ジャン「討伐数1!」(66)


アニ「なぜかこの世界では、好かれたいって思えば思うほど相手は離れていく。どうしてこんな茶番になると思う?」

ジャン「どうしてだ!?」

アニ「それが人の本質だからでは?」

ジャン「そういう、……もんかよ」

アニ「よく考えてみな。だから、自分は蚊帳の外でも、ああやって流すもんさ。ダズをごらんよ」


ダズ「~♪」

ハンナ「フランツったら昨夜はほんとすごかった。訓練でへばらないでね」

フランツ「大丈夫だよハンナ。今晩はもっともっと、君を喜ばせてあげよう」

ハンナ「いやだもう! 昼間っから」

ダズ「~♪~」


ジャン「すげえ…… 目の前でイチャついてるバカ夫婦を完全に流してやがる」

アニ「あの境地に達すれば、あんたにも見えてくるものがあんだろ。せいぜい頑張りな」

ジャン(そうか。無駄にイラついてるだけ損ってことか。で、何が見えるんだ?)



ジャン・キルシュタインの苦行一日目。



ミカサ「エレン、スープで服が汚れる。私のハンカチを首に巻いて」

エレン「おい、大勢の前でこっぱずかしいことやめろよ。お前は俺の母ちゃんか」

ジャン「エレン、ミカサの好意は素直に受けろよ」

ミカサ「あなたには関係のないこと」

ジャン「……そうだな」


ミカサ「ほら、エレン私の言う通りにして」

エレン「うるせえなあ!」


ジャン「」ガタッ

コニー「どうしたんだ……?」

ジャン「便所行ってくる」



~~便所~~


ジャン「グァァァァァァァァァァァァァァァあのクソ死に急ぎ野郎なぜ生きてやがるさっさと死んじまいやがれエェェェェェェェェェ!!!」


ハァハァ


ジャン(駄目だこんなことじゃ…… 流さなけりゃ、あの境地に到達できない)


ライナー「……」



~~食堂脇の廊下~~


ライナー「アニ。今度は何をやらかしたんだ」

アニ「人間が本当に変われるのかどうか試してるんだよ」

ベルトルト「ジャンが発狂するまでに何日かかるか試してるの?」

アニ「そんなに簡単に狂ったりしないだろ」

ライナー「あのな、人間の心ってのは複雑にできてるんだ。格闘術の原理をそのまま人間関係に応用するのか?」

アニ「言ったろ? 私らは先の短い殺人鬼だって。人間同士の信頼とかが簡単に壊れちまうもんなら、私らの任務も早く片付くってもんじゃないか」

ライナー「お前…… 鬼畜ぶりに一段と磨きがかかったようだな」

ベルトルト「でも、壁内で内戦が勃発したりすれば、かえって僕らの手間も省ける。アニの言うことにも一理あるよ」

ライナー「やたらとアニの肩を持つなお前。……俺は知らんぞ、アニの好きなようにやれ」



その夜。


ジャン(夜になると浮かんでくるミカサの黒髪、あの黒い瞳。ああ眠れない! いや、それが何だ! ……無になるんだ。無の境地に。あのダズのように……)

ジャン(……少し頭を冷やそう。夜風にでも当たるか)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ジャン(いい月が出てる。なのに俺の頭の中はミカサでいっぱい……)

ジャン(?)

ジャン(……たとえばあの月がミカサだとする。俺の目には月しか見えない)

ジャン(それで、そのまま頭の中を月でいっぱいにしちまったら?…… !)


ジャン「消えた!? 消えたぞ! これが……?」

ジャン「いや違う…… 何だ? 何なんだこの感動は……!? 世界がまるごと俺のものになったみてえに!」


一筋の月光が少年を照らし、奇跡が起こった。

時に849年×月○日夜。



人類は新しい時代を迎えた。



~~2日後。朝食時の食堂~~


ミカサ「エレン、私のパンを半分あげる」

エレン「お前、自分が食わなきゃ駄目だろ! 訓練持たねえぞ」

ミカサ「いいの。エレンこそ力をつけなくては駄目」

ジャン「……要はさ、把手の握りだと思うんだ。俺の手に合うやつを申請しようかと……」

マルコ「それで斬撃の深さに違いが出るのか?」

エレン「明日は俺のパンを半分やるからな」

ミカサ「私のことは気にしなくていい。エレンは自分の力を伸ばすことだけ考えて!」

ジャン「肝心なのは刃を入れる角度だ。刃筋を生かさないとうまく削ぐことはできねえ」

マルコ「なるほど。そのためにはまず握りだな……」

アルミン(どうしたんだジャン? 目の前で家族ごっこしてるエレンとミカサを完璧に流してるなんて! 何があったんだ)

