怜「PSYCO-LES」 (118)
関連
咲「PSYCO-LES」
咲「PSYCO-LES」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417437971/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1417518475
菫「失踪者は園城寺怜18歳。千里山女子高等学校の生徒だ」
咲「行方不明になってから今日で1ヶ月、ですか……」
菫「失踪当日の色相はコバルトグリーン。体質は病弱だが、精神的には何の異常もない健康優良児だった」
菫「故に本人が自らの意思で姿を晦ましたとは考えにくく、事件性が極めて高いと見られている」
咲「警察から私たちに捜査協力要請が出たってことはつまり……」
菫「潜在犯による犯行の可能性が高い」
菫「現にこの手の失踪事件の半分は潜在犯による拉致監禁事件だが……現状ではまだ断的出来ない段階にある」
菫「一切の手がかりを残さないままに起こった神隠しだ」
菫「そのせいで警察も捜査の方向性すら定められないまま右往左往している」
咲「つまり、潜在犯の犯行と見ての捜査は私たちに任せるってことですよね」
菫「そういうことだ。普段何かといがみ合っているが、限られた人員で捜査を円滑に進めるためには手を取り合う必要もある」
洋榎「話聞いてる感じやと向こうが泣きついて来た、って感じやな」
爽「いつもなら『俺たちの仕事だ、お前らは手を出すな』とか生意気なこと言ってくれるくせに、調子良いもんだねー」
菫「世間の注目が集まっているにも関わらず、捜査はまったく進んでいないからな」
菫「警察の捜査能力を槍玉に挙げられるのは時間の問題だ。背に腹は替えられんのだろう」
豊音「用は頭下げてでも私たちに責任の半分くらいは背負って欲しいってことだねー♪」
爽「なら私たちだけで事件解決しちゃって、向こうの無能をもっとアピールしよう! よっしゃ燃えて来たー!」
咲「えっと、みなさんは警察のことが……」
智葉「それ以上は飲みの席にでも取っておけ。脱線しているぞ」
洋榎「あはは、それもそうや。連中の無能は話し出すと止まらんからなー」
爽「酒のまれにはピッタリなんだけどね」
菫「お前らはまだ未成年だと思うんだが……」
爽「ま、多少はね?」
洋榎「こんな仕事しとるんやからな、そんくらいは許して欲しいわ」
菫「あのなぁ……」
智葉「お前まで流されてどうする、菫」
菫「……話を戻す。捜査の方向性だが、まずは園城寺の身辺から洗い直そうと思う」
菫「警察から今までの捜査資料などが提供されているが、連中が全ての情報をこっちに渡しているとも考えにくい」
咲(そんなことってあるんだ……)
洋榎「ま、百聞は一見に如かず。自分の目で見て確かめた方が良いわな」
豊音「嘘教えられてる可能性だってあるしね」
菫「園城寺の失踪が潜在犯の手によるものと考えるなら……同級生や友人、学校関係者に犯人がいる可能性は高い」
菫「まずは園城寺が在籍している千里山女子校等学校を捜査するぞ」
爽「女子校……!」
菫「言っておくが、執行官が許可無く生徒や教職員と接触するのは一切禁止だ」
菫「もちろん監視官の視界からいなくなることも許さない、分かったな」
洋榎「そんな当たり前の話忘れてるのは1人だけや思うでー」
爽「はぁ……」
咲(すごいテンション下がってる……)
菫「ブリーフィングは以上だ。執行官はユリネーターを取り次第、護送車へ迎え」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
咲「あの」
菫「なんだ?」
咲「千里山女子の全校生徒って何人くらいいるんですか?」
菫「1学年おおよそ300人。生徒だけなら900人以上だ」
菫「教職員も合わせれば学校関係者は1000を超えるだろうな」
咲「すごく大変そうですね……」
菫「何も全員から聞き取り調査やらをするわけじゃない」
菫「私たちが今日することは全校生徒分の定期診断の詳細値と色相判定の記録を回収し、教職員からおおよその事情を訊くだけだ」
菫「あとはざっとした施設の見回り、授業風景の見学……」
咲「えっと、それだけなんですか?」
菫「……一体何をしに行くと思っていたんだ君は」
咲「全校生徒と学校関係者全員の百合係数をユリネーターでチェックするんじゃ……?」
菫「……そんなにも簡単な話だとこっちも助かったんだがな」
咲「え……?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
えり「遠路遥々ご足労様です」
えり「千里山女子高等学校学務主任兼教頭、針生えりです」
菫「公安局百合課一係、監視官弘世菫です」
咲「お、同じく宮永咲です」
菫「現場を見させて頂きます」
えり「……案内します。どうぞこちらへ」
爽「うわー、足ほっそいなぁ」
豊音「すっごい美人さんだねー」
洋榎「乳もええ感じにあるし、今まで2人くらいサイコレズ曇らせてそうやな」
菫「……」スチャ
洋榎「菫は冗談が分からんなぁ」
爽「無言で銃口向けるのも良くないよね」
豊音「ちょっとくらいお話させてくれてもいいのにね」
菫「一度しか言わないぞ。黙れ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『えー、このxに4を代入して、さっき教えた公式に当てはめると……」
えり「こちらが普段授業を行っている一般的な教室です」
えり「そしてあそこにあるのが常設スキャナ」
えり「生徒たちが授業をしている間もリアルタイムで色相判定をし、異常がないか常にチェックしています」
菫「……」
咲(学校……ついこの前まで通ってたから、なんか変な感じだな……)
豊音(うわぁ、スカート丈短い……)
爽(あの子可愛い)
えり「スキャナは学校のありとあらゆるところに設置されています」
