騎士「おかしいよな」(58)
騎士「おかしい」
部下「何がですか、隊長」
騎士「魔王が倒されて、早数月」
騎士「世界はまぁ平和だ」
部下「……いいことじゃ、ないですか」
騎士「うん、いいことだ。俺も、気兼ねなく飲みに行けるし」
部下「……魔王が暴れていた時から、ずっと行ってた癖に」
騎士「そうだったか?」
部下「もう、どうでもいいですよ」
騎士「まぁそれはいいんだ、置いておこう」
騎士「問題は」
騎士「なんで、俺、モテない訳?」
部下「はぁ?」
騎士「俺はさ、この砂漠の国の騎士部隊の隊長で」
騎士「超絶強くて」
騎士「ハンサムで」
騎士「おまけにあいつの兄だぜ?」
部下「私も驚きですよ」
部下「このクソみたいな男と、あの英雄の勇者様が兄妹だなんて」
部下「長い付き合いですが、いまだに信じられない」
騎士「俺だって英雄だ。そうだろ?」
部下「否定はしませんが、クソには変わりありません」
部下「いえ、いっそただのクソですね」
部下「クソが」
騎士「泣くぞ」
騎士「……あいつはすっかり世界の救世主で」
騎士「見ろよ、新聞でもあいつのことばっかりだ」
騎士「勇者一向、森の国に来訪、勇者一向、パーティーに出席」
騎士「そのうち、クソしただけでも話題になるんじゃねぇの、あいつ」
騎士「いっそタレコムか。あいつは12歳までおねしょしてました、って」
騎士「ピーマンが食べれません、とかもいいな」
騎士「下の毛が薄いことに悩んでいる、なんて一面だな、きっと」
部下「屑ですか、あなたは」
騎士「おおとも。俺は屑さ」
部下「いっそ清清しいですね」
部下「モテない原因、分かりますよ」
騎士「おお、言ってみたまえ」
部下「性格」
騎士「でな、俺は考えた。どうしたらモテるかを」
部下「屑な思考」
騎士「そうして、一つの答えに行き着いたのだ」
部下「聞けよ」
騎士「ほれ、これ見てみ」
部下「なんですか……勇者様達の写真?」
騎士「そう、そして、この記事」
部下「……『勇者一向、水の国で持成しを受ける』」
騎士「すげぇよな。ハーレムだ。あいつ、女の癖に」
部下「はぁ……それがどうかしたんですか?」
騎士「つまりだ、あいつはモテるんだ、女の癖に、女から」
部下「いや、それは……言っても英雄ですし」
騎士「俺だってそうだ」
部下「美形ですし」
騎士「俺だってそうだ」
部下「……強いですし」
騎士「俺の方が強い」
部下「…………性格」
騎士「俺の方が屑だ」
部下「それが答えだって言ってんだろ」
騎士「それでな、モテモテのあいつと、俺。違いを考えた訳だ」
部下「こいつホント人の話を聞かねーな」
騎士「同じように英雄で、同じように強くて、同じように美形で、トドメに同じ血が流れている」
騎士「なのに、あいつはハーレムを形成してウハウハだ。羨ましい」
騎士「あいつと俺の決定的な違い、それは」
部下「性格」
騎士「剣だ!」
部下「…………」
騎士「剣だよ、剣! 精霊剣! なんか足りないと思っていたんだ!」
騎士「精霊剣がなかったからモテないんだ!」
部下「……なんですか、その理論は」
騎士「考えてみろよ! 勇者であるマイシスターは光の精霊剣! んで、その仲間のおっぱい剣士ちゃんは炎の精霊剣を持っているんだろ?」
部下「……まぁ、そうですね」
騎士「かの魔王は闇の精霊剣を操ったと聞くし、それに、他の国の英雄も精霊剣を所持しているのが殆どだ!」
騎士「いや、むしろ持ってない俺の方が珍しい! まぁそんなのなくても強いからな、俺」
部下「そんなのって」
騎士「しかし、箔が付かないのも確かだ! 国の英雄が! セラミックブレードって!」
部下「……確かに、なんで安物の剣であんなに強いのか、甚だ疑問ではありますが」
騎士「強いのに理由はない! ん? お前、剣変えた?」
部下「……まぁ、私も良い剣を揃え様と」
騎士「ふーん、ま、いいや」
部下「興味ゼロか」
騎士「それよりも、だ!」
騎士「最近入った情報なんだが、東の洞窟、あるだろ?」
部下「ええ、あの魔物の巣になっていた」
騎士「今は魔物はいないらしいがな。で、そこに、なんと! 精霊剣があるらしいんだよ!」
部下「……本物ですか?」
騎士「確信はないが、恐らくな。精霊剣に選ばれるには、先代から受け継ぐか、数々の試練を突破しなければならない」
騎士「魔物が去って、あの洞窟を調べた結果、内部に『精霊剣の試練』らしきものが確認されたらしい」
