恭子「咲、一緒に飲もか」 (29)

恭咲。短いです

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ワイングラスに注いだ酒を恭子は寄こしてきた。

咲が受け取るのを戸惑っていると、

恭子は部屋に置かれた円卓にそれを置き、もう一つのグラスに口をつけた。

気泡の上がる黄透明色のアルコールをグイッと飲み干すと、すぐに注ぎ足す。

その様を見て咲は眉間に皺を寄せた。

咲「そんなに一気に飲んだら危ないですよ」

恭子「固いこと言うなや。もう二十歳すぎた大人なんやから心配いらんで」

恭子「ほら、咲も飲めや」

咲「でも…」

恭子「ははーん、さては咲は酒が飲めへんのか?」

お子様やなぁとからかわれた咲はムッとして、

先ほど恭子が円卓に置いたグラスを手に取ると一気に飲み干した。

恭子「おい、無理すんなや」

咲「別に無理なんてしてません」

恭子は咲が虚勢を張っているのだと思い、

そんな咲を可愛らしく思って笑っていた。

が…

咲はさらにグラスに酒を注いで、またも一気に飲み干した。

恭子「…おい、咲」

そしてまた注ぐ。

恭子「おい!」

その手を止めて恭子は咲を睨むように見つめた。

恭子「やめとき。そんな飲み方じゃすぐに潰れるで」

咲「大丈夫ですよ」

ケロっとした顔で咲が小首を傾げる。

そして恭子の手を振り払って静かにグラスに白ワインを注ぐと、

今度はゆっくりそれを口にした。

咲「これ、結構甘いですね?」

唇をペロッと舐めて微笑する咲。

その仕草にドキっと恭子は心臓を鳴らした。


プロへと進み一緒のチームになった咲と付き合いはじめた恭子だが

咲は時に天然で、恭子を惑わす。

ドギマギした心を誤魔化すように恭子はまた一杯飲み干すと、

咲も同じようにグラスの中の酒をあっという間に空にしてしまう。

最初のボトル1本は、そうして簡単に空けてしまった。

今度は赤ワインを開ける。

それなりに強いアルコールなのに咲の飲むペースは落ちず、

顔色も変わらず混乱した様子もない。

咲はそれなりに飲めるのだと、恭子はようやく気づいた。

平然と飲み続ける咲に合わせ、恭子もグラスを空ける。


ふと、咲をこのまま泥酔させたらどうだろう、と。

良からぬことを思った。

咲『恭子さん…///』

恭子 『どうしたんや、咲』

咲『私、恭子さんが欲しい///』

恭子『欲しかったら言うことがあるやろ?』

咲『意地悪…///』

恭子『ほら、言えや』

咲『おねが…』

恭子『ん?聞こえんわ』


咲『お願い…して…っ///』


恭子「さ、咲…っ」

咲「何ですか?」

急に現実に戻った恭子は、

実物の咲の声と視線の冷たさにピタと制止し余所を向いて不貞腐れた。

何なんですか、と呟いた咲はまたグラスを空けてしまう。


その時インターホンが鳴り響き、恭子と咲は同時に顔を上げた。

宅配員「お届けものでーす。サインお願いします」

その声に立ち上がろうとした恭子は

ぐら、と部屋が揺れるのを感じた。

足に力を入れて再度立ち上がろうとしたが。

恭子「…あ?」

恭子は天井を見ていた。

混乱する恭子の顔を、咲が覗き込む。

咲「酔っ払ってるんですか?」

恭子「いや…」

咲「私が取ってきますから」

そう言って咲が恭子の視界から消えた。

恭子がゆっ くりと首を横にすると、

玄関まで歩いていく咲の背が見えた。

やがて荷物を受け取った咲が戻ってきた。

咲の足取りはしっかりしている。

自分はどうして横になっているのか、どうして動けないのか。

そこで恭子はようやく気が付いた。

恭子「私、酔ってるんか…」

咲「そうみたいですね」

絨毯の上に転がる恭子を、椅子に座った咲が見下ろしている。

そして片手に持ったワイングラスに注いだ酒を少しづつ飲んでいた。

しばらく前から飲み続けている咲。

ペースこそ落ちたが恭子よりも多い量を飲んでいるはずなのに、

意識も言動もはっきりしている。

恭子「あんたは何でそんなに強いんや…」

咲「さあ?自分では強いかどうかは分かりません」

咲は透明のコップにウーロン茶を注ぐと、

それを手に持って恭子の傍にしゃがんだ。

咲「恭子さんはこれでも飲んでいてください」

咲を泥酔させたいという野望も果たせないまま自分が酔って動けない。

その屈辱に恭子が顔を顰めると、

それを見た咲がふっと笑った。

咲「まだまだですね、恭子さん」

その瞬間、めらっと何かが燃え上がった恭子は咲の腕を引いた。

しゃがんでいた咲は恭子に腕を引っ張られ、ペタンとその場に正座で座ってしまった。

恭子は這いずるように近づくと、咲の膝に頭を乗せて横になる。

咲「恭子さ…」

そのまま恭子は咲の膝枕の上で気持ち良さそうに眠り始める。

咲「もう、しょうがないですね」

そう呟いた咲は、恭子のために注いだウーロン茶を自分で飲もうとした。

が、不意にコップを持つ手が滑ってしまう。

ばしゃっ・・・

コップが傾いた拍子にウーロン茶がこぼれ、恭子の顔面を濡らした。

恭子「…ん……?」

咲「あ……」

突然の冷たさで急に目覚めた恭子は、

むくりと咲の膝から起き上がった。

その目が据わっている。

咲「あの…、ごめんなさい…」

恭子「……」

すると突然服を脱ぎはじめ、上半身裸になる恭子。

咲「へ…?」

そして何をするのかと思えば。

脱いだ服で濡れた顔面を拭いている。

咲「き、恭子さん…?」

あっけにとられた咲は、恐る恐る尋ねる。

一通り拭き終えると、恭子は咲をちらっと見やった。

咲「恭子さ……わっ?」

突然腕を引っ張られ、ベッドの上に倒される。

咲「…っ!」

逃げようとするが酔いのせいかベッドの上でもたついてしまう。

恭子は円卓の上に乗っているまだ中身の残っている瓶を手に取り、

ぶどう酒を咲の上から容赦なく掛けた。

咲「ひゃ…っ!」

だんだん服の上からじわりじわりと濡れてきて、

一瞬何をされたか分からなかった咲はカッと赤くなる。

咲「な、何するんですか…!」

そんな咲の抗議も何のそので、恭子はのしっとベッドの上に乗ると、

そのまま咲の上にのしかかった。

咲「あ…っ」

恭子は濡れた咲の服を捲くりあげると、

ぶどう酒でべとつく咲の腹に舌を這わせた。

咲「やっ…、この酔っ払い…っ」

恭子「ああ、今夜は咲の肌に酔わせてもらうわ…」

咲「…っ///」

耳元に熱い呼気を吐きながら告げられ紅潮する。

恭子の肩を力の入らない手で押し返しながら、

実はすでに抵抗する気なんかなくなっていた咲だった。


咲「…もう、好きにしてください」

その呟きは、少し苦いぶどう味のキスに飲み込まれた。


・・・・・・


・・・・・・

咲「…ん。…いた…」


目覚めた咲は、こめかみを押さえた。

二日酔いで頭が痛い。そして腰が重い。

昨夜、恭子にしがみついてひっきりなしに嗚咽しては涙を零していた咲。

そんな姿が今更ながら恥ずかしくなって頬を染めた。

ちらっと視線を落とすとベッドにの下にぐちゃぐちゃになった自分の服を見つけた。

恭子に掛けられた酒で、服はまだ濡れていた。

気づけば肌の何処彼処がべとつく。

恭子を怒りたかったが、少しでも大きな声を出そうとすると頭に響くので

咲は諦めて大人しくしていた。

もぞっと布団のなかに潜り込んで、再び眠ろうとする。

すると後ろから自分の身体を抱きしめてくる腕があって、

咲はくるりと体を反転させた。

横になっている恭子と向かい合わせになると、

ちょうど恭子が目を覚ました。

そして寝ぼけたままの瞳で咲の顔をまじまじと見つめる。

咲「何ですか…?」

恭子「咲は、泣き上戸やな」

咲「な…」

恭子「可愛すぎるてメゲルわ…」

咲「…っ///」


昨夜の情事を思い出して微笑する恭子に、

咲はいたたまれなくなって顔を布団に隠した。

恭子はそのまま再び眠りについてしまう。

咲「泣き上戸って…、何ですか、私よりお酒弱いくせにっ…///」


照れを誤魔化すような妙な八つ当たりで、

咲は恭子の顔に枕を投げつけた。


次はどんな痴態を晒してしまうか恥ずかしくて、

もう当分恭子とは一緒に飲まない、そう誓った咲だった。


カン!

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