骸を乗り越えると、前方にクレーターを発見した。声の主はあそこにいると、龍可には直感で分かった。

「コナミ、あそこ」

「……ああ」

コナミは警戒した様子で周囲を見回している。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない。先を急ごう」

「……?」

変なの。そう思いながら、急く足を進める。

──龍可。

そこで、またあの声が聞こえてきた。

──ここへ来てはなりません。

「え……」

──まだ早いのです。今のあなた達では、彼らにはかないません。

「何か聞こえたか」

「……ここへは来るなって。私達じゃ、"彼ら"には勝てないって」

「どういう事だ」

「分からないよ……」

ここまで来て、来るなとはどういう事なのだろう。

「だが、ここまで来たんだ。今さら引き返せない」

コナミは行ってしまった。

「で、でもコナミ……」

龍可は慌ててついていく。彼の言う通り、今になって退く事は出来ない。二人には帰らなくてはならない場所があるし、知らなくてはならない事がある。

そうして、クレーターの中心部が見えてきた。

「この竜は……」

二人を待っていたのは一体のドラゴンだった。蛇のように細長い巨体。至る所に鎖を繋がれ、動きを封じられている。そればかりか、竜の体は完全に石化していた。

化石と化した竜を見た龍可は、強い憐憫の情に襲われた。声の主は、この竜だという確信。どうしていいか分からず、隣のコナミを見る。

「……コナミ」

「まだ息はあるな」

「え……?」

「俺には分かる。龍可、呼び掛けてみてくれるか」

『その必要はありません』

頭の上から声が降ってくる。龍可は竜を見上げるが、その体に変化は無い。依然として石化したままだ。

「あなたが……私を呼んでいた声?」

『……来てしまったのですね、龍可』

質問には答えず、竜は続ける。

『早くお逃げなさい。侵略者は、すぐそこまで迫っています』

「そんな……」

ここまで来て逃げろなどと。言葉を詰まらせる龍可に代わり、コナミが口を開く。

「……呼んだのはそちらだろう。意味も分からないまま帰れるか」

『……あの時、あなた達を救うには、ああするしかなかった』

呼ぶ(特殊召喚)のは得意。なお、自分は守備表示のまま戦闘はしない模様

「そして扉を開いた時に、あの連中も一緒に侵入したんだな」

『…………』

コナミの問いに竜は沈黙した。

「ど、どういう事?」

「あいつ等は俺達を捕らえられなかった。どうしてか分かるか」

「コナミが頑張ったからじゃないの?」

「違う。連中の目的はこの世界だったんだろう。つまり、侵入出来れば手段は関係ない」

黒装束達の目的は精霊達の世界に来ること。龍可を襲ったのはきっかけに過ぎないという事だ。捕まえてしまっても良いし、この世界に逃がしても良い。

あの時、あの場所に龍可達が足を踏み入れた時点で、黒装束達の狙いは殆ど叶っていたのだ。ミスティの言いつけを聞いていれば、もう少し違った結果になったかもしれない。

「あの連中の狙いは、龍可とあんたか」

『……そうです』

竜は言った。

『彼らはこの世界に直接的な干渉がしたかったのでしょう。だから、龍可を狙った』

その時、竜の視線がこちらへ向いているような気がした。

『そしてコナミ、それはあなたも同様。龍可と一緒にいる所を狙われたのは、そのためです』

「なに……?」

『あなたは色を持たない者。白にも黒にも染まる存在……』

「だからどうしたんだ。それだけでは狙われる理由にはならない」

『……同じ場所、違う時の中で、あなたは様々な結末を迎える事になります。それを利用し、彼らは此度の戦いを、より有利な物にしようとしている』

「もう少し分かるように説明してくれ。あんたや、あの連中は俺の正体を知っているのか」

いつになく焦った様子で、コナミが竜に詰め寄る。しかし相手の返答は彼の望む物ではなかった。

『……もう時間がありません』

「ようやく見つけたぞ」

龍可やコナミ、竜のものではない、第四の声。クレーターの外縁部に、誰かが立っていた。

先ほどの黒装束だ。だが、雰囲気がかなり違う。襲ってきた時に感じた、空気のような浮遊感は無い。個人として完成した、一種の"人間らしさ"を漂わせている。

「コナミ、あれ……!」

「……ああ」

龍可と竜を守るように、コナミが前へ出る。

「ふん……」

黒装束の男が右腕を前に突き出す。同時に大気が渦を巻き、固形化。コナミに向かって放たれた。

回避すれば後ろの一人と一体に当たる。またデュエルディスクを盾にして、攻撃を凌いだ。圧縮された空気が破裂し、乾いた地面を震わせる。

「ククク……。やはり効かぬか。あの方の言った通りだ」

面白いとばかりに黒装束は肩を揺らした。やはり、人間的な感性を持っているように見える。

『……"猿の痣"ですね』

「見抜かれたか」

男の右腕は闇色に光り輝いていた。先ほどの黒装束達が放っていた光とはまるで違う、圧倒的なまでの存在感。龍可の右腕もまた、呼応して熱くなった

「こうして痣が共鳴すると、ようやく戦いが始まるのだと実感する。五千年もの間、待ち望んだ神々の戦いがな」

男は興奮したかのように声を弾ませた。

「戦い……」

『今の龍可を倒しても、冥府の神は目覚めません。残念でしたね』

「そんなことは分かっている。そこの娘を欲したのは、あくまで精霊界への道を開くため。私がここにいる以上、もう用は無い」

『ならば去りなさい。ここは、あなたのような者がいて良い地ではありません』

「黙るが良い、無力な竜。今の我々が求めるのは……赤き戦士、貴様だ」

男はコナミを指差した。

「俺か」

「そうだ。我が主は貴様に興味を持っている。望むなら、我が陣営に末席に加えても良いという程にな」

「……話が見えないんだが」

強敵と戦うために世界を救い滅ぼすデュエルマシーン

「簡単な事だ。我々の側に付けば、貴様の望む物を与えよう」

「……望む物」

「至高のデュエルよ。血湧き肉踊るような、極上の物だと約束しよう」

「…………」

「光栄に思え。人の身でありながら、神々の戦いに加われるのだからな」

コナミは強い拒否感を示さない。何か考え込んでいるようだ。もしかして、と龍可が不安に思った頃、ようやく口を開いた。

「……悪いが、先約がある」

龍可をチラリと見ながら応えた。

「まあ良いだろう。デュエルの腕で、そこの娘にも劣るような今の貴様では戦力にならん」

「そうか。なら消えろ」

「そうはいかんさ。まだ、そこの竜に用がある」

そう言って、男は石化した竜に近づいていく。

「……どけ、娘」

気づけば、龍可は男の前に立ちふさがっていた。遥かに高い位置から睨まれるが、懸命に堪えて睨み返す。

「どかない。もう、逃げないって決めたから……!」

「……ふん」

男の右腕に再び大気が巻きついた。龍可を吹き飛ばすつもりなのだろう。恐怖をかみ殺し、必死で相手を睨みつけた。

「待て」

両者の間に割り込む声。コナミだ。

「なんの真似だ。今の貴様らでは、私には勝てん」

何かを感じたのか、男がさっと飛び退く。

「知るか」

いつになく苛ついた声で、コナミは言った。金色のデュエルディスクが起動する。

「お前は、消えろ」

「……デュエルか。いいだろう。その力、計らせてもらう」

男もまた、淀みの無い手つきで黒いデュエルディスクを取り出し、装着。起動させた。

「……デュエル」

「さあ、デュエルだ……!」


今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方。ありがとうございました。

乙ー

おつ
コナミ君の手にかかれば世界に一枚のナンバーズも9枚集まるからな
アストラルの記憶が溢れ出すレベル


コナミ君・・・一体何者なんだ・・・
そして猿の痣の男・・・一体何者なんだ・・・?


負けることもあるのかな、この人に負けるとは思えないけど

猿の男...きっと髪もふさふさなのだろうか...!

TF4公式サイトキャラ紹介
キミは彼の聖戦を黙ってみていられるか←絶対に許さない

お互いがデッキからカードを五枚引き、手札とする。濁った空気が二人の周囲で渦を巻いた。

「コナミ……」

「ククク……。先攻はくれてやろう。せいぜい足掻け」

心配する龍可には目もくれず、コナミはカードを一枚引く。

「モンスターをセット。カードを一枚伏せてターン終了」

様子見なのか、随分とあっさりした一ターン目だった。ターンが移り、男は愉快そうに口を歪ませた。

「我々のデュエルは通常のものとはまったく違う。初見の貴様に耐えられるかな……《インヴェルズの門番》を召喚」

黒い霧が立ちこめ、収束。中から黒いモンスターが這い出てきた。その攻撃力は1500。下級モンスターとしては平凡な数値だった。

だが、

「あのカード……」

纏う空気が異常だった。存在そのものが毒。この世界に悪影響を及ぼしている。

「ふん、未熟でもシグナーか。このデッキは私の物ではない。……が、特別な力を持っていてな。こうして異世界に侵入する事が出来る」

「御託は良い。早くしろ」

コナミの口調がいつもと違って荒々しい。あの男の放つ悪意にあてられたのかのようだ。

「そう急くな。私は門番でもって伏せモンスターを攻撃」

黒い爬虫類族モンスターがコナミのモンスターを破壊する。

《メカウサー》

「このカードがリバースした時、フィールド上のカードを一枚選び、その持ち主に500ポイントのダメージを与える」

「む……」

黒装束 LP4000→3500

「やった!」

コナミが最初のリードを奪った。しかも、《メカウサー》には戦闘で破壊された時に同名モンスターをデッキから特殊召喚する効果がある。それを上手く使えば、次のターンに追撃も可能だ。

しかし、新たな《メカウサー》は出てこない。

「やはり、一枚しか入っていなか」


「…………」

「貴様のデッキは穴が多すぎるのだ。それでは勝てん」

コナミは喋らない。

「私はカードを二枚伏せ、ターンエンドだ」

三枚の手札を残し、黒装束はターンを終えた。

「……ドロー」

引いたカードを見たコナミはそれをそのまま場に出した。

「《チューン・ウォリアー》を召喚」

赤い戦士族モンスター。レベル3のチューナーだ。攻撃力は1600。相手モンスターを僅かに上回っている。

「最古のチューナーか。だが、惜しかったな」

「…………」

「貴様がもう一枚《メカウサー》を持っていれば、このターンに500のダメージを与えた上でレベル5のシンクロ・モンスターを呼ぶことも出来たのだ。私の言いたい事が分かるか」

「なんだ」

奇妙なほど饒舌な男の言葉に、コナミが反応する。

「貴様が弱いのではない。カードが弱いのだ。デッキが弱いのだ」

「……だからどうした。これでも俺は、勝ってきた」

「そうだな。だからこそ、我が主は貴様に興味を抱いたのだろう。ままならないカードで勝利を重ねる、その力にな」

龍可には二人の会話の意味が分からなかった。黒装束の男はコナミを弱いと言っておきながら、その力に興味があるという。

「……話にならないな。《チューン・ウォリアー》で攻撃する」

コナミのモンスターが相手モンスターに突撃する。攻撃力では勝っているが──

「効かんぞ。リバースカード発動!」

《侵略の手段》

「このカードはデッキからインヴェルズと名の付くモンスターを一体墓地に送ることで、自分フィールド上のインヴェルズ一体の攻撃力を800ポイントアップさせる!」

《インヴェルズの門番》の攻撃力が1500から2300へ。コナミの《チューン・ウォリアー》を遥かに上回る数値となった。

「返り討ちだな……」

ミスです。《インヴェルズの門番》を爬虫類族と書いた箇所がありましたが、正しくは悪魔族です。申し訳ありません。

黒いモンスターの体躯が一回り大きくなり、《チューン・ウォリアー》の攻撃を弾き返した。

「貴様のデッキの中身は知っている。そのチューナー・モンスターが最も高い攻撃力を持つカードだという事もな」

黒いモンスターが《チューン・ウォリアー》を踏み潰す。

コナミ LP4000

だが、コナミのライフに変わりはない。

「なに……。なぜライフが減らない」

「まだバトルが終わっていないからだ。……リバースカード」

《ミニチュアライズ》

フィールド上に存在する攻撃力1000以上のモンスターを対象に発動し、その攻撃力を1000ポイント下げ、レベルを一つ落とす永続罠カード。

これにより、《インヴェルズの門番》の体は小さくなり、攻撃力は1300となった。《チューン・ウォリアー》を再び下回る。

「ぐお……!」

黒装束 LP3500→3200

「態度の割に、大したことないな」

「私の知らないカードだと……」

黒装束が驚いている。あのカードは、今までコナミのデッキに入っていなかった物らしい。

(あ、昨日の……)

そういえば昨日、龍亞に釣られてカードパックを購入していた。あの中に入っていたのだろう。

(龍亞の我が儘も、たまには役に立つのね)

なんだか嬉しくなり、龍可は微笑んだ。


(正直本来のデッキよりインヴェルズの方が強いんじゃないかな)

「カードを一枚伏せて、ターンを終了」

コナミの手札は残り三枚となり、再び黒装束のターンになった。

「私のターン、ドロー。……フフ」

引いたカードを見て、男は低い声で笑った。

「私のフィールドにモンスターがいない時、このカードは手札から特殊召喚できる」

《インヴェルズの魔細胞》

現れたのは小型のモンスター。攻守は共にゼロ。この上なく弱いモンスターだ。しかし、不吉を告げるかのように黒い霧は濃くなってきている。

「そして《インヴェルズの魔細胞》をリリース。アドバンス召喚だ。──現れろ、闇の化身」

《インヴェルズ・ギラファ》

黒い霧は粘つき、闇となって大地に降り注いだ。土が汚れ、大気が濁る。その中心から出てきたのは、見たこともないほど不気味なモンスター。その攻撃力は2600。レベルは7。

「最上級モンスターなのに、生贄が一体……」

「そうだ。《インヴェルズ・ギラファ》はインヴェルズを生贄とする時、必要な生贄は一体のみで良い。そして……」

《チューン・ウォリアー》の足元に黒い染みが現れる。急速に広まったそれ、は瞬く間にモンスターを飲み込んでしまった。
「…………」

「《インヴェルズ・ギラファ》は召喚時に相手のカードを一枚墓地に送り、私のライフを1000ポイント回復する」

黒装束 LP3200→4200

「そんな……」

コナミのデッキ最強のモンスターが除去されたばかりか、相手のライフは初期値とほぼ変わらなくなってしまった。

「闇の洗礼を受けるがいい。《インヴェルズ・ギラファ》でダイレクトアタック!」

全てを侵食する黒い波動が放たれる。

「リバースオープン。トラップカードだ」

《スピリット・フォース》

コナミの眼前に見えない壁が出現し、敵の攻撃からプレイヤーを守った。


「この戦闘で受けるダメージを無効にし、墓地から守備力1500以下の戦士族チューナーを手札に加える」

墓地の《チューン・ウォリアー》が帰ってきた。これでコナミの手札は四枚になった上に、敵の攻撃も凌いだ。

「凄い……!」

「……私はカードを一枚セットし、ターンエンドだ」

黒装束の手札は残り一枚。フィールドには《インヴェルズ・ギラファ》とリバースカードが二枚。対して、コナミのフィールドにはカードが無いものの、手札は次のドローで五枚となる。ライフも互角だ。決して負けてはいない。

「存外だ。なかなかやるな。だが、ギラファの攻撃力は2600。太刀打ち出来まい」

「……どうかな。手札より魔法発動」

《右手に盾を左手に剣を》

フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの攻撃力と守備力を入れ替えるカード。黒装束の顔色が変わる。

「なに……!?」

「攻撃力を誇示したかったらしいが、《インヴェルズ・ギラファ》の守備力はゼロだ。ひっくり返してやれば、大したことはない。俺は《炎龍》を召喚」

コナミのフィールドに赤い小型のドラゴン族モンスターが現れた。今の《インヴェルズ・ギラファ》が相手なら、大抵のモンスターでも倒すことができる。

「バトルだ。《炎龍》で攻撃」

「速攻魔法発動!」

《侵略の一手》

「このカードはアドバンス召喚したインヴェルズを手札に戻し、カードを一枚ドローする効果を持つ。ギラファはやらせん」

ギラファが手札に戻り、黒装束はカードを引く。これで手札は三枚となった。

「バトルは終わっていない。《炎龍》でダイレクトアタック」

「ぬあ……っ」

黒装束 LP4200→2800

「カードを一枚伏せてターン終了だ」


「ちっ……」

圧され始めた黒装束は忌々しげに舌打ちし、カードを引く。

「ククク……。前線したが、残念だったな」

「……?」

「私はリバースカードをオープン!《リミット・リバース》!」

《リミット・リバース》は墓地から攻撃力1500以下のモンスターを一体、攻撃表示で蘇生させるカードだ。

「私は《インヴェルズの万能態》を特殊召喚……」

墓地から見たことの無いモンスターが現れた。

「あの罠カードで墓地に送ったのね……」

《侵略の手段》だったか。確かデッキからカードを墓地に送っていた筈だ。

「そうだ。そして私は手札から速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! 攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚された時、同名モンスターを可能な限り呼び出す事ができる!」

黒装束のフィールドに《インヴェルズの万能態》がさらに二体、攻撃表示で特殊召喚された。

「このカードは貴様もフィールドのモンスターを好きなだけ呼び出せる。デッキに二枚目、三枚目の《炎龍》があればな」

「…………」

《メカウサー》も一枚しか持っていないコナミだ。他のカードなど複数枚入っているわけが無い。

「無いようだな。ならば、貴様の運命は決まった。私は《インヴェルズの万能態》をリリース!」

一面の大地が真っ黒に染まった。世界を侵す闇が、絶対の補食者となって降臨する。

「世界を貪れ。アドバンス召喚!《インヴェルズ・ガザス》!」

《インヴェルズ・ガザス》はレベル8の最上級モンスター。それがまた、生贄一体で召喚された。

「《インヴェルズの万能態》は生贄二体分の働きをする」

「……インヴェルズはアドバンス召喚を軸にしているようだな」

下級モンスターはアドバンス召喚を補助する効果を持ち、上級モンスターはアドバンス召喚した際に強力な効果を発揮する。それがインヴェルズの特色なのだろう。

「その通りだ。そして《インヴェルズ・ガザス》がアドバンス召喚した時、フィールドのモンスターか、魔法罠のどちらか選び、全てを破壊する。当然、私は魔法罠を選択!」

黒装束の場には攻撃力2800の《インヴェルズ・ガザス》と攻撃力1000の《インヴェルズの万能態》が二体。

コナミの場には自身の効果でパワーアップし、攻撃力1600となった《炎龍》のみ。総攻撃を受ければひとたまりも無い。

だが、《インヴェルズ・ガザス》の効果に反応してコナミのリバースカードも開いた。

《バーストブレス》

「そ、そのカードは……!」

「《バーストブレス》は自分のドラゴン族モンスターをリリースし、その攻撃力以下の守備力を持つフィールド上のモンスターを全て破壊する罠カードだ」

《インヴェルズ・ガザス》、《インヴェルズの万能態》。いずれも守備力はゼロ。まさに天敵とも言えるカードだった。

《炎龍》は命と引き換えに特大の火炎を吐き、黒装束のモンスターを一掃する。汚れた大地は炎によって洗われ、元の荒野に戻った。

「ば、馬鹿な! どうしてこうまで……」

「…………」

狼狽える黒装束を、コナミはじっと見据えていた。龍可は驚くと同時に、その姿に僅かばかりの恐怖を覚える。それほどまでに圧倒的だった。

「……私はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

黒装束の手札は残り一枚。戻した《インヴェルズ・ギラファ》のみだ。

「俺のターン、ドロー」

コナミがカードを引く。終わりが近づいていた。

今日はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙!
コナミ君、どのカードもピンポイントで役立ちすぎじゃないですかねww


淡々とデュエルをするコナミ君格好いいわ……

バーストブレスとかスピリットフォースとか効果は面白いがデッキには入らないようなカード好きだわ

黒装束のフィールドにはモンスターの姿は無く、リバースカードも一枚のみ。ここは攻め時だ。

「……《海皇の長槍兵》を召喚し、そのまま攻撃」

「むぅ……っ!」

黒装束 LP2800→1400

コナミの場に攻撃翌力1400の海竜族モンスターが現れる。召喚された勢いのまま、長い槍を黒装束に突き立てると、その姿が次第に霧と化していった。

「やった!」

コナミが勝てば、あの黒装束はこの世界に存在していられなくなるのだろう。平和を取り戻せる。

『……このままでは危険です』

喜ぶ龍可の背後で、今まで沈黙していた竜が言った。

「どうして?」

『暗い悪意が、彼の周囲を覆っています』

「悪意……」

確かに、デュエル開始時から黒い霧のような物が漂っている。それは《インヴェルズ・ギラファ》と《インヴェルズ・ガザス》の召喚によって、始めとは比べ物にならないほど濃くなっていた。

「私は……なんともないけど」

『龍可、あなたは龍の星によって守護されています。しかし、彼は違う……』

「龍の星? それなら、コナミにだって同じ物が……」

『…………』


そこで、竜は再び沈黙した。石化の影響だろうか。かなりの不自由を強いられているらしい。

「……カードを一枚伏せて、ターン終了」

デュエルはまだ続いている。これでコナミの手札は先ほど戻した《チューン・ウォリアー》の一枚のみだ。

「私のターン……ドロー」

黒装束の手札はこれで二枚。その内の一枚は《インヴェルズ・ギラファ》である。何かの手段で生贄を揃えれば、除去と回復の効果を内蔵したあのカードが現れてしまうのだ。


「……やはり、貴様のデッキには決定的に欠けている物があるな」

「強力なモンスターか」

「そうだ。所詮、デュエルはモンスターとモンスターの戦いとなる。いち早くカードを揃え、切り札を召喚した側が、最終的な勝者となるのだ」

「その切り札を出している割には、余裕が無さそうだな」

「それはどうかな……私はリバースカードを発動!」

《侵略の波紋》

「500のライフを払い、墓地からレベル4以下のインヴェルズを蘇生させる。私は《インヴェルズの万能態》を守備表示で特殊召喚!」

黒装束のフィールドに再びダブルコストモンスターが現れてしまった。またアドバンス召喚を狙うつもりなのだろう。

「《インヴェルズの万能態》をリリースし、再び《インヴェルズ・ギラファ》をアドバンス召喚! 再び現れよ、闇よりの使者──」

「…………」

しかし、《インヴェルズの万能態》はリリースされない。

「なんだ……。なぜアドバンス召喚できない?」

「……強いモンスターがどうのと言っていたな」

「貴様の仕業か……何をした!?」

コナミのリバースカードが開かれた。紫色のフレーム。罠カードだった。

《五稜星の呪縛》

選択したモンスターをリリース及びシンクロ素材に出来なくするカードである。これにより、《インヴェルズの万能態》は生贄としての役割を奪われてしまったのだ。

「確かに、このデッキには強力なモンスターはいないかもしれない。力勝負では勝てないだろう。しかし、それなら相手のカードを封じてやればいい」

「なに……」

「……これで切り札とやらは出せなくなったな。強力なカードに頼り切ったお前の戦術は、既に読んだ」

見たこともないほど雄弁にコナミは語る。デュエルの前に黒装束が言っていた力の差は、今や完全に覆っていた。

「わ、私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

要のアドバンス召喚を封じられ、男は動揺も露わにターンを終えた。


コナミ君のデッキ傾向はコントロールか

ピンポイントメタコントロール略して【ピン子】デッキとでも名付けようか
ガッチャくん以上の運だな

「《チューン・ウォリアー》を再び召喚」

これでコナミのフィールドにモンスターは二体。黒装束のライフは残り900で、モンスターは守備力がゼロの《インヴェルズの万能態》のみ。どちらか一方の攻撃が通れば、コナミの勝利となる。

「《海皇の長槍兵》で《インヴェルズの万能態》を攻撃」

せっかく蘇生されたダブルコストモンスターは望まれた役割を果たせないまま破壊される。

「《チューン・ウォリアー》でダイレクトアタック」

「く……トラップ発動!」

《ドレインシールド》

「モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分、ライフを回復……!」

黒装束 LP900→2500

「せっかく900まで減らしたのに……」

「カードを一枚伏せて、ターン終了」

コナミは動じることもなく、ターンの終了を宣言した。

「私のターン、ドロー。手札より《闇の誘惑》を発動! カードを二枚引いた後、手札の闇属性モンスターを一体、除外する……」

手札に残り続けていた《インヴェルズ・ギラファ》が除外された。

「さらに《貪欲な壷》を発動。墓地のモンスターを五体デッキに戻して、シャッフル。その後、二枚ドローだ」

手札交換の後に墓地カードの回収とドロー加速。黒装束の方も、このまま終わるつもりは無いらしい。

《インヴェルズの万能態》二体、《インヴェルズの魔細胞》《インヴェルズ・ガザス》《インヴェルズの門番》がデッキに戻り、デッキから二枚が手札へ加わる。これで黒装束の手札は三枚となった。

「私はカードを二枚伏せ、ターン終了」

モンスターカードを引けなかったらしい。黒装束はターン終了した。コナミはカードを引き、

「《鍵戦士キーマン》を召喚」

キーマンはレベル2、攻撃力1000の戦士族モンスターだ。

コナミ君のデュエルは、デュエル前のデッキ調整から始まってるなー

オートピンポイントメタだわ

コナミのフィールドには三体のモンスターが存在し、その攻撃力の合計はちょうど4000。黒装束のライフ2500を大きく上回っている。

「《チューン・ウォリアー》と《海皇の長槍兵》でプレイヤーを攻撃」

二体が黒装束に飛びかかる。3000でも十分に仕留められる計算だ。キーマンはあくまでも予備兵力なのだろう。

「リバースオープン! 永続罠だ!」

虚空から幾本もの鎖が伸びてきて、《チューン・ウォリアー》をからめ取った。

《闇の呪縛》

対象モンスターの自由を奪い、攻撃力を700ポイントダウンさせるトラップカード。見れば、石化した竜を捕らえているのも、似た力を持つ鎖だった。

「だが二体は残っている《海皇の長槍兵》と《鍵戦士キーマン》でダイレクトアタック」

「ちぃ……っ」

黒装束 LP2500→100

仕留めきれなかった。皮肉な事に、コナミのモンスターはやはり力不足が目立つ。そのせいで千載一遇のチャンスをつかみ損ねてしまった。

「……あと100か。私の言った通りになったな」

「そうだな」

コナミの纏う空気は剣呑さを増している。まるで、みすみす相手にチャンスをくれてやったかのような余裕。今までとは違う雰囲気。これが竜の言っていた変化なのだろうか。

「ターン終了だ」

コナミの手札はゼロだ。これ以上の追撃は出来ない。

「私のターン、ドロー!」

男の右腕が一際輝く。満身の力を込めて引き抜かれたカードは、妖しい光の線を描いた。

「フ、ハハハハハ! 引いたぞ、このデッキ最強のカードを!」

「…………」

コナミも口元に笑みを浮かべた。外野である龍可の目には、黒装束の男よりもコナミの方が喜んでいるように見える。気のせいだと信じたかったが、何かがそれを許さなかった。


「私は手札から《インヴェルズの魔細胞》を特殊召喚!」

《インヴェルズの魔細胞》は自分のフィールドにモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚できる下級モンスターだ。そしてさらに、黒装束のリバースカードが解放される。

《リビングデッドの呼び声》

墓地のモンスターを攻撃表示で蘇生させる永続罠カード。墓地からは一体だけ残されていた《インヴェルズの万能態》が呼び出された。

「……これで私のモンスターは二体。万能態の効果を含めれば、三体のインヴェルズが揃った事になる」

「切り札か。いいぞ、出してみろ」

「その油断が命取りだ! 私は《インヴェルズの魔細胞》と《インヴェルズの万能態》をリリースし、冥府の使者、侵略の神を召喚する!」

暗雲が一層深まり、雷が降り注ぐ。爆発的に増え、濃度を増した黒き霧は比類なき支配者となってフィールドを震わせた。

「《インヴェルズ・グレズ》をアドバンス召喚!」

レベル10。攻撃力3200。甲虫を思わせる漆黒と黄金の体。漂う空気は邪神に等しい。まさしく、インヴェルズの切り札と言うに相応しい一体である。

「《インヴェルズ・グレズ》の効果発動! 一ターンに一度、ライフを半分払うことにより、グレズ以外のフィールドに存在するカードを全て破壊する!」

黒装束 LP100→50

《インヴェルズ・グレズ》が右腕を天に掲げると、暗雲が呼応して眩い雷がフィールドを焼き尽くした。

「ああ……っ」

この効果でコナミの場は一層され、フィールドには《インヴェルズ・グレズ》のみが残された。プレイヤーはお互いに手札が無い状況。加えて、グレズの効果は毎ターン使用できる。

例え次のターンでモンスターを引いたとしても、二度目のダイレクトアタックを受けて、コナミは敗北するだろう。


ナレーションの説明死ww

『龍可……ここからお逃げなさい』

緊迫した状況の中、竜が言った。コナミの敗北が決定的になっからなのか、龍可だけでも逃げろと言いたいらしい。

「え……」

『彼はもう、戻りません。私が愚かでした。悪しき者の手に落ち、あなた達の手を借りようとしたのが……』

「そんな、コナミを置いて逃げるだなんて……」

コナミは今日一日、ここまでずっと龍可を守ってくれた。今さら見捨てる事など出来る筈が無かった。

ここに残る。どうなろうとコナミは見捨てない。龍可がそう言おうとした時、竜は驚くべき言葉を口にした。

『悪しき者ではありません。彼から、コナミから逃げるのです……』

「……!?」

『彼は邪念に触れすぎました。闘いに魅入られ、その欲求はこれから加速していく……。もう止める事は叶いません』

「ど、どういうこと!?」

『……恐らくは、これこそがあの男の背後にいる者の狙いだったのでしょう』

あの男とは黒装束の事か。その背後……我が主と言っていた覚えがある。その人物が、この戦いを仕組んだのか。

混乱する龍可を無視して、デュエルは終わりを迎えようとしていた。

「私を侮った事を後悔するがいい! 《インヴェルズ・グレズ》でダイレクトアタック!」

爆炎が晴れて、黒煙が充満するフィールドに黒装束の声がこだまする。

しかし、コナミへと発せられるはずだった攻撃は、いつまで経っても放たれない。

「なんだ……? どうしたグレズ!?」

汚れた風が黒煙を薄めていく。ようやくはっきりとしたフィールドに存在するのは、鎖の付いた爆弾で拘束された《インヴェルズ・グレズ》だった。

《鎖付き爆弾》

なんでや!コナミ君まだなにもしてないやろ!
助けを呼んでおいてこの言い草、さすが他力本願龍様やで

鰻様やししゃーない

爆弾ダメージで0とかみたことねぇぞ

「《鎖付き爆弾》は発動時に装備カードとなる特殊なトラップだ。装備モンスターの攻撃力を500アップさせるのとは別に、もう一つ効果がある。分かるか?」

ダイナマイトの導火線に火が付いた。

「カードの効果で破壊された時、フィールドのモンスターを破壊する……」

「当たりだ」

着火。黒き破壊神は呆気なく吹き飛んだ。黒装束は力無く膝を折る。

前のターンに攻撃した際、《鎖付き爆弾》を発動していればコナミは勝っていた。黒装束の切り札を見たいがために。叩き潰したいがために、あえてトドメを刺さなかったのだ。

相手を侮った戦術。そしてそれにまんまと嵌った自分。黒装束のプライドは完全に破壊された。

「だが、貴様の手札はゼロだ……」

「そうだな」

「く……ターンエンドだ」

お互いに手札はゼロ。フィールドは空。違いがあるとすれば3950もの差がついたライフと、コナミがドローフェイズで引く一枚のカードぐらいのものだ。

コナミがデッキトップに指を置く。黒装束の表情が強張った。モンスターを引くな、と願っているのがありありと分かる。

「何を怯えている?」

コナミが言った。

「怯えている……。 冥府の番人たる、この私が?」

「そうだ。もう少し楽しめ。今が一番面白いところだろう」

「貴様……」

「勝敗など、始めから決まっていたんだ。この状況で笑えない奴に、俺は倒せない」

その声は狂気を漂わせていた。今、はっきりと、龍可は彼に対して恐怖を抱いた。

もう戻ってこない。

カードを引く。

「俺が引いたカードは……」

ゆっくりと勝敗を分ける一枚のカードが露わになる。

《ウォーター・スピリット》

レベル1。攻撃力400。チューナーとしての力しか持たない、弱小モンスターだった。

「負けたのか。ダークシグナーの一柱である、この私が……」

黒いローブだけを残し、男の体が黒い染みとなって消えていった。

敗者は消え、勝者だけが残る。

「コナミ……?」

龍可の呼び掛けにも応えない。赤い帽子の少年は異常な空気を放っていた。黒装束のものよりも遥かに禍々しい。息が詰まりそうな、濃密な殺気。

『……龍可、お逃げなさい。私の最後の力を使い、あなたを元の世界へ飛ばします』

竜は石化した体を無理やり動かし、とうの昔に枯渇したであろう力を搾り出す。体中にひびが入った。翼が折れる。

「やめて……もう、これ以上……!」

光が満ちる。こんな結末はあんまりだ。コナミも、この竜も悪い事などしていないのに。

『シグナーに……不動遊星に、助けを求めなさい。彼こそが……最後の……』

その言葉を最後に、竜は完全に沈黙した。力尽きた体は塵に変わり、風に流されていく。

そのまま龍可の体は奇妙な浮遊感に襲われ、再び意識を失った。







「ぐああああ!」

誰かの叫び声。どこかで聞いた事があるような気がする。目を開けると、血のように赤い空が広がっていた。

不思議に思い、体を起こした。辺りは一面の廃墟。そこら中から煙が上がっている。テレビで見たサテライトの様子に良く似ていたが、この風景もまた、見覚えがあった。

(あれ……あの建物は)

シティで一番高いビルだ。大破してしまっているが、間違いない。その近くには、龍可と龍亞が住んでいたビルもある。それも例外ではなく、半ばから折れてしまっていた。


病院もそうだ、繁華街も、公園も、デュエルアカデミアも、全て見た事がある。そしてその全てが、無惨に破壊されていた。人の姿は無い。まるで、この世の終わりのようだった。

「これで、シグナーの討伐は全て完了した」

知らない男の声が聞こえた。

「幾度にも渡って繰り広げられていた神々の戦争が、よもやこんな形で終わるとはな」

くっくっくと、心から楽しそうに笑っている。とてもおぞましい声。悪意に満ちていた。

「くそ……」

誰かが地面に倒れる音。見た事のある人物。

不動遊星だった。

その近くにも数人、遊星と同じく傷だらけになって倒れ伏していた。

一人は常勝無敗のキング、ジャック・アトラス。もう一人は赤い髪をした、見知らぬ女性。

そして──見間違えるはずもない。双子の兄である、龍亞であった。

「まさか、たった一人でシグナーを全滅に追い込むとはな。私の見込んだ通りの男だ」

「何故だ。どうしてお前が、ダークシグナーの側に付く……?」

遊星と男の視線の先には、見た事の無い龍を従えた一人の少年の姿。

「答えろ、コナミ……!」

「……俺の勝ちだ」

遊星の言葉には答えず、赤い帽子の少年は彼から背を向けた。手には四枚のカード。

《スターダスト・ドラゴン》

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

《ブラック・ローズ・ドラゴン》

《パワー・ツール・ドラゴン》

そしてもう一枚。コナミが従えていたドラゴンのカードが加わった。

炎に染まった空が割れる。


ファッ!?

