男「能力者バトルロイヤル!」(48)
天使「天使は皆バカしかおらん」
男「……」
天使「どうも堅物ばかりでな、秩序を重んじるばかりに頭が柔らかくない」
天使「柔軟な発想とやらが欠けているのか?天使の悪い部分だ。とにかく皆真面目で面白味一つないのだよ」
天使「貴様ら人間もどこか我々天使と似た性質を持つな」
天使「協調性、集団性、社会性を重んじている。法に縛られている。だからこそ人はいつの時代も自由を求めるのかね?」
男「さ、さぁ……」
天使「ふふっ」
天使「天使と比べて人間には自由に思考する権利を持っているのだ」
天使「それはとても幸福だぞ?なにせ我々は主たる神によって常に頭の中を覗き見られている。四六時中なのさ」
天使「人間は違うな?口や行動を起こさない限り、いや、そうでなくとも誰にもそいつが本当に何を考えているのか理解できない」
男「あの」
男「ここ、俺の家なんですけど」
天使「ん?ああ、確かに吾輩と貴様は今貴様の家の中にいる」
男「鍵かかってたんですけど…」
天使「ふん、やれやれだよ」
天使「鍵。貴様、鍵とは何か言え」
男「はぁ?」
男「鍵は鍵でしょう。錠前を開けたり閉めたりするもので」
天使「そうだよ。それが鍵本来の使い道だ。そして鍵とは何たるかの一般的認識だ」
天使「なぁ、貴様が吾輩へ言った鍵とは何かという答え。それは他の人間に対して尋ねてもそっくりそのまま同じ説明が聞かされるものかな?」
男「温厚な俺でもそろそろ怒りますよ!」
男「あんた一体誰なんです?いきなり後ろに立ってると思えば変な一人語り始めやがって」
男「大人しく帰るって言うのなら警察には言いませんから、殺さないでください…強盗さん…」
天使「貴様には吾輩の姿がどのように見えているのだね?」
男「いい加減に!」
天使「こんな簡単な質問には答えてくれないのか。もしかして怒ってる?」
男「そうだし、怖い……」
天使「はっは、感情豊かな人間だ。それでこそだよ~!」
天使「で?正直に吾輩は貴様の目にどう映っているのかな?」
男「こいつ……」
男「大人の女の人だ。外人みたいに瞳と髪の色が綺麗で」
男「おっぱいが大きい…」
天使「正直な奴は嫌いじゃあないぞ」
男「だってそんな胸元ガッツリ開いた服着てるんだから仕方がないじゃないか!自然と目はそっちへ向かうんです!」
天使「あっそ。他にはないのかい?」
男「他って。他にどこ見たらいいんですか、あとはもう服脱いでもらうしか…」
天使「そういう事じゃない。もしかしてそれだけなのか?貴様から見た吾輩の姿は?」
男「はぁ?」
天使「吾輩は天使だぞ」
男「羽根が背中に生えてたり、頭に輪っかが浮かんでるとでも答えたらいいんスか…!?」
男「もうあんた何したいのかわからないよ!怖いから早く目的言ってくれ!」
天使「焦るな人間。急げば急ぐほどその身を削っているのだぞ」
天使「まぁ、特にもう雑談を貴様とする理由もないし、いいか」
男「雑談のつもりだったのかよ」
天使「ふふっ♪」ニコッ
男「うっ…な、何だよ……!?」
天使「おめでとう人間!貴様はこの私に選ばれたのだよ!」
男「はぁ!?」
天使「まぁ選ばれたといっても、貴様だけではないのだがなー」
男「あんた美人だけど頭おかしいですよ、俺どうにかなっちゃいそう」
男「宗教の勧誘だとすれば新手にも程があるな!早く出て行って!」
天使「…何に、選ばれたのかをそこは尋ねるところではないか?実は急展開に胸が高まってワクワクしてるでしょ?」
男「そんな余裕今ないから!」
天使「確かに、天使の吾輩が突然人間の目の前に現れて動揺しない奴はいない」
天使「だが吾輩は死神とかそういう物騒な類ではないぞ。だって天使サマだからな」
天使「吾輩は貴様へ危害を与えに訪れたんじゃない。だからまずは落ち着いて椅子に腰かけるがいい。なんなら横になってダラけてても構わないぞ?最も天使の手前でそんな舐めた真似をした人間は一人も存在しなかったがね」
男「自分で言っといて何だよこいつ…」
男「くそぉ……俺はあなたの何に選ばれたんですかー」
天使「ほう、そんな適当な態度での質問に誰かが真面目に答えてくれたことはあるか?」
男「俺はあなたの何に選ばれたのでしょうか!大変恐縮ですが!お答えして頂いてもよろしいでしょうか!」
天使「悪くないな」ニコ
男「ちっ!!」
天使「貴様は吾輩が開催する能力者バトルロイヤルの参加者に選ばれたんだ。光栄に思いたまえよ」
男「いやいや……」
男「そんなの変ですよ。意味不明です!」
天使「おや、最近は人間が特殊な力を持ってバトり合うのが流行りではなかったか?それとも大会名が気に入らなかったかな。安直すぎてつまらないもんなぁー」
男「そこにツッコみたいわけじゃないの!」
天使「ふふっ、とにかくだよ。吾輩は能力者バトルロイヤルをこの町全体を使って開催する」
天使「その面子に貴様が選ばれたわけだ。判断基準はない、適当にくじ引いたら当たった。良かったな、自分の運の良さに感謝しなさい」
男「勝手に話を進めるなぁぁぁー!お前は永遠俺にわけのわからない話を続けるつもりか!?」
男「特殊な能力だとか異能力とか今日日流行んないんだよ!あんたアニメか漫画の読み過ぎ!祖国へ帰れ!」
天使「……」ニコニコ
天使「やぁ、文句はそれで十分かな?ちなみに貴様のエントリーは決定している。拒否は認めん」
男「知るかよ…そもそも俺、不思議な力とか持ってないんですけど」
天使「当たり前だ、普通の人間なのだから。持ってたらそいつは化け物だよ」
天使「しかーし、貴様はこれからその化け物へなってもらうがな?」
男「はぁ…もう好きに喋って。頭痛くなってきた…」
天使「最初からそのつもりだ。では早速始めようか」
天使「答えたまえ、コレは一体何だ?」サッ
男「何って、スプーンだよ。俺ん家のスプーン」
天使「貴様にはコレがスプーンに見えるんだな?ステンレス製の、ただのスプーンに…」
男「…違うの?」
天使「いや、貴様がコレをスプーンだと思うのなら、それはスプーンだよ」
男「は?」
天使「では続けての質問。スプーンとは何だ?」
男「食器だけど…」
天使「すまない。貴様にとってのスプーンの使われ方を吾輩に教えろ」
男「えぇ、何それ…」
天使「貴様がコレに対してどう認識しているのかを吾輩は知りたいのだ。さぁ答えて」
男「スプーンは……例えば食べ物とか、何かを掬って口とかに運んだりする物ですけど」
天使「ふむ、貴様にとってスプーンは『何かを掬って運ぶ』そう認識しているとして間違いないのだな?」
男「ん…。ていうか、この質問の意図が全くわかんないっス。さっきも鍵のこと聞いたりしたよな」
男「あんたが話してる能力者バトルロイヤルとやらにどう関係して」
天使「おめでとう!貴様の能力が決定した!貴様の能力はスプーンを媒介に『何かを掬って運ぶ』能力だ!」
男「何それ!!」
天使「媒介とは言ったが、スプーンの上に『何かを掬って運ぶ』ものになる。まぁそこのところは他の参加者も大抵は一緒さ。安心するがいい」
天使「しかし気を付ける事があるぞ。貴様はスプーンを持たなければ能力を発動できないのだ。ああ、別にスプーンは何でもいいスプーンで構わないから…」
男「待てってば!いきなりそんなの言われてもこっちは理解できるか!」
男「マジでふざけてるならいい加減出てけよ!こっちもいい迷惑だ!」
天使「待つのは貴様の方だ、人の話は最後まで聞けと教わらなかったのかね?」
天使「…さっき貴様は質問の意図がわからないと言ったよな。今のは貴様の能力を決める為の質問」
男「あれが?スプーンだぞ?だったら誰に聞いたって最初からその能力になるだろ」
天使「吾輩は最初に貴様へ鍵とは何か尋ねたよなぁ?そして、他の人間に対しても尋ねたらそっくりそのまま同じ説明が聞かされるのか、とも」
男「あ、ああ」
天使「例えばだが、仮に吾輩がマジックを準備中のマジシャンに対して、スプーンの使われ方を尋ねてみるとする」
天使「マジシャンはもしかすると曲げる物と答えるかもしれないな。吾輩はスプーン本来の使われ方を聞いたわけではないのだから」
