孤独のグルメ「某区の屋台の蒸かし芋」 (17)

 俺の名前は井之頭五郎、個人で輸入雑貨を取り扱っているしがない貿易商だ。
 商っている物が物だけに、海外に行く事も多い。
 今日もまたそんな取引だった。
 時代物の家具や調度品、日用雑貨の類を買い付けた。
 取引も上々で終わり、それは良かったのだがしかし……どうにも腹が減っていけない。
 時間はもう昼を大分回っているし、知らない街の店なんて何も分からないわけだ。
 腹は減って仕方ないのだが、俺のような日本人のスーツ男が一人で入っても大丈夫な、平気な店はないものか。
 
「弱ったなぁ……腹はペコちゃんだし、どこかにテキトーな店はないかなぁ」

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と、そんな風に悩みながら当てのなく歩いていると、人通りの多い通りを見つけた。
なんだなんだ?とよく見ると、通りの端中を様々な屋台がズラリと並んでいた。
なんと言えばいいか、夏祭りの夜のお昼バージョンという感じだ....ん?何を言ってるんだ俺は?

数々の屋台からは良い匂いが漂ってきていて、自然に足がそちらに動いてしまっていた。
うん、客足もそこそこだし、よそ者の俺が入っても大丈夫だろう。
それにもう腹が減りすぎていて、何でもいいから食事を取りたかったから、俺は一も二もなく屋台を見て回る事にした。

店主達は皆愛想良く笑い、客と会話しながら商品を手渡していた。
成る程.....いよいよお祭りに見えてきたぞ。
海外っていうともう少し無愛想な店が多そうなもんだが、なかなかどうして。
初めて来た場所だし、俺はじっくり選ぶ事にした。
外国の屋台でも、売ってる物は日本の屋台とあまり変わらないみたいだ。ただよくみると、肉類や甘味類は少ないようだ。
さて、すきっ腹に入れるのは何が良いだろうか。

そうこう悩みながら歩いていると、すれ違おうとした人と思わずぶつかってしまった。
「うぉっ」
「きゃっ!」
俺は少し仰け反っただけだが、相手は派手に倒れこんでしまった。
うわ、やっちまった...俺は急いで相手に手を延ばした。
「すいません!大丈夫ですか...?」
「あ、は、はい....」
見ると、なんとなんと、相手は女の子じゃないか。
可愛らしい顔つきだ...やはり外人が美人が多いっていうのは当たりみたいだな。
「ごめんなさい、よそ見しちゃってて...」
「あ、あぁいえ、こちらこそ...」

なんと....こちらがぶつかってしまったのに、彼女から先に謝って来るとは...礼儀正しい女の子だなぁ。

「あれ?あなた、東洋人ですか?」
「え、えぇ、そうですが?」
「ヘェ〜、ミカサ以外の東洋人の方は初めてみました...あ、こりゃ失礼」

なんだ?東洋人はそんなに珍しいのか?

「あ....私、第104期訓練兵団所属、サシャ・ブラウスと申します!先ほどは失礼いたしました!」

彼女はそういうと、握りしめた右手を左胸の、ちょうど心臓があるらへんに当てるようなポーズをとった。

なんだと...こんな女の子が、兵士の卵なのか...。

「へ、兵士なんですか...」

「はい!」

すると...グ〜っという、俺と彼女の腹の虫の鳴き声が響いた。

俺と彼女は思わず顔を見合わせ「あ、あははは...」と、苦笑いを浮かべ合った。

「こ、これから食事ですか?」

「え、えぇ。まぁ初めて来た場所だから、中々何にしようか決められなくて...」

「へぇー...あ、なら...私のオススメでもどうです?」

「オススメ?」

「はい!この辺りの屋台なら食べ慣れてるので、とっても美味しいお店、知ってるんです!」

ほぉ...この辺のグルメに熟知している、という感じだ。
でもなぁ...と思ったが、彼女の自信満々の顔をみていると、信じてついて行っても良いような気がしてきた。

「じゃ、じゃぁ...オススメ、教えてもらえます?」

「はい!こっちですよ!」

「ここです!ここ!」

彼女が連れてきたのは、いたって普通の屋台だ。旨そうな匂いと作ってる物を見ると、どうやら芋のようだ。

そんな屋台の店主は、彼女にごく自然に声をかけた。

「おぉ嬢ちゃん!今日もいつものヤツかい?」

「はい!大きめでお願いします!あ、こちらのおじさんにもお願いします!」
どうやらかなりの常連のようで、何かも言わずにわかるようだ。
注文してしまえば、あとは待つだけだ。
するとやはり、彼女が少し気になってきた。
本人は口の端からヨダレを微かに垂らしながらまだかまだかとソワソワしてるが....あんまり女の子らしいデリカシーはないみたいだな....。
この近くに住んでるのだろうか?兵士として何をしているのだろうか?
じろじろと見る俺の視線に気づいたのか、サシャという少女がこちらを向いた。
「あ、すみません。私もお腹すいちゃってて...え、えへへ」

そういいながら、ヨダレを急々と拭いた。

「はは...ヨダレが出るほど楽しみな品なんですか?」

「そりゃもう!休暇はこれが楽しみで出かけるようなものですから!」

そんな他愛のない話をしていると、店主が「はいお待ちどうさん!」と手づから渡してきたのは、蒸かした芋だった。


ほぉ....蒸かし芋か。学生の頃、秋になるとよく手軽に作って食べてたな。

しかし熱々で良い匂いだ....俺の腹の虫がさらに鳴き声をあげ始めてきた。

こりゃ文字通りの「蒸かし芋」だ...
俺は早速熱々の芋にかぶりついた。

「......うまい!」

うん、これはうまい!
塩も何も使ってないだろうが....実にうまい。今まで食べたどの芋よりもうまい...そんな気がした。

ホクホクした食感が癖になりそうで、さらに噛めば噛むほど焼き芋のような甘味が口いっぱいに広がって来る。

これは病みつきになってしまう。
俺はあっという間に芋をぺろりと平らげてしまった。
サシャを見ると、何時の間にか二個目を受け取っていた。
あの大きさの蒸かし芋をあんな女の子が、よく二つも食べれるな...とても幸せそうな顔で食べる彼女をみていると、何故か自然と顔が微笑んでしまう。

「どうです、美味しいでしょう?」

「えぇ、こんなに美味しい蒸かし芋は今まで食べた事がありませんよ」

「そうでしょう、そうでしょう!」

と、彼女は自分の事のように嬉しそうに微笑みながら、二個目をモグモグと食べ始めた。

いやはや愛嬌のあっていい娘だ...本当にこんな娘が兵士なのか?アイドルの方がもっと合ってるような気がするが...

そんな事を考えながら、俺も二個目を注文した。

二個目を食べながら、俺は一つの誤算に気付いた。
 大きめを頼んだのがいけなかった。
幾らなんでも食べ過ぎだ。
 最初の空腹が一転、食べきる頃にはもうすっかり腹が膨れていた。
 最後の欠片を口に入れた時には、腹がパンパンだった。
 そんな俺の様子を、隣のサシャが面白そうに眺めていた。

「ふふっ、次はもうちょっと考えて頼んだ方がいいかも、ですね!」

「え、ああ……そうですね、お恥ずかしい」

「では、私はお先に失礼しますね!」

そういうと、彼女は小走りでその場を離れていった。
よくもまぁ、あれだけ食べたのにあんなに動けるものだ....
 やはりガイジンと日本人じゃ体のつくりが違うのだろうか。
 興味深そうに見ていた俺の視線に気付いたのか、彼女はもう一度振り返る。


「そういえば、お名前はなんて言いましたっけ?」

「え? はい、私は井之頭五郎と言います」

「ゴローさんですか....覚えときますね!またいつか会ったら、その時も蒸かし芋、食べましょうね!」

笑顔でひらひらと手を振り、兵士の卵の少女は走り去っていった。

俺はそんな彼女の後ろ姿を眺め、それから少し小休憩してから店主に支払いをすませ、通りを後にした。
もちろんもう彼女の姿は見えなかった。

兵士だという少女の事が、既に幻のようだった。

「サシャ・ブラウスか....いい娘だったなぁ。しかし今はだめだ、頭が回らない....」

サシャと言った娘が言った言葉や、容姿を思い出しながら、俺は歩き出した。
だがそんな事を考える余裕は、頭にも、というか腹にもない。
いかん、いくらなんでも食いすぎだ。
今は宿まで戻る帰り道を思い出すだけで精一杯だった。

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