男「予報より早く雨が降ってきた」 (37)

男「雨だ。最悪だ。大雨だ」

男「これじゃ帰れん。さてどうするか」

女「お困りのようですね」

男「誰だあんた」

女「君に、この傘をあげましょう」

男「無視かよ」

女「いらないんですか? 傘が無くて困っているんでしょう?」

男「いらないよ。いいか? 傘が無くて困ってるんじゃない。雨が降ってるから困ってるんだ」

女「言っている意味が分かりません」

男「俺はあんたの登場から意味が分からんよ」

女「雨が降ると、何か不都合な用事でもあったんですか?」

男「帰ることを用事と呼ぶならそうなるな。この駅から家まで歩いて十五分はかかるんだ」

男「そんな長時間濡れて帰るわけにはいかないだろ」

女「ですから、この傘を」

男「だからいらないって」

女「どうしてですか?」

男「……傘が、嫌いなんだよ」

男「傘が雨を弾くあの音を聞くだけで、吐き気がするほど」

女「……」

男「何だよ」

女「ごめんなさい」

男「何故謝る」

女「いえ、その」

女「私、雨女なんです」

男「ああ」

男「それは……どうなんだ?」

女「どうなんでしょう」

男「いやいや、天気予報からして雨だったんだ。あんたのせいじゃないだろ」

女「でも、予報より早く降ってしまいましたよね、雨」

男「そうだな。まあ、だから困ってるんだけど」

女「私のせいなんです」

男「おいおい」

女「私が少し早く家を出ちゃったから」

男「から?」

女「雨も少し早く降ってしまったんです」

男「はあ」

女「はあじゃなくて」

男「うーん」

女「信じてません?」

男「というよりも、意味が分からない」

女「ですから私」

女「極度の雨女体質なんです」

男「えー」

女「信じられませんか?」

男「そりゃな」

女「私も君が傘を嫌ってることに納得していませんよ」

男「それは酷いな」

女「ではこうしましょう」

女「私は君の傘ぎらいを信じるので、君も私が雨女だということを信じてください」

男「はあ」


男「つまり、何か行動しようとすると必ず雨を降らせてしまうほどの雨女体質だと」

女「そうです」

男「それが本当なら、まさに俺の天敵たる存在だな」

女「ごめんなさい」

男「そんなんじゃ、普段生活するのも大変だろう」

女「ええ。外に出るときはいつも雨です」

男「周りの人間も堪ったもんじゃないな」

女「ですから、天気予報で雨の日以外は家の中で過ごしています」

男「なるほど。晴れの日限定引きこもりか」

女「あ、何かいいですねそのフレーズ」

男「俺は雨の日限定引きこもりを自称しているからな」

女「そんなに傘が苦手なんですか?」

男「傘恐怖症とも言っていいほど苦手だ。ここ十年間は一度も使ったことがない」

女「それでは、止むまで帰れませんね……」

男「そうなるな。タクシーを使うのももったいないし」

女「車は大丈夫なんですか?」

男「ああ。昔は雨の日だけ親父に送迎してもらっていたよ」

女「では、このレインコートなんてどうでしょう?」

男「なんでそんなものまで持ってるんだ」

女「困ってる人に貸してあげるためです」

男「なるほどな」

>>1
この前の続きも書いてくれよ

男「でも駄目だよ。レインコートは傘とほとんど同じ音がするから」

女「そうですか……」

男「まあ、止むまで待つさ。たまにはこんなこともある」

女「いえ、それじゃ駄目です」

男「何だ何だ」

女「雨女の私と傘ぎらいの君が、もしも一緒に帰ることができたなら」

女「それって、すごいことだと思いませんか?」

女「こんな出会いはそうそうないですよ。絶対このまま終わらせちゃ駄目です」

女「私、今日、何か変われる気がするんです」

男「俺は完全に巻き込まれた形だがな」

女「それはもう謝ったから言わないで」

>>12
この前読んでくれた人?
それとも人違いかな

男「だけど、実際どうするんだ。俺が濡れて帰るくらいしか思いつかないぞ」

女「それは駄目です。ええと、傘の音が苦手なんですよね?」

男「そうだな」

女「では、ヘッドホンをして大音量で音楽を聞いてみてはどうでしょう?」

男「無理だよ。手に伝わる振動とかで、どうしても想像しちまうから」

女「そうですか……」

男「やれそうなことは全て試したさ。それでも無理だったから諦めたんだ」

女「私は諦めません」

男「おいおい」

女「だって」

女「雨のせいで困る人がいてほしくないから」

女「私は雨女だけど、雨のことは嫌いじゃないんです」

男「……いつからなんだ。その体質」

女「物心ついたときにはもう、それなりの雨女だったと思います」

男「それなりの雨女って……」

女「遠足も、運動会も、私が張りきる度に雨が降って中止になるんです」

女「皆に『お前は雨女だ』って言われて、自覚し始めてからはもっと降るようになりました」

女「おかげで、ロクに外で運動したことも無いし、海に行ったことも、花火を見たこともないし、ジメジメした青春時代を過ごすはめになりましたよ。まったく」

支援

男「……今は?」

女「今は、通信制の高校を卒業して、叔父がやってる喫茶店に住み込みで働いています」

男「家の中にいる分には、雨が降ることはないのか」

女「はい。それでも、嫌なことばかりじゃないんですよ?」

男「日常生活すら制限されるのにか」

女「ええ。私、虹を見た回数ならこの世の誰にも負けない自信があります」

女「私が家に帰ると大体すぐ晴れるから、窓からよく見えるんです。綺麗な虹」

がんばれ!>>1

>>17
>>19
ありがとう眠い

女「農家の人は大喜びのはずです」

男「降り過ぎも困るだろうけどな」

女「水不足だって解消されますし」

男「川の増水やらで水難事故も多いけどな」

女「運動会が中止になって喜ぶ子もきっといるはずです」

男「それはどうなんだろうか」

女「例えばカップルだって雨の日なら――」

男「どうした?」

女「あー!」

男「何だ何だ」

女「私、閃いちゃいましたよ、君が傘を持たずに、濡れずに帰れる方法!」

男「なんだって?」

女「あ、でも……」

男「何をもじもじしてるんだ。期待してないから早く言いなさい」

女「それじゃあ、あの、その……音楽プレイヤーとヘッドホン、持ってますか?」

男「そりゃまあ、大学生の必需品とも言えるからな」

女「では、その」

女「私と……相合傘してください」

男「なるほど。こうして大音量で音楽を聴いて、傘はあんたに持ってもらえばいいと」

女「はい……」

男「何を言っているのかは聞こえないが、恥ずかしがっているのは分かった」

女「あの、もうちょっと声を小さく……」

男「何? 聞こえない。ジェスチャーで頼む」

女「声を、小さく」

男「ああ、声か。ごめん」

男「女の子に傘を差してもらうっていうのは、こっちも恥ずかしいんだが」

女「そうです、よね……」

男「だけど、確かに試したことはないな」

女「それじゃあ、やりますか……?」

男「……行ってみるか。正直少し怖いけどな」

女「はい。それでは傘、差しますね」

雨降らないかなあ

女「どうですか? 進めそうですか?」

男「不安そうな顔しないでくれ。駄目だったらすぐに戻るさ」

女「すみません……。道案内はお願いしますね」

男「こんな大雨の中、堂々と外を歩いたのなんて、いつぶりかな」

男「何も聞こえないけど、何も伝わらないけど」

男「やっぱり少し……かなり」

男「ごめん」

男「駄目そうだわ」

こっちは今大雨だぞ

>>30
それは失礼しました

女「だ、大丈夫ですか!? ここからなら戻るより進むほうが早いです!」

女「あのファミレスまで行きましょう!」


女「気分はどうですか……?」

男「……ああ、水飲んだし、少し良くなったよ」

女「ごめんなさい!」

女「私、軽い気持ちで巻き込んでしまって……」

女「私の体質とは、根本的に違うのに、同等に扱ってしまって……」

女「本当に、ごめんなさい」

男「堅いよ。いきなり」

男「本当に迷惑だったら最初から無視してるし」

男「俺も、変わろうと思ったからやったんだ。あんたが悪いわけじゃない」

女「……倒れそうになったときの君、すごく震えていました」

女「どうして、そこまで傘が嫌いになってしまったんですか……?」

男「……」

寂しくないもん

男「……雨が弱くなってきたな。これなら傘無しでも帰れそうだ」

女「……はい。私が屋内に入ったからですよ。元々雨の予報でしたから、晴れるというまでにはいかないでしょう

けど」

男「雨女っていうのは本当みたいだな。驚いたよ」

女「ご迷惑を、おかけします……」

男「はは。何だそりゃ」

女「あの、その……」

男「……俺とあんたが一緒に歩くのは、無理そうだな」

女「……」

男「なんだ、その……もう体調も落ち着いたし、帰るよ」

男「……じゃあな、雨女さん」

女「……待って、ください!」

男「え?」

女「待って、ください……」

女「これ、私の働いてる喫茶店の住所と連絡先です」

女「良かったら、来てください。待ってますから」

男「……気が向いたら、晴れの日に」

何でこんな時間に立ててしまったのか

おやすみなさい

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