ライナー「……」



~~女子寮~~


ミーナ「ねえ、このごろジャン少し変わったと思わない?」

クリスタ「そうかしら?」

ミーナ「なんかかっこよくない? 目元が涼しくなったっていうか、すごく落ち着いた感じで」

クリスタ「そう言われてみればそうね。前みたいにギラギラしてないし」

サシャ「もう3日もエレンと喧嘩してませんよ」

ミーナ「ミカサ、このごろのジャンをどう思う?」


ミカサ「別にどうとも。興味がないので」

ミーナ「ひどい……」

ユミル「今の言葉を当人に聞かせてやりてえな」

クリスタ「案外、全然平気で流すんじゃない?」

ミカサ「とにかく、私に言えるのは」

その他女子「?」

ミカサ「柄にもない真似はすべきでないということ。余計に気持ち悪くなるだけ」

その他女子「」


アニ「……」


ライナー「おいジャン」

ジャン「何だ」

ライナー「お前このごろどうした。何かあったのか」

ジャン「何かって言われてもな…… 別に何も」

ライナー「隠さなくてもいいだろう。お互い兵士だ。最近女子の間でお前の人気がうなぎ上りなのはなぜか、知りたくもなる」

ジャン「人気? さぁ俺には興味ねえな」

ライナー「興味ないだと? お前何様のつもりだ。……俺の得た情報によると、女神クリスタがお前のことを『最近かっこよくなった』と言ったそうだが」

ジャン「それが?」

ライナー「『それが』!? 女神クリスタにここまで言わせて、きっ、貴様…… その言い草が許されると思うか!」

ジャン「おいおい、そんな興奮すんなよ。何か気に障ったんなら許してくれ」

ライナー「柳に風と受け流すその態度、やはり以前のジャンではないな。だが…… ミカサ一筋であることに変わりはあるまい」

ジャン「ミカサか? いやあ、最近は特に興味もねえな」

ライナー「!」



ミカサに興味がない! あのジャンが!

このニュースは電撃の如く104期の間を駆けめぐった。


ミカサに興味が無くなったジャンはそもそもジャンなのか?

そんなジャンが生きてていいのか?



ベルク新聞は1面トップでこれを報じた。

「ミカサに興味がない」
キルシュタイン訓練兵が発言
104期に衝撃走る


静まり返る兵舎
「最近はお通夜みてえだ」──スプリンガー訓練兵語る


「別にどうとも思いません」
アッカーマン訓練兵に単独会見──本紙


無駄にかっこいいともっぱらの評判
最近のキルシュタイン──某女子訓練兵



──というのは冗談として、ジャンのひと言が訓練兵団内に小さからぬ波紋を投げかけたのは間違いない。


だが…… これは大いなる出来事の序章にすぎなかった。



ジャンの衝撃発言から3日後の深夜。


教官たち「非常呼集! 全員起きろ!」

訓練兵たち「!」

教官たち「大至急訓練場に整列せよ!」

訓練兵1「何があったんだ」

訓練兵2「まさか…… 巨人の襲撃!?」

訓練兵3「じょ、冗談やめてくれよ、まだ死にたくねえよ!」



~~訓練場~~


キース「先ほど、被験体として捕獲していた巨人3体が脱走したとの緊急連絡が調査兵団から入った。現在、駐屯兵団と合同で捜索中だが、お前たちにも協力してもらう」

訓練兵たち「えー!」

キース「うろたえるな! 前線に出れば巨人との接触は避けられん。実戦を知る機会だと思え、心臓を捧げよ!」

コニー「見張ってなかったのかよ……」

サシャ「ああ、死ぬ前にお肉食べたかった、極上パンもっと食べたかった」

ダズ「ひでぇとばっちりだよ! みんな死んじまうんだ!」

ジャン「……」



訓練兵たちは2人一組となって捜索に当たったが、巨人を発見できないまま朝を迎えた。


コニー「どこかで巨人見つかったのか? 何とか出会わずに済んでるが。うう……、眠いぜ畜生」

マルコ「眠っちゃ駄目だコニー、日が昇ると巨人は活動が活発になるらしいからな」

トーマス「おーいコニー、マルコ」

マルコ「トーマスだ! あいつ一人でどうしたんだ」

トーマス「お前らジャンの姿見なかったか?」

コニー&マルコ「いいや」

トーマス「あいつどこへ行きやがったんだ! 俺の相方だったんだが急に姿を消しやがって」


コニー「クソでもしてんじゃねえか」

トーマス「それにしちゃ長いぜ」

マルコ「まさか! 巨人に?」

トーマス「冗談やめろよ…… でももしそうなら、巨人はこの近くに……!」

コニー&マルコ「ひぇぇぇぇぇ!」

コニー「お、俺、教官のところに報告に行ってくるわ、巨人が接近の可能性」

マルコ「おいコニー、敵前逃亡の疑いをかけられるぞ」

トーマス「とにかくよ、もう朝だし状況報告ってことでいいんじゃないか? で、ジャンが行方不明って言えば」

マルコ「そうしよう!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


キース「キルシュタインが行方不明だと?」

トーマス「はい、自分と一緒に行動していたのですが急に姿が見えなくなって」


エレン「ほーう、あいつ巨人に食われたのか。人のことさんざん死に急ぎ野郎とか言ってたくせに」

アルミン「エレン死亡判定早すぎない?」

ミカサ「いいえアルミン、世の中はえてしてそういうもの」


訓練兵4「ジャ、ジャンが戻りました!」

キース「! そうか、あのバカめ心配させおって」

エレン「なぁんだ……」

訓練兵4「そ、それが」

キース「どうした?」

訓練兵4「巨人連れてきました! 3体とも!」

訓練兵たち「!!??」


ジャン「教官、遅れて申し訳ありません」

キース「き、貴様…… その巨人は何だ? 拘束したのか……?」

ジャン「いいえ」


「ヒィィィィーーーッ」(後ずさりする訓練兵たち)