部下「ふむ……」
騎士「これはチャンスだ。大チャンス。俺様なら、試練ごとき楽勝の楽ちゃんだしな」
部下「まぁ、そうでしょうけども……何の精霊剣なんですかね?」
騎士「分からん。まぁ『砂』か『土』じゃないか? まだ見つかってないし」
騎士「ちょい地味だが、それはまぁいいだろう。砂漠の英雄が、砂の剣。御誂え向きだ」
部下「そうですね」
騎士「モテる」
部下「そうですかね」
騎士「そうなの! モテるの!」
騎士「っつー訳で、今からチョイ言ってくるわ」
騎士「夕飯までには戻る」
部下「試練嘗めすぎでしょ」
騎士「まぁ俺は『人生嘗めきった英雄』と名高いからな」
部下「だからモテねぇんだっつってんだろ」
――んでんでんで。
騎士「……」
部下「……」
騎士「……おい」
部下「なんですか?」
騎士「笑えよ」
部下「笑って欲しいのですか?」
騎士「お前以外は大爆笑だったからな」
部下「部隊員一同、腹筋が攣ってしまった為、明日の訓練は中止です」
騎士「弛み過ぎだろ、誰がそんな命令を出した」
部下「王様です」
騎士「くっそ」
部下「じゃあ貴方が制裁したらどうです?」
部下「その……『毒の精霊剣』で」
騎士「クソァ!」
騎士「なんだよ、なんだよ毒って」
騎士「もう地味とかそう言うレベルじゃねぇよ」
騎士「三流の悪役の剣だよ、これ」
部下「精霊剣に向かってなんと言う暴言」
騎士「だってさぁ……例えばさ、なんかの物語があったとするじゃん?」
騎士「んでさ、主人公はさ、まぁ、マイシスターだとするじゃん? 勇者だし、光の剣持ってるし」
騎士「じゃあ、俺は?」
騎士「毒の剣の、俺の役割は?」
部下「……」
部下「……序盤で、いやらしい攻撃を仕掛けてくる、ケヒヒヒ、とか笑っちゃう屑、ですかね」
騎士「それもう魔王の手先じゃねぇーか!」
騎士「俺国の英雄なのにぃ!?」
騎士「勇者の兄なのにぃ!?」
騎士「強くてハンサムなのにぃ!?」
部下「それは関係ないだろ」
騎士「くそ、巨乳の彼女が欲しい」
部下「脈絡考えろ屑」
騎士「……見ろよ、これ」シャキン
部下「うわぁ、毒々しい紫色の刀身……」
騎士「これさ、まぁ、そのまんま振ると毒が出るんだけどさ」
騎士「ぷっしゃーって」
部下「ぐろい」
騎士「しかも致死性」
部下「えぐい」
騎士「俺が本気で剣を振り抜くとさ」
騎士「たぶん、町ひとつが毒に沈むぞ」
部下「こわい」
騎士「しかもどんどん広がって、二三日で国中が毒塗れ」
部下「ひどい」
騎士「一週間あれば、世界が滅ぶ」
部下「魔王になりたかったら、言ってください。いつでも着いていきますから」
騎士「お前のそう言うところ、俺好きだぜ」
部下「私は嫌いですけどね、貴方」
騎士「俺も貧乳は嫌いだ」
部下「両思いですね、私たち」
騎士「おう、いつでも中指立てていいぞ」
騎士「ベノムクラスター、食らわせてやっから」
部下「結構気に入ってるんですね、その剣」
部下「もう技まで考えたんですか」
騎士「いやさ、必殺技があった方がそれっぽいだろ?」
騎士「だからさ、二秒で編み出したんだけどさ」
騎士「これやったらマジで国が滅ぶわ。必殺剣だわ」
騎士「日の目見ることねぇわ、ベノムクラスター」
部下「魔王様、今日の御夕飯は如何いたしましょうか?」
騎士「ケヒヒヒ、ハンバーグを持ってまいれ」
部下「子供か」
続く。
そうです、百年前云々の作者です。
なんでバレたし。もう一年前なのに。
データが吹っ飛んでしまった為エタッたけど、いつか完結させたい。いつか。
というわけで、続き。
――砂漠の国、街。
女子1「キャァアアアアアアアア!」
女子2「ステキー!」
女子3「キャアアアアアアアヒィィイイイイイイヤァァアアアアアア!」
女子4「抱いてー!」
女子5「結婚してー!」
剣士「いやー、相変わらず、凄い人気だなー」
戦士「たかがショボイ遠征から帰還しただけなのにな」
サムライ「まぁ、英雄でござるからなぁ……」
弓兵「国中の憧れの的ですからねぇ」
ホカノ ブタイインノ ヒトモ カッコイイー!
剣士「お、ありがとよ!」
戦士「ま、あいつのお陰で、俺たちもそこそこちやほやされるようになったし」
サムライ「ふむ、悪い気はしないでござるな」
弓兵「それでも、オマケみたいなもんですけどね」
剣士「そりゃそうだ。桁違いの人気だもんよ」
剣士「うちの副隊長は」
カッコイイー!