えり「校内で暴力行為などの問題が起これば即座に検知し、セキュリティルームに通報がいくようになっています」
えり「スキャナが設置されて以来、そのような問題は一度も起きていませんが」
洋榎「ま、常識で考えれば起こりようがないわな。そのための常設スキャナと色相判定システムや」
えり「その通りです。色相に問題が出た生徒は即座に隔離し、常勤のセラピストが治療にあたります」
えり「故に問題など起こりえない。我が校から事件の犯人が出るなんてことはありえません」
智葉「……色相はあくまでメンタルケアの指標、スキャナで分かるのはごく表層的な心理状態だけだ」
智葉「いじめを無くす程度ならそれで十分かもしれないが……百合係数が読み取れない以上、潜在犯を完全に取り締まることは出来ない」
えり「!」
智葉「なおかつ潜在犯を治療出来るのは国家資格を持った専門家のみ……」
智葉「このレベルの学校に常勤しているセラピストがその資格を取得しているわけもない」
智葉「例え潜在犯を発見していたとしても、その治療には及んでいないだろう」
洋榎「気の毒やけど、おたくらの誰かがやった可能性はまだ十二分にあるってことや、先生」
えり「……」
菫「警察署の捜査ならスキャナ云々で終わりですが……我々公安局の捜査だとそうはいきません」
菫「それを把握した上で捜査に協力してもらえるとありがたいです」
えり「……次の施設を紹介します」
菫「……」
菫「おい、獅子原と姉帯。それに宮永はどこに行った?」
洋榎「ん? そういえばおらんなってるな」
智葉「あの2人が何を考えるかは大体想像が付く……」
菫「まさかアイツら……!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
爽「よーし、この辺まで来れば大丈夫か」
咲「んー!?」
姉帯「宮永さん軽いねー。連れ去るの余裕だったよー」
爽「豊音が連れ去れない女の子は女の子って呼んでいいか微妙なラインの子だけだろうね」
咲「しし、獅子原さん! 姉帯さん! いい、一体何を……!?」
爽「いやさ、せっかく女子校まで来たんだし、羽根伸ばしたいじゃん?」
豊音「いっぱい遊びたいよねー!」
咲「だだ、ダメですよ!? 弘世さんからの言いつけは守らないと……!」
爽「あはは、言いつけだって。咲って言葉の言い回しも可愛いよね、子供っぽくて」
咲(薄々気付いてたけど……)
豊音「うんうん分かる! 着られてる感満載のスーツ姿もちょー可愛くて……」
咲(私、監視官なのにめちゃくちゃ舐められてるような気が……)
爽「咲、ここの制服とかもめっちゃ似合いそうだよね」
咲「!?」
豊音「絶対似合うよ獅子原さん!」
爽「よし決めた! 今から制服調達して咲に着せて写メる!」
咲「へっ!?」
爽「日頃菫に抑え付けられたこのリビドー! もう誰にも止められない!」
咲「まま、待ってください獅子原さん!? 私の視界からいなくなるのは服務規律違反で……!」
豊音「あー!!」
咲「!?」
爽「なになに!? どうしたの豊音!?」
豊音「女子高生がサッカーやってる!」
爽「うおマジか!? よし見学しよう! 可愛い子見つけて一緒に学食食べよう!」
豊音「賛成ー!」
咲「ま、待ってください2人とも……ってちょ、姉帯さ……きゃあああああ!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
えり「……宮永監視官と同伴の方2名が見当たりませんが、どうかしましたか?」
菫「少し別行動を取らせています。すぐに戻るので気にしないでください」
えり「部外者に校内を勝手に散策されるのは困るのですが……」
智葉「私たちは公安局からの捜査令状を持っている」
智葉「本来なら好き勝手やらせてもらっても何の問題もないはずだが」
えり「……いくら捜査令状が出ているとは言え、それは些か常識に欠けるとは思いませんか。執行官殿」
智葉「お前たちとは人種が違えば持ち合わせている常識も違う」
智葉「聖職者と潜在犯が同じ人間だと思っているなら話は別だがな」
えり「……弘世監視官」
菫「執行官、悪いが少し黙っててくれないか」
智葉「失礼」
えり「宮永監視官たちには別の案内役を付けさせてもらいます」
えり「校内は広い故に、迷われては困るでしょうから」
菫「……よろしく頼む」
智葉「こうやって言いたいことが言えるのは執行官の特権だな……」
洋榎「さっきから先生の殺気がヤバいからその辺にしときー」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セーラ「で、なんやねんお前ら。何者や?」
セーラ「さっきからずっと俺らのこと見てたけど……」
爽「通りすがりの女子高生愛好家その1です!」
豊音「その2だよー」
セーラ「……」
咲「ま、待ってください! 無言で立ち去ろうとしないで!」
セーラ「警察……」
咲「余計にややこしくなっちゃうよ!?」
セーラ「はぁ……で、冗談抜きでお前ら何者や?」
セーラ「グラウンドにそんな結滞な格好で入ってきて」
セーラ「まあ校内に入れてる時点で不審者で無いのは確かやろうけど……」
咲「えっと、私たちはこういう者で……」スッ…
セーラ「公安局……? 監視官……?」
咲「公安局百合課1係、監視官の宮永咲です」
咲「園城寺さんのことについて少し訊きたい事があります。協力してもらえますか?」
セーラ「……」
爽「っちゃー。ダメでしょ咲、そんなの見せちゃ」
咲「え?」
「公安……?」
「公安ってあの公安やんな……?」
「嘘、本物……?」
「でも偽物だったら校内に入れるわけないし、あの服装とかさっきの証明書みたいなのとか……」
豊音「みんな一気に警戒心強まっちゃったね……」
爽「まだ女子高生愛好家って方が口きいてくれただろうに」
咲(もしかしてこの2人、生徒から事情を訊くために弘世さんたちと離れて……?)
