少女「小さな町の」男「珈琲店」 (25)

ーこれはとある町にある小さな珈琲店を営む青年と常連の少女の珈琲に関する小話ー

…ガチャッ、カランコロン
少女「こんにちはー」

男「やぁ、いらっしゃい。空いている席へどうぞ」

少女「はーい。でも空いてる席って言ってもどの席もいつも空いてますよね」

男「店主に向かってハッキリ言うね、本当のことだから反論できないのが悔しいよ」

少女「おかげでいつもカウンター席の真ん中に座れるので私にとってはいいことなんですけどね」



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男「店からしたら大問題なんだけどね…それでご注文は?」

少女「コーヒーを。いつも通り豆はおまかせで」

男「かしこまりました」

少女「今日は何を出してくれるんですか?」

男「そうだねぇ、今日はマンデリンを淹れようかな」

少女「マンデリン…なんか筋肉痛に効きそうですね」

男「とっさにバ◯テリンを思い浮かべるのは高校生としてどうかと思うよ」

少女「そうですかね?それでマンデリンはどういった豆なんですか?」


男「わかっていると思うけど僕にそれを聞くと話が長くなるよ?」

少女「わかってます。むしろ男さんのコーヒーの話を聞くのがお店に来てる主な目的ですから」

男「できれば珈琲を飲むのを主な目的にして欲しいんだけれど…まぁ来てくれるならなんでもいいか」
男「よし、それじゃあマンデリンについて話そう」

少女「おねがいします」

男「マンデリンはインドネシアのスマトラ島北部で栽培されている豆でそこに住む民族マンデリン族が栽培し始めたのがその名前の由来と言われている。日本でもチェーン店含め多くのコーヒーショップで出されている比較的オーソドックスな豆だね。珈琲として淹れると熟したフルーツや香草に似た甘い香り、そして肝心の味については…」

少女「…味については?」

男「飲んでみるのが1番わかりやすい。どうぞ、マンデリンです」コト

少女「おぉ…これが噂に聞くマンデリン…」

男「聞いたの今日が初めてだよね」

少女「えへへ、つい…それではいただきます」ゴクッ
少女「…………」

男「どうだい?」ニヤニヤ

少女「………ニガイ」

男「ハハハッ、その苦味がマンデリンの大きな特徴だよ」

少女「………」ジー

男「ゴメンゴメン」クスクス

少女「謝られても味は変わらないです」


男「砂糖いれる?」

少女「それは負けた気がするので却下です」

男「何に負けるのかはわからないけど、じゃあこれどうぞ」コト

少女「これは…ケーキ!」

男「苦味の強い珈琲に甘いクリームのケーキは良く合うからね、もちろんこれは僕からのサービスだから安心して」

少女「いただきます」パク

男「少しは飲みやすくなったかな?」

少女「美味しいです」

男「それは良かった。他にもマンデリンの様な豆はカフェ・オ・レにするのもオススメだよ、苦味がまろやかになって尚且つしっかりと珈琲の風味も感じられる」

少女「なら最初からカフェオレで出してくれてもよかったのに」

男「それだと君の反応g…コホン、豆本来の風味と味がわからないからね」

少女「本音がダダ漏れでしたけど」ジトー

男「さっ、さてマンデリンの話を続けようか」

少女「あっ、にげた」


男「えーと、マンデリンの生産地については先程話したね。ではなぜインドネシアの中でもスマトラ島北部を中心とした狭い地域で作られているかというと、これにはちょっとした理由がある」
男「だけどこれを説明するにはまずコーヒー豆についてある程度話しておく必要があるんだ」

少女「豆ですか」

男「今から話すことは他の珈琲豆について話す時にも出てくる知識だから覚えておくように」

少女「わかりました先生」

男「よろしい。それではこれからコーヒー豆の種類と特徴についての授業を始めます」

少女「先生、それはさっき説明しませんでした?マンデリンは苦味が強いって」

コーヒーの表記に関しての補足

男のセリフに出てくるカタカナの『コーヒー』は『コーヒーショップ』などの名詞を除いて基本的には植物としてのコーヒーを
漢字の珈琲は飲用としての珈琲を表しているつもりです。

わかりずらく申し訳ないです


男「それとはまた違うんだ。そうだなぁ君はコーラは好き?」

少女「好きですけど、それがなにか?」

男「さっき話したマンデリンや、他の有名どころとしてグアテマラやハワイコナはコーラで言うコ○・コーラやコ○・コーラゼロみたいなもので、これから話すコーヒーの品種はコ○・コーラとペ○シコーラの違いみたいなものかな」

少女「より大きなカテゴリーということですか」

男「そういうこと。それじゃあ授業を再開しようか」

少女「はーい(意外に先生の設定気に入ってるのかな?)


男「今世界で植物学的に約80種類のコーヒーノキが確認されている。その中で飲用として栽培されているのが大きくわけて3種類ある」
男「それがアラビカ種、カネフォラ種これはロブスタ種とも言うね。そしてリベリカ種、このリベリカ種はかなり生産数が少なくてほとんど流通もしていないから頭の片隅にでも入れておけば大丈夫だよ」

少女「アラビカ種とカネフォラ種ですか」

男「この二つの違いだけど、まずアラビカ種。標高450〜2300mと比較的高所で栽培されていて、高温多湿に弱く雨量や土壌が限定されやすい。それに病害虫にも比較的弱い。
そしてアラビカ種はここからより細分化できる、在来種に突然変異種、自然交配種、人工交配種に選抜種さらには在来種はエチオピア原種、ゲイシャ種、イエメン種、スマトラ種、ティピカ種。
突然変異種はマラゴジベ種、ケント種、ブルボン種このブルボンはさらに矮小種としてのカツーラ種とパカス種に!
自然交配種はムンドノーボ種とアカイア種、人工交配種はパカマラ種とカツアイ種、選抜種だってSL28やSL34とわかれるんだっ!」

少女「……はい(途中からなに言ってるかわからなかった。あと性格が変わってる)」


男「おっと少し話に熱が入り過ぎたみたいだね。正直アラビカ種より細かいものは覚えなくていいから安心して、実際この分類は定義付けが非常に難しくて曖昧なところもあるから」

少女「えぇ〜……」

男「アラビカ種は種類も多くそれぞれ風味も異なるからいわゆるストレートコーヒーとして市場に出ることが多い」
男「生産量も全体の約70%も占めているから商業的にもかなり重要なんだ」

少女「なるほど…あ、おかわりください」



男「かしこまりました。次は市場の約30%を占めるカネフォラ種だね。これはアラビカ種と違って標高の低い高温多湿でも育ちなおかつ粗放栽培、いわゆる手入れをしない栽培方式でも平気なんだ。もちろん病害虫にも強い。この強さがカネフォラ種がロブスタ(robusta=強い)種とも言われる理由だね」

少女「強いならそっちの方を多く栽培した方がいいのでは?手入れをしなくても育つのですから」

男「どこでも育つっていうのはいいことだけれどその代わり個性が出にくいからね、カネフォラ種のほとんどがインスタントコーヒーの原料や安いブレンドの増量に使われているのが現状だ」


少女「良くも悪くもどこでも一緒ですか」

男「その通り。さてここでようやく話はマンデリン、正確には生産地のインドネシアについてになる」
男「インドネシアのコーヒー栽培は今から約300年ほど前にオランダ軍がジャワ島にアラビカ種を持ち込んだのが始まりといわれている。そして今では世界第4位のコーヒー生産国だ。さていきなりですがここで問題です」

少女「はい」

男「コーヒー生産国第4位のインドネシアですがアラビカ種とカネフォラ種どちらの生産量が多いでしょう?ちなみにマンデリンはアラビカ種です」


少女「う〜ん、アラビカ種ですかね?マンデリンもそうですし全体の生産量もアラビカ種が多いですし…」

男「正解は…カネフォラ種です。しかもインドネシアの生産量のほとんどがカネフォラ種なんだよ」

少女「え?でも昔とはいえ最初に入ってきたのはアラビカ種なんですよね?」

男「それはその通りなんだけど、このカネフォラ種の方が多いというのがマンデリンの栽培地域の狭さの理由を紐解く鍵になる」


少女「なんだか壮大な背景がありそうですね」

男「…いやカッコつけて言ってみたけど理由はとても簡単なものなんだ、さっき説明したアラビカ種とカネフォラ種の違いを思い出してごらん」

少女「違い…標高、高温多湿あとは…あっ!」

男「わかったかな?」

少女「病気…ですか?」


男「そう、1860年代に発生したさび病…これはコーヒーさび病菌によって葉に鉄錆の様な斑点が出来たあと約3年ほどで木自体が枯れてしまうコーヒーの天敵とも呼べる病気にやられてしまったんだ」

少女「そんな、木が枯れてしまったら」

男「うん、そこからの復活はまずありえない。実際インドネシア以外にもアラビカ種をさび病にやられてカネフォラ種の栽培に切り替えた地域も少なくないし、スリランカなんかはさび病をきっかけに紅茶栽培に切り替えて今では紅茶の名産地なっている」


男「だけど!決してインドネシアの人々は諦めなかった、カネフォラ種の栽培に切り替えながらも辛うじて病害を耐えたアラビカ種を元にスマトラ島のマンデリン族が中心に栽培した豆…それがそのマンデリンなんだよ」
男「病害を耐えたコーヒーの力強さと、そしてインドネシアのコーヒー愛がそこには詰まっているんだ」

少女「…力強さと愛」
少女「私このマンデリンが好きになりました!」グイッ ゴク
少女「…………」
少女「………ニガイ」



少女「小さな町の」男「珈琲店」
ー終わりー

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