シンジ「ところてんってさ…」(174)
カオル「どうしたんだい、シンジくん。元気少ないね」
シンジ「…怖いんだ」
シンジ「ミサトさんも、アスカも、綾波も、父さんも、怖いんだよ!」
カオル「…見えない他人の真意に怯えて辛いんだね」
シンジ「ねぇ…カオルくん、僕は、僕はどうしたらいいの…?」
カオル「これを使いなよ」ぷるんっ
シンジ「これは…?」
カオル「ところてんさ」ぷるん
シンジ「カオルくん…キミが、キミが何を言ってるのか分からないよ?カオルくん!」
カオル「ところてんもピアノの連弾と同じさ」プルん
シンジ「ちがうよ!」
カオル「シンジくん…君は、ところてんに何を思うの?」
シンジ「別に…」
カオル「ところてんのこと、分かろうとしたのかい」
シンジ「分かろうとした」
カオル「本当に?」
シンジ「ウソだよ!なんで鬱シーンなんか再現させるんだよ!なんなんだよ!僕を幸せにするんじゃなかったの!?」
カオル「君が思うところてん、僕が思うところてん、零号機パイロットや弐号機パイロットが思うところてん、みんな同じところてんだ。でも全てちがう」
カオル「ところてんの形はところてん自身が作っている、でも他者がところてんを形作っているのも事実なんだ」
シンジ「そうか…そうだよ、ところてんはどこまで行ってもところてんじゃないか、誰かがいなければずっとところてんのままじゃないか」
シンジ「誰かの好物にもならない、嫌われもしない、お鍋の具にもならない、食べ物としてすら認知されない…」
カオル「分かったかい、シンジくん。ところてんは人を映す鏡だ、人の心を感じられるんだよ」
シンジ「うん…ありがとう、カオルくん。ところてんになら出来るよ」
カオル「君となら…だよ」ぷるぷる
シンジ「うん…いこう、ところてん」
シンジ「…」ぷるぷる
シンジ「結局もらって来ちゃったけど」
シンジ「これからどうしよう、何から始めればいいんだろう」
シンジ「カオルくんが僕がやったように…僕にも出来るかな?」
アスカ「あ、いたいた!バカシンジ!」
シンジ「あ、アスカ…」
アスカ「なによ、いつも以上に呆け面しちゃってさ」
シンジ「アスカ…」ぷるん
アスカ「なっ…なによそれ、気持ち悪い」
シンジ「ところてんってさ…」
アスカ「ハァ?」
シンジ「ところてんって…」
アスカ「…」
シンジ「アスカはところてんに何を思うの?」
アスカ「だから気持ち悪いって言ってるでしょ!!」
シンジ「アスカはところてんに何を願うの?」
シンジ「何を望むの?」
アスカ「いいからあっち行けー!!バカシンジ!」ぶんぶん
シンジ「」スタコラサッサ
シンジ「フゥ…危なかった、カバン振り回すのはやめて欲しいよ…」
シンジ (アスカは気持ち悪いと答えた、結局それって僕のことが嫌いって事なのかな?)
シンジ (僕がところてんを持ち出して唐突に問いかけても、辛抱強く答えてくれる人もいるはずだ…)
シンジ (なのに…アスカは、アスカは…)ギュッ
シンジ「」トボトボ
シンジ「ただいま~…」ガチャ
ミサト「あ~らシンちゃん、お帰りなさい。珍しく遅かったわね」
シンジ「うん…ちょっと。すみません、ミサトさん、今ご飯作りますね」
ミサト「いつもいつもすまないわねぇ~、ところでアスカは一緒じゃなかったの?」
シンジ(ところで…?ところてん…!?今だッ!)
ミサト「ん~?どったの~シンジくん」
シンジ「ミサトさん」プルン
ミサト「!!」ガタッ
ミサト「なっ…どうしたの、シンちゃん。なにそれ…」
シンジ「…ミサトさんは、ところてんに何を思うの?」
ミサト(あちゃ~、反抗期特有の厨二病始まったか…保護者失格ね)
シンジ「」ぷるん
ミサト(ところてん…不定形に無色透明…)
ミサト(であるように見せかけて実はほのかに色合いが違う…白色っぽかったり、灰色っぽかったり…)
ミサト(角度によっては光ってるようにも見えるわね)
ミサト「!」
ミサト(光の巨人…)
ミサト(南極でのあの日…父が私を逃がしてくれた後、海の上で脱出ポッドのハッチが開いた時に見た光…)
ミサト(まるで透明な光そのもののような…巨大な羽)
ミサト(不定形だからこそ感じる、得体の知れない威圧感…)
ミサト「」ブルッ
ミサト「…ところてんは嫌ね、嫌なことばかり思い出す」
シンジ「」ぷるん
ミサト「シンジくん…もういいわ、それをしまって」
シンジ「ミサトさんは、ところてんに何を願うの?」
ミサト「いいからしまって!!」
シンジ「」ビクッ
ミサト「ごめんなさい…シンジくん」
シンジ「ミサトさん…」
ミサト「今日はもういいわ…ご飯はアスカと一緒に食べなさい」
シンジ「でもっ…」
ミサト「…」スタスタ
バタン
シンジ(部屋に戻っちゃった…)
シンジ「ミサトさん…」
キーンコーンカーンコーン
シンジ(結局昨日はアスカも部屋に閉じこもっちゃった…)
シンジ(一人じゃ料理作る気にもならないし、僕も夕食は食べなかったけど)
シンジ(今朝は全員お腹空いてるはずなのに無言でさっさと朝食終えちゃったしな…)
シンジ(やっぱり僕は皆から嫌われてるんだ)グス
シンジ「一応学校にも持ってきたけど、また人の心を直視するのは辛いよ…」
トウジ「お!なんやセンセー!」
ケンスケ「あれあれ~?碇、そのイヤ~ンな感じの物体は?」
シンジ「えっ…」プルン
シンジ「ところてん…だけど」
トウジ「センセもそーいうスケベなオモチャに手ぇ出す時が来たんかいのー!?」
ケンスケ「淡白そうな顔しちゃってー!このこの~」
シンジ「えっ…なんだよ…やめてよ」
シンジ(二人にとってところてんはスケベなものなのかな…?)