「「…………」」
咲「え、と……」
爽(はあ。こうなるとしょうがないか……)
爽「咲、ここはちょっと私に任せんさい」
爽「先輩が新人ちゃんに人心術ってのを見せてあげよう」
咲「ご、ごめんなさい……お願いします……」
豊音「獅子原さん頑張ってー」
爽「みんな遊んでる最中に邪魔しちゃってごめんね」
爽「さっき名乗った通り公安の人間なんだけど、この中に園城寺怜さんのこと知ってる人いるかな?」
「園城寺さん……?」
「やっぱりあの人たち、園城寺さんのことについて調べてて……」
「でもこの前もそういう人たち来てたよね……? なんでまた……」
爽「あー、アイツらと私たちはまた別なんだ」
爽「女子高生に警察と公安の違いなんて分からないかもだけど」
セーラ「公安って、その……警察のさらに上の秘密組織みたいな連中やろ? 潜在犯を専用に相手してる潜在犯集団で……」
爽「へー、知ってる子もいるんだ。意外だなー」
咲「普通は知ってますよね……?」
豊音「流石に女子高生バカにしすぎだよねー」
セーラ「……怜について調べに来たんか?」
爽「いかにも。警察の無能が1ヶ月かけても手がかりすら掴めないってんで、私たちの出番ってわけだ」
セーラ「……」
爽「みんなの目を見るにあんまり信用されてなさそうだけど、まあ無理もないよなー」
爽「ロクなもんじゃなかったんでしょ? 警察の取り調べ」
セーラ「そらもうな。長時間拘束されて根掘り葉掘りいろんなこと訊かれて最悪やったわ」
セーラ「おまけに高圧的やしな」
爽「女の扱い方が分かってねーよなー、連中は」
爽「私もアイツら嫌いだからよく分かるよ、その気持ち」
セーラ(嘘付け……どうせお前らも……)
爽「連中は結局のところさ、自分らの名誉とか出世のことしか見えてないんだよなー」
爽「何か事件が起きても被害者のことは二の次。加害者のケツばっか追っかけて点数稼ぎのことしか頭にない」
爽「一番傷ついてるのは被害者とその周りの人たちなのにさ」
セーラ「!」
爽「今回の事件でもそうだ。世間からの非難を逃れたい、自分たちの名誉を守りたい……そんなことしか頭に無いから大切なことを考えられない」
爽「そう、友達がいなくなって一番ショックを受けてる君たちのことをね」
セーラ「……」
爽「私たちなら失踪して3日も経たないうちに事情聴取なんて絶対にしない」
爽「園城寺さんの捜索よりもまず全校生徒のメンタルケアから始める、捜索はそれがキチンと終わってからだ」
爽「そもそも行方不明者の捜索なんて本来ならそこまで緊急性はないからね。フラッと帰ってくることもあるんだし」
セーラ「……それが警察と公安の違いってことか?」
爽「警察は捕まえるのが仕事。私たちは助けるのが仕事」
セーラ「!」
爽「私たちは園城寺さんの行方不明で苦しんでる人たちを全員助けたいんだ」
爽「だから、無理じゃない範囲で協力してもらればすごくありがたいってわけ」
セーラ「……怜について何が訊きたいんや?」
爽「うーん、そうだなぁ」
爽「何よりもまず教えて欲しいのは……園城寺さんにとって一番親しい人、かな」
セーラ「それは家族も含めてなんか? それとも……」
咲「……すごい」
豊音「獅子原さんの人心術は天下一品だからねー」
豊音「潜在犯の話なんて聞こうともしない人がほとんどなのに、本当にすごいよ」
咲「私、獅子原さんのこと見直しました……」
豊音「いつもは軽い感じだけど、やる時はやるんだよー?」
咲(新子さんの事件から1ヶ月経って、少しはこの職場に馴れたつもりだったけど……)
咲(私、まだまだ知らないことだらけだ)
咲(仕事のことも、一緒に働く人たちのことも……全部……)
豊音「お話も随分弾んでるみたいだし、この調子でいけば重要な情報も引き出せて……」
「いやー、困っちゃうなー。そういう勝手なことされるとさ」
咲「!?」
爽(うーん、時間切れか……でもまあ……)
「同級生の失踪に警察の取り調べ……もうコイツらのメンタルボロボロなんだからさ、これ以上いじめんのはやめてくんないかなー?」
咲「だ、誰……?」
咏「ん? 私は三尋木咏。なーに、しがないここの国語教師さ」
咏「ってなわけで取り調べは終わりね。これ以上やるなら文科省通して。君らんとこのお偉方にもそう言ってあるから」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
えり「こちらが全校生徒、全職員のサイコレズ……」
えり「定期診断の詳細値と常設スキャナによる色相判定の記録です」
菫「お預かりします」
えり「確認してもらえれば分かることですが、継続的に規定値を逸脱している生徒は1人もいません」
えり「罪を犯そうにもまず容疑者がいないと思いますが……」
菫「それはこれらのデーターをサイコレズシステムで分析してみるまで分かりません、相応の時間がかかります」
菫「だが、より簡単に調べる方法もある……」
えり「というと?」
菫「ユリネーターです。一度全校生徒を体育館に集め、こちらの機材でチェックさせて頂きたい」
えり「しかし、それでは教育カリキュラムに支障を来します」
えり「ただでさえ警察の長時間に渡る取り調べを受け、大幅な遅れが出ています……これ以上は容認し難いです」
えり「何よりそのような方法でこれ以上生徒たちを刺激することに賛成出来ません」
えり「ただでさえこのような事件が起こった矢先に、そんなこと……」
菫「事は人命に関わる問題です」
えり「……園城寺さんを誘拐した者がいて、なおかつそれが我が校の生徒だという証拠を提出して頂ければ、もちろん当方も協力させてもらいます」
えり「ですが現状、そんな輩が校内にいるとは考えられない……」
えり「こちらの教育カリキュラムに変更を要し、なおかつ生徒たちに更に心理的ストレスを与えてまで取り調べを行うのであれば」
えり「まずは文科省を通して教育カリキュラムの変更手続き、そして生徒たちの全保護者に対するPTA会議での採択が必要になります」
菫「……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
久『どう? 通信状況は良好かしら?』