男「それ、何かずるくない…?」
天使「もう1つの例。牢屋に入れられた脱獄を試みている囚人に対してもスプーンの使われ方を尋ねてみよう」
男「……まさか、それで壁を掘って脱獄する道具だとか言いたいんじゃないでしょうね?」
天使「うむ」
男「無理矢理すぎるだろうが!!」
天使「何故そう思うのかね?…確かに、考えが似たり、偶然同じだったりする人間はいるだろう」
天使「だが、その道具に対しての認識は人によって違うかもしれない。千差万別、十人十色なり~」
天使「認識とはその人間自身、または置かれる環境によって変化するものなのだ。吾輩はそうだと思うぞ」
天使「…まぁ、今回貴様にこのスプーンについて尋ねたのはただの偶然だったわけだが」
男「参加者全員に俺と同じ物で質問してるわけじゃないのか?」
天使「そう。吾輩がそのとき偶然目に止まった物について訊いてるってわけさ」
天使「スプーンの使われ方を尋ねれば、他の人間も貴様と似通った認識を答える可能性の方が高いだろうな。だが中にはさっきの例のような事もありえる。例外だ」
天使「頭おかしな人間に聞けば、ブラックホールを生み出すとか、とんでもない能力に決まるかもしれないな!はっはっはー!」
男「……」
天使「どうしたのかね?能力者バトルロイヤルとか謳ったモンだから、凄い能力で戦わされると思っていたか?」
天使「ただ単に炎を出すとか、温度を操れるとかはもう古い時代さ。今回吾輩は新しい試みをしたと思わないかね」
男「あー」
天使「貴様らが扱う能力は物に対する『認識』そのものだ。だからこそ能力を使用する際に認識の媒介として物が絶対に必要とされる」
天使「同じ事を言わせてもらうが、貴様の場合はスプーンだ。貴様が能力を使うには媒介となるスプーンが不可欠だぞ?メモ取っておいた方がいいんじゃない?」
男「全然話わからないや……」
男「随分なご設定ですけど、そういうの頭の中に仕舞っといた方がいいと思いますよ」
天使「むっ、まだ信じてないのか。ひねくれた奴め……」
天使「疑っているなら試しにこのスプーンを持って能力を確かめてみたらいいじゃないか。既に吾輩は貴様へ力を貸してるもん」
男「は、はっ……まだ言ってるよ~…やだなぁ」
男「何でしたっけ?『何かを掬って運ぶ能力』だっけ……。何かという事は食べ物に限定されてないんだな?」
天使「そうなるかなぁ~」
天使「物は試しというわけで、そうね…ここに置かれた洋服タンスを掬ってみるといいだろう」
男「マジで言ってんスか!」
天使「大マジさ!」
男「スプーンでこんな大きい家具持ち上げられるわけないだろ!」
天使「違う違う。持ち上げるじゃなくて、掬うんだよ。そろそろ自分の能力を覚えたまえ」
天使「貴様ならできる。貴様のスプーンに対する認識を信じなさい」
男「俺の認識って……所詮コレただのスプーンだし、食べ物口に運ぶしか」
天使「バカ人間。そうやって無理矢理貴様の中の認識を曲げようとすれば、能力は弱まるぞ。文字通り信じる者は救われるって奴さ、信じろ」
男「え~……」
天使「ぐだぐだ言うなー早くー!」
男「むぅ…。俺は何かを掬って運べる、俺は何かを掬って運べる…」ぐいっ
男「ダメだ!やっぱ無理だろ、ていうか嘘だろこれ!重くて無理無理!」
天使「何度言わせれば理解してくれるのかな。持ち上げるじゃない『掬え』」
男「……むぅ」
男(掬う。サッと……皿の上にある豆でも掬うように、サッと……)すうーっ
男の手に持たれたスプーンの上に洋服タンスが乗った。
そのまま上下に数回スプーンをゆっくりと動かして感触を確かめる。
天使「どうかね?」ニコ
男「重さを感じない……」
男「お、俺はこのままタンスをスプーンの上に乗っけたまま運べるの?」
天使「勿論だよ。だってそれこそが貴様の能力なのだから」
天使「まぁ運ぶのなら慎重にやれよ。途中でそれをこぼしてしまえば、重さで床が大変な事になるだろう」
男「こぼすって…わっ!?」ツルン、ドスン!
男「…あ、あぶねぇー…何だよこれぇー……」
男「あんた、本当に俺へ能力バトルさせるつもり―――はっ?」
天使「どうした人間、マヌケな面が更により酷く見えるぞ。吾輩の姿がさっきと違って見えるのかね?ふふっ」
男(せ、背中に白い羽根が生えてるじゃねーかよ…)
男「天使……?」
天使「まぁな」
この日、俺が住む町に誕生した能力者の数は約347人
能力者は不特定多数。近所の子どもから年寄りまで
全体的に説明臭かったな。暇な時にぼちぼち書いてく
能力者バトルロイヤル開催!
説明しよう。この大会は町内にすむ住民を無差別に巻き込んだ大規模なものである!
参加する能力者の数は現時点で350人。今後参加者の追加は無い
ありがたい大会にあなたは選ばれたので、参加を拒む事は絶対ダメ!!
大会は今日当日より開始。期間は今日から数えて1ヶ月とする
期間内参加者は所持した『特殊能力』を用いて、他の参加者を倒せ!
『特殊能力』は優勝した者を除いて大会期間内のみ使用可能
なお、参加者数が残り3名、または1名を残して全員が敗北した場合は期間内でも大会は強制的に終了される
大会終了日までに3名以上参加者が残った場合、残る参加者の中でより多くの参加者を倒した者が優勝者とみなされる
優勝した参加者(最大3名まで)には天使の祝福を受け、特殊能力をこれから先永久に使い続けられるぞ!やったね!
さらに、他にもお得な物を授かれるかも・・・!?楽しみ!
大会ルールについての詳細は追って知らせます。焦らずにお待ちください
男「何だこのふざけたメール……」
学校
男「既に大会開いてて、ルールは後で知らせますとか舐めすぎじゃないかー?」
男「ていうか参加者多すぎでしょ…1ヶ月は短いと思うんですけど」
男「大体これ興味ない奴には優勝してもとことん嬉しくねぇ!頑張る気持ち一切起きない!」
男「…つまり滅茶苦茶だコレ。やっぱり頭おかしいよ」ポチポチ
友「一人で携帯に向かって喋ってる奴も十分頭おかしく見えるね、俺は」
友「よっ、おはよう!随分眠たそうな顔してるじゃん。俺は今朝は目覚め良くて快調ですわ」
男「ああ…寝てないから」
友「寝てない自慢?そういうの誰も得しないからやめとけよー」
友「どうせまた徹夜でゲームとかだろ」
男「いや、今日は違うから。スプーンを」
友「え?」
男「あ、いや…別に…いいや。何でもない」
男(参加者350人はこの町に住んでる人だけか。あの天使、選んだ基準はないとか言ってたし性別も歳も職業も全部関係なしでこの数なんだろうな)
男(もしかしたら、俺の隣に座ってるこの子が能力者という事も…?)チラ
隣女「……」
男(いや、それだけじゃないよ。この学校の中に何人かいると考えてもおかしくない)
男(だけどどうやって俺たち参加者は敵を見つけたらいいんだろう?)
男(トーナメントじゃなくて『バトルロイヤル』なんだから決められた相手と戦うわけでもないし。参加者とそうでない奴、どっか見たら区別がついたり?)
男「全くわからない……」
隣女「ん?」
男「えっ!? あ、今の独り言だから…気にしないで」
隣女「?」
男(いつになったら次のメール来るんだよ…ていうか俺は何微妙にやる気なってんだ…)
男「」イライラ
友「寝てないからって不機嫌そうな顔すんなよぉ。今昼飯食べてるんだからさ…」
男「ああ…」
友「お前、授業中も携帯見てたよな?んで今も……。気になるんだけど」
男「見てるっつーか、待ってるって感じ」
友「待ってる?はて、何を。メールか電話か?授業中も気にするぐらいだし、メールか」
友「女子はありえないとして誰からよ?」
男「一応、女子…の姿はしてるから女子からのメール。面白い話でもないし気にすんなよ」
友「いやいや、気にするわ!お前女子のメアド持ってんのかよ!」ガタッ
男「持ってない!持ってない!」
友「お前、俺に飽き足らず女に手出しやがったのか…そうなのか…!」
ザワザワ・・・ザワザワ・・・
男「違う!!俺たちそんなじゃない!!変な目でこっち見るんじゃねぇー!!」
友「冗談は置いといて、親友の俺に話せないほどの相手ですかー」
男「たぶん話しても頭おかしい奴って思われて終わるよ」
男「ほら、飯食べなよ…。食べないなら俺貰っちゃうけど」
友「嫌だね!俺はお前と違って部活してんの。体力いんの」
友「だがしかし、今日は部活はお休みなんですなぁ~…なぁ、帰りにサイゼ行こうぜ!?」
男「昼飯食ってる時に夕飯の予定提案とは忙しない野郎だ。構いませんがね~」
友「ふん!ほへへほひ!(うん それでよし)」ガツガツ
男「……なぁ、もしお前知らない奴から突然『特殊能力』与えられたらどうする?」
友「ほへ?」
友「んぐ、貰えるもんは全部貰いますわ。損無しならな。…でも、急にどうした?」
男「いや…聞いただけ…」
友「あそ?」
トイレ
男(結局放課後になってもアイツからルールについての情報は送られてこない)
男「本当は俺のただの妄想か?んでもアイツは確かに天使だったし…現に今朝のメールが残ってるし…あ~~~」
男「まぁ、何もないならそれが一番か!どうせ大した話でもないもん!」
友「またメールの件?落ち込むなよー。あ、ちょっと俺部活の奴に伝える事あるからさ」
男「うん、昇降口で待ってるよ」
友「悪い!すぐに済む、10分もかかんねーから!」タタタ…
男「……別に急いでもないのに慌ただしい奴な」
男「やっぱ、まだ来ないか。もう諦めた方がいいのかねぇー」ポチポチ
男「それにしても腹が減った……――――ん?」
生徒「……」
昇降口まで来ると、自分より一つ上の学年の生徒が外にポツンと座っていた。
周りに誰もいないのが彼の存在を際立たせている。
男(あんなとこで何ボーっと上向いてんだろ。俺と同じで誰か待ち?)
男(でも、違和感を感じるんだよなぁー……何でだろ……)
生徒「……」グッ
気にする事もなかったのに、興味本位で下駄箱の陰からこっそり生徒を観察する。
見れば、そいつは片手にu字磁石を握っているのだ。
男「違和感、これか。普通あんな磁石手に持って外いる奴なんていないからな…」
男「しかもボーっとしちゃってるし。磁石眺めるわけでもない、何考えてんだ?」
生徒「えいっ……」
生徒が突然小さく呟くと、手の中のu字磁石を空へかざした。
男「!?」
小鳥「キーキー」バタバタッ
生徒「おーおー、捕まえられた。暴れるなよ…捕まえたけどバッチイし触んない方がいいよなぁ~~……」
男「ウソぉー……!」
男は慌てて下駄箱の陰へ身を潜めて、その場にしゃがみ込んだ。
目撃してしまったのだ。あの上級生が上空を飛び交う鳥を『磁石』で捕まえたのを。
男「あんなのどう考えてもありえない…!だ、だって、まるで鳥がアイツに無理矢理引き寄せられたみたいに…」
男「まさかアイツ……!!」
友「おまたぁ~~~?」トン
男「うわあああぁぁ~~~!?」
友「な、何だよ。別に驚かすつもり一切なかったんですけど…」
男「はぁはぁ、はぁはぁ……あ、あー………あっ!?」バッ
再び生徒の姿を覗き見た。彼は男の大声に反応して、こちらをジロジロ見ている。
その様子はどこからどう見ても挙動不審だった。
生徒「じぃーーー、じぃーーー……?」
男「め、滅茶苦茶こっち見てるぞ……」
友「はぁ?」
男(あいつ、俺と同じ能力者なのか?まさか待ち伏せしてるとかじゃ……っ?)
