モバP「客人を捕まえに行こう」 (31)
塩見周子「櫂ちゃんってさ」
西島櫂「うん」
周子「大坂出身だよね」
櫂「そうだよ?」
周子「でも櫂ちゃんが関西弁喋ってるとこ見たことないからさ」
櫂「あぁ、それは――」
ガチャ
モバP「櫂は副音声を使ってるからな」
周子「Pさんふっつーに仮眠室から出てくるよね」
櫂「もはや自宅のように仮眠室に寝泊まりしてるもんね」
P「ここは家賃が安くて助かる」
櫂「えっ」
周子「いや明らかに嘘でしょ」
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周子「Pさんの冗談はおいといて」
P「ひどい」
周子「ひどくないって。で、副音声ってなんなん?」
P「方言を標準語に修正するシステム。うちのプロダクションでも結構使われてるぞ」
周子「なにそれこわっ」
櫂「うん、あたしも副音声使ってるから関西弁じゃないんだ」
P「ではここで櫂に副音声を切ってもらおう」
櫂「えっ」
周子「そんなんもできんの?」
P「できる。というかいざという時に自分で切れないようじゃシステムとして未熟」
櫂「プロデューサー……ホントにやらなきゃ駄目?」
ガチャ
浅野風香「ただいま戻りましたっ!」
P「おかえり風香、ナイスタイミングだ。珍しいものが見れるぞ」
風香「珍しいものですか?」
P「ああそうだ。関西弁の櫂が見れる」
風香「あっそれは珍しいですね!」
P「そうだろうそうだろう」
櫂「はぁ……」グンニョリ
周子「早めにやってパパッと終わらせた方がええんちゃう?」
櫂「そうだね……じゃあ!」
風香「……」ワクワク
周子「……」ジミョー...
櫂「そんな見られても見た目は変わらんからね?」
風香「か、櫂さんが関西弁に!」ガガーン
櫂「そんな驚かんといてよー」
周子「ねえPさん、他に副音声使ってる子って誰がいるの?」
P「クラリスとかもそうだ。バリバリ関西弁だぞ」
櫂「関西弁ばっかやん」
P「ああ待て、他の地域からもちゃんと使用者は出てる。沖縄からはなんとあの冴島清美が参戦だ」
風香「おぉー」
P「凄いぞ、副音声なしだと『はいさーい!』とか言う」
周子「え、『超☆風紀委員さー!』とか言うの?」
P「と思ったらテレビで我那覇響が喋ってただけだった」
櫂「副音声ちゃうやん。副音声どこいったんよ」
P「冴島は多分副音声使ってないぞ。あれは超☆特訓の結果だと思う。あいつは物凄く努力家だから」
周子「その話今する必要ないよね?」
P「まったくだ。誰だ関係ない奴の話を持ち出したのは」
櫂「Pさんやん!」ズベァ
P「そろそろ副音声とかいう嘘をでっちあげ続けるのにも飽きてきた」
風香「嘘だったんですか!?」ガガーン
P「嘘だったんです。そもそもそんな技術はまだ存在していない、はず」
周子「……まあ、途中で薄々気付いてはいたけどさ」
櫂「いやー、まさかいきなり関西弁を喋らされるとは思わなかったよ」
周子「か、櫂ちゃんが標準語に!」ガガーン
P「それはいつもの事である」
櫂「小さい頃に住んでただけだからたまに出る、ってくらいなんだよね。あたしの関西弁」
P「しかし櫂が乗ってくれて助かった」
櫂「まあ、あのくらいはね!」
P「さすが櫂はスイマーやってるだけある。スイマーは話の流れも乗りこなす」
周子「流れを乗りこなす、って言い方だとサーファーっぽくない?」
風香「確かにそうですね」
P「さすが杉坂はサーファーやってるだけある。サーファーは話の流れも乗りこなす」
櫂「別人じゃん!」ザパーン
周子「Pさんの担当アイドルですらないし」
P「これが『男子三日会わざれば刮目して見よ』というやつだ」
風香「それそういう意味じゃないですよ?」
P「さて本題に入ろう。風香、うちのお菓子は何だ」
風香「は、はい! うちは昨日クッキーが出ました!」
P「待て風香、うちとは言ったがお前の家のお菓子事情を知りたかったわけじゃない。でもいいなクッキー、久しぶりに食べたい」
風香「じゃあ今度持ってきましょうか?」
P「ぜひお願いしたい」
櫂「で、結局何の話なのさ?」
P「そうだ、お菓子の話だ。先月のお菓子係としおみーの頑張りによってうちの事務所のお菓子はしおみーの実家の和菓子になりました」
風香「それって凄く高級なんじゃ……」
P「うん、凄く高い。だからみんなも先月のお菓子係としおみーにお礼を言おう」
風香「ありがとうございます周子さん!」ペコリン
周子「そんな改まらんでもええよー」
櫂「先月のお菓子係って誰だっけ?」
P「それも私だ」
風香「Pさんもありがとうございます!」ペコリン
