【モバマスSS】「ミラクルテレパシー」 (38)


※堀裕子メインのSSです
※オリジナル設定が多分に含まれておりますが、二次創作ということでご容赦ください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1418816872

「おとーさん、おとーさん! ね、ね! みてみて!」

「みてって…なにをだい?」

「テレビだよ、テレビ! この人、すごいんだよ! 帽子からハトさんを出すの」

「おー、そうか。…今は特番でこういうのばっかりだな」

「ね、すごいよね!」

「お父さんもできるぞ」

「え!? ほんとう!? おとーさんも、ハトさん、出せるの!? …でもおとーさん帽子持ってない」

「ハトは出せない」

「え? じゃあ、なになら出せる?」

「そういうのじゃない。ちょっと待ってろ…よっ、と。ここに、スプーンがあるだろ?」

「うん」

「これを、曲げる」

「えー、うっそだあ! スプーンはね、かたいんだよ」

「でもお父さんなら曲げられる。いいか、見てろよ…むむむむ…」

「ぜったい、できっこないよ」

「むむむ…むん!」

「! まがった!? さ、さわらせて!」

「いいぞ。ほら」

「すごーい! ね、おとーさん。これどうやったの?」

「実はな、お父さんは…超能力者なんだ」

「ちょうにょう、りょくしゃ?…ってなに?」

「超能力者、な。簡単に言えば、普通の人にはできないことをやってしまう人たちのことだ。たとえば、スプーンを曲げたり」

「じゃあ、ほかにもできる!?」

「今日は無理だ。力を使い果たしちゃったからな」

「えー」

「そうだな…今度色々買ってくる…じゃない。今度、お父さんの真のハンドパワーを見せてやるよ」

「今度って、いつ?」

「今度は、今度だよ」

「おとーさん、あんまりお家にいないからなあ…」

「う…それはすまん。だけど約束はしよう」

「ほんとに? やくそくだよ?」

「ああ。約束だ」

--

事務所

堀裕子「きてます」

渋谷凛「なにが?」

裕子「サイキックな…パワー的な何かが、ですよ。私のこの右手の近くにむんむんと」

凛「また適当なこと言って…」

裕子「いえ、今日こそ私の超能力がお見せできるはずです! プロデューサー!」

P「何だ?」

裕子「スプーンをください!」

凛「そんな都合よく持ってるはずが…」

P「ほら」ヒョイ

凛「あるの!?」

P「こういうことがよくあるからな…一応常に持ち歩いてるんだ」

凛「よくあるんだ…だったら裕子がいつも持ってればいいんじゃない?」

裕子「昔は持ち歩いてたんですけどね。ただ、自分で持ってるスプーンを曲げても、『なにか細工でもしてあるのかな?』なんて思われるじゃないですか! 曲げるのは他人のスプーンに限りますよ!」

凛(迷惑な話だ…)