男(それとも誰にも見られてないと思って能力を使ったから焦ってるのか?マジならあいつバカじゃないのか…!?)
友「おーい、何してんだよ?怪しいぞ?早くサイゼ行こうってば」
男「え?あ、うん…そうだな…」
友「もたもたしてんなよ。ていうか腹でも痛むのか?」
男「…何でもないんだ…行こうぜ……っ」
靴を履きなおして友と一緒に外へ出る。
生徒の視線は二人へ集中した。ジロジロ、ジロジロ・・・
生徒「……」
男「……ゴクリ」
そいつの視線は変わらず二人の姿を追っている。ジロジロ
横目でチラッと見ると、制服の中へu字磁石を隠したのか手の中になかった。
男(ど、動揺することもないのに…何だこの変な感じ…っ)
男(それとも俺を能力者と分かって見てんのかよ、そんな疑る目で俺を見るなよ…)
男「……」
生徒の前を、近くを通る。
気にし過ぎるあまりにそいつの鼻呼吸の音でさえ耳につく。
男(見つめ返しちゃダメだ、無視するんだ。変に怪しまれる…)
男(だ、だけどどうしても視線が気になるぞ……気に)
生徒「……」
生徒「…おい」
男「!!」
男(は、話しかけられた。ばれた?しかも、いつの間にか立ち上がってる…っ)
男「うあぁ…」
生徒「おいってば。おぉーーーい」
友「なんスか、先輩…?」
友「さっきから俺らのことジロジロ睨んできて、因縁つけるつもりスか」
男「うっ…!?」
男はすぐに友の口を手で塞いで、生徒へ向き直る。
男「すみませ―――」
生徒「君だよ、君ぃ」
男「へ……」
男(マジで俺を能力者と!)
生徒「ズボンのチャック……社会の窓が空いてるからさ…。ほら、閉めろよ」
男「え?」
友「あっ、マジだよ。お前オープンなってるわ!だせー!」
男「さっきトイレに行ってから気づかなかった……」ジー
男「…す、すみません。教えてもらって」
生徒「大丈夫だよ。それより校門出る前で気づけて良かったね」
友「先輩、だからコイツの事見てたんスね。俺からもどうもです!」
生徒「ああ…ほら、もう行きなよ。そろそろ日も暮れるし、ファミレスは今の時間混んだりするしね」
友「ですね。じゃあそろそろ失礼しよっか、男ぉー」
男「うん。それじゃあ先輩、わざわざありがとうございました!」
生徒「」ニコ
サイゼ
友「さっきの先輩いい奴だったな。俺、てっきり喧嘩売られてんのかと思っちゃったわ」
男「お前が問題起こして部活ダメになっても俺は知らないからなー」
男(俺、何さっきはビクビクしてたんだろ…仮に先輩が能力者だったとしても、こんなくだらない争いにマジになる事ないじゃんか…)
店員「お待たせしましたぁ。ご注文をどうぞぉー」
友「ミラノ風ドリアとハンバーグお願いします」
男「そんなに食べんだ……。俺もドリア、こっちと同じ奴を」
店員「かしこまりましたぁ~」
友「ぐふっ、あの店員可愛いよなぁ。俺好きなんだよー…」
男「それ前にも聞かされたから」
テーブルに備えられた小箱からスプーンを一本手に取って眺める。
男「む~……」
友「今日のお前どっか変だよな?」
男「え?」
友「いやね、腑に落ちない様子っていうかさ、ぶっちゃけ気持ち悪いわ」
男「随分な言い草だな?店員目的でこの店に誘ったお前にも同じ事言えるっての」
友「いいじゃん!別にー!」
男「悪いとは言わないけどさ……」
モクモクモク~・・・
男「あっちの方、やけに煙たいな。煙草の煙のせいか?」
友「喫煙席だからな、こっちも文句言えねーって。飯食うとこで吸う奴ってわっかんないよなぁ~!」
男「……げほ、けほっ」
友「……ちょっとトイレ立つついでに言ってくるわ」
男「はぁ!?お前文句言えないとか話したじゃんか!いいよ、気にすんな!」
友「いいからいいからー!俺に任しとけよぉー!」グッ
友が席を立ち上がると、丁度食事を配膳しに来た店員にドンッとぶつかってしまった。
おぼんの上からミラノ風ドリアが落ちる!
店員「ああっ!」
友「うおーっ!?」
咄嗟にスプーンを持った手が落下するドリアへ伸びてしまった。
ドリアが盛られた皿を、スプーンで掬う!
男「……せ、セーフぅ」グググ
ドリアは床にこぼれない。スプーンの上にはバランス良くそれが乗っかっていた。
店員「あ、ああ、す…すみませんでしたぁ~!」
男「いえいえ、こっちこそ不注意ですんませんっス」
友「……」
友「…お前、すごいな。どんな腕の筋肉してんだ?新しい芸か何か?」
男「え?…あっ!?」
友の言葉に自分がしでかした事に気づき、スプーンからドリアを落としてしまった。
すぐにガチャーン!と音と共に床にドリアがぶちまけられてしまった。
店員「あああぁぁーーーーーっ!そんなぁーっ!?」
男「うわ……!えっと、すみませんでした!…わ、悪い、俺先に帰るわ」
友「帰るってちょっと!?まだ飯も食ってな―――」
男「一緒に会計済ませといてくれ!」
千円札を一枚財布から抜いてテーブルに叩きつける。友と店員にはこれ以上見向きせずに、逃げるようにして店を飛び出した。
?「……」
喫煙席から一人の男が席を立ち会計を済ます。彼も店を後にした。
男「本当に今日は俺どうかしてるぞ」
男「別に慌てる事なんてなかったのに。あーあ、あいつに悪いことしちゃったよなぁ…」
男「一応電話しとくか――――――あれ?」
さっきまで着信、メール一つも届いていなかった自分の携帯。
今確認すると大量に届いていた。着信履歴は友の名前で埋め尽くされていたが。
メールboxを開くと、そこには・・・。
男「天使からだ!ていうか昼前にメール届いてるじゃねーかよ!?」
『件名:能力者バトルロイヤルルール!』
男「…俺が今まで気づかなかっただけなのか。携帯、マナーモードにしてたから」
男「いやいや、そんなはずない。だって俺今日はずっと携帯と睨めっこしてたんだから…」
男(……通信が不安定だったのかな。だから今になってドッと一気に届いて)
男「とにかくルール確認しなくちゃ」
ピッ。ガチャコン。
男「!」
携帯に注意が行っていた事もあって、近くの自販機に人が立っていたのに気付けなかった。
コートを着た大人の男が購入したコーヒーを開け、口元の煙草に火をつけている。
煙草男「フー……」スパー
男「……」
チラッと煙草男の姿を確認し、何もなかったように再び携帯へ目を向けた。
しかし、表示していたメールboxがいつの間にか閉じられている。
それどころか携帯の画面が暗転しているじゃないか。
男「あれ?」
ボタンを押してスリープを解除しようとしても画面は暗いまま。
ていうか携帯が、手がすごく熱い!手が焼けているぞ!
男「…うわああああぁぁぁーーーっ!?」
男(どうして今まで気づかなかったんだ!?お、俺の手が…燃えてる!!)
男「あぁあぁぁあああぁぁぁーーーっっ!!」
手から手首へ、火は男を蝕む様にゆっくり上ってきている。
すぐに制服を脱いで手をそれで叩く!叩く!火の勢いが少し弱まってきた!
男「ぐうぅぅぅ……っ」
それでもダメージは予想以上に大きい。このまま放って置いたら壊死は免れない。
痛む手を抑え、地面に倒れた男に煙草男が紫煙をくゆらせて近づいて来た。
男「救急車…呼んで、くださ……」
煙草男「降参するか?」
男「は?」
煙草男「しないのか。お前能力者で間違いないよな?言っても、とっくにこっちはお前がそうだと気づいているが」
男「!?」
男「あんた何言ってるんです……」
煙草男「惚ける必要はない。これ以上痛い目見たくなけりゃ降参しろ。一言言ってくれるだけで済むから」
煙草男「そうだな?天使」
天使『ルール通りだよ。もし男が時点で敗北を認めれば、貴様の勝利だ』
天使の声が頭の中で響き渡る。男は必死で天使の姿を探した。
男「なんだよ、これぇー……意味わかんないぞ……!」
煙草男「早くどうするか決めないか。決めなければもっと痛めるぞ」
男「待って!!」
男「あんたも能力者なのか、参加者なのか…?」
煙草男「……フー」カチッ
煙草男はポケットから100円ライターを取り出すと着火した。
その瞬間、煙草男から炎が発射されて近くに落ちていたゴミに命中!一気に燃え上がる!
男「ひっ!?」
煙草男「この通り、俺の『特殊能力』は上手く加減ができねぇ」
煙草男「最悪お前を焼き殺すはめになるかもしれん」
男「うあぁ……」
煙草男「悪い事は言わない。さっさと降参して俺を勝たせるんだな」
煙草男「それが利口ってもんだぜ……」
男(こいつやっぱり能力者!俺と同じだ!大会は嘘じゃなかったんだ!!)
男(でも、どうして俺が能力者って分かった?気づいているとさっき言ってたけど…)
男「う、ぐぐぅぅ…っ」
煙草男「早く言え。そうすれば痛みはなくなるんだ」
男「は…?」
男「こ、こんな怖い事に付き合ってられるかよ…く、くそぉ…!」
痛みを我慢して勢いよく立ち上がると一目散に煙草男から逃げ出した。
煙草男「逃げるのは許さねぇ」
男の行く手を阻むように、目の前の道に炎が立ち上がる!
逃げ場はない!
男「あっつ!?」
煙草男「直接お前を燃やさなかっただけ良かったと思えよ」
煙草男「俺も勝つ為とはいえ、人は殺したくない」
男「ふざけんな!こっちは真面目に死ぬかと思ったんだ!」
男「…大体、さっきから何だよ。上から目線で物言いやがって」
男「気に食わないんだよ、そういう奴は!!……俺とあんたは同じ能力者、上も下もないだろうが…!」
煙草男「…俺とお前が対等の立場だって言いたいのか?」
煙草男「んなわけねぇだろボケ」カチッ
男目掛けて炎が飛ばされてきた。紙一重で攻撃を横に転がって回避した!
男「はぁ、はぁ……!」
煙草男「どうした。まさかやる気か?お前の手すごく痛そうだが……ふふっ」
男「うるさい!!」
男(…あいつの能力は察するところ、『ライター』を媒介に『火を出す』ってところか)
男(かなりシンプルな力だけど、火を出せる時点で十分強いし厄介だよ!)
男(逃げられればそれが一番だけど、顔バレしてるしもう遅いよな…)
煙草男「フー……」スパー
男「!」
男はその場から駆け出した!なるべく煙草男と距離を離すために!
慌てる事なく煙草男は男へ狙いをつけてライターを点火する!
男「うわぁ!?」
すぐ近くに火が飛んでくるもそれは男へ当たらない。
続いて飛ばされてくる火も男は足を止まらずに走り続けて回避した。
煙草男「…チッ」
展開遅いかなぁ。続きはまた後日に
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