智葉『あのツリ目が真横にいると錯覚させられるよ』
久『ふふ、最高の褒め言葉ありがと♪』
洋榎「しかし見事なまでのお役所仕事やのー……」
智葉「連中には連中の守るものがあり、正義がある。ただそれだけのことだ」
洋榎「この様子やとユリネーター使っての人海戦術は無理そうやな」
智葉「菫も最初から出来るとは思っていなかっただろう」
洋榎「さーてここからどうするかやなー……」
智葉「あんなデータ、探ったとて何も手がかりは掴めないだろう」
智葉「学校側が不都合な情報を隠匿していても何も不思議じゃない」
洋榎「小細工してなくてもスキャナのデータからは百合係数までは割り出せんしな。せいぜい怪しいヤツ絞ることしか……」
爽「あ、ハードボイルド担当の2人だ。やっと見つけた……」
智葉「獅子原、それに……」
洋榎「お、かもめさんチームの帰還か」
豊音「この学校すっごく広かったねー。おかげでいろんな場所回れて楽しかったけど」
咏「ん、この人らが君らのお仲間かい?」
咲「は、はい。でも弘世さんがいない……」
智葉「何か収穫はあったか、監視官」
咲「辻垣内さん……えっと、私は全然だったんですけど、獅子原さんが……」
洋榎「なんか掴んだんか?」
爽「たぶんだけど、誰が犯人か分かった」
咏「!」
咲「えっ……!?」
洋榎「お、流石やな」
智葉「誰だ?」
爽「園城寺さんと同じクラスだっていう清水谷竜華って子」
爽「恋人だってさ」
洋榎「あー、なるほどな……失踪が潜在犯の犯行であるなら間違いなく黒やな」
咲「ど、どうして言い切れるんですか?」
洋榎「刑事の勘、ってヤツやな」
咲「勘……?」
洋榎「この現場に入って直感出来なきゃ刑事やないわ」
洋榎「執行官なら全員ピンと来たはずや。犯人はこの学校におる、ってな」
智葉「それに加えて爽の情報と推測……まず間違いなくその清水谷とやらの犯行で間違いない」
豊音「動機はなんなんだろうねー」
爽「恋人だっていうのに拉致監禁なんて物騒すぎるし、そこだけが分かんないわ。てか情報少な過ぎ」
智葉「あとは本人の口から聞けばいいだろ」
咲「ちょ、ちょっと待ってください!」
爽「1つは洋榎も言ってる通り直感。根拠の8割それ」
咲「でも、それはあくまで直感ですよね……?」
智葉「獣は獣の匂いを嗅ぎ取る」
智葉「恋慕に心を囚われ罪を犯すのも、そいつを取り締まるのも……どっちにしろサイコレズに関する才能に変わりはない」
智葉「故に私たちの百合係数も平均値を逸脱した数値を叩き出す」
咲「百合係数はサイコレズへのなりやすさを表しているだけじゃない、そういうことですか……?」
洋榎「そうやで。ま、その辺の裏情報はあとで自分で勉強し。今は研修の時間やないからな」
咏「……確かにさっきよりは説得力出たけど、それでもまだ妄想の範疇を出ちゃいないと思わないかい?」
爽「……あのセーラって子、泣いてたんだよね」
爽「竜華を助けてくれ、って」
爽「今一番辛くて苦しいのは……アイツだから、って」
咲「……」
爽「仮にその清水谷って子が白だったとしても……私たちは彼女のところに行かなきゃいけないよ」
爽「もちろん銃口だって向けないといけない。それが仕事だから」
咏「……」
智葉「……菫が戻り次第、執行に向かうぞ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
菫「容認出来ないな」
智葉「……」
菫「状況証拠すら無い、ただの一個人の証言に基づいた憶測で行動は出来ない」
菫「私たちの任務はシステムが判定した百合係数に基づき、社会の秩序を意地することだ」
智葉「人が消えたにも関わらず、それを見逃す秩序をか」
菫「っ……」
智葉「菫、私に任せろ。清水谷が黒か否か、すぐにでも確証を掴んで……」
菫「黙れ!」
咲「わ、私……辻垣内さんに賛成です」
菫「宮永……?」
咲「ここで犯人を見逃して、取り逃す可能性があるなら……獅子原さんや辻垣内さんを信じたいです」
菫「……正気で言っているのか」
咲「弘世さんも本心では執行官のみんなを信じているはずです、それなのにどうして……?」
洋榎「察するにこの学校の上部組織……つまり文科省と一悶着あったんやろ」
洋榎「お国の施設で起こったことでお国の圧力がかかることなんて珍しいことやない」
えり「……これ以上の捜査は許可出来ません」
えり「私たちは全校生徒と職員のデータを提供した。本来ならこれでお引き取り願えるはずなのですが」
智葉「言ったはずだ。私たちには公安局からの捜査令状がある。その権限は全てにおいて優先される」
咏「でもこちとら君らのお偉いさんにクレーム通してるわけでさー」
咏「それを無視した挙げ句、成果が何も無かったと来ちゃ……然る形で責任取って貰わないと困るよね」
菫「……」
咏「何も捜査をするなって言ってるんじゃない、今日はやめてくれって言ってるだけさ」
咏「お引き取り願えないかな?」
咲「……その責任、私が取ります」
菫「!」
咲「もし何の異常も見つからなかった場合、全ての矢面に私が立ちます」
咏「……監視官、やめることになってもいいのかい?」
咏「公安局監視官なんてキャリア、二度と手に入らないよ」
咲「覚悟の上です」
菫「お前……」
えり「狂ってる……」
智葉「くく……惚れたぞ監視官」
洋榎「責任は私が取る、か……上司に言われてみたい言葉ナンバーワンやな」
豊音「そんなこと言われたら燃えちゃうよねー」
爽「……ありがとう、咲」
咲「お、お礼を言われるようなことじゃありません……」
爽(智葉が気に入ってる理由がよく分かるな……ふふ、百合係数上がっちゃうかも)
咲「問題ありませんよね、弘世さん」
菫「……好きにしろ」
洋榎「てなわけや。清水谷とやらの居場所、教えて貰おうか」
えり「……今は授業中です。休憩時間になってから呼び出しという形を取らせてもらえませんか」
咲「分かりました。みなさん、ここで待ちましょう」
咏「……いいのかい?」
菫「犯人確保を最優先にするなら今すぐ向かうべきだと思うが」
咲「生徒たちを刺激したくないですから。そこは先生方と同じです」
智葉「お前らしいな……」
