モバP「月夜の蕾」 (47)
モバマスSSです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1414815878
古典シリーズです。
冬コミ申し込みましたが、落ちました。
事務所
頼子「そう言えば」
文香「…はい?」
P「どうかしたか?」
頼子「富士山が世界遺産に選ばれましたね」
P「ちょっと前の話だな」
文香「そう…ですね。今では登るのに入山料が必要だとか」
P「まぁ、世界遺産になるとそうだろうな」
頼子「富士山が世界に認められた…と考えると嬉しいですね」
P「まぁ、確かにそうだな」
文香「そうですね。日本の象徴と言えば、象徴ですし」
頼子「日本と言えば。で思い浮かべるものですね」
P「そうだな」
文香「ですね」
凛「ただいま」
P「おかえり。どうだった?」
凛「別に。いつも通りだよ」
P「そうか。そうだよな」
凛「何か他の言葉を期待してた?」
卯月「凛ちゃんに甘えて欲しいんだよっ」
P「ん?」
凛「えっ…そうなの?」
P「どうなんだろ?」
美嘉「どうなんだろうって…」
凛「えっと……そのなんて言えばいいのかな」ポリポリ
P「なにが?」
美嘉「言っちゃえー」
凛「えっと…褒めて?」
P「お、おう…。その、おめでとう」
凛「え、あ、うん。ありがと…もう行くね」
P「え、今帰ってきたばかりじゃないのか」
凛「……」プイ
卯月「さっきの凛ちゃん可愛かったねー」
美嘉「そうだね。それは思った」
P「なんだったんだ一体…」
卯月「たまにはあんな凛ちゃんもいいですよね」
美嘉「いいよねー」
夕方
事務所
P「ただいま戻りました」
文香「お帰り…なさいませ」
頼子「お帰りなさい」
ちひろ「お疲れ様です」
P「二人も収録お疲れ様」
ちひろ「うちの事務所には色々なタイプのアイドルがいますよねぇ」
P「そうですね。皆違ってみんないいと思います」
ちひろ「ですねー。ただ、事務所にいるアイドルによって事務所の雰囲気って結構変わるんだなぁって思いまして」
P「確かにそういうのはあるかもしれませんね」
ちひろ「ずっと事務所にいると結構そういう風に思う時はありますよ」
ちひろ「今日のお昼時は学校にいるみたいな感じでしたもの」
P「美嘉たちがいた時ですか」
ちひろ「はい。なんか高校の教室みたいな雰囲気でした」
P「今はどんな感じなんですか?」
ちひろ「そうですね…何だか図書館に来たみたいです」
頼子「……」チラ
文香「……」チラ
P「基本的に学校で例えるんですね…」
ちひろ「た、たまたまですって」
P「事務所に所属しているアイドルに高校生が多いからですかね?」
ちひろ「そうだと思います。きっと」
ちひろ「でも、私達にも学校に通ってた時期があったんですよねぇ」
P「ありましたね」
頼子「お二人は一緒の学校だったのですか?」
P「いや、違うよ」
ちひろ「違いますよー」
ちひろ「テレビの中で歌ったり踊ったりしてて、遠い別世界の出来事だと思ってましたけど…まさか、今はアイドルの事務所の事務員を
しているなんて夢にも思ってませんでした」
P「まぁ、テレビの向こうの世界なんて別世界だと思いますよねぇ」
ちひろ「えぇ。一生縁なんてないと思ってました」
文香「それは…」
頼子「私達も同じ…です」
頼子「あの日、あの時、あの場所であなたと会ってなかったら…ずっと、あちら側にいました」
頼子「鑑賞する側からされる側になるとは露とも…」
文香「私も…です」
P「まぁ、考えてみればそうかもな」
頼子「…えぇ」
文香「そうです」
P「さて、頼子。行くか」
頼子「…はい」
文香「私は、レッスンに行ってきますね」
P「あぁ、気を付けてな」
文香「お二人も…」ペコリ
バタン
ちひろ「うーん、誰もいなくなっちゃうとちょっとだけ寂しいなぁ…」
頼子「Pさんは…プロデューサーですよね」
P「質問の意図が分からないが、プロデューサーだよ」
頼子「プロデューサーとしての目標は…やはり、シンデレラ、つまりトップアイドルをプロデュースすること。で間違いありませんか?」
P「まぁ…確かに箔は付くだろうしな」
頼子「そうですよね…。考えてみれば、アイドルの目標も似たようなものなのですから」
P「そうだよな。どうかしたか?」
頼子「いえ…少し思う所がありまして」
P「なんだ?」
頼子「トップアイドルと言うのは…アイドルの中でもアイドルらしい方が、人気と実力を伴って選ばれると思います」
P「まぁ…そうだろうなぁ」
頼子「もし…貴方が――」
P「もし、俺が本気でトップアイドルをプロデュースしているって肩書が欲しいならそういうアイドルに絞れって?」
頼子「……ふと、思ったんですよ」
頼子「私は…プロデュースの才能なんて物は分かりませんが、Pさんには才能はお有りだと思います」
頼子「誰かに集中させてみたら…と」
頼子「植物も…不要な果実は切り落とし、有望な果実にのみ注力します」
頼子「……」
P「……」
P「言いたいことは終わったか?」
頼子「…えっ」ビク
P「うーん、なんて言うかな、結論から言うと俺はそんなことはしない」
P「まぁ…どうなんだろうなぁ。確かに王道と言えるアイドルに注力した方がいいのかもしれない」
頼子「私達の事務所ですと…渋谷さんとか島村さんとかでしょうか」
P「そこは分からないけどな」
P「俺はスカウトする時によく輝く姿が見える。って話を前にしたと思うんだ」
頼子「…はい」
P「俺のその言葉を信じて、付いてきてくれた子を見捨てられるはずがないじゃないか」
頼子「まぁ…確かにそうでしょうけれども…」
頼子(それは、ただの義務感ではないでしょうか…?)
P「王道って言ったか、別に俺は全員が全員その道を走る必要も、ゴールが同じである必要もないと思う」
頼子「え…?」
P「あくまでアイドルがこの業界に入る切っ掛けだったくらいに考えてもいいよ」
P「アイドルである以上、シンデレラを目指さないといけないなんて決まりはないからさ」
P「女優や批評家なんでもいいさ」
P「そうなりたいなら、俺も頑張ってそういうプロデュースを考えるから」
P「ま。頼子に言われるまでは、俺は全力で頼子をシンデレラにするためにプロデュースするけどな」
頼子「そ、そうですか…はい」
頼子「よろしく…お願い致します」グス
P「…なんだ?泣いてるのか?」
頼子「し、知りませんっ!」プイ
P「でもさ、考えてみろよ」
頼子「はい?」
P「凛と卯月は、頼子みたいに本に詳しくないだろ」
頼子「まぁ…確かに」
P「この間卯月に本を貸したらすぐ船漕いでたし、凛は目を擦りながら読んでたっけな」
頼子「向き不向きはありますからね」
P「皆違っていいんだよ」
頼子「金子みすゞですね」
P「小学校の教科書に載ってたな」
頼子「えぇ…」クス
頼子「皆違って、皆いいのかもしれませんが、やはりアイドルの王道を往くのはああいう方たちだと思います」
P「まぁ、思うのは自由だ」
頼子「彼女たちは言うなれば…ヒマワリですね」
P「太陽燦々輝く場にて花開くと」
頼子「えぇ、私は…よくて月見草です」
頼子「ヒマワリの影で、月夜にひっそりと咲く…月見草です」
P「ちゃんと見てる人はいると思うけどな」
頼子「それも理解しています…ですけど」
P「アイドルとしての華やかさは勝てないと」
頼子「まぁ、そんな所でしょうか…」
P「でも、実際の成績的には勝ってたりしてな」
頼子「…どうでしょうかね」
頼子「私は…いままで通り、Pさんの望むように頑張っていきたいと思います」
頼子「私だけ、私にしか出来ないものを表現してみたいと思います」
P「そうか」
頼子「えぇ…尤もここまで偉そうなことを言ってもPさんがいないと…アイドルにすら見て貰えないんですけどね」
P「そんなことはないだろ」
頼子「いえ、あるんです…」
頼子「ですから、近くにいて下さい」
頼子「Pさんが近くにいればそれだけ私は磨かれていきますから」
P「分かった」
頼子「…はい」
頼子(月見草の花言葉は、打ち明けられない恋、無言の恋です…気づいているんでしょうか…)
頼子「まぁ…言えませんけどね」
P「どうかしたか?」
頼子「いえ、何でもありません」ニコ
事務所
P「ただいま戻りましたー」
文香「ひゃっ!」ビク
P「あ、出るとこだったか悪い悪い」
文香「い、いえ…大丈夫です」
P「ならいいけど…」
ちひろ「あ、プロデューサーさんお疲れ様です」
P「あ、お疲れ様です」
ちひろ「文香ちゃんもう帰る所なんで良かったら…」
P「あ、分かりました。送っていきますね」
文香「あ…でも…大丈夫ですか?」
P「…多分」
文香「少しだけ…不安なですが…その、よろしくお願いします」ペコリ
文香「今日は…本屋までで大丈夫です」
P「ん?店番か?」
文香「…はい。少しの間だけですが」
P「なら、俺もいようかな」
文香「え…」
P「久々に本でも眺めようかなと。多分15分くらいなら問題ないし」
文香「背表紙を眺めるだけに…なりそうですね」
P「まぁ、確かにな。それでもいい気分転換にはなるよ」
文香「そういうことでしたら…こちらとしても断る理由はありませんね」
P「それは良かった」
文香「えぇ、僥倖です」ニコ
古本屋
文香「…すみません」
P「いや、いいって」
文香「いえ…でも」
P「まぁ、いいさ。ほい」
文香「あ、どうも」
P「棚卸をやるなんてな」
文香「大事な仕事の一つ…ですよ」
P「そうかもしれないけど」
文香「いつもより…」
P「ん?」
文香「いつもよりほんの目線を高くするだけで景色が変わりますね」
P「だろうな」
文香「中々気持ちがいいです」
P「確かにな」
文香「登り…ますか?」
P「遠慮しておくよ。危ないだろうから」
文香「そうですか…」
P「お、懐かしい本だな」
文香「どれですか?」
P「これだな」
