のび太「ドラえもん!なんか道具出してよ!」ドラえもん「」 (54)

「……のび太くん、キミはもう、高校生なんだよ?」

ドラえもんは、呆れながらそう呟いた。
溜め息交じりの言葉は、これまで何度も聞いてきた。だけど、この日の彼の“ぼやき”は、いつもよりも息が深かったように感じた。

それでも、僕はまた彼に言ってしまった。

「いいじゃん、別に……」

そして彼は、一段と大きな溜め息を出した。

「……キミは、いつになったら成長するんだい?いつも道具に頼ってばかり。自分では何もしない」

「そんなこと……ないけど……」

「ホントに?テストの時も、体育祭の時も、文化祭の時も、みんな僕の道具を使ってたじゃないか。まあ、全部はうまくいってるわけじゃないけど」

「……」

「……のび太くん。未来ってのは、キミが思う何倍も脆いんだ。キミの行動次第で、簡単に変わってしまうんだよ。いい加減、自分で頑張りなよ」

「――ああもう!説教は聞き飽きたよ!いいから道具出して!」

「……はぁ」

そしてまた、彼は溜め息を出すのだった。

「――のび太さん。今日のテスト、大丈夫?」

電車に揺られながら、しずかちゃんはそう聞いてきた。

「うん!もっちろん大丈夫!バッチリだよ!」

「……本当に?」

「うん!当たり前じゃないか!」

「……はあ……。またドラちゃんの道具を使ったのね……」

しずかちゃんもまた、彼と同じように溜め息を吐いた。どうやら、お見通しのようだ。

僕としずかちゃんは、同じ高校に通っている。
僕らの家からは少し離れた街にある学校には、こうして電車を使っている。
毎日一緒に駅に行き、毎日一緒に学校に向かい、毎日一緒に帰宅する。
小学校、中学校と同じ光景が、そこにはあった。

あれからしずかちゃんは、とても綺麗になった。
昔あった可愛らしさは残しつつ、何と言うか、女性ならではの美しさまでも追加されたようなものだ。
容姿端麗、成績優秀、運動も並以上にこなす彼女。

彼女と一緒に過ごしていることは、僕のちょっとした自慢になっている。

人がポツリポツリと乗車していた電車を降りれば、その町が眼前に広がった。

都会から離れたそこは、どちらかというと住宅街のようなところだった。
目立った建物も観光名所もない。
ごく普通の、街だ。

その町の中にある、なだらかな坂道を上る。
春先になって、道路脇に咲いていた桜の花はすっかり散ってしまった。黒いアスファルトに落ちた花びらだけが、鮮やかに咲き乱れた光景を思い出させる。

この道を歩くのも、何度目のことだろうか……。
ふと、そんなことを考えていた。こうして彼女と歩いた道は、僕を僕が望む未来へ一歩一歩近づけるように思えた。
積み重ねた日々の中に、いくつもの彼女の一面が映る。
それを思い出すと思わず頬が緩むのは、僕の悪い癖かもしれない。

「……何で笑ってるの?」

「んん?別に……」

「おかしなのび太さん」

彼女は、緩む僕の顔を見てクスリと笑った。
それを見た僕の頬は、また緩んでいた。

「――じゃあ、テストを開始するぞ!」

教卓に立つ先生は、教室を見渡しながら声を上げた。

教室の中が、一段と重い緊張感に包まれる。
僕の目の前にも、白い紙が二枚あった。問題用紙と、回答用紙。裏返されたその紙を見ていると、心臓が高鳴ってくる。

「各人まだ捲るなよ?」

先生の言葉は、緊張を更に高めていた。
開始の時刻まで、間もなく―――

「――では……始め!」

その声と共に、室内では一斉に紙をめくる音が響き渡った。

(ふっ……余裕だね。昨日ひたすら、暗記パン食べたし。今日のテストは、貰った……!!)

並々ならぬ自信を胸に、僕はさっそく、机上のシャープペンシルを握り締めた。

教壇じゃなくて教卓に立つのかよwww
カオスすぎてテストに集中できんわw

>>16
おう……すまん

テストを終えた教室は、生徒達のざわめきが起こっていた。
ある者は友達と答え合わせをし、ある者は机に項垂れたまま呻き声を上げる。
これも何度も見て来た光景だった。

前回のテストはあまりにもダメだったから、僕は終わると同時に机に沈んでいた。
だが今回は違う。ドラえもんの道具も借りたし、余裕だった。
これなら、何とか追試は撒逃れるだろう……。

「――のび太くん、どうだった?」

「……え?」

突然、後ろから話しかけられた。
振り返るとそこには、彼女がいた。

「……月形さん……」

「ま、テストのことは後で聞こうかな。それよりほら、早く委員会行こ。校舎裏の花壇、綺麗にしなきゃ」

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