加蓮「ねえ、キスタップって知ってる?」 (91)
事務所
加蓮「ねえ、キスタップって知ってる?」
奈緒「何だそれ?」
凛「去年ぐらいから流行ってるやつでしょ」
加蓮「あ、凛、知ってるんだ……てか去年? さっきコンビニの雑誌で読んだばっかりだけど……」
凛「その雑誌って、これでしょ」
加蓮「あ、それそれ」
奈緒「なあ、だからキスタップって何なんだ?」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413030420
凛「キスタップっていうのは、その名の通りキスでスマホをタップすることだよ」
奈緒「……はあ?」
加蓮「ほら、この雑誌の写真みたいな感じ」
奈緒「……なんかスマホにキスしてるんだけど」
凛「普通、スマホは指で操作するでしょ? 指ではじく時は『フリック』で、指でタッチする時は『タップ』って言うの」
奈緒「へえ、それに名前なんてついてたんだ、あたし普通に『押す』とか言ってた」
凛「うん、それでそのタップを指じゃなくて、キスでやるのがキスタップっていうの」
奈緒「……いや、そこがよくわからないんだけど、なんで指じゃなくてキスでやるんだよ」
凛「簡単に言うと愛情表現かな」
奈緒「……」
凛「好きな人相手にメールを送る時にキスタップして送信するの」
加蓮「凛、詳しいねぇ、アタシこの雑誌を読んで初めて知ったよ」
凛「前から知ってたからね、最近になって注目されてるみたいだけど」
加蓮「そうなんだ……で、どう思う、このキスタップ?」
凛「どう思うっていうか、私は去年からやって……」
奈緒「いや、まったく理解できないんだけど」
加蓮「だよねえ、アタシも最初この記事見て引いたもん」
凛「……」
奈緒「ていうか汚いだろ、指ってばい菌一杯ついてるんだから、それで触りまくってるスマホに口付けたらばい菌が体の中に入っちゃう」
加蓮「汚いとかそういう話以前にさ、単純にキモくない? え、アンタの好きな人ってスマホなの? ……みたいなさ、愛情表現っていっても絶対やり方間違えてるよね」
凛「……」
奈緒「結局これって流行ってるのか?」
加蓮「少なくともアタシの学校じゃ流行ってないかなぁ」
凛「……」
奈緒「凛のとこは?」
凛「私がやってるわけないじゃん」
加蓮「いや、凛がやってないのはわかってるって、そういうタイプじゃないし」
凛「……」
奈緒「じゃなくてさ、凛の学校では流行ってるのか?」
凛「……流行ってないんじゃないかな」
加蓮「だよねー、これはさすがに流行らないと思う」
奈緒「うん、やってる人いないだろ」
凛「……ちょっとお手洗い行ってくる」
加蓮「いってらっしゃーい」
…………
トイレ
凛(キスタップって流行ってなかったんだ……私、去年からやってた)
凛(いや、私も最初知った時は引いたよ? ありえないでしょって思ったけど……)
凛(ただ好奇心に負けて、お試しで一回やってみて……なんか、こう、タカが外れたというか、別に指でやっても口でやっても一緒かなって感じになった)
凛(さすがに誰も見てない所で1人でやってたから他の人には私がやってるってバレてないけど……あの時カミングアウトしなくてよかった)
凛(……もうキスタップをするのは止めておこう、もしバレでもしたら、完全に変な目で見られる)
ブルルル
凛「……あれ、メール……プロデューサーからだ」
モバP『悪い、うち合わせが予定より長引きそうだ。約束してた買い物に付き合えそうにない。それと加蓮と奈緒がまだ事務所にいるのなら、遅くならないうちに帰れって伝えておいてくれ』
凛(ウソ……楽しみにしてたのに……)
凛「……バカプロデューサー」トントン
凛『残念だけどお仕事なら仕方ないよ。加蓮と奈緒には伝えておくからお仕事しっかりね』
凛(せっかく2人きりで出かけられると思ったのにさ、加蓮や奈緒に気づかれずに誘うのがどれだけ大変かわかってないよね……)ゴソゴソ
凛(……今度しっかり埋め合わせてしてもらわなくちゃ)フキフキ
凛「……チュ」
メールを送信しました
凛「……ふう」
凛「………………あれ?」
凛(今、私……キスタップしなかった……?)
