さやか「哀れな一人の人魚姫」 (26)

さやか「昔昔あるところに、っても最近なんだけどさ」

さやか「一匹の人魚がいたんだ」

さやか「その人魚はそれはもう可愛くてさ」

さやか「あはは、嘘、まぁ普通」

さやか「ま、それでその人魚は海の中で何不自由なく暮らしてたの」

さやか「楽しく気ままに優雅にね」

さやか「あ、これ普通の童話じゃないからね」

さやか「私のオリジナル入ってるから」

さやか「んで、その人魚は毎日毎日たくさんの友達に囲まれてたんだ」

さやか「その人魚には想いビトがいたの」

さやか「それは俗に言う人間ってやつでさ」

さやか「しかも手が届かないような所にいるから見守ることしかできなかった」

さやか「そ、見守るだけ」

さやか「悲しいでしょ?」

さやか「その人魚はどんなにその人のことを思っても」

さやか「その思いは届かないんだよ」

さやか「『私はあの人とは違うから』ってさ」

さやか「今思えばそんな事無かったんだろうね」

さやか「だけどあぁ哀れなり、人魚ちゃんはそう思ってた」

さやか「それでも遠くから、ううん、そりゃあ距離的には割と近かったんだけどさ」

さやか「まぁ気持ち的な意味で遠くから見守ってたってわけ」

さやか「笑っちゃうでしょ?」

さやか「ん?どこに惹かれたのかって?」

さやか「そうだなぁ、やっぱり顔じゃないのかな?」

さやか「あはは、冗談」

さやか「…自分の大好きなものに打ち込める、そんな所に惹かれてたんだろうね」

さやか「その想いビトは街でも有名な音楽家」

さやか「え?王子様じゃないのかって?」

さやか「なんだよー!女の子にとって好きな人はみんな王子様だってーの!」

さやか「そんでさ、その「王子様」の奏でる音色にいつもうっとりしてた」

さやか「馬鹿みたいに真っ直ぐに、ね」

さやか「あるときその音楽家は死にかけた」

さやか「んー、まぁ、病気とか?」

さやか「まーまー、いいじゃん」

さやか「一匹の人魚はそりゃあ焦ったね」

さやか「なんたって自分の王子様が死にかけたんだからさ」

さやか「そんな時だった」

さやか「悪魔が囁いたのは」

さやか「悪魔はね、こう言ったんだよ」

さやか「お前の願いをなんでも叶えてやろう」

さやか「ただし、お前の声をもらう」

さやか「お前のこの世に一つしかない人間たちとの唯一の繋がりをいただくってね」

さやか「最初は悩んだよ」

さやか「なんたって声だかんね、二つ返事ってわけには行かないよ」

さやか「悩んで悩んで悩んで悩んで悩み抜いたある日」

さやか「一匹の人魚は気付いちゃった」

さやか「王子様の心がどんどんすり減ってることに」

さやか「あれほど美しかった王子様は今はもう見る影もなく」

さやか「日々をただ退屈そうに過ごしてた」

さやか「ここでお馬鹿な人魚ちゃん、幻滅しないんだなぁこれが」

さやか「ついに人魚は契約してしまった」

さやか「声が出せなくなった」

さやか「でも後悔はしてなかったよ」

さやか「だってさ、大好きな人のためにそんな決断ができるって」

さやか「それってとっても誇らしいことに思えない?」

さやか「…ま、人それぞれだけどさ」

さやか「声が出せなくなってから数日」

さやか「彼女は仲間にであった」

さやか「いや、仲間っていうよりかは同類」

さやか「そ、同類」

さやか「同類はさ、声じゃなく光を奪われた」

さやか「光をね」

さやか「またその同類ってのが厄介でさ」

さやか「事あるごとに突っかかってくるもんだからもううんざりな訳よ」

さやか「でもさ、喧嘩にもあきた頃に人魚は聞いてみた」

さやか「「あなたはどうして光を差し出したの?」ってね」

さやか「あはは、ま、ここは同類だけに使えるテレパシーでも使えると思ってちょうだいな」

さやか「人魚は興味が出たんだよ」

さやか「こんなに野蛮なやつが自分から光を差し出すほどの願い」

さやか「一体、どれほど酷いもんなのかってさ」

さやか「え?」

さやか「ううん、そんなことはなかった」

さやか「事もあろうかその同類も人のために願ったって口でさ」

さやか「信じられる?散々バカにしてきたんだよ?「人のために願ったバカ」ってさ!」

さやか「人魚はとっても気に入らなかった」

さやか「同類も気に入らなかった」

さやか「今思うとただの似た者同士だったのかもね」

さやか「なれ合い?ううん、そんなもんじゃなかったよ」

さやか「顔を合わす度に大ゲンカだったらしいよ」

さやか「そんな喧嘩の日々が続いたある日」

さやか「一匹の人魚は噂を聞いた」

さやか「病から立ち直った音楽家が婚約するらしい、ってさ」

さやか「そりゃあもうびっくりだよね」

さやか「おーい、治った矢先そんなのありか!?ってさ」

さやか「ところがどっこい、人魚ちゃんはそうなっても何もできなかった」

さやか「自分に自身がなかったのかも」

さやか「人魚はふさぎ込んじゃったんだ」

さやか「その身を海より深い絶望に落として」

さやか「頭の中で喚く騒音を聞きながら」

さやか「彼女は耐えていた」

さやか「だけどダメだった」

さやか「いつしか彼女の体は衰弱しきってたのさ」

さやか「そこで現れたのはなんと同類」

さやか「あろうことかその同類は傷心中の人魚ちゃんを殴ったんだよ」

さやか「ぼかっ!てね」

さやか「「甘ったれんな!」」

さやか「彼女は真っ暗な目でそう言った」

さやか「最後の最後に人魚はどう思ったんだろうね」

さやか「だけどそれも文字通り水の泡」

さやか「ん?使い方あってるかな?」

さやか「ま、いいや」

さやか「そこで現れたのはなんと同類」

さやか「あろうことかその同類は傷心中の人魚ちゃんを殴ったんだよ」

さやか「ぼかっ!てね」

さやか「「甘ったれんな!」」

さやか「彼女は真っ暗な目でそう言った」

さやか「最後の最後に人魚はどう思ったんだろうね」

さやか「だけどそれも文字通り水の泡」

さやか「ん?使い方あってるかな?」

さやか「ま、いいや」

さやか「人魚は確かにこう言った」

さやか「死ぬ間際にこう言った」

さやか「『ありがとう』ってさ」

さやか「もしかしたらそれは気のせいかもしれない」

さやか「だけれど気のせいじゃないのかもしれない」

さやか「それでも死ぬ間際に確かに同類に聞こえたその声は」

さやか「とっても美しくて、切なかった」

さやか「哀れな一匹の人魚は」

さやか「こうして一人の人魚姫になったのさ」

さやか「同類はその後どうしたのかな」

さやか「もしかするとその死体を一瞥してどっかに行ったかも」

さやか「もしかすると人魚の死を悲しみ泣いたかも」

さやか「だけど」

さやか「だけどさ」

さやか「それって素敵なことだと思わない?」

さやか「哀れな一匹の人魚は」

さやか「こうして一人の人魚姫になったのさ」

さやか「同類はその後どうしたのかな」

さやか「もしかするとその死体を一瞥してどっかに行ったかも」

さやか「もしかすると人魚の死を悲しみ泣いたかも」

さやか「だけど」

さやか「だけどさ」

さやか「それって素敵なことだと思わない?」

さやか「誰かに思われた一匹の人魚は」

さやか「哀れでも、一人でも、人魚でもない」

さやか「幸せな人魚姫になったと思わない?」

さやか「…都合良すぎか」

さやか「あはは、ごめんね、長々とこんな話きかせちゃってさ」

さやか「私、やっぱり嬉しかったんだと思う」

さやか「あんたがそこまで思ってくれて」

さやか「ありがとう」

さやか「ね?声が出るでしょう?」

さやか「そろそろ行こっか」

さやか「もう迎えが来てる」

さやか「哀れな一人の人魚姫」

さやか「もう一人じゃなくなったあんたは」

さやか「光が見えてるかな?」

さやか「そう、だったら私が光にってあげる」

さやか「これはあんたと私の物語」






さやか「幸せな二人の人魚姫」

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