なんだとデッキとでも

世界の狭間から無理やり、赤い龍が引きずり出された。

龍可の右腕が、遊星やジャックの腕も同様に龍の出現に呼応して輝いた。

「ようやく捕らえたぞ。忌々しい赤き龍……」

男が被っていたフードを脱ぐ。二メートル近い巨躯に白髪。声は憎しみに満ちていたが、その表情は歓喜の色に染まっていた。

「頼んだぞ、コナミ」

「…………」

男が言うと、コナミはさらにもう一枚のカードを取り出した。絵柄は無く、白いフレームのみのカードだった。

それを赤き龍に向かって掲げると、またも時空が歪んだ。龍が悲鳴をあげ、カードに吸い込まれていく。

《アルティマヤ・ツィオルキン》

「これで、我が望みは叶った。神と邪神を取り込み、全てを超越した存在となったのだ……!」

カードは白髪の男の手に渡ってしまった。同時に、シグナーの腕から赤い痣が消えていく。もう、取り返しがつかないのだと、龍可は全てを悟った。

「礼を言うぞ、コナミ……我がパートナーよ。共に世界を破滅の色に染め上げようではないか」

「…………」

「どうした?」

「……まだ、生き残りがいる」

「ほう?」

コナミと男が龍可を見た。本能的に危険を察知し、逃れようとするが、体は上手く動いてくれない。尻餅をつき、後ずさる。

「神は消えたが、それでも火種は消すに限る」

男が歩み寄ってくる。喉まで悲鳴が上がってきたが、声にはならなかった。助けて、とコナミを見るが、彼は無表情のまま、答えてくれなかった。その瞳には、暗い闘志だけが揺らめいている。

「扱い方を間違えたな、シグナーよ」

男の伸ばした手が、視界を覆い隠した。意識が闇に落ちていく。何もかもが理解出来なかったが、一つだけどうしても心残りな事があった。

(名前……聞けなかったな)




BAD END

バッドエンドに辿り遅てしまったでござる

回り道せんとアカンかったか…

日を跨いでしまいましたが、今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙乙
……どうしてこうなった!

乙、なんということだ…
道場でヒント聞かなきゃ(使命感)

バッドエンドコンプしなきゃ

赤き龍ゲットだぜ!(コナミ君並の感想)

どういう……ことだ……

まあ人の忠告を完全無視するとこうもなりますよねってことか…


この黒にも白にも染まるコナミ君のデュエルマシーン感が素敵すぎる

危険な安価を選んだら、デュエルにはノーダメで圧勝した上
コナミ君がラスボスになったでござる。
きっと直前のアクションデュエル(?)で昂ってたんだろうな

多分クリボーのところまで戻れば大丈夫なはず

「此処はクリボンの世界だし、言うことは聞いた方が良いと思う」

「……賢明だな」

龍可が頷くと、クリボンは喜んで右の道へ跳ねていく。二人もそれに続いて移動した。




森の中をどんどんと進んでいく。緑は深さを増し、空を覆ってしまった。途端に暗くなり、森は不気味な異世界となってしまった。

「どこに行く気なのかな……」

「……出口だ」

見ると、獣道の先に光が見えた。クリボンが飛び込んでいく。

「ここは……」

「…………」

まさかの光景に、龍可は顔をひきつらせた。クリボンは何体もの"同類"に囲まれて、恐らくは故郷に帰ってきたからだろう、ひどく喜んでいる。

「クリっ!」

「クリクリ!」

「クリー」

「クリ! クリクリ!」

そこは妖精の森だった。クリボンに似た動物が、広場を埋め尽くしている。

「……なんだこれは。クリボンの仲間か」

「あれは……《クリボー》よ。《ハネクリボー》もいる。どっちも《クリボン》と同じ種類のモンスターなの」

「……そいつらの住処か」

「多分……」

状況を飲み込めないまま二人が立ち尽くしていると、一匹の《クリボー》の瞳がこちらを捉えた。

あ、気づかれた。

「クリ?」

「クリー!」

「クリ~」

クリボー達がわらわらと押し寄せてくる。かなり人懐っこい。ふわふわの毛玉にもみくちゃにされ、龍可はさらに混乱した。

「コナミ……うわ」

クリボー達から抜け出して同行者の方を見ると、さらに酷い事になっていた。おびただしい量に群がられ、もはや一つの巨大なクリボーに見える。

(助けた方が良いのかな……)

襲われている風にしか見えなかったが、精霊達に悪意は無い。なにより、コナミはこの状況で身じろぎ一つしていなかった。

「クリーッ!」

混沌を極める中で、一つの鋭い声が響きわたった。その声に弾かれるように、群がっていたクリボー達が離れていく。

「なに……?」

精霊達のさっと二つの壁に分かれ、その中心から一匹のクリボーが近づいてきた。群れのリーダーなのだろうか。頭に小さな王冠を付けている。

「クリ。クリクリ!」

「……すまない。クリボー語はさっぱりだ」

若干、やつれたコナミが龍可を見てくる。通訳をしろという事だろう。幸い、このクリボーの言う事は理解できた。

「えーと、『よく来たな。待っていたぞ』って言ってる」

「待っていた……?」

「クリ! クリークリ」

「『今、この世界に侵略者の魔の手が迫っている』……さっきわたし達を襲ってきた人の事かな」

「恐らくな」

「クリクリ。クリ~」

クリボーの王は『赤き決闘者よ。戦ってはならぬ。戦えば、そなたは侵略者の手に落ちてしまうだろう』と言っている。

赤い決闘者というのは、コナミの事に違いない。

「だが、連中を野放しにしておくわけにはいかないんだろう」

「クリー!クリッ」

「……このクリボーはその罠を無効にする方法を知っているみたい」

「クリ!」

クリボーはえっへんと胸(?)を張った。

この精霊が言うには、クリボーの一族は代々、選ばれし決闘者を守ってきたそうだ。名も無きファラオと決闘王や、正しき闇の力を持つ勇者と共に、世界の危機を幾度も救ってきたらしい。

「そうか……。で、具体的にどうすれば良いんだ」

「んー。手袋を外して右手を前に出せって」

言われた通り、コナミは指抜きの手袋を外し、右手を前に出した。王さまクリボーはその指先にふわふわと近づいていき──

バチッ!

一人と一匹が触れた瞬間、激しい閃光が瞬いた。火花が散り、焦げ臭い匂いが立ち込める。

見れば、コナミの右腕、手の甲に何かの紋様が刻まれていた。紋様は火傷のように皮膚を赤く爛れさせている。非常に痛そうだ。血が滲んでおり、肉が焼けた匂いもする。

「クリー……」

今、王さまクリボーは『間違えちゃったー』と言った。龍可はクリボーを蹴飛ばそうかと思ったが、

「クリッ」

王さまクリボーが再び触れると、右腕の傷は綺麗に消えて紋様だけが残った。

「大丈夫、コナミ?」

「ああ。問題ない。……この刻印に意味はあるのか?」

「ク、クリクリ!」

その刻印は契約を表すもの。何故か声が震えていたが、これでコナミは戦っても平気とのことだった。

「なんの契約だ」

「クリー!」

王さまクリボーはポンッという音と共に、一枚のカードに姿を変えた。

《クリボー》

「持っていけ、という事か」

「た、多分……」

「こいつ、群れのリーダーみたいだが、付いて来ていいのか」

「クリッ!」

カードから王さまクリボーが現れる。どうやら先ほどの契約は自身の持ち主を決めるためのものだったようだ。

「カードはクリボー自身じゃなくて、扉みたいな物なんだって。だから、そのカードさえ持ってれば、いつでも此処とコナミの所を行き来できる……らしいけど」

王さまだけあって、クリボンより高度な精霊なのだろう。確かに、《クリボー》のカードからは何かしらの力を感じる。

「……これで準備は出来た。目的地に向かおう」

《クリボー》のカードをそのままデッキに入れ、コナミは歩き出す。頭には王さまクリボーが乗っかっていた。この一族はあの場所が気に入るのか。

「うん。クリボンも平気?」

「クリッ」

クリボンはぴょんぴょんと跳ねてきて龍可の腕に収まった。最近、騒がしかったのは故郷に戻りたかったからなのだろう。短い里帰りだったが、満足そうだった。

「クリー」

「なんだ。まだ何かあるのか」

「わたし達を追っている存在がいるから、来た道をそのまま戻らない方が良いって」

「……じゃあ、どうすれば良いんだ」

コナミが言うと、彼の頭上のクリボーがその指先を光らせた。

「幸い、目印があるから、短距離の転移くらいなら出来る……きゃっ!」

光が大きくなり、まぶたを閉じる。この世界に来た時と同じような浮遊感に満たされ、突如として足場が無くなった。

短い悲鳴の後に龍可が目を開けると、足元には堅くて冷たい岩のような地面が広がっていた。空は灰色で、見渡す限りの荒野。なんだか、この場所に見覚えがあった。最近、訪れたような既視感。

「あそこに、何かある……」

少し離れた所に、大きめのクレーターがあった。その中心に、巨大な石像がそびえ立っている。あれが目的の物だという確信のもと、龍可は走り寄っていった。

「あれは……」

近くで見て、確信はより確かなものとなった。石像の正体は巨大な竜だ。ずっと龍可が探していた、声の主。

『……龍可、よく来てくれました』

その声の、なんと優しいことか。

「あなたが、わたしを呼んでいたのね」

『はい。今、この世界は狙われています。……あなた達の力を貸してほしい』

竜がそう言うと同時に、背後で砂利を踏む音がした。振り向くと、黒いローブを纏った男が立っている。

「……ようやく見つけたぞ。シグナーと赤き戦士よ」

呟き、男は黒いデュエルディスクを起動させた。

今回はこの辺で。二度手間になってしまい、申し訳ありません。もう少しで長かった龍可編が終わるので、飽きずに読んで頂けたら幸いです。

ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。


手札誘発効果ゲットだぜ!

乙!すごい面白いから飽きなんて全く来ないぜ!

おつ
こういうルート分岐いいね

クリボルト「まだ」

クリフォトン「我々の」

虹クリボー「動く時ではない」

「……格好は似ているが、さっきの奴らとは違うな」

「確かに。なんていうか……存在感がある」

黒装束がクレーターの縁から滑り降りてくる。

「当たり前だろう。貴様達を追っていたのは実体の無い、影のような物だったのだからな。簡単な命令しか聞けず、物量で囲むことしか出来ん」

「……あんたは違うのか」

コナミもデュエルディスクを起動させた。金色のマシンが中心部から赤い光を放つ。

「試してみるか? 貴様の力を計るのも、私の仕事だ」

二人の間の空気が、緊張感を孕んだ物へと変わる。男の足元から黒い霧が立ちこめ始めた。胸が苦しい。今すぐ、この場から逃げ出したくなる。

「コナミ……」

「龍可、下がっていろ。少し妙な感じがする」

コナミの様子に変化はない。良く見ると、彼の周囲に光の膜のようなものが展開されており、それが黒い霧を遮っていた。

(……あ、そうか。クリボーのおかげね)

あんなちっちゃくても、ちゃんと守ってくれているらしい。安堵した龍可は、ほっと溜め息を吐いた。なんだか、この霧はコナミにとって有害な物であるような気がしたからだ。

「私は冥府より出でし者……。貴様では勝てんぞ」

「それはデュエルの後で分かる事だ。……始めるぞ」

「ククク……いいだろう。デュエル!」

「……デュエル」

宣言と同時に、お互いのデッキの上から五枚のカードがスライドする。

「先攻は貰おう。私は《インヴェルズを呼ぶ者》を召喚!」

闇の中から、奇妙な名前のモンスターが出現した。攻撃力は1700。下級モンスターとしてはまずまずの数値だ。

「そして、さらにカードを一枚セット。ターンエンドだ」

黒装束は手札を四枚温存し、初手を終えた。

一度負けたのに再戦ってダ-クネスばりの巻き戻し処理ですね、ディなんとかさん

「俺のターン、ドロー」

相手モンスターの攻撃力1700という数値は地味に高い。昨日の龍亞とのデュエルでは、コナミはそれ以上の攻撃力を持つモンスターを使用していなかった。

「貴様のデッキは把握しているぞ。攻撃力の最高は1600。単体でこのカードを倒せるモンスターは入っていないはずだ」

龍可の思考を読んだかのように、黒装束は言った。

「……どうかな。このデッキは昨日とは少し違うぞ」

「ふん……。拾ったカードで何が出来る」

「俺は《次元合成師》を召喚」

「なに……」

コナミの場に魔術師のような見た目のモンスターが召喚された。しかし、その攻撃力は1300。《インヴェルズを呼ぶ者》には及ばない。

「《次元合成師》の効果発動。デッキの一番上にあるカードを一枚除外し、エンドフェイズまで攻撃力を500ポイントアップさせる。……バトルだ」

自身の効果で攻撃力1800となった《次元合成師》は《インヴェルズを呼ぶ者》を破壊。黒装束に100ポイントのダメージが入った。

「む……」

LP4000→3900

激しい衝撃。破裂音と突風で、荒い大地に砂埃を巻き起こした。変にリアルだ。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了」

「私のターン……罠カード《侵略の波紋》を発動。500ライフを払い、墓地の《インヴェルズを呼ぶ者》を特殊召喚する」

黒装束 LP3900→3400

まずい。《次元合成師》の攻撃力は1300に戻ってしまっている。もう《インヴェルズを呼ぶ者》には勝てない。

「これで終わりではないぞ。《インヴェルズを呼ぶ者》をリリースし……アドバンス召喚。来い、《インヴェルズ・マディス》」

「……上級モンスターか」


「そして《インヴェルズ・マディス》の召喚時効果。ライフを1000支払い、墓地のインヴェルズを一体、蘇生させる」

黒装束 LP3400→2400

墓地からリリースされたばかりの《インヴェルズを呼ぶ者》が特殊召喚された。

「さらに《インヴェルズを呼ぶ者》はリリースされた時、デッキからインヴェルズを一体呼ぶ能力を持っている。……《インヴェルズの斥候》を守備表示で特殊召喚!」

これでインヴェルズ・モンスターが三体並んでしまった。

「さあ、バトルだ。《インヴェルズ・マディス》で《次元合成師》を攻撃する!」

マディスの攻撃力は2200だ。コナミのモンスターでは歯が立たない。

「ダメージステップ時に、リバースカード発動。永続罠カードだ」

《ミニチュアライズ》

選択したモンスターの攻撃力を1000ダウンさせ、レベルを一つ落とすカードである。この効果で《インヴェルズ・マディス》は体を小さくされ、攻撃力は1200にまで落ち込んだ。

「く、マディスが……!」

黒装束 LP2400→2300

呆気なく上級モンスターが撃破され、黒装束に動揺の色が浮かぶ。気づけば、ライフは半分近くまで削られていた。

「……だが、まだ《インヴェルズを呼ぶ者》が残っているぞ」

二度目は防ぎきれず、《次元合成師》が破壊される。

「……!」

しかし、そこで異変が起きた。爆風と衝撃波が破壊力を伴ってプレイヤーを襲ったのだ。コナミの体が弾き飛ばされ、堅い地面の上を転がる。

「コナミッ!」

「……問題ない」

むくりと起き上がる。特に外傷は無いようだ。しかし……

コナミ LP4000→3600

たった400ポイントのダメージであの様子だ。デュエルが終わるまで、無事でいられるかどうか。


ちょっと計算違いが発生したので修正します。インヴェルズとか難しい……。というかデュエルが難しいです。

書き溜めでもいいんだぜ

気長に待ってます

「言い忘れていたが、これは闇のデュエル……戦闘のダメージは現実の物となるのだ」

「……《次元合成師》の効果発動。破壊された時、ゲームから除外されている自分のモンスターを一体、手札に加える」

コナミの手札に《カードブロッカー》が加えられた。

「私はカードを一枚伏せる。……さあ、貴様のターンだ」

コナミの手札は六枚。充分な量だが、フィールドは空だ。

「手札から魔法カード発動」

《シールド・クラッシュ》

守備モンスターを破壊するカードだ。《インヴェルズの斥候》が爆散する。しかし、自分のモンスターが破壊されたのにも関わらず、黒装束は笑みを浮かべていた。

「さらに《カードブロッカー》を召喚。このカードは場に出た時、守備表示となる。……カードを一枚伏せてターン終了」

「私のターンだな。ドロー……私は魔法カード《おろかな埋葬》を発動。デッキから《インヴェルズ・グレズ》を墓地に送る……」

送られたのはレベル10の最上級モンスターだ。手札に来られても困る重いカードは、ああやって墓地で眠らせておくのが、デュエルのセオリーだった。そうしておけば、いつでもサルベージ出来るからだ。

「……そして手札から《インヴェルズの門番》を召喚。バトルだ」

攻撃力1700の《インヴェルズを呼ぶ者》が守備力400の《カードブロッカー》へ遅いかかった。

「《カードブロッカー》の効果発動。攻撃対象に選択された時、デッキからカードを三枚まで墓地に送ることで、送ったカード一枚につき、守備力が500ポイントアップする」

コナミはデッキからカードを三枚フルで墓地に捨て、《カードブロッカー》の守備力を1900にまでアップさせた。これで、このターンは凌げる。

「無駄だ! ダメージステップ時にトラップ発動!」

《侵略の手段》

「このカードはデッキからインヴェルズを墓地に送り、場のインヴェルズの攻撃力を800ポイントアップする!」

《インヴェルズ・ガザズ》が墓地に送られ、《インヴェルズを呼ぶ者》の攻撃力は2500となってしまった。《カードブロッカー》が破壊される。

「さらに《インヴェルズの門番》でダイレクトアタック!」

モンスターが直接コナミへ体当たりをかました。自動車に激突したかのような衝撃で、プレイヤーが吹き飛ばされる。

コナミ LP3600→2100

「く……」

なんとか受け身を取ったのか、コナミは立ち上がった。しかし、決して無事ではない。左腕を庇うようにして立ち上がる。

「モンスターの直接攻撃はさぞ痛かろう……? これが闇のゲーム、本物のデュエルだ」

「そうか。……悪くないな」

「なんだと? 恐怖が無いのか……。カードを伏せて、ターン終了だ」

黒装束の手札は残り一枚となるが、場には二体のモンスターがいる。圧倒的に有利だ。

ターンが移り変わる刹那。ここで、コナミのリバースカードが開いた。

「エンドフェイズ時にトラップ発動」

《オーバースペック》

龍亞戦でも使用した罠カードだ。元々の攻撃力より今現在の攻撃力が高い……つまりは強化されているモンスターを全て破壊する効果を持つ。

《インヴェルズを呼ぶ者》が破壊された。しかしながら、黒装束に動揺は無い。

コナミは手札を四枚にし、いつものモンスターを召喚した。

「《チューン・ウォリアー》を召喚。……バトル」

「残念だったな。トラップ発動! 《ドレインシールド》!」

黒装束 LP2300→3900

攻撃は防がれ、更にライフまで回復されてしまった。

「これで私のライフは初期値同然。そろそろ分かってきただろう。私には勝てないということが」

「……カードを二枚伏せてターン終了だ」

「私のターン、ドロー! そしてメインフェイズの開始と同時に、墓地から《インヴェルズの斥候》の効果を発動!」

宣言と同時に先ほど魔法カードで破壊された《インヴェルズの斥候》が蘇った。

「自分の場に魔法、罠カードが存在しないメインフェイズ1の開始時、《インヴェルズの斥候》は蘇る……この意味が分かるか」

「インヴェルズはアドバンス召喚を主軸に戦うんだろう。斥候がいれば、リリース要員に困らない」

なんということだ。それでは、黒装束は毎ターン上級モンスターを喚べることになる。そしてコナミのデッキには低レベルのモンスターしかいない。押し切られるのは時間の問題だ。

「そうだ。私は斥候をリリースし、《インヴェルズ・モース》をアドバンス召喚……!」

またも上級モンスターが召喚された。

「そして《インヴェルズ・モース》の召喚時効果発動! ライフを1000払い、相手フィールドのカードを二枚、手札へ戻す!」

黒装束 LP3900→2900

《チューン・ウォリアー》とリバースカードが一枚、手札に戻ってしまった。これでコナミを守るモンスターはいない。

「終わりかな? 二体でダイレクトアタック!」

「《インヴェルズ・モース》の攻撃宣言時、トラップカード発動」

《鎖付きブーメラン》

「これでモースは守備表示に変更される……」

「だが《インヴェルズの門番》は止まらない!」

「ぐ……っ!」

二度目のダイレクトアタック。何かが折れる音と共に、コナミは地面を転がっていった。

コナミ LP2100→600

「…………」

少年はピクリとも動かない。まさか、と嫌な予感が頭をよぎる。

「コナミ……?」

「死んだか? デュエルが続行出来ないのなら、敗北と見なすぞ」

「……デュエル」

"デュエル"という言葉に反応し、コナミは立ち上がる。至るところから血を流し、左腕は完全に骨折したのか、ぶらぶらと揺れていた。

ここまでが昨日の更新分となります。続きはまた夜に。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。


デュエルの言葉には反応して起き上がるあたりデュエルマシーンの矜持を感じる

「……私は地面これでターンエンドだ」

「俺のターン……む」

ターンが移り、コナミがデッキからカードを引こうとするが、それは叶わなかった。デュエルディスクを付けている左腕が上がらないのだ。先ほどのダイレクトアタックのせいだろう。

「どうした、腕が折れたか? カードを引けない決闘者に、ターンは回ってこないぞ」

「……少し待て」

コナミはその場を離れ、石化した竜の傍まで歩いてきた。途中、龍可は彼の左腕を間近で見ることになり、その痛々しさに目を背けてしまった。

負傷者は竜に自らの左肩を押し当てると、そのまま体重を乗せ、足を踏ん張った。ゴキリ、という耳障りな音が響き、コナミの左腕が何事もなかったかのように動いた。

「こ、コナミ……」

応急措置を済ませ、また戦場へ戻って行こうとする彼を、龍可は呼び止めた。

「……?」

「今のって……?」

「ああ……直した。あのままだとデュエルに支障が出る。もう問題ない」

コナミはそう言って歩いて行ってしまった。向こうでは、黒装束の男が楽しげに笑っている。

「貴様は面白いな。我が主に気に入られるのも、分かる気がするぞ。……デュエル続行か?」

「無論だ」

コナミはカードを引いた。

「《チューン・ウォリアー》を召喚。《インヴェルズ・モース》を攻撃だ」

間髪入れずに攻撃。守備力ゼロの《インヴェルズ・モース》は破壊された。

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「ふん……。メインフェイズ開始時、再び《インヴェルズの斥候》は蘇る」

黒装束は手札を二枚にすると同時に、リリース要員を特殊召喚した。これで生贄は二体。最上級モンスターすら喚べる数だ。

「この二体をリリースし、《インヴェルズ・ホーン》をアドバンス召喚……!」

<……私は地面
ついに地面に成ってしまったのか

《インヴェルズ・ホーン》はレベル9、攻撃力3000の最上級モンスターだ。黒い体躯に、頭から伸びた二本の触角はカミキリムシを思わせる。

コナミのLPは残り600。《チューン・ウォリアー》への攻撃が決まれば、勝敗は決してしまう。

「貴様の負けだ!」

「……いや、気が早いぞ」

コナミのリバースカードが顔を上げる。

《キックバック》

「これは、モンスターが召喚された時、それを無効にして手札へ戻すカウンター罠だ」

「なんだと……!?」

二体の犠牲も虚しく。《インヴェルズ・ホーン》は手札へ返っていった。

「インヴェルズはアドバンス召喚を軸にしているんだろう。なら、お前が最上級モンスターの召喚を狙うことなんて、誰でも予想できる」

前のターンでコナミはモンスターの他にリバースカードもバウンスされていた。あれは、もしかしたら《キックバック》だったのかもしれない。

「狙っていたというのか……!?」

「…………」

《インヴェルズ・モース》の召喚に使われたのは蘇生能力を持つ《インヴェルズの斥候》のみ。それをバウンスしても、次のターンにはまた出てきてしまう。

そのため、相手の攻撃をわざと受けて、最上級モンスターをおびき寄せたというのなら、凄まじい度胸の持ち主だ。

普通のデュエルならいざ知らず、いま行われているのはダメージが実体化する闇のゲーム。纏まったダメージを受ければ、そのまま死の危険すらありうる。

「く……」

「どうした。お前のターンだぞ」

「私は……ターンエンドだ」

《インヴェルズの斥候》は強力な蘇生能力を持つ反面、プレイヤーの特殊召喚を強く縛るデメリットも持っている。思わぬ反撃には無防備となってしまうということだ。

相手の場にカードは無い。コナミは三枚になった手札をから迷わずにカードを一枚選び、

「《リトル・ウィンガード》を召喚……二体でダイレクトアタックだ」

攻撃力1400の戦士族モンスター。《チューン・ウォリアー》と合わせれば、3000ものダメージを与えられる。

「ぐ……!」

黒装束 LP3900→900

黒装束に防ぐ手段は無い。その直撃を受けた。だが、どうもおかしい。

「……やけにリアクションが薄いな」

コナミの時と違い、相手はさしたるダメージも無く、平然としている。

「私の本体は別の所にある。分身がいくら傷を負おうと、本体には届かん」

「そんな……。卑怯じゃない! 自分だけダメージが無いなんて!」

龍可が責め立てても、男はまるで意に介さない様子で言った。

「卑怯……? 馬鹿を言うな。私が本体で来れば、この世界など容易く制圧できる。分身であるからこそ、この程度で済んでいるのだ」

「……そのデッキも、お前の物じゃないな」

「そうだ。このデッキは、私が精霊界に干渉するための物だ。従って……本来、デュエルは想定されていない」

コナミをここまで追い詰めたデッキが、デュエル用の物ではない。その事実に、龍可は暗い絶望を感じた。

「なに、心配するな。このデュエルは所詮、余興に過ぎん。時が来れば、私の本気を見せる事もあるだろう」

「そうか。カードを一枚伏せてターン終了だ」

「…………」

不安感を煽る黒装束の言葉に、大したリアクションも返さず、コナミはターンを渡した。


先行がカードを1枚も出さなかった場合だけモンスターを展開できるデッキで
全盛期のBF(クロウ)に挑んだ伝説のデュエリストがいるらしい…

「私のターン、ドロー!」

これで黒装束の手札は三枚。その内の一枚は《インヴェルズ・ホーン》である事が確定している。

フィールドにカードが無いため、メインフェイズの開始と同時に《インヴェルズの斥候》が蘇った。三度目の召喚となる。

「魔法カード《闇の誘惑》を発動。カードを二枚引き、手札の《インヴェルズ・ホーン》を除外だ」

「……手札交換カードか」

「さらに魔法カードを発動」

《悪夢再び》

墓地の守備力ゼロのモンスターを二体選び、手札へ戻すカードである。《インヴェルズ・グレズ》と《インヴェルズを呼ぶ者》が選択され、帰還。手札は四枚に増やされた。

「まだだ。私は《インヴェルズの万能態》を召喚。このモンスターは二体分の生贄となる、ダブルコスト・モンスターだ」

「…………」

「これで三体分の生贄が揃った……。手札より魔法カード《二重召喚》を発動。これにより私はこのターン、二度の召喚を行える」

二回の召喚権。通常の召喚なら《インヴェルズの斥候》が持つデメリット能力も受けない。狙いは一つだ。先ほど手札に戻したレベル10の最上級モンスターを召喚しようという気だろう。

「私は二体のモンスターをリリースし、《インヴェルズ・グレズ》をアドバンス召喚!」

実質三体分のエネルギーを得て、侵略の魔神が降臨する。大地は揺れ、雲が渦を巻いた。至るところで雷と突風が吹き荒れる。

立っていられなくなり、龍可はしゃがみこんだ。

「《インヴェルズ・グレズ》の効果を発動! ライフを半分払うことで、このグレズ以外のカードをすべて破壊する!」

雲の中から雷が引きずりだされ、悪意をもって地上に降り注いだ。視界一面が光と轟音にかき乱される。口から目一杯の悲鳴をあげているはずなのに、まるで聞こえなかった。

ようやく音が止み、目を開けると、そこには一切を葬り去り、悠然と佇む黒と金の魔神の姿しかなかった。コナミの場にはモンスターはおろか、リバースカードの一枚も残っていない。

「万策尽きたようだな」

勝ち誇った黒装束は右手を上げる。

「……ダイレクトアタックだ」

右手が下ろされ、同時に《インヴェルズ・グレズ》がコナミへ雷の雨を降らせた。

コナミに向かって破壊が集中する。くどいほど大量の雷が落ちた後、トドメと言わんばかりに特大の雷が深くなったクレーターの中心部に注がれた。

《インヴェルズ・グレズ》の攻撃力は3200。コナミのライフポイントはたった600。耐えきれる筈がなかった。

「呆気ないものだったな。赤き戦士がどれほどのものかと興味があったが、私の分身体にも勝てぬとは」

勝ちを確信した黒装束は、踵を返す。そのまま石化した竜のもとへ行こうとして──足を止めた。

異変に気づいたのだ。デュエルディスクがまだ待機状態に戻っていない。これは、勝敗がまだ決していない事を現している。

「なに……?」

煙が晴れる。そこには、雷で焼かれた敗者の、無惨な姿があるはずだった。

コナミ LP600

「馬鹿な。どういうことだ」

「……フィールドは一掃されたが、俺にはまだカードが残っている」

コナミはたった一枚だけ残った手札を見せた。

《クリボー》

手札から捨てる事で、一度だけ戦闘ダメージを無効にするという誘発即時効果を持つモンスターカードだ。これによって、コナミのライフは守り通された。

背を向けていた黒装束の眼前に王冠を付けたクリボーが現れ、チッチッチと指(?)を振った。

「……カードの精霊か。よもや、そんなものを持っていたとはな。ターンエンドだ」

なんとか凌いだが、コナミの場にカードは無く、《クリボー》を使ったせいで手札もゼロの状況である。はっきり言って絶望的だ。


Yes,I am!