ジャン「拘束はしてませんが、大人しいので心配ありません。どうしても心配なら鎖で縛ってもいいでしょう。抵抗しないはずですよ」

キース「お前いったい、どうやって」

ジャン「どうやって、ですか。特にはありませんが、こいつらと友達になったのには違いありませんね」

キース「友達?…… だと……?」

教官たち「とにかく荷馬車の用意だ! 拘束用の鎖も持ってこい!」



────────────────────────────────────



ジャン「じゃあお前ら元気でな。もう脱走なんかすんなよ」

檻の中の4m級「ウウウ…… ウアウ」

トーマス「お前いったいどんな手品使ったんだ? 本当に、巨人を手なずけたのかよ!」

ジャン「手品でも何でもねえよ。ただ、俺はあいつらと友達になったんだよ」

マルコ「ひどいなジャン! 今までそんな大それた芸を僕に黙ってたのか」

ジャン「おいおい落ちつけよマルコ。俺だって巨人に出くわしたのは初めてだったけどよ、わりといい奴らだったんだ」


エレン(いい奴らだと? ふざけんな。ぜってぇおかしい。何かあるぜ)


その日の夕刻。


キース「キルシュタインはいるか」

ジャン「はい!」

キース「面会人だ。私の部屋まで来い」



~~キースの部屋~~


キース「彼がその当人だ」

ジャン「訓練兵団第104期訓練兵ジャン・キルシュタイン、トロスト区出身であります!」

エルヴィン「ほう、君が」

リヴァイ「見たところ何の変哲もねえガキだ」

ミケ「特に変わった匂いはしないぜ」

ハンジ「どう見ても人間だね! 1.7m級なんてのでもなさそうだ」

エルヴィン「我々は調査兵団上層部の者だ。まあ、掛けたまえ」

ジャン「失礼します」

エルヴィン「昨夜来の脱走騒ぎでは、君の働きで無事に被験体を回収することができた。感謝している」

ジャン「恐れ入ります」


エルヴィン「我々はこれを非常に不思議なことと受け止めている。なぜ巨人が無抵抗で君に従ったのか。君は巨人と接触した時にどうした?」

ジャン「突然のことではありましたが…… とにかく自分は彼らに友情をもって接し、彼らも友情をもって返した、という以外にありません」

リヴァイ「おいガキ。適当なことを抜かすと張り倒すぞ」

ハンジ「まぁまぁ…… でもね、本当に不思議なんだけど、あの子たち本部に到着したらまた元通り凶暴になってね。大人しくさせるのにひと苦労だったんだよ」

リヴァイ「てめぇに友情ってやつが足りねえんだろきっと」

ハンジ「あはは! そんなつもりはないけどなぁ」

エルヴィン「君は訓練兵課程の3年目だったね?」

ジャン「はい」

エルヴィン「希望兵科は?」


ジャン「以前は憲兵団を希望していましたが、最近は、どうしようかと」

ミケ「調査兵団なんかどうだ? ここにいるおじさんおばさんたちが優しくしてくれるぜ」ケッケッケ

エルヴィン「まだはっきりと決めていないわけか?」

ジャン「はい」

エルヴィン「実はね、既にキース教官の承諾は得ているのだが、……我々の次回壁外調査に参加してみる気はないか?」

ジャン「自分が、ですか?」

エルヴィン「驚くのも無理はない。訓練兵が壁外調査に参加するなど前代未聞だし、制度上無理がある。そこで、君には訓練兵身分のまま調査兵団特別兵属を兼務してもらうことにした」

ジャン「特別兵属……?」


リヴァイ「諦めろ。もうお前は俺たちと壁外調査に参加することになったんだよ」

ミケ「嫌とは、言えねえぜ」

リヴァイ「おいグズ野郎、てめぇのしてえことは何だ?」

ハンジ「ごめんよキルシュタイン君、彼はこう見えて照れ屋でね。今のは『君と一緒に仕事がしたい!』っていう熱い気持ちの、彼一流の言い回しなんだ。理解してあげて!」

リヴァイ「うるせえぞクソメガネ……」

エルヴィン「まあ、そう難しく考えることはない。兵属といっても正式に調査兵になったわけではないから、君の身の安全は最優先する。聞こえは悪いがお客さんだからな。その上で、少しばかり我々の手伝いをしてもらいたいんだ」

ジャン「分かりました。謹んでお受けいたします」

ミケ「要は見学だよ見学。壁外の。俺たちががっちり護衛してやるからさ」

リヴァイ「万一のことがありゃエルヴィンがこのハゲに叱られるからよ。心配すんな」

キース「何……だと?」



こうしてジャン・キルシュタイン訓練兵は、調査兵団兵属の身分を得て第○○回壁外調査に参加することになった。



エレン「壁外調査に行くだぁ!?」

ジャン「ああ」

エレン「てめっ、まだ訓練兵なのに……? エルヴィン団長に金でもつかませたのかよ?」

ジャン「仕方ねえだろ。幹部連中に圧迫されて文句一つ言えねえ状況だったんだから」

キース「キルシュタイン。エルヴィンたちがお前用に制服を置いていった。当日はこれを着ろ」

ジャン「ありがとうございます」

アルミン「見せて見せて! へええ、これが自由の翼…… ジャン、もう憲兵団行きたいなんて言ったら殺されるよ?」

マルコ「露骨な青田買いだな」

エレン(何でだ、何でだよちっくしょおおおお!!!)