凛(……い、いつの間にか手にスマホ用の除菌クリーナーが……無意識のうちにスマホの画面拭いてたんだ……)
凛「ヤバい……プロデューサーからのメールをキスタップで返すのが完全に癖になってる……」
…………
凛「……」
加蓮「あ、この服可愛くない?」
奈緒「……いや、それならこっちの方が……」
加蓮「……へえ~」
奈緒「な、なんだよ」
加蓮「別にぃ? 奈緒も素直になってきたなーって思ってね」
奈緒「ど、どういう意味だそれ」
凛「……」
加蓮「まあ女の子なんだから可愛いものに興味を持つ事は当然……て、凛?」
奈緒「うぉ!? 戻ってきたのなら声かけろって」
凛「……まだその雑誌読んでたんだ」
加蓮「あ、ごめん、これ凛のだよね」
凛「気にしないで……なんだったらそれあげるから」
加蓮「え? 別にいらないけど……」
凛「遠慮することないよ」
加蓮「いや、遠慮とかじゃないし……」
凛「そう……じゃあ奈緒にあげるね」
奈緒「あたしに? ありがとう……でもなんでいきなりあげるなんて……」
凛「急にその雑誌を見たくなくなったから」
奈緒「……なんだその理由?」
凛「……そうだ、さっきプロデューサーからメールがあって、遅くならないうちに帰れってさ」
加蓮「え~? アタシちょっとプロデューサーと話したいことあったんだけど」
凛「今日は無理だよ、会議が長引くんだって」
加蓮「本当に? じゃあ明日にしよ」
奈緒「……あたしのところにはプロデューサーからのメールはきてないな……」トントン
凛「私にきて、2人に伝えてくれって頼まれたの」
加蓮「……へえ、凛にだけメールがきたんだぁ?」
凛「……なに?」
加蓮「別に~? さ、奈緒帰ろ」
奈緒「う、うん……凛は?」
加蓮「凛はいいんじゃない? ……もしかしたらこれから予定あるかもだしね」
奈緒「……???」
バタン
凛「……」
凛(加蓮は相変わらず察しいいな……まあその予定は潰れちゃったんだけどさ)
凛(……これからどうしようかな、家には今日夕食いらないって言っちゃったし、ちょっと事務所で時間潰して適当にマックで食べて帰ろうかな)
ありす「すみません、ソファの隣いいですか?」
凛「え? ああ、どうぞ」
ありす「……」
凛「……ありすちゃん、さっきまであっちの椅子に座ってたよね、なんでこっちにきたの?」
ありす「このソファの方が座り心地が良いですから、さっきまで3人が座っていたので私が座るスペースがありませんでしたし」
凛「あ、ごめんね」
ありす「いえ、気にしてません」
凛「……」
ありす「……」
凛「……ありすちゃんは帰らなくていいの?」
ありす「お母さんが迎えに来るのを待っています」
凛「そうなんだ」
ありす「はい」
凛「……」
ありす「……」
凛(この子との会話が続かない……話しかけてもこっち見ないでタブレット操作しながら会話してるし)
ありす「……あ」ゴソゴソ
凛「……?」
ありす「……」フキフキ
凛(タブレットをウェットティッシュで拭いてる……まさか? ……いや、そんなわけないか)
ありす「……」チラッ
凛「……」
ありす「……あの、さっきから私の方を見てる気がするんですけど、何か御用ですか?」
凛「……ちょっと聞きたいんだけどさ……それなにしてるの?」
ありす「見ての通り、タブレットの画面を綺麗にしただけですけど」
凛「そうだね……ちなみにその後は何するのかな?」
ありす「操作するだけですが?」
凛「あ、そうだよね……」
凛(キスタップ……そんなわけないよね、うん、あるわけない……)
凛「……私もそろそろ帰ろうかな」
ありす「……」
凛「それじゃあ、ありすちゃん、さよなら」
ありす「はい、さようなら」
バタン
ありす「……」トントン
モバP『打ち合わせが良い方向に進みそうだ。このままいけばありすが主役のコーナーができるかもしれない。まだ本決まりじゃないけど期待しててくれ!』
ありす「……」トントン
ありす『そうですか、ありがとうございます。お仕事頑張ってください。』
ありす「……」キョロキョロ
ありす(渋谷さんが帰って、千川さんはこっちを見てない……)
