母が祖父の頭に醤油をかけてた(10)

俺が朝一に見たのは、そんな不可解な光景だった。

母「あら、おはよう。息子」

祖父「おはよう。孫」

男「あぁ、おはよう。母さん、じいちゃん……」

短い朝の挨拶の間も、母は祖父の頭に醤油を流し続けていた。

トポトポトポトポ、タラーリ……

醤油は、祖父の頭から顔に流れ、祖父の着ている灰色のトレーナーを黒く染め、
白いステテコと白い靴下も、同じく黒く染め、
そして畳の上に広がり、黒い水溜まりを作った。

祖母「おじいちゃん。風邪をひいちゃってね」

俺「あぁ。それでか……」

俺が頭にクエスチョンマークを浮かべていると、祖母が説明をしてくれた。
祖父は風邪をひいているそうだ。

母「あなたも気をつけなさい」

祖父「腹を出して寝るなよ。孫」

祖母「おじいさん。人の事を言える立場ですか?」

祖父「ははっ。すまんすまん」

風邪と聞いて少し心配したが、どうやら、さほどひどくもなさそうだ。
祖父は普段通り、元気に笑っていた。

妹「おはよー。おじいちゃん、風邪なの?」

男「おはよう。そうらしいな」

いつもより少し早いが、妹が起きてきた。
朝から英和辞典を食べている。そうか。もうそんな季節なんだ……

男「……ふぅ。今年もあと少しだな……」

妹「うん。そうだね、お兄ちゃん」

男「ラストスパート。頑張るか」

妹「……うん。そうだね……」

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