少女「ブランコ楽しいねえ」友「うん」(14)


少女「友ちゃん、覚えてる?」

友「なあに」

少女「ちっちゃいころも、よくこのブランコで遊んだんだよ」

友「そう、だったっけ」

少女「うん。いつもスカートを履いていた私をね」

友「えっと」

少女「恥ずかしがる私をむりやり、だよ」

友「ごめんね。だって私はズボンだったもの」

少女「ウソだあ。友ちゃんもスカートだったのに」

友「そっか。うん、そんな気もする」


少女「二人乗りも、よくしたよねえ」

友「懐かしいね、うん」

少女「怖かったんだよ、あの一回転するやつ」

友「あはは。なんだっけ、あれ」

少女「フライパン!」

友「そうそう、そんな感じ」

少女「友ちゃんが立ち漕ぎでね、容赦ないんだから」

友「ううん、今もできるかなあ」

少女「やるなら一人でやるといいよ!」

友「……ちょっと怖いかも」


少女「靴飛ばしなんかもしたよねえ」

友「なんか男の子みたいだね、私たち」

少女「友ちゃんね、ずるいんだから」

友「ええ、なんのこと」

少女「足の指で靴を挟んで、悲距離を伸ばそうとしてたもん」

友「それはみんなやるよ」

少女「漕いでる途中で地面に当たって落っことしたり」

友「あはは、あるある」

少女「でも私、ちゃんとやっても勝てなかったなあ」


友「今やったら、どっちが勝つかな」

少女「でもきっと、友ちゃんはね」

友「なあに」

少女「靴が汚れるからやめよっか、って言うんだよ」

友「……うん、言いそうだね」

少女「そっかあ」

友「少女ちゃんは、きっと」

少女「うんうん」

友「汚れても洗えばいいよ、って言ってくれるよね」

少女「じゃあ、やろっか」

友「うん、やろう。……それ」

少女「……えいっ」


友「すごい。砂場まで飛んだね」

少女「うわあ、思った以上に汚れちゃった……」

友「あはは。少女ちゃんおもしろい」

少女「靴が砂まみれになるのも、久しぶりだなあ」

友「砂場かあ……」

少女「ここでもよく遊んだよねえ」

友「うん、そうかも」

少女「友ちゃんたら、オモチャをいつもなくすんだよ」

友「私が?」

少女「それを私が見つけてあげるの。砂をこう、掘り返して」


友「ええ、逆じゃないの」

少女「逆じゃないよ。私、覚えてるもん」

友「そっか。そうだよね」

少女「お団子を作るのは、私のほうが上手かったよねえ」

友「コツとかあったよね。どうだったかな……」

少女「水の分量がね、大切なんだよ」

友「そうだった、それが難しかったんだ」

少女「お団子作って、壊すのがもったいなくて」

友「うん」

少女「並べてたら、ぜったい誰かが壊すんだよ」


友「仕方ないよ、どうせ風化するだろうし」

少女「でも、ひゅうってした気持ちになるよねえ」

友「ひゅうって、なんだろう」

少女「わかんない」

友「少女ちゃん、たまに変なこと言うから好きだよ」

少女「ううん……」

友「あはは。たまにだから」

少女「あっ、私も友ちゃんのこと好きだよ!」

友「思い出したように言うんだから、もう」


少女「ねえ見て、あそこ」

友「なあに」

少女「なんにもないけど、今は」

友「なにかあったっけ?」

少女「桜の木があったの。こんな年寄りの」

友「ああ、うん」

少女「きれいだったなあ」

友「そうだったんだね。いや、うん、そうだったね」

少女「枝拾いなんかもしたねえ」

友「私が?」

少女「私が誘ったんだよ。一緒に拾おうって」


友「……染物、だっけ」

少女「そう! でも、きれいな色は出なかったなあ」

友「あはは、ヘタだったんじゃない?」

少女「ああ、……そんなこと言うんだ」

友「ごめんごめん」

少女「あとでびっくりさせてあげるから!」

友「うん、楽しみだな」

少女「ほら、次はあっちに行こうよ」

友「あ、待って少女ちゃん」

少女「ほら、すべり台!」


友「このすべり台、こんなに小さかったかな」

少女「私たちが大きくなったんだろうねえ」

友「少女ちゃんは、変わってないと思うな」

少女「そう思うってことは、きっと友ちゃんも変わってないんだよ」

友「だって私、大人になんてなりたくないから」

少女「どうして?」

友「……なんとなく」

少女「だいじょうぶ。きっと友ちゃんは友ちゃん!」

友「大人になっても?」


少女「うん。……よくわかんないけど」

友「あはは。少女ちゃんらしいね」

少女「でもね、一つだけ思うの」

友「なあに」

少女「大人になった友ちゃんが、今みたいに泣きそうな顔してたらやだなあ、って」

友「……泣きそうな顔なんて、してないよ」

少女「はい。これ、あげる」

友「これ、……縮緬?」

少女「えへへ、なんだかわかる?」


友「縮緬じゃないかな」

少女「そうだけど、この色」

友「きれいな、……ベージュかな。暖かみがある」

少女「それねえ、桜からとった色なんだよ」

友「私にくれるの?」

少女「うん。お別れのプレゼント」

友「あっ……」

少女「桜からね、桜のピンク色を出すのはとっても難しいの」

友「ふうん、そうなんだ」

少女「友ちゃんとおんなじ。素直じゃないんだから」


友「だって、だってね」

少女「覚えてないふりなんてしなくていいんだよ」

友「だって、……怖かったから」

少女「ほら、私はなんにも忘れてないでしょ?」

友「……うん」

少女「友ちゃんのことも、きっと忘れないよ!」

友「あははっ。……ありがとう、少女ちゃん」

少女「向こうでも、元気でね」

友「ずっと、ずっと友達だよ」

少女「もちろん!」


………

……



数年後、友ちゃんから届いた一切れの縮緬。

それはまだ、桜色にはほど遠かったけど。
ほんのり暖かみのあるその色は、あの頃の友ちゃんそのままでした。






おわり

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