タッグフォースのドローシステムは……

「俺のターン……ドロー」

運命を決するカード。《インヴェルズ・グレズ》は毎ターン、全体破壊を巻き起こす最強クラスのカードだ。最低でもあれだけは除去しないと、次のターンで敗北してしまう。

しかも最悪な事に、黒装束の手札は一枚。中身は《インヴェルズを呼ぶ者》だ。例え《地割れ》などの除去カードを引いたとしても、やはり次のターンで敗北してしまうのだ。

「諦めろ。良く凌いだが、結果は変わらん」

「…………」

ほぼ詰みの状態。それでも、赤い帽子の少年は、引いたカードを見て笑みを浮かべた。

「……《KAー2 デス・シザース》を召喚」

「なに……?」

「あれは……」

龍亞とのデュエルでフィニッシュを決めたカードだ。倒したモンスターのレベル×500ポイントのダメージを与えるという、強力な効果を有している。

しかし、その攻撃力は僅か1000。補助の無い今、攻撃力3200の《インヴェルズ・グレズ》を倒すことは不可能だ。

「気でもふれたか。そんなモンスターを攻撃表示で出して、何をするつもりだ?」

「……もちろん、攻撃だ」

「特攻か。笑えんな」

「残念だが──」

コナミは右腕を《インヴェルズ・グレズ》に掲げ、

「それも違う」

その手を捻った。それに従うかのように、黒い魔神は跪いた。

守備表示。

「な……!?」

「墓地を扱うのはお前だけじゃない」

デュエルディスクのセメタリー・ゾーンから、一枚のカードが吐き出される。

《ADチェンジャー》

「そ、そのカードは……」

「メインフェイズ時、墓地のこのカードを除外することで、モンスターの表示形式を変更する」

「いつの間に……そうか、《カードブロッカー》の効果で」

「そういうことだ。《KAー2 デス・シザース》で攻撃」

守備力ゼロの《インヴェルズ・グレズ》は容易く破壊され、5000ポイントのダメージが黒装束に叩き込まれた。

「ぐああああっ!!」

黒装束 LP450→0

Lv10以上のモンスターを出すと
蟹で勝負がつくLP4000ルールww

そろそろ龍可編(ハゲ編)が終わるので、次のデュエルは時系列的に言うとツァン戦の後の物になります。

ディなんとかさんと双璧を成す5D's最萌えキャラの勇姿にご期待ください。

それでは今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、指摘を下さった方、ありがとうございました。

巻き戻しは初代からある伝統だから仕方ないね

乙!

乙!

おつ
デュエルを想定してないっていうんならコナミ君のデッキのがよっぽどそうなんだよなあ…

「く……。私の負けか」

「…………」

デュエルが終わり、緊迫した空気が溶けていく。際どかったが何とか掴んだ勝利に、龍可は安堵の息を洩らした。

「……見事だ」

黒装束が膝を付き、呻く。その体が段々と黒い霧に変わっていった。男の存在が薄れていくと同時に、世界が浄化されていくのが肌で感じられた。

「どうした。消えるのか」

「……そうだ。今の私は、このデッキによって精霊界に留まっていたに過ぎん。デュエルで敗北すれば、その力は霧散する」

「あの竜が石になっているのは、お前の仕業か」

「そうだとも言えるが、違う部分もある。あの竜は以前の戦いで、自らを犠牲に邪神を封印したのだ」

以前の戦い。龍可が最近見るようになった夢に関係のあることだろうか。

「我々はあの竜のカードを入手し、外部からその力を封じ込めていただけだ。だがそれも……」

何かが地面に落ちる音。竜を拘束していた枷と鎖が外れたのだ。これは、黒装束達の力が弱まっている事を意味している。

「このデュエルで無に帰した。赤き戦士、貴様の働きでな」

「そうか」

「つくづく不思議な男だ。今までの長きに渡る戦いの中で……貴様のような存在は……」

男の下半身は既に消失している。もう、長くは存在していられないようだ。

コナミは無表情で男を見下ろしていたが、その視線を龍可に移した。

「……何か、訊いておきたい事はないか」

「え……」

急に言われても困ってしまう。

「……戦いと言っていたけど、それは私と何の関係があるの? シグナーってなに?」

「これまで……歴史の裏で密かに行われていた神々の戦いがある。光と闇、善と悪の戦いだ」

「神々の戦い……」

「シグナーとは赤き龍の痣を持つ者の事を指す。光の側に立ち、闇である我々と戦うことを運命によって決められているのだ」

「…………」

「もうすぐだ。世界の覇権をかけた戦いが始まる。……逃げることなど出来ない」

「その戦いが終わるまで、龍可をつけ回すのか」

「フ……。その娘を監視していたのは、精霊界へ立ち入るためだ。もう用は無い」

それを聞いて、少し安心した。だが、

「……しばしの平和を楽しむが良い。だが娘よ。貴様がシグナーである限り、血なまぐさいデュエルの運命は決まっているのだ。今回の物など、比較にならないほどの……な」

やはり不安の方が大きくなる。胸まで消えた黒装束は、最後に自身を下した対戦相手の方を見て言った。

「赤き戦士よ。貴様の存在は酷く不安定で異質だ。シグナーでもダークシグナーでも無い……だが、両者の性質を兼ね備えた……イレギュラー……」

「…………」

「我が主からの……伝言だ。近々、会いに行くと……それまでに、自らの望みを……」

言葉の途中で、男は消えた。後に残ったのは黒い衣服と、それと同色のデュエルディスクのみだ。

そのデュエルディスクも、風の中で崩れていった。デッキの中からも《インヴェルズ》関連のカードが霧となって消滅する。コナミは残ったカードの元へ歩いていき、丁寧に拾い上げた。

「どうするの?」

「回収する。落としたのなら後で返却するし、捨てたというなら……俺が拾おう」

そう言って、コナミはカードを懐に収めてしまった。大丈夫かと心配になったが、自分が口を出すことでもないと思い、龍可は何も言わなかった。


「さて、用は済んだ。帰ろう」

「うん……。でも、どうやって?」

「俺達を呼んだのがこの竜なら、戻せるのもこの竜だろう」

「でも……」

拘束は外れたが、竜は未だに石化したままだ。言葉も発しない。とてもそんな力があるとは思えなかった。

『……大丈夫ですよ、龍可』

「……!」

『世界の汚れが祓われていくのを感じます。コナミ、よくやってくれました』

「……体調はどうだ」

無愛想なコナミの言葉に、竜が微笑んだような気がした。

『それは、私がするべき質問でしょう』

先ほどのデュエルで、コナミはかなりの傷を負っていた。だいぶ出血はおさまったが、それでも左腕の指先から地面に赤い水滴が垂れている。

『あなたには礼をしなくてはなりませんね。……手を、かざしてください』

「……こうか」

右手を竜に向ける。すると、空から一枚のカードが光を纏って降ってきた。

それを掴む。光が大きくなり、コナミを包み込んだ。

『そのカードは、あなた自身を移し出す鏡。然るべき時、然るべき場所で、その姿を現すでしょう』

光が止むと、元通りの姿になったコナミが立っていた。その手に握られているのは、絵柄の無い一枚のカード。白いフレームということは、シンクロモンスターなのだろうか。

『……龍可』

「え……あ、なに?」

『突然、呼びつけてしまった事、それであなた達を危険に晒してしまった事……申し訳ありませんでした』

お?

「わたしは全然……。戦ってくれたのはコナミだもの」



殆ど面識がなかった龍可を守り、傷だらけになりながら戦ったのは彼だ。傷は癒えたようだが、それでも申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



「……俺は好きにやっていただけだぞ」



あんなに酷い怪我を負っていたというのに、コナミはいつも通りの無表情で言う。その顔に、デュエルで見せた好戦的な影は無い。

龍可は何故か安堵した。頭の隅にちらついていた、破滅的な未来。それが遠ざかっていくのが分かる。



「それで、俺達を元の世界に戻せるのか」


『はい。侵略者が去り、その影響力が薄まった今ならば、あなた達を無事に送り届けられます』

「…………」



精霊界の危機は去り、帰還も約束された。失われていた竜の力も、僅かにだが戻ってきている。どれも喜ぶべき事なのだが、それでも龍可の表情は晴れなかった。

「……龍可、聞きたい事があるんじゃないのか」



「……!」


心を見透かしたような一言。コナミは無表情のままでこちらを見ていた。


危険にさらされながらも、龍可が無理をして此処にやってきた理由を、彼は察していたようだった。



「あ、あの……」



聞かなければならない事がある。謝らなければならない事がある。伝えなくてはならない事がある。


どうして自分を選んだのか聞きたい。この世界での出来事を忘れ、守るという約束を破ってしまった事を謝りたい。


何より──竜の名前を、今度こそ聞きたかった。



「わたし……」


『いいのですよ、龍可』



遮ったのは、包み込むような、暖かい声だった。



『あなたが、とても強い覚悟を持ってこの世界に来てくれた……。私は、もうそれだけで救われた気持ちです』



竜から放たれた光が、世界を満たしていく。別れの時が近い事を悟り、龍可は声を張り上げた。



「わたし、もう忘れないから! だから……」


『────』



竜が何かを言っているが、どうしても聞こえない。その名前を聞きたいのに、こんなにも距離は近いのに、その声は龍可に届かなかった。


光が爆発し、世界が流転する。前後左右が曖昧になった。浮遊感に包まれる。次に目を開けた時には、緑が生い茂る森ではなく、夕焼けに染まったビルの群れに囲まれていた。


別れは、随分とあっさりしていた。



「帰ってきたか。時差は……あまり無いようだな」


「…………」


「……どうした」



俯いたままの龍可を不審に思ったのか、コナミはしゃがみ込んで目線を合わせてくる。



「……名前、聞けなかったから」


「また会えるだろう。そう遠くない内にな」


「最後に言っていた事も……聞こえなかったし」


「あれか。簡単な一言だったぞ」


「え……」


「"ありがとう"と言っていた」

本当に簡単な一言だったが、同時に、一番聞きたい言葉でもあった。嬉しさと安心から、視界が涙で歪む。気が付けば、コナミの首に腕を回し、抱きついていた。



「良かった……」


「そうだな」


「コナミも……ありがと」


「礼を言われるような事はしてないぞ」



朴念仁そのものな答えが返ってくる。精霊界での出来事があってもコナミはこのままなのかと思うと、自然と笑いがこみ上げてきた。



「……ふふっ。そうね」



彼から離れ、指で涙を拭き取る。そして、懐から一枚のカードを取り出した。



「これ……わたしからのお礼。きっと、コナミを守ってくれると思うから」



《閃光のバリア ーシャイニング・フォースー》



「む……」



素直に受け取ろうとしないので、無理やり持たせる。今日はずっと守られてきたのだから、これくらいはしないと気が済まない。



「なら……」



コナミもメモ帳を取り出し、さらさらと何かを書いていく。一枚の紙切れを剥いで、それを龍可に渡した。



「これは……?」


「俺の連絡先だ。また何かあるようなら、力になろう」


「あ、ありがとう……」

男性の連絡先だと思うと、頬が熱くなる。



「今日はもう遅い。送っていこうか」


「え……? だ、大丈夫! わたしの家、すぐ近くだから!」


「……? そうか。気をつけろよ」


「それはこっちの台詞。じゃあ、またね!」



首を傾げるコナミを置いて、龍可は駆け出した。精霊界に行ったためなのか、体の調子はとても良くなっていた。


右手にはメモの切れ端がある。それを見ると、何故だか頬が緩んだ。もう一度振り返り、コナミに手を振る。


帰ったら、龍亞に今日の事を話そう。きっと驚くに違いない。





柄にもなく走っていく龍可を見送り、コナミは踵を返した。手には彼女から貰った罠カードがある。それを仕舞おうとして、黒装束が落としていったカードの束を持っている事を思い出した。


捨てたのであればありがたく使わせて貰うが、忘れていっただけなのなら、使用するわけにはいかない。

また会った時に分かるだろうと思い、今のところは保留にしておこうと決め、ゴドウィンから付与された自宅へと向かった。



その途中、前から黒いジャケットを着た、顔にマーカーのある男が歩いて来る。纏っている空気があの黒装束のものとそっくりだったが、コナミは気にしなかった。


「……お前がコナミか」


すれ違い様、男が言った。立ち止まると、相手もまた止まる。背中合わせのまま、



「遊星に伝えときな。復讐の時は来たってなあ」


「自分で伝えろ」



背後の気配が消える。振り向くと、やはり誰も立っていなかった。

黒装束…いったいどこの満足なんだ…

暗い部屋に、揺らめく蝋燭(ろうそく)の炎を眺める二人の男の姿があった。一人は禿頭で、先ほどまで精霊界に分身を送っていた人物である。


名を、ディマク。冥界の王に仕えしダークシグナーの一人だ。



「……分身体がやられました」


「ああ。こちらも感知した。中々の仕上がりだな、彼は」



たった今、ディマクの分身体がコナミとのデュエルの末、撃破されて消滅した。精霊界への進出を目的としていただけに、これは手痛い失態だった。


シグナーの少女とコナミを追い込むために使用した結界には、かなりの力を消費している。これでは、冥界の王を復活させるというダークシグナーの目的が遠のいてしまう。



「……申し訳ありません。全ては私の責任です」



ディマクとしては、いかなる処罰も覚悟していた。これは、それだけのミスだった。しかし、もう一人の男は怒りもしなければ、落胆することもなく、ただ楽しげに笑っている。



「よい。これは必要な経費だ」



ディマクを従えるもう一人の男は、その広い背中を揺らした。二メートル近い巨躯に、荒々しい白い髪。野性的な風貌だが、黒く濁った瞳は知性に満ちていた。


彼はダークシグナーを束ねる、リーダーであった。

「しかし……今回の件で四百年分の蓄えが消えました。私には、いまだに作戦の意図が見えないのですが」



「ふむ、聞きたいか」



「ぜひ」



普段、ディマクはこの男に対して、その意図を問いただすような真似はした事がなかった。それほどまでに彼を信用していたからである。


しかしながら、今回の件は明らかにおかしい点が多すぎた。詰めが甘過ぎたし、なにより──自身を下したあの赤い帽子の決闘者が気になる。



「……私が以前、モーメント内部で大いなる意志を垣間見たという話はしたな」



「はい」



「様々な未来。情報の奔流の中で、私は彼の姿を見たのだ」



「彼……コナミの姿を?」



リーダーは頷いた。炎に照らされるその横顔には、複雑な表情が張り付いていた。



「我々が勝利する未来もあれば……忌々しいが、シグナーが勝利する未来もあった」



「……はい」



それは予想できる事だった。ダークシグナーは並大抵ではない憎悪や怒りを原動力にする。


そのため、メンバーには感情や個人的な事情を優先する者が多い。統制がとれていないのだ。いくら各々の能力が高かろうと、それでは闘いに勝てない。


実際、シグナーとの戦いが長引いているのは、それが原因でもあった。


「その中の一つに、興味深い物があった。我々が勝利する未来だ」


「…………」


「単騎でシグナー陣営を壊滅に追い込む力。そんなものを見せられれば、注目もするだろう」


「まさか……!」



何かの冗談かと思ったが、そう言えない何かがあった。頭の片隅で違う自分が、彼の意見を正しいと言っている。



「しかし、あの男が我々に協力するのでしょうか」



ディマクの疑問を、彼の主は一笑にふした。



「無論だ。私には彼の望んでいる物が、手に取るように分かる」


「それは……デュエルですか」


「そうだ。凌ぎを削る戦いこそが、あの男の望み。そこに善悪も無ければ、好き嫌いも無い。デュエルという行為、概念に彼は惹かれている」


「なるほど」



確かに、的を射た意見だと思えた。デュエル中のコナミは、例え肩の骨が外れようが、苦痛や恐怖を一切感じていなかった。


ただただ戦いにのめり込み、貪る。あれは、そういう存在なのかもしれない。

「あの男は善悪や世の行く末に頓着が無い。他人に望まれれば力を貸し、助けを乞われれば二つ返事で救うのだ。どちらかと言えば人では無く、機械に近い」



リーダーはぞっとするような笑みを浮かべた。



「純粋な力のような存在。そう……まるでモーメントだ」



このリーダーはサテライトが廃墟になる以前に、モーメントの開発に携わる科学者だった。もっと言えば、サテライトが廃墟になった元凶でもある。



「……では、今後はどのような手を打つのですか」



ディマクは自分でも驚く事に、コナミもダークシグナーの陣営に入れることについて、強い抵抗を感じていなかった。


シグナーとダークシグナーの戦いを聖戦だと考えるディマクからしてみれば、有り得ないことである。



「彼に、新たな力を与えようかと思う」


「新たな力、ですか」



ディマクが言葉を反復すると、リーダーは一つの箱を取り出し、テーブルの上に乗せた。



「彼がデュエルでシンクロ召喚に立ち会う度に、モーメント内で強い反応がある」


「ということは……」


「その通り──」



そうして、その箱を開く。


中に入っていたのは、白いフレームのカードだった。



「シンクロモンスターだよ」



そう言って、ダークシグナーの長──ルドガー・ゴドウィンは笑った。


体調を崩していたため、一週間ほど放置してしまいました。申し訳ありません。今後もコツコツと更新をしていこうと思いますので、見て頂けたら幸いです。


それでは、ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙!再開待ってました。
無口、顔見えず、描写無しのプレイヤーキャラだから無個性だとおもっていた時期が私にもありました

いのちだいじに
しかしいよいよコナミ君もシンクロか…

乙ー
シンクロモンスター・・・一体何のカードなんだ・・・?

乙乙
ついにシンクロ取得か…一体どれになるやら

乙です
WCS2011だとトリシュとかだったが…さて

決闘龍かな?
ちなみにケツから血が出たら普通に病院行ったほうがいいらしい

ケツじゃないかもしれない
しれない

ツァン・ディレとのデュエルから数日が経ったある日、コナミはいつも通り昼過ぎに目を覚ました。


ベッドから起き上がり、カーテンを開けると、強い日差しが目に染みた。太陽はすっかり真上まで来てしまっている。


この自堕落な生活習慣は直す必要があるとは思っているのだが、なかなか実行には移せなかった。



「……?」



簡素な部屋の片隅に置かれているパソコンに、一件のメールが届いていた。治安維持局からだった。


今日中に維持局まで来いという、簡単な内容だ。特に変だとも思わず、メールをゴミ箱に入れる。今日は仕事の予定も無かったので、一日自由だ。行くのはいつでもいい。


無地の赤い帽子を被って、赤いジャケットを羽織る。ブーツの紐結び直し、念入りにデュエルディスクの調子を確認してから、自宅を後にした。



勝負を挑んで来た決闘者を数名ほど倒した後、繁華街で近頃行きつけになってきているカードショップのKURUMIZAWAへ足を運ぶ。



「お、いらっしゃい」



すっかり顔馴染みになった店主に挨拶される。軽く会釈し、店頭に並ぶカードパックを眺めていると、



「お前さん、KCカップに出るんだってな」


「……ああ」



暇なのか、店主が話しかけてきた。彼は情報通らしく、大抵の物事は耳に入っている。話した覚えの無い大会の事も、誰かから聞いたのだろう。


「あんだけデカい大会に出るなら、今のデッキじゃ無理があるだろ」


「……別に優勝まで考えていない」



コナミにとって、デュエルの勝ち負けは大した価値の無いものだった。社会的な地位や金銭、カードなど賭けた戦いなら話は変わってくるだろうが、そういった勝負には無縁である。


一番重要なのは自分の下に集ってくれたカードを活かす事であり、その先の勝ちや負けに興味は湧かなかった。


そのため、今のコナミの関心は後に控えた大会よりも、たったいま選んだパックの中身に向いている。



「決闘者ってのは、勝ちに拘るもんだろうに」


「……そうなのかもしれないが、俺は違う。ただの娯楽だ」



そして、唯一の生きがいでもある。そうとは言わず、コナミは選んだパックを店主に差し出し、清算してもらった。



「とことん変な奴だな……。お前さんの腕なら、そこのスターターデッキでも良いとこ行くと思うがね」


「買いかぶり過ぎだな。俺自身が勝ってるんじゃない。カードが勝たせてくれているんだ」



パックを開けながら答える。実際、コナミは自身の技量を高いと思った事は一度も無かった。いつも追い込まれ、ギリギリの状況で運良く勝ちを拾っているのが実情なのだから、当たり前の話だ。



店主がここまで言うのは、デッキの中身を見せたからなのだろう。カードショップの人間として、プレイヤーにアドバイスを贈るのは当然の事だ。


カードは拾うんじゃなくて買え。というのが、彼の意見だった。それを尊重して、コナミはこうしてパックを購入しているのだ。



「……これはなかなか」



開封した五つのパックの中身で、気になったカードが何枚かあった。


《メカウサー》

《シンクロキャンセル》

《鎖付きブーメラン》

《メタル化・魔法反射装甲》

《聖なる鎧 ーミラーメールー》



コナミは表示形式を変更したり、攻撃力を上げ下げさせるカードを好んで使う。そして、《シンクロキャンセル》はいつも苦しめられるシンクロモンスターへの対策として有用だ。


なにより二枚目となる《メカウサー》の入手には興奮を隠せなかった。



「今回は良い引きだった」


「そうか……?」



店主は微妙な顔をする。何が不満だと言うのか。

「しょうがないな……。こいつを入れてみな」



店主はカウンターの裏を漁ると、一枚のカードを差し出してきた。


《巨大ネズミ》


「……?」


「いつも贔屓にしてもらってるからな。これは餞別だ。大会、頑張れよ」


「……すまない」



カードを受け取り、そのままデッキに入れる。なんだか、人からカードを貰ってばかりいるような気がして、コナミは少し考えてしまった。



「……ん」


その後、一時間ほど話し込んでいると、店主がいきなり店の外を凝視した。



「どうした」


「いや……コートを着たサングラスの男が、こっちを見てたんだよ」


「客じゃないのか」


「違うな。俺はグラサンは店に入れねえって決めてるんだ」


「あんたもグラサンだろう」


「うるせえ。悪い思い出があるんだよ」



複雑な過去があるのだろう。コナミはデッキの調整をしながらそう思った。今はグラサンの話より、《ミニチュアライズ》と《弱体化の仮面》のどちらを入れるかの方がよっぽど重要な問題だったからだ。


「そういえば、物騒な話を思い出した」



コナミは結局、《弱体化の仮面》を抜いて、デッキの調整を終えた。



「黒薔薇の魔女って知ってるか」



聞いた事が無いので首を振る。モンスターの名前だろうか。



「最近、シティで噂になっていてな。なんでも、黒薔薇の魔女とデュエルした者は、例外なく病院送りにされるらしい」


「決闘者の名前か」


「あだ名だけどな。黒い薔薇のようなドラゴン族モンスターを使うってんで、そういう名前が付けられたんだと。デュエル中のダメージが実体化するそうだ」


「…………」



ドラゴン族のモンスター。デュエル中のダメージ実体化。龍可と異世界に行った時の事を思い出す。もしかしたら、何か関係があるのかもしれない。



「……あ」



視界の端に入った時計で、唐突に思い出した。治安維持局に呼ばれていたのだった。時間には余裕があるものの、そろそろ向かった方が良い。


店主に用事があった事を伝え、ショップを出ようとすると、



「あ、そうだった! 待て、コナミ」



呼び止められる。

「なんだ」


「伝言を頼まれてたんだよ」



そう言って、またカウンターの中を漁る。取り出したのは一枚のメモ片だ。住所と連絡先が書いてある。



「これを渡してくれって。マーカー付きの兄ちゃんに」


「マーカー付き? どんな奴だ」


「目つきが鋭くて、蟹みたいな頭だった。赤いDホイールに乗ってたぞ」



間違いない。遊星だ。



「他に、何か言っていなかったか」


「いや……」


「……そうか」



無事だったことは喜ばしいが、簡単に接触は出来ない。現在、コナミは治安維持局に保護されている状態だ。遊星がマーカー付きになったのなら、会うのはお互いのためにならないだろう。


少し考え、コナミはメモの裏側に自身の連絡先と住所、それと簡単に今の状況を書き記し、店主に渡した。



「その男がまた来たら渡してくれるか」


「おいおい。うちは情報屋じゃないんだぜ」


「すまない」


「ま、分かったよ」


再び店主に礼を言って、コナミはショップを出ようとし……またも立ち止まる。デュエルディスクに収められているデッキから一枚ドローして、



「大会、行ける所まで行ってみる」



引いた《巨大ネズミ》を店主に見せて、店を後にした。






「……む」


治安維持局まで歩いていると、道に一枚のカードが落ちているのを発見した。


《柴戦士タロ》


いつもの癖で拾い上げ、状態を確認。傷や濡れは無し。持ち主らしい人物も見当たらない。


「……むむ」


さらに、路地裏の方にもカードが落ちていた。歩いていき、また拾う。


《霊滅独鈷杵》


そうして更に一枚、二枚とカードを拾っていく。自分がどんどん人気の無い場所に向かっている事に、コナミは気づかなかった。


「……むむむ」


いつの間にか廃工場の中にまで入り込み、最後のカードを拾う。


《地獄からの使い》


やはり状態が良い。まるで、たった今落としたかのような……。

「驚いた。案外、間抜けなのだな」


背後から声がかかる。振り向くと、コートを着た赤い髪の男が立っていた。サングラスをかけており、その手には一枚のカード。


《緊急テレポート》


見たことも無いカードだった。それを認識するより先に、足元から地面が消える。

世界が歪んだ。

今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

カードもったいないお化けだからね、仕方ないね
乙乙ー

罠が古典的過ぎるwwww

カードがおちてたら拾いたくなるのが人の性だからね仕方ないね

きっと遊星とコナミしか引っ掛からない罠w

こんな罠引っかかるに決まってるだろ!!

視界が遮断されたのも束の間、重力が思い出したかのように動き出し、眼下に地面が迫ってきた。


着地、膝を折り曲げて衝撃を緩和する。下はコンクリートだった。身を低くしたまま、すぐに周囲を確認。この手品の主が危険な力の持ち主だという事は、容易に想像できた。



「……あんな罠に引っ掛かるとはな。仕掛けた私が言うのもなんだが、恥を知った方がいいぞ」


「…………」



声の主はやはり、先ほどのコートを着た男だった。左手にはデュエルディスク。そのプレート部分には《緊急テレポート》のカードが置かれている。


今の瞬間移動はまさに"テレポート"と言うに相応しいものだった。まさかとは思ったが、否定できる材料は無かった。



「……落ちていたら拾うだろう」


「卑しい奴だな」


「お前よりはマシだ」


「ふん……」


男は鼻を鳴らすと、一枚のカードをデュエルディスクに置いた。


《ファイヤー・ボール》


直後。男の前で空間が歪み、幻想の火球が出来上がった。それは敵意を持って膨れ上がり、こちらに飛んできた。



「…………!」



有り得ない。そう思う間もなく、コナミは身を捻って火の玉を回避した。

背後で小規模な爆発が起き、埃とコンクリートの破片が舞った。相手を警戒しつつ見てみると、床には穴が空いていた。大きくはないが、十分に人を殺傷できる威力。



「……避けたか。やはり一般人ではないな」


「お前もな」



憎まれ口の後、間髪入れずに二発目が飛んでくる。どうやら、ある程度は連射できるらしい。今度はすぐに回避せず、ギリギリまで目視した。


そして、当たる直前にまた身をよじって回避。誘導性が無い事は確認出来た。速度も大したことはない。あの手品は、もう脅威ではなくなった。



「……なんの真似だ。こんな所に連れ出して。暗殺にしては派手だな」


「ち……」



コナミに《ファイヤー・ボール》が当たらないと理解したのか、男は舌打ちした。



「貴様の存在が異常だという事は、少し調べれば分かる」


「…………」


「過去の経歴だけじゃない。過去百年分の遺伝子情報を洗ったが、該当するものが無い。……まるで、いきなり湧いて出てきたみたいだろう」


「……だから、どうした」


「気味が悪い。だから、消えてもらう」



三発目の《ファイヤー・ボール》。今回は避けずに、デュエルディスクで受け止めた。これの耐久性なら、あの程度の火の玉は難なく防ぎきれる。


前進。何発もの火球が飛んでくるが、全て弾き返した。そのままじりじりと、男との距離を縮めていく。



「馬鹿な……」



まさかの強攻策に、男がたじろぐ。《ファイヤー・ボール》では進撃を防げないと理解したのだろう。


先ほどの動きを見る限り、相手はカードを実体化させる際、デュエルディスクを経由させなければならないはず。そこが狙い目だ。



「く……!」



捉えた。そう確信し、右腕を伸ばす。

男の首根っこを捕まえ、地面に叩きつけるはずだった腕は、しかし空を切った。



「残念だったな」


《緊急テレポート》


既に使用できる状態だった、瞬間移動用のカード。ここに来て使われた。避けられる姿勢ではない。再び十メートル程の距離を開けられ、、背後から《ファイヤー・ボール》が──



「クリー!」


「……なに!?」



《ファイヤー・ボール》の直前に、男の前に突如として《クリボー》が現れ、その視界を遮った。そのまま頭突きを食らわせ、男は大きくのけぞる。


外れたサングラスが地面に落ちるより先に、コナミは敵に近づき、その首を捕まえて引きずり倒した。



「ぐあ……」


「……手品を使えるのは、お前だけじゃない」

このコナミ君にリアルファイト挑むとか
デュエル挑むより難易度高いぞww

「大人しくしろ。首をへし折るぞ」



捕らえた男の首を掴んだまま、コナミは言った。この敵は危険だ。目的と背後関係を吐かせたら、始末した方がいいかもしれない。


初対面の人間を躊躇いなく殺そうとする様な奴は、平気で人質等の非人道的手段を用いる。自分の周囲の人間に危険が及ぶ前に、手は打つべきだ。


コナミの考えもかなり物騒だったが、本人は特に疑問にも思わず、右腕に力を加えようとした。



「……?」



背後から敵意。とっさに飛び退く。今までコナミがいた空間を、植物のツタのような物が薙ぎ払った。


床を数回転がり、新たな敵を見定める。部屋の出入り口付近に、仮面を付けた人物がいた。その人物は静かな足取りで男の方まで歩いていき、彼を守るように立ちふさがる。



「……大丈夫? ディヴァイン」


無機質な声は女のものだった。男──ディヴァインは激しく咳き込み、


「げほ……っ。助かった、アキ。油断した」


女の名前を言う。


「……伏兵か」


「どうだろうな。優秀なボディガードなのは確かだ」


ディヴァインが立ち上がりながら答える。これで二対一。状況は一気に不利となった。



(……逃げた方がいいか)



冷静に分析する。ディヴァインの方はまだなんとかなるとしても、得体のしれない力を持った相手がもう一人。それが連携して襲いかかってくるのだ。


しかも、あのアキと呼ばれた女の方は、おそらくディヴァインより強い。また一から情報を集めて、対策を講じるのは骨が折れる。


なにより、そろそろ治安維持局に行かないとまずいのだ。



「……どうする。まだやるか」


「ふん。勝てると思っているのか?」


「逃げるくらいなら簡単だぞ」



現在地がどこか分からないというのがネックだが、あの二人から逃げるのならば、そう難しい話ではない。


特殊な力こそ持っているものの、身体能力は一般人と大して変わらないというのは、先ほど組み合って分かった。


ディヴァインもそれは理解しているのか、首をさすりながら笑っている。



「そうだな。面白い奴だ。直接やり合うとなれば、我々でもてこずるか」



そう呟き、デュエルディスクを起動させる。



「君を倒すのなら、こちらの方が簡単そうだ」


「デュエルか」



悪くない提案だ。コナミはさっそく治安維持局の件を忘れ、デュエルディスクを構えた。



「……ディヴァイン。デュエルなら私が」


「いいんだ。私も少し、彼に興味が湧いた」


「…………」


アキがコナミを見た。


明らかな敵意。嫉妬だろうか。"興味が湧いた"。その一言で、彼女は完全にこちらを敵と見なしてしまった。



「さあ、準備はいいかな。私のデュエルは少しばかり荒っぽいぞ」


「…………」


お互いが五枚の手札を引き、準備完了。先攻はディヴァインからだ。


「モンスターをセット。カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」


「……ドロー。《巨大ネズミ》を召喚。そのまま攻撃」


もらったばかりのモンスターが早くも登場し、相手の伏せモンスターを攻撃した。


《カバリスト》


攻守は共に100。難なく破壊した。しかし、


「《カバリスト》の効果だ。戦闘で破壊された時、800のライフを払う事で、デッキからサイキック族モンスターを手札に加える」


「サイキック族……?」


「知らないのも無理はない。最近になって登場した新たな種族だ。……私は《サイコ・ウォールド》を選択」

ディヴァインのライフは3200となり、デッキからモンスターが手札に加わる。どうやら、今回の攻撃は相手を有利にさせてしまったようだ。


「カードを一枚伏せて、ターン終了」


未知の種族ともなれば、手の内は予想できない。しばらくは防御を重視していった方がいいと考え、コナミは手札を四枚残してターンを終えた。


「私のターンだな。ドロー」


ディヴァインは自身の手札を見て、なにやら考え込む。


「どうした。さっきのモンスターを召喚しないのか」


先ほどサーチされた《サイコ・ウォールド》は、攻撃力1900の下級モンスター。そのままでも十分に《巨大ネズミ》を倒せる。



「このデッキは使い慣れていなくてね。私も慎重になるのさ」


「そうか」


その気持ちは良く分かる。コナミも、未だに自分のデッキに対して使い慣れていないと思う事が多々あるからだ。


「私はモンスターをセット。《一族の結束》を発動して、ターンエンドだ」


やけに大人しい。《ファイヤー・ボール》で襲いかかってきた時とはまるで別人だ。コナミはカードを引き、


「《巨大ネズミ》で守備モンスターを攻撃」


再びセットモンスターを攻撃する。しかし、今回は上手くいかなかった。


《メンタルプロテクター》


その守備力は2200。反射ダメージ800ポイントが返ってくる。

コナミ LP4000→3200

キリが悪いですが、今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

おつ

「……モンスターをセット。そして、永続魔法を発動」


《強欲なカケラ》


「このカードは俺のドローフェイズ毎にカウンターを一つ置く。そして、カウンターが二つ以上乗ったこのカードを墓地に送ることで、カードを二枚ドローできる。ターン終了」


「手札補充カードか。しかし……」



ディヴァインはドローし、手札を四枚にする。そして、魔法カードを発動した。


《サイクロン》


その速攻魔法はフィールド上の魔法罠カード一枚を破壊する効果を持っていた。大抵のデッキに当たり前のように入っている汎用カードである。


小さくも強力な竜巻が《強欲なカケラ》を飲み込み、破壊する。



「二ターン後というのは、少し気が長い話だったな」


「…………」


「メインフェイズだ。《クレボンス》を召喚」



レベル2のチューナーモンスター。そして、ディヴァインの場にはレベル3の《メンタルプロテクター》が存在している。



「レベル3の《メンタルプロテクター》にレベル2の《クレボンス》をチューニング……!」


☆3+☆2=☆5


「心の深淵に燃え上がりし我が憎しみの炎よ! 黒き怒涛となりて、この世界を蹂躙せよ! シンクロ召喚!」



二つの光輪が《メンタルプロテクター》を包み込み、一筋の光が疾走する。ディヴァインの口上が終わると共に、光が爆発して、一体のモンスターが姿を現した。



「現れろ、《マジカル・アンドロイド》!」

レベル5のシンクロモンスター。その登場に呼応して、コナミのデュエルディスク──その内部のモーメント・エンジンが唸りをあげた。


《マジカル・アンドロイド》の攻撃力は2400。それが永続魔法の効果によって、最上級モンスターをも上回る3200にまで上昇した。


墓地に存在するモンスターの種族が全て同じ時、自身のモンスターの攻撃力を800ポイント上昇させるのが、《一族の結束》の効果だった。



「さあ、覚悟しろ……! 《マジカル・アンドロイド》で《巨大ネズミ》を攻撃!」



増幅、強化された閃光が、コナミのモンスターに迫る。直後すれば大ダメージは免れない。すかさず、リバースカードを発動した。


《鎖付きブーメラン》


攻撃モンスターの表示形式を変更するものと、攻撃力を500ポイントアップさせる装備カードとなって、自身のモンスターを強化するもの。二つの効果を持つ罠カードである。


《一族の結束》が効果を及ぼすのは攻撃力のみ。守備表示にしてしまえば、《マジカル・アンドロイド》の守備力は1700。攻撃力1900となった《巨大ネズミ》で打ち勝つことができる。


というのがコナミの策であったのだが、



「させるか! カウンタートラップを発動!」



《魔宮の賄賂》



「これにより、相手の魔法罠カードの発動を無効にする!」



《鎖付きブーメラン》が破壊され、相手モンスターの攻撃が素通りする。《巨大ネズミ》が消滅し、その余波がコナミを襲った。



「ぐ……っ」


コナミLP3200→1400



貫通した衝撃波に吹き飛ばされる。背後にはコンクリートの壁。それに叩きつけられる直前、なんとか体勢を立て直して最悪の事態を防いだ。


「…………」


先ほどの一戦と精霊界でのデュエルを経験していなければ、今の一撃で死んでいたかもしれない。そう分かるほど、ディヴァインの攻撃には殺気が込められていた。



「ちっ。今ので終わらせるつもりだったんだがな。《魔宮の賄賂》の効果だ。相手プレイヤーはカードを一枚、引く事ができる」


「……《巨大ネズミ》の効果発動。戦闘破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の地属性モンスターを特殊召喚する」



カードを引いた後、コナミの場に《アーマー・ブレイカー》が攻撃表示で特殊召喚される。これでなんとか、フィールドを空にせずに済んだ。



「私はこのままターンエンドだ。そして《マジカル・アンドロイド》の効果でサイキック族一体につき、ライフが600回復」


ディヴァイン LP2700→3300


「……俺のターン、ドロー」



コナミの手札はこれで五枚となる。ディヴァインの手札は残り二枚だ。《マジカル・アンドロイド》を破壊すれば、優位に立てる。


しかし、先ほどの一撃で受けた肉体的なダメージは無視出来なかった。直撃は免れたはずなのに、黒装束と戦った時とは比べ物にならないほど消耗してしまっている。

「足元がおぼつかないぞ。そのなりでデュエル出来るのか?」


ディヴァインが笑みを浮かべながら尋ねてくる。あれは、他人を傷つける事を楽しんでいる者の顔だ。



「問題はない。……俺は手札から《マジック・ストライカー》を特殊召喚」



《マジック・ストライカー》は墓地の魔法カードを除外することで特殊召喚出来るモンスターだ。


先ほど無念にも破壊された《強欲なカケラ》を除外。《アーマー・ブレイカー》と同サイズの小さな戦士族モンスターが現れた。



「《アーマー・ブレイカー》を《マジック・ストライカー》に装備する」



《アーマー・ブレイカー》が大槌に変形する。このモンスターはユニオンと呼ばれる特殊なカードで、装備カードとなって他のモンスターを強化する事が出来る。



「ふん。雑魚モンスターを強化したところで、戦況は覆せんぞ」


「バトルフェイズ。《マジック・ストライカー》は相手プレイヤーに直接攻撃することが出来る」


「……ち」



ディヴァイン LP3300→2700


与えたダメージはたった600。《マジカル・アンドロイド》の回復分を削ったのみだ。嘲るような笑いを、ディヴァインが浮かべた。



「は、この程度か」


「どうかな。《アーマー・ブレイカー》の効果発動。装備モンスターが戦闘によって相手にダメージを与えた時、フィールドのカードを一枚破壊する。……《マジカル・アンドロイド》を破壊だ」


「なに……!?」


《マジック・ストライカー》はそのハンマーとなった《アーマー・ブレイカー》でもって、シンクロモンスターを粉砕した。


「メインフェイズ2でさらに、《カードブロッカー》を召喚」



コナミの場にまたも小型の戦士族モンスターが召喚される。《カードブロッカー》は召喚時に守備表示となり、相手モンスターの攻撃を自身に引きつける効果を持っていた。


《マジック・ストライカー》が直接攻撃を叩き込み、《アーマー・ブレイカー》が相手のカードを破壊。そして反撃は《カードブロッカー》が受ける。


この三体によって、コナミのコンボが完成した。



「ターン終了だ」


「……ち」



ディヴァインが面倒くさそうに舌打ちする。ターンが移り、手札は三枚。引いたカードを見て、彼は再び笑みを浮かべた。


「私は《死者蘇生》を発動! 《マジカル・アンドロイド》を墓地より特殊召喚だ!」



破壊したばかりのシンクロモンスターが蘇る。


「さらに《サイコ・ウォールド》を召喚し……」



《カバリスト》の効果でサーチしていたモンスターだ。攻撃力は1900でレベルは4。そして、ディヴァインは手札から速攻魔法を発動した。


《緊急テレポート》


「このカードはデッキからレベル3以下のサイキック族を特殊召喚する速攻魔法……呼び出すのはレベル1の《メンタルマスター》だ!」


「……チューナーか」


「貴様の思った通りだ。私はレベル4の《サイコ・ウォールド》にレベル1の《メンタルマスター》をチューニング!」


☆4+☆1=☆5


「二体目の《マジカル・アンドロイド》をシンクロ召喚!」


「…………」


これで、相手の場には攻撃力3200で回復効果を持つモンスターが二体並んでしまった。



「バトルフェイズだ。《マジカル・アンドロイド》で攻撃!」


「《カードブロッカー》の効果だ。攻撃対象をこのカードに移す」



《カードブロッカー》はデッキのカードを三枚墓地に送ることで守備力を最大1500ポイント上げる効果を持つが、今回は使わなかった。



「さらに二体目の《マジカル・アンドロイド》で《マジック・ストライカー》を攻撃だ!」


「《マジック・ストライカー》は戦闘によるダメージを無効にし、《アーマー・ブレイカー》が効果によって身代わりとなる」



ユニオンモンスターには装備モンスターを戦闘や効果による破壊から守る効果を持っているカードが多い。《アーマー・ブレイカー》が墓地へ送られる。


しかし、ディヴァインは手札をこれで使い切った。追撃は出来ないはず。コナミがそう考えた直後、それを読んでいたかのようにリバースカードが開いた。


「メインフェイズ2で、私は罠カード発動」


《サイコ・チャージ》


「墓地のサイキック族を三体デッキに戻し、シャッフル。その後、二枚ドローする。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ。……おっと、私としたことが《マジカル・アンドロイド》の効果を忘れていた」


ディヴァイン LP2700→5100


ディヴァインの場には《マジカル・アンドロイド》が二体と《一族の結束》、それとリバースカードが一枚。手札は残り一枚だ。


コナミのフィールドには装備カードを失った《マジック・ストライカー》と伏せモンスターが一体のみ。手札はこのターンのドローで四枚となった。


まずいのは《マジカル・アンドロイド》の回復効果だ。場のサイキック族一体につき600ポイント回復する、あのシンクロモンスターを放置していれば、いずれライフポイントの差を覆せなくなってしまう。


しかし、その倒さなくてはならないモンスターの攻撃力は3200。今のコナミの手札及びフィールドには、それを覆せる手段がなかった。



「《マジック・ストライカー》で攻撃」


「……ふん」


ディヴァイン LP5100→4500


とてもではないが、回復とダメージの値が違いすぎる。コナミはカードを二枚伏せて、ターンを終了した。


「そろそろ打つ手が無くなってきたかな? 私のターン、ドロー!」


コナミのライフは残り1400。《一族の結束》で強化されたサイキック族の攻撃を受ければ、それが下級モンスターであろうとも敗北は免れない。


ディヴァインは余裕の表情でカードを引き、それをそのまま場に出した。


《サイコ・コマンダー》


「ふふふ……。冥土の土産に、サイキック族最強のモンスターを見せてあげよう。レベル5の《マジカル・アンドロイド》に、レベル3の《サイコ・コマンダー》をチューニング!」


☆5+☆3=☆8


《マジカル・アンドロイド》を光が包み、ビルが悲鳴をあげるかのように震動した。天井から埃が舞い、至る所にひびが走る。


「逆巻け、我が復讐の炎よ! シンクロ召喚! 現れよ、《メンタルスフィア・デーモン》!」



包んでいた光を引き裂き、中から巨大な翼と鋭い爪を備えた、悪魔のような見た目のサイキック族モンスターが降臨した。


生み出した突風が傷ついた体を殴りつけ、コナミは膝を折る。まるで、跪くかのように。



「バトルだ! 《マジカル・アンドロイド》で《マジック・ストライカー》を攻撃!」


「く……」


二回の直接攻撃を決めた《マジック・ストライカー》もついに破壊される。その効果によってダメージは受けないものの、衝撃は容赦なくコナミを襲った。


「さらに《メンタルスフィア・デーモン》で伏せモンスターを攻撃!」


伏せていたのは《メカウサー》だ。リバース時にカードを選択し、そのコントローラーに500のダメージを与え、さらに同名モンスターを裏側守備表示で特殊召喚する効果を持つ。


ディヴァイン LP4500→4000

「だが、《メンタルスフィア・デーモン》の効果も発動する! 戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分、ライフを回復し……」


ディヴァイン LP4000→4800


「リバースカード発動!」


《リビングデッドの呼び声》


「このカードの効果によって、墓地から《マジカル・アンドロイド》を特殊召喚! 攻撃だ!」


ディヴァイン LP4800→4300


またも蘇生された《マジカル・アンドロイド》によって、二体目の《メカウサー》も破壊される。三体目はいない。これで、コナミのモンスターは全滅した。



「私はカードを一枚伏せてターンエンド。……そして、二体の《マジカル・アンドロイド》の効果で、ライフがさらに回復」


ディヴァイン LP4300→7900


フィールドには三体のサイキック族モンスター。《マジカル・アンドロイド》の効果で1800。それが二体で3600ポイント回復した。今のライフは初期値のほぼ二倍である。



「……俺のターン、ドロー」


引いたカードは《閃光のバリア ーシャイニング・フォースー》。相手の場にモンスターが三体以上いる状態で攻撃された時、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する罠カードだった。



コナミの残りの手札は《迎撃準備》と《シンクロ・ヒーロー》の二枚のみ。場にある伏せカードは《ミニチュアライズ》と《メタル化 魔法反射装甲》の二枚だった。


残念ながら、今の状況を覆せるカードは他に無い。



「カードを一枚伏せて、ターン終了」


「エンドフェイズ時にリバース発動!」


《サイクロン》


「いま伏せたカードを破壊だ!」


「……!」


《閃光のバリア ーシャイニング・フォースー》が、起死回生の最後の一手が、呆気なく破壊される。



「良いカードを破壊した。どうやら、勝利の女神は私に微笑んだらしい」


「…………」


「さあ、最後のターンだ」


最後の一枚がドローされる。


ディヴァインとアキが自身の名をコナミの前で明かした理由は一つだ。絶対に生きて返さないという意思表示に他ならない。


「ふふふ……。はーはっはっは!」


ディヴァインは勝利を確信したのか、今までにない大声で笑った。


「やはり、デュエルはこの瞬間が最高だな。ライフに大差をつけ、圧倒的な攻撃力でねじ伏せる。最後に残るのはボロ雑巾のようになった対戦相手だけ……」



ディヴァインは痛めつけられた首をさすりながら、その残酷極まりない本性をさらけ出す。仲間であるアキの目も気にしていない様子だ。


コナミは目を閉じる。初めての敗北だったが、仕方の無いことだ。むしろ、今まで勝ってこれた事の方が奇跡的だったのだろう。


勝利を享受してきたのなら、敗北も受け入れるべきなのだから。


そして、この場にいる三人の内の一人、アキといえば、デュエルには関心が無いのか、割れた窓ガラスの向こうへ視線を送っていた。その表情は仮面のせいで見えない。


「さあ、覚悟しろ……! 《メンタルスフィア・デーモン》で攻──どうした、アキ?」



仲間の様子に異常を感じ取ったのか、ディヴァインが我に返ってアキに問いかける。



「……セキュリティが来たわ。ここに突入するみたい」


「妨害しろ。あいつにとどめを刺すまでな」


ディヴァインのその言葉に、アキは僅かな逡巡を見せた。そして、


「……ごめんなさい。気づくのが遅れたの」


そう言った直後、封鎖されていたドアが蹴破られ、何人ものセキュリティ隊員が雪崩れ込んできた。


日付が二回ほど変わってしまいましたが、今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

>>439
乙!続き楽しみ


次はコナミに倍返しされそう(小並感)

「セキュリティだ! 大人しくしろ!」



先頭を切って入ってきたのは、以前戦った牛尾という隊員だった。彼に続き、十人近いセキュリティがコナミ達三人を包囲した。



「……ち。邪魔が入ったか」



サングラスをかけ直したディヴァインは忌々しそうに吐き捨てると、再び《ファイヤー・ボール》を使用した。


人ひとり丸呑みに出来るような火の玉が生まれ、牛尾達に放たれる。



「な、なんだこりゃあ!?」



咄嗟の出来事に、セキュリティ部隊は反応出来ない。あわや直撃というところで、コナミが間に割って入る。再びデュエルディスクを盾にしたものの、満足に防御は出来なかった。


全身が幻想の炎に包まれ、体力を使い果たして膝をつく。後ろで牛尾が驚きの声を漏らした。



「お前……」



「ここは退くか。いくぞ」



ディヴァインはアキを促すと、《ファイヤー・ボール》を天井にぶつけて、そのまま姿をくらました。


濃厚な埃と煙で、辺りが覆われる。煙幕が晴れた頃には、二人の姿は完全に消えていた。



そういえばなぜこいつらはサンダーボルトや大波小波なんかを使わないんだろう

「なんだったんだ、あいつら……。まさか、黒薔薇の魔女かよ」


「ですが、どう見ても男でしたよ」


「女もいただろうが。ったく……」



牛尾は敵はいないか周囲を確認し終えると、コナミの傍までやってきて、



「で、お前はここで何してた?」


不信感を露わにして訊いてきた。



「……デュエルです」


「んなことは見りゃ分かる。普通のデュエルじゃなかっただろ。お前、ボロボロじゃねぇか」


「…………」



だんまりを決め込むコナミに、牛尾は面倒くせえと言うように頭を掻いた。



「シティ内にあった、お前のGPSの反応が、いきなりここに移動した。どういう手品だ」


「……自分にも分かりません」


「そうかよ。なら、今回の件を一から……」


「牛尾さん、本部からです」



コナミを問い詰めようとした牛尾だが、近くで無線を取っていた隊員に言われ、渋々応答する。


「はい、こちら牛尾です。……は!? い、いえ、わかりました。直接ですね……了解です」


無線を切った牛尾は思い切り不機嫌になり、再びこちらにやってきた。



「長官からだ。お前を治安維持局まで連れて来いってよ。元々、連絡は入れていたみたいだが……」



「……あ」



そういえば、今日は治安維持局に用があったのだった。すっかり忘れていた。


「……ったく。ほら、行くぞ」


牛尾に言われ、コナミは頷く。外に出ると、自分が今までいた場所がシティの郊外、それもかなり離れた所だったということが分かった。


セキュリティの車に乗り、その車内で今回の件をセキュリティ──というより、牛尾に説明した。


瞬間移動の件に関しては、突然拉致されてあの場所に連れて行かれたため、詳細は分からないと言っておいた。事実を話したら、もっとややこしくなる事は明白だったからだ。


牛尾は釈然としていない様子だったが、深くは追及してこなかった。あの《ファイヤー・ボール》を見た以上、コナミを問いただしても無意味な事は分かっているのだろう。


牛尾達セキュリティーはコナミを治安維持局のビルの前で放り出すと、そのまま行ってしまう。一応、助けてもらったので礼は言ったが、牛尾は鼻を鳴らしただけだった。


クズクズ言ってたころの牛尾さんだからしゃーないか。
TF5とTF6のシナリオなら男でも惚れる漢なんだが

ダグナー編以降は牛尾さんもランクアップするんだがな

辺りはすっかり暗くなっていた。人も少ない中、ビルに入ると、受付の女性が応対してくれる。


名前と用件を伝えると、彼女はどこかに内線を入れた後、関係者用のバッジを差し出して、



「お待たせしました。最上階の長官室までお願いします」



エレベーターはあちらですと付け加え、コナミはそれに従った。廊下を歩く。既に大半の職員は帰っているのか、誰ともすれ違わない。


案内通りエレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。大した時間もかからず、到着。そのまま真っ直ぐ、長官室の扉をノックした。



「どうぞ」


一瞬、部屋主の不在を期待したが、声が返ってきてしまった。仕方なく、ドアを開ける。



「……失礼します」


「お待ちしていました。今日は災難だったようですね」



長官室の中、ガラス張りの窓を背に、レクス・ゴドウィンが言った。



「今日、あなたを呼んだ理由は……これです」



ゴドウィンは自身の机の引き出しを開けると、中から高級そうな木箱を取り出した。それを、ソファーに挟まれたテーブルの上に置く。


「これは……カードですか」


ゴドウィンは頷き、木箱を開く。中には白枠のカード。コナミを幾度となく苦しめた、シンクロモンスターだ。


「この二枚のカードが、あなたを新たな次元へと誘うでしょう」


ゴドウィンは二枚のシンクロモンスターを差し出して言った。


「……期待していますよ」

今回は短いですがこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙!
エクストラに入れるカードが増えてきてよかったww


遊戯王特有の不明瞭な説明の元のカード譲渡

ドラゴアセンションとかそんなんじゃないよね…?

あ、KONMAIさん、天輪鍾楼をください(シンクロ使い感)

インティクイラ…?

インティクイラって確か専用チューナー必要としなかったっけ

インティクイラは素材の関係で完全に飾りになるが

TF版なら…と思ったけどそっちはダークシンクロだっけか

WCS2011だとトリシューラにトライデントドラギオンだったが

章の区切りという事で、コナミが最初に作ったデッキ(チンピラ及び牛尾戦で使用)のレシピを載せていこうかと思います。






・モンスター14枚

《モリンフェン》
《チューン・ウォリアー》
《ウォーター・スピリット》
《炎龍》
《オシロ・ヒーロー》
《KAー2 デス・シザース》《隼の騎士》
《スクラップ・ゴブリン》
《スクラップ・ワーム》
《格闘ねずみ チュー助》
《メカウサー》
《派手ハネ》
《スケルエンジェル》
《半蛇人サクズィー》



・魔法カード12枚

《イージーチューニング》
《おとり人形》
《シンクロ・ヒーロー》
《ドーピング》
《降格処分》
《無欲な壺》
《大波小波》
《勇気の旗印》
《古代の遠眼鏡》
《催眠術》
《『攻撃封じ』》
《罠はずし》

・罠カード14枚

《迎撃準備》
《陽動作戦》
《大成仏》
《リグレット・リボーン》
《運命の火時計》
《援軍》
《虚無空間》
《援護射撃》
《ガード・ブロック》
《緊急同調》
《猛吹雪》
《誤作動》
《埋蔵金の地図》
《シールドスピア》



判ってたけど何というハイランダーデッキww

シンクロいないのに緊急同調があるとはこれいかに
デッキ分類はスタンダードでいいのかな(白目)

モリンフェン様が投入されてるとはな
どおりで強いはずだ

虚無空間が場違いに見える不思議

大波小波完全に死んでね?

こちらがおじさん戦で使用したデッキです。



・モンスター19枚

《モリンフェン》
《チューン・ウォリアー》
《ウォーター・スピリット》
《炎龍》
《KAー2 デス・シザース》
《隼の騎士》
《スクラップ・ゴブリン》
《スクラップ・ワーム》
《海皇の長槍兵》
《メカウサー》×2
《派手ハネ》
《ギガストーン・オメガ》
《巨大ネズミ》
《エレクトリック・ワーム》
《パペット・プラント》
《アーマー・ブレイカー》
《マジック・ストライカー》
《カードブロッカー》




・魔法カード11枚

《増援》
《イージーチューニング》
《おとり人形》
《シンクロ・ヒーロー》
《ドーピング》
《降格処分》
《ダブルアタック》
《強欲なカケラ》
《二重魔法》
《右手に盾を左手に剣を》
《魔法効果の矢》



・罠カード10枚

《迎撃準備》
《陽動作戦》
《大成仏》
《リグレット・リボーン》
《閃光のバリア ーシャイニング・フォースー》
《銀幕の鏡壁》
《鎖付き爆弾》
《鎖付きブーメラン》
《ミニチュアライズ》
《メタル化・魔法反射装甲》


エクストラデッキ

シンクロモンスター×2

>>458
に比べるととっても強く思える!不思議!

デッキに入っているカードは主にスターターデッキ2008~2011に収録された物の中から、

・汎用除去

・攻撃力1600以上のモンスター
・原作キャラ専用のカード

・エクシーズ関連

・なんか使いやすそうなやつ


を抜いて、

・リアルで道端に落ちている可能性のある物

・パック購入で出そうなやつ

・貰ったカード

・タッグフォース6に収録されている物

>>1が個人的に好きなカード


を入れて作成しています。


では、今日はまた寝落ちしそうなので、この辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。



KCカップ本戦当日、龍可は龍亞と共にスタジアムを訪れていた。出場するコナミを応援するためである。


しかし、待ち合わせの時間を過ぎても当のコナミが現れない。寝坊している可能性が濃厚だったので、龍亞が彼の自宅へ行く事になった。


そのため、龍可は龍亞から席(最前列)の確保及びスナック、ジュース類を見繕っておくという重要な使命を与えられていたのだが、



(……ま、無理よね)



いくら収容人数60.000人超のネオドミノスタジアムでも、この人だかりでは最前列など取れるわけがない。龍可は早々に見切りをつけ、先に飲み物を購入する事にした。


各階に用意されている購買で二人分のドリンクを買い、少しぶらつく。


来月のフォーチュンカップに比べれば小規模なものの、それでも来客数は凄まじい。大会前からそこら中でイベントが行われていたし、今も花火の音が鳴り止まない。スタジアムの中心では音楽と共にチアガール達が踊っていた。


空にはテレビ局のロゴが入れられた飛行船の姿があった。世界中で中継されるのだ。


場内の一際大きい購買ではデュエル・モンスターズの関連商品が所狭しと並べられ、決闘者やマニア連中が群がっていた。


カードの売買やトレードをする者の姿も見られる。


どこを見ても人、人、人。大会が始まってしまえば落ち着くのだろうが、息苦しくなって龍可は人気の無い場所を探した。


そこで、ある人物の姿を見つけた。


暗い廊下の壁に背を預け、左頬にはマーカー。知り合いだった。



「……遊星?」



名を呼ぶと、彼は閉じていた瞼を開けた。

コウシンダー

「……龍可か」


「久しぶりね」


「……そうだな」



普段から無口な遊星だったが、今日は少し機嫌が悪いようだった。そういえば、ここは選手やスタッフが出入りする通路だ。なぜ、こんなところにいたのだろうか。



(もしかして……キングに関係ある事かな)



遊星がシティに来た理由は知っていた。常勝無敗のデュエルキング、ジャック・アトラスとに会うためだ。


そして、この大会にはスペシャルゲストとして、そのジャックが来る事になっている。CMでも大々的に発表していた。


二人の間には浅からぬ因縁があるのかもしれない。しかしながら、それを掘り下げるのは配慮が無いと思って、龍可は逡巡した。



「……デュエルディスクの調子はどうだ?」



アワアワしていると、遊星から訊かれた。



「あ……うん。良いみたい。龍亞なんか、毎日デュエルしてるし」


「……そうか」



遊星はそう言って微笑んだ。一見、近寄りがたい雰囲気を持つ彼だが、こうして話してみると決して冷たい人間では無いことが分かる。



「今日は、コナミの応援?」


「……ああ。そんなところだ」



嘘……というわけでも無さそうだ。半分は本当といった所だろうか。表情に少し険しいものが混じった。



「あー! 遊星っ!」



そこへ、日頃から聞いている大声が響いた。振り向くと、少しやつれた様子の龍亞が遊星を指差し、大口を開けているところだった。



「あれ、コナミは?」


「いま、受付で選手登録してるとこ。家に行ってみたら、ホントに寝ててさ~」


「やっぱり……」


「起こすのに時間掛かったし、そこからスタジアムに来るのも大変で……」


「…………」



遊星の視線が、龍亞の背後へ向く。それを追うと、人ごみの中から赤い帽子を被った人物がこちらにやって来るのが見えた。帽子と同じ色のジャケットに金色のデュエルディスク。


コナミだった。彼の目は龍可を見てから、遊星の方へ。視線が交錯する。



「……遊星か」


「……コナミ。久しぶりだな」


珍しく、遊星が表情を柔らかくした。コナミは頷くと、無事で何よりだと(無表情で)言った。



「登録はちゃんと済んだ?」


「ああ。問題ない」


「えー。ギリギリだったじゃん」



「寝坊したのか」


「…………」


遊星の言葉に、コナミは目を逸らした。それは、肯定を意味していた。



「でも、やけに戻ってくるのが早かった気がするけど」



いま現在、駅や空港、そして道路は完全に人でごった返している。車よりも徒歩の方が遥かに効率が良い程だ。場内に流れるアナウンスも殆どが、ダイヤの乱れや混雑に関係したものになっている。


この状態でコナミの家までの距離を往復するとなると、かなりの時間が掛かる事は想像に難くない。




「俺も最初は、タクシーを使おうと思ったんだよ。でも、コナミが……」



龍亞がコナミをジトリと睨む。しかし当人は平然と、



「俺の起床時間と交通状況を鑑みれば、間に合う筈が無い事は明らかだった」


「まさか……」



龍可の脳裏に、嫌な記憶が蘇る。大量の黒装束、爆発炎上した中華料理店、そして……抱えられながら高層ビルの合間を縫うように飛び回ったこと。


コナミはやはり、平然と頷いた。



「間に合わせるには、あの方法しかなかった」


「…………?」



この中で一人、遊星のみコナミのやった事が分からないようだった。龍亞はげっそりとした表情で、



「コナミに抱えられて、ビルの非常階段を飛び移ったんだよ! そりゃ、ちょっとは楽しかったけど……」


「一度、龍亞が落ちたからな」


あっけらかんとコナミが言い放った。



「えぇっ!?」



「酷いでしょ!? ホント、勇気と地面がドッキングするかと思ったよ!」



ビル最上階付近からの自由落下。それを想像して、龍可は身震いした。



「すまなかった」


「まったく……。せっかく起こしに行ってあげたのにさ!」


「謝罪として、後で何か奢ろう」


「ホント!?」



生命の危機に瀕したのにも関わらず、あっさりと買収された龍亞に諦観の視線を送っていると、遊星が、



「二人はコナミの家を知っているのか」


そう尋ねてきた。


「え……。ああ、前にお世話になった事があって。その時に、ね」



龍可は若干、言葉を濁しつつ、コナミの方を見た。黒装束に纏わる一件は遊星にも関係のある事だ。しかし、突拍子の無い出来事であるのも事実。なにより、こんな所で話して良いものでも無いだろう。


そう考え、龍可は信頼からコナミへ判断を委ねた。

コナミは頷き、



「……遊星。少し良いか。話しておきたい事がある」


そう告げた。遊星とコナミの視線が交わり、


「……ああ。俺もだ」


「悪いが、二人共。先に観客席の方に行っていてくれるか」


「うん。わかった」



龍亞がだだをこねる前に龍可が返事をする。すると、コナミは遊星を伴って選手の控え室の方へ歩いていった。



「ちぇっ。つまんないの」


「そう言わないの。二人は大人なんだから、大事な話だってあるんでしょ。そんなだから、いつまでも龍亞は子供なの」


「えー」


「わたし達も行こ? もうすぐAブロックの試合が始まる時間だし」



持っていたジュースを渡しつつ、すらりと話題を切り替える。日常生活で培った龍亞のコントロール法の一つだった、



「もうそんな時間!? 席は、最前列は取っといてくれた!?」


「あ、ごめん。すっかり忘れてた」


「…………」








それから一時間近く経ち、龍亞からの抗議も収まってきた頃、Aブロックの試合が粗方おわった辺りで、遊星は戻ってきた。



「あ、遅いよ遊星!」


「……すまない。遅くなった」


「もうAブロック終わっちゃったじゃん!」

「……コナミはBブロックだろう?」



KCカップの本戦はコナミを含めた16人のトーナメントで行われる。


選手達は八人ずつの二つのブロックに分かれており、コナミは五戦目……Bブロック最初の試合ということになっていた。



「龍亞は遊星と一緒に観戦したかったのよ」


兄が膨れている理由を言うと、遊星はフ、と笑った。



「……そうか。すまなかった」


「あ、もう選手入場だって」


「え、もう!? 俺が緊張してきちゃったよ~」



リーゼントのような髪型のMCがBブロックの開始を告げると、騒がしかった観客席が途端に静かになる。スタジアムの大型モニターが暗くなり、



『さあ、待ちに待ったBブロックの始まりだー! 選ばれし16人の決闘者の中から、誰が頂点に輝くのか!? まずは一人目の決闘者を紹介しよう!』



MCのハイテンションに釣られて、会場内のボルテージも高まっていく。入り口の一つにライトが集中し、広大なデュエルスペースへ一人の決闘者が悠然と歩いて来た。



『父親に勘当されて早数年、一匹狼として生きてきた。頼れるのはカードだけ。セミ・プロデュエリスト……窪田修司ー!』


名前を呼ばれた青年は、ニヒルな笑みを浮かべながら右手を掲げた。観客席から黄色い声援があがる。



『対する決闘者は治安維持局の特別推薦枠より出場! 全てが謎に包まれた赤い決闘者! まだない……コナミー!』


吾輩はデュエリストである、苗字はまだない

「コナミ……名前が」


選手登録の際、名字の欄を空白に出来なかったのは分かるが、それにしてもこれは……。



「……名字を思い出したのか」


隣で遊星は感慨深げに呟いている。真実を話したかったが、止めておいた。追々わかる事だ。気を取り直し、試合が始まろうとしているデュエルスペースに視線を戻す。


二人の決闘者は向かい合い、その間にMCが立っていた。そのまま窪田修司にマイクを渡し、


『さあ、今回の意気込みを聞かせてくれー!』


「意気込み……? そうだな、俺の全力を試せる相手を探しに来ただけだ。……例えば、キングとかな」


『おおーっと!? 窪田選手、対戦相手を差し置いて、まさかのキングへ宣戦布告だー!?』



窪田修司は言ってやったぜとばかりに、腕を掲げた。それに観客の半数は歓声をあげ、残りの半数はブーイングを送った。お祭りらしく、とりあえず騒ごうというのが分かる。



「格好良いー! クールだね!」


「えぇー。ああいう格好付けたのって、わたしはあんまり好きじゃないなぁ」



そうして、マイクはコナミに渡る。



『一匹狼らしい、クール&クレバーなマイクパフォーマンス!』



クールと言われたのが嬉しかったのか、窪田修司の口元が少し緩む。一匹狼はキャラなのだろうか。


コナミはマイクを受け取ると、


ヒュイーィィイン



とりあえずハウリングさせた。

遊星天然過ぎるだろww

流れるようなハウリング

ハウリングが収まる頃合い。に観客も少し冷静さを取り戻して、謎の決闘者に注目する。


コナミは浮き足立った様子も無く、いつもの調子で、


「……前振りは良い。さっさとデュエルを始めよう」



そう言ってマイクをMCに返した。何故か観客席が湧き上がる。


『これは……まだない選手、圧倒的なクール度だー!? 少ない口数で優位に立ったー!』



隣を見れば、龍亞は目を輝かせていた。会場の空気に触発されたらしい。明らかに、コナミは特に言うことが無かっただけだというのに。



「……良い調子だな。完全に先手を取った」


「えぇー……」



そこはかとなく満足そうな遊星に、龍可は失望の声を漏らした。もう自分しか頼れる者はいない。見れば、窪田修司も悔しそうにコナミを睨みつけていた。


両者が向かい合い、お互いのデッキがシャッフルされた。デュエルディスクが起動し、邪魔にならないようMCが数歩ほど後ろに下がる。



『さあ、Bブロック第一試合……開始だぁー!』


「行くぜ……デュエル!」


「……デュエル」



宣言と共に五枚の手札が引かれる。先攻は窪田修司が取った。

遊星の反応が面白すぎるww

ハウリングくっそワロタwwwwww

「俺に追いつけるかな……? 《デュアル・サモナー》を召喚!」



先陣を切ったのは魔法使い族モンスター。攻撃力は1500と平均的だが、厄介な能力を有している。


「カードを一枚伏せてターンエンド。さあ、かかって来い……!」



『《デュアル・サモナー》は戦闘耐性を持つモンスター! 後攻のコナミ選手、どう出るかー!?』



コナミはカードを引き、


「……手札より魔法カード《おとり人形》を発動」


「ち……」


『えー……《おとり人形》は相手の伏せカードをめくり、罠カードだったら強制的に発動させる魔法カード! 一ターン目から心理戦だー!』



セットされていたのは《二重の落とし穴》。デュアルモンスターが戦闘で破壊された時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する罠カードだった。


「めくったカードの発動タイミングが正しくなかった場合、その効果を無効にし、破壊する」


その言葉の通り、《二重の落とし穴》は破壊された。


『そして《おとり人形》のもう一つの効果が発動ー! 使用後は墓地ではなくデッキに戻る!』



「さらに永続魔法《コモンメンタルワールド》を発動し、モンスターをセット。カードを一枚伏せてターン終了だ」


「待てよ。このエンドフェイズ時に《デュアル・サモナー》の効果を発動。500ライフを支払い、手札からデュアルモンスターを召喚する。……出てこい」


修司 LP4000→3500



窪田修司のフィールドに海竜族のデュアルモンスターである《デュアル・ランサー》が召喚された。攻撃力は1800。かなり高い。


そして、そのままターンは修司に移った。手札は四枚。


「行くぜ……《デュアル・スコーピオン》を召喚!」


三体目のモンスターは戦士族だった。先の二体と同じく"デュアル"の名を冠している。



「《デュアル・スコーピオン》は召喚、特殊召喚時に手札からレベル4以下のデュアルモンスターを特殊召喚できる!」



さらに四体目のモンスター。魚族の《竜影魚レイ・ブロント》がフィールドに出された。高速の大量展開。セミ・プロデュエリストの名に相応しいものがあった。



「デュアルモンスターってなに?」



今更な質問を龍亞が遊星に投げかける。


「デュアルモンスターは召喚を二回重ねる事で真価を発揮するカード達だ。今のままでは通常モンスターに過ぎないが……」


「二回も召喚? それって手間じゃない?」



既にバトルフェイズへ移行している。今の状態でも攻撃力の合計は6000を超えている。かなり不味い。そして恐らく、窪田修司の手札には必殺のカードがある。



「……デュアルモンスターは強くするのに手間が掛かるが、中にはそれを大幅に短縮させる物もある」



普段から険しい顔の遊星が、さらに険しい表情になる。



「行くぜ行くぜ行くぜ…! 俺は《デュアル・ランサー》で攻撃!」

《デュアル・ランサー》の攻撃力は1800。あれが通ったら、追撃を受けてコナミは敗北してしまう。


「さらに行くぜ! 攻撃と同時に手札から速攻魔法発動!」



《フォース・リリース》


「このカードの発動時、俺のデュアルモンスター達は全て再度召喚状態となる!」


「えぇー!?」


『なんとー!? 窪田選手、大量展開に全体強化の魔法カードを重ねたー! これによら、デュアルモンスター達は真の力を発揮するー!』



再度召喚された状態となり《デュアル・ランサー》には貫通効果が付与され、《竜影魚レイ・ブロント》はその攻撃力を2300にまで引き上げた。



『流石はセミプロの期待の星! 全力で一ターンキルを狙っているー!』



《デュアル・ランサー》がコナミの伏せモンスターに突撃し、ソリッドビジョンが派手な煙を演出した。



『け、決着ー!?』


「と、通っちゃった!?」


「そんな……」



こんな一瞬で決着がついてしまうとは。龍可と龍亞は絶句し、うなだれた。


その時だ。


煙幕を鋭い光が切り裂き、フィールド上の攻撃表示モンスター達が瞬時に蒸発した。



「……《フォース・リリース》にチェーンして罠カードを発動だ」



《閃光のバリア ーシャイニング・フォースー》


「……そう焦るな」


コナミが言うと同時に、歓声が爆発した。

今回はこの辺で。大会戦はやっぱり難しいですね。うまく賑やかにしていけたらと思います。続きは今日の昼頃にでも。


では、ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙!
やだ、このコナミ君かっこいい///

乙乙
デュアルは…うん、今度赤目とか色々来るよね(目逸らし)


デュアルはギガプラとかアナネオみたいに個々で見たら光るものがあるんだがなあ

『これは……まさかの罠カード! 窪田選手のモンスターが全滅ーっ!?』


「なん……だと」



四体のモンスターが破壊され、圧倒的な有利は不利へと変わった。鮮やかなカウンターに、観客は湧き上がる。



(……わたしのあげたカードだ)


ふふ、と龍可は微笑む。



「コナミ、凄いじゃん!」


「ああ。これで逆転した」



大量展開のツケで、窪田修司の手札は残り一枚。このまま押し切れば勝利は近い。


「くそ……。俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ」


コナミがカードを引き、手札は三枚となる。



「……モンスターを反転召喚」


《スケルエンジェル》


リバースした時、カードを一枚ドローするモンスターだ。これにより、コナミの手札はさらに充実した。



「《スケルエンジェル》をリリース。モンスターをアドバンス召喚」


《絶対防御将軍》



『えーと……《絶対防御将軍》は召喚時に守備表示となる上級モンスターだ! そして、守備表示のまま攻撃できる! このままダイレクトアタックかー!?』


「ぐお……!」


修司 LP3500→1950

「……これでターン終了」


「く……俺のターンだ。ドロー!」



追い詰められた修司は引いたカードを確認し、そのままフィールドに置いた。


「……モンスターをセットしてターンエンド」


「よし! またコナミのターンだ!」



コナミは手札を再び四枚とし、そのまま《絶対防御将軍》で攻撃した。相手の伏せモンスターが露わになる。


《フェデライザー》


「かかったな。こいつが戦闘破壊された事で効果発動!」


《フェデライザー》の効果で修司のデッキからデュアルモンスターが一体墓地に送られ、デッキから一枚ドローする。


「……モンスターをセット。カードを一枚伏せてターン終了だ」



コナミのデッキの弱点である、決定力不足がここにきて出てしまった。危機を脱しつつある修司は、再び余裕の表情を覗かせる。



「ふ……いくぜ。俺のターンだ!」


手札は二枚。行動を起こせる枚数だ。まずはリバースカードが開く。


《正統なる血統》


墓地の通常モンスターを蘇生させる永続罠。デュアルモンスターは再度召喚しない限り、フィールド及び墓地では通常モンスターとして扱われるのだ。



「蘇れ!《ヘルカイザー・ドラゴン》を特殊召喚!」



『窪田選手! 《フェデライザー》の効果で墓地に送っていた上級モンスターを蘇生したー! 反撃開始の合図なのかー!?』



「で、でも《ヘルカイザー・ドラゴン》の攻撃力は2400だよ! 《絶対防御将軍》なら……」


コナミを守る《絶対防御将軍》の守備力は2500。修司のモンスターの攻撃力では倒せない。



「もう一体の伏せモンスターを攻撃する気……?」


「……いや。どちらもだろう」


遊星の言葉を裏付けるかのように、


「俺は手札から装備魔法《巨大化》を発動!」



《巨大化》は自身のライフポイントが相手を下回っている時、装備モンスターの攻撃力を倍にする装備魔法だ。


これにより、《ヘルカイザー・ドラゴン》の攻撃力は4800となった。一撃で勝負を決められる破壊力だ。会場がどよめく。



「これで終わりだと思ったか? さらに魔法カード発動!」



《アームズ・ホール》


デッキトップのカードを一枚墓地に送る事で、デッキから装備魔法をサーチするカードだ。



「俺は《スーペル・ヴィス》を選択。そのまま《ヘルカイザー・ドラゴン》に装備だ!」



《スーペル・ヴィス》はデュアルモンスターを再度召喚した状態にする装備魔法。その効果で、《ヘルカイザー・ドラゴン》は真価である二回攻撃の権利を獲得した。

「まだ通常召喚はしてないのに、どうして装備魔法を使ったの? 攻撃力を上げる装備魔法の方が良いような気がするけど」



龍亞が遊星に尋ねる。



「《アームズ・ホール》を使用したターン、通常召喚は行えない。しかし《スーペル・ヴィス》の効果なら、それを無視する事が可能だ。そして、もう一つの効果もある」


「蘇生効果ね」



遊星は頷いた。《スーペル・ヴィス》はフィールドから墓地に送られた際、墓地のデュアルモンスターを蘇生させる効果も持っていた。


先ほどのように罠カードなどで《ヘルカイザー・ドラゴン》が除去されても、すぐさま後続を呼び出す事が出来る。



「同じ轍は踏まないか……。流石はセミ・プロだな」



三人の視線の先では、今まさに攻撃力4800の二回攻撃が、コナミを襲おうとしていた。



「ぶちかますぜ……《ヘルカイザー・ドラゴン》で《絶対防御将軍》を攻撃!」



特大のブレスによって、コナミのモンスターはその盾ごと溶かされて撃破された。残りのモンスターは一体。巨大化したドラゴンはすぐさま、そちらにも火炎を吐きかけた。



《スクラップ・ゴブリン》



見たことの無い小型のモンスターだった。みすぼらしい外見に違わず守備力はたった500だが、身を包む火炎を耐えきる。



「ちっ。戦闘破壊されないモンスターか」


「……そうだ。しかし、表側守備表示の状態で攻撃を受けた場合、バトルフェイズの終了時に自壊する」


「俺はターンエンドだ」

コナミのターンとなる。フィールドには《スクラップ・ゴブリン》が一体と、使いもしない《コモンメンタルワールド》、そしてリバースカードがある。


ライフポイントは未だに無傷のままだが、そんなのは《ヘルカイザー・ドラゴン》の一撃で吹き飛んでしまう程度の物だ。



「……ドロー」



コナミの手札は三枚。うち二枚を取り出し、



「……モンスターをセット。カードを伏せてターン終了」



そのままターンを終えてしまった。逆転できるカードが無いのだろうか。



『一時は優勢に立ったコナミ選手だが、今では防戦一方! やはりセミ・プロには勝てないのかー!?』



MCが不安を煽る。


「ま、負けちゃうよコナミ!」


「《スクラップ・ゴブリン》の効果なら、このターンは凌げる。……何かを待っているのか」


空気を掴んできた修司のターンとなる。



「ノッてきたぜ……! 手札から永続魔法《未来融合ーフューチャー・フュージョン》を発動!」



《未来融合ーフューチャー・フュージョン》はエクストラデッキの融合モンスターを一体選択し、その融合素材を墓地に送る事で、二ターン後のスタンバイフェイズにその融合モンスターを召喚する永続魔法だ。



「俺が選択するのは《超合魔獣ラプテノス》! その融合素材としてデッキからデュアルモンスターを二体墓地に送る!」



修司のデッキからデュアルモンスターである《ヴァリュアブル・アーマー》と《チューンド・マジシャン》の二体が選択された。



『窪田選手の融合カードが発動ー! 二ターン後の未来に強力モンスターを特殊召喚するつもりだー!』




「バトルだ。《ヘルカイザー・ドラゴン》で二回攻撃!」



《スクラップ・ゴブリン》に一撃、そして伏せモンスターにも一撃が入った。



「《メカウサー》の効果発動。リバース時に選択したカードの持ち主に500ポイントのダメージを与え……」


「く……。この程度」



修司 LP1950→1450



「デッキから同名モンスターを裏守備表示で特殊召喚する」


「俺はターンエンドだ」



エンドフェイズへと移る過程で《スクラップ・ゴブリン》は自壊。コナミのターンが回ってくる。


引いたカードを見て、コナミは目を細めた。



「……来たか」



遊星が呟くと同時に、コナミは手札から魔法カードを発動した。


《増援》


デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加えるサーチカード。選択されたのはレベル3の《チューン・ウォリアー》だ。


「そして、手札からチューナーモンスターを召喚」


加えられたばかりの《チューン・ウォリアー》が召喚。そして《メカウサー》が反転召喚された。


修司 LP1450→950


「なに……?」


何故だか、右腕が無性に熱い。モニターや照明が明滅する。コナミのモンスター達を光が包んだ。


「レベル2の《メカウサー》にレベル3の《チューン・ウォリアー》をチューニング──」


☆2+☆3=☆5


「──シンクロ召喚。《スカー・ウォリアー》」


光の中から、白銀の戦士が姿を現した。

今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

ここでスカーウォリアーか

これは過労死の気配が

間が開いてしまったので現在の状況整理を。

コナミ LP4000 手札1

フィールド

・《スカー・ウォリアー》

・《コモンメンタルワールド》

リバースカード×2



窪田修司 LP950 手札0

フィールド

・《ヘルカイザー・ドラゴン》

・《巨大化》

・《スーペル・ヴィス》

・《未来融合ーフューチャーフュージョン》


『ここでコナミ選手、満を持してシンクロモンスターを繰り出したー!』


「俺がシンクロ召喚に成功した時、《コモンメンタルワールド》の効果で、相手に500ポイントのダメージを与える」


「へ……この程度」


窪田修司 LP950→450



「やった、あと少し!」


「でも……」



往々しく登場した《スカー・ウォリアー》だが、攻撃力は2100と表示されている。4800という圧倒的な力を誇る窪田修司の《ヘルカイザー・ドラゴン》には太刀打ち出来ない。



「さらに手札から《タイムカプセル》を発動」



コナミの場に巨大な棺が現れ、その中に一枚のカードが納められた。《タイムカプセル》はデッキからカードを選択して除外し、それを二ターン後のスタンバイフェイズに手札へ加えるサーチカードだ。


これで、コナミの手札はゼロとなってしまう。残るのは二枚のリバースカードのみだ。



「いくらシンクロモンスターでも、俺の《ヘルカイザー・ドラゴン》には勝てないぜ?」



ライフポイントには大きな開きがあるものの、窪田は勝利を確信している様子だった。



「どうかな。バトルフェイズだ。《スカー・ウォリアー》で相手モンスターに攻撃」


2400だった筈の《スカー・ウォリアー》の攻撃力は、いつの間にか《ヘルカイザー・ドラゴン》と同等の4800を表示していた。


白銀の鎧がメタル化し、《スカー・ウォリアー》は炎に呑まれながらも、そのダガーで《ヘルカイザー・ドラゴン》の首を切断。爆炎がフィールドを覆い尽くす。



「《メタル化・魔法反射装甲》を装備したモンスターは攻撃時、攻撃対象としたモンスターの攻撃力の半分だけ、攻撃力が上がる」



つまり、攻撃力4800だった《ヘルカイザー・ドラゴン》の場合、2400ポイントアップしたのである。



「だ、だが、相討ちだ。お前のモンスターも……!?」



煙が晴れる。そこには相討ちとなった筈の《スカー・ウォリアー》が以前と変わらぬ様子で存在していた。



「……《スカー・ウォリアー》は一ターンに一度、戦闘では破壊されない」


「嘘だろ……」


『なんとー!? 罠カードとのコンボに《ヘルカイザー・ドラゴン》敗れるー!』



これで窪田のフィールドには効果発揮まで時間のかかる永続魔法のみ。手札はゼロだ。



「まだだ……! 《スーペル・ヴィス》の効果。このカードが墓地に送られた時、墓地からデュアルモンスターを一体、特殊召喚出来る!」



窪田のフィールドに《チューンド・マジシャン》が特殊召喚された。攻撃力は1800と高いものの、メタル化した《スカー・ウォリアー》には及ばない。

「俺のターン……ドロー!」


運命を決める一枚。


「繋ぐぜ、魔法発動!」


《貪欲な壺》


墓地のモンスターカードを五枚回収し、その後デッキから二枚ドローするという効果を持つ魔法カードだった。

《デュアル・サモナー》
《デュアル・スコーピオン》
《竜影魚レイ・ブロント》
《フェデライザー》
《ヴァリュアブル・アーマー》

の五枚がデッキに戻り、シャッフル。そして二枚ドロー。



「俺は《闇の量産工場》を発動! 墓地の通常モンスターを二枚選び、手札に戻す!」


《デュアル・ランサー》と《炎妖蝶ウィルプス》が手札に加わった。これにより、ゼロだった窪田の手札は三枚となる。



「《炎妖蝶ウィルプス》を召喚し、さらに速攻魔法《スペシャル・デュアル・サモン》を発動! デュアルモンスターを一体選び、再度召喚した状態にする!」



《チューンド・マジシャン》が選択され、その効果──チューナーとして扱う──を発揮した状態になる。



「いくぜ、レベル4の《炎妖蝶ウィルプス》にレベル4の《チューンド・マジシャン》をチューニング! シンクロ召喚……《ブラック・ブルドラゴ》!」



300増えた?

すいませんなんでもないです

『一枚の手札から怒涛の反撃! これがセミ・プロデュエリストの底力なのかー!?』


「さらに《ブラック・ブルドラゴ》の効果発動! 手札のデュアルモンスターをコストにして、相手フィールドの魔法罠を破壊する! 狙いはもちろん……」



手札の《デュアル・ランサー》が捨てられる。そうして、黒竜の吐いた炎がコナミの《メタル化・魔法反射装甲》を焼き尽くした。《スカー・ウォリアー》の攻撃力が2100に戻る。



「バトルだ! 《スカー・ウォリアー》を攻撃!」


《ブラック・ブルドラゴ》の攻撃力は3000。戦闘耐性を持つ《スカー・ウォリアー》でも、ダメージは免れない。


迫る巨体。それを遮るように最後に残ったリバースカードが開く。


《ガード・ブロック》


戦闘ダメージを無効にした上でカード一枚ドロー出来る罠カード。《スカー・ウォリアー》は突進をまともに食らったものの、プレイヤーへのダメージは防がれた。



「ち……。ターンエンドだ」


「……ドロー」



コナミの手札は二枚。そのどちらも魔法・罠ゾーンにセットして、



「……ターン終了」



コナミはターンを終えた。

お、楽しみにしてた

強力なモンスターを次々と繰り出してくる窪田の戦術は、コナミを確実に追い込んでいる。龍亞は落ち着かない様子で、



「ね、ねえ、コナミ、大丈夫かな」


「もう一度、シンクロ召喚を成功させればコナミの勝ちなんだけど……」


「……まずいな。あの永続魔法が来る」


遊星の言った通り、窪田のスタンバイフェイズに《未来融合ーフューチャーフュージョン》の効果でモンスターが特殊召喚されてしまった。


《超合魔獣ラプテノス》は攻守共に2200の融合モンスターだ。このカードが表側表示で存在する限り、窪田のフィールドのデュアルモンスターは全て再度召喚された状態となる。



「これで終わりじゃねえ……! 手札から《思い出のブランコ》を発動! 墓地から通常モンスターを特殊召喚! 蘇れ! 《炎妖蝶ウィルプス》!」



先ほどシンクロ素材となった昆虫族モンスターが不死鳥の様に舞い戻った。《炎妖蝶ウィルプス》は、自身をリリースする事で墓地のデュアルモンスターを特殊召喚する効果を持つ。


案の定、ウィルプスはリリースされて墓地から再び、



「《ヘルカイザー・ドラゴン》を特殊召喚!」



窪田修司のフィールドに、三体のドラゴン族モンスターが揃った。その迫力に、観客席からは歓声があがった。



「うわ~! ヤバいよコナミ……!」



龍亞の声も虚しく、《ブラック・ブルドラゴ》の口から炎が零れた。攻撃回数は合計四回。合計攻撃力はちょうど10000。《スカー・ウォリアー》でも耐えられる数字ではなかった。

「《ブラック・ブルドラゴ》で《スカー・ウォリアー》を攻撃!」



再び火炎弾がコナミのモンスターに放たれる。



「リバース発動。罠カードだ」

《迎撃準備》


「このカードの効果で、フィールド上の戦士族または魔法使い族モンスターを裏守備表示に変更する」


《スカー・ウォリアー》は戦士族。裏守備表示に変わった。これにより、戦闘は巻き戻される。



「だが、何も変わらねえ! 攻撃を続行だ!」



「……待て。《迎撃準備》にチェーンして、もう一枚の罠カードを発動する」



《陽動作戦》



発動したターン、裏守備表示のモンスターへ攻撃出来なくさせる罠カード。この二枚のコンボにより、窪田の攻撃は封じられた。



「く……。ターンエンドだ!」



何度も攻撃を防がれた窪田は苛立たしげにエンド宣言をした。コナミのターンとなる。



「……ドロー」


コナミの手札はいま引いた一枚だけだ。


しかし、コナミには引いたカードを使う気は無いようだった。それを見て、



「……勝ったな」



遊星が呟いた。


「え、どういうこと?」


コナミのフィールドには《スカー・ウォリアー》と《コモンメンタルワールド》のみ。


──いや、もう一枚あった



「未来にカードを送ったのは、窪田だけじゃない」


「あ、そういえば……」



コナミのフィールドに再び棺が現れた。


《タイムカプセル》



二ターン後の未来に希望を送る魔法カード。その棺が開かれた。



「俺が選んでいたのは……このカード」



《イージーチューニング》


墓地のチューナーモンスターを除外し、その攻撃力をフィールドのモンスターに与える速攻魔法だ。

そして、墓地には攻撃力1600の《チューン・ウォリアー》。



「……俺の勝ちだな。《スカー・ウォリアー》で《ブラック・ブルドラゴ》を攻撃」



「う……おおあああっ!!」


窪田修司 LP450→0


申し訳ありません。《メタル化・魔法反射装甲》を発動したという一文を書くのをすっかり忘れていました。

混乱された方、すみませんでした。

攻撃力3700となった《スカー・ウォリアー》が《ブラック・ブルドラゴ》を斬り裂き、爆散。窪田修司のライフが尽きた。



『決まったー!! Bブロック一回戦、熾烈な攻防を制したのは、まだないコナミ選手ー!』


割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。



「やったー! コナミの勝ちだー!」


「ちょっと、龍亞……」


「フ……」


戦いを終えた二人の決闘者は歩み寄り、握手を交わした。


「まさか、この俺が一回戦負けとはな……」


「良いデュエルだった」


「ち……。リベンジだ。覚えとけよ」


「ああ」


「フン。じゃーな」


窪田修司は右手を上げると、ニヒルに笑って去って行った。



『勝利したコナミ選手には、大会特性のカードパックが送られるぞー! さあ、三つの箱の中から選んでくれー!』


・赤い箱

・青い箱

・紫色の箱



>>515

今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

赤は効果モンスター、青はー…儀式?紫は融合だろうか?目星をつけるとしたら
まぁ、取り敢えず安価は赤で

赤色で

いつも面白いなあ

続きはよ

まだかなぁ

落ちる

歓声が降り注ぐ。スタジアムから見える空には星が瞬いていた。天井を囲むように配置されたライトが眩しい。


(しまった……)



コナミは深く後悔していた。軽はずみな行動が、最悪の事態を引き起こしてしまったのだ。


原因は僅かばかりの好奇心だった。Bブロックの一回戦に勝利し、賞品として貰った赤い箱。その中には10枚の効果モンスターが封入されたカードパックがあった。


いずれも使い易く、強力な効果を持つカードばかり。その内、4枚を選んでデッキに入れた。そうして臨んだBブロック二回戦で、悲劇は起こってしまった。



《暗黒界の龍神 グラファ》

《暗黒界の魔神 レイン》

《暗黒界の軍神 シルバ》



三体の強力無比な悪魔族モンスターが見下ろしてくる。《スカー・ウォリアー》を初めとするコナミのモンスターは暗黒界の魔神によって全滅させられていた。


フィールドにカードは無いものの、今はコナミのターン。攻撃される心配は無い。これは不幸中の幸いであった。



『優勢だったコナミ、ここで手痛い反撃を貰ったー! 立て直せるのかー!?』



けたたましいMCの実況が観客を盛り上げる。



更新キター!

やったぜ。

「…………」


目を閉じ、考える。酷い状況だが、心は落ち着き始めていた。


「これは勝敗決まっちゃったかな~」


ニコニコと笑う対戦相手。デュエルアカデミアの制服を着ている。勝ち誇る彼女を尻目に、コナミは対戦前の事を思い出していた。





一回戦が終わった後、次のデュエルまで時間が開いたコナミは選手用の控え室で龍亞に絡まれていた。



部屋は一部が和室となっており、畳の上ではすっかりくつろいだ様子の龍亞が寝転んでいた。コナミはパイプ椅子に座り、他の対戦者達が行うデュエルを静かに観戦している。



「いーなー、いーなー。コナミばっかりレアカード貰ってさー」



パックから出てきたカードを眺めながら、うつ伏せの姿勢で龍亞が言う。行儀も何もない兄の姿に龍可が眉間をひくつかせているが、全く気にしていないようだった。



「コナミは次の試合があるんだから、あんまり邪魔しちゃ駄目よ」


「だ~いじょぶだって。セミプロに勝っちゃったんだから、もう敵無しだよ。シンクロモンスターもいるんだし」


「……?」



龍亞の言葉にいじけた様な印象を受けたコナミは疑問に思った。試合の直後は自分の事の様に喜んでくれたのだが。


「自分が出たがってた大会でコナミが活躍したから、羨ましいんでしょ」



龍可は紙コップのほうじ茶を飲みながら呆れていた。その言葉は図星だったのか、龍亞の肩がピクリと震えた。



「そうなのか」


「うん。さっきまでは『コナミは俺達が応援しなきゃ!』とか言って張り切ってたのに、コナミがいつの間にか強くなってたから、複雑な気分なんでしょ」


双子ならではの的確な分析だった。それが正しい事を示すように、また兄の肩が揺れた。



「……別に、強くなってはいないと思うぞ」



勝ったのは時の運だ。もう一度戦えば、勝者が変わる可能性も高い。



「……知らない内にシンクロモンスターまで手に入れちゃってさー」



やってられない、裏切られたとばかりに龍亞はぼやいている。彼にとって、コナミに対する唯一のアドバンテージであったシンクロモンスターの存在は大きかった。



「ほっとけば、すぐに機嫌直すから」


「分かった」



久しぶりで何事かと思った

素直に頷いて、モニターに視線を戻す。画面の中では、戦士族モンスターを操る女性デュエリストが相手を圧倒している様子が映し出されていた。


下級モンスターを魔法と罠で守りながら、厄介な相手のカードは早々に除去する。そうして戦闘と効果ダメージによってライフを削り取っていくという戦法だ。


決して派手ではない、基本に忠実で堅実なデュエルだが、それだけに手強い。その容姿が華やかな事もあって、会場は湧いていた。



「……ふーん。ああいう人が好みなのね、コナミって」



画面を凝視していると、底冷えのする声が飛んできた。今度は何故か、妹の方の機嫌が悪くなっている。



(……なんだ?)



今までに経験の無い居心地の悪さを感じながら、コナミは手持ち無沙汰に自分のデッキを取り出して眺め始めた。


少しして、控え室の扉が開く。外に出ていた遊星が帰ってきたのだ。



コナミは内心、助かったと安堵した。



「……コナミ、もう少しで二回戦が始まるそうだ。準備をした方が良い」


「分かった」


今日、コナミが行う試合は勝っても負けてもこれが最後だ。残りの試合は一週間後に行われる事になる。



「デッキは調整する?」


「そうだな……」


龍亞が差し出して来た10枚のカードの内、4枚を選んでデッキに入れた。全てが下級のモンスターなので、事故の原因にもなり難いだろう。



「もう一枚のシンクロモンスターは使わないのか」



遊星が尋ねてきた。彼には近況報告の他、ゴドウィンから渡されたカードの事も話してある。彼を狙っている不審な人物の事もだ。



「……あれは隠し玉だ。出来るだけ温存したい」


「コナミ、まだシンクロモンスター持ってるの?」


「ああ。これだ」


残りの一枚を見せる。



「へ~。これも戦士族なんだ」


44枚になったデッキをデュエルディスクにセットし、コナミは控え室を出た。その後、遊星達と別れ、スタジアムの中心に位置するデュエルリングに向かう。


ベスト8の試合、それもナイターという事もあって、スタジアムは満席だった。会場内では観客の声やスポンサー企業のCM、アナウンスが混ざり合う。普通の人間なら緊張で胃が痛くなる光景だ。





ちょっと休憩。残った課題を終わらせます

『さあ! 皆さんお待ちかね、Bブロック二回戦の始まりだーっ!』



MCの合図でライトの光がが選手入場口に集中する。まずは対戦相手の登場だ。



『本戦で唯一、アカデミアからの参加! その理由はなんと、『なんとなく』! 夏乃……ひなたーっ!』


ウワァアアアー!


どうして今の紹介で盛り上がる事が出来るのか、会場は再び歓声で埋め尽くされる。そして、ライトの光がコナミの方を向いた。


『対するはこちら、一回戦でセミプロデュエリストを打ち負かした期待のダークホース! 参加理由は『気がついたら』! まだない……コナミーっ!』



ウワァアアアーっ!



