「突発性感情喪失症候群?」(11)
男「何ですか、それ」
医者「その名の通り、突然感情がなくなってしまう病気だ」
男「うちの妹が、そうだと?」
医者「ああ。最近ようやく認められて来た病気で症例も少なく、国内でも5件のみ報告されている」
男「どうやったら治るんですか?治せるんですか?」
医者「ストレスが原因だと言われているが……治す方法はまだ確立されていない。気長に様子を見て行くしかないだろう」
男「…………」
医者「詳しい症状だが……」
男(………………………)
妹「お兄ちゃん今日あんまりしゃべらないね」
男「ああ……」
男(妹がそんな病気になってしまうなんて。
俺が守ってやらないといけないのに……仕事もある。
どうすればいい?)
妹「今日は何が食べたい?
久しぶりにお兄ちゃんの好きな炊き込みご飯作ろっか」
男(いつも通りの口調なのに顔から声から、表情が抜け落ちている。
精神科医の先生が言うには喜怒哀楽がわからなくなっている状態らしい)
妹「お兄ちゃん?」
男「あ、あぁ。そうだな。
久しぶりにお前の作った炊き込みご飯、食べたいな」
男(そして、現在有力とされている治療法は感情を強く刺激することらしい。
どこかに遊びに行ったり、普通なら酷く怒るようなことを言ったり)
妹「それじゃあ炊き込みご飯にするね。
他は何がいいかなぁ」
男(いつもならくるくると変わる妹の表情は、ずっと無表情のままだった)
男「いらっしゃいませ!」
男(仕事中だが妹の事が頭から離れない。
今日はミスも多い)
上司「……男くん、調子でも悪いのか?」
男「いえ、そうではないんですが……」
上司「何か悩み事があるなら相談してくれ。
妹ちゃんにはなかなか相談事なんてできないだろうしな」
男「ありがとうございます……」
男(これはうちの問題なんだ。相談できるはずなんてない。
俺が、治してやらないと)
上司「そういえばこの前妹ちゃんがきた時……」
男(俺が、守ってやるんだ)
妹「お兄ちゃんおかえり。
お仕事どうだった?」
男「……いつも通りだったよ」
妹「ふーん。あ、ご飯できてるよ」
男(ぱたぱたとかけていく妹。
俺は、何をしてやれる?)
妹「お兄ちゃん今週末もお仕事?」
男(生活のために俺は週末も仕事を入れていた。
できるだけ妹に不自由させないように頑張ってきたつもりだ。
でも……)
男「いや、今週はどこかに出かけよう。
どこか行きたいところはあるか?」
妹「え、うーん……。
お兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ?」
男「……そうか。
じゃあ前雑誌で見てた遊園地にしよう。評判もいいみたいだしな」
妹「うん。それじゃあお弁当頑張っちゃうね」
男(妹の顔を見るのが、辛かった)
妹「お兄ちゃん、大きいね」
男「ああ。遊園地ってこんなに大きいんだな」
男(妹も俺も遊園地に来るのは初めてだった。
妹が病気になって初めて来る事になるなんて皮肉だな)
妹「うん、それじゃあどこから回ろうか?」
男「妹に任せるよ」
妹「そういう答えが一番困るのに……それじゃあうーん……。ここから回ろっか」
男(それから俺と妹は色々なアトラクションを回った。
胸踊るアトラクションもあったが、妹の表情を見ているととても楽しむ気にはなれなかった)
男(少し気になったのは妹がトイレに行く回数が多いことだ。
あの病気にはそういう傾向があると先生が言っていた……やはりそうなんだろう)
妹「お兄ちゃん、最後はお兄ちゃんが決めて」
男「ん、じゃあ最後は観覧車にしよう」
妹「うん」
男(観覧車で景色を見る妹の表情は、やはり動かなかった
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