洋榎「度胸はあるけどまだまだ甘ちゃんやなぁ」
豊音「そういうところも含めての宮永さんだよー」
菫「……宮永と獅子原はここで待機しておけ。残りの3人は私に付いてこい」
菫「清水谷が逃亡した時のために網をかけておくぞ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『なあ、竜華』
『……?」
『私ら、もうすぐ卒業やな』
『そうやなー』
『いろんなことあったよなぁ……』
『思い出しきれんくらい、いろんなことあったなー』
『高校生活、めっちゃ楽しかったわ』
『ベッドの上から眺めてるだけしか出来んかったこと全部、経験出来た』
『全部竜華のおかげや……今までほんまにありがとうな』
『な、なに言ってんの怜? 改まってそんなこと……恥ずかしいわ』
『私も恥ずかしい……でも、ちゃんと言わなアカン思って』
『……怜?』
『ごめんな竜華……私、大学上がれそうにないわ』
『は……?』
『……』
『な、なに言ってんの怜? 嘘でもそういうこと言うのよくない思うで?』
『私な、高校卒業したら結婚するねん……』
『!!』
『親の決めた相手……どっかのよう分からん企業の御曹司……』
『あの噂……本当やったん……?』
『最後まで断るつもりやったから、竜華には隠してたんやけど……やっぱ知ってたんやな……』
『嘘、嘘や……そんな、そんなことって……』
『ヘタレな竜華が告白してくれて、恋人同士になれたのに……ぐずっ、本当にごめんな……』
『怜……』
『竜華と出会う前の私は生きてなかった……今も竜華と出会う以前のことなんて何も覚えてない』
『またあの頃に戻るんやと思うと、どうしようもなく怖い……』
『っ……』
『これからの私の人生に竜華はおらんくて、今の綺麗な思い出も全部灰色で塗りつぶされてくと思ったら……』
『私にそれは耐えられそうにない……』
『だからな、竜華……私、死のう思ってるねん』
『は……?』
『方法はまだ考えてないけど、卒業式の日にな』
『と、怜……? あんた、なに言ってんの……?』
『死ぬなんてそんなん、アカンに決まってるやん……』
『竜華のおらん世界でいつまでも生き続けろなんて……それは残酷やで』
『う、ウチやったら卒業しても怜と一緒におり続ける……誰と結婚してようと怜が望むなら……!』
『竜華はやっぱり優しいな……』
『だから……ぐずっ……死ぬとか、そんなこと……』
『竜華以外の人のもんにさせられるくらいなら……竜華の恋人のままで死なせてや』
『と、き……』
『どっか遠い場所に……竜華しかおらん場所に行きたいなぁ……』
『私、竜華といつまでも一緒にいたい……竜華と離れたくない……』
『竜華がいい……竜華以外の人なんて嫌や……』
『…………』
『なあ、竜華』
『攫ってや……私のこと』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
えり『3年C組清水谷竜華さん、至急学務室まで来てください』
えり『繰り返します。3年C組清水谷竜華さん……』
洋榎「さてこの状況。清水谷はどう動くか……」
智葉「爽たちが派手に動いたのを考えると、公安が捜査に入っていることは全校生徒周知の事実だろう」
洋榎「その上でこの呼び出し……普通なら逃げるわな」
豊音「でも逃げるってことはつまり、自分が黒ですって言ってるようなものだよね」
洋榎「向かうも地獄、逃げるも地獄かー……ウチが清水谷なら、想い人に最後の言葉くらい残しに行くかな」
智葉「逃走を図ったとて捕まるのは時間の問題だ……その可能性は極めて高い」
智葉「そう考えての別行動なんだろう? 菫」
菫「……宮永はまだ甘過ぎる、刑事としての自覚が足りない」
菫「あくまで潜在犯を救うことを考えている……」
智葉「私たちの常識で考えるなら、この局面は迷わずに即時確保」
智葉「生徒たちの混乱などは一切考えない……容疑者に考える時間を与えずにケリを付けるのが正解だ」
豊音「そうしなかったのは宮永さんへの優しさ?」
菫「この件の全ての責任をヤツは取ると言ったんだ……その決断が出来なかった私に何かを言う資格なんてない」
智葉「くく……お前のそういうところは嫌いじゃない」
洋榎「頭も堅けりゃ義理も堅い。まあ菫らしいわな」
菫「うるさい、無駄な話は終わりだ。事件に集中しろ」
豊音「弘世さんと宮永さんって相性良いよねー、2人並んでると姉妹みたいだし」
菫「一体何の話だ……」
洋榎「互いに足りんものを持ってそうなんは確かやなー」
智葉「現にこの状況はどちらか一人では成し得なかっただろう」
智葉「以前に比べると無駄な心配事も増えたが、仕事がやりやすくなったのも確かだ」
智葉「昔を思い出す……」
洋榎「健やかに育って欲しいもんやな。んであわよくば、アイツみたいな監視官に……」
菫「愛宕」
洋榎「……すまん」
菫「辻垣内、お前も分かっていると思うが……」
智葉「私がそんなタチに見えるか?」
菫「……」
豊音「えっと、何の話をして……?」
久『はろー。みんなご機嫌いかが?』
咲(竹井さん……?)
菫「……何があった」
久『清水谷さん、残念ながら学務室に向かっていないわ』
咲「!」
菫『……聞こえているか、宮永』
咲『はい。聞こえています』
菫『プランBに変更……今から清水谷を全力で追うぞ』
菫『竹井、全員のナビにこの学校のマップデータと対象の位置情報を送れるか』
久『もう送ってるわ』
菫『仕事が早くて結構だ』
久『にしても彼女、どこに向かっているのかしら?』
久『逃げるにしても校門とは違う場所に向かっているわ……この方向だと旧学生寮区だけど……』
咲『旧学生寮区……?』
智葉『宮永監視官、清水谷にとっての今の状況がどういったものか把握出来ているか?』
咲『は、はい……把握しているつもり、ですけど……』
智葉『逃げるも地獄、向かうも地獄……お前が清水谷だとしたら何をする?』
咲『……』
咲『園城寺さんに……会いに行きます』
智葉『そういうことだ。灯台下暗し、道理で警察が見つけられないわけだ……』
咲『も、もしかして……!?』
智葉『園城寺はこの学園内にいる。そしてそれは清水谷が今向かっている場所だ』
菫『……宮永監視官、獅子原と共に清水谷を追え。執行は君たち2人に任せる』
咲『りょ、了解です!』
菫『私たち4人は逃亡時に備え学生寮区を包囲するぞ』
菫『武器などの所持は確認されていないが油断するなよ』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『なあ、怜……』
『どないしたん、竜華』
『みんな心配しっとたで。怜、おらんなって』
『そっか……』
『セーラなんかは泣いてたわ……ウチ、セーラがあんな風に泣くの初めて見た』
『……後悔、してる?』
『後悔はしてないけど……怖い』
『これからのこと考えたら、どうしようもなく不安になって……』
『大丈夫、絶対にバレへんよ。見つかるわけない』
『竜華の色相が曇りそうになったら……私が何回でも綺麗にするから』
『怜……』
『ほら、今もちょっと曇ってるで……変なこと考えるからや』
『竜華、こっち来て』
『……』
『ん……』
『っ……』
『怜……』
『なに?』
『もっとして……』
『ふふ……いちいち言わんでええよ』
『とき……』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
爽「私たち、本当に運が良かったね」
咲「……どういうことですか?」
爽「ぶっちゃけるとさ、私が清水谷にたどり着いたのは完全にまぐれだったんだ」
爽「話を聞いたのがあのマニッシュちゃんじゃなかったら……この事件は迷宮入りしてたと思う」
咲「……」
爽「園城寺怜の周囲の人間を探ろうにも、彼女たちの警戒心は最高レベルに高まっている」
爽「それだけでも厄介なのに学校側も生徒たちを全力でガードしている……これじゃあロクに情報は集められない」
咲「でも時間が経てば捜査も進んで、いつかは清水谷さんに辿り付いていたはずじゃ……」
爽「無理だよ。園城寺と清水谷が交友関係にあったと把握は出来ても、そこから清水谷にユリネーターを向けるまでに至れない」
爽「学校側は文科省に掛け合ってまで生徒たちを守ろうとしたんだ」
爽「この時点で菫がしようとしたユリネーターでの人海戦術は無理」
爽「容疑者を園城寺の知人にだけ絞ったとしても……監視官の首が足りないよ」
爽「私たちが清水谷に辿り着けた唯一の手がかりは、あの2人が恋愛関係にあったってことだけど……」
爽「そのことを知っていたのは本人たちとごく限られた親しい知人だけだ」
爽「たぶんあのマニッシュちゃんと、いてもあと1人くらいのもんだろうね」
咲「……」
爽「まあ、奇跡だよ。咲が私たちの後押ししてくれたのも含めて、今の状況全てが」
咲「……清水谷さんはどうして、こんなことをしたんでしょうか」
咲「そこまで完璧な計画を練ってまで恋人を監禁するなんて……」
爽「ただでさえ重い引き金なんだし、これ以上重くする必要は無いと思うよ?」
爽「私も今まで何十人と撃って来たけど……本当に撃てなくなっちゃうから、その辺の事情知っちゃうと」
咲「獅子原さん……」
爽「今回は智葉がよく言ってる通り、何も考えずに引き金引くのが正解だと思うな」
爽「この扉の先にどんな光景が待っていたとしても……」
咲「……」
爽「行こっか、咲」
咲「……はい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『……なあ、竜華』
『なに? 怜』
『生まれ変わっても……一緒がええな』
『ふふ……そうやな』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
怜「……」
咲(園城寺、怜……)
咲(じゃあこの人が……)
竜華「……」ナデ…
爽「最後の一瞬まで2人で過ごす、か……泣かせるね」
咲「生きて、ますよね……?」
爽「生きてて欲しいね」スチャ…
『清水谷竜華。百合係数オーバー240。執行対象です』
爽「……彼女がこの事件の犯人で間違い無さそうだ」
咲(百合係数、240……)
『執行モード。イレイザー』
『対象の記憶を抹消します。落ち着いて照準を合わせてください』
咲(イレイザー……)
爽「……園城寺さんを監禁していたのは君だね、清水谷さん」
竜華「はい、そうです」
爽「私たちが誰かも、どういう目的でここにいるかも分かってるよね」
竜華「はい。お騒がせしてすみませんでした……」
爽「……それじゃあ」
怜「刑事さん。撃つ相手はここにもおるで」
咲「え……?」
爽「……」スチャ…
『園城寺怜、百合係数256。執行対象です』
咲「う、そ……」
爽(間に合わなかったか……)
咲「園城寺さんは被害者なのに、どうして百合係数が……!?」
爽「サイコレズは伝染するんだ。だから潜在犯は隔離され、百合係数によっては記憶を消される」
咲「そんな……」
爽「被害者だろうが加害者だろうが関係無い」
爽「システムに従いみな等しく執行する。それが私たちの役目だよ」
咲「違う、違うよ……私たちの役目は、サイコレズの曇った人を救うことで……」
爽「咲……」
咲「こんなの間違ってるよ……園城寺さんを撃つなんて、そんなこと……」
爽「……咲が撃たなくても私が撃つよ」
咲「!」
爽「撃ちたくないなら撃たなかったら良い」
爽「監視官の色相をクリアに保つために、汚れ仕事を請け負うのも執行官の役目だ」
咲「獅子原さん……」
怜「出来れば2人同時に撃って欲しいんやけどな……」
咲「え……?」
怜「竜華が撃たれるん見るのは嫌ややから……」
竜華「ウチも怜が撃たれるの見るなんて絶対に嫌や……」
咲(そんなにも、お互いのことを思って……)
爽「……やってあげよう」
爽「それがこの2人の救いになるなら……それこそ咲の本望だろ?」
咲「……分かり、ました」
『園城寺怜、百合係数256。執行対象です』
咲(この引き金を引いた瞬間、園城寺さんの記憶は消える……)
咲(清水谷さんとの思い出も、恋心も全部……私がこの手で消し去る…)
『そいつの引き金は……お前が思っているよりずっと重いぞ』
咲(指に力が入らない、身体が震える……)
咲(どうして園城寺さんまで記憶を失う必要があるの……?)
咲(彼女は新子さんと同じで何もしていない……むしろ事件の被害者なのに……)
咲(清水谷さんだって何かやむを得ない事情があって園城寺さんを連れ去ったのかもしれない……)
咲(だって2人は恋人同士で、園城寺さんは抵抗をしている素振りが一切ないんだから、監禁も自ら望んだことで……)
爽「咲」
咲「ッ……」
爽「言ったよね、何も考えずに引き金を引こうって」
咲「でも、この2人は……」カタカタ…
爽(うーん、完全にドツボにハマってるなこりゃ……)
爽(今の咲には酷だよね、この手の事件は……)
爽「ごめんね2人とも。この子には君たちを撃てそうにないや」
怜「私らの境遇考えてくれるなんて、優しい刑事さんもおるんやな……」
竜華「優しさがあるんやったら見逃してや、って感じやけどなー」
怜「ふふ、それは言えてるわ」
咲「だ、大丈夫です……私、撃てます……」
咲「それで2人が救われるなら、私……」
「下がれ、監視官」
咲「え……?」
智葉「それは私たちの仕事だ。お前がサイコレズを曇らせてまでやることじゃない」
咲「辻垣内、さん……」
爽「来てくれたんだね、智葉」
智葉「こんなことだろうと思ってな……」スチャ…
『清水谷竜華。百合係数オーバー240。執行対象です』
『園城寺怜、百合係数256。執行対象です』
智葉「……サイコレズの伝染か」
爽「うん、間に合わなかったみたい」
智葉「いや、間に合ったさ……あと1週間遅れていれば、2人とも命を絶っていたかもしれない」
咲「!」
智葉「……爽、10秒後だ」
爽「りょーかい」
竜華「怜……そろそろお別れみたいやな」
竜華「もしかしたらと思ったけど、やっぱアカンみたいや」
怜「そうやな……」
竜華「ごめんな……ぐずっ、ウチのせいで、怜のサイコレズまで曇らせてもうて……」
怜「謝るのは私の方や……私が竜華にこんなことさせんかったら、竜華は……」
咲「っ……」
竜華「本当に、今までありがとう……大好きやで、怜……」ギュ…
怜「私も、竜華のこと大好き……竜華と出会えて、恋人になれて本当に良かった……』ギュ…
『執行モード、イレイザー』
竜華「ウチの分も、幸せになるんやで……」
怜「私の分も、幸せになってな……」
『対象の記憶を抹消します』
爽(君たちならやり直せるよ、きっと……)
―――ドゥゥン
とりあえずここで切ります
あとはエピローグなんで、続きは時計の短針が1周したくらいに書きます
>>27と>>28の間です。1レス分抜け落ちてました
咲「たったそれだけを根拠にして、色相に問題の無い一般生徒に対して銃口を向ける気なんですか!?」
咏「監視官ちゃんの言う通りだぜー」
咏「傷心のウチの生徒にそんな手荒な真似してなんもなかったら……」
咏「タダで済むと思うなよ?」
咲「ッ……」
爽「んにゃ、言い切っていいよ。清水谷って子、間違いなくやってる」
爽「もし間違ってたら……咲、私を撃ってくれていいよ」
咲「!?」
爽「なんなら執行官やめてもいい。やめれないけど。まあそんくらいには自信ある」
咏「……どうしてそこまで言い切れるんだい?」
再開します
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『園城寺怜監禁事件についての報告』
1、経緯と概要
「本年◯月△日、千里山女子高等学校の女子生徒、園城寺怜が失踪」
「失踪当日までの園城寺の色相はクリアカラー判定、コバルトグリーン」
「故に自ら行方を晦ましたとは考えにくく、加えて園城寺の両親は資産家だったため、当初は身代金目当てでの誘拐事件だと思われた」
「しかし、園城寺家に身代金要求の連絡は入って来ず、その上園城寺に繋がる一切の手がかりが無かったため捜査は難航」
「警察は園城寺発見に結びつく情報を得るため公開捜査に踏み切るも、奮わず」
「捜査はさらに難航を極める」
「公開捜査から2週間が経過するも、有益な情報は得られず」
「その間、園城寺の身辺調査を再度徹底して行うも進展なし」
「捜査は完全に膠着化、世間からの批判相次ぐ」
「園城寺怜失踪から1ヶ月、警察は公安局に捜査協力を要請」
「公安局、承認」
「百合課1係、園城寺怜の身辺調査と色相判定記録回収のため千里山女子高等学校を訪問」
「その際に園城寺と彼女を監禁したと見られる清水谷竜華を発見」
「同時にサイコレズの伝染現象を確認」
「両者のユリネーターによる執行を以て、事件は解決」
2、犯人と事件動機の推察
「本事件の犯人は千里山女子校等学校の女子生徒、清水谷竜華と思われる」
「園城寺発見時に清水谷が一緒にいたこと。拉致監禁を仄めかす発言があったこと」
「清水谷の百合係数が240もの数値を記録したことなどから状況証拠は十分であり、」
「なおかつ動機として、清水谷は恋愛関係にあった園城寺の政略結婚を知り、サイコレズを悪化させた結果犯行に及んだと思われる」
「両者の恋愛関係と園城寺の政略結婚は後の調査で判明した紛れもない事実であり、動機としての裏付けは十分である」
3、執行時の状況とその後
「清水谷竜華を執行する際、園城寺怜にサイコレズの伝染現象が確認された」
「園城寺の百合係数は256もの異常値を記録。清水谷と共に更生の余地無しと判定」
「園城寺、清水谷。百合係数200超過のためイレイザーで執行」
「その後、公安局管轄の隔離医療施設に搬送される」
「今後も厳重な監視体制の下、色相、百合係数の経過の観測を続ける」
「社会復帰が成されるまで、2人は公安局の保護下に置くものとする」
洋榎「菫もえらくサッパリとまとめたもんやな」
豊音「短い文章なのに、これだけで悲しい事件だって伝わって来るよ……」
智葉「……爽。この報告書、お前はどう見る?」
爽「うーん……世間に公表される分にはこれでいいと思うんだけど……」
爽「事件の真相では無いと思う、かな」
洋榎「……どういうことや? 犯人は清水谷、動機は園城寺の政略結婚。それがこの事件の全てとちゃうんか?」
智葉「お前もあの場に居合わせていたなら、誰が本当の黒幕なのか分かったはずだ」
豊音「本当の黒幕……?」
智葉「サイコレズを伝染させたのは清水谷じゃない……園城寺だ」
豊音「えっ!?」
洋榎「マジで言ってんのか、それ……」
爽「そもそもなんだけどさ」
爽「警察が1ヶ月近く捜査を続けて何の手がかりも掴めなかった事件を、私たちが1日で解決出来たって……おかしいと思わない?」
豊音「!」
洋榎「……」
菫「……どういうことだ」
爽「わわ、菫先生来ちゃった」
菫「説明しろ獅子原。一体何を知っている? 報告の段階で起こった事の全てを話せと言ったはずだぞ」
爽「いや、全部話したよ?」
菫「ならどうして私とお前で事件の解釈に相違が生まれるんだ」
智葉「あの場にいたかどうか。ただそれだけだ」
菫「……説明しろ。お前たちが考える、この事件の真相を」
爽「……全部、園城寺怜の自作自演だと思う」
豊音「!?」
洋榎「……」
菫「ば、バカな!? 何を根拠にそんなこと……!?」
爽「根拠はないけど、そう考えた時に全ての辻褄が合うんだ」