ありす「……チュ」
メールを送信しました
…………
自宅
凛(ネットで検索してもキスタップの事は全然書かれてない、やっぱり流行ってないっぽいか……)
凛(やっぱり私がおかしかったんだよね……そうだよね、普通しないものね)
ブルルル
凛「メール……プロデューサーから」
モバP『やっと仕事終わったよ。今日は本当に悪かった。埋め合わせしたいんだけど来週か再来週あたりでどうだ?』
凛(プロデューサーって男の人なのにマメだよね……お父さんとかまったくメールしないし)トントン
凛『別に怒ってはいないから。埋め合わせの日はスケジュールとかの調整もあるだろうしプロデューサーが決めていいよ。』
凛「……」フキフキ
凛「……あ、またやっちゃった」
凛(で、でも今回はキスする前に気づいたからセーフ……だよね、もう、キスタップは止めよう)
凛「……」
凛(……やっぱり最後に一回だけしとこう、うん、せっかく拭いちゃったんだし、もったいないから)
凛「……チュ」
メールを送信しました
…………
レッスンスタジオ
凛「……」
奏「……チュ」
凛「え!? ……奏」
奏「おはよ、凛」
凛「……いきなりに何するの?」
奏「なんだかボーっとしてたから」
凛「理由になってないけど……まあ奏らしいね」
奏「ふふ、それでどうしたの? 悩み事?」
凛「……悩んでいるかといえば悩んでるかな」
奏「なんだったら相談に乗るわよ?」
凛「……人に話せるようなことじゃないから」
奏「そうなんだ、まあそういう悩みもあるわよね」
凛「うん、ごめん」
奏「いいの、気にしないで」
凛(私がキスタップするのって変? とか聞けるわけないし…………あれ? そういえば奏って……)
凛「……ねえ、奏ってキス魔だよね?」
奏「……まあ否定するつもりはないけど」
凛「そんな奏にちょっと聞きたいことがあるんだけど」
奏「……ちょっと前置きが引っ掛かったけどいいわ、さっきの悩みごと?」
凛「……まあ、そんなとこかな」
奏「いいわよ、相談に乗るって言ったばっかりだし」
凛「キスっていうのはさ……愛情表現だよね?」
奏「そうね、私はそう思ってるわ……もしかして悩みってそっちの話? だったら何でも聞いて」
凛「うん……そのキスっていうのをさ……間接的にするのはどう思う?」
奏「間接的……つまり間接キスのこと?」
凛「そういうのじゃなくて……その人に関わる物とかにキスすること、みたいな」
奏「……関わる物? 身に着けているものとか?」
凛「ううん、関わる物って言い方が悪かったかも……その人を認識できるもの……かな?」
奏「うーんと、それはつまり……」
凛「……ごめん、わかりにくいよね、やっぱりなんでもないから忘れて」
奏「……待って、なんとなくわかったと思うから……つまり、好きな人の写真にキスするとかそんな話じゃない?」
凛「あ、近いかも」
奏「だよね、それをどう思うかってことでいいの?」
凛「うん、それって変なことだと思う?」
奏「変ではないかな、本人に伝わらない事だけど、自分の想いを何かの形で発散したいていう気持ちはわかるわ」
凛「そうだよね……奏もしたりする?」
奏「私はしないよ」
凛「……しないんだ」
奏「だってぬくもりがないじゃない」
凛「ぬくもり……」
奏「キスをすることで相手の温かさを感じるの、それがとても大事なことだと思うわ」
凛「温かさ……例えばスマホで撮った写真は?」
奏「……え?」
凛「スマホに映っている写真だったら熱を持っているから温かいよ」
奏「……え、ギャグ?」
凛「……え? 何が?」
奏「……ううん、何でもない、凛って時々すごく面白い事言うのね」
凛「そうかな……」
奏「うん、褒めてないからね、照れないで」
…………
凛(結局あの後、奏との相談はうやむやになってしまった)
凛(でも奏はどちらかというと否定的っぽかったし……)
凛「……はあ」
美嘉「……はあ」
凛・美嘉「え?」
凛「美嘉……どうしたの、ため息なんて珍しいね」
美嘉「凛こそ……」
凛「……」
美嘉「……」
凛「何かあったの?」
美嘉「……凛はさ、キスタップって知ってる?」
