【アイカツ!】風沢そら「聖夜の星」 (21)

建ててから考えます

いちそら

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クリスマスについて考えていた。

去年のこの日、あの子と出会ったことを。

モロッコでは、あまりクリスマスを祝う習慣がない。
だから、実際に見るのは初めてだった。

もちろん、知識として知ってはいたけれど。

パーティのプランナーを任されて、手慣れた笑みを浮かべた私は多分、困っていたんだと思う。

そんなときに、テレビにあの子が映っているのを見た。

星宮いちご。小さくて、細くて、砂糖菓子のような子。
飴細工のように、強い子。

そう、もちろん、知識として知ってはいたけれど。

眼を奪われたのが、テレビの情報バラエティ番組だなんてね。

きいちゃんが察しが良くて助かった。
私だって、いちごちゃんに会いたいから一緒にパーティをしよう、なんて言いたくなかったから。

お仕事はお仕事。ちゃんとやらなきゃ。だよね。

でも、私はどうしても、彼女を見てみたかった。

彼女は、私がドレスとアクセで武装して、こわごわ飛ぶ空を、楽しそうに飛ぶのだ。

彼女は、私が威容に恐れを生す扉を、身一つで、開いて。

美しく笑う。

――クリスマスパーティは、二校合同で開催されるはこびとなった。

私の服は、勇者の鎧。
私の服は、妖精の翅。
私の服は――秘密の鍵。

自由の扉。

私の服は、新しい扉を開いて、着る人を自由に羽ばたける空へ誘う。
そんな夢。

私の服は、新しい鍵孔を開けて。私の大切な人たちを連れて行く。
……そんな、夢。

かつて、私に服飾を教えてくれた人を、私のアクセサリが連れ去ってしまった。

私の翼。私の鍵。

私を痛め、私を閉ざす。

自由な空から降りられないままでいた私には、

彼女の姿は、瞳を灼くようだった。

身を捧げるように、その髪に触れて。

手慣れた笑みで、覆い隠す。

「……あ、触っちゃった」

「風沢、そらちゃん。やっと会えた」

「初めて会った気がしない……あなたのこと、ずっと見てたから」

ああ、ああ、認めよう。
私は、この少女にどうしようもなく嫉妬していた。
どうしようもなく惹かれていた。

呪いのように作り続けたアクセサリで縛り、泉の深くに沈めたはずの情動に、私は翻弄されていた。

星宮、いちご。

……それが、去年の話。

――そして今年。今日。今このとき。

「……?」

いちごちゃんが、私の眼の前で、不思議そうに小首を傾げた。

気の迷いだったの。
今年も、祝福の夜をあなたと過ごしたい、だなんて。
私なら意味もなく言いそうでしょう?

……本当なら送信するつもりもなかったのに。
打ち込むだけ打ち込んで、ひとりで笑い飛ばすはずだったのに。

それがまさか、まさかそんな、
本当に来ちゃうなんて。

「……メリークリスマス、いちごちゃん」

「うん。メリークリスマス。そらちゃん」

「……ごめんね、急に呼び出したりして」

「ううん。私も……」

「うん」

「……なんでもない。寒いねー」

「そうね」

もしかしたら、眠るところだったのかもしれない。
彼女はこの季節には薄着なよそおいで、ふつりあいなマフラーがぱたぱたとあどけなく揺れていた。

「よかったら、これ羽織ってて。……私の部屋、来てくれる?」

「いいの? ふふっ。お邪魔します」

ああ。誰か。これが何の罰なのか、教えて。

seeyou nextday

いちごちゃんは迷わずちょこんとベッドに座る。

ティーサーバの中で茶葉を躍らせながら、彼女の姿を盗み見る。

目が合った。微笑んだ。お茶を撒かなかったことを、褒めて欲しい。

「あの、ね。呼んでくれて、ありがとう。嬉しかった」

「本当は、あのメール。送るつもりなんて無かったのよ」

「どうして?」

「……去年のクリスマスは、とっても楽しかったね」

「うん。スターライトとドリアカの、合同パーティ。そらちゃんと初めて会えたんだよね」

「そう……いちごちゃんと会ってから私、変なの」

「ヘン?」

「変。おかしくなっちゃったみたい……壊れちゃったみたい」

立ち上がって、私の前に跪いた彼女は、不安げに見つめて来て。裾を引き、ベッドに導いた。隣同士に腰かける。
いちごちゃんの小さな重みで、マットレスが沈み込んでいるのを感じる。そのまま引き寄せられたい、渇きに似た欲を抑え込む。

