やはり俺と彼女の関係はまちがっている。 (59)
いつものように部室に向かい、いつものように雪ノ下と言葉を交わし、いつものように由比ヶ浜にあきれる。
まるで、ずっと前から習慣のようになっていた、いつも通りの日々。
そんな日々がずっと続くと、俺は思っていなかった。思いもしていなかった。
とは言え、たまに来る依頼を除けば平穏といって差し支えない日常。
願わくば長く続いて欲しかったが、そう何事もうまくいかないのが世の常である。
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戸塚からの依頼をこなし、一時的な平穏を享受していたある日の事だ。
由比ヶ浜と雪ノ下が何やら百合百合しい空気を漂わせているのをぼーっと眺めていると、ドアが三度叩かれた。
「ノックが三度。平塚先生じゃないな、客か」
「……っええ、そのようね。由比ヶ浜さん、悪いのだけれど少し離れて貰えるかしら」
何やら名残惜しそうな顔をした雪ノ下が、由比ヶ浜を引き離す。
こいつらは本当に出来てるんじゃないだろうかと思うくらいだ。
由比ヶ浜も由比ヶ浜で寂しそうな顔をしているし。
「どうぞ」
どうでもいい思考がぐるぐると巡り出す寸前に、雪ノ下の凛とした声が来訪者へと届く。
「失礼するよ、ここが奉仕部で……」
雪ノ下の声を受けて入室してきた来訪者の声がそこで止まる。
視線は俺に向けられていた。
「どうしたのかしら?」
雪ノ下の訝しげな声。由比ヶ浜も首を傾げている。
「……はーちゃん?」
「さーちゃん……か」
どこか気だるげな雰囲気を身にまとった少女、俺の幼馴染みである、川崎沙希がそこにいた。
『やはり俺と彼女の関係は間違っている』
「えっ、ええええ!?」
由比ヶ浜のすっとんきょうな悲鳴。なんだよ、うるせえな。
「はーちゃん、さーちゃんって…」
俺と川崎に目を向けながら、呆然とした面持ちで呟く由比ヶ浜。
雪ノ下もまるで電源が落ちたかのように静止したままだ。
当の川崎はと言うと。
「学校ではそう呼ばないって決めたでしょ」
「先に呼んだのはそっちだろ、さーちゃん」
「また、そうやって…!」
気恥ずかしさから顔を朱に染めていた。
「ね、ねえ、ヒッキーと川崎さんって……」
何やら意を決したかのような由比ヶ浜。ちなみに、雪ノ下はまだ固まったままである。
「ん、なんだよ?」
「……いつからそうなの?」
そう?なんだ、そうって。代名詞じゃわかんねえよ。主語を話せ主語を。
「いつからって、そんな昔の事覚えてないよ」
俺が口を開く前に川崎が答える。あ、なんだ、いつから知り合ってことか。
まあ、幼馴染みがこの歳まで仲が良いってのはわりと珍しいから由比ヶ浜も気になったんだろう。
「そんな昔からなの!?」
なんで泣きそうなんだこいつ……。
「で、奉仕部に何か用か?」
「用ちゃ用だけど……あんたがいると……」
あー、はいはい、分かりました。俺は邪魔者なのね。
「雪ノ下、俺帰るわ。明日にでも話してくれ」
その言葉でようやく雪ノ下が動き出す。
「ええ、そうね。役立たずくんは早々に立ち去って頂戴な」
「最早名前をもじりすらしねえのかよ…」
「ま、いいわ。けーちゃんは俺が迎えに行くから、ちゃんと話聞いてもらえ、な?」
「ん、助かる」
そう言って部室から立ち去る。
寸前に由比ヶ浜が口を開きかけたようだったが、俺は知らない。何も見てない。
さて、さっさと迎えに行きますかね。
続きはそのうち
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