凛「……! し、知ってるけど」
美嘉「あ、そうなんだ、ということはやっぱり流行ってるのかな」
凛「流行ってるかどうかはわからないけど……もしかしてやったことあるの?」
美嘉「やったことあるよ」
凛「!? ほ、本当に? 実は私も……」
美嘉「莉嘉がね」
凛「……」
美嘉「……あれ? 凛、今なんて……」
凛「何でもないよ、続けて?」
美嘉「え、でも私がどうとか……」
凛「私のことはいいから、続けて」
美嘉「う、うん……昨日家帰ったら莉嘉がスマホにキスしててさ、急いで止めさせたんだ」
凛「……」
美嘉「『汚いでしょ』って言ったら『今流行ってるんだよ、お姉ちゃん知らないの~?』って……」
凛「うん」
美嘉「まあその後軽く喧嘩みたくなったんだけどさ……凛はどう思う? 私は絶対流行らないと思うんだよね、姉としては莉嘉が変な目で見られるのは嫌だし」
凛「……その言い方だと美嘉はキスタップの事を変なことだと思ってる?」
美嘉「うん、だって変じゃん」
凛「……」
美嘉「ぶっちゃけ何でやるか意味わからなくない? 莉嘉も雑誌で紹介されてたからノリでやってみただけっぽいしさ」
凛「……」
美嘉「凛? どうしたの?」
凛「……うん、私もキスタップとかありえないと思う」
美嘉「やっぱり? だよね~」
凛「あるわけがない、絶対にない、もうやる人の気がしれない」
美嘉「う、うん、何か急に力強くなったね」
凛「美嘉、莉嘉ちゃんにやめさせて良かったと思うよ」
美嘉「そ、そうね」
…………
凛(キスタップは変、普通はやらないし、これからも流行らない)
凛(よし、キスタップはもうしない、これは決定……)
ブルルル
モバP『加蓮の撮影が終わったからレッスンスタジオに寄って帰るよ。この後の予定はわかってるよな?』
凛(ちょうどいいタイミングでプロデューサーからのメール……キスタップはしない、キスタップはしない……)トントン
凛『雑誌の取材でしょ。TPのメンバーで。分かってるから……それと買い物に付き合う約束も忘れないでね、私はいつでもOKだから』
凛(昨日の今日で忘れるわけないし、プロデューサーのことだからもう予定ぐらいは立ててるだろうけど、一応ね)
凛(……普通に送信、と)トン
メールを送信しました
凛「……」
凛(……なんかモヤモヤする)
ブルルル
凛「……ん、返信早い」
モバP『来週末にオフの日作ったぞ。一日中付き合えるようにしたから荷物持ちでも何でも任せてくれ!』
凛「……!」
凛(1、2時間程度の買い物の埋め合わせで、丸一日オフの日作って付き合ってくれるとか……)トントン
凛『うん、ありがとう。楽しみにしてる。』
凛「……ふっ」
凛(自分で書いときながら笑っちゃうくらい素っ気ない……本当は嬉しくて仕方ないくせにさ)
凛「……」
奏《変ではないかな、本人に伝わらない事だけど、自分の想いを何かの形で発散したいていう気持ちはわかるわ》
凛「……本人には伝わらないけど、何かの形で発散したい、か」ゴソゴソ
凛「まさにこんな感じの事だよね」フキフキ
凛「……チュ」
メールを送信しました
凛「……結局止められなかったな」
凛(……けど、なんだかスッキリした)
…………
事務所前
モバP「……へえ、それなら美嘉や奏は真面目にやってたみたいだな」
凛「ある意味不真面目なところもあったけどね」
モバP「はは、なんだそりゃ」
加蓮「……」
凛「それでね、私が……」
加蓮「……」
凛「……? 加蓮、どうしたの? さっきから黙ってるけど」
加蓮「うん? いや……凛にしてはテンション高いなって思って」
凛「そんなことないでしょ」
モバP「いや、今日の凛はいつもと比べてだいぶテンション高いぞ、良く話すし、心なしか声色の高い気がする」
凛「え? そう……?」
加蓮「そうそう、いつもは仏頂面でプロデューサーやアタシの話の聞き役に回ってることが多いのに、今日はアタシの入る隙間がないし」
凛「仏頂面って……」
モバP「まあ仏頂面は言い過ぎにしてもクールに構えてることが多い凛にしては珍しいってことさ、何か良い事でもあったのか?」