「壊れる」

「そう。もっと近くに、あなたのことが欲しくなっちゃう。
 いつでも会いたいの。ずっと触れていたい……欲しがれば欲しがるだけ、寂しいのにね」

「……そらちゃんは」

なんて深い瞳。

「そらちゃんは、私に触りたいの?」

「……ええ」

振り切るように答えた瞬間、私の体を柔らかな感触が包み込んだ。

羽のように軽く、絹のように柔らかく、糖蜜のように甘く。

「どうして、私に?」

問う声は、近く。耳朶を揺らし、脊髄を擽った。

「どうしてだろう」

わかっては、いるのだけど……。

「上手な言葉が、見つからないわ」

「そっか」

子供のような体温が、理性を溶かしていく。

「私と同じだね」

「ん?」

「私も、そらちゃんに会いたいなって思ってたから」

「…………」

抱き合ったまま、脈を数える。

なんて心地いいのだろう。

欲しがれば欲しがるだけ、思えば思うだけ、私の空は広く、無辺に、広陵に。荒涼と。

標もなく、ただ羽を動かして、どちらが上かもわからずに。

溺れるように、飛んでいた。

空に、無謬の空に、陽が射した。

熱くて、灼けてしまいそうなほどのそれは。

抗い難く、狂おしく私を魅了した。

だから、確かめずにはいられない。

答えのあろうはずもない、言葉で。

「いちごちゃんは、いなくなったりしない?」

「……えっと……」

彼女は、私の肩の上で苦笑する。見えないけれど、きっとそう。

「ふふ。いきなりアメリカに行っちゃったんだっけ」

「うん……でもね、」

「そうだよね……いちごちゃんは、ひとりじゃなかったんだよね……だから、帰って来た。帰って来れた」

「……そらちゃんは、ひとりじゃないよ」

「そうかな」

「そうだよ。みんな、いるよ」

「……うん」

小さな手が、ぷにぷにした子供みたいな手が、髪を梳く。私は、頭を抱き寄せられるまま、甘い匂いの中に沈んだ。

「私もいるよ。ひとりじゃないよ」

「うん」

――少し。甘えすぎてしまった。

「ごめんね。ケーキも、七面鳥もないけれど」

「私も。全部食べちゃった」

「……ねえ」

「うん?」

「えっと……私、こういうの、初めてだから……重かったら、言ってほしいんだけど」

「うん」

「あの……」

「……」

「ぷ、ぷれぜんと。あるの」

瞳が輝く。本当にわかりやすい。感情を隠さない。喜びも。悲しみも。全身に溢れて。

「ボヘミアンスカイの新作アクセ……いちごちゃんに、もらって欲しいな」

「すごい……これ、そらちゃんの?」

「うん……私が以前、ある人にもらった髪飾りを元に作ったの。カードにはしてないから、それひとつきり」

「嬉しい……」

「そう? 重くない?」

「うん。軽いよ」

そう言って、箱を上下させて見せる。

「……そっか。良かった」

「でも、私何も……」

「いいよ……急に呼び出しちゃったんだから」

「んー……でも……」

顎に手を当てて、一生懸命考えている。

「……じゃあ、えっと……あのね」

「うん」

「来年のクリスマスに、いちごちゃんからのプレゼントが欲しいな」

「うん?」

……そうだよね、持って回った言い回しは、通じないよね。

深呼吸して。


「来年も、その次の年も、あなたといたいの。星宮、いちごちゃん」

「……私も。私も、二年先にも、三年先にも、あなたのところに帰って来たい。風沢そらちゃん」

良かった。ちゃんと言えた。

風沢そら「聖夜の星」
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4733065
まとめられました。依頼します

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