吹雪「迎えを待っていたんです」 (95)

その日はまさに夏真っ盛りといった具合で、さんさんと照り付ける太陽があまりにも熱かったせいでしょうか

どこか責め立てられるような感じがして、少しうんざりしていたんです

いつまで経っても迎えがこないもんですから、ならいっそ自分から行ってやろうと思って

それで急に立ち上がったら、なんだかぼーっとしちゃって、身体がふわふわとしていて、それがどこか気持ちよくて

だからなのかはわかりませんけど、その時私には見えたんです

見間違いかとも思ったけど、それは確かに




「妖精…さん?」




ぼやけた視界とふやけた思考がそれを捉えてしまった瞬間

きっとその時から、私の運命は決まっていたんです

あの大海原の、水平線のそのまた向こう側へと、きっと私は

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このSSは艦隊これくしょん~艦これ~の二次創作です
地の文、設定の自己解釈満載なのでご注意ください





カツカツと後ろから足音が聞こえてきて、そこでやっと私は正気に戻りました

それにしても不思議な物を見た気がします、これもきっとこの暑さのせいでしょう

陽炎とかいうやつです、地面からの熱気が作り出すとかいう蜃気楼的な

じゃなきゃ現実にホウキに乗って飛ぶ小さな妖精なんているはずがありません


「この子、私が見えてるよー!間違いないよー!」


最近の陽炎は幻聴まで発するみたいです、最新型って凄いですね

思い切り私を見ているのもきっと勘違いです

もしかしたら暑さで疲れているのかも、とも思いましたがそんなはずもありません


「おー、やっと見つけたか。この羅針盤壊れてるのかと思ったぞ」


その声に思わず振り返りました、今のって人の声?

まさか、等身大の陽炎?いや、流石にそんなはずが



「こんにちは、お嬢さん。ここはちょっと暑いからそっちのベンチでお話しませんか?」


そう言ってさっきの声の男性が手を差し伸べてくれます

まさか声をかけられるなんて思ってもみなかったのでとても驚きました

ここは田舎ですからそうそう人が通りかかることもありませんし、まして声をかけられるなんて初めて

お話しするのはいいんですが、その前にどうしても聞いておきたいことがあります


「あの、あなたも見えてるんですか?」


「うん?あぁ、見えてるよ。この子たちは僕の友人だから気にしなくても大丈夫だ」


「こんにちは!」
「初めましてーっ!」
「これからよろしくね」
「見つかったんだし帰ろうよー、あちーぃ」


これはなんと言いますか、なんと言えばいいんでしょう

目の前の男性の肩に乗っかる3人の妖精さんとホウキに乗っている妖精さんが思い思いに喋っています

一人だけ帰ろうとしていますが、皆さん友好的な雰囲気ですけど

いきなりのことに驚いてしまうと言いますか、男性は差し出した手を引っ込めて

あー、暑い暑いなんて言いながらさっさとベンチに向かってしまいました

状況だけを見ればかなり不審、妖精が見えるなんて言う男性

それでも不思議と警戒心はなく、それよりも妖精さんの方が気になって

結局、彼に付いて行ってしまうのでした



屋根付きのベンチ、正確に言うと廃線になったバス停に二人で腰かけます

ふと横を見ると器用に男性の肩に乗る四人の妖精さん、落ちないんでしょうか


じろじろと彼の方を見ていると、何かに気付いたように彼が話し出しました


「あぁ、この服が気になるか?コスプレでも変質者でもないから安心してくれ」


違います、説明する順番が間違っています

でも言われてみると確かにこの人は見慣れない格好をしていました

白を基調とした、制服でしょうか?見たことのない方なのでヨソから来た人なのは間違いありません

都会ではこういう服が流行ってるとか?流石にそれはないか

それにこんな服をどこかで見たことがある気もします


「あの、もしかして軍人さんですか?」


「正解。若いのによく知ってるな、もちろん偽物じゃないぞ」



もしかしたらそうじゃないかと思いましたが、まさか本当に当たるとは

嘘をついてるような顔には見えませんし、嘘をつく意味もありません

だから本当に軍人さんだとは思うんですが、こんなところに何の用があるんでしょう

自分で言うのもなんですが、ここは本当に辺鄙な田舎です

特に大した施設もなく、都会に行くのに電車を何本も乗り継がなければいけません

しかもその電車自体も一時間に一本がいいところです

とても不便なところですが、海が近いのは自慢できると思います

ここからも見える海の景色はとても綺麗で、毎年夏になるとよく皆で遊びに出かけます

「別にこんな平和なところでドンパチしようってわけじゃないんだけどな、ここには個人的な用事があって来たんだ」


軍人さんの用事、といっても特に思い浮かびません

会ったばかりだというのもありますけど、やっぱり何もないところです

海を見に来たんでしょうか?私もここから見える海は大好きなのでそうだと嬉しいです


「ここからはよく海が見えるね」


「はい!私もここから見える景色が大好きなんです」


嬉しくなって思わず大きな声を出してしまいました

この景色を見に来たんでしょうか?ならもっとよく見える場所を案内しないといけません

そう意気込んでいた私に軍人さんは、思ってもみないことを尋ねました



「じゃあ、ここから見える海がもうすぐ戦場になるって言ったら、どう思う?」

突然の話に思わず息を飲みました。ここから見えるあの海が、戦場に

私の大好きな海、たくさんの思い出がある場所

本当に平和なこの町の、あの静かな海が戦場になる


「そんなの、嫌。絶対にダメです!」


「あぁ、僕もそうさせないために軍人になった」


その力強い返答にホッとしたのも束の間、彼が説明を続けます


「でも、敵はもうすぐ近くまで来ているんだ。このままだとこの近海まで来てしまうかもしれない」


「敵ってどういうことですか?どこかと戦争するなんて、そんな話聞いたことがありません」


わざわざこんな町でまで軍備をするならもっと話題になっているはず

なにより日本が軍?それこそ聞いたことがありません


「敵は国じゃないんだ。あいつらは海で生まれて、今もその数を増やしている」


「あいつら?あいつらって、一体なんですか?」


「僕らの敵は、ある生物だ。深海から生まれてくるあいつらを、軍では深海棲艦と呼んでいる」


深海、棲艦。初めて聞く名前です

日本が軍を持たなければいけない相手、それが国や組織ではなく一種の生物だなんて

そんな話は到底信じられるものではありませんし、信じたくもありません

そう思って俯いている私に、軍人さんが重々しく口を開きます


「深海から生まれる深海棲艦は、兵器と言っても過言じゃない。近付いた船や飛行機を無差別に攻撃してくる」


「彼らは世界中の海で音もなく生まれ、派遣された様々な軍を返り討ちにしたんだ」


「なにより驚くべきことは、彼らは人間大なんだ。人ほどの大きさの彼らが、かつての軍艦を模したような武装をしている」


軍人さんはとても真剣な口調で説明してくれます

でもそんな荒唐無稽な話、簡単には信じられません

「それが本当なら、そんなに小さな敵にどうして軍が負けるんですか?」


「そこが重要なんだ。実はな、恐ろしいことに彼らに現代兵器は通用しないんだよ」


「彼らの正体をはっきりとわかっているものは少ない、だから多くの国が彼らに現代兵器を持って対抗しようとした」


「でもそれでは何の意味もなかった、幾多の銃弾を浴びせても彼らはほとんど傷を負わなかった」


そんな、それじゃあ深海棲艦は無敵なの?

だったらもう、この海は……恐ろしい想像に、気付いたら体が震えていました

相変わらず俯く私に、妖精さんが優しく声をかけてくれます


「だいじょーぶ!その為に私たちがいるんだよっ!」
「とりあえず羅針盤回す?えいえいえーいっ!」
「はいストップ、もうちょっと空気読んでね?」
「この話長くなりそうだから寝るー」


それぞれが慰めているのかわからないような言葉をかけてくれます

あまりに不揃いなものですから、思わずくすりと笑みが漏れました

この海には恐ろしい敵が近くまで迫っているのかもしれません

確かにこの子たちみたいに不思議な生き物が存在するのかも

でも、なんだかこの子たちがいてくれるなら安心できるような気がします


「悪いな、こんな怖い話をして。この子たちのおかげで笑ってもらえてよかった」


「この子たちは妖精らしくて、不思議な力を持っている」


「そんな彼女たちのおかげで、彼らの正体を知った者、気付かされた者も増えてきている」


「味方は着々と集まってきているんだ、だから安心して欲しい」


「それにね、僕らも妖精のおかげで彼らに対抗する唯一の術を手に入れたんだ」


対抗する術?妖精さんのおかげってことは…魔法とか!


「深海棲艦は不思議な力を持った人間大の生物が、かつての軍艦を小さくしたような艤装を扱う」


「そこで僕らも同じような力を持つことにした、人の身にしてかつての艦艇の如く武装する」


「選ばれし者にしか扱えないその艤装を持つ彼女らを、僕らは艦むすと呼んでいる」

艦むす、深海棲艦に対抗する唯一の術

魔法じゃなかったのはとても残念ですが、その愛らしい呼称はなんだか好印象です


「ちなみにここまでの話は全部軍事機密だ、はっはっは!」


軍人さんは大口を開けて笑っていますが、どう考えても笑い事ではありません

焦る私の肩に妖精さんが楽しそうに飛び乗ります、なんだかこんなことが昔もあったような


「もしかして、個人的な用事ってその艦むすを探してるんですか?」


「大当たり、よくわかったな。艦むすは艤装に選ばれた者にしかなれないからな」


「艤装にも好みがあるらしくて、僕らの手でどうこうできるものでもないらしい」


「それでここからが一番重要な話なんだ、聞いてくれるか?」


さっきの笑顔から一転変わって、軍人さんがとても真剣な表情をするのでこちらにまで緊張が伝わってくるようです

まっすぐこちらを見つめるその様子に、思わず私も緊張してしまいます


「君はある艤装に選ばれたんだ、君にしかできないことがある」


「だから―――僕と契約して、艦むすになってよ!」

この町は本当に辺鄙な田舎で、通りかかる人なんてそういません

車も走っていないようなところですから、お昼でもとても静か

のどかな風景と海の見える景色が一体となった落ち着いた場所なんです


だからでしょう、こんなにも沈黙が痛々しいのは

軍人さんのお誘いへの私の返事は、無言でした

真剣な表情から繰り出される珍妙な言葉は見事私の胸を射止めることなく地面へ落ちます

そのまま私の何を言ってるんだこいつは、という視線を一身に受けた軍人さんは

急激に顔がカーッと赤くなってぶつくさと何かを言っています


その様子があんまりに可笑しくって、目上の方に向かって失礼だとは思いますが

なんだか可愛い人だなぁ、と私は思ってしまいました

投下終了だけどやっちまった、艦むす→艦娘に脳内変換頼みます

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