凛「良い事……まあ、良い事っていうか、吹っ切れたって感じかな」
加蓮「え、なにそれ……まさか恋バナ?」
モバP「何!?」
凛「そんなわけないでしょ……あ、でもある意味あってるか」
加蓮「え、ちょっ、マジ? 冗談で言ったんだけど……」
モバP「お、おい、凛! 場合によっては話を聞かなくちゃいけないかもしれないんだが……」
凛「大丈夫だよ、スキャンダルとか2人が想像してるような事じゃないし、本当に些細なことだから」
加蓮「……」
モバP「そ、そうなのか? ……うーむ、それなら凛を信用するけど」
凛「信用していいよ」
加蓮「……なんか気になるわね」
凛「なにもないってば」
加蓮「でも、凛って昨日からちょっと様子おかしかった気がするのよねぇ」
凛「……」
モバP「まあまあ、凛が何でもないって言うのならそれを信用してあげようぜ……ちょうど事務所にも着いたな、奈緒が待ってるぞ」
ガチャ
奈緒「……チュ」
モバP「……うん?」
加蓮「……え?」
凛「……」
奈緒「…………へ?」
加蓮「な、奈緒? アンタ、今スマホに……」
奈緒「み、みんな、なんでこのタイミングで!? あ、い、いや、これは違う! 誤解だ!」
凛「……」
ブルルル
モバP「あれ、メール……奈緒から?」
加蓮「マジで? まさかさっきの……」
奈緒「わー! 見るなー!」
凛「……」
奈緒『いつになったら帰ってくるんだよ! いい加減待ちくたびれたぞ!』
加蓮「……奈緒、アンタやっぱりさっきキスタップを……」
奈緒「ち、違う、違うんだ! これはその……で、出来心で……」
加蓮「前にあり得ないとか言ってたじゃん……」
奈緒「い、い、いや、それは、その……」
加蓮「それなのに自分からやるとか……」
奈緒「だ、だから、ち、違うぅ~、あああ……」
モバP「か、加蓮、事情はよくわからないがその辺にしておいてやれ……このままだと奈緒が壊れそうだ」
加蓮「う、うん」
凛「……」スッ
モバP「凛?」
凛「奈緒」
奈緒「凛……? なんだよお、凛もあたしのこと軽蔑するのかよお……いいさ、どうせあたしは……」
凛「ううん、そんなことしないよ」ダキ
奈緒「え? り、凛……?」
凛「ほんの出来心だったんでしょ? その気持ちわかるよ」
奈緒「凛……」
凛「気になったらやってみたくなっちゃうもの、仕方ないよ、誰も奈緒のことを笑わないから安心して」
奈緒「で、でも、加蓮が……」
凛「加蓮!」
加蓮「な、なに?」
凛「今のキスタップを見てどう思った?」
加蓮「ど、どうって、正直引い……」
凛「……」ギロ
加蓮「……じゃなくて、えーと……うん! な、奈緒らしいなって思った、奈緒はほら、ちょっとツンデレ入ってるし、こう……いじらしい感じがでてたっていうか……うん……」
凛「ほら、加蓮は別に変じゃないって言ってるよ」
奈緒「ほ、本当か……?」
凛「本当、奈緒、仲間を信じて」
奈緒「……じゃあ、プロデューサーは……? あ、あたし、プロデューサーに引かれたら生きていけない……」
凛「プロデューサー!」
モバP「お、おう」
凛「引いてないよね?」
モバP「いや、そのいまいち事情が……」
凛「プロデューサーはキスタップで引かない人だよね!?」
モバP「い、今のはキスタップっていうのか? ……も、勿論引かないぞ、俺の自慢のアイドルがすることだ、引くものか」
凛「ほら、奈緒、聞いた? プロデューサーも引いてないって」
奈緒「……よかったあ、よかったよお~」
凛「うん、みんな奈緒の味方だからね」
モバP「……加蓮、この状況は一体何なんだ?」
加蓮「……えーと……」
…………
モバP「へえ、キスタップっていうのか……こんなものがあったとはな」
凛「プロデューサーは知らなかったんだ」
モバP「流行には敏感になってたつもりだけどな」
加蓮「まあ仕方ないよ、アタシらも凛以外はこの雑誌見て知ったんだし」
モバP「それで奈緒はその雑誌を興味を持った、と」
奈緒「……凛から雑誌を貰ってさ、家とかで読んでたらだんだん気になってきて……」
凛「奈緒、キスタップは恥ずかしい事じゃないよ」