~~物陰~~


ライナー「おい。これはどういうことだ」

アニ「私に聞かれたって…… 何が何だか分からないよ」

ライナー「お前が余計なこと吹き込まなきゃあいつはボンクラのままだったはずだぞ!」

アニ「そりゃあないだろ!」

ベルトルト「しかしこれは大変な発見だよ。故郷には伝書鳩送っとこう」

ライナー「『ある日突然覚醒した』って程度でいいだろう。責任追及される羽目になったら最後だ」

ベルトルト「どっちみち、お前ら何やってたんだって言われるだろうけどね……」

アニ「いいよ! 全部私が引っ被るから」

ベルトルト「アニ!」

ライナー「こうなるともう、一つの才能だなアニ。それにしても大変なことをしてくれたもんだな!」

ベルトルト「やれやれ。『新たな脅威が見つかりました』っと……」



~~5日後の早朝。トロスト区開閉扉前~~。


エルヴィン「開門!」


ゴゴゴゴゴ


ミーナ「ジャンがんばれー!」

コニー「食われんじゃねえぞー!」

サシャ「巨人に食べられたら、ジャンのパン貰っちゃいますよー!」


エルヴィン「第○○回壁外調査を開始する。前進せよ!」



ドドドドド


マルコ「本当に行っちゃったよ。大丈夫かなあいつ」


ライナー「行ったな。アニは?」

ベルトルト「一応、巨大樹の森で待機するって。様子見だけだよ」

ライナー「何かの間違いだといいんだが……」

ベルトルト「そう祈るしかないね」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



~~翌朝。訓練兵団の教官室~~


キース「死傷者ゼロ、しかも被験体を2体確保とは……」

エルヴィン「ええ。すべて彼のお陰です」

キース「キルシュタイン、よくやったな」

ジャン「光栄です」


キース「そこでだな、お前の考えを聞きたい。訓練兵団には、受け入れ先の兵団長の推薦で卒団を繰り上げる特例がある。エルヴィンはお前を推薦したいそうだ」

ジャン「……」

キース「この特例からは多くの団長や師団長を輩出している。出世の最短経路だ。どうする?」

ジャン「正直なところを申し上げてよいでしょうか」

エルヴィン「言ってみたまえ」

ジャン「今のところ、どの兵科に所属したいという考えもないのです。訓練課程を終えた後は民間人になりたいと考え始めていて」

キース「何だと貴様!? 公に心臓を捧げるのが兵士の務めだぞ!」

ジャン「心臓を捧げたいとは思っています! でも、巨人であれ人間であれ、殺すということに、最近は違和感を覚え始めていて……」

キース「では何のために貴様は訓練をしているのだ?」

ジャン「自分が生き延びるためとは、思うのですが」


キース「貴様、人もうらやむ幸運を手にしておきながら、何という……」

エルヴィン「キース教官、彼を責めないでいただけますか。今回の壁外調査を成功させることができたのは、ひとえに彼のお陰なのです」

キース「むぅ……」

エルヴィン「キルシュタイン。君にも突然のことで、まだ戸惑いが大きいのだろう。まあ、慎重に考えたまえ。我々はいつでも君を受け入れる用意がある。これは覚えておいてほしい」

ジャン「ありがとうございます……」

エルヴィン「キース教官、きょうはこれくらいでいいでしょう。昨夜はうちのハンジが相当責めたてたようなので、彼も疲れている」

キース「そうか、きょうはゆっくり休め。……お前は人類の希望になるかもしれんのだ。私情だけで判断してはならんぞ」

ジャン「分かりました。それでは、失礼します」ガタ


バタン


キース「うーむ。なかなかすんなりとはいかんな……」

エルヴィン「私もそれほど楽観はしていませんでした。難しい年頃でもありますし」

キース「あまりせっつくのも考えものだな」


エルヴィン「ええ。こちらも気長に待ちたいと思ってます。……それから、突出した能力というのはえてして心得違いな嫉妬や反感の的となりやすいので、この点は皆さんとしてもどうかご配慮を」

キース「……分かった。注意しよう」



コンコン


キース「誰だ」

声「お忙しいところすみません、私、ベルク新聞社の者です」

キース「新聞屋だと? そんな奴に用はない、帰れ!」

声「よろしいんですか? エルヴィン団長もそちらにおられますよね? 何でも壁外調査ではかなりの成果を上げられたとか」

キース「何の話だ…… 入れ」


ガチャ


中年男「どうも。ストヘス区支所のロイと言います。いやーエルヴィン団長、ありゃ本物の金の卵のようですな……」



~~兵舎~~


コニー「戻ってきたぞ……」

トーマス「英雄のご帰還だな」


ザワザワ
ケガヒトツシテネーゾ
ホントニジッセンガエリカヨー


マルコ「お帰り、ジャン」

ジャン「おう」

マルコ「……寝てないのか? 目が真っ赤だぞ」

ジャン「ハンジって分隊長に一晩中付き合わされたんだよ」

マルコ「尋問でもされたのか?」

ジャン「尋問つうより、拷問だよ。食事の好き嫌いから両親の性格、果ては『女性の好みは』『精通はいつあった』『自慰は毎日するのか』なんてことまで……」

マルコ「何だそりゃ」

ジャン「そんなことよりマルコ、ちょっと聞いてくれ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


マルコ「繰り上げ入団? すごいじゃないか!」

ジャン「そんなにありがたいもんか?」

マルコ「確かに調査兵団じゃあな。将来の団長が約束されてるからって、戦死しないとも限らない……」

ジャン「いや、俺が考えてるのはそんなことじゃねえんだ」

マルコ「じゃあ何だ?」

ジャン「俺は見ちまった…… 壁外で俺が大人しくさせた巨人を、調査兵たちが寄ってたかってなぶり殺しにするところを。俺はその場でゲロを吐いた」

マルコ「ジャン……」

ジャン「そんな感じで10体は殺された。それが俺の戦果なんだそうだ。討伐補佐数をつけてやるって言われたが辞退したよ」

マルコ「いいのかそれで?」

ジャン「マルコ。俺はもう殺すのはまっぴらだ。訓練課程が終わったらどこの兵団にも入らず別の仕事に就きたい。開拓地だって構わねえと思ってるんだ」

マルコ「何を言い出すんだよ…… 殺されたのは巨人だろ?」


ジャン「お前な、そうは言うが自分の家族や友達を巨人に殺されたりしたのか?」

マルコ「だって、人類の敵だろうが!」

ジャン「あの死に急ぎ野郎やアルミンたちにはそうだろ。だが、俺がこの前会った巨人は、ただのいい奴らだった。調査兵団の団長が言うみてえに、俺は特別なのかもしれない。でもあの人らが考えてるのは、俺にだまされた巨人を皆殺しにしようって計画なんだよ。……駄目だ。そんなの俺には耐えられねえ」

