僕たちはお空へ飛び立つべきなんだ。(11)

女「そう思わない?」

男「思わないよ! 危ないから窓から離れようよ!」

女「なぜそこまで空を飛ぶことを拒むの。自由はそこにあるのに」

男「またわけのわからないことを……。でも、君はその自由と引き換えに死ぬぞ。君が死んだら僕が悲しむ。葬式でめちゃくちゃ泣いてやる」

女「え。でも……ものの数秒間だけ味わえる、浮遊感を感じてみたいと思わないの」

男「浮遊感を味わいたかったらジェットコースターでも乗ってこいよ」

女「……」




彼女はいつも、死にたがっている。

男「で、なんで僕たちは遊園地に来たんだっけ」

女「空を飛ぶためよ。さあ、並びましょう」

男「何に」

女「ジェットコースターに!」

男「ちょ、先に行くなって! わかったから! こら!」



その割にいつも楽しそうなのは、僕じゃなくて彼女の方なのだ。

女「ひゃああああああああ! 怖い怖い! 落ちてる落ちてるぅ!」

男「……」




女「――だめね」

男「はあ?」

女「あんなの、空を飛んだって言わないわ。紛い物の自由なんていらない。自由がないなら死んだって意味ないわ。わかってないのね」

男「あー……。なら、どうすればいいのさ?」

女「空を飛べたら、きっと、目の回るような疾走感を感じるんだわ。目の回るような。と、いうことだから、今度はあれに乗りましょう」

男「コーヒーカップ?」




女「くるくるくる」

男「……」

女「くーるくるくる」

男「……楽しい?」

女「うん」

男「……さっきからカップ、あんまり回ってないけど」

女「それはおかしいわね。わたしはもう死ぬほど目が回ってるわ。くらくらよ」

コーヒーカップを降りるとすぐに、彼女は言ってきた。

女「目が回ったわ。真直ぐ立てないわ。だから、腕を組んで歩きましょう」

男「はあ?」

女「えい」

男「おわっ」

女「腕を組まないと転んで頭を打って死んでしまうところだったわ。まあ、わたしは死んでしまってもいいのだけど。でも、あなたが悲しむんでしょう。よかったわね」

僕らは恋人がするように腕を組んで歩く。




女「今度もだめだったから、違うのにしましょう」

男「何に?」

女「そうね。空を飛ぶには、高いところに行かなくちゃならないわね。だから、あれよ」

男「観覧車か……」


彼女と腕を組んだまま、観覧車の長椅子に座った。

女「高く昇っていくのね」

男「観覧車だから」

女「あんなに人がいたのに、今は二人っきりみたいだわ」

男「う、うん」

女「見て、夕陽が綺麗よ。ここから飛び降りたら気持ちいいわよ」

男「やめろよ……」

女「何言ってるの。こうして腕を組んでいる限り、わたしは飛び降りれないのよ? わたしが死んだら悲しむんでしょう? なら、その腕を離さないでいなさい」

男「あー……うん」

女「腕を組むより、手をつないだ方がいいかもね。そしたら、わたしは死ねないわ」

男「はいはい」

女「あ……。そう、手を離さないようにね」

彼女と手を握り、夕陽が沈むのを眺める。
また来ようね。
僕は彼女の横顔に囁く。

女「……」

こくり、と頭が動いた。
今、彼女もきっと僕と同じように、死ぬドキドキしているに違いなかった。


おわり
うんこしてくる

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