名前を呼ばれたコナミは入場口を潜り抜け、デュエルリングへ歩いていく。噴射されたドライアイスの煙が晴れると、対戦相手の姿がはっきり確認できた。


紹介の通り、アカデミアの制服を着ている。ショートカットの髪型とすらりとした体型、会場のあちこちに手を振る様子は快活な印象を与えた。



コナミはデュエルディスクを起動させた。マイクを向けられる前に、さっさと始めなければならない。ハウリングはもう御免だった。



「えー、自己紹介くらいしようよー?」


「……コナミだ。悪いが、急いでいる」


「わお、クールだねー。私は夏乃ひなた。良いデュエルにしましょ!」


「ああ」


会場を盛り上げているMCを無視して、マイペースな二人は勝手にデュエルを開始した。ソリッドビジョンがスタンバイし、お互いのデッキが高速でシャッフルされる。

五枚の手札を引き終わる。その頃になってやっとMCがこちらの様子に気づいた。


『これはなんという事だー!? 進行役を無視してデュエルが始まっているぞー!?』



「デュエル?」


「……デュエル。先攻は俺だ」


コナミは《メカウサー》を選び、裏側守備表示でセットした。手札の中には《増援》がある。


次のターン、戦闘破壊されて出て来た二体目の《メカウサー》と、《増援》でサーチした《チューン・ウォリアー》とで《スカー・ウォリアー》をシンクロ召喚。


そうすれば、《メカウサー》の効果ダメージと合わせて戦いを有利に進められるだろう。



(とりあえず、初手はこれで問題ないはず……)



コナミはさらにカードを一枚伏せ、手札を四枚残してターンを終えた。



「もう、待ちきれない! アタシのターン、ドロー!」



デュエルはまだ始まったばかり。相手も最初は様子見から始めるだろう。そんな風に考えていた。

しかし、


「手札から魔法カード、《暗黒界の雷》を発動! フィールド上にセットされているカードを一枚を破壊!」



突然降り注いだ雷が裏側守備の《メカウサー》を直撃。一瞬で破壊してしまった。



「…………!」


「さらに《暗黒界の雷》の"効果"で、手札のカード一枚を墓地へ……」


(手札一枚を"コスト"にセットカードを破壊か……)



カード二枚を消費して一枚破壊とは割に合わない気もするが、破壊するカードの種類を問わないというのは強力だ。


しかしながら、現時点で手札の枚数は互角。フィールドのカードを含めればコナミの方が有利という事になる。《メカウサー》を失ったのは痛いが、初手は取ったと言って良い。


そう思ったのも束の間。


相手のフィールドに黒い影が立ち込め、悪魔の姿を成した。



《暗黒界の軍神 シルバ》


攻撃力2300。レベル5の上級モンスターである。それが、なんの前ぶれも無く現れた。



「このカードは手札から墓地へ捨てた時、墓地から特殊召喚する事が出来るの! さらに《暗黒界の狂王 ブロン》を召喚!」


攻撃力1800のモンスター。合計ダメージは既にライフポイントの初期値を上回ってしまった。しかし、これだけで終わらない。



「まだまだ! 手札から魔法カード《おろかな埋葬》を発動! デッキからモンスターを一枚選んで墓地へ送る! アタシは《暗黒界の龍神 グラファ》を選択!」



レベル8の最上級モンスターが墓地へ。それに伴い、何故かシルバが再び闇に包まれる。その闇が巨大化し、暗黒の龍神となった。



「《暗黒界の龍神 グラファ》は墓地に存在する時、自分フィールドの暗黒界と名の付くモンスターを手札に戻す事で、特殊召喚できるの!」


相手は『どうどう!? 驚いた!?』などと無邪気にはしゃいでいるが、やっていることはえげつなかった。


「じゃあ、二体でダイレクトアタック!」


2ヶ月近い間、放置してしまって誠に申し訳ありませんでした。

以前から体調を崩していたのと、4月から生活環境が劇的に変わったのもあって、更新を疎かにしてしまいました。

今後も定期的な更新は難しいとは思いますが、暇つぶしにでも見て頂けたら幸いです。


では、今回はこの辺で失礼します。ここまで読んで頂いた方、待っていてくれた方、ありがとうございました。


乙!
更新再開してくれてよかった


ご自愛ください

>>248
2chMate 0.8.7.8/KYOCERA/KYY21/4.2.2/GR

龍神の吐いた黒炎が迫りくる。後攻一ターン目で2700のダメージはあまりに大きかった。

コナミは間髪入れずにリバースカードを起動させる。


《ガード・ブロック》


一度だけ戦闘ダメージを無効にし、デッキから一枚ドロー出来る罠カード。その見えない障壁に遮られ、炎は霧散した。

なんとか一ターンキルは凌いだ。コナミも会場の観客達もそう思い、安堵した直後、そんな暇は与えないとばかりに暗黒界の狂王が躍り掛かった。



「ブロンが戦闘ダメージを与えた時、手札一枚を捨てる事が出来る! つまり……」


「ち……!」



夏乃ひなたの手札には捨てられた時に墓地から蘇生する《暗黒界の軍神 シルバ》が握られている。ブロンの攻撃と合わせれば、その合計ダメージは4100。またも一ターンキルが可能な数値だ。


コナミのフィールドは既にがら空き。防ぐ手立ては無い。会場中が息を呑んだ。


ヒット。


狂王の拳が、対戦相手を容易く捉えた。



『決まったー!? なんとも呆気ない幕切れ。コナミ、敗れるのかー!』


「…………」


拳は、コナミの眼前で止められていた。ブロンの体中に小型のモンスターが張り付き、その動きを妨害していたのだ。


「……《クリボー》の効果だ。このカードを手札から捨てる事で、戦闘ダメージを一度だけ無効にする」


(危なかった……)


《ガード・ブロック》の効果で《クリボー》を引いていなければ、今のターンで敗北していた。助かったのは運が良かっただけだ。



「ちぇー。ま、いっか! ターンエンドよ!」



ターンが移り、再びコナミへ回ってくる。ドローフェイズで引いたカードは、



(これなら……)



《閃光のバリア ーシャイニング・フォースー》


相手のフィールドに攻撃表示モンスターが三体以上存在する状況で攻撃を受けた時、その攻撃表示モンスター達を全滅させる罠カード。


相手はどうやらモンスターを大量に展開するのが得意なようだし、これは反撃の狼煙を上げるに充分なカードだろう。


手札には《増援》もある。今は凌いで、チャンスを窺うのが得策。そう考え、コナミは手札から二枚のカードを抜いた。


「モンスターをセット。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」



「はやくはやく! アタシのターン!」



さあ、モンスターを召喚してこい。コナミはいつものポーカーフェイスで、相手が動くのを待つ。夏乃ひなたの手札は四枚となった。


緊張の一瞬。罠を除去されたら終わる。


「手札から魔法カード発動!」


ひなたはカードを一枚伏せた後、見慣れない魔法カードを発動した。



《手札抹殺》



「お互いのプレイヤーは手札を全て捨てて、デッキから同じ枚数ドローする! さあ、何がくるかな~?」


「…………」



ひなたの手札は二枚、コナミのは三枚。《増援》と他二枚のカードを捨ててから、三枚ドローした。


切り札の《増援》を失ったのは痛いが、まだ救いはある。


残りの二枚は手札では活きない物だったし、《手札抹殺》の効果で捨てられた《暗黒界の軍神 シルバ》が出てくるのだ。これで罠の発動条件を満たせる。



「カードの効果で捨てられた事により、墓地からモンスター効果発動!」



思った通り、シルバが墓地から復活した。次の狙いは相手がこのまま攻撃を仕掛けてくる事。モンスターを召喚してくれるなら、もっと良い。



しかし、なかなか望んだ結果にならないのがデュエルというものだ。



「更に《暗黒界の策士 グリン》の効果発動よ! フィールド上の魔法・罠カード一枚を選択して破壊する!」



「……!」



頼みの綱であった罠カードが破壊された。


流石の暗黒界

「シャ、シャイニング・フォース……。あっぶな~」


コナミの目論見をことごとく潰した少女は間一髪といった様子で汗を拭う仕草をしていた。その背後には仁王立ちする三体の悪魔達。


「じゃあ、バトルフェイズ……の前に、フィールド魔法発動!」



《暗黒界の門》


地面から地響きと共に巨大な門がせり出してきた。門は淡い光を放ち、辺りには色のついた霧が立ち込める。


そして、その隙間から漏れ出す障気がフィールドを支配し、モンスター達を強化した。


「このカードはフィールド上の悪魔族モンスター全ての攻撃力を300ポイントアップさせる……さあ、バトルフェイズ!」



攻撃力が3000まで達したグラファの黒炎が、コナミのモンスターを焼き尽くす。



「……《スケルエンジェル》の効果発動。リバースした時、デッキからカードを一枚ドローする」



これで手札は四枚。充分な枚数だが、危機は続く。



「ブロンでダイレクトアタック!」



マントを翻し、再び狂王が突出してきた。直撃をもらえば、その効果によって追撃を貰う可能性が極めて高い。



「……墓地よりモンスター効果発動」


コナミを守るように一つの盾が現れ、ブロンの拳を阻んだ。



墓地から一枚のカードが吐き出された。闇属性のレベル3、戦士族モンスター。



「墓地に存在する《ネクロ・ガードナー》をゲームから除外する事で、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする」



コナミが先ほど投入した四枚の中の一枚だ。極めて使い易い防御効果を持つ、レアカード。



「あ、そのカード! 賞品のヤツだよね? アタシも持ってるー!」


「あ、ああ……」



ひなたは驚くわけでもなく、状況を楽しんでいる。全く動じない。コナミに取って、今までに無いほど戦い難い相手だった。圧されている。ペースが掴めない。



「でも効果を使えるのは一度だけ。……シルバでダイレクトアタック!」



攻撃力を2600まで増した軍神の一撃が遂にコナミを捉えた。光が滝の如く降り注ぎ、そのライフポイントを削り取っていった。



コナミ LP4000→1600



『最初の一撃を決めたのは夏乃ひなたーっ!! コナミ、反撃する事も出来ないー!』


「よっし! ターンエンド!」


ひなたの手札は残り一枚。コナミの手札はドローフェイズを経て五枚となった。


引いたカードは《切り込み隊長》。これも賞品に入っていた一枚である。召喚時にレベル4以下のモンスターを手札から特殊召喚する効果を持つ。


反撃の手は揃った。



「《切り込み隊長》を召喚。そして、効果により……」



《増援》にも描かれている戦士族を代表するモンスターが出現し、その傍らから炎が吹き出した。

《炎龍》


チューナーモンスターが特殊召喚される。そして、


「レベル3の《切り込み隊長》にレベル2の《炎龍》をチューニング……シンクロ召喚」



光の柱が立ち上がり、その中から一体の戦士族モンスターが飛び出して来た。


《スカー・ウォリアー》


コナミの要するシンクロモンスターだ。


「でも、攻撃力2100の《スカー・ウォリアー》じゃ……」


《暗黒界の門》により攻撃力が300ポイントアップし、グラファは3000、シルバは2600そしてブロンは2100に上昇している。《スカー・ウォリアー》では相手にダメージは与えられない。


「《スカー・ウォリアー》で《暗黒界の狂王 ブロン》を攻撃」


それでも構わず、コナミは攻撃を宣言した。


「攻撃力は同じ……相討ち狙い?」


「いや……」


《暗黒界の狂王 ブロン》の拳と《スカー・ウォリアー》の短剣が交差し、お互いを貫いた。


爆発。


残ったのは《スカー・ウォリアー》だけだった。


「……《スカー・ウォリアー》は一ターンに一度だけ、戦闘では破壊されない」



「ええー!? そ、そんなぁ」


「カードを一枚伏せて、ターン終了」



なんとか一矢報いたコナミは手札を二枚残してターンを終えた。



「ふっふーん、アタシのターン!」


ひなたの手札も二枚となる。ブロンを倒されたものの、強大なモンスター二体を従えているためか、余裕を崩した様子は無い。むしろ、苦し紛れの反撃と思ったらしい。


そこに隙が生まれた事を、コナミは見逃さなかった。


「《暗黒界の門》の効果を発動! 墓地の悪魔族モンスターを除外する事で、手札の悪魔族を一枚捨て、カードを一枚ドローする!」


墓地の《暗黒界の策士 グリン》が除外され、ひなたの手札が一枚捨てられた。


「そして墓地に送られた事で、《暗黒界の武神 ゴルド》が特殊召喚!」


黄金の武神が召喚される。その攻撃力は2600。シルバと同等の数値である。


「バトルよ! グラファで攻撃!」



三度目の黒炎が迫る。


やっと引っかかってくれた。


「……トラップ発動」


《オーバースペック》


今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙ー

乙!
防戦一方だったがここから反撃できそうだな

「なに? そのカード……」



小首を傾げるひなたの傍らで、彼女のモンスター達が火花を纏い始めた。



「《オーバースペック》が発動された時、フィールド上に存在する攻撃力が元々の数値を上回っている……つまりは強化されたモンスターは全て破壊される」


「え……」



ひなたのフィールド魔法《暗黒界の門》は全ての悪魔族モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせる効果を持つ。


従って、悪魔族である《暗黒界の龍神 グラファ》《暗黒界の武神 ゴルド》《暗黒界の軍神 シルバ》は全て、強化された状態だ。《オーバースペック》の効果を受ける事になる。



火花は大きくなり、やがてそのフィールドを覆い尽くした。


爆発。



「そんなー!?」


ひなたのモンスター達は一体残らず破壊され、そのフィールドはがら空きとなった。



『決まったー! 大量展開に全体強化という夏乃選手の戦術を逆手に取ったコナミの罠だーっ!』




「……モンスターはいなくなったが、バトルフェイズを続けるか?」


「うぅー」



悔しげに唸り、ひなたはバトルフェイズを破棄し、メインフェイズ2に移った。そして、手札で最後に残った一枚のカードを取り、



「《暗黒界の導師 セルリ》を召喚ね。そして……」



再び地面から黒い霧が吹き出し、セルリを包み込んだ。



「墓地からモンスター効果発動よ! 暗黒界と名の付くモンスターを手札に戻す事で、《暗黒界の龍神 グラファ》を特殊召喚!」



「…………」



またもや攻撃力3000のグラファが現れた。不死身の龍神を盾にしたひなたは、これでターンを終える。



「俺のターンだな。ドロー」



コナミはカードを引き、三枚となった手札を確認する。ちょうど、タイミングの良いカードが来てくれた。



「……《海皇の長槍兵》を召喚」



コナミの場にレベル2、攻撃力1400の通常モンスターが、よりにもよって攻撃表示で召喚された。


『コナミ、通常モンスターを攻撃表示で召喚! またもシンクロ召喚に繋げる作戦かー!?』


今の時代、デュエルで一番の脅威となるのはシンクロモンスターだ。当然、使用する者と戦う場合、否が応でも注意せざるを得ない。


そして、一回戦でセミプロデュエリストをシンクロモンスターで破ったコナミは、一般にはシンクロ使いとして認知されていた。


だが、コナミは今までシンクロ召喚に頼らない戦術を用いて戦ってきた。むしろ、強力なシンクロモンスターより貧弱な下級モンスターの扱いの方が、よほど慣れているのである。


中でも、大型モンスターを小型モンスターでひっくり返すのは、得意な戦術だった。



「……装備魔法、発動だ」



《下克上の首飾り》



小さな首飾りが現れ、《海皇の長槍兵》に装備された。



「バトルフェイズだ。《海皇の長槍兵》で《暗黒界の龍神》を攻撃」



「な、なんで……?」



小さな海竜族モンスターが、自身の何倍もの体躯を持つ龍神に躍り掛かった。攻撃力の差は1600。当たり前というべきか、吐き出された黒炎に長槍兵は包み込まれた。



「戦闘時、《下克上の首飾り》の効果発動。装備モンスターの攻撃力は、相手モンスターのレベル差一つにつき、500ポイントアップする」



炎が千切れ飛び、中から《海皇の長槍兵》が飛び出して来た。その勢いのまま突進し、か細い槍を龍神に突き立てる。



「レベルの差は6。攻撃力は3000上がって、4400だ」



攻撃力は上回り、グラファは破壊された。その差1400ポイントが、ひなたのLPから引かれた。


「うぅ……っ」



夏乃ひなた LP4000→2600



「続いて、《スカー・ウォリアー》でダイレクトアタック」



短剣を煌めかせ、白銀の戦士が突撃した。この攻撃でひなたのライフは残り500。一撃で決められる数値になる。勝利は近い。



「ここでリバースカード発動! 速攻魔法よ!」



《暗黒界に続く結界通路》



「このカードの効果で、墓地の暗黒界と名のつくモンスターを一体選択し、特殊召喚!」



当然、選択されたのは《暗黒界の龍神 グラファ》。モンスターが召喚された事で、コナミの攻撃は中断された。


攻撃力2100の《スカー・ウォリアー》では3000のグラファには勝てない。残念だが、諦める他ない。


攻撃宣言をしてしまったため、《スカー・ウォリアー》は表示形式の変更が出来ない。コナミはカードを一枚伏せて、ターンを終えた。


これで手札はゼロ。いよいよ後がなくなって来た。


だが、《下克上の首飾り》があれば《海皇の長槍兵》は戦闘で負ける事は無い。それに、夏乃ひなたの手札は残り一枚だ。中身も分かっている。


《暗黒界の導師 セルリ》。効果もそれ単独では意味を成さない。先ほど召喚された時にしっかりと確認していた。


《オーバースペック》が決まった以上、戦況はコナミが圧倒的に有利。それは会場の誰もが理解していた。対戦相手も例外ではない。



「こ、これはピンチじゃなくて演出よ! アタシのターン、ドロー!」



手札は二枚になり、メインフェイズへ。



「《暗黒界の龍神 グラファ》で《スカー・ウォリアー》に攻撃!」



たとえ次のターンに戦闘破壊されようと、グラファには無敵の再生能力がある。今はコナミのライフを削り、その差を縮めようという作戦なのだろう。


だが、そうはいかない。



「ダメージステップ時、リバースカード発動」



《ミニチュアライズ》

炎を吐き出す寸前のグラファに、カードから放たれた光が当てられた。みるみるうちに体が小さくなっていく。


《ミニチュアライズ》は選択したモンスターのレベル一つと、攻撃力を1000ポイント下げる効果を持つ永続罠だ。


グラファの攻撃力は2000となり、《スカー・ウォリアー》を下回った。たった100の差だが、それでも勝敗を分ける決定的なものだった。


短剣が龍神の首を裂き、撃破。


夏乃ひなた LP2600→2500



「これで終わりか」


「メ、メインフェイズ2で《暗黒界の導師 セルリ》を召喚して、墓地のグラファを効果で特殊召喚」



何度目の登場になるか分からない《暗黒界の龍神 グラファ》が守備表示で召喚される。



「……カードを一枚伏せてターンエンド」



優勢を保ったまま、コナミのターンがやってくる。やはり、シンクロモンスターがいるとデュエルが進めやすい。コナミはカードを引きながらそう思っていた。


引いたカードはモンスターカード。賞品で手に入れた物の一枚だ。このカードが後の悲劇を引き起こすとは夢にも思わなかった。


特に深い考えもなく、そのカードをセットする。そしてバトルフェイズへ。



「《海皇の長槍兵》で《暗黒界の龍神 グラファ》へ攻撃だ」

今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。



ポットセットしちまったのか

本来であれば針ほどの脅威にもならないであろう、小さな海竜族の細い槍に貫かれ、不死身の龍神が破壊された。


自身の切り札をあっけなく倒され、ひなたは呻く。対戦相手である赤い帽子の決闘者は、有利な状況に油断する事もなく、機械的な動作で追い討ちをかけてきた。


白銀の鎧を纏った戦士族のシンクロモンスターが飛びかかってくる。その攻撃力は2100だ。ひなたのライフポイント2500を削りきる事は出来ないが、それでも直撃すれば勝敗は決定的なものになってしまうだろう。



「リバースカード、発動!」



虚空から伸びた幾本もの鎖が、《スカー・ウォリアー》を絡め取る。動きを封じられた相手のモンスターは攻撃を無理やり中断させられた。



《デモンズ・チェーン》はフィールド上の効果モンスターを一体選択し、その攻撃権と効果を封じ込める永続罠。このカードの前では、どんな強力なモンスターでも無力化される。



「ふう……。助かったぁ」


「……ターン終了だ」



エースモンスターの攻撃を防がれても、相手はペースを崩さない。有利を理解しているのだろう。


あの《海皇の長槍兵》と《下克上の首飾り》のコンボを速やかに何とかしなくては。



「ピンチはチャンス! アタシのターン、ドロー!」



何とかなるだろう。いつもの漠然とした前向きな考えでもって、ひなたはカードを引いた。これで手札は三枚。その内の一枚は《暗黒界の導師 セルリ》だ。



「まずは《暗黒界の門》の効果を発動!」



墓地から《暗黒界の狂王 ブロン》が除外され、ひなたは手札を一枚捨てた。そして一枚ドローし、捨てたカードの効果が発動する。


《暗黒界の狩人 ブラウ》は効果で捨てられた時、カードを一枚ドローできるのだ。


これで更に手札を補充。



「モンスターをセット。カードを一枚伏せてターンエンド」



伏せたモンスターは《暗黒界の斥候 スカー》だ。どうせグラファを蘇生させて戦闘耐性の無くなった《スカー・ウォリアー》を破壊しても、返しのターンで長槍兵にやられるに決まっている。


ここはサーチ効果のあるスカーで少しでも体勢を整えた方が良いだろう。自分でも驚くほどの頭脳派ぶりだ。妹にも見せてやりたい。ひなたはそんな事を考えながらターンを終えた。


始まる相手のターン。ここで事件が起きた。



相手は引いたカードをそのままセットし、おもむろに前のターンで伏せていたモンスターを捲った。



「……《メタモルポット》を反転召喚」


「……え」



これには呆気に取られた。《メタモルポット》はお互いの手札を全て"捨て"、さらに五枚ドローするリバース効果モンスターだ。


その特性上、暗黒界とは非常に相性の良いカードである。ひなたも先の賞品で入手し、そのままデッキに入れていた。



(な、舐めプ? 舐めプなの!?)



突然の舐めプに混乱するが、それでも身体は動いてくれた。前のターンで伏せていた罠カードを発動させる。



「あ、《暗黒よりの軍勢》を発動! 墓地の暗黒界と名の付くモンスターを二体選択して、手札に戻す!」



墓地の《暗黒界の軍神 シルバ》と《暗黒界の狩人 ブラウ》を選択。そして、そのまま《メタモルポット》の効果によって墓地に捨てられた。



「……あ、ちょっ」



一連の流れを見て、相手も不穏な空気を感じ取ったようだ。もう遅いが。


手札にカードが五枚補充された後、墓地のカードが効果を発動させる。


「《暗黒界の軍神 シルバ》は効果によって捨てられた時、特殊召喚出来る! さらに!」



デュエルディスクのセメタリーゾーンから、続々とカードが吐き出されてくる。



「相手によって捨てられた時、シルバの効果で相手は手札を二枚選択して、デッキの下に戻す!」


「む……」



コナミは五枚の内から二枚を選び、デッキの下に戻した。これで残りは三枚。しかし、ひなたはブラウが相手の効果によって捨てられた事で、カードを二枚ドロー。手札を七枚に増やした。



「もういっちょ! 《暗黒界の導師 セルリ》が捨てられた事で、セルリを相手フィールドに守備表示で特殊召喚!」



ひなたのモンスターが相手フィールドに現れて、その効果を発動させた。


セルリは暗黒界と名の付くカードの効果によって捨てられた時、その相手──この場合はひなたになる──は手札を一枚選んで捨てる。



「セルリの効果で、アタシは手札を一枚墓地へ捨てる」



七枚の手札から飛びきりの一枚を選び、捨てた。これにより、効果発動。


捨てたのは、暗黒界最強の除去能力を持つモンスター。



「《暗黒界の魔神 レイン》が相手の効果によって捨てられたから、墓地から特殊召喚! そして、効果発動! 相手フィールドのモンスターか魔法罠のどちらかを選択し、その全てを破壊する!」



選ぶのは当然、モンスター。レインの放った七色の光は雷となり、コナミのフィールドを焼き払った。これで全滅。


一連の効果処理が終わり、対戦相手と観客達がようやく状況を理解し始める。



『……こ、これはどうした事だー!? コナミ、ここで痛恨のミス! だが、まだターンは終わっていないぞー!』


「……あ、俺のターンだったか」



明らかに立ち直っていない様子ながらも、コナミはターンを再開する。とはいえ、フィールドはほぼ全滅。戦況は一転して圧倒的に不利となった。



「カードを三枚伏せて、ターン終了」



これで手札はゼロ。ひなたはドローフェイズで手札を七枚にし、止めを刺しに掛かった。




ミスです。コナミが最後に伏せたカードは三枚ではなく二枚という事で。

コナミの手札は0枚→一枚になります。


訂正すみません。

「手札から《暗黒界の雷》を発動!」



《暗黒界の雷》は相手の伏せカードを破壊する効果を持つ。相手フィールドには三枚の伏せカード。いずれも魔法罠だ。



「左のカードを選択!」


「……外れだ。リバースカード発動」


《魔法効果の矢》


相手フィールドに存在する表側表示の魔法カードを全て破壊する速攻魔法だ。


この効果により、《暗黒界の門》と《暗黒界の雷》が破壊され、ひなたのライフポイントにダメージが入った。


「う……っ」



夏乃ひなた LP2500→1500



「さらにモンスターを反転召喚!」


《暗黒界の斥候 スカー》が姿を現し、そのままグラファを蘇生させる糧となった。



「さらに手札から《暗黒界の術士 スノウ》を召喚! バトルフェイズよ!」



相手のライフは残り1400。これで決める。レインから再び七色の雷が放たれた。



「……罠カード、発動」



《ロスト・スター・ディセント》


墓地のシンクロモンスターを守備表示で蘇生させる罠カードだ。しかし、蘇生したモンスターはレベルが一つ下がり、効果を失った上で守備力はゼロとなる。



《スカー・ウォリアー》が守備表示で特殊召喚。これにより、攻撃は中断された。


しかし、あのシンクロモンスターからは戦闘耐性が失われている。レインの攻撃が防がれても、後続までは防げない。三度、レインの閃光が相手フィールドに降り注いだ。



「……まだだ。もう一枚の罠カードを発動」



《シンクロ・バリアー》



「まだそんなカードを……!」



《シンクロ・バリアー》はシンクロモンスターをリリースする事で次ターンまでのダメージを全てゼロにする罠カードだ。


蘇った《スカー・ウォリアー》はすぐさま墓地に送られ、光の壁がコナミを守る。


驚異的な粘りだと、ひなたは思った。《シンクロ・バリアー》は《メタモルポット》の効果発動前に伏せていたカード。そこから《ロスト・スター・ディセント》を絡めてくるとは、異常とも言える引き運である。



《暗黒界の雷》で狙っていれば、このターンで勝てたはずだった。



(……ま、そんなこと言ってたらキリが無いしねー)



あっさりと思考を切り替え、ひなたは手札から魔法カードを発動した。



《暗黒界の取引》


お互いにカードを一枚ドローした後、手札を一枚選んで捨てるカードだ。《暗黒界の尖兵 ベージ》を捨てる。


コナミは数秒間悩んだ後、《イージーチューニング》を捨てた。あれは先のデュエルでセミプロを破った切り札のはず。ひなた勝利を確信した。



「《暗黒界の尖兵 ベージ》が効果で墓地に捨てられた事により、このカードを特殊召喚!」


墓地から攻撃力1600のベージが特殊召喚された。これで、ひなたのフィールドはモンスターで埋め尽くされた。


「カードを二枚伏せて、ターンエンド!」


伏せたのは暗黒界を蘇生させる《暗黒界に続く結界通路》と攻撃力1500以上のモンスターを問答無用で破壊し、除外する《奈落の落とし穴》だ。


さらに手札には《死者蘇生》と《暗黒界の斥候 スカー》が控えていた。まさに万全の布陣だった。


どや顔を浮かべつつ、ひなたは相手に最後のターンを渡した。






《暗黒界の龍神 グラファ》

《暗黒界の魔神 レイン》

《暗黒界の軍神 シルバ》

《暗黒界の術士 スノウ》

《暗黒界の尖兵 ベージ》



五体のモンスターを並べられた挙げ句、フィールドはがら空き。手札は一枚。絶対絶命の状況で、コナミはデッキに指を置いた。


手札に残った最後のカードは《スクラップ・ワーム》。相手に直接攻撃できる小型モンスターだ。


「…………」


先ほどの《暗黒界の取引》はあまりにも痛かった。


《イージーチューニング》があれば、このターンで勝つ事が出来たのに、あの一枚でキーカードを捨てる羽目になってしまった。

このドローで全てが決まる。

絶望的な賭けだが、それだけに楽しかった。気分が高揚し、身体中の血液が沸き立つように感じる。この感覚がたまらなく好きだった。


何が来たら勝てるのか。そんな事は考えなかった。どんなカードが来ても良い。


「……ドロー」

そう思い、デッキトップの一枚を引き抜く。


「《スクラップ・ワーム》を召喚。そして、墓地よりモンスター効果発動」


コナミの墓地から《ADチェンジャー》が除外される。序盤の《手札抹殺》で《増援》と共に捨てられていた一枚だ。その効果により、《暗黒界の魔神 レイン》が守備表示に変更された。



「……バトルフェイズ。《スクラップ・ワーム》は相手プレイヤーに直接攻撃できる」


「でも、その攻撃力じゃ……」


《スクラップ・ワーム》の攻撃力は500。相手ライフの三分の一しかない。


「最後の一枚だ」


コナミは手札のカードを発動した。速攻魔法。


《死角からの一撃》


相手の守備モンスターの守備力を、自分の攻撃表示モンスターの攻撃力に加える効果を持つ。《暗黒界の魔神 レイン》の守備力1800が《スクラップ・ワーム》に加算され、その攻撃力は2300となった。


「うあぁあああっ!?」



夏乃ひなた LP1500→0



今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。


渋いカード使って勝つと気持ちいい


こういうカード使って勝つ感じがコナミ君の本領よね

乙!
今回は危なかったな。

KCカップの準決勝へ駒を進めたコナミは翌日、遊星を自宅へ招いていた。


暮らしている場所は本来、治安維持局の事務所として利用される筈だった五階建てのビルである。


建設されたは良いものの、計画は途中でご破算になり、エレベーターが無いというだけで放置されていた物だ。コナミはゴドウィンから貸し与えられており、それを実質的に一人で使用していた。


一階部分はガレージとなっており、その広さもあってDホイールの収容、整備も問題なく行える。ほとんど使っていないが。



「……こんな所を与えられていたのか」



遊星に言われ、コナミは頷いた。放置されていたと言っても、建物自体には全く問題は無く、盗聴器等の不審物も仕掛けられていない。住む分には何不自由なく生活出来る。広過ぎて気持ち悪いくらいだった。


ガレージに入り、シャッターを閉める。内部に明かりが付き、広い空間を照らし出した。



「良い暮らしをしているんだな」


「……代わりに色々な仕事を押し付けられているがな」


「仕事……?」


「ネオドミノシティの再整備計画があるのは知っているか」



「いや……」



「セキュリティを始めとする緊急車両をいち早く現場に送るための物だ。完成すれば、有事の際に街が変形して専用のレーンが浮き出てくるらしい」


「……信じられないな。それにお前が関わっているのか」


「目的地までの最短コースを割り出すプログラムを任されている。この街に来た当初はセキュリティラインの整備とかやらされていたがな」



セキュリティラインとは事件発生の際、近くの治安維持局隊員を最短ルートで現場まで誘導するシステムの事だ。


例えば、デュエル中に危険な目にあった時、デュエルディスクの認識番号から居場所を割り出してセキュリティを向かわせる事が出来たりする。街が発展を繰り返したために陳腐化していたのを、コナミが街中をうろついて整備したのだ。


その時の様子をツァン・ディレからは浮浪者などと言われた(地味に気にしていた)が、あれはちゃんとした意味があったのである。


そして皮肉にも、コナミがサイコデュエリストに襲われた際に牛尾らが迅速に駆けつけられたのは、そのセキュリティラインのおかげだった。



「まあ、俺の話はいい。問題は──」


「……俺を狙っているという男の事か」


「そうだ」



遊星には既に、コナミと龍可が遭遇した黒装束の事を話してある。


「心当たりはないか」



連中が危険な集団だという事はコナミが誰よりも理解している。たった十歳の少女を攫うためだけに、街の一角を占拠して罠を張ったのだ。



「心当たりはある。あるが……数が多すぎて分からないな。この街に来る以前から、俺は人の憎しみを買い過ぎている」


「そうなのか」


「……ああ」



遊星が前に住んでいたサテライトは、ほとんど無法地帯のような所だった。荒事とは無縁ではいられないだろう。



「そんな事のために、俺をここへ呼び出したのか?」


「……そんな事?」


「今の俺にはやらなければならない事がある。どこの誰が狙っていようが関係ない」


「…………」



ジャック・アトラスとの決着。それが、遊星がシティに来た理由だ。今はそれしか考えられないのだろう。彼が今日までどのような目に遭ったかは聞いている。


マーカーの刻印。セキュリティの執拗な追跡。ゴドウィンから受けた身体検査や、留置場での過酷なデュエル。衣食住を保証され、悠々自適な暮らしをしていたコナミと違い、いずれも苦痛を伴う事ばかりだ。