マルコ「でもその計画が成功すれば、……お前は英雄で、救世主として名が残るぞ」

ジャン「マルコよ。お前自分がそうだったとして、それでいいのか?」

マルコ「!……」

ジャン「巨人をだまし討ちにして英雄になって、嬉しいか?」

マルコ「ウォール・マリア陥落で20万人以上の人が死んでるんだ。……甘えたこと言うなって言われりゃ、どうにもならないよ……」

ジャン「……確かにな」



そして翌日のベルク新聞に特ダネ記事が掲載された!



訓練兵団に救世主現る!
巨人を手なずける異能の持ち主
第○○回壁外調査は大成功!



この記事を読んだある者は「ようやくマリアの我が家に帰れる」と狂喜し、ある者は穀物相場が暴落すると言って狼狽し、ある者(キース)は激怒した。

そして訓練兵団には、救世主の姿を一目見ようという群衆、後追い取材を命じられた報道機関の記者どもが大挙して押し掛け、辺りは興奮と混乱の坩堝と化した!


「救世主様はどこだ!?」

「キルシュタイン聖者様、一目お姿を!」

「出てきてくだされぇ! わしの畑を、取り戻してくだされぇ!」

「キルシュタイン訓練兵いるんですよね? 取材に応じてくださいよ! あなたにはね、我々に応対する義務があるんですよ!」



~~キースの部屋~~


キース「あのクソ記者め勝手なことを書き散らしおって…… 昨日のうちに叩き殺しておくんだったわ」

教官1「もう、キルシュタインを出さないと引っ込みがつきませんよ。このままだと庁舎内に乱入してきかねない」

キース「やむを得んか」

教官2「取って食われるわけでもありますまい。彼に任せましょう」

キース「そうするか……」



~~正門前~~


ザワザワ

オォーーッ



「キルシュタイン聖者様だ!」

「何!? どこに?」

「出てきたぞあの少年だ!」

「何という、……神々しいお顔……」

「わしには、神の光が見えるぞ!」

「聖者様!」

「救世主様! 我らをお救いくだされ!」


鉄格子の扉を隔てて群衆と対峙した少年は、厳しい表情で人々を見回してから、よく響く声で語りだしたと伝えられている。


以下、ジャン・キルシュタインの垂訓。



皆さん、静かにしてください!

いったいどうしたというんですか?

あなたたちのその不安そうな顔は? 何を怖れているんです?

あなたたちの顔を見ると、俺の心は悲しみに閉ざされます。

あなたたちはそうやって隣人を怖れ、憎み、刃を振るって斬り殺したりするんでしょう?

怖ろしいのは隣人ではなく自分自身だと思わないんですか?

怖れるのをやめられないんですか? やめられれば、心の中の霧が晴れていくみたいに、隣人の顔がよく見えてくる、そうは思いませんか?

巨人だって同じです! 怖れることなく自分を開いていけば、彼らだってそんなに変な連中じゃありません!

あなたたちも俺も世界の一部です。もちろん巨人も。そうやって受け入れれば、怖れることなど何もない。俺はそう信じています。

巨人も同じでした。皆さん。俺は決心しました。

俺は絶対に巨人も、人間も殺したりしない。なぜって? 心が通じ合える、理解し合えるからです!

だから皆さんも奴らを受け入れてください。怖れないで!



