「……のび太くん、キミはもう、高校生なんだよ?」
ドラえもんは、呆れながらそう呟いた。
溜め息交じりの言葉は、これまで何度も聞いてきた。だけど、この日の彼の“ぼやき”は、いつもよりも息が深かったように感じた。
それでも、僕はまた彼に言ってしまった。
「いいじゃん、別に……」
そして彼は、一段と大きな溜め息を出した。
「……キミは、いつになったら成長するんだい?いつも道具に頼ってばかり。自分では何もしない」
「そんなこと……ないけど……」
「ホントに?テストの時も、体育祭の時も、文化祭の時も、みんな僕の道具を使ってたじゃないか。まあ、全部はうまくいってるわけじゃないけど」
「……」
「……のび太くん。未来ってのは、キミが思う何倍も脆いんだ。キミの行動次第で、簡単に変わってしまうんだよ。いい加減、自分で頑張りなよ」
「――ああもう!説教は聞き飽きたよ!いいから道具出して!」
「……はぁ」
そしてまた、彼は溜め息を出すのだった。
「――のび太さん。今日のテスト、大丈夫?」
電車に揺られながら、しずかちゃんはそう聞いてきた。
「うん!もっちろん大丈夫!バッチリだよ!」
「……本当に?」
「うん!当たり前じゃないか!」
「……はあ……。またドラちゃんの道具を使ったのね……」
しずかちゃんもまた、彼と同じように溜め息を吐いた。どうやら、お見通しのようだ。
僕としずかちゃんは、同じ高校に通っている。
僕らの家からは少し離れた街にある学校には、こうして電車を使っている。
毎日一緒に駅に行き、毎日一緒に学校に向かい、毎日一緒に帰宅する。
小学校、中学校と同じ光景が、そこにはあった。
あれからしずかちゃんは、とても綺麗になった。
昔あった可愛らしさは残しつつ、何と言うか、女性ならではの美しさまでも追加されたようなものだ。
容姿端麗、成績優秀、運動も並以上にこなす彼女。
彼女と一緒に過ごしていることは、僕のちょっとした自慢になっている。
人がポツリポツリと乗車していた電車を降りれば、その町が眼前に広がった。
都会から離れたそこは、どちらかというと住宅街のようなところだった。
目立った建物も観光名所もない。
ごく普通の、街だ。
その町の中にある、なだらかな坂道を上る。
春先になって、道路脇に咲いていた桜の花はすっかり散ってしまった。黒いアスファルトに落ちた花びらだけが、鮮やかに咲き乱れた光景を思い出させる。
この道を歩くのも、何度目のことだろうか……。
ふと、そんなことを考えていた。こうして彼女と歩いた道は、僕を僕が望む未来へ一歩一歩近づけるように思えた。
積み重ねた日々の中に、いくつもの彼女の一面が映る。
それを思い出すと思わず頬が緩むのは、僕の悪い癖かもしれない。
「……何で笑ってるの?」
「んん?別に……」
「おかしなのび太さん」
彼女は、緩む僕の顔を見てクスリと笑った。
それを見た僕の頬は、また緩んでいた。
「――じゃあ、テストを開始するぞ!」
教卓に立つ先生は、教室を見渡しながら声を上げた。
教室の中が、一段と重い緊張感に包まれる。
僕の目の前にも、白い紙が二枚あった。問題用紙と、回答用紙。裏返されたその紙を見ていると、心臓が高鳴ってくる。
「各人まだ捲るなよ?」
先生の言葉は、緊張を更に高めていた。
開始の時刻まで、間もなく―――
「――では……始め!」
その声と共に、室内では一斉に紙をめくる音が響き渡った。
(ふっ……余裕だね。昨日ひたすら、暗記パン食べたし。今日のテストは、貰った……!!)
並々ならぬ自信を胸に、僕はさっそく、机上のシャープペンシルを握り締めた。
教壇じゃなくて教卓に立つのかよwww
カオスすぎてテストに集中できんわw
>>16
おう……すまん
テストを終えた教室は、生徒達のざわめきが起こっていた。
ある者は友達と答え合わせをし、ある者は机に項垂れたまま呻き声を上げる。
これも何度も見て来た光景だった。
前回のテストはあまりにもダメだったから、僕は終わると同時に机に沈んでいた。
だが今回は違う。ドラえもんの道具も借りたし、余裕だった。
これなら、何とか追試は撒逃れるだろう……。
「――のび太くん、どうだった?」
「……え?」
突然、後ろから話しかけられた。
振り返るとそこには、彼女がいた。
「……月形さん……」
「ま、テストのことは後で聞こうかな。それよりほら、早く委員会行こ。校舎裏の花壇、綺麗にしなきゃ」
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