少女「友ちゃん、覚えてる?」
友「なあに」
少女「ちっちゃいころも、よくこのブランコで遊んだんだよ」
友「そう、だったっけ」
少女「うん。いつもスカートを履いていた私をね」
友「えっと」
少女「恥ずかしがる私をむりやり、だよ」
友「ごめんね。だって私はズボンだったもの」
少女「ウソだあ。友ちゃんもスカートだったのに」
友「そっか。うん、そんな気もする」
少女「二人乗りも、よくしたよねえ」
友「懐かしいね、うん」
少女「怖かったんだよ、あの一回転するやつ」
友「あはは。なんだっけ、あれ」
少女「フライパン!」
友「そうそう、そんな感じ」
少女「友ちゃんが立ち漕ぎでね、容赦ないんだから」
友「ううん、今もできるかなあ」
少女「やるなら一人でやるといいよ!」
友「……ちょっと怖いかも」
少女「靴飛ばしなんかもしたよねえ」
友「なんか男の子みたいだね、私たち」
少女「友ちゃんね、ずるいんだから」
友「ええ、なんのこと」
少女「足の指で靴を挟んで、悲距離を伸ばそうとしてたもん」
友「それはみんなやるよ」
少女「漕いでる途中で地面に当たって落っことしたり」
友「あはは、あるある」
少女「でも私、ちゃんとやっても勝てなかったなあ」
友「今やったら、どっちが勝つかな」
少女「でもきっと、友ちゃんはね」
友「なあに」
少女「靴が汚れるからやめよっか、って言うんだよ」
友「……うん、言いそうだね」
少女「そっかあ」
友「少女ちゃんは、きっと」
少女「うんうん」
友「汚れても洗えばいいよ、って言ってくれるよね」
少女「じゃあ、やろっか」
友「うん、やろう。……それ」
少女「……えいっ」
友「すごい。砂場まで飛んだね」
少女「うわあ、思った以上に汚れちゃった……」
友「あはは。少女ちゃんおもしろい」
少女「靴が砂まみれになるのも、久しぶりだなあ」
友「砂場かあ……」
少女「ここでもよく遊んだよねえ」
友「うん、そうかも」
少女「友ちゃんたら、オモチャをいつもなくすんだよ」
友「私が?」
少女「それを私が見つけてあげるの。砂をこう、掘り返して」
友「ええ、逆じゃないの」
少女「逆じゃないよ。私、覚えてるもん」
友「そっか。そうだよね」
少女「お団子を作るのは、私のほうが上手かったよねえ」
友「コツとかあったよね。どうだったかな……」
少女「水の分量がね、大切なんだよ」
友「そうだった、それが難しかったんだ」
少女「お団子作って、壊すのがもったいなくて」
友「うん」
少女「並べてたら、ぜったい誰かが壊すんだよ」
友「仕方ないよ、どうせ風化するだろうし」
少女「でも、ひゅうってした気持ちになるよねえ」
友「ひゅうって、なんだろう」
少女「わかんない」
友「少女ちゃん、たまに変なこと言うから好きだよ」
少女「ううん……」
友「あはは。たまにだから」
少女「あっ、私も友ちゃんのこと好きだよ!」
友「思い出したように言うんだから、もう」
少女「ねえ見て、あそこ」
友「なあに」
少女「なんにもないけど、今は」
友「なにかあったっけ?」
少女「桜の木があったの。こんな年寄りの」
友「ああ、うん」
少女「きれいだったなあ」
友「そうだったんだね。いや、うん、そうだったね」
少女「枝拾いなんかもしたねえ」
友「私が?」
少女「私が誘ったんだよ。一緒に拾おうって」
友「……染物、だっけ」
少女「そう! でも、きれいな色は出なかったなあ」
友「あはは、ヘタだったんじゃない?」
少女「ああ、……そんなこと言うんだ」
友「ごめんごめん」
少女「あとでびっくりさせてあげるから!」
友「うん、楽しみだな」
少女「ほら、次はあっちに行こうよ」
友「あ、待って少女ちゃん」
少女「ほら、すべり台!」
友「このすべり台、こんなに小さかったかな」
少女「私たちが大きくなったんだろうねえ」
友「少女ちゃんは、変わってないと思うな」
少女「そう思うってことは、きっと友ちゃんも変わってないんだよ」
友「だって私、大人になんてなりたくないから」
少女「どうして?」
友「……なんとなく」
少女「だいじょうぶ。きっと友ちゃんは友ちゃん!」
友「大人になっても?」
少女「うん。……よくわかんないけど」
友「あはは。少女ちゃんらしいね」
少女「でもね、一つだけ思うの」
友「なあに」
少女「大人になった友ちゃんが、今みたいに泣きそうな顔してたらやだなあ、って」
友「……泣きそうな顔なんて、してないよ」
少女「はい。これ、あげる」
友「これ、……縮緬?」
少女「えへへ、なんだかわかる?」
友「縮緬じゃないかな」
少女「そうだけど、この色」
友「きれいな、……ベージュかな。暖かみがある」
少女「それねえ、桜からとった色なんだよ」
友「私にくれるの?」
少女「うん。お別れのプレゼント」
友「あっ……」
少女「桜からね、桜のピンク色を出すのはとっても難しいの」
友「ふうん、そうなんだ」
少女「友ちゃんとおんなじ。素直じゃないんだから」
友「だって、だってね」
少女「覚えてないふりなんてしなくていいんだよ」
友「だって、……怖かったから」
少女「ほら、私はなんにも忘れてないでしょ?」
友「……うん」
少女「友ちゃんのことも、きっと忘れないよ!」
友「あははっ。……ありがとう、少女ちゃん」
少女「向こうでも、元気でね」
友「ずっと、ずっと友達だよ」
少女「もちろん!」
………
……
…
数年後、友ちゃんから届いた一切れの縮緬。
それはまだ、桜色にはほど遠かったけど。
ほんのり暖かみのあるその色は、あの頃の友ちゃんそのままでした。
おわり
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