ヒカリ「ちょっと止めなさいよ!二人とも!」
トウジ「おっ!イインチョ!なんやお前も興味あんのか?」
ケンスケ「え~っ、委員長ってそういう事に意外と耳年増だったりするの?」
ヒカリ「なっ…なっ…ちがうわよ!!」
トウジ「顔真っ赤にして言っても説得力ないで~」ベロベロバー
シンジ(委員長にとってもところてんはスケベなものなのか…?)
ギャーギャーワーワー
シンジ(トウジやケンスケは自分からところてんに関わって来てくれた…)
シンジ(委員長も間接的ではあるけどところてんの話題に触れたんだ…)
シンジ(でも…でも、ただ下ネタとして盛り上がっただけだ。意味は分からなかったけど、あれは都合のいい話のネタに群がるただの野次馬根性だ)
シンジ(やっぱり僕は…僕は…)グスン
レイ「碇君」
シンジ「…!綾波」
レイ「碇君、泣いてるの?」
シンジ「はは…ちがうよ、ちょっと…バカらしくなっちゃってさ」
レイ「ごめんなさい…こんな時、どんな顔すればいいのか分からない」
シンジ「綾波は、ところてんに何を思うの?」
レイ「」
レイ「…なに?」
シンジ「綾波は、ところてんに何を願うの?」
シンジ「何を望むの?」
レイ「」
レイ「分からない…考えた事もないわ」
シンジ「…僕のこと考えた事ないんだ…」
レイ「えっ」
レイ「碇君…ちがうわ」オロオロ
シンジ「いいんだ、もう僕なんか…カオルくん、僕は真実を知ったよ」
レイ「碇君、大丈夫?」
シンジ「ところてんで人の心を映したって無駄だったよ、僕は僕じゃないか、どこまで行っても僕じゃないか」
シンジ「ところてんは誤魔化してくれない…ところてんは入り組んだ人の心を常に真実へと導く」
レイ(碇君のatフィールドがとても強く展開されているわ)
レイ(絶対不可視の心の壁…)
レイ(碇君は一人じゃないわ、私がいるもの)
レイ「あの…碇君」
シンジ「なに?」
レイ「あの…ところてんって、私の部屋に合うかもしれないわ」
シンジ「?」
レイ「私の部屋…何もないの、閑散としていて…」
レイ「でもそんな部屋でも、ところてんなら合うと思うの、部屋を彩るインテリアになるのよ」
シンジ(綾波ッ…!)
シンジ「僕は…僕は綾波の部屋にいてもいいんだ!」
レイ「え…ええ、別にいいわ」
シンジ「綾波…ありがとう、僕、なんだか生きていける気がするよ」
レイ「ええ…そうね、碇君。元気になって良かったわ」
シンジ「そうと決まれば引っ越さなくちゃ!」
レイ「え」
レイ「碇君…本気なの?」
シンジ「綾波はウソだったの?」
レイ(ぐっ…ここで碇君を傷つける事は出来ないわ)
レイ「いえ…ウソじゃないわ」
シンジ「ありがとう、綾波」
レイ(碇君…ダメなのね、もう)
シンジ「」スタスタ
レイ「」テクテク
シンジ「綾波、綾波はところてんをどこに飾るの?」
レイ「そうね…窓際なんてどうかしら」
シンジ「そっか、でも窓際だと日光でぬるくなっちゃうかもしれないね、ところてん」
レイ「そうね」
シンジ「そこの百均で水槽を買って行こう」
ウィーン らっしゃいませー
シンジ(よかった、これで僕は居場所を見つけられた)
シンジ(ところてんに見立てた僕、それを受け入れてくれた綾波、僕は彼女の部屋に居場所を見つけたんだ)
シンジ(綾波は僕のことキライじゃないんだ…なんだか嬉しいな)
シンジ「」ぽかぽか
レイ「水槽、こっちよ」
シンジ「ああ、うん」ぽかぽか
マリ「おっ、なぁ~にやってるのかにゃ?」
シンジ「あっ…マリか」
マリ「なにそのもう用済みなキャラを見つけたような目は」
シンジ「僕、もう自分の居場所を見つけたんだ、認めてくれる人がいたんだ」
携帯「」prrr
レイ「もしもし?」ピッ
シンジ「綾波と一緒に水槽を買いに来たんだ」
マリ「水槽?金魚鉢くらいしか売ってないよ、百均だよ?」
レイ「はい…分かりました」ピッ
レイ「碇君」
シンジ「どうしたの綾波」
レイ「赤木博士に呼ばれたわ…悪いのだけれど、ところてんはまた今度にしましょう」
シンジ「えっ…そんな、綾波、僕よりリツコさんを選ぶの?」
レイ「ところてんよりは赤木博士を選ぶわ」
シンジ「同じ事だよ…裏切ったな、僕とところてんを裏切ったんだ」
マリ(ところてん流行ってんの?)