しかし…… ジャンの言葉は、壁内民衆の心に冷たい怒りを呼び起こした。



「巨人を殺さねえだと! てめぇ税金で食ってる兵士だろうが!」

「世間知らずのガキが何寝ぼけたこと抜かしやがる!」

「てめぇなんぞにな、家も土地も奪われたもんの気持ちが分かるかよ!」

「俺の女房と娘は巨人に食われたんだぞ!」

「クソガキめこれでも食らえ!」


……投石が始まった。

ジャンはその場に立ちつくしたまま、涙を流しながら石つぶてを受けた。額に石が当たり、血が流れる。

やがて、悲しみに満ちた彼の表情に打たれたのか、群衆は顔を背けるようにして三々五々正門前を立ち去った。数少ない敬虔な人々だけがその場に残った。

そして、膝を折りうなだれるジャンの姿に涙を注いだ。


「聖者様。私は信じております」

「今のお言葉を、胸に刻みました!」



この一部始終が翌日の新聞各紙一面を飾ったことは言うまでもない。



~~調査兵団本部・団長室~~


ミケ「ふん。あの訓練兵すっかり時の人だな」

エルヴィン「やはり人の口に戸は立てられん。遅かれ早かれこうなるとは思ってたが」

ミケ「で、どうする。この記事だと記者や民間人の前でご大層な話を一席ぶったらしいが、少し手綱を締めた方がいいんじゃないか?」

エルヴィン「今は好きにさせておくさ。いずれ時期がきたらそうする」

ミケ「所詮はガキなんだ。巨人がみんなお友達になりゃ俺たちはお払い箱だってことに、聖者様が気を回してくれるとは思えん」

エルヴィン「それはずっと先の話だろう。今は彼が成果を上げれば我々の計画は評価され、予算もつく。人員増の件も早めに申請しておくつもりだ」

ミケ「エルヴィン、はぐらかすな。お前はこいつの考えを認めるのか?」

エルヴィン「まあ、ある程度は認めてやってもよかろう」


ミケ「調査兵団不要論が再燃したらどうする?」

エルヴィン「そんなことはさせん。我々が巨人のうなじを削ぐだけの集団だと考えるのは大変な心得違いだと反論してやる」

ミケ「通るのかそれで?」

エルヴィン「通すさ」

ミケ「そこは王都の思惑もあるだろうがな」

エルヴィン「まあな」



~~訓練兵団・訓練場の片隅~~


ライナー「見ろこの記事」

アニ「すっかり救世主気どりだね」

ライナー「本人は大まじめらしいぞ。お前確か、全部引っ被るって言ったよな?」

アニ「……」

ベルトルト「故郷から指令が来たよ」

アニ「何て?」

ベルトルト「……始末しろ、ってさ」

アニ「殺せってこと?」

ライナー「それ以外にあるか?」

アニ「あいつが元のボンクラに戻ればいいんだろ?」

ライナー「どうやって戻す? 妙案でもあるのか?」

ベルトルト「アニ、事態をよけいに悪化させるのだけはよそうよ。僕もライナーも全面的に協力するから」

ライナー「それにしても調査兵団が絡んできた以上、容易ではないぞ。……ん? エレンとミカサだ。怪しまれたか?」


エレン「ようお前ら。何深刻そうな顔してんだ」

ライナー「べ、別に深刻なことなどない。三人で故郷を懐かしんでただけだ」

エレン「そう言えばお前らそうだったな。……ところで、どう思う」

ライナー「何を」

エレン「その手に持ってる新聞の聖者様だよ」

ライナー「そりゃあ、あいつが巨人を手なずけて人類がマリアに帰還できるなら、こんな嬉しいことはないだろう」

エレン「そのわりには嬉しそうな顔に見えねえぞ」

ミカサ「『巨人と人間が共存する』…… どういう話なのか私には理解できない」

エレン「俺は目の前で母さんを殺された。お前らも故郷を奪われたって点では俺たちと同じ被害者だ。巨人との共存なんて考えられねえだろ?」

ライナー「まぁ、確かにそうだな。……言語道断だ!」

エレン「巨人は絶滅させるしかねえんだ! 違うかよ?」

ライナー「当たり前だ!」

エレン「何冷や汗かいてんだ?」

ライナー「冷や汗など、かいてない!」


エレン「そこでだ。俺はあの野郎の目を覚ましてやりてえんだよ。大方お前らもその相談してたんだろ?」

ライナー「い、いや、別に、そんなことはないが、確かに、最近のジャンを見てると少し、心配には」

エレン「図星みてえだな。どうだ。協力しねえか?」

ミカサ「……ジャンが調査兵団兵属となっている以上、これは反逆行為になりかねないと私は言ったのだけれどエレンは聞き入れなかった。……ので、私もエレンの考えを受け入れることに」

ライナー「……お前に何か妙案でも?」

エレン「ねえさ。だからここに相談に来てんだよ」

ライナー「何だよそりゃ…… アニ、ベルトルト、名案はあるか?」

ベルトルト「ないこともないけど……」

他の連中「!?」



5日経った。


ライナー「いよいよ決行だな」

ベルトルト「よくマルコが承知したね」

エレン「なあに、あいつも元のジャンに戻ってくれるなら協力は惜しまないってさ。あの野郎、最近は自分の行く末が気になって食事も喉を通らねえらしいから」


ミカサ「お待たせ。三人ともこれを着て行って」

エレン「何だ? この黒づくめの服は」

ミカサ「これは『ニンジャ』の装束。私たちの祖先が敵中に潜入したり諜報活動をする際着用したもの。今晩のような月の出ていない夜には、完全に闇に溶け込むことができる」

ライナー「お前のご先祖様に礼を言っとくよ。……着替えたか? では出発だ」

ミカサ「ご武運を!」



~~訓練場奥の林。物陰に潜む三人~~


エレン「来たぞ。うまいこと散歩に誘い出してくれた」

ライナー「手はず通りマルコは…… 兵舎に戻って行ったな。奴は一人だ」

エレン「よし…… やるぞ」


ダダッ


ジャン「? 何だお前たちは! うっ……」


ドサッ


ライナー「(小声)眠ったか……?」

ベルトルト「(同)大丈夫。薬の効果は僕が自分で試してみたよ。あっという間だった」

エレン「(同)俺たちが誰だか気付いてるわけはねえな」

ライナー「よし…… ではユミルのところに運ぶぞ」



~~時をさかのぼり4日前の夕刻。女子寮入口~~


ベルトルト「やあクリスタ」

クリスタ「どうしたの? 珍しい、ベルトルトが声を掛けてくるなんて!」

ベルトルト「……ユミルはいるかな」

クリスタ「なぁんだ! ユミルにご用なのね? 残念ですけど、いません」プンスカ

ベルトルト「ごめん、どこにいるか分かる?」

クリスタ「裏の山に登ってった。3日に一度は祭壇の前でご先祖様にお祈りをするの。私もついてきちゃ駄目なんだって」

ベルトルト「なるほどね…… 分かったよクリスタ、ありがとう」



~~訓練場裏にある山の中腹。洞窟の中~~


ベルトルト(深い…… こんな場所に聖所を置くとはさすがユミル様だ。気を引き締めてかからないと返り討ちに遭うな……)

ベルトルト(うん……? 灯りが見えるぞ。いたな!)


