メリー「………えっ?」
男「俺も丁度君に会いたいと思ってたところさ」
メリー「は?え?ちょっと!こっち見ないでよ……」
男「君は声も綺麗だったがこいつは驚いた、髪も綺麗なんだな」
メリー「うー……」
男「おっと、何もしないって。そんなに警戒しなくてもいいさ」
メリー「もう帰る!」
男「おいおいお嬢さん、外は雨だぜ?」
メリー「どうせもう濡れてるから……」
男「美味しいパンとスープがあるんだ、食ってけよ」
メリー「…………」
男「ほら、そんな顔してると美人さんが台無しだぜ?」
メリー「び、美人じゃな……っくしゅん」
男「暖炉の前で温まってな、すぐ準備するから」
メリー「…………」トコトコ
男「ほら、熱いから気をつけてね」コト
メリー「……意味がわからないわ」
男「え?」
メリー「なんで妖怪の私なんかに優しくするの?貴方は人間でしょう?」
男「別に妖怪も人間もあまり変わらないだろ?」
メリー「全然違う!!」
男「!」
メリー「私は……貴方を殺しにきたのよ?」
男「そうだったのか?」
メリー「そうよ、妖怪はみんなそう」
男「例外は?」
メリー「……多分無いわ」
男「多分って?」
メリー「私は人を殺した記憶がないの」
男「それは殺した事がないからなんじゃないのか?」
メリー「いいえ、きっと殺しているわ」
男「………?」
メリー「私達妖怪は定期的に人間を殺さないと消えて無くなるの」
男「それは確信できる情報なのか?」
メリー「えぇ、昔からよく言われている事だわ。それに人間の殺し方だって知ってるもの」
男「その記憶は……」
メリー「消えてない、ずっと昔から私の中にある記憶よ」
メリー「私はきっと人を何人も殺してる……」
メリー「でもこの力の代償に、記憶が無くなるのだと思うの…」
男「じゃあなんで俺のことは殺さないの?」
メリー「わからない、振り向かれた時には既に殺意は消えていたわ……」
男「そうか、そりゃ良かった。また花を枯れさせちまうとこだったからな」
メリー「花……?」
男「庭に生えてるやつさ」
メリー「本当に変わった人間ね……自分より花の心配だなんて」
男「よく言われるよ」
メリー「パンとスープ、ありがとう。美味しかったわ」
男「まだ外は降ってるぞ?」
メリー「貴方は多分良い人、だから近くに居たくないの」
男「俺が近くに居てほしい、って言ったら?」
メリー「言わせないわ」
男「そっか、じゃあ近くにいてくれ」
メリー「………なんでなの?」
男「ダメか?」
メリー「死ぬかもしれないのよ?」
男「それも悪くない」
メリー「貴方、妖怪みたいな人間ね……」
男「それは言われたことなかったなぁ……」
メリー「…………」
男「暖炉っていいよな」
メリー「………そうね」
男「そういえば気になった事があるんだけど」
メリー「……?」
男「妖怪ってのは食事もできるのか」
メリー「人間程ではないけど、食べないと、多分消えるわ」
男「不便な身体だな……」
メリー「だから人間とは相入れない存在なのよ、特殊な力も人間に害があるものばかり……」
男「特殊な力、というと君でいう電話か」
メリー「……そう……ね」ウトウト
メリー「………Zzz」
男「寝ちゃったか」
男「果たして明日無事に起きれるのだろうか」
男「おやすみ、お嬢さん」
男「ん………」
男「あれ、朝か……」
男「生きてるよな、うん」ツネリ
男「…………」キョロキョロ
男「誰もいねぇ……か」
男「夢だったのか、消えちまったのか、もう出かけちまったのか」
男「つーか妖怪は夜にしか行動しないわな」
男「…………やれやれ」
男「そういや昨日の雨で花達やられちまってねぇだろうな」
男「……………って」
メリー「あら、おはよう」
男「何してるんだ?」
メリー「貴方の育てている花、少し興味があったの」
男「まだ咲いてねぇけどな」
メリー「そうね、でもいい庭だわ。昨日は気がつかなかったけれど」
男「どうしても言いたいんだが」
メリー「なにかしら?」
男「妖怪は朝も活動すんのか」
メリー「そうだけどなにか?」
男「今まで実は妖怪に会ってたかもしれないのか……」
メリー「それはないわ、妖怪の数はとてもとても少ないもの。妖怪に出会うなんて宝くじに当たるようなものなのよ」
男「つまり俺はもう宝くじには当たらないのか……」ズーン
メリー「……なんかごめんなさい」
メリー「それじゃ、さようなら」
男「またこいよ」
メリー「本当にバカね、次は死ぬわよ」
男「あ、ちょっと待って」
メリー「………?」
メリー「はぁ、なんなの……」
メリー「…………」
男「お待たせ、これどうぞ」
メリー「!」
男「リボン、きっと似合うと思うんだけど」
メリー「なんでこんなもの持ってるのかは、聞かないでおくわ」
男「俺一応、雑貨屋なんだけどな」
メリー「そう、ロリータに興味があるわけでは無いのね、安心したわ」
男「なんだかんだ着けてくれるんだな」
メリー「妖怪だって贈り物は嬉しもの、ありがたくもらっておくわ」
男「妖怪……か」
男「また会えるといいな、メリーさん」
メリー「人間……」
メリー「あ……名前聞いてなかったわ」
メリー「いや、聞かなくて良かった」
メリー「どこか遠い遠い街に行きましょう……」
メリー「次の電話は、イヤな人間にかかりますように……」
本日分終
継父「おい、酒買ってこい酒!!」
母「あー、私のもよろしくぅ~」
娘「は、はい!」
娘「………あの」
継父「あー?さっさといけよ」
娘「お、お金を…」
継父「はぁ?お前働いてんだろうがよ?」
娘「こ、今月はもう……」
継父「あぁ?めんどくせーな」バキ
娘「いだっ……!」
継父「なんだその目」バキドゴ
娘「やめてください…!いたい!いたいです!」
母「もう売っちゃおうよ、こんな子」
継父「それもそうだな、そっちの方が金も手に入るし」
娘「か、買ってきます!ちゃんと買いますから!!」
継父「なんだ、へそくりか?何様だよ」
娘「ごめんなさい…ごめんなさい……」
継父「つーかさっさと行けよ」
娘「……………」ダッ
娘「…………」トボトボ
メリー「なんか嫌な雰囲気の街ね…」キョロキョロ
メリー「わっ」ドン
娘「いたた……」
娘「あ!ごめんなさい!!」
メリー「いや、私も不注意だったわ。ごめんなさい」パッパッ
娘「そ、それでは……」
メリー「貴方」
娘「?」
メリー「その怪我、どうしたの?今のじゃないわよね……」
娘「あ、これは……あはは、私ドジなんです。あなたとぶつかる前に階段で転んでしまって……」
メリー「…………」
メリー「少し、いいかしら」
娘「?」
メリー「紙コップに、口を当ててみて」
娘「あ、はい」
メリー「………ふむ、なるほど…」
娘「あの、これは?」
メリー「ありがとう、もういいわ。これはいわゆるおまじないよ」
娘「お、おまじないですか」
メリー「それと、今日は絶対に電話には出ちゃだめよ」
娘「え?」
メリー「約束して?」
娘「は、はい!それでは!おまじないありがとうございました!!」
メリー「強く…生きるのよ……」
メリー「………っ」ズキ
酒屋「まいどー」
娘「……これで今月も服変えないや」
娘「…………」
娘「おっきなリボンの可愛い子だったなぁ」
娘「おまじないってなんのおまじないだったんだろう……」
娘「恋かな、それともお金かな」
娘「…………」
娘「あはは、どっちも無理だよね……」
娘「ただいま……」
母「遅い、本当にノロマなんだから」
娘「ごめんなさい…あれ、お父さんは……?」
母「あー?なんかお仕事が見つかったんだって」
娘「良かったですね!」
母「良かったですねじゃねーよ!おめーがもっと稼いでこねーからだろ!!」ゲシ
娘「ご、ごめんなさい!」
母「ん!!さっさと酒!!」
娘「は、はい!」
浮気女「ねーぇ?今日は帰らなくていいのぉ?」
継父「いいのいいの、仕事が見つかったって言ったら間抜けみたいに喜んでたから」
浮気女「なにそれおもしろーい」
継父「ま、一応電話しとくかな」
浮気女「あは、ま・じ・め…んっ…ちゅ…じゅるるっ…」
継父「おいおい、電話先に聞こえたらどうするんだ」
浮気女「こんなにガチガチの癖にぃ」
継父「ははは」ナデナデ
娘「Zzz」
ジリリリリ
ジリリリリ
母「はい、もしもし」
継父『あー、俺だ。…ワ…ちょっと仕…シメ…事先で泊…サン…まるから』
母「…は?ちょっと!女の声がするんだけど!!」
継父『も……も…ーし?、な……て…言った?』
継父『あぁ?誰だ…お前……?』
母「ちょっと、何?ノイズ?全然聞こえないんだけど」
ツーツー
母「意味不明、あの男も潮時かな……」ガチャ
ジリリリリリ
ジリリリリリ
母「ちょっと、さっきはなんで勝手にきっ……」
メリー『私メリーさん、今パン屋の曲がり角にいるの』
母「は?」
ツーツー
母「イタズラ電話?きもっ」
ジリリリリリ
母「………はい」
メリー『私メリーさん、今肉屋の前にいるの』
母「ちょっと、いい加減に……」
ツーツー
母「あ?うざ!!」
ジリリリリリ
ジリリリリリ
ジリリリリリ
……………
娘「ん……なんの音だろ」ムクリ
メリー「私、メリーさん。今貴方の後ろにいるの」
母「………………」ガタガタガタガタ
母「……………ぁ」ブシュン
メリー「…………ふふ」
本日分終
メリー「はぁっ……はぁっ……げほげほっ…」
メリー「うっ……っ…!!」ズキン
娘「お母さんがいない……?」
娘「あれ?貴方は……」
メリー「…………けほっ」
娘「ど、どうやって入ったの?これがお昼に言ってたおまじないなの?」
メリー「……ごめんなさい。貴方は誰?なんで生きてるの?」
娘「お、お昼に会ったじゃないですか!」
メリー「あぁ……そう……なの…」
娘「?」
メリー「いえ、ごめんなさい。ビックリさせたわね」
娘「あの……お母さんに見つからないうちに早く……出て行った方がいいと思います…」
メリー「そうね、お邪魔したわ」
娘「さ、さようなら!」
メリー「…………さようなら」ガチャ
娘「……咳してたけど大丈夫かな」
娘「………あれ」
娘「受話器くらい直してくれてもいいのにな……」ガチャリ
娘「………自由になりたいなぁ」
メリー「……………」
メリー「あの子は、誰だったのかしら……」ズキン
メリー「なんで人間が親しげに……」
メリー「人間………」
メリー「うっ…頭が痛い…」ズキン
メリー「はぁっ…はぁっ…水……」ヨロヨロ
ジリリリリリ ジリリリリリ
メリー「っ…!電話の音が……頭の中で……」
メリー「………」バタ
ジリリリリ ジリリリリ
「はいはい、後ろにいるんでしょ?」
「え……」
「ようこそメリーさん、あなたが電話の子ね!」
「な、なんでこっち向いて……」
「かわいい…………」
「え?」
「かわいいいっ!」ギュ
「な、な!?」
「貴方なんなの?お化け?」
「……妖怪」
「妖怪!?本当にいるんだ…」
「………貴方変な人間ね」
メリー「あぁぁぁああ!!!」ガバ
老人「ふぉう!?」
メリー「はぁ……はぁ……」
老人「大丈夫かね?」
メリー「ごめんなさい、大丈夫よ」パッパッ
老人「こんな時間に寝そべっていたら危ないぞ」
メリー「………」サッ
老人「そう警戒するな、助けてやったというのに」
メリー「助け……?」
老人「ほれ」
チンピラ達「ぁ……が……」ピクピク
メリー「……!」
老人「この街はこういう街じゃ」
メリー「あ、ありがとう……」
老人「礼にはおよばんよ」
本日分終
老人「どこか行くアテはあるのかい?」
メリー「ないわ」
老人「そうか、色々大変なんじゃのう」
メリー「貴方は何者なの?ただのお爺さんではないでしょ?」
老人「元保安官……といったところかの」
メリー「……そう」
老人「こんな街じゃから、ワシみたいな者でも少しは役に立つじゃろ」ニカ
メリー「電話、貸してもらえるかしら」
老人「む?ええぞ」
メリー「行くアテが無い、というのはちょっと嘘なの」
老人「ほう、なんだか不思議なお嬢さんだ」
メリー「貴方も十分不思議なお爺さんよ」
老人「何ももてなせんが、あがってくれ」
メリー「お邪魔するわ」
老人「ふむ、暗くてよくわからんかったが……そのリボン」
メリー「?」
老人「随分と遠くの街で作られておる伝統工芸品じゃのう」
メリー「ふふ、鋭いのね」
老人「ま、詮索はせんよ」
メリー「別に何てことないわ、私は旅をしているの」
老人「ほう」
メリー「今までも色んな街を巡ってきたわ」
老人「そうか、では旅人さんよ、この街はどう思うかのう」
メリー「……あまり好きではないわ」
老人「ふむ、そうか……」
メリー「貴方はどう思っているの?」
老人「ワシ?ワシは結構好きじゃぞ」
メリー「………」
老人「確かにここの街は、汚い事をする者、弱者を虐げる者もおる」
老人「じゃが優しい心を持つ者もおる」
メリー「それはどこの街も……」
老人「そうではない、表と裏、というかのう」
老人「悪人は悪人をしっかりとやり、善人は善人をしっかりとやる、そんな街なんじゃ」
メリー「む………」
老人「はは、お嬢さんには少し難しかったか」
老人「善人の皮を被った悪人、というのは恐ろしくはないかのう。ワシはそういうヤツが一番怖い」
メリー「ふむ………」
老人「旅をするなら、しっかりと見極めるんじゃぞ」
メリー「……わかったわ」
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