マリ「ちょっとちょっと、ワンコくん私でいいなら付き合うよ」
レイ「ごめんなさい…私の代わりに彼を」
マリ「はいはい~、じゃワンコくん、何して遊ぼうか」
シンジ「真希波はところてんに何を思うの?」
マリ「」
マリ(えっ…なに、そういう遊び?)
シンジ「」ゴソゴソ
シンジ「」ぷるん
マリ(うわ、通学カバンからところてん出したよ、きしょっ)
シンジ「…」
マリ(そして仔犬のような目で私を見てるよ!)ハアハア
マリ「う~ん…なんか、何を思うって言われても、触ってみないと分かんない、かな?」
シンジ「どうぞ」ぷるっ
マリ「う~ん…」コネコネ
マリ「う~ん…」グリグリ
マリ(ところてんって味とかするのかな…)ぺろっ
マリ(噛んでみたりとか…)ハグハグ
シンジ(真希波…何もコメントせずにずっといじくり回してる…)
シンジ(つまり真希波にとって僕とはそういう存在なんだ…」
シンジ(言葉を交わす間柄じゃなくて、もっとこうなんか感覚的な…)
シンジ(もっと言えば肉体的な…)
シンジ(はっ)
シンジ(////)
シンジ「真希波、真希波の部屋にインテリアとしてところてんはどうかな?」
マリ「いらない」
シンジ「」
シンジ「なんだよ!じゃあもういいよ!」バシッ
マリ「あっ」
シンジ「」たたた…
マリ「…ところてん奪って逃げてっちゃった…」
マリ(ところてん…ところてん?もしかしたらそういう意味で…////)
マリ「惜しい事した」チッ
ウゥゥー…ピピピ
リツコ「お疲れ様、今回のシンクロテストは終了よ。上がっていいわ」
リツコ「あっ、シンジ君は後で私のところに来てね」
ーーーーー
シンジ「…失礼します」プシュ
リツコ「待ってたわ、コーヒーでも飲む?」
シンジ「あんみつ無いですか?」
リツコ「え?…無いわね、ごめんなさい」
リツコ「さっそくで悪いけど、あなたのここ最近のシンクロテストの成績が芳しくないわ」
リツコ「シンクロ率は深層心理に左右される、あなたに何か心当たりはない?」
シンジ「あり…ますん」
リツコ「どっち?」
シンジ「あります…笑わないで聞いてくれますか?」
リツコ「ゴクッ……ええ、いいわ」
シンジ「リツコさんは、ところてんに何を思いますか?」
リツコ「ところてん?ところてんは全体の98-99%が水分で、残りの成分のほとんどはガラクタンと呼ばれる多糖類よ」
リツコ「ゲル状の物体だけど、ゼリーなんかとは異なっていて表面はやや堅く感じられるわね」
リツコ「あと独特の食感があるわ、腸内で消化されないから栄養価はほとんどないけど、食物繊維として整腸効果があるわね」
リツコ「ところてんと言ったらこんなところかしら?(『ところ』だけに、ぷぷっ)
シンジ「…」
リツコ「…シンジ君?」
シンジ(リツコさんは、僕を物を扱うような目で見てるってことか…)ギリッ
リツコ(すべったかしら)
シンジ「…もういいです、僕のシンクロ率はもう、上がりそうにありません」
リツコ「えっ、待ってシンジ君」
シンジ「」ダダッ、プシュッ
リツコ「…」
リツコ「あんみつ、用意しておくべきかしら」
シンジ「」ダッダッダッ…
シンジ「ハァハァ」
シンジ(なんだよ…なんなんだよもうッ…!)
シンジ「みんな僕の事をまともに取り合ってくれないよ…僕はエヴァなしじゃいらない人間なのかよ…!」
シンジ「…アレ、迷ったな」
シンジ(リツコさんの所から走って外に出て来たけど…ここはジオフロント内の庭か何かな?)
シンジ「やけに緑が多いな…それに道も舗装されてない…」
シンジ(土のニオイ…)
加持「シンジくん」
シンジ「!」
加持「こんなところで何してる?」
シンジ「加持さん…」
シンジ(…これが最後の賭けだ、僕がいらない人間なのか、どうなのか)
シンジ「加持さん…」
加持「ん?」
シンジ「」ゴソゴソ
シンジ「?」ゴソゴソ
加持「?」
シンジ(ない…なくした!?)
加持「どうしたんだ?何かなくしたのか?」
シンジ(きっとリツコさんのところから走って来る時に落としたんだ…)
シンジ(もう…何もなくなってしまった…ところてんと呼べるものは何も)
シンジ「いえ…別に」
加持「そうか、ならいい」
シンジ「加持さんこそ、こんなところで何してるんですか?」
加持「俺か?俺はここでスイカを育ててる」
シンジ「ところてんじゃないんですか?」
加持「おいおい…ところてんは海に生える天草という海藻の一種から作られるんだぞ」
加持「日本海洋生態系保存研究機構ならともかく…ホラ、前シンジ君やキミのクラスメイトの子たちを連れてった、あそこさ」
シンジ「…スイカなんか育てて、楽しいんですか。ところてんならともかく」
加持「何かを育てる、何かを作るっていうのはいいぞ、色んな事が見えてくるし、色んな事が分かってくる」
シンジ「…イヤな事もでしょ」
加持「…イヤな事は嫌いかい」
シンジ「好きじゃないです」
加持「楽しいこと、見つけたかい」
シンジ「…」
シンジ「加持さん」
加持「なんだ?」
シンジ「加持さんは、ところてんに何を思うの?」
加持「ところてんかぁ、懐かしいな」
シンジ「懐かしいって?」
加持「いや、俺たちセカンドインパクト世代は、当時年がら年中物資に困っていてね」
加持「食べるもの、着るもの、薬、果ては寝るところまで…ないものを挙げたらキリがなかったさ」
加持「そこで役に立ったのがところてんさ」
シンジ「え…」
加持「最初は食糧として配給された物資の中にあったんだがな、なにせところてんだろ、味もしなきゃ腹も満たされない」
加持「それでも食うことは食ってたんだが、ある時俺の弟が熱を出してね」
シンジ「加持さん…弟がいたんですか」
加持「ああ」
加持「薬もそう簡単には手に入らない時代だ、放っておくことも出来ないし、俺はところてんを水につけて冷やして、弟の額にのせてやっていたよ」
加持「足を捻挫した時もところてんで冷やしたな」
加持「少し余裕が出てくると、今度は夜のお供にだな」ニヤッ
シンジ「…すごいですね、加持さん」
シンジ「僕はところてんのこと、何にも分かっちゃいなかった」
加持「なに、それはキミが『ところてんとはこういうものだ』と思い込んでいるからさ」
加持「ところてんは無限なんだよ、それは君にも言えることだ」
シンジ「加持さん…」
加持「ところてんを使って、誰かと分かり合いたいのかい」
シンジ「!」
加持「ところてんを使って誰かを理解しようなんて、普通、思いつくものじゃない」
加持「それは君になら出来る…いや君にしか出来ない事なんだ」
シンジ「加持さん…でも僕、なくしちゃったんです。ところてんはもう、使えないんです」
加持「これかい?」ぷるっ
シンジ「!」
シンジ「加持さん…!なんでそれを!」
加持「ところてんは男の嗜みだろう?」ぷるぷる
加持「シンジ君…俺はここでスイカに水を撒くことしか出来ない」
加持「忘れるな、ところてんにどんな役割を負わせるかはキミ次第だ、自分の進む道は自分で決めろ」
加持「」スッ
シンジ「」ぽちゃ
シンジ「加持さん…ありがとうございます!」ぷるぷる
シンジ(僕は…僕は知らず知らずの内に逃げていたのかもしれない)
シンジ(僕が分かり合いたかった人…)
シンジ(僕が怖いと思っていた人…!)
シンジ「父さん…!」
シンジ「」スタスタスタ
冬月「ムッ、あれは…」
冬月「第三の少年」
シンジ「」ピクッ
シンジ「なんですか?」キリッ
冬月「時に、少年、蕎麦は打てるか」
シンジ(うてねぇ)
冬月「まず粉を混ぜるぞ」
シンジ「」グッグッ
冬月「一度目の加水だ、素早く混ぜたまえ」
シンジ「」シャッシャッ
冬月「ここらは徐々に水を足していくぞ」
シンジ「」チョロチョロ
冬月「粉っぽさがなくなってダマになってきたな」
シンジ「」コロコロ
冬月「散らばったダマを集めてよーく練りたまえ」
シンジ「」グンッグンッ
冬月「さてここから延ばしていくぞ」
シンジ「」ハァハァ
シンジ(何やってるんだろう、俺って…)
冬月「延し板と生地に打ち粉を振って、回転させながら押し延ばしてくれ」
シンジ「」シャッシャッ
シンジ「」グリンギュッ グリンギュッ
冬月「あとは麺棒で延ばして、包丁で切れる位の大きさに生地を畳んでくれ」
シンジ「…」
シンジ「ハァハァ…で、出来ました…」
冬月「ご苦労、切るのは素人には難しいだろうからな、私がやろう」
シンジ(全部やれよ)ハァハァ
冬月「」トントントントン
シンジ「うわぁ、軽やかな手付きですね。それに、なんだか凄くいい香りがするや」
冬月「こんなものか」サァッ
シンジ「これを茹でて食べるんですね!」ワクワク
冬月「いや、包む」サッサッ
シンジ「え…」
冬月「敵を前にして、戦いへの仕込みも必要だろうて」ニヤリ
冬月「」スッ
シンジ「副司令…!」
冬月「碇は蕎麦が好きだ」
冬月「幸運を祈る」
シンジ「…ありがとうございます」ぺこり
シンジ(蕎麦とところてん…鬼に金棒じゃないか!!)
シンジ「」スタスタ
シンジ「ここか…司令室」
シンジ「あれ?扉の横にパネルが…パスコード?」
シンジ「そんな…父さんの部屋のパスコードなんて…知るわけないよ」
シンジ「…」
シンジ(s・o・b・a)ピピピッ
ゥイーン…ガシュッ
シンジ(アホか)
ゲンドウ「…!シンジか」
シンジ「父さん…」
シンジ(入り口から父さんの机まで何メートルもあるや、広い…まるで僕と父さんの心の距離みたいだ」
ゲンドウ「…そんなところで何を突っ立っている、用がなければ」
シンジ「あるよ!!」
ゲンドウ「!」
シンジ「今日…今日は僕…父さんに用があって来たんだ」
シンジ「ところてんを持って来たんだ!」
ゲンドウ「帰れ!!」
シンジ「」ビク
ゲンドウ「帰れ…」
シンジ「なんだよ…なんでなんだよ父さん!!」
ゲンドウ「帰れ!!」
シンジ「蕎麦もあるよ!」
ゲンドウ「くそっ」
シンジ(やった)
ゲンドウ「…」
シンジ「そっちに…行っても良いかな、父さん」
ゲンドウ「ああ」ゴソゴソ
シンジ(机の下をあさり出したぞ…)
ゲンドウ「」ゴトン ガシャン
シンジ(鍋!そしてガスコンロ!)
ゲンドウ「」ドンッ
シンジ(ネルフブランド『ジオ湖の天然水』!!)
ゲンドウ「鍋に水を入れて茹でろ、でなければ帰れ」
シンジ「わかった…やるよ」
シンジ「」サッサッ
シンジ「」チラッ
シンジ「」ソ~
ゲンドウ「ところてんは入れるな」
シンジ「」
シンジ「どうして…父さん、僕の事がキライなの?」
ゲンドウ「…」
シンジ「父さん…父さんは、ところてんに何を思うの?」
ゲンドウ「…ユイが好きだった…」
シンジ「え?」
ゲンドウ「ユイはところてんが好きだった」
ゲンドウ「鍋をやる度によく食わされたものだ」
ゲンドウ「私は嫌いだったが」
シンジ「父さん…」
鍋「」グツグツ
シンジ「父さん…鍋茹だってきたよ」
シンジ「…」
ゲンドウ「…」
ゲンドウ「好きにしろ」
シンジ「…ありがとう、父さん」
シンジ「」ボチャボチャ
鍋「」グツグツフシューッ
シンジ「父さん、今日はところてん蕎麦だね」
ゲンドウ「ああ」
シンジ「父さんと母さんの好きなものが一緒に入ってるね」
ゲンドウ「…ああ」
ゲンドウ「シンジ」
シンジ「なに、父さん」
ゲンドウ「食べ頃はいつだ、私はユイに作らせてばかりだった…頃合いが分からん」
シンジ「もう…いいんじゃないかな」
ゲンドウ「取り皿はない、箸だけだ」スッ
シンジ「うん」
ゲンドウ「」ハフハフ
シンジ「」ハフハフ
ゲンドウ「…」グチュグチュ
ゲンドウ「シンジ…うまいか」
シンジ「うん…」
ゲンドウ「…こんなとき、どんな顔をして良いか分からんな」
シンジ「…笑って欲しいと思うよ」
ゲンドウ「…ムリだな」フッ
シンジ(あっ)
ゲンドウ「…思えばお前は昔からユイに似て、ところてんを良く食べていた」
シンジ「えっ?」
ゲンドウ「こんな時が来るかもしれないと、昔は思ったものだ…もちろん違う形でだが」
シンジ「父さん…」
ゲンドウ「シンジ」
シンジ「なに、父さん」
ゲンドウ「…いや」
シンジ「父さん、サングラス曇ってるよ」
ゲンドウ「…問題ない」
シンジ「問題あるよ、レンズから水滴垂れてるよ、父さん」
ゲンドウ「外す必要はない…シンジ、後は一人で食え」ガタッ
シンジ「え?」
ゲンドウ「私は仕事だ、食べ終わったらそのまま帰っていい」スタスタ
シンジ「あっ…父さん」
ゲンドウ「」プシュッ
シンジ「…」
(カオル「シンジくん…君は、ところてんに何を思うの?」)
(シンジ「別に…」)
(カオル「ところてんのこと、分かろうとしたのかい」)
(シンジ「分かろうとした」)
(カオル「本当に?」)
シンジ「」
シンジ(僕、ところてん好きだったんだ…)
シンジ(全然知らなかった、いや、忘れていたんだ)
シンジ(ところてん…人を写す鏡、僕を写す鏡)
シンジ(僕が僕を好きだった事って、あったのかな?)
シンジ「…父さんはああ言ったけど、やっぱり食べ終わったら片付けておかなくちゃ」
シンジ「」カチャカチャ
ビーッビーッ
シンジ「わっ、なんだ」
『総員、第一種戦闘配置。総員、第一種戦闘配置』
シンジ「…?使徒はもう全部倒したはずじゃ…?」
シンジ「とにかく行かなきゃ…」タッタッ プシュッ
シンジ「えーと、アレ?」
シンジ(ここからエヴァの所までどうやって行くんだっけ…)
ビーッビーッビーッ
シンジ「普段司令室に来ないから分からなくなっちゃったかもしれない…ヤバイ」あせあせ
シンジ「あれ…どっちだっけ、普段通ってる通路じゃないよなここ…」ウロウロ
シンジ「こっちだっけ」ウロウロ
『第一種戦闘配置!初号機パイロットは至急第七ケージへ!』
シンジ「うわ、ミサトさんの声だ…絶対イラついてるよこれ…」オロオロ
カオル「シンジくん」
シンジ「わ!カオルくん!」
シンジ「カオルくん…どうしてここに、キミも迷ったの?」
カオル「ちがうよ、キミを迎えに来たんだ、シンジくん」
シンジ「あ、ありがとう…でも大丈夫?キミだってエヴァパイロットだし、配置につかないといけないんじゃ…」
カオル「今回は弐号機パイロットが健在だからね、僕がどこで何をしていようと、誰も気にしないさ」
シンジ「ん…?そう…なんだ」
カオル「さあ行こうシンジくん、初号機がキミを待ってる」
カオル「こっちだ」タッタッ
シンジ「」タッタッ…
カオル「ここを真っ直ぐ行けば第七ケージに着くよ」
シンジ「ありがとう、カオルくんは?」
カオル「またすぐ会えるよ、急ぐんだ、シンジくん」
シンジ「うん…わかった」
シンジ「」タッタッタッ…
カオル(…ごめんねシンジくん、そっちは遠回りだ)
第一発令所ーーー
ミサト「第七ケージ!初号機パイロットは!?」
職員a『まだです!まだ到着していません!』
ミサト「こんな時にどこに行ったのかしら…シンジくん」
リツコ「ミサト!アスカの搭乗準備okよ!」
ミサト「わかったわ…アスカを先行させましょう」
リツコ「マヤ、弐号機にエントリープラグを…」
ビーッビーッ
ミサト「今度は何?」
青葉「エヴァ弐号機起動!」
リツコ「まさか!聞こえる?アスカ」
アスカ『私まだエントリーしてないわよ!?』
ミサト「そんな…無人で?」
カヲル「時は来た、行こう、リリンの僕(しもべ)」
弐号機「」ピカッ
日向「atフィールドの展開を確認!主モニターに回します!」
ミサト「!弐号機が…それにアレはフィフス!?」
ゲンドウ「現時刻をもってフィフスチルドレンを使徒と識別、初号機を出撃させろ」
ミサト「しかしまだパイロットが…」
シンジ『父さん!』
ミサト「シンジ君!?」
シンジ『父さん…今なんて』
ゲンドウ「シンジ、ケージに着いたか、出撃だ」
ゲンドウ「弐号機は使徒に操られ、零号機は先の戦闘で稼働がままならん、お前が倒せ」
シンジ『そんな…カオルくんは人間だよ!』
ゲンドウ「パターンは青だ、シンジ、使徒は人類の敵だ」
シンジ『そんな…そんなのってないよ、さっきカオルくんに会ったんだよ、僕に第七ケージまでの道を教えてくれたんだ!」
ゲンドウ「ならば尚更お前が行くべきだろう」
シンジ『!…どういうこと…?』
ゲンドウ「フィフスが何を考えているかは分からんが、お前にわざわざ道を教えたのだろう、これから使徒と人間として相見えるというのに」
ゲンドウ「お前が来るのを待っているのではないのか」
シンジ『…ッ』
ミサト「シンジ君…」
シンジ『…行きます、僕が行きます』
セントラルシャフトーーー
ゴウンゴウン
『エヴァ初号機降下中…深度150…160…』
ミサト『フィフスチルドレンは弐号機と共にセントラルドグマへ侵入するつもりよ、そこへ入られる前に必ず殲滅して』
シンジ「…」
ミサト『シンジ君!?』
ミサト『シンジ君!?聞いてるの!?』
シンジ「聞こえてますよ…」
ミサト『シンジ君…あなたしかいないのよ、彼を止められるのは』
シンジ「そんなこと分かってますよ…」
ミサト『…シンジ君、踏ん切りがつかないなら教えてあげるわ」
ミサト『使徒がセントラルドグマに侵入し、そこにいる第一使徒と接触する事で、サードインパクトが起こるとされているわ』
シンジ「なっ…」
ミサト『彼は私たち人類を滅ぼすつもりなのよ』
シンジ「そんな…!!カオルくんはエヴァのパイロットで!そして僕にところてんの大事さを教えてくれて…」
ミサト『いいえ違うわ、渚カヲルは使徒よ』
シンジ「ウソだ!!!」
シンジ「なんでだ…なんでなんだよ…」
シンジ「カオルくん…裏切ったな…僕の気持ちを裏切ったな!!」
シンジ「カオルくん!!」
カヲル「…やあ」
弐号機「」ガキィン!!
初号機「」グラッ
シンジ「うわっ!」
シンジ「やめてよ…何してるんだよ!カオルくん!!」
カヲル「…アダムに会いに行くのさ、老人達が描いたシナリオ通りにね」
シンジ「そんな…そんな事、させない…」
カヲル「キミに出来るのかい?」
シンジ「…ッ!」
カヲル「使徒と言えど人のカタチをした僕を、手にかけられるのかい?」
弐号機「」ガツンッ!!
シンジ「ぐわぁあ!」
初号機「」ズドォオン…
シンジ「くっ…」
カヲル「そうこうしている内に底に着いたようだ、この奥にいるんだね…彼は」スィー…
シンジ「待って…!カオルくんは…人を殺すようなやつじゃない…」
カヲル「それはキミの見てる渚カオルだ、でも僕は僕という渚カヲルだ」
カヲル「シンジくん、キミはこれまでの体験で分かったろう?ところてんはキミに何を見せた?」
第一発令所ーーー
日向「強力なatフィールドが展開されています!モニタ出来ません!」
マヤ「解除信号を確認、セントラルドグマが開いていきます…!」
冬月「…碇、お前の息子は上手くやると思うか」
ゲンドウ「…」
ミサト「シンジ君…」
ゴゴゴゴゴ……
カヲル「これが…僕がシナリオの為に用意された理由…」
ドォオオオン………
カヲル「!」
シンジ「それ以上進んだら…容赦…しない」
初号機「」ズッ…ズッ…
カヲル「…」スィー…
シンジ「!!カオルくん!」
初号機「」ガシッ
カヲル「ぐっ」
シンジ「ハァハァ…なんで、こんな事したんだよ…」
カヲル「…なんでって?」
シンジ「どうせ敵になるなら…なんで僕にところてんなんか渡したりしたんだよ!!」
カヲル「…キミがところてんを必要としていたからさ、ちがうかい?」
シンジ「そうだよ…ところてんのおかげで、カオルくんのおかげで気付けたんじゃないか!」
シンジ「今度会ったらお礼を言おうと…『ありがとう』って言おうと思ってたのに…こんなのって無いよ!!」ポロポロ
カヲル「優しいね…シンジくんは」
カヲル「そんなに泣くぐらいだったら、さっき言ってくれれば良かったのに」
シンジ「こんな事になるなんて思わなかったんだよ!」
カヲル「…僕を握り潰すのかい?」
初号機「」ググッ
シンジ「…」
カヲル「ところてんみたいに?」
シンジ「…」
カヲル「シンジくん」
シンジ「…なんだよ」
カヲル「キミはところてんに何を思うの?」
シンジ「僕は…僕はもう何も思わない」
シンジ「僕は…ところてんじゃない、ところてんを取り巻くみんなの事を思ってたんだ」
シンジ「ところてんを通して…僕を思うみんなの事を思っていたんだ」
カヲル「もう、ところてんなしでも大丈夫だね、シンジくん」ニコ
シンジ「ダメだよ、カオルくん…キミがいなきゃ」
シンジ「カオルくん…投降しよう、ネルフなら、もしかしたら何とか…」
カヲル「ならないよ、ヒトか使徒か、生き残るのは一方だけだ」
カヲル「キミが許しても他のヒトが許さない、僕はサードインパクトを起こして死ぬか、ヒトに殺されるしかないのさ」
シンジ「そんな…」
カヲル「だけど死に方は選べる」
シンジ「…」
カヲル「見ず知らずの人に殺されたくはないよ、さすがの僕でもね」
シンジ「キミは…キミはところてんに何を思うの?」
カヲル「シンジくんとの思い出さ」
シンジ「…!」
カヲル「そんな顔をしないで」
カヲル「また会えるよ、シンジくん」
シンジ「カヲルくん………!!」
グシャッ
作戦課長室ーーー
リツコ「コーヒー飲む?」
ミサト「…いらないわ」
リツコ「…アナタがそんなに落ち込んでどうするの」
ミサト「シンジ君…会ってもくれなかったわ」
リツコ「傷心のシンジ君に慰めは無駄よ、届かないわ」
ミサト「!リツコ…あんた!!」
リツコ「それにアナタ男子更衣室まで出向いて行ったんでしょ?ドアを開けなくて当然よ」
ミサト「声をかけたわ…ドア越しにだけど、でも彼は『大丈夫です』の一点張りで」
リツコ「…ならもうアナタに出来る事はないわ」
ミサト「ドア…蹴破ってでも中へ入るべきだったかしら」
リツコ「それじゃ重度のショタコンよ…?さすがに私もフォロー出来ないわ」
ミサト「私…シンジくんの話をちゃんと聞いてあげなかったのよね」
リツコ「あら、心当たりがあるのね。彼に拒絶されるような」
リツコ(実は私もあるのだけれど)
リツコ「加持くんに相談してみたら?男同士の方がうまくいくって事もあるでしょう」
ミサト「…携帯に出ないのよ、あのバカ」
リツコ「…うまくいかないものね」
リツコ「あんみつ、食べる?」
ミサト「なによ、藪から棒に」
リツコ「給湯室の冷蔵庫を見たらあったのよ…それにところてんも見つけたわ」
ミサト「えぇ…?ところてん?職場に持って来るようなものかしら」
リツコ「まあ…いいじゃない、たまには」
リツコ「糖分は疲労を軽減するわ、脳を活発化させるしね」
ミサト「フゥ…じゃ、いただくわ」
司令室ーーー
冬月「碇、全ての使徒は殲滅したが、最後の計画はどうするつもりだ」
ゲンドウ「…」
冬月「碇…」
ゲンドウ「…政府からネルフを明け渡すよう通達が来た」
冬月「やはり奴らはここを狙っていたか…で、どうするつもりだ」
ゲンドウ「…」
冬月「今までの事を全て清算するつもりか」
ゲンドウ「冬月先生…」
冬月「…なんだ」
ゲンドウ「今ここで私が席を降りれば、人類の平和を守り、ユイを裏切ったことになりますか」
冬月「さあな、ユイ君がどう思うかは、お前にとってのところてんの有り様でしかない」
ゲンドウ「…」
冬月「息子と鍋を食ったのだろう?」
ゲンドウ「…冬月先生、後を頼みます」
ミーンミンミンミン
ユイ「暑いわね、シンジ」
シンジ「うん…」
ユイ「あらあら、元気なくしちゃって。水筒のお茶飲む?」
シンジ「うん」
ユイ「」キュポ
シンジ「」ごくごく
ユイ「ふふ、シンジったらお父さんに似て暑いの苦手ね」
シンジ「うん…」
ユイ「今日はお鍋よりお蕎麦の方がいいかしら?」
シンジ「つめたいの?」
ユイ「うん。本当はところてん鍋にしようかと思ってたんだけど、お鍋は暑くなっちゃうから」
シンジ「つめたいところてんは…?」
ユイ「それだとデザートになっちゃうわ、シンジ。それにお父さん嫌がって食べてくれないもの」
シンジ「…」
シンジ「ぼく、ところてんがいい」
ユイ「あら、いいの?シンジ」
シンジ「ところてんすきだよ」
ユイ「ふふ、嬉しいわ。味覚は私に似たのかしら?」
シンジ「ところてんたべてるとき、おかあさんうれしそう」
ユイ「…そうね。嬉しいわ、シンジ」
シンジ「ぼくもうれしい」にぱぁ
ユイ「お父さんも好きになってくれたらいいわね」
シンジ「うん」
ユイ「じゃあシンジ、お蕎麦は好き?」
シンジ「あんまり」
ユイ「お父さんはお蕎麦が好きなのよ」
シンジ「…」
シンジ「おそばたべたら、おとうさんもよろこぶかな」
ユイ「あの人は照れ屋さんだから、顔には出さないかもしれないわね」
シンジ「おかあさん」
ユイ「なぁに?」
シンジ「おとうさんとおかあさんがよろこぶものって、なに?」
ユイ「そうねぇ」ヒョイ
シンジ「わっ」
ユイ「」ギュッ
ユイ「あなたが作ってくれたなら、きっと二人とも笑顔になれるわ」
シンジ「そうなの?」
ユイ「ええ、私もお父さんもきっと喜ぶわ」
シンジ「なにをつくったらいいのかな」
ユイ「何でもいいのよ」
ユイ「お互い好きなものが違っても、分かり合えるわ」
ユイ「あなたが好きになったものを、作ってみせて。シンジ」
ガンガンッ
シンジ「」zzz
シンジ「かあ…さん」
「~~ッ!」ガンガンッ
シンジ「ん…」ムニャムニャ
ガンッ!!!
シンジ「うわっ!」ガバッ
「バカシンジ!返事しなさいよ!まさか早まったわけじゃないでしょうね!?」
シンジ「あ…アス」
アスカ「ぉおおりゃぁあっ!!!」バギャッ…ガランガラン
シンジ「うわわ…」
アスカ「なによ!バカシンジ、いるんじゃない!」フンス
アスカ「いるんだったら返事くらいしなさいよ!」ズカズカ
シンジ「ちょっ…アスカ!ここ更衣室だよ!男子の!」
アスカ「アンタがいつまでもグズってるからよ」
シンジ「…」
アスカ「泣き腫らした目ぇしちゃってさ…まるでガキね」
シンジ「…!」
シンジ「アスカに何が分かるんだよ…!!」
アスカ「分かるわけないわ」
シンジ「…アスカッ!!」グイッ
アスカ「へー…やろうっての、私と」
シンジ「ハァ…ハァ…いい加減にしてよぉっ…!!」ぐぐぐ
アスカ「…あんた、そんなんでよくあの使徒を倒せたわね」
アスカ「」パシッ
シンジ「うわっ」グリンッ
バターン!!
シンジ「ぐ…」
アスカ「私に手ぇ出そうなんて百年早いわ、アンタじゃあのドアさえ蹴破れないでしょうよ」
アスカ「いいようにすっ転ばされちゃってさ…」
シンジ「う…くっ…」
アスカ「」スッ
アスカ「」ギュッ
シンジ「!」
シンジ「アスカ…なにを」
アスカ「…いいから黙ってされてなさいよ、今だけ胸貸したげる」ギュッ
シンジ「なんだよ…なんなんだよ…僕にひどいこと言ったくせに」
アスカ「それはアンタも同じよ。あの使徒のために私の首を締めたんでしょ」
アスカ「…さすがに少し堪えたわ。人類を滅ぼす使徒の方が、私より大事なんてね」
シンジ「アスカは…僕のこと嫌いじゃないの?」
アスカ「キライよ」
シンジ「」
アスカ「今のでさらに嫌いになったわ」
シンジ「アスカ…」
シンジ「…」
シンジ「アスカ」
アスカ「なによ」
シンジ「アスカの胸って、茹でたところてんみたいに柔らかいね」
アスカ「」ゴスッ
シンジ「いてっ!」
アスカ「まだ言うか、バカシンジ、エロシンジ」ゴスゴス
シンジ「いてて…抱きしめながら殴るのやめて」
アスカ「あんなもの嫌いよ、気持ち悪いって言ったでしょ」
シンジ「うん…そうだね」
アスカ「…やけに素直じゃない」
シンジ「もう、僕は、ところてんがなくても大丈夫なんだ」
アスカ「…普通はそうよ」
シンジ「ねぇ、アスカ」
アスカ「なによ」
シンジ「帰ったら何が食べたい?」
アスカ「何よ…急に。まあ、強いて言うならところてん以外ね」
シンジ「アスカの好きなものでいいよ」
アスカ「知ってるでしょ」
アスカ「いったいどういう風の吹きまわし?」
シンジ「僕…さっき夢を見たんだ、母さんの夢だった」
アスカ「ホモな上にマザコンなのね…救いようがないわ」
シンジ「ひどいな…昔の夢だったよ」
アスカ「昔の夢?」
シンジ「昔の事を思い出すような夢だった」
アスカ「…どんな夢?」
シンジ「あ…」
シンジ「」
アスカ「なに?」
シンジ「…喋ろうとしたら忘れちゃった」
アスカ「バカね」ぷぷっ
シンジ「でも、すごく懐かしい夢だった。気持ちのいい夢だったよ」
アスカ「あんたのママはあんたにとって天使様か何かね」
シンジ「そんなんじゃないよ…本当に、ただの母さんだった。普通の母さんだった」
アスカ「そ…」
アスカ「シンジ」
シンジ「なに?」
アスカ「ところてんって美味しいのかしら」
シンジ「食べたことないの?」
アスカ「ないわ」
シンジ「…そうだね、人によるよ」
アスカ「曖昧な答えね」
シンジ「そういうものだよ」
シンジ「誰と食べるかの方が大事さ」
アスカ「…今日はそれでいいわ」
シンジ「え?」
アスカ「ところてんってさ、美味しいのかもしれないわね、シンジ」
読んでくれた人、レスしてくれた人、ありがとう。
これにて終わり。
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