咲「はい、私の魔王疑惑といい、酷い風潮がはびこってますね……」
久「確かに酷い話ね……あの美穂子に限って機械音痴なんてあるはずないわ」
和「練習試合などの業務連絡も頻繁にしているはずですからね」
久「そうね。池田さんの妹のお世話をしている時に悪戯されるのか、たまに平仮名ばかりのメールが来たりするけど」
まこ「しかし、あの人が携帯やらPCやら弄ってるのは見たことないのお」
久「当たり前じゃない。あの子、手際いいもの。牌譜の出力とかは事前に済ませてるし、よほどのことじゃなきゃ外部の人間の前で携帯を使ったりもしないわよ」
まこ「たしかにの。マナーモードにしとるじゃろうし、かかって来てもひっそり外に出て使っとるっちゅうことか」
久「というわけで、美穂子が機械音痴という風潮を否定するための会議を始めるわ」
咲「悪しき風潮を滅ぼすための会議は私も他人事じゃないですからね」
まこ「わしもワカメじゃなんじゃと色々いわれちょるからのう。協力するぞ」
和「私は特にないですが、他ならぬ福路さんのためですから協力しましょう」
優希「ん? のどちゃんって風越の部長と仲良かったのか?」
和「まあ、同志と言いますか、利害が一致してると言いますか。そういう仲です」
久「あとで助っ人も呼んでおくわ、では、美穂子の機会音痴を否定する根拠を上げていきましょう」
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咲「と言っても、福路さんって存在自体が天使だから、否定する根拠なんて『福路美穂子だから』で十分ですよね」
久「それもそうねえ……となると、そんなデマが流れた出所を突き止めて否定していくしかないのかしら?」
咲「私の魔王疑惑もそんな感じでしたよね。手間のかかる作業ですけど、やるしかありません」
久「須賀君、資料は用意できた?」
京太郎「……まあ、一通り集めたと思いますけど。本当にやるんですかこの会議?」
久「当然よ。ほかにもキャップだのなんだのという酷い話もあるからね。美穂子のことなら他人事でもないし」
京太郎(帰りてえ……)
まこ「ほうほう、デマの出所はここかの?」
【本編二巻 109ページ】
咲「『去年の天江衣には魔物がついていた』……オカルト肯定発言ですね。なるほど、これで非デジタルの風潮が出来たと」
優希「こんなのもあるじょ」
まこ「どれどれ……優希が打ってたあたりじゃの?」
【本編二巻 135ページ】
久「『食べ物でげんを担いだりしてたのかしら?』やはりオカルトに肯定的な発言ね」
咲「この資料、時系列順に並べてくれたんだね。さすが京ちゃん、見やすいよ」
京太郎「風潮は時系列で追った方がその趨勢が把握しやすいからな」
まこ「いやいや、よく出来とるわい。お手柄じゃぞ京太郎」
京太郎(そろそろだ……【三巻 11ページ】それでこの不毛な議論は終わる。さあ、資料の次のページをめくれ貴様ら!!)
和「これで十分ですね。オカルトに対して肯定的な発言を繰り返したがゆえに、オカルト派として扱われ、それが高じて機会音痴という風潮が出来た」
咲「デジタル=機械っていうのもどうかと思うけど、デジタルの対極にあるオカルト派なら、それが苦手という風潮が出来ても仕方ない」
久「原因は分かったわ。後は、どうやってこの風潮を取り除くか……」
京太郎(おいいいいいいいい!!? 次のページいいいいい!!!)