ヌレル!
ダイテー! ムチャクチャニシテー!
部下「ふふふ、どうもありがとうございます」ニコッ
フギャァアアアアアア! ワラッタァアアアアアアアアア!
ホホエンダァアアアアアアアアアアア!
イッグゥウウウウウウウウウウウ!
部下「ふふふ」ニッコリ
アイエエエエエエエエエエエエエエエ!
剣士「いやぁー……半端ねぇっすわ」
戦士「しっかし副隊長も女だってのに、イヤにモテるよな、女から」
サムライ「けれども、かの勇者殿もオナゴでありながら同性を惹きつけるらしいでござるからなぁ」
弓兵「性を超越した魅力、ってやつですかね」
剣士「……それに引き換え」チラリ
騎士「ウラァ! 退けやメスブタどもがぁ!」
剣士「荒れてんなぁ、あいつは……」
騎士「邪魔なんだよォッ! クソがッ!」
チョ、ナニヨ!
アンタコソジャマナノヨ!
騎士「んだオラァッ!? 嘗めくさってんじゃねぇぞオラッ! 退けッ!」
部下「まぁまぁ、隊長、落ち着いて下さい」
キャーオネェサマー!
シュテキィ……
フワァアアアアアアアアア!
ワァアアアアアアアアアアアア!
ウワァアアアアアアアアアアア!
キャァアアアアアアアアアアアアア!
イギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
騎士「……」
騎士「……ワーワーギャーギャー盛りやがってよぉ……発情期かなんかか?」
騎士「耳障りなんだよッ、引っ込んでろッ!」シャキン
剣士「やっべ! あいつ毒剣を抜きやがった!」
戦士「おいおいおい! マジで死人が出るぞ!」
サムライ「ベノムクラスター(笑えない)」
騎士「ケヒヒ、ケヒヒヒヒヒヒ!」
弓兵「うわぁ……目がイッちゃってる……」
部下「……」
部下「……総員、抜剣。止めますよ」
――――了解!
騎士「……」
――――んでんでんで。
騎士「おかしい」
部下「何がですか、隊長」
騎士「モテない」
部下「……」
部下「…………」
騎士「おかしい」
部下「数刻前の行動を見返せば、自ずと理由が分かるかと」
騎士「??????」
部下「分かんねぇのかよ」
部下「癇癪で街を毒沼にしようとする男が」
部下「モテる訳ないでしょう」
騎士「だってマジであいつら邪魔なんだもん!」
騎士「それに流石に加減するわ! 制御できるようになったし!」
騎士「精々、お腹痛くなるぐらいに抑えるわ」
部下「お陰で他の隊員はベッドでおねんねですけどね」
騎士「たるんでるな。修行が足りん」
部下「誰の所為だと」
騎士「そんなに俺の所為かぁ?」
騎士「現に、お前は無事じゃねぇか」
部下「……まぁ、ナンバー2として、あれくらいは避けられなければ」
騎士「はーあ、巨乳で可愛い彼女が欲しい」
部下「だから脈絡考えろって言ってんだろ屑が」
騎士「つーかさ」
騎士「なんでお前の方がモてる訳? 女なのに。俺より弱いのに」
部下「いやだから性格ですよ」
騎士「なんで俺、嫌われてる訳?」
部下「性格だって言ってんだろ」
部下「……」
部下「隊長」
騎士「ん?」
部下「隊長の実力を知らない人間は、この国にはいませんよ」
部下「僭越ながら、私も英雄として民に慕われてはおりますが……」
部下「挙げた戦果は、貴方とは比べ物になりません。そして、それは国民全員が分かっています」
部下「貴方は、間違いなくこの国の英雄です……どうか、胸を張って下さい」
騎士「ちょっと風俗行って来るわ」
部下「こいつ……」
―――――砂漠の国、街外れ
騎士「んー……」
騎士「困った」
騎士「非常に困った」
騎士「んんん……」
騎士「あれくらいは、か……」
騎士「避けられる訳、ないんだよなぁ……」
騎士「……」
騎士「御庭番、集合」
ザザザザ
女子1「はっ」
女子2「ここに」
女子3「何用でしょうか」
女子4「お腹へったぁ」
女子5「マカロン食べたい」
騎士「流石お前ら俺の直属だけはあるな」
騎士「……で、だ」
騎士「調査結果は?」
女子1「はい、国民の80パーセントは朝食にパンを食べるそうです」
女子2「どちらかと言うと魚より肉派が多いそうです」
女子3「甘いものは別腹、と答えた女性は90パーセントを超えました」
女子4「体重を気にしている女性は全体の95パーセントに上り」
女子5「それでも食後のデザートは止められない模様です」
騎士「……」
騎士「なんの話ぃ!?」
続く。
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