だが、とコナミは言った。



「ジャック・アトラスと戦う前に、イベントそのものを壊されては意味が無い」


「……その黒装束が襲ってくるというのか」



遊星の問いに頷き、コナミはガレージ内のモニターを一つ引き寄せた。そこには最近頻発している奇妙な事件についての記事が載っていた。



「"相次ぐ意識不明者。ガス漏れが原因か"……この記事が何の関係があるんだ」


「他にも何件か同様の事件が起きている。被害者の数は二桁を超えた。治安維持局は必死で隠しているが、原因を特定できていない」



それどころか、犠牲者の中にはセキュリティの隊員も含まれている。コナミはそう続けた。



「…………」



遊星は沈黙した。ただの偶然と切って捨てるのは簡単だが、彼の中の何かがそれをさせないようだった。本当は龍可と同じで、薄々感づいていたのかもしれない。



「お前の関係者が襲われる可能性は充分にある。なにより、この件は龍可にも関係している。何かあった時、俺なんかじゃ力にはなれないだろう」



記憶も無く、ゴドウィンに生かされているような状態のコナミでは、あの黒装束達には太刀打ち出来ない。



「……話は覚えておこう」


「すまないな」


コナミが謝ると、遊星は目を伏せた。


「いや、俺の方こそ悪かった。せっかくの忠告を……」


「話を聞いてくれただけありがたい。それで、本題なんだが……」



コナミはそう言うと、キーボードを操作して画面を切り替えた。



「本題? まだ何かあるのか」

「ああ。Dホイールについてだ。聞くなら遊星しかいないと思ってな」



コナミが表示したのは設計図だった。二輪の乗り物。各種ユニットの配置からして、Dホイールの物のようだった。



「……作るつもりか?」


「どうだろうな。とりあえず、基本的な操作方法は習った。後は筆記試験をパスすれば、ライセンスを取得出来る」


「ライセンスが取れたとしても、普通のデュエルとライディングデュエルは全くの別物だ。今はスタンディングに集中した方が良いだろう」


「……やはり、そうか」



コナミはまだまだデュエルを始めたばかりだ。大会の準決勝まで進んだといっても、《メタモルポット》の件などがある。とてもスタンディングを極めたとは言えなかった。



「だが、新しい事に挑戦するのは良い事だと思うぞ。チャレンジ・スピリッツは大事だ」



遊星は画面の設計図を覗き込む。



「……かなり古いタイプだな。おそらくは、最初期の物だ」


「ああ。現行のDホイールと比べると、非効率的な部分が目立つ。これでライディングデュエルをやるとして、実用に耐えうるか意見を聞きたくてな」



この設計図はゴドウィンから二枚のシンクロモンスターと共に渡された物だった。もしかしたら、これに乗る時が来るかもしれない。


そう思って、ゼロからDホイールを製作した遊星を呼んだのだった。



「問題はエンジンだろう。出力が分からないと、答えようが無い」


「それが、記載されていないんだ」


「……これも、ゴドウィンから渡された物か?」


「そうだ」


「気をつけろ。奴は信用ならない」


「それは分かっているが、これが記憶の手掛かりになるかもしれないんだ」


「なに……?」



コナミは、このDホイールと自身にまつわる情報を、デュエルの師匠に話した。


休日の昼間。藤原雪乃はうんざりとした表情でアカデミアへ続く道を歩いていた。その後ろでは、シワ一つ無い制服を着た眼鏡の女生徒、原麗華が監視するように付いて来ている。



(誤算だったわ……)



アカデミアでの雪乃は成績こそ良いものの、素行不良な生徒だった。体育祭などの行事はすっぽかすし、教師に対する侮ったような言動も頻繁に見られた。


仕方ないだろう、といつも思う。行事をすっぽかすのは出る必要を感じないからだ。両親が有名人である雪乃は幼い頃から派手なパーティーに出席していたせいで、社交性は人並み以上にある。


教師に対する言動は彼らの力不足が原因であり、その評価を覆せない方にも問題があるだろう。教師より遥かに強い生徒が何人もいるアカデミアがおかしいのだが。


今度来る教育実習生は恐ろしく強いそうで、KCカップの本戦にもまだ残っている。そういった人物が相手なら、雪乃も態度を改めるだろう。


要は、立場に実力が付いて行ってない人間が嫌いなのだ。藤原雪乃は実力主義者だった。


しかし、そんな雪乃にも苦手な人間はいる。後ろにいる原麗華がそうだった。



「…………」


「逃げようとか考えてます?」


「まさか」


笑ってごまかし、ため息をついた。


原麗華は法律家の両親を持つ典型的ながり勉であり、典型的な"委員長タイプ"だ。何より規律を重視し、それを他人に強要してくる。


それだけなら構わなかった。他人が何に重きを置いて生きるのは自由だし、何を主張するのも自由だというのが雪乃の考えである。


しかし、原麗華は実力主義の雪乃にとって最も苦手な自身と互角の力を持った者だった。何度もデュエルした中で戦績は完全に五分……いや、この間の敗北で僅かに負け越していた。



実力主義者としては当然、彼女の意見を聞かなくてはならない。無視は出来なかった。



「あまり早足で歩かないで下さい」


「……はーい」



今日はアカデミアの生徒として、街の人にデュエル関連の話題を尋ねて回るという仕事をしている最中だった。


好きな種族、好きなデュエリスト、最近気になるカードなど、どうでもいい事をどうでもいい人に尋ねなくてはならない。最悪の仕事である。



「……では、このエリアで再び聞き込みを開始しましょうか」


「…………」


「もう一度言います?」



眼鏡がキラリと光る。雪乃は勘弁してくれとばかりに、


「分かったわよ。……もう」


「よろしい。ノルマは各自、五人ということで。では」



背筋を伸ばして歩いていく委員長様。教員連中が考えた馬鹿な課題を全力でこなそうとする姿勢には頭が下がる思いだった。


(……仕方ない)


辺りを見回す。そこで、見知った人物が歩いて来るのが見えた。

赤い帽子に赤いジャケット。



(あれは……)


面白い獲物を見つけたとばかりに、雪乃の形の良い目が光った。

今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙ー
ゆきのん!ゆきのん!

乙です

KCカップベスト4に残るまでになった人物は、いつもと変わらぬ様子で街を歩いていた。手には数枚のカード。キョロキョロしているところを見ると、



「また、カード拾い?」


「……?」



赤い帽子の人物が振り返る。どんな反応をするか密かに楽しみだったのだが、彼は無表情で言った。



「……藤原か。四日と十一時間ぶりだな」


「こんな美人が声をかけてあげたのに、その反応……」


「……? もう少し詳細に言った方が良かったか。それなら──」


「いらないわ」


「そうか」


「……まったく。もっと他に言う事があるでしょう」



この唐変木とは以前にデュエルをした時以来、何回か一緒に行動していた。食事も共にしたし、自宅の位置も知っている。



「……学校はどうした」


「今日は振替休日。KCカップにうちの生徒が出場していたでしょう? 坊やが二回戦で戦った……」


「夏乃ひなたか」



雪乃は頷いた。

「学校を挙げて、その応援をね。夏乃さんのクラスは会場のスペースを一部貸し切ってたみたいだし……応援歌とか聞こえなかった?」


「……いや、全然」


「でしょうね」



この男がデュエル中に周囲の状況など気にするはずが無い。



「で、休日にも関わらず、私は委員長に巻き込まれて課題を手伝っているわけ」



雪乃が指差した先では、軽薄そうな若者に説教している麗華の姿があった。大方、ゴミのポイ捨てをしたところを見つけたとか、下らない事だろう。



「手伝っているのか。そんなに勤勉だとは知らなかった」


「でしょう?」



雪乃はにっこりと笑う。本当は昨日学校をフケたせいなのだが、その事は言わなかった。良い女は秘密を作るものだ。


その証拠に、道ゆく男達は雪乃の笑顔に見とれている。例外はその笑顔を向けられている人物だけでだった。



「じゃあ、質問なんだけど」



課題の対象としては申し訳ない人物だろう。なにしろ、イベントの主役なのだ。きっと五人分くらいの価値はある。あわよくば、彼だけでノルマを終わらせる事が出来るかもしれない。


「最初の質問。好きなデュエリストは?」


「……好きなデュエリストか。そうだな──」


「私ね。ありがとう、知ってたわ。次の質問だけれど……」


「…………」



書類に好き放題書きながら、項目を埋めていく。コナミはされるがままで、特に文句も無いようだった。



「尊敬するデュエリストも藤原雪乃、と。これが最後の質問ね……」


「お前のパートナーだが」


「委員長? 放っておけば帰ってくるでしょう。だいたい、パートナーじゃ……」


「囲まれているんだが」


「囲まれてる? 誰に?」


「数人の男だ。穏やかな空気じゃない」



そう言われて見てみると、確かに麗華は囲まれていた。先ほど注意していた若者と、恐らくその仲間だろう。数に任せて強引な手段を取ろうとしているようだ。



「……まったく。仕方ないわね」



楽しい時間は終わりだ。雪乃は面倒だと思いながらも、委員長のもとへ向かった。


「ちょっと、あなた達」


「ああ? なんだよ」


「あ、藤原さん……」



後ろから声をかけると、若者達は振り向いた。麗華一人に対して、五人もいる。情けない連中だ。雪乃が最も嫌いな種類の人間だった。


囲まれていた方の麗華は、特に怯えている様子はなかった。慣れっこなのだろう。いい加減にして欲しかった。



「どうしたのかしら?」


「ポイ捨てですよ。ほら、そこに」



見れば、道の真ん中にゴミが散らばっていた。グシャグシャになった複数の紙袋と、ドリンクが入っていたのだろう空の容器が人数分。シティで有名なハンバーガーショップの、ドミノバーガーのロゴが入っている。



「ゴミのポイ捨ては犯罪です。街の景観を損ねますし、何より不衛生極まりません。ドミノバーガーの方にも失礼ですから、注意をしていました」



麗華は右手で眼鏡の位置を整えながら言った。レンズがキラリと光る。



「そ、そう……」



やはり苦手だと、雪乃は苦笑いを返した。しかし、言い分はこの上なく正しい。


「だからぁ、言ったじゃん。落としただけだって」


「そうそう。別にポイ捨てするつもりなんかなかったし」



頭の悪そうな言葉を重ねながら、若者達は自己弁護に入る。



「なら、拾って下さい。こうしている間にも、歩く人の邪魔になっていますから」


「はあ?」


「なんでお前にそんなこと言われなきゃいけねーわけ?」


「関係ねーじゃん」



再三の注意にも耳を貸す気の無いらしい若者達は、麗華と雪乃の顔を舐めるように見て、



「それよりさぁ、君たち可愛いねー?」


「俺たちに聞きたい事あるんでしょ?」


「なら、場所を移してさ。そうだな……もっと暗い所、行こっか」



そんな事を言い始めた。



(……まあ、こうなるわよね)



若者達は全員、デュエルディスクを装着しているが、近いイベントに合わせただけの、ただのファッションだろう。電灯に集まる蛾のような連中だ。



「そうだなぁ、とりあえず……」



雪乃の肩に手が置かれる。人数では怯まない、口でも勝てそうに無い。なら、やることは一つ。力づくだ。


いい加減、嫌になった。目を閉じ、



「……消えなさい」



決して大きくはないものの、良く通る声で告げた。



「法も言葉も分からないお猿さん達に付き合ってあげるほど、私達も暇じゃないの。そこのゴミを拾って、檻の中に帰りなさい」


「さ、猿……!?」


「このアマ……!」



肩にあった手が、そのまま胸倉を掴もうし、横から伸びてきたもう一本の腕に掴まれた。腕の主は今まで傍観に徹していた赤い帽子の人物。コナミだった。


「い、痛……」


チンピラの腕にコナミの指がめり込む。雪乃の耳元で、ギシギシと筋肉と骨の悲鳴が聞こえた。胸倉を掴んでいた指が無理やり開かれる。


コナミは空いているもう一本の腕で西の方角を指して言った。


「動物園はあっちだ。早く帰れ」


ちょっとご飯食べます

このコナミ君とはリアルファイトしないほうがいいなww

「なんだテメェ……!」


「……こいつ、昨日テレビに出てたぞ」


「あ、コナミさん。ベスト4進出おめでとうございます」



チンピラ達はどよめき、絡まれていた女学生は礼儀正しく会釈をした。



「はん、なんだよ。誰かと思えば、暗黒界に《メタモルポット》撃った馬鹿じゃねぇか」


「邪魔する気かよ? 大会で負ける前に、ここで俺が負かしてやろうか?」



コナミに掴まれていた腕を振り払い、威嚇してくる。つくづくみっともないと、雪乃は内心でため息をついた。


こういった人種は見栄で生きている。舐められたら終わりというやつだ。例え、他人にどれだけ迷惑をかけようと構わないが、自分達の中で納得出来ない事には反抗する。


相手に付け入る隙があるなら尚更だ。コナミは大会に残っているものの、世間の評価は決して高くない。


強運だけでのし上がって来たと思われていても仕方がないというのが現実である。


"俺でも勝てる"。コナミのデュエルには、そう思わせる部分が確かにあった。



「デュエルか。悪くないな」



それでも、コナミがディスクを構えると、チンピラは呻いて一歩下がった。




「いえ、デュエルなら私が受けましょう」



眼鏡をクイッとしながら麗華が一歩前に出る。



「私が勝てば、あなた達はゴミを片付けて立ち去る。そちらが勝てば、言うことを聞きます。これでどうですか?」


「は、お前が相手かよ?」


「……あなた達はコナミさんを馬鹿にしましたね」


「あ? 悪いかよ」


「彼に対する侮辱は、二回戦で負けた夏乃ひなたさんに対する侮辱でもあります。それは……許せません。絶対に」



相対する二人のデュエルディスクが起動する。



「坊やの事はどうでもいいみたいね?」


「……何かしたかな」


すっかり蚊帳の外になってしまった二人は複雑な面持ちだった。


「彼女はロックバーンの使い手だったか」


デュエルになると興味津々なコナミが尋ねてくる。



「そうね。つい最近までは」


「変えたのか」


「バーンはバーンだけど、もう"ロック"じゃないの」


今の状況とは直接関係ないんだけど、
コナミ君のDホイールって何か色々言われてたよね

「…………?」


「プロデュエルじゃ、バーンデッキは敬遠されるのは知っているでしょう?」



麗華が今まで使ってきたロックバーンと呼ばれるデッキは、永続魔法や永続罠で相手の動きを封じ込め、効果ダメージで一方的に叩くというものだ。


早期決着は望めないものの、場が整った後は無類の強さを発揮する。相手は何も出来ないまま、4000のライフを削られていくのだ。


だからこそ、エンターテインメントとしてのデュエルでは圧倒的に不人気だった。



「やっている方は楽しくても、やられている方と見ている方はつまらない。バーンカードの枚数を制限する大会まであるわ」



だが、麗華はバーンカードに強いこだわりがあったようで、それを捨てたくはなかったらしい。見ていて楽しいバーンデッキを目指し、完成したのが、これから使われる凶器だ。



「見ていて楽しい、か」


「ええ。びっくりするわよ、きっと」



お互いのデュエルディスクが交互に赤い光りを放つ。そして、その光りは麗華の方で止まった。先攻か後攻か決める権利は、委員長の手に渡った事になる。



「なら、先攻で」


「あら……」



麗華は躊躇いなく先攻を取った。

「さあ、いくぜ。デュエル!」


「デュエル」



お互いが五枚の手札を引き終わる。ドローフェイズからメインフェイズに入り、麗華は丁寧な動作で一枚のカードを発動させた。


《強欲で謙虚な壺》



「私はデッキからカードを三枚捲り、その中から一枚選んで手札に加えます」


「け、結構良いカードじゃねぇか……」



初手レアカードに、相手が怯む。雪乃の隣ではコナミが、



「《謙虚な壺》と《無欲な壺》なら俺も持ってるぞ」


「静かに見てなさい」


「…………」



麗華は選んだカード以外の二枚をデッキに戻して、六枚のままの手札から五枚を抜いた。



「カードを五枚伏せて、ターンエンド」


「おいおい、ガン伏せでターンエンドかよ? 俺のターン!」


通行人は足を止め、用事そっちのけで二人のデュエルを観戦し始めていた。不思議な事に、コナミに気付く人間はいなかった。



「手札から《ハリケーン》を発動!」



《ハリケーン》はフィールド上の魔法罠を全て持ち主の手札へ戻す魔法カードだ。《大嵐》が禁止カードとなっている現在では、最強の伏せ除去カードと言える。



「まずいわね……」


「ああ。モンスターがいない今、これで丸裸になってしまう」


「……相手よ。まずいのは」



コナミが首を傾げると同時に、麗華のリバースカードが開いた。



「"チェーン"します。リバースカード発動」



《強欲な瓶》



「は、それがどうし……」


「さらに発動」


《仕込みマシンガン》


「ちょ、ちょっと……」



続いて、三枚のカードが次々と発動。


《チェーン・ブラスト》
《積み上げる幸福》
《トラップ・キャプチャー》



そして、最後の一枚。



《連鎖爆撃》


麗華の発動した伏せ1枚多くないか?

ミスです。トラップ・キャプチャーの事は忘れて下さい。すみません。

「さあ、問題です。ゲーム中に積み上げられたチェーンブロックは、どのように処理していくでしょう?」



ニッコリと笑って、麗華が質問する。対戦相手はアワアワとして答えられないようだった。委員長は標的を彼から、コナミへと変えた。



「では、コナミさん。一番最初に処理されるカードはなんでしょう?」


「……《連鎖爆撃》だ。現在のチェーンは6。従って、2400のダメージが入る」


「はい。良く出来ました」


「ぐおおっ!?」



チンピラ LP4000→1600



《連鎖爆撃》は積まれているチェーンの数×600ポイントのダメージを与える速攻魔法。そして《積み上げる幸福》はチェーン4以降に発動出来る罠カードで、デッキから二枚ドローする。


手札を三枚にした麗華は事務的な口調で自身が積み上げたチェーンを処理していく。



「500ポイントのダメージを与えた後、《チェーン・ブラスト》は効果で私の手札に戻ります」



チンピラ LP1600→1100



「そして、《仕込みマシンガン》は相手の手札及びフィールド上のカード数×200ポイントのダメージを与えるので……」



チンピラの場と手札のカードは合わせて六枚。1200のダメージとなる。


チンピラ LP1100


足りない。


「これは酷いな」


コナミの一言が、全てを物語っていた。


「ありがとうございました」



麗華が終わりの挨拶をすると共に、相手のライフはゼロとなった。

またミスをしてしまった……。猛省に猛省を重ねます。


では、今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、指摘して頂いた方、ありがとうございました。

壺カードで張り合うコナミ君かわいいww

乙!
LP4000ルールで委員長は強すぎるww

やめろー!こんなのデュエルじゃない!

公衆の面前で惨敗を喫したチンピラ連中は、ゴミを持って我先にと逃げ出していった。麗華はデッキを仕舞うと、こちらに歩いて来る。



「私の新しいデッキ、どうでしたか?」


そう訊かれたコナミは頷いてから答えた。



「良いと思うぞ。何が起きたか良く分からなかったが」


「そ、そうですか?」


(適当なこと言って……)



何だか面白くないと、雪乃はむくれた。麗華が嬉しそうなのもまた、それに拍車を掛ける。それから課題を終わらせ、三人は公園へとやってきた。



「アカデミアの生徒であるお前達に少し聞きたい事がある」


「……? どうしたの、いきなり」



雪乃と麗華は顔を見合わせた。



「最近、シティで体調が崩す人間が増えている事は知っているだろう」


「ああ……。あの、意識不明になるという?」


「そうだ」



こういった事に一番詳しいだろう麗華は、少し黙考した。



「確かに、アカデミア内でも体調を崩している生徒は何人かいますが、異常な数ではありません。丁度、定期試験と行事が重なる時期ですから。普段より多少、多いといったところです」


「……その生徒達に、何か共通点はないか。成績、性別、学年、クラス。住んでいる場所なんかでも良い」


「……そういえば、坊やが戦った夏乃さんも体調を崩したって聞いたわ。大会の次の日だったかしら」


「彼女もか」


「どうしたんです? 何かあったんですか?」



いい加減、妙な質問に耐えきれなくなった麗華が問いただす。コナミは唸ってから、



「今のところの共通点だ。意識不明になるのは決まってデュエリストばかり。何か引っ掛かる」


「それは……不思議な事ではありませんよ。今はイベントが重なっていて、デュエリストの割合が多くなっているだけでしょう。偶然だと思いますが」


「…………」



コナミはまた沈黙してしまった。雪乃は呆れて、溜め息を吐いた。



「……まったく。今はそんな事に構ってる場合じゃないでしょう? 三日後にはベスト4の試合があるのだから、そっちに専念なさい」


「分かっている」


「分かっていないから言ってるの」


「む……」




最近ここを見つけて一気に読みました。面白いです。
更新楽しみに待ってます。

雪乃が腰に手を当てながら言うと、コナミはまた唸った。恐らく年上だろう人物を、こんな事で叱らなければならない状況には違和感がある。



「……騒ぎが大きくなれば、大会に支障が出るだろう」


「あら……案外、やる気があるのね?」



茶化してやると、コナミはぷいとそっぽを向いた。こうやってからかうのが何より楽しい。



「……忠告は受け取っておく。今日は大人しく帰れ」


「そうですね。もう帰宅の時間ですし……」


「帰るわけないでしょう。暗くなってからが、私の本番なの」


「…………」


「…………」


「わ、分かったわよ。帰ればいいんでしょう、帰れば」



二人分の圧力に負けた雪乃はあっさりと折れる。流石に分が悪いと思ったからだ。



コナミは用事があると言って別れ、二人はアカデミアへと続く道を歩いていた。遠くでカラスの声が響いている。珍しく噴水広場に人影は無く、静寂が降りていた。



「それにしても、驚きました」


麗華が口を開く。少しは場を和ませようと思ったのだろう。コナミに放っとかれて不機嫌だった雪乃に気を遣ったのかもしれない。



「驚いた?」


「藤原さんは、もっと他人に興味が無い人だと思っていましたから」


「まあ……人付き合いはあまり良くない自覚はあるけれど」



確かに、アカデミアでの雪乃は周囲と距離を置いていた。これといった理由は無かったが、女優になるための勉強などに時間を費やしていたら、自然とそうなっていたのだ。


同年代の話題にほとんど魅力を感じないのもあった。将来を見据えた生き方をしている身としては、中身の無い会話に参加することを避けたかったのだ。



「それが、あんなに心配したり、注意したり……まるで私みたいだな、と」


「し、心配なんかしていないでしょう。別に」


「ふふ。まあ、そう思いたいのであれば、それで良いと思いますけど?」


「ぐ……!」


からかわれている。これでは立場が逆だ。雪乃は歯噛みした。

「コナミさんは不思議な人ですね。気づけば、アカデミア中の人と仲良くなっていて……」


「何故か女の子ばっかりだけどね」



驚いた事にコナミは、雪乃のクラスにいる女子生徒のほとんどと面識があった。その中には男を汚物と呼んではばからない大庭ナオミや、気難しい事で有名なツァン・ディレなどもいた。


ツァンに至ってはコナミと一緒にいるところを何度も目撃されており、アカデミア男子生徒のヘイトがコナミに集中する一因となっている。



「あんなにデュエルしか見えてない人は珍しいと思いませんか?」


「そうね。街で見かけると、大体いつもデュエルしているもの」



何かに一生懸命な人は好きだ。それは子供でも老人でも変わらない。自分が思春期で悩みが多い年頃なのもあるが、真っ直ぐな人間を羨ましいと思うのだろう。


麗華がデッキを変えたのも、コナミとのデュエルで何か思う事があったのかもしれない。



「……そのコナミが気をつけろと言うのだから、大人しく帰った方がいいのかもね」



「当たり前です。学生たる者、寄り道せずに真っ直ぐ帰るのが……あれは」


「どうしたの?」



また説教かと身構えた雪乃だったが、様子のおかしい麗華に気づき、彼女の視線を辿った。



「……変なのがいるわね」


夕暮れの公園に一人、黒い布に身を包んだ人物が佇んでいた。明らかに異様な雰囲気。左腕には闇色のデュエルディスクを着けていた。



「黒装束にデュエルディスク。……あの都市伝説かしら」



先ほどコナミが話していた妙な事件に関係した物だ。黒装束にデュエルを挑まれ、敗北した者はその魂を奪われる……確か、そんな内容だった気がする。



「ば、馬鹿馬鹿しいですね。だいたい、あの噂は嘘だという話でしょう」



幽霊の類いを嫌う麗華がたじろぐ。件(くだん)の都市伝説は風化するまで時間はかからなかった。意識不明になった者達は短くて一日、長くて三日程度で回復していたからだ。


その後は特に後遺症なども無く、そのまま復帰している。魂を抜かれたにしては、症状が軽すぎだ。



「まあ、変質者の可能性は高いわ。距離は取りましょう」



異様なのは変質者だけではない。今はシティ中が活気づいている筈のに、この近辺には人の気配が感じられない。季節的に有り得ないほど辺りが暗いのも、二人の恐怖感を助長させていた。



(……やっぱり、コナミに付いて来てもらった方が良かったかしらね)



そんな事を考えながら、変質者から距離を離すように歩いていく。常に注意するべく、視線を外さないように気をつけて。


途中、公園の木が視界を遮った。たった一本の広葉樹だ。



「……!?」



しかし、変質者の姿は消えていた。有り得ない。周囲に障害物は無かったし、どんなに早く移動したとしても、一瞬で視界から消えるなどという事は──



「…………あ!」



いつの間にか雪乃の腕に引っ付いていた麗華が叫声をあげた。見れば、変質者は二人の目の前に移動していた。物音一つたてずに、だ。



(……逃げなきゃ)



驚くより先に、雪乃は行動していた。コンビニなどの、二人の足で逃げ込める場所を幾つか考えながら、麗華を引きずるように走り出す。


──逃がさん───


そう耳元で囁かれた時は、流石の雪乃も足が竦んだ。


黒装束と二人を中心に、青い炎が円を描く。これで、逃げ場は無くなった。


後ろで、ザリッと地面を踏みしめる音が響く。意を決して振り向くと、変質者がデュエルディスクを構えていた。



「デュエルの誘いかしら?」



出来る限り、気丈に振る舞う。


「……そうだ」


フードの影に隠れた口が歪む。その瞬間、変質者の身体から黒い障気が吹き出した。








「はあ……どうしよっかな」



ツァン・ディレはコナミの家の前でウロウロしていた。時刻は早朝。彼女のクラスは原因不明の体調不良者が相次いだ事により、学級閉鎖となっていた。


一応、手には勉強道具一式とメモリーチップの入った鞄を持っている。いきなり平日が暇になったので、KCカップの対策でも練りながらコナミの家で勉強でもしようかと思ったのだ。



「まだ寝てるかな……」



あの男は昼過ぎまで寝ている事がある。学生の身分としては、非常に羨ましい。



(しかも、割と良いところに住んでるし)



コナミの家を見上げながら、ツァンは唸った。一階部分はガレージになっている。車もDホイールも持っていないくせに。



「……ん?」



そのガレージのシャッターが開いていく。まさか、コナミは外出するのだろうか、と不安がよぎった。


違う。中から出てきたのは赤いDホイールだった。見たことのタイプだ。ヘルメットのせいで顔は見えなかったが、搭乗者はコナミではないようだった。



(この時間に出てくる……コナミの友達かな)



自動で降りるシャッターを横目に、階段を登っていく。いつも通り鍵は掛かっていないらしく、扉はすんなり開いた。



「……おじゃましまーす」



少し進むと、リビングに出る。テーブルには、食パン二枚と焼いたウィンナーとベーコン、スクランブルドエッグにサラダ、しかもコーンスープが置いてあった。


完璧な朝食だ。先ほどDホイールで出て行った人物が作ったのだろうか。


完全に同棲やないか!ww

「こ、これはなかなか……」



良く分からなかったが、ツァンは敗北感に包まれた。完全な敗北感だった。もやもやしながら寝室へ向かう。


やはり寝ていた。



「コナミ、朝だよ」


「…………」


「コナミ、朝だって」


「…………」


「……死んでんじゃないの?」



ベッドに腰掛け、コナミを揺さぶる。生きてはいるようだ。微かに寝息が聞こえる。



「ちょっと、起きなさいよ。このボクが来てあげてるんだから……」


「…………」



ペシッ。

ツァンの手が打ち払われた。

カチッ。



「起きろって言ってんでしょ、このダメ人間!!」



朝の住宅街に、女子高生の怒声が響き渡った。


コナミは昨日の夜九時に寝て、今まで夢の世界にいたらしい。因みに現在、朝の九時である。半日寝ていたということだ。



「まったく……」



リビング。朝食を食べているコナミに一通りの説教をした後、ツァンは紅茶を煎れていた。



「少しは生活習慣を見直しなさい」


「それはちょっと難しい」


「難しいわけないでしょ。普通の人は皆やってるんだから」


「………この朝食は、お前が作ったのか」



あ、いま話題を逸らした。そう思ったが、口には出さなかった。どうせすぐに直らない事は分かっていたからだ。



「ボクじゃないよ。さっきDホイールで出て行った人が作ってくれたんじゃない?」


「……遊星か」


「ごはんは作ってもらって、朝はボクに起こしてもらって、良い生活ね」


「……昨日の夕食は俺が作った。それに、もともと九時には起きようと思っていたからな」



ということは、その遊星という人物はコナミの起床時間を考慮して朝食を作ったのだろうか。謎が多いこの生物(コナミ)の生態を良く理解していると見える。



「……アカデミアはどうした」


「ボクのクラス、欠席者が多すぎて学級閉鎖になったの。今日と明日だけね」



明後日は土日なので、実質四連休だ。欠席者達には悪いが、気分はホクホクである。



「あ、そうだ。これこれ」


鞄からメモリーチップを取り出した。



「……それは」


「準決勝で戦う相手のデータが入ってる。必要だと思ったから」


「そうか」


「だいたい、アンタのデュエルは危なっかしいの。いっつもギリギリじゃない。見てる方は心臓がいくつあっても足りないわよ」


「む……」



コーンスープの入ったカップを空にしたコナミは唸った。自身のドロー力に任せた戦法について、思うところがあるかもしれない。



「次の対戦相手について、当然少しは対策立ててるんでしょ?」


「……?」


何を言ってるんだとばかりにコナミは小首を傾げる。ぶっ叩きたくなったが、なんとかこらえた。


「加藤友紀さんだよ! うちの学校で教育実習生やる予定の」


「そうか」


「あ、アンタね……」



この男はデュエルにしか興味が無いくせに、相手に関しては無頓着だった。そんなだから、いつも追い詰められるのだ。



「アンタ、今日の予定は?」


「特に無い。お前と同じだ」


「うっさい!」



ツァンは鼻を鳴らして、コナミにメモリーチップを渡す。自身は空の食器を持って、キッチンへ向かった。



「洗い物はボクがやっておくから、アンタはそれ見て予習してなさい」


「……分かった。すまないな」



洗い物を終えてツァンがコナミの部屋へ戻ると、パソコンのモニターに彼はかじりつく赤帽子の姿があった。



「参考になった? 一応、直近のデュエル映像を持ってきたんだけど」


「……この女性なら、控え室で見たことがある。戦士族の使い手だろう」


「そう。基本に忠実。しかも、ベスト8まで使ってたデッキは市販のスターターデッキを少し調整しただけの物だって。実力は明らかにアンタより上だよ」


「そうみたいだな」


「ここまで来たら、残っているのは優勝候補だけなの。今まで通りのやり方は通用しないよ」


「……つまり俺も」


「アンタ以外、ね」


「…………」


「相手が使うだろうカードの傾向を覚えるだけでも全然違うんだから、ちゃんと勉強しなさいよ」



コナミはコクリと頷いた。こういうところは素直で良いのだが。十分ほど映像を見たところで、コナミは何かを思い出したように口を開いた、



「……そういえば、学級閉鎖の件だが」


「? それがどうかしたの?」


「そんなに欠席者が多いのか」


「う、うん……。昨日は藤原さんと原さんが倒れたって。それで……」



二人の女生徒の名前を聞いた途端、コナミは立ち上がった。その勢いに驚く間もなく、彼は部屋から出て行こうとする。



「ちょ、ちょっと!? どうしたの」


「急用が出来た。遊星がどちらに向かったか分かるか」


「えっと……たしかあっちだったと思うけど。あ、ちょっと!」


コナミは飛び出していった。そのままにしておけるわけもなく、ツァンも鞄を持って彼の後を追った。


面白いと言って頂けると、とても励みになります。あまり人のいないスレですが、ちょくちょく読んでもらえると有り難いです。


では、今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。


デュエルマシーンを怒らせると怖いぞ…

めちゃくちゃ面白いから毎日楽しみにしてるます!


どのssでもこの赤帽子は紙束で勝つから怖いわ

乙!
ツァンちゃんも通い妻じゃないか!


このSSがTFSSの中で一番好き

家を出た後もコナミは早足で歩いていた。電話で誰かと話しているため、何が起こっているか尋ねる事も出来ない。


ツァンは仕方なく彼の後ろを歩きながら、通話が終わるのを辛抱強く待った。しばらくして、コナミが携帯端末を懐へ仕舞う。



「ちょっと、どうしたの」


「申し訳ないが、急用が出来た」


「そんなの、聞かなくても分かるわよ。ボクが知りたいのは、内容の方」


「…………」



コナミは沈黙する。迷っているようだった。話せない事なのか、話したくない事なのか、この無表情では察することも出来なかった。



「藤原さんと原さんの名前を出した途端に態度が変わったでしょ。関係があるんじゃない?」


「いや……」



突っ込んで訊くと、コナミは明らかに困った様子を見せた。もう少しだ。ツァンは俯いて、さも落ち込んだように言った。



「……どうしても話せない?」


父親にも良く使う手だ。こうすると頑なな態度も軟化する事が多い。予想通り効果はあったようで、コナミは歩く速度を緩めた。



「……分かった。話す」

「昨日、俺は藤原雪乃と原麗華に会っていた」


「ふ、ふーん。それで?」


「彼女達の脈拍や体温、疲労等から考えて、急に体調を崩す事は考え難い」


「ちょっと、なんで脈拍だとか体温だとかが分かるの」


「知識さえあれば誰でも出来る。話しを戻すが……」



コナミは淡々と話しを続けていく。ツァンがドン引きしている事には気づいていないようだった。



「いま治安維持局に確認を取ったんだが、俺の知人がDホイールでデュエルをしている」


「知人……遊星って人?」



コナミは頷いた。しかし、今一つ話が見えない。相次ぐ意識不明者と、その遊星という人物がライディングデュエルをしているという事に、関係があるとは思えなかった。



「……Dホイールを持ってるなら、ライディングデュエルくらいするでしょ」


「そうだな。しかし、問題なのは遊星が今、デュエルをしている相手の方だ。登録番号に該当する物が無いらしい」


「変って言えば変だけど、それってそんなにおかしい事かな」


「ありえない事だ」



コナミは断言した。


「登録していなければ、ソリッドビジョンもスピードワールドも起動しない。デュエル自体、出来ない筈だ」


「あ、そっか……」



Dホイールは普通のバイクと同じで、高い拡張性を持っている。人によっては自身の手でチューニングしたり、一から組み上げる者もいると、ツァンは父親から聞いた事があった。


そして以前、自作のDホイールに偽造した登録番号を乗っけたり、他人の番号を自分の物として使った人物がサテライトで逮捕される事件もあったのだ。



「二人が向かっているのはデュエルアカデミア。お前の通っている学校だ」


「……!」


「杞憂なら良いが、無関係とは思えない」


「そ、それは……確かに」



何故、アカデミアに向かっているかは分からないが、それでもツァンの認識は180度変わった。コナミの言う通り、確認くらいはした方がいいだろう。



「でも、セキュリティは? 動いてないの?」


「ああ。人手不足らしい。あそこの隊員も、結構な数が入院してるみたいだからな」


「……税金泥棒じゃん」


「それを補うために、人型のデュエルロイドを開発しているそうだ」


「うわぁ……」


何それ、とツァンは思った。そうして話している内に、アカデミアが見えてくる。元々、コナミの家から十分ほどの距離だ。



(なんか……変)



今は昼前だ。空は晴れているのに、この一帯だけ妙にどんよりとした空気に満ちている。いま気づいたが、近くに人影も全く無い。その空気の中心はアカデミアだ。夜の学校は不気味な事で有名だが、それに近い空気を放っていた。


校門の前で、思わず足が止まる。



「…………」



コナミは何も言わず、そのまま入ろうとする。



「ちょっ、ちょっとアンタ! い、行くつもり!?」


「ああ。そうだが」


「明らかにおかしいでしょ。このまま進むなんて……」


「お前は来ない方が良い。そのために事情は説明した」


「く……」



事情さえ説明すれば、ツァンが来ないとでも思ったのだろうか。余計に引っ込みがつかなくなってしまった。なにより、このまま一人で帰る方が辛い。



「ボ、ボクも行くよ! 母校だしね」


「……この間、爆破したいと言っていたのを記憶しているんだが」


「うっさい!」


コナミを威嚇し、校門に足を踏み入れる。その瞬間、足の指先からぞわりと冷たい違和感が這い上がって来て、ツァンは身震いした。



(な、何これ……)



一瞬前までの威勢は消え去り、ツァンは完全に怖じ気づいた。そういえば、怖い話などあまり得意ではなかった事を思い出す。


思わず、隣のコナミを見やる。彼は変わった様子もなく、しゃがんで石を拾っていた。



「何してんの……?」


「…………」



コナミは無言で手頃な大きさの石を拾い上げ、それをいま来た方へ──校門の向こう側へと投げた。


カツン。


放物線を描いて投げられた石は、何かに弾かれたような音を立てて地面に転がった。障害物などなかったはずなのに。



「帰れないようだな」


いつも通りのテンションでコナミは言った。



「はああああっ!?」



ふざけるな、とツァンが絶叫すると同時に二台のDホイールがけたたましい音を引き連れて校門に突っ込んで来た。


今回は短いですがこの辺で。次のデュエル構成が難航しているので間が開いてしまいました。


では、ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙!
ツァンちゃん、朝のお迎えから一緒に外出…
ハートイベントですね、分かります

乙!
朝から一緒にツァンとお出かけ…
ハートイベントかな

こんな弱小カードでデュエルするコナミ君がいるなんて
チートキャラってイメージがあったから新鮮だ

「な、なに!?」



飛び込んで来た二台のDホイールの内、一台は車体の至る所から煙を吹き出していた。ライディングデュエルで敗北するとDホイールのロック機能が働くのだ。


凄まじいスピードを殺しきれず、アカデミアの入り口へ続く道で横転した。地面に引きずられ、千切れた部品がツァンの足元まで転がってくる。


もう片方のDホイール──勝利した側は問題なく停止して、相手の方へ駆け寄って行った。ヘルメットのせいでやはり顔は見えなかったが、コナミの家で見た人物だという事は分かった。



「……遊星が勝利したようだな」



特に驚きもせず、コナミはDホイーラーのもとへ歩いていく。


「コナミ……? どうしてお前がここにいる」


「俺の家から慌てて出て行くところを、彼女が目撃していた」


そう言ってツァンを見る。遊星と呼ばれた人物も、こちらに視線を向けてきた。



「……アカデミアの生徒か」


Dホイーラーはヘルメットを外し、興味もなさそうに言った。いつもならその口調に苛つくツァンだったが、今は彼の頬に刻まれたマーカーに意識が向いていた。


あれはシティにおける不適合者、犯罪者の証だからだ。



「先ほど治安維持局に問い合わせて、アンノウンとライディングデュエルを行っている者がいる事を確認して……」


「先回りしたのか」



コナミは頷いた。Dホイーラーの方はツァンの視線の意味に気づいているのか、こちらに関わるつもりは無いようだった。



「最近、アカデミアの生徒が相次いで意識不明になっている。それと関係があるかもしれない」


「…………」



二人の傍で、ライディングデュエルに敗北した黒いDホイールが黒い霧に変わっていった。搭乗者の姿は無い。そういえば、誰がこれに乗っていたのだろうと、ツァンは不思議に思った。



「……状況は理解した。ここは俺に任せて、お前達は帰れ」



ぶっきらぼうに言って、Dホイーラーはアカデミアの方に向かおうとする。何故か、彼は右腕を抑えていた。先ほどのライディングデュエルで怪我を負ったのかもしれない。



「それは無理だな。この敷地内からは出られないようになっている」


「…………」


「どの道、原因を潰さない事には意味が無い。俺達も向かう」


「……彼女もか」


「ここに置いていくわけにはいかない」


「…………」



Dホイーラーは返答もせず、そのままアカデミアに入っていってしまった。



「……怒ってたね。悪いことしちゃったかな」


遊星と呼ばれた人物は明らかに不機嫌だった。その理由を、自分の態度が原因によるものとツァンは考えていた。



「それは違う」


コナミはあっさりと否定した。


「シティにいる以上、奇異の視線には慣れている筈だ。苛ついていたのは恐らく、先ほどのデュエルが原因だろう」


「そうかな……」


「遊星はジャック・アトラスとの決着以外に、頓着するものは無い」


「え……ジャックって、キングの?」


コナミは頷いた。


「それが、あそこまで躍起になる理由……」



こんな異常事態にも関わらず、コナミの関心は遊星にあるようだった。入り口をくぐり、下駄箱の群れを抜ける。ツァンは最後に、もう一度振り返った。


黒いDホイールは、跡形も無く消え去っていた。



「あ、職員室。……入れないし」


灯りのついていない職員室。扉を開けようとしたが、ピクリとも動かなかった。鍵がかかっているわけではない。溶接されたように感じた。



「蹴り破れるかもしれない」


「やめて。遊星って人を探さなきゃなんでしょ」



ろくに中も確認せず、二人は先を急いだ。各教室を回り、ランチルーム、体育館を確認する。そしてアカデミア一番の広さを誇るデュエルスペースに到着した。


五つあるデュエルリングの中央に、二人の人影があった。一人は遊星、もう一人は黒いローブを纏った変質者だ。



「あれは……」



コナミは面識があるのか、歩いていく。


「遊星、こいつがさっきの……」


「Dホイールに乗っていたデュエリストだ」


二人は黒装束から視線を外さずに言葉を交わす。そして、コナミはデュエルディスクを構えた。遊星がそれを制す。


「……こいつの相手は俺だ」



そう言って、恐らくはハンドメイドだろうデュエルディスクの電源が灯り、デッキが高速でシャッフルされる。黒装束も無言で黒いディスクを構えた。デュエルに応じるつもりらしい。


「デュエル!」


「……デュエル」



先攻は黒装束だ。性別すらも判然としない相手は淀みの無い手つきでカードを引き、六枚の手札から二枚をえらんだ。



「……《ヘルポーンデーモン》を召喚。カードを一枚伏せ、ターンエンド」



出て来たのは兵士の名を持つ攻撃力1200の悪魔族モンスターだ。決して強いカードではないが、不気味な空気を放っている。



「俺のターン、ドロー。《スピード・ウォリアー》を召喚!」



遊星のフィールドにレベル2の戦士族モンスターが風を切り裂いて現れた。攻撃力1000に満たない、弱小カードだ。



「でも、攻撃力900じゃ……」

「いや、あのカードには効果がある」



コナミの言葉を裏付けるように、バトルフェイズに突入。遊星はそのまま攻撃を宣言した。《スピード・ウォリアー》が加速する。


「《スピード・ウォリアー》は召喚されたターンのバトルフェイズ時に、元々の攻撃力を倍にする事が出来る。ソニック・エッジ!」



攻撃力1800となった《スピード・ウォリアー》が高速で突撃。足裏のブレードが《ヘルポーンデーモン》を細切れにした。



黒装束 LP4000→3400

「通ったね、攻撃。でも……」


今、衝撃が妙にリアルだった。ソリッドビジョンであるはずの《スピード・ウォリアー》が巻き起こした風が、実際にツァンの頬を撫でたような気がした。


遊星はカードを一枚伏せ、ターンを終了した。


「……ドロー。リバースカード発動」



《決戦の火蓋》


墓地のモンスターを除外する事で、手札の通常モンスターを召喚する永続罠。シティではあまり見かけないカードだ。



「《ヘルポーンデーモン》を除外し、手札から《デーモン・ソルジャー》を召喚」


「……!」


攻撃力1900の悪魔族モンスターが召喚された。下級では最高クラスの数値だ。遊星の顔が強張る。ツァンはそれが、強いモンスターが現れたことによる緊張によるものだと思った。



「さらに《ブラッド・ヴォルス》を召喚。バトルフェイズだ」


追加で攻撃力1900のモンスター。どうやら《ヘルポーンデーモン》は高攻撃力モンスターを呼び出すための囮だったらしい。二体のモンスターが遊星に殺到する。



「……遊星の様子がおかしいな」



コナミが呟くと同時に、《デーモン・ソルジャー》の剣が《スピード・ウォリアー》を切り裂いた。


今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。


ジャケット着てた頃のデッキもいいよなあ

「ぐっ……!」


遊星 LP4000→3100


衝撃がプレイヤーを襲う。まるで戦闘が実際に行われているかのような臨場感に、ツァンは戸惑った。



「……離れていろ。このデュエルは、ダメージが現実的な物となる」


「え……」



それとなくツァンを守るように立っていたコナミが言った。常識なら信じられない事だ。


しかし、先ほどの《スピード・ウォリアー》が巻き起こした風、今の戦闘の衝撃、そして周囲に漂う異常な空気。それらの要素が、常識という言葉を否定した。



「……《ブラッド・ヴォルス》で追撃」



血塗れの斧が遊星を襲う。巨人が地を蹴って起こした揺れが、危険性を裏付けた。プレイヤーを守るモンスターはいないのだ。



「こ、コナミ! あれヤバいんじゃ!?」


「……いや」



あの斧が直撃したらどうなるかくらい、ツァンには想像がついた。しかし、コナミには焦った様子も無い。遊星もだ。



「……リバースカード発動」


《くず鉄のかかし》


スカーフが巻かれた鉄製の案山子が、斧の一撃を防いだ。鉄同士がぶつかり合う甲高い音が、鼓膜を震わせた。



「《くず鉄のかかし》は相手の攻撃宣言時に発動し、相手モンスターの攻撃を無効にする……」



仕事を終えた《くず鉄のかかし》は再びリバースカードに戻る。



「《くず鉄のかかし》は発動後、墓地には行かずセットされる」


「……ターンエンド」


「な、なんとか凌いだ……」



遊星のターンとなる。手札は五枚だが、相手フィールドには攻撃力1900のモンスターが二体。《くず鉄のかかし》が毎ターン攻撃を防いでくれると言っても、状況は芳しくない。



「……モンスターをセットし、ターンエンドだ」



勝てるカードが無いのか、遊星はモンスターを召喚しただけでターンを終えてしまった。



「ドロー……バトルフェイズ。二体のモンスターで攻撃」


一度目の攻撃は《くず鉄のかかし》が防ぐ。しかし、二度目の攻撃がモンスターに直撃した。しかし、破壊されない。



「《ロード・ランナー》は攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない」



「……二体のモンスターをリリース。《プリズンクインデーモン》をアドバンス召喚」



レベル8。闇属性の悪魔族モンスターが召喚された。攻撃力は2600。最上級モンスターとしては高くない数値だが、それでも脅威的なことには変わりない。



「……さらに手札から《ジェネラルデーモン》の効果発動。このカードを手札から捨てる事で、デッキから《万魔殿ー悪魔の巣窟ー》を手札に加える。加えたカードを、そのまま発動」




世界が書き換えられ、地面から数本の巨大な骨が生えてくる。天井はなくなって血のような赤色の空になり、床は骨を敷き詰めた不気味な物に変わった。


《万魔殿ー悪魔の巣窟ー》は【デーモン】モンスターの維持コストを無くし、同モンスターが戦闘以外で破壊された時に、破壊されたモンスターよりレベルの低いモンスターをデッキからサーチする効果を持つフィールド魔法だ。



「……これで、ターンエンド」


「俺の……ターン」


遊星がドローし、手札は五枚。手札二枚の黒装束より多いが、プレイヤーは完全に戦意を削がれているようだった。



「……遊星の様子がおかしいな」


「それは当然でしょ。こんな状況じゃ……」


「いや、どうも……あのモンスターが出てきてからだな」


最近タッグフォース6をプレイ中の俺にタイムリーなスレ

毎回楽しみにしてる
このスレを期にタッグフォースssふえてほしい


今まで見てきた遊戯王SSの中で一番楽しみにしてる

コナミがそう言っている間に、遊星はモンスターを裏守備表示で召喚し、カードを一枚セットしただけでターンを終えてしまった。



「これじゃ、やられっ放しだよ……」


「…………」



再び黒装束のターンとなる。三枚目の手札を引き、それら全てをセット。《くず鉄のかかし》がある限り、毎ターン攻撃を一度防がれてしまうからだろう。バトルフェイズは無かった。



「……ターンエンド」


黒装束の手札はゼロ。動きが無いまま遊星のターンがやってくる。カードを引く。手札は四枚。彼の顔つきが変わった。



「モンスターを反転召喚。そして、手札より魔法発動!」



伏せられていた《シールド・ウィング》が反転召喚され、魔法カード《ワン・フォー・ワン》が発動された。



「《ワン・フォー・ワン》は手札のモンスター一体をコストに、デッキからレベル1のモンスターを一体、特殊召喚するカード。俺が選ぶのは……」



遊星のデッキから一枚のカードが吐き出された。現れたのは、グリーンのボディを持った小型の機械族。レベル1のチューナーモンスター《ターボ・シンクロン》だった。


遊星のフィールドには《ロードランナー》と《シールド・ウィング》、そして今召喚された《ターボ・シンクロン》の三体。合計レベルは4だ。


しかし、これだけではない。


「フィールドにチューナーがいるため、墓地より《ボルト・ヘッジホッグ》の効果発動。このカードを特殊召喚する!」



四体目のモンスター。これで合計レベルは6となった。《ターボ・シンクロン》が光輪に変わる。


「レベル1の《ロードランナー》とレベル2の《シールド・ウィング》、《ボルト・ヘッジホッグ》に、レベル1《ターボ・シンクロン》をチューニング……」



三体のモンスターが一列に並んだ。それらを束ねるように、光の柱が立ち上がる。



「集いし絆が更なる力を紡ぎ出す。光差す道となれ、シンクロ召喚!」


光が散る。中から現れたのは、巨大な体躯の赤い巨人だ。


「轟け、《ターボ・ウォリアー》!」



巨人が降り立つと、その重量で地響きと共にデュエルリングにひびが入った。



「……あれが、シンクロ召喚」


間近で見ると、綺麗な物だと思った。周囲に蔓延していた空気が一瞬にして吹き払われたようだ。


だが、《ターボ・ウォリアー》の攻撃力は2500。2600の《プリズンクインデーモン》には僅かに及ばない。


それを分かっているのか、シンクロモンスターの登場にも黒装束は焦った素振りを見せなかった。


「ねえ、コナミ。あの人……」


いい加減、不安になったツァンは彼に尋ねた。デュエルが始まってから、防戦一方だったのだ。こんな違和感しかない状況で、任せていいものなのだろうか。



「問題ない」



コナミはきっぱりと言った。



「ど、どうして?」


「俺は遊星とデュエルして、一度も勝ったことが無いからな」


「《ターボ・ウォリアー》で攻撃、アクセル・スラッシュ!」


その言葉と同時に、《ターボ・ウォリアー》は格上の相手へ突撃していた。当然、相手は迎撃の姿勢をとる。攻撃宣言からダメージステップへ移行。遊星のリバースカードが開く。


《スキル・サクセサー》


モンスターの攻撃力を400ポイントアップさせる罠カードだ。これにより攻撃力2900となった《ターボ・ウォリアー》が、その豪腕で悪魔を斬り伏せる。



「……!」


黒装束 LP3400→3100


初めて相手プレイヤーがよろめいた。大型モンスターを破壊されては、無傷というわけにはいかなかったのだろう。


「よし。これで最上級モンスターを倒したね。あのリバースは気掛かりだけど」


「………」


「カードを一枚伏せ、ターンエンド」


「……このエンドフェイズ時に、リバースカード発動」



《奇跡の残照》


このターン、戦闘で破壊されたモンスターを蘇生させる罠カードだ。倒したばかりの《プリズンクインデーモン》が蘇る。



「せっかく倒したのに……」


「……遊星も持っているカードだな」



黒装束のターン。カードを引き、メインフェイズ。またもリバースカードが発動した。


《堕落》


デーモンと名の付くモンスターがいる時、相手モンスターのコントロールを奪う装備魔法だ。この効果により、《ターボ・ウォリアー》が黒装束の物となった。


「……くっ」


「……二体のモンスターでダイレクトアタック」


《プリズンクインデーモン》は《くず鉄のかかし》が防ぐ。しかし、効果は一ターンに一度。《ターボ・ウォリアー》の攻撃までは防げない。


「やばい!」


「リバースカード発動、《ガードブロック》!」



戦闘ダメージを無効にし、カードを一枚ドローする罠カード。コナミも何度か使用していた物だ。障壁が発生し、遊星の手札が増えた。



「し、凌いだ……」



ほっと胸を撫で下ろす。大型モンスターのダイレクトアタックなど食らったら、デュエルが続行出来なくなるかもしれないのだ。



「……ターンエンド」


「俺のターン、ドロー!」



遊星の手札は三枚。フィールドには《くず鉄のかかし》のみ。彼はしばし黙考し、



「モンスターをセット、カードを一枚伏せて、ターンエンド」


ターンを終えてしまった。またさっきと同じく、守備の体制に戻ってしまった。黒装束はカードを引き、手札を二枚とする。《堕落》の維持コストとして、プレイヤーに800のダメージが入った。


黒装束 LP3100→2300



「……バトルフェイズ。《プリズンクインデーモン》で攻撃」


日を跨いでしまって申し訳ありません。


短いですが、今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

おつです

乙!

最上級悪魔族の一撃。研ぎ澄まされた刃の如き爪が、遊星のモンスターを叩き潰した。地面が震え、何枚もの窓ガラスが粉々になる。



「モンスターを破壊──っ!」



《マッシブ・ウォリアー》


レベル2の地属性戦士族モンスター。守備力は1200と高くはないが、《プリズンクインデーモン》の一撃をしっかりと受け止めていた。



「……このモンスターは一ターンに一度だけ、戦闘では破壊されない」


「また防御カード……」


「……さらに《ターボ・ウォリアー》で攻撃」


まだ《くず鉄のかかし》が残っている。《ターボ・ウォリアー》の攻撃は問題なく防いだ。これで二体とも攻撃権を消費した。追撃は無い筈だ。



「……ここでリバースカードを発動」



このままバトルフェイズを終えるかと思いきや、黒装束は伏せていたカードを使用した。《ナイトメア・デーモンズ》。あまり見かけない一枚だ。



「自分のモンスターをリリースし、相手フィールドに《ナイトメア・デーモントークン》を三体、攻撃表示で召喚する」



「……《プリズンクインデーモン》をリリース」


せっかく蘇生させた最上級モンスターをコストに、陽炎のように揺らめくトークンが三体、遊星のフィールドに召喚された。攻撃力は2000。


さらに【デーモン】がいなくなった事により、《堕落》が自壊した。《ターボ・ウォリアー》が洗脳から逃れ、持ち主の所へ戻ってきた。


これで黒装束のフィールドからモンスターがいなくなった。



「どういうこと? 《ナイトメア・デーモンズ》のコストなら、奪ったモンスターを使った方が良いのに……」


「逆に、遊星のフィールドはモンスターで埋まったな」



不可解な相手のプレイングに、ツァンとコナミは首を傾げた。わざわざ攻撃力2000のモンスターを相手に送りつける意味が分からない。



「……ここからコンボに繋げるんじゃないのか」


「あのトークンは破壊されると800ポイントのダメージを与えるけど……」


《ブラックホール》や《激流葬》などの全体除去と絡めれば、合計2400ポイントの大ダメージを与えられるが、扱いが難しいことには変わりない。


デュエルキングであるジャック・アトラスが使っているのを見たことがあるが、あれは彼のテクニックあってのものだ。この局面では使えない。



「大方、あのトークンが自分フィールドに召喚されるとか勘違いしてたんじゃない? それなら《堕落》も破壊されないし」


「そんなミスをするのか」


「テキストの読み間違いとか些細なミスなんて誰でもあるでしょ。どっかの誰かさんだって暗黒界に《メタモルポット》撃ったりしたし」


「…………」



そんな事を言っていると、黒装束は手札から速攻魔法を発動していた。


《デーモンとの駆け引き》



「……あ」



安堵していたツァンの口から、間抜けな声が漏れた。


「……このカードは自分フィールドからレベル8以上のモンスターが墓地へ送られたターンに発動出来る速攻魔法」


「……?」



隣のコナミは疑問符を浮かべている。遊星はこのコンボを知っているのか、表情をこれまで以上に険しくした。



「……自分の手札、デッキから《バーサーク・デッド・ドラゴン》一体を……特殊召喚」


「や、ヤバ……!」



レベル8、闇属性のアンデットモンスターが現れ、咆哮した。朽ち果てた翼を広げただけで、壁にひびが入った。体のあちこちから地肉を滴られせているが、攻撃力は3500。その力は圧倒的だった。



「……《バーサーク・デッド・ドラゴン》は相手フィールドのモンスター全てに攻撃することが出来る」


「くっ。やはり……」


「……そうだ。このデッキの持ち主が愛用していたカード。嫌というほど見たことがあるだろう」



朽ちた魔龍が、その口から黒い炎を吐き出した。《マッシブ・ウォリアー》が埃のように吹き飛ぶ。


遊星の場には《ターボ・ウォリアー》が一体と《ナイトメア・デーモン・トークン》三体。その全てが攻撃表示だ。


トークンが破壊されれば800ポイントのダメージ。戦闘ダメージと合計すれば、7900。恐ろしい数値だった。遊星のLP3100では全く足りない。



「……終わりだ。モンスターで攻撃」



黒い炎が《ターボ・ウォリアー》を呑み込んだ。遊星のエースモンスターが灰に変わる。



「ぐあ……っ!」


遊星 LP3100→2100



「……さらにトークンを攻撃」


続けて《ナイトメア・デーモン・トークン》も破壊された。800ポイントのダメージが襲う。


遊星 LP2100→1300


「く……」


遊星が膝をついた。



「……戦闘ダメージは1500。貴様の負けだ」


「まだだ……」


「結局、貴様は勝てんのだ。ジャック・アトラスにも、自らの後悔にもな……!」



遊星めがけて《バーサーク・デッド・ドラゴン》が口を開けた。喉元から黒炎が込み上げてくる。あれで焼き殺そうとしているのだ。



「こ、コナミ……!」


「…………」



同居人が殺されようとしているのに、コナミは冷静にデュエルを観察していた。助けようという気は毛頭無いらしい。ツァンが何か言う間も無く、黒炎が遊星を包んだ。



「ああ……っ!」



死んだ。間違いなく死んだ。


デュエルで。


悲鳴は無かった。自分が通っている施設で、意味も分からないまま。


黒炎が晴れる。そこには炭化した焼死体が──



《ゼロ・ガードナー》


「え……」


遊星のフィールドに、珍しい形のモンスターが現れていた。


「……やはりな」


「なんだと……!?」


「お前はそのデッキの持ち主には及ばないようだ」


遊星が立ち上がる。彼を守るように、一枚のリバースカードが開いた。



《死力のタッグ・チェンジ》


「このカードの効果は、自分のモンスターが破壊されるダメージ計算時に発揮される。その戦闘ダメージを無効にし、手札からレベル4以下の戦士族モンスターを特殊召喚!」


「……だが、《バーサーク・デッド・ドラゴン》は全てのモンスターを焼き払う。雑魚を何体召喚しようが、無駄だ」


「ふ……」



黒装束の言葉を、遊星は一笑にふした。


「……何がおかしい」


「…………」


「ち……っ。《バーサーク・デッド・ドラゴン》で、トークンを攻撃……!」


「ここで、《ゼロ・ガードナー》の効果を発動!」



遊星のモンスターがリリースされた。光の粒子に変わり、フィールドを覆い尽くす。モンスターの数が変動した事により、戦闘が巻き戻された。


構わず、黒装束は攻撃を続行する。



「なに……!?」


黒炎は《ゼロ・ガードナー》の作った光の膜に阻まれて霧散した。遊星のモンスターは破壊されなかった上に、ダメージも無い。


「《ゼロ・ガードナー》をリリースする事で、このターンの戦闘ダメージを無効にし、俺のモンスターは破壊されない!」


「……しかし、手札はゼロ。次のターンで貴様の負けだ。ターンエンド」



黒装束の言葉通り、遊星の手札はゼロになっていた。トークンを守備表示にしても、次のターンの全体攻撃で負けてしまう。このドローフェイズで何とかしなくてはならない。



「俺のターン……ドロー!」



デッキトップのカードを引き抜く。その軌跡は光となって、周囲の闇を切り裂いた。



「来い、《ジャンク・シンクロン》!」



レベル3、闇属性の戦士族モンスター。攻撃力はたった1300。どう見ても、この状況を打開出来るモンスターとは思えなかった。



「《ジャンク・シンクロン》は召喚時、墓地のレベル2以下のモンスターを特殊召喚する。蘇れ、《スピード・ウォリアー》!」


「……それで何が出来る」


「レベル2の《スピード・ウォリアー》にレベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング!」



《スピード・ウォリアー》を三つの光輪が包む。二度目のシンクロ召喚だ。


「集いし星が、新たな力を呼び起こす。光差す道となれ!」



輪の中心を光が突き抜け、爆発。その中心より、一体のモンスターが飛び出した。


「シンクロ召喚! いでよ、《ジャンク・ウォリアー》!」



青い体躯に白いスカーフをなびかせた、レベル5のシンクロモンスター。その攻撃力は2300を表示していた。



「で、でも。あれじゃ……」


「勝ったな」


「は……?」



コナミの言葉を確かめる暇も無く、バトルフェイズに突入。《ジャンク・ウォリアー》の背中でバーニアの火がついた。



「《ジャンク・ウォリアー》で《バーサーク・デッド・ドラゴン》に攻撃!」


あれでは自殺行為だ。遊星の場にはトークンと《くず鉄のかかし》しかない。攻撃力3500の相手モンスターには──



《バーサーク・デッド・ドラゴン》 攻撃力3000



あのモンスターはエンドフェイズ時に攻撃力を500ポイントずつ下げていく。朽ちている体では、あの強大さを保つ事は出来ない。



「だが、それでも《バーサーク・デッド・ドラゴン》には……」


「……気づいていないのか?」


「なに……!?」


《ジャンク・ウォリアー》 攻撃力3100


「攻撃力が……上がっているだと」



遊星の墓地から一枚のカードが取り出された。


《スキル・サクセサー》


「墓地のこのカードを除外する事で、自分のモンスター一体の攻撃力は800ポイントアップする」


「墓地からトラップだと……」


「突き抜けろ、スクラップ……フィスト!」



《ジャンク・ウォリアー》は右腕に装備されたナックル・ダスターを前に突き出したまま突進する。黒炎をものともせず、相手の体を貫通した。


爆発。


「ば、《バーサーク・デッド・ドラゴン》が……!」


「俺のフィールドには、まだモンスターが残っている。お前が寄越した二体のトークンがな」


《ナイトメア・デーモン・トークン》の攻撃力は2000。それが二体攻撃表示で存在している。そして、黒装束のLPは2200だ。


「二体のモンスターでダイレクトアタック!」


「ぐあああっ!!」


黒装束 LP2200→0



今回はこの辺で。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙!
ゼロガードナーはレベル2以下だったらもっと使いやすかった。
遊星のデッキでレベル4はなぁ…

おつ
デッキの本来の持ち主・・・一体何者なんだ・・・?

こっちのコナミ君はクールでカッコいいな

作者次第で色んなコナミ君が見られて楽しい
個人的にはここのコナミ君が一番好き

このss読んでたらデッキを組みたくなってきたぜ···!
続き、気長に待っています

まだかな

続きを待ッシブウォリアー

TFか時戒神バーンが強かったな。まあこのコナミ君ならレインボーヴェール入れて蟹で殴ればいいがww

mdkn

更新はもうしないのかな
しないならしないと言ってほしいんだけどな...

>>688
sageようぜ

>>689
sageが外れてた...スマソ

こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい

終わったか

それはどうかな?

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