奈緒「お、おう、ぜ、全然恥ずかしい事じゃないよな!」
凛「それとキスタップする時はスマホの画面を清潔にね、これもあげるか」
奈緒「なんだこれ?」
凛「スマホ用の除菌クリーナー、これで綺麗にするといいよ」
奈緒「あ、ありがとう」
凛「あと唇が湿ってると反応しにくいからね、リップとか塗った後はしない方がいいよ」
奈緒「そうなんだ……」
加蓮「……なんだか凛ってキスタップについて詳しすぎるのよねぇ」
モバP「雑誌に書いてあることを読んだんじゃないか? もしかしたら凛も少なからず興味があったのかもしれないな」
加蓮「……うーん」
モバP「……それに、これはもしかしたら使えるかもしれないぞ」
加蓮「え?」
………
街中
凛「ほら、プロデューサー、行くよ」
モバP「待て待て、そんなに急いだってお店は逃げないだろ」
凛「お店は逃げないけど時間は限られてるでしょ」
モバP「おいおい、何の為に今日を丸一日オフにしたと思ってるんだ」
凛「分かってるよ、でもだからこそ一秒も無駄にしたくないの」
モバP「はは、まったく凛はよくばりだな……お、凛、あのポスター見てみろよ」
凛「え? ああ……加蓮がキスタップしてるね」
モバP「見事に流行ったなあ、キスタップ……やっぱりあの時の取材でキスタップの事を話して正解だったな」
凛「いや、それプロデューサーが言う? ……プロデューサーが取材でキスタップの事話せって指示したんじゃん」
モバP「やっぱりインパクトが重要だよな、下手すれば引かれるだけかもしれないし、ちょっとした賭けだったけど、良い方向に転んでよかったよ」
凛「取材した時は、奈緒は顔真っ赤にしてたし、加蓮の笑顔は引きつってたけどね」
モバP「まあ、あの2人はな……でも凛は割とあっさりしてたよな、平然とキスタップの説明してたし」
凛「……まあね」
モバP「トライアドプリムスの影響力も再確認できたし、収穫は大きかったな」
凛「なんか自画自賛してるみたい」
モバP「否定はしないよ、でも凛ももっと自信をもっていいんだぞ?」
凛「はいはい」
モバP「……」
凛「……」
モバP「……」
凛「……というか、いつまで見てるの?」
モバP「いや、だっていいモノだろ、自分の手塩にかけて育てたアイドルが街中のポスターで貼られてるなんてさ」
凛「……ニヤニヤしてて気持ち悪いんだけど」
モバP「ニヤニヤしてたか? いやでも実際こういうことはプロデューサー冥利に尽きるというか……」
凛「……」
モバP「り、凛……なんだか蔑んだ目で俺の事見てないか?」
凛「別に? そんなに加蓮のポスターが見たかったらずっと見てればいいんじゃない?」
モバP「え、あ……」
凛「プロデューサーのことなんか知らない、私、1人で買い物するから」
モバP「ま、待ってくれ、凛、機嫌直してくれ……」
凛「……」
モバP「凛の買い物なのに他の事に気をとられたのは悪かった、反省してます、この通り」
凛「……本当に反省してる?」
モバP「反省してます、本当に」
凛「……反省してるのなら、その気持ちを見える形にすべきだと思う」
モバP「そ、それもそうだな……よし何かプレゼントしよう、何がいい?」
凛「そういうのいいから、まず行動で示して」
モバP「……というと?」
凛「……あれ」
モバP「加蓮のポスター……? に何かするのか?」
凛「じゃなくて、加蓮がしてる事」
モバP「……え、キスタップ?」
凛「うん」
モバP「……をするのか、俺が?」
凛「うん」
モバP「り、凛、それは……」
凛「そもそもアイドルに指示させておきながら自分がやらないとかありえないよね」
モバP「うぐ……いや、でもああいうのは凛たちのような可愛い女の子がやるから様になるのであって俺のようなおっさんがやっても……」
凛「反省してないんだ?」
モバP「……してます、やります」
凛「よろしい」
モバP「えーと……それでここでやらないとダメか? ちょっと人目があるというか……」
凛「そうだね、ここでやるのは目立つから今はやらなくていいよ」
モバP「よかった……」
凛「その代り、これから一週間メールは全部キスタップで送信してね」