裕子「そんなことより、見てください。今プロデューサーから貰ったこのスプーンを…むむむ…」

凛(あれっていつものスプーン曲げだよね)ヒソヒソ

P(だろうな。厳密にいえばスプーンは曲げられないんだけど)ヒソヒソ

裕子「むむむむむ…うおおおおおおお……」

凛「す…すごい。なんだか今日はいつもと違う感じがする」

P「これはひょっとしたらひょっとするぞ! 通算999回の失敗もこの日のためにあったのか!」

裕子「うおおおおおおお…わああああああ!」

P「わあああああああ!」

凛「プロデューサー、うるさい」

裕子「ムンッ!」

P「す…スプーンは!?」

スプーン「」マッスグー

P「だよな。解散」

凛「あ、私レッスンの時間だ。いってきます」

P「おう気をつけてな。1000回目…っと」カキカキ

千川ちひろ「プロデューサーさん、遊んでないで仕事してくださいよ…」

P「すみません」

裕子「曲がらない…いやまさかそんな…さてはプロデューサー、このスプーンが曲がらないように細工しましたね!?」

P「どんな言いがかりだよ!」

P「あのな、世間でスプーン曲げだなんだってやってる人たちはもれなく、あらかじめ準備をしてるんだよ。本当にタネも仕掛けもなくやるやつがあるか!」

裕子「それは、手品師やマジシャンと呼ばれる人たちでしょう! 私はさいきっくアイドル、エスパーユッコですよ!? タネも仕掛けも必要ありませんよ!」

P「必要大ありだよ! 手帳の正の字増えてく一方だよ!」

裕子「むー……」

ちひろ「ちょうどその手品師さんがテレビに出てますよ。ほら」

P「あ、ほんとだ」

裕子「! 違いますよ! この人は手品師なんかじゃありません! 立派な超能力者です!」

P「この人が? やってることは手品と変わらないけど…今やってるのは…トランプの柄当て、か?」

裕子「自分で言ってました! 超能力者って!」

P「そ、そんな理由で」

裕子「まあ自分では喋らないんですけどね。司会の人が紹介するんですけど。とにかくこの人は凄いんですよ! クリアボヤンス、テレパシー、テレポート、なんでもござれ、です! 最近テレビ出演が多いんですよねー。わああ、私もこんな超能力…欲しい…っ」

P「なんかベネチアの仮面舞踏会で見るようなマスクつけてるな…」

ちひろ「表情は見えませんけど、お年は結構召してそうですね…というかプロデューサーさん、時間大丈夫ですか?」

P「ああ、ちょうどいいくらいの時間です。裕子、行くぞ」

裕子「ふっふっふっ…稀代のサイキッカー、エスパーユッコの実力をまざまざと見せつける時がついにきましたか…!」

P「このあとの収録もそういう感じでやってくれれば大丈夫だから」

--


裕子「どうでした?」

P「どうでしたって、何が?」

裕子「さっきの収録ですよ! プロデューサーから見てどんな感じでした?」

P「ああ……まあ、ややウケだったよな」

裕子「ふふふ…! 私のサイキックパワーにかかれば、ややウケなんてお手の物ですよ」

P「ややウケでいいのか…」

裕子「…あれ? ない…ない!」

P「? どうした」

裕子「プロデューサー! 今すぐさっきのスタジオに戻ってください!」

P「ええ…もう事務所すぐそこなんだけど…どうしたんだ」

裕子「忘れ物…いえ、サイキック忘れ物です!」

P「ただの忘れ物だろ」

裕子「ええい、こうなったら私のサイキックテレポートでひとっとびです! いきますよー…」

P「おおい! 走行中の車のドアを開けようとするな!」

裕子「だってここでテレポートしたら、天井に頭ぶつけちゃいますよ」

P「ルーラかよ…すぐ戻るからおとなしく座っててくれ」

--


裕子「いやーすみませんでした! 控え室に置いてありました!」

P「あったのなら良かったけど…それ、なんだ?」

裕子「これはですね…いや、わかりました。今、お伝えします」

P「随分と勿体ぶるな」

裕子「ムムムン! …ということです」

P「いや、どや顔で誇られてるところ悪いけど、全然わからない」

裕子「えー!? 今テレパシーで送りましたよ!」

P「俺、というか一般的な人はテレパシーなんて使えないんだ」

裕子「私のプロデューサーなら、超能力の一つや二つ、使えて当然ですよ!」

P「裕子だって使えないだろうが! …じゃなくて! だから、その手に持ってるのはなんなんだよ」

裕子「むー…これはですね…私のお守り、ですね」

P「お守り?」

裕子「はい。あの…私のお母さんとお父さんの話はしましたよね?」

P「ああ…」

P(裕子が事務所に所属するのが決まったとき、俺は裕子と一緒に、裕子の母親の元へあいさつに行った)

P(その帰り道、裕子から聞いた。裕子のご両親は数年前に離婚をし、裕子は母親に引き取られ二人で暮らしていたのだという。そしてアイドルになった現在では、母の元を離れ、こっちで暮らすようになった)