P「なんか、こう、お礼を言われると落ち着かないな。ソワソワする」ソワワ
櫂「じゃあなんでお礼を言おうとか言ったのさ」
周子「で、うちの和菓子がどうしたの?」
P「先日届いたはいいけど客人が来ないから八ッ橋とかが食べられない」
櫂「Pさんが食べたいだけじゃん」
風香「生和菓子は足が速いって言いますもんね」
P「マジか。逃げられないように注意しないと。虫取り網とかあった方がいいかな」
周子「そういう意味ちゃうからね?」
P「冷凍してるからしばらくは大丈夫だと思うけど早く食べたい。なので今日は客人を捕まえに行こうと思う」
風香「捕まえ……え?」
P「捕まえに行く。多分アイドルをスカウトするより簡単」
風香「いや、あの、そういう問題じゃ……」
周子「事務仕事とかどうすんのさ。今日はホントにちひろさん休みだよ?」
P「その辺りは大丈夫。今日の分は全部片付けてある」
周子「あ、そういうトコは全力出すんだ」
P「好き勝手やるためにはそれなりに優秀でないといけない」
櫂「うわぁ、自画自賛だ」
P「自信がないよりはマシである」
P「早く行こう。生和菓子と違って俺はそんなに足が速くない」
風香「でも、電話がかかってきたらどうするんですか?」
P「あっ!」
櫂「……あたしが残ってようか?」
P「マジか! ……いいの?」
櫂「うん、いいよ」
P「ありがとう。帰ってきたら一緒に和菓子食べような。八ッ橋を冷蔵庫に移して待っててくれ」
周子「そのためにはお客さんを捕まえて帰らないとね」
風香「捕まえるのは確定なんですね……」
P「さっさと他の奴の担当アイドルを見つけて持って帰ろう」
風香「そ、そんな物か何かみたいな……」
南条光「これくらいあれば充分かな!」テクテク
伊集院惠「そうね」テクテク
周子「お、丁度いいところに」
P「荷物持ってるし持ってあげてこっちの事務所に誘導しよう」
風香「動物じゃないんですから……」
光「あ、Pだ。おーい!」
P「やった、声をかけるまでもなくあっちから来たぞ」
風香「買い物袋がいっぱいですけど、どうしたんですか?」
惠「ええ、ほたるちゃんがオーディションに合格したからそのお祝いでパーティーをしようって事になったの。Pさんたちもどう?」
風香「そうなんですか? おめでとうございます!」
周子「丁度いいじゃん。お祝いに和菓子持ってこうよ」
P「あー、お祝いパーティーか。じゃあお邪魔するわけにはいかない。お祝いを持ってくのは後日にしよう」
周子「え、なんでさ?」
P「同じプロダクションでもそういうお祝い事は一緒に過ごした仲間内だけでやるべき。もっと大きなお祝い事ならともかく合格祝いに乗り込むのは便乗して騒ぎたいだけみたいで嫌だ」
惠「なるほど……そういう考え方もあるわね」
P「ということで白菊たちによろしく」
光「うん、Pたちがおめでとうって言ってたって伝えておくよ!」
P「光も荷物持ってて偉いな。あと10年もすればきっと全盛期のシュワルツェネッガーみたいな体型のヒーローになれる」
光「ホントか!?」
風香「さすがにシュワルツェネッガー体型の光ちゃんは……」
周子「面白すぎるでしょ」
光「ところでシュワルツェネッガーって誰?」
P「おぉう、ジェネレーションギャップ」グンニョリ
P「パーティー組と別れてから一時間が経った」
周子「意外と見つかんないねー」
P「まあそこらにアイドルがゴロゴロしてるはずもあるまい」
前川みく「……」テクテク
P「とか言った矢先に見ろ、野良前川だ。ゴロゴロどころかゴロニャンだぞ」
風香「野良って……」
周子「捕まえる?」
P「捕獲に役立つものが欲しい。虫取り網とか持ってない?」
周子「持ってないのは見りゃ分かるでしょ」
P「確かにその通り……あ! 猫じゃらしが生えてた! これで安心」
風香「え、そんなので大丈夫なんですか!?」
みく「大丈夫なわけないにゃ」
P「まずい、気付かれた! みんな隠れろ!」ドタバタ
みく「もうおせぇにゃ!」
風香「こ、これでちゃんと隠れられてますか!?」
P「駄目だ風香、前川がお前から視線を外してない」
周子「ほれほれ、みくにゃんこっちこっち」ピョピョピョ
みく「猫じゃらしやめろにゃ!」ペシィ
みく「……で、Pチャンはどうしてみくを捕まえようとしてたの?」
P「担当してないアイドルを連れて帰って和菓子を食べたかった」
みく「ごめん、全然意味分かんない」
風香「えっと、お客さんが来た時に出す和菓子があるんですけど、お客さんが来ないからこっちからお客さんを探しに行こうって話になって……」
みく「その発想はおかしいにゃ」
P「で、前川は和菓子食べたい? しおみーの実家の和菓子だからすごく美味しい」
周子「味は保証するよー」
みく「和菓子……食べたいケドみくは今からレッスンなんだにゃ……」
P「レッスン後でもいいぞ。レッスン後に食べる甘いものはとても美味しい」
周子「美味しい以外にボキャブラリーないん?」
P「デリシャス」
周子「ああうん、なんかごめん」
みく「あー、でも今日はpチャンとレナチャンが晩ごはんの奢りを賭けて勝負してるから……」
P「あの馬鹿はまたそんなことやってるのか。ラスベガスにでも行って身ぐるみ剥がされればいいのに。じゃあ仕方ない、お腹いっぱい奢ってもらいなさい」
みく「うん……でも今度行くからそのときは和菓子ちょうだいねっ!」
P「あげようあげよう。デブ猫になるまで食べさせてあげよう」
みく「そこまでは食わんにゃ!」
P「そこまで食われたらpに和菓代を請求するまであるからな」
周子「……捕まえられなかったね」
風香「まだ時間はありますし、頑張りましょう!」
P「それにしてもこの風香、捕獲する気満々である」
風香「ええっ!?」
周子「はじめは『え、捕まえるんですか?』って感じであんまり乗り気じゃなかったのに……」ヨヨヨ
P「諦めろしおみー、人は変わるものだ。現実は非情である」
風香「えぇー……」
P「しかしホントに見つからないな」
風香「日も暮れてきましたしね……」
P「これで誰も連れて帰れなければ櫂に合わせる顔がない。顔がなさ過ぎて仮眠室に引きこもる」
周子「いつもの事じゃん」
P「だからいつも以上に本気出して探さないと……あ!」
風香「誰か見つかったんですか?」
P「ちょっと二人は待ってて。すぐ戻る」ステテテ
櫂「……で、知り合いが見つからなかったからスカウトしてきたの? ……ん、おいし」モニュー
P「スカウトしてきました。荒木比奈ちゃんです。しかしこの八ッ橋は本当にデリシャス」モニュー
荒木比奈「スカウトされてきました。荒木比奈でス。……ホントに美味しいっスねこれ」モニュー
周子「でしょー」モニュー
P「八ッ橋が食べたかったがために適当に声をかけたわけではないと声を大にして宣言しておきたい」モニュー
比奈「え、アタシこれのために連れてこられたんスか?」モニュ
P「半分はそうだけどもう半分は本気でプロデュースしたいと思っている」モニュー
周子「いや、そこは嘘でもプロデュースが100%って言っとこうよ」モニュー
風香「……」モニュー
比奈「いや、でもアタシがアイドルなんて……そういうキラキラした世界の住人じゃないんでスよ。無理ですって」モニュー
風香「……似てる」
櫂「へ?」モニュ
P「お、やっぱり風香には分かるか。荒木がアイドルになれる理由を教えてあげてくれ」モニュー
風香「えっと、荒木さん……はアイドルになる前の私にちょっと似てるんです。自分に自信がなくって、自分は日陰者だから……って。最初から諦めてるんです」
比奈「……」
P「それでも説得に負けてアイドルになったもんな。納豆は苦手だけど同じくらい粘り強いぞ俺は」モニュー
周子「余計な事言わなくていいって」モニュー
風香「それでもPさんのおかげで自分に自信がついて、楽しくアイドルやれてるんです!」
比奈「……」
風香「だから荒木さんとも、似た者同士で一緒にアイドルしたいなって……!」
比奈「……そこまで言われたら、断るのもちょっと心苦しいっスねぇ」
風香「……!」ペカッ
比奈「比奈でいいっスよ。似た者同士、よろしくお願いしまスね」ニマ
風香「はいっ!」
周子「うわーん櫂ちゃんあたしら蚊帳の外だよー」
櫂「はいはい拗ねない拗ねない」
比奈「あ、お二人もよろしくお願いしまス」
P「俺だけよろしくされてない」ショボリン
比奈「あ、プロデューサーも。よろしくお願いしまス」
P「よろしくどうぞ。ほら、所属記念に八ッ橋食べよう。おかきもあるぞ」モニュオカキ
比奈「いやー、お菓子もいいんスけどちょっと喉乾いてきましたね」
周子「確かにそうだね。今月のお茶係誰だっけ?」
風香「今月は……Pさんですね」
P「そういえばそうだった。先月のお菓子係といいとことんくじ運がない気がする」
周子「じゃあおねがーい♪」
P「任せろ。お茶係は伊達じゃない。俺は雪印コーヒー、しおみーはお茶、櫂もお茶、風香がココア、比奈は……」
比奈「アタシはコーヒーがいいっス」
P「よしきた、比奈はコーヒーだな。淹れてくる」モニュー
比奈「お願いしまスー」モニュー
これにて終了です。影響元の猿真似状態を脱するために思考錯誤中
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