ユミル「誰だ?」

ベルトルト「僕だよ」

ユミル「何だベルトルさんか。よく来たね。茶でも飲むかい?」

ベルトルト「いや、いいよ。それよりユミル、話し方がオババ丸出しだよ。表向き16歳の乙女なんだろ?」

ユミル「ハッハ、ベルトルさんにかかっちゃかなわねえな。まあ、茶でも飲んでいきな。ところで、こんなところに何の用だい?」

ベルトルト「君にとっては決して悪くない提案をね、したいと思ってさ」

ユミル「へー、何だいドキドキするね」

ベルトルト「マルセルを食った件を不問にしてやってもいいよ」

ユミル「! ……お前らの仲間だったのか」


ベルトルト「今まで泳がせてたけど、僕らと同じ訓練兵団に入ったのが運の尽きだ」

ユミル「私を殺すのか?」

ベルトルト「だから不問にするって言ったろ?」

ユミル「そりゃありがたいね…… でも、どうせ条件があるんだろ」

ベルトルト「もちろん」

ユミル「どんな」

ベルトルト「実は困ったことが起きてる。君の力を貸してほしいんだ。どんなに奥深い人間の欲望も満たしてしまえるという、君の一族の秘法をね……」



──────────────────────────────────
───────────────────
─────────
───



ジャン(どこだここは…… あそこにいるのは誰だ?)

ジャン(祭壇みたいなものの正面に座ってるのは…… 女だな。裾がやたらと長い妙な衣装を着ている…… 祭壇からは煙が上がって妙な匂いが。香でも焚いてるのか)

ジャン(女の周りには蝋燭がやたらとたくさん立ってて…… 何してるんだ。? 女が立ち上がって…… こっちを振り返った!)



女「目が覚めたかい」

ジャン「お前はユミル! ……その厚化粧は何だ?」

ユミル「失礼だね、化粧なんてしてないよ。16歳の乙女に化粧なんて必要ないだろ?」

ジャン「嘘つけ、だいたいここは…… ? 何だ体が動かねえ!」

ユミル「駄目だよ。私の一族に1500年伝わる煎じ薬を吸い込んだんだから、ピクリとも動かせないよ? 一カ所を除いてはね……」

ジャン「な? 何脱いでんだてめぇ! やめねえか!」

ユミル「怖いのかいぼうや? ぴっちぴちの16歳の乙女に恥をかかせる気? さあ…… よーくごらん私の体。非の打ちどころがないだろ?」



ジャン(何だ? 変な音楽が聞こえるぞ…… おれはどうしちまったんだ? 頭がぼーっとして視界がぐらぐら揺れてて…… 祭壇で焚かれてる妙な香のせいか? ユミルは素っ裸で…… なんか歌ってる…… ? 視界が揺れてるせいで、まるで踊ってるみてえに)



ユミル「どう? 私はお前の理想の女じゃないかいぼうや。この体好きにしていいんだよ」

ジャン「やめろ、こっち来るんじゃねえ!」

ユミル「怖いんだね私が。大丈夫。すぐに、すぐによくなるよ……」

ジャン「何する気だてめぇ!」

ユミル「私がこの体に何もつけてないのに、お前が服を着てるのは不公平じゃないか。さあ…… 脱がしてあげる」

ジャン「やめろぉー!」

ユミル「大丈夫じっとしてて、怖くない…… ほぅらね、怖くない。いい体だねぇー、引き締まってて…… さぁ、極上の女の、くちづけをあげるよ……」

ジャン「んぐぅッ……」



─────────────────────────────────


ユミル「どうだったぼうや? 私のくちづけは。……でもお愉しみはこれからだよ」

ジャン「よせ、耳を舐めんじゃねぇ! ひっ!」

ユミル「かわいい声を上げるんだねぇ…… ほらほら、こっちの方はもう、こんなに固くなってるじゃないか」

ジャン「な、何すんだよ……」

ユミル「いやぁ、あんまり固くて立派なんでつい、よだれが出ちゃったよ、……若いっていいねぇ」

ジャン「よせ!」

ユミル「だぁーめ」

ジャン「!」


(本当にくわえ込みやがった……)

(でも…… 何て気持ちいいんだユミルの口ん中は…… 溶けちまいそうだ…… もう駄目だ。俺はこのまま、いっちまう……)

(! そんなんでいいのか俺!)

(こいつは魔性の女だ。俺をたぶらかそうとしてる。……俺は負けねえ。負けねえぞ!)


ユミル「おやおや。あんなに元気だったのに、縮んじゃったねぇ」

ジャン「残念だったな魔女。俺を堕とそうったってそうはいかねえ、キルシュタイン聖者をなめんなよ!」


ユミル「そうかい? 私を甘く見るんじゃないよぼうや。これならどう!」

ジャン「? てめっ、何をしてやがる! 顔がよく分からねえぞ!」

ユミル「お前の一番愛する女を、私の上に召喚してるのさ。……ほうら、よっくごらんこの顔を!」

ジャン「やめろ、それだけは、後生だからそれだけは!」


ミカサ「怖がらなくてもいい。ジャン、あなたは私を愛さなければならない」

ジャン「嘘だてめぇはユミルだろうが!?」

ミカサ「何を言ってるのジャン。この黒髪、この黒い瞳を忘れたの?」

ジャン「違う、てめぇは幻だ、ミカサじゃねぇぇぇェェェェ!!!!!」



この後ジャンとユミルは滅茶苦茶に(以下略)








……したわけではなかった!



