春香「うぃうぃ」 (7)

「もう春香知らないもん!」

そう言って、春香は顔を背けた

だから私も言ってやった

「私ももう知らない!」

すると、春香は背けたばかりの顔を私に向け目を大きく開いた

「信じらんない…」

私は近くにあった包丁を手に取ると、刃を向けて構える

「え……ちょっと…」

後退りした春香に、私は包丁を投げつけた

……ガチャン!

包丁は春香の横を通り過ぎて、食器棚の包丁入れに突き刺さった

「千早…ちゃ」

春香の目はおろおろさせながら口元に手を当てる
私が包丁を投げたことが、とても信じられないというような反応だった

……

しばらくその場に立っていた春香は、はっと鋭い顔つきになると走り去っていった


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「外したわね……」


私はそう呟きながら食器棚まで歩く
刺さっていた包丁を再び握ると、


「…逃がさないわ」


何かの力がみなぎってきた
苛立ち、怒り、恐らくそんなものだろう
私は春香が走り去って行った方向へ駆け出す

ものの数十秒ということもあって、外に出ると遠くに春香の姿が見えた。
足をモタつかせながら、それでも懸命に走っている。

……哀れね、春香
道端で走るなんてみっともないわよ
そのみっともない行為を今すぐ止めてあげる

私は包丁を握る手に力を込め、全速力で走り出した。

春香の姿はどんどん近くなってきて、私との距離は数メートルにまで近くなる

「遅いのね、春香!」

私が呼びかけると、春香はびっくりした顔でこっちを振り返った

「やめて!千早ちゃん!…やめてぇ!」

懸命に走る春香の動きがより一層大きくなる
……必[ピーーー]、私は内心そう呟いた

でも、逃がさないわよ

「自分の足が遅いのを恨むのね」

私は春香の腕を掴むと、引っ張りながらよろめいた春香の足元を引っ掛けた

春香はその場にうつ伏せになって倒れた

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