文香「…あぁ、確かに」
文香「The Catcher in the Rye ライ麦畑で捕まえてですね」
P「そうだな」
文香「以前、古澤さんとこの本の話をしたそうですね」
P「したと言うほどじゃないが…」
文香「『ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ』でしたっけ?」
P「そうそう」
文香「崖から落ちそうになった子を捕まえる人になりたいんですよね」
P「あぁ」
文香「捨てる神あれば拾う神あり。の拾う神様と同じようなことですね」
P「まぁイメージはな」
文香「私にとってPさんは…そんな存在です」
P「どういうことだ?」
文香「自分でも…よく分かりません」
P「そうか…」
文香「はい」
文香「あ、お茶飲まれますか?」
P「いや…そろそろ戻るよ」
文香「そうですか…ありがとうございます」
P「あぁ」
文香「……」
P「…ん?」
文香「あ、いえ、なんでも…お、お仕事頑張って下さい」
P「おう」
文香「……ふぅ」
文香(臆病ですね…私は)
P「あ、文香」ヒョイ
文香「は、はい?」
P「今日はここに泊まるのか?」
文香「いえ…帰ろうかと」
P「そうか…」
P「仕事が終わったらちょっと覗かせて貰うな」
文香「は、はいっ!待ってます」
文香「…やった」グッ
数時間後
P「皆も送ったし、帰るか…」
P(流石に閉まってるし、帰ってるかな)
P「あー、やっぱり閉まってるよなぁ…」
P「一応連絡だけ入れてみるか…ん?」
文香『裏口は開けてあります。棚卸をしているので入って来てください』
P「あの後すぐにメールくれてたのか」
P「裏口だっけか」
P「…広辞苑でも盗むかな」
P「失礼しまーす」
P(あ、あの光の方か)
P「おー…」
文香「……」スゥ
P「寝てるか…」
P「まぁ、そうだよな。お疲れ様」
P(しかし、綺麗な髪だよなぁ。顔も整ってるし)
文香「…ひゅ?」パチ
P「あ…」
文香「…?」
P「おはよう?」
文香「え、あ、え?」
P「えっと、おやすみ?」
文香「え、あの、その…」ジワ
P「大丈夫。寝顔なんて見てないから」
文香「う、嘘です…」
P「まぁ、嘘だけど」
文香「な、何分くらい…見てましたか?」
P「えっと…五分くらい?」
文香「す、すぐに起こしてくれても良かったじゃないですか…!」
P「悪い悪い」
P(怒る文香も珍しいな)
文香「お仕事は…終わったんですか?」
P「あぁ、おかげ様で」
文香「それは良かったです」
文香「Pさんが帰られてから一瞬だけ睡魔に襲われまして…」
P「ちょっとのつもりが結構寝てしまったと」
文香「ち、違います…」
文香「ちょ、ちょっと目を瞑っていただけです」
P「はいはい」
P「しかし、本の数が多いな」
文香「まぁ…そういう仕事ですから」
P「確かにな」
P「でも、これって全部が全部ベストセラーなわけじゃないだろ?」
文香「…はい。陽の目を見ていない本もあると思います」
P「全部の本が有名になれる訳じゃないからなぁ」
文香「中には、初版当初は無名でしたが、徐々に有名になっていく本もありますけどね」
P「時代と一緒に花開いたのか」
文香「はい。おそらく、時代を先取りし、蕾のように輝く時を待っていたのでしょう」
P「詩的だな」
文香「…アイドルと似ていると思いませんか?」
P「アイドルと?」
文香「なんと言えばいいのか…良い言葉が見つかりませんが、全ての人が輝ける訳ではないと…」
P「どこの世界でもそうさ」
文香「言われてみれば…そうですね」
文香「私は…」
P「ん?」
文香「私は、時代と共に花開くことが出来るでしょうか?」
P「俺がしてみせる。なんて言えたらカッコいいんだけどなぁ」
文香「確証は…ありませんもんね」
P「努力はする。ただ、それには――」
文香「Pさんと一緒に私も…努力しなきゃいけないですね」
P「そういうことだ」
文香「…ふふ。少しだけPさんのことが分かった気がします」
P「少し変わったな」
文香「そう…でしょうか?」
P「あぁ、アイドルについて前向きになっている気がする」
文香「…かもしれません」
文香「つ、続きが見たいんです」
P「なんの?」
文香「私の物語のです」
文香「Pさんがひも解いてくれた私の物語」
文香「文字通り、筋書きもページ数も未定な物語です」
文香「今、一番読みたいのは…このお話です」
P「なるほどな。その作者は当然文香だよな?」
文香「はい…。筆を執るのは私です。Pさんには…あげません」クス
文香「でも…止まっていた筆が動き始めたのはPさんのおかげです」
文香「誰からも見向きされない物語は、ないと同じです」
文香「だけど…見てくれる人が出来ました。見たいと言ってくれてる人も…います。…多分」
文香「Pさんは私の物語の編集者です」
P「言いえて妙だな」
文香「そう、ですかね?」
文香「そう言えば…私達の事務所で王道を往くアイドルは誰でしょうか?」
P「その質問は流行ってるのか?」
文香「え?」
P「頼子とも似たような話をしたんだが」
文香「どうでしょうか…恐らく私と古澤さん位だと思いますけれども」
P「そうなのか?」
文香「…はい。恐らく」
文香「恐らく、渋谷さんか岡崎さんでしょうか」
P「まぁ、かもしれない」
文香「私にとって…あの二人は王道を往く方々だと思います」
文香「私は、それの対極にいるかもしれません…」
文香「あくまで…可能性の話ですけど」
P「踊りとか歌とか、イメージするアイドルの像ってことか?」
文香「…はい」
P「どんなアイドルの形でもいいと思うけどな」
文香「Pさんが…そう言って下さるなら問題ありませんけども」
文香「いずれにしろ、精進が必要…ですね」
文香「あ、あの…」
P「ん?」
文香「プロデュースのお話じゃないんですけど…」
P「うん」
文香「まだ、その…多くの人に見られるのは得意ではありません…」
文香「ですから…近くにいて欲しい…です」
P「分かった」
文香「…言葉が、軽いですね」ムッ
P「悪い悪い」
P「さて、そろそろ帰るか」
P「文香も帰るか?」
文香「そうですね…。まだ、電車があるので」
P「ちゃんと家まで帰れるか?」
文香「子供では、ありませんから」
P「ならいいけど」
文香「そういえば、編集のお仕事をご存じですか?」
P「イメージ位しかないな」
文香「編集さんは、作者が書いている物語が終わるまで…ずっと隣にいなきゃいけないんですよ」
文香「ずっと…」
文香「四六時中、隣にいて欲しいなんて我儘は言いません」
文香「ただ、Pさんが私を見てくれる時、私もまた貴方を見ています…から」
文香「忘れないで下さい…ね?」
終わりです。
見て下さった方ありがとうございました。
結構長くシリーズとして書いていますが、どちらかと言えば恐らく、私は月見草側ですね。
解説は後ほど書かせて頂きます。
>>38
まさにアヒルと鴨のコインロッカーです。
最近、めっきり寒くなってきましたね。
それでは解説です。
ヒマワリと月見草:この対比だけでピンと来る人もいらっしゃると思います。
ミスターこと長嶋茂雄選手と元祖ID野球こと野村克也選手のことを示しております。
この言葉は、プロ野球史上初の2500安打を達成した時に言われた言葉と言われております。
細かい話は各々で調べて下さると幸いです。
恐らくとても長くなってしまうので。ただ、野村選手の実績は素晴らしいものであるのは事実です。
富士には月見草がよく似合う:太宰治が『富嶽百景』にて使われた言葉です。
どのような解釈をするかは人それぞれだと思いますが、この一文に太宰氏の思いが込められていると思います。
『三七七八米の富士の山と、立派に相対峙(あひたいぢ)し、みぢんもゆるがず、なんと言ふのか、金剛力草とでも言ひたいくらゐ、
けなげにすつくと立つてゐたあの月見草は、よかつた。富士には、月見草がよく似合ふ。』
雄大な富士に対して相対峙し、繊細とも言える月見草を金剛力草と表現したことにどのような意味が込められているのか、考えてみると面白いですね。
何かあれば。
ちなみにコミケこそ落ちましたが、また機会があれば他のイベントにも出たいと思います。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません