テレッテ「じゃあまずはペルソナのナ! からどぞー」
ゆかり「え、アタシ? な……ナタタイシ!」
キタロー(しょっぱなから渋いチョイスだ)
真田「む。俺か……し、し……おっ! シャドウ! ほら、キタロー、お前だ」
キタロー(……『ウ』、から始まるペルソナ……濁点ありなのか……?)
キタロー「……ヴィヌシュ」
テレッテ「おっ、そういえば濁点有りにすっかー」
キタロー(セーフ。しかし『ウ』は厄介だな……あんまり覚えてない)
美鶴(私の番だな……)
美鶴「順平。この場合、シとユどっちになるんだ?」
テレッテ「んー、じゃあユで」
美鶴(ゆ……ゆ……? あ、いるじゃないか)
ゆかり「?」
美鶴「ゆかり」
ゆかり「わ、私!? あ、しりとりですか……なるほど」
美鶴(ゲームとはいえ名前で呼ぶのは恥ずかしいな)
ゆかり(びっくりした……いつも『岳羽』って呼ばれてるからなぁ……)
美鶴「り、から始まる言葉だ。アイギス」
アイギス「……はい」
アイギス(困りました……インプットされているデータベースを使えばかなりの確率で私の勝利は明らかなはず)
アイギス「り……」
アイギス(しかし、この『しりとり』の目標はみんなで楽しむこと。かといって手を抜くのも不実だし……)
キタロー(困ってるようだ)
キタロー「……好きなようにやればいい」
アイギス「え? じゃ、じゃあ……」
キュイイン
アイギス(データベースのランダム採取による情報の再構成。人間の脳と同程度の記憶領域を作成。……これで一時的に人間の脳を模した振る舞いが可能になったはずであります)
アイギス「理事長、であります」
風花「えーっと……また、『う』なんだよね」
ゆかり「あ、ほんとだ」
風花「ウ……ウ……ウリエル!」
テレッテ「お、俺の番か……『ル』!?」
テレッテ(ルのつくペルソナなんていたっけか!? る……ル!)
テレッテ「ル……ルルルー」
真田「おい早くしろ」
テレッテ「まぁ、まぁ待ってくださいよ先輩」
テレッテ(あれ? マジで『ル』がつく奴なんて……)
テレッテ「る…ルャナンシー」
真田「なんだって?」
テレッテ「はい! 次! ゆかりっち! イからどぞー!」
ゆかり「そんなペルソナいませーん、はい順平の負け―」
テレッテ「ちょ、待ってよマジでいないんだって! 呪文もキャラも! ……いや、でも待って」
風花「?」
テレッテ「ル……なんていったけ、確か……ルキア!」
風花「あ、私のペルソナ!」
真田「ほう」
ゆかり「しぶといなぁ」
キタロー(グッジョブだ、順平)
ゆかり「じゃあ次私ね。『ア』なんていっぱいいるからね……アナンタ!」
真田「……俺の番か。『タ』……アルカナもありか?」
テレッテ「んー、まぁいいんじゃないっすかね」
真田「太陽」
キタロー「!?」
キタロー(な……また『ウ』だと!?)
真田「どうしたキタロー」
キタロー「……別に」
真田(ふふ……どうだ! 俺のテクニカルな戦法は! しりとりをただのゲームだと、何も考えずにプレイするのは容易いことだ。だが、そこで大人げなく勝ちにこだわれるかが鍵なのだ!)
キタロー(くっ……いやまだある。多分)
キタロー「……ヴェータラ」
キタロー(どうだ!?)
真田「……ふっ」
美鶴「ラミア」
テレッテ「はえっ! 即答!?」
美鶴「たまたまだ」
美鶴(そして次はおそらく……)
アイギス「『ア』……ですか、じゃあ私の名前、アイギスで」
風花「あっ! アイちゃんずるい!」
ゆかり「あははっ、これは一本取られたねー」
キタロー(風花、いつのまにアイギスをちゃん付けで呼ぶように……?)
風花「じゃあ『ス』ね……ス……ス……スルト!」
テレッテ「お、今だ! トリスメギストス!」
美鶴「ほう、ブリリアントだな」
テレッテ「いやぁ、どうもどうも……チドリ、お前のおかげだ! ……ううっ」
ゆかり「あのぉ……非常にしんみりしてやりづらいんですけど」
風花「と、とりあえず続けよ?」
ゆかり「んー、じゃあ……あれ? また『ス』なの?」
真田「……」
美鶴「……」
キタロー(先輩たちの顔つきに微妙な変化が生じた。どうやら何かに気付いたようだが、一体なんだ……?)
ゆかり「じゃあ……ストレガ!」
テレッテ「うおー! タカヤのせいでチドリは!」
ゆかり「だからやりづらいってーの!」
真田「ふっ……」
キタロー(なんだ? あの余裕の笑みは……!?)
真田「おい、もちろん地名なんかもアリなんだよな」
テレッテ「まぁいいっすけど」
真田「じゃあ、今俺たちが住んでいる……『学生寮』」
キタロー「!?」
真田「ふっ」
キタロー(くっ……! また、『ウ』か……得意とする濁点のヴィヌシュ、ヴェータラは言ってしまった……! そしてウリエルは風花によって既出。しかし……あのアルカナがある!)
キタロー「運命!」
真田「! ほう……やるな」
キタロー「……どうってことない」
美鶴「ふむ。『イ』か……」
美鶴(ペルソナの名前には母音が『ウ』で終わるものが多い。ウリエル、アタバク、ガブリエル、など……)
美鶴「……イシス」
美鶴(その中でも特に『ス』と『ル』で終わるものはとりわけ多い。アークエンジェル、アティス、アプサラス、アレス、サキュバス、サマエル……)
アイギス「『ス』でありますか……ふーむ」
美鶴(つまり、それらの文字で終わるペルソナや呪文を意識的に選択していけば勝率は跳ね上がる!)
アイギス「……スマートフルーレ、であります」
アイギス(どうでありますか? 桐条先輩!)
美鶴「……ほう」
美鶴(さすがにアイギスは鋭いな。もう私が『気づいたこと』に『気付いて』いる。私の装備武器で答えるとは……)
風花「『レ』……? あ! レイピア!」
美鶴(風花、お前もか!)
テレッテ「『ア』か……なんかやたら『ア』で終わる言葉多くね?」
キタロー(いや……たまたまだ。桐条先輩が即答した『ラミア』や風花の『ルキア』が出たため錯覚しているだけで、実際は……そういえば、待てよ。確かに桐条先輩は即答していた、『ラミア』と)
テレッテ「アラミタマッ! どうよ、しぶくね?」
ゆかり「はいはい。じゃあ私の番ね……『マ』か……」
キタロー(そして桐条先輩の次に、アイギスはなんと言った? 確か自分の名前を答えたはずだ……アイギス、アイギ……『ス』……?)
ゆかり「ペルソナッ、『マハガルーラ』! なんちゃって」
真田「ほう」
美鶴(なるほど……マから始まる言葉で詰むことはない、と)
真田「さて、『ラ』か……」
ゆかり「……」
キタロー(くる……! また『ウ』が……!)
真田「ライトニ……」
キタロー(まさかライトニングボウ!? 自身のもの以外の弓系武器まで覚えていたっていうのか!? くっ……!)
ゆかり「やっぱり待って!」
真田「む?」
ゆかり「マハ系は多いからさ、無しにしません?」
テレッテ「あー、確かに! 『マハガル』『マハガルーラ』とか、俺のアギ系もだし、他のスキルにも使えちゃうからなぁ……悪ぃけどゆかりっち、もっかい考えて!」
真田「……ふっ、いいだろう」
真田(救われたな、キタロー。だがしかし次はそうはいかん)
ゆかり「じゃあ、マザーハ―ロットで」
真田「『ト』か……ふん、じゃあ『トート』」
テレッテ「あ、ずりぃ!」
真田「ずるくないだろう。そういうペルソナがいるんだから」
美鶴(まったく……明彦のやつめ、勝負事となると大人げないのは相変わらずか)
キタロー(ひとまずセーフといったところか)
キタロー「じゃあ、トールで」
テレッテ「じゃあ、俺はグランデ」
キタロー「コーヒーじゃない……」
美鶴「私か。『ル』……」
美鶴(やはり、『ル』で来られるとまずいな。……しょうがない)
美鶴「ルナ・エッジ」
アイギス「……! 桐条先輩、ブリリアントであります」
美鶴「ふっ、おだてても何も出ないぞ」
テレッテ「先輩! ブリ……ブリブリっす!」
美鶴「なんだそれは」
アイギス「私の番。『ジ』か『シ』ですね」
アイギス(一応、私の武器でも答えられはするけど……)
アイギス「ジオ! であります」
風花「『オ』だね……」
風花(『オ』から始まるペルソナ……オベロン! いや、だめだよね……オーディン! も違くて……あ、それよりは……)
風花「サポートスキルもありですか?」
テレッテ「おっけーおっけー! ばっちこーい!」
風花「じゃあ、オラクルで」
キタロー(なるほど……これは風花以外はあまり思いつかないな。他人の使える語彙を削らないように配慮したのかも知れないが、もしそうだったら風花らしいというか……)
テレッテ「『ル』!? やっべー……」
テレッテ(これ以上『ル』なんてあるのかよ!?)
真田(これは……思ったより早く終わるかもな)
アイギス(誠に残念でありますが、『ル』から始まるペルソナも、呪文も、装備も……。いや、装備でありますか……?)
テレッテ「いやなんつったっけなー……コロマルの……ほら、あれだよ……」
コロマル「わんっ!」
テレッテ「ルナドックスーツ!」
真田「!」
風花「わ、すごい順平君! コロちゃんの装備ちゃんと覚えてたんだ!」
テレッテ「いや、なんつーかカッコいい名前だったからさ……へへ」
キタロー(確かに、言われてみれば……)
ゆかり「ファインプレーだね、順平のくせにやるじゃん! じゃあ、『ツ』から始まる言葉は……あ! ツカレトレール! よく疲労のときお世話になったなぁ……」
真田「なんだと……!?」
風花(そろそろ『ル』って……)
キタロー(ゆかりの今のは……偶然……?)
真田「くっ……!」
テレッテ「あれれー? どうしたんすか真田先輩、まさかもう出ないとか?」
真田「黙れ……! ル……ル……くっ……」
美鶴(終わりかな……)
真田「ル……、ル……!」
美鶴「おい、明彦。多分もう『ル』は……」
真田「待て美鶴! まだきっとあるはずだ!」
アイギス(ここまで勝負ごとに熱意をかけられるというのも、ある種才能なのかも知れないであります)
風花「真田先輩、ファイト!」
真田「ふっ……」
キタロー(なっ、この期に及んでなんだあの余裕の笑みは!? まさか、見つけたのか、『ル』から始まる言葉を……!)
真田「行くぞ……!」
キタロー「……!」
真田「ルャナンシー!」
ゆかり「真田先輩、あうとー」
キタロー「ですよね」
~end~
キタロー「ゆかり」
ゆかり「ん? なに?」
キタロー「……助かった」
ゆかり「ふふ、なんのことかな。私、君にお礼言われるようなことしたっけ」
テレッテ「じゃあ、先輩! いつも通り、はがくれのラーメンで良いっすよ!」
真田「はぁ?」
テレッテ「あれ、言ってませんでしたっけ。負けた人が皆に飯を奢るって」
真田「おい、聞いてないぞ!」
美鶴「ふっ、まぁいいじゃないか明彦。たまには先輩らしく奢ってやれ。私もあそこのラーメンとやらは食べたことがあるのだが、なかなか美味だった。期待してるぞ」
真田「美鶴まで……」
風花「わぁ、楽しみだね、アイちゃん!」
アイギス「はい。お腹が空いたのであります」
真田「お前ら……。はぁ、まったく」
コロマル「わんっ!」
真田「……分かったよ、お前には高級なドッグフードだ」
コロマル「わんわんっ!」
風花「よかったねーコロちゃん」
アイギス「非常に喜んでいるであります」
真田「ったく……ほら行くぞ」
テレッテ「ひゃっふーう! 飯だ飯―! あれ? あの二人は?」
真田「おーい、キタロー! 岳羽! 早くしないとおいてくぞ」
ゆかり「はーい! ……ね、じゃあお礼に目つぶって」
キタロー「な……! わ、わかった……」
ギュッ
キタロー(このシチュエーションは……キス……!)
ゆかり「良いって言うまで目、あけちゃだめだよ……?」
コクン
キタロー「……」
キタロー「……」
キタロー「……」
キタロー「……?」
ゆかり「あはは、ひっかかった! 早くしないとおいてくよー!」
テレッテ「おーいキタロー! 早く行こうぜー!」
キタロー「……まったく」
こうして、穏やかなひと時は続いていく。
決して永劫じゃなくても。
何気ない日常のひと時でも。
いつか来る終わりの日まで――。
天田「べ、別に寂しくなんかないですから」
天田「ほ、本当です……嘘じゃないですって」
天田「……」
天田「ああもう! 寂しかったに決まってるじゃないですか! 全く……次からは呼んでくださいよ?」
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