上条恭介「幻想御手?」 (380)

タッタッタッタッ… ハァッ ハァッ

タッタッタッ ハァッ ハァッ…



ガラッ

さやか「恭介ぇっっ!!」

恭介「うぃーす」ピッ

さやか「え…」ヘナヘナ ガクッ…

恭介「床にへたり込んでないでさあ、そこに座りなよ。

   見舞いに来てくれたんだろ?」

さやか「あんたは…あんたは…」ゼーハーゼーハー

ダダダッ

さやか「事故に遭ったって聞いたからあたし、

    メチャクチャどんなに心配したと思ってんの!!

    しかも昨日って、ついさっき知らされて…」

恭介「ごめん。僕からさやかには知らせないように頼んだんだ。

   手術終わったの夜遅くだったし、昨日は色々と君に見せられない状態だったから」

さやか「(ハッ)その‥手…」

恭介「幸い他の所はまぁ精密検査まだだけど大丈夫な感じなんだけど。

   左手はもうヴァイオリンは無理だってさwww」

さやか「―――」

恭介「つれーわwwwマジつれーわwwww………さやか?」

さやか「…なんで…なんで……、なんでそんなに元気なの!?」

恭介「そう来るかwww

   言ったじゃんww昨日は僕だって大泣きしてたんだぜwww」

さやか「昨日は…、ってそんなにすぐ切り替えられるもんなの?

    なんであんたが…!」

恭介「仕方ないよ…僕のせいだからさ。

   相手の人は飛び出した僕が悪いのに精一杯尽くしてくれて、申し訳ないほどだったよ。

   今は、もし他にケガ人が出てたらって今頃怖くて、そうならなくて感謝してる」

さやか「バカ…、バカ……! そんなんじゃないでしょ…バカ…!」

恭介「だから本当にさやかには悪かったって言うか…、

   そういう風な顔になってほしくなくてどう伝えたら、て考えてたんだけど」

さやか「余計な気を回してんじゃないよ……、

    だってあんた…子どものころから目指してた道が断たれたんだよ?

    昨日の今日で平気な訳ないじゃない」

恭介「実はそうなんだ。ぶっちゃけこれからどうしよう?」

さやか「ブッwww ククク…ッ」プルプル

恭介「肝心な所で笑うなwwww」

さやか「クククク…ッ ハァーッ ……あたしは何したらいいの?あんたに何ができるの?」

恭介「勉強して今の医学では治せないケガを治せる医者になってくれ」

さやか「‥。あーそれあたしは無理だわ」

恭介「早えぇww」

さやか「て言うかあんたが自分でやって。‥他に何ができる?」

恭介「じゃ、そこにいてくれる?」

さやか「わかったわ」

恭介「僕は寝る」

さやか「おい」

Eden

Kalafina、作詞・作曲・編曲:梶浦 由記

――――
―――
――


さやか「はぁ~~」

恭介「傷病人の前ででかい溜息つくなよ」

さやか「もう退院近いんだからケガ人じゃないでしょ」

恭介「学校行きたくねぇwwもっと休みてぇwww」

さやか「学校の教材ちゃんとやってる? あの転校生を見習ってほしいわ」

恭介「ああ、心臓の病気で長いこと入院してた、て子か。

   転校初日の自己紹介も終わらない内に鹿目さんに熱烈なプロポーズをしてきたっていう」

さやか「どういう覚え方してんの。ただまどかの手を取って、

    『わたしも魔法少女になったから一緒に頑張ろうね』とか何とか言ってただけ」

恭介「…鹿目さんと旧知の仲でもなかったんだろ」

さやか「まぁそこらへんはもういい。今はちょっと妬けるくらい仲良くしてるから」

恭介「妬けるくらい?」

さやか「放課後にあたしと仁美が誘っても、

    二人して『ちょっと用事があるから』、てさっさと帰っちゃったりね」

恭介「それは転校してきたばかりだから色々回るところがあるとか」

さやか「だったら仁美やあたしだって一緒に力になったり遊んだりできるじゃん。

    まどかもまどかよ…」

恭介「その子の誘いを鹿目さんが断れてない状況?」

さやか「違う。あの子優しいからそういうトコあるけど、

    転校生の子とは相思相愛ってか自分からも普通に仲良くしてる感じ。

    て言うかむしろその子のほうが内気ですぐには人と打ち解けられない性格っぽいから」

恭介「だったら鹿目さんに任せて、

   徐々にその子がさやか達ともつるめるようになるまで待つしかないんじゃね」

さやか「だから仁美とそう思ってあの子たちを見守ってるんでしょ!」

恭介「はい」

さやか「はぁ~~っ。(バフッ)痛っ」

恭介「いや僕の膝が痛いんだけど」

さやか「足はほとんど痛めてなかったでしょー。

    なんでよりによって治らない部分が演奏に必要なとこなんだよ…」

恭介「僕の甘さだったんだな。登山中の転落事故で、

   手をかばったために自らの滑落をとめられず助からなかったヴァイオリニストもいる。

   僕は弾けなくなって初めて、自分にとって音楽がどれだけ大事か思い知らされてるのに」

さやか「……」

恭介「…鹿目さんが放っておけないとは、よっぽど内気な子なんだね」

さやか「(ゴロ…)その子だっていい子だって分かんの。

    凄い純朴ってか苦手なことでもいつも一生懸命なの伝わってくるし。

    勉強だって最初のほうつまずいてたけど今じゃ……ん!?」

さやか「(ガバッ)あんた勉強してんの?

    授業聞いてるあたしでもそれなりについてけないんだけど」

恭介「持ってきてくれた分はやってるよ。出来てるかは別問題だけど。

   さやかこそついてけないのに毎日ここに来て大丈夫なの?」

さやか「あたしは元々のそれなりを維持出来てればいいもんね。そう思うんなら早く退院しろ。

    あと、CD見つけて来たよ」ガサ

恭介「それなりの意味違うし。

   つーか、クラシックばかりの持ってきやがってwww

   完全にイジメだろこれwwww」

さやか「あんた何だかんだでクラシック音楽には詳しいでしょ。

    プロの演奏者になれなくてもそういう部分は伸ばしていったほうがいいと思う」

恭介「だとしても今くらいは聴きたくねーよww

   せめてポップスとか他のジャンルの持ってこいよww」

さやか「甘い。

    そんな一見無駄な回り道も気がつけば一つも無駄じゃありませんでした、何てね。

    苦しいことから逃げなかった人だけに許される言葉よ。

    あ、あたしみたいに何の才能もない人間なら別よ。

    別に楽しいことだけ追ってればいいんだから」

恭介「僕が特別だから苦しい目に遭えとかww勝手に決めんなよwww」

さやか「そりゃそうだわ。

    自分が特別だっていう矜持とか自負なんて傲慢な本人の思い込みでしかない。

    でも音楽家って例外なくそれを持ってるはずだし、

    その中の一握りの人が運良く世間に認められただけの話でしょ。

    恭介、あんたは自分でどっち側の人間だと思うの。

    子供のころから遊びたいことも我慢して積み重ねてきたモノが、

    ここで放り出してしまえるぐらいの価値しかないって思うんなら、

    そのCDだって売るなり割るなりすればいいじゃん」

恭介「いやその放り出すにも左手動かないんすよwww」

さやか「はっきり言わせてもらうよ。

    恭介、あんたは少なくとも同年代の誰より抜きんでたモノを持ってる。

    いいえ、あんたほど人の心を打てる演奏ができるヴァイオリニストはいなかった。

    神様はあんたに贈り物をした上で裏切ったんだよ。

    あんたがその神様を裏切るかどうかはあんたの自由だし、好きにすればいい。

    じゃあね」ガタッ 

恭介「……」

さやか「(スタスタ…ピタ)後ね…、早く学校来なよ。仁美とか、クラスの子心配してるから」

恭介「…ありがとな、さやか」

さやか「……」ガラガラ‥


恭介「(クスッ)一体どっちが傲慢なんだよ…」

~~エレベーター内~~


さやか「恭介……。…あたしの左手なんて……」


~~鉄橋~~

トボトボ

さやか「あー夕焼けがきれいだなあ」

『だったらいっそ死んだほうがいいよね……』

さやか「そこまで高尚な感性は持ち合わせてねーよ!ってどこだここ?」キョロキョロ…ハッ

マミ「暁美さんの指定したとおり、ドンピシャだったみたいね」ジャキッ

さやか(輝いてる!え、鉄砲……?)

ほむら「時間、場所…、間違いありません。こいつです」サッ

さやか「あ、暁美さん!? 何コスプレしてんの!? その筒みたいなの何?」

まどか「ほむらちゃんのおかげだね!」チャキッ

さやか「まどか、あんたもか」

まどか「さやかちゃん、動かないでね……」キリキリ…

さやか「ほおおお」

パゥッ! バシュッ!

まどか「ほむらちゃん、今だよ!」

ほむら「はいっ!(タタタ…ッ)えいっ」ポーン

ドカーン!! ギャアアア…

さやか「うわおっ!」

ほむら「はぁはぁ…」ヘタリ

まどか「さやかちゃん、大丈夫!?」タタタ

さやか「お、おう…」

まどか「よかった。ほむらちゃん、やったね!!」ガバッ

ほむら「は、はい…」ニコ…

ウェヒヒ… ピョンピョン

マミ「美樹さやかさん、ね? ごめんね。

   すぐそこに使い魔が迫っていたからああするしかなかったの…」

さやか「いえ、助けてくれてありがとう…」チラ チラ

マミ「? どうしたの?」

さやか「(ヒソ)…あの、もういいでしょうか……?」

マミ「何が?」

さやか「すみません。背後で爆発したのにベタな反応しかできなくて……。

    何せ突然で…、撮り直しとかできませんよね?」

マミ「あ、ああ…」クスクス…

QB「彼女達は魔法少女。魔女を狩る者たちさ」

さやか「これはカメラですか?」

QB「おい」       

~~マミの部屋~~

コポポ…

マミ「やはり豪胆の持ち主ね。

   今まで巻き込まれた人であんな冷静な人はいなかったわ。どうぞ」クスクス

さやか「どうも。いや~、大分パニクってたよ。

    まどかとほむらがすごい美人の後ろにいたから、

    あー、二人ともなんかの撮影のエキストラやってたのかと。

    (ズズ…)紅茶うま!」ハァーッ

マミ「口に合ってよかったわ」ニコ

まどか「すぐそう思い込めるなんて、さやかちゃん、すごいよ」

さやか「(モグ…)あんた達が言ってくれないのがいけないんでしょ、それならそうと……、

     ケーキうま!」

まどか「だってそれは……、さやかちゃんを…」

さやか「よいよい。考えたらあたしだって逆の立場なら言わないさ。

    ほらほら、辛気臭い顔してちゃせっかくのケーキが台無しだ。

    マミさんもまどかもほむらも紅茶が冷めないうちに飲みなって」

ほむら・マミ「クスクス…」

さやか「ん?何?」

ほむら「だって、まるで自分がもてなしているみたいで…」クスクス…

まどか「さやかちゃん、逆だよ」

さやか「うるさーい、あんまり美味しくて舞い上がっちゃってたんだよ。

    …ふふ、でもほむらがあたしにも笑ってくれてちょっと嬉しいかも」

ほむら「あ…」

さやか「改めて、マミさん、ほむら、それにまどか。危ないところを助けてくれてありがとう」

マミ「わたしたちもあなたを助けられてよかった。特に鹿目さんたちはね」

まどか「てひひひっ。ほむらちゃんがあそこに魔女が出るんだ、て教えてくれたの」

さやか「へー、そういう予想って出来るもんなの。その…、魔女って敵が出る場所とか」

ほむら「は、はい…。時々は」

マミ「全て分かるわけではないにしても、

   暁美さんのおかげで以前のソウルジェム頼りに探す方法よりもとても助かってるわ。

   今回みたいに犠牲者が出る前に魔女や使い魔を倒すことができるから」

ほむら「いえ、そんな……。わたしなんかより巴さんの理論に基づいた方法のほうが確実です」

さやか「それにしても、あたしの知らないところでこんな危険を冒してたのね……」

QB「マミ達も新たな戦力が加わってくれればもっと安全に戦えると思うんだ」

マミ「キュゥべえ、美樹さんにとっても大事な決断なんだから急かしてはダメよ」

さやか「…マミさん、願い事って自分のためのものじゃないとダメなのかな」

QB「別に契約者自身が願い事の対象である必要はないよ。前例がないわけじゃないし」

マミ「……美樹さん、どういうこと?」

さやか「あたしの知り合いにね、あたしより困っている人がいて、そいつのためとか…」

マミ「それって上条くんのこと?」

さやか「おい、まどか……。どうして初対面の人が恭介のことを知ってるんだ」

まどか「テヘヘ…」

マミ「ごめんね。鹿目さんからあれこれ聞かされて、

   わたしにとってはあなたが初めて会う気がしないくらいなの」

まどか「あ、そういえばマミさんって上条くんの手、ケガを治す魔法で治せませんか?」

ほむら「あ!確かに……!」

さやか「ケガを治せる魔法なんてあるの?」

まどか「うん!すごいんだよ、魔女に操られてひどいケガした人だって治せるんだから。

    ね、マミさん!」

マミ「……そ、そうね。一度、彼に会わせてもらって……」

さやか「……うーん、やっぱ会ったばかりで迷惑かけたくないし。

    あたしが願いごとで治してもらうわ」

まどか「えっ!?な、何で!?」

ほむら「そんな、わざわざ魔法少女になって危ない目に遭う必要はないですよ」

まどか「そうだよ。わたし、さやかちゃんが仲間になってくれたら嬉しいよ。

    でもマミさんが治してくれるなら願いごとにしなくても……」

さやか「…ねえ、マミさん。ほんとは治せないんでしょ?」

マミ「……ごめんなさい」

まど・ほむ「……!」

ほむら「そ、それはお医者さんに治せないほど重いケガだから……?」

マミ「もちろんそれもあるわ…。でもわたし自身の能力の問題がいちばん大きい」

まどか「そんなことないですよ!きっとマミさんなら……」

マミ「ええ。ダメもとと言ったら失礼だけど、

   美樹さん、それから彼本人さえよければわたしの全力を使わせてほしい」

さやか「ありがとう、マミさん。でも嘘つかなくていいんだよ」

マミ「……」

まどか「さやかちゃん、マミさんは嘘なんて――」

さやか「嘘っていうか、もっと大事なことを話してないっていうか。

    なんかもっと複雑な問題なんだけど、それを全部しょいこんで、

    自分一人のせいにしてる気がするんだよね、なんとなく……。

    恭介やあたしの力になりたいと思ってくれてるのは分かるんだ。

    それだけですっごくあたしは励まされてんだから苦しまないでほしいんだよ」

マミ「……美樹さん。鹿目さんから聞いてたとおりの人ね。

   打ち明けたところ、ありのまま分かってることを話すと、

   ただの言い訳にしかならないことなんだけど、ここは甘えさせてもらうわ」

まど・ほむ「……!」

マミ「なぜなのかは分からない。ただ、天の配剤とか、試練とか、業とか、…運命とか。

   魔法とは本来それらを超えて望みを叶えるはずのものだし、

   だからこそ必要以上にみだりに扱ってはいけないとわたしは思うんだけど、

   ……魔法で超えられないときがあるの」

ほむら「それって、巴さんの能力的に、ってことなんですか?」

マミ「深い傷を治すに足る魔力の強さ、そのしきい値の問題ではなくて、

   魔法が効力を発揮しない。それが実感としか言えないわ。

   経験的に、試みる前から『これは無理だ』って、

   なぜか分からないけど分かるようになるの」

ほむら(確かに、鹿目さんが言ってたように、ひどいケガの人を治せるなら、

    巴さんは能力的には上条くんの手も治せてもおかしくない……)

まどか「マミさん、それじゃ上条くんの手は……」

マミ「……ごめんなさい。今のわたしには……」

まどか「……ううん、わたしこそ。マミさん、さやかちゃん、ごめんなさい」

マミ「……もう一つだけ、ひどく無神経なことを言うようだけど、

   叶えたいことがどうでもよくなった頃になるとふと叶うこともある。

   そういう意味では希望がないわけじゃないわ」

ほむら「……ど、どうでもよくなるなんて……」

マミ「全て忘れろ、って意味じゃない。ただ、今どうしようもないことなら、

   今やるべきことに集中して前に進むしかない。

   現実を直視するって、何もかも最初からあきらめて受け入れるって意味じゃなくて、

   現状を今あるもので変えられる、超えられるか、視野を広げて吟味したうえで、

   それが今すぐにできないことなら、時間をかけて尽力で変えていくってことだと思う。

   変えたいものが環境なのか自分の内面なのかはその人によるんだろうけど、

   環境なり考え方なり行動なり、可能な小さな変化を継続して積み重ねていけば、よ」

まどか「う、うーん…?」

マミ「……わたし、何もできないくせに偉そうなことを……」

さやか「いや、聞けてよかったと思ってる。まどか、話フッてくれてありがとう。

    マミさんも話してくれてありがとう。

    うん、あたしが願いを叶えて恭介の手を治してもらうよ」

マミ「……奇跡や魔法でしか叶えられない願いなら、

   それが叶ったあとのその先の結果まで責任を背負うことになるわ。

   どんなにわたし達があなたのせいじゃないと言っても、

   あなたは自分で自分を追い詰めて背負ってしまう……、そういうものよ。

   願いを叶えるのがあなた自身ならまだいい。

   でも人の願いをあなたが叶えるというのなら、

   あなたは下手をすると重荷に潰されかねないわ」

まどか「マミさん……?」

さやか「……」

マミ「鹿目さんからの話を聞く限り、わたしは美樹さんをそういう人だと思う。

   しかも、彼のことを慮って、あなたは上条くんに、

   彼を助けたのが自分だと伝えることもしないでしょうしね……」

ほむら「そんな……」

さやか「マミさん、ありがとう。……でもね、あたしは恭介に伝えるよ」

マミ「!」

さやか「伝えて、背負わせる。

    あたしに助けられたからってそれで何かに囚われて人生が狂ってしまうなら、

    上条恭介はそこまでの器だったってことだよ」

まどか「さやかちゃん……」

マミ「…魔女との戦いは命がけよ。それに日常的に時間を割かなければならなくなるし、

   大事な約束があっても必要に応じて務めを果たさなければいけないときもある。

   急がないで、その望みと引き換えならこれからどんな苦しいことも我慢できるか、

   それともそうじゃないか、一度じっくり考えてほしいの」

さやか「‥ほんとのこと言うとね、そんな純粋に恭介のためだけに願うわけじゃないんだ。

    あいつの夢を叶えた恩人になりたいって気持ちもある。

    それと同時に、ただあいつの奏でる音色をもう一度聴きたい、って気持ちもある。

    両方ともがあたしの本音だから……。

    そりゃ危険なことに首突っ込むんだもの、後悔なんてしたくないしさ…、

    でもそうできる、って分かってて今そうしないならあたしは絶対後悔する。

    …そんなワガママ通すんだから、あたしは決して後悔しないよ」

まどか「ね、ねえ……。さやかちゃん、やっぱり上条くんに相談してからのほうがいいよ。

    上条くんだって、さやかちゃんを危険な目に遭わせてまで治りたくないはずだよ」

さやか「かもね。だから、事後承諾ってのがミソなんだよ。

    あいつが信じようが信じまいがあたしには恩人だっていう自己満足が残る。

    あたしとあいつと絶交するようになっても、腕は治ったって結果があいつには残る。

    治ったあと伸びるか駄目になるかはあいつの勝手だし。

    でもあいつに背負わせるのは、あくまでも知らない内に押しつけられた結果でなきゃ。

    だって、相談してしまったら、あたしが願いを叶えるかどうかの責任まで、

    あいつに背負わせることになっちゃうもん」

まどか「……」

マミ「そこまで……。もう何も言わないわ。あなた達が幸せであるように祈ってる」

QB「じゃ、いいんだね」

さやか「うん、魔法少女になるわ。やって」

ピカーッ コオオオオ……

QB「君の祈りは却下された。契約は不成立だ」ヒュゥ~ン…

~~病室~~

恭介(左手に何か変な感覚が…? いや気のせいか……)


~~マミの部屋~~


さやか「こんなのってないよ!あんまりだよ!」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「痛々しそうに見るなー!」

さやか「ねえ、どうして?あたしは恭介を助けたいだけなの!どうして叶えてくれないの?」

ほむら「美樹さん……」

さやか「哀れむような目で見るなー!」

QB「僕にもなぜこうなってしまうのか分からないんだけどね。

   計算によると、まず上条恭介の左手が願いによって治癒した場合、

   彼を中心とした半径約100km圏内にいる人間のうち、

   左腕を失っている状態にある者、或いは左腕が動かない状態にある者が全て、

   その機能を回復してしまうらしい」

さやか「大いに結構なことじゃない」

QB「とんでもない。君の将来性をかんがみてもこちらは割に合わないよ。

   君が願ってもないことを勝手に叶えたおかげで、

   他の少女たちが願いを叶えるはずだった機会そのものを奪ってしまう可能性は否めない。
   
   君がその当事者たち以上に起こったことに対して感情が揺れ動くとは考えにくいもの。

   まさかこんなことが起きるとは思わなかったが、

   判明した以上そんなリスクの大きい取引には応じられないんだ」

さやか「そんな訳の分からないこと言わないでよ。どんな願い事でも叶えてくれるんでしょ?」

QB「こちらとしても残念だが……。

   期待させてしまってすまないが、今回は縁がなかったということで」

さやか「はぁ……」ガク

マミ「落ち込まないで、美樹さん…。これでよかった、て思える日が来るかもしれないわ」

ほむら「どうか元気を出して下さい…」

まどか「そ、そうだよ。もしかしたら、上条くんのケガだっていつか治せるお医者さんが…」

さやか「…かもね」

まどか「うん、だから…」

さやか「でもその頃にはヴァイオリニストになるには遅すぎると思うわ…」

まどか「あ…ぅ……」

さやか「……しょうがないよね、ナッハハ……。

    でもここんとこ現実を受け入れなきゃ、って気を張ってばかりだったから、

    ちょうどよかったわ。

    先に進む前にもしも治るなら、て一回位はとことん考えてもいいはずだもんね……。

    みんな、ありがとう。

    そういう機会を与えてもらっただけでも無意味じゃなかったんだと思う」

マミ「美樹さん、その意気よ」

さやか「うん!少し元気出てきた」

まどか「う、うん…」

さやか「何だぁ? ほら、まどかも元気出しなってー。うりうり」

まどか「もう、立場が逆だよ…」

ほむら「ふふ…」

~~玄関~~


さやか「マミさん、ケーキご馳走さまでしたー」

マミ「お粗末さまでした。

   美樹さん、ぜひまた家に来て。魔法少女でなくても、あなたとは友達でいたいから」

さやか「え、本当にいいの?何か色々甘えちゃいそうだなぁ」

マミ「安心して。同じ見滝原の先輩として、びしびしアドバイスしちゃいますから」

まどか「それじゃマミさん、また明日」

マミ「気をつけてね」

ほむら「失礼します」

~~帰り道~~

さやか「じゃあここで。…そういえば、なんか愚痴っちゃってごめんね。

    危険な目に遭ってるのはあんた達なのに…」

まどか「そんなこと気にしなくても…」

ほむら「こちらこそ何も力になれなくて…。わたしに出来ることがあれば…」

さやか「いや何言ってんの。まどかもほむらも命の恩人の上に、

    今日はマミさんとあんた達のおかげでだいぶ元気が出たよ。

    それじゃね、バイ」ピッ スタスタ…

まどか「うん。またあした」


トボトボ

まどか「…さやかちゃんも上条くんもかわいそうだよ。

    どんなに頑張っても治る見込みがないなんて…」

ほむら「ええ……。でも、きっといいことありますよ、美樹さんたちなら」



~~病室~~

ガラガラ

さやか「ないんだったら作ればいいのよ!」

恭介「!?さやか、帰ったんじゃないのか? て言うかもう夜だぞ!?」

さやか「恭介、結婚しよう!あたしがあんたの子どもを産むわ!」

恭介「うん、分かった。分かったから落ち着け。…一体何があった?」

さやか「ほむらとまどかは魔法少女になって忙しくしてたってこと!

    あとあんたは知らないでしょうけど、三年生の巴マミさんって人も!

    あたしが魔女に襲われて危ないところを救われたのよ」

恭介「(ギシ…)オーケー。付き添っていってあげるから今すぐ病院に行こう。

   大丈夫だ。僕は君を見捨てないとも」ヒシ

さやか「(バッ)だからそんな目で見るなー!本当にあったんだから!」

恭介「(ペチ)はぁ……。じゃ、詳しく、順を追って話してくれ」ギシッ…

―――
――

さやか「……で、さっきまどかとほむらと別れて家に向かって帰ってたってわけ。

    信じてくれた?」

恭介「いや」

さやか「だったら何のために話させたの!?」

恭介「明日、鹿目さんと暁美さんをここに連れてきてくれ。

   二人が本当だと言って、目の前で変身でもしてくれたら信じるさ」

さやか「ったく疑り深いなあ」

恭介「それはともかく家に帰ってたはずがなぜここに戻って僕に結婚を申し込むことになる?」

さやか「あ、別に相手は仁美でもいいのよ」

恭介「どうしてそう思うのか、順を追って、話してくれ」

さやか「まず歩きながら考えてた。

    あんたの左手は今の医学じゃ治せない。キュゥべえにも叶えてもらえない」

恭介「うん」

さやか「でもあんたの才能を受け継いだ子どもなら超一流のヴァイオリニストになる」

恭介「さあね」

さやか「というわけで」

恭介「繋がらねえよ!」

さやか「何言ってんの。それしかないじゃん」

恭介「色々言いたいことがあるけど、特に結論の向こう側に対してだね。うん、そうだ。

   親の果たせなかった夢を押し付けられた子どもの悲劇だか喜劇だかは、

   こうして始まるんだな」

さやか「あれだけ息子の自主性を大切にしてくれてるおじさんとおばさんを持ってよく言うわ」

恭介「……。わかったよ。一つの可能性として頭に入れといても損はない斬新な考え方だ。

   わざわざ知らせに来てくれてありがとう」

さやか「うんうん、分かればよろしい」

恭介「ただね、年頃の女と男が夜遅くに二人っきりで話す事柄でもないだろ」

さやか「ああ、まあ……。そろそろ帰るわ」

恭介「はいよ。おつかれさん」ギシ

さやか「え、どうしたの」

恭介「送ってく」

さやか「いや、いいって」

恭介「気にすんな。上着着て、裏口使えばバレないし」

さやか「だから、あんたが何か起こすとあたしが困るから」キッ

恭介「……人通りのない道選ぶなよ」

さやか「うん。じゃね」

恭介「鹿目さん達によろしく」

さやか「はいはい」ガラガラ


恭介「……。(ハァーッ)」ガク



~~次の日、放課後~~


仁美「さやかさん、これから少し時間あります?」

さやか「あー、今日はまどか達と恭介の見舞い行くんだわ。仁美も来る?」

仁美「いえ。出来れば、さやかさんと二人でお話したいことがあるのですけど」

さやか「ああ‥、わかった。まどか、ほむら、悪いけど先行っててくれる?

    受け付けの人に言えば分かるから」

まどか「…うん、また後でね」

ほむら「あ、じゃお先に…」


~~病院への道~~


ほむら「何だか…、緊張しますね。わたしたちだけだと」

まどか「そっか、ほむらちゃんは上条くんに会うの初めてだもんね」

ほむら「それもありますけど…、普段からお見舞いに行ったことのないのに今日だけ来て……、

    わたしたちが帰ったあと、かえって寂しくさせてしまうような…」

まどか「……」

ほむら「ごごめんなさい!わたし、自分がそうだったからなんてひねくれてますよね、ああ…」

まどか「ううん、今日ほむらちゃんがいてくれてよかった。

    わたしだけだったら上条くんがそうかもしれない、て考えることもしなかったもん」

ほむら「で、でも変に気を遣うより自然体の方がいいと思うんです」

まどか「そうだなあ。実はわたしもちょっとドキドキしてるの。

    わたしは上条くんのお見舞いのためというより、

    さやかちゃんが上条くんのことを話してる様子が楽しみで今までついていってたから。

    さっき帰っちゃおうかな、って迷ったんだけど」

ほむら「上条くんが鹿目さんとわたしに会いたいそうなんですよね」

まどか「どうせなら元気づけてあげたいもんね。上条くんって演歌は聴くのかな」

ほむら「さぁ…、音楽を志してる人なら一通りは知ってるんじゃないでしょうか」

まどか「話が合えばいいけど…、そもそもどうして急にわたし達と会いたいと思ったんだろ?」

ほむら「うーん、退院が近いからクラスの雰囲気を美樹さん以外の人から聞きたかったとか」

まどか「あ、そうか。だったらほむらちゃんのこととか先生のこととか…」

ほむら「えっ。わ、わたしもですか?」

まどか「だってほむらちゃんが呼ばれてるんだもん。きっとそうだよ」

ほむら「そ、そんな…」



~~ショッピングモール内のファーストフード店~~


さやか「で、話って?」ヂュー

仁美「‥恋の相談ですわ」

さやか「ん」ピタ 

コト…

仁美「…実は長い間、まどかさんやさやかさんに秘密にしていたことがありますの」

さやか「うん」

仁美「ずっと前から、わたし、上条恭介くんのことお慕いしてましてたの」

さやか「‥うん」

仁美「……さやかさんはわたしに何か言うことはないんですか?」

さやか「…話をつけなきゃいけないんだね」

仁美「‥わたしの上条くんに対する気持ち、気付いていたんですの?」

さやか「仁美はあたしの気持ちに気付いてたんだね」

仁美「……」

さやか「……」

さやか「…恭介の左手がもう治らないことは知ってる?」

仁美「ええ。やっぱり……」

さやか「やっぱり?」

仁美「昨日のあなた達の会話からなんとなく」

さやか「……?」ピク

仁美「魔法少女がどうとかも聞こえましたけど……」

さやか「ああ、願い事で叶えてもらえたらな、って思ったんだけど、

    世の中そうそう都合よくいかなくてさ。

    ……あんたに約束してほしいことがあるの。

    恭介との子どもを世界一のヴァイオリニストにして」

仁美「…逃げますの?」

さやか「うん」

仁美「……!」

さやか「これでも昨日一晩考えたんだよ。

    …まさか今日あんたが決めにくるなんて思わなかったけど。

    だって、どう考えてもあたしと仁美じゃ敵いっこないもん。

    あんた頭いいし、品行方正だし、あたしより優秀な子どもを産めるに決まってる。

    ……それに、こんなこと言っちゃいけないけどあたしん家よりお金持ちだからね…」

仁美「…ふざけないでください」

さやか「…!?」

仁美「彼の子どもをヴァイオリニストにする?

   わたしがどうだから、あなたがどうだからどんな子どもが生まれる?

   そのこととあなたとわたしの上条くんに対する気持ちの深さと何の関係がありますの?

   いいえ、何より許せないのは今のあなたの考えだと、

   あなたにとって上条くんは何なんですの?

   手前勝手な将来設計図に置いていかれた上条くんの人生はどうなりますの?

   彼が今まで音楽に懸けてきた思いを…、あなたやわたしの彼への思いを…、

   全てそのための道具だと言いたいんですか!!」

さやか「それは…」

仁美「あなたがそんなことでは……一体どうやってわたしは……」

さやか「仁美!?」

仁美「……」

ザワザワ ヒソヒソ

さやか「と、とにかく出よう?ほら」


~~病室~~


まどか「‥こんにちは~」

ほむら「失礼します」

恭介「あ、やあ、いらっしゃい。

   鹿目さんと…、君が暁美ほむらさんだね?」ボー

ほむら「はい。あの…、お疲れですか?」

恭介「ちょっと昨日寝付けなくてね…。あ、気にしないで」

まどか「無理したら体に悪いよ。今日は…」

恭介「いや、待って。君たちの話を聞かなかったら今日も眠れなさそうだ」

ほむら「と、言うと…?」

恭介「昨日の夜、さやかが突然ここに来て僕と結婚して子どもを産むとか言うんだ」

まどか「そんなとこまで考えてたなんて…、さやかちゃん……」

恭介「それはまだいい。いきなり言い出すのがおかしいとはいえ、これに比べたらね…。

   次に言うには、君たちが魔法少女で、学校の先輩と一緒に、

   魔女から自分を助けてくれたって……」ガク

まどか「あ、ははは…(そういえば)」

ほむら「あ、ああ…(内緒にして、て言うの忘れてた)」

まどか「と、とりあえず、どんな話だったか教えてくれるかな…」

恭介「うん。あ、掛けてて…」


―――
――


恭介「……僕が聞いたのはこれだけ」

まどか「そうなんだ…(うわー)」

ほむら「話してくれてありがとうございます(全部話しちゃってる)」

恭介「僕を心配し過ぎたせいでさやかの頭がおかしくなっちゃったのかと思うと……」

ほむら「大変でしたね。事故に遭われて辛いのに……」

恭介「いや。それは自業自得っていうか…納得してるんだ」

ほむら「自業自得…?」

まどか「……?」

恭介「…いいかい、さやかには言うなよ」

まどか「うんうん」

恭介「あの時…、ふと見たら道の反対側に黒猫がいたんだ」

まどか「…」

ほむら「…黒猫?」

恭介「うん。ほら、猫ってさ、飛び出す時は飛び出すって決めてかかるだろ。

   あの体勢だったわけ。それで…」

ほむら「横切ろうとした猫を助けようと…」

恭介「いや。猫は飛び出さなかった」

ほむら「?」

恭介「暁美さんは知ってるかな。鹿目さんやさやかは通学路に使ってるけど。

   結構幅が広い道路だったから声だけじゃ届かなそうだったんで、

   大声を挙げながら向かっていったら、別の方向へ逃げてった。

   で、結果的に道に飛び出したのは僕だけだったっていう……」

ほむら「はぁ……。ゆ、勇気ありますね…」

恭介「うん。どうかな。あんなに車が近くまで迫ってると知ってたら違ったかもしれない」

ほむら「……」

まどか「……そうだったんだ。さやかちゃんも不思議がってたの、

    見通しがいいのにどうして事故に遭ったんだろうって」

恭介「まあ普通はそう考えるよね。なんとかお茶を濁したけど。

   こんなことさやかにも親にも言えたものじゃないからね」

まどか「でも話してくれて、助けてくれてありがとう。

    その黒猫、多分わたしもよく知ってる子だと思う」

恭介「そうなの?だとしても、助けたと言えるかどうか…」

まどか「ううん、ほむらちゃんの言うとおり上条くんは勇気あるよ」

恭介「…。二人にそう言われたら少し心が軽くなったよ。

   ありがとう、人に話すのは初めてなんだ」

まどか「そっか…。秘密、話してくれたんだ…」

ほむら「あの、美樹さんのこと上条くんはどう思ってるんですか」

恭介「さやかを?……冗談にしろ本気にしろ、そう言ってくれることは嬉しいさ。

   正直、あいつとは結婚するんじゃないかなあというか、

   あいつ以外にいるのかなあと前から思ってる」

ほむら「はぁ…」

恭介「ただね…、そうなるにしろならないにしろ、

   問題なのは自分がどんな人間になってるかってことだろ。

   結局何がしたくて、今どうするのかという…。

   さやかに言われるまでもなく、僕には音楽しかない、それも演奏するほうが好きだ。

   だが弾けないヴァイオリンを前にしてどうするのかってとこまで来て、

   今そこで止まってる状態なんだよ」

まどか「うん…」

恭介「あ、そんな深刻な顔しないで。思いつめてるわけじゃないんだ。

   …こういう風に整理できるのも、じっと見守ってくれてる父さんと母さん、

   それから人の心に土足で踏み込んでくる幼馴染のおかげだね」ニッ

ほむら「ふふ…」

恭介「そういえばさやかは?

   あいつ志筑さんまで変なことに巻き込みそうだったから釘を刺しておかないと…」

まどか「あ、さやかちゃんなら仁美ちゃんと…」

恭介「遅かったか」


~~ショッピングモール内のトイレの個室~~


仁美「……。本当はあなたとは……、上条くんが退院してからお話するつもりでした」

~~隣の個室~~

さやか「そう…」

~~~~

仁美「でもわたし……。昨夜稽古事の帰りにあなたを見かけましたの」

~~~~

さやか「……」

~~~~

仁美「あなたを尾けて……、扉越しであまり聞こえませんでしたけどわかりましたわ。

   あなた方の間に割り込む余地など無いと」

~~~~

さやか「恭介の気持ちなんて勝手に想像しただけじゃわからないってさっき言ったじゃん」

~~~~

仁美「いえ。さやかさんこそが恭介くんにとってたった一人のマドンナです」

ジャーッ ガチャ

さやか「っ」ガチャッ

仁美「……あなたこそ、彼をただどこまでも支えて下さい。

   わたしが言いたいのはそれだけですわ」

さやか「仁美……」

仁美「この話は終わりにしましょう。明日からはまどかさんと暁美さん、あなたと、

   大切なお友達としてこれまでどおりにありたいと思っています」

ペコ‥ スタスタ…  ガチャ


さやか「…あたしは……」


~~病室~~


まどか「ねえ、さやかちゃんが来てない間、上条くんって何してるの?」

恭介「ここの本棚に置いてある古い漫画を読んだり、さやかの持ってきたCDを聴いたり…、

   あ、勉強はしてるよ。勉強はしてます。うん」

ほむら「CDって、……もしかして、これ?」

恭介「そう」

まどか「いつの間にか、こんなに増えてたんだね」

恭介「ほとんど見舞いに来るたんびにだったからなあ。

   でもこれ、廃盤になったけどいい演奏のものが結構あったりして。

   ちょっとやそっとの手間じゃ、これだけ揃えられないよ。

   レアなCDを見つける天才でもなければ」カタ カチャ


~~病室~~


まどか「ねえ、さやかちゃんが来てない間、上条くんって何してるの?」

恭介「ここの本棚に置いてある古い漫画を読んだり、さやかの持ってきたCDを聴いたり…、

   あ、勉強はしてるよ。勉強はしてます。うん」

ほむら「CDって、……もしかして、これ?」

恭介「そう」

まどか「いつの間にか、こんなに増えてたんだね」

恭介「ほとんど見舞いに来るたんびにだったからなあ。

   でもこれ、廃盤になったけどいい演奏のものが結構あったりして。

   ちょっとやそっとの手間じゃ、これだけ揃えられないよ。

   レアなCDを見つける天才でもなければ」カタ カチャ

ほむら「何かお薦めの曲ってあります?」

恭介「うーん。(カチャ カチャ…)これはどうかな」スッ

ほむら「モーツァルトのクラリネット協奏曲…」ソッ

恭介「クラリネット奏者がカール・ライスター、指揮はネヴィル・マリナー。

   これはモーツァルトの晩年の………」

まどか「どうしたの?」

恭介「君たち、最近身内に不幸があった?」

まどか「‥ううん?」

ほむら「…いいえ」

恭介「…ならいいかな。ねえ、モーツァルトとベートーヴェンって違うよね」

まどか「違う人だものね」

恭介「うん。鹿目さんなら鹿目さん、暁美さんなら暁美さんみたいに、

   それぞれの人生があって、どちらがどうとか他人が言うことじゃないんだろうけど。

   でも考えてしまうんだ。

   モーツァルトは天才で、ベートーヴェンは努力家だとか。家庭環境の違いとか。

   モーツァルトもベートーヴェンも病や人生には苦しんだけど、

   前者は作曲時の人生の調子と、曲調がかけ離れたものだったのに対して、

   後者は耳が聴こえないという絶望や、親族問題、政治・社会問題とか人生そのものに、

   真正面から向き合って苦悩を乗り越えていくプロセスが作曲に反映されてる」

ほむら「そういうイメージがありますね…」

恭介「こうしてみると、二人は互いに対になる存在だ……、と言いたくなるんだけど、

   簡単にそうは言えないジレンマみたいなのがあって…」

ほむら「ジレンマ?」

恭介「ベートーヴェンの方さ。

   モーツァルトは三十代半ば、ベートーヴェンは五十代半ばに亡くなった。

   前者はレクイエム自体は未完だったけど、その音楽性はもう完成の域にあった。

   でも後者は……」

まどか「…完成しなかったの?」

恭介「第九や弦楽四重奏曲第十五番みたいに、苦悩をつき抜けて喜びにとか、

   病癒えて神に感謝を捧げるという境地は、彼の人生に裏打ちされた真実だよ。

   ベートーヴェンの辿り着いたものは腹の底から人を揺さぶるほどの力を持ってる。

   でも人生は真実に辿り着いた所できれいに終わってくれないんだ。

   実際、彼は亡くなる前年から、息子のように面倒を見ていた甥が自殺を図ったり、

   自身は立て続けに複数の病魔に襲われたりと、これでもかってくらいの目に遭った。

   結局、病気は治らずにそのまま悪化して……」

ほむら「……」

恭介「モーツァルトだって、意地悪な人に出世を阻まれたこともあったし、

   その天賦の才を活かしきるのに労を惜しまなかったろうけど、

   人生に向き合う態度として悲壮なものは、きっと生来好まない人なはずだよ。

   ヨーロッパじゅうを演奏旅行する傍らで音楽について貪欲に学習をしたり、

   色んな人生経験を重ねていくうちに、その内面が作品に自然と反映することがあっても、

   少なくとも芸術は一種、至上の世界として別格に捉えていたと思うんだ。

   いっとき貴族からもてはやされた割に作曲の依頼はだんだんと減っていって、

   その晩年は生活が困窮していた。盛大とも言えるベートーヴェンの葬儀に比べて、

   共同墓地の一画というほかは正確なお墓の位置も分からないくらい。

   でも、その現実から切り離されたように、そのCDの曲調は清澄そのものだ。

   モーツァルトが諦観の境地にあったと言うなら分かるよ。

   でも、ベートーヴェンがそうだとしたら、悔しいじゃないか。

   だってヒューマニズムの体現者が敗北したのか、ってなるだろ。

   突きつけられる問題から逃げずに向き合ってきたために、

   越えても越えても新しい苦しみだけが襲ってきてさ。

   ずっと人生と戦ってきたってのに……」

ほむら「それはベートーヴェン本人にしか分からないことじゃないでしょうか。

    それに、彼だってそんな大問題だけでなく友人や大切な人と過ごすこと、

    あるいは日常生活のささいなことに楽しみを見出したりしてたかもしれないでしょう」

恭介「…そうだね。暁美さんの言う幸せな側面も含めて、

   ベートーヴェンはその最期のときにも人生を肯定したかもしれない。

   でも『違う、こんなものじゃない!』と苦しんだとしても彼らしい」

ほむら「どちらにしても死ぬまで必死に生きたんでしょうね」

恭介「そこまでいくと、モーツァルトとベートーヴェンは対なのかもしれない」

ほむら「ふむ…」

まどか「……」

恭介「あ、ごめん。なんか暗い話して。

   さやかにもらったCDを聴いてたら考えちゃってさ」

まどか「ううん。ぜんぶは分からなかったけどそういう話を聞いたら、

    なんだかわたしも聴きたくなった」

恭介「そう?さやかの携帯プレーヤーにダビングするつもりだから、

   それでよかったら聴いてみて」

ほむら「はい」

まどか「ありがとう。それじゃ、わたし達そろそろ帰るね」

恭介「うん、来てくれてありがとう。楽しかったよ」

ほむら「お大事に。失礼します」

ガラガラ…


~~病院のロビー~~


まどか「上条くん、元気そうでよかったね」

ほむら「ええ、退院が楽しみですね」

まどか「そうだね。ねえ、ほむらちゃん…、あのね」

ほむら「はい?」

まどか「ここに来ると入院してたときのこと思い出したりする?」

ほむら「今でも時々来るのでそういう感覚はないような…」

まどか「え?」

ほむら「あ、大丈夫です。経過観察のためで、悪くなったからではありませんから。

    でもどうして?」

まどか「上条くんの病室を出てから、少しいつもより元気そうじゃないな、というか…」

ほむら「それは…、病院の廊下を歩くときは決して笑わないようにしよう、て決めましたから」

まどか「…?」

ほむら「元気ですよ。心配してくれてありがとう」ニコ

まどか「よかった。元気ならいいの。

    ……あれ、ほむらちゃん、ソウルジェムが光ってるよ」

ほむら「え?」スッ

まどか「うん、わたしのも」チカチカ…

ほむら「え…そんな……」

QB「反応が弱いな…。使い魔だろうか」

まどか「だったら近くかな?」

QB「遠くにいる魔女に反応してるのかもしれないけど、一応敷地内を廻ったほうがいいね」

ほむら「……」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「あっ、いえ…。早く探し出しましょう!」

まどか「うん!」


~~病室~~

恭介「あ、肝心なこと聞くの忘れてた」


~~病院裏、駐輪場~~


QB「おかしい…。そんなに移動していないのに反応の強まり方が急激過ぎる。まさか…」

まどか「あっ!あそこ!」

QB「グリーフシードだ!孵化しかかってる!」

まどか「わ、わたし達の魔法で何とかできない?キュゥべえも呑み込んじゃえない?」

QB「こうなってしまってはどちらも無理だ。この魔女は強いよ。

   君たちが叩いてもむしろ孵化の手助けになる危険性のほうが大きいし、

   もう僕が呑み込める状態じゃない。卵から出てきた魔女と対決するしか方法はないよ」

ほむら「巴先輩を呼びましょう!」

まどか「うん!」ピッピッ…


まどか「……駐輪場の辺りです。……はい、分かりました」ピッ

まどか「急いで応援に向かう、先に結界に入って魔女を逃がさないように見張っていて、って。

    あと、場所が場所だから迷い込んだ人がいないか、

    魔女の孵化まではそちらを優先して保護につとめて、って」

ほむら「分かりました。…あらかじめグリーフシードがここにあることを知っていたら」

まどか「分かるときと分からないときがあるんでしょ?ほむらちゃんのせいじゃないよ」

QB「むしろ孵化する前に発見できた幸運に感謝しよう。

   君たちのお陰で大勢の人を救えるんだ」

まどか「そうだよ!準備はいい?ほむらちゃん」フワァッ

ほむら「‥はい!」フワァッ

QB「大きな魔力を使って刺激しないように気をつけて。

   魔女がかえる引き金になってしまう恐れがあるからね」

まど・ほむ「了解!」

スゥッ


~~魔女の結界内~~


恭介「どわ~~はっは!!」


ほむら「…今の叫び声」

まどか「上条くんだね」

QB「いきなりマミの懸念が当たってしまった」

まどか「魔女の手下に襲われてるのかも。行こう、ほむらちゃん!」

ほむら「ええ!」

タタッ


ピョコピョコ ゾロゾロ

恭介「はっはっはっはっ…」ダダダ

まどか「上条くーんっ!」タタタ…

恭介「(ハッ)は、はひっ…」ダダダ

まどか「使い魔たちに追われてる…!キュゥべえ、やっつけるよ?」

QB「しょうがないな。魔力を使うなら覚悟しておいて」

まどか(チラ)

ほむら(コクッ)

まどか「上条くん、こっちへ!…ほむらちゃん、お願い」

ほむら「はいっ」

カチャッ パシッ

恭介「……(あの筒みたいなのって!?)」ダダダ

カチッ

恭介「鹿目さん、暁美さん!」ダダ…

まどか「そのまま走って!」

恭介「ええ!?」ダダッ

ほむら「ここに置きます!」ポイ タタッ

まどか「離れろ~っ」タタッ

恭介「つまり…」ダダ

ピョコピョコ ゾロゾロ…

ドカーン!! 

恭介「のわあっ」

モウモウ…

バシュッ バシュッ

恭介(鹿目さん…!?)

ほむら「気をつけて!まだいます!」カチャッ パシッ

まどか「(ハッ)ほむらちゃん、後ろ!」

ほむら「!?」クルッ

恭介「くっ‥!」ダッ

パシン ギュオオオ…!

使い魔「ギギィ…!」

‥カツン

ほむら(使い魔がグリーフシードに変化した!?)

恭介「な、何だ?今の倒したってこと?」

ほむら「ええ、まあ…」

まどか「上条くん、ほむらちゃんを助けてくれてありがとう!」バシュッ

恭介「どういたしましてというかこちらこそ二人とも、助けてくれてありがとう!」タタ

まどか「ところで上条くん、病室にいたのにここに迷い込んじゃったの?」

恭介「いや、鹿目さんと暁美さんに聞きたいことがあって、

   探しているうちにいつの間にか」ギュオオ… カツン

まどか「聞きたいことって何?」キリキリ…

恭介「君たちが魔法少女だって話、本当?」タタ

まどか「うん!黙っててごめん!後で詳しく話すから…」バシュッ

恭介「いや、大体の話は…」

ブサッ

恭介「痛ってええええっ!!」

ほむら「退がってください!」カチッ

恭介「えええ」タタ

ポーン

ドカーン!

恭介「ありがと…。テテ…」

ほむら「こちらこそ。でも大丈夫ですか?手下だからって素手で殴るなんて無茶ですよ」ハッ

恭介「(クルッ)おかしいなあ、さっきまでは――」パシン

使い魔「キィィ!」

ギュオオオ… カツン

恭介(左手なら効くのか……!)

まどか「とにかくほむらちゃん、上条くんを外へ…」

ほむ・恭「鹿目さんをここに置いていけません!」

まどか「わ、わたしそんなに頼りないかな…」ニヒヒ

ほむら「そ、そうじゃなくて、今はバラバラになると危ないです」

恭介「こちらこそ足手まといですまないけど、今は三人一緒のほうが安全そうだから」

まどか「…。じゃあマミさんが来るまで!みんな、お互いに気をつけて!」バシュッ

ほむら「はい!」カチャッ

恭介「わかった!」タタ

~~路上~~


さやか「……」トボトボ

QB「さやか!」

さやか「ん、キュゥべえじゃん」

QB「上条恭介が魔女の結界に迷い込んでしまった。魔女はまだグリーフシードの中だが、

   使い魔や結界の迷路そのものの危険にさらされてる」

さやか「なっ…!それどこよ!」

QB「見滝原市立病院の敷地一帯だ」

さやか「(クルッ)くっ!」ダッ

QB「落ち着くんだ。今、まどかとほむらが彼の護衛に当たっている」トトト

さやか「大丈夫なの!?」ダダダ

QB「正直それが手一杯の状況だ。

   マミが駆け付けるのがギリギリ魔女の孵化に間に合うか否かのタイミングになるだろう。

   三人がかりでも、上条恭介を守りながらではどうなるか……」トトト

さやか「あたしも魔法少女になって応援に行く!」ダダダ

QB「それなら結界の入り口まで案内しよう。

   彼の左手のこと以外なら何でもいいから早く僕に願い事を!」トトト

さやか「あーもう、分かったわよ!」

ピカーッ

さやか「さあ、早く行こう!

    なんかこう、テレポーテーションとかできないの!?」ダダダ

QB「それは魔法少女によるかな。(ピョン)少なくとも今の君なら魔力で飛翔できる。まず―」

バッ ヒュオオッ

QB「話聞けよ」


~~魔女の結界内~~


まどか「次々に現れてくる…」バシュッ

恭介「一応近寄って来るから倒してるけど、

   今さらだけどやっぱり倒さないとマズイの?」ギュオオ カツン

ほむら「一見無害そうだとしても魔女の手下ですから、

    油断するとどんな危険があるか分かりません」

ゾゾゾ ピョコピョコピョコ…

恭介「…あの数は本能的に危険だって分かるわ」

まどか「囲まれる…!」ジリ…

ほむら「わたし、行きます!」

恭介「へ?」

まどか「上条くん、ほむらちゃんに掴まって!」パシ

恭介「…失礼」パシ

サッ カシン

ピタ…

恭介「停まった…」

ポイポイポイポイポイッ ピタピタピタピタピタ

ほむら「今、時間を停止しています。停止解除後まもなく起爆しますから、今のうちに圏外に。

    わたしから手を離さないでください」

恭介「わかった」

タタタ…


カシン

ドドドカーン!!

恭介「凄え…」

QB「気をつけて!魔女が出てくるよ!」

恭介「な、なんだコイツ!いつの間にいたんだ!」バッ

まどか「上条くん待って! キュゥべえだよ!」

恭介「キュゥべえって…、ああ」

QB「やれやれ、男の子に僕の姿を知覚させるのは久しぶりだけど、

   やはり君たちにとっては僕の印象は好ましいものではないようだね」

恭介「いや悪かった。敵と勘違いしたんだ。違う状況なら君とも交流を深めたいもんだが」

QB「それは奇遇だ。僕の方も君に興味があるけど、今はお互いそれどころじゃないね」

恭介「ああ。あれが魔女だって?思ってたよりずいぶん小さいんだな」

ほむら「あれじゃただのぬいぐるみ……、何かおかしい……」

ピョコピョコ ゾロゾロ…

恭介「また手下がたくさん出てきた」

ほむら「どうしよう、もう爆弾が…」

まどか「ほむらちゃん、やっぱり上条くんを外に連れてって」キリキリ…

ほむら「そんな!時間を停めるからみんなで逃げようよ!」

まどか「でもマミさんが来るまで……!(ハッ)」

ほむら「え?」

パパパパパパパウ!!!!

マミ「お待たせ!」サッ

まどか「マミさん……」

マミ「そんな顔しないの。ここで気を抜いたら今まで頑張った分が水の泡よ」ジャキッ

まどか「は、はい…」ゴシゴシ

マミ「あの卓に付いているのが魔女ね?」

ほむら「はい、そうです…」

マミ「長引くほど不利だから一気に決めるわよ。わたしが緊縛するから、鹿目さんはとどめを。

   撃てる?」

まどか「はいっ!」

マミ「暁美さん、鹿目さんのフォローをお願い!」タッ

ほむら「はいっ」

タタッ

ガンッ グラ…  ポテ

パウッ パウッ  シュルシュルシュル…ッ ギュウ…

マミ「鹿目さん、今――」

魔女「ムグッ」

ボオオオッ

マミ「え‥」

まど・恭「あっ…」

ほむら「危ない!」カシン

ピタ…

ほむら「巴さん!」タタッ パシ

マミ「(ハッ)…暁美さん、ありがとう。危うくあの世行きだったわ」

ほむら「(ホッ…)」

マミ「爆弾まだある?」

ほむら「いえ、使い魔に全部使ってしまって…」

マミ「そう。せっかく大口開けてくれてるんだし、内部から爆破すればと思ったんだけど…」

ほむら「なるほど…!」

マミ「わたしが撃つか…(ハッ)。――暁美さん、時間停止を解除して」

ほむら「え?」

マミ「早く!」

ほむら「は、はい」カシン

ガオッ

クルッ  スタッ

マミ「わたしを食べられる?(ジャキッ)さあ、こっちよ!」パウッ

ビィンッ

マミ(弾かれる……!)

まどか「マミさん!」

マミ「鹿目さん、暁美さん!その男の子を連れて結界の外へ出なさい!

   二人とも、もう十分戦ったわ。後はわたしに任せて!」ジャキキッ

ほむら「どうして、いきなり……(ハッ)」

まどか「いつの間にソウルジェムがこんなに…」

マミ「急いで!自分の身も守れなくなるまえに撤退しなさい!

   さっきみたいに使い魔が押し寄せても掩護できないわよ!」パウッパウッパウッ

シュルシュルシュル… ギュウッ…

まどか「嫌だよそんなの!」

ほむら「そいつ、今までの魔女とはワケが違います!先輩一人では危ないです!」

マミ「言ってくれるわね…、

   どうしてわたしの後輩は聞き分けのない子ばかりなのかしら!」ジャコンッ

ヌルッ

マミ(リボンをすり抜けた!?…確かに最悪の相性ね)

恭介「巴さん!僕なら大丈夫です。なんか分からないけど戦えます!」

マミ「…! あなたもしかして……」

ほむら「そうだ!わたしたちもさっきのグリーフシードで回復すれば」カチャッ

ガオッ

マミ「くっ!」バッ

恭介「くそっ」ダッ

まどか「か、上条くん!」

ほむら「何を…!」

恭介「おーい、こっちだ!早く来いよ!」ブンブン

マミ「なっ…!」

ガオオッ

恭介「うおおおおっ」ダダダ

パシンッ

ボヨヨーン!

まどか「魔女がでっかくなっちゃった!」

恭介「うわあああああああああああああ」

ザキン

スタッ  チン

恭介「さやか…?」

~~病院裏、駐輪場~~


ギュオオオッ  カツン

マミ(両断した……?)

まどか「さやかちゃあん!」タタッ

ほむら「美樹さんっ」タタ…

さやか「?」

ガバッ ウェヒヒ…!

まどか「まさかさやかちゃんが来てくれるなんて思わなかったよ!」

さやか「ムム…、水臭いことを申すな。嫁が危機だって聞いて助けに来ないわけないじゃん」

まどか「よ、嫁って…」

ほむら「誰のことですか?」キラン

さやか「んっひひ…。こやつのことじゃ、のう、まどか?」

ほむら「そーやってあなたは鹿目さんを困らせるんですねそれならわたしにも考えが」

さやか「あんたもあたしの嫁になる?」

ほむら「な、何をふざけた…、(コホンッ)……美樹さんも、魔法少女になったんですね」

さやか「ああ、うん…」

ソッ スタスタ…

マミ「美樹さん、ありがとう。さっきは危ないところだったの」

さやか「あ、いや…、マミさんたちが無事でよかったなって…」カキカキ

マミ「魔女を倒したらこれを忘れないで取っておいて。仕留めた美樹さんのものだから」スッ

さやか「何、これ」クリクリ

マミ「グリーフシード。ソウルジェムに近づければ、

   魔力を消費することでソウルジェムに溜まる穢れを取り去ってくれるわ。

   それで消耗した魔力も元通りになるから」

さやか「…。えっと、あの、あたし、マミさんの仲間に入れてもらえないかな?」

マミ「…え?」

さやか「あたし新米でこんな基本的なことも分からないし…」

QB「戦いに必要な知識ならその都度、僕が教えてあげられるよ」

さやか「それだけじゃなくてもっと色々…、

    教えてもらうってだけじゃなくて、マミさんの仲間になりたいんだ、

    その…、まどかとほむらもいるし」

マミ「ふふ、最後の一言が本音かしら?」

さやか「キツいなあ、ハハ…」

ギュッ…

さやか「…!」

マミ「こちらこそ歓迎するわ。…ありがとう」

さやか「どもー」ハハ…

ユル…

まどか「――さやかちゃん、よろしくね」

ほむら「よろしくお願いします」

さやか「…(ニコッ)。じゃ、じゃあさ、これマミさんお願い」

マミ「お願い…、て、グリーフシードの管理も魔法少女として大事なことよ」

さやか「だからこそベテランのマミさんにお任せすれば万全!ってことで」

マミ「もう…、ではお任せされたので言います。

   鹿目さん、暁美さん、美樹さんも。みんなソウルジェムを出して」

まど・ほむ・さや「はい」スッ

マミ「じゃあ美樹さん、順番を決めてソウルジェムを浄化してあげて」

さやか「えー、それじゃ結局マミさんがやって―」

マミ「いいから。あと、一つのグリーフシードでは4人分のソウルジェムは浄化しきれないわ。

   今回は美樹さんの功績が一番大きいから、

   誰のソウルジェムの穢れを多く取るか、つまり優先順の決定権はあなたにある。

   でも、ここに立っている子は誰であれ、危険を冒して魔女の結界に侵入し、

   戦いの場において何らかの貢献をしている点を考慮して―」

まどか「~~マ、マミさん、いつもそんな難しいことを考えてたんですか?」アセッ

マミ「(クル)」コク

さやか「(クル)……あんたたち、いつもはこれどうやってんの?」

まどか「てへへ、さやかちゃんみたいに大体いつもマミさんにお任せなの。

    それでわたしやほむらちゃんがやるときでも、なんとなく見よう見まねで、

    ソウルジェムがたくさん濁ってる子から先に回復させてるよね」チラ

ほむら「(コク)ええ。功績が、と言われてみれば確かにそうなんですけど今まであんまり…」

さやか「じゃそれでいいんじゃない。

    …ええと、ほむら、まどか、マミさん、あたし、と…」

カチ カチ カチ カチ フゥゥ…

さやか「こんな感じ…」

マミ「あら、このグリーフシード一つで皆のソウルジェムの穢れを全て取り切れたのね……。

   浄化が終わったらキュゥべえにそのグリーフシードを渡して」

さやか「キュゥべえに?ほい」ツ

QB「(コローン)……きゅっぷぃ」

さやか「おお」

マミ「あの男の子もわたしを助けようとしてくれたみたいだけど、

   グリーフシードは必要ないわよね?」ニコッ

恭介「ごめんなさいもうしません」ペコ

さやか「あれ、あんた病室に戻んなくていいの?」

恭介「まだいたの的な顔で言うなよ。君は魔法少女にならなかったんじゃないのか?」

さやか「ぁあ!?」ギロッ

ツカツカツカ グイッ

さやか「あんたのせいでマミさん達が危ない、って言うから飛んできたんじゃない!」

恭介「…そうか。悪かった。…ありがとう、君が来なきゃ死んでた」

さやか「……」

マミ「お二人さん。…上条くん、ね?それ、キズは浅いけど血が出てるわ。手当てしましょう」

恭介「あ、これくらいなら…」

QB(マミ、彼の左手を治癒すると半径100kmにまで――)

マミ(治すのは左手じゃないわ)

QB(しかし万が一……)

マミ(意識不明の重体を治そうとするなら左手を含む全身に魔法をかけざるを得ないかもね。

   でもこの場合、魔法は右手という局所にかけるだけで済むわ。

   回復魔術――もし魔術なら魔力を降臨させるための最低限のスペースが要るだろうし、

   必然的に彼の全身もそのスペース内に収まるから、

   結果としてあなたが危惧する状況が発生することになるでしょうね。

   でも魔法は理を超えて直接結果を出すわ。

   右手のキズだけを治す。それなら問題ないでしょう。それにむしろ……)

QB(わかったよ、マミ)

マミ「ここは行きがかりよ。それに看護師さんが驚いちゃうでしょう?」

恭介「‥お願いします。あの、巴マミさんですよね」

マミ「ええ。自己紹介の必要はなさそうね」

恭介「さやかから聞いてます。巴さん、それから鹿目さんと暁美さんも、

   昨日と今日、さやかと僕を助けてくれてありがとう」

まどか「てひっ」

ほむら(ニコ…)

マミ(ニコッ)

ポウ…

マミ「ところで美樹さん、わたし達が危ない、って誰が知らせてくれたの?」

QB「僕だよ。正確には僕の仲間かな」

さやか「え、あんたさっき話してたキュゥべえ…と違うの?」

QB「魔法少女は世界中で必要とされているし、

   彼女たちと契約するのに僕一人では手が回らないからね。

   僕らはお互い意識を共有することができるんだ」

さや・ほむ・まど「へぇ……」

マミ「わたしも初耳だわ。……これでよし。他にケガはない?」

恭介「あ、大丈夫です。ありがとう」

QB(彼の左手は治癒していない。それに周辺の多数の人間にも影響は出ていないと見えるね。

   マミが前に言ったように君にはそもそも治せないケガなのか、

   君が注意を払ってくれたからか、そのどちらとものおかげか分からないけどよかったよ)

マミ「……」

恭介「何すか?」

マミ「あ、ううん。魔女に襲われても動じないところとか、

   あなた達って似たもの夫婦だな、って思ってたの」

恭介「夫婦じゃないですけど、小さい頃からの付き合いですからね」チラ

さやか「‥フン」

マミ「ふふ……」

ほむら「巴先輩、あの……」

マミ「どうしたの?暁美さん」

ほむら「その上条くんのことでさっき不思議なことがあったんです。

    これ、見て下さい」カチャッ

カッコロカッコロコロコロ… ピタピタピタピタ

マミ「グリーフシードがこんなに!?」

恭介「いつの間にか消えてると思ったら、

   君もしかしてあれ一つ一つ時間を停めて拾ってたの!?」

ほむら「貴重品ですから(キラン)。つまずいたりしても危ないですし」

マミ「…30個以上あるわ。

   どれもだいぶ穢れが溜まっている状態ではあるけど、それにしてもこの数は…」

ほむら「上条くんが使い魔を変化させて得られたものです。一体どうやったんですか?」

恭介「いや、(ヒョイ)こういう風に、(ポテッ)左手に当てただけで…」

QB「あっ!ダメだ!」

恭介「え?」

ギュゴゴゴ…!

まどか「魔女が出たーーっ!!」

―――
――


マミ「(ハァッハァッ…)…上条くん、

   とりあえず魔女やグリーフシードには触らないでくれるかしら」

恭介「すみませんすみません」

QB「いや、マミ。今倒した魔女のグリーフシードを彼の左手に載せてみてくれないか」

さやか「ちょっ、キュゥべえ!正気なの?」

QB「確かめたいことがある」

マミ「…分かったわ。でもその前にこのグリーフシードでみんな魔力を回復してから…」

QB「悪いが、一度でも使ってしまってからでは確かめられないことなんだ」

マミ「そう…、じゃ暁美さんが拾ってくれていたグリーフシードから使いましょう。

   上条くん、いいかしら?」

恭介「どうぞ。皆さんで勝手にご自由に使ってください」

マミ「ありがとう。どれもほとんど黒色に染まっているから、

   せいぜい一人のソウルジェムを少し浄化する程度にしか使えなさそうね。

   美樹さん、気をつけて。

   限度を超えて穢れを吸わせすぎると今みたいに魔女がかえってしまうから」

さやか「怖っ。あ、でも今の戦いあたし戦力になれてなくて、

    ほとんど魔力使ってないから……」

マミ「少しでも魔力を消費したなら、回復できる時に回復しておいたほうがいい。

   魔女との戦いの最中に回復する暇があればいいけど、なかなかね……」

さやか「そりゃ命取りだわ。やっぱ使う」カチ スゥゥ…

・・・

QB「真っ黒になったグリーフシードは僕が回収するよー」

ポン ポン ポン ポン ポン ポン ポン…

QB「‥きゅっぷぃ」

ほむら「皆が全快するのに三分の一くらいを使ってしまいましたね」

まどか「キュゥべえ、お腹大丈夫?」

QB「大丈夫だよ。僕にとっても思わぬ収穫だ」

マミ「本当は場所を変えたいところだけど、あなたはここの患者だものね。

   …じゃあ、さっきの魔女のグリーフシード、上条くんの手に載せるわよ。

   みんな、一応戦う準備はしておいて」

恭介「(ゴクッ…)」

トン

コォオオ…

マミ「これは……、グリーフシードに何が起こっているの?

   さっきと違って魔女が孵化する様子はないわね」

QB「やっぱりね…。もういいだろう。マミ、グリーフシードを拾って」

スッ

マミ「(ジッ)……上条くんに触れる前より、たくさんの量の穢れを、

   ソウルジェムから吸い取ってくれるのかしら?

   何となく、見た目はそのままなのに、さっきとは圧倒的に違うようだわ。

   はっきりとは感じ取れないけど、魔力の気配が大きくなったような……」

QB「恐らくそうだろう。これで恭介の左手の秘密が分かったよ」

マミ「そう…」

さやか「何…何なのさ、恭介の左手の秘密って!」

マミ「待って、美樹さん。冷えてきたわ。上条くん、病室にお邪魔してもいいかしら」

恭介「あ、はい、どうぞ…」

~~病院のロビー~~


マミ「あそこの自販機で温かい飲み物でも買っていきましょうか。みんな何がいい?」

さやか「ブラックで」キリッ

まど・ほむ「(キョロ)あ、自分で…」

マミ「今日はおごらせてね。みんな本当によく戦ってくれたんだから」

ほむら「それじゃ…。わたしも、コーヒーなら何でもいいです」

まどか「えっと、わたしもコーヒーで…、

    あの、コーンポタージュがあったらそっちをお願いします」

マミ「了解。上条くんは?」

恭介「あ、僕はいいです」

マミ「こちらがお邪魔するんだから遠慮しないで」

恭介「はぁ、じゃ、コーヒー、お願いします」ペコ…

~~病室~~


まどか「あぁ…、缶の底にこんなに残っちゃった……」ジワジワ

ほむら「ちゃんと飲み切るの難しいですよね。最近は飲み口が広くなったり、

    スクリュー式のフタつきのも売ってるみたいですけど…」カチ フゥゥ…

さやか「よく振って、すぐ開けて、一気に飲み干せばいいんじゃない」

ほむら「……美樹さんって、身じろぎもできないくらい熱い湯船に浸かってそうですね」ソッ

さやか「どういう意味でい。あ、ほら、キュゥべえ。

    さっきの恭介の左手がどうとか、早く説明してよ」

QB「…きゅっぷぃ。

   その左手には魔力、あるいはそれに類する力を増幅する作用があるらしい」

マミ・さや・ほむ・まど・恭「……!」

さやか「どうしてそんな妙な…」

QB「君、最近、何かその力が宿るきっかけになるような変わったことはなかったかい?」

恭介「ありすぎて見当がつかないな(フーッ、フーッ)」ズズ…

さやか「…きっとあたしが昨日願い事をしたせいだよ」

QB「いや、恐らくそれ以前だね。

   その契約の成立直前に僕が探りを入れた時点で、

   すでに恭介の左手にはその力があったから」

恭介「それじゃ分からないな。

   不思議体験に縁のある人間ではなかったし、事故に遭う人だってたくさんいるだろうし。

   強いて言うなら周りにいてくれる人の有難さを痛感したくらいか」

QB「それも取り立てて言えることでもないね。まあ、謎ならそのままでもいいよ」

恭介「にしても拳さえ握れない左手が何かの役に立つとはね…」

QB「役に立つどころか、君の左手は魔法少女と魔女の戦いに革命をもたらすことだろう」

ほむら「それって、グリーフシードに関わることで…」

QB「その通りだよ、ほむら。

   使い魔に対しては触れただけでグリーフシードに変える力であり、

   魔女を倒した時に入手できるグリーフシードに対してはこれを強化する力と言える」

まどか「魔力を増幅する力で、何でそんなことができちゃうの?」

QB「まどか、さっき壁に突き刺さっていたグリーフシードを思い出してごらん。

   あれは元々魔女から分裂した使い魔が、

   この世の穢れを巻き込み人の生命力を奪い取って成長した後の姿だ。

   穢れや人の生命エネルギーを養分にしてある程度成長すると、グリーフシードに変化し、

   まるで蛹のように殻を割る時を待つんだよ」

まどか「じゃあ上条くんがそれを早回しにしちゃうのか」

QB「そうイメージしたほうが分かりやすいかもしれないね。

   魔女から生まれたての使い魔ならともかく、

   たいていの使い魔はすでに大小の差はあれ世の穢れをまとっているから」

ほむら「でもそれだと孵化、というより羽化ですね」

QB「確かに君の言う通りだね。慣習的に孵化という言葉を用いても構わないかい?」

ほむら「ええ。時間が経てば自然とさっきみたいに魔女が孵化するの?」

QB「その点は昆虫の変態とは異なるね。

   時間はあくまでグリーフシードに穢れが満ちて孵化するのに必要な因子に過ぎない」

ほむら「グリーフシードに穢れが満ちる……(ハッ)」

まどか「え? ほむらちゃん、何か分かったの?なんか分からなくなってきた」

QB「ほむら、君から説明してあげてくれないか。僕の話はよく、分からないと言われるんだ」

ほむら「じゃ、キュゥべえ、間違ってたら訂正して。

    使い魔は成長するとさっきみたいに目立たない場所でグリーフシードになる」

まどか「わたし達に見つからないためだね」

マミ(…上条くん)

ほむら「うん。さっきみたいに孵化が近くなるまでソウルジェムも反応しない代わりに、

    きっと一番無防備な状態なのよ。グリーフシードになると身動きが取れなくなるから」

恭介(え!? 巴さんですか?)

まどか「うん」

マミ(美樹さんにその肌がけ掛けてあげて)

ほむら「それから、その場所に留まって世の中の穢れを吸収していくんだわ。

    わたし達のソウルジェムから穢れを吸い取るように」

恭介(あ、はい…)ソッ…

まどか「そうか!それで真っ黒になって…」

さやか「うー?むにゃ…」ゴソ

まどか「さ、さやかちゃん、寝てたの?」

ほむら「そういえば、昨日今日急なことばかりですもんね…」

恭介「ベッド使う?」

さやか「いや、横になったら本格的に寝れそうだわ。これ飲んだら大丈夫だから続けて」ズズ…

QB「今のほむらの説明で合ってるよ。

   付け加えるなら、グリーフシードの状態では人の生命エネルギーを奪わない。

   だからマミは見逃してるんだ」

まどか「そうだったんだ…!」

ほむら「使い魔や魔女から人々を守ることに優先順位を置いて…、やっぱり巴先輩ですね」

マミ「グリーフシードは孵化直前になるまでソウルジェムで探知できない以上、

   通りがかりで、しかも早期発見でしか芽を摘むチャンスがないわ。

   魔法少女と同じように魔女のあいだにも縄張り争いがあるのか、

   この場の穢れを盗るなと言わんばかりに、

   魔女が通りがかりでグリーフシードを結界内に取りこんでくれることもある。

   魔女は巻き込んだ穢れを自身の魔力に変換するから結界内は意外に穢れがないの。

   その目もかいくぐられた場合……。

   けれど、見つける目が多くなれば芽を摘む機会も増えると思う。暁美さん、続けて」

ほむら「…上条くんの左手はグリーフシードの魔力だけでなく、

     そこに溜め込んだ穢れまで増幅してしまうのね。

     だから使い魔を変化させて得られたグリーフシードに左手が触れると、

     さっきみたいに魔女がかえってしまった…」

QB「そういうことだ」

まどか「でもさっき魔女が落としたグリーフシードは上条くんが触っても大丈夫だったよね」

ほむら「ええ。

    左手が触れても魔女が孵化しないということは、それには穢れが無い、ってこと?」

QB「そうだよ」

ほむら「意外ね…。確かキュゥべえは、

    上条くんの左手は、魔女が倒された時に落とすグリーフシードを強化する、

    って言ったよね。

    『強化する』って、巴先輩が言ったように、

    より多くの穢れをソウルジェムから取り去ってくれるようになる、

    って意味なんだろうけど……、

    そもそもグリーフシードっていったい…」

QB「そこまで知ろうとする子は、最近ではマミくらいだね」

ほむら「巴先輩、教えて下さい。グリーフシードって何なんですか」

マミ「わたしがキュゥべえから聞かされたのは、呪いという魔力の結晶体だということ」

ほむら「呪い…」

まどか「街の人達の心に絶望を撒き散らすんだよね」

マミ「ええ。呪いによって集めた穢れを、魔女の口づけによって人々に植え付けていく。

   替わりにその犠牲者から、生きようとする前向きな意志、生命力を奪いさる。

   そういう意味じゃ、穢れは、人間の負の心…、絶望と言い換えてもいいかもしれないわ」

ほむら「呪いが穢れを集める?」

マミ「魔女や使い魔の持つこの魔力にはこの世の穢れを引き寄せる働きがある。

   グリーフシードによるソウルジェムの浄化はこの性質を利用したものよ。

   魔女や使い魔は穢れや人の生命力を養分にしているけど、

   グリーフシードの本質は純粋な魔力の結晶なの」

ほむら「魔女が落としたグリーフシードは呪いだけで構成された結晶だと…」

マミ「わたし達のソウルジェムが魔力を使うほど穢れを溜め込んでしまうのと逆に、

   魔女のグリーフシードはわたし達との戦闘で魔力を使うほどに、

   その源の一つである穢れを消費していく。

   わたし達に倒されるときには、純粋な呪いの結晶になっているらしいわ」

ほむら「たいていの魔女を倒したときに落とすグリーフシードは、

    ソウルジェムの浄化には1、2回程度しか使えませんよね。

    でも中にはとても強い魔女もいて、彼女達が持っているグリーフシードは、

    ソウルジェムの濁り具合にもよるけど、多くの回数まで浄化に用いることができる。

    それはやっぱり…」

マミ「魔力のエネルギー源である、人から奪った生命力や世の中から集めた穢れを使い果たし、

   グリーフシードには僅かに残った呪いだけが閉じ込められてる状態だとも言えるわね。

   魔女がその霊体を維持できる最低限の魔力の比率は共通なのだと仮定したら、

   強い魔女ほど、グリーフシードに残される呪いもその量が多くなると考えられる」

ほむら「それにしても呪いが、純粋と言うのはちょっと違和感が…」

QB「純白の白も純粋だと言えるけど、漆黒の闇の黒も純粋だと言えるだろう」

マミ「魔法少女のソウルジェムが祈りという魔力で満たされているのと比べると、

   やはり魔女達とわたし達は対になっている存在なのね」

ほむら「対……それはおかしいですね。わたし達は皆ソウルジェムを持ち歩いているけど、

    全ての魔女がグリーフシードを持っているわけではないんでしょう」

さやか「難易度高いなあ、それ」

マミ「確かに時々しか落とさないのよ。言われてみれば変ね……。どうしてかしら」

さやか「みんな持ってるけど、マミさんが鉄砲の弾で壊してなくなっちゃったとか」

まどか「さやかちゃん…」

QB「その通りだよ」

マミ・さや・ほむ・まど「え!?」

QB「魔女を産みだした後、殻だけになったグリーフシードは消滅する。

   生まれて日が浅い魔女は、まだ魔力の中枢となるグリーフシードを造り出すほど、

   霊体として成熟していないことが多い。

   だからその意味では全ての魔女が持ち歩いてるとは言えないけど……」

マミ「穢れや人の生命力を集め強力になった魔女ならどうなの?」

QB「必ずグリーフシードを宿していると言っていい。

   魔力を効率よく運用できる核となるし、

   それに君たちに倒されても、遺したグリーフシードに穢れさえ満ちれば、

   彼女たちは復活できるという保険になるからね」

マミ「え……、じゃ……?」オロ

QB「その反応からすると、

   マミ、君はまさか無意識にグリーフシードを撃ち抜いていたのかい?」

マミ「そんなの分からないわ。

   ただ、その魔女ごとに急所らしいと見当をつけたところを狙っているだけよ」

QB「どうりでね。戦闘時において研ぎ澄まされた君の射手としての目が仇になったわけだ。

   魔女を陥落寸前まで追い込んでおきながら、

   どうしてそこでグリーフシードを破壊するのか訳が分からなかったんだよ」

マミ「やだ…何てことを」

QB「普通の子は狙ってもできないどころか、

   そもそもグリーフシードに狙いをつけることが出来ないんだ。

   あれはまず爆弾が炸裂しても壊せないほど頑丈だし、

   壊されれば魔女は終わりだからその身のどこかに隠しているんだよ。

   まあ、たまたま必殺の一撃が命中して、ということはあるけど、

   君みたいにしばしば一発必中を達成することは…」

まどか「もうやめて…。キュゥべえ、褒めてるのかけなしてるのか分からないよ」

QB「いや、マミは大したものだよ。大技のティロ・フィナーレといい、あの技も…」

マミ「だ、駄目よ!」ワタワタ

ほむら「先輩…?」

マミ「あ、あははは、後輩の前で無知をさらすとはとんだ失態だわ」

さやか「でもあたし、マミさんでもそういうことあるんだ、って安心したかも」

マミ「美樹さん、駄目なところを見習ってもらっては困ります」

さやか「んふふ…」ニッ

マミ「もう…」クスクス

まど・ほむ「ふふ…」

恭介「あの、せこい質問なんだけどさ…」

QB「何だい、恭介」

恭介「その魔女が落としたグリーフシードをさ、

   ずっと左手に載せていればそれだけ魔力を増幅できるわけで…」

QB「載せる時間は数秒が無難だろうね。

   個々のグリーフシードによって収められる量の差はあるけど、

   限界を超えると大爆発を起こすだろうから」

恭介「分かった。2、3秒にしとくわ」

さやか「もうちょっと頑張れよ」

まどか「ねえ、キュゥべえ。魔女ってどうして生まれるのかな」

QB「魔女は魔法少女と違って、動かすべき肉体を持たない、霊体だけの存在だ。

   彼女たちもまた絶望に端を発し、呪いとして発現した。

   そしてこの世に絶望を撒き散らしながらさまよい続けているんだよ」

まどか「…それって、魔女もかわいそうだよ……」

QB「だからって放っておけば、人々が犠牲になるんだよ。それに、戦いに迷いは禁物だ」

まどか「…うん、分かってる。町の平和を守らなきゃ」

恭介「この左手があれば、僕も君たちの役に立てるんだよな」

QB「そうだとも。グリーフシードを巡っての魔法少女同士の衝突も緩和できるだろう」

マミ「…わたしはむしろ逆だと思うわ」

まどか「え…?」

マミ「キュゥべえ、上条くんのような力を持った人は他にいるの?」

QB「いや、今まで彼のような者はいなかったし、現在も恭介ただ一人しかいないね」

マミ「だとしたら、仮に上条くんが加わるとすると、

   見滝原は条件の公平性を欠くと他の街の魔法少女から思われるようになるわ。

   彼一人の行動範囲は限られるもの。

   上条くんの左手を巡って、見滝原が魔法少女同士の戦場になってしまうことは避けたい」

ほむら「…確かにその恐れはありますね」

マミ「それだけじゃなくて、なぜその左手に力が宿ったのか、いつまでその力があるのか、

   何も分からないでしょう。

   仮に一時的なものだったとしても、一度立った噂は面倒なものよ。

   だったら初めから彼は関わるべきじゃない」

QB「君の言うことは正しいけど、もったいない話だなあ。

   せっかく十分な数のグリーフシードを手に入れられるというのに」

マミ「仕方ないわ。第一、その左手以外に上条くんには身を守る術がないし、

   魔女相手には却って相手を助長してしまう。

   戦いの場においては魔法少女の足を引っ張ってしまうわ。

   あなたには悪いけど、これはわたし達の戦いなの」

恭介「巴さんの言う通り、あなた方の戦いだ。でも話を聞いた以上、さやかを放っておけない」

マミ「話を理解した上で、見守るっていう考え方はできない?

   祖国に恋人を置いて出征する兵士は現代にもいるでしょう」

恭介「今聞いた限りの話は理解できていると思います。でも、それを受け入れられるかは別だ。

   公の制度として認知されているものじゃない以上、

   あなた方こそ何の保証もない身分でしょう。

   いえ、それは僕が口を出していいことじゃない。

   でも、この左手の力がもし一生続くものだったら?

   自分が代わりのいないたった一人の衛生兵だと分かっていて、

   一生それに目を背けて生きていろと?そんなのはご免だ」

マミ「……」

恭介「……」

さやか「わかった、わかった!

    マミさん、あたしが恭介を守るよ。あたしが巻き込んだようなもんだし。

    恭介がいるときには責任もって、他の子に迷惑かからないようにするからさ。

    お願いします」

マミ「(フゥ…)こんなことになるんじゃないかと思ったわ。

   あなた達って本当に同じなのね……」

まどか「マミさん、いいの?」

マミ「わたしが止めたって、その様子じゃどうせ来るでしょう。

   彼のおかげで助かることは確かに多いでしょうし。

  (上条くん、一度しか言わないから聞いて。自分の人生を大事にしなさい。

   あなたにしか出来ないことは他にあるはずよ。

   一度、要員として加われば、きっと戦況があなたを振り回す。

   だけど美樹さんのためにも、自分を見失わないでほしい)」

まどか「やったあ!」

マミ「これからお願いすることもたくさんあるだろうけど、よろしくね。

  (肩ひじ張らずに考えて。あなたはあなた。魔法少女のように自ら縛られることはない)」

恭介「こちらこそ、迷惑かけると思いますが、頑張るのでよろしくお願いします。(……)」

ほむら「賑やかになってきましたね」

マミ「まあでも、入院患者に手伝ってもらうわけにはいかないわね。

   その病院服でなくなってからでないと。あと、それから……、

   そうそう、忘れるところだった。上条くんの左手の力に名前をつけたらと思うんだけど」

さやか「マミさんの必殺技みたいな?」

マミ「ええ。ラ・マーノ・ファントマーティカでどうかしら。幻想の手、という意味なの」

恭介「はあ…、具体的な性質を表すほうが通じやすくなるんじゃないでしょうか…。

   あと英語の方が分かりやすいかと」

マミ「そう?それならね…、“幻想御手”(レベルアッパー)はどう?」

恭介「あ、それなら覚えやすくていいと思います」

マミ「じゃあ決まりね。あら、随分長い時間お邪魔したわ。美樹さん、これから家に来ない?

   ささやかだけど、あなたが仲間に加わってくれた記念のお祝いをしたいの」

まどか「わたしも!途中でお、おこづかい出して何か…」

さやか「まどかー、無理しなくていいんだぞ」

まどか「む、無理なんかしてないよ」

ほむら「わたしもご一緒させてください」

さやか「当たり前じゃん!パーッとやろ!」

まどか「だからマミさんの家なんだって…」

マミ「美樹さんの言うとおりよ。今日くらいは楽しくやりましょう!

   それじゃ、上条くん、失礼します」

まどか「じゃあね、また今度ね」

ほむら「退院までお大事になさってください」

恭介「ありがとう。これからよろしく」

さやか「勉強さぼんなよ。さ、行こ行こ」

ガラガラ…


恭介「‥すっかり暗くなったな。もうこんな時間か…」

スタスタ

恭介「……えらいことになったな」

~~数日後、夕方 さやかの家のアパートの前~~

スーッ

さやか「フゥーッ」シャキッ

まどか「さやかちゃん」

さやか「おう、お待たせ」

ほむら「いざ初陣ですね…。あれ、その包みは…」

さやか「ああ、これ? 歩きながら話すわ。さあ、出発!」

スタスタ…

ほむら「鞘から剣が抜けない!?」

さやか「うん。なんか瞬間接着剤で固めてんじゃないかと思うくらい動かないんだわ」

まどか「でも上条くんが襲われていたとき、剣で魔女を斬ったよね」

さやか「不思議だよねー。あの時以来全然だめ」

ほむら「そ、そう言えばあの後同じ魔女が飛び出したとき、

    美樹さん剣を使ってませんでしたね…」

さやか「うーん、どうしたものか」

ほむら「…本当に抜けないんですか?下手な洒落のつもりじゃないでしょうね」

さやか「芸人さんみたいに体張ってギャグやるわけないじゃん!」

まどか「何で抜けないんだろうね……」

さやか「うん。キュゥべえが言うにはさ……」

~~~

QB「そりゃそうだろう。さやかの物じゃないもの」

さやか「えっ? どういうことよそれ!」

QB「その剣はね、かつてある国の王が、国を平定するため、

   国民の運命を背負って大地を駆けていたときにその身に帯びていたものだ。

   現代の一般市民である君に抜けるはずがない」

さやか「ちょっと待て!だったら何であたしが今持ってんのよ!」

QB「おおかた、君が魔法少女になるための祈りに何かしら通じるところがあったんだろうね。

   いわば助太刀のために、一時貸与されたものと見るべきだろう」

~~~

さやか「……ということらしいんだ」

ほむら「…世界征服でも願ったんですか?」

さやか「どんなキャラ把握してんだよ!くそーっ、使えない武器渡されてもなあ…」

まどか「もしかしてその包みが代わりの武器?」

さやか「ん?ああ、そうだった。じゃーん」シュッ

まどか「‥バット…」

ほむら「まさか人の名前まで使って……!」

さやか「その方向で発想すんのやめ!マミさんの魔法で強化された、特製のバットなんだぞ」

まどか「さ、さやかちゃん、自分の魔法使わなかったの?」

さやか「一応やってみた。でも逆にヒビが入っちゃってさー」

まどか「……」

さやか「そんな目で見るなー!あたしだって困ってるんだよ」

まどか「でも使えない剣なら、さやかちゃんのところに来てくれるはずないよ。

    きっと抜けるようになるよ」

ほむら「…まあ、確かに武器として使うなら似た形のものの方が、

    剣が抜けたときのために慣れておけますよね」

さやか「うん。いつ抜けるようになるかなあ……」

ほむら「…あ」

さやか「何?」

ほむら「…いえ、口にしてしまうと本当になりそうで」

さやか「気になるじゃん、言ってよ」

ほむら「……もしかして、対ラスボス専用兵器かと」

さやか「…それまであたし、バットで戦わなきゃいけないってこと!?」

まどか「だ、大丈夫だよ。バット一本で地球を危機から救う主人公だっているんだよ?」

さやか「むしろバットが全面的に肯定されてるよ!」

ほむら「それにまあラスボス戦になったからって抜けるとも限りませんし」

さやか「…何てことを言ってくれるんだ、君たちは!?」

ほむら「逆フラグです。逆フラグに懸けたのです」

まどか「そ、そうだよ。逆フラグだって言っちゃえば……あれ?」

さや・まど・ほむ「………」

まどか「よし!切り替えていこう!」

さやか「よし!」

ほむら「よし!」

~~夜の公園~~


さやか「とりゃっ!えいっ!」ドコッ ボコッ

魔女「モガッ モガッ」ジタバタ

さやか「じれったい…。

    ジャングルジムに引っ掛かってる魔女なんて、バット振って叩けないよ!」

まどか「さやかちゃん、気をつけて…」

さやか「このっ(ボコ)。(ハァハァ…)きりがない…。まどか、とどめ刺して!」

まどか「う、うん…」キリキリ…

バシュッ

さやか「(シャッ)うひょっ!」バッ

スタッ

ほむら(鹿目さんが外した……?)

まどか「さ、さやかちゃん!大丈夫?」

さやか「ああ…。まどか、頼むよ~」

まどか「ごめんなさい‥」

ほむら「美樹さん、退避を!わたしが行きます」タタ

さやか「任せた!」ダッ

ポーン

ドカーン バラバラ…

ピューッ

さやか「ジャングルジム壊れて魔女が自由になっちゃったよ!」

ほむら「あら、きれい…。星空を飛び回る流れ星なんて」

さやか「みとれてる場合かっ」バッ ヒュオッ

キュルキュル…ッ

さやか「ええい、ちょこまかと…。うおりゃーー!」

ガンッ フラフラ…

さやか「まどか、そっち行ったぞ! 今だっ」

まどか「うっ……う…」キリ…

ほむら「鹿目さん!」カチャッ パシ

手下「ウワン ウワン…」ババッ

ほむら「くっ!(時間を…)」サッ

――チュンッ

パァンッ キラキラ キラキラ… キラ…

まどか「あ…」

さやか「(スタッ)よぉし、一丁上がりっ」

ほむら「グリーフシード、落としませんでしたね」スタスタ…

さやか「おお?さてはまどか、やっちゃったのか?」

まどか「ううん。わたしが射る前に魔女は…。さやかちゃんのおかげだよ」

さやか「そう?拾えなかったのは残念だけど初めてにしちゃ上出来っしょ。

    ハッハッハ…さ、早くマミさんの家に戻ろうっ」スタスタ

まどか「そ、そうだね…」スタ…

ほむら「…さっき、何か聞こえた気が……」

さやか「何してんのほむら、行くぞー」

ほむら「あ、はい」

ほむら「……」

ペコッ タタ…

~~マミの部屋~~


マミ「気づかれちゃったかしら……」

QB「1.86km。また記録を伸ばしたね、マミ」

マミ「風や重力の影響を受けない弾に記録も何もないでしょう。またグリーフシードに?」

QB「見ての通り命中だ。あらゆる遮蔽物や結界さえも突き破って、

   魔女だけを仕留めるその魔弾……、今夜も冴えわたるね」

マミ「(ハァ…)そうほめられたものではないわ。まず格下の相手にしか通用しないし、

   あの弾には着弾までに通過した物体を即座に修復する分まで魔力を込めているから、

   その消費はティロ・フィナーレを上回る。

   それに第一、名前を付けていい技でもないのだし」

QB「君は自分でその技をずいぶん嫌うね。どうしてだい」

マミ「‥とにかくあの子たちにしゃべっちゃ駄目よ。暁美さんは薄々勘付いてるみたいだけど」

QB「僕に口止めする訳なら理解できるね。彼女たちの成長を願ってるんだろう」

マミ「ええ。鹿目さん、昨日の病院での話を聞いてから気落ちした様子だったけど、

   その影響が出たのね……」

QB「魔女を狩ることに疑問を持ち始めたんだね。時々そういう子はいる」

マミ「考えてみれば当然のことなのよ。

   それまで普通に暮らしていた子がある日を境に魔女と戦う使命を課されるんだから。

   自分が食べるために、生きるために生き物を殺す人間の本質と、

   魔女を倒しグリーフシードを得て、魔力を回復している魔法少女の営みは酷似している。

   ただ日常の生活を送っているだけでも少しずつ魔力は消耗しているから、

   ジリ貧で魔女に殺されないためにも、魔女を倒しグリーフシードを手に入れるしかない」

QB「ずいぶん消極的な考えだがそうとも言えるね」

マミ「自分の身の安全の問題だけなら、病院裏にあったようなグリーフシードを探して拾えば、

   魔女との戦いは最低限で済ませることができる、そんな道もあると思う。

   でももし魔法少女としての使命を考えるなら。

   誰かを守るために魔女を倒すということは、

   自分の裁量で生かす命と殺す命を選ぶことに他ならない。

   いいえ、そのことにすらあの子は今まで気がつかなかった。

   わたしは気づいても向き合おうとしなかった事実にね。

   そのことは成長、というより余裕かもしれないわ。

   今までは自分が戦いの中で死なないようにするのに必死だったから。

   でも、魔女は命ある存在とは言えないとか、人の世に災いをもたらすからとか、

   どんなに正当性を主張しても、自分の都合で、

   ある存在の、この世に存在する権利を奪っている事実を否定することはできない」

QB「そういう運命を、願いを叶えることと引き換えに君たちは受け入れたんだろう」

マミ「ええ。それが義務であることは救いと言えるかもしれない。わたしにとってはね。

   でも鹿目さん…、あの子が何を願って魔法少女になったのか、

   彼女から聞いたことはないけど、どういう願いかは分かるわ。

   あの子は、打ち捨てられた誰からも顧みられない存在に、

   何も考えず寄り添ってしまう子だから。

   幼子のように、淋しさに震える存在を感じ取って、

   手を差し伸べてしまう心の持ち主だから。

   自分がすくいとれる力量もわきまえず、後先考えずそんなことをすれば、

   たちまち自分も引きずりこまれる。

   それを嘲笑う人がいるかもしれない。

   それは尤もよ、手順も考えずにたった一人で救おうなど思い上がったことだもの」

マミ「でも人は、本当は救ってもらいたいってばかり考えているわけじゃないわ。

   確かに緊急的な救出を必要としている人もいるけど。

   でもだいたいは、誰にも分かってもらえない辛さを打ち明けたとき、

   ただ側に寄り添ってくれる人がいるだけで励まされるものよ。

   そんなの、教えられてできることじゃない。鹿目さんはそんな人なの。

   あの子と出会って、わたしは変わった。

   ただ自分がいつ一人で死ぬかと怯える日々からあの子は解き放ってくれた。

   だってわたしにとって、あの子ほどこの世に大切な存在はないもの。

   あんな心の持ち主がこの世にいてくれる、

   それ以上に価値あるものなんてこの世にはないわ。

   あの子を守るためなら、わたしは手段を選ばない。

   そして、そう思っているのは多分、わたしだけではないはず。

   暁美さんのあの子を守ろうとする目は、まるで何かに駆られるようにさえ感じる。

   きっと彼女も鹿目さんと出会って変わったの。

   美樹さんだって、上条くんと鹿目さんへの照れ隠しにおどけたのだろうけど、

   それでも開口一番鹿目さんのために駆け付けたのだと言ったわ。

   あの子こそがわたし達の中心、あの子はわたしたちにとっての希望なの」

マミ「そんな稀有な心の持ち主だからこそ難しいのでしょう、気づいてしまったからには…。

   彼女は、魔女が、ただ次々に迫りくる悪意ある存在、とは思えなくなってしまった。

   物事には必ずその起こりがあるように、魔女もまた由来があって存在する、

   同じ命として対等な存在だと認識してしまった。

   ましてやその由来には、絶望という、極めて人間的な感情が絡んでいると。

   曲がりなりにも人格を持つ存在だと。

   そこまで分かって、ただ倒さねば自分も人々も殺されるから殺すのか、

   それとも他に何か意義を見いだせるか……。

   前者はわたしよ。ただの化け物であることは自覚してるわ。

   でも、今なら、わたしや暁美さん、美樹さんが彼女を守れる今だからこそ、

   鹿目さんにはそこに向き合うチャンスがある。

   わたしが考える間もなく通り過ぎてしまった事柄に、

   彼女は何かを見出すかもしれない。結局無理かもしれない。

   彼女が、ただ彼女らしく進んでいってほしいと願うばかりよ」

マミ「無論、魔法少女として強くなっていることが望まれる。

   ……『ワルプルギスの夜』。半ば冗談で話題にしがちだけど、

   もしその存在の噂が、魔法少女の成長を促すためのただの警句でなく、

   実在する脅威を語るものだったとしたら。

   いずれにせよどの魔法少女にとっても、

   倦まず弛まずと思わせるのには十分なものだわ。

   あの子、今頃どうしてるのかしら……」

QB「まどか達は今こちらに向かっているところだよ。

   でもあの三人にはまだワルプルギスの話をしてないだろう?」

マミ「…外は冷えてるでしょう。お茶の用意をしましょうか」スッ

~~数日後、教室~~


仁美「さやかさん、…さやかさん」

さやか「ん?」

仁美「もう、学校に音楽プレイヤー持ってくるの、禁止ですわよ」

さやか「ああ、悪いー。しまうわ」ガサゴソ

仁美「休み時間になるたびずっと聴いていたでしょう。

   まどかさんはまどかさんで朝から眠そうでしたし……」

まどか「(ティヒヒ)起きてたふりしてたのに仁美ちゃんにはバレちゃう。

     さやかちゃん、朝来るときも、わたし達そっちのけで聴いてたね」

さやか「うん、恭介に頼まれてんのよ」

仁美「上条くんが?ということはクラシックですの?」

さやか「うん」

ほむら「もしかして、病室にあったCD落とした分ですか?」

さやか「そう。あれ全部みたい。よく聴いといてくれ、て」

まどか「ぜ、全部!?」

さやか「そうそう。まどかとほむらにこれ……」ゴソ

ほむら「あ、モーツァルトの――」

まどか「わざわざCD焼いてくれたんだ」

さやか「うむ」ホイ

まどか「ありがとう」ハシ…

ほむら「ありがとうございます」ソ…

仁美「……あの、上条くん、いったいどうして急に…」

さやか「けっきょく左手は現代の医学では治せない、って主治医に言われたんだから、

    なんかね、左手と右手でヴァイオリンと弓を持ち替えて弾くようにしたみたい」

まどか「そんなこと、できるの?」

さやか「うーん…」

仁美「難しいですわね……。左右の指使いが全く異なることがただでさえ障害となるのに、

   今の上条くんは左手の指をほとんど動かすことができません。

   ヴァイオリンは弦に伝える力・振動のささいな違いがそのまま音色に反映されてしまう。

   たとえば握れない左手に弓を固定するのだとしたら、そのこと自体どう影響が出るか…。

   加えて弓を持つ手には、動きに合わせて微妙に指を曲げ伸ばすことが要求されますわ」

ほむら「…やっぱり……」

さやか「でもあいつはもうやってる。今まで使ってたヴァイオリンは返して、

    おじさんに頼んで左利き用のを買ってもらった、て。
 
    …あたしは頼まれたとおり聴くことくらいしか…」

ほむら「身に付けた技術だけがものを言う世界、

    要求されなければ、選ばれなければプロとして生き残れすらしないって。

    どんな仕事でもそうだとしても、それでもやっぱり特別に……」

まどか「……」

さやか「『やらなければいけないからやってるんじゃない。やりたいからやってるんだ』」

まど・ほむ「?」

さやか「ほむらみたいにさ、あたしも大変だねって声かけたことあんの。ケガする前によ。

    そしたらそう答えたんだ。

    面倒臭いことばっかだけどそこは自分で勘違いしないって。

    ま、昔おじさんに叱られて考えたってこともあったみたいだけど。

    あたしにはもう『やるからやる』って風にしか見えないんだけどさ‥」チラ


中沢「上条、ケガはもういいのかよ…」

恭介「……ああ、だいじょうぶ…歩いて登校してきたし。そういえば病院で走ってたし」グタ

中沢「……なんかお前、全然大丈夫そうじゃないぞ」

恭介「大丈夫…、眠くない」


まどか「さやかちゃんも行ってきなよ。今日まだ話してないんでしょ?」

さやか「あたしは…」

仁美「…」

さやか「…うん、行ってくる」

中沢「おい美樹、上条寝てるぞ。こいつ大丈夫なのか?」

さやか「ちょっと本人に聞いてみるわ。恭介!」

恭介「ん…、おはよ‥」ムク‥

さやか「おはよう、って全く起きてないし。まず顔洗って――」ユサ

プーン

さやか「(ヒソ)…言いたかないけど臭いわよ。お風呂入ってる?」

恭介「ああ…、2、3日前入ったような…」

さやか「……あんた、今日からでしょ。

    まどかもいるんだから帰ったらシャワーくらい浴びときなよ」

恭介「うん…分かった………」…クタ

さやか「……」

スタスタ…

仁美「あの、お二人とも、ちょっとよろしいですか」

さやか「う、うん?なに、仁美」

仁美「アメリカに父の知り合いの医師がいるんです。神の手を持つと言われていて……」

さや・恭(!)ピクッ

ムク…

仁美「上条くんと同じことを言われたピアニストが、

   その医師の手によって復帰したという実績もあります」

まどか「な、なんだってーー!」

仁美「(クル)あら、まどかさん、暁美さん…」

ほむら「すごいことです、志筑さん!」ホムッ

仁美「いえ、まだ。診断結果によっては、

   せっかく上条くんが心機一転で頑張っているのに水を差すだけになるかもしれません。

   でも、諦めるのはまだ早いと思うんです。一度、上条くんも診てもらったほうが…。

   どうですか、さやかさん、上条くん」

ガタ…

さや・恭「ぜひお願いします。助けて下さい」ペコ

仁美「……わかりました。ではさっそく父に頼んでみます。

   繰り返しになりますが、必ずしも…」

恭介「分かってる。紹介してくれるだけで御の字だよ。今は今の練習しかできないんだから、

   とにかくできることや可能性には全部しがみつくだけだから。

   こうしちゃいられない、早く担当医の先生や親に相談しなくちゃ。(ガサガサッ)

   ああ、忙しくなってきたなあ。ごめん、先に帰るね。ありがとう、志筑さん!」ガタッ

タタタタ…

まどか「…上条くん、嬉しそう。よかったね」

ほむら「ええ。セカンドオピニオンがあるってこと忘れてました。

    わたしだって、両親があきらめずに必死にお医者さんを探してくれたおかげなのに…」

まどか「誰だって、お医者さんに現代の医学では治せない、なんて言われたら思いつかないよ。

    それにしても上条くんのあんな顔、久しぶりだね。

    脇目も振らずにバイオリンのことだけ」ティヒヒ…

さやか「あれが本来のあいつだよ。……仁美、ありがとう」

仁美「……ぬか喜びの場合だったときのことも覚悟しておいてください。老婆心ながら。

   いつも側にいた人にしか掛けられない言葉がありますから。

   習い事の準備がありますので、みなさん、今日はここで」ペコ…

まどか「あ、うん。じゃあね、仁美ちゃん。またあした」

~~夕方、駅前~~


恭介「ZZZ…」

まどか「上条くん」

さやか「おい、起きろ」

恭介「んへ?」ムク

まどか「ごめんね。待たせてたのに、起こしちゃって」

恭介「あふぁ…。あ、いや、気遣わないで。行こ」フラ

~~電車の車両内~~

ガタンゴトン ガタンゴトン…

まどか「夕べの使い魔、逃げ足が速かったね」

さやか「あー、昨日はあやうく助けるはずの人殴るところだったわ。

    マミさんがいなかったらどうなってたか……」

まどか「わたしも分からなかったよ。

    あの使い魔が追っかけてたボール、人間が変えられた姿だったんだね」

さやか「ほんと、マミさんは何でも知ってるなあ……。

    くそー、自分のやろうとしてたことにショック受けてる間に逃げられたんだよなー。
 
    今日こそ…」

まどか「そんなに気負わないで。昨日はその人を助けることができたんだから」

さやか「しっかし元の姿に戻すのにひたすらまりつきしなきゃいけないとは……。

    魔女のやり方って怖いくせに変に人間臭いというか、油断すると親近感湧きそうだ」

まどか「そうだよね…。わたしも、何だか最近…」

恭介「ぐ~…」

さやか「おーい。これから危険な目に遭うって分かってるかー。まどか、起こして」

まどか「降りる駅まで寝かせてあげようよ。ね?」

さやか「ふぅむ…」

まどか「……上条くんは一生懸命頑張っているところを、さやかちゃんが見ててくれるよね…」

さやか「見ることしかできないけどな」

まどか「…でも、一生懸命頑張ってるのに、誰も見ていてくれなくて、

    誰にもそのことを分かってもらえなかったら、

    その人はどんな気持ちなんだろ……」

さやか「(グッ)まどか、あんたひょっとして悩んでたの?悪い、あたし…」

まどか「ち、違う!わたしなわけないよ。

    さやかちゃんは昔からこうしてわたしのこと思いやってくれるし、

    それにマミさんもほむらちゃんも、わたしを見守ってくれてる。

    わたしのパパとママもタツヤも、笑顔でわたしを送り出してくれる…。

    わたしばっかり、こんなに幸せで…」

さやか「……?」

まどか「ご、ごめんね。今から魔女退治なのに…」

さやか「…いや、そう受け止めてくれてるのはこちらもありがたいというか……。

    ま、単純な話、あたしがあんたのことを好きだからだよ」ドカ…

まどか「う、うん…ありがとう。…わたしも‥」

さやか「(ニコッ)好きだから、幸せになってくれるなら嬉しいというか、

    そこで寝てる奴にも言えるんだけどさ」

まどか「ふふ」

さやか「でもね…、あたし、恭介にはちょっと行き過ぎてたな…」

まどか「え?」

さやか「こいつにとって何が幸せとか、あたしが決めつけられることじゃなくてさ…」

まどか「ああ、うん…」

さやか「もしかしたら、多分こいつにも今分からないことなんだよ、それって。

    だから出来るかどうか分かんないことまで手を出して、必死にもがいて……。

    仁美の言うとおりだよ。あたしはさっき浮かれそうになったけど、

    本人にとってはさ、受け入れ始めたときにまた希望と不安が降って湧いて、

    実は結構ストレスになったりしてるかもしれないんだよな」

まどか「……本当に頑張ってるんだね」

さやか「それはまどかも、だろ」

まどか「え?」

さやか「仁美が言ってたじゃん、ちゃんと寝てる?

    恭介みたいに重症じゃなくても、最近あんたさ……」

まどか「あ、うん。だいじょうぶだよ」

さやか「水差すようなこと言いたくないけど、ひと言。

    『イヌもひともよるはねるもんだぜ◇ねろよ!』。

    迷ったときさやかちゃんはこの言葉を頼りにしてきた」

まどか「‥それは、あんまり……」

さやか「ん、何だって?」

まどか「見習いたくないなって…」

さやか「みなまでいうなっ!」

まどか「うぇひひっ」

さやか「――うん。でもだからさ、あたしも頑張ろうと思うんだ。

    まどかのママみたいにはなれなくてもね。

    余計なことは考えずに、それなりにを維持して、今まで通り自分らしく頑張る。

    で、恭介を支えるよ。いつかそうなったら、こいつの子どもは、

    あたしとこいつの子どもらしく育ってくれればいい」

まどか「ふふ、そこは変わらないんだ」

さやか「変わらない?前まどかに話したっけ?」

まどか「あっ、こ、こないだお見舞いに行ったときにね、

    さやかちゃんとどんな話してるのかなー、って教えてもらったの」

さやか「ほぉ…、なかなかやるではないか。

    決めた、これからもっとまどかを可愛がることにするわ」

まどか「えっ、ええーー」

~~マミの部屋~~


ほむら「急に寒気が……!」

マミ「大丈夫?」

ほむら「はい。体の不調ではなく…」

マミ「ならいいんだけど。居間で好きに寛いでてくれていいのよ」

ほむら「いえ、手伝わせてください。もう治まりましたから、後で鹿目さんに聞いてみます」

マミ「?」ジュージュー ジャカジャカ

ほむら「それにしてもこんなに野菜使うんですね、スープに」ムキムキ…

マミ「ふふ。今日はみんなで食べるからちょっと奮発したの」ジャカジャカ

ほむら「そうなんですか?でもそれじゃ…」トントン トントン

マミ「それに、一度作っておくと、結構持つし。朝温めるだけでいいから楽なの」ガラ

ほむら「いいですねー。わたしも覚えよう。あ、人参切りますか」チャポチャポ…

マミ「今はいいよ、ピーラー使うから。玉ねぎの上と下落としといてくれる?」シーッシーッ

ほむら「はい」タン タン

マミ「すごい、ジャガイモ早く切ってくれたね。よく料理するの?」ジャババ…ドサドサ

ほむら「はい…。退院してから一人暮らし、始めたばかりなんです」

マミ「そうだったの。大変でしょう」ジャカジャカ…

ほむら「はい。人参切りますね」トントン トントン

マミ「ありがとう。水切ってるジャガイモと一緒にして、こっちに入れてちょうだい」ジャカジャカ

ほむら「わかりました」ドサドサ…

マミ「さて…、玉ねぎをむきましょうか…!」ジュー ジュー…

ほむら「はい…!」

マミ「うぅ…」ボロボロ 

ほむら「しみる~」ボロボロ

マミ「…一人暮らしって、大丈夫なの?あなた、心臓が…」ボロボロ

ほむら「ええ、それで治してくれた先生のいる病院があるから、

    何かあったときでも、って」ボロボロ

マミ「なおさらご両親と一緒に住んでいたほうが…。あ、お鍋お願い」シャキ シャキ

ほむら「わたしから言い出したんです。

    パパもママも、わたしのために何度も引っ越しして苦労させ続けたから…。

    何かなんて起こらない、この先生なら大丈夫だって。

    でも経過を見ながら安心のために近くに住んでいたいだけだから、

    パパの勤めている会社から元の部署に戻ってくれないか、って話が来てたみたいだし。

    大学になったらわたしも東京に戻るからって、

    思いっ切りわがままを言って…」ジュー ジュー

マミ「確かに無茶な話に聞こえるわ。お父さんとお母さんがよく許して下さったな、というか。

   でもあなたなりにご両親を気遣って言ったのでしょうけど……」パラパラ

ほむら「みんな疲れていたから……。

    また入院することになったら、って気持ちはパパもママもあったと思うから、

    でもわたしは魔法少女になって、体もすこし丈夫になった実感があったから。

    だから逆に、この先生を信頼して縦えそうなっても治療はここで続ける。

    でもきっともう大丈夫だから、パパとママだけ先に元の家で元の暮らしに戻って、

    て押し切ったんです」ジュー ジュー 

マミ「それっていつのこと?」ジャーッ

ほむら「え…」ドキ

マミ「…わたしは余計にそう思うのかもしれないけど、

   中学生のころならまだまだ親の側で甘えたいんじゃないかなあ、って思って。

   生活が軌道に乗ってからでも凄いことだけど、退院する前から決めてたのなら、

   とても勇気あると思うわ」ゴリーッ ゴリーッ

ほむら「そんなカッコいいものじゃ…。本当はそうしたい理由が他にあっただけで…」ジュージュー

マミ「…。その理由が何であれ、現にこうして一人暮らしで頑張ってるじゃない。

   わたしも仲間がいると思うと心強い」シュッ チャポ シュッ チャポ

ほむら「わたしのほうこそ。先輩はわたしよりずっと長く………」ジュー ジュー

マミ「…でもね、同じ一人暮らしでも、わたしのほうが楽をしてるかもね」トン トン

ほむら「え…?」ジュー ジュー

マミ「ほら、この部屋わたしたちみたいな年頃の子が一人で暮らすには、

   広すぎると思わない?」パラパラ

ほむら「あ…」ジュー ジュー

マミ「父と母はこの部屋と財産を遺してくれた…。

   ある日、突然途切れたけど愛おしい思い出もたくさんね」ジャババ… ザサッ

ほむら「……ここは、ご家族の家なんですね…」ジュー ジュー

マミ「ええ。‥ありがとう、代わるわ。後はわたしに任せて。

   お茶を淹れるから、先にあちらで待っててくれる」パラパラ
  
ほむら「はい」

マミ「不思議なものね…。

   わたし、遠い親戚しか身寄りがいないから、ずっと一人ぼっちだと思ってた。

   でもあなた達とこの部屋で賑やかに過ごしたりするようになって、ようやく気づいたの。

   ずっと以前からわたしはこの家に守られていたんだって」ジュー ジュー

ほむら「最初にお邪魔したときから、

    暖かく包んでくれるようで、素敵な部屋だと思ってました」

マミ「そう言ってくれると嬉しい。

   というのはね、家具こそ前より少しは変わったかもしれないけど、

   あちこちにね、家族の思い出と一緒に育ってきた部屋なんだ、

   って思えるようになったから」ジョーー… スタスタ  ドボーッ 

ほむら「……そうですか」

マミ「それにこれからは、

   あなた達と思い出を作っていくことができる場所なんだし」ジョーー… スタスタ  タン カチッ

ほむら「そうですね。いつか、みんなで泊まりにきて…」

マミ「あら、あなたも美樹さんみたいになってきたわね」キリキリ キリキリ カパッ

ほむら「(ハッ)いつの間にこんな……!」

マミ「いえいえ、いつでも大歓迎だから、言ってね」ドポポ…

ほむら「ありがとうございます、楽しみにしてます。

    そう言えば、前に鹿目さんのお家に泊まらせてもらったとき、

    鹿目さんも巴先輩に来てもらったら嬉しいなって…」

マミ「わあ、嬉しい。楽しみだわ。あなたの部屋にもお呼ばれしようかしら」グツグツ…

ほむら「えぇ!? …あ、あの、わたしの部屋なんて、まだ部屋と呼べるような場所じゃ…」

マミ「いえいえ、楽しみにしてます」スイ スイ スイ

ほむら「うう…」

~~裏路地~~


さやか「…ここだ」フワァッ

QB「昨日の使い魔だね」

まどか「上条くん、気をつけて」フワァッ

恭介「ん…」

サアァァァァ…

使い魔「ブゥーン、ブブ、ブブブウーーンッ」

まどか「また逃げられちゃうっ」

さやか「追うぞっ」ダッ

ギュンッ ザクッ

さやか「とわあ!?」ビクッ

杏子「ちょっとちょっと、ここで何やってんのさ?」スタスタ 

まどか「え…あっ、風見野…」

さやか「ここ…、もしかしてあんたの縄張りだった?」

杏子「ああ。うん…?アンタ達、どこかで会ったことあるか?」パク ムグムグ

さやか「いや、覚えはないけど。とにかく勝手に踏み入っちゃってごめんなさい」

杏子「分かりゃいいんだけどさ。二人とも新入りみたいだし。

   ‥アンタも手広くやってるじゃないか」

QB「僕は、僕との契約を必要としている子達を探しているだけだよ」

杏子「‥そこの坊やは?」

まどか「あ、上条くんは…」

恭介「zzz…」

まどか「って、立ったまま寝てる!?」

さやか「あたしの知り合い。どうしても魔女退治についていくって聞かなくてさ」

杏子「ふん。あんたの勝手だけど、気をつけな。一般人を巻き込んでいいことは一つもないよ」

さやか「気をつけるわ。ところでさっきの使い魔、追わなくていいの?

    早くしないと見失うんじゃ…」

杏子「ああ、そうか。(パク)教えといてやるよ。

   使い魔倒してもグリーフシードは手に入らねえ。

   4、5人ばかり喰えば魔女になるから、

   無駄な魔力を使わずにそれまで待つことだね」ムシャムシャ

まどか「え…?」

さやか「……ということはあんたの街では、使い魔を狩らないんだね」

杏子「そうさ。命がかかってるんだ。

   ソイツに何言われてるか知らないけど、まず自分の身を守ることだけ考えな」

さやか「…あのさ、風見野の使い魔、あたしに狩らせてくれないかな。

    魔女には手を出さないから」

杏子「ハァ? 言ってる意味分かるか?タマゴ産む前のニワトリ絞めて廻るようなもんだぞ?」

さやか「大丈夫、自分の回復はこっちでなんとかするから…。頼むよ」

杏子「駄目だね。将来魔女になる奴らを潰されちゃ、こっちがたまらねえ」

さやか「……」

杏子「だいたい、どうして使い魔を倒すことにこだわるのさ。

   人助けだの正義だの、その手の理由はごめんだよ」

さやか「……そうかもしれない」

杏子「……!」スゥッ

さやか「キュゥべえと契約した時は、そこまで深く考えてなかったけど、今、納得はできるよ。

    自分が叶えたい願いのために、魔女や使い魔と戦うっていう義務を受け入れたんだ。

    それが人助けとか正義を指すのなら、それが魔法少女のやることだって言うのならさ」

杏子「(フゥ…)だから、契約の条件をあんたがそこまで履き違えなくてもいいんだって。

   魔女だけ狩ってりゃ、グリーフシードが手に入ってあんたも生き延びられるし、

   義務だって果たしてるんだよ」

さやか「あんたの言ってること、分かるよ。

    魔法少女を続けるのがどれだけ大変なのかはまだ分からないけど。

    …でもね、あたしは自分の家族や友達やその家族が、

    あたしの知らないところで魔女や使い魔の犠牲になったりするのが怖い」

杏子「いいかい。人間は魔女や使い魔より弱い。弱いから喰われる。

   その魔女より強いアタシたちが、魔女を喰うんだ。

   それがルールってもんだろ」

さやか「それでも、あたしに守れる力があるなら……。

    あたしはそうしたい。いや、そうしなきゃ起こってからじゃ取り返しがつかない。

    魔女や使い魔は同じ場所にずっといるわけじゃないんでしょ?

    あたしの家族や、友達やその家族だって、隣町なら行き来もするし。

    ……たとえあんたを押し退けてでも、使い魔だって狩らなきゃ」

杏子「(ハァーッ…)分からねえ奴だなぁ。誰もアンタに頼んでなんかないっつの」ガリガリ

さやか「……」

杏子「…家に帰って頭を冷やしな、って言いたいとこだけど。(グシャグシャ)

   ‥その顔じゃ変わりそうもないね」 ポイ

さやか「昔っから、決めたことは我を通さなきゃ気が済まないタチでさ」

杏子「仕方ない。やってみな。…押し退けられるものなら」ギラリ

さやか「…悪いね」ニヤリ

~~マミの部屋~~


マミ「ねえ、美樹さんのことどう思う?」

ほむら「うるさいけど優しくて強い人だと思いますが」ズス…

マミ「(スス…)ええ。とっても、特に人が困ってそうなところをみると強く反応してしまう。

   人の道としてやるべきことをその場その場で敏感に感じ取って、

   すぐに行動に移さずにはいられない。直情径行さが一番の魅力よね。

   わたしも彼女のそんなところが好きなんだけど…」カチャ

ほむら「それが何か…、よくないことでも?」

マミ「……魔法少女は人々に希望を与える存在だわ。

   でもどうしても、自分の身を守ることと、

   人々を助けることのどちらかを選択しなければいけない局面もあるから…」

ほむら「…」コク

マミ「そんな自分が情けなくて、殺された人よりも多くの人を助けられるようになろう、

   より多くの魔女を倒そうって切り替えてきた。

   わたしは選択の余地もなく魔法少女になった。

   そんな始まりだから切り替えることに抵抗が少ないと言える」スス…

ほむら「……」スス…

マミ「でも美樹さんのように人のために祈って魔法少女になった子は……」

ほむら「それは、分からないんじゃないでしょうか。結構たくましいし…」

マミ「そう。強い…、だからこそ切り替えかたが……」

ほむら「……?」

マミ「鹿目さんや暁美さんに出会う前にね、初めてわたしの仲間になってくれた子がいたの」

ほむら「この街に、巴先輩の他に魔法少女がいるんですか?」

マミ「いいえ。その子はもともと風見野で、今もきっと…、魔法少女をやってると思う。

   お互いの街を行き来して、二人で協力して魔女を狩っていた。

   彼女もまた、人のために祈って魔法少女になった子なの」

ほむら「でも、自分の身を守ることを優先したことがあって……?」

マミ「いえ……。きっとそれよりも。慰めの言葉が見つからないほどだった。

   彼女は自分の祈りのもたらした結果を全て自分のせいだと、一人で背負ってしまったわ。

   今にして思えばそうするしか……」

ほむら「…?」スス…

マミ「…あなたがさっき言ったように、その子と似ていたとしても、

   美樹さんも同じようになるかなんて、分からないわよね」

ほむら「心配されるのも分かりますが…」

マミ「…同じ心配でも、わたしは自分のためにしているわ。

   彼女の苦悩の深さを受け止めきれず、自分がひとりぼっちになることを恐れて…。

   それをまた繰り返すんじゃないかと」

ほむら「……先輩。先輩の背中を見つめる鹿目さんの眼差しにお気づきですか」

マミ「……」

ほむら「鹿目さんにとって、先輩は思い描く魔法少女の理想そのものです。

    それが先輩にとっては押し付けられた勝手なイメージだとしても、

    やはりその憧れは鹿目さんの励みであり奮起する糧であり……。

    そしてわたしにとっても、今の話を聞いた上でも、いえ聞いたからこそさらに、

    巴先輩を尊敬します」

マミ「…ありがとう」

ほむら「‥生意気を言いますが、わたし達は皆それぞれ胸に抱いている祈りは違う。

    先輩が、鹿目さんや美樹さんやわたしを、どうやってまとめて導いていくか、

    そこにどれほど苦労されているか、わたしには想像も及ばない。

    せめてみんなが気持ち良く過ごせるよう、

    わたしなりに出来ることをしようと思ってはいますが…。

    きっとみんなも同じです。先輩に触発されてそうしようと思っているはずです」

マミ「ええ。感じているわ」

ほむら「……ですが、わたしたちは皆違うから…。

    どうかお願いです。一人になることを恐れないでください。

    わたしは、もし鹿目さんが巴さんから離れることになったら、鹿目さんにつきます。

    なぜならわたしは…、わたしは鹿目さんを守るわたしになりたいと願って、

    魔法少女になったから」

マミ「(コク)暁美さん。わたしは今、初めて暁美ほむらという人間を目にした気がするわ」

ほむら「……」

マミ「…やはりそうだった。あなたもわたしと同じ…」

ほむら「え…?」

マミ「わたしも、あなた達より鹿目さんを選ぶ。

   魔法少女としての使命より、鹿目さんの安否を優先する」

ほむら「……!」

マミ「…もし、鹿目さんがあなたと共に、わたしから離れることになっても、

   彼女さえそれでよければ、無事であれば構わないわ」

ほむら「…それはわたしがその時、巴さんの立場だとしても同じです。

    でも、鹿目さんは自分から離れることは絶対にないでしょう。

    先輩が彼女の存在を忘れないかぎり、先輩が一人になることはありません」

マミ「それでも、たとえあなたとわたしが道を違え離れることになっても、

   わたしとあなたが胸に抱く思いは変わらない」

ほむら「(コク…)…共に、それぞれに戦いましょう。鹿目さんのために」

マミ「ええ」コク

~~裏路地~~


まどか「さやかちゃん……!」

さやか「…恭介が巻き込まれないようにお願い」

まどか「うん。でもそうじゃなくて…」

さやか「…さっそくこのザマじゃ怒られちゃうな。

    ごめん。あたしが恭介を守るって言ったのに」

まどか「違うよ…。あの子とさやかちゃんが戦うなんて、そんなの…」

さやか「……そのことも、ごめん。あの子もあたしも、同じワガママ同士みたいでさ。

    ちょっとケンカしてくる」ニッ


まどか「……キュゥべえ」

QB(主義主張のぶつかり合いだね。二人とも譲らないみたいだから、

   あの子との衝突を避けたいなら、まどか、君が力ずくででもさやかを止めるしかないよ)

まどか「う……」

杏子「作戦タイムは終わりかい?」

さやか「へ?違う違う。この子は無関係で、あたしが一人で揉め事起こしてるだけだから」

杏子「そうかい。どうでもいいけどさ、

   早いとこその腰にぶら下げてる得物を構えたほうがいいんじゃない」

さやか「あ、これは…」

杏子「まさかそのチャチな鈍器であたしの相手しようだなんて思ってないよねえ。
  
   どういうつもりか知らないがこっちは手加減しないよ。さあ、抜きな」

さやか「抜けないっ」

杏子「くっふふ…、アタシもナメられたもんだ…。行くよ!」ダッ

さやか「わああ!」

ガキョッ…!

杏子(あたしの槍を片手で止めた……!?)

さやか「ああ、マミさん特製のバットが……」

杏子「マミ?ひょっとしてお前たち、巴マミの仲間か?」

さやか「そうだけど。あんたもマミさんの知り合い?」

杏子「‥前に世話になった。とにかく出直しといで。

   さっきの話じゃ、もともとこの街に狩りに来たわけじゃないんだろ?

   後からマミに文句を言われちゃ敵わないよ」

さやか「…そうだね。わかった。マミさんに話を通して、また来るよ。

    ……明日、この時間に、ここはどう?」

杏子「ああ、構わないよ。(ゴソ チュパ)ほんじゃ」クル スタスタ


さやか「…さて、帰るか。…恭介?」

恭介「(ハッ)つ、使い魔は?」

さやか「……」

~~電車の車両内~~


恭介「すぴー」

まどか「…さやかちゃん。あのね」

さやか「うん」

まどか「さっきのあの子にね、上条くんのこと……」

さやか「そう思ったんだけど、この体たらくだしさ」

まどか「……」

さやか「……あたし、正直恭介には来てほしくないんだ。

    風見野まで度々足延ばしてるヒマなんてこいつにはないはずだし。そもそも…」

まどか「そっか…、そうだよね……」

さやか「あ、いや、まどかが気を遣うことはないんだよ。

    魔女退治に付き合わなきゃ気が済まない、って本人が言ってるんだし」

まどか「……うん」

さやか「後ね、明日、まどかは来ちゃダメだよ」

まどか「え…!?」

さやか「マミさんがどう言うか分からないけど、多分反対されるだろうから。

    そうなったらあたしは……。とにかくあんたはマミさんの側にいなきゃダメ。

    いいね?」

まどか「…さやかちゃん……」

――――
―――
――


~~マミの部屋~~


まどか「ごちそうさまでした」

さやか「ごちそうさまでした!あ~~っ、美味しかった!家のスパゲティと全然違うわ。
 
    スープも温まったし、マミさんは本当に料理が上手いなあ」

マミ「あら、パスタは暁美さんがほとんど調理したのよ」

さやか「へえ、やるじゃん、ほむら!」

ほむら「お粗末さまでした。今日はどうでした?」

さやか「あー、実は使い魔追っていった先で、風見野に入っちゃってさ…」

……

さやか「で、明日決着をつけよう、ってことになって……。マミさん、いいかな?」

ほむら「いいかな、って……」

マミ「…死ぬかもしれないわよ」

まどか「……!」

マミ「あなたの話が確かなら、わたしの知っている子で間違いないわ。

   あの子はもともと素質がある上に、もうベテランだから恐らく相当に強い。

   時間をかけて、話し合いで解決していくべきじゃないかしら」

さやか「…あたしの都合と、あの子の都合は折り合えないと思う。

    危険なのは分かってる」

マミ「そう。わたしが出ていくと話がこじれるだけだから、その場にいられないわよ。

   あと、あなたの都合だから鹿目さんと暁美さんを巻き込んではだめ」

さやか「うん」

マミ「‥分かったわ。今日は早く帰って休みなさい」

さやか「ありがとう。マミさん」スクッ

まどか「マミさん……」

マミ「鹿目さんも。お疲れさま」

まどか「……」

ほむら「…片付けは任せて」ニコ

まどか「…ごめんね」コク

バタン カチャ

スタ スタ

ほむら「…美樹さん、止めるべきだったんじゃないですか」

マミ「上条くんのことを持ち出してでも、ね。

   でも、使い魔をグリーフシードに変えられるからとあの子を丸めこんでも、

   あの子はいずれ美樹さんと対立する。根本的な考えが違うから」

ほむら「あの子って、さっき話していた子のことですよね」

マミ「ええ。…佐倉杏子さん」

ほむら「自分の後輩同士が殺し合いになっても構わない、と?」

マミ「……」

ほむら「美樹さんなら佐倉さんとぶつかった結果、彼女を仲間に引き入れられるかもしれない。

    なぜなら佐倉さんだって最初は、人のために祈って魔法少女になった子だったから。

    美樹さんは、上条くんやわたし達の危機に駆けつけるために、魔法少女になった。

    もし佐倉さんが自分と共通したところを美樹さんに見い出せば、

    彼女も心を開いて、わたし達と共に戦ってくれるようになるかもしれない…」

マミ「暁美さん……」

ほむら「…わたしも、巴先輩と同じ考えです。だから美樹さんが話してる時、黙っていました。

    先輩を責めるふりをしたのは、さっきのお返しです」

マミ「……。……ふふふ」

ほむら「(ムッ)……何ですか」

マミ「いえ、ごめんなさい。

   ……あなたの言うとおり、それも仲間が増えれば、鹿目さんがより安全になるから」

ほむら「……ワルプルギスの夜に対して、ですね」

マミ「……! キュゥべえから聞いたの?」

ほむら「いいえ」

マミ「ならいったいどうして……」

ほむら「……近いうちに必ず、話します」

マミ「…。わかった」

ほむら「…それにしても、他に道筋は……」

マミ「佐倉さんにもう一度仲間になってもらうにはこれしかない」

ほむら「うまくいくでしょうか」

マミ「むしろ狙い通りにいくほうがおかしいくらいね。

   佐倉さんと美樹さんの衝突の問題を、わたしの利益に結び付けて考えてること自体、

   狂気の沙汰だもの」

ほむら「それはわたしもです。二人が死ななくても、みんなばらばらになるかもしれない」

マミ「こういうとき、最後に道しるべになるのは自分の望みだけなのよ。

   それぞれの望みに従って皆が行動した結果、偶然にもその足並みが揃うことになったら、

   それは本当に感謝すべきことだわ」

ほむら「……」

~~次の日、放課後~~

ガヤガヤ

さやか「…さーてと、行くか」

まどか「さやかちゃん、あの…」

さやか「ごめん、みんな。今日あたしちょっと用事あって、先帰るわ」

仁美「今日もですの。なんだか最近みんなが揃うことがなくて寂しいわ」

さやか「タハハ…、実はあたしたち、三年の先輩と組んで街を回ってるんだ。

    今日はそれと違う、個人的なことなんだけど」

仁美「街を回る……?何かいけない道に誘われてるんじゃありませんか?」チラ

まどか「そ、そんなことは…」

ほむら「えっと…」

さやか「あ、そうだ。あれだよ、ボランティアってやつ?」

仁美「そうでしたの。わたしもご一緒したいものですわ」

まどか「だ駄目だよ、仁美ちゃん!」

仁美「まあ、鹿目さんまで。ご自分はよくてわたしはダメだと、いけずしますのね」

まどか「ぁ…」

さやか「ま、まあほら、扱うモノに注意が必要だったりするからさ。

    仁美、色んな習い事で忙しいし万が一ってこと考えるとおすすめはできないかな…」

仁美「……それほど危険なことに、わたしの知らない内にあなたは……。

   (ガタッ)学級委員として早乙女先生に報告してきます」

まど・ほむ「ええっ」

さやか「ま、待って、仁美!」

仁美「…上条くんはこのことを知っていますの?」

さやか「……ごめん。…恭介もあたしが巻き込んだ」

パァン!

まど・ほむ「!!」

シーン…   ザワ…

仁美「……」ガサ バタバタ…

ほむら「…!」タッ

さやか「待ってほむら」

ほむら(でも追わないと!)

さやか(いや、いいんだ。仁美は多分チクらないと思う)

ほむら「……」

さやか「もう、行かなきゃ」

まどか「さやかちゃん…」

さやか「来ちゃ、ダメだよ」

まどか「……。わたし、マミさん家に行ってるね」スタ スタ

ほむら「…」

まどか(ほむらちゃん、お願い。一緒に来て)

ほむら「? じゃ、じゃあ、わたしも」スタスタ

さやか「……」

恭介「zzz……」

さやか「恭介」ユサユサ

恭介「むにゃ…」ムク

さやか「あたしが出ない日くらい、ちゃんと家帰って寝てろ」

恭介「うん…」ガタ ガサゴソ

さやか「あたしはちょっとぶらぶらしてくから。じゃね」スタスタ

恭介「ああ…」ボー

~~通学路~~


バタバタ

ほむら「(ハァハァ…ッ)どうしたんですか、こんなに急いで…」

まどか「ご、ごめん。大丈夫だった?」

ほむら「これくらい平気ですけど。巴さんと何か約束が?」

まどか「ううん。ほむらちゃん(ガシ)、お願い!

    さやかちゃんの先回りをしたいの。昨日のあの子の場所まで力を貸して!」ジッ

ほむら「ええ!?ど、どうするつもりなの?」カァ…

まどか「あの子もさやかちゃんも魔女を退治したい、って気持ちは同じだもの。

    探せばきっと仲良くする方法だってあるはずだよ。

    さやかちゃんはこうと決めたら変えない子だけど、

    あの子はもしかしたら説得すれば話し合いに応じてくれるかも…」

ほむら「そんなの無理だよ。

    第一、その子から見たら鹿目さんは美樹さんの仲間に見えてるはずだし……、

    その子も耳を貸さないだけならともかく、危険な目に遭ったらどうするの?」

まどか「わたしだって、魔法少女だもの。それは――」

ほむら「巴さんだって、

    美樹さんとその子の問題に鹿目さんが立ち入っちゃいけない、って言うはずだよ?」

まどか「もしマミさんに怒られたら…、そのときに謝る。

    でも…色々考えたけど、先回りするにはほむらちゃんに助けてもらわないとだめなの。

    ごめん、お願い…!このままだと昨日のケンカの続きになっちゃうよ。(ユル…)

    そうなったら……」

ほむら「……」

スッ

まどか「ほむらちゃん…」ギュッ

ほむら「(キョロ)あっちに」スタスタ…

まどか「(コク)」スタスタ…

フワァッ

カシン ピタ

ほむら「……本当は今すぐ美樹さんを縛り上げたい気分なんですが」

まどか「…」

ほむら「今日足止めしたところで先延ばしになるだけですもんね…。

    昨日の場所、電車を使わなくても分かります?」

まどか「(ホッ)うん、線路沿いの道を歩いていけば…。

     降りた駅の辺りまで行けば分かると思う」

ほむら「歩いていくのは体力的にも魔力的にもすこしキツいですね……。

    いったんわたしのアパートに寄って自転車を取りにいきましょう」

まどか「ありがとう、ほむらちゃん…」

ほむら「(ニコ)お礼は言われるのはまだ早いです。さあ、早く行こう」

まどか「うん」

タタ…

―――
――

~~風見野への道~~

キコキコ…

まどか「ほむらちゃん、やっぱりわたしが漕ぐよ…。わたしが言い出したことなんだから」

ほむら「(ハァハァ…)いえ、へっちゃらです。

     鹿目さんはその風見野の子を説得しなきゃいけないんだから…、

     わたしが万全の状態でそこまで届けるから……」キコキコ

まどか「……」

―――
――

~~昨日の裏路地~~


まどか「もういいよ、本当にここまでで、もう着いたから、ほむらちゃん…!」

キィィッ 

ほむら「(ハァハァ…)ここでいいの…? あの子…?」

まどか「うん、そうだよ!」

カシン 

フラ…

まどか「ほむらちゃん!」ギュッ…

フラッ トット… 

ガシャンッ カララ…

杏子「ん?」

ほむら「(ハァ、ハァ…)だいじょうぶ…だいじょうぶだから…」ヨロ ヨロ

まどか「足止めないで、わたしにつかまりながら、ゆっくり、そのまま歩いて…」スタ スタ

杏子「何だ、あんたら?昨日のヤツはどうした?」

まどか「説明するからちょっと待って」スタ スタ

ほむら「……」ハァ ハァ…

杏子「…」

――


ほむら「もう大丈夫だよ…、さあ、美樹さんが来る前に早く」

まどか「うん。わたしが戻るまでここで休んで待ってて」

ほむら「がんばって」

まどか(コク)スタ スタ…

杏子「……で?結局マミに止められて顔合わせるにもばつが悪いからってんで、

   あんたがメッセンジャーとして来たのかい?」カリッ モグ…

まどか「ううん。さやかちゃんはもうすぐここに来るし、

    わたしがここに来ていることも知らない。わたしはあなたと話したくて来たの」

杏子「(カプ)‥何だよ、話って」モグモグ

まどか「さやかちゃんとのケンカ、やめにできないかな」

杏子「…」ギョロ

まどか「あの子はね、思い込みが激しくて気が強くて、

    すぐ人とケンカを起こしたりもするけど、自分から仲直りできる勇気もあるの。
    
    それに、誰かのためと思ったら頑張りすぎちゃうくらい優しい子なの」

杏子「向こう見ずなのは昨日ので分かったよ。(サク)でも何の関係があんだよ」モグモグ

まどか「一人でいるよりも、仲間と一緒のほうがずっと安全に魔女と戦えるはずだよ。

    あなたは強い魔法少女らしいけど、マミさんだって危ないときがあったもの。

    みんなで…わたしも、わたし達で協力して魔女を倒せば、

    一人一人はそんなに魔力を消費しないで済むし、グリーフシードも分け合えるよ。

    使い魔は、その余ったぶんの魔力でそうしたい人が倒すとか……」

杏子「…なるほど。話は分かった。そっちが良ければあたしもそれでいい」

まどか「…本当?」

杏子「ただし、あんたがあたしを止められたらの話だ」

まどか「――え?」

杏子「今のあんたの話は、ただのコトバだ。重みも何もない。

   ただの臆病者の言い逃れかどうか、

   昨日あんたに会ったばっかのあたしには分からないからね。

   互いに命を預けるってんなら当然だろ?」

まどか「…うん。わたしがあなたを止められればいいんだね」

ほむら「鹿目さん!」

まどか「ほむらちゃん、お願い。ここはわたしに任せて」

ほむら「うぅ~…」

杏子「(チョン モグ…)別にいいんだぜ。二人で掛かってきても」

まどか「ううん。これはわたしとあなたの問題だから」

杏子「(ゴクン)…いいだろう」フワァッ 


~~見滝原、駅への道~~

さやか「あ、いけね。バットをマミさんに直してもらわないと」

~~昨日の裏路地~~


杏子「……どうした?もう始まってんだぜ?」

まどか「…わたしはあなたとは戦わない」

杏子「…(ハァ~…ッ)ああ~~、なんかもう、うぜーなあ……」スタスタ

グサッ

まどか「ッッ!!」

ほむら「ああ!!!」

杏子「そういうの勘弁してよ。

   武器持った相手に止めると言っといて戦わない、で済むか?」

まどか「くぅ~……ッ(ガクガク)」ポタ ポタ

杏子「どうした?何か言えよ。別に逃げてもいいけど?

   そこのメガネの子か昨日のあいつに任せてさ」

まどか「っ…ませる」ブルブル…

杏子「あん?」

まどか「済ませ…なきゃ…っ。魔法少女どうしが戦うなんてことしないで…」

ズポッ 

まどか「あぅ…ッ!!」ボタボタ

ほむら「ッッ!!……ッッ」ギュゥ…

杏子「戦わずに済ませるなら余計に抑える力ってもんが必要だろうが。

   それを変身すらしないだと?」

まどか「わたしも、あなたも…、

    こんなことのために魔法少女になったんじゃないはずだよ…」

杏子「…クソッ…!もういいから帰れよ!

   昨日のやつのほうがまだ物分かりが良かったぜ」

まどか「わたしは帰らないよ。…あなたとさやかちゃんが戦うのを止めてくれるまで」ポタ ポタ

杏子「(グイッ)これでもか」ブン

ダンッ ドサッ

まどか「ッかはッ…あぐ…」モソ

ほむら「鹿目さんっ!!」

まどか「ほむら……ちゃん…」モゾ

ほむら「この子には何言っても通じないよ。早く帰ろう?そのケガ、手当てしないと…」

まどか「だめ…。(ノソ…)さやかちゃんが…。(ググッ)…ッッ!!……」フラ…

杏子「……」

ほむら「ならわたしが、あなたに代わってこの子を止める」

杏子「あんたはちゃんとあたしの相手してくれるんだろうね?」チキッ…

ほむら「いいですとも!」サッ

まどか「やめて!!魔法少女どうしが戦っちゃいけない!

    わたし達は友達になれるんだよ?そうしたいと思いあえば、そうできるんだよ!?」

ほむら「(ハッ)!?……」

杏子「ロクに戦いもできねえ奴が何様のつもりだ……。

   あんたは魔法少女を何だと思ってるんだ?」

まどか「マミさんみたいな人だよ!知ってるでしょう?

    魔女から人々を守るために危険を冒して戦って、

    人々を絶望の代わりに希望で包んであげる。

    それができるのはわたし達だけなんだから……」

杏子「ああ、確かにマミは立派だとも。理想を掲げて、それを実行をしてる点でな。

   あいつやあいつに共感できる仲間だけでやってくれる分には構わない。

   でもあたしはあいつの理想が尊いもんだとはこれっぽっちも思わねえ。

   ただ、あいつの行動を支えるのに役立ってるのなら文句は言えねえってだけの話さ。

   勘違いするんじゃないよ。

   世の中の本当の姿ってのは、ただ強い奴が支配できて、弱い奴は死ぬか虐げられるか、

   いずれにしてもただひたすら悲惨なだけだ。

   魔法少女だってそれは例外じゃない。現実ってもののルール内の存在さ。

   ただ普通の人間よりちょっと便利な力が使える。

   それならそいつを自分のためだけに役立てればいい」

まどか「どうしてそんなに一人で抱え込もうとするの……?」

杏子「…抱え込んでるだと…?あたしがか?」

まどか「わたしには、あなたは一人で苦しんで、無理に一人で自分を納得させて、

    周りから自分を切り離しているように聞こえるよ。

    わたしだって同じ魔法少女のあなたに出会えたんだもの、友達になりたいよ」

ほむら「そ、そうよ……。敵は魔女だけで十分だわ。

    避けようとすれば避けられる争いをするなんて馬鹿げてる」

杏子「……」

まどか「ねえ…」

杏子「…あんたのお人好し加減はひとまずおくとして、

   魔法少女になるための祈りで自分の家族を壊しちまうような奴が、

   友達なんて作る資格あると思うか?」

まどか「え……?」

ほむら(…家族を……?)

杏子「(ニヤ)…何だ、マミから聞かなかったのかい?

   とにかく、あいつみたいなやつばかりじゃない、ってことだよ。魔法少女は。

   マミだって自分が生きるために魔法少女になった。そいつが一番正しい形さ。

   あんたは人を助けるのが正しいと考えてるみたいだけど、

   助けられる側の都合も考えずに、魔女から守ってやるなんて、ただのエゴじゃないのか」

まどか「それは……」

ほむら「……助けるのがこちらのエゴであることくらい、分かってる。

    そのことで恨まれるかもしれなくても、でもそれでも生きて、

    最後に生きててよかった、って思えるような人生を送ってほしい。

    それがこちらの願いなんだから…それしかないんだから」

まどか「‥ほむらちゃん…?」

杏子「……そう思えるのなら、それはそれでいい。

   昨日のやつ…、さやかってのも、それくらいはわきまえてるらしいね。

   全く、マミの周りには変なやつが集まってるんだな。

   ただし、感心はしないね。覚えてときな、希望の絶望のバランスは、差し引きゼロだ」

ほむら「…どういうこと?」

杏子「本来、魔女に食われて死ぬはずだった人間がいるとする。

   そこに介入して助けるという行為自体、自然の摂理に反してると思わないかい?」

ほむら「‥詭弁だわ」

杏子「そうか?助けた人間が将来罪もない人を殺すとしたらどうだ?

   または自分が人助けしているその間に、自分の大切な人が殺されたとしたら?」

ほむら「…魔法少女に限った話じゃない。誰にでもその立場に立たされる可能性はあるわ」

杏子「ああ。でも魔法少女にしか起こせないことだってあるだろ?」

ほむら「……!」

杏子「通りすがりの人間に関わる、ってことですらそんな危険性があるんだ。

   奇跡なんていう、ドでかい規模の希望で人のためなんぞに祈った日にゃ、

   目も当てられないほどの絶望が撒き散らされるって結末しか待ってないのさ」

ほむら(わたしが鹿目さんを助けるほど…、鹿目さんは前はこんなケガをしなかったのに。

    わたしが……)

杏子「分かるだろ、人のためにという考えじゃ、結局誰もが不幸になるだけだって。

   この力は全て自分のためだけに、使い切らなきゃいけないんだよ」

まどか「‥それでも、わたしは魔法少女だから。誰かが魔女に襲われてたなら助けなきゃ…」

杏子「あたし達もグリーフシードがなきゃ魔力を回復できない。

   せいぜい魔女を倒したとき、迷い込んだ奴も結果的に生き残ってたらいいんじゃないの」

まどか「そんな…」

杏子「(ギロ)大体ね、アンタ、人の話聞いてた?『魔法少女だから』なんて語るんだったら、

   言ってみろよ。あんたは何のために魔法少女をやってるのさ?」

まどか「え…」

スタスタスタ グイッ…

杏子「あんたからは、人がどうとか、魔法少女が何だとか、

   さっきからぐるりのことしか聞こえてこないんだよっ。

   あたしを止めたいって意志があるなら、お座り人形じゃないんなら、

   あたしの目を見て言ってみろ、立派なこと言うならあたしに教えてみろ、

   そもそもあんたは何で生きてるんだ!!」ギュウッ…

まどか「………」

ほむら「ちょっ、ちょっと!」

~~マミの部屋~~


ポウ……

マミ「はい、終わったわよ」

さやか「ありがとう。……ねえ、マミさん。まどか、何か言ってた?」

マミ「鹿目さんが?」

さやか「もう帰っちゃったんでしょ?いや、マミさんに話したのをあたしが聞くのはまずいか」

マミ「え?今日は来てないわよ、鹿目さん」

さやか「…(ハッ)!! まさかあの子!!」バッ ダダダッ

マミ「ちょっと、美樹さん!?」


マミ「……」

スッ

~~昨日の裏路地~~


杏子「アンタが魔法少女になったのは、ただの気まぐれか!?

   だとしても、半端な覚悟じゃ済まされねえ場所に足を踏み入れちまってんだよテメェは!

   あたしはあんたの問いに答えられるだけ答えたんだ、ごまかさずに言え、

   あんたは何で魔法少女をやってる?

   さあ答えろ、あたしを納得させるだけの理由がなきゃ許さねえぞ!!」ググッ

まどか「…わたし……、わたしは……」

杏子「聞こえねえ!!もっとでかい声で言え!!」

まどか「わたしなんか役立たずなんだもん!!何の取り柄もなくて誰の役にも立てない、

    いつもいつも、さやかちゃんにも迷惑ばっかり掛けてるもん!!

    魔法少女になっても、さやかちゃんやマミさんやほむらちゃんにばっかり戦わせて!」

ほむら(……鹿目さん…)

ユル… ドサ

杏子「…だったらしゃしゃり出てくる前に、取り柄を作ればいいじゃねえか」

まどか「でもあなたは今からさやかちゃんとケンカするでしょう!?

    どっちかが死んじゃうかもしれないんでしょう!?」

杏子「さあな。武器を握った者同士が戦うんだ。そうなるかもしれない。でも…」

まどか「だったら、わたしなんか生きてても意味がないんだから、

    さやかちゃんにわたしはたくさん助けてもらったんだから…!」

杏子「…ここで死ぬってのか」

ほむら(……!!)

杏子「ならあたしの腕一本取るくらいの根性見せろよ」

まどか「嫌だ!!そんなの嫌だ!!」

杏子「自分の価値をテメェで見捨ててる奴なんて殺す意味ないだろうが。

   もういい、さやかってのとはあんたのいない場所で仕切り直すから」スタ…

ガシッ…

杏子「‥離せ」

まどか「嫌だ!!あなたがさやかちゃんと戦わないって約束してくれるまで離さない!!」

クル…

杏子「……分かった。望み通り、あんたを殺してやる」

ほむら「!!!」

まどか「…!」

杏子「脅しじゃねえ。この槍で、今からあんたの心臓を貫く。

   でも言っとくよ、ただの犬死にだ。あのさやかってのもさぞかし迷惑だろうねえ、

   勝手にあんたの死の責任を押し付けられて。

   うっとうしさのあまりすぐにあんたのことを忘れるんじゃない」チキッ…

まどか「いいよ」ジッ

杏子「…!」

グッ

ほむら「やめなさい!!」フワァッ

杏子「(ピタ)…」チラ

ほむら「さもなくば穂先が届く前にわたしがあなたを殺す」ギラ

まどか(やめて…)

ほむら「……」

杏子(…なるほどね)ニッ

ほむら(!?)

グッ ブォッ

さやか(まどかが危ない!!)ダダダ


カシン ピタ…

カチャッ パシッ

ほむら「…」スタスタ…

カチッ コト…

ギュッ…

まどか「(ハッ)…!!ほむらちゃん!?」

ほむら「もうそんなに長く時間を止められない。早くここから離れて」スタ…

まどか「だめだよ、魔法少女どうしが傷つけ合うなんて絶対おかしいよ!」

ほむら「‥鹿目さん、ひどいよ…。一番傷ついてるのは鹿目さんじゃない。

     わたし、あなたを死なせるためにここに運んだの!?」

まどか「(ハッ)!」

ほむら「……」

まどか「…」

グイッ

ほむら「!」ヨロ…

まどか「(パシッ)っっ」ポーン

ほむら「鹿目さ……あ」

まどか「さやかちゃん」


ドカーン!

さやか「うおお!?」

杏子「なっ……!?」

まどか「さやかちゃああん!!」パタパタ

さやか「……」プスプス…

まどか「嘘なんでこんなさやかちゃんさやかちゃん、さやかちゃんッッ!!!」ペタペタサワサワ

杏子「……どういうことだ、おい? こいつ、死んでるじゃねーかよ!」

ほむら「いいえ、美樹さんは死にません!!鹿目さんのためにも死んではいけないんです!

    さあ、目を覚まして!!」バシバシ

ムクッ…

さやか「……何? 何なの?」

ほむら「わたしのパイプ爆弾が美樹さんの目の前で炸裂したんです」

さやか「うむぁえか」ペタサワモミュモミュ

まどか「違わたわたわたしわたしわたしがわたしが(ギュッ…)」ガクガクガク ジワジワジワジワ

ほむら「か、鹿目さん……」

さやか「……」ユサユサユサ

まどか「ちゃ、かちゃ、かちゃ、か…、か、」ハァフゥハァフゥ…

さやか「ほむらー、袋ある?あんたの薬入れてるやつでいいからさ」

ほむら「あそこの鞄の中に(カチャッコロッ)。このグリーフシード鹿目さんに使って」スッ

タタタ…

さやか「まどかー、そんなに吸わなくていいぞー、普通でいいぞー」カチ フゥゥ…

まどか「ふはぁ、はぁ、はぁ、ふはぁ」

タタタ…

ほむら「紙ですけど」サッ

さやか「大丈夫、これでいい。まどかー、こん中で息しろー、大丈夫だぞー」ピト

まどか「……」スーハー、スーハー

――



杏子「なあおい」

さやか「ちょっと黙ってて。…約束は守るから」

杏子「……」

まどか「さやかちゃん…」

さやか「まどか、無理しないで帰りなよ。ほむらに送ってもらいな」

まどか「ううん」

さやか「……」

まどか「…わたし、何やって……。さやかちゃんに今まで助けられて…、

    それを負い目にばっかり感じて、けっきょく自分だけが可愛くて……」

さやか「それでほむらに協力を頼んだの?」チラ

ほむら「……」

まどか「…うん」

さやか「なるほど。相っ変わらずまどかはややこしいなあ。変に気にしすぎだよー」ポリポリ

まどか「ち、違うの、さっきまでそのことにも気づいてなくて、それでほ…」

さやか「前後関係なんてどうでもいいよ。誰だって自分が可愛いのは当然だけど、

    自分だけが可愛いってのはそりゃ言いすぎでしょ。あんた自分に対しても失礼だよ?

    自分だけが可愛いならわざわざあたしの先回りしてここに来るはずないじゃない」

まどか「でも…」

さやか「まあまずね、あんたの隣のお下げの子に、

    無茶をやらかすのに巻き込んだことを気づかってくれると、

    あたしの嫁としては嬉しいかなー、なんて思ったり……」タハハ…

まどか「……」チラ

ほむら「……」

さやか「い、いや、二人して沈んだ顔されるとさやかちゃんも困っちゃうよ…」

ほむら「(ノサ…)お気づかいなく。

     …わたしがセットした爆弾を人気がない場所にとっさに除けようとして、

     あなたの存在に気づかず鹿目さんはそれを投げたんです。

     冷静に考えればそもそも爆弾を使わずに切り抜けられた局面でした。すみません」

まどか「‥違う、ほむらちゃんのせいじゃない…」

さやか「二人とも、事情はだいたい分かってるよ。

    事故なんだし、あたしはピンピンしてんだからもう気にしないで」

まどか「さやかちゃん、本当に大丈夫なの……」

QB「彼女は鞘の力に守られてるからね。ダメージからの回復力は人一倍だ」

杏子「お前いつからいたんだ」

QB「たった今さ。マミにこの場所への案内を頼まれたんだ」

杏子「何?マミが……!?」ハッ

まど・ほむ・さや「え…?」

スタ スタ

マミ「……元気そうね。佐倉さん」

杏子「ああ。あんたもな」

スタ…

恭介「さやか……?」

さやか「(ハッ)恭介。あんた何でここに…」

恭介「帰り道に巴さんに頼まれて運ばれてきた。

   理由はこっちが聞きたいんだけど。ところで君、今日は休みって言ってなかった?」

さやか「そ、それは…」

マミ「理由は幾つかあるわ。まず、やはり一度は戦うのを止めておかなければと思って」

さやか「マミさん、それは昨日…」

マミ「あなたじゃない。佐倉さん、こちらの条件を呑んだほうが身のためよ」

杏子「へっ…。数に物を言わされちゃな……」

マミ「いいえ。わたしはあなたとの交渉は全て美樹さん一人に任せる。

   だいたい、あなたを倒すのにわたし達の助力はいらないのだし」

杏子「……どういう意味だ」

マミ「言葉のとおりよ。こうしてあなたを目の前にして確信したわ。

   美樹さんとまともに戦えば、あなたは必ず命を落とす」

ほむら「……!?」

杏子「ハッタリを…」

マミ「昔のよしみで忠告してるのよ。美樹さんの魔法少女としての力はわたしを遥かに上回る」

さやか「ちょっ、ちょっと、マミさん……」

マミ「隠さなくていい。あなた自身が感じているはずよ。キュゥべえでさえ、

   あなたにそこまで素質があるとは思わなかったと言っていたけど……」

さやか「……」

杏子「面白れー。確かめてやろうじゃねえか…」

マミ「……あなたは一年前よりずっと強くなってる。それを認めた上の話だと…」

杏子「くどいぜ、マミ」

マミ「(フゥ…)ここに来た理由の続きだけど。美樹さんに押っ取る刀を届けにね」ゴソ

さやか「あ、バット!」

マミ「あなた家に何しに来たの」

さやか「ごめん。うっかりしてた。でも…、せっかく届けにきてもらって悪いんだけど、

    今回はこの剣を使うわ」

マミ「…でも……」

さやか「…この剣を貸してくれた人には乱暴に扱って申し訳ない。

    でもあんたと戦う事情が変わった。‥よっこいしょ」スタ… 

杏子「何だよ、事情って」

まどか「さやかちゃん……」

コツ

まどか「いた」

さやか「この子。…まどか、ごめん。あたし、こいつと戦うよ。こんなことしてる間にも、

    この街の人が魔女や使い魔に襲われてるかもしれないから、さっさと決着をつける」

まどか「……」

さやか「でも約束する。この風見野の子もあたしも命を落としたり、

    一生治らないようなケガをしたりさせたりはしないよ。

    まどかなら分かるでしょ?」チラ

恭介(何がどうなってるんだこれ…)

まどか「……」コク…

杏子「ずいぶんと大風呂敷を広げてくれたじゃないか。…傷付かずに済ませるだと?

   ったくどいつもこいつも――」

さやか「…もう傷付いてるでしょ」ボソ

杏子「――え?」

さやか「ごめん、マミさんの言う通りだよ。正直、あたしが勝つ。

    マミさんにバットを直してもらったのは、あんたと全力で遊びたかっただけなんだよ。

    何も分かってなかった……!」

マミ「……」

杏子「遊びだと……。人をナメるのも大概にしろ……!!」

さやか「ああ。だから、全力で手加減する」

杏子「……なあ、マミ…。もう始めちまってもいいんだろ……?」ワナワナ…

マミ「……ここに来た最後の理由はね」フワァッ 

スタスタ…

マミ「上条くん、左手を」

恭介「?」スッ

トン

恭介「あ、このグリーフシードには…」

ギュゴゴゴゴ…ッ

杏・さや・ほむ・まど「!?」

~~魔女の結界~~


グルグル…

恭介「どわわっ、落ち…ないのか」フワフワ

さやか「こいつ、この前倒した…」

杏子「バ、バカな…っ。魔女の気配なんてこれっぽっちもなかったぞ!?

   マミ、お前いったい何を……」

マミ「暁美さん。あなた、そのソウルジェムはどうしたの。すごく濁ってるわよ」

ほむら「…」

マミ「グリーフシード持ってるでしょう?

   早く使えるときに使いなさい。あなたがここに何しに来たのか知らないけど、

   足元をおろそかにしてるようじゃ、ただの役立たずで終わるわよ」

ほむら「…鹿目さんが苦しんでる傍らで自分だけソウルジェムの魔力を回復するなんて……」

マミ「そんなの何の言い訳にもならない。

   誰かを助けたいならそれだけの余裕を持ってからにしなさい」

ほむら「‥はい…(カチ フゥゥ…)。あの、鹿目さんの治療をお願いします」

マミ「……」スーーッ…

まどか「あ、あの、わたしなんかよりさやかちゃん達を…」

マミ「あなたも同じことを言わせたいの?」

まどか「…」シュン

マミ「……」ポゥ…

まどか「……ありがとうございます」

杏子「おい、マミ! これはどういうつもりだ!?」

マミ「……あなた達が本気で戦うのなら、本来は人気のない山奥にでも場所を移すべきだわ。

   その手間を省いてあげただけ。魔女や使い魔はわたし達で抑えておくし、

   ――死体はちゃんとここに残していくから、心置きなく始めなさい」

まどか「――!!」

恭介(おいおい)

杏子「……ッ」

マミ「何か不満でも?

   あなたがそのつもりなら、今からでも美樹さんは話を聞いてくれると思うわよ。

   その可能性も考えてこの魔女を用意したんだから」

杏子「なっ……。魔女を用意しただと……?」

マミ「ちょっと前に町工場で集団自殺を起こさせようとした魔女……。

   そこを舞っている片羽の使い魔に捕まってごらんなさい。不器用なあなたに代わって、

   見せたくない過去や心情を周りのモニターが雄弁に語ってくれるわよ。

   話の通じない人が分かり合うのにはちょうどいい材料じゃないかしら」

杏子「て、てめぇ……」

さやか「マミさん、こんなことに恭介を……」

マミ「一応、上条くんの許可は取ったわよ」

さやか「でも、あたしが起こした面倒に引っ張りまわすなんて…」

マミ「分かってないのね。あなたが起こした面倒を解決するためじゃなくて、

   わたしに思惑があって上条くんを利用する必要があったの」

さやか「…! ひどい…、どんな思惑だよ……」

杏子「……」

恭介「いや別に僕は構わ」

さやか「あんたは黙ってて!!」

恭介「……」

さやか「……」

まどか「…マミさん、こんなやり方ないよ……、

    グリーフシードに眠ってた子を無理やり起こして、

    わたし達の都合で利用するなんて…」

マミ「あなたにそれを言う資格があるの?鹿目さん」

まどか「え…?」

マミ「あなたは最近、来るには来るけどわたし達にばかり戦わせてるわね。

   自分だけ魔力を消費したくないの?それとも魔女に怖気づいたの?」

まどか「……!」

さやか「マミさん、そんな……」

ほむら「か、鹿目さん。巴さんは…」

マミ(暁美さん、抑えて。反感を向ける相手を一人に絞らせたいの)

ほむら「…!」

まどか「ほむらちゃん…?」

ほむら「……」

パタパタ パタパタ…

まどか「ほ、ほむらちゃん、危な――」

パゥッ! パゥッ!

バラバラッ……

まどか「あ……」

マミ「……いつまでも戦えないようじゃ、困るわよ」スッ

パゥッ パゥッ…

まどか「……」

ほむら「……」

恭介「走っても走っても前に進めない夢みたいな」バタバタ

杏子「……関係なさそうなやつがまた来てるな」

さやか「風見野の使い魔、あたしに狩らせてよ」

杏子「……いいとも、どうせならここでケリをつけようじゃないか。

   マミがせっかく用意してくれた場所を使わないのは勿体ないだろ?」

さやか「先輩想いじゃん」ニッ

杏子「(ニッ)…行くぜ」

さやか「おう」グッ

恭介「ちょっと待った!さやか、話がある。というか君が話してくれ、どうなってんだこれ?」

さやか「空気読めよ!一から十まで話してる場合じゃないっての!」

恭介「知るか!一から十まで話してくれ!」シャカシャカ

さやか「……」チラ

杏子「傍でわめきながら空中水泳されても目障りだ」クィッ

さやか「(ペコ)」スーッ

……

恭介「何てことだ‥、僕は肝心な時に寝てたのか……!」ガーン

さやか「身もフタもないことを言いなさんな」

恭介「でもそういうことなら話は簡単だ。僕が――」

ボスッ

恭介「ぐぷ」ユラ

さやか「!」

マミ「(チャッ)魔女や使い魔からはわたしが守っておくから」グィッ スーーッ

恭介「……」フヨフヨ~

さやか「……(コク)」クルッ

杏子「…もういいのかい」

さやか「ああ」

チキッ…  …ス

杏子(鞘に触れな―?)

さやか「うおおー!」バシュッ

杏子「ッッ」バシュ

ドスッ

さやか「ガハッ」ボトボト

杏子「なっ!?」

まどか・ほむら「!!!」

杏子「…どういうつもりだ」

さやか「‥これは…、まどか、の分だ……」ボソ

杏子「…まどか……?あいつか」チラ

まどか「ぁああ……」ブルブル…

さやか「ワガママやってるあたしを止めようとして……、勝手に一人で思い詰めて…、

    ほむらまで巻き込んであたしとあんたを戦わせないように、って‥、

    あたし…、あたしには、そんな馬鹿な子の涙を拭う資格なんてないんだ……!」ボソ

杏子「…揃いも揃って……!!」ズッ ドボボ…

ザクッ

さやか「ッッッ」ギリリ

まどか「…ぁ…ぁ………」ガタガタ

ほむら「み、美樹さん…!」

杏子「アンタ達の友情劇の片棒を担がされるのはうんざりなんだけどな。

   それで気が済むってんなら付き合ってやるよ」ズッ ドス

ザクッ ドッ… ガッ…

さやか「…へ…っっ。へ…、悪いね…えっっ…」ボソ

杏子(こいつ……!)ガシュ 

まどか「やめて……!!おねがい……!」ブルブル…

ガシ

杏子「!…ギブか」

さやか「…ビジュアルの問題で」

杏子「知ったことかよ」グッ

ググ…

杏子(…!? こいつ、血まみれの…、しかも片手で!?)ゾク

杏子「くっ」バッ スーーーッ

さやか「……」

杏子(もう傷口が塞がってやがる……)

さやか「…いざ尋常に」

杏子「…待ちくたびれたぜ」チキッ…

さやか「……大丈夫だと思うけど、いちおう言っておくよ。

    今からはゼッタイ本気出してね。頼むから」ス

杏子「へっ…、お前が言うな」

ヒュオ

ゴッ!!! 

ギャギャギャギャギャッッッ…!!!

杏子「…ッぐ」

ギッギキ

杏子「ぁ…あああああああっっ!!??」バヒュンッッ クルルルルル

まどか「!!」

ほむら「なっ…!?」

さやか「………っ」

クルクルクル…ッ  バッッ

杏子「っはぁはぁ……」

さやか「……(ホッ)」

杏子(…何だ今のは!?あたしの相手は貨物船か?エア・プレーンか!?

   受け切らなくて正解だった…、体中の関節が悲鳴を上げてやがる!)チラ

…パゥ  パゥ

杏子「マミのやつ、すっとぼけやがって……!

  (あのまま路地で戦って、今吹っ飛ばされた先がビルの壁だったら終わってたな。

   何が山奥で、だ。こうなることを見越して浮遊空間の結界で戦わせたのか?)」

さやか「……」ス

杏子(抜いてない…!?)

ヒュオ

杏子「!!」

バギンッ!!

杏子「ぐっ…!(重」ミシミシ
ュン
ガゴオッ

杏子(冗談じゃねえ……!鞘ごと振り回すとかこいつ何考えてんだよ!?)ギシギシ

杏子「このっ!」ビュッ

さやか「っ」ツッ

杏子(紙一重で避けられた、来る!)

さやか「はっ!!」バギィッ…

杏子「!?」

ピシ…

杏子「(ハッ)(槍が!)」バッ ヒューーッ

さやか「……」クル…

杏子「……」キィィン… シュゥゥ…

さやか「…」

杏子「…どういうつもりだ」シュゥゥ…

さやか「あんたに勝つつもり」

杏子「ならなぜ今攻撃しない?」ゥゥ…

さやか「……」

杏子「ふざけるなっ!」バシュッ

さやか「…!」グッ

バララッ ブゥン

さやか(多節棍!?)グルグルッ 

さやか「くっ…」ビシ グッ グッ…

杏子「もらった!!」ジャララッ パシッ

まどか「さやかちゃん!」

パタパタ…

ほむら「まずいっ。両腕を封じられたわ!」カチャ パシ

杏子「終わりだよ!」ギュン

ガニッ…

杏子「なっ!?」

ほむら「足で白刃取り!?何て身体能力なの!?」ポーン ドカーン

さやか「すごいなーこれ、忍者の短刀みたいじゃん」

杏子「このっ。汚ねえ足であたしの槍に触るな!」ギリギリ…

さやか「ぬはは、このさやかちゃんの鉄の鋏…、おぬしに破れるかな?」

まどか「さやかちゃん」

さやか「くっ…!やばい…!?」ジリジリ…

杏子「負けを認めるなら今だぜ……!」グググッ…

さやか「(ニコッ)なーんてね」

杏子「!?」

グイッ ゴン!

ほむら「挟んだまま押し下げた!!その反動で頭突きを食らわせたわ!」

杏子「が…」フラッ…

さやか「この隙に体を回転させて鎖の束縛を解く!」ガッ

杏子「さ、させるか…」グッ

さやか「うおりゃーーっ!」グルルーン

杏子「!?」グイッ

まどか「さやかちゃん、回る方向が逆だよ!?」

杏子「うぐ!うわああああっ!」ブンブン ピューン…

さやか「(ピタ)あれ、槍が元の形に戻ってる」パシ

ピュー  クル

杏子「くそっ……!」

さやか「ほい」ヒュン

杏子「…!」ルル パシッ

ほむら(え!?)

杏子「…なぜ返した」ユラ キュ…

さやか「えっ。………武器を持たない相手とは戦わない主義なんだよ」

ほむら(友達に忘れ物を投げ渡すみたいな気軽さだったけど)

杏子「(チッ)」バシュッ

ギィン

杏子「……何を考えてやがる」

さやか「……」

杏子「ハッ。いいさ。言わなきゃ確かめるまでのことだからね」

ガン ギン

さやか「たっ!」ブン

ドコオッ メキキッ…

杏子「ぐぎゃあああっ」

マミ・まどか・ほむら「!!」

さやか「そ、そんな……」

杏子「なんて面してんのさ」

さやか・ほむ・まど「え?」

マミ「!」

ガンッ

さやか「イテッ! 槍で叩くな!」

杏子「今、心臓刺せただろうが。これで借りは返したぜ」ニヤリ

さやか「ぬう。ほんとに忍者かよ。おっどろいたー」シャッ

杏子「あたしもな。けど忍術じゃねえ。幻惑の魔法とか言うらしいぜ」クルリ

さやか「どっちでも厄介なことには変わんないよ」ブン

ギィンッ

杏子「その心配はいらないよ。(ボソ)あたしだってあいつの見てる前ではもう使いたくねえ」

さやか「?」

パウッ パウッ

恭介「……んへっ? (ハッ)さ、さやか…!イテテ…ッ」サスサス

マミ「上条くん。手荒な真似して悪かったけど、

   幻想御手によって使い魔からグリーフシードを得られることを、

   このタイミングで持ち出すと却ってややこしくなるの。あの二人に任せて」ジャキッ

恭介「幻想御手?」

マミ「(クル)ごめんなさい……、意識を失わせたのが悪かったのかしら……。

   あなたの左手に宿った力のことなんだけど……」

恭介「あ、はい、いや、大丈夫です。思い出しました。

   ……確かに不用意に出しゃばりすぎた。

   却ってグリーフシードに関する火種を増やしてしまって、

   巴さんの心配していたとおりになってしまったかもしれないな」

マミ「……今回に限っては別の事情もある。

   わたしは、出来るなら風見野の佐倉さんに仲間に加わってほしい。

   美樹さんはその導入役ができると思って静観しているの」クルッパウッ

恭介「…! さやかを利用するつもりですか」

マミ「…ええ」

恭介「さやかにはそのことを……」

マミ「(クル…)はっきりとは伝えてない。

   でもあなたのことを利用するとは言ったわ」

恭介「分からないなあ…」カキカキ

マミ「それでもわたしには…」

恭介「いえ、そうじゃなくてですね……、

   それならそうとさやかに伝えれば済む話じゃないですか」

マミ「え?」

パシン ギュオオ…

恭介「ととっ、(ヒョイ)地面の上じゃないとやりづらいな……。

   あ、あの子の前でやらないほうがいいんでしたっけ!」クルッ

ガィンッ ギィンッ…

恭介「…よかった、気づいてないみたいだ……。使ってください」ポーン

マミ「(パシ)…伝えて済む話じゃないでしょう」カチ フゥゥ…

恭介「…あいつならそれくらい、喜んで引き受けると思いますよ。

   まあよっぽど間違えた頼まれごとなら断るでしょうけど。

   それでも巴さんの役に立ちたいと思ってるはずです。

   知り合って日は浅いけどさやかは巴さんを好いてるから」

マミ「……」

恭介「あ、でもあいつは、巴さんが佐倉さんって子に仲間になってほしいと思ってること、

   そのままに佐倉さんに伝えてしまうかもしれないな。
  
   ま、そこは言い含めておけばいいことですし……」

ジャキッ パウッ  バラバラ……

マミ「あなたに言われて、自分が間違えたってことに気付いたわ」

恭介「なら今からでもテレパシーで…」

マミ「わたしが間違えてたのは、美樹さんにあなたを利用したと伝えたこと。

   自分を悪く見せようとするあまり、

   徹頭徹尾かくしておくべきことを一端でも美樹さんに見せてしまった。

   これは自分を良く見せようとしてることの裏返しかもしれない。

   佐倉さんにも、あなたに何らかの力があると示唆したようなものだわ。

   これで使い魔からグリーフシードを得られると悟られることはないと思うけど、

   だとしてもうかつだった」

恭介「さやか以上に意固地な人を初めて見ましたよ。

   自分であいつを止められない僕が言うのも何なんですけどね……」

マミ「わたしの事情についてはここまででいいかしら。

   あなたは美樹さんの事情に気づいてる?」

恭介「ほら、そこだ」

マミ「え?」

恭介「分かってます。

   さやかが、僕がヴァイオリンになるべく集中できるように気遣ってるってことは。

   でもさやかを利用しようというあなたにとっては、

   さやかが幻想御手のことを黙ってくれてるだけで十分なはずだ。

   わざわざ僕に代弁する必要はない事柄です」

ジャジャキッ パパパウッッ!!

マミ「…それをあなたに伝えることであなたの動きを封じられる」

恭介「悪意をもってすれば幾らでもそういう解釈はできます。

   でも、違いますね。あなたはさやかと僕が似ていることを知っている。

   さやかが、自分の願いを叶えた結果を僕に背負わせてしまおうというくらい、

   思い込みが激しくて向こう見ずなことも知っている。

   そんなあなたなら、さやかの気遣いを僕に伝えたところで、

   何のつっぱりにもならないことくらい分かってるはずでしょう」

マミ「あなたは、人の言動を極端に善意をもって解釈するきらいがあるわね。

   素直さは度を越すとただの愚に過ぎないわ」ジャキッ

恭介「一見、善人に見えた人が少し利己的に動いただけで、

   自分の第一印象を全否定するのも同じくらい愚かだと思いますけど」

マミ「……」

恭介「…何だかんだ言いましたけど、結局さやかが好き勝手やってるだけなんですが。

   それも隣町の人たちが使い魔に食われるのを知っていて放っておけない、という理由で。

   それを見過ごすのは己の存在に関わるんだと思い込んでるみたいなんです。

   …当初はそれで自分が友達にも見捨てられて一人になっても、という覚悟でいた。

   けどそれは色んな意味で甘くて、間に入ろうとした鹿目さんが怪我をしてしまった。

   これはもう、さやかの正義観が崩れ去るような決定的な事態だったと思います。

   と同時にじゃあ自分の希望と鹿目さんの想いを両立することはできないか、

   という至極当たり前な考え方にさやかを引き戻した。

   それを探すことだけが救いというかそれしかないんでしょうね、今のあいつには」

マミ「…今はあなたが長々と話すのを聞いてる場合じゃない」パウッ

恭介「そうでしたね。…しゃべってないと辛いですよ、今何もできないから」

マミ「…誰でも、祈ることならできるわ。誰もが幸せであるようにと。

   それにあなたは、美樹さんを信じて見守ることも」ジャキッ

恭介「……」

ギィンッ ガァンッ

杏子(くっ…、握力が……)

さやか「はぁッ!」ブン

ツル

杏子「しまっ…」

さやか「!!」ググ゙ッ

マミ(止めるな!!)

さやか「え!?」

ドボォッ

杏子「ぐぅっ…ッ!」

さやか「……っ」

まどか「…っ!」

クルッ

さやか「なんで、なんでマミさん……、」

シャッ

さやか「(ハッ)っっ」バッ

杏子「よそ見してんじゃねえ……!あんたの相手はアタシだろうが」ハァ ハァ

さやか「……。もうこんなのやめよう?」タラ… ポタ

杏子「(スゥ)…ッッ!!」

ブォン

さやか「っ」クル

シャシャシャ

さやか「……」サササ

ガシッ

ほむら(多段突きの最中に片手で掴まえた…)

杏子「……!」ググ…ッ

さやか「ねえ、あんただって―」

杏子「…」パ 

さやか「!?」

バシュ ドカッ

さやか「ごぶっ…」

バキィッ

さやか「ぐ…」ユル…

杏子「…」パシッ グ

まどか「!!」

シャッ!!

ヒュッ――  ピタ

さやか「(ペッ)……なぜ戦うのをやめないの?幾らあたしを叩いたってムダだよ?

    反対にあんたはすぐに回復しないし、フェアじゃないけど決まってるじゃん、もう…」

杏子「……あんたが、間違ってるからだ」

さやか「は?」

杏子「マミの言ったとおり、あんたは確かに強い。

   だからこそ、大きな力で人々を助けるほどに、その分だけ誰かが不幸になる。

   そんな危うい奴を野放しにできるか……っ!」

さやか「…よく分かんないけど、そればっかりとは限らないんじゃない?

    この力は、使い方次第で、いくらでも―」

杏子「その結果を背負うことになるのはアンタ自身なんだぞ!?

   どんなに腕を振るっても、希望を祈っても、

   世の中はそれ自体が、バランスを保てるように、

   起こした変化を、形を変えてでも等分に揺り戻す力を持ってるんだ。

   あんたが人のためにとった行動も結局は絶望を撒き散らすことにしか繋がらない!」

さやか「自分のことだけ考えて生きてるはずのあんたが、なんでそんな心配してんの」

杏子「あんたはかつてのあたしと同じ間違いをしてる。

   あたしみたいに積極的に正しいと思い込んでしてるわけでないにしても、

   たとえ自分のエゴで動いてるんだとわきまえ、

   その結果どんな目に遭っても自業自得だと覚悟していたとしても、

   人を救うための行動が逆に人を滅ぼしたとき、あんたはきっとあたしと同じ後悔をする。

   そうなると分かってて見過ごせないだろうが……!」

さやか「抽象的でよく分かんないよ。もっと具体的に話してくれる?」

杏子「長い話になる。今はそんな場合じゃねえだろ」

さやか「時間がもったいなくても周りをよく見て状況整理してから、て学んだばっかりでね。

    聞いたところであたしの考えが変わるとも思わないけど、

    片方が話があるってのに聞かずにしばき合うのもおかしいでしょ」

杏子「……あたしも前は人助けに燃えてるときがあったんだよ。

   あたしの親父に習ってさ。…親父は、この風見野にある教会の牧師をしていた。

   正直すぎて、優しすぎる人だった。

   教義にないことまで説教するほどにな。

   新しい時代を救うには、新しい信仰が必要だって、それが親父の言い分だった。

   勿論、信者の足はぱったり途絶えたよ。本部からも破門された」

さやか「そりゃ当然だわ。はたから見れば胡散臭い新興宗教だもん」

杏子「…あんたの言うみたいに、誰も親父の話を聞こうとしなかった。

   どんなに正しいことを、当たり前のことを話そうとしても、

   世間じゃただの鼻つまみものさ。

   あたし達は一家揃って、食うモノにも事欠く有様だった」

さやか「その新しい教えを広めようとしたのが間違いだった、て言うの?」

杏子「そんなわけがあるか!親父は間違ったことなんて言ってなかった。

   ただ、人と違うことを話しただけだ」

さやか「……」

杏子「5分でいい、ちゃんと耳を傾けてくれれば、正しいことを言ってるって、

   誰にでも分かったはずなんだ。

   ……なのに誰も白い目で見るばかりで、真面目に取り合ってくれなかった。

   それが悔しくて、キュゥべえに頼んだんだよ。

   ……みんなが親父の話を、真面目に聞いてくれますように、って」

さやか「……それが、人のために祈ったことが、間違いだったと」

杏子「ああ。願い叶って、翌朝から親父の話を聞かせてくれと人が押し掛けてさ。

   毎日おっかなくなるほどの勢いで信者は増えてった。

   お袋も、親父が人の幸せを願って教えを広め回ったのが通じたんだと喜んでたし、

   親父は、働きにでて家計を支えてたお袋に感謝してた。

   妹もあたしも腹いっぱい食えるようになった……」

マミ「…」パゥッ

さやか「全然いいじゃん。その代わりにあんたが魔女と戦わなきゃいけなくなったにしても」

杏子「むしろ、あたしはバカみたい意気込んでたさ。

   いくら親父の説教が正しくたって、それで魔女が退治できるわけじゃない。

   だからそこはあたしの出番だって。

   あたしと親父で、表と裏から、この世界を救うんだって……」

さやか「そういう考え方はキライじゃないけど、

    父親に、信者が説教を聞いてくれるようになったのは自分のおかげだって伝えたの?」

杏子「話す必要なんかないだろ!?そうしなくても、みんな幸せだったんだから……!」

さやか「そう。まあ、親子だから複雑なのかもね」

杏子「……伝えたところで結果は同じだったと思うしな」

さやか「…どういうこと?」

杏子「あるとき、カラクリが親父にばれた」

さやか「……」

杏子「大勢の信者が、ただ信仰のためじゃなく、魔法の力で集まってきたんだってことがね。

   親父はあたしが何をどれほど語りかけても、返事してくれなくなったよ。

   酒を浴びるように飲んで一人で思い詰めて母さんと妹を道連れに無理心中しちまった」

ほむ・まど「……!!」

さやか「……」

杏子「あたしの祈りが、家族を―」

さやか「なんでそうなっちゃうのよ?

    そりゃ黙って勝手に魔法少女になったのは怒るだろうけど、

    それが思い詰める、ってのにどうやったら繋がんの?」

恭介(ハァ…)

杏子「あたしが、悪魔と契約しちまったんだと思い込んだんだよ。

   ま、こんな格好で槍を携えてるのを見たんだ。

   人々を教え導きたいと願っていたのに、自分は悪魔に踊らされていただけなんだ、てな。

   バレた時、おまえのせいでこんなに信者が集まったのか、人の心を惑わす魔女だ、

   って罵る位ブチ切れてたよ」フッ…

さやか「……よく分かった」

杏子「…なら、あんたも―」

さやか「分からない!!」

杏子「どっちだよ!?」

さやか「あんたがあたしに、同じ間違いをしないように言ってくれてんのは分かる。

    でも肝心のあんたの話が分からない。

    あたしの父さんは白髪も出てきたし、

    パンツは漂白してうんこの染みを取らないといけないときもしょっちゅうある。

    あたしの小さいころ会社の上司のやり方に反発して、

    辞表もっていってけんかしようとしたけど、

    母さんが3日口を聞かなかったからそうしないで、

    今でも黙々と同じ会社に勤めてる。自分一人なら転職してたかもしれない。

    でも母さんやあたしのために働いてるんだ。あんたはそれを間違いだと言うの?」

杏子「……」

さやか「あんたのようにキュゥべえを介して起こした奇跡でなくても、

    あたしの父さんも口にしなくても絶望することもあったのかもね。

    えっと、でもあんたの言いたいのって、

    普通起こらないことをキュゥべえに叶えてもらうから、バランスが狂うって話だよね。

    でも会社とか国がやることって大体そうじゃない?

    ある立場の人にとっては役立つことでも、別の立場の人は苦しんだり、

    どっかでバランス狂って、それがニュースになって、問題だってなるじゃん」

杏子「……それでも、どんなに腐ってても、奇跡によるものでなければ、それは条理の内さ。

   どんな苦しみであっても、奇跡の招く災厄に比べればよほどマシだよ」

さやか「あたしが風見野の使い魔を狩るのは奇跡じゃない。

    魔女や使い魔も、人々も、あたしも条理のうちだ」

杏子「そんな単純なモンじゃないよ……」

さやか「百歩譲ってそれも間違いだとしても、

    使い魔をほっとけばあたしの周りの人間が犠牲になるかもしれないんだよ。

    それこそ見過ごせない。

    世の中の全てが間違いでないからと言って、

    どうしてあたしが全て正しくないといけない道理がある!

    あたしは何もかも許せないよ……、

    あんたの父親の教えが何だったのか分からない。

    色眼鏡なしに話を聞いてあたしが共感できるような信仰なのかは分からない。

    でも新聞の社会面を読めば苦しい、ひどい目にあってる人はたくさんいるって分かる。

    この世に生まれてきたこと以外に落ち度なんてない人だっているかもしれない。

    あんたの父親がそんな人々まで救われることを願って、

    世の中すべての人々の幸せを願って、教えを説いて回っていたんだとしたら、

    間違ってるのは、端っから胡散臭い目で見てるあたし達の側だ……!(ジワジワ…)

    あんたの家族を食うや食わずやの状態に置いた父親にも疑問をもつけど、

    それでも、弱く思いやりのある人間にばかりタダシイ道理を強いて、

    強く無神経な人間ばかりがのさばってる世間のほうがぶっち切りにおかしいよ」

ジワジワ ゴボ…

マミ(美樹さんのソウルジェムが……!?)

さやか「あんたの父親だっておかしい。

    最初からあんたを魔女だと決めつけて、話を聞こうともしない。

    たとえあんたが勝手に自分の願いを叶えたのにしても、悪魔と契約したのだとしても、

    父親なら魔女になってしまった娘を救おうとするべきだ。

    なぜそんなことを娘がしたのか理解しようとするべきだ。

    まず娘を、自分の説く教えを信じるべきだ。

    それを事もあろうに全て投げ出した上、あんたの母親や妹まで巻き込んで死ぬなんて、

    最っ初から最後までただのダメ親父、いやダメ親父以下じゃないか!!」

杏子「親父のことを悪く言うなっ!!親父はおかしくなってバカなことをしたけど――」

さやか「あんたもそうだ。これだけおかしい連中が周りにいるのにそれを責めもしない。

    ぜんぶ自分のせいでした、って勝手に背負って、

    自分の目指した理想だけはちゃっかり捨てちゃって正しい道理に従ってるだけじゃん。

    本当に救いたいと思う世の中なら、自分は破綻していてもやると決めたことを、

    ただ強くやり続ければいいじゃないか!

    正しいからやるんじゃない、正しいと信じたからやるんだ。

    今からでもそれを選べるんだよ?もう一度だけの奇跡を起こしてる、

    だから奇跡が起こす絶望だかバランスとかはもう心配しなくていいんだから!」ゴボ

恭介(言ってることがむちゃくちゃだ……)

杏子「どうしてそこまで意地を張んだよ!?」

さやか「意地を張ってんのはアンタの方だ!このいい子ちゃんのファザコン娘!!」ゴボゴボ

杏子「なに!?どっちが…」

さやか「もういい。(スッ…)この一撃であたしはあんたを押し退けて使い魔を狩りにいく。

    あたしの間違い、正せるものなら正してみろ!!」ゴボボ… ピキ  バシュッ

杏子「この分からず屋ーーッ!!!」バシュッ

ズドオオオオンッ……!!

マミ・まど・ほむ・恭「………!!」

さやか「がふっ……っ」ボタボタ

恭介「……ッ」

杏子「ぐっ……」

シーン… フワ フワ…

まどか「さやかちゃん……?」

パタパタ パタパタ…

ほむら「使い魔が!」

パゥパゥッ! バラバラ…

マミ「(グィッ)暁美さん、来て!」バシュッ

恭介「っと」ギュン

ほむら「は、はい!(バタバタ…)鹿目さん、わたし上手く動けないの!

    二人のとこまで連れてって!」

まどか「うん!」フワァッ パシ

スーーッ

マミ「……」ポゥ…

杏子「…うっ……」ピク

ほむら「二人の様子は?」

マミ「ケガの心配は二人ともいらない。それより美樹さんのソウルジェムを回復してあげて」

ほむら「はい」

パタパタ…

ジャキッ パゥッ バラバラ…

マミ「気を抜かないで。ここからよ」クル 

ほむら「……濁ってません」

マミ「…え?」

ほむら「美樹さんのソウルジェムは澄み切ってます。全然穢れが溜まってないわ。

    あれだけ激しく戦った後なのに……?」

マミ「見せて(パシ)……!?」

パタパタ…

恭介「っ」パシ ギュオオ… ヒョイ

まどか「マミさん!」

マミ「なに?」

まどか「この子のソウルジェムも……。いいでしょう?」

マミ「……そうね。グリーフシード持ってる?」

ほむら「わたしがやります。……鹿目さん、いいの?」

まどか「ごめん、わたしグリーフシード持ってなくて……」

ほむら「上条くんが手に入れてくれたのは、みんなが持ち切れない分をわたしが預かって、

    みんなの必要に応じて分け合うって決めたんだから気にしなくていいよ。

    そういう意味じゃなくて、この子は鹿目さんにケガさせたんだよ?」

まどか「……ごめん。お願い……」

ほむら「……」カチ フゥゥ…

マミ(……佐倉さんはそうとう消耗してるわ。

   美樹さんも衝突する寸前、急激に黒く濁るのが見えた。

   二人は衝突と同時に意識を失って…、暁美さんが見るまで回復の機会はなかったはず。

   グリーフシードを使わずにソウルジェムを浄化する方法なんてあるの?

   いえ、まさか……。

   溜め込んだ穢れを、燃焼させて魔力へと変えた……?だとしたら、まるで……)

ほむら「完了しました」

マミ「…(コク)」

まどか「でも二人とも気を失ってるよ。早く出ないと……」

マミ「……鹿目さん。その前にやることがあるでしょう」

まどか「…」

ほむら「……!」

マミ「あなたが魔女を倒して。

   自分だけ楽をしたいとか怖じ気づいたのでなければ証明しなさい」

まどか「……はい」スッ…

キリキリ…

まどか「…………」

マミ「どうしたの?早く」

まどか「……っ」ピク ピク

ポーン ドカーン! 

まどか「…!」

ギュオオオ……

~~裏路地~~


カツン 

スタスタ… ソッ

ほむら「……」

マミ「……暁美さん」

ほむら「ちゃんと起動するかテストしたかったので」

マミ「場合を考えて」

ほむら「すみません」ペコ

マミ「……ここに二人を寝かせておくわけにもいかない。(スタスタ…)

   佐倉さんはわたしが部屋まで運ぶわ。あなたたちも美樹さんを連れてきてくれる?」

ほむら「わかりました」

マミ「(グッ ユサ)じゃあ、また後で」フゥ…

恭介「テレポーテーション!?」

マミ「まだいるわよ。空を飛んでいくのに姿が見えるとまずいでしょう?」

恭介「あ、確かに……。さっきも周りからは見えてなかったのか……」

マミ「さっきはわたしたちの周りをリボンで囲んで見えないようにしてたわ。

   町じゅうの人の姿が見えなくなったりしたら大変だから」

恭介「ああ、これか。自分で効果のコントロールができないものかなあ」

マミ「それはわたしからも望むわ。

   魔力であなたの体にまで浮力を伝えられたら、

   ひっつかむようなことをせずもっと丁重に運べたんだけど」

恭介「でも空から町を眺めるなんてなかなかできないからよかったです」

マミ「(クス)……上条くん。美樹さんをお願いね」

バッ ヒュオオ…

恭介「……」

ほむら「あの、上条くん。これの強化をお願いできますか」

恭介「あ、うん」スッ

トン コオオ……

恭介「君たち、大変だね」コオオ…

ほむら「慣れてますから」

QB「もう取ったほうがいいよ」

ほむら「(スッ)…これが魔力だけで満たされたグリーフシード……、玲瓏というのかしら」ジッ

恭介「あと、(ゴソ)これ、さっきの使い魔の」スッ

ほむら「ありがとう。もらうね」ソッ

カチャ スッ…

ほむら(巴さん。わざとわたしに魔女を倒させたの……?)

まどか「ほむらちゃん。わたし……」

ほむら「……」

恭介「…先にさやかをおぶって、巴さんの家まで行ってるよ」スタスタ

ほむら「上条くん、巴さんに衝かれたところ大丈夫?」

恭介「ああ、平気平気。かえって目が覚めたよ。(グッ)よっこいしょ…(ユサ)」

ほむら「駅はこっちのほうだったよ」

恭介「そうか。うーん、線路沿いに歩いていくよ」スタ スタ

ほむら「そう」

スタ スタ…

まどか「ほむらちゃん…、ごめん…。わたし、自分のことしか見えてなくて、

    ほむらちゃんがお願いを聞いてくれてここまで運んでくれたのに、

    わたしが死んだらほむらちゃんが責任感じちゃうのに……」

ほむら「……」

まどか「でもわたし、最初から死のうなんて決めてたんじゃないの。

    どうしてもさやかちゃんとあの子を止めたくて必死で…、

    いや、これも言い訳だよね……、でもほむらちゃんを騙そうなんて、

    それだけは思ってなくて、これだけは本当なの。

    ……でも、ほむらちゃんにとっては同じだ―」

ほむら「鹿目さん、わたしね。騙したとか責任とかそんなことより、

    ただあなたに無事でいてほしいの、あなただけは……。

    鹿目さんはわたしが魔女に魅入られて死のうかと迷ったとき、

    巴さんと一緒に来てわたしを助けてくれたじゃない……!」

まどか「え……?」

ほむら「(ハッ)あっ、えっと…、ま、魔女に立ち向かうのに、鹿目さんや巴さんは、

    わたしにとっていつも支えになってくれてるの。いてくれるだけで勇気が出てくるの。

    人に迷惑を掛けて役に立てない辛さは、わたしもあるから分かるよ。

    でもあなたの笑顔を楽しみにしている人があなたの周りにはたくさんいるじゃない。

    鹿目さんが負い目に感じることさえ、いとわずに許してくれる人たちが。

    それだけあなたは大切な人なんだから。    

    あなたが生きて、周りの人たちと幸せになってくれることが、

    それ自体が意味があることなんだから……、だから、もう絶対、

    自分を粗末にするようなことはしないで」

まどか「う、うん…。分かったよ。あんな勝手なことはしないよ。ごめんなさい…」

ほむら「あ…、謝ることないよ。わたしが鹿目さんに無事でいてほしいのと、

    鹿目さんが美樹さんに無事でいてほしいのとたぶん同じで、

    責める資格なんてわたしにはない。ただ、さっきは言わずにいられなくて…」

まどか「でも謝らなきゃ。わたしはほむらちゃんに心配かけたんだもの」

ほむら「(ニコ)もう気にしないで。さあ、巴さんの所へ行こう」

まどか「(コク)うん。今度こそわたしがほむらちゃんを運ぶよ」スタスタ

ほむら「でも鹿目さん、ケガを…」スタスタ

まどか「(クルッ)マミさんに治してもらったから、ほら、制服まで元通りだよ!

     わたしが保健委員なんだから、ほんとはこうしなきゃ!」スタスタ ガチャッ…

ほむら「わたしも、そう心配するほどでもないよ」

まどか「いいのいいの。あ、そういえば上条くん、マミさんち知らないよね」

ほむら「そうですね。わたしと鹿目さんが自転車で来てるから帰り道で追いついてくれる、

     そう考えて先に行ったんでしょうね」

まどか「そうかあ。気を遣わせちゃったね。ほむらちゃん、乗って」

ほむら「はい。じゃあお願いします」カタ…

――――
―――
――


~~マミの部屋~~


杏子「うーん……(ハッ)」ガバッ

まどか「気がついた。痛いところない?」

杏子「(ジッ…クル)……マミの部屋か。マミは?あんた達だけか」

ほむら「巴さんならいつもの見回りに出ています。あなた達をわたしと鹿目さんに任せて」

杏子「そうか」ギシ

ほむら「どちらへ?鹿目さんをあんな目に遭わせておいて、

    ただで帰れると思ってるんですか?」

まどか「ほむらちゃん……」タハハ

杏子「逃げたりしねーよ。のどが渇いたから水を飲みにいこうとしただけさ」

まどか「あ、そうだ。(スクッ)

    マミさんからはあなたを引き留めておいてとは言われてないけど、

    あなたやさやかちゃんの目が覚めたらお茶とお菓子を振る舞うよう言い付かってるの」

杏子「さやかちゃん……?(クル)のわぁっ!?」ビクッ

ほむら「そんなのけぞってまで驚くこともないでしょうに」

さやか「…ん……んん……」モゾ…

まどか「てひひ」スタスタ…  カチャ …パタン

杏子「いや、いやいやなんでこいつとあたしと隣どうしで寝てたんだよ!?」

ほむら「そりゃあ、どちらが先に目覚めても、

    すぐにお茶をご馳走するのに都合がいいからじゃないですか。

    あ、あらかじめ言っておきますが、お茶を飲みお菓子を食べ元気が出たからって、

    とつぜん窓をぶち破って脱走したりしないで下さいね」

杏子「そんなことしたら後が怖ええよ。あたしが言いたいのは、

   さっきまで刃を交えていた者たちを同じベッドに並べて寝かせてる神経についてだよ」

ほむら「心配ないでしょう。巴さんは快く二人に貸してくれましたし、

    あなたは、もも~、とか言いながら美樹さんに抱きついたりしてるんだから」

杏子「(クル)なっ…!美樹さんって、あたしがこいつにか!?くぅ~~っ!」ジタバタ

ほむら「ですから心配いりません。美樹さんも、

    鹿目さんの名前を呼びながらあなたを抱き返したので即座に引き離しましたから」

杏子「んおお~~…っ!」

カチャ…

まどか「(ヒソ)用意できたから、こっちに来れる?」

・・・
・・


まどか「マミさんほど美味しいお茶ではないと思うけど。(コポポ…)どうぞ」カチャ…

杏子「あんた達は?食わねーのか」

まどか「わたし達はマミさんが戻るまで待ってる。気にしないで上がってて」ニコ

杏子「……」

ほむら「鹿目さんが口をつけた物でないと安心できませんか?」

杏子「(チラ)毒を盛るとか心配はしてないさ。でも、あたしはあんたを痛めつけて、

   あまっさえ殺そうとしたんだぞ?どうして笑顔でお茶をご馳走できるんだよ」

ほむら「……」

まどか「わたしはあなたとさやかちゃんのケンカに割って入ったんだもの。

    それにあなたもきっと、わたしのために間違えてくれたんだって思うから」

杏子「間違える?あたしはスジを通そうとしてただけだぞ。

   よしてくれ、なんか感謝したそうな顔されると気持ち悪いよ」

まどか「ううん。だってその気なら、言う前にわたしの命を奪えたでしょう?」

杏子「(チッ)……あんたは?なぜ気を失ってる間にあたしの息の根を止めなかった?」

ほむら「そう物騒なことばかり言わないで。

    あなたが目を覚まして、改めて害意があるかどうか確かめてからでも遅くはないわ」

杏子(こいつがあんた達の守りたいものか)

ほむら「‥どうなの?まだあなたは鹿目さんを傷つけるつもりがあるの?」

杏子「無い。勝負はついたさ。あのさやかってやつの勝ちだよ。

   今後、あんたたちが何をしようと、あたしは手出ししないしそいつを傷つけもしない」

ほむら「ならわたしがあなたに敵意を向ける理由もないわ。

    鹿目さんがあなたを悪く思ってないんですもの。今後もそうある限りは」ジッ

杏子「……。(チラ)…なんかさぁ、あんた達は……。(クス)まったく、マミの周りには……」

ほむら「あなたも人のことをとやかく言えるほど一貫した人間じゃないでしょう」

杏子「へぇ。例えば?」

ほむら「あれだけ節を曲げずに、というか持論を押し付ける執念を見せてくれた割に、

    あっさり負けを認めるのね」

杏子「……。今だって、人のためにこの力を使うのを認めてるわけじゃない。

   でも、あたしが力ずくでマミの元から…、いや、この言い方は卑怯だな。

   さやか‥、は、あいつは正々堂々としてたもんな。

   あたしがなに言おうが考えを変えるつもりもないらしいし。

   いや、違うな。単に、そう、ただ単に、あたしはあいつに負けたのさ」フン…

まどか「お話し中わるいんだけど……、冷めない内に上がってくれたら嬉しいなって」

杏子「ああ。すまないね」スッ ピタ カチャ ‥ペコ…… スッ

ほむら「……それでも、美樹さんも強かったけど、あなただっていい勝負してたじゃない」

杏子「(ズズッ…)」ギョロッ

カチャチャッ…ッ

杏子「ぶはっっ!ぶほっ!ぼほっ…」ケホッ

まどか「ご、ごめんっ!熱いの苦手だった!?」

杏子「あ~~っ。いや、旨いよ。

   (クル)失礼ついでに、ティッシュはどこだ?

   いや、いい。座っててくれ。(スタスタ…)

   今のは、この優等生づらした方が意外にジョークのセンスがあるみたいで、(ボシュッ)

   不意打ちをくらったのさ」チーン

ほむら「どういうこと?」

杏子「ちょい待ち。(ポイ)その話の前に互いの名前くらい知っとかないとやりづらくない?

   マミから聞かされてるかもしれないけど、佐倉杏子だ」

まどか「あ、あたし、鹿目まどか」

ほむら「……」

杏子「あんただって、メガネだのお下げだの呼ばれ続けちゃ不愉快だろ?」ニヤリ

ほむら「……暁美ほむら。よろしく。佐倉さん」

杏子「うーん、名字だとマミとダブるんだよなあ。名前でいいよ。

   あたしもあんた達を呼ぶときはそうするし」

ほむら「じゃあ、杏子さん」

杏子「それじゃ小姑だ。呼び捨てでいいって」

杏子「ちょい待ち。(ポイ)その話の前に互いの名前くらい知っとかないとやりづらくない?

   マミから聞かされてるかもしれないけど、佐倉杏子だ」

まどか「あ、あたし、鹿目まどか」

ほむら「……」

杏子「あんただって、メガネだのお下げだの呼ばれ続けちゃ不愉快だろ?」ニヤリ

ほむら「……暁美ほむら。よろしく。佐倉さん」

杏子「うーん、名字だとマミとダブるんだよなあ。名前でいいよ。

   あたしもあんた達を呼ぶときはそうするし」

ほむら「じゃあ、杏子さん」

杏子「それじゃ小姑だ。呼び捨てでいいって」

ほむら「……杏子」

杏子「おう。まどかにほむら、でいいか?」

ほむら「……ご自由にどうぞ」

まどか「よろしくね、杏子ちゃん!」

杏子「杏子ちゃん、ね……」ポリポリ

ほむら「杏子、教えてちょうだい。わたしはジョークを言ったつもりはないんだけど」

杏子「……あんたにはあれが勝負に見えたのかい」スタスタ ストン…

ほむら「……!?」

杏子「マミの言うとおりだったさ。あいつから最初に食らった一撃で力の差は分かったよ。

   こいつは魔法少女…いや人間というより、大型の貨物船か旅客機か……、

   とにかくとんでもねえ馬力のカタマリだ、ていうのが正直な印象だった」

まどか「そ、そんな、人間ばなれしたみたいな言い方はちょっと……」ナハハ…

杏子「ああ。最初から最後まで敵意や殺意のたぐいは感じなかったよ。(カチヤ…)

   人間ばなれどころかじつに人道的な態度だったね。あんたの親友、は。

   そのくせ、さやかのほうは勝負になるよう、あれこれ勝手にハンデをつけてるようでさ。

   こっちのほうが内心わらっちまうくらいだったよ」パク

ほむら「……本当に?あなた、謙遜して言ってるんじゃないの?」

杏子「嘘は言ってねえ。純粋に勝負としちゃ、端っからあいつには敵わないよ。

   頼みもしないのにさやかが自分に縛りを設けたおかげで、

   あんたには形になってるように見えたらしいけどな」モグモグ

ほむら「縛り、って、例えばどんな?」

杏子「単純に力加減の問題でさ。相当セーブする努力をしてたはずだ。

   最初の一撃のあと、どんどん伝わってくる衝撃が小さくなっていったよ。

   そうじゃなきゃ、武器を打ち合わせるたんびにあたしは吹っ飛ばされてたさ」パクモグ

ほむら「……確かにそうだわ。

    あなたから負わされたケガも美樹さんは回復しきったはずなのに」

杏子「それからもう一つ。あたしを狙って攻撃してこなかった」パク

ほむ・まど「!?」

ほむら「何を言ってるの。あれだけ激しく戦っていたのに。

    あなただって今、打ち合った、と言ったじゃない」

杏子「(ズズ…)そうさ。おおかた、あたしの槍を壊すのが目的だったんだろうな」

ほむら「狙いが……、槍……!?でも、壊したところで」

杏子「魔力で修復できるよな」モグモグ…

ほむら「そうよ。効率が悪すぎる。いつまで経っても決着がつかないわ」

杏子「そうでもねえ。あたしが修復するくらいの魔力も尽きればそこであいつの勝ちさ」

ほむら「どうしてそんな回りくどい……」

まどか「……」

杏子「まどか。あんたとの約束を守ったうえで、

   隣町にまでお節介を焼きたいっていう自分の意志を通そうとした結果だろ。

   (ズズ… カチャ)……ごちそうさま」

まどか「……」

杏子「ま、そういう意味じゃあんたはあたしの命の恩人かもしれねーな」

まどか「そんなわけないよ。……(ボソ)さやかちゃん……」

ガチャ

まどか「さやかちゃん!」ガタッ…

さやか「あたしにもケーキくれーー!」

杏子「くたばってなかったか。最後に思い切り刺してやったんだけどな」

さやか「あー、悪いけどどこ刺されたのかも覚えてないくらいなんだわ」スタスタ

杏子「(チッ)」

ほむら「最初から殺す気もないくせに」

杏子「…なんだと」ギロ

ほむら「それとも杏子、あなたは自分の腕がよほど悪いって宣言したいのかしら」

グイッ

杏子「……何が言いたいんだ、てめえ……」

まどか「きょ、杏子ちゃん、ほむらちゃんも。仲直りしたそばから……」

ほむら「わたしは事実をもとに推測を述べたまでよ。

    美樹さんのソウルジェムを確かめたとき、

    あなたがつけた傷口が発光しながら塞がるのが見えたけど、それは脇腹にあった。

    真正面から向かってくる相手が、傷を自動的に回復できると知っていて、

    あえて急所を狙わない理由があるのだとしたら教えてほしいものだわ」

さやか「脇腹かー。(ベロン)あ、ぜんぜん傷跡もないわ。

    剣を貸してくれた王様に感謝だな……」

まどか「さやかちゃん…」

さやか「はいはい。(ゴソ)

   (ハッ)あ、あの剣の(フワァッ チキ…)……よかった……。

    あんだけ乱暴に扱ったのに、さすが、こっちも傷一つついてないや」

杏子「フン……。(ユル…)借り物なら気をつけるんだな。

   表面は傷が付いてなくても、鞘の内側は刃が当たって傷んでるかもしれねえ」

さやか「(フワァッ)うん。よほどのことがない限りマミさんのバットを使わせてもらうわ。

     ……ときにバットはどこだっけ」

まどか「マミさんがベッドのそばに包んで立て掛けてたような。

    えっと、確かさやかちゃんが寝てたクマさんのぬいぐるみがあるほうの……、

    わたし、取ってくる」スタスタ…

さやか「あ、悪い……」

ほむら「美樹さんも座ってて。お茶とケーキを用意するから」スク… スタスタ…

さやか「ありがとう、ほむら」

スタスタ ストン…

さやか「(フゥ…)」

杏子「何だい、急に憂鬱な顔をして」

さやか「……何か、マミさんがちょっと分からなくなっちゃってさ……」ヘタ…

杏子「ベッドを貸してもらい、人ん家の菓子をただ食いさせてもらいの身で言うセリフか?」

さやか「いや、だからだよ。とてもいい人なのに、恭介を利用したと言ったり、

    あたしがあんたをケガさせるのを勧めるようなこと言ったり……」ゴロ…

杏子「ちょっと詳しく教えろ。恭介ってのはあんたの連れの坊やだな?」

さやか「坊やって年でもないけどね」

杏子「その恭介をどうマミが利用するってんだ?人質とかか?」

さやか「違う。もう話してもいいのかな……?

   (ゴロ…チラ)ねえ、ところでさ、結局あたしは風見野の使い魔を狩ってもいいの?」

杏子「……悪いことは言わねえ。やめとけよ」

さやか「(ムクッ)なんだよー。あたしの勝ちだって言ったじゃないかー」

杏子「てめえ!盗み聞きしてやがったなっ」

さやか「は、は、は‥。いや~、出てくタイミング逃がしちゃってさー」

杏子「だいたいあんた、最後の一撃と宣言したくせに、

   体当たりしてわざわざ刺さりにきただけだろ」

さやか「あ、あれ?そうだったかなー?」カキカキ

杏子「マジで風見野に住んでる人間まで、魔女や使い魔から守りたいと思ってるのか」

さやか「…うん」コク

杏子「なら勝手にしろよ。でもあたしは魔女しか狩らねーぞ。(ゴテッ…)

   ああ~~、ただでさえ見滝原より魔女がすくないってのに」ボリボリ…

スタスタ…

ほむら「肘をどけて、杏子」

杏子「ん」ノソ

まどか「さやかちゃーん、バットあったよー」タタッ

ズベッ

まどか「きゃあっ( ゚д゚)っ」ピューン  

さや・杏「!!」

フワァッ カシン

ほむら「鹿目さん、足、大丈夫?くじいてない?」サス

まどか「う、うん」

ほむら「そう……。急に転びそうになったから」

さやか「…大丈夫だった!?二人とも」

ほむら「ええ。美樹さん、足元にバット置いてる」フワァッ

さやか「おお。まどかもほむらもサンキュ」

ほむら「今、淹れますから」

さやか「あ、自分でやるよ。それより、本当にまどかの足大丈夫か、確かめて」コポポ

ほむら「鹿目さん。わたしにつかまって、‥立てる……?」ソロ…

まどか「(ソロ…)いまの……、

    ‥ほむらちゃんじゃなかったら……」

ほむら「こういうときのためにわたしの魔法はあるんだよ。

    わたしは鹿目さんの役に立ててよかったんだから、ね?」ニコ

まどか「……ありがとう、ほむらちゃん」ニコ

ほむら「さ、歩ける…?」ソロソロ…

まどか「うん。(ソロソロ…)あ、大丈夫みたい」

さやか「……いや~、よかったよかった。これにて一件落着…」ズズ…

杏子「ちょっと待て!今、何が起こったんだ!?

   まどかがじゅうたんの端につまずいて、持ってたバットが、

   両手ふさがってるほむらに飛んできたはずなんだけど!?」

さやか「ほむらが言ってたじゃん。時間止めるのがほむらの魔法なんだよ」

杏子「そ、そうなのか……」チラ

ほむら「ええ。でもそれだけ。……あなたのように武器を魔力で作り出せないの」

杏子「それだけ、って。こりゃ、えらい魔法だぜ。

   そういや……、恭介だ!マミが言ってたってのは、

   ひょっとしてあいつも何か力を持ってるのか?」

ほむら「……」

さやか「……あたしから話すよ。いずれ杏子も知るんだろうからさ」

――


杏子「……そうか。それであの時、何の気配もなかったのに、

    突然あいつの左手に載せられたグリーフシードから魔女が現れたのか」

さやか「……うん」パク…

杏子「ふぅん。さやか、あんたは風見野まで恭介を連れてくればいいわけだな。

   あいつがいれば使い魔から幾らでもグリーフシードが手に入るんだし」

さやか「いや。恭介は風見野まで連れていかない」

杏子「そうかい。ま、あんたの勝手だけどさ。

   風見野に二人の魔法少女を養うだけの魔女はいねーぞ」

まどか「ねえ、杏子ちゃんもこれからは見滝原に来るんでしょう?皆で一緒に……」

杏子「すまねえな、まどか。やっぱり負けたあたしに決められることじゃないんだ。

   本来、あたしが風見野を追い出されてもおかしくない結果なんだよ、今回は。

   マミには前に後ろ足で砂をかけるような別れ方しちまったし、

   ぶっちゃけさやかの話ぬきで、マミの縄張りをぶん取ろうかって考えてたんだけど、

   まぁ、それを始める前から勝負がついちまった、ってわけ」

ほむら「鹿目さんも言ったでしょう。仲間が多いぶんのメリットも必ずあるの。

    巴さんもわたしもあなたにチームに加わってほしいと思ってる」

さやか「え…、マミさん、最初からそのつもりだったの……?」

ほむら「わたしもね」

さやか「ほむら……」

杏子「(チラ)マミがよくてもあたしのほうがダメなんだ。ひるがえしてごめん。

   マミが悪いんじゃない。悪いどころか、あいつは過ぎるくらいに良くしてくれた。

   まどかの厚意には感謝してる。

   でも、あたしのわがままでマミと一緒にはいられない。許してくれよ」

まどか「……そう……」

ほむら「……」

杏子「……さて、長居は無用ってとこだけど、

   お茶の礼を言わなきゃいけねえしあいつを待っとくか。そういえばさっき、

   マミのことが分からないだの利用しただの言ってたな、あんた」

さやか「ああ。……」

杏子「言いたいことがあるなら分かるように話せよ。たぶん全部あんたの思い違いだから」

さやか「思い違いって……、杏子を仲間に入れたいならマミさんも話してくれれば……」

杏子「バカたれ。あたしと主義が食い違って事を構えてるあんたに言えるか?

   話せない雰囲気を作ったのはあんたのほうだろーが」

さやか「むっ……、きょ、恭介まで連れてきてさ、利用したって……」

杏子「言葉通りの意味だろ。あたしに仲間になってほしいんなら死なれちゃ困るんだから。

   ……それ以前にさやかを人殺しにしたくないってのもあったはずだしさ」

さやか「あたしだって、あんたを殺してまで――」

杏子「そう、それも分かってる。あんたが自分の馬鹿力に慣れてないってこともな」

さやか「……」

杏子「(クックッ…)面白くねえだろ?マミって奴はさ、すかした顔して見抜いてやがる。

   あの結界の中でなかったら、あんたの初撃を喰らった時点であたしは終わってた」

さやか「でも、剣を『止めるな!』ってテレパシーで……」

杏子「『止めるな』?いつ?」

さやか「あんたが槍を手から滑らして、あたしがちょうど剣を振ったタイミングで……」

杏子「あー、あれか。(ペシ)……マミには世話になりっぱなしだな……。

   そういや、急にマミのほうを向いてブツブツ文句言ってたっけな、あんた。

   ったく、これだからトーシローは……」

さやか「(ムッ)何さ。そりゃ、建前じゃあんたを倒して、だけど…」

杏子「ちがうよ」

さやか「違うって、何が」

杏子「あのタイミングで、あたしに当てずに剣を止められたか?」

さやか「…止められなかったかもしれないけど、少なくとも勢いは……」

杏子「そこが間違いだっつの。(スイ)当てようってときに急制動をかけてみろ、(ピタ)

   関節がロックされてより揺るぎのない一発が相手に決まっちまうんだよ」

さやか「そうなの…?」

まどか「??」

ほむら「それじゃ巴さんは…」

杏子「マミもとっさにテレパシー送んのがやっとだったはずさ。

   結果的に、『制動の制止』という命令がさやかの脳内に直接おくりこまれたせいで、

   混乱したこいつの剣の勢いもインパクトの瞬間は腑ぬけたもんになっちまったんだろ」

まどか「へ、へえー。さやかちゃん、マミさんも杏子ちゃんもさす…、

    ……さやかちゃん?…あの~…」

さやか「………まどか。あたしはいま、猛烈に反省している……ッ!!

    マミさん。あたしは何て……!」ジワ

杏子「誇っていいぞ。マミの賢さと優しさを分かってなかった時点であたしの上をいく馬鹿だ」

さやか「うぐ…、うあぁ…」ジワジワ

ほむら「ま、まあ、必死になってるときって視野が狭くなりがちだし……」

まどか「マミさんもわかってくれるよ。さやかちゃんのいつものことだもの」

カチャリッ… ガチャッ…

マミ「…ただいま」

まどか「あ!お帰りなさーい」パタパタ…

・・・・
・・・


~~マミの部屋 屋上~~


ヒュオオ…

マミ「話ってなに?」

杏子「まずは礼だ。命を助けてくれたこと。それから介抱してくれたこと。ありがとう」

マミ「そんなの、当たり前じゃない」

杏子「それから、一年前のこと。謝ってすむ話じゃねーけど謝る。あんな別れ方してごめん」

マミ「傷を負ってたのはあなたのほうなんだから。

   わたしは自分本位で、あなたが離れるのが怖くて無闇に引き止めようとしてた」

杏子「…あたしはさ、あんたにふさわしい仲間が見つかればいい、って思ってたんだ。

   今さらって話だしお前に言われたくねー、って思われるかもしんないけど、

   だから少しほっとしてんの」

マミ「……ありがとう。わたしもあなたと向き合わなきゃ、と思ってたけど、してなかった」

杏子「いや。思ってくれてるだけでじゅうぶんすぎるくらいさ。

   ……ずっと、どっかシンドい思いをさせちまって」

マミ「……(スゥー…ッ フゥーー……ッ)」フワァッ

杏子「…?」

シュルシュル……ッ  パシッ…

杏子「おいおい、向き合うってそう――…何だ、そんなもの銃に付けてたか?」

マミ「(スイッ…)……マシンガンほど構造が複雑な物は作り出せなかったけど、

   これは必要があったから……」スイ… ピタ

杏子「必要……?それにしてもマミはほんと器用だな。

   あたしはゼロから望遠鏡なんて作れねーし。

   ……まあ、元々ある物の倍率あげるくらいなら出来ねーことも……」

マミ「(ジッ)……あなたのお父さんの教会、たった一年で荒れ果ててしまったのね……」

杏子「何の冗談だよ。こっからだとあのビルの陰になって見えねえだろ」

…フワァッ

マミ「……ごめんなさい。わたし、あなたのご両親にお世話になっていながら……」

杏子「(チラ)気にすんなって。あんたを遠ざけたのはあたしだし、(クル…)

   実の娘すらたまにしか寄らねえんだからさ…」

マミ「……」

ヒュゥゥ…

杏子「……」

マミ「ねえ、よかったら…」

杏子「いや」

マミ「でも」

杏子「いいんだ。

   あんたが無事でここにいてくれるってだけでじゅうぶんだ、っていま思う。

  (クル…)それにあんたがたった一つだけ守りたいモノはあたしじゃないだろ?」ニヤリ

マミ「……」

杏子「あんたは変わった。前とは何かを守ろうとする覚悟が違うって伝わってくるよ。

   そうと決まったのなら迷っちゃダメじゃんか」

マミ「……そうね。もう引き返せないしそのつもりもないわ」

杏子「(ニッ)その顔な。まどか、か」

マミ「……」

杏子「変なヤツだ。殺そうとしたあたしを許すどころか、ハナっから敵意がないときてる。

   こっちもつられて、話そうと思ってないことまで口をすべらしちまったよ、さっき…」

マミ「あら、どんなこと?」

杏子「い、いや……。とにかく調子狂うよな。

   下手すると魔女にまで微笑みかけちまうんじゃないのか、あいつ」クック…

マミ「……」

杏子「……さて、と。マミ、もう一度、ここであんたの仲間になる、ってことはできないけど、

   風見野でさやかが魔女を狩るときは一緒にあたしも戦うってことでいいんだな?

   あ、使い魔のほうは手伝わねーぞ」

マミ「ええ、美樹さんに色々教えてあげてほしい。

   グリーフシードはさいわい十分な量があるんだから、あなたとこちらと共用で」

杏子「恩に着るよ。

   いや~、ぶっちゃけ、ここんとこ風見野の魔女がますます少なくなっててさー、

   いよいよあんたの縄張りを取りにいこうかと思ってたぐらいなんだ」

マミ「そうなの。遅かれ早かれこうなってたってことね」

杏子「……あんた、本当に変わったな」

マミ「だってわたしより先に、あなたの前に美樹さんが立ち塞がるに決まってるもの」

杏子「ああ~、確かにな……。余計なことに首を突っ込みそうだもんな、あいつ……」

マミ「見滝原は中心部の急速なビジネス街開発と、

   時代に取り残された周辺部の工業団地と、二極化が進んでるから。

住む人も旧市街新市街で気質が違っていて、他の町よりもコントラストが効いてるわ。

   どの条件ひとつとっても魔女が好みそうなものだし、

   その全体のアンバランスさ自体にも惹きつける要因があるのかもね」

杏子「ま、難しい話は分かんねーし興味もねえ。

   見滝原はマミ達に守られて安泰だし、あたしも食いっぱぐれることはないし、

   めでたしめでたし、ってわけさね」

マミ「ええ、そう…ね」

杏子「えらくあいまいな返事だな」

マミ「……あなたに聞いておいてほしいことがあるんだけど」

杏子「何さ、とっとと話してくれよ」

マミ「…近いうちにここに『ワルプルギスの夜』が現れるかもしれない」

杏子「……きょう聞いた中でいちばん笑えねえ冗談だな。根拠は?」

マミ「暁美さん。と言っても本人がそう話したのじゃないけど。

   ただ、経験が浅いはずの彼女がなぜその名を知っていたのか分からない。

   わたしもキュゥべえも、暁美さんや鹿目さんの前で口にしたことはないはずなのに」

杏子「何だ、それだけかよ!名前くらい、噂でどっからでも耳にするだろ。

   それか、気になるならその場で問い質せばいいじゃんか」

マミ「そう言われればね。わたしの思い過ごしかも。

   彼女も近いうちにかならず詳しいことを話すと言ってたし、他の街の子の話かもね」

杏子「……近いうちに、か。あたしはその言葉のほうが気になるな」

マミ「だから、ちょっと詰めた話をしてた最中だったから……」

杏子「なら一言いえば済む。いたずらに思わせぶりなことを口にするタイプじゃないぜ、あれ」

マミ「……」

杏子「ま、いずれにしても今日明日の話じゃねえんだろ?

   とりあえず、お互い心構えだけはしとこうぜ」

マミ「……そうね」

――



~~まどかの家 ダイニングキッチン~~


ほむら「……ご馳走様でした」フゥ…

知久「お粗末さまでした。口にあったかな?」

ほむら「はい。あまりに美味しくて……」

知久「それはよかった。でも、せっかく来てくれたのにあり合わせのもので申し訳ないね」

ほむら「とんでもないです。

    とても美味しかったですし、わたしのほうこそ急にお邪魔して何と言ったら…」

知久「まどかの友達ならいつでも歓迎さ。

   でも、もっときちんとおもてなしたいからね」

まどか「パパ、ごめんね。わたしの用事で、

    ほむらちゃんに遠くまで付き合ってもらっちゃったから、今日中にお礼がしたくて」

知久「そう。二人とも、危ないと感じる場所には無理に近づかないようにね」

まどか「ありがとう。気をつけるね。

    ねえ、ほむらちゃんに先にお風呂はいってもらっていいかな?」

知久「構わないよ。今日はずいぶん急いでるんだね」

まどか「うん!早くほむらちゃんにお礼したいし、宿題もしなきゃいけないし……。

    ほむらちゃん、さ、どうぞ!」

ほむら「えっ、あの……、わたしは皆さんの後でいいですから……」

まどか「パパがいい、って言ってるから気にしないで。ママも今日は遅くなるらしいから。

    ね?あ、お皿はそのままで。あっち、タオルもわかるように置いてるからつかって」

ほむら「はいあの、お言葉に甘えて……、お先に借ります」ペコ…

知久「どうぞ。ごゆっくり」

スタ… 

ガタ トタトタ

まどか「あっ、タツヤ」

ほむら「…?」クル…

タツヤ「ほむほむとあそぶ」トタ

まどか「タツヤ、まだぜんぶ食べてないでしょ。ほむらちゃんはお風呂はいるの」

タツヤ「あそぶー」

ほむら「鹿目さん、わたし弟さん食べおわるまでここにいるよ?」

まどか「えっ、ほむらちゃん、気を遣わないでいいのに…」

ほむら「急に押しかけて悪いもの。このほうが楽だから、ね?」

まどか「う~ん…。じゃあ、ほら、タツヤ」

トテトテ…

・・・

タツヤ「(パチ)ごうそうした!」

知久「はい。よく食べたね、タツヤ」

まどか「(ワシワシカチャカチャ…)ほむらちゃん、ありがとう!お風呂どうぞ!」

ほむら「あ、それじゃ、失礼します」スタ…

タツヤ「ねーちゃ、ほむほむ、おふおどーじょ」トテトテ

ほむら「…?」クル…

まどか「(ワシワシ)あ、タツヤ」カチャカチャ

タツヤ「ほむほむとあそぶ!」

知久「ほむらちゃんはこれからお風呂はいるの。

   今日はまどかと忙しいみたいだからまたこんど遊んでもらおうね」

タツヤ「ほむほむとはいう」ニギッ トテ…

ほむら「あ…」トットッ…

知久「こら、タツヤ!」

タツヤ「うぅ……、うぇあ~~…っ!……うぁああああ…っ!!うわああああ…!!!」

ほむら「あの、よかったら、わたしタツヤくんと入ってきましょうか?」

知久「気を遣わないで、大丈夫だよ。気持ちだけで十分……」

タツヤ「うぇああ~~っ!!うわあああ~~っ!!」

知久「だめなものはだめ。ほむらちゃん、今日は忙しくて疲れてるの」

タツヤ「わああぁ~~っ!…けほっ、けほっ、……うえあわあ~~!!」ダンダンバタバタ

知久「困ったなあ。わがままばかりの子はパパ、嫌いだぞ。

   まどかもママも、ほむらちゃんも、タツヤを嫌いになっちゃうぞ」

ほむら「あの、すみません。えっと、もしかしたらたぶん、わたしがここに残ったから、

    タツヤくん食べ終わったら遊んでくれると思ってて、

    それでわたしが行こうとしたから怒ってるかもしれないんで。

    だからあの、責任というか、わたしからお願いしたいんです」

知久「でもそこまで……」

ほむら「あ、といっても大したことはできないと思うのでできたらか…鹿目さんと一緒に…」チラ

知久「(カキカキ)――ありがとう。すごく助かるよ。疲れてるところを悪いけど頼めるかい?

   まどか、後は僕が洗っておくから、

   先にほむらちゃんと一緒にタツヤをお風呂に入れてくれる?」

まどか「うん…、わかった。ほむらちゃん、ごめんね」

ほむら「ううん、こちらこそ。タツヤくん、みんなで一緒に入ろうね」ソッ ピト フキ

タツヤ「(ズズ…)」コク

~~さやかの家 食卓~~


杏子「なんであたしがあんたん家に泊まることになってんだよ!?」

さやか「別にあたし達の活動って夕方からだから無理ってわけでもないでしょ。

    まあ風見野にはちと遠いけどさ。

    杏子から色々アドバイス聞くには一緒に暮らした方が手っ取り早いし」パク

杏子「そこまでいらん!あんたは最っ初からじゅうぶん過ぎるくらい大丈夫だから!

   つか親に養われてる分際で一緒に暮らすとか決められねえだろ!?

   その前にあんたは学校行ってんだろ、力入れるとこが違うだろ!?

   なんであたしがそこまで突っ込まなきゃいけないんだ!?」

さやか母「この子はほんとに女の子なのに荒っぽいというか、頭のほうも良くないし、

     何の取り柄もなくて……、仲良くしてくれてありがとうね、杏子ちゃん」

杏子「え、えと、あの……」

さやか「……」ズズ… ハグハグ

さやか母「幼なじみの子がこの春に交通事故に遭って、

     ひどいケガでその子が得意にしてた楽器も弾けなくなってしまったのね。

     その子もさやかも辛かったの。でも最近になって、

     あなたやまどかちゃんや転校してきたほむらちゃんという子と一緒に、

     地域のボランティア活動を始めたんだって。

     忙しそうだけどやりがいを感じてるみたいで……」

さやか「(パクパク)母さん、勘違いしてない?

     まどかやマミさんたちがやってることにあたしも加えてもらったの。

     杏子は隣町で同じ活動やってる子で、昨日知り合ったばかりだよ。

     なんか、お父さんが教会やってたんだけど、

     一家が無理心中にあって一人ぼっちになっちゃったんだって」ハフハフ

さやか母「まあ……。若いのに大変なのね…」

杏子「……別に。もう慣れたし不自由はしてない。過ぎたことさ」

さやか「そういえばあんた、普段はどこに泊まってんの?」

杏子「ホテルだよ」

さやか「なっ、何!?それはもしかしてデラックスなほうか!」

杏子「どこだろうと構わねえだろ。

   あたしは自分の力で好き勝手に生きてんのさ。

   親元でぬくぬくと暮らしてるあんたに言えることはないはずだけど」

さやか「大いにあるとも!あんたの年でこうきゅうホテルというのはなあ、

    バット一本で地球を危機から救う主人公しか泊まってはいけないのだ!!」

杏子「隣町から地球の危機とは、これまたえらく出世したもんだねえ」

さやか「あたしの話じゃないっ!

    とにかく母さん、この子このとおり身寄りがないみたいだから、

    しばらく家で預かれないかなっ!?」

さやか母「家にいるのはいいけど、何もお構いできないわよ」

さやか「うん!あたしがちゃんと世話するから!」

杏子「いや、おい拾」

さやか母「いいかしら、お父さん」

さやか父「……うむ」

さやか「ありがとう、父さん!良かったなァ、杏子!」ヒシ ナデナデ

杏子「あ、あのな~…」

さやか母「ほら、杏子ちゃん。そうと決まったんだから遠慮しないでお上がりなさいな」

杏子「あ、ありがとう……。いただきます」チャ…

さやか母「後で洗い物できる?」

杏子「え、あ、うん…」

~~まどかの部屋~~


「ほむらちゃん。ごめん、開けて」

ほむら「あ、はい」スッ

ガチャッ 

まどか「お待たせー。はい、どうぞ」

ほむら「あ、ありがとうございます」ソッ

・・・

まどか「ふぃーーっ。ほむらちゃん、ごめんね。あの子、わがまま聞いてくれると思って……」

ほむら「いえ、わたしこんな賑やかにお風呂入るなんて初めてだから、楽しかったです」

まどか「でもほむらちゃん、すごく気を遣わせちゃったね。

    タツヤが湯舟ではしゃぐもんだから」

ほむら「(クス)正直ひやひやしてました。毎日いつも目が離せないって大変ですね」

まどか「わたしは手伝えるとき、相手になれるときだけなのにくたびれちゃう。

    でもパパって笑顔を絶やさないで、

    タツヤやわたしと楽しく過ごせて幸せだって……」

ほむら「鹿目さんの小さかった頃から専業主夫をされてるんですか?」

まどか「うん。……わたしが物心ついたときから、気がついたらパパと一緒に遊んでて……、

    ここに引っ越してくる前のころのことだけど、毎日毎日いっしょに過ごしてて…、

    家に帰ったらいつもパパがいて……。

    タツヤも今の毎日をきっと思い出して、パパに大切にしてもらったんだな、

    て思うんだろうなあ」

ほむら(鹿目さんの小さいころも可愛かったんだろうなあ)ポー…

まどか「?」

ほむら「あっ、若々々しいのにすごく落ち着いてて素敵ですよね」

まどか「へえ、ほむらちゃんがそう言ってたって伝えたらきっとすごく喜ぶよ、パパ。

    ああ見えてママよりけっこう年上なの」

ほむら「ええ!!同じくらいだと思ってました!」

まどか「ママが大学生のときにわたしができて結婚したんだって」

ほむら「はじめて聞きました!」

まどか「う、うん。そうだね…?」

ほむら「でもそれじゃお母さん、大学は…?」

まどか「自分じゃ辞めるってパパとママのおじいちゃんとおばあちゃんに言ったんだけど、

    とりあえず卒業だけはしなさい、って言われて。

    もうほとんど卒業論文だけ書けばいい状態だったらしいから、

    ゼミの先生や学生さんたちと迷惑のかからないよう相談したって」

ほむら「ゼミに顔を出さないようにしたんですか?」

まどか「それがね、みんなから臨機応変でいいじゃん、って軽いのりで返されて…」

ほむら「へえ…」

まどか「うん。早くからゼミがあったから仲良かったのもあったみたい。

    …妊娠したのが分かったのが3年生の後半で、お腹が大きくなっても大学に来て、

    卒業論文の研究しながら会計士の資格を取って。

    わたしが生まれたあとゼミに顔を出せるようになったのは卒業論文の締切ちかくで、

    友達や先生から『子連れ狼』って呼ばれながら無事に卒業できたんだって」

ほむら「(クス)いい人たちですね。鹿目さんならきっと可愛かっただろうし」

まどか「(タハハ…)でもママもよく赤ちゃんを大学の研究室まで連れてくなんて迷惑なことを…」

ほむら「鹿目さんなら育てやすいから大丈夫ですよ」

まどか「(テヒヒ)え、なんで分かるの?ママもそう言ってるんだけど…」ポリポリ

ほむら「理由はありませんけど、鹿目さんならそうに違いないからです」ニコッ

まどか「ほ、ほめてくれてると思っていいのかな。

    わたしは全然覚えてないんだけど、ゼミの人たちも可愛がってくれたんだって。

    でもタツヤが赤ちゃんのころのパパとママを思い出すと、

    おっぱいやおしめの交換とかほんとに目が離せない状態だったよ。

    あたしだってきっと…」

ほむら「鹿目さんのお母さん、すごい人ですよね」

まどか「…うん。わたしを産んでくれて。パパも、おじいちゃんやおばあちゃんも…」

ほむら「周りのかたの理解や支えがあったにしても、お腹に赤ちゃんがいる、って、

    それだけで大変なことがいっぱいあるんじゃないでしょうか。

    なのに、大学を卒業するだけじゃなく資格試験もこなしたり…」

まどか「それがね。大学を卒業させてもらえる、ってことになったから、

    パパが将来もし働けなくなったときに備えておこうってくらいの気持ちだったけど、

    生活しはじめたらどう考えてもパパのほうが主夫に向いてるって気づいたみたい。

    働きながらでも家事の段取りが完璧だったからこれは真似できないな、って。

    それでママのほうから思い切って『自分がかせぐほうでいいか』って申し出たら、

    パパもママは仕事に専念するほうが向いてるだろう、って賛成して。

    わたしが産まれる前から今みたいな方向で生活設計を話し合って決めたんだって」

ほむら「なんだか素敵です……。ほんとうに信頼しあってないとできないことですよね」

まどか「ママもよくパパのことを言うの。

    よく海の山も知らないときの自分を信用してくれたなって」

ほむら「…?いまにしてみればお父さんの目に狂いはなかったんですね」

まどか「うんっ。…なんかわたしのほうの話ばかりしちゃったね」ティヒヒ

ほむら「あ、いえ。わたしが尋くから…」

まどか「わたしも聞いていい?」

ほむら「ええ、どうぞ」

まどか「あのね、ほむらちゃんのお母さんってどんな人?」

ほむら「どんな…、うーん…。わたしと似てますね。

    姿形だけでなく、性格的にも父より母のほうに似てる、って言われますから」

まどか「うわ、会ってみたい!だって大人になったほむらちゃんみたいなんでしょ?」

ほむら「で、でも鹿目さんのお母さんにくらべたら全然落ち着いてないんですよ。

    歳は同じくらいのはずなのに……」

まどか「えっ、だいぶ若いんだね」

ほむら「ええ。父のほうがかなり年上です」   

まどか「じゃあうちと同じなんだ」ニコ

ほむら「あ、そうですね…」ニコ…

まどか「会ってみたいな、ほむらちゃんのパパとママ」

ほむら「そ、そんな…。父はともかく母はお見せするような……」

まどか「ほむらちゃんと似てるんでしょ?」

ほむら「え、ええ…」

まどか「(ニコ)なら素敵なひとに決まってるもん」

ほむら「はあ…。…ありがとうございます」

まどか「(ニコ)あ、コップかして」スクッ…

ほむら「あっ、はい」ソッ

ほむら(もうタオル外そうかな)シシュ ハラ

まどか「(カタ)そうだ。早く宿題しなきゃ」パシ ヒョイ クルッ

ほむら「あ、そうですね。ええと…」ゴソゴソ

スタ…

まどか「ほむらちゃんの髪ってきれいだよね」ナデ

ほむら「きゃっ!い、いきなりどうしたんですか、鹿目さん」

まどか「ずっと思ってたんだ。長いし、きれいだし、うらやましいなあって……」

ほむら「そ、そうですか……?でも、でも、鹿目さんの髪型もかわいいですし、

     いつもしてるリボンも、似合ってると思います」

まどか「そうかな……?うぇひひひっ。ありがと。ほむらちゃんも同じ髪型にあうと思うよ。

     いつかお揃いでやってみようか?」

ほむら「…はいっ!」

まどか「(ニコッ)…あっ、宿題宿題!」ゴソゴソ

ほむら「あ、そうでしたね」ゴソゴソ

――



まどか「えーっと、あとは寝るだけだね。

    そうだ。パパがお布団一式取りにくるように言ってたけ」

ほむら「あ、どちらの部屋ですか?」

まどか「いいのいいの。ほむらちゃんが取りにいったら、またタツヤに見つかって、

    遊んでってせがまれるに決まってるもん」

ほむら「可愛いですね。わたしたちが歯を磨いてたら自分も、って……」

まどか「みんな洗面所に集まっちゃって、そこにママが帰ってきて、

    みんな歯ブラシを持って玄関まで行ったもんだからおかしかったね。

    わたしが後で取りにいくから、ほむらちゃん、そこに横になって」

ほむら「え!?でも、か、鹿目さんの……」

まどか「あ、嫌だったかな…」
ほむら
「そんなわけないですっ。わたしこそいいんですか?」

まどか「ほむらちゃんなら嬉しいな。あ、あれ、わたし変なこと言ってるね」ティヒヒ…

ほむら「いえ。ありがとうございます」

まどか「さ、どうぞ」

ソロ……

ほむら「……」ポー

まどか「じゃ、足から始めるね」モミ モミ…

ほむら「あの、あとでわたしも……」

まどか「それじゃお礼にならないもの。

     揉んでほしいとことか、強くとか弱くとか遠慮しないで言ってね」モミ モミ

ほむら「……ありがとう、鹿目さん」

~~さやかの部屋~~


さやか「うーーんっ。そろそろ寝ようか」

杏子「……泊めてもらってる身で言うのは心苦しいんだけどさ、……あたしの布団は?」

さやか「あ。いや~~っ、ごめんごめん。

    まどかが家に泊まるときは一緒のベッドで寝るもんだから、

    あたしも母さんもつい忘れちゃって……。明日からちゃんと用意するから」

杏子「あ、そ……」

さやか「父さんも母さんももう寝ちゃったし、

    とりあえず今日は一緒にここで寝よ?」

杏子「……」スタスタ

ハシ…

杏子「このクッション借りるわ」スタスタ…

さやか「ええっ。それだけじゃ寝るに寝られないでしょ!?」

杏子「気をつかわせてわるかったな。でも、なけりゃないでこれでいい。おやすみ」トサ ゴロン…

さやか「……」

~~マミの部屋~~


マミ「……おやすみ、お父さん、お母さん」

QB「今日は慌ただしい一日だったね、マミ」

マミ「あら、キュゥべえ、まだいたの」

QB「僕がいると邪魔かい」

マミ「まさか。でもあなたって、さっきいたと思ったらふうっといなくなったり、

   それこそ魔法少女より慌ただしい毎日を送ってるみたいね」スタ スタ

QB「この町は不可解なことが多いからね」ピョコピョコ

マミ「‥あなた、何か聞きたいことがあるの?」スタ スタ クル スタ

QB「いいや。特にないよ。今のところは」ピョン

マミ「それはよかった。もう眠くてね」スタ スタ カチャリ スタ スタ パチ スタ スタ カチャ… 

QB「おつかれさま、マミ」

マミ「(…パタン スタ スタ)キュゥべえもおつかれさま」ポゥ… ジジジジ…

QB「(ピョン ポフ)おやすみ、マミ」

マミ「(カチ コトン)おやすみ………」ゴソ モゾ…

~~~~~


まどか「もういい……もういいんだよ。ほむらちゃん」

プロミス

ClariS、作詞/作曲:渡辺 翔、編曲:湯浅 篤

   

ほむら「まどかッ、行かないでッ!  まどかぁぁッ!」

~~まどかの部屋~~


ほむら「(ビクッ…)ぁぁ…っ」ハッ

……ムクッ…

ほむら(え…、ここ鹿目さんの部屋……。あ、そうか……)グスッ…

まどか「……」スーー… クーー… 

ほむら「……」

ほむら「って、(何でわたしが鹿目さんのベッドで鹿目さんが床に布団で……!?)

    あっ。(わたし鹿目さんにマッサージしてもらってそのまま寝てしまったんだ……、

    それで鹿目さん仕方なく……)」ガーン
     
カチッ コチッ カチッ コチッ…

ほむら(5時半か……)ショボ

トッ トッ テッ テッ… ガチャ ガチャ…

ほむら(…?この足音は……)

モゾ ソロ スタスタ…

カチャ…

タツヤ「…あしょぼ」

ほむら「まだ朝はやいよ。寝ないの?」ヒソヒソ

タツヤ「ううん。ねーちゃと、ほむほむと、あそぼ」

ほむら「(チラ)…お姉ちゃんまだ寝てるから、わたしと、…お庭であそぼっか?」

タツヤ「うん」コク

ほむら「すぐ行くからちょっと待って。

    (キョロ キョロ)(眼鏡……、あっ、机の上に置いててくれたんだ)」ソロソロ… チャッ

ほむら「じゃ、行こっか」ヒソヒソ スタ…

タツヤ「うん」トテ トタ

……パタン…

~~まどかの家の庭~~


ガチャッ…

ほむら(うゎ、ひんやりしてる……)スタ

トットッタッタッ…

ほむら(静かだなあ……)スタ スタ

タツヤ「ほむほむきてーーっ」

ほむら「あ、うん」

タッタ…

タツヤ「ぱーぱー、いつもとまとちゅくってるの」

ほむら「わあ、すごい。美味しそう」

タツヤ「それでねー、とまと、おはなしするんだ」

ほむら「パパがタツヤくんにトマトのお話するの?」

タツヤ「ううん。とまと」

ほむら「トマトとパパがお話するの?」

タツヤ「うん」

ほむら「そうなの。(鹿目さんのパパらしいな。

    家庭菜園で育ててる野菜にまで愛情を注いで……なんだか目に浮かびそう)」

タツヤ「ぶーーーんっ」シュタタッ

ほむら「あっ」タッタッ…

タツヤ「おいかけっこー!」トットッタッタッ…

タッタッタッタ…

・・・

タツヤ「きゃはっ。ぶぅぅーんっ」タッタッタ

ほむら「はぁっ、はぁっ……」ヨタ ヨタ

タツヤ「(クル)ほむほむーーっ」

ほむら「……ごめん、わたし疲れちゃった」ハァハァ…

タツヤ「えーーっ」タッタ…

ほむら「お庭から出ていかないでねー」

タツヤ「うん!」トットッ… キャハハッ マロカァーッ

ほむら「ふぅーー…(元気だなー。ずっと力いっぱい走りっぱなし……)」フキ…

…ボーゥボーゥ、ジィッヒーーッ …ボーゥボーゥ、ジィッヒーーッ ボゥ…

ソヨ…  ザサヮ…

ほむら(近くでキジバトが鳴いてる……。この辺りは自然が残ってるんだなぁ……。

    ここだけは平和で安らかに……。…安らか、か)

ほむら(さっきの夢……。

    鹿目さんと触れ合ってとっても幸せで、満ち足りているのに、

    なぜか胸が張りさけそうなくらい悲しくて……。

    鹿目さんが何か言って、

    独りでわたしの手が届かないところへ行ってしまうような……。

    ……駄目だ、もう断片的にしか思い出せない……)

ほむら(――ほんとに夢なの?手のひらにまだ彼女のぬくもりが残っているよう……。

    ……それにしても鹿目さんと裸で抱き合う夢を見るなんて……、

    わたしエッチなんだろうか……)

また あした

鹿目 まどか[悠木 碧]、作詞/作曲:hanawaya、編曲:流歌、田口智則

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