咲「簡単ですよ、実力行使しましょう」
和「咲さん……流石にそれは……」
咲「福路さんの悪しき風潮を流すのは……福路さんを貶めて利益を得るのは、麻雀関係者だけだからね。二度と牌を持てない、麻雀を思い出したくないって状態にしてあげれば……」
久「悪しき風潮を広める人間は居なくなる。発信源が無くなれば、いずれ悪しき風潮は消えるってわけね」
?「それなら法にも触れないからね。私は弱みを握って黙らせてたけど」
まこ「誰じゃ!?」
憧「はろー、呼ばれたから来たわよー」
久「来てくれたのね憧。皆知ってると思うけど、阿知賀の中堅の新子さんよ。和は幼馴染だったかしら?」
和「……なぜ憧が?」
憧「ま、私も色々あってね。福路さんにはインハイでもお世話になったし、私の経験を生かせるならってことで協力しにきたのよ」
憧「で、ここまで来る途中で調べた感じだと、噂の発信源は風越女子ね」
咲「えっ!?」
憧「多分、福路さんに嫉妬した三年達の仕業じゃないかしら? 三年って福路さんだけなんでしょ?」
久「……たしかに、あり得るわね。美穂子への嫉妬や対立があったからこそ風越の三年は一人だけになった」
まこ「コーチの指導が厳しいだけじゃったら、今現在80人もの部員がおるわけないしの」
和「嫉妬で使い物にならない他の三年達よりも福路さん一人を選んだ、あのコーチも中々の慧眼なのかもしれませんね」
咲「それにしても許せない……仲間を傷つける嘘を流すなんて!!」
優希「犯人が分かったなら、今すぐ行って叩き潰すじょ!!」
咲「賛成だよ!! 戦力はここに居る6人で十分だよね?」
美穂子「くんくん……久の匂いが近づいている気がします」
池田「キャプテンがおかしなこと言い始めたし……文堂、どうにかするし」
文堂「無理です。機械音痴とこの病気だけはどうにもなりません」
?「槓!!」
文堂「ごふっ!? が、あ……」ドサッ
池田「文堂!? 一体何が起きたし!?」
久「……まさか、レギュラーの中にも機械音痴の発信者が居たなんてね。権力争い、あるいはOGの傀儡ってところかしら?」
物言わぬ肉塊(文堂)「……」ピクピク
池田「キャプテンの機械音痴がなんだって言うんだし!? そんなの部員なら誰でも知ってることだし!!」
?「速攻!!」
池田「にぎゃあああああ!?」
憧「手ごたえあり……池田さんまで敵ってことは、風越女子全員が敵ってことね。孤立無援のなかで、福路さんは敵さえも守りながら戦っていた」
まこ「許せんのう。久々にキレそうじゃ……本気で行くけえのお」
咲「槓! 槓! 槓! 嶺上開花!!」
「「「ぎゃああああああ!!!」」」
久「ちょっと咲、フライングしすぎじゃない?」
咲「優希ちゃんも二軍相手にもう始めてますよ。急がないと獲物が居なくなっちゃいますけど?」
優希「タコさんウインナーをくれたおねーさんに謝れ貴様らアアアア!!」
「「「げごおおおおおお!?」」」
まこ「ほれ、黒幕を吐きんさい。それとも、もう一枚剥がされたいか?」
純代「だ、だから、キャプテンは本当に機械音痴で……」
まこ「大したもんじゃ。じゃが、意地を張ってもつまらんぞ?」ベリッ
純代「うがああああああ!!! 爪が、爪があああああ!!!」
まこ「おっと、失神なんぞさせんぞ? 吐いたら楽にしちゃるけえ、はよう吐くんじゃ」
純代「キャ、キャプテンは……本当に機械音痴で……」
まこ「後二枚しか残っとらんのじゃがのお……剥がし終わったら骨でも折るかのう」
ガラッ
久「まこ。そっちはどう?」
まこ「どいつもこいつもなかなか口を割らんのう。福路さんは本当に機械音痴の一点張りじゃ」
美穂子「久たちに隠し事をするなんて……ごめんなさい、私の指導が至らないばかりに……」
久「いいのよ、今まで良く頑張ったわね、美穂子」ギュ
美穂子「あ……は、はい……(よくわからないけどラッキーだわ)」ポー
純代(くっ……キャプテンが機械に触ってくれさえすれば、誤解が解けて奴らを止められるのに……)
?「華菜ちゃん!!」
華菜「う、うう……? 誰だし……?」
未春「私だよ!! しっかりして華菜ちゃん!」
華菜「みはるん……? あいつらは、どうなったし?」
未春「今は他の部屋で暴れてるよ、今のうちに逃げよう、華菜ちゃん」
華菜「みはるんだけで逃げてほしいし……あたしは、まともに歩けそうにないし……」
未春「そんなこと言わないで! 私、華菜ちゃん一人ぐらいなら背負って行くから!!」
?「ようやく餌にかかりましたね。といっても、その様子では黒幕ではなさそうですが」
?「そうとも限らないよ。見たところ池田さんに惚れてるみたいだし、ライバルの福路さんの評判を落とす動機は十分にある」
華菜「あ……ああ……み、みはるん!! 早く逃げるし!!」
和「なるほど、池田さんの前では健気に尽くしながら、影では福路さんを陥れる陰謀を振りまく……有り得ますね」
憧「あり得るどころか、私の中では最有力容疑者。部員と元部員をあらかた締め上げて、それ以外の在校生まで捜査の手を広げたこの段階まで無傷で逃げ切れてることも、彼女の腹黒さを裏付けてる」
未春「……華菜ちゃんを傷つけたのは、あなた?」ゴゴゴ
憧「本性出したわね。そうよ、私がやったけど、なんか文句ある?」
未春「……」ブンッ
憧「そんな大振りっ!!」スッ
未春「くっ!?」
和「私が居ることもお忘れなく」ゴッ
未春「うあっ!?」ドガッ
華菜「み、みはるーん!!」
咲「ほとんど全校生徒を狩ったわけだけど、全員が福路さんの機械音痴は事実と言い張ってるね」
優希「……よっぽど強く洗脳されてるみたいだじぇ」
咲「ここまでの洗脳を全校生徒に……これは、ただごとじゃないね」
?「お前ら、もうそこまでにしとけ」
咲「京ちゃん……京ちゃんは知ってたの?」
京太郎「ああ、知ってるさ。真実をな。だから、お前らはもうこの狼藉をやめるんだ」
優希「京太郎……お前は何を知ってるんだじょ?」
京太郎「福路さんは、本当に機械音痴だってことさ。そこらへんに転がってる連中も、それを知ってる。知らないのはお前らだけだ」
咲「それで、私たちが納得するとでも?」
優希「見損なったじぇ京太郎。お前も悪の手先だったのか……」
京太郎「……え?」
咲「残念だよ京ちゃん。信じてたのに」
京太郎「おいちょっと待て、話を聞け。福路さんは本当に……」
優希「もう100回は同じことを言われて耳たこだじょ。タコと名のつくものは全て私の力になるが、過ぎた力は身を滅ぼすじょ」
京太郎「いや、ちょっとマジでちゃんと話を聞いてくれませんかね」
咲「せめて、一撃で終わらせてあげる」
優希「安らかに眠れ、京太郎」
京太郎「え? いや、冗談だろ? ここで俺がやられたら話が収集つかなく……」
『槓』
未春「が……はっ……」ドサッ
華菜「みはるん!! みはるん!! しっかりするし!! 死んじゃダメだし!!」
未春「ごめんね……華菜ちゃんの仇、討てな……」ガクッ
華菜「みはるーん!!」
和「……憧、やりすぎです。黒幕への手がかりを殺してしまってはいけません」
憧「トドメの一撃ぶち込んだのはあんたでしょうが。ま、死にはしないと思うけどね」
華菜「お前ら……」
和「それにしても、不可解ですね。インターハイ決勝進出校のレギュラー二人を相手に麻雀で勝てると思ったのでしょうか?」
憧「恋は盲目。想い人を傷つけられて周りが見えなくなったんでしょ」
華菜「お前ら絶対許さないし!! よくもみはるんを!!」ゴゴゴゴゴ
和「む……これは……?」
憧「なるほど……狙いはこれか。池田さんからの好感度を稼ぎつつ、自分より潜在能力の高い池田さんの覚醒を促す……二対一の状況に気付いた時点で手を打ってたわけね」
未春「……」ニヤリ
華菜「うおおおおおお!!! 華菜ちゃん怒り心頭だし!! お前らぶっ倒すし!!」
和「まあ、策としてはなかなかですが」シュッ
華菜「にぎゃ!?」ゴスッ
憧「正直言って、力不足」ドガガッ
華菜「ぐはっ!」
和・憧「「この程度じゃ準備運動にもならない」」ズンッ
華菜「ぐぼおっ……げほっ……げほっ……」ガクッ
未春「そ、そんな……華菜ちゃん!! いや、いやああああ!!!」
和「万策尽きたようですし、そろそろ質問に答えて頂く頃合いですかね」
憧「あ、非協力の場合はあんたじゃなくて池田さんに害が及ぶから、そのつもりで」
未春「くっ……卑劣な……」
憧「……卑劣なのは福路さんの悪評をばらまいてるあんたらでしょうが!!」ゲスッ
未春「ごほっ……」ガクッ
和「……憧、加減してください。意識を失われては質問が出来ません」
憧「……ごめん、ちょっと頭に血が上っちゃったわ」
まこ「随分と静かになったのお」
ガチャッ
咲「……ほぼすべての生徒を尋問しましたが、全員が福路さんは機械音痴の一点張りでした」
優希「……あと、裏切り者が一匹だじょ」ポイ
ドサッ
まこ「京太郎……?」
久「……彼が裏切るとは考えにくいわ。私たちが留守にしたところを捕らえられて洗脳されたのかもしれない」
咲「そう考えて、生け捕りにしています……京ちゃんにまで手を出したこと、絶対に後悔させてやるんだから……」ギリ
ガチャ
和「レギュラー全員の捕獲に成功しました。少々痛めつけすぎて、尋問はまだおこなえていません」
憧「ただ、何かを知ってそうな感じではあったけどね」
華菜「……」ピクピク
未春「……」
文堂「」
純代「」
美穂子「それにしても、みんなが私に害を成そうとしていたなんて……まさか華菜まで……」
久「辛いでしょうけど、事実なの」
華菜「……キャプテン……メールを……それで、この茶番は終わるし……」
憧「へえ、まだ喋れたの、あんた?」
久「ちょっと、喋れるんだから喋らせなさい。トドメ刺してどうすんの」
華菜「キャプテン……お願いだし……こいつらにメールを送れば、それで……」
美穂子「よ、よくわからないけど、久にメールすればいいのね?」ピッピッ
華菜「……へ?」
久「『上埜さん、ああ上埜さん、上埜さん』……いや、575にされても反応に困るんだけど」
美穂子「えっと、とりあえず送れということだったので……」
華菜「な、なんで……機械音痴のキャプテンが、メールを送れるはずが……」
和「まだ言いますか、腐れ外道が!!!」ゴスッ
華菜「ごぶっ……」ガクッ
久「ふん……目の前でメールを送るところを見せてもらった以上、美穂子の機械音痴の可能性は消え去ったわ。あとは、デマを流す人間を殲滅するだけよ。デマの発信源が分からないのは面倒だけどね」
何故、福路美穂子が竹井久にメールを送れたのか?
それは努力の賜物であった。
電話には複雑な操作が必要になり、しかもその場で行わなくてはならない。
しかし、メールには時間制限はない、どれだけ時間をかけてもいい。
操作の難度が同じなら、どちらが良いかは明白だった。
彼女は、竹井久とメールアドレスを交換したその日から、一通のメールを送るために努力を続けて来たのだ。
文面を推敲し、送信先のアドレスを設定し、細かな作業を少しずつ進めながら……最後の、送信するだけの段階まで仕上げていたのだ。
いや、正確にはメールはまだ完成していなかった。最後に打つべき句点が打たれていないのだ。
しかし、「なんでもいいからメールを」という池田の言葉に押され、未完成のメールを送った。
それが、この悲劇の全容。
そして――暴走は加速する。
咲「あはははははは!! あはははははははは!!!」グシャ
優希「なんでだじょ!? なんで裏切ったんだじょ京太郎!! 京太郎おおおおおおおお!!!」ゴスン
血の涙を流しながら、須賀京太郎だったものを分解していく二人の少女がいた
未春「……か…n……a…ty……n……」
池田「……m……h………」
お互いを案じ、息絶えるその時まで、声にならない声を上げ続ける二人の少女がいた
憧「ほーら、トドメだよー」
和「天罰とは言いません、しかし、これは裁きです。あなたの犯した罪への、正当な報いです。それを下すのが神か人かの違いでしかありません」
罰を与えて回る、悪魔のような二人の少女がいた
久「もう大丈夫よ……あなたを苦しめる者はもういない……」
美穂子「はい……」ポワーン
とても幸せそうな二人の少女がいた
まこ「のう……この人数で二人ずつ区切るとワシが余りゃせんか?」
あとなんかワカメがいた
まこ「おんどりゃあああああああ!!!」
それは不幸な事故だった。
一つ、たった一つでも何かが違えば解けたはずの誤解が、悲劇を招いた。
そして、因果は巡る……
『なに? 内木一太がロリコンという風潮だと? ……うちもモモが『見つけてくれる人なら誰にでもなびく』風潮に悩まされているから他人事ではないな』
それを聞きつけたのが誰か、その犯人とされるのが誰か、そして、起こる結果がどういうものか。
私は知っている。『風越の悲劇』を見届けた私は知っている。
『いや、それは風潮じゃなく事じt……げふっ!?』
吹き荒れる暴力の嵐は、己が作り出した因果……
そして、更に因果は巡る……くるくると、風車が風に吹かれて回るように。
『東横桃子の存在感が薄い風潮……ですって? 断じてあり得ませんわ!! この私を相手に区間トップを取っておきながら目立たないなどと!!』
『国広さんが痴女みたいな恰好をしている風潮、ですかー? 私も似たような話で苦しんでいるので他人事じゃないですねー』
『神代さんが牌に愛されてるという風潮? 私も牌に愛されたとか言われて実力じゃなく強運のおかげみたいなことを言われて困ってる』
『宮永照の笑顔が取材用の営業スマイルという風潮? 宮永さんは本当にいい人に決まってるよー!!』
――それは、やがてすべてを巻き込んで
『小鍛治健夜が実家暮らしのグータラ女という風潮? 誰だこんなデマ蒔いた奴は? トッププロに対して失礼すぎるだろ』
――破滅への螺旋となる
~槓~
いや、あの、違うんですよ。
元は「作戦会議で激しく誤解した後、なぜかキャプテンが普通にメールを送れてしまってさらに誤解が深まる。後は書いてる間に出来た流れで適当に落とす」っていうほのぼのプロットだったんですよ。
なんでこんなことになったのか……一体どこで道を違えたのか。
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