智葉「この事件には1つだけかなり不自然なことがある……何か分かるか?」
洋榎「……江口セーラか」
爽「その通り。最初は運が良かっただけ、って思ったんだけど……改めて考えたらこれほど不自然なことはないよ」
爽「即事件解決に繋がるような重要な情報を知った人間が、たまたま私たちの前に現れてそれを教えてくれるなんて……どう考えてもおかしいんだ」
豊音「えっと、じゃあ……江口さんは私たちに2人のことを教えようとして教えた、ってこと……?」
智葉「その可能性は極めて高い」
菫「なんのためにだ? どうして江口セーラがそんなことをする必要がある?」
爽「うーん。順を追って説明すると話が分かりにくくなるなぁ……」
菫「なら結論から話せ。この事件は誰が何の目的で起こしたと言うんだ?」
智葉「園城寺怜が政略結婚を破綻させるためだ」
豊音「……」
菫「……バカげてる、あり得ない話だ」
菫「園城寺は事件の被害者なんだぞ……?」
智葉「今からこの事件に対する私の推測……いや妄想を話す、ただの狂言だと思って聞いてくれ」
智葉「園城寺怜は清水谷竜華を深く愛していた」
智葉「清水谷を自分だけのものにしたい、自分のことだけを見つめていて欲しいと強く願った」
智葉「そしてある日、その願いは叶い2人は晴れて恋人となる」
智葉「最愛の人間との幸せな日々、永遠に続くと思ったが……予期せぬ事態が起きる」
智葉「両親から持ちかけられた政略結婚の話だ」
智葉「園城寺は財閥を持つほどの資産家の娘……それに加えあの容姿だ、幾度となく話を持ちかけられただろう」
智葉「最初のうちは断った。それこそ何度も何度も。引き受けるなら死んだ方がマシだとさえ思った」
智葉「しかしそのうち断ることが出来なくなった……これ以上断るなら家族の縁を切るとでも言われたのかもしれない」
智葉「一介の高校生だ。親に見捨てられたら生きることなんて出来ない……園城寺に与えられた選択肢は2つだ」
智葉「最愛の人を裏切り生き続けるか、最愛の人のために死ぬか」
智葉「園城寺はどちらも選ばなかった。最愛の人とともに生き続けることを選んだ」
智葉「私たち公安を利用することでな」
智葉「潜在犯と結婚したがるバカはこの世にはいない……」
智葉「政略結婚なんて考えるような御曹司ならもっとあり得ないだろう」
智葉「故に園城寺は自分のサイコレズを曇らせ、潜在犯になろうと考えた……そのために起こしたのがこの事件だ」
菫「……」
智葉「清水谷をけしかけ自らを監禁させ、清水谷のサイコレズを曇らせた」
智葉「そしてその曇ったサイコレズを自分に伝染させようとした」
智葉「私たちに事件解決のヒントを与えるよう、予め江口セーラに頼んだ上でな」
豊音「全部、私たちに執行されるため……?」
智葉「そうだ」
菫「そんなこと、あり得るわけがない……記憶が消されるんだぞ……?」
菫「それともなんだ、記憶が消えない範疇で執行されようとでも考えたというのか……?」
爽「そうじゃないよ」
爽「例え記憶が消えたしても……自分ならやり直せると思ったんだ」
爽「また清水谷と出会って、恋をして……今度こそ永遠に結ばれることを信じたんだ」
菫「……狂ってる」
菫「常人の考える事じゃない……」
智葉「だからこそ園城寺の百合係数は256もの数値を叩き出した」
智葉「この計画を考え、行動に起こした時にはもう……ヤツは常人ではなかった」
智葉「百合係数は200近い数値だっただろう」
智葉「故に自分のサイコレズを曇らせるためにしたことは……最愛の人のサイコレズを曇らせるだけの行為だったんだ」
豊音「……」
洋榎「……」
爽「……皮肉なもんだね」
咲「それが、事件の真相なんですか……?」
菫「宮永……」
智葉「……どこから聞いていたかは知らないが、あくまで私の推測だ」
智葉「真相なんてもはや誰にも分からない。それを知っているヤツは、もうこの世にはいない」
咲「……」
洋榎「智葉の推測が正しいなら、ウチらも警察も園城寺の手のひらの上で踊らされてたってわけか」
菫「……くそっ!」
智葉「どこに行く、菫」
菫「報告書を作り直す! この真相を世間に公表しないわけにはいかない!」
洋榎「んなことしたって意味ないやろ。真相やなくて推測や、裏付ける証拠は何もない」
菫「しかし!」
智葉「冷静になれ」
智葉「お前が戒めようとしている相手は……もうどこにもいないんだ」
菫「……くそっ」
爽(やるせないなぁ……)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
咲「……」
智葉「……いつまでそうしているつもりだ、監視官」
咲「辻垣内さん……」
智葉「事件が1つ終わるたびにそんなことをするつもりか」
咲「……気持ちの整理がまだ出来なくて」
智葉「お前は気持ちの整理よりも撃てなかったことを反省するべきだと思うが」
咲「っ……」
智葉「……私は新子の案件で、お前は信念と正義を持っていると思った」
智葉「コイツの下なら猟犬ではなく刑事として働けるとも本気で思った、しかし……」
智葉「どうやらそれは見込み違いだったようだ」
咲「え……?」
智葉「お前が潜在犯を撃たないのは連中を救うためじゃない……ただ単に自分が傷つきたくないからだ」
咲「!」
智葉「引き金を引けないヤツはいつか命を落とす……」
智葉「もちろんそれを守る私たちもな」
咲「……」
智葉「……照はお前とは違った」
咲「え……?」
智葉「引き金を引けないんじゃない、引かなかった」
智葉「お前のような甘ったれではなく、自らの正義と信念を持って潜在犯と向き合っていた……」
咲「お姉ちゃんを、知っているんですか……?」
智葉「……甘ったれに勤まるほどこの仕事は易しくない。それだけは覚えておけ」
咲「ま、待ってください!」
智葉「……」
咲「辻垣内さん!!」
バタン
咲「…………」
菫「……どういうつもりだ」
智葉「……聞いていたのか」
菫「照の話はするな、そう釘を刺していたはずだが」
智葉「……」
菫「おい待てどこに行く!? 話はまだ終わっていないぞ!」
智葉「捜査に戻る」
菫「……何を言っている?」
智葉「事件はまだ終わっていない」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
怜「ん……んぅ……」
怜(ここ……どこ……?)
怜(私、何して……)
竜華「……」ジー
怜(誰やこの人……てか顔近いんやけど……)
竜華「……起きた?」
怜「……誰?」
竜華「ウチ? ウチは清水谷竜華」
怜「……」
竜華「アンタは?」
怜「……園城寺怜」
竜華「園城寺、怜……ふふ、変な名前やな」
怜「……アンタも大概やで」
竜華「早速で悪いんやけど、ここどこか分かるかな?」
竜華「いやな、起きたらなんか全然知らん場所におってめっちゃビックリしてな、」
竜華「んで横向いたらアンタおったからなんか知ってるかなー、思って話かけたんやけど―――」
終わり
お疲れ様でした、ありがとうございました
このSSまとめへのコメント
ラストいいね