裕子「お父さんは仕事が忙しくて、あまり家にはいませんでした。パソコンを使う仕事だったみたいなんですけど…」

P「パソコンを使う仕事、とはまた曖昧だな」

裕子「それでもたまに家にいるときには私と遊んでくれました。お父さんは色々な超能力を見せてくれたんです!」

P「そういうことか」

裕子「え?」

P「いや、なんでもない」

P(多分、今の裕子があるのは、そのお父さんの影響が大きいのだろう。娘を喜ばせるために、マジックの小道具を買い、披露していたのではないだろうか)

P「それで、お守りはどう関係してくるんだ?」

裕子「えっとですね…お父さんの超能力の一つに、トランプを当てるというものがありました」

裕子「私が一枚のトランプを選んで、それを戻そうとしたとき…お父さんの職場から電話がかかってきたんですよね」

P「ふむ」

裕子「それで、お父さんは急遽、職場に行くことになりました。『帰ってきたら続きをやるから』といって」

P「そういうことはよくあったのか?」

裕子「そうですね…電話がくることはよくありました。それで、お父さんが帰ってくるのは私が寝ているような時間でした。次の日には急遽決まったという出張で家を出て行って…トランプのことはうやむやになってしまいました」

P「それはまた運が悪いな」

裕子「私もすっかり忘れてたんですけどね! 私がアイドルになるって決まったとき、部屋の掃除をしてたら、一枚のトランプが出てきたんです。初めはなんで一枚だけなんだろう、って思ったんですけど、そのときのことを思い出しました」

P「なるほどな。つまりそのお守りの中身は、そのトランプってわけか」

裕子「さすがプロデューサー! 察しがいいですね!」

P「お父さんとは、もう会ってないのか?」

裕子「会ってないですねえ。それに、お母さんは、私とお父さんが会うのを望んでないんじゃないかな」

P「どうしてそう思うんだ?」

裕子「それは…さいきっくエア・リーディングです!」

P「お、おう」

P(言い方はふざけているようにも思えるが…裕子は裕子なりに、母親の複雑な思いを敏感に察知しているのかもしれない)

裕子「ただ、ほんのちょっぴりだけど…思ったりもするんです」


裕子「お父さんに、会えたらなあ、って」

--


P「家庭の事情に首を突っ込むのって、どう思います?」

ちひろ「あまり、いいことではないんじゃないですか?」

P「ですよね」

ちひろ「少し休憩しますか。私、コーヒー入れてきますね」

P「ああ、ありがとうございます。いくらですか?」

ちひろ「お金なんて取りませんよ!」

P「ええ!? ちひろさん正気ですか!?」

ちひろ「いや、そんなに驚かれても…そんなことより、またアイドルの子の事で悩んでます?」

P「どうしてそう思うんです?」

ちひろ「プロデューサーさんの悩み事なんて、大抵みんなのことですからね」

P「まあ、悩みというほどのことでもないんですが…。何か俺ができることがあるんじゃないか、とは思っています。ただ、どこまで踏み込んでいいものやら」

ちひろ「細かい事情は知りませんが…私はまず動いてみるのがいいんじゃないかなあ、と思いますよ。当たって砕けろ、とも言いますしね」

P「当たって砕けるのが俺じゃなくて、その人たちの関係性、とかだったら?」

ちひろ「そうしたら修復すればいいんですよ」

P「それはまた豪快な意見ですね」

ちひろ「ふふっ、無責任なように聞こえますか? ただ私は世の中の後悔の大半は、『行動しなかったことへの後悔』なんじゃないかな、と思います」

P「ちひろさん」

ちひろ「なんですか?」

P「それはちょっと、クサイような…」

ちひろ「ま、真面目に言ったのに!」

P「でも、そうですね。とりあえず、動いてみることにします。ちひろさん、ありがとうございます」

ちひろ「もう! どういたしまして! …まあ、まずは目の前の仕事をなくすことを考えましょうか」

P「ですね… ちひろさん、気付けにスタミナドリンク1本貰っていいですか?」

ちひろ「100モバコインになります♪ あ、私が居ないときはこっちの箱に入れてくれればいいので」

P「これは金取るのかよ!」

--


数日後

P「すみません、わざわざお茶までいただいて」

裕子の母親「いいのよ。それで、東京からこんな片田舎まで来て、どんなお話なのかしら」

P「裕子さんは、最近テレビ出演も増えてきて…ご覧になってますか?」

母「もちろん。録画して何度も見てるわ。お得意の超能力は失敗ばかりだけど」

P「それが、彼女の魅力でもあります。スタジオでも結構ウケてますよ」

母「ややウケ、だけどね」

P「ややウケでも、ウケていることに変わりはありませんよ」

母「…今日はそんな話をしにきたのかしら?」

P「いえ…」

P(当たって砕けろ、か)

P「単刀直入に言います。裕子さんに、お父さんを会わせてあげてくれませんか?」

母「……どうして?」

P(…表情に影が差した。裕子の直感は正しかったのかもしれない)

母「…あの人はね、家庭のことよりも仕事が大事、という人間だったのよ」

母「だからね、裕子のことは私一人で面倒を見たわ。母親ならそんなの当然だ、って思うかもしれないけど」

P「俺は、そうは思わないですが」

母「そう思う人の方が多いわ。ただ、初めての子育てというのはとても心細い」

P「想像はできます」

母「きっとその想像以上よ。だから私はあの人に裕子のことを相談するんだけどね、『そういうのは、お前に任せる』なんて言うの。私は、その無神経な物言いがすごく嫌で」

母「気づいたら、あの人と別れていたわ。まさか裕子ともこんなに早く、離れて暮らすことになるとは思わなかったけど」

P「…すみません」

母「だからいまさら父親面して裕子と会って欲しくないの」

P「ですが」

母「子どもがいないあなたに私の気持ちはわからないでしょう。悪いけど、今日は帰ってくださらないかしら。…お願いだから」

P「…わかりました」

P「ただ、これだけは知っておいてください。裕子は『お父さんに会いたい』、と言っていました」

母「! …あの子が?」

P「確かに俺には『親』の経験はありません。ですが『子ども』の経験なら、あります」

P「親父やお袋とは今は一年に一回会うか会わないかですが…それでも顔を見るとほっとするんです。親子ってそういうものじゃないでしょうか。…たとえどんな理由があっても」

母「…」

P「お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした。失礼します」

--


P(ふう…しかし、どうしたものか)

P(いっそ、母親に内緒で父親に会わせてしまおうか…いや、それだと裕子が納得しないかもしれない)

P(なにより連絡先を知らないしな…)

P(それに、これ以上俺が干渉する権利があるのだろうか)

プルルルルルルルルルルル

P「っと、電話か」

ピッ

P「もしもし?」

--


裕子「プロデューサー、私たちはどこに向かってるんですか?」

P「まあ、いいからいいから。ちょっと着いてきてくれよ」

凛「結構歩いてるけど…まだなの?」

P「もうすぐ…ほら、そこの公園だ」

裕子「公園に一体何の用が…って、プロデューサー! あそこに変質者がいますよ!」

P「いやいやいや。よく見ろ、見覚えないか?」

凛「なんかヘンテコな仮面を付けてるような…」

裕子「! 最近テレビで見る超能力のおじさん!」

凛「名前、覚えなよ…」

P「せっかくだし、超能力の一つでも見せて貰ったらどうだ?」

裕子「というか何でこんな場所にいるんですか?」

P「いいから、ほら」トン

「…」

裕子「あ、あの」

「…」スッ

裕子「え? トランプ? …もしかして、一枚取ればいいんですか?」

「…」コク

裕子「ようし…エスパー対決、ということですね! 私が選ぶカードは…これです!」

「…」

裕子「よーく覚えましたよ…さあ、私の選んだカードがどれだか、わかりますかね?」スッ

「…」シャッシャッシャ

「…」パッ

裕子「ふっふっふ…残念ながら私がさっき引いたカードはこれじゃありませんよ!」

「…いや、このカードで間違いはない」

裕子「! 喋れるんですか!?」

「そりゃあ、僕にも口があるからね。それより、このカードで間違いはないはずだ。よーく見てごらん」

裕子「いえ、でもさっき引いたのとは…あれ…このカード」

「待たせて、悪かった。約束を果たしに来たよ」

裕子「私のお守りのカードと…同じ?」


「裕子。大きくなったね。それにお母さんに似て、綺麗になった」スッ

裕子「お父さん、なの?」

----

--

回想


プルルルルルルルルルルル

P「っと、電話か」

ピッ

P「もしもし?」

P「…裕子のお母さんでしたか! あの、先ほどは大変…」

母「あの人の、夫の電話番号を教えます。あとは好きにやってちょうだい」

P「え? あの、でも、いいんですか?」

母「…昔ね、裕子に聞いたことがあるのよ。『お父さんに会えなくなって、寂しくないか?』って。そしたらあの子なんて言ったと思う?」

P「…」

母「あの子ね、『お母さんがいるから全然平気だよ!』なんて言ったの。私はそれが忘れられなくて」

P「…優しい子、ですね」

母「そうね。ただ…私はあの子の優しさにずっと、甘えていたのね」

母「つまらない意地を張るより、裕子に少しでも幸せになってもらいたいって、そう思ったの」

P「…そうですか」

母「久しぶりに顔が見たいわね」

P「スケジュールを調整しておきますよ」

母「それとね、あなたに一つだけ言いたいことがあるの」

P「な、なんでしょうか」

母「裕子のこと、よろしくお願いします」

--

喫茶店

P「驚きましたよ。こっちにいらしているとは思いませんでした」

裕子の父親「僕の方こそ。まさか、裕子の所属しているプロデューサーの方から電話をいただくとは、思ってもいませんでしたから」

P「こちらにいらっしゃるのはお仕事のご都合ですか? 裕子からは、パソコンを使う仕事だと聞いておりましたが」

父「パソコンを使う仕事かあ。今はどんな仕事でもパソコンは使います」

P「ですよね」

父「まあ間違ってはいないですね。僕はシステムエンジニアでした。もう辞めてしまいましたが」

P「え? なぜです?」

父「妻と裕子と離れて暮らすようになってから、仕事に身が入らなくなりまして。僕はずっと、仕事が好きで続けているのだとばかり思っていたんですが」

P「いつの間にか、あの二人のために仕事をするようになっていた」

父「そのようです。それでどうしようもなくなって、それなりに貯金もありましたし、気づけば退職していました。今はこっちで別の仕事をしてるんですよ」

P「別の仕事?」

父「実際に見て貰ったほうが早いかもしれません。…これを見てください」

P「コインですね」

父「ええ。何の変哲もない、一枚のコインです。それが、手を振ると…ほら」

P「!? 2枚になった」

父「もう一度手を振ると、4枚になります。とまあ、今はこんな仕事をしています」

P「コインを増やす仕事ですか?」

父「コインを増やしたり、スプーンを曲げたり。そういうのを披露する仕事ですね。最近ではありがたいことにテレビにも出させていただいてますよ」

P「あ…もしかして、あの仮面を付けた超能力者って…?」

父「ええ。それが、私です」

父「昔、裕子を喜ばせようとたくさんのマジックの道具を買ってたんですよ。仕事の忘年会なんかでも披露したんですけど、結構ウケて」

P「ややウケではなく?」

父「大ウケでした。マジックを披露すると、見てくださる方々は皆、驚いた表情のあと、ふっと顔をほころばせるんですよ。それが僕も嬉しくて」

父「友人の紹介で、今ではこのような仕事をやるようになりました」

P「あ、マジックって言っちゃうんですね」

父「残念なことに、僕には超能力はないみたいです。ただ、人を楽しませるといった意味ではマジックも超能力もそんなに違いはありません」

P「なるほど」

父「っと、前置きが長くなってしまい、申し訳ありません。今日はどういったご用で?」

P「ああ、ですね。実は--」

--


P「--という感じで。当日はお願いします」

父「いやあ…正直、どの舞台よりも緊張しますよ」

P「最後にひとつだけ、聞いてもいいですか?」

父「? タネや仕掛けに関すること以外なら」

P「なぜ、あなたは超能力者を名乗って、活動しているんですか? さっきの話だと、あまりこだわりはないように思えたのですが」

父「うーん、いや、これは…親ばかだと思われたら、恥ずかしいのですが」

P「?」

父「裕子がアイドルになってテレビに出たとき、超能力、といっているのを見たんですよ」

P「ええ。事務所でもそういう方向で売り出していました」

父「だから僕も同じように超能力者を名乗っていれば…いつか、娘と共演できるんじゃないか、なんて」

P「ああ…それは」

父「親ばか、でしょう?」

--

----


P「ずっと悩んでたんだがな」

凛「何を?」

P「まあ、色々と」

凛「ふうん…でも」


裕子「でねでね! 私がばばーん! と指をふると、ひよこがどわどわどわーって…」

父「どわどわどわー、か」


凛「二人とも、いい顔してるね」

P「…だな」

P「しかし、あれだな…俺もちょっと子ども欲しくなったなあ」

凛「こ、子どもって…相手は居るの?」

P「いないよ。今はお前らのことで手がいっぱいだからな」

凛「そう。なら良かった」

P「良い訳ないだろうが」

凛「そんなことよりさ、どうして歩きなわけ?」

P「なんか車の調子が悪くてな…まあここに来るのも、凛の次の現場もそう遠くはないし、たまには歩きでもいいんじゃないか」

凛「車、直せないの?」

P「うーん、修理に出そうとは思うんだが…超能力で、直らないかな?」

凛「裕子に頼んでみたら?」

P「それは…やめておこう。余計ひどいことになりそうだ」

凛「ああ、かもね」


--


後日談、事務所

P「お疲れ様です」

ちひろ「あ、今ちょうど裕子ちゃんの出番ですよ」

P「なんとか間に合ったか…」

凛「これって生放送なの?」

P「ああ、そうだよ。裕子のやつ、見るからにに緊張してるな…」

凛「あの仮面の人も一緒なんだ」

P「今時、超能力者を名乗るなんて珍しいからな。今回は共演という話で裕子にオファーが来た」

凛「ふうん…。ね、超能力ってあるのかな」

P「ないだろ」

ちひろ「ないんですか」

P「人を楽しませるといった意味では、マジックも超能力もそんなに違いはないそうですよ。だからどっちでも良いんですよ。本人が納得する方で」

凛「もし超能力があるなら…プロデューサーがスタジオにテレポートして、裕子の緊張を和らげることもできるのにね」

P「さすがに収録中に割って入るのは無理だろ…だからまあ、失敗しないように祈るくらい、だな」

P(裕子、頑張れよ)


テレビ『了解です、プロデューサー! …あれ?』


P「!?」

凛「ふふっ、何言ってるんだか」

ちひろ「これが生放送の怖いところですよねー…」

P「…さっきの訂正させてもらっていいか?」

凛「?」

P「もしかしたら、超能力の一つや二つ、あるのかもしれない」


【モバマスSS】「ミラクルテレパシー」 おわり

オリジナルキャラ(両親)とほぼオリジナルキャラ(P)の会話ばっかりで、
これをモバマスSSとして世に出すのはいかがなものかとも思いましたが
まあいっか(笑)の精神で投稿させていただきました

お読みいただいた方、ありがとうございました

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