男「予報より早く雨が降ってきた」 (29)

男「雨だ。最悪だ。大雨だ」

男「これじゃ帰れん。さてどうするか」

女「お困りのようですね」

男「誰だあんた」

女「君に、この傘をあげましょう」

男「無視かよ」

女「いらないんですか? 傘が無くて困っているんでしょう?」

男「いらないよ。いいか? 傘が無くて困ってるんじゃない。雨が降ってるから困ってるんだ」

女「言っている意味が分かりません」

男「俺はあんたの登場から意味が分からんよ」

女「雨が降ると、何か不都合な用事でもあったんですか?」

男「ああ、帰れない。この駅から家まで歩いて十五分はかかるんだ」

男「そんな長時間濡れて帰るわけにはいかないだろ」

女「ですから、この傘を」

男「だからいらないって」

女「どうしてですか?」

男「……傘が、嫌いなんだよ」

男「傘が雨を弾くあの音を聞くだけで、吐き気がするほど」

女「……」

男「何だよ」

女「ごめんなさい」

男「何故謝る」

女「私、雨女なんです」

男「ああ」

男「それは……どうなんだ?」

女「どうなんでしょう」

男「天気予報からして雨だったんだ。あんたのせいじゃないだろ」

女「でも、予報より早く降ってしまいましたよね、雨」

男「まあ、だから困ってるんだけど」

女「私のせいなんです」

男「おいおい」

女「私が少し早く家を出ちゃったから」

男「から?」

女「雨も少し早く降ってしまったんです」

男「はあ」

女「はあじゃなくて」

男「うーん」

女「信じてません?」

男「というよりも、意味が分からない」

女「ですから私」

女「極度の雨女体質なんです」

男「えー」

女「私も君の傘ぎらいを信じるので、君も私が雨女だということを信じてください」

男「つまり、何か行動しようとすると必ず雨が降ってしまうほどの雨女体質だと」

女「そうです」

男「それが本当なら、俺の天敵たる存在だな」

女「ごめんなさい」

男「そんなんじゃ、普段生活するのも大変だろう」

女「ええ。ですから、天気予報で雨の日以外は家の中で過ごしています」

男「なるほど。晴れの日限定引きこもりか」

女「あ、何かいいですねそのフレーズ」

男「俺は雨の日限定引きこもりだからな」

むなしいけど朝まで暇なので続けます よ

女「そんなに傘が苦手なんですか?」

男「傘恐怖症とも言っていいほど苦手だ。ここ十年間は一度も使ったことがない」

女「それでは、止むまで帰れませんね……」

男「そうなるな。タクシーを使うのももったいないし」

女「車は大丈夫なんですか?」

男「ああ。昔は雨の日だけ親父に送迎してもらっていたよ」

女「では、このレインコートなんてどうでしょう?」

男「なんでそんなものまで持ってるんだ」

女「困ってる人に貸してあげるためです」

男「なるほどな」

男「でも駄目だよ。レインコートは傘とほとんど同じ音がするから」

女「そうですか……」

男「まあ、止むまで待つさ。こんなこともたまにはある」

女「いえ、それじゃ駄目です」

男「何だ何だ」

女「雨女の私と傘ぎらいの君が、もしも一緒に帰ることができたなら」

女「それって、すごいことだと思いませんか?」

女「何か変われる気がするんです」

男「俺は完全に巻き込まれた形だがな」

女「それはもう謝ったから言わないで」

男「だけど、実際どうするんだ。俺が濡れて帰るくらいしか思いつかないぞ」

女「それは駄目です。ええと、傘の音が苦手なんですよね?」

男「そうだな」

女「では、ヘッドホンをして大音量で音楽を聞いてみてはどうでしょう?」

男「無理だよ。手に伝わる振動とかで、どうしても想像しちまうから」

女「そうですか……」

男「やれそうなことは全て試したさ。それでも無理だったから諦めたんだ」

女「私は諦めません」

男「おいおい」

女「だって」

女「雨のせいで困る人がいてほしくないから」

女「私は雨女だけど、雨のことは嫌いじゃないんです」

男「……いつからなんだ。その体質」

女「物心ついたときにはもう、それなりの雨女だったと思います」

男「それなりの雨女って」

女「遠足も、運動会も、私が張りきる度に雨が降って中止になるんです」

女「皆に『お前は雨女だ』って言われて、自覚し始めてからはもっと降るようになりました」

女「おかげで、ロクに外で運動したことも無いし、海に行ったことも、花火を見たこともないし、ジメジメした青

春時代を過ごすはめになりましたよ。まったく」

男「……今は?」

女「今は、通信制の高校を卒業して、叔父がやってる喫茶店に住み込みで働いています」

男「家の中にいる分には、雨が降ることはないのか」

女「はい。それでも、嫌なことばかりじゃないんですよ?」

男「行動すら制限されるのにか」

女「私、虹を見た回数ならこの世の誰にも負けない自信があります」

女「私が家に帰ると大体すぐ晴れるから、窓からよく見えるんです。綺麗な虹」

男「虹か。俺は見たことないかもしれないな」

女「綺麗なんですよー! 本当に七色あるのかいつも数えるんですけど、あれはもっと色んな色があると思います



男「この雨も晴れたら、虹が出るかな」

女「出ると、いいですね」

やっぱ、眠いので、寝ます
二時間後に、起こしてくださ い

また今度あげ直します
ので おやすみなさい

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