ユミル「痛ったぁぁぁぁぁ!! いたぁぁい…… なぜ? なぜこんな、手荒なことをするんだよ……?」

ジャン「元に戻りやがったな。……下唇の傷口から蒸気? ってことはてめぇ、巨人だったのか!」

ユミル「聞きわけのないぼうやだね…… そんなに愛し合うのが嫌なのかい!」

ジャン「とりあえずてめぇとはな!」

ユミル「殺してやる!」

ジャン「来やがれ!」ジャキ

ユミル「巨人と愛し合うのは嫌なんだね?」

ジャン「ああ、そうだよ!」


ユミル「でもね、かわいいぼうや。お前は私のものだよ!」


ピカッ
ドドォーン



ユミル巨人「ギャァァァァァァ!!!」

ジャン「それがてめぇの正体か!」

ユミル「ギィア!」ブン

ジャン「うわっ!」


ジャン(素早い…… どうすればこいつを倒せる?)

ジャン(こうなったら…… 仕方ねえ!)


ジャン「ユミルよく聞け。俺が愛するのはな」

ユミル「ギ……?」

ジャン「ミカサしかいねえ!」

ユミル「ギャァァァァァァァァァ!!!!」


ジャン「何だ苦しみだしたぞ? とにかく今だ!」


ザクッ


ユミル「ギェェェェェェェェェ!!!!!!!!」



ドサッ

シュゥゥゥゥゥ………



ジャン「やった! 討伐数1!」

ジャン「え……?」フラッ


ドサ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ジャン「はっ!」

ジャン「ここは訓練場…… もうあんなに高く日が昇ってやがる」

ジャン「さっきのは何だったんだ? そもそも俺は、……随分長い夢を見てた気がするな。で、夢の最後にミカサと、いや、あれはユミルだったんじゃ……」

ジャン「つまんねえ夢見ちまったな」

ジャン「……腹減った」



ライナー「……終わったのか?」

ユミル「ああ、一丁上がり。もう聖者様は昇天なすったよ」

エレン(木陰から望遠鏡)「ここから見てても分かるぜ。あの間抜け面には神懸った様子のかけらもねえや」

ライナー「俺たちの勝利だ」

ベルトルト「ユミルありがとう」

ユミル「礼には及ばないよ。お陰でこっちは初物を頂戴できたんだからよ」

男ども「」



~~2週間後。訓練後の夕食のひと時~~


ジャン「イキがってんじゃねえよ死に急ぎ野郎!」

エレン「やめろ服が破けちゃうだろ!」


ボカスカ


マルコ「いつものジャンが戻ってきたな」

ライナー「よかったなマルコ。これでもう、壁外調査に連れ出されたりすることもない」

コニー「結局聖者様はどうしちまったんだ? 一瞬ジャンに降りてきてたってだけか」


マルコ「みたいだね。神通力かと思ったのも、あれはたまたま全部そういう奇行種だったってことで片付けられちゃったし」

ライナー「そりゃそうだろ! どだい巨人を手なずけるなんて考えられん」

アルミン「そういえば、例の特別兵属の肩書はどうなったの?」

マルコ「きょう辞令が来たらしいよ。『調査兵団特別兵属を解く』って」

コニー「それで荒れてんのか?」

マルコ「まさか。これで調査兵団に義理も借りもないって喜んでたよ」

アルミン「でも前回の壁外調査が惨憺たる結果だからって、すぐにクビとはひどいよね……」



ジャン「なんだってテメーばかりミカサとベタベタしやがって許せねーんだよコラァ!」



こうして……

奇跡は一瞬の閃光を発した後、壁外勢力と一部訓練兵のあり得べからざる協働作戦によって葬り去られた。

人類が真の夜明けを迎えるには、……さらに暗黒の数百年を待たなければならない。


なお、ジャン・キルシュタインが魔女の誘惑を退け、おのれの信念を曲げることなく迫害によって短い生涯を閉じたとする書物が後の世に出回ったが、もちろんデタラメである。



エレン(巨人と仲良くするだと? ふざけんな。死んでいった大勢の人々がそれで納得すると思うか? 奴らはこの世界から一掃されなきゃならねえんだ。駆逐あるのみ)


ミカサ(世界は残酷であって然るべき。そうでないなら、なぜ私の両親は、カルラおばさんは死ななくてはならなかったのか? この世界は、戦って勝つことがすべて。勝てば生きる。戦わなければ勝てない!)



~~さらに2日後の調査兵団本部~~


調査兵「兵長、面会人です」

リヴァイ「誰だ」

調査兵「女性の訓練兵です。名前は確か……」

リヴァイ「心当たりねえな。まあ通せ」



ガチャ


アニ「なぜかこの世界では、伸ばしたいと焦れば焦るほど身長は伸びない。どうしてこんな茶番になると思う?」

リヴァイ「そりゃ自分が一番よく分かってるんじゃねえのか?」

アニ「それが人の、何だお前ら? 離せ、最後まで言わせモゴォォォゥ」

ライナー「お忙しいところ大変失礼しました! こいつちょっと頭がおかしいんで」

ベルトルト「まったく、もう面倒見てらんないよ!」


ドタドタ
バタン



リヴァイ「?」




このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom