女「ペロペロするだけの人生」(166)


女「……」

女友「ねえ」

女「……」

女友「ねえ、女」

女「なに」

女友「さっきから、何を探してるの?」

女「……証拠」

女友「証拠? なにそれ」

女「わからないなら、いい」

女友「いっしょに探してあげるよ」

女「ほんとに?」

女友「うん」

女「女友ちゃんは良い子」

女友「まあね。で、何を探してるの?」


女「私この前、17歳になったんだ」

女友「うん、おめでと」

女「ふと思った。私って、17年も生きたのだろうか?」

女友「……はい?」

女「だから証拠がほしい」

女友「17年生きた証拠?」

女「そう、それ。探そう」

女友「アルバムでも見とけばいいと思うよ」

女「アルバムはない。去年の火事で全部無くなった」

女友「じゃあ、親に聞きなよ」


女「去年の火事で」

女友「親まで!? 初耳なんだけど」

女「だから探してるのさ」

女友「……親戚は?」

女「去年の火事で」

女友「どんな火事なの!?」

女「だから、証拠探しを手伝ってって」

女友「わかった、わかったよ」

女「ありがとう。愛してる」

女友「とは言え、どうしたものかな」

女「私、思うんだけど」

女友「なによ」


女「とりあえず、昨日を生きた証拠がほしい」

女友「ふんふん」

女「昨日を生きてれば、きっと一昨日も生きてたと思う」

女友「なるほどね。じゃあ手分けして探そうか」

女「今この家、2人きりだから」

女友「好きに探していいってことね。……ん?」

女「どうしたにょ」

女友「去年、家燃えたんでしょ。この家は?」

女「……いいから、早く探そう」


………

……



女友「ねえ」

女「なんだい」

女友「昨日履いた下着とか、ないの?」

女「洗濯機の中に入ってるかも」

女友「それ、証拠になるんじゃないかな」

女「見たいのね。私の下着、見たいのね」

女友「うっさい」

女「実を言うと、私はあまり見たくない」

女友「なんで?」

女「汚いから」

女友「さっさと洗濯しろ!」


………

……



女友「あ、そうだ」

女「なんだい」

女友「自分の記憶に聞いてみればいいじゃん」

女「ダメだよ」

女友「そうかな」

女「だって、すぐにウソつくから」

女友「ああ、納得」

女「でもね、身体は正直よ?」

女友「くねくねすんな」

女「下のお口も」

女友「あーあー! 聞こえなーい!」


………

……



女友「あっ」

女「なんだい」

女友「昨日私たち、会ったよね」

女「ああ、うん。そうだったかも」

女友「これは証拠になるでしょ?」

女「なるわけないよバカ!」

女友「なんで怒るの……」

女「形に残ってるもので示してほしい」

女友「めんどくさいわ」

女「そんな乙女心」

女友「はいはい」


………

……



女「見つからない、ね」

女友「そうだね。もう諦めろ」

女「やだぴょん」

女友「えっ……、まだ探す気?」

女「そんなこと言う女友は愛せない」

女友「べつにいいけど」

女「いいんだ……。ショック大」

女友「暗くなってきたし、私もう帰るよ」

女「泊まってけ」

女友「明日学校だし。制服ないし」


女「……さみしい」

女友「うっ……、ごめんね」

女「また今度、泊まりにきて」

女友「うん、わかったよ」

女「一家総出で歓迎するから」

女友「……火事で死んだんじゃないの?」

女「……ばいばい」

女友「まて。気になるわ」

女「そうか、そんなに私が気になるか」

女友「ニヤニヤすんな。どうでもいいし」

女「……ばいばい」

女友「落ち込むな。胸が痛むわ」


女「私は探し続けるよ」

女友「昨日を生きた証拠、ねえ」

女「そして存在の証明を為すのさ」

女友「難しく考えなくていいと思うけど」

女「はーあ、女友みたいに楽観的な人ってうらやましい」

女友「ぶっとばしていい?」

女「ふん。私もう寝るから。寝てやるから」

女友「はいはい。また明日ね」



女「下着洗濯されてる。女友?」

女「……女友は良い子」


―通学路―

女「ふんふーん♪」

女友「おはよう、女」

女「おはようございましておめでとうございます」

女友「ござりすぎ。めでたくないよ」

女「めでたいよ。今日も女友に会えた」

女友「……ふうん」

女「今ちょっとキュンとした?」

女友「うっさいわ」

女「うん、やっぱり愛してるよ」

女友「いいから、早く行くよ」

女「ふふふーん♪」


―教室―

地味子「おはよう、女ちゃん」

女「おっは、よう」

地味子「テンション高いねえ」

女「そうかな」

地味子「うん。何か良いことあった?」

女「女友がね、私の下着洗濯してくれた」

地味子「下着!?」

女「うん。なので今日の私は小綺麗よ」

地味子「……す、すごいねえ」

女「2、3枚なくなってたけど。パンツ」

女友「ウソつくな」


地味子「あ、おはよう女友ちゃん」

女友「おはよう。女、逃げるな」

女「……逃げてない。脱兎のごとく」

女友「うん、どういう意味?」

地味子「あ、あはは……。相変わらず仲良いね」

女「私は地味っちゃんとも仲良いよ」

女友「私だって」

地味子「あう……。は、恥ずかしいね」

女「胸キュン?」

地味子「うん、胸キュン」

女「ふふん」


女友「それより聞いてよ、女ったらさ」

地味子「どうしたの?」

女友「昨日ね……」




地味子「……ふふ、女ちゃんらしいね」

女友「付き合わされるこっちの身にもなってほしいよ」

女「私たち付き合ってたの?」

女友「しばらく黙っといて」

女「はあい……」

地味子「でも、よく考えたら」

女友「んー?」

地味子「すごく哲学的かも」


女友「うーん、そうかな?」

地味子「思春期特有の悩みってことじゃないかな」

女友「なやみ……」



女「……えべれすと。あっ、黙ってなきゃ」



女友「……あの子が、悩み?」

地味子「う、うーん……」

女友「ただの思い付きでしょ」

地味子「うん、そうだったらいいけど」

女友「そういえばさ」

地味子「なあに?」


女友「地味子。女の家族って生きてるよね?」

地味子「……」

女友「……えっ、なんで黙るのよ」

地味子「……私も、よくわからないの」

女友「どういうこと?」

地味子「一回も見たことないから」

女友「……私も」

地味子「女ちゃんも、はぐらかすし……」

女友「触れないほうがいいのかな」

地味子「……どうだろうねえ」


………

……



地味子「帰ろっか」

女友「私委員会あるから、先に帰ってて」

地味子「えっ、でも……」

女友「いいからいいから。ね?」

地味子「う、うん。女ちゃん、帰ろう」

女「2人っきり?」

地味子「そうだねえ」

女「女友、嫉妬するといいよ」

女友「うっさいうっさい。また明日ね」

女「ばいばい」

地味子「また明日」


女「地味っちゃん」

地味子「なあに、女ちゃん」

女「今日は橋の方から帰ろう」

地味子「うん、いいよ」

女「そうだ、河で遊ぼう」

地味子「遊ぶ? うーん、……おしゃべりしてよっか」

女「うん。コンビニ寄って飲み物買おう」

地味子「い、忙しいねえ」

女「めまぐるしい。私の人生」

地味子「人生かあ」

女「どうしたんだい」


地味子「ううん。……女ちゃんって」

女「……」

地味子「難しいことを考えてるんだねえ」

女「えらい?」

地味子「すごく偉いと思う」

女「ふふーん。まあね、まあまあね」

地味子「……でも、あんまり1人で悩まないでね」

女「わっつ?」

地味子「いつでも何でも、相談にのるから」

女「地味っちゃんは良い子」

地味子「ふふ、ありがとう」


女「シチューにパンを浸したら怒るだろうか」

地味子「え?」

女「女友」

地味子「あ、ああ……。怒らないんじゃないかなあ」

女「ほんとに?」

地味子「だって、そっちの方がおいしいもん」

女「わかってるね、お嬢ちゃん」

地味子「お嬢?」

女「河川敷に着いたら」

地味子「うん」

女「膝枕してあげる」

地味子「は、恥ずかしいってば……」


―河川敷―

地味子「わあ、いつの間にか整備されてたんだねえ」

女「ベンチもある。座ろ」

地味子「うん」

女「あら、デートみたいね」

地味子「ふふ。なに、その口調」

女「女性。大人の」

地味子「大人かあ」

女「うん」

地味子「女ちゃんは、免許どうするの?」

女「めんきょ……」

地味子「車の。卒業したらとる?」


女「とれるかな」

地味子「なんとかなるんじゃないかな」

女「あのね、私ね」

地味子「うん」

女「最低1人まで轢いてもいいなら、運転したい」

地味子「どういうこと!?」

女「この上なく事故るから」

地味子「やってみないとわからないよ」

女「やってからじゃ遅いのさ」

地味子「う、うーん……」

女「おしなべてそういうもの」


地味子「ネガティブだねえ。いつになく」

女「なのでこうして、地味っちゃんをキープしてるのです」

地味子「あはは……」

女「悪女と呼んでくれていいよ」

地味子「ううん、そんなこと言わないけど」

女「こう、事故る度に残機が減っていくシステム」

地味子「残機?」

女「3人轢いたら1アップ」

地味子「増えてる。増えてるよ」


女「ドライブしようね」

地味子「えっ、全力で拒否したいんだけど」

女「ひどい。愛せない」

地味子「じゃあ事故しないようにがんばろうね」

女「え?」

地味子「ん?」

女「地味っちゃんが運転だよ」

地味子「……」

女「ペーペードライバーだから」

地味子「ペーパー?」

女「そう、それ」

地味子「私、女ちゃんの助手席に乗ってみたいなあ」

女「キュンとした。がんばる」

地味子「うん、がんばって」


―――

女「ふんふふーん」

女友「おーい、おはよう」

女「ぐっもにん」

女友「どう、見つかった?」

女「なんじゃら」

女友「あんたの探し物よ」

女「私が昨日を生きた証拠かい?」

女友「そうそう」

女「ふっ」

女友「は?」

女「カビくさい話題だぜ」

女友「怒っていい?」

女「いやん」

女友「なによ、もう飽きたの?」


女「今は別のものを探してる」

女友「なにを?」

女「明日を生きれる保証……、かな」

女友「いちいち格好つけないでくれる?」

女「ごめんよ」

女友「あんた、自分探しの旅でもすればいいんじゃない」

女「あはは、そんなバカらしいことしないよ」

女友「どの口が言う……」

女「私は私なりに私を生きてるから」

女友「……はあ」


………

……



ギャル「はーあ……」

女「風が心地いいですなあ」

ギャル「ゲッ、なんでお前がいるん」

女「屋上で食べるご飯って、おいしいよね」

ギャル「答えになってないし」

女「いちゃダメ?」

ギャル「ダメじゃねーけど」

女「ふむ、ギャルちゃんは良い子」

ギャル「あーはいはい。……まあ座れば」

女「お邪魔します」


ギャル「地味子と女友は?」

女「ブラジルに……」

ギャル「お前好きだな、それ」

女「まあね」

ギャル「誉めてねーって」

女「……なにか、悩み事でもあるのかい?」

ギャル「はっ?」

女「そんな顔してる」

ギャル「あっそ……」

女「……」

ギャル「……はあ」

女「あっ、エクアドルだったかも」

ギャル「そこはどうでもいいわ」


女「ちょっと、風が強いみたいだ」

ギャル「ああ、そーな」

女「今なら、何を言っても風が掻き消してくれるよ」

ギャル「……」

女「……」

ギャル「お前、意外とおせっかい?」

女「ううん、普通におせっかい」

ギャル「あっそ……」

女「エクアドルって、バナナだったっけ」

ギャル「……なあ」

女「なにさ」

ギャル「あー、あれだよあれ」


女「うんうん」

ギャル「……す、好きな人とかいる系?」

女「……きゃっ」

ギャル「まっ、……真面目に答えろし」

女「どうだろう。よくわかんない」

ギャル「ふーん」

女「異性のことだよね?」

ギャル「……ああ、うん」

女「なるほど、よくわかった」

ギャル「んな、何がだよ」

女「恋してるんだろ。だろだろ?」

ギャル「バッカお前、はあ!?」


女「わかるよ。私ジッパーだから」

ギャル「エスパーだろ! お口にチャックしとけバカ」

女「顔真っ赤だぜ」

ギャル「う、う、うるさいし」

女「……恋の悩みか。いいね」

ギャル「……なんだっつーの」

女「誰よ、相手は」

ギャル「いやその、あの、……えへへ」

女「私!?」

ギャル「ぶっとばすぞ」

女「おー、じょーくよ」


ギャル「ったく……」

女「……」

ギャル「……おんなじ学年」

女「ふむふむ」

ギャル「……おんなじクラス」

女「なるほど」

ギャル「……男くん」

女「わお、それにはビックリ」

ギャル「誰にも言うなよ!」

女「任せて」

ギャル「ふん……」

女「けれど、男くん」

ギャル「お、おう」

女「通称えのきんぐ」

ギャル「マジで!?」


女「この前聞いた。小学生の頃のあだ名」

ギャル「……わけわかんね」

女「もやしよりマシでしょ、って言ってた」

ギャル「そういう問題じゃねーよ」

女「ギャルと男くんって、接点ある?」

ギャル「ねーから悩んでるんよ」

女「ごめんね、私も疎い」

ギャル「期待してないっての」

女「誰かに話した?」

ギャル「いやいや、ムリムリ」


女「なぜだい」

ギャル「うち、ギャルだし」

女「?」

ギャル「ガラじゃないんよ。あんなやつに恋してるとか」

女「へー」

ギャル「うちのイメージが崩れるっつーか……」

女「……ねえ」

ギャル「んあ?」

女「おかず、交換しようぜ」

ギャル「……」

女「……ダメ?」

ギャル「……いいけどさ」

女「サンキューベリーベリー」


ギャル「お前はぶれねーな……」

女「こ、これはとりてんじゃないか!?」

ギャル「ん、そーだよ」

女「いただきます!」

ギャル「ちょっ」

女「あっ」

ギャル「あーあ、落とすなし」

女「ごめんよ」

ギャル「や、別に。ほれ、もう一個やるよ」

女「ギャル、愛してる!」

ギャル「うるせー!」

女「うまうま」

ギャル「よかったな」


女「……ギャル」

ギャル「あー?」

女「さっき落としたとりてん、見てごらん」

ギャル「……うげ、もう虫が集ってやがる」

女「虫、嫌い?」

ギャル「そりゃ、まあ」

女「なんで?」

ギャル「ちょー最悪にキモいから」

女「私も嫌い。ゴキブリとか殺しまくり」

ギャル「ゴキブリはやべーからな」

女「でもね、猫は好きよ」


ギャル「うちは犬派」

女「きっと、その程度なんじゃないかな」

ギャル「なにがよ」

女「好きとか嫌いとか。恋だの愛だの」

ギャル「あー」

女「頭抱えるのなんて、バカらしいよ」

ギャル「そこまで言うか」

女「ゴキブリは嫌いだから殺す」

ギャル「うん」

女「猫は好きだから愛でる」

ギャル「まーな」

女「適当にやればいいと思うよ」


ギャル「身も蓋もないぞ」

女「どうせいつか冷めるんだから」

ギャル「ぷっ、そりゃそうだわ」

女「お弁当味わう方が大事」

ギャル「確かになー。あっ、佃煮もらい」

女「どんどん食べな」

ギャル「マジ?」

女「おうともよ」

ギャル「じゃあコロッケとブロッコリー、ソーセージにちくわ、あと……」

女「と、とりすぎ……」


………

……



女友「おっ、お帰り」

女「ただいま。ご飯にする? お風呂にする? それともタ・ワ・シ?」

女友「タワシでいいよ」

女「どうぞどうぞ」

女友「いらんわ! なんで持ってるのよ!」

女「トイレから持ってきた」

女友「殴らせろ。割とマジで」

女「ウソだぜ」

地味子「女ちゃん、どこに行ってたの?」

女「屋上」


地味子「なんでまた……」

女「それより、あのね」

女友「なによ」

女「2人は、好きな人いる?」

女友「へっ?」

地味子「えっ?」

女「きゃっ、女子高生みたいな会話ね」

女友「女子高生なんだけど。紛れもなく」

地味子「好きな人、かあ……」

女「どうよ」

地味子「女ちゃんのことは、好きだよ」

女「えー、……えへへ」


地味子「だから、私の好きな人は女ちゃん」

女「おめでとう、両思いだ」

女友「あんたらねえ」

女「女友は、どうなんだい」

女友「い、言わなくてもわかるでしょ」

女「好きか嫌いかで言うと?」

女友「……嫌いじゃないよ」

地味子「ふふ、上手く逃げたねえ」

女友「うっさいわ」

女「逃がさない」

女友「うっ……」

女「女友、言って」


女友「……す、好きだけど」

女「ススキ?」

女友「あー好き好き大好きアイラヴユー」

女「投げやり!」

女友「うっさいうっさい!」

地味子「でも、いきなりどうしたの?」

女「あのね、ギャルがね」

ギャル「やめろし!」

女「ぎゃー」

女友「ギャル?」

地味子「ギャルさん?」

ギャル「何でもないから!」

女「あっ、口止めされてたんだ」


女友「いやいや、口止めって」

地味子「怪しいねえ」

ギャル「おい女! お前の口は水素か!」

女「おお、ギャルらしからぬツッコミ」

女友「て言うか軽すぎでしょ」

地味子「ギャルさん、落ち着いて」

ギャル「と、とにかく。お前言いふらすなよ!」

女「あたりきしゃりきのこんこんちき」

ギャル「うあー、不安すぎる!」


―――

ギャル「……」

「えー、男は……」

「だよねー。なんかすぐキョドるし」

「つーかアレじゃん」

「それそれ」

ギャル「……あー、マジウケるね」

「あっち系だしね」

「わかるわかる」

「ギャルもそう思うよねー」

ギャル「……」

「どしたん?」

「ギャルちゃーん、聞いてる?」

「もしもーし」


ギャル「……あー」


女『適当にやればいいと思うよ』


ギャル「……マジ、ウケる、ね」

「……?」

ギャル(……痛すぎて。心とか、胸のあたりが)

「顔色悪くね?」

「だいじょぶ?」

ギャル「……マジ、男とか、ないわ」

「ぷっ。だよねー!」



女「……あーあ、だから言ったのに」

女友「うん?」

女「適当にやんなきゃ、ってね」


―通学路―

女「れりびー」

地味子「おはよう、女ちゃん」

女「やあ」

地味子「歌、好きなんだねえ」

女「どうしてわかった」

地味子「だって、いつも歌ってるもん」

女「うん。今度カラオケ行こうか」

地味子「カラオケかあ。いいね」

女「じゃあ行こう」

地味子「今から!?」

女「2人でカラオケ。女子高生みたい」


地味子「女子高生だよ。だからまず学校に行こう」

女「そうだね。手をつないで行こう」

地味子「え、ええ……、恥ずかしいよ」

女「いいのさ。幸せなら手をつなごう」

地味子「もう……」

女「ふんふーん」

地味子「ご機嫌だねえ」

女「なんちゃらうぃずだーむ」

地味子「れりびー♪」

女「れりびー♪」


地味子「あっ、そういえば」

女「なんだい」

地味子「前からずっと思ってたんだけど、その財布」

女「これ?」

地味子「ブランド品だよね」

女「む、そうなのか」

地味子「知らなかったの?」

女「うん。高そうな気はしてたけども」

地味子「誰かからのプレゼント?」

女「プレゼント……」

地味子「ちがった?」

女「形見だよ、これ」


地味子「か、形見って」

女「お母さんの形見」

地味子「……やっぱり、女ちゃんのご両親は」

女「……うん。地面の下にいる」

地味子「ごめんなさい。私、私……」

女「デパ地下のパートだから」

地味子「……え?」

女「毎日元気に働いてる」

地味子「え、ええと……」

女「たまに売れ残りが夕飯になる。悲しい」


地味子「じゃあ、形見っていうのはウソなの?」

女「ほんとだぜ」

地味子「……どういうこと?」

女「財布なくしたから、ほしかったんだ」

地味子「う、うん」

女「なので、お母さんにお古をもらったのさ」

地味子「……うん」

女「ね、形見でしょ?」

地味子「どこが!?」

女「だって、どうせ死ぬじゃないか」

地味子「形見になる予定ってこと?」


女「形見っていうのは、死んだ人が残すもの」

地味子「そうだよ。でも、女ちゃんのお母さんは生きてる」

女「絶対に死ぬんなら、死んだのと同じ」

地味子「そんな言い方って……」

女「そう、幽霊はいたんだ」

地味子「女ちゃん……」

女「私の夕飯は、幽霊が作ってるんだ」

地味子「女ちゃん!」

女「どうしたの」


地味子「……お母さんのこと、嫌いなの?」

女「どうだろう」

地味子「だって、そんなこと言うなんて」

女「生きてる人間に対してなら、憎んだり愛したりするけど」

地味子「……」

女「死んだ人のことなんて、どうでもよくない?」

地味子「……やめて」

女「……あれ? 地味っちゃんも」

地味子「やめてよ、女ちゃん」

女「地味っちゃんも、死ぬんだよね?」


地味子「もうやめて!」

女「だったらもう、死んでるも同然だ!」

地味子「お願いだから……」

女「……死んだ人のことなんて、どうでもいい、よね?」

地味子「……女ちゃん」



女「なんちゃって。ウソウソ」

地味子「……」

女「ほら、早く学校に行かなきゃね」

地味子「……うん」

女「だいじょうぶ。私は地味っちゃんを愛してるから」


………

……



地味子「……というのが、一年のころの話」

女友「いよいよ女がわかんなくなってきたわ」

地味子「うん、そうだねえ」

女友「でもまあ、親は生きてるんでしょ」

地味子「どこからどこまでがウソだったのか、私には」

女友「あー、そっか」

ギャル「てかさ、別にどーでもよくね?」

女友「正直、そうなんだけどね」


地味子「たまに、すごく気になっちゃう」

女友「脳天気かと思ってたら、どうでもいいことを悩んでたり」

ギャル「ほーん……」

女友「なによ、その顔は」

ギャル「や、愛されてんなーと思って」

女友「べ、別に愛してない!」

ギャル「はいはい」

地味子「ふふ……」




女「バラエティ番組と動物園の違いって何かな」

ぼっち「え、えっ……」


―――

女「や、や、ヤバげ」

女友「またご乱心?」

女「いいから目かっぽじって」

女友「失明するわ」

女「ほら、お股180度開く」

女友「ふつうにすごい!?」

女「だろだろ。そうだろ」

女友「体柔らかいんだね、あんた」

女「まあね。もっとほめて」

女友「わかったからさ、もう立ち上がりなよ」

女「……あ、これ無理っぽい」

女友「だいじょうぶ!?」


女「お、お股が痛い」

女友「待ってて、今保健の先生呼んでくるから」

女「やめろ!」

女友「いたっ!」

女「大したことないさ」

女友「いや、殴んなよ」

女「唾つけとけば治る。どうぞ」

女友「私の唾!? やだよ!」

女「だったら、さすって」

女友「ぶちのめす!」

女「ちょっ、落ち着け……」

女友「こらー!」

女「きゃーっ」


女「……」

地味子「頭、痛いの?」

女「女友がぶった。これは愛せない」

地味子「ふふ、からかいすぎだよ」

女「慰めプリーズ」

地味子「よしよし」

女「もっと激しくても、……いいよ?」

地味子「ごしごし」

女「痛い痛い!」

地味子「変なこと言わないの」

女「世知辛いぜ……」


地味子「あっ、そうだ。これ見て」

女「……折り鶴かい?」

地味子「折り鶴をストラップにしてみました」

女「かわいい。私も作る」

地味子「できるの?」

女「教えてくらら!」

地味子「うん、いいよ」

女「カバンに付けておそろいにする」

地味子「照れくさいねえ」

女「そして女友が嫉妬する」

女友「うっさいわ」


女「なにしてるの」

女友「課題。次の時間までにやっとかないとね」

女「ふーん」

女友「余裕あるな、あんた」

女「私ちゃんとやってるもん」

女友「へえ、意外だわ」

女「意外だと?」

地味子「女ちゃん、忘れ物したことないよねえ」

女友「ウソ!?」

女「ほんとだぜ」

女友「……うん、意外だわ」

女「私ってどんなイメージなのさ」


女「おい、メシの時間だ」

女友「あんた看守か」

女「今日のお弁当は野菜尽くしだぜ」

女友「おっ、きんぴらちょうだい」

女「交換ね。米よこせ」

女友「米かよ。米でいいのかよ」

女「あれ、地味っちゃん。それふりかけ?」

地味子「え、うん。ふりかけ、かな」

女友「……何これ」

地味子「ん、きな粉だよ」

女「うっそーん」


女友「絶対マズいでしょ!」

地味子「ちょっと、失礼なこと言わないで!」

女「じ、地味っちゃんが声を荒げたぞ」

女友「米にきな粉って、え!?」

地味子「合うもん! おいしいから!」

女「いただきます。……うん、甘い」

女友「どれ、……うん、甘い」

地味子「おいしいでしょ?」


女「いや、まあ……」

女友「うん、……うん」


地味子「もう、こんなに怒ったのは10年ぶりだよ」

女友「10年分があの程度って……」

女「ねえ、女友よ」

女友「どうしたの」

女「おかずにハンバーグが見えるんだが」

女友「間違いないね。ケチャップかかってるわ」

地味子「……なに、その目は」

女「ある種、尊敬の眼差し」

女友「まあいいや。いただきます」

女「いただきまーす」


女「おやつおやつ」

女友「私持ってきたよ」

女「良い子。おくれ」

女友「……まて」

女「わんっ」

女友「おて!」

女「わふっ」

女友「……かわいい」

女「なんだって?」

女友「なっ、なんでもないわ」

地味子「ねえ、そのやりとり毎回やるの?」

女「だって女友が」

女友「うっさいうっさい!」


美少女「……」



女「きゃっきゃ」

女友「うふふー」

地味子「あははー」



美少女「……素敵」

ギャル「なにが?」

美少女「ぶばら!?」

ギャル「おっ、驚きすぎじゃね」

美少女「……こほん。あら、ギャルさん。こんにちは」

ギャル「ちょりっす」

美少女「……ふむふむ」

ギャル「なっ、あんまジロジロ見んなし」


美少女「なるほど。顔面偏差値54、と」

ギャル「失礼にも程があんぞ、お前」

美少女「いつものクセよ。気にしないで」

ギャル「なおさらダメだろ」

美少女「それで、何の用かしら」

ギャル「や、だから、何が素敵なわけ?」

美少女「……」

ギャル「シカトかよ」

美少女「あなたには関係ないわ」

ギャル「まーそうだけど」

美少女「……なによ」


ギャル「お前さ、よく女のこと見つめてね?」

美少女「ひゅっ!?」

ギャル「うちさ、席お前の後ろだから」

美少女「だ、だからなに?」

ギャル「なんとなくわかるんだわ。授業中のお前の視線」

美少女「あらあら、そうなの」

ギャル「もしかして、お前って」

美少女「……」

ギャル「女に気があったりする系?」

美少女「しょ、そそ、そんなバカな!」


ギャル「へー、そういうことか」

美少女「どういうことよ!」

ギャル「なんでも。ま、がんばれよ」

美少女「厚化粧の分際で……」

ギャル「人は見かけによらないって、マジなんだなー」

美少女「黙ってて! 今女さんが可愛いわ!」

ギャル「ガチじゃん、お前……」



女友「どうしたの」

女「視線を感じた」

女友「気のせい気のせい」


………

……



女「かーえーろ」

女友「めんご。委員会だわ」

女「かーえーろ」

地味子「ごめんね。今日は部活なの」

女「かーえーろ」

ギャル「わりっ、先生に呼び出しくらってんだよね」



女「寂しいぜ」

美少女「うぉっほん!」

女「……」

美少女「……」


女「……」

美少女「あ、あら。今帰り?」

女「そうだが」

美少女「ふうん。ふうーん?」

女「……さよなら」

美少女「ちょっと待ちなさい!」

女「なんだい」

美少女「……ケロケロ」

女「カエル?」

美少女「そうね、いっしょに帰りましょう!」

女「おお、ハメられた」

美少女「ひ、人聞き悪いわね」

女「まあいいや。帰るケロケロ」


―――

女「……で、その時歴史が動いて」

美少女(可愛い)

女「聞いてんのか」

美少女「えっ!? ……ごめんなさい、ぼーっとしてたわ」

女「気分を害した。著しくね」

美少女「そんな!」

女「つーん」

美少女(……やっぱり可愛いわ!)

女「今私は不機嫌だぜ」

美少女「……なにか食べに行きましょうか。奢るわよ」

女「ありがとう」

美少女(こちらこそ!)


………

……



女「ふんふーん」

美少女(予期せずデートみたいになったわね)

女「美味しかったね、パフェ」

美少女「ええ、ほんとに」

女「お礼にちゅうしてあげる」

美少女「うん!?」

女「いやかい?」

美少女「やぶさかでも無きにしも非ず!」

女「じゃあ、目を瞑りなさい」

美少女(いやん、吸い尽くして!)


女「……ちゅっ」

美少女(きゃー!)




美少女「……うふふ」

美少女「あっはーん! 妄想終わり! おやすみ女さん!」

美少女「……」

美少女「……」

美少女「……いやーん! だめだめえっ!」

美少女「……」

美少女「……」

美少女「どこからどこまでが妄想だったかしら……」


―通学路―

女「ぴよぴよ」

美少女「おっ、おはよう女さん」

女「……ん?」

美少女「えっ」

女「……おはようございます」

美少女(なぜ敬語)

女「……」

美少女「昨日は楽しかったわね!」

女「昨日……?」

美少女「ほら、昨日の放課後よ」

女「昨日の放課後。私は1人寂しかったんだが」

美少女(……なるほど。あれは妄想だったと)


女「君は楽しかったの?」

美少女(至極ハッピーだったわ。妄想の中で)

女「……そうだ。君は美少女ちゃんだ」

美少女「その程度!?」

女「な、なにが」

美少女「私への興味よ!」

女「だって、これが初めての会話よ」

美少女(ウソ……。幼なじみ設定はどこに行った!)

女「悩み事でもあるの?」

美少女「どうして?」

女「難しい顔してる」


美少女「……もう、ハッキリさせましょう」

女「はあ」

美少女「私たちって、どういう関係なの?」

女「こっちが聞きたいんだけど」

美少女「……そう。そうなのね」

女「あっ、クラスメイトじゃないか」

美少女「もう知らない! 女さんの鈍感!」

女「ま、待って」

美少女「なにかしら」

女「そこは待つんだ」

美少女「申し開きができるのかしら?」


女「私、なにも悪いことしてない」

美少女(その可愛さは罪よ! 有罪!)

女「なので、あまり怒るなよ」

美少女「お、怒ってないわ」

女「ほら、一緒に学校へ行こうぜ」

美少女(……笑顔がまぶしい)

女「今から私たちは友達ね」

美少女「……し、仕方ないわね」

女「変なやつ」

美少女「変じゃないわ。恋よ」

女「誰に恋してるの?」

美少女「ななな、忘れて!」


………

美少女「あら、おはよう」

ギャル「んあ? ……ああ、おはよう」

美少女(……まさか)

ギャル「ど、どったん?」

美少女「私たち、これが初めての会話?」

ギャル「ああ、そーかもな」

美少女(……こいつとの妄想なんていらないのに!)

ギャル「今すごく失礼な顔してんぞお前」


美少女「……」



女「……うーむ」

女友「ものすごく見られてるよ、あんた」

女「やはり私か」

女友「なんかしたの?」

女「友達になったんだが」

女友「ふうん。美少女さんと?」

女「うん」

女友「ふうん。へえ、あっそ」

女「どうしたの」

女友「べつに。ねえ、手繋ごうか」

女「いいの? やった」



美少女「……ぐっ」


美少女(……邪魔ね。女友さん)

美少女(女友さんだけじゃない。地味子さんも、ギャルさんも)

美少女(女さんは、友達少ないから)

美少女(……あいつらがいなければ)

美少女(私に依存するんじゃないかしら)

美少女「……今夜の妄想はこれでいきましょう」

美少女「……」

美少女「あいつらが、いなければ……」


美少女(妄想の中では、女さんはいつも裸で)

美少女(私を横目で見ながら、頬を染めるのに)

美少女(私の胸の中で、愛の言葉を囁いて)

美少女(私を足蹴にして、汚い言葉で罵って)

美少女(私の指使いで、綺麗な秘部を濡らすのに)

美少女(滴る汗が艶めかしくて)

美少女(振り乱した髪が荒々しくて)

美少女「綺麗」

美少女「すごく綺麗よ。女さん」


美少女(誰にも見せないような顔)

美少女(誰にも言わないような言葉)

美少女(無垢な蜜壷)

美少女(舐める)

美少女(美味しい)

美少女(舐める)

美少女(美味しい)

美少女(私だけが愛して、私だけを愛する)

美少女(妄想の中の、あなたは……)

美少女(女さん)

美少女(私は、変態です)

美少女(認めるから)

美少女(……焦らさないで)


………

……



美少女(……やってしまった)

美少女(とうとう、やってしまった)

美少女(殺した。女友さん。ギャルさん。地味子さん)

美少女(女は、私のものになったけど)

美少女「……なんとなく、申し訳ないわね」

美少女「……」

美少女「……」

美少女「……妄想の中で、だけれど」

美少女「殺したのには、変わりないわ」

美少女「そうでしょう、女」


美少女(学校には行けない)

美少女(だって自信がない。本当にあれが)

美少女(あれが、妄想の中の出来事だったのか)

美少女(そうだとしても、顔を合わせられない。きっと)

美少女(でも、もういい)

美少女(女は、私のものだから)



女「んばあっ」

美少女「ひょっ!?」

女「こんちは」

美少女「お、お、……女?」

女「そうだぜ」


美少女「……」

女「どうしたの?」

美少女「なぜここに……」

女「プリント。届けにきた」

美少女「あっ」

女「もう3日だけど、風邪かい?」

美少女「……ええ」

女「そっか。早く治るといいね」

美少女(……これは)

女「この部屋ちょっと暗くね」

美少女(現実、よね)

女「カーテン開けていい?」

美少女「ど、どうぞ」

女「おっしゃー」


美少女「女、……女さん」

女「心配したよ。体調不良って聞いたので」

美少女「えっと、ごめんなさい」

女「いいのさ。友達だろ」

美少女「……」

美少女(それは、私の求めてるものとだいぶ違ったけど)

美少女(……すごく、嬉しかった)

美少女「……ありがとう、女」

女「おうとも」

美少女(結局、私の妄想は妄想だったわけで)


美少女(誰にも見せないような顔も)

美少女(誰にも言わないような言葉も、欲しかったけれど)

美少女(誰にでも振りまく素敵な笑顔)

美少女(誰にでも言う気兼ねない言葉)

美少女(そんな女に、恋してたんだと思ったり)

美少女「ねえ、女」

女「なんだい」

美少女「明日は、学校に行けそうな気がするわ」

女「ふうん。……わっ、派手な下着はっけん!」


美少女「ちょちょ、勝手に漁らないで!」

女「このピンク色のローターみたいな物はなんだ!?」

美少女「ピンクローターよ!」

女「使ってみよう」

美少女「ダメ! いやっ、やっぱりどうぞ」

女「どっちだよ」

美少女「他にもいろいろあるわよ!」

女「すごい。ドン引き」

美少女「こっちに来なさい!」

女「あ、愛せない……」




美少女(……現実は、妄想以上に楽しかったです)


―――

女友「……で、女」

女「うん」

女友「その人、すごく気になるんだけど」

美少女「……」

女「それはきっと恋だよ」

女友「真逆の感情だわ」

美少女「……」

女友「なんで睨むの」

女「熱い視線ってやつ? ひゅーっ」

女友「グーでぶつよ」

女「や、やめれ……」

美少女「……」

女友「……なんか言えよう!」


美少女「……あなたはライバルだから」

女友「いきなりなに?」

美少女「女は渡さないわよ」

女友「いつ女があんたの物になったのよ」

美少女「いつもいつでも」

女友「うっさい! なんなのあんた!」

美少女「あなたこそ! この泥棒雌豚!」

女友「猫じゃなく!?」




女「地味っちゃん、帰ろー」

地味子「い、いいの? 放っておいて」

女「我関せず」

地味子「……なら仕方ないね」


………

……



女「と言うわけで女友さん、中間テストが返却されましたね」

女友「そうですね、女さん」

女「みんなの平均的を発表したいと思います」

女友「お願い、やめて」

女「まずは地味っちゃん。82点」

女友「うわ、微妙……」

女「美少女。95点」

女友「あいつ頭良かったんだ……」

女「ギャル。27点」

女友「ぷっ。期待を裏切らないね」


女「続いて女友」

女友「おい、やめろ」

女「16点。……16点」

女友「二回言うな!」

女「追試がんばれよ」

女友「うっさい……。で、あんたは?」

女「私? 91点」

女友「もう一回言ってみ?」

女「91点」

女友「……なんで?」

女「まあ、あれかな。才能とか、そこら辺」

女友「……勉強教えて」

女「ふふーん。任せるといいよ」


美少女「話は聞かせてもらったわ」

女友「あっそ。じゃあね」

美少女「待ちなさい16点!」

女友「あんた宇宙のチリにしてやろうか?」

美少女「私も勉強教えてあげるって言ってるのよ」

女友「美少女……、実は良いやつだったんだね」

美少女「なに言ってるのよ、友達でしょう」

女友「うう、ありがとう」

美少女「で、勉強会は女さんの家でやるのよね?」

女友「ううん、私の家」

美少女「じゃあね」

女友「清々しいな、おい」


美少女「はーあ、萎えたわ」

女友「……」

美少女「女さんの家に上がれると思ってたのに」

女友「……」

美少女「ふぁーあ……」

女友「ねえ殴っていい? わかった」

美少女「痛い痛い! 許可してないわよ!」

女友「失礼を固めて人型にしたらあんたみたいになるんだろうね」

美少女「それじゃあただの失礼じゃない」

女友「あっ!」

美少女「なにかしら」


女友「あんたが来ないんなら、女と二人っきり……」

美少女「行くに決まってるでしょう? 案内しなさい」

女友「ほんと清々しいね」

美少女「あなた、途中で席を外しなさいよ」

女友「どれくらい?」

美少女「三時間くらい」

女友「何するつもり?」

美少女「それはもう、ピンク色のローターみたいな物で色々と……」

女友「うん、あんたやっぱり帰れ」

美少女「いじわる!」


―――

美少女「お待たせ、女さん」

女「またさん付けになってる」

美少女「あっ、もう私ったら……」

女「どうでもいいけど」

美少女(どうでもいい!? マイハニーとかでもいいのかしら……)

女「女友や」

女友「なによ」

女「急用が入ったから、今日は行けません」

女友「はあ!?」

女「ごめんよ。バイバイ!」

女友「あっ、ちょっと。……行っちゃった」


美少女(ハニー……。素敵な響きね)

女友「ねえ。おいってば」

美少女「なんだいマイハニー。って、あなたか……」

女友「女、どっか行っちゃったんだけど……」

美少女「そう。また明日ね」

女友「まてまてまて!」

美少女「あら、初めまして」

女友「あんたホントにムカつくな!」

美少女「うるさいわねえ。何の用?」

女友「だ、だから……、明日追試なんだって」


美少女「それで?」

女友「それでって……」

美少女「……」

女友「……」

美少女「……」

女友「……う」

美少女「ふっ!?」

女友「ぐすっ、うっ、……ひぐっ」

美少女「ちょっと待って泣かないで!?」

女友「べ、勉強って、ひっ、言ったのにっ、ひぐっ」

美少女「ごめんなさい私が悪かったから! ね!?」

女友「うええ……、ぐすっ」

美少女「あわわわわ……」


美少女(どうしましょう、泣かせてしまったわ)

美少女(ちょっといじわるするだけのつもりが……)

美少女(どうしてこうなった)


女友「うええん……」


美少女(……待て、落ち着け)

美少女「……」

美少女(泣き顔……)

美少女(……かわいい)


美少女「わかったわ!」

女友「ひっ!?」

美少女「私が一肌脱ぎましょう!」

女友「大声出すな、バカ……」


………

……



美少女(その後私は、女友さんの家で)

美少女(想像以上にかわいかった女友さんとあんな事やこんな事を)

美少女(勉強そっちのけでしたのでした)

美少女(っていう妄想もアリね)


女友「……ここわかんない。教えて」

美少女「ここはね、まず高さを求めて……」

女友(なんで急に優しくなったんだろ、この人)

女友(……裏がありそうで怖いんだけど)


美少女「次は現代文にしましょう」

女友「あー、一番苦手かも……」

美少女「私が問題を作ってみたから。まずはこれを朗読しなさい」

女友「朗読? ……なになに」

美少女「会心の出来よ」

女友「『美少女、大好き……』そう言って女友は腰を振りました」

美少女「もっと感情こめて!」

女友「憎しみをこめればいいの?」

美少女「冗談だから! 蹴らないで!」


女友「私が腰振ってどうなんのよ!」

美少女「知りたい?」

女友「その右手に持ってるピンク色のローターみたいな物はなに?」

美少女「ピンクローターよ」

女友「や、やめて!」

美少女「まずは先っちょだけだから!」

女友「全部入れるつもりじゃん!?」

美少女「待ちなさい!」

女友「勉強させてー!」


………

……



美少女「ねえ」

女友「なによ」

美少女「あなたの母親、すごく怖かったわ」

女友「出禁にならなかっただけありがたく思え」

美少女「あら、つまり……」

女友「……」

美少女「また来てもいいっていうことかしら」

女友「……好きにすれば」

美少女(かわいい)

女友「友達なんだし」

美少女「まだそこ!?」

女友「調子に乗るな!」


―――

女「良かったじゃないか」

女友「良くないわ」

女「みんな仲良し」

女友「ふんっ」

女「しかし女友、モテモテですなあ」

女友「なに言ってんの。美少女はあんたを狙ってるのよ」

女「なんと」

女友「モテモテですなあ」

女「えへへ」

女友「受け入れんな」

女「みんな良い子。愛せるよ」

女友「はあ……」


ギャル「……なあ」

地味子「なあに?」

ギャル「お前さ、あれだ。かわいいよな」

地味子「えっ、私が?」

ギャル「うん。なんつーか、地味にかわいい」

地味子「あはは……。地味っていうのはよく言われるけど」

ギャル「かわいいは?」

地味子「あんまりかなあ」

ギャル「ふーん」

地味子「あっ、でも女ちゃんたちは言ってくれるよ」


ギャル「それだわ」

地味子「それって?」

ギャル「今の。今やった仕草」

地味子「仕草?」

ギャル「もっぺんやって!」

地味子「こ、……こんな感じ?」

ギャル「おー、……女子っぽい」

地味子「女子だもん……」

ギャル「やっ、すごくいいわ。なるほどねー」

地味子「どうしたの?」

ギャル「参考にしようかなってさ」


地味子「参考って?」

ギャル「ないしょ」

地味子「ふふ。変なギャルちゃん」

ギャル「けど、仕草って言ったらさー」

地味子「うん」

ギャル「女って、なんかオーラあるよな」

地味子「オーラはよくわかんないけど、お嬢様みたいな感じかも」

ギャル「背筋とか、ピーンだし」

地味子「手もね、いつも前で組んでるんだよ」

ギャル「マジ? それは気づかなかったわ」


地味子「他にもいっぱいあるんだよ」

ギャル「あいつ、ほんとよくわかんねーよな」

地味子「女ちゃんって実は優等生なんだから」

ギャル「優等ねー」

地味子「確かに、言動とは少しギャップがあるかもだけど」

ギャル「その、ギャップっての」

地味子「うん」

ギャル「いったい、どっちが素なんだろーな」

地味子「素って……、どっちも女ちゃんだよ」


ギャル「ま、それはそうだよな」

地味子「う、うん」

ギャル「……ちょっと、うらやましいかも」

地味子「うらやましい?」

ギャル「そういう風に受け入れてもらえて」

地味子「ギャルちゃん……」

ギャル「あいつらも地味子みたいな感じだったらなー。なんつって」

地味子「……何かあったの?」

ギャル「ないしょー! じゃーね」

地味子「ちょ、ちょっと……」


―――

女「泣きそう」

女友「どうしたのさ」

女「鍵がなくなった」

女友「鍵って、なんの」

女「ロッカー。これじゃあ教科書が取り出せない」

女友「ちょっと待て。ロッカーに鍵なんて付いてないでしょ」

女「自分でつけたの!」

女友「わかったから怒んないでよ」

女「防犯はいつも自分に牙を剥くんだぜ」

女友「ていうか防犯って……」


女「いやになっちゃうね」

女友「で、鍵の心当たりは?」

女「体育の前まではあったはず」

女友「じゃあここから更衣室までかな」

女「一緒に探してくらら……」

女友「うん、わかったよ」

女「やっぱり女友は良い子。好きよ」

女友「はいはい」

女「冷たい……」

女友「時間ないんだから、ちゃっちゃとやるよ」

女「はーい」


女友「教室は探した?」

女「おうともさ。地味っちゃんのスカートの中まで探したぜ」

女友「どうだった?」

女「怒られた。そして水色だった」

女友「ちがうわ。鍵の話」

女「なかった。ショーツの中まではわからないけど」

女友「よく聞いて、女」

女「なんだい」

女友「スカートの中に鍵はないから!」

女「うっそーん……」

女友「なんで落ち込む!?」


女「だって、それじゃあ見れないじゃないか」

女友「後からいくらでも見せてあげるから」

女「ほんとに?」

女友「美少女が」

女「なるほどね」

女友「とにかく、次は廊下を探そう」

女「がんばれよ」

女友「い、く、よ!」

女「わ、わかりました……」

女友「……あんたって、探し物ばっかりだね」

女「なくす物が多いからじゃない?」

女友「私に聞かれても困るけど、さ」


………

……



女「ねえ」

女友「なによ」

女「鍵、あった?」

女友「それらしい物は、なかったよ」

女「こんなに探したのに……」

女友「まあほら、ドンマイ……」

女「うわ、ドンマイって」

女友「ん?」

女「今時ドンマイって……」

女友「え、うそ。死語?」

女「もはや成仏した言葉だね」


女友「知らなかったわ。ちょっとショック」

女「うふふ、ドンマイ」

女友「使ってるじゃん!」

女「まあね、便利だから」

女友「あんたねえ……」

女「それよりさ」

女友「うん」

女「鍵、どうしよう」

女友「とりあえず、次の授業は仕方ないね」

女「あっそ」

女友「次の授業が終わったら、ハサミとか使って壊せばいいんじゃない?」


女「ハサミで壊れるかな」

女友「がんばれ」

女「あの鍵、結構高かったんだが」

女友「仕方ないって。帰り何か奢ってあげるから」

女「ありがとう。愛してるよ」

女友「うっさいわ」



ぼっち「……あ、あの」

女友「ん?」

ぼっち「あ……」

女友「……どうしたの?」

ぼっち「か、鍵、これ」

女友「あっ、これって」


女「わ、わ、私のロッカーの鍵!」

ぼっち「わっ」

女「やったー。ありがとうね」

ぼっち「ううん、べつに……」

女友「ぼっち、ちゃんが見つけてくれたの?」

ぼっち「あ、……うん。その、体育の時に更衣室で」

女「ありゃ、そうだったのか」

ぼっち「そ、それでさっき、何か探してるみたいだったから……」


女「とにかく助かったぜ」

ぼっち「う、うん……」

女友「もう、それならそうと早く言ってくれれば……」

ぼっち「……」

女友「……?」

ぼっち「……ごめん、ね」

女友「あ、いや、謝るようなことじゃ、ないけどね」

ぼっち「……」

女友「……えっと」

ぼっち「……」

女友「……」

女「……?」


………

……



女友「帰ろ、女」

女「今日委員会なんだよね」

女友「あんたやってないでしょ、委員会」

女「いつもの仕返し」

女友「いつもって。たかだか週一でしょうが」

女「それだけ私は寂しいってことさ」

女友「はいはい。わかったから帰るよ」

女「素っ気ないね」

女友「そうかな。ま、私だし」

女「ふうん」


女友「ねえ」

女「なんだい」

女友「あんたって、ぼっち、ちゃんと仲良かったっけ」

女「話したこともなかったよ」

女友「そっか」

女「それがどうしたの?」

女友「……別に」

女「気になる」

女友「あんたってさ、誰とでも仲良いようなイメージあるけど」

女「まあね」

女友「実は、友達少ないよね」

女「やめて。それは現実という名の刃よ」


女友「あ、ごめん」

女「べつにいいけどね」

女友「友達少なくても?」

女「こればっかりは、量より質だよ」

女友「質、ねえ……。怪しいもんだわ」

女「私の友達はみんな良い子だから」

女友「裏ではみんな、腹黒いこと考えてたりして」

女「考えるだけなら自由だよ。私の中では二回地球滅んでるし」

女友「じゃあ、例えばね」

女「うん」


女友「もし私が、あんたを傷つけるようなことしたらどうする?」

女「さあ、どうだろうね」

女友「ちょっと。少しは考えてよ」

女「考えてもわからないって、考える前にわかったから」

女友「なによそれ……。真面目に聞いたのに」

女「逆に、それを聞いてどうしたいの?」

女友「……べつに、どうってことはないけど」

女「あのね、私はね」

女友「うん」


女「女友のことは嫌いになれないと思う」

女友「どうして?」

女「私あれだから。エムっていうの?」

女友「smのエム?」

女「そう、それ。冷たくされたら感じちゃう!」

女友「そのまま凍死しろ」

女「いやん、冷凍ギョーザも真っ青ね」

女友「真面目だって言ってるでしょ!」

女「あれ、怒った?」


女友「そろそろ手がでるよ。気をつけて」

女「逆効果! その忠告すら私に火をつける!」

女友「おりゃ」

女「痛い。……えっ、叩かれた」

女友「そこは感じなさいよ」

女「わかった、私エスだ。一発叩かせて」

女友「私はエムじゃないから!」

女「エスとエスのカップルは、お互いに傷つけあうのかな」

女友「ただのケンカじゃん、それ」


―――

女「ここが私の家だよ」

女友「知ってるから」

女「待ってて、今鍵を開けるから」

女友「え、いいよ。私帰るから」

女「ダメ。エスとエスの化学反応を確かめないと」

女友「私ノーマルだから。じゃあね」

女「あっ」

女友「ん?」

女「……」

女友「なに。そんな目で見ても私帰っちゃうからね」

女「……家の鍵、無くした」


女友「……あ、あー」

女「……」

女友「よくあるよくある! じゃあね!」

女「そうねえ」

女友「ちょっと、腕掴まないで」

女「お母さんが帰ってくるまで、一緒にいてあげるわ」

女友「それこっちのセリフだから」

女「ほら、こっちきて座りな!」

女友「まったく……」

女「今日は厄日だね」

女友「ただの不注意じゃない?」


女「返す言葉もない」

女友「いつ帰ってくるの、お母さん」

女「たぶん、一時間もしないと思うけど」

女友「ま、それくらいならいいかな」

女「女友は、お母さんを見るの初めてだっけ」

女友「うん、そうだね」

女「見た目がさ、似てるの。私とお母さんって」

女友「へえ、母親似なんだ」

女「だからってお母さんに惚れたら許さないから」

女友「私はあんたのなんなんだ」


女「まあ、それは置いといて」

女友「うん」

女「私は、女友のこと、好きだよ」

女友「うっさい」

女「特にね、誰に対しても同じように接するところ」

女友「……ちょっと、なに言ってんの」

女「言いたくなったから言っただけ」

女友「勢いで告白しないでよ……」

女「うん、そうだね」

女友「……」

女「……」

女友「……私さ」

女「うん」


女友「一年の時、ぼっちちゃんと同じクラスだったんだ」

女「なるほどね」

女友「最初はね、席が隣だったから、よく話してたんだけど」

女「うん」

女友「席替えして他の人たちと仲良くなってからは、あんまり」

女「だんだんグループできちゃうもんね」

女友「……その、ぼっちちゃんが一人だったことには、気づいてたんだけど」

女「……」


女友「それで、今日」

女「うん」

女友「ぼっちちゃんから、話しかけられて」

女「……うん」

女友「……傷つけちゃった。ただの軽口で、冗談みたいなものだったのに」

女「私なら、そう受け取ると思うよ」

女友「……きっと、私はまだ友達のつもりでいたんだろうね」

女「……」

女友「……なんか、いやになっちゃうな」

女「そっか」


女友「自分に、嫌気がさすな」
女「そっか」

女友「自分勝手だよね、私」

女「そうだね。とっても自分勝手な、普通のこと」

女友「……普通、なのかな」

女「この子は自分に心を開いてくれてるっていう、優越感みたいなもの」

女友「……」

女「そう思うほうが、気分がいいから」

女友「わからないんだよね。……なんで私、ぼっちちゃんと話さなくなったんだろ」


女「つまらないからだよ」

女友「……そんなことない」

女「めんどくさくなったんだよ。誰に対しても、良い子ぶるのが」

女友「そんなこと!」

女「だいじょうぶ、安心して」

女友「なにが言いたいの!」

女「裏でなにを考えてても、私は女友のこと嫌いになれない」

女友「……」

女「さっき、言ったよね」

女友「……私、は」


女「一人くらい友達を見限ったって」

女友「見限ってなんか……」

女「女友は良い子。愛せるよ」

女友「……」

女「だから気にしないで。だいじょうぶだから」

女友「……ねえ」

女「なあに?」

女友「あんたは私を、励まそうとしてくれてるの?」

女「うん、そうだよ」

女友「……それが、励ましになるって思ってるの?」

女「もちろん」


女友「……」

女「……?」

女友「……なんでもない」

女「……うん」




「なにか話し声がすると思ったら。帰ってたのね、女」

女友「えっ?」

女「……ただいま。お母さん」

母「おかえり。そっちの子は、お友達?」

女友「なんで……」

女「うん。女友」

母「初めまして。うちの娘がお世話になってます」

女友「……」


母「あら、どうかした?」

女友「……ずっと、家の中にいたんですか?」

母「ええ。今日はお仕事休みだから」

女友「鍵は……」

母「掛けてなかったわよ。ふふ、不用心だったかしら」

女友「い、いえ。なんでもないです」

母「あ、上がっていくならお茶でもだすわよ?」

女「ううん。もう帰るって」

母「あら、残念ね。またいつでもいらっしゃい」


女友「あ、ありがとうございます」

女「お母さん、先に入ってて」

母「はいはい。それじゃあね、女友ちゃん」

女友「……はい」

女「……」

女友「……」

女「どう、ビックリした?」

女友「鍵、掛かってなかったんじゃん」

女「うん」

女友「なんでウソついたのよ」

女「だって、女友と少し話したかったから」

女友「だからって。あんたねえ……」


女「話したかったんだ。ドアを開ける前に」

女友「そうならそうと言ってよね」

女「ねえ、女友」

女友「……まだ何かあるの?」

女「人の心も、こんな風に」

女友「……」

女「勝手に開いちゃうなら、楽なのにね」

女友「……今度は、あんたの話が聞きたいな」

女「今日はもう、さようなら」

女友「うん。バイバイ」

女「……愛してるよ、女友」




女友「……私だってそうだよ、ばか」


―――

美少女「あら」

女友「げっ」

美少女「おはよう」

女友「……おはよう」

美少女「今日は気持ちのいい一日になりそうね」

女友「そう? ムシムシしてていやだな、私は」

美少女「なぜならば!」

女友「ひっ!?」

美少女「……」

女友「……」

美少女「……朝から、あなたに会えたんだもの」

女友「……あんたも大変ね。主に脳内が」


美少女「手相を見せなさい」

女友「ちょっ、いきなり触んないでよ」

美少女「あら、どうして?」

女友「ゾクッとするから」

美少女(ゾクッと……?)

女友「……?」

美少女(手が性感帯なのかしら)

女友「多分だけど、違うから」

美少女「残念ね」

女友「で、なに。手相?」

美少女「そうよ。見せなさい」

女友「まあ、いいけど」


美少女「ふむふむ」

女友「どうよ?」

美少女「結論から言うと」

女友「うんうん」

美少女「水難の相が出てるわ」

女友「えっ、ほんとに?」

美少女「間違いない。あなた、溺れるわよ」

女友「いやいや……」

美少女「私に、ね」

女友「絶対そうくると思ってたわ」

美少女「私との恋に、ね」

女友「なんで言い直すの?」


美少女「うふふ。楽しいわね」

女友「ねえ、あんたってさ」

美少女「なにかしら」

女友「本気で、女の子が好きなの?」

美少女「……えっ」

女友「……」

美少女「……いまさら?」

女友「……いまさら」

美少女「そうねえ……」

女友「うん」

美少女「私は、あなたも女ちゃんも好きだから」

女友「う、うん」

美少女「少し、違うわね」


女友「違うって、なにが?」

美少女「例えば私、女の子が好きだと言ったら」

女友「うん」

美少女「あそこにいる不細工や、向こうにいる性悪まで守備範囲ってことになるでしょう?」

女友「おい」

美少女「あいつらは決まってこう言うの。『女の子好きとか気持ち悪い』」

女友「うーん、まあ」

美少女「自分の顔面の方が数倍気持ち悪いのにね」


女友「ふふ。清々しいね、ほんとに」

美少女「だから私は、女友ちゃんっていう一人の人間が好きなのよ」

女友「……ありがと」

美少女「女ちゃんも大好きよ。三人で一緒に暮らさない?」

女友「……いいよ?」

美少女「よっしゃ、やったあ!」

女友「冗談に決まってるでしょ」

美少女「ウソよ! デレてたもの!」

女友「まあ……、少しはね」


美少女「私の時代がきたわ……!」

女友「三人で、っていうかさ」

美少女「ん?」

女友「ずっとみんな、仲良しでいたいなあ、って」

美少女「ああ……」

女友「思わない?」

美少女「アリね。この焦らし好きめ!」

女友「うっさいわ」


―帰り道―

女「ねえ」

地味子「なあに?」

女「カラオケ行こうよ」

地味子「あ、約束してたね」

女「うん。行こ?」

地味子「でも、制服のままだとダメだよ」

女「あ、そっか」

地味子「ふふ。悪い子になっちゃうよ?」

女「よろしくないね、それは」

地味子「そうそう、ギャルちゃんもびっくりしてたんだけどね」

女「なんの話?」


地味子「女ちゃんの姿勢が素敵、っていう話」

女「いやん。恥ずかしいわ」

地味子「私もすごいと思うなあ」

女「まあね」

地味子「習い事とか、してたの?」

女「お琴を少々」

地味子「わあ!」

女「ウソだぜ」

地味子「……もう」

女「ごめんごめん」

地味子「知らない」

女「ありゃりゃ……」

地味子「……ふふ。女ちゃんって、本当に不思議だねえ」


女「不思議?」

地味子「うん。私、女ちゃんのこと、もっとよく知りたいな」

女「私のこと、好きなのかい」

地味子「もちろん」

女「私、良い子なのかな」

地味子「そう思うよ?」

女「そっか。良かった」

地味子「良かった?」

女「ねえ、地味っちゃんはさ」

地味子「うん」

女「すごく素敵。私の理想の女の子だよ」

地味子「て、照れるよ……」


女「私、ずっとそうなりたかった」

地味子「う、ん……?」

女「私を構ってくれないの。仕事が忙しいって言って」

地味子「……ご両親のこと?」

女「良い子になれば、愛してもらえると思った。だから、がんばったんだよ?」

地味子「……そうだったんだ」

女「なのに、お父さんもお母さんも仕事に夢中なの。今だって、そう」

地味子「だから、あまり家にいないんだね」


女「多分私、悔しいんだと思う」

地味子「悔しいって……?」

女「良い子だから愛してもらえるんじゃないって、気づいた」

地味子「そうかなあ」

女「女友も、地味っちゃんも、羨ましい」

地味子「私が?」

女「愛してもらえてるから、そんなに良い子なんだよね」

地味子「うーん……」

女「でも、良い子にしてればいつか愛されるかなって、ちょっと期待してる」


地味子「うん」

女「そんな願いをこめて。良い子はみんな、愛せるよ」

地味子「女ちゃん。私ね」

女「なんだい」

地味子「女ちゃんのこと、好きだよ」

女「ありがとう。両想いだ」

地味子「それじゃあ、足りないの?」

女「私の愛されたかった16年間にはね」

地味子「私たち、もっと早く出会ってれば良かったねえ」

女「……」


地味子「どうしたの?」

女「嬉しそうだね」

地味子「嬉しいよ。女ちゃんのこと、知れたもん」

女「……地味っちゃん、変な子」

地味子「愛してくれる?」

女「もちろん。大好きだよ」

地味子「やっぱり、照れるね」

女「……そうかもね」


地味子「そうだ。今度は私の悩み、聞いてくれる?」

女「ばっちこい」

地味子「美少女ちゃんに距離を置かれてる気がするの……」

女「……」

地味子「なんでだろ。私、なにかしたかなあ」

女「うん。たぶん、気にしない方がいいと思うぜ」

地味子「そう?」

美少女「聞き捨てならないわ!」

女「……」

地味子「……」


………

……



女友「男くんがさ、ギャルに告白したんだって」

女「ふうん。結果は?」

女友「あ、聞いてないや」

女「そこ一番大事なんだが」



美少女「女さんのお弁当、自分で作ってるらしいわね」

女「うん。家庭的な女よ、私」

美少女「結婚して!」

女「まず法律を変えてきてね」

地味子「あはは……」


女「結局、私たちのちっぽけな悩みなんて一つも解決されなくて」

女「かすり傷をみんなで舐め合うだけの、ペロペロするだけの人生」

女「それがいつか、飴玉みたいに消えてなくなることを思って」

女「私は、少しだけ薄くなった傷跡を指でなぞり」

女「今日もみんなと、変わらない日常を謳歌しています」




おわり

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