モバP「い、一週間もか!? さすがに長くないか……?」
凛「じゃあここでする?」
モバP「……一週間やり続けます」
凛「よろしい……まあでも、プロデューサーはいろんな人とメールするし頻度も多いから全員をキスタップで返すのは大変だよね?」
モバP「ああ、そうだな……」
凛「だからキスタップは私にメールを返す時だけでいいよ」
モバP「本当か? よかった……それなら何とかできそうだ」
凛「うん、それじゃあ約束だから、絶対に破らないでね?」
モバP「もちろんだとも」
凛「……ふふふ、それじゃあ、買い物行こっか?」
モバP「おう……気を取り直していこう」
END
後日談
美嘉「はあ……」
凛「最近ため息多いね、どうしたの?」
美嘉「あ、凛……実はまた莉嘉の事でさ……」
凛「……まさかまたキスタップ?」
美嘉「うん……あ、そういえば凛ってキスタップやってたんだっけ」
凛「……まあね」
美嘉「ふふ、みんな言ってたんだよね、さすがに今回はプロデューサーやりすぎたんじゃないかって」
凛「どういうこと?」
美嘉「だから先週発売した雑誌に書かれてたアレ、トライアドプリムスがキスタップしてるってやつ……あれさ、プロデューサーの指示で言わされたんでしょ?」
凛「言わされたっていうか、まあ指示はあったけど……」
美嘉「わかってるって、凛とかそういうのするタイプじゃないもんね、意外と加蓮とかマジでやってそう……あ、これ加蓮には内緒ね」
凛「……うん」
美嘉「それでさ、あの雑誌を莉嘉が見せてきて『やっぱり流行に遅れてたのはお姉ちゃんのほうじゃん!』って」
凛「……何かゴメン」
美嘉「いや、凛たちを責めてるわけじゃないよ? ……それでまあ凛たちがやってるって事なってるから否定もできなくてさ、仕方なくこっちが引いたわけ……そしたら莉嘉がますます調子に乗ったの」
凛「どうしたの?」
美嘉「スマホにネックストラップつけてさ、イヤホンもつけたの」
凛「それは別に変なことじゃないと思うけど」
美嘉「それでプロデューサーと電話をする時に通話ボタンをキスタップで押し始めたのよ」
凛「……」
美嘉「あの雑誌だとメール送信する時にだけやるって話だったじゃん? それなのにこのままだとことあるごとにキスタップをやり始めるんじゃないかと思って……」
凛(ネックストラップで首からかけることで口の前にスマホを持っていきやすくして、さらにイヤホンをつけることで耳に当てるという動作を無くす……)
凛(……つまりプロデューサーの名前を確認してからごく自然な動作でキスタップで応答して、終わったら流れるようにキスタップをして切ることができる)
美嘉「あれ、凛、聞いてる?」
凛「……美嘉」
美嘉「なに?」
凛「莉嘉ちゃんの発想は天才のソレかもしれない」
美嘉「……はあ?」
凛(レッスン終わったら携帯ショップに寄らないと)
美嘉「???」
………
事務所
モバP「……レッスン終わったら迎えに行くから連絡してくれ、と……」トントン
モバP「……チュ」
メールを送信しました
モバP「ふう、約束とはいえ、やっぱり慣れな……」
ちひろ「……」
モバP「あ!? ち、ちひろさん、いつの間に!?」
ちひろ「戻ってきたのはついさっきですけど……」
モバP「そ、そうなんですか……」
ちひろ「……プロデューサーさん、今……」
モバP「い、いや、あれは違うんですよ!? 凛がですね……」
ちひろ「……凛ちゃんへのメールにしてたんですか?」
モバP「はい……あ、いえ、ですから、これは自発的にやったものではなく……」
ちひろ「……いえ、私は何も見てないので、どうぞお気になさらずに……用事を思い出したのでこれで失礼します」
モバP「は、話を聞いて下さい、ちひろさーん!」
END
乙です
冬場に自転車で手袋でスマホにタッチ出来ない時に何となくやってたけど
これブームになってたのか
>>74
いや、これはあくまでSSの中の事なのでブームにはなっていないです
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません